説明

ブレーキ制御装置

【課題】ブレーキストロークセンサを持たないシステムで圧力センサの異常を検出できるブレーキ制御装置を提供する。
【解決手段】マスタシリンダM/CとホイルシリンダW/Cを含むブレーキ回路のブレーキ液圧を検出する圧力検出手段を有し、検出された圧力を用いてホイルシリンダ圧を制御するブレーキ制御装置において、圧力検出手段は、マスタシリンダM/Cの圧力を検出する圧力センサ33と、マスタシリンダM/CとホイルシリンダW/Cとの間のP系統のブレーキ液圧を検出する圧力センサ34と、P系統と独立したS系統のブレーキ液圧を検出する圧力センサ35と、を備え、3つの圧力センサ33,34,35の検出値P1,P2,P3を比較して3つの圧力センサ33,34,35の異常を判定する異常判定部32aを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、マスタシリンダ圧を検出する圧力センサの検出値と、ブレーキペダルのストローク量を検出するブレーキストロークセンサの検出値とを比較し、両者の関係が一定の関係から外れたとき、両センサの異常と判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−278228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術にあっては、ブレーキストロークセンサを持たないシステムでは圧力センサの異常を検出できないという問題があった。
本発明の目的は、ブレーキストロークセンサを持たないシステムで圧力センサの異常を検出できるブレーキ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明では、マスタシリンダの圧力を検出する第1の圧力検出手段と、マスタシリンダとホイルシリンダとの間の第1系統のブレーキ液圧を検出する第2の圧力検出手段と、第1系統と独立した第2系統のブレーキ液圧を検出する第3の圧力検出手段と、複数の圧力検出手段の検出値を比較して複数の圧力検出手段の異常を判定する異常判定手段と、を備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ブレーキストロークセンサを持たないシステムで圧力センサの異常を検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施例1のブレーキ制御装置の構成図である。
【図2】実施例1の異常判定部32aによる異常判定処理の流れを示すフローチャートである。
【図3】圧力センサ3に異常が発生した際の実施例1の異常判定作用を示すタイムチャートである。
【図4】実施例2の異常判定部32aによる閾値変更処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】実施例2の異常判定閾値変更作用を示すタイムチャートである。
【図6】実施例3の異常判定部32aで実行される異常判定処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】圧力センサ2,3に異常が発生した際の実施例3の異常判定作用を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明のブレーキ制御装置を実施するための形態を、図面に基づく実施例により説明する。
【実施例1】
【0009】
まず、構成を説明する。
〔全体構成〕
図1は、実施例1のブレーキ制御装置の構成図であり、実施例1のブレーキ制御装置は、ブレーキペダルBPと、マスタシリンダM/Cと、各ホイルシリンダW/Cと、液圧ユニット(以下、HU)31と、ブレーキCU32とを有する。
HU31は、P系統(第1系統)とS系統(第2系統)の2系統からなる、X配管と呼ばれる配管構造を有する。HU31は、ブレーキCU32からの指令に基づいて左前輪のホイルシリンダW/C(FL)、右後輪のホイルシリンダW/C(RR)、右前輪のホイルシリンダW/C(FR)、左後輪のホイルシリンダW/C(RL)の各液圧の保持、増圧または減圧を行う。
