説明

フリップチップ型半導体装置用シリコーンアンダーフィル材およびそれを使用するフリップチップ型半導体装置

【課題】耐熱性および耐光性に優れる上に、エポキシ樹脂に比べ線膨張率の高いシリコーンを用いながらも低弾性化したフリップチップ型発光半導体装置用シリコーンアンダーフィル材および該アンダーフィル材を使用するフリップチップ型発光半導体装置を提供する。
【解決手段】(A)熱硬化型液状シリコーン樹脂組成物:100質量部
(B)粒径50μm以下、平均粒径0.5〜10μmの球状無機質充填剤:100〜400質量部
を含有する硬化性シリコーン組成物からなり、硬化物の25℃における硬度(タイプA)が40以下、ヤング率が2.0MPa以下、そして線膨張係数が250ppm以下であるフリップチップ型発光半導体装置用シリコーンアンダーフィル材。該アンダーフィル材が適用されたフリップチップ型発光半導体装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フリップチップ型半導体装置用アンダーフィル材および該アンダーフィル材を使用するフリップチップ型半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来よりベアチップ実装の一つにフリップチップ実装が知られている。フリップチップ実装とは、高さ10〜100μm程度のバンプといわれる電極を導電ペースト或いは半田等で接合する方式である。このため、フリップチップ実装された半導体素子の封止保護に用いるアンダーフィル材料は、基板と半導体チップのバンプ等による数10μm程度の隙間に浸透させる必要がある。フリップチップ実装用アンダーフィル材として従来使用されるものは、エポキシ樹脂、硬化剤および無機質充填剤を配合した液状エポキシ樹脂組成物が主流である。
【0003】
ところで、近年開発が進んでいるパワーモジュール、例えば、高輝度LEDでは耐熱性や耐光性に対する要求が高まり、従来の汎用のエポキシ樹脂系封止材では要求に応えることが困難になってきた。そこで、エポキシ樹脂から耐熱性および耐光性の点でより信頼性の高いシリコーン樹脂への切り替えが行なわれている。光エネルギーの高いLEDへのシリコーン樹脂の適用については特許文献1(特許第2927279号公報)に記されている。フリップチップ構造を有する高輝度LEDにおいても、従来の液状エポキシフリップチップ用アンダーフィル材ではエポキシ樹脂系アンダーフィル材では高い熱や光により劣化し易く、デバイス自体の寿命を短くなることが懸念されている。
【0004】
一方、シリコーン樹脂はエポキシ樹脂に比較すると、線膨張率が高く、弾性率が高いためにIRリフロー時やヒートサイクル時においてチップリフトアップなどの問題を起しやすいとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2927279号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の課題は、耐熱性および耐光性に優れる上に、エポキシ樹脂に比べ線膨張率の高いシリコーンを用いながらも低弾性化したフリップチップ型発光半導体装置用シリコーンアンダーフィル材および該アンダーフィル材を使用するフリップチップ型発光半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、鋭意研究の結果、上記の課題を解決する手段として、
(A)熱硬化型液状シリコーン樹脂組成物:100質量部
(B)粒径50μm以下、平均粒径0.5〜10μmの球状無機質充填剤:100〜400質量部
を含有する硬化性シリコーン組成物からなり、硬化物の25℃における硬度(タイプA)が40以下、ヤング率が2.0MPa以下、そして線膨張係数が250ppm以下であるフリップチップ型発光半導体装置用シリコーンアンダーフィル材を開発した。
本発明は、また、上記のシリコーンアンダーフィルが適用されたフリップチップ型発光半導体装置を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のフリップチップ型発光半導体装置用シリコーンアンダーフィル材は従来のエポキシ樹脂系アンダーフィル材に比較して耐熱性、耐光性に優れ、しかもシリコーン樹脂系でありながら硬化物は低弾性で且つ通常のシリコーンよりも線膨張率が低く抑制されているので応力の緩和に優れている。特に、硬化後の弾性率が低いため、IRリフロー時やヒートサイクル時においてもチップリフトアップなどの問題が起こらない。そのため、本発明のフリップチップ型発光半導体装置は高い信頼性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のシリコーンアンダーフィル材および半導体装置を詳細に説明する。
