説明

フレキシブルプリント配線板用接着性樹脂組成物

【課題】 エレクトロニクス製品についても近年のエコロジー化に応ずるために、石油由来のプラスチック材料を用いる場合と同程度の特性を確保しつつ、植物由来材料を用いたフレキシブルプリント配線板用接着性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 (A)エポキシ樹脂、(B)ポリアミド樹脂、及び(C)前記エポキシ樹脂の硬化剤を含有するフレキシブルプリント配線板用接着性樹脂組成物において、前記(A)エポキシ樹脂は、エポキシ化植物油及び/又は植物由来の水酸基含有化合物のアルキレンオキサイド付加物を含む。前記水酸基含有化合物は、グリセリン若しくはポリグリセリン又はこれらの部分若しくは全部エステル化物であってもよいし、あるいはフェノール性水酸基含有化合物であってもよい。
【効果】 ポリアミドとエポキシ樹脂の合計量に対する植物由来比率を45質量%以上まで高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブルプリント配線板(FPC)の構成要素である、フレキシブル銅張り板(CCL)、ボンディングフィルムやカバーレイに用いられる接着性樹脂組成物であって、近年のエコロジカルな要望に応えることができる接着性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化防止、循環型社会の構築に貢献する新たな資源として、植物由来の材料が注目されている。植物は、生長する過程で、光合成により環境中の二酸化炭素を吸収して形成されたものであるため、植物由来の材料を燃焼しても、植物のライフサイクル全体で見ると二酸化炭素の収支に変化はないものと考えられる。このように環境中の二酸化炭素の増減に影響を与えない性質はカーボンニュートラルと呼ばれている。
【0003】
植物を原料として作られるプラスチック(バイオマスプラスチック)は、植物と同様に、廃棄時に生じる二酸化炭素が、新たな地球上の二酸化炭素増大にはならず、カーボンニュートラルといえることから、従来の石油由来のプラスチック樹脂を植物由来のプラスチック樹脂へ置き換える研究が盛んに行われている。
【0004】
例えば、特表2008−506016号公報(特許文献1)には、植物油脂肪酸のエポキシ化エステルを含有するコーティング組成物が提案されている。
また、特開2001−192638号公報(特許文献2)には、大豆油由来の脂肪酸を原料としてえられるダイマー酸を用いたポリアミド樹脂を含む接着性樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2008−506016号公報
【特許文献2】特開2001−192638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、エレクトロニクス製品についても近年のエコロジー化に対応するために、フレキシブルプリント配線板の構成要素である、フレキシブル銅張り板(CCL)、ボンディングフィルムやカバーレイに用いられる接着性樹脂組成物について、従来の石油由来のプラスチック材料を用いる場合と同程度の特性を確保しつつ、植物由来材料を用いることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のフレキシブルプリント配線板用接着性樹脂組成物は、(A)エポキシ樹脂、(B)ポリアミド樹脂、及び(C)前記エポキシ樹脂の硬化剤を含有するフレキシブルプリント配線板用接着性樹脂組成物において、前記(A)エポキシ樹脂は、エポキシ化植物油及び/又は植物由来の水酸基含有化合物のアルキレンオキサイド付加物を含むことを特徴とする。
【0008】
前記水酸基含有化合物は、グリセリン若しくはポリグリセリン又はこれらの部分若くは全部エステル化物であってもよいし、あるいはフェノール性水酸基含有化合物であってもよい。前記フェノール性水酸基含有化合物は、カシューナッツシェル油由来化合物であることが好ましい。
【0009】
前記(B)ポリアミド樹脂は、植物由来のダイマー酸を原料とするポリアミド樹脂を含むことが好ましい。
【0010】
前記ポリアミドと前記エポキシ樹脂の合計量に対する植物由来比率は、45質量%以上であることが好ましい。
【0011】
前記硬化剤は、イミダゾール系化合物及び/又は酸系硬化剤であることが好ましい。
【0012】
