説明

ブラシレスモータの駆動制御装置およびハンチング防止方法

【課題】ハンチングを未然に防止する。
【解決手段】ステータに設けられた複数相の電機子コイルに流す電流を制御することにより、ロータを回転させるブラシレスモータの駆動制御装置1は、複数相の電機子コイルに対して通電を行なうインバータ回路2と、インバータ回路2を駆動するための駆動信号を生成するプリドライブ回路3と、単位時間ごとにロータの回転位置を検出するとともに、検出された回転位置に同期して単位時間ごとにパルス列が変化する複数のパルス信号を生成する回転位置検出器5と、ロータの回転方向が逆回転方向から正回転方向に変化する際に、プリドライブ回路3に対して駆動信号のオンデューティ比を増大させるデューティ指令部11と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正逆方向に回転可能なブラシレスモータの駆動制御装置およびハンチング防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ロータとn相(nは2以上の整数)の電機子コイルを有するステータとを備えるブラシレスモータでは、n相の電機子コイルに供給する駆動電流をロータの回転角度位置に応じて切り替えることにより、ロータを回転させている。
【0003】
ロータの回転角度位置の検出には、ホールICなどの位置検出センサが用いる方法がある。ブラシレスモータの駆動制御装置は、位置検出センサからの検出信号が所定時間以上変化しない場合は、ロータがロックされたと判断し、インバータ回路のスイッチング素子への駆動信号を停止するロック機能を備えている。
【0004】
しかしながら、ロータがロックされると、ロータの停止位置によっては正回転と逆回転とを交互に繰り返すハンチング現象が生じることがある。ハンチング現象が生じたときは、各相の電機子コイルに大きな駆動電流が流れる時間が長くなるため、電機子コイルの温度が上昇して焼損するなどの不具合が生じる。
【0005】
ここで、ハンチング現象が生じる原因について説明する。ロック状態とは、モータの駆動トルクと負荷トルクが釣り合った状態である。ところが、負荷量は必ずしも一定ではなく、負荷トルクも変動する。駆動トルクが負荷トルクを上回ると、モータは正方向に回転する。一方、負荷トルクが駆動トルクを上回ると、モータは逆方向に回転する。このように、いったんロック状態になっても、その後に負荷トルクが変動すると、駆動トルクと負荷トルクの釣り合いが取れなくなり、モータは正転したり、逆転したりする。これがハンチング現象の起きる原因となる。
【0006】
このようなハンチング現象を防ぐ手法として、ハンチング現象が生じた状態もロック状態とみなして、ロック状態が検出されると、電機子コイルに流れる駆動電流を制限するブラシレスモータの制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−271904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1は、回転速度の情報に基づいてロック状態を判定しており、ハンチング状態そのものを特定して検出することはできない。
また、ロック状態の判定に所定時間継続して正転または逆転することを条件としているため、モータの正逆転が所定時間内に起こっている場合は、ロック状態の検出ができない。
【0009】
さらに、特許文献1には、ハンチングを未然に防止するための方策については何ら開示されていない。
【0010】
本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、ハンチングを未然に防止可能なブラシレスモータの駆動制御装置およびハンチング防止方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様では、ステータに設けられた複数相の電機子コイルに流す電流を制御することにより、ロータを回転させるブラシレスモータの駆動制御装置において、
複数相の電機子コイルに対して通電を行なうインバータ回路と、
インバータ回路を駆動するための駆動信号を生成するプリドライブ回路と、
単位時間ごとに前記ロータの回転位置を検出するとともに、検出された回転位置に同期して単位時間ごとにパルス列が変化する複数のパルス信号を生成する回転位置検出器と、
ロータの回転方向が逆回転方向から正回転方向に変化する際に、プリドライブ回路に対して駆動信号のオンデューティ比を増大させるデューティ指令部と、を備えることを特徴とする駆動制御装置が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ハンチングを未然に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態によるブラシレスモータ10の駆動制御装置1の概略構成を示すブロック図。
