説明

フレーム構造

【課題】中空のアルミフレームの閉断面内に発泡アルミ充填材を充填して補強しながらも、充分な塑性変形によって、衝撃荷重が入力したときに発生よる衝撃エネルギを充分に吸収できるフレーム構造を提供することである。
【解決手段】中空のアルミフレーム10を補強するための充填材として、発泡アルミ充填材21をアルミフレーム10の閉断面内に充填する際に、荷重Gが入力する側には発泡アルミ充填材21の未充填領域22による非拘束領域を設けて塑性変形の進行に対する拘束を無くし、充分に塑性変形を進行させることで、荷重Gとして衝撃荷重が入力したときに発生する衝撃エネルギを充分に吸収することができるフレーム構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝撃荷重の入力によって発生する衝撃エネルギを効率よく吸収するフレーム構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車車体のフレーム構造には、中空の外殻構造体からなるフレーム部材が多用されており、なかでもアルミニウムやアルミニウム合金(以下、アルミニウム材料と称する)を素材とするフレーム部材の使用が増えている。アルミニウム材料は、軽量化に関しては大きな効果がある一方で、鉄素材に比べて荷重の入力に対する降伏点が低い。このことは、曲げモーメントによる圧縮応力を発生する荷重が、アルミニウム材料のフレーム部材に入力される場合、鉄製のフレーム部材よりも小さい荷重で塑性変形を開始することを示し、衝突等によって衝撃荷重が入力されて衝撃エネルギが発生したときに、通常、該衝撃エネルギの吸収性能が低いので、特に荷重が入力しやすい部分については降伏点を高めるように補強する必要がある。しかしながら、アルミニウム材料のフレーム部材は製造のしやすさから押し出し成型が主流となっているため、長手方向の必要な部分のみ肉厚にするという部分的な補強が困難であり、フレーム部材全体を肉厚にするという補強方法を実施せざるを得ない。このような補強方法は、軽量化という目的に反する。そこで、解決方法として補強が必要な部分のフレーム部材の閉断面内に充填材を充填して部分補強する技術がある(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1では、充填材を発泡充填して効率よく補強することを目的としているが、充填材として圧壊荷重が稠蜜金属よりは低いが樹脂系発泡材よりも高く、圧縮時の変形性能を有する素材として、アルミニウム材料の中に多数の気泡が一様に分散される多孔質素材の一種である発泡アルミを充填材として充填する技術も公開されている(特許文献2および特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2001−088740号公報
【特許文献2】特開平10−175567号公報
【特許文献3】特開2003−336677号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
中空の外殻構造体からなるフレーム部材の閉断面内に発泡アルミ等の充填材を充填するという従来技術によると、フレーム部材に曲げモーメントによる圧縮応力を発生するような衝撃荷重が入力されたとき、フレーム部材に充填された充填材によって、入力された衝撃荷重を周囲に分散できることから、降伏点を高めてフレーム部材を補強する効果が得られる。
【0005】
しかしながら、充填材を充填したフレーム部材に入力される衝撃荷重が降伏荷重を超えたとき、破断が生じて充分に塑性変形できず、衝撃荷重の入力で発生した衝撃エネルギを充分に吸収できないことがある。これは、入力された衝撃荷重によってフレーム部材に発生する圧縮変形によって、フレーム部材の塑性変形が開始したとき、フレーム部材に充填された充填材よって塑性変形の進行が拘束されて、フレーム部材が充分に塑性変形できないことに起因する。
【0006】
図8は、アルミフレームに荷重が入力された場合の変形の状態を示す。
