説明

フレキシブルプリント回路用基板

【課題】本発明の目的は、芳香族ポリアミドフィルムからなるシート状基材と銅の薄膜層との間の密着性を向上することにある。
【解決手段】銅薄膜層と芳香族ポリアミドからなる基材とが、ニッケルとクロムからなる合金層を介して積層され、該合金層中のクロムの割合が15〜25重量%であるフレキシブルプリント回路用基板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅薄膜層を有するフレキシブルプリント回路用基板に関するものであり、さらに詳しくは、基材として芳香族ポリアミドフィルムを用い、かつ銅薄膜層を有するフレキシブルプリント回路用基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フレキシブルプリント回路用基板としては、従来よりプラスチックフィルム基材に有機系接着剤層を介して導電性金属層としての銅箔を貼り合せた3層構造のものが知られている。このタイプのフレキシブルプリント回路用基板は、一般に用いられる有機系接着剤の耐熱性がプラスチックフィルム基材に比べて低いために、加工後の寸法精度が低下するという問題がある。また用いられる銅箔の厚さが通常10μm以上であるため、ピッチの狭い高密度配線用のパターニングを行うためのエッチングが難しいという欠点、そして接着剤層を有するがために2層構造のものと比較して基板が厚くなり、収納性に劣るという問題点が指摘されている。
【0003】
一方、プラスチックフィルム基材上に有機系接着剤を用いることなく、湿式めっき法や乾式めっき法(例えば、真空蒸着法、スパッタリング製膜法、イオンプレーティング法など)により、導電性金属層を形成させた2層構造タイプのフレキシブルプリント回路板用基板が提案されている。
【0004】
例えば特許文献1には、ポリイミドフィルムをシート状基材に用い、シート状基材と銅の薄膜層との間にニッケル−クロム合金からなる密着力向上層を用いたことが記載されている。また特許文献2には、そのような密着力向上層としてクロム系セラミックスを用いたことが記載されている。
【0005】
しかしながらこのような2層構造タイプの場合、導電性金属層を10μmよりも薄くすることができるため、高密度配線が可能なものの、厳しい熱負荷試験を行ったり、スズ、ニッケル、はんだ、または金などの無電解めっき処理を行うと、フィルム基材と導電性金属層との間の密着力が低下してしまうという問題がある。またポリイミドフィルム基材にニッケル−クロム合金を密着力向上層として用いた場合、ニッケルの含有量が少ない場合には加熱試験後の密着力低下が著しいことが知られており、そのためクロム含有量を増加させる必要がある。しかしながらクロムの含有量を上げた場合には、クロムは塩化鉄でエッチングされにくいため、エッチング条件やエッチング液をエッチングする層ごとに変えたりする必要が生じ、プリント回路の生産性が低下するという問題がある。また、ポリイミド基材にニッケル−クロム層を積層する場合、プラズマ処理、コロナ処理、オゾン処理などの物理的処理のみならず、ヒドラジン処理、過マンガン酸処理などの化学処理を行ったのちに積層する必要があり、これら処理を組み合わせずにニッケル−クロム層を積層する場合には、ポリイミド基材とニッケル−クロムとの密着強度が高くならないことが知られている。
【0006】
一方、特許文献3には、シート用基材として芳香族ポリアミドを用いることが提案されている。しかしながら、芳香族ポリアミドをシート基材に用いた2層銅張積層板は、一般に銅の薄膜層との密着性保持をさせるのが難しいとされている。
【0007】
【特許文献1】特開平9−83134号公報
【特許文献2】特公平8−8400号公報
【特許文献3】特許第2626049号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、芳香族ポリアミドフィルムと銅の薄膜層との間の密着性を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討し、特にスパッタリング製膜法によって形成できる材料に焦点をしぼったところ、特定割合のクロムを含有するニッケル−クロム合金層を、例えば特定の厚みだけ積層させた密着力向上層として用いることで、芳香族ポリアミドフィルムの基材および銅薄膜層との密着性に優れるとともに、プリント回路基板の生産性を損ねないことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は以下のとおりのものである。
