プラスチックの処理方法
【課題】プラスチックを処理する際の水素化分解反応の生成物である重質留分を無害化して有効に利用するプラスチックの処理方法を提供する。
【解決手段】本発明は、プラスチックと溶剤を混合、加熱して前記プラスチックを溶解する溶解工程と、この溶解工程で得られたプラスチック溶液を触媒の存在下で水素と反応させて、水素化分解反応を行う水素化分解工程と、この水素化分解工程で生成した水素化分解反応生成物を蒸留して、重質留分を得る蒸留工程と、この蒸留工程で得られた重質留分と石炭とを混合、加熱して、前記石炭を改質する加熱処理工程とを有する。
【解決手段】本発明は、プラスチックと溶剤を混合、加熱して前記プラスチックを溶解する溶解工程と、この溶解工程で得られたプラスチック溶液を触媒の存在下で水素と反応させて、水素化分解反応を行う水素化分解工程と、この水素化分解工程で生成した水素化分解反応生成物を蒸留して、重質留分を得る蒸留工程と、この蒸留工程で得られた重質留分と石炭とを混合、加熱して、前記石炭を改質する加熱処理工程とを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック廃棄物などを有効利用するためのプラスチックの処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般廃棄物系プラスチックを水素化分解して、ベンゼンまたはベンゼン誘導体、すなわちベンゼン類を得る技術としては、特許文献1に開示されている技術がある。
【0003】
この特許文献1では、加熱されて液化された廃プラスチックを含む液状の単環または多環系芳香族化合物に水素を加えて水素化分解反応(水添分解反応)させるとともに、得られた反応生成物を環化触媒の存在下で反応させてベンゼン類を得ている。
【特許文献1】特開2003−321682号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示されている技術によれば水素化分解反応生成物としてベンゼン類は得られるが、廃プラスチック中には塩素が存在するため同時に芳香族塩素化合物が副生し、これを取り除くことは困難である。また、水素化分解反応の生成物の1つである分解油、たとえば重質留分の塩素濃度が高くなるという問題もある。とりわけ、水素化分解反応生成物である高沸点の留分(重質留分)のなかに含まれる芳香族塩素化合物は、通常の方法である蒸留、溶剤抽出などで分離することはできず、高濃度の塩素を含む重質油は腐食対策を施した専用の燃焼炉において高コストで燃焼処理するくらいしか処分の道はなかった。すなわち、蒸留による重質留分中の芳香族塩素化合物の分離では、減圧下でかなりの温度に加熱しないと留出しないが、加熱していると重縮合してさらに高沸点となり、今度は留出できなくなる。つまり、蒸留では分離できないということである。一方、溶剤抽出では、選択的に抽出できる溶剤がなく、塩素が結合していない普通の芳香族有機塩素化合物も同時に抽出されるため、同様に分離できない。また、プラスチックのなかに塩素が含まれている場合、触媒は塩素固定剤としての機能も兼ね備えなくてはならないため、塩素に対して過剰に添加しなくてはならなく、副産物が多量に発生して処理に困るという問題もある。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、プラスチックを処理する際の水素化分解反応の生成物である重質留分を無害化して有効に利用するプラスチックの処理方法を提供する。すなわち、副生する分解油中重質留分の原料化方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために、鋭意検討を重ねた。その結果、重質留分と、そのままではコークス製造用原料とならない劣質炭や非微粘結炭を加熱処理すると劣質炭や非微粘結炭が改質されることを見出し、コークス原料とすることが可能であるという知見を得た。また、この加熱処理によって重質留分に含有されている塩素は、劣質炭や非微粘結炭に含まれている無機物(ナトリウム、カルシウム、カリウムなど)と塩を形成して、塩化水素を発生しないような安定な状態となる。すなわち、水素化分解反応の生成物である重質留分を有効利用できるプラスチックの処理方法である。
【0007】
つまり、本発明は以下のような特徴を有する。
[1]プラスチックと溶剤を混合、加熱して前記プラスチックを溶解する溶解工程と、
該溶解工程で得られたプラスチック溶液を触媒の存在下で水素と反応させて、水素化分解反応を行う水素化分解工程と、
該水素化分解工程で生成した水素化分解反応生成物を蒸留して、重質留分を得る蒸留工程と、
該蒸留工程で得られた重質留分と石炭とを混合、加熱して、前記石炭を改質する加熱処理工程とを有することを特徴とするプラスチックの処理方法。
[2]上記[1]において、前記溶解工程と前記水素化分解工程との間に、前記溶解工程で得られたプラスチック溶液に水を添加して、前記プラスチック溶液中の水溶性塩素分を水に抽出後、該水を除去する水溶性塩素分抽出・除去工程を有し、
前記水素化分解工程に、水溶性塩素分が除去されたプラスチック溶液を導入することを特徴とするプラスチックの処理方法。
[3]上記[1]または[2]において、前記水素化分解工程と前記蒸留工程との間に、前記水素化分解工程で生成した水素化分解反応生成物に水を添加して、前記水素化分解反応生成物中の水溶性塩素分を水に抽出後、該水を除去する水溶性塩素分抽出・除去工程を有し、
前記蒸留工程に、水溶性塩素分が除去された水素化分解反応生成物を導入することを特徴とするプラスチックの処理方法。
[4]上記[1]乃至[3]のいずれかにおいて、前記蒸留工程で得られる重質留分の沸点が、330℃以上であることを特徴とするプラスチックの処理方法。
[5]上記[1]乃至[4]のいずれかにおいて、前記加熱処理工程で改質される石炭が、劣質炭および/または非微粘結炭であることを特徴とするプラスチックの処理方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、副生する重質留分を無害化して有効に利用できるプラスチックの処理方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の構成は上述した通りである。以下、本発明の各構成要件をより具体的に説明する。
