説明

ブタンジオールの製造

HBAおよび/またはHMPAの接触水素化は、(1)水素化領域における温度を入口での約50〜70℃から出口での80℃を超える温度に上昇させること、(2)水素化前に水素化供給原料のpHを4.5〜6.0に上昇させることのいずれか一方または両方によって改良される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
発明の分野
本発明は、4−ヒドロキシブチルアルデヒドから1,4−ブタンジオールへの固定床接触水素化および/または2−メチル3−ヒドロキシプロピオンアルデヒドから2−メチル1,3−プロパンジオールへの固定床接触水素化に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術の説明
1,4−ブタンジオール(BDO)への従来経路には、アリルアルコールから4−ヒドロキシブチルアルデヒド(HBA)へのカルボニル化、およびHBAからBDOへの水素化が含まれる。この科学技術を例証する特許には、米国特許第6225509号およびその中に引用されている特許が含まれる。一般に、アリルアルコールのカルボニル化では多少の2−メチル3−ヒドロキシプロピオンアルデヒド(HMPA)が形成され、これは続いて2−メチル1,3−プロパンジオール(MPD)に水素化され得る。
【発明の開示】
【0003】
各々の水素化工程において、特に固定床による水素化手法を使用する場合には、問題が発生する。固定床触媒は、時間と共に不活性化され物理的に劣化する傾向にあるため、結果としてスラリーによる水素化手法が標準となっている。経済的理由のために、満足のいく固定触媒床手法の開発は極めて有利であろう。
【0004】
発明の概要
本発明によると、HBAからBDOへの固定床水素化および/またはHMPAからMPDへの固定床水素化は、(1)水素化領域の入口部分が比較的低温に維持され、反応物質の流れる方向に温度が上昇するような、水素化領域における水素化温度プロフィールを確立すること、(2)例えば緩衝剤を供給することによって、もしくは他の手段によって、触媒の不活性化および劣化が実質上低減されるレベルに、水素化供給原料のpHを上昇させること、のいずれか一方または両方を使用して行われる。
【0005】
詳細な説明
本発明に従って水素化されるHBAおよび/またはHMPAは、知られている手法に従ってアリルアルコールをカルボニル化した結果生じたものである。一般に、かかる手法は、ロジウムおよび三置換ホスフィン配位子または二座ホスフィン配位子などの触媒を有機溶媒中で使用するアリルアルコールのヒドロホルミル化を含み、HBA含有反応混合物を生じさせるが、この反応混合物にはかなりのHMPAも含まれる。通常、該反応混合物を水性の抽出液と接触させ、触媒含有有機溶媒溶液から、水溶液中にHBAおよびHMPAを分離させる。この有機溶媒溶液はヒドロホルミル化に再利用することができる。例えば、米国特許第4215077号、第6225509号などを参照のこと。次いで、水溶液を含むHBAおよびHMPAを本発明に従って処理し、BDOおよびMPDを製造する。
【0006】
本発明に従って固定床水素化を受ける水溶液は、一般に、約1〜40重量%のHBA、約0.25〜10重量%のHMPA、ヒドロホルミル化由来の他の酸化された少量の物質、微量のヒドロホルミル化触媒、および約45〜80重量%の水を含む。再利用操作の場合には、多少のBDOが存在することもあるが、かかるBDOは単に希釈剤として作用する。
【0007】
使用される水素化触媒は、特にモリブデンおよび/または鉄の助触媒(promoter)を含む、ニッケルなどの第VIII族金属を主体とするもののいずれかであることができる。バルクの形態、担持された形態および固定床の形態を含むニッケル触媒は、手頃な価格で満足のいく活性および選択性を与える。好適な触媒は市販されている。米国特許第4826799号および第5945570号は、かかる触媒に関する。
【0008】
一態様では、本発明は、HBAおよび/またはHMPAを含む水溶液ならびに水素を、反応条件において実質上断熱的な方式で操作される水素化触媒床に通すことを含む。水素化床に入れる溶液の温度は、約80℃未満、例えば30〜70℃の範囲に維持される。水素化は発熱性であり、この水素化による発熱のために、反応溶液が水素化床の出口を通る時には、反応溶液の温度は供給原料の温度に比べて高い温度、実例として80℃以上に上昇する。他の温度調整手段は、例えば外部伝熱媒体、電気包装(electrical wrapping)などの適切な設備を使用することができる。
【0009】