本発明のフレキシブルプリント配線板は、上記本発明のフレキシブルプリント配線板用接着性樹脂組成物の硬化物を含むものである。
【0013】
基材フィルム上に、上記本発明の接着性樹脂組成物からなる接着層を有する積層体も本発明に含まれる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のフレキシブルプリント配線板用接着性樹脂組成物は、エポキシ樹脂として植物由来の材料を使用しているにもかかわらず、従来の石油由来の材料を用いた場合と同程度の特性を保持できる。よって、本発明のフレキシブルプリント配線板用接着性樹脂組成物を用いることにより、エレクトロニクス製品においても、近年のエコロジー化の要望に応えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】フレキシブルプリント配線板を説明するための断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施の形態を説明するが、今回、開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0017】
〔接着性樹脂組成物〕
本発明の接着性樹脂組成物は、必須成分として、(A)エポキシ樹脂、(B)ポリアミド樹脂、及び(C)硬化剤を含有し、前記(A)エポキシ樹脂は植物由来エポキシ樹脂を含み、好ましくは前記(B)ポリアミド樹脂は植物由来原料を用いたポリアミド樹脂を含む。以下、各成分について順に説明する。
【0018】
(A)エポキシ樹脂
エポキシ樹脂は、フレキシブルプリント配線板に使用する接着性樹脂組成物において、保存時のシート成形性を確保するとともに、加熱硬化による接着強度、絶縁性、耐熱性の確保を目的として配合されている。
【0019】
エポキシ樹脂とは、分子内に2個以上のエポキシ基を有する樹脂をいい、植物由来エポキシ樹脂とは植物由来成分をエポキシ化してなる樹脂であり、(B−1)エポキシ化植物油と、(B−2)植物由来の水酸基含有化合物又はその縮合体のアルキレンオキサイド付加物とに大別される。以下、各エポキシ樹脂について、詳述する。
【0020】
(B−1)エポキシ化植物油
エポキシ化植物油とは、植物油脂をエポキシ化したものである。
植物油としては、特に限定せず、通常、植物の種子、実などから抽出される植物油を用いることができ、具体的には、大豆油、あまに油、桐油、ごま油、やし油、ひまし油、サフラワー油、コーン油、綿実油、パーム油、ひまわり油、アーモンド油、カシューナッツ油、ヘーゼルナッツ油、松の実油などが挙げられる。
【0021】
エポキシ化植物油は、上記植物油をエポキシ化したもので、市販品を用いてもよい。例えば、市販品として、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油などが市販されている。
【0022】
(B−2)植物由来の水酸基含有化合物又はその縮合体のアルキレンオキサイド付加物
植物由来の水酸基含有化合物としては、(B−2a)植物油由来のグリセリン若しくはポリグリセリン又はこれらの部分若しくは全部エステル化物、(B−2b)植物油由来のフェノール性水酸基含有化合物又はその縮合体が挙げられる。
【0023】
(B−2a)植物油由来のグリセリン若しくはポリグリセリン又はこれらの部分若しくは全部エステル化物のアルキレンオキサイド付加物は、下記一般式(1)又は(1’)で示すようなグリシジルエーテルである。
【0024】
【化1】

【0025】
(1)式は、植物油由来のグリセリン又はその部分若しくは全部エステル化物のエチレンオキサイド付加物の場合であり、(1’)式は、植物油由来のポリグリセリンの部分又は全部エステル化物のグリシジルエーテルを示している。
(1)、(1’)式中、R1,R2,R3,R4,R5は、同一であっても異なっていてもよく、少なくとも2つがグリシジル基であり、残りは水素原子又はアシル基である。好ましくは、少なくともR1及びR2がグリシジル基である。(1’)式は、平均重合度2〜10のポリグリセリン又はその部分若しくは全部エステル化物にアルキレンオキサイドを2〜10モル付加重合したポリエーテル化合物に該当し、nは0〜8の整数であり、好ましくは0〜4である。
【0026】
