説明

フロントフォーク

【課題】 フロントフォークにおいて、伸側行程でも圧側行程でも、ストローク反転時の応答遅れを回避し、減衰力発生フィーリングの安定を図ること。
【解決手段】 フロントフォーク10であって、ピストン装置46がピストンロッド40の軸方向に沿う2位置のそれぞれに設けられる第1と第2の2個のピストン61、62からなり、第1ピストン61は第1ロッドガイド35との間に第1主油室51を区画し、第2ピストン62は第2ロッドガイド36との間に第2主油室52を区画してなり、シリンダ31の内部に第1と第2のピストン61、62により挟まれる中間室53を設け、中間室53は常時、リザーバRに連通されてなるもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動二輪車等に用いて好適なフロントフォークに関する。
【背景技術】
【0002】
フロントフォークとして、特許文献1に記載の如く、車体側チューブに車軸側チューブを摺動自在に嵌合し、車体側チューブと車軸側チューブの内部にダンパを収装し、ダンパは、車体側チューブと車軸側チューブの一方に連結されるシリンダと、車体側チューブと車軸側チューブの他方に連結されてシリンダの一端部に設けた第1ロッドガイドから該シリンダの内部を延在して該シリンダの他端側に設けた第2ロッドガイドから突き出るピストンロッドと、ピストンロッドに設けたピストンによりシリンダの内部に区画した第1と第2の2個の主油室とを有し、シリンダに設けた第2ロッドガイドから突き出るピストンロッドがリザーバに収容されてなるものがある。
【0003】
特許文献1に記載のフロントフォークは、ダンパのピストンに第1主油室と第2主油室を連通しながら減衰力を発生させる減衰バルブを設けている。減衰バルブはダンパの伸縮作動時の伸側と圧側の各減衰力を発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許3873191
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のフロントフォークにあっては、ダンパの伸側行程と圧側行程の一方、例えば圧側行程において、減衰バルブが圧側減衰力を発生するとき、減衰バルブの抵抗が大きい場合やピストン速度が速い場合に、減衰バルブの下流側の第1主油室の圧力が直ちに上がらずに負圧になり、第1主油室の油にキャビテーションに基づく気泡を生じ、ひいては伸側行程へのストローク反転時に応答遅れ(さぼり)を生ずることがある。
【0006】
上述の伸側行程へのストローク反転時の応答遅れは、車両の接地感(タイヤが路面を押し付ける力)を一瞬低下させ、フロントフォークの作動フィーリング(減衰力発生フィーリング)、操縦安定性を阻害する。これは、フロントフォークの高周波で微小ストロークにおいて顕著になり、同一ストロークでも低周波時と高周波時で一様性のない減衰力発生フィーリングになり、ライダーの不安要素になる。
【0007】
本発明の課題は、フロントフォークにおいて、伸側行程でも圧側行程でも、ストローク反転時の応答遅れを回避し、減衰力発生フィーリングの安定を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、車体側チューブに車軸側チューブを摺動自在に嵌合し、車体側チューブと車軸側チューブの内部にダンパを収装し、ダンパは、車体側チューブと車軸側チューブの一方に連結されるシリンダと、車体側チューブと車軸側チューブの他方に連結されてシリンダの一端部に設けた第1ロッドガイドから該シリンダの内部を延在して該シリンダの他端側に設けた第2ロッドガイドから突き出るピストンロッドと、ピストンロッドに設けたピストン装置によりシリンダの内部に区画した第1と第2の2個の主油室とを有し、シリンダに設けた第2ロッドガイドから突き出るピストンロッドがリザーバに収容されてなるフロントフォークであって、ピストン装置がピストンロッドの軸方向に沿う2位置のそれぞれに設けられる第1と第2の2個のピストンからなり、第1ピストンは第1ロッドガイドとの間に第1主油室を区画し、第2ピストンは第2ロッドガイドとの間に第2主油室を区画してなり、シリンダの内部に第1と第2のピストンにより挟まれる中間室を設け、第1ピストンは第1主油室の油を中間室に流出させるときに伸側減衰力を発生させる伸側減衰力発生手段と、中間室から第1主油室への油の流れのみを許容する第1チェック弁とを有し、第2ピストンは第2主油室の油を中間室に流出させるときに圧側減衰力を発生させる圧側減衰力発生手段と、中間室から第2主油室への油の流れのみを許容する第2チェック弁とを有し、中間室は常時、リザーバに連通されてなるようにしたものである。