図8の(a)に示すように、中空の外殻構造体からなるフレーム部材としてのアルミフレーム10に、荷重Gが入力すると、荷重Gの入力側には圧縮応力σcが生じ、荷重Gの入力と反対側の面には引張応力σtが生じる。ここで、入力された荷重Gが降伏荷重を超えたときには、圧縮応力σcによる変形の進行が引張応力σtによる変形の進行に先行するため、アルミフレーム10は圧縮変形による塑性変形を開始する。そして、圧縮変形はアルミフレーム10の外殻部10cが閉断面内に進入する折れ曲がりの態様で進行するため、アルミフレーム10は入力された降伏荷重(荷重G)によって折れ曲がりの状態となる。
【0007】
図8の(b)に示すように、アルミフレーム10の閉断面内に充填材として発泡アルミ充填材21が充填されている場合においても、アルミフレーム10に入力された荷重Gが降伏荷重を超えたときには、アルミフレーム10は塑性変形による塑性変形を開始するが、アルミフレーム10の外殻部10cの閉断面内への進入が発泡アルミ充填材21によって拘束されるため、圧縮変形による折れ曲がり、すなわち、塑性変形が進行できない。
【0008】
したがって、アルミフレーム10の断面形状が変形せず、アルミフレーム10の断面係数が減少しない。その結果、荷重Gの入力と反対側の面で発生する引張応力σtが、入力する荷重Gが大きくなるのに伴って上昇することになり、上昇した引張応力σtによって、図8の(b)に示すようにアルミフレーム10は破断する。
【0009】
そして、破断が発生すると、この点における衝撃エネルギの吸収性能は消失することから、吸収されきれない衝撃エネルギによって他の箇所に変形などの影響を及ぼすという問題がある。
【0010】
そこで、本発明は、フレーム部材の閉断面内への充填材の充填により降伏点を高くするように補強し、かつ、入力される衝撃荷重が降伏荷重を超えるときには、充分な塑性変形によって衝撃エネルギを吸収することが可能なフレーム構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、充填材をフレーム部材の閉断面内に充填する際、圧縮変形を生じる側の一部分に前記充填材の未充填領域を設け、この未充填領域が圧縮変形の進行を拘束しない非拘束領域を形成するフレーム構造とした。圧縮変形によって塑性変形が開始しても、この非拘束領域に対して進行できるため、塑性変形の進行が拘束されず、充分に塑性変形できる。
【0012】
また、請求項2に係る発明は、圧縮変形を生じる側の第1の充填材の一部分に、第1の充填材と密度の異なる第2の充填材を充填する、第2の充填領域を設け、この第2の充填領域が圧縮変形の進行を拘束しない非拘束領域を形成するフレーム構造とした。前記第1の充填材の密度より、前記第2の充填領域に充填する第2の充填材の密度を小さくすることで、非拘束領域が形成され、圧縮変形によって塑性変形が開始しても、この非拘束領域に対して塑性変形が進行できるため、塑性変形の進行は拘束されず、充分に塑性変形できる。
【0013】
さらに、請求項3に係る発明は、前記非拘束領域が前記フレーム部材の断面における図心よりも、入力荷重によって圧縮変形が発生する側のみに存在するフレーム構造とした。この発明により、フレーム部材の降伏点を高くすることができ、入力荷重に対する補強ができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、降伏点を高くするような補強ができ、かつ、入力される衝撃荷重が降伏荷重を超えるときには、充分な塑性変形によって衝撃荷重の入力により発生する衝撃エネルギを吸収することができるフレーム構造を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の実施形態について、適宜図を用いて詳細に説明する。
【0016】
《第1の実施形態》
図1は本発明の第1の実施形態を示す図である。図1の(a)は、方形の断面形状を有する、アルミニウム材料からなる中空の外殻構造体である、請求項に記載するフレーム部材としてのアルミフレーム10の閉断面内に、アルミフレーム10の内壁に当接するように、請求項に記載する充填材として発泡アルミ充填材21を充填して構成したフレーム構造1の断面図である。さらに、荷重Gの入力側(図1においては、上側)は、圧縮変形が発生する領域であるから、請求項に記載する非拘束領域として発泡アルミ充填材21の未充填領域22を有することを特徴とする。