【図2】本実施形態による駆動制御装置1の詳細な構成を示すブロック図。
【図3】デューティ指令部11の内部構成の一例を示すブロック図。
【図4】ロック保護制御部12の内部構成の一例を示すブロック図。
【図5】(A)〜(G)は回転位置検出器5から出力されるパルス信号の一例を示す信号波形図。
【図6】デューティ指令部11の処理動作の一例を示すフローチャート。
【図7】図6のステップS5における回転方向判定処理の詳細を示すフローチャート。
【図8】デューティ指令部11の具体的な処理動作の一例を示す図。
【図9】ロック保護制御部12が実行するインターバル処理の一例を示すフローチャート。
【図10】ロック保護判定処理の一例を示すフローチャート。
【図11】ロック保護判定処理の具体例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。図1は本発明の一実施形態によるブラシレスモータ10の駆動制御装置1の概略構成を示すブロック図である。図1の駆動制御装置1は、インバータ回路2と、プリドライブ回路3と、制御回路部4と、回転位置検出器5とを備えている。
【0015】
インバータ回路2は、複数相の電機子コイルに対して通電を行なう。プリドライブ回路3は、インバータ回路2を駆動するための駆動信号を生成する。回転位置検出器5は、ブラシレスモータ10のロータの回転位置を検出する。回転位置検出器5は、ブラシレスモータ10のロータの近傍に配置された複数の位置検出センサ(不図示)の検出信号に同期したパルス信号を生成して、制御回路部4に供給する。
【0016】
ここで、パルス信号とは、複数相の電機子コイルに流す電流の切替に対応して回転位置検出器5で検出されるロータの回転位置に同期した複数のパルス信号である。後述するように、これらパルス信号は、単位時間ごとにパルス列が変化する。
【0017】
制御回路部4は、デューティ指令部11と、ロック保護制御部12とを有する。デューティ指令部11は、ロータの回転方向が逆回転方向から正回転方向に変化する際に、プリドライブ回路3に対して駆動信号のオンデューティ比を増大させる。ここで、オンデューティ比とは、プリドライブ回路3が生成する駆動信号のオン期間の割合を指している。デューティ指令部11は、回転位置検出器5で検出された最新のパルス列とそれ以前のパルス列とに基づいて、ロータの回転方向の変化とロータの回転方向が変化した回数とを単位時間ごとに検出し、これらの検出結果に基づいて駆動信号のオンデューティ比を制御する。
【0018】
ロック保護制御部12は、後述する所定の条件のときに、プリドライブ回路3がロータの回転を停止するロック保護動作と、ロータの回転を許容するロック補助解除動作とを行うようにプリドライブ回路3を制御する。
【0019】
図2は本実施形態による駆動制御装置1の詳細な構成を示すブロック図である。図2に示すように、ブラシレスモータ10は、U相、V相およびW相からなる3相構造であり、各相に応じた電機子コイルLu,Lv,Lwを有する。
【0020】
インバータ回路2は、U相の電機子コイルLuに流れる電流方向を制御するスイッチングトランジスタQ1,Q2と、V相の電機子コイルLvに流れる電流方向を制御するスイッチングトランジスタQ3,Q4と、W相の電機子コイルLwに流れる電流方向を制御するスイッチングトランジスタQ5,Q6とを有する。スイッチングトランジスタQ1,Q3,Q5はハイサイド側に配置され、スイッチングトランジスタQ2,Q4,Q6はロウサイド側に配置されている。
【0021】
プリドライブ回路3は、スイッチングトランジスタQ1〜Q6のゲートに供給する駆動信号を生成する。なお、ブラシレスモータ10の相数は、必ずしも3相でなくてもよい。
【0022】
図3はデューティ指令部11の内部構成の一例を示すブロック図である。図3のデューティ指令部11は、記憶部13と、回転変化検出部14と、回転方向判定部15と、回数検出部16と、デューティ調整部17とを有する。
【0023】
記憶部13は、複数のパルス信号の最新のパルス列と、それ以前の少なくとも一つのパルス列とを、単位時間ごとに格納する。
【0024】
回転変化検出部14は、記憶部13に格納された最新のパルス列とその直前のパルス列とに基づいて、ロータの回転方向の変化を検出する。
【0025】
回転方向判定部15は、回転変化検出部14の検出結果に基づいて、ロータの回転方向を決定する。より具体的には、回転方向判定部15は、正回転カウンタ18と、回転方向決定部19とを有する。正回転カウンタ18は、ロータが正回転方向に連続して回転した回数を計測する。回転方向決定部19は、正回転カウンタ18の計測値Cfにより、正回転しているか否かを決定する。