<シリコーンアンダーフィル材>
本発明のシリコーンアンダーフィル材は、上記の通り、(A)熱硬化型液状シリコーン樹脂組成物、および粒径50μm以下、平均粒径0.5〜10μmの球状無機質充填剤を必須の成分として含む硬化性シリコーン組成物からなるものである。
【0010】
該シリコーンアンダーフィル材は、硬化させて得られる硬化物が、
・25℃におけるJIS K6249およびJIS K6253に規定のタイプAデュロメータを用いる硬さ試験で測定される硬度(以下、タイプA硬度という):40以下、
・ヤング率が2.0MPa以下、
・−50℃以上の線膨張係数が250ppm以下
である。
【0011】
さらには、上記タイプA硬度30以下、ヤング率が1.0MPa以下、−50℃以上の線膨張係数が220ppm以下、であることが好ましい。
【0012】
このような範囲のタイプA硬度、弾性率および線膨張係数を有するシリコーン硬化物によりアンダーフィル封止されている半導体装置は、エポキシ樹脂アンダーフィルに比べ、耐熱性、耐光性が優れている。さらに、硬化物がタイプA硬度、弾性率および線膨張係数のいずれか一つでも上記特定の範囲を外れたシリコーン樹脂組成物をアンダーフィル材として用いた場合に比べ十分に応力を緩和できるため、IRリフローやヒートサイクルに対してもフリップチップを押し上げる現象を防止することができる。また、アンダーフィル硬化後、例えば、成型機などを用いてオーバーコート材で封止する際に、オーバーコート材の圧力負けでチップ下からアンダーフィル材が押し出されることが無く、信頼性が高い半導体装置を得ることができる。
【0013】
本発明のシリコーンアンダーフィル材を構成する硬化性シリコーン組成物の成分ごとに説明する。
−(A)熱硬化型シリコーン樹脂組成物−
(A)成分の熱硬化型としてシリコーン樹脂組成物としては、
(a)ビニル基、アリル基などのアルケニル基含有オルガノポリシロキサン、
(b)Si-H結合を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、および
(c)ヒドロシリル化硬化触媒
からなる付加硬化型シリコーン組成物が好ましい。
【0014】
(A)成分として適する付加硬化型シリコーン組成物の成分(a)、(b)および(c)の例としては、次のものを挙げることができる。
[(a)アルケニル基含有オルガノポリシロキサン]
本発明のシリコーン樹脂組成物における(a)成分は、一分子中に1個以上の、ビニル基、アリル基等のアルケニル基などのケイ素原子に結合した脂肪族不飽和基を有し、23℃における粘度が0.1〜10Pa.sであり、フェニル基を含有するオルガノポリシロキサンである。このようなオルガノポリシロキサンであれば、如何なるものでも(a)成分として使用することができるが、通常は、主鎖がジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖された、直鎖状のオルガノポリシロキサンが好適に使用される。本発明組成物の作業性などの点から、(a)成分の23℃における粘度は0.1〜10Pa.sである。(a)成分は1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。(a)成分のケイ素原子に結合した脂肪族不飽和基は分子鎖末端のケイ素原子または分子鎖非末端(分子鎖途中)のケイ素原子のいずれに結合したものであってもよく、これらの両方に結合したものであってもよいが、分子鎖両末端のケイ素原子に結合した脂肪族不飽和基を有するものが好ましく、また、脂肪族不飽和基の含有量は、1分子中に1〜10個、特には、1〜6個程度であることが望ましい。
【0015】
(a)成分の好ましい例としては、下記一般式(1):
【0016】
【化1】


(1)
(式中、R1は同種または異種の非置換もしくは置換の一価炭化水素基であり、R2はフェニル基以外の同種または異種の非置換もしくは置換の一価炭化水素基であり、R3はフェニル基であり、Lおよびmは正の整数である。)
で表されるオルガノポリシロキサンが挙げられる。
【0017】
一般式(1)において、Rとしては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の低級アルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基;ベンジル基等のアラルキル基等が挙げられる。これらの中でも、炭素原子数が1〜10、特に1〜6の範囲にあるものが好適である。
【0018】
2としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の低級アルキル基;シクロペンチル基等の、シクロヘキシル基以外のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;トリル基、キシリル基等の、フェニル基以外のアリール基;ベンジル基等のアラルキル基等が挙げられる。これらの中でも、炭素原子数が1〜10、特に1〜6の範囲にあるものが好適であり、特にメチル基が好適である。
【0019】
さらに、Lおよびmは、正の整数であり、特に(A)成分の23℃における粘度が前述した範囲となるような数である。Lおよびmは、好ましくは50<L+m<500であり、0.02<m/(m+L)<0.21であり、より好ましくは50<L+m<300を満足する整数であり、且つ0.02<m/(m+L)<0.21、好ましくは0.02<m/(m+L)<0.16を満足する整数である。
【0020】
(a)成分の具体例としては、これに限定されるものではないが、以下の式で表されるオルガノポリシロキサンを挙げることができる。
【0021】
【化2】

【0022】
【化3】



【0023】
[(b)オルガノハイドロジェンポリシロキサン]
(b)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは架橋剤として作用するものである。該成分中のケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)と(a)成分中のケイ素原子に結合した脂肪族不飽和基(ビニル基、アリル基等のアルケニル基、特にビニル基および/またはアリル基)とが付加反応することにより、本発明組成物から硬化物が形成される。本成分の分子構造は、直鎖状、分枝鎖状、環状、分枝を有する環状、網状のいずれであってもよい。SiH基の位置には特に制約はなく、(a)成分が分子鎖末端部分を有するので、SiH基は分子鎖末端部分および分子鎖非末端部分のどちらか一方にのみ存在していてもよいし、その両方に存在していてもよい。(b)成分は1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0024】
(b)成分としては、例えば、下記平均組成式(2):
c(R4dSiO(4-c-d)/2 (2)
(式中、R4は脂肪族不飽和結合を含有しない同一または異種の非置換もしくは置換の一価炭化水素基であり、cおよびdは、0.001≦c<2、0.7≦d≦2、かつ0.8≦c+d≦3を満たす数である。)
で表され、一分子中にSiH基を少なくとも2個(通常、2〜300個)、好ましくは3個以上(例えば3〜200個、特には4〜100個程度)有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンが挙げられる。
【0025】
ここで、上記式(2)中のR4としては、例えば、脂肪族不飽和結合を含有しない同一または異種の非置換もしくは置換の炭素原子数1〜10、特に好ましくは炭素原子数1〜7の一価炭化水素基が挙げられ、その具体例としては、前記一般式(1)の置換基R2について例示された基のうち、アルケニル基以外の基、例えば、メチル基等の低級アルキル基、フェニル基等のアリール基が挙げられる。
【0026】
また、cおよびdは、0.001≦c<2、0.7≦d≦2、かつ0.8≦c+d≦3を満たす数であり、好ましくは0.05≦c≦1、0.8≦d≦2、かつ1≦c+d≦2.7を満たす数である。(b)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサン中のケイ素原子数は、通常2〜300個、好ましくは3〜200個、より好ましくは4〜100個程度のものが好適に使用される。
【0027】
(b)成分の具体例としては、ペンタメチルトリハイドロジェンシクロテトラシロキサン、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、トリス(ハイドロジェンジメチルシロキシ)メチルシラン、トリス(ハイドロジェンジメチルシロキシ)フェニルシラン、メチルハイドロジェンシクロポリシロキサン、メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン環状共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・メチルフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、(CH32HSiO1/2単位と(CH33SiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(CH32HSiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(CH32HSiO1/2単位とSiO4/2単位と(C653SiO1/2単位とからなる共重合体などが挙げられる。
