説明

ブレース取付装置

【課題】耐力壁等のブレース取付装置として、ゲージラインの傾斜角、構造枠体の縦枠の側面幅、ブレースのロッド径等に違いがあっても、構造枠体とブレースとの連結部分に共通の部品を使用でき、少ない部品点数で作業性よく高い生産性が得られ、地震等による壁面及び上記連結部分の損傷や歪みを防止して高耐久性を付与できるものを提供する。
【解決手段】各ブレース2の少なくとも両端部2a,2aがねじ軸をなし、両ブレース2,2の各端部2aに対応して構造枠体1の縦枠11に固着させる取付金具3とナット4及びワッシャー5を備える。取付金具3は、ブレース2の端部2aを挿通させるブレース挿通部3aを有し、挿通孔30がブレースのロッド径よりも大きい孔径で且つ出口30a側から入口30b側へ構造枠体主面方向に拡がる孔形状を持ち、ブレース挿通部3aに挿通させたブレース2の端部2aに、ワッシャー5を介してナット4を螺合緊締することにより、ブレース2が構造枠体1に緊張状態で固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の耐力壁等として、矩形の構造枠体の内側に一対のブレースをX字状の交叉配置で取り付けるためのブレース取付装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、住宅等の建物の耐震強度を向上させる耐力壁として、例えば図10に示すように、溝形鋼等よりなる縦枠11と横枠12を矩形に枠組みした構造枠体1の内側に、丸鋼ロッドからなる一対のブレース13,13をX字状の交叉配置で取り付けたフレーム構造を有するものが多用されている。このフレーム構造における各ブレース13と構造枠体1との連結は、構造枠体1のコーナー部に溶接固着したガゼットプレート14に対し、ブレース13の両端部に取り付けた羽子板15を、主として施工現場で図示の如く1,2箇所でボルト止めするか、もしくは主として工場での組立時に溶接するのが普通であるが、耐震機能上からブレース13のゲージラインGを構造枠体1の角部cに正確に合わせる必要がある。また、ブレース13の緊張操作は、中間に介在させたターンバックル胴16の回転によって行うのが一般的である。なお、図示のターンバックル胴16は割枠式であるが、パイプ式のものも使用される。
【0003】
しかして、ブレースに対する羽子板の取付けは、図示の如くブレース13の端部を羽子板15に溶接する(JIS A 5540 建築用ターンバックル)のが普通であるが、羽子板に設けた割り込み溝の入口部にナットを溶接し、このナットにブレースの端部を螺挿する形態(特許文献1)、羽子板の開口部の前端側にねじ筒部を一体形成し、このねじ筒部にブレースの端部を螺挿する形態(特許文献2)、羽子板の開口部の前端側に挿通孔を設け、この挿通孔を通して開口部に突出させたブレースの端部にナットを螺着する形態(特許文献3,4)等も提案されている。
【0004】
一方、図10で例示した耐力壁は横幅1000mmの一般住宅用であるが、一般住宅用の規格サイズとして横幅が500mm、1500mm、2000mmのものがある。そして、同じ横幅の耐力壁においても、高さは例えば一階用では2750mm、二階用では2700mmと異なっている。また、構造枠体1の剛性やブレース13の張力等の要求特性により、構造枠体1の縦枠11として構造枠体厚み方向の幅が例えば75mmと同じでも側面幅は30mm,40mm,45mm,50mmと異なる溝形鋼が使用され、またブレース13としても径が例えばφ12〜22mmと異なる丸鋼ロッドが使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実用新案登録第3043439号公報
【特許文献2】特開2001−12436号公報
【特許文献3】特開平5−79094号公報