【0026】
回数検出部16は、回転方向判定部15でロータの回転方向が判定されるたびに、ロータが正回転方向に連続して回転した回数と、ロータが正回転方向に連続して回転した回数が所定の回数に達する前にロータが正回転方向または逆回転方向に回転した回数とを検出する。
【0027】
より具体的には、回数検出部16は、上述した正回転カウンタ18の他に、逆回転カウンタ20を有する。逆回転カウンタ20は、ロータが正回転方向に連続して回転した回数が所定の回数に達する前にロータが正回転方向または逆回転方向に回転した回数を検出する。
【0028】
回数検出部16は、回転方向判定部15でロータの回転方向が判定されるたびに、正回転カウンタ18の計測値Cfと、逆回転カウンタ20の計測値Crとを検出して、デューティ調整部17に供給する。
【0029】
デューティ調整部17は、回数検出部16が検出した正回転カウンタ18の計測値Cfと逆回転カウンタ20の計測値Crとに基づいて、駆動信号のオンデューティ比を調整する。
【0030】
図4はロック保護制御部12の内部構成の一例を示すブロック図である。図4のロック保護制御部12は、ロック保護解除カウンタ(ロック保護解除計測部)21と、ロック保護カウンタ(ロック保護計測部)22と、ロック保護設定部23とを有する。
【0031】
ロック保護解除カウンタ21は、ロック保護動作を開始してからの経過時間を計測する。ロック保護カウンタ22は、ロック保護動作の解除が最初に検出されてからの経過時間を計測する。
【0032】
ロック保護設定部23は、ロック保護解除カウンタ21が計測した経過時間が第1の基準時間を超えた場合はプリドライブ回路3がロック保護動作を解除するように、かつロック保護カウンタ22が計測した経過時間が第2の基準時間を超えた場合はプリドライブ回路3がロック保護動作を設定するように、プリドライブ回路3を制御する。
【0033】
図5は回転位置検出器5から出力されるパルス信号の一例を示す信号波形図である。図5には、ブラシレスモータ10のロータが1回転する周期内のパルス信号の信号波形が図示されている。
【0034】
図5(A)〜図5(C)はパルス信号HU,HV,HWの信号波形を示している。図示のように、パルス信号HU,HV,HWは、それぞれ位相の異なるパルス信号である。各パルス信号のデューティ比は50%であり、各パルス信号の位相は120°ずつ、ずれている。これらのパルス信号は、回転位置検出器5にて生成される。
【0035】
図5に示すように、各パルス信号HU,HV,HWの論理状態は、モータ10の電気角60°(機械角30°)ごとに変化する。本明細書では、各パルス信号の論理状態が継続する期間を単位時間と呼ぶ。単位時間の境界位置に、各パルス信号の立ち上がりエッジと立ち下がりエッジが現れる。図5(D)は各パルス信号の立ち上がりエッジのタイミングを示し、図5(E)は各パルス信号の立ち下がりエッジのタイミングを示している。図示のように、各パルス信号の立ち上がりエッジと立ち下がりエッジは、各単位時間の境界位置で交互に現れる。
【0036】
図5(F)に示すように、本明細書では、各単位時間の境界位置での3つのパルス信号HU,HV,HWの論理状態をパルス列と呼ぶ。例えば、時刻t1のパルス列は(110)、時刻t2のパルス列は(100)である。これらパルス列は全部で6種類あり、本実施形態では、これらのパルス列を簡略的に示すために、それぞれに固有の組合せ番号を付している。例えば、パルス列(110)は組合せ番号1であり、パルス列(100)は組合せ番号2である。その他のパルス列と組合せ番号の対応関係は、図5(F)と図5(G)に示されている。
【0037】
図5からわかるように、回転位置検出器5から出力されるパルス信号HU,HV,HWには、ロータが半周する間に、組合せ番号1〜6のパルス列が順に現れ、これが半周期ごとに繰り返される。したがって、ロータの1周期(モータ10の機械角360°)では、組合せ番号1〜6のパルス列が順に2回ずつ現れる。このように、回転位置検出器5は、モータ10が電気角360°分回転する間に、組合せ番号1〜6のパルス列を含むパルス信号HU,HV,HWを出力する。
【0038】
本実施形態は、ロータが逆回転から正回転に変化するときに、駆動信号のオンデューティ比を増大させるようにして、正回転への回転を促す(正回転方向への回転トルクを増やす)ことで、ハンチングの未然防止を図っている。駆動信号のオンデューティ比を増大する制御を行うのは、デューティ指令部11である。
【0039】
図6はデューティ指令部11の処理動作の一例を示すフローチャートである。図6は、ロータが正回転または逆回転しているとき、すなわち、回転位置検出器5から出力されるパルス信号の組合せ番号が変化する場合に実行される処理であり、例えばロータがロック状態のときには実行されない。
