説明

フレキシブル色素増感太陽電池モジュール

【課題】 複数の色素増感太陽電池セルを連結させた場合に、高い柔軟性を実現することが可能なフレキシブル色素増感太陽電池モジュールを提供することを目的とする。
【解決手段】 複数の色素増感太陽電池セルが連続的に接続されたフレキシブル色素増感太陽電池モジュールであって、複数の色素増感太陽電池セルは、可撓性を有するフレキシブルコネクタによって電気的に接続されているフレキシブル色素増感太陽電池モジュール。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の色素増感太陽電池セルを連結させた場合に、高い柔軟性を実現することが可能なフレキシブル色素増感太陽電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
色素増感太陽電池は、身近な材料である金属酸化物半導体多孔膜を利用した太陽電池であり、シリコン太陽電池に比べて、高価な材料やプロセスを必要とせず、安価な太陽電池を実現できるデバイスとして実用化が期待されている。
【0003】
色素増感太陽電池は、通常、透明電極基板に金属酸化物半導体多孔質層を形成し増感色素を担持させた光電極と、基板に導電層と触媒層を形成した正電極とを電解質層を介して挟み込んだ構成となっている。
このような色素増感太陽電池の基本原理は、特許文献1に開示されているように、以下の通りである。まず、色素増感太陽電池に光が照射されると、金属酸化物半導体多孔質層表面に吸着された増感色素が光を吸収し、色素分子内の電子が励起され、電子が半導体層へ渡される。これにより、光電極側で電子が発生し、この電子が電気回路を通じて、正電極に移動する。そして、正電極に移動した電子は、電解質層の酸化還元反応を通じて光電極に戻る。このような過程が繰り返されることで、電気エネルギーが生じる。
【0004】
一方、単一の色素増感太陽電池セルで得られる起電力は限られていることから、実用的な電圧を実現するため、複数の色素増感太陽電池セルを直列に接続してモジュールを形成することが試みられている。
しかしながら、従来型のシリコン太陽電池では、発電層がシリコン等の固体半導体から構成されるため、金属配線により補助電極を形成して、単一セルの面積を比較的に大きくすることができ、複数のセルを平面的に配置して配線接続することにより、簡単にモジュールを組み立てることができるのに対して、色素増感太陽電池の場合には、セル内部の電解液が腐食性であるため、単純な金属配線による補助電極が使用できず、耐食性の金属配線や耐食保護膜で被覆した補助電極を形成することが必要があり、セルの特性(性能と耐久性)を維持しながら、セルの面積を大きくすることは、技術的に困難である。
そこで、色素増感太陽電池モジュールとしては、複数のセルを同一基板上に短冊状に形成した一体型モジュールや、別々の基板からなる短冊状の複数セルを連結した連結モジュールが提案されている。
【0005】
例えば、特許文献2、3及び4には、モジュール内部のセル間が、基板電極やインタコネクタによって接合された一体型モジュールが開示されている。これらのモジュールは、一枚基板からなるため、モジュールとしてのフレキシブル性は、基板のフレキシブル性に依存する。しかしながら、基板には透明電極膜や金属酸化物半導体多孔膜等の硬質な無機膜を形成されているため、大きなフレキシブル性は得られないという問題があった。
連結型モジュールの具体例として、例えば、特許文献5には、複数の色素増感太陽電池セルの端子を導電接着剤等によって電気的に接続する方法が開示されている。しかしながら、このような方法で接続されたモジュールは、色素増感太陽電池セル自体の剛性に加えて、色素増感太陽電池セル間の接合部が硬いために、色素増感太陽電池モジュールを緩やかな曲率で折り曲げたり、曲面の基材に設置したりすることが困難であった。
更に、色素増感太陽電池については、そのデザイン性や価格面から、移動型の太陽電池としてモバイル用途への応用が期待されているが、このような分野では特にフレキシブル性に対する要請が大きくなっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2664194号公報
