説明

ブレーキ力制御装置

【課題】逆入力に起因する増圧リニア制御弁の制御ハンチングの防止を図る。
【解決手段】ブレーキシリンダ液圧の変動が、ブレーキディスクの磨耗、ドラムの偏心に起因して生じる場合には、増圧リニア制御弁、減圧リニア制御弁への供給電流を抑制しても、ブレーキシリンダ液圧の変動は抑制されないことが多い。この場合に、不感帯幅を大きくすれば、増圧リニア制御弁、減圧リニア制御弁の作動間隔を長くすることができ、制御ハンチングを防止することができる。また、ブレーキシリンダ液圧の変動の状態を検出しつつ、不感帯幅を漸増させれば、不感帯幅を適正な大きさに変更することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪の回転を抑制するブレーキのブレーキ力を制御するブレーキ力制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ブレーキシリンダ液圧が保持されている状態で、車輪の回転に伴うブレーキシリンダ液圧の変化を検出し、それによって不感帯幅を変更をすることが記載されている。不感帯幅が大きい場合には、保持制御から増圧制御、減圧制御が開始され難くなり、増圧、減圧が遅れるおそれがある。一方、不感帯幅が小さい場合には、ハンチングが生じ易くなる。そこで、保持制御中であって、ブレーキシリンダ液圧の変化が小さい場合に不感帯幅が小さくされるようにすれば、ハンチングを抑制しつつ、増圧・減圧遅れを抑制することができる。
特許文献2には、ブレーキシリンダの液圧を制御可能な液圧制御弁の作動切換回数に基づいてハンチングレベルを検出し、ハンチングレベルが高い場合には、液圧制御弁への供給電流を小さくすることが記載されている。
特許文献3には、ブレーキシリンダ液圧の脈動の振幅が大きい場合と小さい場合とで、電磁制御弁に供給電流を制御する際に使用される複数の規則が変更されることが記載されている。例えば、一般的に、ドラムブレーキにおいてはディスクブレーキにおける場合より脈動の振幅が大きいことが知られているが、ドラムブレーキのブレーキシリンダ液圧を制御する場合には、不感帯幅が大きくされるとともに、保持制御から増圧制御、減圧制御に切り換わる場合の電磁制御弁への供給電流量が小さくされる。それにより、ハンチングを抑制し、かつ、急激なブレーキシリンダ液圧の変化を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−142943
【特許文献2】特許3778811
【特許文献3】特許4289050
【0004】
本発明の課題は、ブレーキ力制御装置の改良を図ることである。
【課題を解決するための手段および効果】
【0005】
本発明に係るブレーキ力制御装置においては、ブレーキ力が複数の規則に従って制御される。そして、複数の規則のうちの第1規則の内容が変更されたにもかかわらず、ブレーキ力の振動状態が改善されない場合に、第2規則の内容が変更される。
ブレーキ力の振動状態の原因が入力側(ブレーキ力の制御側)にある場合には、第1規則の内容を変更すれば、振動状態を改善することができる。
それに対して、第1規則の内容が変更されても、振動状態が改善されない場合には、入力側に原因があるのではなく、出力側(ブレーキ)に原因があると考えられる。
そこで、出力側の原因で振動が生じていると考えられる場合に(以下、逆入力が原因で振動すると称することがある)第2規則の内容が変更されるのであり、第2規則の内容が変更されることにより、ブレーキ力制御機構の作動頻度を低くすることができる。
【特許請求可能な発明】
【0006】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある。請求可能発明は、少なくとも、請求の範囲に記載された発明である「本発明」ないし「本願発明」を含むが、本願発明の下位概念発明や、本願発明の上位概念あるいは別概念の発明を含むこともある。)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、請求可能発明を構成する構成要素の組を、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0007】
(1)車両の車輪の回転を抑制するブレーキのブレーキ力を制御可能なブレーキ力制御機構を含み、そのブレーキ力制御機構を複数の規則に従って制御することによって、前記ブレーキ力を目標値に近づけるブレーキ力制御装置であって、
前記ブレーキ力の振動の状態を検出する振動状態検出装置と、
その振動状態検出装置によって検出された振動状態に基づいて、前記複数の規則のうちの少なくとも1つである第1規則の内容を変更する第1規則変更部と、
その第1規則変更部によって前記第1規則が変更されても、前記振動状態検出装置によって検出された振動状態が改善しない場合に、前記複数の規則から前記第1規則を除く規則のうちの少なくとも1つの規則である第2規則の内容を変更する第2規則変更部と
を含むことを特徴とするブレーキ力制御装置。
ブレーキは、摩擦部材を車輪とともに回転するブレーキ回転体に押し付けて、摩擦係合させることにより車輪の回転を抑制する摩擦ブレーキである。また、ブレーキは、ブレーキシリンダの液圧により、摩擦部材をブレーキ回転体に押し付ける液圧ブレーキであっても、電磁的駆動力により押し付ける電動ブレーキであってもよい。
ブレーキ力制御機構は、後述するように、ブレーキ力(摩擦部材をブレーキ回転体に押し付ける押付力)としてのブレーキシリンダの液圧を制御可能なものであっても、ブレーキ力としての電動モータの押圧力(出力)を制御可能なものであってもよい。ブレーキ力制御機構は、ブレーキを作動させる(ブレーキ力を発生させる)アクチュエータ(ブレーキシリンダや電動モータ)の作動状態を制御するアクチュエータ制御機構とすることもできる。ブレーキシリンダの液圧を制御可能な液圧制御機構には、例えば、電磁弁、ポンプの吐出圧を制御可能なポンプモータ等が該当する。
ブレーキ力の振動状態は、ブレーキ力の変化状態をいうが、ブレーキ力の変化に伴って作動させられる機構(例えば、電磁弁、電動モータ等)の作動状態で表すこともできる。例えば、設定時間内に、ブレーキ力がしきい値を超えて変化した回数、設定時間内に電磁弁が作動させられた回数で振動状態を表すことができる。設定時間内の変化回数、作動回数は、ブレーキ力の変化頻度、制御機構の作動頻度と称することができる。
ブレーキ力の振動状態が改善しないとは、第1規則の変更前の振動状態と比較して、ブレーキ力の変化幅(振幅)が小さくならないこと、設定時間内のしきい値を超えて変化した回数あるいは電磁弁の作動回数等が少なくならないこと等をいう。
ブレーキ力の目標値は、運転者の制動意図に基づいて決まる大きさとしたり、車両の走行状態(例えば、スリップ状態)に基づいて決まる大きさとしたり、前方車両、周辺物体との相対位置関係に基づいて決まる大きさとしたりすることができる。また、車両に、回生制動トルクと摩擦制動トルクとの両方が加えられる場合には、上述の事情に加えて、出力される回生制動トルクの大きさが考慮されて摩擦制動トルクの目標値が決定される(回生協調制御)。
第1規則の内容は、入力側が原因で生じるブレーキ力の振動に影響を及ぼす内容である。第1規則の内容の変更により、入力側に起因するブレーキ力の振動を抑制することができる。
第2規則の内容は、ブレーキ力制御機構の作動の有無に影響を及ぼす内容であり、第2規則の内容の変更により、ブレーキ力制御機構の作動頻度を低下させることができる。なお、第2規則により作動の有無が決定されるブレーキ力制御機構の構成要素と、第2規則の内容の変更により作動頻度が低下させられる構成要素とは同じであっても異なってもよい。
ブレーキ力制御機構を制御する規則には、供給電流の大きさ(電流値、電流量と称することができる)を決定する規則(例えば、第1規則とすることができる)、電流を供給するか否かを決定する規則(例えば、第2規則とすることができる)が該当する。ブレーキ力制御機構に含まれる電磁弁を作動させるか否かを決定する規則は、ブレーキ力制御機構へ電流を供給するか否かを決定する規則に該当すると考えることができる。
本項に記載のブレーキ力制御装置においては、第1規則の内容が変更された後に第2規則の内容が変更されるが、第2規則の内容が変更された場合には、第1規則の内容は変更されたままであっても、変更前の内容に近づけたり、変更前の内容に戻したり(変更をリセットしたり)することができる。第1規則の内容がブレーキ力の振動状態に基づいて変更される場合において、第2規則の内容の変更により振動状態が改善した場合には、第1規則の内容を変更前の内容に戻しても、振動状態が悪化しないと考えられる。
(2)当該ブレーキ力制御装置が、前記ブレーキ力制御機構への供給電流を、少なくとも前記第1規則と前記第2規則とに従って制御することにより、前記ブレーキ力が前記目標値と不感帯幅とで決まる不感帯の内側にある場合に前記ブレーキ力を保持し、前記ブレーキ力が前記不感帯の外側にある場合に前記ブレーキ力を増加させたり、減少させたりする電流制御利用ブレーキ力制御部を含み、
前記第1規則変更部が、前記第1規則としての、前記ブレーキ力を増加させたり・減少させたりする場合に前記ブレーキ力制御機構に供給される電流量を決定する規則の内容を変更する電流量決定規則変更部を含み、前記第2規則変更部が、前記第2規則としての、前記不感帯を決定する規則の内容を表す前記不感帯幅を変更する不感帯幅変更部を含む(1)項に記載のブレーキ力制御装置。
電流量を決定する第1規則の内容が振動状態に基づいて変更される。例えば、第1規則の内容が、ブレーキ力の変化頻度が高い場合は、頻度が低い場合より、実際のブレーキ力や目標値が同じである場合に、ブレーキ力制御機構の作動量が小さくなったり、作動の開始が遅くなったりするように供給電流量が決定される内容に変更されるようにすることができる。具体的には、制御ゲインの値を小さくしたり、作動開始時電流の値を小さくしたりすることが該当する。
不感帯を決定する第2規則の内容である不感帯幅が、第1規則の内容の変更によって振動状態が改善しない場合に変更される。不感帯幅が大きくされれば、ブレーキ力が保持される機会が多くなり、増加させられたり、減少させられたりする機会が少なくなり、ブレーキ力制御機構の作動頻度を少なくすることができる。
(3)前記振動状態検出装置が、前記振動状態を、前記ブレーキ力が、不感帯の内側から外側に変化した頻度に基づいて検出する不感帯利用振動状態検出部を含み、
前記第2規則変更部が、前記第1規則変更部によって前記第1規則の内容が設定内容に変更された後に前記不感帯利用振動状態検出装置によって検出された振動状態の前記頻度が、前記設定内容に変更される前に前記振動状態検出装置によって検出された振動状態の前記頻度より低くならない場合に、前記不感帯幅を変更する不改善時変更部を含む(2)項に記載のブレーキ力制御装置。
ブレーキ力の振動状態が、ブレーキ力が不感帯の内側から外側に変化する頻度で表される場合において、第1規則の内容が設定内容に変更されても、頻度が低くならなかった場合には、逆入力に起因して生じる振動であると考えられる。設定内容は、例えば、第1規則の内容が段階的に変更可能とされている場合の、そのうちの予め定められた段階の変更とすることができ、設定内容に変更されれば、入力側の原因による振動が抑制され得ると考えられる内容とすることができる。
【0008】
(4)前記不感帯幅変更部が、前記不感帯利用振動状態検出部によって検出される振動状態の前記頻度が安定側設定頻度に至るまで、前記不感帯幅を漸増させる不感帯幅漸増部を含み、その不感帯幅漸増部によって漸増させられた不感帯幅を変更後の不感帯幅とする(3)項に記載のブレーキ力制御装置。
逆入力に起因して生じる振動であると判定された場合には、頻度が安定側設定頻度に至るまで、実際の不感帯幅が漸増させられる。その結果、不感帯幅を適正な大きさに変更することができる。
安定側設定頻度は、固定値であっても、第1規則が設定内容に変更される前の振動状態に基づいて決まる可変値であってもよいのであり、例えば、第1規則が設定内容に変更される前の振動状態より改善された状態とすることもできる。
なお、不感帯幅を大きくしても、実際のブレーキ力の振動状態が改善されるとは限らない。しかし、ブレーキ力が不感帯を超えて変化した回数によって振動状態が評価される場合には、不感帯幅を大きくすることによって、振動状態の評価値が改善される場合がある(みかけ上、改善されたと考えることができる)。また、ブレーキ力が不感帯を超えて変化するとブレーキ力制御機構が作動させられる場合には、振動状態の評価値(頻度)が低くされれば、ブレーキ力制御機構の作動頻度を低くすることが可能となる。
【0009】
(5)前記不感帯幅変更部が、前記不感帯幅を仮に設定する仮不感帯幅設定部を含み、前記不感帯利用振動状態検出部が、前記仮不感帯幅設定部によって設定された仮不感帯幅と前記ブレーキ力とに基づいて前記振動状態を推定する仮不感帯利用振動状態推定部を含む(2)項ないし(4)項のいずれか1つに記載のブレーキ力制御装置。
(6)前記仮不感帯幅設定部が、前記仮不感帯利用振動状態検出部によって推定された仮振動状態の前記頻度が仮安定側設定頻度に至るまで、前記仮の不感帯幅を漸増させる仮不感帯幅漸増部を含む(5)項に記載のブレーキ力制御装置。
(7)前記仮不感帯利用振動状態検出部が、前記ブレーキ力制御機構への供給電流が、前記電流制御利用ブレーキ力制御部によって制御されている場合に、前記ブレーキ力と前記仮不感帯幅設定部によって設定された仮不感帯幅とに基づいて、前記振動状態を仮に検出する仮振動状態検出部を含む(5)項または(6)項に記載のブレーキ力制御装置。
(8)前記仮振動状態検出部が、前記ブレーキ力制御機構への供給電流が、前記電流制御利用ブレーキ力制御部によって制御されており、かつ、前記第1規則変更部による前記第1規則の変更が許可されている場合に、前記振動状態を仮に検出する変更許可時検出部を含む(7)項に記載のブレーキ力制御装置。
逆入力に起因する振動とブレーキ力制御機構の作動との関連性は低い。そのため、ブレーキ力制御機構が電流制御利用ブレーキ力制御部によって制御されていても、逆入力に起因するブレーキ力の振動状態を検出することができる。
実際の目標値と仮不感帯幅とに基づいて仮不感帯が求められ、その仮不感帯と実際のブレーキ力とに基づいて、実際のブレーキ力が仮不感帯の内側から外側に向かって変化する頻度が求められる。そして、仮不感帯幅が、頻度が仮安定側設定頻度に至るまで、漸増させられる。
ただし、不感帯幅は仮に設定されたものであるため、ブレーキ力が仮不感帯幅の内側から外側に向かって変化しても、それをトリガとして、ブレーキ力制御機構が作動させられることはない。
仮不感帯幅に基づく仮振動状態の検出は、ブレーキ力制御機構が、第1規則と第2規則とを含む複数の規則に従って制御されている状態で行われる。この場合において、不感帯とブレーキ力とに基づいて振動状態が検出され、第1規則の内容の第1規則変更部による変更が許可されていることが望ましい。
また、供給電流利用ブレーキ力制御部において利用される不感帯幅と、仮不感帯幅設定部によって仮に設定された仮不感帯幅とは異なっていることが多い。仮不感帯幅設定部は、供給電流利用ブレーキ力制御部において利用される不感帯幅とは関係なく仮不感帯幅を設定することできる。
【0010】
(9)前記不感帯幅変更部が、前記不感帯幅を、前記振動状態検出装置によって検出された振動状態に応じた大きさに変更する振動状態対応不感帯幅変更部を含む(2)項ないし(8)項のいずれか1つに記載のブレーキ力制御装置。