【0040】
図6では、まずロック保護モードがセットされているか否かを判定する(ステップS1)。ここで、ロック保護モードとは、上述したロック保護動作を行うモードである。ロック保護モードにセットされている場合は、ロータの回転は停止しており、駆動信号のオンデューティ比を変更する必要性はないため、図6の処理を終了する。
【0041】
ロック保護モードにセットされていない場合は、ロック保護カウンタ22をクリアする(ステップS2)。後述するように、ロック保護カウンタ22は、ロック保護モードがセットされていないときに計測動作を開始して、計測値が第2の基準値になると、ロック保護モードにセットするものであり、ロック保護モードにセットされている場合は、計測動作を行う必要はないため、ここでは、計測値をクリアする。
【0042】
次に、パルス信号の各単位時間ごとに、パルス信号の最新のパルス列に対応する組合せ番号を記憶部13に格納する(ステップS3)。記憶部13には、現在から過去に遡ってm回分(mは2以上の整数)のパルス列に対応する組合せ番号と最新のパルス列に対応する組合せ番号を格納することができる。最新のパルス列に対応する組合せ番号H[r]を記憶部13に格納しようとしたときに、すでに過去m+1回分の組合せ番号が記憶部13に格納されているので、そのうちの一番古い組合せ番号H[0]を削除し、最新のパルス列に対応する組合せ番号H[r]を含めて、残りの組み合わせ番号H[1]、H[2]、…を、組み合わせ番号H[0]、H[1]、…に一つずつずらして記憶する。
【0043】
モータ10の起動時には、記憶部13内の前回の組合せ番号H[0]と今回の組合せ番号H[1]の値として、本来の組み合わせ番号1〜6以外の値を格納しておく。これにより、ステップS3の処理を行った後の前回の組合せ番号H[0]の値を確認したときに(ステップS4)、前回の組合せ番号H[0]に本来の組み合わせ番号1〜6以外の値が格納されていれば、前回の組合せ番号H[0]はモータ10の起動時の初期値であることを把握できる。
【0044】
ステップS4で前回の組合せ番号H[0]が初期値であると判定されると、今回の組合せ番号H[1]や最新の組合せ番号H[2]にまだ有効な値が格納されていないため、図6の処理を終了する。
【0045】
ステップS4で前回の組合せ番号H[0]が初期値ではないと判定されると、回転方向判定部15による回転方向判定処理を行う(ステップS5)。この回転方向判定処理の詳細については後述するが、この処理では、ロータが複数の単位時間にわたって連続して正回転をしている場合に正回転フラグをセットする。したがって、ステップS5の次には、正回転フラグがセットされているか否かを判定する(ステップS6)。
【0046】
正回転フラグがセットされている場合は、逆回転カウンタ20の計測値Crがゼロでないか否かを判定する(ステップS7)。逆回転カウンタ20の計測値Crがゼロの場合は、ロータが正回転→逆回転→正回転を行った可能性はないため、図6の処理を終了する。
【0047】
ステップS7で、逆回転カウンタ20の計測値Crがゼロでないと判定されると、ロータが逆回転→正回転を行ったことを示しており、この場合は、まず逆回転カウンタ20の計測値Crをクリアする(ステップS8)。逆回転カウンタ20の計測値Crをクリアする理由は、正回転フラグがセットされており、ロータは複数の単位時間にわたって正回転を続けているためである。次に、駆動信号のオンデューティ比を変更するための加算デューティ率Pdをゼロクリアする(ステップS9)。次に、現在のデューティ比Dpを、正回転切替時のデューティ比Dcに設定し、図6の処理を終了する(ステップS10)。
【0048】
このように、正回転フラグがセットされている場合は、ロータが連続してロータが正回転しており、ハンチングが起きる状態ではないため、逆回転カウンタ20の計測値Cr、加算デューティ率Pd、および現在のデューティ比Dpを初期化して、図6の処理を終了する。
【0049】
一方、ステップS6で正回転フラグがセットされていないと判定されると、逆回転カウンタ20の計測値Crをカウントアップする(ステップS11)。そして、その計測値Crが所定の基準値N(Nは2以上の整数)に達したか否かを判定し(ステップS12)、達した場合はロック保護モードに設定し(ステップS13)、図6の処理を終了する。これにより、ロック保護動作が行われる。
【0050】
ステップS12で計測値Crが基準値Nに達していないと判定されると、逆回転カウンタ20の計測値Crが1か否かを判定する(ステップS14)。1であれば、現在のデューティ比Dpを正回転切替時のデューティ比Dcに設定する(ステップS15)。
【0051】