(B−2a)植物油由来のグリセリン若しくはポリグリセリン又はこれらの部分若しくは全部エステル化物のグリシジルエーテルは、植物油由来のグリセリン若しくはポリグリセリンをグリシジル化した後、残部の水酸基をエステル化してもよいし、植物油由来のグリセリン若しくはポリグリセリンの部分エステル化物の残りのヒドロキシル基とエピクロルヒドリンとを反応させることにより製造してもよいし、植物由来のグリセリンとエピクロルヒドリンを重縮合することにより製造してもよい。
また、市販品を用いてもよく、このようなエポキシ樹脂の市販品としては、例えば、ポリグリセリンのグリシジルエーテル化物に該当する、阪本薬品工業社の「SR−4GL」がある。
【0027】
(B−2b)植物油由来のフェノール性水酸基含有化合物とは、例えば、カシューナッツ油などに含まれるフェノール類又はその誘導体が挙げられる。
【0028】
カシューナッツは天然果実であり、カシューナッツ油は、食用として使用されている天然のカシューナッツの実を採取する際、副生物として得られるカシューナッツの殻に含まれる油状の液体であり、アナカルド酸、カルドール、2−メチルカルドール、カルダノールなどが含まれている。
【0029】
カルダノール、カルドールは、芳香環にヒドロキシ基と直鎖状炭化水素が結合したアルケン置換芳香族フェノールで、これに類する炭化水素基置換フェノール類のグリシジルエーテルは、下記一般式(2)で表わされる。式中、R1−R5は、植物油の種類によって異なるが、炭素数2−16で且つ不飽和結合を0−3個含む炭化水素基であり、通常、当該炭化水素基は、m位置となるR2又はR4のいずれか一方に該当し、R1、R3、R5は、水素原子又はメチル基又はエチル基である。
【0030】
【化2】

【0031】
カシューナッツ油のグリシジルエーテルの市販品としては、例えば、カードライト(Cardolite)社の「Cardolite(登録商標)NC−513」があり、これは、m位が炭素数15のアルケニル基で置換されたフェニルグリシジルエーテルである。
【0032】
上記のようなフェノール性水酸基含有化合物の縮合体のアルキレンオキサイド付加物としては、下記式(3)で表わされるような、フェノール性水酸基含有化合物のグリシジルフェノールエーテルの変性物、あるいは(3’)で表わされるような、カルダノール等のフェノール性水酸基含有化合物のグリシジルエーテルとホルムアルデヒド置換芳香族化合物の付加縮合体が挙げられる。
【0033】
【化3】

【0034】
(3)式中、Aは、炭素数2−15の直鎖又は分岐状で、不飽和結合0−3個の炭化水素基、(3’)式中、Rは炭素数1〜15の直鎖又は分岐状で、不飽和結合0−3個の炭化水素基であり、原料となる植物油により異なっている。
【0035】
(3)式で表わされるエポキシ樹脂の市販品としては、例えば、カードライト社の「Cardolite(登録商標)NC−514」があり、(3’)式で表わされるエポキシ樹脂の市販品としては、例えば、同社の「Cardolite(登録商標)NC−547」がある。
【0036】
(B−2b)植物油由来のフェノール性水酸基含有化合物の縮合体のアルキレンオキサイド付加物は、モノマーとなるアルキル置換フェノールの水酸基をグリシジルエーテル化した後、重合して縮合体を得てもよいし、まず重合体を得た後、含まれるフェノール性水酸基をグリシジルエーテル化してもよい。
【0037】
以上のような植物由来エポキシ樹脂は、1種又は2種以上混合してもよく、例えば、(B−1)エポキシ化植物油と(B−2)植物成分由来の水酸基含有化合物のエポキシ化樹脂とを併用してもよいし、(B−2a)植物油由来のグリセリン若しくはポリグリセリン又はこれらの部分若しくは全部エステル化物のアルキレンオキサイド付加物と(B−2b)植物油由来のフェノール性水酸基含有化合物又はその縮合体のアルキレンオキサイド付加物とを併用してもよいし、各種エポキシ樹脂(B−1)(B−2a)(B−2b)において、異なる種類のエポキシ樹脂を2種以上混合して用いてもよい。
【0038】
以上のような植物由来エポキシ樹脂のうち、好ましくは植物成分由来の水酸基含有化合物のエポキシ化樹脂(B−2)であり、より好ましくは、水酸基含有化合物としてフェノール性水酸基を用いたエポキシ化樹脂(B−2b)である。植物成分由来の水酸基含有化合物の水酸基部分にエポキシ基を導入した樹脂(B−2)は、植物油の二重結合部の酸化によりエポキシ基を導入したものに比べ、エポキシ基が末端にあるために、硬化剤との反応性が高く、フロー量の増大を抑制することができる。また、水酸基含有化合物としてフェノール性水酸基含有化合物を用いたエポキシ化樹脂(B−2b)の方が、芳香環を有することから、耐熱性に優れる傾向にある。