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において更に、前記中間室が、ピストンロッドに設けた中空部を介して、常時、リザーバに連通されてなるようにしたものである。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に係る発明において更に、前記リザーバが、加圧ばねにより付勢される隔壁手段により加圧されてなるようにしたものである。
【0011】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれかに係る発明において更に、前記シリンダに設けた第2ロッドガイドからリザーバに突き出るピストンロッドのリザーバへの進入容積に相当する油の流れに対し、圧側減衰力を発生させる圧側減衰力発生装置をリザーバの中間部に設けたものである。
【発明の効果】
【0012】
(請求項1)
(a)フロントフォークにおいて、ダンパに設けられるピストン装置がピストンロッドの軸方向に沿う2位置のそれぞれに設けられる第1と第2の2個のピストンからなり、第1ピストンは第1ロッドガイドとの間に第1主油室を区画し、第2ピストンは第2ロッドガイドとの間に第2主油室を区画してなり、シリンダの内部に第1と第2のピストンにより挟まれる中間室を設け、第1ピストンは第1主油室の油を中間室に流出させるときに伸側減衰力を発生させる伸側減衰力発生手段と、中間室から第1主油室への油の流れのみを許容する第1チェック弁とを有し、第2ピストンは第2主油室の油を中間室に流出させるときに圧側減衰力を発生させる圧側減衰力発生手段と、中間室から第2主油室への油の流れのみを許容する第2チェック弁とを有し、中間室は常時、リザーバに連通されてなるようにした。
【0013】
従って、伸側減衰力発生手段の下流側と、圧側減衰力発生手段の下流側のそれぞれが常時、中間室を介してリザーバに連通する。これにより、伸側減衰力発生手段の下流側の圧力と、圧側減衰力発生手段の下流側の圧力は、常にリザーバの圧力を付与されて正圧を維持する。
【0014】
即ち、伸側行程で、伸側減衰力発生手段が伸側減衰力を発生するとき、伸側減衰力発生手段の下流側の圧力が正圧を維持して負圧にならず、伸側減衰力発生手段の下流側にキャビテーションに基づく気泡を生じにくく、気泡が発生してもリザーバの圧力でつぶれ、圧側行程へのストローク反転時に応答遅れを生じない。
【0015】
また、圧側行程で、圧側減衰力発生手段が圧側減衰力を発生するとき、圧側減衰力発生手段の下流側の圧力が正圧を維持して負圧にならず、圧側減衰力発生手段の下流側にキャビテーションに基づく気泡を生じにくく、気泡が発生してもリザーバの圧力でつぶれ、伸側行程へのストローク反転時に応答遅れを生じない。
【0016】
よって、伸側行程でも圧側行程でも、ダンパの各ストローク位置で、加圧された上流側の主油室に対して下流側になる中間室が常にリザーバに連通し、その中間室の圧力が伸側減衰力発生手段と圧側減衰力発生手段の減衰バルブの抵抗、ピストン速度に関係なく、当該ストローク位置により定まるリサーバの同一圧力値(正圧)になり、ストローク反転時の応答遅れを回避し、減衰力発生フィーリングの安定を図ることができる。
【0017】
(請求項2)
(b)前記中間室が、ピストンロッドに設けた中空部を介して、常時、リザーバに連通される。中間室を、簡素な構造によりリザーバに連通できる。
【0018】
(請求項3)
(c)前記リザーバが、加圧ばねにより付勢される隔壁手段により加圧される。ダンパの各ストローク位置で、加圧された上流側の主油室に対して下流側になる中間室の圧力が、加圧ばねの付勢力により加圧されたリザーバの圧力値になり、一層安定な正圧になる。ストローク反転時の応答遅れを一層確実に回避し、減衰力発生フィーリングの一層の安定を図ることができる。
