説明

フレキシブルプリント配線板用基板及びその製造方法

【課題】回路形成や熱処理によるカール、ねじれ、反り等の発生を抑制でき、しかも、絶縁層が薄い場合であっても屈曲耐性、耐熱性、難燃性、寸法安定性、電気的特性等に優れた両面に導電層を有するフレキシブルプリント配線板用基板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】厚みが14μm以下のポリイミドフィルムからなる絶縁層の両面に導電層が配置されており、導電層を全面エッチングした際の寸法変化率が−0.05〜0.05%の範囲内にあることを特徴とするフレキシブルプリント配線板用基板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブルプリント配線板用基板及びその製造方法に関し、特に、回路を形成した後にカールやねじれや反り等を生ずることがなく、しかも屈曲耐性、耐熱性、寸法安定性、電気的特性等に優れたフレキシブルプリント配線板用基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フレキシブルプリント配線板用基板としては、ポリイミドフィルムからなる絶縁層と導電層とをエポキシ樹脂、アクリル樹脂などの接着剤を介して貼り合わせたものが知られており、例えば、絶縁層の両面にエポキシ樹脂、アクリル樹脂などの接着剤を介して導電層が積層された5層構造の両面フレキシブルプリント配線板用基板(以下、「両面板」と称す。)が知られている。しかしながら、この両面板は、導電層と絶縁層との間に接着層が存在するために、耐熱性、難燃性、電気的特性などが低下するという問題があった。また、導電層にエッチングを施した際や、基板に何らかの熱処理を施した際の寸法変化率が大きく、その後の工程で支障をきたすという問題があった。
【0003】
このような問題を解決するために、ポリイミドフィルムからなる絶縁層と導電層とを接着する際に、熱圧着性を有する熱可塑性ポリイミドを接着層として用いることにより、上記問題を解決しようとする提案がなされている(例えば、特許文献1〜6)。しかしながら、この構成では、導電層上に直接接しているのは熱可塑性のポリマーであるため、やはり基板に何らかの熱処理を施した際の寸法変化率が大きくなり、上記の問題を十分に解決できるものではなかった。
【0004】
加えて、導電層と絶縁層界面の接着強度を維持する為には一定の厚みの接着層が必要であり、絶縁層が薄くなると絶縁層に占める接着層の比率が大きくなってしまい、上記した5層構造の両面板同様、種々基板特性を維持することが難しくなるという問題がある。
【0005】
【特許文献1】特開2000−103010号公報
【特許文献2】特開2001−270033号公報
【特許文献3】特開2001−270034号公報
【特許文献4】特開2001−270035号公報
【特許文献5】特開2001−270037号公報
【特許文献6】特開2001−270039号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記課題を解決し、回路形成や熱処理によるカール、ねじれ、反り等の発生を抑制でき、しかも、絶縁層が薄い場合であっても屈曲耐性、耐熱性、難燃性、寸法安定性、電気的特性等に優れた両面に導電層を有するフレキシブルプリント配線板用基板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、接着層を介在させることなく導電層上に直接に特定の厚みを有する絶縁層を形成するとともに、絶縁層同士を特定の厚みを有する熱可塑性ポリイミド樹脂からなる接着層にて一体化することで上記課題が解決できることを見出し、本発明に至ったものである。
【0008】
すなわち本発明は、厚みが14μm以下のポリイミドフィルムからなる絶縁層の両面に導電層が配置されており、導電層を全面エッチングした際の寸法変化率が−0.05〜0.05%の範囲内にあることを特徴とするフレキシブルプリント配線板用基板を要旨とするものである。
【0009】
また、前記絶縁層が熱可塑性ポリイミド層と非熱可塑性ポリイミド層からなり、熱可塑性ポリイミド層の両面に非熱可塑性ポリイミド層が配置されており、かつ、熱可塑性ポリイミド層の厚みが2μm以下であることを特徴とするフレキシブルプリント配線板用基板を要旨とするものである。
【0010】
また、絶縁層と導電層間の接着強度が、1kN/m以上であることを特徴とする前記フレキシブルプリント配線板用基板を要旨とするものである。
【0011】