例えば、不感帯幅を、振動状態が表す振幅が大きい場合に小さい場合より大きくしたり、振動状態が表す頻度が高い場合に低い場合より大きくしたりすることにより、ブレーキ力制御機構の作動頻度を低くすることができる。振動状態は、ブレーキ力が不感帯の内側から外側に変化する頻度で表されるものを用いることが妥当であり、その場合には、振動状態が不感帯利用振動状態検出装置によって検出されることが望ましい。
また、不感帯幅の増加量が、振動状態に応じた大きさに変更されるようにすることもできる。
(10)前記不感帯幅変更部が、前記第1規則変更部によって前記第1規則が変更され、かつ、前記振動状態が改善しない場合に、前記不感帯利用振動状態検出部によって検出された振動状態に応じた大きさに、前記不感帯幅を変更する逆入力判定後振動状態対応不感帯幅変更部を含む(2)項ないし(9)項のいずれか1つに記載のブレーキ力制御装置。
本項に記載のブレーキ力制御装置においては、逆入力に起因する振動状態であると判定された後に、振動状態が検出され、その検出された振動状態に応じた値に不感帯幅が変更される。
【0011】
(11)当該ブレーキ力制御装置が、前記目標液圧と前記不感帯幅変更部によって変更された不感帯幅とに基づいて前記不感帯を決定する不感帯決定部を含み、その不感帯決定部が、(i)前記目標値の増加勾配が設定増加勾配より大きい場合に、前記目標値と増加制御から保持制御へ切り換える切換えしきい値との差の絶対値である増加側不感帯幅が、前記目標値と減少制御から保持制御へ切り換える切換えしきい値との差の絶対値である減少側不感帯幅より小さくなるように決定する増加要求時不感帯決定部と、(ii)前記目標値の減少勾配が設定減少勾配より大きい場合に、前記減少側不感帯幅が前記増加側不感帯幅より小さくなるように決定する減少要求時不感帯幅決定部との少なくとも一方を含む(2)項ないし(10)項のいずれか1つに記載のブレーキ力制御装置。
(12)当該ブレーキ力制御装置が、(i)前記目標値の増加勾配が設定増加勾配より大きい場合に、前記目標値と増加制御から保持制御へ切り換える切換えしきい値との差の絶対値である増加側不感帯幅を、前記不感帯幅変更部によって変更された不感帯幅の1/2より小さくする増加要求時増加側不感帯幅決定部と、(ii)前記目標値の減少勾配が設定減少勾配より大きい場合に、前記目標値と減少制御から保持制御へ切り換える切換えしきい値との差の絶対値である減少側不感帯幅を、前記不感帯幅変更部によって変更された不感帯幅の1/2より小さくする減少要求時減少側不感帯幅決定部との少なくとも一方を含む(2)項ないし(11)項のいずれか1つに記載のブレーキ力制御装置。
(i)目標値の増加勾配(時間に対する増加量)が設定増加勾配より大きい場合に、増加側不感帯幅が小さくされれば、増加制御から保持制御へ切り換えられ難くすることができ、実際のブレーキ力を速やかに目標値に近づけることが可能となる。増加制御から保持制御へ切り換える切換えしきい値は、増加制御終了しきい値と称することができる。増加制御終了しきい値と保持制御から増加制御へ切り換える増圧制御開始しきい値とは同じであっても、異なっていてもよい。
なお、(a)目標値の増加勾配が設定増加勾配より大きいという条件に加えて、(x)目標値から実際のブレーキ力を引いた偏差が設定偏差より大きいこと、(y)目標値が設定目標値より大きいこと、(z)運転者によるブレーキ操作部材のブレーキ作用時操作速度が設定速度より大きいことのうちの1つ以上の条件が満たされた場合に、増加側不感帯幅が減少側不感帯幅より小さくされるようにすることができる。また、(a)の条件に代えて、(x)の条件、(y)の条件、(z)の条件のうちの1つ以上が満たされた場合に、増加側不感帯幅が小さくされるようにすることもできる。
(ii)目標値の減少勾配(勾配の絶対値であり、正の値)が設定減少勾配(正の値)より大きい場合に、減圧側不感帯幅が小さくされれば、減圧制御から保持制御に切り換えられ難くすることができ、実際のブレーキ力を速やかに目標値に近づけることができる。
この場合にも同様に、減少制御終了しきい値と減少制御開始しきい値とは同じであっても異なっていてもよい。また、(b)減少勾配が設定減少勾配より大きいという条件に加えて、(x)′目標値から実際のブレーキ力を引いた偏差の絶対値が設定偏差より大きいこと、(z)′運転者によるブレーキ操作部材のブレーキ解除時操作速度が設定速度より大きいこと等の条件が満たされた場合に、不感帯幅の調整が行われるようにしたり、(b)の条件に代えて(x)′の条件や(z)′の条件が満たされた場合に不感帯幅の調整が行われるようにしたりすることができる。
(13)当該ブレーキ力制御装置が、前記ブレーキ力が保持されている場合に、前記不感帯幅変更部によって変更された不感帯幅を、前記振動状態が前記保持制御が維持される範囲において、漸減させる不感帯幅漸減部を含む(2)項ないし(12)項に記載のブレーキ力制御装置。
不感帯幅が不必要に大きくされた場合には、それを是正するために、保持制御中に、保持制御が維持される範囲内において、不感帯幅を漸減させることが望ましい。
【0012】
(14)当該ブレーキ力制御装置が、前記第1規則変更部と前記第2規則変更部との少なくとも一方による、その少なくとも一方に対応する前記第1規則と前記第2規則との少なくとも一方の内容の変更を、前記ブレーキの作動要求に基づいて、許可したり、禁止したりする変更許可・禁止部を含む(1)項ないし(13)項のいずれか1つに記載のブレーキ力制御装置。
例えば、(i)ブレーキ力を速やかに変化させる要求がある場合、例えば、目標値の変化勾配の絶対値|dPref|が設定値dPthより大きい場合(|dPref|>dPth)、(ii)大きなブレーキ力が要求される場合、例えば、目標値Prefが設定値Pthより大きい場合(Pref>Pth)、(iii)ブレーキ力の目標値と実際のブレーキ力との偏差の絶対値|Pref−Pw|が設定偏差より大きい場合等には、第1規則や第2規則の変更が禁止され、(iv)ブレーキ力を緩やかに変化させる要求がある場合、例えば、目標液圧の変化勾配の絶対値|dPref|が設定値dPthより小さい場合(|dPref|<dPth)、(v)大きなブレーキ力が要求されない場合、例えば、目標液圧Prefが設定値Pthより小さい場合(Pref<Pth)には、許可されるようにすることができる。
具体的には、ブレーキを、車輪のスリップ状態に基づいて作動させる要求がある場合(アンチロック制御、トラクション制御、ビークルスタビリティ制御等の開始条件が満たされた場合)、前方車両、周辺物体との相対位置関係に基づいて作動させる要求がある場合(クルージング制御、衝突回避制御等の開始条件が満たされた場合)、運転者によるブレーキ操作部材の操作力、操作速度が大きい場合等には、変更が禁止されることが望ましい。
また、第1規則と第2規則との両方の変更が禁止されるようにしても、いずれか一方の変更が禁止されるようにしてもよい。
(15)当該ブレーキ力制御装置が、前記第1規則変更部と前記第2規則変更部との少なくとも一方による、その少なくとも一方に対応する前記第1規則と前記第2規則との少なくとも一方の内容の変更を、(a)前記目標値の増加勾配が設定勾配より小さい場合と、(b)前記目標値から実際のブレーキ力を引いた偏差が設定偏差より小さい場合と、(c)運転者のブレーキ操作部材の操作速度が設定速度より小さい場合と、(d)前記車両の走行速度が設定速度以下である場合とのうちの1つ以上が満たされた場合に、許可する変更許可部を含む(1)項ないし(14)項のいずれか1つに記載のブレーキ力制御装置。
目標値の増加勾配が設定勾配より小さい場合、偏差が小さい場合、運転者の操作速度が小さい場合、車両の走行速度が小さい場合等に、第1規則および第2規則の変更が許可される。これらの場合には、滑らかな制動フィーリングが望まれると考えられる。また、ブレーキ力制御機構から発せられる作動音により不快感を感じると考えられる。
なお、(a)、(b)、(c)の条件のうちの1つ以上と、(d)の条件との両方が満たされた場合に、許可されるようにすることができる。
(16)前記ブレーキが、前記車両の車輪に対応して設けられ、ブレーキシリンダの液圧により作動させられる液圧ブレーキであり、
前記ブレーキ力制御機構としての液圧制御機構が、(i)(a)電流の供給により作動させられる駆動源を含み、その駆動源により駆動される動力式液圧源と、(b)前記駆動源への供給電流を制御することにより前記動力式液圧源の出力液圧を制御する駆動源電流制御部とを含む駆動源制御利用液圧制御装置と、(ii)(c)高圧の作動液を出力可能な液圧源と、(d)その液圧源の液圧を制御可能な1つ以上の電磁液圧制御弁と、(e)その電磁液圧制御弁への供給電流を制御することにより出力液圧を制御する電磁弁電流制御部とを含む電磁弁制御利用液圧制御装置との少なくとも一方を含む(1)項ないし(15)項のいずれか1つに記載のブレーキ力制御装置。
電磁液圧制御弁は、コイルへの供給電流量の連続的な制御により、それの前後の差圧(および/または)開度が連続的に制御可能なもの(リニア制御弁と称することができる)であっても、供給電流のON/OFF制御により開状態と閉状態とのいずれかに切り換えられ得るもの(単なる開閉弁と称することができる)であってもよい。
(17)前記ブレーキが、前記車両の複数の車輪に対応してそれぞれ設けられ、それぞれ、ブレーキシリンダの液圧により作動させられる液圧ブレーキであり、
それら複数の液圧ブレーキのブレーキシリンダが、それぞれ、共通通路に接続され、
その共通通路に、前記ブレーキ力としてのブレーキシリンダ液圧を検出するブレーキシリンダ液圧検出装置が設けられ、
前記ブレーキ力制御機構としての液圧制御機構が、前記共通通路と前記複数のブレーキシリンダの各々との間に、それぞれ設けられた電磁制御弁を含み、
前記振動状態検出装置が、前記ブレーキシリンダ液圧検出装置による検出値を利用して、前記振動状態を検出するセンサ値利用振動状態検出部を含み、
前記第2規則変更部が、前記第1規則変更部によって前記第1規則が変更された後に、前記センサ値依拠振動状態検出部によって検出された振動状態が改善しない場合に、前記複数の電磁制御弁の制御規則の内容を変更する電磁弁制御規則変更部を含み、
当該ブレーキ力制御装置が、前記電磁弁制御規則変更部によって変更された規則に従って、前記複数のブレーキシリンダのうち、液圧の振動状態で決まる少なくとも1つのブレーキシリンダに対応する電磁制御弁を閉状態とすることにより、前記少なくとも1つのブレーキシリンダを前記共通通路から遮断するブレーキシリンダ遮断部を含む(1)項ないし(16)項のいずれか1つに記載のブレーキ力制御装置。
複数のブレーキシリンダ液圧が共通に制御される場合には、第2規則により、共通通路とブレーキシリンダの各々との間に設けられた電磁制御弁は開状態にされる。
それに対して、逆入力に起因する振動が生じた場合には、第2規則の内容が変更され、液圧の振動状態で決まる少なくとも1つのブレーキシリンダと共通通路との間に設けられた電磁制御弁が閉状態とされる。
例えば、複数のブレーキシリンダの各々の液圧の振動状態を実際に検出し、液圧の振幅が大きいブレーキシリンダや、液圧の変化頻度が高いブレーキシリンダを特定し、そのブレーキシリンダに対応する電磁制御弁を遮断状態とすることができる。また、複数のブレーキシリンダの各々の液圧の振動状態を検出しないで、予め振動が生じ易い(生じる確率が高い)ブレーキシリンダ(既知である場合)に対応する電磁制御弁を遮断状態とすることもできる。例えば、複数の液圧ブレーキのうちの一部がディスクブレーキであり、残りがドラムブレーキである場合には、ドラムブレーキの方が振動が生じやすいことが知られている。そのため、ドラムブレーキのブレーキシリンダに対応する電磁制御弁が閉状態とされるようにすることができる。
(18)当該ブレーキ力制御装置が、前記複数のブレーキシリンダから、前記共通通路から遮断する少なくとも1つのブレーキシリンダを特定する遮断ブレーキシリンダ特定部を含む(17)項に記載のブレーキ力制御装置。
例えば、共通通路とブレーキシリンダの各々との間に設けられた電磁制御弁を順番に閉状態として、共通通路に設けられたブレーキシリンダ液圧検出装置の検出値の変化を取得すれば、液圧の振動の振幅が大きいブレーキシリンダ、変化頻度が高いブレーキシリンダを特定することができる。
(19)前記ブレーキが、前記車両の複数の車輪に対応してそれぞれ設けられ、それぞれ、ブレーキシリンダの液圧により作動させられる液圧ブレーキであり、
それら複数の液圧ブレーキのうちの一部が、前記ブレーキシリンダの液圧により摩擦部材を前記車輪とともに回転するブレーキ回転体に押し付けるディスクブレーキであり、前記複数の液圧ブレーキのうちの前記一部を除いたものが、前記ブレーキシリンダの液圧により摩擦部材を前記車輪とともに回転するドラムの内周面に押し付けるドラムブレーキであり、
前記複数の液圧ブレーキのブレーキシリンダが、それぞれ、共通通路に接続され、
その共通通路に、前記ブレーキ力としてのブレーキシリンダ液圧を検出するブレーキシリンダ液圧検出装置が設けられ、
前記ブレーキ力制御機構としての液圧制御機構が、前記共通通路と前記複数のブレーキシリンダの各々との間に、それぞれ設けられた電磁制御弁を含み、
前記振動状態検出装置が、前記ブレーキシリンダ液圧検出装置による検出値を利用して、前記振動状態を検出するセンサ値利用振動状態検出部を含み、
前記第2規則変更部が、前記第1規則変更部によって前記第1規則が変更された後に、前記センサ値依拠振動状態検出部によって検出された振動状態が改善しない場合に、前記複数の電磁制御弁の制御規則の内容を変更する電磁弁制御規則変更部を含み、
当該ブレーキ力制御装置が、前記電磁弁制御規則変更部によって変更された規則に従って、前記複数のブレーキシリンダのうち、前記ドラムブレーキのブレーキシリンダに対応する電磁制御弁を閉状態とするドラムブレーキシリンダ遮断部を含む(1)項ないし(18)項のいずれか1つに記載のブレーキ力制御装置。
ドラムブレーキのブレーキシリンダが共通通路から遮断されれば、ブレーキシリンダ液圧検出装置による検出値の振動を抑制することができる。
(20)車両の車輪の回転を抑制するブレーキのブレーキ力を目標値に近づけるブレーキ力制御装置であって、
前記ブレーキ力が前記目標値と不感帯幅とで決まる不感帯の内側にある場合に前記ブレーキ力を保持する保持部と、
前記ブレーキ力が前記不感帯の外側にある場合に前記ブレーキ力を増加させたり、減少させたりする増加・減少部と、
前記ブレーキ力の振動の状態を、前記ブレーキ力が、前記不感帯の内側から外側に変化した頻度に基づいて検出する振動状態検出装置と、
その振動状態検出装置によって検出された振動状態に基づいて、前記不感帯幅を変更する不感帯幅変更装置であって、前記振動状態検出装置によって検出される振動状態が前記頻度が安定側設定頻度に至るまで、前記不感帯幅を漸増させる不感帯幅漸増部を備えたものと
を含むことを特徴とするブレーキ力制御装置。
本項に記載のブレーキ力制御装置には、(1)項ないし(19)項のいずれか1つに記載の技術的特徴を採用することができる。
(21)車両の車輪の回転を抑制するブレーキのブレーキ力が目標値と不感帯幅とで決まる不感帯の内側にある場合に前記ブレーキ力を保持させる保持部と、
前記ブレーキ力が前記不感帯の外側にある場合に前記ブレーキ力を増加させたり、減少させたりする増加・減少部と、
前記不感帯幅を、前記ブレーキ力の振動状態に基づいて変更する不感帯側変更装置とを含むブレーキ力制御装置であって、
前記不感帯幅変更装置が、
前記不感帯幅を仮に設定する仮不感帯幅設定部と、
前記ブレーキ力が、前記仮不感帯幅設定部によって設定された仮不感帯幅と前記目標値とで決まる仮不感帯の内側から外側に変化した頻度に基づいて前記ブレーキ力の仮の振動状態を推定する仮振動状態検出部と、