【0017】
ここで、発泡アルミ充填材21の未充填領域22は、フレーム構造1にアルミフレーム10の閉断面内に向かって進行する折れ曲がりが生じた時に、折れ曲がりの進行を妨げない、すなわち折れ曲がりの進行を拘束しない領域として、請求項に記載する非拘束領域とする。また、図心とは、発泡アルミ充填材21が充填されていない状態でのアルミフレーム10の断面形状における重心である。
【0018】
また、発泡アルミ充填材21は、素材となるアルミニウム材料と発泡剤を加熱して、発泡剤から発生するガスを、溶融したアルミニウム材料に閉じ込めて固化させることで製造される発泡アルミからなる充填材であり、様々な密度のものを製造できる。本実施形態では、密度が0.3g/cmから0.6g/cm の発泡アルミ充填材21を充填材として使用した。
【0019】
図2は、発泡アルミ充填材をアルミフレームへ充填する態様を示す概略図である。本実施形態においては、アルミフレーム10としてアルミニウム材料の押し出し成型品を使用する。そして、発泡アルミ充填材21をアルミフレーム10の閉断面内に充填する方法として、図2に示すように、アルミフレーム10の断面形状と等しい断面形状を有する略角柱状に形成した発泡アルミ充填材21の1側面に、溝状の切り込み21aを発泡アルミ充填材21の長手方向に設けて、溝状の切り込み21aがアルミフレーム10の荷重Gの入力側になるように、発泡アルミ充填材21をアルミフレーム10に挿入する方法とした。この溝状の切り込み21aが未充填領域22を形成する。
【0020】
そして、発泡アルミ充填材21をアルミフレーム10に挿入する前に、発泡アルミ充填材21の表面で、アルミフレーム10の内壁10aと当接する接着面21bに工業用接着剤(エポキシ系接着剤が一般的であるが、特に種類は限定しない)を塗布しておくことで、発泡アルミ充填材21はアルミフレーム10の閉断面内に固定される。なお、図2において、接着面21bは発泡アルミ充填材21の上面と挿入方向に向かって右側面として図示されているが、下面および挿入方向に向かって左側面も接着面21bとなることはいうまでもない。
【0021】
また、発泡アルミ充填材21をアルミフレーム10に挿入する前に、接着面21bにシート状のゴム状部材を貼り付けて、アルミフレーム10に挿入する方法であっても、アルミフレーム10の内壁10aと該ゴム状部材との密着によって、発泡アルミ充填材21はアルミフレーム10の閉断面内に固定される。
【0022】
なお、発泡アルミ充填材21をアルミフレーム10の閉断面内に充填する別の方法として、アルミフレーム10の閉断面内で発泡アルミ充填材21の材料となるアルミニウム材料と発泡剤を加熱して、アルミフレーム10の閉断面内で発泡充填する方法も考えられる。この場合、未充填領域22を形成するには、未充填領域22の断面形状を有する中子をアルミフレーム10の閉断面内に、アルミフレーム10に平行に配置しておき、発泡アルミ充填材21の発泡充填後に中子を抜き取る方法で実現できる。
【0023】
ここで、図1の(a)および(b)に示すように、未充填領域22はアルミフレーム10の内壁10aの荷重Gの入力側に面した位置に配置され、アルミフレーム10の内壁10aからの最大長さ(以下、高さと称する)H1は、アルミフレーム10の荷重Gの入力側の内壁10aから図心11までの距離H2以下とすることが好ましい。
【0024】
さらに、図1の(a)および(b)に示すように、未充填領域22の断面形状における荷重Gの入力側の内壁10aに沿った辺の横方向の長さ(以下、横幅と称する)W1は、アルミフレーム10の荷重Gの入力側の内壁10aの横幅(以下、内壁幅と称する)W2以下であればよいが、発泡アルミ充填材21がアルミフレーム10の内壁10aの荷重Gの入力側に少なくとも1つの面もしくは点で当接する形状にすることが好ましい。
【0025】
すなわち、未充填領域22が図1の(a)に示すような方形状の場合は、未充填領域22の横幅W1を内壁幅W2より短くすることで接触面2a、2aが形成され、発泡アルミ充填材21がアルミフレーム10の内壁10aに荷重Gの入力側で当接する。