【0010】
[溶解工程]
ここでは、プラスチックと溶剤を混合、加熱して前記プラスチックを前記溶剤中に溶解し、プラスチック溶液とする。前記プラスチックとしては、廃プラスチックである産業廃棄物系プラスチックのほか、一般廃棄物系プラスチック(プラスチックごみ)を用いることができる。すなわち、塩化ビニル樹脂などの塩素を含む都市ごみ系の廃プラスチックでも構わない。プラスチック(廃プラスチックでも同様。以下同じ。)の粒度調整は、特段必要ないが、プラスチックの溶解時間を短くするという観点からは粗砕することが望ましい。
【0011】
溶剤は、プラスチックを溶解(流動化)でき、生成するベンゼン類と分離、すなわち複数の相を形成しないものであればその種類は限定されない。しかし、相溶性があるという点で単環、二環、三環程度の芳香族化合物(各種誘導体も含む)、あるいはこれらの混合物などが好ましい。なかでも、コールタールの各蒸留留分は熱硬化性樹脂や紙類なども流動化できるため、次工程の水素化分解工程を行う水素化分解反応器へのプラスチック溶液のポンプアップが可能となるので、極めて好適である。コールタールの各蒸留留分としては、コールタール(全留分)をはじめ、コールタール蒸留プラントで製造されるクレオソート油留分、アントラセン油留分などを用いることができ、また、これらにコールタールピッチを含有していてもよい。
【0012】
プラスチックと溶剤の混合割合は、質量比で、5:95〜40:60が好ましい。プラスチックの割合が少ないときは処理装置の規模が大きくなり、経済的に不利になり、また、多い場合は流動性が悪くなる。
【0013】
プラスチックの溶解の温度条件に関しては、150〜250℃が好ましい。150℃未満の場合は、溶解速度が遅く、250℃を超えるとタール(クレオソート油、アントラセン油など)の蒸発量が多くなる。
【0014】
[水素化分解工程]
ここでは、上記溶解工程で得られたプラスチック溶液を触媒の存在下で水素と反応させて、水素化分解反応を行う。前記水素化分解反応に用いる触媒としては、プラスチックに塩素をほとんど含まないときは、すなわち多くの場合産業廃棄物系プラスチックを原料とするときは、Co−Mo、Ni−Mo、Ni−W系触媒、あるいは鉄触媒(酸化鉄、硫化鉄、硫酸鉄およびその焼成物)などが挙げられる。これらの触媒は、必要によりアルミナ(Al2O3)、シリカ(SiO2)、ゼオライトなどの担体に担持させることができる。ただし、産業廃棄物系ではなく都市ごみ系(一般廃棄物系)の廃プラスチックで%オーダーの塩素を含有するときは、前記触媒の貴金属成分が塩化物を形成して劣化してしまうので、塩化物となっても触媒性能が維持される鉄触媒を用いることが好ましい。鉄系触媒の代表例としては、鉄鉱石、転炉ダストなどを挙げることができる。前記触媒を粒状物で使用する場合の粒径は通常でよく、0.01〜10mm程度でよい。この触媒は、流動床、固定床、スラリー床などのいずれの反応形式で用いても構わない。
【0015】
触媒の添加量は、プラスチック溶液に対して1〜10質量%が好ましく、特に3〜5質量%が好ましい。触媒添加量が少なすぎると、水素化分解反応が進行し難い。また、触媒を、10質量%を超えて添加しても効果が飽和する。
【0016】
なお、前記触媒は始めから添加してもよく、塩素分を抽出除去後に添加してもよい。
【0017】
前記水素化分解反応は、液相、気相のいずれで行ってもよく、反応温度は300〜500℃程度、好ましくは400〜450℃程度、圧力は1.0〜20.3MPa(10〜200気圧)程度、好ましくは5.1〜10.1MPa(50〜100気圧)である。
【0018】
ここで、本水素化分解工程での反応生成物としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどのベンゼン類が挙げられる。
【0019】
[蒸留工程]
ここでは、上記水素化分解工程で生成した水素化分解反応生成物を蒸留して、重質留分を得る。前記重質留分としては、沸点が330℃以上のものとすることが好ましい。
【0020】
沸点が330℃以上の重質留分に含まれる有機塩素化合物である芳香族塩素化合物を蒸留によって除去しようとすると、上述のように、蒸留温度を高くする必要がある。蒸留温度を高くすると、熱による重縮合が起こり、芳香族塩素化合物が重質化、すなわち高沸点化するため、留出せず、蒸留による分離、回収が困難である。
【0021】
[加熱処理工程]
ここでは、上記蒸留工程で得られた重質留分と、石炭とを混合、加熱して、前記石炭の改質を行う。前記石炭としては、劣質炭および/または非微粘結炭を用いることが好ましい。なお、前記劣質炭の石炭化度(R0)は、R0<0.68である。前記非微粘結炭の石炭化度(R0)は、0.68〜0.80である。石炭化度は、石炭に光を照射したときの反射光の割合であり、JIS M 8816に従って測定される。
【0022】
ここで、原料となるプラスチックとして廃プラスチックを用いた場合、前記重質留分は、塩素が濃縮されているので、そのままでは用途が見当たらない。そこで、本発明では、コークスの原料とならない前記劣質炭、あるいは単独ではコークスの原料とはならない前記非微粘結炭などと混合、加熱処理を行う。加熱処理は、300〜500℃、とりわけ350〜450℃で行うのが好ましい。300℃未満だと改質が起こらなく、また500℃を超えるとコーキング反応が顕著になり、生成物が固化して抜き出し難くなる。雰囲気は、窒素雰囲気、あるいは還元性雰囲気がよく、反応圧は0.1〜15.2MPa(1〜150気圧)がよい。また、水素雰囲気の場合は、改質効果が一層良好になるので好ましい。この加熱処理によって、重質留分に含まれる塩素のほとんどが劣質炭、非微粘結炭に存在する無機物と反応して、NaCl、KCl、CaCl2、MgCl2などの安定な塩化物を形成する。このため、コークス炉における高温乾留でも塩化水素(HCl)などの装置を腐食するような有害物質を発生し難くなる。劣質炭および非微粘結炭は、重質留分と反応することによって、コークス製造用の原料炭とほぼ同等の品質の石炭(改質炭)となる。これにより、劣質炭や非微粘結炭の有効利用が可能となる。
【0023】
[水溶性塩素分抽出・除去工程]