【特許文献2】特開2005−100875号公報
【特許文献3】特開2005−235725号公報
【特許文献4】特開2007−12377号公報
【特許文献5】特開2006−12802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、複数の色素増感太陽電池セルを連結させた場合に、高い柔軟性を実現することが可能なフレキシブル色素増感太陽電池モジュールを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、複数の色素増感太陽電池セルが連続的に接続されたフレキシブル色素増感太陽電池モジュールであって、上記色素増感太陽電池セルは、透明基板上に透明電極及び色素担持多孔質層が積層された光電極と、電解質層と、正電極とを有し、上記色素増感太陽電池セル同士は、可撓性を有するフレキシブルコネクタによって電気的に接続されているフレキシブル色素増感太陽電池モジュールである。
【0009】
本発明のフレキシブル色素増感太陽電池モジュールは、色素増感太陽電池セル同士が、可撓性を有するフレキシブルコネクタによって電気的に接続されている。
これにより、色素増感太陽電池モジュールを折り曲げたりした場合でも、色素増感太陽電池モジュールが破損することなく、継続して発電を行うことができることから、緩やかな曲率で屈曲させたり、曲面の基材に設置したりすることが可能となり、モバイル用途や衣料への取り付け等の様々な用途に好適に使用することができる。
【0010】
図7は、従来の方法で作製した色素増感太陽電池モジュールの一例を示す断面図である。
図7に示すように、色素増感太陽電池モジュール70は、透明基板2、色素担持多孔質層3及び電解質層4を有する色素増感太陽電池セル1が、接合部5を介して複数連結した構造となっている。しかしながら、色素増感太陽電池モジュール70では、色素増感太陽電池セル1の接続部5に導電性接着剤等が用いられているため、剛直な構造となり、色素増感太陽電池モジュール70を緩やかな曲率で折り曲げたり、屈曲させたりする場合に対応できず、色素増感太陽電池モジュール70の破損等を招くことがあった。
【0011】
図1は、本発明のフレキシブル色素増感太陽電池モジュールの一例を示す断面図である。
図1aに示すように、色素増感太陽電池モジュール10は、透明基板2、色素担持多孔質層及び電解質層を有する色素増感太陽電池セル1が、フレキシブルコネクタ6を介して複数連結した構造となっている。なお、図1では、色素担持多孔質層及び電解質層の記載を省略する。
図1bは、フレキシブルコネクタ6の拡大断面図である。図1bに示すように、フレキシブルコネクタ6は、可撓性絶縁被覆層6aと導電層6bとを有し、両先端部の近傍に、電気的に接続可能な端子部6cが形成されている。
このようなフレキシブルコネクタ6を介して色素増感太陽電池セル1を連結することにより、図1cに示すように、色素増感太陽電池モジュール10を折り曲げた場合であっても、色素増感太陽電池セル1や連結部分が破損することがなくなるため、色素増感太陽電池モジュールを緩やかな曲率で折り曲げたり、屈曲させたりすることが可能となる。
【0012】
図2は、本発明のフレキシブル色素増感太陽電池モジュールの別の一例を示す断面図である。
図2aに示すように、色素増感太陽電池モジュール20は、透明基板2、色素担持多孔質層及び電解質層を有する色素増感太陽電池セル1が、フレキシブルコネクタ7を介して複数連結した構造となっている。なお、図2では、色素担持多孔質層及び電解質層の記載を省略する。
図2bは、フレキシブルコネクタ7の拡大断面図である。図2bに示すように、フレキシブルコネクタ7は、可撓性絶縁被覆層7aと導電層7bとを有し、両先端部の近傍に、電気的に接続可能な端子部7cが形成されている。また、フレキシブルコネクタ7は、折り曲げ部を有する構造となっている。これにより、色素増感太陽電池モジュール20のフレキシブル性を更に向上させ、色素増感太陽電池モジュール20をより多様な形状にさせることが可能となり、例えば、衣料等に取り付けた場合は、身体の動きに合わせて形状を変化させることができる。
【0013】