【0039】
本発明のフレキシブルプリント配線板用接着性樹脂組成物は、(A)エポキシ樹脂として、以上のような植物由来のエポキシ樹脂の他、従来より当該分野で用いられていた石油由来のエポキシ樹脂を、必要に応じて含んでもよい。しかしながら、接着性樹脂組成物における植物成分率を上げるという観点から、植物成分由来のエポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂は、エポキシ樹脂全体の50質量%未満とすることが好ましく、より好ましくは20質量%未満である。
【0040】
植物成分由来のエポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等を用いることができる。
【0041】
以上のようなエポキシ樹脂(A)は、ポリアミド樹脂(B)100質量部に対して、通常5〜50質量部、好ましくは10〜30質量部用いられる。
【0042】
(B)ポリアミド樹脂
ポリアミド樹脂は熱可塑性樹脂であることから、接着時には、加熱溶融して、被着体となる銅張り板、特に回路形成された銅張り板の凹部に凸に流れ込み、冷却固化して隙間を埋める役割をするとともに、フレキシブルプリント配線板に可撓性を付与する役割を有する。
【0043】
ポリアミド樹脂はジカルボン酸、ジアミン、アミノカルボン酸、ラクタム等の反応により合成することができる。
【0044】
上記ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、ナフタレンジカルボン酸(1,5−、2,5−、2,6−および2,7−体)、ビフェニルジカルボン酸(2,2′−、3,3′−および4,4′−体)、4,4′−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4′−ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4′−ジフェニルスルホンジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4′−ジカルボン酸、2,5−アントラセンジカルボン酸(2,5−および2,6−体)、フェニレンジアセティック酸(o−、m−およびp−体)、フェニレンジプロピオン酸(o−、m−およびp−体)、フェニルマロン酸、フェニルグルタル酸およびジフェニルコハク酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、マレイン酸、フマール酸およびイタコン酸、1,3−シクロブタンジカルボン酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−ジカルボキシメチルシクロヘキサン、1,4−ジカルボキシメチルシクロヘキサン、ジシクロヘキシル−4,4′−ジカルボン酸およびダイマー酸等が挙げられ、これらは各々単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0045】
上記ジアミンとしては、例えば、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、p−ジ−アミノメチルシクロヘキサン、ビス(p−アミンシクロヘキシル)メタン、m−キシレンジアミン、1,4−ビス(3−アミノプロポキシ)シクロヘキサン、ピペラジン、イソホロンジアミン等があげられる。
【0046】
上記アミノカルボン酸としては、例えば、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、4−アミノメチル安息香酸、4−アミノメチルシクロヘキサンカルボン酸、7−アミノエナント酸、9−アミノノナン酸等があげられる。
【0047】
上記ラクタムとしては、例えば、ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタム、α−ピロリドン、α−ピペリドン等があげられる。
【0048】
ポリアミド樹脂は、一般に、分子量が低くなりすぎると加熱溶融時のフロー量が大きくなる傾向がある。また分子量が低いと、相対的に反応基が多くなるので、エポキシ樹脂との反応が進みやすくなり、接着剤としての安定性が低下する傾向にある。従って、ポリアミド樹脂としては、ある程度高分子量であることが好ましい。具体的には、酸価とアミン価の和が30以下であることが好ましく、より好ましくは20以下である。
【0049】