本発明においては、上記溶解工程と上記水素化分解工程との間、および/または、上記水素化分解工程と上記蒸留工程との間に水溶性塩素分抽出・除去工程を設けることが好ましい。この水溶性塩素分抽出・除去工程では、上記溶解工程で得られたプラスチック溶液、および/または、上記水素化分解工程で生成した水素化分解反応生成物に水を添加、混合して、前記プラスチック溶液、および/または、前記水素化分解反応生成物中の水溶性塩素分を水に抽出後、この水を除去することで、前記プラスチック溶液、および/または、前記水素化分解反応生成物中の水溶性塩素分を除去する。水との混合処理は、バッチ式、連続式のいずれでも構わない。処理温度は、150〜250℃が好ましい。150℃未満の場合は、混合状態が良好でなく、塩素分の水への移行の割合が低下する。また、250℃を超えても塩素分の移行割合に著しい増加が望めないほか、蒸気圧が高くなるため、極端な肉厚の容器が必要となる。
【0024】
プラスチック溶液に対する水の添加量は、質量比で0.1〜10倍、特に1〜4倍が好ましい。水の添加量が少ない場合、プラスチック溶液と水の相分離操作が上手くいかない。また、水の添加量を多くしても水溶性塩素分の抽出量は増えないばかりか、抽出のための容器が大きくなり経済的ではない。
【0025】
以下、上述の各工程が行われるプラスチックの処理装置について記載する。
【0026】
図1は、本発明に係るプラスチックの処理装置の一実施形態を示す概略図である。ただし、本発明に係る装置構成は、図1に示す場合に限定されるものではない。以下、この概略図にしたがって説明する。
【0027】
プラスチック(廃プラスチックでも同様。以下同じ。)11、コールタール(溶剤)12、および触媒13は、溶解槽1で混合、溶解される。この溶解槽1の加熱温度は、上述したように150〜250℃が好ましい。150℃未満の場合は、溶解速度が遅く、250℃を超えるとタール(クレオソート油、アントラセン油など)の蒸発量が多くなる。ここで得られたプラスチック溶液は、ポンプ等により次工程を行う水素化分解反応器3に送液される。
【0028】
前記水素化分解反応器3での水素化分解反応は、上述したように、液相、気相のいずれで行ってもよく、反応温度は300〜500℃程度、好ましくは400〜450℃程度、圧力は1.0〜20.3MPa(10〜200気圧)程度、好ましくは5.1〜10.1MPa(50〜100気圧)である。また、水素化分解反応器3には、水素、あるいは水素を主成分とするガス15が供給される。この際、図1に示す例では、経済性向上を指向して、水素化分解反応器3から排出されるガスの大部分を循環するようにして、さらに水素濃度を所定濃度に維持するように、排出されるガスの一部を排ガス21として捨てるとともに、水素15をメークアップ(添加)するようにしている。ただし、排出されるガスを循環させずに水素の全量を新たに供給し、水素化分解反応器3から排出されるガスの全量を捨てる、このプラントの加熱源とする、あるいは他の用途などに用いる、ということでもよい。
【0029】
水素化分解反応器3においては、添加された触媒13の効果により、廃プラスチックについては、とくに廃プラスチックを構成しているポリスチレンは分子鎖(主鎖)の切断と水素化分解反応が生じ、主にベンゼン類であるエチルベンゼンが生成する。さらに、アルキル鎖の分解、不均化反応でBTX類(ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなど)とメタンやエタンなどが生成する。通常、熱分解のみではベンゼン環に不飽和のアルケンが付いているスチレンの生成が多い。しかし、水素化分解反応では反応が温和に進むことと、ポリスチレンの主鎖の切断部分に水素原子が供給されることにより、ベンゼン環にアルキル鎖(飽和炭化水素)が付加しているエチルベンゼンが多くなる。ポリエチレンやポリプロピレンが存在する場合は、主鎖の切断が主体となるため、主にC3〜C4のガス留分を生成する。また、それ以外のフェノール樹脂で代表される熱硬化性樹脂、ポリエチレンテレフタレートなども水素化分解によってベンゼン類となるほか、一部は重質留分(ピッチ留分も含む)となる。一方、コールタール(溶剤)に関しては、ガス中の水素との反応により主に水素化分解が起こって軽質化する。また、ごく一部は重縮合反応のためピッチ留分を生成することもある。この際、単環、2環、あるいは3環などの芳香族化合物と塩素が反応して、0.1〜0.2質量%程度の芳香族塩素化合物が副生して、分解油の塩素濃度が高くなる。
【0030】
水素化分解反応器3から排出される生成物は、蒸留塔6に送られ、C3〜C4を主体とするガス留分22、沸点が200℃までのベンゼン類留分23、沸点が200〜330℃の軽質留分24、および沸点が330℃以上の重質留分25に分留される。
【0031】
なお、図1では、蒸留塔6は1つの場合を例示しているが、常圧蒸留塔と減圧蒸留塔を併設して、分留を細分化してもよい。また、ベンゼン類留分から精製したベンゼン類を回収するため、専用の蒸留器などの精製装置を設けてもよい。軽質留分24に有機塩素化合物が含まれている場合は、これらの沸点がそれほど高くないため、精密蒸留などで容易に取り除くことができる。すなわち、前記有機塩素化合物は低沸点なので、蒸留において重縮合せず、分留できる。
【0032】
一方、上述したように、重質留分25は塩素が濃縮されているので、そのままでは用途が見当たらない。そこで本発明では、コークスの原料とならない劣質炭、あるいは単独ではコークスの原料とならない非微粘結炭などの石炭16と加熱処理槽8において加熱処理する。なお、加熱処理の条件等は上述したとおりである。この加熱処理槽8での加熱処理により、劣質炭および非微粘結炭は、重質留分と反応することによって、コークス製造用の原料炭とほぼ同等の品質の石炭(改質炭)26となり、有効利用が図られる。
【0033】
図2は、本発明に係る他のプラスチックの処理装置の一実施形態を示す概略図である。図1に示した実施形態と異なるところは、溶解槽1と水素化分解反応器3の間に金属類の塩化物の分離器、ここでは液−液抽出器2を設けて、溶解槽1で生成したプラスチック溶液中の水溶性塩素分27の除去を行うものである。プラスチック溶液に水を添加、混合することにより、プラスチック溶液中のNaCl、KCl、FeCl2などが水相に移行する。塩素分が移行した水を分離、除去することにより、プラスチック溶液と水素化分解油に含まれる塩素の量が低下する。そのため、加熱処理工程において、安定な塩化物を形成する割合が多くなり、好ましい。