ブレーキCU32は、車両に搭載された各センサ(車輪速センサ等)からの情報に基づいて、制動制御実施の判断を行う。制動制御中は、ホイルシリンダ圧の保持、増減圧指令を生成する。
ブレーキペダルBPは、ドライバが制動を行う場合に操作され、操作量に応じてHU31により各ホイルシリンダW/Cへブレーキ液が供給される。ブレーキペダルBPには、ドライバがブレーキペダルBPを一定の遊び量以上踏み込んだときONとなるブレーキスイッチBSが取り付けられている。ブレーキスイッチBSがONとなることで、ストップランプ(不図示)が点灯する。
各ホイルシリンダW/Cは、HU31から供給されるブレーキ液に応じて対応する車輪に制動力を付与する。
ブレーキCU32は、各センサの入力信号およびドライバのブレーキペダル操作状態等に基づいてドライバの操作に従う通常ブレーキ制御の演算と、アンチスキッドブレーキ制御(ABS)、車両挙動安定化制御(Vehicle Dynamics Control)、車間距離制御、自動ブレーキ制御等、車両の情報を用いてタイヤのスリップや車両挙動を制御するための演算を行い、車両として必要な制動力(全ての輪)を算出し、各車輪に必要な制動力目標値を演算する。
【0010】
〔液圧ユニットの構成〕
HU31のP系統には、左前輪のホイルシリンダW/C(FL)、右後輪のホイルシリンダW/C(RR)が接続され、S系統には、右前輪のホイルシリンダW/C(FR)、左後輪のホイルシリンダW/C(RL)が接続されている。また、P系統、S系統それぞれに、ポンプPPとポンプPSとが設けられ、このポンプPPとポンプPSは、1つのモータMによって駆動される。
マスタシリンダM/CとポンプPP,PS(以下、ポンプP)の吸入側とは、管路11P,11S(以下、管路11)によって接続されている。この各管路11上には、常閉型の電磁弁であるゲートインバルブ2P,2Sが設けられている。
また、管路11上であって、ゲートインバルブ2P,2S(以下、ゲートインバルブ2)とポンプPとの間にはチェックバルブ6P,6S(以下、チェックバルブ6)が設けられ、この各チェックバルブ6は、ゲートインバルブ2からポンプPへ向かう方向へのブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。
各ポンプPの吐出側と各ホイルシリンダW/Cとは、管路12P,12S(以下、管路12)によって接続されている。この各管路12上には、各ホイルシリンダW/Cに対応する常開型の電磁弁であるソレノイドインバルブ4FL,4RR,4FR,4RL(以下、ソレノイドインバルブ4)が設けられている。
また、各管路12上であって、各ソレノイドインバルブ4とポンプPとの間にはチェックバルブ7P,7S(以下、チェックバルブ7)が設けられて、この各チェックバルブ7は、ポンプPからソレノイドインバルブ4へ向かう方向へのブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。
さらに、各管路12には、各ソレノイドインバルブ4を迂回する管路17FL,17RR,17FR,17RL(以下、管路17)が設けられ、この管路17には、チェックバルブ10FL,10RR,10FR,10RL(以下、チェックバルブ10)が設けられている。この各チェックバルブ10は、ホイルシリンダW/CからポンプPへ向かう方向へのブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。
【0011】
マスタシリンダM/Cと管路12とは管路13P,13S(以下、管路13)によって接続され、管路12と管路13とはポンプPとソレノイドインバルブ4との間において合流する。この各管路13上には、常開型の電磁弁であるゲートアウトバルブ3P,3S(以下、ゲートアウトバルブ3)が設けられている。
また、各管路13には、各ゲートアウトバルブ3を迂回する管路18P,18S(以下、管路18)が設けられ、この管路18には、チェックバルブ9P,9S(以下、チェックバルブ9)が設けられている。この各チェックバルブ9は、マスタシリンダM/C側からホイルシリンダW/Cへ向かう方向のブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。