その仮振動状態検出部によって推定された仮振動状態が前記頻度が仮安定側設定頻度に至るまで、前記仮の不感帯幅を漸増させる仮不感帯幅漸増部と
を含み、前記仮不感帯幅漸増部によって漸増させられた不感帯幅を変更後の不感帯幅とすることを特徴とするブレーキ力制御装置。
本項に記載のブレーキ力制御装置には、(1)項ないし(20)項のいずれか1つに記載の技術的特徴を採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例1に係るブレーキ液圧制御装置における作動(不感帯幅の漸増)状態を示す状態である。
【図2】本発明の複数の実施例に共通のブレーキ液圧制御装置が設けられる液圧ブレーキシステムのブレーキ液圧回路図である。
【図3】(a)上記ブレーキ液圧回路に含まれる増圧リニア制御弁、減圧リニア制御弁の断面図である。(b)上記増圧リニア制御弁の開弁特性を表すテーブルを示すマップである。
【図4】上記液圧ブレーキシステムに含まれるブレーキECUの周辺を示す概念図である。
【図5】上記ブレーキECUの制御ブロック図である。
【図6】上記液圧ブレーキシステムのブレーキECUの記憶部に記憶された液圧制御アクチュエータ制御プログラムを表すフローチャートである。
【図7】上記記憶部に記憶された制御モード決定テーブルの内容を概念的に示す図である。
【図8】上記記憶部に記憶されたハンチングレベル検出プログラムを表すフローチャートである。
【図9】上記記憶部に記憶されたタイマ制御プログラムを表すフローチャートである。
【図10】上記記憶部に記憶された適応電流変更プログラムを表すフローチャートである。
【図11】上記ハンチングレベルの検出のカウントの状態を概念的に示す図である。
【図12】上記ハンチングレベルのカウントアップに伴う適応電流値の変化の状態を概念的に示す図である。
【図13】上記記憶部に記憶された逆入力判定プログラムを表すフローチャートである。
【図14】本発明の実施例1に係るブレーキ液圧制御装置の記憶部に記憶された不感帯幅変更プログラムを表すフローチャートである。
【図15】本発明の実施例2に係るブレーキ液圧制御装置の記憶部に記憶された不感帯幅変更プログラムを表すフローチャートである。
【図16】上記記憶部に記憶された不感帯幅増加量と逆入力レベルとの関係を示す図である。
【図17】本発明の実施例3に係るブレーキ液圧制御装置のブレーキECU周辺を概念的に示す図である。
【図18】上記ブレーキECUの記憶部に記憶された仮不感帯幅取得プログラムを表すフローチャートである。
【図19】上記記憶部に記憶された不感帯幅変更プログラムを表すフローチャートである。
【図20】本発明の実施例4に係るブレーキ液圧制御装置のブレーキECUの記憶部に記憶された不感帯決定プログラムを表すフローチャートである。
【図21】上記不感帯決定プログラムの一部(保持モードにおける不感帯幅変更)を表すフローチャートである。
【図22】上記ブレーキ液圧制御装置において決定された不感帯を表す図である。
【図23】(a)本発明の実施例5に係るブレーキ液圧制御装置のブレーキECUの記憶部に記憶された禁止フラグON/OFFプログラムを表すフローチャートである。(b)上記記憶部に記憶された不感帯幅変更プログラムを表すフローチャートである。
【図24】本発明の実施例6に係るブレーキ液圧制御装置のブレーキECUの記憶部に記憶された後輪保持弁制御プログラムを表すフローチャートである。
【図25】本発明の複数の実施例に共通の液圧ブレーキシステムに含まれる別の液圧ブレーキ回路を表す図である。
【図26】本発明の複数の実施例に共通の液圧ブレーキシステムに含まれるさらに別の液圧ブレーキ回路を表す図である。
【図27】本発明の複数の実施例に共通の液圧ブレーキシステムに含まれる別の液圧ブレーキ回路を表す図である。
【図28】本発明の複数の実施例に共通の液圧ブレーキシステムに含まれるさらに別の液圧ブレーキ回路を表す図である。
【図29】本発明の複数の実施例に共通の液圧ブレーキシステムに含まれる別の液圧ブレーキ回路を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施例に係るブレーキ力制御装置としてのブレーキ液圧制御装置について説明する。
最初に、本発明の複数の実施例に係るブレーキ液圧制御装置に共通の液圧ブレーキシステムについて説明する。
本液圧ブレーキシステムは、ハイブリッド車両、プラグインハイブリッド車両、電気自動車、燃料電池自動車、内燃駆動車両等に搭載することができる。ハイブリッド車両、プラグインハイブリッド車両、電気自動車、燃料電池自動車等においては、回生協調制御が行われるため、回生制動トルクと液圧制動トルクとによって総要求制動トルクが満たされるように、ブレーキシリンダ液圧が制御される。回生協調制御が行われない場合には、液圧制動トルクが総要求制動トルクとなるようにブレーキシリンダ液圧が制御される。いずれにしても、総要求制動トルクは、運転者によるブレーキ操作状態に基づいて決定される場合、車両の走行状態に基づいて決定される場合(車輪のスリップ状態:アンチロック制御、トラクション制御、ビークルスタビリティ制御)、前方車両や周辺物体との相対位置に基づいて決定される場合(クルージング制御、衝突回避制御等)等がある。
なお、本明細書において、ブレーキシリンダ、液圧ブレーキ、後述する種々の電磁開閉弁等を、前後左右の車輪の位置に対応して区別する必要がある場合には、車輪位置を表す符号(FL,FR,RL,RR)を付して記載し、代表して、あるいは、区別する必要がない場合には、符号を付さないで記載する。
【0015】
<液圧ブレーキ回路>
本液圧ブレーキシステムには、図2に示すブレーキ回路が含まれる。
12,14は左右前輪であり、16,18は左右後輪である。左右前輪12,14には、液圧ブレーキとしてのディスクブレーキ22FL,22FRが設けられ、左右後輪16,18には、液圧ブレーキとしてのドラムブレーキ26RL,RRが設けられる。ディスクブレーキ22FL,FRは、それぞれ、ブレーキシリンダ32を含み、ブレーキシリンダ32の液圧により摩擦部材を車輪12,14とともに回転する回転ディスクに押し付けることにより車輪の回転を抑制するものであり、ドラムブレーキ26RL,RRは、それぞれ、ブレーキシリンダ36を含み、ブレーキシリンダ36の液圧により摩擦部材を車輪16,18とともに回転する回転ドラムの内周面に押し付けることにより、車輪の回転を抑制するものである。
50はブレーキ操作部材としてのブレーキペダルであり、52はブレーキペダル50の操作により液圧を発生させるマスタシリンダである。54はポンプ装置56とアキュムレータ58とを含む動力式液圧源である。
マスタシリンダ52は、2つの加圧ピストン62a,bを備えたダンデム式のものであり、加圧ピストン62a,bの前方がそれぞれ加圧室64a,bとされ、それぞれ、マスタ通路66a,bが接続される。
【0016】
動力式液圧源54において、ポンプ装置56は、ポンプ90およびポンプモータ92を含み、ポンプ90によりリザーバ94から作動液が汲み上げられて吐出されて、アキュムレータ58に蓄えられる。ポンプモータ92は、アキュムレータ58に蓄えられた作動液の圧力が予め定められた設定範囲内にあるように制御される。例えば、アキュムレータ圧が設定範囲の下限値より低くなった場合に始動させられ、設定範囲の上限値に達した場合に停止させられるようにすることができる。
【0017】
一方、左右前輪12,14のブレーキシリンダ32FL,FR、左右後輪16,18のブレーキシリンダ36RL、RRは、それぞれ、個別通路100FL,FR,RL,RRを介して共通通路102に接続される。
個別通路100FL,FR,RL,RRには、それぞれ、保持弁(SHij:i=F,R、j=L,R)103FL,FR,RL,RRが設けられ、ブレーキシリンダ32FL,32FR,36RL,36RRとリザーバ94との間には、それぞれ、減圧弁(SRij:i=F,R、j=L,R)106FL,FR,RL,RRが設けられる。
また、左前輪12に対応して設けられた保持弁103FLが、ソレノイドのコイルに電流が供給されない場合に開状態にある常開の電磁開閉弁であり、残りの、右前輪14,左後輪16、右後輪18に対応して設けられた保持弁103FR,RL,RRがソレノイドのコイルに電流が供給されない場合に閉状態にある常閉の電磁開閉弁である。
さらに、左右前輪12,14に対応して設けられた減圧弁106FL,FRは常閉の電磁開閉弁であり、左右後輪16,18に対応して設けられた減圧弁106RL,RRは常開の電磁開閉弁である。
【0018】
共通通路102には、ブレーキシリンダ32,36に加えて、動力式液圧源54が制御圧通路110を介して接続される。
制御圧通路110に増圧リニア制御弁(SLA)112が設けられ、制御圧通路110とリザーバ94との間に減圧リニア制御弁(SLR)116が設けられる。これら増圧リニア制御弁112,減圧リニア制御弁116の制御により、共通通路102の液圧が制御される(動力式液圧源64の出力液圧が制御されて、共通通路102に供給される)。
また、増圧リニア制御弁112,減圧リニア制御弁116は、いずれもソレノイドのコイルに電流が供給されない場合に閉状態にある常閉の電磁開閉弁であり、コイル126への供給電流の大きさの連続的な制御により、出力液圧の大きさが連続的に制御される。これら増圧リニア制御弁112、減圧リニア制御弁116等により液圧制御アクチュエータ118が構成される。
図3(a)に示すように、増圧リニア制御弁112,減圧リニア制御弁116は、いずれも、弁子120と弁座122とを含むシーティング弁と、スプリング124と、コイル126を備えたソレノイドとを含み、スプリング124の付勢力Fsは、弁子120を弁座122に接近させる向きに作用し、コイル126に電流が供給されることにより駆動力Fdが弁子120を弁座122から離間させる向きに作用する。また、増圧リニア制御弁112において、動力式液圧源64と共通通路102との差圧に応じた差圧作用力Fpが弁子120を弁座122から離間させる向きに作用し、減圧リニア制御弁116において、共通通路102(制御圧通路110)とリザーバ94との差圧に応じた差圧作用力Fpが作用する(Fd+Fp:Fs)。いずれにしても、コイル126への供給電流の制御により、差圧作用力Fpが制御され、共通通路102の液圧が制御される。
また、図3(b)には、コイル126への供給電流Iと開弁圧との関係(差圧と開弁電流との関係であると考えることもできる)である増圧リニア制御弁112の特性を示す。図3(b)から、前後の差圧が大きい場合には開弁電流が小さいことがわかる。
なお、減圧リニア制御弁116の特性も同様である。
【0019】
一方、マスタ通路66a,bが、それぞれ、右前輪14,左前輪12の個別通路100FR,FLの保持弁103FR,FLの下流側(保持弁103FR,FLとブレーキシリンダ42FR,RLとの間の部分)に接続される。マスタ通路66a,66bは共通通路102に接続されることなく、直接ブレーキシリンダ32FR,32FLに接続されるのである。
マスタ通路66a、66bの途中にそれぞれマスタ遮断弁(SMCFR,FL)134FR,FLが設けられる。マスタ遮断弁134FR,FLは、それぞれ、常開の電磁開閉弁である。
また、マスタ通路66bには、ストロークシミュレータ140がシミュレータ制御弁142を介して接続される。シミュレータ制御弁142は常閉の電磁開閉弁である。
【0020】
本液圧ブレーキシステムには、図4に示すブレーキECU148が含まれる。ブレーキECU148は、実行部(CPU)150,入出力部151,記憶部152等を含むコンピュータを主体とするものであり、入出力部151には、ブレーキスイッチ158,ストロークセンサ160,マスタシリンダ圧センサ162,アキュムレータ圧センサ164,ブレーキシリンダ圧センサ166,車輪速度センサ170等が接続される。
ブレーキスイッチ158は、ブレーキペダル50が踏み込まれるとOFFからONになるスイッチである。
ストロークセンサ160は、ブレーキペダル50の操作ストローク(STK)を検出するものであり、本液圧ブレーキシステムにおいては、2つのセンサが設けられ、同様に、ブレーキペダル50の操作ストローク(後退端位置からの隔たり)が検出される。このように、ストロークセンサ160について2系統とされており、2つのセンサのうちの一方が故障しても他方によりストロークを検出することが可能となる。
マスタシリンダ圧センサ162は、マスタシリンダ52の加圧室64bの液圧(PMC)を検出するものであり、マスタ通路66bに設けられる。
アキュムレータ圧センサ164は、アキュムレータ58に蓄えられている作動液の圧力(PACC)を検出するものであり、増圧リニア制御弁112の上流側の液圧を検出するものである。
ブレーキシリンダ圧センサ166は、ブレーキシリンダ32,36の液圧(PWC)を検出するものであり、共通通路102に設けられる。保持弁103の開状態において、ブレーキシリンダ32,36と共通通路102とが連通させられるため、共通通路102の液圧をブレーキシリンダ32,36の液圧とすることができる。また、ブレーキシリンダ圧センサ166による検出値は、増圧リニア制御弁112の下流側、減圧リニア制御弁116の上流側の液圧として使用され、前後の差圧が取得される。
車輪速度センサ170は、左右前輪12,14、左右後輪16,18に対応してそれぞれ設けられ、車輪の回転速度を検出する。また、4輪の回転速度に基づいて車両の走行速度が取得される。
また、入出力部151には、増圧リニア制御弁112,減圧リニア制御弁116,保持弁103、減圧弁106,マスタ遮断弁134、シミュレータ制御弁142等ブレーキ回路に含まれるすべての電磁開閉弁(以下、単にすべての電磁開閉弁と略称することがある)のコイル、ポンプモータ92等が図示しない駆動回路を介して接続される。
さらに、記憶部152には、種々のプログラム、テーブル等が記憶されている。
なお、本液圧ブレーキシステムにおいては、増圧リニア制御弁112,減圧リニア制御弁116等によりブレーキ力制御機構としての液圧制御機構が構成されると考えたり、増圧リニア制御弁112,減圧リニア制御弁116,保持弁103,減圧弁106等により液圧制御機構が構成されると考えたりすることができる。
【0021】
以上のように構成された液圧ブレーキシステムにおける作動について説明する。
<液圧制御機構の制御>
液圧ブレーキ22,26の作動要求があった場合には、要求液圧制動トルクが取得され、要求液圧制動トルクを実現し得るブレーキシリンダ液圧の目標値が求められる。そして、実際のブレーキシリンダ液圧が目標液圧に達するように、マスタ遮断弁134の閉状態、保持弁103の開状態、減圧弁106の閉状態において、液圧制御アクチュエータ118が制御される。
要求液圧制動トルクは、前述のように、総要求制動トルクに基づいて取得されるのであり、運転者のブレーキペダル50の操作状態に基づいて取得される場合、車輪のスリップ状態に基づいて取得される場合、周辺物体との相対位置関係に基づいて取得される場合等がある。運転者のブレーキペダル50の操作状態は、ストロークセンサ160の検出値、マスタシリンダ圧センサ166の検出値等に基づいて取得され、車輪のスリップ状態は車輪回転センサ170の検出値に基づいて取得される。
また、アンチロック制御、トラクション制御等が行われる場合には、保持弁103,減圧弁106が、それぞれ、開閉させられる。
【0022】
