説明

フレキシブルディスプレイ基板用二軸配向ポリエステルフィルム

【課題】ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主成分とする50μm以下の薄肉フィルムでありながら、200℃における熱収縮率特性及び平面性に優れたフレキシブルディスプレイ基板用二軸配向ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分としてなる二軸配向ポリエステルフィルムにおいて、フィルム厚みが12〜50μm、200℃×10分における熱収縮率がフィルムの長手方向および幅方向のいずれも−0.1%以上0.1%以下であり、かつフィルム表面のうねりやしわの数が1m×3mあたり0個以上5個以下であるフレキシブルディスプレイ基板用二軸配向ポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフレキシブルディスプレイ基板用二軸配向ポリエステルフィルムに関する。さらに詳しくは、薄肉フィルムでありながら高温における寸法安定性が改良されたフレキシブルディスプレイ基板用二軸配向ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルム、特にポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレンジカルボキシレートなどの二軸配向フィルムは、優れた機械的性質、耐熱性、耐薬品性を有するため、磁気テープ、強磁性薄膜テープ、写真フィルム、包装用フィルム、電子部品用フィルム、電気絶縁フィルム、金属ラミネート用フィルム、ガラスディスプレイ等の表面に貼るフィルム、各種部材の保護用フィルム等の素材として広く用いられている。
【0003】
液晶ディスプレイに代表される画像表示装置には、従来ガラス基板が用いられてきた。しかし近年、画像表示装置には、より一層の薄型化、軽量化、大画面化、形状の自由度、曲面表示などが求められている。そこで、重くて割れやすいガラス基板に代えて、高透明な高分子フィルム基板が検討されるようになってきている。
また、液晶ディスプレイはバックライトを採用せざるを得ないため、多くの部材を使用する必要がある。
【0004】
それに対し、エレクトロルミネッセンス(EL)表示素子、特に有機EL素子のような自発光素子、電子ペーパーのような電子インクを用いた自己印字機能を有するディスプレイは、液晶ディスプレイに較べてより少ない部材で対応できるため、薄肉化、携帯性、フレキシブル性が求められる用途に積極的に開発が進められている。
【0005】
かかる用途の基板材料としても高分子フィルムが検討されており、高分子フィルムの可撓性を利用して、携帯可能な用途開発、ローラブルなフレキシブルディスプレイの試みなどといった開発も進められている。それに伴い、高分子基板フィルムに対し、より一層の薄肉化が求められる一方、基板フィルムに積層されるTFT層の熱処理温度である200℃前後での高い寸法安定性が求められている。
【0006】
フィルムの高温寸法安定性を高める方法として、例えば二軸延伸後のフィルムに熱固定を行い、その後、次のような弛緩処理を行う方法が知られている。その弛緩処理方法とは、熱固定処理後のフィルムをロールに巻き取るまでの過程において、フィルム両端部を切り離してフィルム幅方向は張力のかからないフリーな状態にし、長手方向(以下、縦方向、MD方向と称することがある)についてはロールの速度差をつけるなどの方法で供給速度よりも引き取り速度を減速させながらフィルムを加熱して弛緩処理を行う方法である。
【0007】
しかし、この方法では長手方向には張力が残り、幅方向(以下、横方向、TD方向と称することがある)には張力がかからないため、長手方向と幅方向の物性差が大きくなる傾向があった。また50μm以下の薄肉フィルムの場合、しわが発生しやすく平面性が損なわれることがあった。
【0008】
また、長手方向及び幅方向共にバランスのとれた寸法安定性を有する二軸延伸フィルムを得る方法として、例えば特公昭44−20240号公報(特許文献1)には、二軸延伸フィルムについて、幅方向の端部を把持子(クリップ)で固定して、2次転移点以上融点以下の温度で、幅方向を狭めながら長手方向についても把持子(クリップ)の進行速度を狭めて、実質的に同時弛緩熱処理を行う方法が開示されている。特許文献1には、かかる方法で得られた、150℃、1分間熱処理時の熱収縮率が長手方向、幅方向ともに0.1%であるフィルム厚み25μmのポリエチレンテレフタレートフィルムが開示されている。
【0009】
また特開平03−67627号公報(特許文献2)には、高温での寸法安定性を高める方法として、二軸延伸工程に続いて、連続的に熱処理する方法において、定長熱処理後、フィルムの長手方向及び幅方向の弛緩率パターンを特定する弛緩熱処理方法が開示されている。かかる方法によれば、フィルムの強度や平面性を損なうことなく、12μm厚みで、160℃、5分間熱処理時の熱収縮率がMD方向0.5%、TD方向0.1%であるPETフィルムが得られる。