ポンプPの吸入側にはリザーバ16P,16S(以下、リザーバ16)が設けられ、このリザーバ16とポンプPとは管路15P,15S(以下、管路14)によって接続されている。リザーバ16とポンプPとの間にはチェックバルブ8P,8S(以下、チェックバルブ8)が設けられて、この各チェックバルブ8は、リザーバ16からポンプPへ向かう方向のブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。
ホイルシリンダW/Cと管路14とは管路14P,14S(以下、管路14)によって接続され、管路14と管路14とはチェックバルブ8とリザーバ16との間において合流する。この各管路14には、それぞれ常閉型の電磁弁であるソレノイドアウトバルブ5FL,5RR,5FR,5RL(以下、ソレノイドアウトバルブ5)が設けられている。
【0012】
管路11P上であって、ゲートインバルブ2PよりもマスタシリンダM/C側には、マスタシリンダM/Cの圧力を検出する圧力センサ(第1の圧力検出手段)33が設けられている。この圧力センサ33は、管路11S上であって、ゲートインバルブ2SよりもマスタシリンダM/C側に設けてもよい。
また、管路12P上であって、チェックバルブ7Pとソレノイドインバルブ4FL,4RRとの間には、圧力センサ(第2の圧力検出手段)34が設けられている。
さらに、管路12S上であって、チェックバルブ7Sとソレノイドインバルブ4FR,4RLとの間には、圧力センサ(第3の圧力検出手段)35が設けられている。
ブレーキCU32は、各圧力センサ33,34,35の検出値を比較して各圧力センサ33,34,35の異常を判定する異常判定部(異常判定手段)32aを備える。以下、異常判定部32aによる圧力センサの異常判定方法について説明するが、以下の説明では、圧力センサ33,34,35を圧力センサ1,2,3と記載し、圧力センサ1の検出値を検出値P1、圧力センサ2の検出値を検出値P2、圧力センサ3の検出値を検出値P3と記載する。
【0013】
〔異常判定処理〕
図2は、実施例1の異常判定部32aによる異常判定処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。この処理は、例えば、イグニッションスイッチONをトリガとし、所定の演算周期毎に繰り返し実行される。
ステップS1では、検出値P2と検出値P3の差の絶対値があらかじめ設定した所定の第1閾値(所定の偏差)Th1よりも小さいか否かを判定する。YESの場合にはステップS2へ移行し、NOの場合にはステップS6へ移行する。ここで、第1閾値は、圧力センサの温度特性等によるばらつきを考慮し設定する。
ステップS2では、検出値P2と検出値P1の差の絶対値が第1閾値Th1よりも小さいか否かを判定する。YESの場合にはステップS3へ移行し、NOの場合にはステップS4へ移行する。
ステップS3では、検出値P3と検出値P1の差の絶対値が第1閾値Th1よりも小さいか否かを判定する。YESの場合にはステップS13へ移行し、NOの場合にはステップS4へ移行する。
ステップS4では、カウンタC1をカウントアップ(+1)し、ステップS5へ移行する。
ステップS5では、カウンタC1の値が所定値T1以上であるか否かを判定する。YESの場合にはステップS14へ移行し、NOの場合にはリターンへ移行する。
ステップS6では、検出値P1と検出値P2の差の絶対値が第1閾値Th1よりも小さいか否かを判定する。YESの場合にはステップS7へ移行し、NOの場合にはステップS10へ移行する。
ステップS7では、検出値P1と検出値P3の差の絶対値が第1閾値Th1よりも小さいか否かを判定する。YESの場合にはステップS15へ移行し、NOの場合にはステップS8へ移行する。
ステップS8では、カウンタC3をカウントアップ(+1)し、ステップS9へ移行する。
ステップS9では、カウンタC3の値が所定値T1以上であるか否かを判定する。YESの場合にはステップS16へ移行し、NOの場合にはリターンへ移行する。
ステップS10では、検出値P1と検出値P3の差の絶対値が第1閾値Th1よりも小さいか否かを判定する。YESの場合にはステップS11へ移行し、NOの場合にはリターンへ移行する。