本発明のフレキシブル色素増感太陽電池モジュールは、色素増感太陽電池セルを有する。上記色素増感太陽電池セルは、透明基板上に透明電極及び色素担持多孔質層が積層された光電極と、電解質層と、正電極とを有する構造であることが好ましい。
【0014】
上記光電極を有することで、光照射によって起電力を発生させることが可能となる。
また、上記光電極は、透明基板上に透明電極及び色素担持多孔質層が積層された構造であることが好ましい。
【0015】
上記透明基板としては、透明なものであれば特に限定されず、例えば、ガラス基板、樹脂フィルム基板等を用いることができる。なかでも、樹脂フィルム基板を用いることが好ましい。上記樹脂フィルム基板を用いることで、ガラス基板を用いる場合と比較して、色素増感太陽電池セルを軽量化できるとともに、柔軟で割れにくい構造とすることが可能となり、特にモバイル用途に好適に使用することができる。また、容易に所望の形状に加工することができ、色素増感太陽電池セルの形状の自由度を大幅に向上させることができる。
特に、本発明では、上記樹脂フィルム基板を用いることで、色素増感太陽電池モジュールの特徴部分であるフレキシブル性を更に向上させることが可能となる。
【0016】
上記樹脂フィルム基板としては、入射する光を妨げず、適度の強度を有するものであれば特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリスルフォン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、環状ポリオレフィン等の耐熱性を有する透明性樹脂からなるものが挙げられる。
上記樹脂フィルム基板の厚みの好ましい下限は20μm、好ましい上限は1mmである。厚みを上記範囲内とすることで、適当な剛性と柔軟性をもたせることが可能となる。
【0017】
上記透明電極としては、例えば、ITO、SnO、ZnO、GZO、AZO、FTO等からなるものが好ましく、なかでも、抵抗率が小さく安定であり、透明性が高いという性質を有することから、ITOからなるものが好ましい。上記透明電極は、例えば、スパッタリング、CVD等の蒸着、イオンプレーティング等によって形成することができる。なお、上記透明基板と透明電極との間には、ハードコート層を形成してもよい。
【0018】
上記色素担持多孔質層は、増感色素が金属酸化物半導体多孔質層に担持された構造であることが好ましい。
【0019】
上記金属酸化物半導体多孔質層を構成する金属酸化物としては、例えば、n型の半導体性を示すTiO、ZnO、SnO、WO等の金属酸化物半導体等が挙げられる。これらのなかでは、TiO、ZnOが好ましい。
【0020】
上記金属酸化物半導体多孔質層の膜厚の好ましい下限は2μm、好ましい上限は20μmである。2μm未満であると、色素担持量が少なくなるとともに、得られる色素増感太陽電池の光電変換特性も低下することがあり、20μmを超えても、金属酸化物半導体多孔質層中の電子の拡散長が限られているために光電変換特性向上に寄与せず、逆に電解質液の金属酸化物半導体多孔質層への浸入が困難になることから光電変換特性が低下することがある。
【0021】
上記増感色素としては、光エネルギーにより生じた電子を金属酸化物半導体多孔質層に送る機能を有するものであれば特に限定されないが、有機色素を用いることが好ましい。なお、上記有機色素とは、ルテニウム等の金属を含有しない色素のことをいう。
上記有機色素としては、上記金属酸化物半導体多孔質層と強固に吸着させるための官能基を有するものが好ましい。上記官能基としては例えば、カルボン酸基、カルボン酸無水基、アルコキシ基、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基、スルホン酸基、エステル基、メルカプト基、ホスホニル基等が挙げられる。
【0022】
上記有機色素としては、具体的には例えば、キサンテン系色素、クマリン系色素、トリフェニルメタン系色素、シアニン系色素、メロシアニン系色素、ポルフィリン系色素、フラノシアニン系色素、アゾ系色素、スクアリリウム系色素等が挙げられる。
【0023】