【0019】
(請求項4)
(d)前記シリンダに設けた第2ロッドガイドからリザーバに突き出るピストンロッドのリザーバへの進入容積に相当する油の流れに対し、圧側減衰力を発生させる圧側減衰力発生装置をリザーバの中間部に設けた。この圧側減衰力発生装置でも圧側減衰力が発生する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1はフロントフォークを示す断面図である。
【図2】図2は図1の下部断面図である。
【図3】図3は図1の中間部断面図である。
【図4】図4は図1の上部断面図である。
【図5】図5はばね力調整装置と減衰力調整装置を示す断面図である。
【図6】図6はダンパを示す断面図である。
【図7】図7はリザーバを示す断面図である。
【図8】図8は圧側減衰力発生装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1〜図4に示すフロントフォーク10は、車体側チューブ11の内部にシール部材11A等を介して車軸側チューブ12が液密に摺動自在に嵌合され、車体側チューブ11と車軸側チューブ12の内部にダンパ30を収装している。
【0022】
フロントフォーク10は、車体側チューブ11の上端部に螺着して気密に封着されたキャップ13と、車軸側チューブ12に後述する如くに連結されたダンパ30のシリンダ31との間に金属コイルばねからなる懸架スプリング14を介装している。また、フロントフォーク10は、車体側チューブ11と車軸側チューブ12の内部で、ダンパ30のための後述するリザーバRの油面Lの上部に区画される空気室Aにより、空気ばね15を形成している。フロントフォーク10は、懸架スプリング14と空気ばね15のばね力により車体側チューブ11と車軸側チューブ12を伸長方向に付勢する。
【0023】
尚、フロントフォーク10は、懸架スプリング14のばね力を調整するばね力調整装置20を有している。ばね力調整装置20は、図5に示す如く、キャップ13の外部から該キャップ13の内側へ気密に挿通されるばねアジャストボルト21を、キャップ13の中心部にOリング(ばねアジャストボルト21にフリクションを付与する回り止め手段としても機能する)を介して枢支し、このばねアジャストボルト21にキャップ13の内部で抜け止めカラー22を固定し、抜け止めカラー22の外周に昇降ボルト23の内周を回り止め状態となるように異径嵌合し、昇降ボルト23の外周をキャップ13の内周に螺合する。昇降ボルト23の下面に衝合するカラー24に支持される上ばね受25と、ダンパ30のシリンダ31の後述する第1ロッドガイド35に支持される下ばね受26の間に懸架スプリング14を介装する。上ばね受25は、ダンパ30の後述するピストンロッド40の中空連結体45の外周に遊挿される。従って、ばね力調整装置20にあっては、ばねアジャストボルト21の回転操作により昇降ボルト23を螺動することによってカラー24及び上ばね受25を昇降させ、ひいては懸架スプリング14の初期ばね長を調整し、懸架スプリング14のばね力を調整する。
【0024】
ダンパ30は、車体側チューブ11と車軸側チューブ12の一方、本実施例では車軸側チューブ12に連結されるシリンダ31を有する。このとき、車軸側チューブ12の下端部に車軸ブラケット32を螺着して液密に封着し、車軸側チューブ12の下端面と車軸ブラケット32の底面との間にボトムピース33を挟み止めし、ボトムピース33の中央部に中空連結体34の下端部を螺着して立設し、中空連結体34の上端部にシリンダ31の下端開口部を螺着して液密に連結する。シリンダ31の上端開口部には第1ロッドガイド35が螺着されて液密に封着される。シリンダ31の下端開口部に螺着された中空連結体34の内周部には第2ロッドガイド36が、Oリングを介することにより、自動調芯的かつ液密に挿着されて止め輪により保持される。
【0025】
ダンパ30は、車体側チューブ11と車軸側チューブ12の他方、本実施例では車体側チューブ11に連結されるピストンロッド40を有する。ピストンロッド40は、シリンダ31の上端開口部に設けた第1ロッドガイド35から該シリンダ31の内部を延在して該シリンダ31の下端開口部に設けた第2ロッドガイド36から中空連結体34の中空部に突き出る。ピストンロッド40は第1ロッドガイド35と第2ロッドガイド36に液密に摺動する。