また、導電層の片面に非熱可塑性ポリイミド層、次いで熱可塑性ポリイミド層を形成した積層体同士を、熱可塑性ポリイミド層を向かい合わせに配置して加熱雰囲気下で圧着することを特徴とする前記フレキシブルプリント配線板用基板の製造方法を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、絶縁層の構成や厚みを規定することで、絶縁層の厚みが薄くなっても屈曲耐性、耐熱性、難燃性、電気的特性や寸法安定性に優れたフレキシブルプリント配線板に好適な両面フレキシブルプリント配線板用基板が得られる。
【0013】
また、本発明のフレキシブルプリント配線板用基板の製造方法によると、本発明のフレキシブルプリント配線板用基板を容易に実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明のフレキシブルプリント配線板用基板は、ポリイミドフィルムからなる絶縁層の両面に導電層が配置された構成を有している。絶縁層となるポリイミドフィルムは、熱可塑性ポリイミド層と非熱可塑性ポリイミド層からなる積層フィルムであり、その厚みが14μm以下である。さらに、絶縁層が熱可塑性ポリイミド層の両面に非熱可塑性ポリイミド層を配置した積層フィルムであり、熱可塑性ポリイミド層の厚みを2μm以下とすることで屈曲耐性、耐熱性、難燃性、電気的特性や寸法安定性に優れたフレキシブルプリント配線板用基板を得ることができる。
【0016】
絶縁層の厚みが14μmを超えると、屈曲耐性に劣る傾向にあり、特に繰り返しの屈曲耐性に劣り、好ましくない。
【0017】
また、上記構成における絶縁層において、熱可塑性ポリイミド層の厚みが2μmを超えると、耐熱性や電気的特性および寸法安定性に劣る傾向にあるため好ましくない。
【0018】
なお、熱可塑性ポリイミド層の両面に設けられる非熱可塑性ポリイミド層の厚みは、絶縁層全体として上記の範囲であれば特に限定されるものではないが、カールやねじれや反りなどを防止する観点から同じ厚みであることが好ましい。
【0019】
このように絶縁層が特定の構成を有することで、電気絶縁性や、繰り返しの屈曲耐性を含む機械的特性がより一層高まるだけでなく、寸法安定性がさらに向上するため、導電層に回路形成のためのエッチング処理を施したり、回路形成後の後工程における各種の加熱処理を施しても、カールやねじれや反りなどの発生をより一層抑制することができる。従って、本発明のフレキシブルプリント配線板用基板は、良好に電子部品などを実装できるだけでなく、高度な実装密度が実現できる。
【0020】
寸法安定性はIPC−TM−650規格の2.2.4項に規定される方法Bで測定することが出来る。本発明のフレキシブルプリント配線板用基板は、この測定で得られる(導電層を全面エッチングした際の)寸法変化率が−0.05〜0.05%の範囲内にあることが好ましい。
【0021】
また、両面に配置される導電層と、前記した絶縁層の間の接着強度は、例えばJIS−C6471規格に記載の銅はくの引きはがし強さ試験に規定される方法で測定することができる。本発明のフレキシブルプリント配線板用基板では、1kN/m以上であることが好ましい。接着強度が1kN/m未満であると、フレキシブルプリント配線板用基板としての実用性を欠くものとなる。
【0022】
絶縁層を形成する熱可塑性ポリイミド層としては、特に限定されるものではなく、熱可塑性を有しており、加熱雰囲気下で圧着することができるものであればよい。具体的には、熱機械特性分析装置(TMA)で測定したガラス転移温度が200〜300℃の芳香族ポリイミドが好ましい。ガラス転移温度が200℃未満であると、耐熱性や寸法安定性に劣る傾向にあるため好ましくなく、ガラス転移温度が300℃を超えると、製造時の加熱雰囲気下で圧着する温度が高くなり、製造が困難になる傾向にあるため好ましくない。
【0023】
絶縁層を形成する非熱可塑性ポリイミド層としては、特に限定されるものではないが、熱機械特性分析装置(TMA)で測定したガラス転移温度が300℃以上の非熱可塑性芳香族ポリイミドからなるフィルムが好ましく用いられる。
【0024】
これら特性を有する芳香族ポリイミドとしては、下記構造式(1)で示す構造を有するものがあげられる。
【0025】
【化1】

【0026】
ここで、Rは4価の芳香族残基を表し、Rは2価の芳香族残基を表す。
【0027】
導電層としては、銅、アルミニウム、鉄、銀、パラジウム、ニッケル、クロム、モリブデン、タングステン又はそれらの合金等の導電性材料からなる金属箔が挙げられ、銅箔が最も適している。