本発明の接着性樹脂組成物における植物成分比率を上げるという観点から、以上のようなポリアミド樹脂原料についても、植物由来成分を用いることが好ましく、具体的には植物由来脂肪酸を用いることが好ましい。植物由来ジカルボン酸としては、ダイマー酸が挙げられる。ダイマー酸とは、オレイン酸(C18342)、リノール酸(C18322)、リノレン酸(C18302)等の不飽和脂肪酸を二量体化した重合脂肪酸をいい、植物由来の1種類の不飽和脂肪酸の2量体であってもよいし、数種類の不飽和脂肪酸を2量体化したものであってもよいし、複数種類の脂肪酸を含む植物油(トール油脂肪酸、大豆油脂肪酸、パーム油脂肪酸等の天然油)を重合したものであってもよい。二量体以外に、モノカルボン酸、3量体などが含まれていてもよい。
【0050】
ポリアミドにおける植物成分率を上げるという観点から、ポリアミド原料として用いるジカルボン酸の植物由来脂肪酸の割合が高いほど好ましい。ジカルボン酸として植物由来脂肪酸を用いることにより。ポリアミドにおける植物成分率を25質量%以上、好ましくは40質量%以上とすることができる。
【0051】
また、植物成分率40質量%以上のポリアミド樹脂を、(A)植物由来エポキシ樹脂とともに用いることにより、ポリアミド樹脂とエポキシ樹脂の合計量に対する植物成分率を45質量%以上まで高めることができる。ポリアミド樹脂とエポキシ樹脂の双方を必須成分とするフレキシブルプリント配線板用接着剤において、エポキシ樹脂及び溶剤との相溶性を保ちつつ植物由来比率を増やす場合、ポリアミド樹脂とエポキシ樹脂の合計量に対する植物成分率はせいぜい35質量%が限界であることから、エポキシ樹脂について植物由来を使用する意義は高い。ポリアミド樹脂とエポキシ樹脂の合計量に対する植物成分率を45質量%以上まで高めることで、要望される特性に応じて、後述するような添加剤を適宜加えても、日本バイオプラスチック協会に規定するバイオマスプラスチック製品の認定基準(植物成分率25質量%以上)を充足させることが容易となる。
【0052】
(C)硬化剤
硬化剤は、エポキシ樹脂の硬化剤として含有される。
本発明で用いられる硬化剤は、少なくともイミダゾール系硬化剤及び/又は酸系硬化剤を含み、好ましくはイミダゾール系硬化剤及び酸系硬化剤の併用系である。アミン系化合物もこれらとともに、用いてもよい。尚、ポリアミド樹脂も酸系硬化剤及びアミン系硬化剤として作用することが可能であるが、植物由来エポキシ樹脂との関係においては、イミダゾール系硬化剤及び/又は酸系硬化剤が必要となる。イミダゾール系硬化剤及び酸系硬化剤のいずれも存在しない場合、硬化速度が遅くなり、ひいては、加熱硬化時に接着部以外への流れ出し量が大きくなる傾向にあるからである。
【0053】
イミダゾール系硬化剤としては、メチルイミダゾール、フェニルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾールなどが挙げられる。これらは、1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0054】
酸系硬化剤としては、例えば、トリメリット酸、フタル酸、無水フタル酸、ピロメリト酸無水物、トリメリト酸無水物、ヘキサヒドロ無水フタル酸等の酸無水物が挙げられる。これらは、1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0055】
上記硬化剤の他、ポリアミン系硬化剤、三フッ化ホウ素アミン錯塩、芳香族ジアミン系硬化剤、カルボン酸系硬化剤等を用いてもよい。
【0056】
硬化剤の配合量は、エポキシ樹脂のエポキシ当量に応じて、適宜決めればよいが、好ましくは、エポキシ樹脂100重量部に対して、酸系硬化剤5〜50重量部、イミダゾール系硬化剤0.5〜5とすることが好ましく、より好ましくは酸系硬化剤10〜30重量部、イミダゾール系硬化剤1〜3重量部である。
【0057】
(D)その他