【0010】
しかしながらポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを樹脂材料として用いた50μm以下の薄肉フィルムの場合、従来の方法でもある程度まで熱収縮率は低くなるものの、200℃という高温耐熱寸法安定性に優れ、しかも平面性が保たれた、フレキシブルディスプレイ基板に好適なフィルムは得られていないのが現状である。
【0011】
【特許文献1】特公昭44−20240号公報
【特許文献2】特開平03−67627号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主成分とする50μm以下の薄肉フィルムでありながら、200℃における熱収縮率特性及び平面性に優れたフレキシブルディスプレイ基板用二軸配向ポリエステルフィルムを提供することにある。
【0013】
さらに本発明の他の目的は、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主成分とする50μm以下の薄肉フィルムでありながら、200℃における熱収縮率特性及び平面性に優れ、同時に基板フィルムとしての機械的特性にも優れたフレキシブルディスプレイ基板用二軸配向ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主成分とする50μm以下の二軸配向ポリエステルフィルムにおいて、200℃における熱収縮率特性及び平面性を高めるために、以下の方法を用いることを見出した。すなわち、二軸延伸工程後、熱固定処理を行い、その後、フィルムの長手方向、幅方向を保持したまま、長手方向、幅方向の2方向同時に熱弛緩処理を行う工程を経ることが重要であり、かかる熱弛緩処理を行う際、延伸倍率や熱弛緩処理温度に応じた熱弛緩率で処理することによって、薄肉フィルムでありながら、200℃における熱収縮率特性及び平面性に優れるポリエステルフィルムが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち本発明によれば、本発明の目的は、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分としてなる二軸配向ポリエステルフィルムにおいて、フィルム厚みが12〜50μm、200℃×10分における熱収縮率がフィルムの長手方向および幅方向のいずれも−0.1%以上0.1%以下であり、かつフィルム表面のうねりやしわの数が1m×3mあたり0個以上5個以下であるフレキシブルディスプレイ基板用二軸配向ポリエステルフィルムによって達成される。
【0016】
また、本発明のフレキシブルディスプレイ基板用二軸配向ポリエステルフィルムは、その好ましい態様として、フィルムの長手方向の熱収縮率と幅方向の熱収縮率差の絶対値が0.1%以下であること、フィルムの長手方向および幅方向のヤング率がいずれも6400MPa〜7300MPaであること、フィルムが2軸延伸、熱固定処理、及びフィルムの長手方向、幅方向を保持したまま長手方向、幅方向の2方向同時に熱弛緩処理を経て得られてなるフィルムであること、の少なくともいずれか1つを具備するものも好ましい態様として包含する。
またフレキシブルディスプレイ基板用二軸配向ポリエステルフィルムは、フレキシブルディスプレイとして具体的に有機ELディスプレイ、電子ペーパーのいずれかに好適に使用することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、本発明のフレキシブルディスプレイ基板用二軸配向ポリエステルフィルムは、50μm以下の薄肉フィルムでありながら200℃における熱収縮率特性及び平面性に優れることから、かかるフィルムをフレキシブルディスプレイの基板として用いることによって、TFTなどの熱処理を行っても基材フィルムの変形が小さい。そのため例えば電子ペーパー基板として用いた場合に、パターンのアライメントずれが生じないため、解像度の優れたフレキシブルディスプレイを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を詳しく説明する。
<ポリエステル>
本発明のポリエステルフィルムは、主たる成分がポリエチレンナフタレンジカルボキシレートである。かかるポリエチレンナフタレンジカルボキシレートは、ナフタレンジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と、エチレングリコールまたはそのエステル形成性誘導体とから合成される。
【0019】