【0028】
絶縁層と接する導電層表面には、絶縁層との接着性を向上させるために化学的あるいは機械的な表面処理が施されていてもよい。化学的な表面処理としては、ニッケルメッキ、銅−亜鉛合金メッキ等のメッキ処理、アルミニウムアルコラート、アルミニウムキレート、シランカップリング剤等の表面処理剤による処理やその他ポリマーを薄くコートすることなどが挙げられ、中でも、シランカップリング剤による表面処理が好ましい。シランカップリング剤としては、アミノ基を有するシランカップリング剤が好適に使用できる。一方、機械的な表面処理としては、粗面化処理などが挙げられる。
【0029】
導電層の厚みは特に限定されるものではないが、5μm以上30μm以下のものが好ましい。
【0030】
本発明のフレキシブルプリント配線板用基板は、導電層の片面に非熱可塑性ポリイミド層、次いで熱可塑性ポリイミド層が形成された積層体同士を、熱可塑性ポリイミド層を向かい合わせに配置して加熱雰囲気下で圧着することで容易に得ることができる。
【0031】
導電層の片面に非熱可塑性ポリイミド層、次いで熱可塑性ポリイミド層を形成させる方法としては、導電層上にポリイミド前駆体溶液を塗工したのち、乾燥および熱硬化することにより製造する方法が例示される。ここで、ポリイミド前駆体とは、熱硬化したのち、上記した構造式(1)となるものであり、そのような化合物であれば如何なるものも用いることができる。
【0032】
硬化して非熱可塑性ポリイミドとなる前駆体溶液、次いで硬化して熱可塑性ポリイミドとなる前駆体溶液を順に銅箔などの導電層上へ塗工した後、まとめて熱硬化させればよい。
【0033】
塗工は、工業的には、ダイコータ、多層ダイコータ、グラビアコータ、コンマコータ、リバースロールコータ、ドクタブレードコータ等が使用でき、塗布された前駆体を熱硬化するには、前駆体が塗布されて銅箔をロール状に巻き取った状態で不活性ガス雰囲気下に炉内で加熱する方法、製造ラインに加熱ゾーンを設ける方法等により行うことができる。
【0034】
ポリイミド前駆体としては、例えば、下記構造式(2)で示すポリアミック酸が挙げられる。ポリイミド前駆体溶液は、通常、ポリアミック酸と溶媒とからなる。
【0035】
【化2】

【0036】
ここで、Rは水素原子又はアルキル基である。
【0037】
ポリアミック酸からなる溶液は、下記構造式(3)で示す芳香族テトラカルボン酸二無水物と、下記構造式(4)で示す芳香族ジアミンとを、例えばN,N’−ジメチルアセトアミドなどの非プロトン性極性溶媒中で反応させることにより製造できる。
【0038】
【化3】

【0039】
【化4】

【0040】
ここで、Rは4価の芳香族残基を表し、Rは2価の芳香族残基を表す。
【0041】
上記構造式(3)で示す芳香族テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、ピロメリット酸、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、3,3′,4,4′−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸、2,3,3′,4′−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸、2,3,3′,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸、1,4,5,7−ナフタレンテトラカルボン酸、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸、3,3′,4,4′−ジフェニルメタンテトラカルボン酸、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、3,4,9,10−テトラカルボキシペリレン、2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパンの二無水物等が挙げられる。これらの芳香族テトラカルボン酸二無水物は、2種類以上を混合して用いることもできる。本発明においては、ピロメリット酸または3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸の二無水物またはこれらの混合物が特に好ましい。
【0042】