【0026】
また、未充填領域22が図1の(b)に示すような三角形状の場合は、横幅W1を内壁幅W2と同じ長さまで広げても接触点2b、2bが形成され、発泡アルミ充填材21がアルミフレーム10の内壁10aに荷重Gの入力側で当接するため、横幅W1は内壁幅W2以下とすればよい。
【0027】
次いで、図1の(c)に、図1の(a)におけるX−X断面図を示す。これは、フレーム構造1において、発泡アルミ充填材21が充填されている部分を長手方向に切断した図である。なお、図中の図心線11aは、アルミフレーム10の断面における図心11を結んだ直線である。また、荷重Gは荷重入力点10bに入力されるものとする。図1の(c)に示すように、未充填領域22は同一断面形状を有し、アルミフレーム10の長手方向に略平行な形状とする。
【0028】
以上のように、図1に示す形態で未充填領域22を形成するように発泡アルミ充填材21をアルミフレーム10に充填したフレーム構造1においては、入力された荷重Gは、荷重Gの入力側に設けられる接触面2a、2aもしくは接触点2b、2bから発泡アルミ充填材21を介して周囲に分散させることができるため、降伏点を高める効果、すなわち補強効果を得られる。
【0029】
以下、本実施形態による効果について説明する。
【0030】
図3は、本発明に係るフレーム構造に荷重を加えた時の変形量を測定するための試験に用いた供試材を示す図である。図3の(a)は供試材の側面を示し、図3の(b)は図3の(a)におけるY−Y断面図を示す。以下に、図3に示す供試材3に荷重Gを入力したときの変形量を測定した試験結果について記述する。
【0031】
供試材3は、アルミニウム材料の押し出し成型による全長500mmの中空のフレーム部材の長手方向の中央部に100mmの発泡アルミ充填領域3aを有している。そして、供試材3は400mmの間隔に設置された2つの支点3bによって支えられている。
【0032】
測定は、密度の異なる3種類の発泡アルミ充填材21を使用し、充填形態については、未充填領域22の有無を設定して、その組み合わせの違いによる6種類の形態の発泡アルミ充填領域3aを有する供試材3について比較測定した。発泡アルミ充填材21の種類と、充填形態の組み合わせは表1のとおりである。
【表1】

【0033】
なお、供試材3のアルミニウム材料は、JIS H 4100に基づく6063−T5(高さ×幅×長さ:30mm×40mm×500mm、板厚:2mm)を使用した。6063−T5は、押し出し成型品に一般的に用いられる熱処理型のアルミニウム合金である。
【0034】
また、表1に表記されている充填形態において、「1/3開放」は、図3の(b)に示す長方形状断面の未充填領域22(高さ×幅:10mm×12mm)を形成した充填方法、「全断面」は、未充填領域22を形成せず全域にわたって、同じ密度の発泡アルミ充填材21を充填した充填方法を示す。また、表1の供試材Fは、発泡アルミ充填材21を充填しない中空のフレーム部材のみの供試材3とする。
【0035】
ここで、表1における供試材Dおよび供試材Eが本実施形態に係るフレーム構造を有する供試材であり、供試材A、供試材Bおよび供試材Cは、比較対象としての従来技術に係るフレーム構造を有する供試材である。また、供試材Fは、同じく比較対象としての充填材を充填しない中空のフレーム構造を有する供試材である。
【0036】
そして、図3の(a)で示すように、供試材3の長手方向の中心に位置する荷重入力点10bに荷重Gを入力して、その荷重Gの値を徐々に高めていったときの各供試材3の変形量を測定する。
【0037】
図4は供試材3に荷重を入力したときの変形を測定した結果を示す図である。なお、図4における記号A〜記号Fは、表1の供試材の欄に表記されている記号に該当し、表1の供試材の記号における発泡アルミ充填材の種類と充填形態からなる供試材を用いた測定結果を示している。
【0038】