ステップS11では、カウンタC2をカウントアップ(+1)し、ステップS12へ移行する。
ステップS12では、カウンタC2の値が所定値T1以上であるか否かを判定する。YESの場合にはステップS17へ移行し、NOの場合にはリターンへ移行する。
ステップS13では、全ての圧力センサ1,2,3を正常と判定し、リターンへ移行する。
ステップS14では、圧力センサ1を異常と判定し、リターンへ移行する。
ステップS15では、全ての圧力センサ1,2,3を正常と判定し、リターンへ移行する。
ステップS16では、圧力センサ3を異常と判定し、リターンへ移行する。
ステップS17では、圧力センサ2を異常と判定し、リターンへ移行する。
上記異常判定処理は、第1の異常判定部に相当する。
【0014】
次に、作用を説明する。
〔圧力センサの異常判定作用〕
図3は、圧力センサ3に異常が発生した際の実施例1の異常判定作用を示すタイムチャートである。
時点t1では、圧力センサ3に異常が発生し、圧力センサ3の検出値P3が低下し始めるが、検出値P2と検出値P3の差の絶対値は第1閾値Th1未満であるため、図3のフローチャートでは、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS13へと進む流れとなり、正常判定がなされる。
時点t2では、検出値P2と検出値P3の差の絶対値が第1閾値Th1以上となるため、ステップS1→ステップS6→ステップS7→ステップS8→ステップS9へと進む流れとなり、カウンタC3がカウントアップされる。
時点t3では、カウンタC3が所定値T1以上となったため、ステップS1→ステップS6→ステップS7→ステップS8→ステップS9→ステップS16へと進む流れとなり、圧力センサ3の異常と判定される。
【0015】
上記特許文献1では、マスタシリンダ圧を検出する圧力センサの検出値と、ブレーキペダルのストローク量を検出するブレーキストロークセンサの検出値とを比較し、両者の関係が一定の関係から外れたとき、両センサの異常と判定しているが、ブレーキストロークセンサを持たないシステム(例えば、自動ブレーキ等を行わないシステム)では圧力センサの異常を検出できない。言い換えると、自動ブレーキ等を前提としないシステムでは、圧力センサの異常を検出するためにブレーキストロークセンサを追加する必要があり、コストアップを招く。また、圧力センサとブレーキストロークセンサのどちらが異常であるのかを特定できない。
これに対し、実施例1の異常判定部32aでは、3つの圧力センサ1,2,3の検出値P1,P2,P3同士を比較することにより、圧力センサ1,2,3の異常判定を行っているため、ブレーキペダルストロークセンサを持たないシステムにおいて、別のセンサを追加することなく圧力センサ1,2,3の異常を検出できる。加えて、同種のセンサ(圧力センサ)の出力同士を比較して異常判定を行っているため、異種のセンサ(圧力センサ、ブレーキストロークセンサ)の出力を比較して異常判定を行う従来技術と比較して、判定精度の向上を図ることができる。
また、異常判定部32aでは、検出値P1,P2,P3同士の差をそれぞれ算出し、差の絶対値が第1閾値Th1以上となる2つの検出値のうちの一方と、残りの検出値との差の絶対値が第1閾値Th1未満である場合、2つの検出値のうちの他方の検出値を出力した圧力センサを異常と判定する。例えば、|P1-P2|≧Th1であり、かつ、|P2-P3|<Th1である場合、圧力センサ2,3を正常と判定し、圧力センサ1を異常と判定する。これにより、3つの圧力センサ1,2,3の中から異常な圧力センサを特定できる。このとき、差が第1閾値Th1以上の状態でカウンタC1,C2,C3が所定値T1以上となったとき、すなわち、差が第1閾値Th1以上の状態が所定時間以上継続したときに異常判定を行っているため、センサノイズ等による誤判定を抑制でき、判定精度の向上を図ることができる。
なお、差の絶対値が全て第1閾値Th1以上となる場合には、圧力センサ1,2,3の異常判定は行わない。理由は、正常な圧力センサを特定できないからである。
【0016】
次に、効果を説明する。
実施例1のブレーキ制御装置では、以下に列挙する効果を奏する。