「主たる成分」とは、フィルムの重量を基準として90重量%以上、好ましくは95重量%以上、特に好ましくは99重量%以上であることを意味する。ナフタレンジカルボン酸は、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸を挙げることができ、これらの中で2,6−ナフタレンジカルボン酸が好ましい。ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートは単独重合体、第三成分を共重合した共重合体のいずれでもよい。
【0020】
ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートが共重合体の場合、共重合成分として分子内に2つのエステル形成性官能基を有する化合物を用いることができる。このような化合物として例えば、蓚酸、アジピン酸、フタル酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸、テトラリンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸等の如きジカルボン酸;p−オキシ安息香酸、p−オキシエトキシ安息香酸等の如きオキシカルボン酸;或いはトリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、シクロヘキサンメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールスルホンのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ジエチレングリコール、ポリエチレンオキシドグリコール等の如き2価アルコール類等を用いることができる。
【0021】
これらの共重合成分は1種であっても、2種以上を併用してもよい。これらの共重合成分の中で、酸成分としてはイソフタル酸、テレフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、p―オキシ安息香酸を、グリコール成分としてはジエチレングリコール、トリメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールスルホンのエチレンオキサイド付加物を好ましい例として挙げることができる。
かかる共重合成分は、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを構成する全繰返し単位の10モル%以下であることが好ましく、更に好ましくは5モル%以下、特に好ましくは1モル%以下である。
【0022】
また本発明のポリエチレンナフタレンジカルボキシレートは、例えば安息香酸、メトキシポリアルキレングリコールなどの一官能性化合物を用いて、末端の水酸基および/またはカルボキシル基の一部または全部を封鎖したものであってもよい。また、本発明のポリエチレンナフタレンジカルボキシレートは、例えば少量のグリセリン、ペンタエリスリトール等の三官能以上のエステル形成性化合物を用いて、実質的に線状のポリマーが得られる範囲内で共重合したものであってもよい。
【0023】
本発明の場合、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートは、単独重合体であることが特に好ましい。
ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートは、一般に知られたポリエステルの製造方法によって製造できる。例えば、ジカルボン酸とグリコールとの反応で、直接、低重合度ポリエステルを得た後、この低重合度ポリエステルを重合触媒の存在下で更に重合させてポリエステルを得る方法で製造することができる。あるいは、ジカルボン酸の低級アルキルエステルとグリコールとをエステル交換反応で低重合度ポリエステルを得た後、この低重合度ポリエステルを重合触媒の存在下で更に重合させてポリエステルを得る方法で製造することができる。
エステル交換反応に用いるエステル交換触媒として、例えばナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、ストロンチウム、チタン、ジルコニウム、マンガン、コバルトを含む化合物の一種または二種以上を挙げることができる。
【0024】
また、重合触媒として、三酸化アンチモン、五酸化アンチモンのようなアンチモン化合物、二酸化ゲルマニウムで代表されるようなゲルマニウム化合物、テトラエチルチタネート、テトラプロピルチタネート、テトラフェニルチタネートまたはこれらの部分加水分解物、蓚酸チタニルアンモニウム、蓚酸チタニルカリウム、チタントリスアセチルアセトネートのようなチタン化合物を挙げることができる。
【0025】
エステル交換反応を経由して重合を行う場合、重合反応前にエステル交換触媒を失活させる目的で、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリ−n−ブチルホスフェート、正リン酸等のリン化合物を添加することができる。なお、得られたポリエチレンナフタレンジカルボキシレートは、溶融重合後、これをチップ化し、加熱減圧下または窒素などの不活性気流中において、さらに固相重合を施してもよい。