【0028】
(b)成分は、通常、RSiHCl2、(R3SiCl、(R2SiCl2、(R2SiHCl(R5は、前記のとおりである)などのクロロシランを加水分解するか、加水分解して得られたシロキサンを平衡化することにより得ることができる。
【0029】
(b)成分の配合量は、本発明組成物が硬化するための有効量であり、特に、(a)成分中のケイ素原子に結合した脂肪族不飽和結合(ビニル基、アリル基等のアルケニル基、特にビニル基および/またはアリル基)の合計1モル当たり、(b)成分中のSiH基の量が好ましくは0.1〜1.5モル、より好ましくは0.3〜1.2モル、更により好ましくは0.5〜1.0モルとなる量である。該配合量がこの範囲内にあると、硬化反応が十分に進行し、本発明組成物からシリコーン硬化物を容易に得ることができ、また、硬化物中に残存する未反応SiH基を少量に抑えられるため、ゴム物性の経時的変化が生じにくい。
【0030】
[(c)白金族金属系触媒]
(c)成分の白金族金属系触媒は、本発明の組成物において付加硬化反応を生じさせるために配合されるものであり、1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。(c)成分の例としては、白金系、パラジウム系、ロジウム系のものが挙げられるが、コスト等の見地から、特に好ましくは白金系のもの、例えば、H2PtCl6・kH2O,K2PtCl6,KHPtCl6・kH2O,K2PtCl4,K2PtCl4・kH2O,PtO2・kH2O,PtCl4・kH2O,PtCl2,H2PtCl4・kH2O(これらの式中、kは正の整数)等や、これらと、炭化水素、アルコールまたはビニル基含有オルガノポリシロキサンとの錯体等が挙げられる。
【0031】
(c)成分の配合量は、触媒としての有効量でよく、好ましくは、前記(a)〜(c)成分の合計質量当り、白金族金属に換算して質量基準で0.001〜100ppm、特に0.01〜10ppmの範囲内である。
【0032】
−(B)球状無機質充填剤−
(B)成分の充填剤は、粒径50μm以下、平均粒径0.5〜10μmの球状無機質充填剤である。
【0033】
該球状無機充填剤の粒径は浸入性の向上を図るためフリップチップギャップ幅に対して十分小さいことが望ましい。通常は粒径50μm以下、望ましくは25μm以下、更に望ましくは10μm以下である。平均粒径は通常0.5μm以上、好ましくは1μm以上であり、また、通常10μm以下、好ましくは5μm以下である。なお、本発明において、平均粒径は、例えばレーザー光回折法等による重量平均値(またはメディアン径)等として求めることができる。
該球状無機充填剤としては、従来から公知の各種の無機充填材を使用することができ、例えば、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、ボロンナイトライド、アルミニウムナイトライド、シリコンナイトライド、マグネシア、マグネシウムシリケート、酸化亜鉛、等が挙げられる。これらは1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。好ましくは、溶融シリカ、結晶シリカ、これらの混合物である。
【0034】
該無機質充填剤の配合量は、CTEを低減する観点からは多いほど好ましい。しかし、多すぎるとアンダーフィル材の粘度が高くなり、薄膜侵入性の低下をもたらすおそれがある。もちろん配合上の限界もある。したがって、配合量としては、(A)成分のシリコーン樹脂組成物100質量部に対して100〜400質量部であり、好ましくは200〜300質量部である。少なすぎるとアンダーフィル材の硬化物の膨張係数が大きくなり、IRリフローやヒートサイクル試験においてチップリフトアップやクラックの発生を誘発させるおそれがある。
【0035】
−(C)その他の任意成分−
その他の成分として、必要に応じて、縮合反応用触媒、酸化防止剤、光安定化剤、接着助剤等が挙げられ、これらの一種または二種以上を必要に応じて配合することができる。
【0036】