【0026】
このとき、ピストンロッド40は、第1ロッドガイド35に液密に摺動する第1ロッド41と、第2ロッドガイド36に液密に摺動する第2ロッド42と、第1ロッド41に螺着してなるピストンボルト43と、ピストンボルト43を第2ロッド42につなぐ接続ボルト44とからなる。第1ロッド41と第2ロッド42は同一外径をなす。そして、シリンダ31の外側に位置する第1ロッド41が、中空連結体45を介して、キャップ13の内側に位置するばねアジャストボルト21の端部に連結される。ばねアジャストボルト21、中空連結体45、ピストンロッド40(第1ロッド41、第2ロッド42、ピストンボルト43、接続ボルト44)は互いに連続する中空部を備える。
【0027】
ダンパ30は、ピストンロッド40のピストンボルト43に設けたピストン装置46により、シリンダ31の内部に区画した第1と第2の2個の主油室51、52を有する。
【0028】
ダンパ30は、シリンダ31に設けた第2ロッドガイド36から突き出るピストンロッド40(第2ロッド42)を、中空連結体34の中空部の形成するリザーバR(後述するリザーバR1)に収容する。
【0029】
しかるに、ダンパ30のピストン装置46は、図6に示す如く、ピストンロッド40(ピストンボルト43)の軸方向に沿う2位置のそれぞれに設けられる第1と第2の2個のピストン61、62からなる。第1ピストン61はシリンダ31の内周に液密に摺動し、第1ロッドガイド35との間に第1主油室51を液密に区画する。第2ピストン62はシリンダ31の内周に液密に摺動し、第2ロッドガイド36との間に第2主油室52を液密に区画する。そして、シリンダ31の内部に、第1ピストン61と第2ピストン62により挟まれる中間室53を設ける。
【0030】
第1ピストン61は、伸側油路61Aと圧側油路61Bを有し、車体側チューブ11が車軸側チューブ12に対して伸長する伸側行程で、第1主油室51の油を中間室53に流出させるときに開いて伸側減衰力を発生する伸側減衰バルブ(伸側減衰力発生手段)63を伸側油路61Aに設け、車体側チューブ11が車軸側チューブ12に対して収縮する圧側行程で開き、中間室53から第1主油室51への油の流れのみを許容する第1チェック弁64を圧側油路61Bに設ける。
【0031】
第2ピストン62は、圧側油路62Aと伸側油路62Bを有し、車体側チューブ11が車軸側チューブ12に対して収縮する圧側行程で、第2主油室52の油を中間室53に流出させるときに開いて圧側減衰力を発生する圧側減衰バルブ(圧側減衰力発生手段)65を圧側油路62Aに設け、車体側チューブ11が車軸側チューブ12に対して伸長する伸側行程で開き、中間室53から第2主油室52への油の流れのみを許容する第2チェック弁66を伸側油路62Bに設ける。
【0032】
尚、ピストン装置46は、ピストンボルト43の外周にバルブストッパ67、第1チェック弁64、第1ピストン61、伸側減衰バルブ63、中間カラー68、圧側減衰バルブ65、第2ピストン62、第2チェック弁66、ストッパ69を装填し、これらを接続ボルト44により締結して構成される。
【0033】
ダンパ30は、伸側減衰力調整装置70を有している。伸側減衰力調整装置70は、減衰力アジャストボルト71を、キャップ13の中心部に設けたばねアジャストボルト21の中心部の中空部にOリングを介して気密に挿通する。減衰力アジャストボルト71は、操作部71Aを用いて回転操作されるとともに、ばねアジャストボルト21に内蔵したスプリングによりバックアップされたボールを減衰力アジャストボルト71の外周に押圧してなるクリックストップ機構により回転の節度感を付与される。減衰力アジャストボルト71の先端係合凸部が係合する昇降ボルト72をばねアジャストボルト21の中空部に螺合する。他方、ピストンロッド40のピストンボルト43に、第1主油室51と中間室53が第1ピストン61を迂回して連通せしめられるバイパス油路54を設け、バイパス油路54の中間部の開度を調整するニードル弁73を第1ロッド41の中空部に挿入する。第1ロッド41の中空部に設けた圧縮ばね74によりニードル弁73を開弁方向に付勢し、ニードル弁73と前述の昇降ボルト72との間に、第1ロッド41と中空連結体45に挿通したロッド75、チューブ76を介装する。従って、伸側減衰力調整装置70にあっては、減衰力アジャストボルト71の回転操作により昇降ボルト72を螺動することによってロッド75、チューブ76、ニードル弁73を昇降させ、バイパス油路54の開度、ひいては車体側チューブ11が車軸側チューブ12に対して低速で伸長する伸側低速時にニードル弁73が発生する伸側減衰力を調整する。