図5は、ブレーキECU148によって実行される液圧制御の概要を示す機能ブロック図である。制御対象としての液圧制御アクチュエータ118がフィードフォワード制御部180とフィードバック制御部182とにより制御される。また、制御の目標値はブレーキシリンダの目標液圧Prefであり、出力はブレーキシリンダ液圧センサ166による出力液圧Pwである。
フィードフォワード制御部180は、目標液圧Prefに基づいてフィードフォワード増圧電流IFSLA およびフィードフォワード減圧電流IFSLR を算出する。また、フィードバック制御部182は、目標液圧Pref からブレーキシリンダ液圧センサ166によって検出された実際のブレーキ液圧Pwを減じた値である偏差errorを0に近づけるための電流としてのフィードバック増圧電流IBSLA およびフィードバック減圧電流IBSLR を算出する。このように、本液圧ブレーキシステムにおけるブレーキECU148の制御は、フィードフォワード制御とフィードバック制御とを共に含んでいるのである。
【0023】
液圧制御アクチュエータ118の増圧リニア制御弁112,減圧リニア制御弁116各々への供給電流は、図6のフローチャートで表されるリニア制御弁制御プログラムの実行に従って決定される。本プログラムは、予め定められた制御サイクルタイム毎に実行される。
ステップ1(以下、S1と略称する。他のステップについても同様とする)において、液圧ブレーキ22,26の作動要求があるか否かが判定され、作動要求がない場合には、S6において、増圧リニア制御弁112のコイル126,減圧リニア制御弁116のコイル126への供給電流が0とされる。
作動要求がある場合には、S2において、前述のように、目標液圧Pref が決定され、S3において、ブレーキシリンダ液圧センサ166によりブレーキ液圧Pw が検出され、目標液圧Pref からブレーキ液圧Pw を引いた値が偏差error(Pref −Pw )として求められる。また、S4において、実際のブレーキシリンダ液圧Pw、目標液圧Pref、不感帯幅ΔBに基づいて制御モードが決定される。S5において、決定された制御モードが、増圧モード,減圧モード,保持モードのいずれであるか検出される。
決定された制御モードが保持モードである場合には、S6において、増圧リニア制御弁112,減圧リニア制御弁116への供給電流が0とされる。
増圧モードである場合には、S7において、増圧リニア制御弁112への供給電流ISLA が決定される。この場合には、減圧リニア制御弁116への供給電流ISLR は0である。
減圧モードである場合には、S8において減圧リニア制御弁116への供給電流ISLR が決定される。この場合には、増圧リニア制御弁112への供給電流ISLA は0とされる。
【0024】
制御モードは、本液圧ブレーキシステムにおいては、図7に示すように決定される。不感帯幅ΔBは、後述するように変更されることがあるが、その時点において決定(記憶)されている値が用いられる。決定(記憶)されている値は、予め定められた値(デフォルト値)の場合もある。
目標液圧Prefと不感帯幅ΔBとに基づいて、減圧しきい値Pthd、増圧しきい値Pthu
Pthd=Pref+ΔB/2
Pthu=Pref−ΔB/2
が決定される。
実際のブレーキシリンダ液圧Pw が、減圧しきい値Pthdより大きい場合には減圧モードが設定され、増圧しきい値Pthuより小さい場合には増圧モードが設定され、それ以外の場合には保持モードが設定される。
このように、不感帯幅ΔBが大きい場合には、増圧モード、減圧モードが設定される機会が少なくなるのであり、増圧リニア制御弁112,減圧リニア制御弁116が作動させられる機会が少なくなる。
本液圧ブレーキシステムにおいては、保持モードから減圧モードに切り換わる場合のしきい値と減圧モードから保持モードに切り換わる場合のしきい値とが同じ大きさ、同様に、保持モードから増圧モードに切り換わる場合のしきい値と増圧モードから保持モードに切り換わる場合のしきい値とが同じ大きさとされている。
【0025】
増圧リニア制御弁112,減圧リニア制御弁116への供給電流は、フィードフォワード制御部180によるフィードフォワード電流(IFSLA ,IFSLR)と、フィードバック制御部182によるフィードバック電流(IBSLA ,IBSLR)との和として求められる。
増圧リニア制御弁112についてのフィードフォワード増圧電流IFSLA が、式
IFSLA =(KF ・dPref +Iadj-ap+ΔI)
に従って決定され、フィードバック増圧電流IBSLA が、式
IBSLA =f(KB ・error )
に従って決定される。
そして、これらの和
ISLA =IFSLA +IBSLA
が増圧リニア制御弁112への供給電流ISLAとされるのである。
【0026】
フィードフォワード制御部180における供給電流IFSLA の値Iadj-apは、図3(b)のマップで表される開弁電流決定テーブルに従って決定される開弁電流である。
開弁電流Iadj-apは、その時点の増圧リニア制御弁112の前後の差圧ΔPの増加に伴って減少する値であり、開弁電流Iadj-apがコイル126に供給された場合は、差圧作用力と電磁駆動力との和とスプリング124の弾性力とが釣り合う状態にある。
値(KF ・dPref)は、増圧リニア制御弁112を、ブレーキシリンダの液圧が目標液圧Prefに近づくまで開状態に保つために必要な電流である。係数KFは、フィードフォワード制御における制御ゲインである。
【0027】
適応電流ΔIは、ブレーキシリンダ液圧の振動状態に基づいて決まる補正電流である。本液圧ブレーキシステムにおいては、図3(b)に示すテーブルに従って求められる開弁電流Iadj-apに適応電流ΔIである補正電流を加えた大きさがリニア制御弁の実際の作動開始電流となるように適応電流ΔIが決定される。テーブルは一律に決定されるが、作動開始電流は、実際の増圧リニア制御弁112の状態(スプリングの弾性力の大きさや作動環境等)によって異なる。そのため、テーブルに従って決定される開弁電流Iadj-apを加えても、実際に開状態に切り換えられる場合と切り換えられない場合があるのであり、応答が過敏になったり応答遅れが生じたりする。そこで、本液圧ブレーキシステムにおいては、テーブルに従って求めれる開弁電流Iadj-apに適応電流ΔIを加えた電流が供給された場合に、現実に閉状態から開状態に切り換えられるように、適応電流ΔIがブレーキシリンダ液圧の振動状態に基づいて決定されるのである。換言すれば、ブレーキシリンダ液圧の変化頻度が高い場合には、作動開始電流が大き過ぎると考えられるため、適応電流ΔIが小さくされ(負の値とされ)、ブレーキシリンダ液圧の変化遅れが大きい場合には、作動開始電流が小さ過ぎると考えられるため、適応電流が大きくされる(正の値とされる)。
このように、フィードフォワード電流はステップ的に作動開始電流だけ増加させられた後に、フィードフォワード制御ゲインに応じた勾配で、目標液圧の変化に応じて漸増させられる。
減圧リニア制御弁116のコイルへの供給電流についても同様である。
本液圧ブレーキシステムにおいては、ブレーキECU148の図6のフローチャートで表されるリニア制御弁制御プログラムを記憶する部分、実行する部分等により電流制御利用ブレーキ力制御部が構成される。電流制御利用ブレーキ力制御部は、電磁弁電流制御部でもある。また、動力式液圧源54,液圧制御アクチュエータ118、電磁弁電流制御部等により電磁弁制御利用液圧制御装置が構成される。
【0028】
<ブレーキシリンダ液圧の振動状態の検出>
ブレーキシリンダ液圧の振動状態は、本液圧ブレーキシステムにおいてはハンチングレベルで表される。ハンチングレベルは、ハンチング傾向の強さを表す値であり、ハンチングレベルが高い場合はハンチングが生じる可能性が高いとすることができる。
本液圧ブレーキシステムにおいては、ハンチングレベルが、ブレーキシリンダ液圧が図7の増圧しきい値Pthuより小さくなってから減圧しきい値Pthdより大きくなるまでの間隔、減圧しきい値Pthdより大きくなってから増圧しきい値Pthuより小さくなるまでの間隔が設定時間より短い場合の回数として表される。この液圧変化間隔時間が短いとされる回数が多いほどハンチング傾向が高い状態(ブレーキシリンダ液圧の振動状態)にあるとすることができる。
なお、ブレーキシリンダ液圧が増圧しきい値Pthuより小さくなると保持モードから増圧モードに切り換えられ、増圧リニア制御弁112が閉状態から開状態に切り換えられる。また、ブレーキシリンダ液圧が減圧しきい値Pthdより大きくなると保持モードから減圧モードに切り換えられ、減圧リニア制御弁116が閉状態から開状態に切り換えられる。そのため、ブレーキシリンダ液圧変化間隔は、増圧リニア制御弁112,減圧リニア制御弁116の作動間隔に対応する。
また、ブレーキシリンダ液圧の振動状態とハンチングレベルとは、常に対応するとは限らない。増圧しきい値Pthu、減圧しきい値thdが固定値である場合には、ブレーキシリンダ液圧の振動状態が同じであれば、ハンチングレベルも同じになるが、増圧しきい値Pthu、減圧しきい値Pthdが可変値とされて大きい値にされると、ブレーキシリンダ液圧の振動状態が同じであってもハンチングレベルが小さくなる場合がある。この場合には、みかけ上、ハンチング傾向が小さくなり、振動状態が改善されたと考えられる。また、ハンチング傾向が小さくされるため、ブレーキシリンダ液圧の振動状態が改善されなくても、増圧リニア制御弁112,減圧リニア制御弁116の作動頻度は低くされる。以下、本明細書において、これらの場合を区別することなく、ハンチング傾向が改善されたと称することがある。
ハンチングレベルは図8のフローチャートで表されるハンチングレベル検出プログラムの実行に従って検出される。このプログラムの実行に従ってハンチングレベルが実際に検出される場合の状態を図11に示す。
【0029】
ブレーキシリンダ液圧Pwが増圧しきい値Pthu より小さくなった時点からの経過時間が、しきい値A(時間)に達する以前にブレーキシリンダ液圧Pwが減圧しきい値Pthdより大きくなった場合(保持モードから減圧モードに切り換えられた場合)に、ハンチングレベルCHが1増加させられ、しきい値Bに達する以前に、再度、ブレーキシリンダ液圧Pwが増圧しきい値Pthuより小さくなった場合(保持モードから増圧モードに切り換えられた場合)に1増加させられる。液圧変化間隔時間が設定時間(時間A,時間B)より短い場合にハンチングレベルCHが1増加させられるのである
また、時間がしきい値Cに達するまでに、一度も減圧しきい値Pthdより大きくならなかったこと(減圧モードが設定されなかったこと)を含む予め定められたリセット条件が満たされた場合には、ハンチングレベルCHがリセットされ、時間がしきい値Bに戻される(A<B<C)。
時間を計測するタイマは、増圧モードが設定される毎にリセットされる(タイマカウンタCTのカウント値が0にリセットされる)。
なお、ブレーキシリンダ液圧Pwが減圧しきい値Pthdより大きくなった時点を基準としてハンチング傾向が検出されるようにすることができ、その場合においても、同様にハンチング傾向を検出することができる。
【0030】
タイマの制御(タイマカウンタCTによるカウント)は図9のフローチャートで表されるタイマ制御プログラムの実行に従って行われる。
S11において液圧制御アクチュエータ118が制御中である否かが判定される。タイマの制御は(ハンチングレベルの検出も)液圧制御アクチュエータ118の制御中において行われる。そのため、制御中でない場合には、S11の判定がNOとなり、S12においてタイマカウンタCTのカウント値が0にされる。
液圧制御アクチュエータ118の制御中においては、S13においてタイマカウンタCTがカウントアップされるのであるが、ブレーキシリンダ液圧が増圧しきい値Pthuより小さくなった場合(保持モードから増圧モードに切り換えられた場合)には、S14における判定がYESとなって、S15においてタイマカウンタCTが0にリセットされる。
そして、次に、保持モードから増圧モードに切り換えられるまでの間、すなわち、増圧モードが設定されている間、保持モードが設定されている間、減圧モードが設定されている間には、S14の判定はNOとなるため、S16において、タイマカウンタCTのカウント値に対応する時間が時間C(しきい値C)に達したか否かが判定される。しきい値Cに達する前においては、S13において、タイマカウンタCTのカウント値が増加させられる。しきい値Cに達した場合には、S16の判定がYESとなって、S17においてタイマカウンタCTのカウント値が時間B(しきい値B)に対応する値にリセットされる。
【0031】
ハンチングレベルは、このタイマを利用して検出されるのであり、液圧制御アクチュエータ118の制御中に検出される。
図8のフローチャートにおいて、S28において、目標液圧Prefの変化勾配(時間に対する変化量)が設定勾配dPs以上であるか否かが判定される。設定勾配dPs以上である場合には、S29において、ハンチングレベルCHが0にされる。この場合には、後述するように適応電流ΔIが0にされる。
目標液圧Prefの変化勾配が設定勾配dPsより小さい場合には、S30以降が実行される。S30〜37において、ハンチングレベルCHがカウントされて、S38以降において、ハンチングレベルCHのリセット条件が満たされるか否かが判定される。
【0032】
S30、31において、タイマカウンタCTのカウント値がほぼ0であるか否かが判定され、ほぼ0である場合には、その時点のハンチングレベルCHの値が記憶される。S32においてタイマカウンタCTのカウント値に対応する時間(経過時間)が時間(しきい値)Aに達したか否かが判定される。しきい値Aに達する前には、S33において、実際のブレーキシリンダ液圧Pwが減圧しきい値Pthdを超えたか否か(保持モードから減圧モードに切り換えられたか否か)が判定される。減圧モードに切り換えられた場合には、S34において、ハンチングレベルCHが1カウントアップされるが、しきい値Aに達する以前に減圧モードが設定されなかった場合には、カウント値が増加させられることはない。
しきい値Aに達した後は、S33,34が実行されることなく、S35において、タイマカウンタCTのカウント値がしきい値Bに対応する値に達したか否かが判定される。しきい値Bに対応する時間に達する前には、S36において、実際のブレーキシリンダ液圧Pwが増圧しきい値Pthuより小さくなったか否か(保持モードから増圧モードに切り換えられた)か否かが判定され、増圧モードに切り換えられた場合には、S36における判定がYESとなって、S37においてハンチングレベルCHのカウント値が1増加させられる。増圧モードが設定されない場合にはカウント値がカウントアップされることはない。
このように、本液圧ブレーキシステムにおいては、保持モードから増圧モードに切り換えられてからの経過時間がしきい値Aに達する前に、保持モードから減圧モードに切り換えられた場合、しきい値Bに達する前に保持モードから増圧モードに切り換えられた場合に、ハンチングレベルCHがカウントアップされる。また、しきい値Aに達する前に、増圧モードから保持モードに切り換えられた場合にもカウントアップされる。
【0033】