【0034】
図3は、本発明に係る他のプラスチックの処理装置の一実施形態を示す概略図である。図1や図2に示した実施形態と異なるところは、水素化分解反応器3と蒸留塔6との間に図2に示したものと同様の液−液抽出器5を設けて、水素化分解反応器3で生成した水素化分解反応生成物中の水溶性塩素分27の除去を行うものである。水素化分解反応生成物に水を添加、混合することにより、水素化分解反応生成物中のNaCl、KCl、FeCl2などが大幅に水相に移行する。塩素分が移行した水を分離、除去することにより、水素化分解油に含まれる塩素の量が低下する。そのため、加熱処理工程において、安定な塩化物を形成する割合が図2の場合よりさらに多くなり、好適である。
【0035】
なお、図2に示す液−液抽出器2と図3に示す液−液抽出器5とを共に設けるようにしてもよく、この場合、水素化分解油に含まれる塩素の量がさらに低下するため、加熱処理工程において、安定な塩化物を形成する割合がさらに多くなり、より好適である。
【実施例】
【0036】
〔本発明例1〕
図1に示したフローの反応装置を用い、プラスチックとして都市ごみ系の廃プラスチックを模擬して、ポリスチレン30質量%、ポリエチレン35質量%、ポリプロピレン30質量%、および塩化ビニル5質量%の混合物を調製した。この混合物を9.6kg/hrで、200℃に保持した溶解槽に供給し、溶剤としてコールタール留分のアントラセン油を22.4kg/hrで供給した。触媒としては、転炉ダスト(Fe2O3が主成分)を1.5kg/hrの割合で添加した。
【0037】
水素化分解反応器の温度は450℃、反応圧は10.1MPa(100気圧)、滞留時間は1hrで水素化分解を行った。なお、この際、水素ガスを2.5Nm3/hrで供給した。反応生成物(分解油)は、蒸留塔に送り、C3〜C4のガス留分、沸点が200℃までのベンゼン類を含む留分(ベンゼン類留分)、沸点が200〜330℃の軽質留分、および沸点が330℃以上の重質留分に分けた。
【0038】
重質留分が16.0kg/hrで排出されてきたため、劣質炭としてインドネシア産のプリマ炭を200JISメッシュ全通に粉砕したものを10.0kg/hrで添加して、加熱処理槽に導入した。400℃で1hrの滞留時間をとり、劣質炭の改質を行うとともに、重質留分の塩素を安定な状態に固定した。
【0039】
得られた加熱処理物(改質炭)をX線光電子分光装置およびX線回折装置により分析した。この改質炭にはNaCl、KCl、FeCl2、CaCl2、MgCl2などとして塩素が安定な状態で存在することを確認した。
【0040】
また、下記によりコークス化試験を行った。まず、粘結炭のベース配合炭に、本発明例1として10質量%の改質炭を配合したもの、および、比較例1として10質量%の非改質炭を配合したものの2種類の配合炭を作製した。ベース配合炭は、表1に示す石炭化度(Ro)、ギセラー最高流動度(MF)、全イナート分(TI)、および灰分、ならびに混合(配合割合)の4銘柄(A炭、B炭、C炭、D炭)の石炭(コークス用原料炭)を混合して調製した。そして、各配合炭について缶焼試験を行った。すなわち、炉温1100℃のコークス炉の中で7時間の乾留を実施したのち、炉から出して散水して消火した。配合炭の充填密度は0.8T/m3とした。こうしてコークスを作製したのち、JISに準拠してコークスのドラム強度(DI3015)を測定した。表2に測定結果を示す。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
表2に示すように、本発明例1において比較例1に比べてドラム強度が向上しており、劣質炭が改質されていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に係るプラスチックの処理装置の一実施形態を示す概略図である。
【図2】本発明に係る他のプラスチックの処理装置の一実施形態を示す概略図である。
【図3】本発明に係る他のプラスチックの処理装置の一実施形態を示す概略図である。
【符号の説明】
【0045】
1 溶解槽
2,5 抽出器
3 水素化分解反応器
6 蒸留塔
8 加熱処理槽
11 プラスチック
12 コールタール(溶剤)
13 触媒
15 水素あるいは水素を主成分とするガス
16 石炭(劣質炭、非微粘結炭)
21 排ガス
22 ガス留分
23 ベンゼン類留分
24 軽質留分
25 重質留分
26 改質炭
27 水溶性塩素分
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック廃棄物などを有効利用するためのプラスチックの処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般廃棄物系プラスチックを水素化分解して、ベンゼンまたはベンゼン誘導体、すなわちベンゼン類を得る技術としては、特許文献1に開示されている技術がある。
【0003】
この特許文献1では、加熱されて液化された廃プラスチックを含む液状の単環または多環系芳香族化合物に水素を加えて水素化分解反応(水添分解反応)させるとともに、得られた反応生成物を環化触媒の存在下で反応させてベンゼン類を得ている。
【特許文献1】特開2003−321682号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示されている技術によれば水素化分解反応生成物としてベンゼン類は得られるが、廃プラスチック中には塩素が存在するため同時に芳香族塩素化合物が副生し、これを取り除くことは困難である。また、水素化分解反応の生成物の1つである分解油、たとえば重質留分の塩素濃度が高くなるという問題もある。とりわけ、水素化分解反応生成物である高沸点の留分(重質留分)のなかに含まれる芳香族塩素化合物は、通常の方法である蒸留、溶剤抽出などで分離することはできず、高濃度の塩素を含む重質油は腐食対策を施した専用の燃焼炉において高コストで燃焼処理するくらいしか処分の道はなかった。すなわち、蒸留による重質留分中の芳香族塩素化合物の分離では、減圧下でかなりの温度に加熱しないと留出しないが、加熱していると重縮合してさらに高沸点となり、今度は留出できなくなる。