【0034】
ダンパ30は、中間室53を常時、リザーバRに連通する。中間室53は、中間カラー68の横孔68A、ピストンロッド40(ピストンボルト43、接続ボルト44、第2ロッド42)の中空部40Aを介して、リザーバRに連通する。ここで、リザーバRは、図7に示す如く、シリンダ31の下端開口部に連結されている中空連結体34の中空部からなるリザーバR1、ボトムピース33の内周が中空連結体34の周囲に区画するリザーバR2、車軸側チューブ12の内周がシリンダ31及び中空連結体34の周囲に区画するリザーバR3からなる。リザーバR3は油面Lを介して空気室Aに接する。
【0035】
リザーバR1とリザーバR2は、車軸ブラケット32に設けた連絡路32A、32B及び連絡路32Aと連絡路32Bの間に介装した圧側減衰力発生装置80により連通する。圧側減衰力発生装置80は、リザーバR1側の連絡路32AとリザーバR2側の連絡路32Bの中間部に介装される。
【0036】
圧側減衰力発生装置80は、図8に示す如く、車軸ブラケット32に外部から液密に封着して設けたキャップ81の内部にピストンボルト82を螺着して設け、このピストンボルト82に仕切部材83を設け、この仕切部材83により連絡路32Aと連絡路32Bを液密に仕切る。車体側チューブ11が車軸側チューブ12に対して収縮する圧側行程で、シリンダ31に設けた第2ロッドガイド36からリザーバR1に突き出るピストンロッド40(第2ロッド42)のリザーバR1への進入容積に相当する油がリザーバR1から連絡路32A、32B経由でリザーバR2に流出するとき、連絡路32Aと連絡路32Bの間の仕切部材83に設けた圧側油路83A(不図示)に設けてある圧側減衰バルブ84を開き、圧側減衰力を発生する。
【0037】
ここで、圧側減衰力発生装置80は、仕切部材83を迂回するバイパス油路85をピストンボルト82に設け、バイパス油路85の中間部の開度を調整するニードル弁86をピストンボルト82に螺合してある。キャップ81に設けたアジャストボルト87によりニードル弁86を螺動できる。従って、圧側減衰力発生装置80にあっては、アジャストボルト87の回転操作によりニードル弁86を螺動することにより、バイパス油路85の開度、ひいては車体側チューブ11が車軸側チューブ12に対して低速で収縮する圧側低速時にニードル弁86が発生する圧側減衰力を発生する。
【0038】
尚、圧側減衰力調整装置80は、車体側チューブ11が車軸側チューブ12に対して伸長する伸側行程で、リザーバR1からシリンダ31に設けた第2ロッドガイド36に退去するピストンロッド40(第2ロッド42)のリザーバR1からの退去容積に相当する油が、リザーバR2から連絡路32A、32B経由でリザーバR1へ補給されるように、仕切部材83に設けた伸側油路83Bに設けてある伸側チェック弁88を開く。
【0039】
リザーバR1、R2は、加圧ばね90により付勢されるフリーピストン91(隔壁手段)により加圧される。フリーピストン91は、リザーバR2とリザーバR3の境界部で、ボトムピース33の内周と中空連結体34の外周のそれぞれに液密に摺接し、リザーバR2をリザーバR3に対して区画する。加圧ばね90は、シリンダ31の下端開口部に連結されている中空連結体34の外周部に対し軸方向に係合して支持される複数個のばね受カラー92と、フリーピストン91との間に介装される。尚、各ばね受カラー92は、車軸側チューブ12と中空連結体34のそれぞれとの間に環状間隙を介するとともに、それらの内外を連通する孔状油路を備え、リザーバR3がそれらの上下内外に連続することを妨げない。
【0040】