[1]銅薄膜層と芳香族ポリアミドからなる基材とが、ニッケルとクロムからなる合金層を介して積層され、該合金層中のクロムの割合が15〜25重量%であるフレキシブルプリント回路用基板。
[2]前記合金層の厚みが2〜10nmである上記のフレキシブルプリント回路用基板。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、芳香族ポリアミドフィルム(シート)状基材と銅の薄膜層との間に特定の割合でクロムを含有するニッケルとクロムとを主成分とする薄膜層を設けることによって、該基材と銅の薄膜層とが強固に密着し、高い信頼性が得られるので、高精細な回路の作製が可能な、フレキシブルプリント回路用基板を提供することができる。特に、銅の密着力向上層としてクロムを15〜25重量%含有するニッケル−クロム合金を用い、密着力向上層の厚みを2nm〜10nmにすることが耐熱特性を向上させる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のフレキシブルプリント回路用基板は、芳香族ポリアミドフィルムからなるシート状基材、ニッケルとクロムとを主成分とする薄膜層および銅からなる薄膜層が順に積層されてなる。
【0013】
本発明に用いる基材は芳香族ポリアミドフィルムからなる。かかる芳香族ポリアミドとしては、例えば、次の構成単位からなる群から選択された単位により構成される。
−NH−Ar1−NH− (1)
−CO−Ar2−CO− (2)
−NH−Ar3−CO− (3)
【0014】
ここでAr1、Ar2、Ar3は少なくとも1個の芳香環を含み、同一でも異なっていてもよい。かかる芳香環としては、炭素数6〜12で、スルホニル結合やエーテル結合を有していてもよい2価の炭化水素基、例えばp−フェニレン基、m−フェニレン基、o−フェニレン基、2,6−ナフチレン基、ビフェニレン基、4,4′−ジフェニレンエーテル、3,4′−ジフェニレンエーテル等を挙げることができる。これらの基の芳香環には、例えばハロゲン基、ニトロ基、アルキル基、アルコキシ基等の置換基を有していてもよい。これらの代表例としては下記に示すものが挙げられる。すなわち、実質的に下記式(4)
−(−CO−Ar11−CONH−Ar21−NH−)− (4)
で表わされる繰り返し単位からなるパラ配向性の芳香族ポリアミド(ポリパラフェニレンテレフタルアミド、以下PPTAと言うことがある)が好適である。ここで、Ar11、Ar21はともにp−フェニレン基である。PPTAは、熱、湿度、外力に対して極めて寸法安定性の優れたシート状のもの(フィルム)が得られ、またこのフィルムは熱膨脹係数が極めて小さいため、寸法変化が小さく、全層薄膜を積層させたときに熱によってカーリング等の変形を生じにくいという優れた特性を有する。特に、25℃から250℃までの熱膨脹係数が(0〜15)ppm/℃であったり、250℃における熱収縮率が0.1%以下であったり、また25℃における吸湿膨脹係数が30ppm/%Rh以下であったり、25℃50%RHにおける吸湿率が2.5重量%以下であるものは、フレキシブルプリント回路用基板の基材として極めて有用である。これらの特性は複数有していてもよいことは言うまでもない。
【0015】
本発明に用いられる芳香族ポリアミドには、本発明の目的、効果を損なわない限り、易滑剤、染料や顔料などの着色剤、難燃剤、帯電防止剤、酸化防止剤、その他の添加剤などや改質剤、ならびに他のポリマーが含まれていてもよい。
【0016】
本発明に用いられる芳香族ポリアミドの重合度は、あまり低いと機械的性質の良好なフィルムが得られなくなるため3.5以上、好ましくは4.5以上の対数粘度ηinh(硫酸100mlにポリマー0.5gを溶解して30℃で測定した値)を与える重合度のものが選ばれる。
【0017】
芳香族ポリアミドフィルムからなるシート状基材の製造方法としては、芳香族ポリアミドが有機溶剤可溶のものでは、直接溶剤中で重合するか、一旦ポリマーを単離した後再溶解するなどして溶液とし、ついで乾式法または湿式法にて製膜される。また、PPTA等の有機溶剤に難溶のものについては、濃硫酸などに溶解して溶液とし、ついで乾湿式法または湿式法にて製膜される。湿式法では、溶液はダイから直接凝固液中に押し出されるか、乾式と同様に金属ドラムまたはエンドレスベルト上にキャストされた後、凝固液中に導かれ、凝固される。ついでこれらのフィルムはフィルム中の溶剤や無機塩などを洗浄され、延伸、乾燥、熱処理などの処理を受ける。
【0018】
具体的にPPTAからなるシート状基材の製法については、例えば特許第2664959号公報に記載された方法を用いることができる。