【特許文献2】特開2004−244860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように耐力壁ではブレースのゲージラインGを構造枠体の角部に正確に合わせる必要があるが、例えば図9(a)で示すように、同じ横幅の構造枠体1でも一階用と二階用との高さの違いによってゲージラインGの傾斜角が変わる。また、図9(b)で示すように、同じゲージラインGでも構造枠体1の縦枠11の側面幅がw1〜w3と異なる場合、該ゲージラインG上におけるブレース連結位置がp1〜p3と変わるが、これら連結位置p1〜p3は縦枠11からの距離dを等しくしても(ゲージラインGの傾斜角が45°であるとき以外は)横枠12からの高さhが変化することになる。このため、従来のように構造枠体に対してブレースを羽子板とガゼットプレートを介して連結する構造では、ゲージラインの傾斜角の違いや構造枠体の縦枠の側面幅の違いに対応して、耐力壁の種類毎にガゼットプレートとして形態及び穴あけ位置の異なるものが必要になり、羽子板についてもブレース端部にねじ止めする形態ではブレース径毎に異なるものを用いねばならず、それだけ用意する部品点数が多くなると共に、生産性が低下するという問題があった。また、ガゼットプレートと羽子板との連結に高い精度が求められる上、操作的に羽子板を予めブレース端部に装着した状態でガゼットプレートに連結することになり、作業手順が制約されると共に施工能率も悪くなるという難点もあった。
【0007】
一方、耐力壁として施工後に地震等による大きな揺れが発生した際、構造枠体が平行四辺形状に反復変形するのに伴い、X字状に交叉配置した一方のブレースが緊張し、他方のブレースが弛緩する。このとき、図9の如くブレース端部を羽子板に溶接した構造や、羽子板に固着するナットやねじ筒部にブレース端部を螺着した構造では、構造枠体に対してブレースの両端が固定しているために、変形に伴う弛緩側のブレースが外側へ撓んで壁面を損傷することが多々あった。また、上記の構造枠体の変形に伴って両ブレースの傾斜角が変動することから、ブレース端部と羽子板及びガゼットプレートとの各連結部に大きな曲げ応力が加わり、連結部の損傷や歪みを生じる懸念があると共に、耐力壁自体の耐久性が低下するという問題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の事情に鑑みて、耐力壁等のブレース取付装置として、ゲージラインの傾斜角、構造枠体の縦枠の側面幅、ブレースのロッド径等に違いがあっても、構造枠体とブレースとの連結部分に共通の部品を使用できる上、少ない部品点数で作業性よく高い生産性が得られ、しかも地震等による壁面及び上記連結部分の損傷や歪みを防止して高耐久性を付与できるものを提供することを目的としている。
【0009】
上記目的を達成するための手段を図面の参照符号を付して示せば、請求項1の発明は、矩形の構造枠体1の内側に、丸鋼ロッドからなる一対のブレース2A,2B(以下、総称する場合はブレース2とする)をX字状の交叉配置で取り付けるためのブレース取付装置であって、各ブレース2の少なくとも両端部2a,2aがねじ軸をなし、両ブレース2,2の各端部2aに対応して構造枠体1の縦枠11に固着させる取付金具3A,3B(以下、総称する場合は取付金具3とする)とナット4及びワッシャー5を備え、取付金具3はブレース2の端部2aを挿通させるブレース挿通部3aを有し、該ブレース挿通部3aの挿通孔30がブレースのロッド径よりも大きい孔径で且つ出口30a側から入口30b側へ構造枠体主面方向に拡がる孔形状を有し、取付金具3のブレース挿通部3aに挿通させたブレース2の端部2aに、ワッシャー5を介してナット4を螺合緊締することにより、該ブレース2が構造枠体1に緊張状態で固定されるように構成されてなる。
【0010】
請求項2の発明は、上記請求項1のブレース取付装置において、取付金具3のブレース挿通部3aにおける挿通孔出口30aの周囲に、構造枠体主面方向に沿って凹円弧をなす凹曲面(凹球面31)が形成されると共に、このブレース挿通部3aに対向するワッシャー5の表面が凹曲面31に対応する凸曲面(凸球面51)をなすものとしている。
【0011】
請求項3の発明は、上記請求項2のブレース取付装置において、ブレース挿通部3aの凹曲面31に構造枠体主面方向に沿うキー溝32が形成されると共に、ワッシャー5の凸曲面51に該キー溝32に摺動自在に嵌入する係合キー52,52が突設されてなるものとしている。
【0012】
請求項4の発明は、上記請求項3のブレース取付装置において、ワッシャー5の挿通孔50が、一対のブレース2A,2Bの交叉間隔とロッド径に対応した孔位置及び孔径に設定されてなるものとしている。
【0013】
請求項5の発明は、上記請求項1〜4の何れかのブレース取付装置において、ブレース2の丸鋼ロッドの一部に角軸部21が形成されてなるものとしている。
【0014】
請求項6の発明は、上記請求項1〜5の何れかのブレース取付装置において、取付金具3は、ブレース挿通部3aの内奥側に囲い枠部3bが一体形成され、該ブレース挿通部3aに挿通してナット4及びワッシャー5を嵌着させたブレース2の端部2aが該囲い枠部3b内に配置するように構成されてなるものとしている。