接着性を向上させるため、ケイ素原子結合アルコキシ基を有するオルガノシラン、オルガノポリシロキサン等の有機ケイ素化合物などの接着助剤を任意成分として添加してもよい。このような有機ケイ素化合物としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、メチルフェニルジエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のアルコキシシラン化合物;一分子中に、ケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)、ケイ素原子に結合したアルケニル基(例えばSi−CH=CH2基)、アルコキシシリル基(例えばトリメトキシシリル基等のトリアルコキシシリル基など)、エポキシ基(例えばグリシドキシプロピル基、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル基)からなる群より選ばれる少なくとも2種、好ましくは2種または3種の官能性基を含有する、通常、ケイ素原子数4〜30、特には4〜20程度の、直鎖状構造または環状構造のシロキサン化合物(オルガノシロキサンオリゴマー)が挙げられる。また、トリメトキシシリル基を有するトリアジン化合物が挙げられる。
【0037】
アンダーフィル材の粘度を下げる目的で溶剤を使用することも可能であるが、硬化物中にボイドを生じたり、溶剤が残存するなどの危険性があるので、溶剤を添加する場合には硬化条件に注意する必要がある。使用することができる溶剤としては、例えば、ヘキサンやヘプタンといった炭化水素系の溶剤、ヘキサメチルジシロキサンやオクタメチルトリシロキサンといった低分子量シリコーンなどが挙げられ、沸点は200℃以下、好ましくは180℃以下、より好ましくは、160℃以下である。
【0038】
−アンダーフィル材として−
本発明のアンダーフィル材は、23℃において、粘度は、3〜20Pa.s、好ましくは5〜15Pa.sである。粘度が高すぎると、ディスペンサーにおいてノズル径の小さいものを使用し難くなり、所望の吐出が出来なくなる。また、粘度が低すぎると、半導体チップ外へのアンダーフィル材の広がりが大きく、オーバーコート材との間の接着が問題となることがある。
【0039】
<フリップチップ型発光半導体装置>
本発明のフリップチップ型発光半導体装置は、上述した本発明のアンダーフィル材を適用したものである。
【0040】
本発明のアンダーフィル材でフリップチップ型半導体装置をアンダーフィル封止する方法は特に限定されないが、例えば、精密吐出可能なディスペンサーが好適と考えられる。樹脂の吐出性を考慮した場合、樹脂を加熱したり、シェアをかけながら吐出したりする方法が挙げられ、特に、LEDなどのチップ面積が小さいものに関しては、高精度の微小吐出が出来るもの、温度制御が可能なジェット式ディスペンサーが有効と考えられる。(A)成分の熱硬化型シリコーン樹脂組成物として付加硬化型シリコーン樹脂組成物を用いた場合には、比較的速やかに硬化するので、吐出部を加温する場合は注意が必要である。吐出部は、80℃以下、好ましくは、60℃以下に制御し、アンダーフィルしたアンダーフィル材の硬化は、100〜180℃の範囲内に加熱することにより行うことが好ましく、特に、120〜150℃の範囲内に加熱することが好ましい。
【実施例】
【0041】
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0042】
(1)実施例1〜3および比較例1〜3のおのおのにおいて使用した付加硬化型シリコーン組成物の組成は以下の通りである。
【0043】
・実施例1:
(A)成分
(a-1)平均組成が下記構造式で表されるオルガノポリシロキサン 100質量部
【0044】
【化4】


ビニル基量0.012mol/100g、フェニル基量5モル%、粘度約1Pa.s
(b-1)平均組成が下記構造式で表されるメチルハイドロジェンシロキサン 5質量部
【0045】
【化5】


SiH基量0.002mol/g、粘度0.03Pa.s
(c)(A)成分全体において白金ビニル錯体をPt量として3ppmとなる量
(B)成分
粒径25μm以下で平均粒径1.5μmの微粉末シリカ 100質量部
(C)接着助剤:トリメトキシシリル基を有するトリアジン化合物 0.5質量部
【0046】
・実施例2:
(A)成分
(a-1)実施例1で用いたものと同じ両末端ビニルシロキサン 100質量部
(b-2)平均組成が下記構造式で表されるメチルハイドロジェンシロキサン 0.5質量部
【0047】
【化6】


SiH基量0.018mol/g、粘度0.02Pa.s
(c)(A)成分全体において白金ビニル錯体をPt量として3ppmとなる量
(B)成分
粒径25μm以下で平均粒径1.5μmの微粉末シリカ 185質量部
(C)接着助剤:トリメトキシシリル基を有するトリアジン化合物 0.5質量部
【0048】
・実施例3:
(A)成分
(a-1)実施例1で用いたものと同じ両末端ビニルシロキサン 100質量部
(b-2)実施例2で用いたものと同じメチルハイドロジェンシロキサン 0.5質量部
(c)(A)成分全体において白金ビニル錯体をPt量として3ppmとなる量
(B)成分
粒径25μm以下で平均粒径1.5μmの微粉末シリカ 233質量部
(C)接着助剤:トリメトキシシリル基を有するトリアジン化合物 0.5質量部