【0026】
ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートの固有粘度は、0.40dl/g以上であることが好ましく、0.40〜0.90dl/gであることがさらに好ましい。該固有粘度が下限に満たない場合、工程切断が多発することがある。一方、該固有粘度が上限を超える場合、溶融粘度が高いため、溶融押出が困難であるうえ、重合に長時間を要し生産性が悪くなることがある。なお、固有粘度はo−クロロフェノールを溶媒として用いて、35℃で測定した値(単位:dl/g)である。
【0027】
<その他成分>
本発明のポリエステルフィルムは、本発明の課題を損なわない範囲内で、少量のその他の樹脂、粒子などを含んでもよい。ポリエチレンナフタレンジカルボキシレート以外の成分の含有量は、フィルムの重量を基準として10重量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは5重量%以下、特に好ましくは1重量%以下の範囲内である。なお、透明性が求められる場合には、粒子は含まないことが好ましい。
粒子の種類は特に特定されず、例えば炭酸カルシウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、カオリン、シリカ、架橋アクリル樹脂粒子、架橋ポリスチレン樹脂粒子、メラミン樹脂粒子、架橋シリコーン樹脂粒子が挙げられる。
【0028】
<フィルム厚み>
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの厚みは、薄型フレキシブルディスプレイに適した厚みであることが必要であり、12〜50μmの範囲である。フィルム厚みは、好ましくは12〜30μmである。フィルム厚みは、携帯性や曲げやすさの点でより薄い方が好ましい。ただし、下限に満たない場合は、フレキシブルディスプレイの基板フィルムとして十分に強度を保持することが難しくなる。
【0029】
<熱収縮率>
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、200℃の温度で10分間加熱処理したときの熱収縮率が、フィルムの長手方向及び幅方向のいずれも−0.1%以上0.1%以下であることが必要である。該熱収縮率の下限は、好ましくはフィルムの長手方向及び幅方向のいずれも−0.05%、より好ましくは−0.03%、特に好ましくは0.00%である。また該熱収縮率の上限は、好ましくはフィルムの長手方向及び幅方向のいずれも0.08%、より好ましくは0.05%、特に好ましくは0.03%である。
熱収縮率がかかる範囲を超える場合、基板フィルムに積層させるTFT層の熱処理温度である200℃前後の温度において、例えば電子ペーパー基板を熱処理すると、パターンにアライメントずれが生じ、解像度の低下につながる。
【0030】
また、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、200℃の温度で10分間加熱処理したときの、フィルム長手方向の熱収縮率と幅方向の熱収縮率との差の絶対値が0.1%以下であることが好ましい。かかる熱収縮率差の絶対値は、好ましくは0.05%以下、特に好ましくは0.03%以下である。熱収縮率差の絶対値がかかる範囲を超える場合、フィルムにTFTなどの機能層を設け、熱処理を施した後などに、特定方向にひずみやしわが生じることがある。
かかる熱収縮率は、フィルム製膜方法の箇所で具体的に説明する方法によって達成することができる。その概略をここで述べると、二軸延伸工程後、熱固定処理を行い、その後、フィルムの長手方向、幅方向を保持したまま、長手方向、幅方向の2方向同時に熱弛緩処理を行う工程を経ることが重要であり、かかる熱弛緩処理を行う際、延伸倍率や熱弛緩処理温度に応じた熱弛緩率で処理することによって達成される。
熱収縮率を下げるために一般的に行われる方法、すなわち、幅方向は張力のかからないフリーな状態とし、長手方向はロールの速度差により、供給速度よりも引き取り速度を減速させた状態で、フィルムを加熱して弛緩処理を行う方法では、特に薄肉フィルムに対して平面性を保ちながら、長手方向、幅方向の熱収縮率を均等に小さくすることは難しい。
【0031】
<フィルム平面性>
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、フィルム表面のうねりやしわの数が、1m×3mあたり、0個以上5個以下である。フィルム表面のうねりやしわの数は、1m×3mあたり、0個以上3個以下であることがより好ましい。フィルム平面性がかかる範囲を超えるフィルムは、フレキシブルディスプレイの基板用フィルムとして用いた場合、基板フィルムとしての平坦性が十分ではないため、パターンを正確に作成することができない。ここでフィルム表面の「うねりやしわ」とは、具体的には肉眼で観察される50cm以上の長さのものを指す。うねりとしわとは厳密に区別されるものではなく、通常用いられる定義に従うが、「うねり」は主として凸状または凹状に変形した部分に用い、「しわ」は筋状の欠陥部分に用いられる。