ステップS14で計測値Crが1でないと判定された場合、あるいはステップS15の処理が終了した場合、正回転カウンタ18の計測値Cfが1か否か、かつ、逆回転カウンタ20の計測値Crがゼロでないか否かを判定し(ステップS16)、1でなければ図6の処理を終了する。
【0052】
ステップS16で正回転カウンタ18の計測値Cfが1と判定された場合、現在のデューティ比Dpに加算デューティ率Pdを加算した値を、現在のデューティ比Dpとする(ステップS17)。次に、加算デューティ率Pdの値を1段階大きくして(ステップS18)、図6の処理を終了する。
【0053】
このように、デューティ指令部11は、正回転フラグがセットされている場合は、ハンチング対策を行わずに処理を終了する。正回転フラグがセットされていない場合は、まずは逆回転カウンタ20の計測値Crが所定の基準値Nに達しているか否かを判定して、達している場合は、ロック保護モードに設定する。逆回転カウンタ20の計測値Crが基準値Nに達していない場合は、正回転カウンタ18の計測値Cfが1であれば、現在のデューティ比Dpを増大する。これにより、ロータが逆回転の後に正回転した場合は、駆動信号のデューティ比Dpが増大することになり、ハンチングが防止される。
【0054】
図7は図6のステップS5における回転方向判定処理の詳細を示すフローチャートである。まず、記憶部13に記憶された組み合わせ番号H[0]とH[1]を比較して、ロータが正回転しているか、逆回転しているかを判定する(ステップS21)。
【0055】
H[0]よりもH[1]の方が大きければ、正回転していると判定されて、正回転カウンタ18の計測値Cfが所定の基準値M(Mは2以上の整数)より小さいか否かを判定する(ステップS22)。Cf<Mと判定されると、正回転カウンタ18の計測値Cfを1だけカウントアップする(ステップS23)。
【0056】
一方、ステップS21で、逆回転していると判定されると、正回転カウンタ18の計測値Cfをクリアして(ステップS24)、正回転切替時のデューティ比Dcを現在のデューティ比Dpとする(ステップS25)。
【0057】
ステップS23の処理が終了した場合、またはステップS25の処理が終了した場合は、正回転カウンタ18の計測値Cfが所定の基準値M以上か否かを判定し(ステップS26)、Cf≧Mであれば、正回転フラグをセットし(ステップS27)、Cf≧Mでなければ、正回転フラグをクリアする(ステップS28)。ステップS22でCf<Mでないと判定された場合も、ステップS27に進んで正回転フラグをセットする。
【0058】
このように、図7の回転方向判定処理では、複数の連続した単位時間にわたってロータが正回転をしていることが検知された場合に正回転フラグをセットし、ロータが逆回転をした場合は正回転カウンタ18の計測値Cfをクリアするとともに、現在のデューティ比Dpを正回転切替時のデューティ比Dcに戻す。
【0059】
図8はデューティ指令部11の具体的な処理動作の一例を示す図である。図8は、ロータが1ステップ目から27ステップ目まで、ステップごとの組合せ番号の変化とそれに応じた制御回路部4の各部での処理動作の具体例を示している。
【0060】
ステップ番号1〜9の間は、回転位置検出器5で生成されるパルス信号のパルス列の組み合わせ番号Hは徐々に増えている。よって、この間はロータが正回転していると判断されて、デューティ比Dpを広げる処理は行われず、50%のままである。また、正回転カウンタ18の計測値Cfも1ずつ増えるが、Cf=3になった時点で正回転フラグは1になる。
【0061】
ステップ番号10で、組み合わせ番号Hは初めて減少することから、ロータが逆回転したと判断されて、逆回転カウンタ20は計測動作を開始する。また、正回転カウンタ18の計測値Cfはクリアされ、正回転フラグも解除される。
【0062】
ステップ番号11で、組み合わせ番号Hは増えるため、ロータが逆回転→正回転したと判断されて、現在のデューティDpは1段階増大して55%になる。正回転カウンタ18の計測値Cfは1にカウントアップし、逆回転カウンタ20の計測値Crも1だけカウントアップする。 このように、逆回転カウンタ20の計測値Crは、正回転フラグがセットされていない限り、ロータが正回転しても逆回転してもカウントアップする。
【0063】
ステップ番号12で、組み合わせ番号Hは減るため、正回転カウンタ18の計測値Cfはクリアされて、現在のデューティ比Dpも50%に戻る。
【0064】
ステップ番号13で、組み合わせ番号Hは増えるため、正回転カウンタ18の計測値Cfはカウントアップして1になる。現在のデューティ比Dpは、二段階増えて60%になる。いきなり二段階増えるのは、図6のステップS18では、現在のデューティ比Dpを増大するたびに、加算デューティ率Pdも増大するためである。
【0065】