上記光電極は、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法等により、樹脂フィルム基板にITOからなる透明電極を形成した後、上記透明電極上に金属酸化物半導体多孔質層を形成し、更に、上記金属酸化物半導体多孔質層に増感色素を担持させる方法等により製造することができる。
【0024】
上記金属酸化物半導体多孔質層を形成する方法としては特に限定されず、例えば、金属酸化物半導体粒子を水等の溶媒に分散させた溶液を透明電極上に塗布し、加熱を行うことにより乾燥焼成して膜を形成する塗布法;所望の金属のアルコキシド化合物や塩化物を含有するアルコール溶液を透明電極上に塗布し、加熱を行うことにより乾燥焼成して膜を形成するゾル−ゲル法;金属塩を含む電解質溶液中に透明電極基板を浸漬し、電気化学的に透明電極基板上に金属や金属酸化物の膜を形成する電析法等の方法を用いることができる。
【0025】
上記塗布法やゾル−ゲル法において、透明電極上に溶液を塗布する方法としては特に限定されず、例えば、印刷法、スプレー法、スピンコーティング法、ディップ法等が挙げられる。
【0026】
上記電析法は、高温の焼成工程を行うことなく、結晶性の高い金属酸化物半導体多孔質層を得ることが可能であることから、特に樹脂フィルム基板を使用する場合に好適に行うことができる。具体的には例えば、金属塩を含有する電析浴中にテンプレート色素を混合し、作用極に透明電極基板、対向極に亜鉛等の金属を配置し、酸素をバブリングしながら参照電極に対して定電圧を印加する3電極法による方法等を用いることができる。
【0027】
上記増感色素を担持させる方法としては、例えば、上記増感色素を含有する溶液に、上記金属酸化物半導体多孔質層が形成された樹脂フィルム基板を浸漬した後、乾燥を行う方法等が挙げられる。
上記金属酸化物半導体多孔質層が形成された樹脂フィルム基板を浸漬する際の浸漬時間の好ましい下限は5分、好ましい上限は5時間である。5分未満であると、色素溶液が金属酸化物半導体多孔質層の内部まで充分に浸透しないことがあり、5時間を超えると、金属酸化物半導体多孔質層への増感色素の吸着量が多くなりすぎ、増感色素の積層吸着が発生し、金属酸化物半導体多孔質層への電子の流れを阻害してセル特性の低下や劣化を招いたりすることがある。
【0028】
上記増感色素を含有する溶液に用いる溶媒としては、増感色素を溶解することができ、基板フィルムを劣化させないものであれば特に限定されず、例えば、エタノール等のアルコール類、アセトン等のケトン類、ジエチルエーテル等のエーテル類、アセトニトリル等が挙げられる。
【0029】
上記電解質層は、電解質溶液からなるものであってもよく、電解質溶液をゲル化剤によって半固体化したものや、熱硬化性樹脂等により固体化したものであってもよい。
また、上記電解質層としては、半導電性のイオン導電層やホール輸送性の半導体材料が使用することができる。上記イオン導電層は、イオンを媒体として電子やホールを輸送できる物質であれば特に限定されず、例えば、ヨウ素/ヨウ化物、臭素/臭化物等の酸化還元物質を有機溶媒に溶解した溶液を用いることができる。上記ホール輸送性の半導体材料としては、例えば、CuI,CuSCN,NiO,CuO,KI等の無機系p型半導体や銅フタロシアニン色素、ポリチオフェン等の導電性ポリマー等の有機系ホール輸送材料を用いることができる。
上記有機溶媒としては、例えば、ニトリル系のアセトニトリル、メトキシプロピオニトリルや炭化水素系のプロピレンカルボナート、ジエチルカルボナート、γ―ブチロラクタンやポリエチレングリコール等の多価アルコール、イミダゾリウム塩等のイオン液体が挙げられる。
これらの中では、金属酸化物半導体多孔質層の内部に浸透して増感色素と反応しやすいことから、酸化還元電解質を有機溶媒に溶解した溶液が好ましい。
【0030】
上記正電極(対向電極)としては特に限定されず、例えば、上記光電極と同様の樹脂フィルム基板に、透明電極と触媒層とをこの順に積層したものを用いることができる。
なお、上記正電極の基板及び電極には、光電極に使用する樹脂フィルム基板や透明導電層と異なり、必ずしも透明性は必要とされないので、ニッケル、チタン、タングステン等の耐食性のある金属や、カーボン、グラファイト等の炭素材料を用いることができる。
上記触媒層の材料には、白金、カーボン、ポリチオフェン系等の導電性ポリマーを用いることができる。
【0031】
