説明

ブラシレスモータ

【課題】低価格で低騒音化を実現した高効率なブラシレスモータを提供する。
【解決手段】ブラシレスモータは、複数の溝孔を持つ外側鉄心3aと、溝孔内に埋設される永久磁石2と、出力軸側に締結される内側鉄心3bを絶縁性のある樹脂4で一体成型する構成とする。出力軸に締結される内側鉄心3bと外側鉄心3aとは絶縁性のある樹脂にて絶縁されており、かつ外側鉄心3a内に埋設された永久磁石2は、軸方向側の両面を樹脂4で覆われ、外側鉄心との接触面は一部または全面に樹脂4が覆われる構成となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアコン機器などに搭載されるブラシレスモータに関し、特にファンを駆動するブラシレスモータの騒音の発生レベルを低減に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エアコン機器などに使用されるファンモータに対して、低騒音化と高効率化への要求が厳しくなってきており、ACモータからDCブラシレスモータへの置き換えが急速に進んでいる。DCブラシレスモータは永久磁石を用いたことを特徴としており、高効率化への要望に対応するため、永久磁石のグレード上がってきており、最近ではフェライト系磁石から希土類(ネオジ)系磁石の採用も増えてきている。
【0003】
このような中、回転子の構成も永久磁石を表面に貼り付ける表面磁石構造モータ(Surface Permanent Magnet Motar、以下「SPMモータ」という。)が採用されていたものから、回転子鉄心内部に永久磁石を埋め込む埋込磁石構造モータ(Interior Permanent Magnet Motar、以下「IPMモータ」という。)の採用へと技術的変化が進行している。
【0004】
IPMモータはリラクタンストルクを利用できるため、高効率化に適する。このように、最近では希土類系の永久磁石を用い、IPMモータの回転子構造を採用したブラシレスモータの実用化が増える傾向がある。
【0005】
一般にIPMモータの回転子は、回転子鉄心に複数の溝孔を設け、その溝穴に永久磁石を埋設させている。軸方向への永久磁石の飛び出しを防ぐため、両側を端板で覆い、リベットなどでかしめて固定する構造となっている。
【0006】
埋設された永久磁石は回転子鉄心の溝孔と若干のクリアランスを持っているため、ファンモータの運転始動時・運転中・運転変化時・運転終了時にマグネットが上記のクリアランスによる寸法内で振動する現象が発生し、人の聴覚にても聞き取れるほどの音を発する場合もあり、この音を騒音として捉えて、ファンモータの静穏化が強く求められる場合もあった。
【0007】
従来、静穏化の技術的解決方法は、永久磁石を振動防止のために、接着剤などで固定する方法が用いられていたが、コストが高くなり、品質面での安定性、工程管理の難しさなどの別の課題があった。
【0008】
図2に従来のブラシレスモータの回転子の構造を示す。回転子鉄心5は8個の溝孔が設けられている。この溝孔に薄い平板状の永久磁石6を埋設させている。溝孔は永久磁石の挿入性を良くするために、ある程度のクリアランスを設けて設計されている。
【0009】
クリアランスがないと、磁石が挿入し難いばかりでなく、磁石の割れ、破壊につながる可能性があり、クリアランス必要となっている。回転子鉄心5は出力軸に直接締結されるため、出力軸と回転子鉄心はインピーダンスが低い状態であり、絶縁されていない構造となっている。
【0010】
また、このままでは永久磁石が軸方向に飛び出す可能性があるため、永久磁石の両側単面には2枚の端板7で挟み込む構成となっており、2枚の端板7と回転子鉄心5を4個のリベット8でかしめて固定する構成である。このような構成においては、2枚の端板7は透磁性のある材料を使用すると磁束の漏れが発生し、磁力の低下を招くため、非透磁性の材料が用いられ、ステンレス材が一般的に用いられている。そのためコストが高くなる傾向がある。
【0011】
また、8個の溝孔に埋設された永久磁石6は回転子鉄心5にクリアランスをもって挿入されているだけであり、軸方向についても2枚の端板7に押さえられているだけであり、永久磁石が細かな振動をすることは避けられない。この永久磁石の振動を抑えるためには、接着剤を流し込み固定する事例もあるが、品質面の安定性に欠け、コストアップにもつながる。同様に、永久磁石の振動を抑えるための接着剤塗布やステンレス材の端板使用などは、コストアップの要因となる。また、上述の目的は異なるが、類似の構成として、特許文献1のような構成も開示されている。
【0012】
上述した課題とともに、他方、ブラシレスモータは、パルス幅変調(Pulse Width Modulation)方式(以下、PWM方式という)のインバータにより駆動する方式を採用するケースが多くなってきている。こうしたPWM方式のインバータ駆動の場合、巻線の中性点電位が零とならないため、軸受の外輪と内輪間に電位差(以下、軸電圧という)を発生させる。
【0013】
軸電圧は、スイッチングによる高周波成分を含んでおり、軸電圧が軸受内部の油膜の絶縁破壊電圧に達すると、軸受内部に微小電流が流れ軸受内部に電食が発生する。電食が進行した場合、軸受内輪または軸受外輪または軸受ボールに波状摩耗現象が発生して、人の聴覚にても聞き取れるほどの音を発する場合もあり、この静穏化が強く求められる場合もあった。