(1) マスタシリンダM/CとホイルシリンダW/Cを含むブレーキ回路のブレーキ液圧を検出する圧力検出手段を有し、検出された圧力を用いてホイルシリンダ圧を制御するブレーキ制御装置において、圧力検出手段は、マスタシリンダM/Cの圧力を検出する圧力センサ1と、マスタシリンダM/CとホイルシリンダW/Cとの間のP系統のブレーキ液圧を検出する圧力センサ2と、P系統と独立したS系統のブレーキ液圧を検出する圧力センサ3と、を備え、3つの圧力センサ1,2,3の検出値P1,2,3を比較して3つの圧力センサ1,2,3の異常を判定する異常判定部32aを備えた。これにより、ブレーキストロークセンサを持たないシステムにおいて、他のセンサを追加することなく圧力センサ1,2,3の異常を検出できる。
【0017】
(2) 異常判定部32aは、検出値P1,P2,P3同士の差をそれぞれ算出し、差の絶対値が第1閾値Th1異常となる2つの検出値のうちの一方と、残りの検出値との差の絶対値が第1閾値Th1未満である場合、2つの検出値のうちの他方の検出値を出力した圧力センサを異常と判定する第1の異常判定部(ステップS1〜ステップS17)を備えた。これにより、3つの圧力センサ1,2,3の中から異常な圧力センサを特定できる。
【実施例2】
【0018】
実施例2は、ブレーキ回路における圧力検出位置の圧力変動が大きいとき、異常判定を行う閾値を大きく変更する例である。なお、実施例1と同一の構成には同一の符号を付して図示ならびに説明を省略する。
〔閾値変更処理〕
図4は、実施例2の異常判定部32aによる閾値変更処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。この処理は、異常判定処理の実行中、所定の演算周期毎に繰り返し実行される。
ステップS21では、検出値P1の変化量ΔP1があらかじめ設定した所定の圧力急変判断閾値Thcよりも大きいか否かを判定する。YESの場合にはステップS25へ移行し、NOの場合にはステップS22へ移行する。変化量ΔP1は、検出値の現在値と前回値との差分から求める。
ステップS22では、検出値P2の変化量ΔP2が圧力急変判断閾値Thcよりも大きいか否かを判定する。YESの場合にはステップS25へ移行し、NOの場合にはステップS23へ移行する。
ステップS23では、検出値P3の変化量ΔP3が圧力急変判断閾値Thcよりも大きいか否かを判定する。YESの場合にはステップS25へ移行し、NOの場合にはステップS24へ移行する。
ステップS24では、図2のステップS1,S2,S3,S6,S7,S10で用いる異常判定閾値を、第1閾値Th1とし、リターンへ移行する。
ステップS25では、図2のステップS1,S2,S3,S6,S7,S10で用いる異常判定閾値を、第1閾値Th1よりも大きな第2閾値Th2とし、リターンへ移行する。
上記閾値変更処理は、偏差変更部に相当する。
【0019】
次に、作用を説明する。
〔圧力センサの異常判定閾値変更作用〕
図5は、実施例2の異常判定閾値変更作用を示すタイムチャートであり、圧力センサ2の検出値P2を例に示す。
時点t11では、ドライバがブレーキペダルBPの踏み込みを開始したため、圧力センサ2の検出値P2が立ち上がり、変化量ΔP2が圧力急変判断閾値Thcを超えたため、図4のフローチャートでは、ステップS21→ステップS22→ステップS25へと進む流れとなり、異常判定閾値が第2閾値Th2とされる。
時点t12では、変化量ΔPが圧力急変判断閾値Thc以下となったため、ステップS21→ステップS22→ステップS23→ステップ24へと進む流れとなり、異常判定閾値が第2閾値Th2から第1閾値Th1へと切り替わる。
ドライバがブレーキペダルBPを強く踏み込んだ場合、各圧力センサ1,2,3の検出値P1,P2,P3は大きく変動する。この圧力変動が大きいとき、各検出値P1,P2,P3の真値(実際の値)に対する誤差が大きくなるため、各検出値P1,P2,P3の差から異常判定を行う異常判定閾値を小さな値に設定すると、異常を誤判定する可能性が高くなる。