【0015】
請求項7の発明は、上記請求項6のブレース取付装置において、取付金具3の囲い枠部3bが構造枠体厚み方向に対向する一対の垂直脚片部33,33を構成すると共に、両垂直脚片部33,33に構造枠体厚み方向に透通する開放窓34が形成されてなるものとしている。
【0016】
請求項8の発明は、上記請求項7のブレース取付装置において、両垂直脚片部33,33における構造枠体1の縦枠11に対向する側端縁に、溶接用の開先35が形成されてなるものとしている。
【0017】
請求項9の発明は、上記請求項1〜8の何れかのブレース取付装置において、構造枠体1の縦枠11が開放側を枠体内側に向けた溝形鋼からなり、この溝形鋼の両側壁11a,11a頂部に対して取付金具3が架け渡す形で溶接されてなるものとしている。
【発明の効果】
【0018】
次に本発明の効果について、図面の参照符号を付して説明する。まず請求項1の発明に係るブレース取付装置によれば、耐力壁等を構築する際、矩形の構造枠体1の縦枠11に各ブレース2の端部2aに対応する取付金具3を固着し、該取付金具3のブレース挿通部3aに各ブレース2のねじ軸をなす端部2aを挿通し、この挿通した端部2aにワッシャー5を介してナット4を螺合緊締することにより、該ブレース2を構造枠体1に緊張状態に取り付けることができる。このとき、取付金具3におけるブレース挿通部3aの挿通孔30がブレース2のロッド径よりも大きい孔径で、且つ出口30a側から入口30b側へ構造枠体主面方向に拡がる孔形状を有するから、ブレース2のゲージラインGがある程度異なっていても、同じ取付金具3を固着位置の上下調整によって共用できる上、ロッド径の異なるブレース2についても、ナットを適合ねじ径のものに代えるだけで同じ取付金具3を共用できるから、部品の共通化によって材料コストが大幅に低減し、またナット4を螺合緊締するだけで該ブレース2を緊張状態に取り付けることができるから、操作的に極めて簡単で生産性が大きく向上する。
【0019】
また、耐力壁等として施工後に地震等による大きな揺れが発生し、構造枠体1が平行四辺形状に反復変形しても、この変形に伴う弛緩側のブレース2の両端部2a,2aが取付金具3のブレース挿通部3aに対して挿入方向に移動可能であるから、該弛緩側のブレース2が外側へ撓んで壁面を損傷する懸念がない上、構造枠体1の上記変形に伴って両ブレース2,2の傾斜角が変動しても、取付金具3の挿通孔30が入口30b側へ拡がる孔形状であり、該挿通孔30内で傾斜角変動が収まるため、ブレース2の端部2aと取付金具3との連結部に大きな曲げ応力が加わって損傷や歪みを生じる懸念もなく、もって耐力壁等として優れた耐久性が得られる。
【0020】
請求項2の発明によれば、取付金具3のブレース挿通部3aの凹曲面(凹球面31)に、ワッシャー5が対応する凸曲面(凸球面)51で摺接するから、構造枠体1に各ブレース2を取り付ける際、該取付金具3のブレース挿通部3aに挿通したブレース2の端部にナット4を螺合して締め付けることにより、その緊締力によってブレース2の両端部のワッシャー5,5が相互の距離を最短にするように変位し、ゲージラインGが自ずと構造枠体1の角部cに合う形になり、それだけ取付け操作が容易になる。また、取付金具3の挿通孔30が出口30a側から入口30b側へ構造枠体主面方向に拡がる孔形状を有することと、このワッシャー5が取付金具3に対して上記凹凸曲面で接して摺動変位できることから、ブレース2のゲージラインGの傾斜角度にある程度の違いがあっても、同じ取付金具3を支障なく共用できる。更に、地震等による構造枠体1の反復変形に伴って両ブレース2,2の傾斜角が変動しようとするとき、それに追従してワッシャー5が構造枠体主面方向に沿って摺動することで該傾斜角変動を妨げないため、取付金具3に該傾斜角変動に起因した曲げ応力が加わるのを回避でき、もって該取付金具3ひいては耐力壁等としての耐久性がより向上する。
【0021】
請求項3の発明によれば、取付金具3のブレース挿通部3aの凹曲面31に構造枠体主面方向に沿うキー溝32が形成され、このキー溝32にワッシャー5の凸曲面51に突設された係合キー52,52が嵌入するから、ナット4の締め付け操作の際に該ワッシャー5の共回りを生じない。また、該キー係合によって取付金具3に対するワッシャー5の摺動方向が構造枠体主面方向に規制されるから、地震等による構造枠体1の反復変形に伴って両ブレース2,2の傾斜角が変動しようとするとき、両ブレース2,2の振れも構造枠体主面方向に規制され、もって該傾斜角変動がより円滑になされて構造枠体1及び取付金具3に加わる負荷を軽減する。