つまり、蒸留では分離できないということである。一方、溶剤抽出では、選択的に抽出できる溶剤がなく、塩素が結合していない普通の芳香族有機塩素化合物も同時に抽出されるため、同様に分離できない。また、プラスチックのなかに塩素が含まれている場合、触媒は塩素固定剤としての機能も兼ね備えなくてはならないため、塩素に対して過剰に添加しなくてはならなく、副産物が多量に発生して処理に困るという問題もある。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、プラスチックを処理する際の水素化分解反応の生成物である重質留分を無害化して有効に利用するプラスチックの処理方法を提供する。すなわち、副生する分解油中重質留分の原料化方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために、鋭意検討を重ねた。その結果、重質留分と、そのままではコークス製造用原料とならない劣質炭や非微粘結炭を加熱処理すると劣質炭や非微粘結炭が改質されることを見出し、コークス原料とすることが可能であるという知見を得た。また、この加熱処理によって重質留分に含有されている塩素は、劣質炭や非微粘結炭に含まれている無機物(ナトリウム、カルシウム、カリウムなど)と塩を形成して、塩化水素を発生しないような安定な状態となる。すなわち、水素化分解反応の生成物である重質留分を有効利用できるプラスチックの処理方法である。
【0007】
つまり、本発明は以下のような特徴を有する。
[1]プラスチックと溶剤を混合、加熱して前記プラスチックを溶解する溶解工程と、
該溶解工程で得られたプラスチック溶液を触媒の存在下で水素と反応させて、水素化分解反応を行う水素化分解工程と、
該水素化分解工程で生成した水素化分解反応生成物を蒸留して、重質留分を得る蒸留工程と、
該蒸留工程で得られた重質留分と石炭とを混合、加熱して、前記石炭を改質する加熱処理工程とを有することを特徴とするプラスチックの処理方法。
[2]上記[1]において、前記溶解工程と前記水素化分解工程との間に、前記溶解工程で得られたプラスチック溶液に水を添加して、前記プラスチック溶液中の水溶性塩素分を水に抽出後、該水を除去する水溶性塩素分抽出・除去工程を有し、
前記水素化分解工程に、水溶性塩素分が除去されたプラスチック溶液を導入することを特徴とするプラスチックの処理方法。
[3]上記[1]または[2]において、前記水素化分解工程と前記蒸留工程との間に、前記水素化分解工程で生成した水素化分解反応生成物に水を添加して、前記水素化分解反応生成物中の水溶性塩素分を水に抽出後、該水を除去する水溶性塩素分抽出・除去工程を有し、
前記蒸留工程に、水溶性塩素分が除去された水素化分解反応生成物を導入することを特徴とするプラスチックの処理方法。
[4]上記[1]乃至[3]のいずれかにおいて、前記蒸留工程で得られる重質留分の沸点が、330℃以上であることを特徴とするプラスチックの処理方法。
[5]上記[1]乃至[4]のいずれかにおいて、前記加熱処理工程で改質される石炭が、劣質炭および/または非微粘結炭であることを特徴とするプラスチックの処理方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、副生する重質留分を無害化して有効に利用できるプラスチックの処理方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の構成は上述した通りである。以下、本発明の各構成要件をより具体的に説明する。
【0010】
[溶解工程]
ここでは、プラスチックと溶剤を混合、加熱して前記プラスチックを前記溶剤中に溶解し、プラスチック溶液とする。前記プラスチックとしては、廃プラスチックである産業廃棄物系プラスチックのほか、一般廃棄物系プラスチック(プラスチックごみ)を用いることができる。すなわち、塩化ビニル樹脂などの塩素を含む都市ごみ系の廃プラスチックでも構わない。プラスチック(廃プラスチックでも同様。以下同じ。)の粒度調整は、特段必要ないが、プラスチックの溶解時間を短くするという観点からは粗砕することが望ましい。
【0011】
溶剤は、プラスチックを溶解(流動化)でき、生成するベンゼン類と分離、すなわち複数の相を形成しないものであればその種類は限定されない。しかし、相溶性があるという点で単環、二環、三環程度の芳香族化合物(各種誘導体も含む)、あるいはこれらの混合物などが好ましい。なかでも、コールタールの各蒸留留分は熱硬化性樹脂や紙類なども流動化できるため、次工程の水素化分解工程を行う水素化分解反応器へのプラスチック溶液のポンプアップが可能となるので、極めて好適である。コールタールの各蒸留留分としては、コールタール(全留分)をはじめ、コールタール蒸留プラントで製造されるクレオソート油留分、アントラセン油留分などを用いることができ、また、これらにコールタールピッチを含有していてもよい。
【0012】
プラスチックと溶剤の混合割合は、質量比で、5:95〜40:60が好ましい。プラスチックの割合が少ないときは処理装置の規模が大きくなり、経済的に不利になり、また、多い場合は流動性が悪くなる。
【0013】
プラスチックの溶解の温度条件に関しては、150〜250℃が好ましい。150℃未満の場合は、溶解速度が遅く、250℃を超えるとタール(クレオソート油、アントラセン油など)の蒸発量が多くなる。
【0014】
[水素化分解工程]
ここでは、上記溶解工程で得られたプラスチック溶液を触媒の存在下で水素と反応させて、水素化分解反応を行う。前記水素化分解反応に用いる触媒としては、プラスチックに塩素をほとんど含まないときは、すなわち多くの場合産業廃棄物系プラスチックを原料とするときは、Co−Mo、Ni−Mo、Ni−W系触媒、あるいは鉄触媒(酸化鉄、硫化鉄、硫酸鉄およびその焼成物)などが挙げられる。これらの触媒は、必要によりアルミナ(Al2O3)、シリカ(SiO2)、ゼオライトなどの担体に担持させることができる。ただし、産業廃棄物系ではなく都市ごみ系(一般廃棄物系)の廃プラスチックで%オーダーの塩素を含有するときは、前記触媒の貴金属成分が塩化物を形成して劣化してしまうので、塩化物となっても触媒性能が維持される鉄触媒を用いることが好ましい。鉄系触媒の代表例としては、鉄鉱石、転炉ダストなどを挙げることができる。前記触媒を粒状物で使用する場合の粒径は通常でよく、0.01〜10mm程度でよい。この触媒は、流動床、固定床、スラリー床などのいずれの反応形式で用いても構わない。
