説明

ブームシリンダ昇降用油圧回路

【課題】建設機械のブームシリンダ昇降をダイレクトに駆動するに当たって、省エネルギー効果を損なうことなく油撃発生を防止できる装置を備えた油圧回路の提供。
【解決手段】ブームシリンダ昇降用油圧回路において、双方向回転ポンプ9の2つの吐出口と各シリンダ室とがそれぞれ接続された負荷シリンダ3の、ボトム側シリンダ室6の油路出入口付近とロッド側シリンダ室7の油路出入口付近とを接続するバイパス回路20と、バイパス回路にそれぞれ配置され、操縦桿31の作動時に発生する制御部30からの指令信号に基づいてバイパス回路を予め定められた時間だけ開く電磁開閉弁21と、絞り弁22とを有する油撃発生防止装置を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばショベル等の建設機械のブームを昇降させる油圧シリンダにおいて油撃の発生を防止するための装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的にショベルと呼ばれてい建設機械は、自走車両上に旋回ステージが搭載され、この旋回ステージに、運転キャビンと、油圧で起伏可能に枢支された油圧作動ブームとが設置されている。この油圧作動ブームの先端には、堀削用のバケットがブームに対して曲げ伸ばし可能に連結された油圧作動アームを介して取り付けられており、運転キャビン内の制御部からこれらブームおよびアーム、バケットが駆動制御されることにより地面の掘削作業が行われる。
【0003】
ステージの旋回やブーム、アーム及びバケットを駆動させる油圧力は、車両のエンジンの動力の一部を油圧発生装置によって変換して得ている。即ち、油圧発生装置では、エンジンにより油圧ポンプが回転駆動され、発生する流体動力を各部の油圧シリンダに送ることで大出力の作業が可能となる。
【0004】
このような油圧駆動による建設機械では、他の機械と異なり駆動動力が大きいため、省エネルギー化には困難な課題が多くある。メーカーにおいてまず考えられた電動化としては、油圧システムのなかで油圧ポンプを経て制御弁により作業シリンダを操作する回路構成は従来のままで、油圧ポンプの駆動をバッテリから供給する方式としたものが多い。
【0005】
一方、油圧アクチュエータの油圧回路では、最も応答性、制御性に優れている油圧サーボ弁による方向制御によってシリンダの駆動制御が行われていた。しかし、油圧サーボ弁は応答性は良いものの消費電力が大きいという問題がある。そこで、特に上記のようなアーム及びバケットの負荷を持つブームの駆動に大きな動力が必要とされる建設機械においては、このブームを起伏させるためのブームシリンダの昇降用に、近年開発されてきた高速応答するACサーボモータをピストンポンプと組み合わせることによって油圧サーボ弁を用いることなくダイレクトに油圧アクチュエータを制御できる油圧回路を採用したものが提案されている(例えば、特許文献1,2参照。)。
【0006】
例えば、ACサーボモータにより駆動され、正逆双方向に油圧を供給できる双方向回転ポンプの両出口ポートに負荷シリンダを接続するだけのシンプルな油圧回路が挙げられる。このような油圧制御システムでは、ポンプ吐出ラインとシリンダとの間の直列ライン上に制御弁がなく、ほぼ安全弁と自吸弁で構成されるものである(特許文献3参照。)。
【0007】
安全弁は、負荷シリンダのボトム側シリンダ室及びロッド側シリンダ室の油圧をそれぞれ予め定められた設定圧を越えた際に逃がす2つのリリーフ弁からなるものであり、自吸弁はロッド側及びボトム側の互いの供給作動油からのパイロット圧により開く2つのオペレートチェック弁から構成され、ポンプの油吸込みはシリンダ動作の戻りラインからの供給により行われ、ロッド側とボトム側とのシリンダ断面積差分に基づく油量の過不足分がこの自吸弁により補償される。これら安全弁や自吸弁も余分な電力や回路構成の大型化の必要がなく、油圧アクチュエータのダイレクト駆動による省エネ効果に影響しないものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3647319号公報
【特許文献2】特許第3877901号公報