【0022】
請求項4の発明によれば、取付金具3とワッシャー5がキー係合していることで、該ワッシャーの挿通孔50によってブレース2が構造枠体1に対して位置決めされるが、該挿通孔50が一対のブレース2A,2Bの交叉間隔とロッド径に対応した孔位置及び孔径に設定されているから、異なる交叉間隔及びロッド径のブレース2A,2Bに対し、同じ取付金具3を共用する形で、ワッシャー5のみを挿通孔50が適合するものに交換するだけで、両ブレース2A,2Bを適正な配置で構造枠体1に取り付けることができる。
【0023】
請求項5の発明によれば、ブレース2の丸鋼ロッドの一部に角軸部22が形成されているから、該角軸部22を把持してブレース2側の回転止めを行うことでナット4の締め付け操作が容易になる一方、該ブレース2の両端部2a,2aを逆ねじにすれば、該角軸部22を利用したブレース2側の回転操作によって両端のナット4,4との螺合緊締を同時に行うことも可能となる。また、旋回径の大きいターンバックル胴を省略できるので、ロッド径が大きいブレース2でも構造枠体の厚み内に収めて配設できる。
【0024】
請求項6の発明によれば、取付金具3がブレース挿通部3aの内奥側に囲い枠部3bを備え、ナット4及びワッシャー5を嵌着させたブレース2の端部2aが該囲い枠部3b内に配置するようにしているから、該囲い枠部3bにより、地震等の揺れに伴うブレース2の端部2aの挿入方向への移動と該ブレース2の傾斜角変動による振れを許容する空間が確保される。
【0025】
請求項7の発明によれば、取付金具3の囲い枠部3bが構造枠体厚み方向に対向する一対の垂直脚片部33,33を構成し、両垂直脚片部33,33に構造枠体厚み方向に透通する開放窓34を有するから、該開放窓34を通してラチェットレンチ等でナット4の捻回操作を支障なく行えると共に、開放窓34の分だけ重量減及び材料減になる。
【0026】
請求項8の発明によれば、取付金具3の囲い枠部3bにおける両垂直脚片部33,33の側端縁に溶接用の開先35が形成されているから、構造枠体1の縦枠11に対し、取付金具3を両垂直脚片部33,33の側端縁で確実に強固に溶接できる。
【0027】
請求項9の発明によれば、構造枠体1の縦枠11が開放側を枠体内側に向けた溝形鋼からなり、この溝形鋼の両側壁11a,11a頂部に対して取付金具3が架け渡す形で溶接されるから、この取付金具3の溶接によって構造枠体1の溝形鋼からなる縦枠11が補強されることになり、特に該縦枠11の曲げ強度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態に係るブレース取付装置の正面図である。
【図2】同ブレース取付装置におけるブレース下端部の取付け状態を示す縦断側面図である。
【図3】同ブレース取付装置に用いる取付金具及び付属部品とブレース端部を分離状態で示す斜視図である。
【図4】同取付金具を示し、(a)は平面図、(b)は(a)のB−B線の断面矢視図、(c)は底面図、(d)は左側面図である。
【図5】同取付金具の付属部品のワッシャーを示し、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は(a)のC−C線の縦断側面図である。
【図6】図2のA−A線における断面矢視図である。
【図7】ブレースのロッド径の違いによるワーシャーの挿通孔の変化を示す平面図である。
【図8】同ブレース取付装置におけるゲージラインの傾斜角による取付金具の位置変化を示し、(a)は傾斜角θ1、(b)は傾斜角θ2での取付状態を各々示す縦断側面図である。
【図9】(a)は構造枠体の高さの違いによるブレースのゲージラインの傾斜角変化を示す模式図、(b)は構造枠体における縦枠の側面幅の違いによるブレース端部の連結位置の変化を示す模式図である。
【図10】従来の一般的なブレース取付装置の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、本発明の一実施形態に係るブレース取付装置について、図面を参照して具体的に説明する。なお、本実施形態において、図9で例示した従来構成との共通部分については同一符号を附している。