本発明の樹脂組成物は、上記(A)エポキシ樹脂、(B)ポリアミド樹脂、(C)硬化剤の他、他の樹脂、例えば、フェノキシ樹脂に分類される分子量が高いエポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、オキサジン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂(ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドケトン、ポリフェニレンスルフィドスルホン等)、ポリスルホン樹脂(ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等)、ポリエーテルイミド樹脂(ポリ−N−ホルミルエチレンイミン樹脂等)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂等、ポリアセタール樹脂(ポリオキシメチレン樹脂等)、ケトン樹脂(脂肪族ポリケトン樹脂、アセトンホルムアルデヒド樹脂、アセトンフルフラール樹脂、環状ケトン樹脂等)等を、必要に応じて混合してもよい。
【0058】
さらに、必要に応じて、無水シリカ、水酸化アルミニウム、タルク、クレー等の無機充填剤、硬化促進剤、シランカップリング剤、レべリング剤、消泡剤、界面活性剤、難燃剤などの添加剤を適宜配合してもよい。
【0059】
エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、硬化剤を必須成分とするフレキシブルプリント配線板用接着性樹脂組成物において、(A)エポキシ樹脂の大部分(通常70質量%以上)を植物由来エポキシ樹脂とし、(B)ポリアミド樹脂の原料となるジカルボン酸成分として植物成分由来のジカルボン酸を使用することで、ポリアミド樹脂とエポキシ樹脂の合計量における植物由来成分の含有率を45質量%以上とすることができる。従って、フレキシブルプリント配線板の接着剤として、求められる特性に応じて、上記のような他の石油由来樹脂、他の添加剤を配合しても、バイオマスプラスチック製品に分類されることができる、植物成分含有率25質量%以上を達成することができる。
【0060】
〔接着性樹脂組成物の調製及びフィルム状接着剤の作製〕
本発明の接着性樹脂組成物は、以上のような(A)〜(C)成分、さらに必要に応じて他の樹脂、添加剤を配合し、有機溶剤を加えて、加熱撹拌により溶解、または必要に応じてボールミル、ホモジナイザー等を用いて混合することにより調製される。
【0061】
上記有機溶剤としては、トルエン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、ジオキソラン、ヘキサン、トリエチルアミン、酢酸イソブチル、酢酸ブチル、酢酸エチル、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン、セロソルブ、エチレングリコール、ジメチルホルムアミド(DMF)、キシレン、N−メチルピロリドンなどを用いることができる。
【0062】
以上のような組成を有する本発明の接着性樹脂組成物は、半硬化状態のフィルム状接着剤として使用、保存される。ここで、半硬化状態とは、接着性を有する状態で、接着性樹脂組成物中のエポキシ樹脂の一部が加熱硬化し、未硬化物とが混在した状態をいう。
【0063】
半硬化状態のフィルム状接着剤は、接着性樹脂組成物を基材上に塗布し、通常、100〜180℃で数分〜数十分間加熱することにより得られる。好適な加熱時間は、使用する接着剤の構成成分によって適宜設定される。フィルム状接着剤の厚みは特に限定しないが、通常10〜100μm、好ましくは15〜60μmである。
【0064】
〔用途〕
本発明のフレキシブルプリント配線板用接着性樹脂組成物は、カバーレイフィルム、ボンディングフィルムの接着に好適に用いられる。フレキシブルプリント配線板の銅箔とポリイミドフィルムとの接着にも好適に用いることができる。さらに、フレキシブルプリント配線板とこの一部の補強に補強板を張り付ける場合に、その貼り付け用接着剤として用いることができる。
【0065】
本発明の積層体は、基材フィルム上に、上記本発明の接着性樹脂組成物からなる接着層を有する積層体であり、基材フィルムの種類に応じて、カバーレイフィルム、ボンディングフィルムとなり、フレキシブルプリント配線板の製造に用いられる。
【0066】
フレキシブルプリント配線板(FPC)は、例えば、図1に示すように、ポリイミド等のベースフィルム2上に、銅箔等の導体箔をエッチングしてなる回路3が形成され、さらに回路3上に、カバーレイフィルム4とよばれる絶縁フィルム(通常、ポリイミドフィルム)が接着剤層5を介して積層されたものである。図1に示すフレキシブルプリント配線板1では、回路3は、ベースフィルム2の片面だけに形成されているが、ベースフィルム2の両面に回路3が形成され、それぞれの回路がカバーレイフィルムで被覆されているフレキシブルプリント配線板もある。尚、4aは、位置合わせや他の部品実装のために開設された部分である。