ステップ番号14で、組み合わせ番号Hは連続して増えるため、正回転カウンタ18の計測値Cfは2になる。よって、図6のステップS16でCfは1でないと判定され、現在のデューティ比Dpを増大する処理は行われない。
【0066】
ステップ番号15でも組み合わせ番号Hは増えるが、正回転カウンタ18の計測値Cfが3になって、正回転フラグがセットされる。よって、現在のデューティ比Dpは50%に戻り、逆回転カウンタ20の計測値Crはクリアされる。
【0067】
ステップ番号16で、組み合わせ番号Hは依然として増えているが、正回転フラグがセットされているため、逆カウンタの計測値Crはクリアされたままである。図8の例では、外部から目標となるデューティ比Dp=70%を設定した例を示している。
【0068】
ステップ番号16〜21では、組み合わせ番号Hは連続して減少しており、その後、ステップ番号22〜27では、組み合わせ番号Hは固定(図8の例では8)になっている。ステップ番号16〜22まで連続して逆回転した結果、ロータはステップ番号22のときにロック動作モードにセットされる。
【0069】
図1に示す制御回路部4内のデューティ指令部11が図6および図7の処理を実行するのと並行して、同じく制御回路部4内のロック保護制御部12は、図9および図10の処理を実行する。
【0070】
図9はロック保護制御部12が実行するインターバル処理の一例を示すフローチャートである。図示のように、ロック保護制御部12は、所定の時間間隔ごとに、ロック保護判定処理を実行する(ステップS30)。より具体的には、図8の最下行に矢印で示すように、回転位置検出器5がロータの回転位置を検出する時間間隔(図8のステップ番号1〜27のそれぞれ)ごとに2回ずつ、ロック保護制御部12はインターバル処理を行う。
【0071】
図10はロック保護判定処理の一例を示すフローチャートである。まず、ロック保護モードがセットされているか否かを判定する(ステップS31)。ロック保護モードがセットされている場合には、ロック保護解除カウンタ21の計測値Crcを1だけカウントアップする(ステップS32)。
【0072】
次に、計測値Crcが所定の基準値に達したか否かを判定する(ステップS33)。ステップS32におけるロック保護解除カウンタ21のカウントアップは、一定時間ごとに行われるため、ステップS33は、ロック保護モードを解除する判定時間に達したか否かを判定することになる。
【0073】
ステップS33でロック保護モードを解除する時間に達していないと判定されると図10の処理を終了し、達したと判定されると、ロック保護カウンタ22の計測値Crpをクリアして(ステップS34)、ロック保護モードもクリアして(ステップS35)、図10の処理を終了する。
【0074】
一方、ステップS31でロック保護モードがセットされていないと判定されると、ロック保護カウンタ22の計測値Crpを1だけカウントアップする(ステップS36)。ロック保護モードがセットされていない場合は、図6のステップS2でロック保護カウンタ22がリセットされるため、正回転フラグがセットされていない場合には、ステップS36でロック保護カウンタ22がカウントアップしても、図6のステップS2でロック保護カウンタ22の計測値Crpはすぐにリセットされる。
【0075】
次に、ロック保護カウンタ22の計測値Crpが所定の基準値に達したか否かを判定する(ステップS37)。ロック保護カウンタ22は一定時間ごとにカウントアップするため、ステップS37は、ロック保護モードを設定する判定時間に達したか否かを判定することになる。
【0076】
ロック保護カウンタ22の計測値Crpが所定の基準値に達した場合、すなわちロック保護モードを設定する時間に達した場合は、ロック保護モードをセットして(ステップS38)、図10の処理を終了する。
【0077】
図11はロック保護判定処理の具体例を示す図である。ステップ番号1〜3は組合せ番号Hが1ずつ増大し、ステップ番号4以降は同じ組合せ番号H=4になる。
【0078】
ステップ番号1〜3の間は、正回転フラグがセットされていないため、ロック保護カウンタ22はカウントアップされてはリセットされる動作を繰り返す。
【0079】
ステップ番号4で組合せ番号H=4になり、正回転フラグがセットされる。その後、ステップ番号9までロック保護カウンタ22はカウントアップを行い、ステップ番号10になる時点で、図10のステップS37でロック保護判定時間が経過した(ロック保護カウンタ22の計測値Crpが所定の基準値Np1に達した)と判定されて、ロック保護モードがセットされる。この時点以降、今度は、ロック保護解除カウンタ21がカウントアップを行い、ステップ番号16になる時点で、図10のステップS33でロック保護解除判定時間が経過した(ロック保護解除カウンタ21の計測値Crcが所定の基準値Nc1に達した)と判定されて、ロック保護モードが解除される。