かかるフィルム平面性は、フィルム製膜方法の箇所で具体的に説明する方法によって達成することができる。その概略をここで述べると、二軸延伸工程後、熱固定処理を行い、その後、フィルムの長手方向、幅方向を保持したまま、長手方向、幅方向の2方向同時に熱弛緩処理を行う工程を経ることが重要であり、かかる熱弛緩処理を行う際、延伸倍率や熱弛緩処理温度に応じた熱弛緩率で処理することによって達成される。
【0032】
<ヤング率>
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、好ましい態様として、耐熱寸法安定性、平面性に加え、さらに、高いヤング率を兼ね備えるという特徴を有している。その場合、フィルムの長手方向及び幅方向のヤング率は、いずれも6400MPa〜7300MPaであることが好ましい。またフィルムの長手方向及び幅方向のヤング率は、さらに少なくとも6700MPaであることが好ましい。ヤング率が下限に満たない場合、基板フィルムとして機械的特性が十分でないことがある。一方ヤング率が上限を超える場合、基板フィルムとして十分な機械的特性を有するものの、ハンドリング性が低下したり、十分な低熱収縮率特性を得ようとすると平面性が悪化することがある。
耐熱寸法安定性とヤング率の双方を達成する具体的方法として、耐熱寸法安定性の達成方法に加えて、二軸延伸工程における延伸倍率が3.6倍〜4.5倍の範囲で行われることによって達成される。
【0033】
<層構成>
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの層構成は、単層、積層のいずれでもよく、塗膜層が積層されていてもよい。かかる塗膜層を形成する高分子バインダー樹脂の種類は、例えばポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂が挙げられる。
【0034】
<フィルム製膜方法>
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、通常の二軸延伸を行った後、熱固定処理を行い、その後フィルムの長手方向、幅方向を保持したまま長手方向、幅方向の2方向同時に熱弛緩処理を行う工程を経ることによって得られる。
【0035】
本発明は、また、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分としてなり、200℃×10分における熱収縮率がフィルムの長手方向および幅方向のいずれも−0.1%以上0.1%以下かつフィルム表面のうねりやしわの数が1m×3mあたり0個以上5個以下である、フィルム厚みが12〜50μmの二軸配向ポリエステルフィルムを製造するにあたり、二軸延伸後、熱固定処理を行い、その後フィルムの長手方向、幅方向を保持したまま長手方向、幅方向の2方向同時に熱弛緩処理を行うことを特徴とするフレキシブルディスプレイ基板用二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法に関する。
【0036】
二軸延伸工程は公知の方法によって行うことができる。具体的には、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートをフィルム状に溶融押出し、キャスティングドラムで冷却固化させて未延伸フィルムとし、この未延伸フィルムをTg〜(Tg+60)℃で長手方向、幅方向に倍率3.1倍〜4.5倍で2軸延伸する方法が挙げられる。長手方向の延伸倍率と幅方向の延伸倍率との差は0.3以下であることが好ましい。ここでTgはポリエチレンナフタレンジカルボキシレートのガラス転移点、Tmはポリエチレンナフタレンジカルボキシレートの融点をそれぞれ示す。
【0037】
延伸は一般に用いられる方法、例えばロールによる方法やステンターを用いる方法で行うことができ、長手方向、幅方向に同時に延伸してもよく、また長手方向、幅方向に逐次延伸してもよい。長手方向、幅方向のフィルム延伸倍率は、耐熱寸法安定性に加えて本願発明の好ましい態様であるヤング率範囲を具備させる場合、その下限は好ましくは3.6倍、さらに好ましくは3.8倍、特に好ましくは4.0倍であり、また好ましい上限は4.5倍である。
【0038】
二軸延伸されたフィルムは、その後、(Tm−100)〜(Tm−5)℃の温度で1〜100秒間熱固定することが必要であり、より好ましい熱固定温度は200〜250℃、特に好ましい熱固定温度は220〜240℃である。熱固定処理を経ないで、二軸延伸されたフィルムに対して本発明の熱弛緩処理を行っても、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートの結晶化が十分でないため、200℃における熱収縮率を0.1%以下にすることができない。ここで熱固定処理とは、フィルム両端部を保持した固定状態で熱処理を行う方法である。