【0067】
カバーレイフィルムとは、基材フィルムとなるベースフィルム上に、上記本発明の接着性樹脂組成物を半硬化させた接着剤層が積層され、さらに、当該接着剤層を、離型フィルムで覆ったものである。ボンディングフィルムとは、基材フィルムとして離型フィルムを用いたものであり、上記本発明の接着性樹脂組成物を半硬化させた接着剤層の両面を離型フィルムで挟んだものや、基材となるベースフィルムの両面に半硬化状態の接着剤層が積層され、その両面を離型フィルムで覆ったものをいう。
【0068】
上記ベースフィルムとしては、ポリイミドフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリフェニレンスルフィドフィルムなどが挙げられる。用途に応じて、ポリイミドフィルム等のプラスチックフィルムの他、ガラス繊維強化樹脂シート、不織布などを基材としたプリプレグシートを用いることもできる。
【0069】
離型フィルムとしては、特に限定しないが、通常、シリコーンコート等の離型処理したプラスチックフィルムが用いられる。
導体箔としては、銅箔、アルミニウム箔等が挙げられるが、銅箔が好適に用いられる。
【0070】
補強板としては、特に限定しないが、アルミ板、珪素鋼板等の金属板;紙フェノール積層板やガラスエポキシ積層板等のプラスチック積層板;ポリイミド板、ポリプロピレン板、ポリエチレン板等のプラスチック板などが用いられる。
【実施例】
【0071】
本発明を実施するための最良の形態を実施例により説明する。実施例は、本発明の範囲を限定するものではない。
【0072】
〔測定評価方法〕
以下の実施例で採用した測定評価方法は以下の通りである。
(1)剥離強度
作製したフレキシブルプリント配線板について、JIS C 6481に準拠し、23℃において、銅箔側から引張り、ポリイミドフィルムから剥がすときの剥離強度(N/cm)を測定した。フレキシブルプリント配線板用接着剤としては、剥離強度5N/cm以上であることが必要とされる。
【0073】
(2)流れ出し性
作製したフレキシブルプリント配線板の接着部分における接着剤のはみ出しを観察し、はみ出しが最大部分のはみ出し距離(フロー量)d(μm)を測定した。フロー量は小さいほど好ましく、フレキシブルプリント配線板用接着剤としての許容範囲は、200μm以下(0.2mm以下)である。
【0074】
(3)半田耐熱性
作製したフレキシブルプリント配線板を、銅箔側が上になるように載置し、1分間静置した。半田浴を10℃ごとに昇温し、フレキシブルプリント配線板に外観変化が生じない最高温度を耐熱最高温度とした。
なお、フレキシブルプリント配線板用接着剤に必要とされる耐熱最高温度は、260℃以上である。
【0075】
(4)植物成分率(質量%)
原料として使用したポリアミド、エポキシ樹脂の植物原料由来率を、各原料の配合率に乗じて、算出した。
【0076】
〔接着性樹脂組成物の調製、及びフレキシブルプリント配線板の作製〕
ポリアミドは、ジカルボン酸として、植物由来のダイマー酸及びセバシン酸を使用し、ジアミンとしてエチレンジアミン及びピペラジンを使用して合成したものを用いた。植物成分率は46質量%である。
【0077】
エポキシ樹脂としては、表1に示すEp1〜Ep5を用いた。Ep1は従来の石油由来のノボラック型エポキシ樹脂であり、Ep2−Ep5が植物由来材料を用いたエポキシ樹脂である。Ep2は(B−2a)に該当し、下記(4)式で表わされる。Ep3、Ep4は(B−2b)に該当し、それぞれ下記(5)、(6)式で表わされる。Ep5は(B−1)に該当する。
【0078】
【化4】


【化5】


【化6】

【0079】
【表1】

【0080】
ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、硬化剤を、表2に示す質量割合で配合し、さらに有機溶剤(メタノール:トルエン:メチルエチルケトン=1:1:1の混合物)430質量部に溶解して、60℃で30分間加熱して、接着性樹脂組成物No.1〜8を調製した。
厚み25μmのポリイミドフィルム表面に、調製した接着剤溶液を、乾燥後25μmの厚みとなるように塗布し、150℃で2分間乾燥させて、半硬化状態の接着層を形成した。この半硬化状態の接着層上に、厚み18μmの圧延銅箔を積層した後、熱プレスにて3MPaの圧力下、160℃で40分間加熱を行い、フレキシブルプリント配線板を作製した。