【特許文献3】特開2006−329241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、ショベルのブームシリンダの昇降動作は、運転キャビン内の制御部においてジョイスティックと呼ばれる操縦桿での操作により行われるが、上記のような油圧サーボ弁のないダイレクト駆動型の油圧回路でこのブームシリンダの昇降を作動させた場合、作動開始時と停止時に大きなサージ圧力が発生し、ボトム側シリンダ室の圧力に大きな振動が発生するという、所謂油撃現象が見られる。さらに、バケットが着地した状態から作動開始する場合には、ボトム側シリンダ室の圧力はゼロから上昇することになるため、昇圧し始めてから動き出すが、その動き出した瞬間にサージ圧力が発生する。
【0010】
また、このような油撃現象を抑えるために油圧回路にカウンタバランス弁を配置してしまうと、バルブ損失が発生して省エネルギーとならず、油圧サーボ弁を省いてダイレクト駆動型とした油圧回路の利点が損なわれる。
【0011】
本発明の目的は、上記問題点に鑑み、建設機械用ブームシリンダの昇降をダイレクトに駆動制御する油圧回路において、省エネルギー効果を損なうことなく油撃発生を防止できる装置を備えた油圧回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、2つの吐出口を有し、サーボモータによる回転駆動でその回転方向によって選択的に特定される前記2つの吐出口のうちのいずれか一方の吐出口からタンク内の作動油を逆止弁を介して吸引すると共に他方の吐出口から吐出する双方向回転ポンプと、該ポンプの2つの吐出口とボトム側シリンダ室およびロッド側シリンダ室とがそれぞれ接続された負荷シリンダと、この負荷シリンダのロッド側及びボトム側からの油圧をそれぞれ予め定められた設定圧を越えた際に逃がす2つのリリーフ弁からなる安全弁と、前記ポンプの一方の吐出口と前記ボトム側シリンダ室とを接続する流路からの第1分岐路及び前記ポンプの他方の吐出口と前記ロッド側シリンダ室とを接続する流路からの第2分岐路と、前記タンクとの接続状態を油圧による位置変位で切り換えてボトム側とロッド側とのシリンダ断面積差による油量過不足分を補償する油圧パイロット切換弁と、ブーム駆動用操縦桿の作動に応じて発生する信号に基づいて前記サーボモータの回転駆動を制御する制御部と、を備えたブームシリンダ昇降用油圧回路であって、前記ボトム側シリンダ室の油路出入口付近とロッド側シリンダ室の油路出入口付近とを接続するバイパス回路と、該バイパス回路にそれぞれ配置された、前記制御部からの指令信号に基づいて該バイパス回路を開閉する電磁開閉弁と、絞り弁とを有する油撃発生防止装置を更に備え、前記制御部は、前記操縦桿の作動時に発生する信号のうち予め定められた出力信号に応じて、予め定められた時間だけ前記バイパス回路を開ける指令を前記電磁開閉弁に送信するものである。
【0013】
即ち、本発明は、建設機械のブームシリンダの昇降をダイレクトに駆動制御する油圧回路において、油撃発生防止装置として、電磁開閉弁と絞り弁を介して負荷シリンダのボトム側シリンダ室とロッド側シリンダ室とを連通するバイパス回路を設け、通常はサージ圧力が発生するシリンダ作動開始時、また停止時において制御部からの指令で前記電磁開閉弁を必要な時間だけ開けるものである。
【0014】
従って、本発明によれば、ボトム側シリンダ室の圧力に圧力振動を生じさせる油撃波動の圧縮・膨張が発生した瞬間に、短時間だけ前記電磁開閉弁を開けることによって、該圧縮波・膨張波がボトム側からロッド側へ吸収され、キャンセルされるため、負荷シリンダに対する電磁弁及び絞り弁の並列配置という簡便な構成でありながら、ブームシリンダ昇降用のダイレクト駆動型油圧回路において省エネ効果を損なうことなく油撃発生を防止することができる。
【0015】
また、ブームを作動させるためにサーボモータの回転駆動を制御する制御部は、操縦桿(ジョイスティック)の操作に応じて指令信号を発生させ、駆動系を制御させるものであり、本発明の電磁開閉弁の駆動制御も、制御部からの指令信号に応じて行うものである。具体的には、サージ圧力が発生するブームシリンダの昇降作動の開始時、停止時に電磁弁を開ける指令信号を発生させるが、作動開始、停止の認識は、操縦桿の操作速度に対して、作動開始、停止に対応するあるレベルを超えた速度を検知することによってスタート信号を発生させる設定とすれば、サージ圧力発生に直ちに対応できる。スタート信号発生から電磁開閉弁の開状態を維持するパルス時間は予め油撃防止に効果的な時間相当に設定しておく。