【0039】
熱固定された二軸延伸フィルムは、ひきつづき熱弛緩処理が施される。熱弛緩処理は本発明の課題を解決する上で非常に重要な工程であり、次に述べるような方法で行うことにより、200℃での耐熱寸法安定性と平面性とを備える薄肉ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートフィルムを得ることができる。
【0040】
まず、フィルムの端部をテンターで保持し、オーブン内で長手方向にはクリップ間隔を狭め、幅方向にはレール幅を狭めることにより、長手方向、幅方向の2方向同時に熱弛緩処理を行うことが必要である。その際、延伸倍率と弛緩率とのバランスを考慮し、延伸倍率が高い場合には弛緩率も高くし、延伸倍率が低い場合には弛緩率を低くすることが重要である。また、延伸倍率と弛緩率との関係は、熱弛緩を行う処理温度によって異なり、熱弛緩温度が高い場合は、同じ延伸倍率であっても、より高い熱弛緩率で行う必要がある。熱弛緩温度は180〜240℃で行うことが好ましく、より好ましい熱弛緩温度は200〜230℃である。
【0041】
熱弛緩温度、延伸倍率(倍)および弛緩率(%)との関係の目安としては、熱固定を230℃で行った後、230℃で熱弛緩を行う場合、長手方向の弛緩率(%)は長手方向の延伸倍率(倍)よりも1.7〜2.0低い範囲で行う。同様に幅方向の弛緩率(%)は幅方向の延伸倍率(倍)よりも1.9〜2.2低い範囲で行う。なお、長手方向の弛緩率(%)と幅方向の弛緩率(%)の差は0.2未満であることが好ましく、0.1以下であることがより好ましい。
200℃で熱弛緩を行う場合は、230℃における同じ延伸倍率の時の熱弛緩率よりも0.1〜0.3程度低めの熱弛緩率で行う。熱弛緩温度が低い場合は、それ以上の弛緩率で処理しても、更なる残留歪の緩和が生じないためである。一方、熱弛緩温度をより高くし、残留歪の緩和が生じる最大限の弛緩率で処理した場合、より低い熱収縮率が得られる。
【0042】
しかしながら、残留歪みの緩和が生じる最大限の弛緩率を超えた弛緩率で処理を行うと、かえって得られたフィルムの平面性が低下してしまう。さらに、熱弛緩温度が上限を超える場合、分子配向が低くなり、ヤング率の低下が生じる。また熱弛緩温度が下限に満たない場合は、弛緩効果が十分に発現しないため熱収縮率が大きくなることがある。
このように、本発明のような薄肉のポリエチレンナフタレンジカルボキシレートフィルムについて、平面性を保ちながら200℃という高い温度下での耐熱寸法安定性を高めるためには、2方向同時に熱弛緩処理を行う工程において、既に得られた2軸延伸フィルムの延伸倍率、熱固定温度に応じて、適切な熱弛緩温度及び熱弛緩率で弛緩処理を施すことが重要である。
【0043】
<フレキシブルディスプレイ基板用フィルム>
このようにして得られた二軸配向ポリエステルフィルムは、フレキシブルディスプレイ基板用フィルムとして好適に用いられる。
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、50μm以下の薄肉フィルムでありながら200℃における熱収縮率特性及び平面性に優れることから、200℃前後の加熱加工工程を含むディスプレイ、例えばTFT層が含まれるディスプレイの基板フィルムに適している。かかる加工工程を含み、より薄肉の基板フィルムが求められているディスプレイの種類として、有機ELディスプレイや電子ペーパーが挙げられる。またディスプレイ以外に、有機TFT用の基板フィルムや太陽電池用の基板フィルムとして用いることもできる。本発明の二軸配向ポリエステルフィルムを例えば電子ペーパー基板として用いた場合、パターンのアライメントずれが生じないため、解像度の優れたフレキシブルディスプレイを提供することができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、各特性値は以下の方法で測定した。また、実施例中の部および%は、特に断らない限り、それぞれ重量部および重量%を意味する。
【0045】
(1)フィルム厚み
電子マイクロメータ(アンリツ(株)製の商品名「K−312A型」)を用いて針圧30gにてフィルム厚みを測定した。
【0046】
(2)熱収縮率
フィルムに30cm間隔で標点をつけ、荷重をかけずに所定の温度のオーブンで所定時間熱処理を実施し、熱処理後の標点間隔を測定して、フィルム長手方向(MD方向あるいは縦方向)と、長手方向に垂直な方向(TD方向あるいは横方向)において、下記式にて熱収縮率を算出した。温度及び処理時間は、表1に示したように、150℃×30分、200℃×10分の2条件である。なお、各熱収縮率はそれぞれn=5で評価を行い、その平均値を用いた。