上記構造式(4)で示す芳香族ジアミンの具体例としては、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、3,4′−ジアミノジフェニルエーテル、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、3,3′−ジメチル−4,4′−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,2−ビス(アニリノ)エタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノベンズアニリド、ジアミノベンゾエート、ジアミノジフェニルスルフィド、2,2−ビス(p−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(p−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,5−ジアミノナフタレン、ジアミノトルエン、ジアミノベンゾトリフルオライド、1,4−ビス(p−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4′−ビス(p−アミノフェノキシ)ビフェニル、ジアミノアントラキノン、4,4′−ビス(3−アミノフェノキシフェニル)ジフェニルスルホン、1,3−ビス(アニリノ)ヘキサフルオロプロパン、1,4−ビス(アニリノ)オクタフルオロブタン、1,5−ビス(アニリノ)デカフルオロペンタン、1,7−ビス(アニリノ)テトラデカフルオロヘプタン等が挙げられる。これらの芳香族ジアミンは、2種類以上を混合して用いることもできる。本発明においては、p−フェニレンジアミン、または4,4′−ジアミノジフェニルエーテルまたはこれらの混合物が特に好ましい。
【0043】
本発明においては、ポリイミド前駆体溶液中に重合性不飽和結合を有するアミン、ジアミン、ジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸の誘導体を添加して、熱硬化時に橋かけ構造を形成させることもできる。具体的には、マレイン酸、ナジック酸、テトラヒドロフタル酸、エチニルアニリン等が使用できる。
【0044】
なお、ポリイミド前駆体の合成条件、乾燥条件、その他の理由等により、ポリイミド前駆体中に部分的にイミド化されたものが存在していても特に支障はない。
【0045】
また、これらのポリイミド前駆体の溶液中には、溶媒に可溶なポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等、他の耐熱性樹脂を混合してもよい。さらに、接着性(密着性)向上やフィルム物性を向上させるため、シランカップリン剤や各種界面活性剤を微量添加することもできる。
【0046】
加熱雰囲気下で圧着する方法としては、バッチ式の真空プレス機や、連続式のロールプレス機もしくはベルトプレス機などを用いる方法が例示される。
【0047】
加熱温度は特に制限されるものではないが、ポリイミド樹脂の分解点温度より低く、熱可塑性ポリイミドのガラス転移点を超える温度であることが好ましい。通常250〜400℃の範囲である。圧着力も特に制限されるものではないが、通常10〜1000N/cmの範囲で行えばよい。圧着力が10N/cmを下回ると、熱可塑性ポリイミド層同士の接着が不十分となったり、均一に圧着されなかったりする傾向にあるため好ましくなく、1000N/cmを超えると、例えば導電層が強い加圧力で材料破壊される傾向にあるなど好ましくない。
【実施例】
【0048】
次に実施例に基づき本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例において、各種物性値の測定方法および原料は、次のとおりである。
【0049】
[1]測定方法
(1)接着強度(kN/m):絶縁層と導電層間の接着強度を、テンシロンテスター(インテスコ社製、精密万能材料試験機2020型)を用いて測定した。測定に際しては、基板をJIS−C6471規格の銅はくの引きはがし強さ試験の項に記載の方法に従い、試験片を作製し、方法A(90°方向引きはがし)にて行った。
(2)線膨張係数[CTE](ppm)及びガラス転移温度[Tg](℃):作製した基板を塩化第二鉄水溶液中に浸漬し、導電層である銅箔を塩化第二鉄水溶液によって全面エッチングし、基板から導電層を全て除去した。エッチング後に得られた絶縁層の線膨張係数及びガラス転移温度Tgをサーモメカニカルアナライザー(TMA:TAインスツルメント社製、TMA2940型)を用いて求めた。