【0030】
図1で示す耐力壁フレームは、縦枠11と横枠12を矩形に枠組みした構造枠体1の内側に、丸鋼ロッドからなる一対のブレース2A,2B(総称してブレース2)が、各々両端部2a,2aを取付金具3A又は3B(総称して取付金具3)を介して該構造枠体1に連結することにより、X字状の交叉配置で取り付けられている。その構造枠体1の縦枠11及び横枠12は、開放側を枠体内側に向けた溝形鋼からなり、相互の端部で溶接によって連結されている。
【0031】
各ブレース2は、図2及び図3に示すように、両端部2a,2aがねじ軸をなしており、各端部2aを取付金具3のブレース挿通部3aに挿通して、その挿通した端部2aにワッシャー5を介してナット4を螺合緊締することにより、該取付金具3に緊張状態に取り付けられる。また、各ブレースの下部側には、図1及び図2に示すように、横断面六角形の角軸部21が形成されている。
【0032】
取付金具3は、図2〜図4で詳細に示すように、矩形枠部3cと、この矩形枠部3cの一隅に一体化したブロック状のブレース挿通部3aと、矩形枠部3cより延出する左右一対の垂直脚片部33,33からなる囲い枠部33bとで、全体が平面視略矩形で二股状をなし、ブレース挿通部3aには上下に貫通する挿通孔30が穿設されている。しかして、このような取付金具3は、左右幅が構造枠体1の厚みに略等しく設定されるが、交叉配置する各ブレースに対応して、ブレース挿通部3aが矩形枠部3cの左右方向(構造枠体厚み方向)の一側と他側に各々偏って配置した2形態がある。すなわち、図1の正面図で手前側に配置する一方のブレース2Aに対応した取付金具3Aのブレース挿通部3aは手前側(左側)にあり、同奥側に配置した他方のブレース2Bに対応した取付金具3Bのブレース挿通部3aは奥側(右側)にある。なお、両取付金具3A,3Bはブレース挿通部3aの偏りが左右逆である以外は同一構成であるため、図2〜図4では取付金具3Aを代表として図示している。
【0033】
ブレース挿通部3aの挿通孔30は、中心線がブレース2のゲージラインGに対応して傾斜しており、全体としてブレース2のロッド径よりも大きい口径で、且つ出口30a側から入口30b側へ前後方向(構造枠体主面方向)に拡がる孔形状に設定され、もって入口30bが長孔状をなすと共に、出口30aも同方向に僅かに長孔状になっている。また、ブレース挿通部3aにおける挿通孔30の出口30aの周囲は、該挿通孔30の周縁を最低位とする凹球面31をなすと共に、この凹球面31には構造枠体主面方向に沿う径方向のキー溝32が形成されている。
【0034】
囲い枠部3bを構成する左右一対の垂直脚片部33,33は、それぞれ前縁がブレース挿通部3aの挿通孔30の中心方向に沿って傾斜すると共に、後縁が矩形枠部3cの角部から連続して垂直になり、中央部には左右方向(構造枠体厚み方向)に透通する開放窓34が形成されている。また、図4(c)(d)に示すように、両垂直脚片部33,33の後縁外側と下縁外側に、溶接用の開先35が形成されている。
【0035】
この取付金具3に対するブレース2の取り付けに用いるナット4は通常の六角ナットであるが、取付金具3と該ナット4との間に介在させるワッシャー5としては、単なる環状平板ではなく、図3及び図5に示す形態のものが採用される。すなわち、このワッシャー5は、取付金具3の挿通孔30に対向させる上面側が該挿通孔30周囲の凹球面31に対応する凸球面51をなすと共に、取付金具3のキー溝32に対応して、該凸球面51に中心孔50の一径方向に沿う条片状の係合キー52,52が突設されている。なお、該ワッシャー5の挿通孔50は、取付金具3の挿通孔30出口50a側は真円であるが、凸球面51に臨む入口50b側は係合キー52,52の並び方向に僅かに長い楕円になり、その分だけ出口50a側から入口50b側へ拡がる形になっている。
【0036】
上記構成のブレース取付装置では、耐力壁等を構築する際、まず構造枠体1の各縦枠11の上下位置に、各ブレース2の端部2aに対応する取付金具3を溶接によって固着しておく。すなわち、図6で示すように、取付金具3は、構造枠体1の溝形鋼からなる縦枠11の両側壁11b,11bの内側に折曲した両頂端に、囲い枠部3bの両垂直脚片部33,33の後縁を開先35を利用して溶接することにより、該縦枠11の開放側に架け渡す形で固着する。この取付金具3の固着位置は、連結すべきブレース2のゲージラインGが挿通孔30の中心を通って構造枠体1の角部cに合うように設定する。なお、隣接する耐力壁フレーム同士は、図6の仮想線で示すように、相互の縦枠11,11を当接させ、その接合した基壁部11a,11a間を上下複数箇所で貫通ボルト6とナット7で螺着固定する。