しきい値Bに達した場合には、S38以降が実行される。S38において、その時点のハンチングレベルCHがS31において記憶されたハンチングレベルCHと同じであるか否かが判定される。同じである場合には、しきい値Bに達する前に、ハンチングレベルCHが一度もカウントアップされなかったのであり、液圧変化間隔が大きいことがわかる。この場合には、S39において、タイマカウンタCTのカウント値がほぼしきい値Bに対応する値であるか否かが判定され、しきい値Bに対応する値である場合には、S40において、ブレーキシリンダ液圧がブレーキシリンダ液圧センサ166により検出される。次に、S41,42において、ほぼしきい値Cである場合のブレーキシリンダ液圧が検出され、S43においてほぼしきい値Bに達した場合の液圧とほぼしきい値Cに達した場合の液圧との差(しきい値Bからしきい値Cまで時間が経過するまでの間の液圧の変化量)の絶対値が設定量αより小さいか否かが判定される。しきい値Bからしきい値Cまでの時間内(設定時間内)における液圧の変化量の絶対値が設定量αより小さい場合{|ΔPw|<α}にはリセット条件が成立したとして、ハンチングレベルCHのカウント値がS44において0にされる。ブレーキシリンダ液圧の変化が小さく、ハンチング傾向にあるとの検出が誤っていたと考えられる。
このように、ハンチングレベルCHが1以上である場合には、液圧変化間隔が短く、ハンチング傾向があるとすることができるのであるが、ハンチング傾向であると検出された場合には、応答遅れが生じたか否かが検出される。応答遅れが検出された場合には、リセット条件が成立したとして、ハンチングレベルCHが0にされる。
本液圧ブレーキシステムにおいては、ブレーキECU148の図8のフローチャートで表されるハンチング検出プログラムを記憶する部分、実行する部分等により振動状態検出装置が構成される。振動状態検出装置は、不感帯利用振動状態検出部、センサ値依拠振動状態検出部でもある。
なお、ハンチングレベルのカウントの方法は、本液圧ブレーキシステムにおける方法に限定されない。しきい値Bに達するまでに実際のブレーキシリンダ液圧が減圧しきい値を超えなかった場合には、ハンチングレベルがリセットされるようにすることもできる。
【0034】
<供給電流量を決定する規則(第1規則)の内容の変更>
適応電流ΔIは、ハンチングレベルに応じて決定される。例えば、図12に示すように、ハンチングレベルCHが大きい場合は小さい場合よりΔIの絶対値が大きくされる。ハンチングレベルCHが大きい場合は小さい場合より、適応電流ΔIが負で大きい値となる。フィードフォワード電流が小さくされることによって、増圧リニア制御弁112の作動開始時期が遅くされる。
なお、図11に示す態様でハンチングレベルCHが検出される場合には、ハンチングレベルCHが負の値になることはないが、応答遅れが検出された場合にハンチングレベルCHが(−1)としてカウントされる場合には、ハンチングレベルCHが負の値となることもあり得る。しかし、応答遅れについては、本発明の実施と関係がないため、説明を省略する。
【0035】
図12に示すように、ハンチングレベルCHが0から+1の間にある場合には、適正電流(補正値)ΔIは0とされる。電流の変更についてハンチングレベルCH(応答性レベル)に不感帯が設けられるのであり、不要な場合に供給電流が変更されることを回避することができる。
また、適応電流ΔIには下限値(負)が決められている。ハンチングレベルCHが設定値mより大きくなっても、適応電流ΔIが下限値より小さくされないようにされている。フィードフォワード電流が小さくなり過ぎることが防止される。
適応電流ΔIは図10のフローチャートに従って決定される。
S51において、ハンチングレベルCHが設定値nより大きいか否かが判定される。nは、不感帯の上限値を表すハンチングレベルCHであり、本液圧ブレーキシステムにおいては1である。ハンチングレベルCHの不感帯に属しているか否かが判定されるのである。設定値nより大きく、不感帯に属していない場合には、S52において、適応電流ΔIが式
ΔI=−Δ・(H−n)
に従って求められる。ここで、Δは、適応電流を決定する際の基準単位であり、Δが(H−n)倍された値が適応電流ΔIとされる。S53において、適応電流ΔIが下限値Limit(負の値)より小さいか否かが判定され、小さい場合には、適応電流ΔIがS55において下限値Limitとされる。
【0036】
ハンチングレベルCHが設定値nより小さい場合、すなわち、不感帯に属する場合には、S55において、適応電流ΔIが0とされる。
このように、本液圧ブレーキシステムにおいては、適応電流ΔIの大きさがハンチングレベルCHに応じて変更されるのであり、増圧リニア制御弁112のコイル126への供給電流量を決定する際の規則がハンチングレベルCHが設定値nより大きい場合と設定値n以下である場合とで変更される。増圧リニア制御弁112への供給電流量(フィードフォワード電流)の決定の規則が第1規則に対応し、第1規則がハンチングレベルCHに基づいて変更されるのである。
減圧リニア制御弁116への供給電流量についても同様に決定され、同様に変更される。
本液圧ブレーキシステムにおいては、ブレーキECU148の図10のフローチャートで表される適応電流決定プログラムを記憶する部分、実行する部分等により第1規則変更部が構成される。第1規則変更部は、電流量決定規則変更部でもある。
【0037】
なお、本液圧ブレーキシステムにおいては、適応電流ΔIの値がハンチングレベルCHに応じた値にされることにより、フィードフォワード電流が変更される(フィードフォワード電流を決定する規則が変更される)ようにされていたが、フィードフォワード制御ゲインを変更することによってフィードフォワード電流が変更される(フィードフォワード電流決定規則が変更される)ようにすることもできる。
また、本液圧ブレーキシステムにおいては、フィードフォワード電流が変更され、フィードバック電流が変更されることはなかったが、フィードバック電流も変更されるようにすることができる。例えば、フィードバック制御ゲインが変更されるようにすることができる。
【0038】
<逆入力に起因する振動の判定>
このように、ハンチングレベルCHに応じて適応電流ΔIが決定され、ハンチングレベルCHが大きい場合は小さい場合より、増圧リニア制御弁112への作動開始時電流(Iadj-ap+ΔI)が、実際のブレーキシリンダ液圧(前後の差圧)が同じであっても小さくされる。そのため、ハンチング傾向を改善することが可能となる。
しかし、適応電流ΔIが下限値Limitとされて、増圧リニア制御弁112への供給電流が小さくされても、ハンチング傾向が改善されない場合には、ハンチング傾向の原因が制御側(液圧制御アクチュエータ118の制御)にあるのではなく、液圧ブレーキ22,26(出力側)にあると考えられる。例えば、ドラムブレーキ26のドラムが偏心して取り付けられたこと、ディスクブレーキ22のディスクロータの厚みむらがあること、ドラムやディスクに異物やさびが付着したこと等に起因する振動は、液圧制御アクチュエータ118への供給電流が小さくされても、影響を受け難く、ハンチング傾向が改善され難いと考えられる。このように出力側(液圧ブレーキ側)の原因で生じる振動を逆入力に起因する振動と称する。
すなわち、適応電流ΔIが下限値Limitとされれば、制御側に原因がある大部分の振動は抑制されると考えられる。それに対して、適応電流ΔIが下限値Limitに達するまで小さくされても、ハンチング傾向が改善しない(例えば、ハンチングレベルのカウントアップ速度が遅くならない)場合には、出力側の原因による振動であると考えられる。本液圧ブレーキシステムにおいては、適応電流ΔIが下限値Limitにされたことが、電流量決定規則の内容が設定内容に変更されたことに対応する。
【0039】
逆入力判定プログラムを表すフローチャートを図13に示す。本プログラムは、予め定められた設定時間毎に実行される。
S80において、適応電流ΔI(負の値)が下限値Limit(負の値)以下であるか否かが判定される。下限値Limitより大きい場合には、S81において逆入力フラグがOFFにされる。図12に示すように、ハンチングレベルCHが設定値m以上になると、適応電流ΔIが下限値Limitにされるのであり、ハンチングレベルCHが設定値mより小さい間は、S80の判定がNOとなるのであり、S80,81が繰り返し実行される。
ハンチングレベルCHが設定値m以上になり、適応電流ΔIが下限値Limit以下になると、S80の判定がYESとなり、S82において、第1設定時間が経過したか否かが判定される。第1設定時間が経過していない場合には、S83において、ハンチングレベルCH、タイマのカウント値等が読み込まれて、記憶される。
適応電流ΔIが下限値Limit以下になってからの経過時間が第1設定時間に達するまでの間、S80〜83が実行され、ハンチングレベルCH等が読みとられるが、第1設定時間に達した場合には、S84において、ハンチング傾向が改善したか否かが判定される。例えば、ハンチングレベルCHのカウントアップ速度が適応電流ΔIが下限値Limitに達する前におけるカウントアップ速度と比較して遅くなった場合、第1設定時間の間に、ハンチングレベルCHが全くカウントアップされなかった場合等には改善したと判定される。
ハンチング傾向が改善したと判定された場合には、逆入力ではないと考えられるため、S81において、逆入力フラグがOFFとされる。
それに対して、ハンチング傾向が改善しない場合には、逆入力に起因する振動であると考えられるため、S85において、逆入力フラグがONとされる。
【0040】
なお、適応電流ΔIが下限値Limitに達する前のハンチングレベルCHのカウントアップ速度は、例えば、ハンチングレベルCHと下限値Limitに達するまでのタイマのカウント値の合計とから求めることができるのであり、ハンチングレベルCHのカウントアップ速度は予め取得されて、記憶されている。
また、適応電流ΔIが下限値Limitに達する前後でカウントアップ速度を比較する場合、平均的なカウントアップ速度同士を比較しても、変化間隔が最も短い時間同士を比較してもよい等、比較の方法は問わない。
さらに、第1設定時間は、カウントアップ速度同士を比較するために、ハンチング傾向を検出し得る長さとされるが、例えば、車輪が1回転する間の時間より長い時間とすることができる。逆入力に起因する振動の場合には、ブレーキシリンダ液圧は、車輪が1回転する場合の変化を1周期として振動するため、1回転に要する時間の振動を検出すれば、カウントアップ速度を取得すること(ハンチング傾向を取得すること)ができる。
また、第1設定時間は、固定値であっても可変値であってもよい。例えば、適応電流ΔIが下限値Limitに達する前のカウントアップ速度に基づいて決定することができる。第1設定時間の間に、ハンチングレベルがカウントアップされなかった場合には適応電流ΔIが下限値Limitに達する前よりカウントアップ速度が遅くなったと判定し得る長さとすることができるのである。
【0041】
本液圧ブレーキシステムにおいては、逆入力に起因する振動が検出された場合には、不感帯幅ΔBが大きくされる。不感帯幅ΔBは、増圧モード、保持モード、減圧モードを決定するための規則(第2規則)の内容を表すものであり、不感帯幅ΔBが変更されることにより、第2規則の内容が変更されることになる。不感帯幅ΔBが大きくされれば、液圧制御アクチュエータ118の作動間隔時間を長くすることができる。以下の各実施例において、不感帯幅ΔBを大きくする具体的な態様について説明する。
【実施例1】
【0042】
<不感帯幅変更1>
実施例1においては、振動状態が安定側設定状態に達するまで、不感帯幅が漸増させられる。
安定側設定状態は、第2設定時間の間のハンチングレベルの増加量がしきい値βより小さい状態をいう。しきい値βは、例えば、1あるいは2等の小さい値とすることができ、第2設定時間は、ハンチング傾向を取得し得る長さの時間であり、第1設定時間と同じ長さとすることができる。また、固定値であっても可変値であってもよい。
不感帯幅変更プログラムを表すフローチャートを図14に示す。不感帯幅変更プログラムは、予め定められた制御サイクルタイム毎に実行される。
S90において、逆入力フラグがONであるか否かが判定される。OFFである場合には、S91以降が実行されることはない。
逆入力フラグがONである場合には、S91,92において初期設定が行われる。S91において、初期設定が終了したか否かが判定され、終了していない場合には、その時点の不感帯幅ΔBがΔBH大きくされ、その時点のハンチングレベルCHが読み込まれ、CH(0)とされる。
ΔB←ΔB+ΔBH
n←0
CH(0)←CH
制御において用いられる不感帯幅{制御モードを決定する際の不感帯幅}が実際に変更されるのであり、その変更された不感帯幅が記憶される。
ΔBHは、適正な不感帯幅を取得するために、不感帯幅ΔBを少しずつ大きくする場合の単位量であり、不感帯幅ΔBに比較して小さい値である。
【0043】
S93において、不感帯幅ΔBがΔBHだけ増加させられた時点からの経過時間が第2設定時間に達したか否かが判定される。第2設定時間が経過する前は、判定がNOとなる。
次に、本ルーチンが実行される場合には、初期設定が終了しているため、S90,91,93が繰り返し実行される。そのうちに、第2設定時間が経過すると、S93の判定がYESとなり、S94において、ハンチングレベルCHが読みとられ、今回値とされる。
n←n+1
CH(n)←CH
最初にS94が実行された場合には、n=1となり、今回値はCH(1)となる。
S95において、今回値CH(1)から前回値CH(0)を引いた値がしきい値βより小さいか否かが判定される。
CH(1)−CH(0)<β
第2設定時間が経過するまでの間のハンチングレベルCHの増加量がしきい値β以上である場合には、安定側設定状態に至っていないため、S96において、さらに、不感帯幅ΔBがΔBHだけ大きくされ(ΔB←ΔB+ΔBH)、本プログラムにおいて使用されるタイマ(第2設定時間が経過したことを検出するためのタイマ)がリセットされる。
【0044】
次に、本ルーチンが実行される場合には、S90,91,93が同様に実行される。そして、S90〜93が繰り返し実行されるうちに、第2設定時間が経過すると、S93の判定がYESとなり、S94,95において、今回値から前回値を引いた値がしきい値βより小さいか否かが判定される{CH(2)−CH(1)<β}。第2設定時間が経過するまでの間のハンチングレベルCHの増加量がしきい値β以上である場合には、S96,97により、不感帯幅ΔBが設定量ΔBH大きくされて、タイマがリセットされる。
以下、第2設定時間が経過するまでの間のハンチングレベルCHの増加量がしきい値βより小さくなるまで、不感帯幅ΔBがΔBHずつ漸増させられる。
S90,91、93あるいは、S90,91,93〜97が繰り返し実行される。そのうちに、第2設定時間内のハンチングレベルの増加量がしきい値βより小さくなり、式
CH(n)−CH(n-1)<β
が満たされた場合には、S95の判定がYESとなり、S98において、初期値がクリアされる。
現時点においては、不感帯幅ΔB(今回値であり、直前のS96において求められた不感帯幅)が記憶されていることになる。ハンチングレベル検出プログラムの実行により取得された振動状態が安定側設定状態に至ったため、それ以降、不感帯幅ΔBが漸増させられることがない。S96において求められた不感帯幅ΔBが変更後の(大きくされた)不感帯幅(今回値)とされる。
また、仮に、第2設定時間が経過するまでの間に、ハンチングレベルがリセットされた場合には、ハンチングレベルの今回値は0となるため、今回値から前回値を引いた値は0より小さい値となり、S95における判定はYESとなる。
このように、ハンチング傾向が抑制されると、逆入力判定プログラムのS84の判定がYESとなり、S81において、逆入力フラグがOFFとされる。
また、不感帯幅変更プログラムにおいてS90の判定がNOとなり、S91以降が実行されることがない。本プログラムの実行により、不感帯幅ΔBがそれ以上大きくされることはないのである。
【0045】
例えば、図1に示すように、不感帯幅ΔBがΔBHだけ大きくされると、増圧しきい値Pthuは、