上記色素増感太陽電池セルは、例えば、光電極を作製した後、電解質液を光電極の金属酸化物半導体多孔質層上に塗工し、電解質層を形成した後、正電極を積層する方法や、光電極と電解質液注入口を有する正電極とを積層した後、上記電解質溶液注入口から電解質液を注入する方法等により製造することができる。
【0032】
本発明のフレキシブル色素増感太陽電池モジュールは、複数の色素増感太陽電池セルがフレキシブルコネクタを介して電気的に接続されたものである。
【0033】
上記フレキシブルコネクタとしては、可撓性を有するものであり、かつ、上記色素増感太陽電池セル同士を電気的に接続可能であれば特に限定されないが、例えば、図1bに示すように、導電層と上記導電層を挟持する可撓性絶縁被覆層とからなり、かつ、上記導電層が露出した端子部を有する構造のものが好ましい。上記可撓性絶縁被覆層を有することで、可撓性を付与するだけでなく、上記フレキシブルコネクタの導電層を保護することが可能となる。
なお、本発明において、「可撓性」とは、外力により撓み変形し、外力の除去により元に戻る性質のことをいう。上記フレキシブルコネクタは、このような外力が付与された場合でも、電気的な接続が維持されている必要がある。具体的には例えば、JIS P 8115に準拠した折り曲げ試験機を用いてストレスクラック試験を行った場合に、電気的な断線が起こるまでの折り曲げ回数が20回以上であることが好ましい。
【0034】
上記フレキシブルコネクタとしては、具体的には例えば、樹脂フィルム上に、銅や銀等の金属膜を塗布、めっき、蒸着等の真空成膜法等により成膜し、更に金属膜上に樹脂フィルムを積層したもの、2枚の樹脂フィルムの間に銅や銀等の金属箔膜をラミネートしたもの等を使用することができる。
【0035】
上記フレキシブルコネクタは、図2bに示すように、折り曲げ部を有する構造であることが好ましい。このような構造を有することで、フレキシブル性を更に向上させ、上記色素増感太陽電池モジュールをより多様な形状にさせることが可能となる。
【0036】
上記導電層としては、導電性を有するものであれば特に限定されないが、例えば、銅、銀、金、アルミ、ニッケル、半田等の金属よりなる、箔、厚膜、薄膜等が挙げられる。
【0037】
上記可撓性絶縁被覆層の材料としては、可撓性を有し、導電層を絶縁被覆可能なものであれば特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ナイロン、アクリル、フッ素樹脂等の樹脂材料、シリコーン、ウレタン、天然ゴムなどのゴム材料、グラスファイバー等が挙げられる。
【0038】
また、上記可撓性絶縁被覆層は、形状保持性を有する材料からなるものであることが好ましい。上記形状保持性を有することで、例えば、衣料等に取り付けた場合に種々の動きに追従して変形可能な構造とすることができる。
【0039】
本発明のフレキシブル色素増感太陽電池モジュールは、複数の色素増感太陽電池セルを、可撓性を有するフレキシブルコネクタによって電気的に接続することによって製造することができる。
具体的には例えば、上記色素増感太陽電池セルの端子部とフレキシブルコネクタの端子部とを導電性接着剤、異方性導電シート、ヒートシール等を用いて接続して、複数の色素増感太陽電池セルを連結させる方法等が挙げられる。
【0040】
上記導電性接着剤としては、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等の接着成分に、銅や銀等の導電成分を分散させたもの等を用いることができる。
上記異方性導電シートとしては、例えば、上記導電性接着剤を固形化したシート等を用いることができる。
上記ヒートシールを用いる方法としては、例えば、熱可塑性樹脂からなるフィルムに銀やカーボン等を含有する導電ペーストを印刷、製膜したシートを介して加熱シールする方法等が挙げられる。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、複数の色素増感太陽電池セルを連結させた場合に、高い柔軟性を実現することが可能なフレキシブル色素増感太陽電池モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】(a)〜(c)は、本発明の色素増感太陽電池モジュールの一例を示す断面図である。