【0015】
触媒の添加量は、プラスチック溶液に対して1〜10質量%が好ましく、特に3〜5質量%が好ましい。触媒添加量が少なすぎると、水素化分解反応が進行し難い。また、触媒を、10質量%を超えて添加しても効果が飽和する。
【0016】
なお、前記触媒は始めから添加してもよく、塩素分を抽出除去後に添加してもよい。
【0017】
前記水素化分解反応は、液相、気相のいずれで行ってもよく、反応温度は300〜500℃程度、好ましくは400〜450℃程度、圧力は1.0〜20.3MPa(10〜200気圧)程度、好ましくは5.1〜10.1MPa(50〜100気圧)である。
【0018】
ここで、本水素化分解工程での反応生成物としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどのベンゼン類が挙げられる。
【0019】
[蒸留工程]
ここでは、上記水素化分解工程で生成した水素化分解反応生成物を蒸留して、重質留分を得る。前記重質留分としては、沸点が330℃以上のものとすることが好ましい。
【0020】
沸点が330℃以上の重質留分に含まれる有機塩素化合物である芳香族塩素化合物を蒸留によって除去しようとすると、上述のように、蒸留温度を高くする必要がある。蒸留温度を高くすると、熱による重縮合が起こり、芳香族塩素化合物が重質化、すなわち高沸点化するため、留出せず、蒸留による分離、回収が困難である。
【0021】
[加熱処理工程]
ここでは、上記蒸留工程で得られた重質留分と、石炭とを混合、加熱して、前記石炭の改質を行う。前記石炭としては、劣質炭および/または非微粘結炭を用いることが好ましい。なお、前記劣質炭の石炭化度(R0)は、R0<0.68である。前記非微粘結炭の石炭化度(R0)は、0.68〜0.80である。石炭化度は、石炭に光を照射したときの反射光の割合であり、JIS M 8816に従って測定される。
【0022】
ここで、原料となるプラスチックとして廃プラスチックを用いた場合、前記重質留分は、塩素が濃縮されているので、そのままでは用途が見当たらない。そこで、本発明では、コークスの原料とならない前記劣質炭、あるいは単独ではコークスの原料とはならない前記非微粘結炭などと混合、加熱処理を行う。加熱処理は、300〜500℃、とりわけ350〜450℃で行うのが好ましい。300℃未満だと改質が起こらなく、また500℃を超えるとコーキング反応が顕著になり、生成物が固化して抜き出し難くなる。雰囲気は、窒素雰囲気、あるいは還元性雰囲気がよく、反応圧は0.1〜15.2MPa(1〜150気圧)がよい。また、水素雰囲気の場合は、改質効果が一層良好になるので好ましい。この加熱処理によって、重質留分に含まれる塩素のほとんどが劣質炭、非微粘結炭に存在する無機物と反応して、NaCl、KCl、CaCl2、MgCl2などの安定な塩化物を形成する。このため、コークス炉における高温乾留でも塩化水素(HCl)などの装置を腐食するような有害物質を発生し難くなる。劣質炭および非微粘結炭は、重質留分と反応することによって、コークス製造用の原料炭とほぼ同等の品質の石炭(改質炭)となる。これにより、劣質炭や非微粘結炭の有効利用が可能となる。
【0023】
[水溶性塩素分抽出・除去工程]
本発明においては、上記溶解工程と上記水素化分解工程との間、および/または、上記水素化分解工程と上記蒸留工程との間に水溶性塩素分抽出・除去工程を設けることが好ましい。この水溶性塩素分抽出・除去工程では、上記溶解工程で得られたプラスチック溶液、および/または、上記水素化分解工程で生成した水素化分解反応生成物に水を添加、混合して、前記プラスチック溶液、および/または、前記水素化分解反応生成物中の水溶性塩素分を水に抽出後、この水を除去することで、前記プラスチック溶液、および/または、前記水素化分解反応生成物中の水溶性塩素分を除去する。水との混合処理は、バッチ式、連続式のいずれでも構わない。処理温度は、150〜250℃が好ましい。150℃未満の場合は、混合状態が良好でなく、塩素分の水への移行の割合が低下する。また、250℃を超えても塩素分の移行割合に著しい増加が望めないほか、蒸気圧が高くなるため、極端な肉厚の容器が必要となる。
【0024】
プラスチック溶液に対する水の添加量は、質量比で0.1〜10倍、特に1〜4倍が好ましい。水の添加量が少ない場合、プラスチック溶液と水の相分離操作が上手くいかない。また、水の添加量を多くしても水溶性塩素分の抽出量は増えないばかりか、抽出のための容器が大きくなり経済的ではない。
【0025】
以下、上述の各工程が行われるプラスチックの処理装置について記載する。
【0026】
図1は、本発明に係るプラスチックの処理装置の一実施形態を示す概略図である。ただし、本発明に係る装置構成は、図1に示す場合に限定されるものではない。以下、この概略図にしたがって説明する。
【0027】
プラスチック(廃プラスチックでも同様。以下同じ。)11、コールタール(溶剤)12、および触媒13は、溶解槽1で混合、溶解される。この溶解槽1の加熱温度は、上述したように150〜250℃が好ましい。150℃未満の場合は、溶解速度が遅く、250℃を超えるとタール(クレオソート油、アントラセン油など)の蒸発量が多くなる。ここで得られたプラスチック溶液は、ポンプ等により次工程を行う水素化分解反応器3に送液される。
【0028】
前記水素化分解反応器3での水素化分解反応は、上述したように、液相、気相のいずれで行ってもよく、反応温度は300〜500℃程度、好ましくは400〜450℃程度、圧力は1.0〜20.3MPa(10〜200気圧)程度、好ましくは5.1〜10.1MPa(50〜100気圧)である。また、水素化分解反応器3には、水素、あるいは水素を主成分とするガス15が供給される。この際、図1に示す例では、経済性向上を指向して、水素化分解反応器3から排出されるガスの大部分を循環するようにして、さらに水素濃度を所定濃度に維持するように、排出されるガスの一部を排ガス21として捨てるとともに、水素15をメークアップ(添加)するようにしている。ただし、排出されるガスを循環させずに水素の全量を新たに供給し、水素化分解反応器3から排出されるガスの全量を捨てる、このプラントの加熱源とする、あるいは他の用途などに用いる、ということでもよい。