ダンパ30は、シリンダ31の内部で、第1ロッドガイド35の内側に設けたばね受96とピストンボルト43との間にリバウンドスプリング97を介装している。リバウンドスプリング97は、車体側チューブ11が車軸側チューブ12に対して伸長する最伸長時に圧縮されて最伸長ストロークを緩衝的に規制する。ダンパ30は、シリンダ31の外側に位置する第1ロッド41まわりで、中空連結体45の下端部にバンプラバー98を設けている。バンプラバー98は、車体側チューブ11が車軸側チューブ12に対して収縮する最圧縮時に、シリンダ31の第1ロッドガイド35の上端面と衝合して最圧縮ストロークを緩衝的に規制する。
【0041】
従って、フロントフォーク10にあっては、車体側チューブ11が車軸側チューブ12に対して伸長する伸側行程で、図6の実線で示す如くに、ダンパ30の第1主油室51の油がピストン装置46の第1ピストン61に設けた伸側減衰バルブ63を通って中間室53に流出し、伸側減衰バルブ63による伸側減衰力を発生する。この伸側減衰力は、伸側減衰力調整装置70の減衰力アジャストボルト71により昇降されるニードル弁73により調整される。同時に、中間室53の油がピストン装置46の第2ピストン62に設けた第2チェック弁66を通って第2主油室52に流入する。このとき、中間室53は常にリザーバRに連通していて、リザーバRの圧力を付与されて正圧を維持する。
【0042】
尚、上述の伸側行程では、リザーバR1からシリンダ31に設けた第2ロッドガイド36に退去するピストンロッド40(第2ロッド42)のリザーバR1からの退去容積に相当する油が、圧側減衰力発生装置80の仕切部材83に設けた伸側チェック弁88を通ってリザーバR1に補給される。
【0043】
他方、車体側チューブ11が車軸側チューブ12に対して収縮する圧側行程で、図6の鎖線で示す如くに、ダンパ30の第2主油室52の油がピストン装置46の第2ピストン62に設けた圧側減衰バルブ65を通って中間室53に流出し、圧側減衰バルブ65による圧側減衰力を発生する。同時に、中間室53の油がピストン装置46の第1ピストン61に設けた第1チェック弁64を通って第1主油室51に流入する。このとき、中間室53は常にリザーバRに連通していて、リザーバRの圧力を付与されて正圧を維持する。
【0044】
尚、上述の圧側行程では、シリンダ31に設けた第2ロッドガイド36からリザーバR1に突き出るピストンロッド40(第2ロッド42)のリザーバR1への進入容積に相当する油が、圧側減衰力発生装置80の仕切部材83に設けた圧側減衰バルブ84を通ってリザーバR2に流出し、圧側減衰バルブ84による圧側減衰力を発生する。この圧側減衰力は、アジャストボルト87により螺動操作されるニードル弁86により調整できる。
【0045】
従って、本実施例によれば以下の作用効果を奏する。
(a)フロントフォーク10において、ダンパ30に設けられるピストン装置46がピストンロッド40の軸方向に沿う2位置のそれぞれに設けられる第1と第2の2個のピストン61、62からなり、第1ピストン61は第1ロッドガイド35との間に第1主油室51を区画し、第2ピストン62は第2ロッドガイド36との間に第2主油室52を区画してなり、シリンダ31の内部に第1と第2のピストン61、62により挟まれる中間室53を設け、第1ピストン61は第1主油室51の油を中間室53に流出させるときに伸側減衰力を発生させる伸側減衰力発生手段(伸側減衰バルブ63)と、中間室53から第1主油室51への油の流れのみを許容する第1チェック弁64とを有し、第2ピストン62は第2主油室52の油を中間室53に流出させるときに圧側減衰力を発生させる圧側減衰力発生手段(圧側減衰バルブ65)と、中間室53から第2主油室52への油の流れのみを許容する第2チェック弁66とを有し、中間室53は常時、リザーバRに連通されてなるようにした。
【0046】
従って、伸側減衰力発生手段(伸側減衰バルブ63)の下流側と、圧側減衰力発生手段(圧側減衰バルブ65)の下流側のそれぞれが常時、中間室53を介してリザーバRに連通する。これにより、伸側減衰力発生手段(伸側減衰バルブ63)の下流側の圧力と、圧側減衰力発生手段(圧側減衰バルブ65)の下流側の圧力は、常にリザーバRの圧力を付与されて正圧を維持する。
【0047】