【図2】(a)〜(c)は、本発明の色素増感太陽電池モジュールの別の一例を示す断面図である。
【図3】色素増感太陽電池ユニットをトレーニングウェアの側面部へ取り付けた場合の状態を示す模式図である。
【図4】色素増感太陽電池ユニットを防寒ベストの背面への取り付けた場合の状態を示す模式図である。
【図5】色素増感太陽電池ユニットをLEDを有する回路の電源とした場合の状態を示す模式図である。
【図6】(a)、(b)は、実施例、比較例において得られた色素増感太陽電池セルを示す模式図である。
【図7】従来の色素増感太陽電池モジュールの一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
(実施例1)
(1)透明電極基板の形成
厚さ200μmのPENフィルム基板(帝人デュポン社製、Q−65F)の両面にUV硬化アクリル樹脂を2〜5μmの厚みでグラビアコートすることにより、ハードコート層を形成した後、DCスパッタリングによって100〜200nmのITO膜を製膜した。なお、DCスパッタリングは、アルゴンガス流量50sccm、酸素ガス流量1.5sccm、電圧380V、電流2A、成膜時間20分で行った。
【0044】
(2)金属酸化物半導体膜の作製
得られた透明電極基板を、有機溶剤中で超音波洗浄して脱脂した。次いで、ITO膜面に10×20mmの矩形上の開口部を設けたマスキングを施した後、回転電極装置を使用し、厚み5μm程度の酸化亜鉛多孔膜を電析成膜した。なお、上記電析成膜は、KCl、ZnCl及びエオシンY色素を含有する溶液中で、−1.0Vの電位で30分間電析することにより行った。
更に、pH10.5のアルカリ水にフィルム基板を一晩浸漬してエオシンY色素を脱色することにより、10×20mmの矩形状の酸化亜鉛多孔膜を形成した。
【0045】
(3)増感色素の担持
得られた酸化亜鉛多孔膜形成基板を、有機色素(ケミクレア製、D149)0.037重量部とコール酸0.04重量部とをアセトニトリルとt−ブタノールとの混合溶剤に溶解した溶液に30分浸漬した後、取り出した基板を溶剤で洗浄して乾燥することにより、光電極を得た。
【0046】
(4)色素増感太陽電池セルの作製
ITO膜を形成した透明電極フィルムにDCスパッタリングによって白金層を製膜し、対極基板を作製した。なお、DCスパッタリングのスパッタリング条件は、電圧620V、電流3A,成膜時間60秒とした。次いで、光電極基板と対極基板とを、アイオノマー樹脂フィルム(三井化学製、ハイミラン)を介して熱圧着した。
【0047】
次いで、ヨウ素、ジメチルプロピルイミダゾリウムイオダイド及びプロピレンカルボネート溶媒を含有する電解液を注入し、UV硬化樹脂で封止して色素増感太陽電池セルを作製した。
なお、得られた色素増感太陽電池セル1は、図6に示すように、透明基板2(光電極側)の3辺の周縁部が負極8、透明電極2’(対抗電極側)の1辺の周縁部が正極9となる構造とした。また、基板の配線抵抗を下げるために、正極及び負極の端子部分に導電性銀ペーストを塗布した。
【0048】
(5)フレキシブルコネクタの作製
電解銅箔(福田金属箔粉製、厚み35μm)を、粘着付きPETテープ(厚み50μm)で両面ラミネートした。次いで、得られたフィルムを20×10mmの大きさに切り出した後、二つ折にすることで、図2bに示すような折り曲げ部を有するフレキシブルコネクタを作製した。
【0049】
(6)色素増感太陽電池モジュールの作製
導電性銀ペースト(ドータイト D−723SAとD−723SB)を、折りたたみコネクタの両端の端子部に塗布した後、一方の端子部に得られた色素増感太陽電池セルの正極、他方の端子部に他の色素増感太陽電池セルの負極を貼り合わせて、色素増感太陽電池セルを接続し、一晩乾燥した。この方法で、色素増感太陽電池セル4個を直列に接続した色素増感太陽電池モジュールを作製した。
【0050】
(実施例2)
実施例1の(1)〜(5)と同様にして色素増感太陽電池セル及びフレキシブルコネクタを作製した。
【0051】
(6)色素増感太陽電池モジュールの作製