【0016】
以上の構成から、本発明の電磁開閉弁としては、より高速応答のものが望ましい。たとえば、作動油の流通を非常に短時間で制御するものであるため、通電(ON)時にソレノイドの駆動で開位置に変位するものが好ましい。またスプール型の電磁弁に限らず、より高応答なポペット型電磁弁の採用も可能である。なお、各開動作におけるON時間の長さや絞り弁の開度は、実際に対応させるサージ圧力に応じて適宜設定すれば良い。
【0017】
なお、本発明の油圧回路では、ボトム側とロッド側とのシリンダ断面積差による油量過不足分を補償するために、従来のようなロッド側及びボトム側の互いの供給作動油からのパイロット圧により開く2つのオペレートチェック弁から構成される自吸弁を配置するのではなく、ポンプの一方の吐出口とボトム側シリンダ室とを接続する流路からの第1分岐路及びポンプの他方の吐出口とロッド側シリンダ室とを接続する流路からの第2分岐路と、タンクとの接続状態を油圧による位置変位で切り換える油圧パイロット切換弁を配置した。
【0018】
これは、オペレートチェック弁からなる自吸弁では、ブームシリンダの移動中にシリンダ負荷が反転すると、オペレートチェック弁の開閉も逆になり、回路中の圧力を急激に低下させてしまったり、また、ブームバケットの負荷状況によってはシリンダ圧が中間的圧力となって双方のオペレートチェック弁が同時に開いてしまうなど、作動油流量の過不足分を良好に補償することができなくなり、ブームシリンダの昇降制御が困難になるためである。これに対して、上記油圧パイロット切換弁によれば、優れた制動性が得られる。
【0019】
このような油圧パイロット切換弁としては、ブームシリンダ下降時にボトム側シリンダ室からの油圧の一部により変位して第1分岐路とタンクとの接続を絶つと共に第2分岐路とタンクとを接続してポンプからロッド側シリンダ室へ供給される流量のうちの必要流量に対する過剰分をタンクへ導く第1接続回路を形成する第1位置と、ブームシリンダ下降後のブーム接地状態にてロッド側シリンダ室の圧力上昇の際にその一部圧力により変位して第2分岐路とタンクとの接続を絶つと共に第1分岐路とタンクとを接続してボトム側シリンダ室からの戻り作動油のうちの余剰流量をタンクへ導く第2接続回路を形成する第2位置と、第1位置と第2位置との間の中央位置でタンクと第1分岐路及び第2分岐路の双方との接続を絶つ第3位置と、を有するスプリングセンタリング形の3位置切換弁とするのが良い。
【0020】
このようなスプリングセンタリング形の油圧パイロット3位置切換弁を配置することによって、省エネ効果を損なうことなくシリンダ負荷が反転しても該切換弁は第1位置のままで同じ第1接続回路状態を維持できるという優れた制動性を示しながら、ブームシリンダ上昇時のロッド側シリンダ室への作動油供給流量の不足分をタンクから吸い込んで補足でき、さらにブームシリンダ下降後の堀削移行の際のロッド側シリンダ室の圧力上昇時には第2位置への変移で第2接続回路状態を形成してボトム側シリンダ室からの戻り作動油の余剰分流量をタンクに戻すことができ、常に良好に作動油流量の過不足を補償してブームシリンダの良好な昇降作動に寄与する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によるブームシリンダ昇降用油圧回路においては、油撃発生防止装置として、電磁開閉弁と絞り弁を介して負荷シリンダのボトム側シリンダ室とロッド側シリンダ室とを連通するバイパス回路を設け、通常はサージ圧力が発生するシリンダ作動開始時、また停止時において制御部からの指令で前記電磁開閉弁を必要な時間だけ開けることによって、ボトム側シリンダ室の圧力に圧力振動を生じさせる油撃波動の圧縮・膨張が発生した瞬間に、該圧縮波・膨張波をキャンセルできるため、ダイレクト駆動型の油圧回路における省エネ効果を損なうことなく油撃発生を防止できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施の形態によるブームシリンダ昇降用油圧回路の概略構成図である。