【0049】
・比較例1:
(A)成分
(a-1)実施例1で用いたものと同じ両末端ビニルシロキサン 100質量部
(b-1)実施例1で用いたものと同じメチルハイドロジェンシロキサン 5質量部
(c)(A)成分全体において白金ビニル錯体をPt量として3ppmとなる量
(C)接着助剤:トリメトキシシリル基を有するトリアジン化合物 0.5質量部
【0050】
・比較例2:
(A)成分
(a-2)平均組成が下記式の両末端ビニルシロキサン 100質量部
【0051】
【化7】


ビニル基量0.02mol/100g、フェニル基量30モル%、粘度約8Pa.s
(b-3)化学式[{H(CH3)2SiO}2PhSi]2Oのハイドロジェンシロキサン 2.5質量部
(c)(A)成分全体において白金ビニル錯体をPt量として3ppmとなる量
(C)接着助剤:トリメトキシシリル基を有するトリアジン化合物 0.5質量部
【0052】
比較例3:
(A)成分
(a-3)平均組成式[ViMeSiO]20[(Me)2SiO]25 [PhSiO1.5]55 のシリコーンレジン 45質量部
(a-2)比較例2に記載の両末端ビニルシロキサン 55質量部
(b-3)比較例2に記載のハイドロジェンシロキサン 15質量部
(c)(A)成分全体において白金ビニル錯体をPt量として10ppmとなる量
(B)成分
粒径25μm以下で平均粒径1.5μmの微粉末シリカ 120質量部
【0053】
(2)特性評価
各実施例および各比較例で使用した付加硬化型シリコーン樹脂組成物からなるアンダーフィル材の特性を下記の示す方法で測定し、結果を表1に示す。
【0054】
[粘度]
硬化前の組成物100mlを使用し、23℃にて測定を行なった。粘度は、BM型粘度計を使用した。
【0055】
[硬度]
組成物を150℃で2時間加熱することにより、硬度測定用として厚さ6mm超のシートを作成した。25℃においてタイプAデュロメータを用いて硬度を測定した。
【0056】
[ヤング率]
組成物を150℃で2時間加熱することにより、厚さ1mmの硬化物シートを作成した。この硬化物のヤング率をSHIMADZU社のオートグラフにより測定した。
【0057】
[線膨張係数(CTE)]
組成物を150℃で2時間硬化させて硬化物を得、該硬化物の線膨張係数をSII社の熱・応力・歪測定装置(TMA/SS6100)により測定した。
【0058】
[ダイシェア強度]
2mm×2mmのシリコンチップが銀メッキ層上にバンプで接合された基板を120℃で2時間乾燥した後、このデバイスの一片に精密ディスペンサーを用い、それぞれの組成物を滴下した。3分間待ち、チップ下にアンダーフィル充填された後、150℃2時間で加熱硬化させた。硬化後、IRリフロー炉に3回通し(ピーク温度260℃)、その後、ヒートサイクル試験(―40℃〜120℃)を100サイクル行なった。上記の基板乾燥後およびヒートサイクル試験後にボンドテスターでシリコンチップのダイシェア強度を測定した。
【0059】
[外部観察]
外部観察として、樹脂をアンダーフィルした際のチップ下以外の部分への樹脂の広がり(ブリード)、および、ダイシェア強度測定後にチップ下の樹脂を確認し、樹脂がチップ下に完全に充填されていたについて確認した。
【0060】
[オーバーコート樹脂の浸入試験]
組成物がアンダーフィル封止されたシリコンチップが搭載された基板上に、圧縮成型機を用い、平板状(2mm厚)に硬化物のタイプA硬度が80のシリコーン樹脂を150℃10分でオーバーコート(成型)した。成型後、切り出しを行い、シリコンチップ下にオーバーコート樹脂の侵入の有無を調べた。
【0061】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)熱硬化型液状シリコーン樹脂組成物:100質量部
(B)粒径50μm以下、平均粒径0.5〜10μmの球状無機質充填剤:100〜400質量部
を含有する硬化性シリコーン組成物からなり、硬化物の25℃における硬度(タイプA)が40以下、ヤング率が2.0MPa以下、そして線膨張係数が250ppm以下であるフリップチップ型発光半導体装置用シリコーンアンダーフィル材。
【請求項2】
23℃における粘度が3Pa.s〜20Pa.sである請求項1に係るアンダーフィル材。
【請求項3】
請求項1〜2のいずれか1項に記載のアンダーフィル材が適用されたフリップチップ型発光半導体装置。

【公開番号】特開2011−1412(P2011−1412A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−143937(P2009−143937)
【出願日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】