この温度プロフィール、すなわち入口での実用上可能な限り低い温度および出口での実質的により高い温度を実現することによって、触媒の経時的な不活性化を著しく低減させることが達成される。本発明を実施することにより、触媒の有効寿命は75日未満から220日を超えるまでに延長されている。
【0010】
本発明によると、必要な温度プロフィールは、従来の温度制御手段によって達成されることができるが、該反応の発熱性により、触媒床の温度が反応混合物の流れる方向に上昇する単純な断熱操作が好ましい。適切に実施する際に、供給原料の温度は80℃未満、すなわち30〜70℃に維持され、外部冷却を必要に応じて行うことができ、出口の反応混合物の温度は80℃を超え、好ましくは80℃から105℃もしくはそれ以上の範囲である。
【0011】
水素化前に水素化供給原料のpHを約4.5〜6.0に上昇させる場合に、方法の改良が実現されることも見出されている。通常、上記のように製造される、緩衝化されていない供給原料溶液は約4のpHを有し、この値では、固定触媒床水素化領域において、活性な触媒金属をかなり損失し、固体触媒を物理的に劣化させる傾向にある。HBAおよび/またはHMPAの水素化供給原料溶液のpHを、4.5〜6.0の範囲、好ましくは4.5〜5.5の範囲に上昇させることによって、選択性および触媒寿命の点から見て、方法の著しい改良が実現されることが見出されている。pHを調節するための好ましい方法は、好適な緩衝剤を加えることによる。好ましい緩衝剤は、NaOAc/HOAcであるが、クエン酸/クエン酸ナトリウム緩衝混合液などの他の緩衝剤も使用することができる。
【0012】
他のpH調節手段を使用することができる。例えば、供給原料溶液を吸着剤またはイオン交換樹脂に接触させ、必要なpH調節を実現することができる。
【0013】
水素化流出液の一部を用いて希釈することによって、水素化供給原料溶液中のHBAおよび/またはHMPAの濃度を下げることは、本発明を実施する際にしばしば有利であることにさらに注目すべきである。
【0014】
温度プロフィール調整および供給原料pH調節の各実施形態は、個々に使用されることができるが、両方が使用される場合に最善の結果が得られる。
【0015】
以下の実施例は、本発明を実施することによって実現される重要な改良を例証する。
【0016】
試験2および3は、二重管型反応器を使用して行った。サーモウェルを触媒充填層を通して中央に下ろした。重要な反応器の断面寸法は、反応管の内径が1.032”であり、サーモウェルの外径が0.25”であった。これらの寸法により、粒子直径は12.5cm(1/16”)、断面積は5.1cm2となった。
【0017】
長さ14”の触媒床を、長さ3’の反応器の大体中央に置いた。3mmのガラスビーズが充填された部分(グラスウールの薄層間に挟まれている)が、触媒床の両端を支持するために使用された。3つの熱電対を、反応器床の中央に下ろしているサーモウェルの中の、該床の入口、中央および出口に置いた。
【0018】
実施例2および3についての触媒床の大きさは181ccであり、水素化の新たな供給速度が120cc/hで1年の触媒寿命を実現すると推定された。実施例1では、内径0.805インチを有するステンレス鋼製の管を使用し、触媒床は12インチであった。触媒量は100ccであり、1/8インチの球形触媒を使用し、供給速度は2.5hr-1LHSVであった。
【0019】
比較例1
この実施例では、モリブデンを助触媒とするニッケル触媒が固定床系に使用され、約18重量%のHBA、約3重量%のHMPAおよび少量の有機物質を含み、残りが水である通常のヒドロホルミル化生成物が供給された。熱包装によって100℃という均一な温度プロフィールを維持し、系の圧力は、750psiの操作圧であった。HBAの転化率を99.9%を超えて維持するという操作終了基準を使用して、75日に及ぶ試験において、触媒1グラム当たり2.1リットルの供給原料を、この反応系はうまく処理した。
【0020】
実施例2
本発明によるこの実施例では、比較例1と同様に、モリブデンを助触媒とするニッケル触媒が固定床系に使用され、約18重量%のHBA、約3重量%のHMPAおよび少量の有機物質を含み、残りが水である通常のヒドロホルミル化生成物が供給された。供給原料の温度は60℃であり、反応器全体にわたって徐々に温度が上昇し、出口では92℃に維持された。反応圧力は、400〜750psiの操作圧であった。HBAの転化率を99.9%を超えて維持するという操作終了基準を使用して、220日に及ぶ試験において、触媒1グラム当たり3.5リットルを超える供給原料を、この反応系はうまく処理した。
【0021】
実施例2において得られた結果を比較すると、すなわち、220日という操作時間を比較例1の75日という操作時間と比較すると、本発明による温度プロフィール制御によって得られた重要な利点が明らかに例証される。