【図2】図1の油圧回路によるブームシリンダの昇降動作時の各要素に関する経時的変移を示す線図であり、ピストン位置y(横軸:時間s,縦軸:高さcm)とボトム側シリンダ室圧力Ph及びロッド側シリンダ室圧力Pr(横軸:時間s,縦軸:圧力MPa)を示すものである。
【図3】図1と同様のダイレクト駆動型油圧回路にて油撃発生防止装置を設けなかった場合のブームシリンダの昇降動作時の各要素に関する経時的変移を示す線図であり、ピストン位置y(横軸:時間s,縦軸:高さcm)とボトム側シリンダ室圧力Ph及びロッド側シリンダ室圧力Pr(横軸:時間s,縦軸:圧力MPa)を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の一実施の形態として、図1にショベルのブームシリンダ昇降用油圧回路を示す。本油圧回路におけるブームシリンダ1の実質的な昇降作動は、ブーム2を支持する負荷シリンダ3のピストン5・ロッド4の昇降に伴ってなされるものである。
【0024】
本油圧回路は、ショベルの本体側に搭載されたエンジンからの動力で駆動されるACサーボモータ8と、該サーボモータ8によって駆動される2つの吐出口を有する双方向回転ポンプ9とを備え、負荷シリンダ3は、ピストン5によってボトム側シリンダ室6とロッド側シリンダ室7とに仕切られ、該ポンプ9の2つの吐出口のうちの一方の第1出口9aが第1の油路11によってボトム側シリンダ室6にダイレクトに接続され、他方の第2出口9bが第2の油路12によってロッド側シリンダ室7にダイレクトに接続されている。第1の油路11と第2の油路12の間には、従来と同様にロッド側シリンダ室7及びボトム側シリンダ室6の油圧をそれぞれ予め定められた設定圧を越えた際に逃がす2つのリリーフ弁からなる安全弁13を配置している。
【0025】
ブームシリンダ1の上昇作動の際は、ACサーボモータ8の回転を正方向で駆動させることによりポンプ9の第1出口9aから作動油を吐出させ、第1の油路11からボトム側シリンダ室6内へ供給し、ピストン5・ロッド4を上昇させる。これに伴いロッド側シリンダ室7内から排出された戻り作動油は、第2の油路12を経てポンプ9の第2出口9bから吸い込まれて環流する。
【0026】
ブームシリンダ1の下降作動の際は、ACサーボモータ8の回転を逆方向で駆動させることによってポンプ9の第2出口9bから作動油を吐出させ、第2の油路12からロッド側シリンダ室7内へ供給し、ピストン5・ロッド4を下降させる。これに伴いボトム側シリンダ室6内から排出された戻り作動油は、第1の油路11を経てポンプ9の第1出口9aから吸い込まれて環流する。なお、ポンプ9の第1出口9aはチェック弁CK1を介してタンク10から作動油を吸い込むことができ、第2出口9bはチェック弁CK2を介してタンク10から作動油を吸い込むことができる。
【0027】
このような油圧回路によるブームシリンダ1の昇降作動は、ショベルの運転キャビン内において操縦桿の操作に応じて制御部30で発生する指令信号に基づいてACサーボモータ8の回転駆動が制御されることによって行われる。
【0028】
本油圧回路においては、ボトム側のシリンダ断面積Ahとロッド側のシリンダ断面積Arとの間の差分に基づいて生じる作動油流量の過不足を補償するために、第1の油路11と第2の油路12との間にスプリングセンタリング形の油圧パイロット3位置切換弁16を配置した。
【0029】
この切換弁16は、第1の油路11からの第1分岐路14のポートAと、第2の油路12からの第2分岐路15のポートBと、タンク10のポートTとの間の接続状態を切り換えるものである。具体的には、第1分岐路14のポートAとタンクポートTとの接続を絶つと共に第2分岐路15のポートBとタンクポートTとを接続する第1接続回路を形成する第1位置17と、第2分岐路15のポートBとタンクポートTとの接続を絶つと共に第1分岐路14のポートAとタンクポートTとを接続する第2接続回路を形成する第2位置18と、これら第1位値17と第2位置18との間の中央位置で全てのポートを閉じてタンクポートTと第1分岐路14のポートAおよび第2分岐路15のポートB双方との接続を絶つ第3位置19との3位置を有するものである。
【0030】