これに対し、実施例2では、3つの検出値P1,P2,P3の変化量ΔP1,ΔP2,ΔP3のいずれかが圧力急変判断閾値Thcよりも大きい場合、すなわち、圧力変化の勾配が所定の勾配よりも大きい場合には、異常判定閾値を第1閾値Th1よりも大きな第2閾値Th2に変更する。よって、図5に示すように、圧力変動が大きい場合(時点t11〜t12)には、圧力変動が小さい場合(時点t12以降)よりも圧力センサの検出値に対する正常判定範囲が拡大するため、圧力変動に伴う異常の誤判定を抑制できる。
【0020】
次に、効果を説明する。
実施例2のブレーキ制御装置では、実施例1の効果(1),(2)に加え、以下の効果を奏する。
(3) 異常判定部32aは、3つの圧力センサ1,2,3の各検出値P1,P2,P3のいずれかの圧力変化の勾配があらかじめ設定した所定の勾配よりも大きい場合には、圧力センサ1,2,3の異常判定を行う閾値を第1偏差Th1から第2偏差Th2(>Th1)へ変更する偏差変更部を備えた。これにより、圧力変動が大きいときに各検出値P1,P2,P3がばらついたとき異常と誤判定されるのを抑制できる。
【実施例3】
【0021】
実施例3では、圧力センサの圧力検出位置における推定値を算出し、検出値と推定値とを比較して圧力センサ1,2,3の異常判定を行う例である。なお、実施例1と同一の構成には同一の符号を付して図示ならびに説明を省略する。
〔異常判定処理〕
図6は、実施例3の異常判定部32aで実行される異常判定処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。この処理は、例えば、イグニッションスイッチONをトリガとし、所定の演算周期毎に繰り返し実行される。
ステップS31(圧力推定手段)では、圧力センサ1の圧力検出位置における推定値P1^、圧力センサ2の検出位置における推定値P2^、圧力センサ3の検出位置における推定値P3^を算出し、ステップS32へ移行する。ここで、各推定値P1^,P2^,P3^は、例えば、車体減速度から推定可能である。車体減速度は、車輪速から算出できる。
ステップS32では、検出値P1と検出値P2の差の絶対値が第1閾値Th1よりも小さいか否かを判定する。YESの場合にはステップS33へ移行し、NOの場合にはステップS34へ移行する。
ステップS33では、検出値P1と検出値P3の差の絶対値が第1閾値Th1よりも小さいか否かを判定する。YESの場合にはステップS37へ移行し、NOの場合にはステップS34へ移行する。
ステップS34では、検出値P1と推定値P1^の差の絶対値があらかじめ設定した所定の第3閾値Th3よりも小さいか否かを判定する。YESの場合にはステップS37へ移行し、NOの場合にはステップS35へ移行する。
ステップS35では、カウンタC1をカウントアップし、ステップS36へ移行する。
ステップS36では、カウンタC1の値が所定値T2以上であるか否かを判定する。YESの場合にはステップS38へ移行し、NOの場合にはステップS39へ移行する。
ステップS37では、圧力センサ1を正常と判定し、ステップS39へ移行する。
ステップS38では、圧力センサ1を異常と判定し、ステップS39へ移行する。
【0022】
ステップS39では、検出値P1と検出値P2の差の絶対値が第1閾値Th1よりも小さいか否かを判定する。YESの場合にはステップS40へ移行し、NOの場合にはステップS41へ移行する。
ステップS40では、検出値P2と検出値P3の差の絶対値が第1閾値Th1よりも小さいか否かを判定する。YESの場合にはステップS44へ移行し、NOの場合にはステップS41へ移行する。
ステップS41では、検出値P2と推定値P2^の差の絶対値が第3閾値Th3よりも小さいか否かを判定する。YESの場合にはステップS44へ移行し、NOの場合にはステップS42へ移行する。
ステップS42では、カウンタC2をカウントアップし、ステップS43へ移行する。
ステップS43では、カウンタC2の値が所定値T2以上であるか否かを判定する。YESの場合にはステップS45へ移行し、NOの場合にはステップS46へ移行する。
ステップS44では、圧力センサ2を正常と判定し、ステップS46へ移行する。
ステップS45では、圧力センサ2を異常と判定し、ステップS46へ移行する。
【0023】