Pthu=Pref−(ΔB+ΔBH)/2
とされ、減圧しきい値Pthdは、
Pthd=Pref+(ΔB+ΔBH)/2
とされる。
このように、増圧しきい値Pthuが小さくされ、減圧しきい値Pthdが大きくされるため、ブレーキシリンダ液圧Pwが増圧しきい値Pthu、減圧しきい値Pthdを超え難くなる。
しかし、充分にハンチング傾向が改善されない場合には、さらに、ΔBHだけ大きくされる。増圧しきい値Pthuは、
Pthu=Pref−(ΔB+ΔBH)/2−ΔBH/2
とされ、減圧しきい値Pthdは、
Pthd=Pref+(ΔB+ΔBH)/2+ΔBH/2
とされる。
不感帯幅ΔBを2回大きくして、ハンチング傾向が改善された場合には、不感帯幅は、変更前の不感帯幅ΔBより2×ΔBHだけ大きい値に変更される(記憶される)。以降、変更された不感帯幅に基づいて液圧制御アクチュエータ118の制御が行われる。
本実施例においては、振動状態が安定側設定状態に達するように、不感帯幅ΔBが漸増させられるため、変更後の不感帯幅を適正な大きさにすることができる。
【0046】
このように、不感帯幅を大きくすることによって、第2設定時間内のハンチングレベルCHの増加量がしきい値βより小さくされ、安定側設定状態とされる。そして、第2設定時間内のハンチングレベルCHのカウントアップ値がしきい値βより小さい(0または1である)場合には、ハンチング傾向が小さい状態であると考えることができ、適応電流ΔIが下限値Limitに達する以前(逆入力に起因するハンチング傾向であると判定される時)より、ハンチング傾向が改善されたと考えることができる。
厳密に言えば、不感帯幅を大きくしても、実際のブレーキシリンダ液圧の振動状態は改善されないが、ハンチングレベルで表される振動状態(ハンチング傾向)は改善されたのであり、液圧制御アクチュエータ118の制御ハンチングは改善されたと考えることができる。すなわち、第1規則の変更によっては改善できないが、第2規則の変更によって改善されたのである。
以上のように、本実施例においては、ブレーキECU148の図14のフローチャートを記憶する部分、実行する部分等により第2規則変更部が構成される。第2規則変更部は、不感帯幅変更部、不感帯幅漸増部、不改善時変更部でもある。
【0047】
なお、不感帯幅ΔBは、ハンチング傾向が改善されるか否かとは関係なく、予め定められた設定値ΔBsだけ大きくする(ΔB←ΔB+ΔBs)こともできる。
また、不感帯幅ΔBが大きくされた後は、適応電流ΔIを0に戻すこともできる。ハンチングレベルCHがリセットされた場合には、適応電流ΔIが0にされるが、ハンチングレベルCHがリセットされなくても、適応電流ΔIを0にすることもできる。
さらに、安定側設定頻度(第2設定時間、しきい値β)は、可変値とすることもできる。例えば、不感帯幅ΔBが大きくされることにより、ハンチング傾向が適応電流ΔIが下限値Limitに達する前のハンチング傾向より改善されたとみなされる値に設定することができる。例えば、適応電流ΔIが下限値Limitに達する前のハンチングレベルのカウントアップ速度より小さい値となるように、第2設定時間、しきい値βを決定することができるのである。
【実施例2】
【0048】
<不感帯幅変更2>
実施例1においては、逆入力に起因する振動状態であると考えられる場合には、ハンチング傾向が小さくなるまで(改善されるまで)不感帯幅が漸増させられるようにされていたが、実施例2においては、逆入力に起因する振動状態であると考えられる場合には、ハンチングレベルCHがクリアされて、第3設定時間の間、逆入力レベルCHR(=CH)が検出され、逆入力レベルCHRに応じた大きさに変更後の不感帯幅が決定される。逆入力レベルCHRと不感帯幅ΔBの増加量ΔBHRとの関係が予めテーブル化されており、そのテーブルを利用して、不感帯幅ΔBの増大量ΔBHRが取得され、変更後の不感帯幅ΔB(ΔB=ΔB+ΔBHR)が取得されるのである。図16に示すように、実施例2においては、逆入力レベルCHRの増加に伴って不感帯幅ΔBの増大量ΔBHRが直線的に大きくなる関係とされている。
なお、逆入力レベルCHRのカウント方法は、ハンチングレベルCHのカウント方法と同じである。
【0049】
その場合の不感帯幅変更プログラムの一例を図15のフローチャートで表す。
S121において、逆入力フラグがONであるか否かが判定され、ONである場合には、S122、123において初期設定が行われる。S122において初期設定が終了したか否かが判定され、終了していない場合には、S123において、ハンチングレベルCHが0と(クリア)され、ハンチングレベルCHが逆入力レベルCHRとされる。
S124において、S123が実行されてから第3設定時間が経過したか否かが判定される。第3設定時間が経過する前には、S121の実行に戻されるが、ここでは、初期設定は終了しているため、S121,122,124が繰り返し実行される。第3設定時間の経過するまでの間、図8のフローチャートで表されるハンチングレベル検出ルーチンの実行において、逆入力レベルCHRがカウントされる。
第3設定時間が経過すると、S124の判定がYESとなり、S125において、逆入力レベルCHRが取得され、S126において、図16のテーブルに従って不感帯幅の増加量ΔBHRが取得され、S127において、変更後の不感帯幅が取得される。
ΔB=ΔB+ΔBHR
その後、S128において、逆入力レベルCHRがクリアされ、逆入力レベルCHRがハンチングレベルCHとされる。
【0050】
このように、本実施例においては、不感帯幅変更量ΔBHRが、逆入力に起因する振動であると判定された後にカウントされた逆入力レベルCHRが大きいほど大きい値とされるため、不感帯幅ΔBを適正な値に変更することができる。
第3設定時間は、逆入力レベルCHRの大きさを取得可能な時間とされ、図16のテーブルを作成する際に用いられた時間であり、予め定められた固定値である。第3設定時間の長さについては限定しないが、第3設定時間が短い方が不感帯幅の変更に要する時間を短くすることができる。第3設定時間は、第1設定時間、第2設定時間の少なくとも一方と同じ長さとすることができる。
ハンチングレベルCHが0とされると、適応電流ΔIが0とされるため、S81の判定がNOとなり、逆入力フラグがOFFにされる。
また、不感帯幅ΔBが大きくされると、適応電流ΔIが下限値Limitに達する前と比較して、ハンチング傾向が改善されるため、S84の判定がYESとなり、逆入力フラグがOFFとされるため、それ以降、不感帯幅ΔBが変更されることがない。
本実施例においては、ブレーキECU148の図15のフローチャートを記憶する部分、実行する部分等および図16のテーブルを記憶する部分により振動状態対応不感帯幅変更部が構成される。
【0051】
なお、本実施例においては、ハンチングレベルCHがクリアされて、逆入力レベルCHRが新たにカウントアップされたが、そのようにすることは不可欠ではなく、第3設定時間内のハンチングレベルCHの増加量を取得して、増加量と不感帯幅の増加量との関係であるテーブルが作成されるようにすることもできる。
【実施例3】
【0052】
<不感帯幅変更3>
実施例3においては、図17に示すように、ブレーキECU200に、実行部(CPU)202,204が2つ設けられる。
実行部202において、図6のフローチャートで表されるリニア制御弁制御プログラムが実行されるとともに、図8のフローチャートで表されるハンチングレベル検出プログラム、図9のフローチャートで表されるタイマ制御プログラム、図10のフローチャートで表される適応電流決定プログラム、図13の逆入力判定プログラムが実行される。
他方の実行部204では、仮不感帯幅ΔBQが設定され、仮増圧しきい値PQthu、仮減圧しきい値PQthdが取得され、実際のブレーキシリンダ液圧Pw(ブレーキシリンダ液圧センサ166の検出値)が仮増圧しきい値PQthuより小さくなった回数、仮減圧しきい値PQthdより大きくなった回数がカウントされ、仮ハンチングレベルCHQが取得される。
実際のブレーキシリンダ液圧Pwが仮増圧しきい値PQthuより小さくなっても、仮減圧しきい値PQthdより大きくなっても、増圧モード、減圧モードが設定されることはなく、増圧リニア制御弁112,減圧リニア制御弁116が作動させられることはない。不感帯幅がΔBQであると仮定した場合の仮ハンチングレベルCHQが取得されるのである。
本実施例においては、仮ハンチングレベルCHQが設定値n以下となるような不感帯幅ΔBQが取得されるのであり、逆入力であると判定される前から「変更後の不感帯幅の取得」が開始されることになる。
【0053】
実行部204において、図18のフローチャートで表される仮不感帯幅取得プログラムが予め定められた設定時間毎に実行される。
S151において、仮不感帯幅取得済みフラグがONか否かが判定される。S151が最初に実行される場合には変更後の仮不感帯幅ΔBQは求められていないため、判定がNOとなり、S152において、第4設定時間が経過したか否かが判定される。
第4設定時間は、仮ハンチングレベルを検出し、仮ハンチングレベルに基づいて仮ハンチング傾向を評価できる時間であり、第1〜第3設定時間のうちの少なくとも1つと同じ長さとすることができる。また、可変値であっても固定値であってもよい。
第4設定時間が経過する前には、S153において、図8のフローチャートで表されるハンチングレベル検出プログラムと同様のプログラムが実行されて、仮ハンチングレベルCHRが取得される(図9のフローチャートで表されるタイマ制御プログラムについても同様に実行される)。ただし、本実施例においては、S33において、実際のブレーキシリンダ液圧Pw(ブレーキシリンダ液圧センサ166による検出値)が仮減圧しきい値PQthdより大きくなったか否かが判定される。仮減圧しきい値PQthdは、式
PQthd=Pref+ΔBQ/2
に従って取得された大きさとされる。
また、S14,S36において、実際のブレーキシリンダ液圧Pwが仮増圧しきい値PQthuより小さくなったか否かが判定されるが、仮増圧しきい値PQthuは、式
PQthu=Pref−ΔBQ/2
に従って取得された大きさとされる。
【0054】
第4設定時間が経過する前には、S151〜153が繰り返し実行され、仮ハンチングレベルCHQのカウントが行われる。
第4設定時間が経過した場合には、S152の判定がYESとなり、S154において、第4設定時間内の仮ハンチングレベルCHRの変化量ΔCHR(カウントアップ値)が取得され、しきい値γより小さいか否かが判定される。最初にS154が実行される場合には、前回の仮ハンチングレベルCHRが0であるため、S153において取得された値となる。
しきい値γは、例えば、1あるいは2の小さい値とすることでき、第4設定時間内の仮ハンチングレベルのカウントアップ量がしきい値γより小さい状態が仮安定側設定状態とされる。
第4設定時間内の仮ハンチングレベルのカウントアップ量ΔCHRがしきい値γ以上である場合には、仮不感帯幅ΔBQが使用されても、ハンチング傾向が大きいと推定されるため、S155において、仮不感帯幅ΔBQが大きくされる(ΔBQ←ΔBQ+ΔBHQ)。そして、S156において、第4設定時間をカウントするためのタイマがリセットされ、仮ハンチングレベルCHRが記憶される。
次に、本ルーチンが実行される場合には、S151,152の判定がNOとなるため、S153において、大きくされた仮不感帯幅(ΔBQ←ΔBQ+ΔBHQ)に基づいて、仮ハンチングレベルCHQが検出される。
そして、S151〜153が繰り返し実行され、第4設定時間が経過すると、S152の判定がYESとなり、S154において、仮ハンチングレベルCHRが取得され、前回S156において記憶された値からの変化量ΔCHRがしきい値γより小さいか否かが判定される。
ΔCHR=CHR(n)−CHR(n-1)<γ
第4設定時間の間のカウントアップ量ΔCHRがしきい値γ以上である場合には、さらに、仮不感帯幅ΔBQがΔBHQだけ大きくされ、仮ハンチングレベルのカウントが行われる。
第4設定時間内のカウントアップ量ΔCHRがしきい値γ以上である間、S151〜153あるいは、S151、152,154〜156が繰り返し実行される。仮不感帯幅ΔBがΔBHRずつ漸増させられつつ、仮ハンチングレベルCHRが検出されるのである。
そして、第4設定時間内のカウントアップ量ΔCHRがしきい値γより小さくなると、S154の判定がYESとなり、S157,158において、仮不感帯幅ΔBQが取得されて記憶され、仮不感帯幅取得済みフラグがセットされる。
以後、S151の判定がYESとなるため、S152以降が実行されることがない。
【0055】
一方、実行部202において、図19のフローチャートで表される不感帯幅変更プログラムが実行される。
S160において、逆入力フラグがONであるか否かが判定され、ONである場合には、S161において、仮不感帯幅取得済みフラグがONであるか否かが判定される。OFFである場合には、S160,161が繰り返し実行され、ONにされるのが待たれる(ハンチング傾向を小さくできる仮不感帯幅ΔBQが記憶されるのが待たれる)。ONになった場合には、S161の判定がYESとなり、S162において、仮不感帯幅ΔBQが読み込まれ、変更後の不感帯幅ΔBとされる。
ΔB←ΔBQ
また、S163において、仮不感帯幅取得済みフラグがリセットされる。
【0056】
実行部204において、S151の判定がNOとなるため、S152,153が実行されるが、不感帯幅ΔBが大きくされているため、S154の判定がYESとなり、仮不感帯幅ΔBQはその時点の不感帯幅ΔBとほぼ同じ大きさ(ΔBQ≒ΔB)とされると考えられる。S158において取得済みフラグがONとなり、以下、S151が繰り返し実行される。
一方、実行部202においては、不感帯幅ΔBが大きくされることにより、逆入力フラグがOFFとされると考えられるため、S160の判定がNOとなり、S161以降が実行されることはないと考えられる。
このように、本実施例においては、逆入力であると判定された後に、変更後の不感帯幅(適正な不感帯幅)が取得されるのではなく、液圧制御アクチュエータ118の制御と並行して取得される。そのため、逆入力に起因するハンチング傾向であると判定された場合に、直ちに、不感帯幅を適正な大きさに変更することができる。
本実施例において、ブレーキECU200の図18のS155を記憶する部分、実行する部分等により仮不感帯幅設定部、仮不感帯幅漸増部が構成され、S153を記憶する部分により仮不感帯利用振動状態推定部、仮振動状態検出部が構成される。
【実施例4】
【0057】
<不感帯の決定>
本実施例においては、目標液圧Prefの増加勾配が大きい場合には、増圧しきい値Pthuが大きくされ(目標液圧Prefと増圧しきい値Pthuとの差が小さくされ)、目標液圧Prefの減少勾配が小さい場合には、減圧しきい値Pthdが小さく(目標液圧Prefと減圧しきい値Pthdとの差が小さく)される。目標液圧Prefの増加勾配が大きい場合には、増圧モードが継続して設定されるようにされ(保持モードに切り換えられ難くされ)、目標液圧Prefの減少勾配が大きい場合には、減圧モードが継続して設定されるようにされる(保持モードに切り換え難くされる)。
逆入力に起因する振動であると判定された場合には、不感帯幅ΔBが大きくされる。そのため、増圧モードが設定されていても、増圧モードから保持モードに切り換えられ易くなり、減圧モードが設定されていても、減圧モードから保持モードに切り換えられ易くなる。