【0014】
従来、電食を抑制するためには、以下のような技術が提案されている。
(1)軸受内輪と軸受外輪を導通状態にする。
(2)軸受内輪と軸受外輪を絶縁状態にする。
【0015】
上記(1)の具体的方法としては、軸受の潤滑剤を導電性にすることが挙げられる。但し、導電性潤滑剤は、時間経過とともに導電性が悪化することや摺動信頼性に欠けるなどの課題がある。また、回転軸にブラシを設置し、導通状態にする方法も考えられるが、この方法もブラシ摩耗粉やスペースが必要となるなどの課題がある。
【0016】
上記(2)の具体的方法としては、軸受内部の鉄製のボールをセラミック製のボールに変更することが挙げられる。この方法は、電食防止の効果は非常に高いが、コストが高い課題があり、汎用的な電動機には採用し難い。例えば、特許文献2には、上述の技術と類似の技術が開示されている。
【0017】
図2に示す従来の回転子の構造では軸受けに発生する軸電圧を抑制させることができず、軸受けの電食に至る場合があり、電食に至った軸受けからの異音が生じる場合もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】実用新案登録第2526143号公報
【特許文献2】国際公開第2010/125740号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は前述の課題である「マグネットの振動によって生じる音の静穏化」と「軸受けの電食によって生じる音の静穏化」とを同時に解決可能な回転子の構造を提供するものであり、高効率かつ低騒音のブラシレスモータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するために、本発明のブラシレスモータは、複数の溝孔を持つ回転子鉄心と、溝孔内に埋設される永久磁石と、出力軸側に締結される鉄心を絶縁性のある樹脂で一体成型する構成である。出力軸に締結される鉄心と回転子鉄心とは絶縁性のある樹脂にて絶縁されており、かつ回転子鉄心内に埋設された永久磁石は、軸方向側の両面を樹脂で覆われ、回転子鉄心との接触面は一部または全面に樹脂が覆われる構成となっている。このような構成により、永久磁石の前面または一部が樹脂で固定されることになり、永久磁石の振動を抑制できる。
【0021】
また、本発明の回転子構造では、軸側鉄心と回転子鉄心間に樹脂で介在させることにより、軸側のインピーダンスを高くすることができ、軸受けに発生する軸電圧を抑制させることができる。
【0022】
具体的には、巻線を巻装した固定子鉄心を含む固定子と、前記固定子の内側に配置される回転体と前記回転体の中央を貫通するように前記回転体を締結したシャフトとを含む回転子と、前記シャフトを回転自在に支持する軸受と、前記軸受を固定するブラケットとを含むブラシレスモータにおいて、前記回転体は、前記回転体の外周部を構成する外側鉄心と、前記シャフトに締結された内周部を構成する内側鉄心と、前記外側鉄心と前記内側鉄心との間に配置された樹脂層と、前記外側鉄心を軸方向に貫通する複数の挿入孔と、
複数の前記挿入孔にそれぞれ挿入された永久磁石とを備え、前記樹脂層は前記回転体の軸方向の端面の少なくとも前記挿入孔及び永久磁石を覆う構成を有するブラシレスモータである。
【発明の効果】
【0023】
以上のように本発明のブラシレスモータは回転子鉄心内部の埋設された永久磁石を樹脂で覆って固定しており、かつ軸に締結される鉄心部と回転子鉄心部を樹脂を介在させることで絶縁させる構成であるため、ファンモータ駆動時に発生する永久磁石の振動による人の聴覚にても聞き取れるほどの音を抑制することができ、かつ軸受けに発生する電食によって生じる音も同時に抑制することができるため、高効率で低騒音のブラシレスモータを提供することができ、産業的価値が大なるものである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】(a)本発明の実施例1におけるブラシレスモータの構成を示す平面図、(b)本発明の実施例1におけるブラシレスモータの構成を示す平面図におけるR−S−T線における側面断面図
【図2】(a)従来例のブラシレスモータの構成を示す平面図、(b)従来例のブラシレスモータの構成を示す側面図
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施例によって本発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0026】
図1は、本発明におけるブラシレスモータの回転子の構成を示す図である。図1において、電磁鋼板で積層された構造を持つ回転体1の外側鉄心3aには永久磁石2を埋設するための8個の溝孔が設けられている。この溝孔に薄い平板状の永久磁石2を埋設させている。一方、出力軸と締結させるための回転体1の内側鉄心3bは回転体1の内側に配置されており、これらの部品を絶縁性のある絶縁樹脂4で一体成型する。
【0027】
回転体1の内側鉄心3bと回転体1の外側鉄心3aはある程度の厚みを持った絶縁性の樹脂層4aが介在しており、絶縁性の樹脂の厚みは軸側のインピーダンスを上げるために調整されている。軸側のインピーダンスを上げることにより、最終軸受けに発生する軸電圧を抑制させることができる。