(3)寸法変化率(%):IPC−TM−650、2.2.4項に記載された方法に従い、幅270mm、長さ290mmに切り出した基板の四隅に孔径1mmの穴を開けた試験片を作成した。そして、方法Bおよび方法Cに従い、エッチング時の寸法変化率と加熱時の寸法変化率を求めた。
(4)耐折強さ:繰り返しの屈曲耐性の指標となるものであり、JIS C−5016に記載の方法に準じて、折り曲げ面の耐折強さを曲率半径0.4mmで測定し、以下のように評価した。
○:800回以上
△:600〜799回
×:0〜599回
【0050】
[2]非熱可塑性ポリイミドの前駆体溶液の製造例
絶縁層を形成するために、非熱可塑性ポリイミドの前駆体溶液の合成を行った。なお、以下の説明において使用した用語は、以下のとおりである。
(反応成分)
BPDA:3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
ODA :4,4′−オキシジアニリン
PDA :p−フェニレンジアミン
(溶媒)
DMAc:N,N−ジメチルアセトアミド
NMP :N−メチル−2−ピロリドン
(合成例)
三つ口フラスコに窒素ガス気流下で、ODA30.03g(0.15mol)、PDA91.92g(0.85mol)、DMAc2330g及びNMP999gを採取し、このフラスコを氷水中に入れて、内容物を30分間攪拌した。次いで、BPDA294.22g(1.00mol)を加え、40℃の湯浴中で1時間攪拌を行い、ポリアミック酸からなる均一な溶液を得た。これをポリイミド前駆体溶液と称する。
【0051】
[3]熱可塑性ポリイミドの前駆体溶液の製造例
熱可塑性ポリイミド層を形成するために熱可塑性ポリイミドの前駆体溶液の合成を行った。なお、以下の説明において使用した用語は、以下のとおりである。
(反応成分)
ODPA:3,3′,4,4′−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物
34ODA :3,4′−オキシジアニリン
(溶媒)
NMP :N−メチル−2−ピロリドン
(製造例)
三つ口フラスコに窒素ガス気流下で、34ODA31.65g(0.158mol)、NMP420gを採取し、このフラスコを氷水中に入れて、内容物を30分間攪拌した。次いで、ODPA49.04g(0.158mol)を加え、40℃の湯浴中で1時間攪拌を行い、ポリアミック酸からなる均一な溶液を得た。これを熱可塑性ポリイミド前駆体溶液とする。
【0052】
[2]および[3]で得られた溶液を、それぞれ清浄なガラス基板上に熱硬化後の被膜の厚みが10μmになるようにバーコータによって塗布し、130℃で10分間乾燥した。次いで、窒素雰囲気下100℃から360℃まで2時間かけて昇温した後、360℃で2時間熱処理し、ポリイミド前駆体を熱硬化させてイミド化した後、ガラス基板から剥離してポリイミドフィルムを得た。
【0053】
[2]のポリイミド前駆体溶液より得られたフィルムをTMAで測定した結果、このポリイミドフィルムのTgは400℃以下の温度では観測されなかった。
【0054】
また、[3]のポリイミド前駆体溶液より得られたフィルムをTMAで測定した結果、このポリイミドフィルムのTgは234℃であった。
【0055】
実施例1
厚みが12μmの電解銅箔の粗化面に、上記[2]ポリイミド前駆体溶液を熱硬化後の被膜の厚みが5.0μmになるようにバーコータによって塗布し、130℃で10分間乾燥した。次いで、塗布面に[3]熱可塑性ポリイミド前駆体溶液を熱硬化後の被膜の厚みが1.0μmになるようにバーコータによって塗布し、130℃で10分間乾燥した。金属枠に固定し窒素雰囲気下100℃から360℃まで2時間かけて昇温した後、360℃で2時間熱処理し、ポリイミド前駆体を熱硬化させてイミド化し、銅箔/非熱可塑性ポリイミド層/熱可塑性ポリイミド層の3層からなる積層フィルムを得た。
【0056】
次に、この積層フィルム2枚を熱可塑性ポリイミド層同士が向かい合うように重ね合わせて圧力50N/cm、温度200℃で30分加熱した後、圧力を300N/cmにし、温度を30分かけて350℃まで昇温後350℃で30分保持した。その後、150℃まで圧力を保持したまま降温することにより熱圧着させて一体化した。
【0057】
得られた導電層(銅箔)/絶縁層(非熱可塑性ポリイミド)/絶縁層(熱可塑性ポリイミド)/絶縁層(非熱可塑性ポリイミド)/導電層(銅箔)の5層構造の基板は、導電層の厚みが各12μm、絶縁層の全体の厚みが12μm、絶縁層のうち熱可塑性ポリイミド層の厚みが2μmであり、全体の厚みが36μmであった。
【0058】