熱収縮率(%)=((熱処理前標点間距離−熱処理後標点間距離)/熱処理前標点間距離)×100
【0047】
(3)熱収縮率差
(2)によって得られたフィルムの長手方向の熱収縮率(SMD)と幅方向の熱収縮率(STD)を用い、下記式に従って両方向の熱収縮率差の絶対値を算出した。
長手方向と幅方向の熱収縮率差(%)=|SMD−STD|
【0048】
(4)ヤング率
フィルムを150mm長×10mm幅に切り出した試験片を用い、オリエンテック社製テンシロンUCT−100型を用いて、温度20℃、湿度50%に調節された室内において、チャック間100mmにして引張速度10mm/分、チャート速度500mm/分で引張り、得られる荷重―伸び曲線の立ち上り部の接線よりヤング率を計算する。なお、長手方向のヤング率とはフィルムの長手方向(MD方向)を測定方向としたものであり、幅方向のヤング率とはフィルムの幅方向(TD方向)を測定方向としたものである。各ヤング率はそれぞれ10回測定し、その平均値を用いた。
【0049】
(5)平面性
1m×3mのフィルムについて、フィルム表面の長さ50cm以上のうねりやしわの状態を観察し、下記の基準で評価した。
A: うねりやしわの数が0個以上3個以下 (平面性良好)
B: うねりやしわの数が3個を越えて5個以下 (平面性やや不良)
C: うねりやしわの数が5個を越える (平面性不良)
【0050】
(6)パターニング特性評価
ポジ型感光性樹脂組成物をスピンコーター(大日本スクリーン製造社製、Dspin636)にて、フィルム上にスピン塗布し、ホットプレートにて130℃、180秒間プリベークを行い、膜厚8.0μmの塗膜を形成した。膜厚は膜厚測定装置(大日本スクリーン製造社製、ラムダエース)にて測定した。この塗膜に、100μm幅のラインテストパターン付きレチクルを通して、i線(365nm)の露光波長を有するステッパ(ニコン社製、NSR2005i8A)を用いて、露光量を段階的に変化させて露光した。
これをアルカリ現像液(クラリアントジャパン社製、AZ300MIFデベロッパー、2.38質量%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液)を用い、23℃の条件下で現像後、膜厚が6.6μmとなるように現像時間を調整して現像し、純水にてリンスを行い、その後180℃×30分間ポストベークを行い、ポジ型のレリーフパターンを形成した。完成したテストパターンのズレを以下の基準で判断した。
A: パターンズレが0.1%以下 パターニング特性良好
B: パターンズレが0.1%を超える パターニング特性不良
【0051】
[実施例1]
ナフタレン−2,6−ジカルボン酸ジメチル100部およびエチレングリコール60部を、エステル交換触媒として酢酸マンガン四水塩0.03部を使用し、150℃から238℃に徐々に昇温させながら120分間エステル交換反応を行なった。途中反応温度が170℃に達した時点でリン酸トリメチル(エチレングリコール中で135℃、5時間0.11〜0.16MPaの加圧下で加熱処理した溶液:リン酸トリメチル換算量で0.023部)を添加し、エステル交換反応終了後、三酸化アンチモン0.024部を添加した。その後反応生成物を重合反応器に移し、290℃まで昇温し、27Pa以下の高真空下にて重縮合反応を行って、固有粘度が0.61dl/gの、実質的に粒子を含有しない、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを得た。
このポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートのペレットを170℃で6時間乾燥後、押出機ホッパーに供給し、溶融温度305℃で溶融し、平均目開きが17μmのステンレス鋼細線フィルターで濾過し、2mmのスリット状ダイを通して表面温度60℃の回転冷却ドラム上で押出し、急冷して未延伸フィルムを得た。
【0052】
このようにして得られた未延伸フィルムを120℃にて予熱し、さらに低速、高速のロール間で15mm上方より900℃のIRヒーターにて加熱して縦方向に3.1倍に延伸した。続いてテンターに供給し、145℃にて横方向に3.3倍に延伸した。得られた二軸配向ポリエステルフィルムを、230℃の温度で40秒間熱固定し、厚み25μmのポリエステルフィルムを得た。続いて、得られたフィルムの両エッジをクリップにて保持できるテンター式のオーブンにて、処理温度200℃、長手方向(MD方向)の弛緩率1.0%、幅方向(TD方向)の弛緩率1.0%で2方向に同時に熱弛緩処理を行った。
得られたフィルムの特性を表1に示す。本実施例の二軸配向ポリエステルフィルムは、200℃での寸法安定性、平面性に優れていた。またパターニング特性も良好であった。
【0053】
[実施例2〜8]