ステップS46では、検出値P1と検出値P3の差の絶対値が第1閾値Th1よりも小さいか否かを判定する。YESの場合にはステップS47へ移行し、NOの場合にはステップS48へ移行する。
ステップS47では、検出値P2と検出値P3の差の絶対値が第1閾値Th1よりも小さいか否かを判定する。YESの場合にはステップS51へ移行し、NOの場合にはステップS48へ移行する。
ステップS48では、検出値P3と推定値P3^の差の絶対値が第3閾値Th3よりも小さいか否かを判定する。YESの場合にはステップS51へ移行し、NOの場合にはステップS49へ移行する。
ステップS49では、カウンタC3をカウントアップし、ステップS50へ移行する。
ステップS50では、カウンタC3の値が所定値T2以上であるか否かを判定する。YESの場合にはステップS52へ移行し、NOの場合にはステップS53へ移行する。
ステップS51では、圧力センサ3を正常と判定し、ステップS53へ移行する。
ステップS52では、圧力センサ3を異常と判定し、ステップS53へ移行する。
【0024】
ステップS53では、全ての圧力センサ1,2,3が正常と判定されたか否かを判定する。YESの場合にはステップS54へ移行し、NOの場合にはリターンへ移行する。
ステップS54では、検出値P1と推定値P1^の差の絶対値が第3閾値Th3以上であるか否かを判定する。YESの場合にはステップS55へ移行し、NOの場合にはリターンへ移行する。
ステップS55では、検出値P2と推定値P2^の差の絶対値が第3閾値Th3以上であるか否かを判定する。YESの場合にはステップS56へ移行し、NOの場合にはリターンへ移行する。
ステップS56では、検出値P3と推定値P3^の差の絶対値が第3閾値Th3以上であるか否かを判定する。YESの場合にはステップS57へ移行し、NOの場合にはリターンへ移行する。
ステップS57では、全ての圧力センサ1,2,3を異常と判定し、リターンへ移行する。
上記異常判定処理は、第2の異常判定部に相当する。
なお、ステップS54,ステップS55,ステップS56の判定毎に、各圧力センサ異常を判定したときと同様にカウンタを設けカウンタ値が所定値T2異常となったときに異常と判定するようにしてもよい。
【0025】
次に、作用を説明する。
〔圧力センサの異常判定作用〕
図7は、圧力センサ2,3に異常が発生した際の実施例3の異常判定作用を示すタイムチャートである。
時点t21では、圧力センサ2に異常が発生し、時点t22では、圧力センサ3に異常が発生する。
時点t23では、検出値P3と推定値P3^の差の絶対値が第3閾値Th3以上となるため、カウンタC3のカウントアップが開始される。
時点t24では、検出値P2と推定値P2^の差の絶対値が第3閾値Th2以上となるため、カウンタC2のカウントアップが開始される。
時点t25では、カウンタC3が所定値T2以上となったため、圧力センサ3の異常と判定される。
時点t26では、カウンタC2が所定値T2以上となったため、圧力センサ2の以上と判定される。
【0026】
実施例3では、各検出値P1,P2,P3を他の2つの検出値と比較し、他の2つの検出値の少なくとも一方との差の絶対値が第1閾値Th1以上である場合、当該検出値を推定値と比較し、両者の差の絶対値が第3閾値Th3以上である状態が所定時間以上継続したとき、当該検出値を出力した圧力センサを異常と判定する。また、実施例3では、各検出値P1,P2,P3の差の絶対値が全て第1閾値Th1未満の場合であっても、全ての検出値P1,P2,P3について、推定値との差の絶対値が第3閾値Th3以上であるときには、全ての圧力センサP1,P2,P3を異常と判定する。
3つの圧力センサ1,2,3が全て正常な場合であっても、個体差やセンサドリフトに伴うオフセットにより、それぞれの検出値P1,P2,P3にはばらつきが生じる。一方、推定値は、推定精度に応じて真値との誤差はあるものの、その誤差は常に一定の範囲内となる。つまり、各検出値P1,P2,P3の比較結果を、車両状態に基づく推定値を用いて補償することで、検出値の比較のみから異常判定を行う場合と比較して、異常判定精度を高めることができる。
【0027】
次に、効果を説明する。
実施例3のブレーキ制御装置では、実施例1の効果(1)に加え、以下の効果を奏する。