【0081】
作製したフレキシブルプリント配線板について、上記評価方法に基づいて、剥離強度、フロー量、半田耐熱性を評価した。結果をあわせて表2に示す。
【0082】
【表2】

【0083】
No.1、2は、ポリアミド樹脂として植物由来のジカルボン酸を使用し、エポキシ樹脂としては従来の石油由来のエポキシ樹脂を用いた場合である。硬化剤を使用しなくても、剥離強度、半田耐熱性、フロー量について、必要スペックを満足することが可能であるが、植物成分率が最大でも37質量%である。
【0084】
No.3−8は、いずれも植物由来エポキシ樹脂を用いた場合である。No.3−5の比較から、硬化剤を用いない場合(No.3)では、硬化不十分なため、フロー量が大きくなり、スペックを満たすことができない。硬化剤としては、イミダゾール系、酸系硬化剤を併用することが好ましい。(No.4、5の比較)
No.5−8の比較から、植物由来エポキシ樹脂のうち、植物油のエポキシ化物を用いた場合(No.8)では、水酸基含有化合物を用いたエポキシ樹脂(No.5−7)と比べて耐熱性が劣り、イミダゾール系硬化剤と酸系硬化剤の併用系を用いた場合、必要スペックはクリアできるが、No.5−7と比べて、フロー量の低減度合が小さかった。従って、植物原料の水酸基含有化合物のエポキシ樹脂を用いることが好ましいことがわかる。
【0085】
また、No.5とNo.6,7の比較から、フェノール性水酸基由来の水酸基化合物を用いる方が、耐熱性が優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明のフレキシブルプリント配線板用接着性樹脂組成物は、植物成分由来率が高いので、カバーレイやボンディングフィルムの接着剤層、フレキシブル銅張り板の接着、フレキシブルプリント配線板と補強板との接着などに用いることにより、近年のエコロジーの要望、二酸化炭素排出規制に対応できるフレキシブルプリント配線板を製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂、(B)ポリアミド樹脂、及び(C)前記エポキシ樹脂の硬化剤を含有するフレキシブルプリント配線板用接着性樹脂組成物において、
前記(A)エポキシ樹脂は、エポキシ化植物油及び/又は植物由来の水酸基含有化合物のアルキレンオキサイド付加物を含むことを特徴とするフレキシブルプリント配線板用接着性樹脂組成物。
【請求項2】
前記水酸基含有化合物は、グリセリン若しくはポリグリセリン又はこれらの部分若くは全部エステル化物である請求項1に記載のフレキシブルプリント配線板用接着性樹脂組成物。
【請求項3】
前記水酸基含有化合物は、フェノール性水酸基含有化合物である請求項1に記載のフレキシブルプリント配線板用接着性樹脂組成物。
【請求項4】
前記フェノール性水酸基含有化合物は、カシューナッツシェル油由来化合物である請求項3に記載のフレキシブルプリント配線板用接着性樹脂組成物。
【請求項5】
前記(B)ポリアミド樹脂は、植物由来のダイマー酸を原料とするポリアミド樹脂を含む請求項1〜4のいずれか1項に記載のフレキシブルプリント配線板用接着性樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリアミドと前記エポキシ樹脂の合計量に対する植物由来比率は、45質量%以上である請求項5に記載のフレキシブルプリント配線板用接着性樹脂組成物。
【請求項7】
前記硬化剤は、イミダゾール系化合物及び/又は酸系硬化剤である請求項1〜6のいずれか1項に記載のフレキシブルプリント配線板用接着性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のフレキシブルプリント配線板用接着性樹脂組成物の硬化物を含むフレキシブルプリント配線板。
【請求項9】
基材フィルム上に、請求項1〜7のいずれか1項に記載の接着性樹脂組成物からなる接着層を有する積層体。

【図1】
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【公開番号】特開2012−224713(P2012−224713A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−92333(P2011−92333)
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】