【0022】
実施例3
この実施例では、実施例2に記載の、約4のpHを有し約18重量%のHBAおよび約3重量%のHMPAを含むヒドロホルミル化生成物の供給原料に、種々の濃度の酢酸ナトリウム/酢酸緩衝溶液を加えた。反応流出液中のニッケル濃度を、実施例2と同様の操作中に触媒損失の指標として測定した。図1は、供給原料pHの制御がニッケルの溶解および損失に及ぼす影響を示す。供給原料pHが4の時、流出液中のニッケル濃度は14〜21ppmであった。供給原料pHが4.5を超える時、流出液中のニッケル濃度は5ppm未満であった。
【0023】
酢酸ナトリウム三水和物130gおよび氷酢酸10gを含み、これに水に加えて1リットルの溶液にし、緩衝貯蔵液を作製した。緩衝剤を、指示されたpHを得るのに十分な量で加えた。
【0024】
これらの結果は、本発明によるpH調整のおかげで、活性触媒の損失が飛躍的に低減されることを示している。
【0025】
比較例1において使用した水素化触媒は、米国特許第4826799号の手法によって調製したが、実施例2および3において使用した触媒は、米国特許第5945570号に従って調製した。各触媒は、少量(3〜20重量%)のモリブデンを助触媒とするニッケル触媒であった。
【0026】
比較例1ならびに実施例2および3は、正確に同一の条件下で行われなかったが、比較結果は本発明を実施することによって得られた利点の確かな徴候を示していると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、水素化供給原料のpHが、触媒からのニッケル損失に及ぼす影響を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
HBAおよび/またはHMPAの水溶液を、水素化条件にて水素化触媒の固定床と接触させることによって、水素化領域において水素と接触させる、HBAからBDOへの水素化および/またはHMPAからMPDへの水素化のための方法における、(1)水素化領域への供給原料水溶液の温度を約50から70℃に維持し、かつ水素化領域における水素化反応混合物の温度を、約80から110℃の出口温度に上昇させること、および/または(2)水素化への供給原料水溶液のpHを4.5から6.0の範囲の値に調節すること、のいずれか一方または両方を含む改良。
【請求項2】
HBAおよび/またはHMPAの水溶液を、水素化条件にて水素化触媒の固定床と接触させることによって、水素化領域において水素と接触させる、HBAからBDOへの水素化および/またはHMPAからMPDへの水素化のための方法における、水素化領域への供給原料水溶液の温度を約50から70℃に維持し、かつ水素化領域における水素化反応混合物の温度を、約80から110℃の出口温度に上昇させることを含む改良。
【請求項3】
HBAおよび/またはHMPAの水溶液を、水素化条件にて水素化触媒の固定床と接触させることによって、水素化領域において水素と接触させる、HBAからBDOへの水素化および/またはHMPAからMPDへの水素化のための方法における、水素化への供給原料水溶液のpHを4.5から6.0の範囲の値に調節することを含む改良。
【請求項4】
前記水素化触媒はモリブデンを助触媒とするニッケル触媒である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記pHは前記供給原料水溶液に緩衝溶液を加えることによって調節される、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記pHは前記供給原料水溶液に酢酸ナトリウム/酢酸緩衝溶液を加えることによって調節される、請求項3に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2008−524326(P2008−524326A)
【公表日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−548197(P2007−548197)
【出願日】平成17年9月26日(2005.9.26)
【国際出願番号】PCT/US2005/034377
【国際公開番号】WO2006/068680
【国際公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(505341095)ライオンデル ケミカル テクノロジー、 エル.ピー. (61)
【氏名又は名称原語表記】LYONDELL CHEMICAL TECHNOLOGY, L.P.
【Fターム(参考)】