【0019】
本発明における芳香族ポリアミドフィルムからなるシート状基材の厚さとしては、通常3〜25μm、好ましくは4〜12μmであり、PPTAのシート基材の場合は、特に薄いものを製造できるのでフレキシブルプリント回路用基板の用途には好適であり、4〜12μmのものが好ましい。
【0020】
本発明のフレキシブルプリント回路用基板は、上記芳香族ポリアミドフィルムからなるシート状基材の上に、ニッケル−クロム合金から主としてなる薄膜層を形成させるが、かかる薄膜層を形成する前に、該基材表面を脱脂、ごみ等除去のための一次的前処理を施してもよい。また必要によっては更にコロナ放電処理、プラズマ処理、オゾン処理、化学的処理、除湿処理、熱処理などの二次的処理を行ってもよい。
【0021】
本発明においては、銅薄膜層と芳香族ポリアミドフィルムからなる基材の間に、驚くべきことにクロムを特定量含むニッケル−クロム合金を主成分とする薄膜層を好ましくは特定の厚みだけ介在させることによって、基材と銅の薄膜層との層間の密着性が良好である。また加熱処理後における銅薄膜層とシート状基材との間の密着力が良好に保持される。ここで、主成分とは、ニッケルとクロムの合計量が少なくとも全体の90重量%、好ましくは95重量%以上であることをいう。この主としてニッケルとクロムからなる薄膜層を形成する材料としては目的の割合に混合された合金を用いることが適当である。なお、ニッケルとクロムとから主としてなる合金の薄膜層中には、本発明の目的、効果を阻害しない範囲で、他の金属などが少量(全体の10重量%以下)含有されていてもよい。クロムを上記割合で含有するニッケル−クロム合金は、銅薄膜層とシート状基材との密着性を強いまま保つことが出来る。また、これまでにあったフレキシブルプリント回路用基板のように、加熱試験後の密着力保持特性に優れている。ニッケル−クロム合金中のクロムの含有量としては、15重量%以上25重量%以下である。25重量%を超えるとニッケル−クロム合金の層の中でクロムの占める割合が高くなりすぎ、は塩化鉄ないしは塩酸を含む塩化鉄によるエッチングが困難となる。また15重量より少ないと加熱試験後の密着力を保つためには密着力向上層の厚みを特に厚くする必要があり、フレキシブルプリント回路用基板の生産コストの向上並びにプリント回路の生産速度の低下をもたらす。本発明の範囲とする15重量%以上25重量%の範囲内でクロムを含有するニッケル−クロム薄膜では、その厚みが10nm以下という極めて薄いものでも密着力を保持する能力に優れるため、エッチング性と密着性の両立が可能となり、プリント回路の生産性を妨げない。本発明の密着力向上層の厚みの最小限度は、これまで多く用いられているフレキシブルプリント回路に用いられるところのポリイミドフィルム製フレキシブルプリント回路用基板の密着力向上層と比較しても格段に薄く出来る。これは本発明に用いるポリアミドフィルム基材が、ポリイミド等と比較して格段に高い弾性率を有するが故に、熱接触等においていわゆるマイグレーションを起こしにくいことに由来すると考えられる。ニッケル−クロムを主成分とする薄膜層の厚さとしては、通常2〜10nm、好ましくは2〜5nmである。
【0022】
次に、ニッケル−クロムを主成分とする合金の薄膜層を形成する方法について以下に述べる。本発明におけるニッケル−クロムを主成分とする薄膜層は、例えば、蒸着法、DCマグネトロンスパッタ法、RFマグネトロンスパッタ法、イオンプレーティング法やイオンビームスパッタ法といった手法やCVD法を用いることができるが、大面積に均一な透明導電膜を形成するという観点からはDCマグネトロンスパッタ法を用いることが好適である。
【0023】
DCマグネトロンスパッタリング法には、目的とする薄膜層の組成を有する合金ターゲットを用いて製膜させる。例えばクロムを15〜25重量%含むニッケル−クロム合金薄膜を製膜するに際しては、その含有率だけクロムを添加された合金ターゲットを用いることが好ましい。以下クロムを15〜25重量%含有するニッケル−クロム合金を製膜する場合の製膜方法について詳述する。
【0024】
例えば焼結ターゲットを用いてDCマグネトロンスパッタリング法により上記薄膜層を形成する場合は、先ず真空槽中の圧力(背圧)を一旦1.3×10−4Pa以下とし、次いで不活性ガスを導入する。真空槽中の圧力は一旦1.3×10−4Pa以下にすることが、真空槽中に残留し、且つ透明導電層の特性に影響を与えることが懸念される分子種の影響を低減できるので好ましい。より好ましくは、5×10−5Pa以下、さらに好ましくは2×10−5Pa以下である。