そこで、目標液圧Prefの増加勾配dPrefが大きい場合には、増圧しきい値Pthuが、その時点の不感帯幅ΔBで決まる増圧しきい値Pthuより大きい値とされ、減少勾配dPrefが大きい場合には、その時点の不感帯幅ΔBで決まる減圧しきい値より小さい値とされる。いずれの場合であっても、本実施例においては、不感帯幅ΔBが小さくされることになる。
また、保持モードが設定されている間には、不感帯幅ΔBが漸減させられる。実際のブレーキシリンダ液圧の変動幅に対して不感帯幅ΔBが大きすぎる場合には適正値まで小さくされるのである。
【0058】
図20のフローチャートで表される不感帯決定プログラムは予め定められた設定時間毎に実行される。
S180において、その時点において記憶されている不感帯幅ΔBがデフォルト値より大きい値であるか否かが判定される。すなわち、不感帯幅ΔBが逆入力に起因する振動状態が検出され、デフォルト値より大きい値に変更されたか否かが判定されるのである。デフォルト値と同じ値である場合には、S181以降は実行されない。デフォルト値である場合には、不感帯の調整をする必要性が低いからである。それに対して、デフォルト値より大きい場合には、S181以降が実行される。
S181、182,183において、目標液圧Prefの増加勾配dPrefが設定値ΔPsuより大きいか否か(dPref>ΔPsu)、減少勾配(負の値)が設定値ΔPsd(負の値)より小さいか否か(dPref<ΔPsd)、保持モードが設定されているか否かが、それぞれ判定される。
増加勾配dPrefが設定値ΔPsuより大きい場合には、S184において、下式に示すように、減圧しきい値Pthdは、その時点の目標液圧Prefと不感帯幅ΔBとで決まる値とされるが、増圧しきい値Pthuは、それより大きい値(+ΔBx/2)とされる。
Pthu=Pref−(ΔB−ΔBx)/2=Pref−ΔB/2+ΔBx/2
Pthd=Pref+ΔB/2
不感帯が、目標液圧Prefに対して非対称に、すなわち、増圧しきい値側の不感帯幅(Pref−Pthu)が減圧しきい値側の不感帯幅(Pthd−Pref)より狭くされるのであり、増圧しきい値Pthuは、増圧しきい値側の不感帯幅がΔB/2より小さくなる値に決定される。それによって、増圧制御時に、不感帯幅ΔBが大きくされたことにより保持モードが設定され易くなることを回避することができる。
設定勾配ΔPsuは、ハンチングレベル検出プログラムのS28において用いられるdPsと同じ大きさであっても、異なる大きさであってもよい。
また、減少勾配dPrefが設定値ΔPsdより小さい場合には、S185において、減圧しきい値Pthdが小さくされる。
Pthu=Pref−ΔB/2
Pthd=Pref+(ΔB−ΔBx)/2
減圧しきい値Pthdは、減圧しきい値側の不感帯幅がΔB/2より小さくなる値に決定される。減圧制御時に、不感帯幅ΔBが大きくされたことにより保持モードが設定され易くなることを回避することができる。
【0059】
図22に示すように、例えば、ブレーキ操作開始当初に増圧勾配dPrefが設定勾配ΔPsuより大きい場合には、増圧しきい値Pthuが大きくされる。そのため、保持モードに切り換えられ難くなり、速やかに目標液圧に近づけることができる。
また、ブレーキ操作解除時に減圧勾配dPrefが設定勾配ΔPsdより小さい場合には、減圧しきい値が小さくされるため、保持モードに切り換えられ難くされ、速やかに目標液圧に近づけることができる。
【0060】
保持モードが設定されている場合には、S186において不感帯幅が漸減させられる。S186の実行は図21のフローチャートで表す。
図21のフローチャートのS188,189において、決定済みフラグ、サーチ中フラグがONであるか否かが判定される。最初に、S188,189が実行された場合には、いずれのフラグもOFFであるため、S190において、その時点において決定されている不感帯幅ΔBが仮不感帯幅ΔBQとされ、ΔBHだけ小さくされる。
ΔBQ←ΔB
ΔBQ←ΔBQ−ΔBH
S191において、目標液圧Prefと仮不感帯幅ΔBQとに基づいて、増圧しきい値Pthu、減圧しきい値Pthdが求められ、
Pthu=Pref−ΔBQ/2=Pref−(ΔB−ΔBH)/2
Pthd=Pref+ΔBQ/2=Pref+(ΔB−ΔBH)/2
S192において、実際のブレーキシリンダ液圧Pwが増圧しきい値Pthuより小さいか否か、あるいは、減圧しきい値Pthdより大きいか否かが判定される。ここで設定された仮不感帯幅ΔBQは仮想のものであるため、実際のブレーキシリンダ液圧が増圧しきい値Pthu、減圧しきい値Pthdを超えても増圧モード、減圧モードが設定されることはない。
不感帯幅ΔBが実際のブレーキシリンダの液圧Pwの変化に対して大きい場合には、判定はNOになると考えられる。そして、S193において、第5設定時間が経過したか否かが判定され、第5設定時間の経過前である場合には、S194において、サーチ中フラグがセットされる。
それ以降、S188,189,191〜194が繰り返し実行され、第5設定時間の間、実際のブレーキシリンダ液圧Pwが増圧しきい値Pthuより小さくなったか否か、減圧しきい値Pthdより大きくなっかた否かが判定される。
第5設定時間は、車輪が1回転するのに要する時間以上の時間とすることができ、第1〜第4設定時間のうちの1つと同じ長さとすることもできる。また、第5設定時間は固定値であっても可変値であってもよい。
第5設定時間が経過するまでの間に、実際のブレーキシリンダ液圧Pwが増圧しきい値Pthu、減圧しきい値Pthdを超えなかった場合には、S195において、S190において小さくされた仮不感帯幅ΔBQが不感帯幅ΔBとされて(実際に不感帯幅が変更される)、制御において使用される不感帯幅ΔBが小さくされる。また、仮不感帯幅ΔBQがさらにΔBHだけ小さくされる。
そして、さらに小さくされた仮不感帯幅ΔBQに基づいて、増圧しきい値Pthu、減圧しきい値Pthdが求められ、実際のブレーキシリンダ液圧Pwが増圧しきい値Pthuより小さくなったか否か、減圧しきい値Pthdより大きくなったか否かが検出される。
【0061】
第5設定時間が経過するまでの間に、実際のブレーキシリンダ液圧Pwが増圧しきい値Pthu、減圧しきい値Pthdを超えなかった場合には、S193の判定がYESとなり、S195において、その時点の仮不感帯幅ΔBQが不感帯幅ΔBとされ、仮不感帯幅ΔBQが小さくされる。
以下、実際のブレーキシリンダ液圧が増圧しきい値Pthu、減圧しきい値thdを超えるまで、S188,189,191〜194あるいは、S188,189,191〜193,195が繰り返し実行されて、実際の不感帯幅ΔBが漸減させられるとともに仮不感帯幅ΔBQが漸減させられる。
そして、第5設定時間が経過する間に実際のブレーキシリンダ液圧Pwが増圧しきい値Pthu、減圧しきい値Pthdを超えた場合には、S192の判定がYESとなり、S196,197において、決定済みフラグがセットされて、サーチ中フラグがリセットされる。
以降、S188の判定がYESとなるため、S189以降が実行されることはない。
変更後の不感帯幅ΔBは、直前のS195の実行において取得された不感帯幅ΔB(今回値)とされるのであり、S195において取得された不感帯幅の今回値が記憶されていることになる。変更後の不感帯幅は、現時点の仮不感帯幅ΔBQに決定されるのではなく、現時点の不感帯幅ΔBに決定されるのである。現時点の仮不感帯幅ΔBQを採用すると保持に保たれないからである。すなわち、保持制御が維持される範囲で、不感帯幅ΔBが漸減させられ、その値に変更される。
図22に示すように、保持モードが設定されている間に不感帯幅ΔBが漸減させられる(−ΔBH)のであり、不感帯幅が、実際のブレーキシリンダ液圧Pwが増圧しきい値Pthu、減圧しきい値Pthdを超えない大きさ(超えた場合の前回の大きさ)とされる。不感帯幅が適正な大きさに減少させられるのであり、増圧遅れや減圧遅れを良好に回避することが可能となる。
【0062】
本実施例においては、ブレーキECU148の図20のフローチャートで現れる不感帯幅決定プログラムのS181,182を記憶する部分、実行する部分により増圧側不感帯幅決定部が構成され、S182,185を記憶する部分、実行する部分により減圧側不感帯幅決定部が構成される。
【0063】
なお、本実施例においては、目標液圧Prefの増加勾配dPrefが設定勾配ΔPsuより大きい場合、減少勾配dPrefが設定勾配ΔPsdより小さい場合には、不感帯幅ΔBが小さくされたが、不感帯幅ΔBを小さくすることは不可欠ではない。例えば、増加勾配dPrefが設定勾配ΔPsuより大きい場合には、増圧側不感帯幅を小さくした分、減圧側不感帯幅を大きくすることができる。
また、目標液圧Prefの増加勾配dPrefが設定勾配ΔPsuより大きい場合にも、減少勾配dPrefが設定勾配ΔPsdより小さい場合にも、不感帯が調整されるようにされていたが、これらのいずれか一方の場合にのみ、調整されるようにすることもできる。
【実施例5】
【0064】
<不感帯幅の変更の禁止・許可>
本実施例においては、速やかにブレーキシリンダ液圧を変化させる要求がある場合には、不感帯幅ΔBの変更が禁止され、滑らかな制動フィーリングが望まれる場合、作動音の軽減が望まれる場合に許可される。
例えば、運転者の意図に基づいて決定された目標液圧の増加勾配が大きい場合、ブレーキペダル50の操作速度が大きい場合には、制動要求を速やかに満たすことが望ましいため、禁止され、操作速度が小さい場合、車両の走行速度が設定速度以下である場合には、液圧制御アクチュエータ118の振動等を抑制することが望ましいため、許可されるようにすることができる。その場合の一例を図23(a)、(b)のフローチャートで表す。
図23(a)のフローチャートで表される禁止フラグON/OFFプログラムは、予め定められた設定時間毎に実行される。
S201において、ストロークの変化速度(ストロークセンサ160の検出値の変化速度)が設定速度ΔSthより小さいか否か、目標液圧Prefの増加勾配dPrefが設定勾配ΔPsaより小さいか否か、車両の走行速度vが設定速度vthより小さいか否かが判定される。そして、3つの条件のすべてが満たされた場合には、S202において、禁止フラグがOFFされるが、3つの条件すべてが満たされない場合には、S202において、禁止フラグがONにされる。
目標液圧の設定勾配ΔPsaは、実施例4において用いた設定勾配ΔPsu、図8のフローチャートのS28において用いられる設定勾配dPs より小さい値とすることができる。
また、ストロークの設定速度ΔSthは、運転者が緩やかな操作をしているとみなされる値とすることができ、車速の設定速度vthは、作動音が気になる速度(ほぼ上限値)とすることができる。
【0065】
図23(b)のフローチャートで表される不感帯幅変更プログラムは、予め定められた設定時間毎に実行される。
S211において、逆入力フラグがONであるか否かが判定され、ONである場合には、S212において、禁止フラグがONであるか否かが判定される。
禁止フラグがOFFである場合には、S213において、不感帯幅の変更が行われ、ONである場合には、S213が実行されることがない。S213においては、実施例1〜4のいずれかと同様に不感帯幅が変更される。
本実施例においては、ブレーキECU148の図23(a)のフローチャートで表される禁止フラグON/OFFプログラム、図23(b)のフローチャートで表される不感帯幅変更プログラムのS211,212を記憶する部分、実行する部分等により変更禁止部が構成される。
【0066】
なお、ハンチングレベルCHは、目標液圧Prefの増加勾配dPrefが大きい場合には、ハンチングレベルCHが0とされるため(S28の判定がYESの場合にはS29が実行される)、本発明が実施されると考え得る場合もある。
また、3つの条件すべてが満たされた場合に、禁止フラグがOFFにされる場合について説明したが、3つの条件のうちの1つ以上が満たされた場合にOFFにされるようにすることができる。
さらに、上述の3つの条件の他に、目標液圧Prefと実ブレーキシリンダ液圧Pwとの偏差が設定値より小さいこと、マスタシリンダ液圧Pmcが設定値より小さいこと、ストロークが設定値より小さいこと等のうちの1つ以上の条件が満たされた場合に、禁止フラグがOFFにされるようにすることができる。
また、アンチロック制御、トラクション制御、ビークルスタビリティ制御が行われる場合に、禁止フラグがONにされるようにすることもできる。
さらに、禁止フラグがONの場合には第1規則の変更(適応電流ΔIの減少)も禁止されるようにすることができる。すなわち、第1規則と第2規則との少なくとも一方の変更が禁止されるようにすることが可能となる。
【実施例6】
【0067】
<保持弁制御規則の変更>
本実施例においては、第2規則の内容が不感帯幅ではなく、保持弁103の制御規則とされる。そして、通常制動時(運転者によってブレーキペダル50の操作が行われたことにより行われる制動であり、アンチロック制御等のスリップ制御が行われていない状態)において、逆入力に起因する振動が検出されていない場合には、保持弁103FL,FR,RL,RRはすべて開状態とされるが、逆入力に起因する振動が検出された場合には、左右後輪の保持弁103RL,RRが閉状態とされる。
ディスクブレーキ32とドラムブレーキ36とでは、ドラムブレーキ36の方がブレーキシリンダ液圧の脈動が生じる可能性が高い。また、ブレーキシリンダ液圧の変動幅が大きいことも知られている。
そして、ブレーキシリンダ液圧センサ166は共通通路102に設けられているため、共通通路102からドラムブレーキ36のブレーキシリンダ46が遮断されれば、ブレーキシリンダ液圧センサ166の検出値の振動が抑制される。
【0068】
本実施例においては、図24のフローチャートで表される保持弁制御プログラムが予め定められた設定時間毎に実行される。S221において、液圧ブレーキ26の通常時制動要求があるか否かが判定される。通常時制動要求がある場合には、S222において、逆入力フラグがONであるか否かが判定される。逆入力フラグがOFFである場合には、S223において、左右後輪の保持弁103RL,RRは開状態とされる。逆入力フラグがONである場合には、S224において、左右後輪の保持弁103RL,RRが閉状態とされる。
このように、逆入力フラグがONであり、液圧ブレーキ26の通常時制動要求がある場合には、保持弁103RL,RRが閉状態とされる。そのため、制御ハンチングが生じることを良好に回避することができる。
本実施例においては、ブレーキECU148の図24のフローチャートで表される後輪保持弁制御プログラムを記憶する部分、実行する部分等により電磁弁制御規則変更部が構成され、そのうちの、S224を記憶する部分、実行する部分等によりブレーキシリンダ遮断部が構成される。
また、図24のフローチャートにおいて、液圧ブレーキ26の通常時制動要求がない場合には、保持弁103RL,RRは他のプログラムの実行に従って制御される。
【0069】
なお、上記実施例においては、逆入力に起因するハンチングは、後輪16,18のドラムブレーキ26が原因で生じると推定され、後輪16,18の保持弁103RL,RRが閉状態とされたが、保持弁103FL,FR,RL,RRを順番に閉状態として、その都度、ハンチングの状態を検出し、逆入力の原因となる液圧ブレーキ22,26を特定することもできる。
【実施例7】
【0070】
<液圧ブレーキ回路>
また、液圧ブレーキ回路は、図2に示すものに限定されない。増圧リニア制御弁112あるいは減圧リニア制御弁116に対応する液圧制御機構を含む回路であれば、同様に実施することができる。
<液圧ブレーキ回路1>