このフレキシブルプリント配線板用基板について測定した物性などを表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
実施例2
[3]熱可塑性ポリイミド前駆体溶液を熱硬化後の被膜の厚みが0.5μmになるように塗布した以外は実施例1と同様にして、導電層の厚みが各12μm、絶縁層の全体の厚みが11μm、絶縁層のうち熱可塑性ポリイミド層の厚みが1μmであり、全体の厚みが35μmであるフレキシブルプリント配線板用基板を得た。
【0061】
得られたフレキシブルプリント配線板用基板について測定した物性などを表1に示す。
【0062】
比較例1
[3]熱可塑性ポリイミド前駆体溶液を熱硬化後の被膜の厚みが1.5μmになるように塗布した以外は実施例1と同様にして、導電層の厚みが各12μm、絶縁層の全体の厚みが13μm、絶縁層のうち熱可塑性ポリイミド層の厚みが3μmであり、全体の厚みが37μmであるフレキシブルプリント配線板用基板を得た。
【0063】
得られたフレキシブルプリント配線板用基板について測定した物性などを表1に示す。
【0064】
比較例2
[3]熱可塑性ポリイミド前駆体溶液を熱硬化後の被膜の厚みが2μmになるように塗布した以外は実施例1と同様にして、導電層の厚みが各12μm、絶縁層の全体の厚みが14μm、絶縁層のうち熱可塑性ポリイミド層の厚みが4μmであり、全体の厚みが38μmであるフレキシブルプリント配線板用基板を得た。
【0065】
得られたフレキシブルプリント配線板用基板について測定した物性などを表1に示す。
【0066】
比較例3
[2]ポリイミド前駆体溶液を熱硬化後の被膜の厚みが10μmになるようにバーコータによって塗布し、130℃で10分間乾燥した。次いで、塗布面に[3]熱可塑性ポリイミド前駆体溶液を熱硬化後の被膜の厚みが2μmになるようにバーコータによって塗布した以外は実施例1と同様にして、導電層の厚みが各12μm、絶縁層の全体の厚みが24μm、絶縁層のうち熱可塑性ポリイミド層の厚みが4μmであり、全体の厚みが48μmであるフレキシブルプリント配線板用基板を得た。
【0067】
得られたフレキシブルプリント配線板用基板について測定した物性などを表1に示す。
【0068】
実施例1および2は、いずれも本発明の構成要件の範囲を満たすものであり、優れたフレキシブルプリント配線板とすることができる基板が得られた。
【0069】
比較例1は、絶縁層全体の厚みは本発明の範囲内であるものの、絶縁層における熱可塑性ポリイミド層の厚みが大きく、導電層を全面エッチングした際の寸法変化率が本発明の要件を満たさないものであった。
【0070】
比較例2は、絶縁層全体の厚みは本発明の範囲内であるものの、絶縁層における熱可塑性ポリイミド層の厚みが大きく、導電層を全面エッチングした際の寸法変化率が本発明の要件を満たさないものであり、その他特性にも劣るものとなった。
【0071】
比較例3は、絶縁層全体の厚みおよび絶縁層における熱可塑性ポリイミド層の厚みが大きく、特性に劣るものとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚みが14μm以下のポリイミドフィルムからなる絶縁層の両面に導電層が配置されており、導電層を全面エッチングした際の寸法変化率が−0.05〜0.05%の範囲内にあることを特徴とするフレキシブルプリント配線板用基板。
【請求項2】
絶縁層が、熱可塑性ポリイミド層と非熱可塑性ポリイミド層からなり、熱可塑性ポリイミド層の両面に非熱可塑性ポリイミド層が配置されており、かつ、熱可塑性ポリイミド層の厚みが2μm以下であることを特徴とする請求項1記載のフレキシブルプリント配線板用基板。
【請求項3】
絶縁層と導電層間の接着強度が、1kN/m以上であることを特徴とする請求項1または2記載のフレキシブルプリント配線板用基板。
【請求項4】
導電層の片面に非熱可塑性ポリイミド層、次いで熱可塑性ポリイミド層が形成された積層体同士を、熱可塑性ポリイミド層を向かい合わせに配置して加熱雰囲気下で圧着することを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載のフレキシブルプリント配線板用基板の製造方法。

【公開番号】特開2007−189011(P2007−189011A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−4933(P2006−4933)
【出願日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】