【0080】
このように、本実施形態では、ロータの回転方向が逆回転方向から正回転方向に変化するたびに、駆動信号のオンデューティ比を増大させるようにしたため、正回転方向への回転トルクが増えて、ハンチング状態を未然に防止できる。
【0081】
ロータの回転方向が逆回転方向から正回転方向に変化し、その後連続して所定の回数だけ正回転方向への回転が検出された場合は、駆動信号のオンデューティ比を、増大させる前のオンデューティ比に戻すようにしたため、その後はモータ10を正常に回転させることができる。
【0082】
また、ロータの回転方向が逆回転方向から正回転方向に変化し、ロータの正回転方向への回転が連続して所定の回数行われる前に、再び、ロータの回転方向が逆回転方向に変化したときは、駆動信号のオンデューティ比を、増大させる前のオンデューティ比に戻すようにしたため、逆回転方向への回転トルクを弱め、逆回転方向への回転を抑制することができる。
【0083】
また、ロータの正回転方向への回転が連続して所定の回数行われる前に、再び、ロータの回転方向が逆回転方向に変化したときは、その後にロータの回転方向が逆回転方向から正回転方向に変化する毎に、駆動信号のオンデューティ比を増やすようにしたため、正回転方向への回転トルクがさらに増すことになり、ハンチング状態を未然に防ぐ効果をより強化できる。
【0084】
ロータの回転方向の位置変化の無い状態が連続して回数が予め定められた所定回数に達した場合に、ロータの回転を停止するロック保護動作が行われるようにプリドライブ回路3を制御することにより、過電流状態を的確に防ぐことができる。例えば、逆回転カウンタ20にて、ロータの逆回転方向の位置変化の連続した回数が所定の基準値に達した場合に、ロータの回転を停止するロック保護動作をセットするための制御信号をロック保護制御部12に出力することにより、過電流状態を防ぐことができる。
【0085】
上述した実施形態で説明した駆動制御装置1の少なくとも一部は、ハードウェアで構成してもよいし、ソフトウェアで構成してもよい。ソフトウェアで構成する場合には、駆動制御装置1の少なくとも一部の機能を実現するプログラムをフレキシブルディスクやCD−ROM等の記録媒体に収納し、コンピュータに読み込ませて実行させてもよい。記録媒体は、磁気ディスクや光ディスク等の着脱可能なものに限定されず、ハードディスク装置やメモリなどの固定型の記録媒体でもよい。
【0086】
また、駆動制御装置1の少なくとも一部の機能を実現するプログラムを、インターネット等の通信回線(無線通信も含む)を介して頒布してもよい。さらに、同プログラムを暗号化したり、変調をかけたり、圧縮した状態で、インターネット等の有線回線や無線回線を介して、あるいは記録媒体に収納して頒布してもよい。
【0087】
本発明の態様は、上述した個々の実施形態に限定されるものではなく、当業者が想到しうる種々の変形も含むものであり、本発明の効果も上述した内容に限定されない。すなわち、特許請求の範囲に規定された内容およびその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更および部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0088】
1 駆動制御装置、2 インバータ回路、3 プリドライブ回路、4 制御回路部、5 回転位置検出器、10 ブラシレスモータ、11 デューティ指令部、12 ロック保護制御部、13 記憶部、14 回転変化検出部、15 回転方向判定部、16 回数検出部、17 デューティ調整部、18 正回転カウンタ、19 回転方向決定部、20 逆回転カウンタ、21 ロック保護解除カウンタ、22 ロック保護カウンタ、23 ロック保護設定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータに設けられた複数相の電機子コイルに流す電流を制御することにより、ロータを回転させるブラシレスモータの駆動制御装置において、
前記複数相の電機子コイルに対して通電を行なうインバータ回路と、
前記インバータ回路を駆動するための駆動信号を生成するプリドライブ回路と、
単位時間ごとに前記ロータの回転位置を検出するとともに、前記検出された回転位置に同期して単位時間ごとにパルス列が変化する複数のパルス信号を生成する回転位置検出器と、
前記ロータの回転方向が逆回転方向から正回転方向に変化する際に、前記プリドライブ回路に対して前記駆動信号のオンデューティ比を増大させるデューティ指令部と、を備えることを特徴とする駆動制御装置。
【請求項2】