【0025】
次いで導入される不活性ガスとしては、例えばヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンを用いることができるが、原子量の大きな不活性ガスほど形成される膜へのダメージが少なく表面平坦性が向上すると言われている。しかし、その入手のしやすさ、費用面から考えてアルゴンを用いることが好ましい。
【0026】
本発明においては、芳香族ポリアミドを基材フィルムに用いるため、フィルム温度を該芳香族ポリアミドの分解温度より上昇させることはまずできない。よって、薄膜層を形成する時の温度は、室温以下程度から軟化温度以下或いは分解温度以下とするのがよい。本発明においては、基材の温度を450℃以下の温度に保ったまま薄膜層を形成することが好ましい。より好ましくは80℃以下の温度にて、さらに好ましくは60℃以下で製膜することが望ましい。
【0027】
本発明においては、ニッケル−クロム薄膜層の上に銅の薄膜層が形成されてなる。この銅薄膜層の形成方法としては、緻密で均質な膜を安定して生産できるという特徴から、マグネトロンスパッタリング法を使って行うことが好適である。該法におけるスパッタ製膜法は、真空熱蒸着法とかイオンプレーティング法とは異なり、低圧ガス中で加速させた荷電粒子をターゲットに照射し、ターゲット表面の原子、分子を反跳せしめてシート状基材面に薄膜状に沈着せしめる方法であり、荷電粒子の発生法の違いになどよって2極〜3極DCスパッタ、2極RFスパッタ、イオンビームスパッタ、マグネトロンスパッタなどの各方法がある。ニッケル−クロム合金の場合にはいずれの方法でも用いることができるが、特に該合金に対しては、低温で高速のスパッタ蒸発が可能であるDCマグネトロンスパッタリング法を用いることが望ましい。
【0028】
例えば、DCマグネトロンスパッタリングは、一般に高純度のアルゴンガス雰囲気でその動作圧を5×10−4〜5×10−2Torrに調整し、直流電源によって電圧を印加することによって行うことができる。現実に実用化されている装置としては、シリンドリカルタイプ、スパッタガンタイプ及びプレーナータイプがあるが、本発明における基材は芳香族ポリアミドのシートであり、これを平行に供給しつつ連続生産することが可能であることと、目的とする密着力確保のために十分な出力を保持しているがためにプレーナータイプが望ましい。
【0029】
銅薄膜層の厚さは、後工程(電解銅めっき等)に必要な導電性の点から検討して決めればよいが、大略50nm以上500nm以下、好ましくは150〜300nmである。50nmよりも薄いと電解メッキに必要なだけの導電性が得られず、メッキ厚が不均一になる。また500nmより銅薄膜を厚くすることは、その積層速度によっては銅薄膜層の応力を基材フィルムに多大に与え、カールや反りなどが強く発生するため取扱いし易さが損ねられる。またそれだけの膜厚で銅薄膜をスパッタリング法で製膜することは生産時間を多大に要し、また生産費用が高騰するため、商業上は不利な生産方法である。
【0030】
以上に説明するニッケル−クロム合金薄膜層及び銅の薄膜層の形成は、シート状基材の両面にも同様に行うことができるので、この場合には両面フレキシブルプリント回路用基板として得られる。
【0031】
本発明のフレキシブルプリント回路用基板は、上記銅の薄膜層の上に電解あるいは無電解めっき法によって銅めっき層を形成させる。この銅めっき層の形成方法としては従来の方法を用いることが出来る。
【0032】
かくして得られたこの銅めっき層が形成された回路用基板は、特にフレキシブルプリント回路基板として有効に使用されるが、そのためのプリント回路作成法は、一般の銅箔張りFPCの場合と特に差はない。つまり、印刷法、ドライフィルム法等によりエッチングレジスト膜を作製し、塩化第二鉄や塩化第二銅、或いは過マンガン酸化合物、セリウム化合物等で不必要な銅薄膜とニッケル−クロム合金薄膜をエッチングして除去することとか、得られた銅回路を絶縁膜でマスキングするとか、端子を半田付けするとか、穴明け加工する等は同様に行われる。但し、圧延銅箔とは異なり、銅層の厚みが薄いのでエッチングが早い。従ってサイドエッチング等の好ましくない現象がないので、回路パターンの再現性に極めて優れ、15μmピッチ以下というさらに微細な回路が作製できるという大きなメリットがある。この微細回路が作製できるのは、密着層に含有するニッケルの易エッチング性によると考えられる。
【0033】