導電性銀ペースト(ドータイト D−723SAとD−723SB)を、折りたたみコネクタの両端の端子部に塗布した後、一方の端子部に得られた色素増感太陽電池セルの正極、他方の端子部に他の色素増感太陽電池セルの負極を貼り合わせて、色素増感太陽電池セルを接続し、一晩乾燥した。この方法で、色素増感太陽電池セル6個を直列に接続した色素増感太陽電池モジュールを作製した。
【0052】
(比較例1)
実施例1の(1)〜(4)と同様にして色素増感太陽電池セルを作製した。
【0053】
(5)色素増感太陽電池モジュールの作製
得られた一の色素増感太陽電池セルの正極、及び、他の色素増感太陽電池セルの負極に導電性銀ペースト(ドータイト D−723SA、D−723SB)を塗布した後、正極と負極とを貼り合わせて、色素増感太陽電池セルを接続し、一晩乾燥した。この方法で、色素増感太陽電池セル4個を直列に接続した色素増感太陽電池モジュールを作製した。
【0054】
(評価)
(1)光電変換特性
実施例1及び比較例1で得られた色素増感太陽電池セル及び色素増感太陽電池モジュールについて、JIS C8911記載の基準太陽光AM1.5のソーラーシミュレータを用い、光電変換効率を測定した。結果を表1に示した。また、色素増感太陽電池モジュールについては、AM1.5及び照度300lxの室内光の光照射条件で開放電圧、短絡電流及びFF値についても測定した。
【0055】
(2)ストレスクラック試験
実施例1及び比較例1で得られた色素増感太陽電池モジュールについて、JIS−P8115に準拠した折り曲げ試験機(東洋精機製作所製、MIT耐揉疲労試験機)を用いて、幅10mm、加重25gの張架の下で、色素増感太陽電池セルの接続部を左右に各々135°に曲げ、電気的に断線するまでの折り曲げ回数を測定した。
【0056】
(3)各用途への適用
(3−1)トレーニングウェアの側面部への取り付け
実施例1及び比較例1で得られた色素増感太陽電池モジュールを、ケーブルを介して5個並列に接続することにより、色素増感太陽電池ユニット30を作製した。次いで、トレーニングウェアの両腕の側面ライナー部に幅50mm程度の透明フィルムによるポケットを作製し、図3に示すように、左右両腕の該透明ポケット部に色素増感太陽電池ユニット30を挿入した。
そして、2個の色素増感太陽電池ユニット30を、逆流防止のダイオードを介して、電気二重層キャパシタ(4.7F)及び単四電池駆動の音楽プレーヤーに接続した。
【0057】
その結果、実施例1で得られた色素増感太陽電池モジュールを用いた場合は、昼間の太陽光による発電で電気二重層キャパシタを10分程度充電し、かつ電気二重層キャパシタからの出力で短時間ながら30秒程度音楽プレーヤーを駆動させることができた。また、トレーニングウェアを実際に着用して、色素増感太陽電池ユニット30がねじれたような状態となっても、色素増感太陽電池モジュールは破損することなく、動作可能であった。
一方、比較例1で得られた色素増感太陽電池モジュールを用いた場合は、実際に着用して両腕を動かすと、身体の動きに適応せず、無理な力がかかることで、色素増感太陽電池セルの接続部が破損した。
【0058】
(3−2)防寒ベストの背面への取り付け
実施例1及び比較例1で得られた色素増感太陽電池モジュールを、ケーブルを介して12個並列に接続することにより、色素増感太陽電池ユニット40を作製した。次いで、防寒ベストの背面部に20×30cm程度の透明フィルムによるポケットを作製した。その後、図4に示すように、該透明ポケット部に色素増感太陽電池ユニット40を挿入した。
そして、色素増感太陽電池ユニット40を、逆流防止のダイオードを介して、電気二重層キャパシタ(4.7F)及び単四電池駆動の音楽プレーヤーに接続した。
【0059】
その結果、実施例1で得られた色素増感太陽電池モジュールを用いた場合は、昼間の太陽光による発電で電気二重層キャパシタを10分程度充電し、かつ、電気二重層からの出力で短時間ながら30秒程度音楽プレーヤーを駆動させることができた。また、防寒ベストを実際に着用して、色素増感太陽電池ユニット40がねじれたような状態となっても、色素増感太陽電池モジュールは破損することなく、動作可能であった。
一方、比較例1で得られた色素増感太陽電池モジュールを用いた場合は、実際に着用して両腕を動かすと、身体の動きに適応せず、無理な力がかかることで、色素増感太陽電池セルの接続部が破損した。