延伸条件、熱弛緩処理条件を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様に行った。得られたポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0054】
[比較例1]
熱弛緩処理を行わない以外は実施例1と同様の操作を行った。得られたフィルムの特性を表1に示す。本比較例の二軸配向ポリエステルフィルムは、200℃での寸法安定性が十分ではなく、パターニング特性もズレが生じた。
【0055】
[比較例2、3]
延伸条件、熱弛緩処理条件を表1に示すように変えた以外は実施例1と同様に行った。得られたポリエステルフィルムの特性を表1に示す。比較例2は高延伸倍率で延伸を行ったのに対し、熱弛緩率が低いため、耐熱寸法安定性に乏しく、パターニングにずれが生じた。一方、弛緩率が延伸倍率に対して低いため二軸配向フィルムの平面性は良好であった。
同様に、比較例3は、MD方向は延伸倍率に対して適切な熱弛緩率で処理しているものの、TD方向は延伸倍率に対する熱弛緩率が低いため、耐熱寸法安定性に乏しく、パターニングにずれが生じた。一方、弛緩率自体は延伸倍率に対して過剰に大きな熱弛緩率ではないため、二軸配向フィルムの平面性は良好であった。
【0056】
[比較例4〜6]
延伸条件を表1に示すように変更する他、熱弛緩処理方法として、幅方向は張力のかからないフリーな状態とし、長手方向については供給速度よりも引き取り速度を減速させる方法で表1に示す弛緩率で弛緩処理を行う方法を用いた。延伸倍率と弛緩処理方法の変更以外は実施例1と同様の操作を行った。得られたポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0057】
[実施例9]
実施例1で用いたポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートに平均粒径0.35μmの球状シリカ粒子を0.1重量%練り込んだものを作成し、フィルムの厚みが50μmであること以外は実施例1と同様の方法にて二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0058】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のフレキシブルディスプレイ基板用二軸配向ポリエステルフィルムは、50μm以下の薄肉フィルムでありながら200℃における熱収縮率特性及び平面性に優れることから、かかるフィルムをフレキシブルディスプレイの基板として用いた場合、TFTなどの熱処理を行っても基材フィルムの変形が小さい。そのため例えば電子ペーパー基板として用いた際、パターンのアライメントずれが生じないため、解像度の優れたフレキシブルディスプレイを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分としてなる二軸配向ポリエステルフィルムにおいて、フィルム厚みが12〜50μm、200℃×10分における熱収縮率がフィルムの長手方向および幅方向のいずれも−0.1%以上0.1%以下であり、かつフィルム表面のうねりやしわの数が1m×3mあたり0個以上5個以下であることを特徴とするフレキシブルディスプレイ基板用二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項2】
フィルムの長手方向の熱収縮率と幅方向の熱収縮率差の絶対値が0.1%以下である請求項1に記載のフレキシブルディスプレイ基板用二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項3】
フィルムの長手方向および幅方向のヤング率がいずれも6400MPa〜7300MPaである請求項1または2に記載のフレキシブルディスプレイ基板用二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項4】
フィルムが2軸延伸、熱固定処理、及びフィルムの長手方向、幅方向を保持したまま長手方向、幅方向の2方向同時に熱弛緩処理を経て得られてなる請求項1〜3のいずれかに記載のフレキシブルディスプレイ基板用二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項5】
フレキシブルディスプレイが有機ELディスプレイまたは電子ペーパーである請求項1〜4のいずれかに記載のフレキシブルディスプレイ基板用二軸配向ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2008−265318(P2008−265318A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−75989(P2008−75989)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】