【0028】
絶縁樹脂による樹脂層4aの厚みについては、ブラシレスモータの固定子側のインピーダンスとのバランスを考慮し、最適設計することが望ましいが、本実施例における回転子の場合5mmの樹脂厚みとする。この構成によって、モータの等価回路におけるインピーダンスを調整することとなり、モータの軸電圧によって生じる軸受の電食を抑制する。なお、上述の樹脂の厚みは5mmであるが、回転体1の体格の大小や、樹脂の材質の相違や、樹脂の誘電率の相違によって、異なる厚み寸法になることは、言うまでもない。回転体1の体格の大小や、樹脂の材質の相違や、樹脂の誘電率の相違によって、最も好適な厚み寸法を選択する。
【0029】
なお、本発明のブラシレスモータにおいては、図示しない巻線と、固定子鉄心と、固定子と、シャフトと、軸受と、ブラケットとを有する。巻線を巻装した固定子鉄心を含む固定子と、前記固定子の内側に配置される回転体と前記回転体の中央を貫通するように前記回転体を締結したシャフトとを含む回転子と、前記シャフトを回転自在に支持する軸受と、前記軸受を固定するブラケットとを含むブラシレスモータである。
【0030】
固定子は、樹脂により一体に成形され、固定子の内側には、回転体を収容する空間部を有する。ブラケットは、シャフトの出力側及び反出力側に配置される。各々のブラケットには、軸受けの収容部を有する。そして、出力側のブラケットは、シャフトの出力軸が突出する孔部を有する。通例、反出力側のブラケットからは、シャフトは突出する孔部は有しない。また、反出力側のブラケットを配置する箇所をブラケットの換わりに、前記樹脂の一体成形する際に蓋部を構成して、この部分を覆いこの蓋部に軸受けの収納部を設ける構成を採用してもよい。
【0031】
また、回転体1の外側鉄心3aと回転体1の内側鉄心3bとは8角柱状の対向面を構成させている。これは一つ目に樹脂層4aの厚みを一定にすることで、回転子側のインピーダンスを安定させている。二つ目に回転子鉄心には8個の永久磁石を有し、磁石によるマグネットトルク及びリラクタンストルクを有効に発揮させる磁気回路とするために8角形に近い形状としている。3つ目には、回転体1の回転方向に対する空転強度を確保するため、略8角形に近い形状としている。もちろん、本発明は、上述の8角形に限定するものではなく、任意の多角形を適宜選択しても本発明は実施可能である。
【0032】
また、絶縁樹脂4は、回転体1の軸方向の両端面を全部又は部分的に覆った構成を採用している。この構成によって永久磁石2もシャフトの軸方向の両端面が覆われる。永久磁石2と上記溝孔とのクリアランス(隙間)へは絶縁樹脂4が一体成形時に流入し隙間無く充填され硬化するため、永久磁石2の振動はほとんど生じず、モータの静穏化が図られる。また、この構成によって、従来構造における回転子の軸方向の両端面に配置する端版を不要としている。
【0033】
また、本実施例における絶縁樹脂4の材質はBMC樹脂を選択しているが、絶縁樹脂4の材質としてはPBTやPETやBMCなど多数選定できるものである。絶縁性能だけでなく、硬化後の強度、成型時の流動性、収縮性などの適した材料を適宜選択可能である。
【0034】
以上のように本発明のブラシレスモータにおいては、前述のような回転子構造とすることにより、安価で低騒音のブラシレスモータを提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明のブラシレスモータは、回転子鉄心に埋設された永久磁石の振動による騒音の低減を安価に対策することができ、かつ軸受けに発生する電食についても同時に対策することができるため、例えばエアコン室内機、エアコン室外機、給湯機、空気清浄機などに搭載されるブラシレスモータにおいて、低価格で高効率、低騒音、高信頼性のブラシレスモータを提供することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 回転体
2 永久磁石
3a 外側鉄心
3b 内側鉄心
4 絶縁樹脂
4a 樹脂層
5 回転子鉄心
6 永久磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻線を巻装した固定子鉄心を含む固定子と、前記固定子の内側に配置される回転体と前記回転体の中央を貫通するように前記回転体を締結したシャフトとを含む回転子と、前記シャフトを回転自在に支持する軸受と、前記軸受を固定するブラケットとを含むブラシレスモータにおいて、前記回転体は、前記回転体の外周部を構成する外側鉄心と、前記シャフトに締結された内周部を構成する内側鉄心と、前記外側鉄心と前記内側鉄心との間に配置された樹脂層と、前記外側鉄心を軸方向に貫通する複数の挿入孔と、複数の前記挿入孔にそれぞれ挿入された永久磁石とを備え、前記樹脂層は前記回転体の軸方向の端面の少なくとも前記挿入孔及び永久磁石を覆う構成を有するブラシレスモータ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−85416(P2013−85416A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224662(P2011−224662)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】