【0037】
かくして構造枠体1の縦枠11に固着した取付金具3のブレース挿通部3aに、ブレース2の端部2aを挿通し、この挿通した端部2aにワッシャー5を介してナット4を螺合して締め付けるだけで、該ブレース2を構造枠体1に緊張状態に取り付けることができる。このとき、ワッシャー5は、その凸球面51が取付金具3の凹球面31に接合するが、係合キー32,32が取付金具3側のキー溝32に嵌入することでナット4との供回りを生じない。なお、ナット4の締め付け操作としては、ブレース2を角軸部22で把持して回転止めした状態で、取付金具3の囲い枠部3bの内側へ開放窓34からラチェットレンチの如き適当な捻回具を差し込み、該捻回具によってナット4を捻回する方法の他、該ブレース2の両端部2a,2aを逆ねじに構成し、該角軸部22を利用したブレース2側の回転操作によって両端のナット4,4との螺合緊締を同時に行う方法も採用できる。
【0038】
そして、このナット4の締め付け操作においては、取付金具3のブレース挿通部3aの凸球面31に、ワッシャー5が対応する凸球面51で摺接するように配置しているから、連結しようとするブレース2の角度が本来のゲージラインGから多少ずれていても、ナット4を締め付ける過程で、その緊締力によってブレース2の両端部のワッシャー5,5が相互の距離を最短にするように変位し、ゲージラインGが自ずと構造枠体1の角部cに合う形になり、それだけ取付け操作が容易になる。
【0039】
このようなブレース取付装置によれば、耐力壁等として施工後に地震等による大きな揺れが発生し、構造枠体1が平行四辺形状に反復変形しても、この変形に伴う弛緩側のブレース2は両端部2a,2aが取付金具3のブレース挿通部3aに対して図2の矢印yの如く挿入方向に移動することで撓まずに直線状を維持するから、該弛緩側のブレース2が外側へ撓んで壁面を損傷する懸念はない。しかも、構造枠体1の上記変形に伴って両ブレース2,2の傾斜角が図2の矢印xの如く変動しても、取付金具3の挿通孔30が入口30b側へ拡がる孔形状であり、該挿通孔30内で傾斜角変動が収まる上、両ブレース2,2の傾斜角の変動に追従してワッシャー5がキー係合によって構造枠体主面方向に沿って摺動することで、両ブレース2,2の端部2aの振れも構造枠体主面方向に規制され、もって傾斜角変動が妨げられずに安定して円滑になされるから、取付金具3ならびにこれを固着した構造枠体1の縦枠11に該傾斜角変動に起因した大きな曲げ応力が加わるのを回避でき、該曲げ応力による損傷や歪みを未然に防止できる。従って、取付金具3ひいては耐力壁等として優れた耐久性が得られる。
【0040】
なお、ナット4及びワッシャー5を嵌着させたブレース2の端部2aは、上記の地震等の揺れに伴って挿入方向へ移動したり、ブレース2の傾斜角変動で振れたりする際、その動作空間が取付金具3の囲い枠部3bによって確保されるから、他と干渉して動きを阻害される懸念がない。そして、取付金具3自体は、該囲い枠部3を有することで強度及び剛性が向上すると共に、該囲い枠部3bを構成する両垂直脚片部33,33に開放窓34を有するから、ラチェットレンチ等によるナット4の捻回操作を支障なく行えることに加え、開放窓34の分だけ重量減及び材料減になるという利点がある。
【0041】
一方、このようなブレース取付装置では、取付金具3におけるブレース挿通部3aの挿通孔30がブレース2のロッド径よりも大きい孔径で、且つ出口30a側から入口30b側へ構造枠体主面方向に拡がる孔形状を有するから、ブレース2のゲージラインGが既述した構造枠体1の一階用と二階用との高さの違い等である程度異なっていたり、同じゲージラインGで構造枠体1の縦枠11の側面幅が異なっている場合でも、同じ取付金具3を固着位置の上下調整によって共用できる。例えば、図8(a)で示すように垂直方向に対する傾斜角θ1のゲージラインG1において取付金具3の取付位置が横枠12からの高さh1で適合する場合に、図8(b)の如くゲージラインG2がやや大きい傾斜角θ2であるとき、同じ取付金具3を用いて同図の実線で示すように取付位置を横枠12からの高さh2と低くすることで、該ゲージラインG2に適合させることができる。また、構造枠体1の縦枠11が図8(b)の実線で示す側面幅w1のものに対し、同じゲージラインG2で縦枠11が同図仮想線の如く広い側面幅w2のものに変更された場合、やはり同じ取付金具3を用いて同図仮想線の如く取付位置を横枠12からの高さh3と高くすることで、該ゲージラインG2に適合させることができる。