すなわち、図4における記号Dおよび記号Eが示す折れ線が本実施形態に係るフレーム構造を有する供試材の測定結果を示し、図4における記号A、記号Bおよび記号Cが示す折れ線は比較対象としての従来技術に係るフレーム構造を有する供試材の測定結果を示す。さらに、図4における記号Fが示す折れ線は比較対象としての充填材を充填しない中空のフレーム構造を有する供試材の測定結果である。また、図4に示すグラフの荷重のピークは降伏点を示し、ばつ印(×)はその時点で供試材が破断したことを示す。
【0039】
以下、図4で示される測定の結果について、図3を参照しながら説明する。図4によると、いずれの供試材3においても荷重Gの入力値の増加に対応して変形量が増加して、各供試材3に固有の降伏点を持つ。そして、表1における供試材D(図4中の記号Dで示す。以下、供試材Dと称する)および表1における供試材E(図4中の記号Eで示す。以下、供試材Eと称する)は、表1における供試材F(図4中の記号Fで示す。以下、供試材Fと称する)に比べて降伏点が高い。すなわち、本実施形態に係る供試材Dおよび供試材Eは、供試材Fよりも荷重Gの入力に対する強度が高いことがわかる。
【0040】
以上のことより、中空の外殻構造体からなるフレーム部材としてのアルミフレーム10に、未充填領域22を形成するように充填材としての発泡アルミ充填材21を充填した本実施形態に係る、図1で示されるフレーム構造1は、中空の外殻構造体からなるフレーム部材によるフレーム構造よりも補強されているといえる。
【0041】
さらに、表1における供試材A(図4中の記号Aで示す。以下、供試材Aと称する)および表1における供試材B(図4中の記号Bで示す。以下、供試材Bと称する)は破断しているのに対して、供試材Dおよび供試材Eは破断していない。すなわち、供試材Dおよび供試材Eは、供試材Aおよび供試材Bに比べて破断までの塑性変形量が大きいことがわかる。
【0042】
ここで、荷重Gとして衝撃荷重が入力されたときに発生する衝撃エネルギは、荷重×変形量で表されることから、塑性変形量が大きいほど、大きな衝撃エネルギを塑性変形で吸収できる。したがって、本実施形態に係る供試材Dおよび供試材Eは、従来技術に係る供試材Aおよび供試材Bよりも破断までの塑性変形量が大きいため、供試材Dおよび供試材Eは、供試材Aおよび供試材Bよりも塑性変形によって大きな衝撃エネルギを吸収できるといえる。
【0043】
以上のことより、中空の外殻構造体からなるフレーム部材としてのアルミフレーム10に、未充填領域22を形成するように充填材としての発泡アルミ充填材21を充填した本実施形態に係る、図1で示されるフレーム構造1は、中空の外殻構造体からなるフレーム部材としてのアルミフレーム10に未充填領域22を形成しないで、充填材としての発泡アルミ充填材21を充填した従来技術に係るフレーム構造よりも、大きな衝撃エネルギを吸収できる。
【0044】
なお、表1における供試材C(図4中の記号Cで示す)については、破断は発生しないものの降伏点が供試材Fと大差ないため、荷重Gの入力に対して効果的な補強とはいえない。
【0045】
以上のことより、図1に示すように、アルミフレーム10に発泡アルミ充填材21を充填するときに未充填領域22を形成するように充填する、本実施形態に係るフレーム構造1は、降伏点が高くなるように補強され、かつ、荷重Gとして衝撃荷重が入力したとき、入力された衝撃荷重が降伏荷重を超えたときには、入力された衝撃荷重により発生する衝撃エネルギを塑性変形によって充分に吸収できるといえる。図8の(c)に、図1に示す本実施形態に係るフレーム構造1が破断せずに塑性変形する態様を示す。
【0046】
したがって、図1に示す、本発明に係るフレーム構造1を、例えば、自動車のフレーム構造として使用した場合、衝突による衝撃荷重の入力で発生する衝撃エネルギはフレーム構造の塑性変形で充分に吸収され、他の部分への影響を少なくできるため、乗員保護に大きな効果を奏する。
【0047】
以上、本発明の第1の実施形態について説明してきたが、第1の実施形態に関しては他の実施形態も考えられる。
【0048】