切換弁16は両端にスプリングが配置されており、両スプリングの付勢のみによる中立状態では第3位置19によるポートA,BとタンクポートTとの接続が絶たれた回路状態が維持される。また、第1の油路11からのパイロット圧によりスプリングに抗して切換弁16が変位すると第1位置17による第1接続回路が形成され、第2の油路12からのパイロット圧によりスプリングに抗して切換弁16が変位すると第2位置18による第2接続回路が形成される。なお、これら第1および第2の油路から切換弁16に至るパイロット圧は、それぞれ絞りを介して圧力・流量が制御されている。
【0031】
このような油圧パイロット3位置切換弁16を備えた油圧回路においては、ボトム側シリンダ室6には、バケットに負荷が無くても常時ブームバケットの自重による荷重があるため、第1の油路11からのパイロット圧で切換弁16は第1位置17による第1接続回路が形成される。この状態でブームシリンダ1の上昇を行えば、ポンプ9の第1出口9aから吐出される作動油流量qがそのままボトム側シリンダ室6への供給流量q1となり、ロッド側シリンダ室7から排出される作動油の流量q2はシリンダ断面積差分に相当する流量でポンプ9の第2出口9bから吸い込まれて環流する。この環流だけの吸込流量ではボトム側シリンダ室6への供給流量が不足するが、ポンプ9はタンク10からチェック弁CK2を介して不足分流量q3bを吸い込むことができ、不足分を補足できる。
【0032】
ブームシリンダ1の上昇後、下降に転じても、切換弁16は、同じ自重荷重による第1位置17による第1接続回路状態のままで、上昇時と変わらない。この下降工程では、ポンプ9の回転方向が上昇時と逆転し、第2出口9bから吐出された作動油流量q2がロッド側シリンダ室7へ供給されると同時にボトム側シリンダ室6から排出される作動油q1は第1出口9aから吸い込まれてポンプ9に環流される。しかしブームシリンダ1の下降にはこの環流全量は不要であるため、過剰分流量q3aが切換弁16の第1位置17の第1接続回路においてタンクポートTに連通された第2分岐路15のポートBからタンクへ戻される。
【0033】
また、ブームシリンダ1の下降から堀削へ移行した場合、ロッド側シリンダ室7の圧力Prは急激に上昇する。この圧力上昇に伴って第2の油路12からのパイロット圧を受けた切換弁16は、スプリングに抗して変位し、第2位置18による第2接続経路を形成し、第1分岐路14のポートAとタンクポートTとを接続する。従って、ボトム側シリンダ室6から排出される作動油流量q1は、全流量がそのままポンプ9へ環流せずに、余剰分流量q4aが切換弁16を介して第1分岐路14からタンク10へ戻る。
【0034】
以上のように、自吸弁として油圧パイロット3位置切換弁16を備えた本ブームシリンダ昇降用油圧回路においては、シリンダ3における負荷の反転が移動中に起こっても、切換弁16の変位は生じることなく、油量過不足分の補償を良好に行える状態が維持され、優れた制動性が実現する。
【0035】
さらに本油圧回路では、ボトム側シリンダ室6の圧力Phに圧力振動を生じさせる油撃の発生を防止する装置を備えた。この油撃発生防止装置は、第1油路11と第2油路12とを互いにボトム側シリンダ室6とロッド側シリンダ室7の各油路出入口付近で接続するバイパス回路20と、該バイパス回路20にそれぞれ配置された電磁開閉弁21および絞り弁22とから構成されるものである。
【0036】
電磁開閉弁21は、制御部30からの指令信号に基づいて該バイパス回路20を開閉するものである。本油圧回路では、制御部30にてブームシリンダ1の昇降作動の開始時と停止時に相当する操縦桿31の操作速度が検知された際に電磁開閉弁21に通電させて予め定められた短時間、ここでは0.6秒の間だけ開状態とする指令信号が発生される設定とした。
【0037】
この設定において、ブームシリンダ1の昇降作動を行った場合のボトム側シリンダ室6の圧力Ph(MPa)の経時的変化を、ピストン位置y(cm)の変移に沿ってロッド側シリンダ室12の圧力Pr(MPa)の経時的変化と共に図2の線図として示す。
【0038】
また、対照として、図1と基本構成が同じで油撃発生防止装置が設けられていない油圧回路にてブームシリンダ1の昇降作動を行った場合のボトム側シリンダ室の圧力Ph(MPa)とロッド側シリンダ室12の圧力Pr(MPa)の経時的変化を、ピストン位置y(cm)の変移に沿って図3の線図として示す。
【0039】