【0042】
加えて、このブレース取付装置によれば、取付金具3の挿通孔30が出口30a側から入口30b側へ構造枠体主面方向に拡がる孔形状を有することと、このワッシャー5が取付金具3に対して上記凹凸曲面で接して摺動変位できることから、ブレース2のゲージラインGの傾斜角度にある程度の違いがあっても、取付金具3側の挿通孔30における入口30b側の拡がり範囲内であれば、同じ取付金具3を支障なく共用できる。更に、このブレース取付装置においては、ロッド径の異なるブレース2についても、ナット4を適合ねじ径のものに代えるだけで同じ取付金具3を共用できるから、部品の共通化によって材料コストが大幅に低減する。
【0043】
一方、ワッシャー5は取付金具3とのキー係合によって構造枠体厚み方向の位置が定まるから、その挿通孔50の位置によってブレース2も構造枠体厚み方向に位置決めされることになる。しかして、ワッシャー5としては、交叉配置させる両ブレース2A,2Bを非接触に配置させる必要があるが、耐力壁の仕様によって両ブレース2A,2Bの交叉間隔及びロッド径が異なるから、図5で例示したように該挿通孔50が中央にあるものに限らず、該挿通孔50の孔位置及び孔径が上記交叉間隔とロッド径に対応するものを使用すればよい。すなわち、ワッシャー5は、同じ取付金具3に対応して外形及び外側寸法が同じであっても、挿通孔50の孔径が適用するブレース2のロッド径に応じて異なるが、例えば図6の仮想線で示すように両ブレース2,2の交叉間隔を一定にする場合、図7の仮想線円の如く、孔径の異なる挿通孔50でも内周が構造枠体厚み方向の片側(使用時の内側)で同位置になるように偏心した構成とすればよい。
【0044】
なお、上記実施形態では構造枠体1の縦枠11に対して取付金具3を溶接しているが、本発明では溶接に代えて複数箇所でねじ止めする方式も採用できる。ただし、実施形態のように、溝形鋼からなる縦枠11の両側壁11a,11a頂部に対し、取付金具3を架け渡す形で溶接すれば、該取付金具3によって縦枠11が補強されることになり、特に該縦枠11の曲げ強度が向上する。また、この溶接方式を採用する場合、実施形態の如く、囲い枠部3bにおける両垂直脚片部33,33の側端縁に溶接用の開先35を設けることにより、取付金具3を該開先を利用して確実に強固に溶接できる。
【0045】
本発明で用いる取付金具3は、ブレース挿通部3aの挿通孔30がブレース2のロッド径よりも大きい孔径で、且つ出口30a側から入口30b側へ構造枠体主面方向に拡がる孔形状を有することから、既述のようにブレース2のゲージラインGがある程度(一般に傾斜角として7°程度まで)異なっていても同じものを共用できるが、構造枠体1の横幅が0.5倍、1.5倍、2倍と異なることでゲージラインGの傾斜角に大きな差がある場合は、それに対応してブレース挿通部3aの挿通孔30の中心線の傾斜が異なるものを使用すべきことは言うまでもない。しかるに、適用する構造枠体1の横幅毎に対応する取付金具3でも、既述のように一階用と二階用との高さの違い、構造枠体1の縦枠11の側面幅の違い、ブレース2のロッド径の違い等には共用できるから、部品点数は従来に比較して格段に低減することになる。
【0046】
また、取付金具3及びワッシャー5としては、サイズ及び各部の形態を例示以外に種々設定できる。特に両者の対向面について、実施形態では取付金具3側が挿通孔30の周縁を最低位とする凹球面31、ワッシャー5側が該凹球面31に対応する凸球面51となっているが、取付金具3に対してワッシャー5が構造体主面方向に沿って摺動可能であればよいから、取付金具3側は構造枠体主面方向に沿って凹円弧をなす凹曲面、ワッシャー5側は該凹曲面31に対応する凸曲面であればよい。従って、例えば取付金具3側の凹球面31に代えて単なる凹円弧面、ワッシャー5側の凸球面51に代えて単なる凸円弧面をそれぞれ採用してもよい。更に、取付金具3として、例えば横幅の大きい構造枠体1に対応した大きいサイズでは、囲い枠部3bの垂直脚片部33,33間を結ぶ1本又は複数本の補強桟を設けてもよい。
【0047】