例えば、液圧ブレーキ回路を図25に示すものとすることができる。本液圧ブレーキ回路においては、減圧リニア制御弁116が設けられていない。共通液圧102の液圧を減圧する場合には減圧弁106FL,FR,RL,RRのうちの1つ以上が開状態とされる。保持弁103FL,FR,RL,RRの開状態において、減圧弁106の制御により、共通通路102の液圧を減圧制御することができる。図25の液圧ブレーキ回路の増圧リニア制御弁112の制御について、本発明を適用することができる。
【0071】
<液圧ブレーキ回路2>
液圧ブレーキ回路を図26に示すものとすることができる。本液圧ブレーキ回路においては、共通通路102に各ブレーキシリンダ32,36が接続される点は同様であるが、マスタシリンダがハイドロブースタ付きマスタシリンダ260とされる。ハイドロブースタ付きマスタシリンダ260は、ブレーキペダル50に連携させられたパワーピストン262,パワーピストン262に連携させられた加圧ピストン263を含み、パワーピストン262の後方のブースタ室264,加圧ピストン263の前方の加圧室265には、それぞれ、ブースタ通路266,マスタ通路268が接続され、共通通路102に接続される。
増圧リニア制御弁112,減圧リニア制御弁116は、図3に示す増圧リニア制御弁112、減圧リニア制御弁116と構造が同じものであり、これらの制御について、本発明を適用することができる。
【0072】
<液圧ブレーキ回路3>
液圧ブレーキ回路を図27に示すものとすることができる。
本液圧ブレーキ回路においては、動力液圧源54と各ブレーキシリンダ32FL,FR,36RL,RRとの間に、それぞれ、増圧リニア制御弁290が設けられ、ブレーキシリンダ32FL、FRとリザーバ94との間には、常閉の減圧リニア制御弁292が設けられ、ブレーキシリンダ36RL,RRとリザーバ94との間には、常開の減圧リニア制御弁294が設けられる。増圧リニア制御弁290および減圧リニア制御弁292,294等により液圧制御アクチュエータ296が構成されるのであり、本実施例において、各輪毎にそれぞれ液圧制御アクチュエータ296FL,FR,RL,RRが設けられることになる。
また、ブレーキシリンダ液圧センサ300が各ブレーキシリンダ32FL,FR,36RL,RRに対応して設けられる。
増圧リニア制御弁290各々の前後の差圧はブレーキシリンダ液圧センサ300の検出値とアキュムレータ圧センサ164の検出値との差として取得することができる。
本実施例において、増圧リニア制御弁290,減圧リニア制御弁292は、図3に示す増圧リニア制御弁112,減圧リニア制御弁116と構造が同じものであり、これらの制御について本発明を適用することができる。また、減圧リニア制御弁294については常開弁であるため、供給電流量の決定の規則が異なるが、その他の点については同様であるため、本発明を適用することができる。
本実施例においては、各輪毎に、液圧制御アクチュエータ296FL,FR,RL,RRが設けられるため、これら液圧制御アクチュエータ296FL,FR,RL,RRの各々について、本発明を適用することができ、各々について、それぞれ、別個独立に第1規則、第2規則を変更することができる。
【0073】
<液圧ブレーキ回路4>
液圧ブレーキ回路を図28に示すものとすることができる。本実施例においては、左右前輪のブレーキシリンダ32FL,FRの間、左右後輪のブレーキシリンダ36RL,RRの間に、それぞれ、左右連通弁332,334が設けられる。左右連通弁332,334は、常開の電磁開閉弁である。液圧ブレーキシステムの電気系統の異常の場合には、すべての電磁弁のコイルに電流が供給されなくなることにより、図示する状態とされる。この状態で、運転者がブレーキペダル50を操作すると、マスタシリンダ52の加圧室64a,bに液圧が発生させられが、左右連通弁332,334は開状態にあるため、マスタシリンダの液圧を4輪のブレーキシリンダ32,36に供給することができる。
【0074】
<液圧ブレーキ回路5>
液圧ブレーキ回路を図29に示すものとすることができる。本実施例においては、液圧発生装置340が設けられる。液圧発生装置340は、(a)ブレーキペダル50の操作によって加圧ピストン342,343を前進させて、加圧室344,346に液圧を発生させるマニュアル依拠液圧発生状態と、(b)液圧制御アクチュエータ348によって制御された動力液圧源54の液圧が中間ピストン349の後方の後方液圧室350と、中間ピストン349と加圧ピストン343との間の中間液圧室352とに供給されることにより液圧を発生させる動力液圧発生状態と、(c)ブレーキぺダル50の操作に伴う入力ピストン354の前進によりスプリング356が伸縮させられ、反力を付与するストロークシミュレータ状態とをとり得るものである。
液圧ブレーキシステムが正常である場合には、制御バルブ358が閉状態とされる。中間ピストン349の移動が阻止され、ストロークシミュレータ状態とされる。後方液圧室350,中間液圧室352に液圧が供給されると、ストロークシミュレータ状態において、加圧ピストン342,343が前進させられ、加圧室344,346には、中間液圧室352の液圧に応じた液圧が発生させられ、動力液圧発生状態とされる。
電気系統の異常時には、制御バルブ358が開状態とされる。ブレーキペダル50の操作により、入力ピストン354が前進させられ、中間ピストン349が前進させられる。中間ピストン349の移動により、スプリング356の伸縮が阻止される状態にされるため、これら入力ピストン354と中間ピストン349とが一体的に移動させられる。そして、中間ピストン349が加圧ピストン342に当接すると、加圧ピストン342,344が前進させられる。加圧室344,346に、操作力に応じた大きさの液圧が発生させられるマニュアル依拠液圧発生状態とされる。
加圧室344,346の液圧は、マスタ通路360,362を経てブレーキシリンダ32,36に供給される。
【0075】
液圧制御アクチュエータ348は、増圧リニア制御弁382,減圧リニア制御弁384を含み、動力液圧発生状態において、後方液圧室350の液圧と中間液圧室352の液圧とを制御することにより、加圧室344,346の液圧を制御して、ブレーキシリンダ32,36の液圧を制御する。
増圧リニア制御弁382,減圧リニア制御弁384は、図3の増圧リニア制御弁112,減圧リニア制御弁116と同じ構造を成したものであり、これらの制御に本発明を適用することができる。
【0076】
このように複数の実施例について説明したが、本発明は、各実施例の2つ以上を適宜組み合わせた態様で実施することができる。
また、本発明は、種々の液圧ブレーキ回路に適用することができる。
さらに、上記各実施例においては、動力式液圧源の液圧が、電磁制御弁の制御により制御されるようにされていたが、ポンプモータの制御により制御されるようにすることもできる(駆動源制御利用液圧制御装置)。その場合には、電動モータへの供給電流の制御において本発明を適用することができる。
また、ブレーキは電動ブレーキとすることもでき、その場合には、駆動用電動モータの制御において本発明を適用することができる。
その他、本発明は、上述に記載の態様の他、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0077】
22:ディスクブレーキ 26:ドラムブレーキ 32,36:ブレーキシリンダ 50:ブレーキペダル 54:動力式液圧源 102:共通通路 103:保持弁 112:増圧リニア制御弁 116:減圧リニア制御弁 118:液圧制御アクチュエータ 148:ブレーキECU 164:アキュムレータ圧センサ 166:ブレーキシリンダ液圧センサ 180:フィードフォワード制御部 182:フィードバック制御部 200:ブレーキECU 202、204:実行部 290:増圧リニア制御弁 292:常閉の減圧リニア制御弁 294:常開の減圧リニア制御弁 348:増圧リニア制御弁 384:減圧リニア制御弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車輪の回転を抑制するブレーキのブレーキ力を制御可能なブレーキ力制御機構を含み、そのブレーキ力制御機構を複数の規則に従って制御することによって、前記ブレーキ力を目標値に近づけるブレーキ力制御装置であって、
前記ブレーキ力の振動の状態を検出する振動状態検出装置と、
その振動状態検出装置によって検出された振動状態に基づいて、前記複数の規則のうちの少なくとも1つである第1規則の内容を変更する第1規則変更部と、
その第1規則変更部によって前記第1規則が変更されても、前記振動状態検出装置によって検出された振動状態が改善しない場合に、前記複数の規則から前記第1規則を除く規則のうちの少なくとも1つの規則である第2規則の内容を変更する第2規則変更部と
を含むことを特徴とするブレーキ力制御装置。
【請求項2】
当該ブレーキ力制御装置が、前記ブレーキ力制御機構への供給電流を、少なくとも前記第1規則と前記第2規則とに従って制御することにより、前記ブレーキ力が前記目標値と不感帯幅とで決まる不感帯の内側にある場合に前記ブレーキ力を保持し、前記ブレーキ力が前記不感帯の外側にある場合に前記ブレーキ力を増加させたり、減少させたりする電流制御利用ブレーキ力制御部を含み、
前記第1規則変更部が、前記第1規則としての、前記ブレーキ力を増加させたり・減少させたりする場合に前記ブレーキ力制御機構に供給される電流量を決定する規則の内容を変更する電流量決定規則変更部を含み、前記第2規則変更部が、前記第2規則としての、前記不感帯を決定する規則の内容を表す前記不感帯幅を変更する不感帯幅変更部を含む請求項1に記載のブレーキ力制御装置。
【請求項3】
前記振動状態検出装置が、前記振動状態を、前記ブレーキ力が、前記不感帯の内側から外側に変化した頻度に基づいて検出する不感帯利用振動状態検出部を含み、前記第2規則変更部が、前記第1規則変更部によって前記第1規則の内容が設定内容に変更された後に前記不感帯利用振動状態検出部によって検出された振動状態の前記頻度が、前記設定内容に変更される前に前記振動状態検出装置によって検出された振動状態の前記頻度より低くならない場合に、前記不感帯幅を変更する不改善時変更部を含む請求項2に記載のブレーキ力制御装置。
【請求項4】
前記不感帯幅変更部が、前記不感帯利用振動状態検出部によって検出される振動状態の前記頻度が安定側設定頻度に至るまで、前記不感帯幅を漸増させる不感帯幅漸増部を含み、その不感帯幅漸増部によって漸増させられた不感帯幅を変更後の不感帯幅とする請求項3に記載のブレーキ力制御装置。
【請求項5】
前記不感帯幅変更部が、前記不感帯幅を仮に設定する仮不感帯幅設定部を含み、前記不感帯利用振動状態検出部が、前記仮不感帯幅設定部によって設定された仮不感帯幅と前記ブレーキ力とに基づいて前記振動状態を推定する仮不感帯利用振動状態推定部を含み、前記仮不感帯幅設定部が、前記仮不感帯利用振動状態検出部によって推定された仮振動状態の前記頻度が仮安定側設定頻度に至るまで、前記仮の不感帯幅を漸増させる仮不感帯幅漸増部を含む請求項3または4に記載のブレーキ力制御装置。
【請求項6】
前記仮不感帯利用振動状態検出部が、前記ブレーキ力制御機構への供給電流が、前記電流制御利用ブレーキ力制御部によって制御されている場合に、前記ブレーキ力と前記仮不感帯幅設定部によって設定された仮不感帯幅とに基づいて、前記振動状態を仮に検出する仮振動状態検出部を含む請求項5に記載のブレーキ力制御装置。
【請求項7】
前記不感帯幅変更部が、前記不感帯幅を、前記振動状態検出装置によって検出された振動状態に応じた大きさに変更する振動状態対応不感帯幅変更部を含む請求項2ないし6のいずれか1つに記載のブレーキ力制御装置。
【請求項8】
当該ブレーキ力制御装置が、前記目標値と前記不感帯幅変更部によって変更された不感帯幅とに基づいて前記不感帯を決定する不感帯決定部を含み、その不感帯決定部が、(i)前記目標値の増加勾配が設定増加勾配より大きい場合に、前記目標値と増加制御から保持制御へ切り換える切換えしきい値との差の絶対値である増加側不感帯幅が、前記目標値と減少制御から保持制御へ切り換える切換えしきい値との差の絶対値である減少側不感帯幅より小さくなるように決定する増加要求時不感帯決定部と、(ii)前記目標値の減少勾配が設定減少勾配より大きい場合に、前記減少側不感帯幅が前記増加側不感帯幅より小さくなるように決定する減少要求時不感帯幅決定部との少なくとも一方を含む請求項2ないし7のいずれか1つに記載のブレーキ力制御装置。
【請求項9】
当該ブレーキ力制御装置が、前記第1規則変更部と前記第2規則変更部との少なくとも一方による、その少なくとも一方に対応する前記第1規則と前記第2規則との少なくとも一方の内容の変更を、前記目標値の増加勾配が設定勾配より大きい場合と、前記目標値から実際のブレーキ力を引いた偏差が設定偏差より大きい場合との少なくとも一方の場合に禁止する変更禁止部を含む請求項1ないし8のいずれか1つに記載のブレーキ力制御装置。
【請求項10】
前記ブレーキが、前記車両の車輪に対応して設けられ、ブレーキシリンダの液圧により作動させられる液圧ブレーキであり、
前記ブレーキ力制御機構としての液圧制御機構が、(i)(a)電流の供給により作動させられる駆動源を含み、その駆動源により駆動される動力式液圧源と、(b)前記駆動源への供給電流を制御することにより前記動力式液圧源の出力液圧を制御する駆動源電流制御部とを含む駆動源制御利用液圧制御装置と、(ii)(c)高圧の作動液を出力可能な液圧源と、(d)その液圧源の液圧を制御可能な1つ以上の電磁液圧制御弁と、(e)その電磁液圧制御弁への供給電流を制御することにより出力液圧を制御する電磁弁電流制御部とを含む電磁弁制御利用液圧制御装置との少なくとも一方を含む請求項1ないし9のいずれか1つに記載のブレーキ力制御装置。
【請求項11】
前記ブレーキが、前記車両の複数の車輪に対応してそれぞれ設けられ、それぞれ、ブレーキシリンダの液圧により作動させられる液圧ブレーキであり、
それら複数の液圧ブレーキのブレーキシリンダが、それぞれ、共通通路に接続され、
その共通通路に、前記ブレーキ力としてのブレーキシリンダ液圧を検出するブレーキシリンダ液圧検出装置が設けられ、
前記ブレーキ力制御機構としての液圧制御機構が、前記共通通路と前記複数のブレーキシリンダの各々との間に、それぞれ設けられた電磁制御弁を含み、
前記振動状態検出装置が、前記ブレーキシリンダ液圧検出装置による検出値を利用して、前記振動状態を検出するセンサ値依拠振動状態検出部を含み、
前記第2規則変更部が、前記第1規則変更部によって前記第1規則が変更された後に、前記センサ値依拠振動状態検出部によって検出された振動状態が改善しない場合に、前記複数の電磁制御弁の制御規則の内容を変更する電磁弁制御規則変更部を含み、
当該ブレーキ力制御装置が、前記電磁弁制御規則変更部によって変更された規則に従って、前記複数のブレーキシリンダのうち、液圧の振動状態で決まる少なくとも1つのブレーキシリンダに対応する電磁制御弁を閉状態とすることにより、前記少なくとも1つのブレーキシリンダを前記共通通路から遮断するブレーキシリンダ遮断部を含む請求項1ないし10のいずれか1つに記載のブレーキ力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【公開番号】特開2011−183921(P2011−183921A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50858(P2010−50858)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】