(4) 車両の状態に応じて圧力を推定する圧力推定手段(ステップS31)を備え、複数の圧力検出手段は圧力センサ33,34,35であって、異常判定部32aは、圧力センサ33,34,35の検出値P1,P2,P3と圧力推定手段により推定された推定値P1^,P2^,P3^とを比較して異常を判定する第2の異常判定部(ステップS31〜ステップS57)を備えた。これにより、推定値を用いることでより精度の高い異常判定を行うことができる。
【0028】
(他の実施例)
以上、本発明を実施するための形態を、実施例に基づいて説明したが、本発明の具体的な構成は、実施例に示した構成に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても本発明に含まれる。
実施例では、各圧力センサ1,2,3の検出位置における圧力が同じ圧力である状況を前提として説明したが、制動制御中、各圧力センサ1,2,3の検出位置における圧力が異なることがある。この場合は、ポンプPP,PSの吐出量および吐出時間、各バルブの作動状態から各圧力センサの検出値を制動制御が非作動である場合の値に換算すればよい。なお、制動制御中の推定値についても同様である。
異常判定方法として、2つの圧力センサの検出値を比較して両者が正常であると判定した後、残りの圧力センサの以上を判定する際、正常と判定した2つの圧力センサの検出値を平均した値と、残りの圧力センサの検出値とを比較してもよい。
実施例では、イグニッションスイッチON後に異常判定処理を実施する例を示したが、ブレーキスイッチONをトリガとし、制動時にのみ異常判定を行ってもよい。
【符号の説明】
【0029】
M/C マスタシリンダ
W/C ホイルシリンダ
(ブレーキ回路)
P ポンプ(圧力制御手段)
2 ゲートインバルブ(圧力制御手段)
3 ゲートアウトバルブ(圧力制御手段)
4 ソレノイドインバルブ(圧力制御手段)
5 ソレノイドアウトバルブ(圧力制御手段)
33 圧力センサ(第1の圧力検出手段)
34 圧力センサ(第2の圧力検出手段)
35 圧力センサ(第3の圧力検出手段
32a 異常判定部(異常判定手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスタシリンダとホイルシリンダを含むブレーキ回路のブレーキ液圧を検出する圧力検出手段を有し、検出された圧力を用いてホイルシリンダ圧を制御するブレーキ制御装置において、
前記圧力検出手段は、
前記マスタシリンダの圧力を検出する第1の圧力検出手段と、
前記マスタシリンダと前記ホイルシリンダとの間の第1系統のブレーキ液圧を検出する第2の圧力検出手段と、
前記第1系統と独立した第2系統のブレーキ液圧を検出する第3の圧力検出手段と、
を備え、
前記複数の圧力検出手段の検出値を比較して前記複数の圧力検出手段の異常を判定する異常判定手段を備えたことを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のブレーキ制御装置において、
前記異常判定手段は、前記複数の検出値同士の差をそれぞれ算出し、差があらかじめ設定した所定の偏差以上となる2つの検出値のうちの一方と、残りの検出値との差が前記所定の偏差未満である場合、他方の検出値を出力した圧力検出手段を異常と判定する第1の異常判定部を備えたことを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載のブレーキ制御装置において、
前記異常判定手段は、前記複数の圧力検出手段の各検出値のいずれかの圧力変化の勾配があらかじめ設定した所定の勾配よりも大きい場合には、前記あらかじめ設定した偏差を大きく変更する偏差変更部を備えたことを特徴とするブレーキ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−25803(P2011−25803A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−172916(P2009−172916)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】