一方、ブレース2としては、従来同様にターンバックル胴を介在させてもよいが、実施形態の如く丸鋼ロッドの一部に角軸部22を形成すれば、旋回径の大きいターンバックル胴を省略できるので、ロッド径が大きいブレース2でも構造枠体1の厚み内に収めて配設でき、それだけ耐力壁等としての設計仕様の幅が拡がることになる。この角軸部22としては、横断面が例示した六角形状に限らず、四角形その他の多角形でもよく、また長さ及びブレース2上の形成位置についても例示以外に種々設定できる。なお、該ブレース2の両端部2a,2aを逆ねじに構成し、該角軸部22を利用したブレース2側の回転操作によって両端のナット4,4との螺合緊締を同時に行う場合、両側のナット4,4の回り止めを講じる必要があるが、この回り止め手段として、各ナット4をワッシャー5又は取付金具3の囲い枠部3bに対して適当な介在部材を利用して固定又は係止したり、各ナット4をワッシャー5に対して凹凸嵌合等で直接に係止したり、更には各ナット4を予めワッシャー5に溶接一体化する等の種々の方法を採用できる。
【符号の説明】
【0048】
1 構造枠体
11 縦枠
11a 側壁部
2,2A,2B ブレース
2a 端部
21 角軸部
3,3A,3B 取付金具
3a ブレース挿通部
3b 囲い枠部
30 挿通孔
30a 出口
30b 入口
31 凹球面(凹曲面)
32 キー溝
33 垂直脚片部
34 開放窓
35 開先
4 ナット
5 ワッシャー
50 挿通孔
51 凸球面(凸曲面)
52 係合キー
G ゲージライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
矩形の構造枠体の内側に、丸鋼ロッドからなる一対のブレースをX字状の交叉配置で取り付けるためのブレース取付装置であって、
各ブレースの少なくとも両端部がねじ軸をなし、両ブレースの各端部に対応して前記構造枠体の縦枠に固着させる取付金具とナット及びワッシャーを備え、
前記取付金具はブレースの端部を挿通させるブレース挿通部を有し、該ブレース挿通部の挿通孔がブレースのロッド径よりも大きい孔径で且つ出口側から入口側へ構造枠体主面方向に拡がる孔形状を有し、
前記取付金具のブレース挿通部に挿通させたブレースの端部に、前記ワッシャーを介してナットを螺合緊締することにより、該ブレースが構造枠体に緊張状態で固定されるように構成されてなるブレース取付装置。
【請求項2】
前記取付金具のブレース挿通部における挿通孔出口の周囲に、構造枠体主面方向に沿って凹円弧をなす凹曲面が形成されると共に、このブレース挿通部に対向する前記ワッシャーの表面が前記凹曲面に対応する凸曲面をなす請求項1に記載のブレース取付装置。
【請求項3】
前記ブレース挿通部の凹曲面に構造枠体主面方向に沿うキー溝が形成されると共に、前記ワッシャーの凸曲面に該キー溝に摺動自在に嵌入する係合キーが突設されてなる請求項2に記載のブレース取付装置。
【請求項4】
前記ワッシャーの挿通孔が、前記一対のブレースの交叉間隔とロッド径に対応した孔位置及び孔径に設定されてなる請求項3に記載のブレース取付装置。
【請求項5】
ブレースの丸鋼ロッドの一部に角軸部が形成されてなる請求項1〜4の何れかに記載のブレース取付装置。
【請求項6】
前記取付金具は、ブレース挿通部の内奥側に囲い枠部が一体形成され、該ブレース挿通部に挿通して前記ナット及びワッシャーを嵌着させたブレースの端部が該囲い枠部内に配置するように構成されてなる請求項1〜5の何れかに記載のブレース取付装置。
【請求項7】
前記取付金具の囲い枠部が構造枠体厚み方向に対向する一対の垂直脚片部を構成すると共に、両垂直脚片部に構造枠体厚み方向に透通する開放窓が形成されてなる請求項6に記載のブレース取付装置。
【請求項8】
前記の両垂直脚片部における構造枠体の縦枠に対向する側端縁に、溶接用の開先が形成されてなる請求項7に記載のブレース取付装置。
【請求項9】
構造枠体の縦枠が開放側を枠体内側に向けた溝形鋼からなり、この溝形鋼の両側壁頂部に対して前記取付金具が架け渡す形で溶接されてなる請求項1〜8の何れかに記載のブレース取付装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−77538(P2012−77538A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−224793(P2010−224793)
【出願日】平成22年10月4日(2010.10.4)
【出願人】(592050283)住金物産株式会社 (10)
【Fターム(参考)】