また本発明で得られたフレキシブルプリント回路用基板は、これまでに知られている2層スパッタ−メッキ式銅張積層版と比較して、加熱試験後の密着力保持率に優れている。これは本発明に用いるポリアミドフィルムの弾性率が他の耐熱性シート状基材と比較しても格段に高いことが、加熱処理時の金属拡散を抑制し、結果として密着力の保持につながっていると考えられる。
【実施例】
【0034】
以下本発明の実施例を述べるが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
基材として厚み9μmポリアミドフィルム「アラミカ」090R(帝人アドバンストフィルム社製:ポリパラフェニレンテレフタルアミド)を用い、該ポリアミドフィルムの表面をスパッタリング製膜法により、合金薄膜層として5nmの厚みのニッケル−クロム合金を積層し、次いで200nmの厚みで銅薄膜を積層した。さらにこのフィルムを硫酸銅水溶液下で電解めっきし、銅薄膜層上に8μmの厚みの銅を積層する。具体的には以下のようにして製造した。
【0035】
幅1100mm長さ1000m厚さ9μmのフィルム基材を真空装置内にて巻き出してロールのまま順次使用した。基材表面への合金金属層の形成には、長さ1600mmのスパッタリングターゲットが装着可能な巻き取り式DCマグネトロンスパッタリング製膜装置を使用した。金属層の形成に先立ち、アドバンストエナジージャパン社製のリニアイオンビームソースを用い、アルゴンと窒素の混合させたガスを装置に2Paの圧力で導入し、イオンビームによってフィルムにプラズマ処理を行い、フィルム表面の粗化並びに窒素原子の打ち込みを行った。密着力向上層薄膜の形成のために住友金属鉱山(株)製ニッケル−クロム合金(クロム含有量20重量%)をスパッタリングターゲットとして用いて、真空槽を真空度2×10−4torr以下まで真空引きし、アルゴンガスを8×10−1torr導入し、ニッケル−クロムターゲットに直流電圧を印加してプラズマ放電させてフィルム基材上にニッケル−クロム薄膜を5nm積層させた。さらに銅薄膜層の積層のために無酸素銅(純度99.95%以上)をスパッタターゲットとして用い、アルゴンガスを8×10−1torr導入し、銅ターゲットに直流電圧を印加することによってプラズマ放電させ、ニッケル−クロム薄膜を積層した表面上へさらに銅薄膜を200nm積層した。電解めっきについては、めっき液として銅含有量70g/リットル、硫酸含有量200g/リットル、の硫酸銅水溶液に、添加剤として塩化物イオン含有量50mg/リットル相当、奥野製薬工業(株)製トップルチナSF−Mを標準規定量添加したものを用い、めっき装置として山本鍍金試験器(株)製4インチウェーハ用精密めっき装置を使用し、25℃の温度下で攪拌を行いながら、電流密度2A/dmにて電解めっきを行い、8μmの厚みになるまで銅の積層を行った。
【0036】
[密着力の測定]
JIS C−5016(1994)に基づき、50mm/minの速度にて90度剥離の方法にて引きはがし強さの測定を行った。 表1に実施例で作成した試料の評価結果を示す。
【0037】
[エッチング特性]
実施例1において作製したプリント回路用基板を、JIS C−5016付図1のテストパターンの形状にマスキングし、40重量%濃度の塩化鉄水溶液を40℃に保持した状態で攪拌しながら非マスキング部分のエッチングを行った。非マスキング部分の銅層が目視にて除去を確認した後にさらに30秒エッチングし、マスク除去、洗浄の後、2電極間に500Vの直流電圧を印加し、フラッシュオーバーが無きことを以てエッチング特性良好とした。
【0038】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のフレキシブルプリント回路用基板は、耐熱性に優れるので、高信頼性を有し、したがって、フレキシブルプリント回路基板用の材料として極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅薄膜層と芳香族ポリアミドからなる基材とが、ニッケルとクロムからなる合金層を介して積層され、該合金層中のクロムの割合が15〜25重量%であるフレキシブルプリント回路用基板。
【請求項2】
前記合金層は厚みが2〜10nmである請求項1記載のフレキシブルプリント回路用基板。

【公開番号】特開2006−310359(P2006−310359A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−127705(P2005−127705)
【出願日】平成17年4月26日(2005.4.26)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】