図5は、第1の実施形態の他の実施形態を示す図である。例えば、図5の(a)に示すように、未充填領域22aの断面形状が半円形状であってもよいし、図5の(b)に示すように、2つの三角形状を有する形態の未充填領域22bでもよい。さらには、図5の(c)や図5の(d)に示すように、複数の長方形状からなる未充填領域22cや複数の三角形状からなる未充填領域22dの断面形状を有していてもよく、軽量化などその他の要因を考慮した形状とすることができる。なお、図5の(c)や図5の(d)では4つの未充填領域22の例を示すが、未充填領域22の個数はこれに限定されるものではない。
【0049】
すなわち、発泡アルミ充填材21がアルミフレーム10の荷重Gの入力側の内壁10aに少なくとも1つの面もしくは点で当接するという条件および未充填領域22がアルミフレーム10の荷重Gの入力側の内壁10aに当接する位置に形成され、未充填領域22の内壁10aからの高さH1が、荷重Gの入力側の内壁10aから図心11までの距離H2よりも短いという条件を満たす断面形状であれば、その断面形状はいかなる形状であっても本発明と同等の効果を得ることができる。
【0050】
《第2の実施形態》
図6は、第2の実施形態を示す図である。本発明の第2の実施形態は図6に示すように、請求項に記載する第1の充填材としての第1の発泡アルミ充填材60の荷重G入力側の一部分に、請求項に記載する第2の充填材として、第1の発泡アルミ充填材60と密度の異なる第2の発泡アルミ充填材70を充填する。そして、第2の発泡アルミ充填材70の密度を第1の発泡アルミ充填材60の密度より小さくする。この、第2の発泡アルミ充填材70を充填した領域が請求項に記載する非拘束領域である。第2の実施形態は例えば、第1の実施形態における未充填領域22(図1参照)に第2の発泡アルミ充填材70を充填することで実現できる。なお、第1の発泡アルミ充填材60は、第1の実施形態における発泡アルミ充填材21と同等なものとする。
【0051】
第2の実施形態では、第1の発泡アルミ充填材60の一部分に、第2の発泡アルミ充填材70を充填することから、フレーム構造6に荷重Gが入力されたときに第2の発泡アルミ充填材70からも荷重Gを周囲に分散できることから、荷重Gを周囲に分散できない空間領域の未充填領域22を有する第1の実施形態よりも効率よく荷重Gを周囲に分散できる。したがって、第1の実施形態と同等以上に降伏点を高める効果、すなわちフレーム構造6を補強する効果を得られる。
【0052】
さらに、第2の発泡アルミ充填材70の密度が第1の発泡アルミ充填材60の密度よりも小さく、請求項に記載する非拘束領域を形成することから、フレーム構造6に荷重Gとして衝撃荷重が入力したとき、入力された衝撃荷重が降伏荷重を超えたときにはアルミフレーム10に塑性変形としての折れ曲がりが発生するが、折れ曲がりはアルミフレーム10の閉断面内の非拘束領域に対して進行できるため、アルミフレーム10は充分に折れ曲がることができる。すなわち、充分な塑性変形を生じることができ、衝撃荷重により発生する衝撃エネルギを吸収できる。
【0053】
図7は、第2の実施形態の他の変形例を示す図である。図7の(a)に示すように、第1の実施形態と第2の実施形態を組み合わせ、未充填領域22cと第2の発泡アルミ充填材70が充填される領域を有する実施形態も考えられる。図7の(a)は、図5の(c)で例示されている4つの長方形状の断面形状を持つ未充填領域22cの中で、端部に位置する2つの未充填領域22cに第2の発泡アルミ充填材70を充填したフレーム構造7の例である。この場合、中央にある2つの未充填領域22cと、端部にある2つの第2の発泡アルミ充填材70が充填された領域が、請求項に記載する非拘束領域である。
【0054】
さらに、第2の発泡アルミ充填材70に加えて、図7の(b)に示すように密度の異なる第3の発泡アルミ充填材71、第4の発泡アルミ充填材72、第5の発泡アルミ充填材73を層状に重ねる構成のフレーム構造8も考えられる。この場合、例えば、第2の発泡アルミ充填材70、第3の発泡アルミ充填材71、第4の発泡アルミ充填材72、第5の発泡アルミ充填材73の順に密度を小さくしていくことで、請求項に記載する非拘束領域を形成できる。なお、図7の(b)では4層の例を示したが、層数はこれに限定されるものではない。
【0055】