【0029】
水素化分解反応器3においては、添加された触媒13の効果により、廃プラスチックについては、とくに廃プラスチックを構成しているポリスチレンは分子鎖(主鎖)の切断と水素化分解反応が生じ、主にベンゼン類であるエチルベンゼンが生成する。さらに、アルキル鎖の分解、不均化反応でBTX類(ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなど)とメタンやエタンなどが生成する。通常、熱分解のみではベンゼン環に不飽和のアルケンが付いているスチレンの生成が多い。しかし、水素化分解反応では反応が温和に進むことと、ポリスチレンの主鎖の切断部分に水素原子が供給されることにより、ベンゼン環にアルキル鎖(飽和炭化水素)が付加しているエチルベンゼンが多くなる。ポリエチレンやポリプロピレンが存在する場合は、主鎖の切断が主体となるため、主にC3〜C4のガス留分を生成する。また、それ以外のフェノール樹脂で代表される熱硬化性樹脂、ポリエチレンテレフタレートなども水素化分解によってベンゼン類となるほか、一部は重質留分(ピッチ留分も含む)となる。一方、コールタール(溶剤)に関しては、ガス中の水素との反応により主に水素化分解が起こって軽質化する。また、ごく一部は重縮合反応のためピッチ留分を生成することもある。この際、単環、2環、あるいは3環などの芳香族化合物と塩素が反応して、0.1〜0.2質量%程度の芳香族塩素化合物が副生して、分解油の塩素濃度が高くなる。
【0030】
水素化分解反応器3から排出される生成物は、蒸留塔6に送られ、C3〜C4を主体とするガス留分22、沸点が200℃までのベンゼン類留分23、沸点が200〜330℃の軽質留分24、および沸点が330℃以上の重質留分25に分留される。
【0031】
なお、図1では、蒸留塔6は1つの場合を例示しているが、常圧蒸留塔と減圧蒸留塔を併設して、分留を細分化してもよい。また、ベンゼン類留分から精製したベンゼン類を回収するため、専用の蒸留器などの精製装置を設けてもよい。軽質留分24に有機塩素化合物が含まれている場合は、これらの沸点がそれほど高くないため、精密蒸留などで容易に取り除くことができる。すなわち、前記有機塩素化合物は低沸点なので、蒸留において重縮合せず、分留できる。
【0032】
一方、上述したように、重質留分25は塩素が濃縮されているので、そのままでは用途が見当たらない。そこで本発明では、コークスの原料とならない劣質炭、あるいは単独ではコークスの原料とならない非微粘結炭などの石炭16と加熱処理槽8において加熱処理する。なお、加熱処理の条件等は上述したとおりである。この加熱処理槽8での加熱処理により、劣質炭および非微粘結炭は、重質留分と反応することによって、コークス製造用の原料炭とほぼ同等の品質の石炭(改質炭)26となり、有効利用が図られる。
【0033】
図2は、本発明に係る他のプラスチックの処理装置の一実施形態を示す概略図である。図1に示した実施形態と異なるところは、溶解槽1と水素化分解反応器3の間に金属類の塩化物の分離器、ここでは液−液抽出器2を設けて、溶解槽1で生成したプラスチック溶液中の水溶性塩素分27の除去を行うものである。プラスチック溶液に水を添加、混合することにより、プラスチック溶液中のNaCl、KCl、FeCl2などが水相に移行する。塩素分が移行した水を分離、除去することにより、プラスチック溶液と水素化分解油に含まれる塩素の量が低下する。そのため、加熱処理工程において、安定な塩化物を形成する割合が多くなり、好ましい。
【0034】
図3は、本発明に係る他のプラスチックの処理装置の一実施形態を示す概略図である。図1や図2に示した実施形態と異なるところは、水素化分解反応器3と蒸留塔6との間に図2に示したものと同様の液−液抽出器5を設けて、水素化分解反応器3で生成した水素化分解反応生成物中の水溶性塩素分27の除去を行うものである。水素化分解反応生成物に水を添加、混合することにより、水素化分解反応生成物中のNaCl、KCl、FeCl2などが大幅に水相に移行する。塩素分が移行した水を分離、除去することにより、水素化分解油に含まれる塩素の量が低下する。そのため、加熱処理工程において、安定な塩化物を形成する割合が図2の場合よりさらに多くなり、好適である。
【0035】
なお、図2に示す液−液抽出器2と図3に示す液−液抽出器5とを共に設けるようにしてもよく、この場合、水素化分解油に含まれる塩素の量がさらに低下するため、加熱処理工程において、安定な塩化物を形成する割合がさらに多くなり、より好適である。
【実施例】
【0036】
〔本発明例1〕
図1に示したフローの反応装置を用い、プラスチックとして都市ごみ系の廃プラスチックを模擬して、ポリスチレン30質量%、ポリエチレン35質量%、ポリプロピレン30質量%、および塩化ビニル5質量%の混合物を調製した。この混合物を9.6kg/hrで、200℃に保持した溶解槽に供給し、溶剤としてコールタール留分のアントラセン油を22.4kg/hrで供給した。触媒としては、転炉ダスト(Fe2O3が主成分)を1.5kg/hrの割合で添加した。
【0037】
水素化分解反応器の温度は450℃、反応圧は10.1MPa(100気圧)、滞留時間は1hrで水素化分解を行った。なお、この際、水素ガスを2.5Nm3/hrで供給した。反応生成物(分解油)は、蒸留塔に送り、C3〜C4のガス留分、沸点が200℃までのベンゼン類を含む留分(ベンゼン類留分)、沸点が200〜330℃の軽質留分、および沸点が330℃以上の重質留分に分けた。
【0038】
重質留分が16.0kg/hrで排出されてきたため、劣質炭としてインドネシア産のプリマ炭を200JISメッシュ全通に粉砕したものを10.0kg/hrで添加して、加熱処理槽に導入した。400℃で1hrの滞留時間をとり、劣質炭の改質を行うとともに、重質留分の塩素を安定な状態に固定した。
【0039】
得られた加熱処理物(改質炭)をX線光電子分光装置およびX線回折装置により分析した。この改質炭にはNaCl、KCl、FeCl2、CaCl2、MgCl2などとして塩素が安定な状態で存在することを確認した。
【0040】