【0060】
(3−3)LEDの点灯
実施例1〜2及び比較例1で得られた色素増感太陽電池モジュールを、ケーブルを介して8個並列に接続することにより、色素増感太陽電池ユニット50を作製した。次いで、防寒ベストの背面部に20×30cm程度の透明フィルムによるポケットを作製した。その後、図5に示すように、該透明ポケット部に色素増感太陽電池ユニット50を挿入した。そして、色素増感太陽電池ユニット50を、逆流防止のダイオードを介して、並列で電気二重層キャパシタ(4.7F)及びLEDの夜間点灯回路に接続した。
【0061】
その結果、実施例1で得られた色素増感太陽電池モジュールを用いた場合は、昼間の太陽光による発電で電気二重層キャパシタを充電することができ、夜間には短時間ながら電気二重層キャパシタの出力でLEDを発光させることができた。これにより、夜間時の作業においても、目印になりやすく、安全な作業を行うことが可能となった。また、防寒ベストを実際に着用して、色素増感太陽電池ユニット50がねじれたような状態となっても、色素増感太陽電池モジュールは破損することなく、動作可能であった。実施例2で得られた色素増感太陽電池モジュールを用いた場合は、LEDの輝度が更に上がり、安全性を向上させることができた。
一方、比較例1で得られた色素増感太陽電池モジュールを用いた場合は、実際に着用して両腕を動かすと、身体の動きに適応せず、無理な力がかかることで、色素増感太陽電池セルの接続部が破損した。
【0062】
【表1】

【0063】
表1に示すように、実施例で得られた色素増感太陽電池モジュールは、複数の色素増感太陽電池セルを接続することで、大きな電流を取り出すことが可能となることがわかる。また、実施例の色素増感太陽電池モジュールは、各用途に適用した場合でも、好適に使用することができた。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、逆電流の発生による光電変換特性の低下を防止することができ、かつ、透明電極と金属酸化物半導体多孔質層との密着性を確保することが可能な色素増感太陽電池用光電極及び色素増感太陽電池を提供できる。
【符号の説明】
【0065】
1 色素増感太陽電池セル
2 透明基板
3 色素担持多孔質層
4 電解質層
5 接続部
7 フレキシブルコネクタ
8 負極
9 正極
10、20、70 色素増感太陽電池モジュール
30、40、50 色素増感太陽電池ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の色素増感太陽電池セルが連続的に接続されたフレキシブル色素増感太陽電池モジュールであって、
複数の色素増感太陽電池セルは、可撓性を有するフレキシブルコネクタによって電気的に接続されている
ことを特徴とするフレキシブル色素増感太陽電池モジュール。
【請求項2】
色素増感太陽電池セルは、透明基板上に透明電極及び色素担持多孔質層が積層された光電極と、電解質層と、正電極とを有することを特徴とする請求項1記載のフレキシブル色素増感太陽電池モジュール。
【請求項3】
フレキシブルコネクタは、導電層と前記導電層を挟持する可撓性絶縁被覆層とからなり、かつ、前記導電層が露出した端子部を有することを特徴とする請求項1又は2記載のフレキシブル色素増感太陽電池モジュール。
【請求項4】
フレキシブルコネクタは、折り曲げ部を有する構造であることを特徴とする請求項1、2又は3記載のフレキシブル色素増感太陽電池モジュール。
【請求項5】
透明基板は、樹脂フィルム基板であることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載のフレキシブル色素増感太陽電池モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−8962(P2011−8962A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−148981(P2009−148981)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】