これらの図から明らかなように、油撃発生防止装置の設けられていない油圧回路においては、ブームシリンダの上昇開始時、停止時および下降開始時、停止時においてサージ圧力が発生しているのに対して、本実施形態による油圧回路においては、同じタイミングでサージ圧力の発生が抑えられた。
【0040】
以上のように、電磁開閉弁21と絞り弁22とを負荷シリンダ3に対して並列状に配置するという簡便な構成で、ダイレクト駆動型油圧回路の省エネ効果を損なうことなく良好に油撃発生を防止できることが確認できた。
【符号の説明】
【0041】
1:ブームシリンダ
2:ブーム
3:負荷シリンダ
4:ロッド
5:ピストン
6:ボトム側シリンダ室
7:ロッド側シリンダ室
8:ACサーボモータ
9:双方向回転ポンプ
9a:第1出口
9b:第2出口
CK1,CK2:チェック弁
10:タンク
11:第1の油路
12:第2の油路
13:安全弁(リリーフ弁)
14:第1分岐路
15:第2分岐路
16:油圧パイロット3位置切換弁
17:第1位置
18:第2位置
19:第3位置
20:バイパス回路
21:電磁開閉弁
22:絞り弁
30:制御部
31:操縦桿

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの吐出口を有し、サーボモータによる回転駆動でその回転方向によって選択的に特定される前記2つの吐出口のうちのいずれか一方の吐出口からタンク内の作動油を逆止弁を介して吸引すると共に他方の吐出口から吐出する双方向回転ポンプと、
該ポンプの2つの吐出口とボトム側シリンダ室およびロッド側シリンダ室とがそれぞれ接続された負荷シリンダと、
この負荷シリンダのロッド側及びボトム側からの油圧をそれぞれ予め定められた設定圧を越えた際に逃がす2つのリリーフ弁からなる安全弁と、
前記ポンプの一方の吐出口と前記ボトム側シリンダ室とを接続する流路からの第1分岐路及び前記ポンプの他方の吐出口と前記ロッド側シリンダ室とを接続する流路からの第2分岐路と、前記タンクとの接続状態を油圧による位置変位で切り換えてボトム側とロッド側とのシリンダ断面積差による油量過不足分を補償する油圧パイロット切換弁と、
ブーム駆動用操縦桿の作動に応じて発生する信号に基づいて前記サーボモータの回転駆動を制御する制御部と、を備えたブームシリンダ昇降用油圧回路であって、
前記ボトム側シリンダ室の油路出入口付近とロッド側シリンダ室の油路出入口付近とを接続するバイパス回路と、該バイパス回路にそれぞれ配置され、前記制御部からの指令信号に基づいて該バイパス回路を開閉する電磁開閉弁と、絞り弁とを有する油撃発生防止装置を更に備え、
前記制御部は、前記操縦桿の作動時に発生する信号のうち予め定められた出力信号に応じて、予め定められた時間だけ前記バイパス回路を開ける指令を前記電磁開閉弁に送信することを特徴とするブームシリンダ昇降用油圧回路。
【請求項2】
前記切換弁は、ブームシリンダ下降時にボトム側シリンダ室からの油圧の一部により変位して前記第1分岐路とタンクとの接続を絶つと共に前記第2分岐路とタンクとを接続して前記ポンプからロッド側シリンダ室へ供給される流量のうちの必要流量に対する過剰分をタンクへ導く第1接続回路を形成する第1位置と、ブームシリンダ下降後のブーム接地状態にてロッド側シリンダ室の圧力上昇の際にその一部圧力により変位して前記第2分岐路とタンクとの接続を絶つと共に前記第1分岐路とタンクとを接続して前記ボトム側シリンダ室からの戻り作動油のうちの余剰流量をタンクへ導く第2接続回路を形成する第2位置と、第1位置と第2位置との間の中央位置でタンクと前記第1分岐路及び第2分岐路の双方との接続を絶つ第3位置と、を有するスプリングセンタリング形の3位置切換弁であることを特徴とする請求項1に記載のブームシリンダ昇降用油圧回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−229777(P2012−229777A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99648(P2011−99648)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000246251)油研工業株式会社 (28)
【Fターム(参考)】