即ち、伸側行程で、伸側減衰力発生手段(伸側減衰バルブ63)が伸側減衰力を発生するとき、伸側減衰力発生手段(伸側減衰バルブ63)の下流側の圧力が正圧を維持して負圧にならず、伸側減衰力発生手段(伸側減衰バルブ63)の下流側にキャビテーションに基づく気泡を生じにくく、気泡が発生してもリザーバRの圧力でつぶれ、圧側行程へのストローク反転時に応答遅れを生じない。
【0048】
また、圧側行程で、圧側減衰力発生手段(圧側減衰バルブ65)が圧側減衰力を発生するとき、圧側減衰力発生手段(圧側減衰バルブ65)の下流側の圧力が正圧を維持して負圧にならず、圧側減衰力発生手段(圧側減衰バルブ65)の下流側にキャビテーションに基づく気泡を生じにくく、気泡が発生してもリザーバRの圧力でつぶれ、伸側行程へのストローク反転時に応答遅れを生じない。
【0049】
よって、伸側行程でも圧側行程でも、ダンパ30の各ストローク位置で、加圧された上流側の主油室(51又は52)に対して下流側になる中間室53が常にリザーバRに連通し、その中間室53の圧力が伸側減衰力発生手段(伸側減衰バルブ63)と圧側減衰力発生手段(圧側減衰バルブ65)の減衰バルブの抵抗、ピストン速度に関係なく、当該ストローク位置により定まるリサーバの同一圧力値(正圧)になり、ストローク反転時の応答遅れを回避し、減衰力発生フィーリングの安定を図ることができる。
【0050】
(b)前記中間室53が、ピストンロッド40に設けた中空部40Aを介して、常時、リザーバRに連通される。中間室53を、簡素な構造によりリザーバRに連通できる。
【0051】
(c)前記リザーバRが、加圧ばね90により付勢されるフリーピストン91により加圧される。ダンパ30の各ストローク位置で、加圧された上流側の主油室に対して下流側になる中間室53の圧力が、加圧ばね90の付勢力により加圧されたリザーバRの圧力値になり、一層安定な正圧になる。ストローク反転時の応答遅れを一層確実に回避し、減衰力発生フィーリングの一層の安定を図ることができる。
【0052】
(d)前記シリンダ31に設けた第2ロッドガイド36からリザーバRに突き出るピストンロッド40のリザーバRへの進入容積に相当する油の流れに対し、圧側減衰力を発生させる圧側減衰力発生装置80をリザーバRの中間部に設けた。この圧側減衰力発生装置80でも圧側減衰力が発生する。
【0053】
尚、フロントフォーク10にあっては、ダンパ30の第1と第2の主油室51、52の油の温度膨張による容積変化分が、中間室53を介してリザーバRによって吸収(油温補償)され、ダンパ30の減衰力特性に影響しない。
【0054】
以上、本発明の実施例を図面により詳述したが、本発明の具体的な構成はこの実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【0055】
例えば、車体側チューブ11と車軸側チューブ12は、車体側チューブ11の内部に車軸側チューブ12を嵌合(車体側チューブ11をアウタチューブとし、車軸側チューブ12をインナチューブとする)した倒立型に限らず、車体側チューブ11を車軸側チューブ12の内部に嵌合(車体側チューブ11をインナチューブとし、車軸側チューブ12をアウタチューブとする)する正立型としても良い。
【0056】
また、ダンパ30は、シリンダ31を車軸側チューブ12に連結し、ピストンロッド40を車体側チューブ11に連結する正立型に限らず、シリンダ31を車体側チューブ11に連結し、ピストンロッド40を車軸側チューブ12に連結する倒立型としても良い。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、車体側チューブに車軸側チューブを摺動自在に嵌合し、車体側チューブと車軸側チューブの内部にダンパを収装し、ダンパは、車体側チューブと車軸側チューブの一方に連結されるシリンダと、車体側チューブと車軸側チューブの他方に連結されてシリンダの一端部に設けた第1ロッドガイドから該シリンダの内部を延在して該シリンダの他端側に設けた第2ロッドガイドから突き出るピストンロッドと、ピストンロッドに設けたピストン装置によりシリンダの内部に区画した第1と第2の2個の主油室とを有し、シリンダに設けた第2ロッドガイドから突き出るピストンロッドがリザーバに収容されてなるフロントフォークであって、ピストン装置がピストンロッドの軸方向に沿う2位置のそれぞれに設けられる第1と第2の2個のピストンからなり、第1ピストンは第1ロッドガイドとの間に第1主油室を区画し、第2ピストンは第2ロッドガイドとの間に第2主油室を区画してなり、シリンダの内部に第1と第2のピストンにより挟まれる中間室を設け、第1ピストンは第1主油室の油を中間室に流出させるときに伸側減衰力を発生させる伸側減衰力発生手段と、中間室から第1主油室への油の流れのみを許容する第1チェック弁とを有し、第2ピストンは第2主油室の油を中間室に流出させるときに圧側減衰力を発生させる圧側減衰力発生手段と、中間室から第2主油室への油の流れのみを許容する第2チェック弁とを有し、中間室は常時、リザーバに連通されてなるものにした。これにより、フロントフォークにおいて、伸側行程でも圧側行程でも、ストローク反転時の応答遅れを回避し、減衰力発生フィーリングの安定を図ることができる。
【符号の説明】
【0058】
10 フロントフォーク
11 車体側チューブ
12 車軸側チューブ
30 ダンパ
31 シリンダ
35 第1ロッドガイド
36 第2ロッドガイド
40 ピストンロッド
40A 中空部
46 ピストン装置
51 第1主油室
52 第2主油室
53 中間室
61 第1ピストン
62 第2ピストン
63 伸側減衰バルブ(伸側減衰力発生手段)
64 第1チェック弁
65 圧側減衰バルブ(圧側減衰力発生手段)
66 第2チェック弁
80 圧側減衰力発生装置
90 加圧ばね
91 フリーピストン(隔壁手段)
R、R1〜R3 リザーバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側チューブに車軸側チューブを摺動自在に嵌合し、
車体側チューブと車軸側チューブの内部にダンパを収装し、
ダンパは、車体側チューブと車軸側チューブの一方に連結されるシリンダと、車体側チューブと車軸側チューブの他方に連結されてシリンダの一端部に設けた第1ロッドガイドから該シリンダの内部を延在して該シリンダの他端側に設けた第2ロッドガイドから突き出るピストンロッドと、ピストンロッドに設けたピストン装置によりシリンダの内部に区画した第1と第2の2個の主油室とを有し、
シリンダに設けた第2ロッドガイドから突き出るピストンロッドがリザーバに収容されてなるフロントフォークであって、
ピストン装置がピストンロッドの軸方向に沿う2位置のそれぞれに設けられる第1と第2の2個のピストンからなり、第1ピストンは第1ロッドガイドとの間に第1主油室を区画し、第2ピストンは第2ロッドガイドとの間に第2主油室を区画してなり、
シリンダの内部に第1と第2のピストンにより挟まれる中間室を設け、
第1ピストンは第1主油室の油を中間室に流出させるときに伸側減衰力を発生させる伸側減衰力発生手段と、中間室から第1主油室への油の流れのみを許容する第1チェック弁とを有し、
第2ピストンは第2主油室の油を中間室に流出させるときに圧側減衰力を発生させる圧側減衰力発生手段と、中間室から第2主油室への油の流れのみを許容する第2チェック弁とを有し、
中間室は常時、リザーバに連通されてなるフロントフォーク。
【請求項2】
前記中間室が、ピストンロッドに設けた中空部を介して、常時、リザーバに連通されてなる請求項1に記載のフロントフォーク。
【請求項3】
前記リザーバが、加圧ばねにより付勢される隔壁手段により加圧されてなる請求項1又は2に記載のフロントフォーク。
【請求項4】
前記シリンダに設けた第2ロッドガイドからリザーバに突き出るピストンロッドのリザーバへの進入容積に相当する油の流れに対し、圧側減衰力を発生させる圧側減衰力発生装置をリザーバの中間部に設けた請求項1〜3のいずれかに記載のフロントフォーク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−92944(P2012−92944A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−242782(P2010−242782)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(000146010)株式会社ショーワ (715)
【Fターム(参考)】