また、下記によりコークス化試験を行った。まず、粘結炭のベース配合炭に、本発明例1として10質量%の改質炭を配合したもの、および、比較例1として10質量%の非改質炭を配合したものの2種類の配合炭を作製した。ベース配合炭は、表1に示す石炭化度(Ro)、ギセラー最高流動度(MF)、全イナート分(TI)、および灰分、ならびに混合(配合割合)の4銘柄(A炭、B炭、C炭、D炭)の石炭(コークス用原料炭)を混合して調製した。そして、各配合炭について缶焼試験を行った。すなわち、炉温1100℃のコークス炉の中で7時間の乾留を実施したのち、炉から出して散水して消火した。配合炭の充填密度は0.8T/m3とした。こうしてコークスを作製したのち、JISに準拠してコークスのドラム強度(DI3015)を測定した。表2に測定結果を示す。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
表2に示すように、本発明例1において比較例1に比べてドラム強度が向上しており、劣質炭が改質されていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に係るプラスチックの処理装置の一実施形態を示す概略図である。
【図2】本発明に係る他のプラスチックの処理装置の一実施形態を示す概略図である。
【図3】本発明に係る他のプラスチックの処理装置の一実施形態を示す概略図である。
【符号の説明】
【0045】
1 溶解槽
2,5 抽出器
3 水素化分解反応器
6 蒸留塔
8 加熱処理槽
11 プラスチック
12 コールタール(溶剤)
13 触媒
15 水素あるいは水素を主成分とするガス
16 石炭(劣質炭、非微粘結炭)
21 排ガス
22 ガス留分
23 ベンゼン類留分
24 軽質留分
25 重質留分
26 改質炭
27 水溶性塩素分
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックと溶剤を混合、加熱して前記プラスチックを溶解する溶解工程と、
該溶解工程で得られたプラスチック溶液を触媒の存在下で水素と反応させて、水素化分解反応を行う水素化分解工程と、
該水素化分解工程で生成した水素化分解反応生成物を蒸留して、重質留分を得る蒸留工程と、
該蒸留工程で得られた重質留分と石炭とを混合、加熱して、前記石炭を改質する加熱処理工程とを有することを特徴とするプラスチックの処理方法。
【請求項2】
前記溶解工程と前記水素化分解工程との間に、前記溶解工程で得られたプラスチック溶液に水を添加して、前記プラスチック溶液中の水溶性塩素分を水に抽出後、該水を除去する水溶性塩素分抽出・除去工程を有し、
前記水素化分解工程に、水溶性塩素分が除去されたプラスチック溶液を導入することを特徴とする請求項1に記載のプラスチックの処理方法。
【請求項3】
前記水素化分解工程と前記蒸留工程との間に、前記水素化分解工程で生成した水素化分解反応生成物に水を添加して、前記水素化分解反応生成物中の水溶性塩素分を水に抽出後、該水を除去する水溶性塩素分抽出・除去工程を有し、
前記蒸留工程に、水溶性塩素分が除去された水素化分解反応生成物を導入することを特徴とする請求項1または2に記載のプラスチックの処理方法。
【請求項4】
前記蒸留工程で得られる重質留分の沸点が、330℃以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のプラスチックの処理方法。
【請求項5】
前記加熱処理工程で改質される石炭が、劣質炭および/または非微粘結炭であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のプラスチックの処理方法。
【請求項1】
プラスチックと溶剤を混合、加熱して前記プラスチックを溶解する溶解工程と、
該溶解工程で得られたプラスチック溶液を触媒の存在下で水素と反応させて、水素化分解反応を行う水素化分解工程と、
該水素化分解工程で生成した水素化分解反応生成物を蒸留して、重質留分を得る蒸留工程と、
該蒸留工程で得られた重質留分と石炭とを混合、加熱して、前記石炭を改質する加熱処理工程とを有することを特徴とするプラスチックの処理方法。
【請求項2】
前記溶解工程と前記水素化分解工程との間に、前記溶解工程で得られたプラスチック溶液に水を添加して、前記プラスチック溶液中の水溶性塩素分を水に抽出後、該水を除去する水溶性塩素分抽出・除去工程を有し、
前記水素化分解工程に、水溶性塩素分が除去されたプラスチック溶液を導入することを特徴とする請求項1に記載のプラスチックの処理方法。
【請求項3】
前記水素化分解工程と前記蒸留工程との間に、前記水素化分解工程で生成した水素化分解反応生成物に水を添加して、前記水素化分解反応生成物中の水溶性塩素分を水に抽出後、該水を除去する水溶性塩素分抽出・除去工程を有し、
前記蒸留工程に、水溶性塩素分が除去された水素化分解反応生成物を導入することを特徴とする請求項1または2に記載のプラスチックの処理方法。
【請求項4】
前記蒸留工程で得られる重質留分の沸点が、330℃以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のプラスチックの処理方法。
【請求項5】
前記加熱処理工程で改質される石炭が、劣質炭および/または非微粘結炭であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のプラスチックの処理方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図2】
【図3】
【公開番号】特開2007−291290(P2007−291290A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−123188(P2006−123188)
【出願日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(591067794)JFEケミカル株式会社 (220)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(591067794)JFEケミカル株式会社 (220)
【Fターム(参考)】
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