以上、本発明の実施形態について記述したが、請求項に記載する充填材および第2の充填材ともに、材質に関しては発泡アルミに限られたものではなく、その他の発泡金属や材質の異なったもの(例えば、ゴム材質やスチロール材質のものなど)であっても必要な強度が確保できれば利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】発泡アルミ充填材のアルミフレームへの本発明に係る充填形態を示す断面図である。(a)は、長方形状の未充填領域を設けたことを示す図、(b)は三角形状の未充填領域を設けたことを示す図である。さらに(c)は、(a)におけるX−X断面を示す断面図である。
【図2】アルミフレームへ発泡アルミ充填材を挿入する態様を示す図である。
【図3】本発明に係るアルミフレームへの入力荷重に対する変形量を測定するのに用いた供試材を示す図である。(a)は、長手方向の側面図、(b)は、(a)におけるY−Y断面を示す断面図である。
【図4】本発明に係るアルミフレームへの入力荷重に対する変形量の測定結果を示す図である。
【図5】本発明に係る第1の実施形態の変形例を示す図である。(a)は、半円形状の断面を有する未充填領域を示す図、(b)は、2つの三角形状を有する未充填領域を示す図、(c)は、4の長方形状の断面を有する未充填領域を示す図、(d)は、4つの三角形状を有する未充填領域を示す図である。
【図6】本発明に係る第2の実施形態の1例を示す図である。
【図7】本発明に係る第2の実施形態の別の形態を示す図である。(a)は、2つの未充填領域と、2つの第2の発泡アルミ充填材の充填領域を持つ例を示す図、(b)は、密度の異なる4種類の発泡アルミ充填材を層状に重ねた様態を示す図である。
【図8】アルミフレームに荷重Gが入力した時の、アルミフレームの変形を示す図である。(a)は、中空のアルミフレームに折れ曲がりが発生することを示す図、(b)は、充填材を充填したアルミフレームに破断が発生することを示す図、(c)は、本実施形態に係るフレーム構造が変形したことを示す図である。
【符号の説明】
【0057】
1 フレーム構造
10 アルミフレーム
10a 内壁
11 図心
21 発泡アルミ充填材
22 未充填領域
60 第1の発泡アルミ充填材
70 第2の発泡アルミ充填材
G 荷重

【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉断面内に充填材が充填されたフレーム部材で構成されるフレーム構造であって、
前記フレーム部材に曲げモーメントを発生する荷重が入力されたときに、前記フレーム部材に圧縮変形が発生する領域にあっては、
前記充填材の少なくとも一部が前記フレーム部材の内壁に当接しない未充填領域を設け、
前記未充填領域が前記圧縮変形の進行を拘束しない非拘束領域を形成することを特徴とするフレーム構造。
【請求項2】
閉断面内に第1の充填材が充填されたフレーム部材で構成されるフレーム構造であって、
前記フレーム部材に曲げモーメントを発生する荷重が入力されたときに、前記フレーム部材に圧縮変形が発生する領域にあっては、
前記第1の充填材の少なくとも一部に、前記第1の充填材と異なる密度を有する第2の充填材からなる第2充填材領域を備え、
前記第2充填材領域は少なくとも一部が前記フレーム部材の内壁に当接し、前記圧縮変形の進行を拘束しない非拘束領域を形成することを特徴とするフレーム構造。
【請求項3】
前記フレーム部材の断面において、
前記非拘束領域は、前記フレーム部材の断面における図心よりも、前記フレーム部材に前記圧縮変形が発生する領域の側のみに存在することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のフレーム構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−276607(P2007−276607A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−104896(P2006−104896)
【出願日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】