前記デューティ指令部は、前記ロータの回転方向が逆回転方向から正回転方向に変化し、その後、正回転方向に所定回数連続して回転する前に、正回転方向から逆回転方向への回転が検出される場合、正回転方向への回転が検出されるたびに、前記プリドライブ回路に対して前記駆動信号のオンデューティ比を増大させることを特徴とする請求項1に記載の駆動制御装置。
【請求項3】
前記デューティ指令部は、前記駆動信号のオンデューティ比を増大する処理の後、正回転方向に前記所定の回数連続して回転した後に、前記駆動信号のオンデューティ比が増大し始める前のオンデューティ比に戻されるように、前記プリドライブ回路を制御することを特徴とする請求項2に記載の駆動制御装置。
【請求項4】
前記デューティ指令部は、前記駆動信号のオンデューティ比を増大する処理が開始された後、正回転方向に連続して回転した回数が前記所定の回数に達する前に、前記ロータの回転方向が逆回転方向に変化した場合は、前記駆動信号のオンデューティ比が増大し始める前の値に戻されるよう、前記プリドライブ回路を制御することを特徴とする請求項2乃至3のいずれかに記載の駆動制御装置。
【請求項5】
前記デューティ指令部は、
前記複数のパルス信号の最新のパルス列と、それ以前の少なくとも一つのパルス列とを、単位時間ごとに格納する記憶部と、
前記記憶部に格納された前記最新のパルス列とその直前のパルス列とに基づいて、前記ロータの回転方向の変化を検出する回転方向検出部と、
前記回転方向検出部の検出結果に基づいて、前記ロータの回転方向を判定する回転方向判定部と、
前記回転方向判定部で前記ロータの回転方向が判定されるたびに、前記ロータが正回転方向に連続して回転した回数と、前記ロータが正回転方向に連続して回転した回数が所定の回数に達する前に前記ロータが正回転方向および逆回転方向に回転した回数の総数とを検出する回数検出部と、
前記回数検出部の検出結果に基づいて、前記駆動信号のオンデューティ比を調整するデューティ調整部と、を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の駆動制御装置。
【請求項6】
前記ロータの回転方向の位置変化の無い状態が続いて、前記回数検出部により検出されるいずれかの回数が所定期間にわたって一定の場合には、前記プリドライブ回路が前記ロータの回転を停止するロック保護動作を行うように前記プリドライブ回路を制御するロック保護制御部を備えることを特徴とする請求項5に記載の駆動制御装置。
【請求項7】
前記ロック保護制御部は、
前記ロック保護動作を開始してからの経過時間を計測するロック保護解除計測部と、
前記ロック保護動作の解除が最初に検出されてからの経過時間を計測するロック保護計測部と、
前記ロック保護解除計測部が計測した経過時間が第1の基準時間を超えた場合は前記プリドライブ回路が前記ロック保護動作を解除するように、かつ前記ロック保護計測部が計測した経過時間が第2の基準時間を超えた場合は前記プリドライブ回路が前記ロック保護動作を設定するように、前記プリドライブ回路を制御するロック保護設定部と、を備えることを特徴とする請求項6に記載の駆動制御装置。
【請求項8】
前記回数検出部により検出された、前記ロータが正回転方向に連続して回転した回数が所定の回数に達する前に前記ロータが正回転方向および逆回転方向に回転した回数の総数が所定の基準回数に達したか否かを判定する回数判定部を備え、
前記ロック保護制御部は、前記回数判定部により前記基準回数に達したと判定されると、前記プリドライブ回路が前記ロック保護動作を行うように前記プリドライブ回路を制御することを特徴とする請求項6または7に記載の駆動制御装置。
【請求項9】
ステータに設けられた複数相の電機子コイルに流す電流をインバータ回路により切替制御して、ロータを回転させるブラシレスモータのハンチングを防止するブラシレスモータのハンチング防止方法において、
単位時間ごとに前記ロータの回転位置を検出するとともに、前記検出された回転位置に同期して単位時間ごとにパルス列が変化する複数のパルス信号を生成するステップと、
前記ロータの回転方向が逆回転方向から正回転方向に変化する際に、前記インバータ回路を駆動するための駆動信号を生成するプリドライブ回路に対して前記駆動信号のオンデューティ比を増大させるステップと、を備えることを特徴とするハンチング防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−99034(P2013−99034A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237463(P2011−237463)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000114215)ミネベア株式会社 (846)
【Fターム(参考)】