説明

プラスチック外輪を有する球面すべり軸受およびその製造方法

【課題】複数の工程や異なる材料の加工を必要としない球面すべり軸受用の外輪を提供すること。
【解決手段】本発明は、内側のすべり層26と外側の支持層28を有し、すべり層26と支持層28が巻回された繊維複合材料からなる、球面すべり軸受20用の外輪22に関する。外輪22はちょうど1個の切れ目を特徴とする。また本発明はこのような外輪22を有する球面すべり軸受20、ならびにプラスチック含浸繊維からなるすべり層26および支持層28を1個の巻き取り心棒に逐次巻きつけ、硬化の後にこうして作られた巻回体に外輪22を形成する外輪22の製造方法に関する。すべり層26と支持層28は本発明に基づき1本の円柱形巻き取り心棒に巻きつけられ、外輪22にこれを開くちょうど1個の切れ目を設け、相補形の内輪24を収容するための部分球面状の輪郭が得られるように、その内側のすべり層26材料を削除する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は球面すべり軸受用の外輪ならびに外輪が内側のすべり層と外側の支持層を有し、すべり層および支持層が巻回された繊維複合材料からなる上記球面すべり軸受に関する。また本発明は合成樹脂含浸繊維からなるすべり層および支持層を巻き取り心棒に逐次巻きつけ、硬化の後にこうして作られた巻回体から外輪を形成する上記外輪の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
このような方法はドイツ特許DE4220327により周知である。そこに開示された球面すべり軸受の製造方法では、外輪のカップ状の内側輪郭を形成するための型リングと端面側の面を形成するための仕切りリングの交互配列からなる巻き心が使用される。すべり層材料として、巻き心の上に巻回される合成樹脂含浸PTFE繊維および/または強力繊維が提案されている。こうして形成された巻回体を硬化し、外周の材料を削除した後、外輪および仕切りリングを軸から個別に引き抜くことができる。この方法では軸から抜き抜いた後に型リングが外輪に残り、軸受の内輪をなす。製造の関係上、軸受の遊びを調整することができず、外輪が型リングまたは内輪を密接して取り囲むことが欠点である。このような軸受は急速に摩耗する傾向がある。
【0003】
外輪と内輪を別個に製造し、後で互いに結合する別の方法が様々な形で知られている。この場合常に出会うのが、外輪と内輪をどのように連結すべきかという問題である。例えばドイツ実用新案DE8400958U1は、外輪が一方の端面に軸向きの弾性ウェブを有し、軸受をケースの穴に挿入すると、弾性ウェブが変形し、あらかじめ挿入され、そこに支承されたボールエンドスピンドルの表面に外輪の一部が予圧して当接されるように、ラジアル球面すべり軸受の外輪を形成することを提案している。この場合も、軸受の遊びがこうして不正確にしか調整されないことが欠点である。さらに弾性ウェブが周囲に離散しているので、軸受の負荷容量はとても最適とはいえない。
【0004】
互いに入り組んで圧接および/または溶接された2個の金属板カップからなり、その間に内輪を封入した外輪が国際特許公開WO89/02542により周知である。この場合外輪の金属板カップと内輪に囲まれた空洞を、続いてプラスチックで埋める。ドイツ特許DE4220324と同様に、この場合も軸受の遊びが調整されない。しかも製造工程は手数がかかり、製造精度が低い。
【0005】
ドイツ実用新案DE202004013251U1およびドイツ特許公開DE102004041084A1は問題の解決のために2個のリングで組み立てた外輪を提案する。ドイツ実用新案DE202004013251U1によれば2個のリングは正面側で溶接またははんだ継手により一体に結合される。外輪のための材料として金属またはセラミックスが提案される。ドイツ特許公開DE102004041084A1の場合は分割した外輪のリングが、巻回した外郭によって半径方向および軸方向に固定される。外郭のための材料としてとりわけ繊維複合材料が提案されている。
【0006】
ドイツ特許DE4220327で既知の方法の改良がドイツ実用新案DE29512317U1により周知である。この場合、仕切りリングが各々2個の相対する軸向きの突起を有するように、巻き心が改良されている。この突起は成形された外輪の挿入溝のための型をなす。外輪は、硬化した外輪から型リングを回転しつつ取り外し、続いて本来の内輪を挿入することができるように設計されている。こうして軸受の遊びを個別に調整することが可能である。ところがこの方法は挿入溝により外輪の負荷断面が減少する欠点がある。また溝は回転方向を横切る端縁をなし、これが潤滑膜の剥離、それとともに不十分な軸受潤滑をもたらす可能性がある。最後に、この場合は汚れの危険が大きい。
【0007】
ドイツ実用新案DE202005005829U1はプラスチックを射出成形した軸受ケースまたは軸受体を取り上げる。その場合軸受体または軸受ケースは同時に当該の相手部材のための型として使用される。このためドイツ特許DE4220327の場合と同様に、この方法では軸受の遊びを調整できない欠点が生じる。
【0008】
ドイツ特許公開DE3524761A1は鋳型としてのダイリングによってその内側表面にすべり軸受を流し込み成形し、1個所に切れ目を入れた外輪を提案することにより、別の方法を記述する。ダイリングを除去し、続いて内輪を挿入するために、外輪の切れ目を引き離し、曲げて開く。
【0009】
上記のすべての方法は、軸受が十分な精度で製造されず、従って不十分な性質で製造されるか、または製造方法がたいてい複数の順次続く工程段階および異なる材料の加工を必要とし、このことが製造工程を時間のかかる高価なものにし、軸受の耐久性を制限するという欠点がある。
【特許文献1】ドイツ特許DE4220327
【特許文献2】ドイツ実用新案DE8400958U1
【特許文献3】国際特許公開WO89/02542
【特許文献4】ドイツ実用新案DE202004013251U1
【特許文献5】ドイツ特許公開DE102004041084A1
【特許文献6】ドイツ実用新案DE29512317U1
【特許文献7】ドイツ実用新案DE202005005829U1
【特許文献8】ドイツ特許公開DE3524271A1
【発明の開示】
【0010】
本発明の課題は上記の欠点を克服することである。
【0011】
この課題は請求項1に基づく外輪、請求項10に基づく球面すべり軸受および請求項13に基づく方法によって解決される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に基づき設けられる、外輪を開く切れ目は、周知の先行技術と異なりダイまたは型リングの取り出しのためでなく、もっぱら組立のため、即ち内輪を後で挿入するために利用される。流し込み成形したすべり層を有する周知の外輪と比較して、本発明に基づく外輪のすべり層は強化部材を備えており、支持層への付着結合が良好であり、これらのことが相俟って軸受の改善された安定性をもたらす。本発明によれば巻回した繊維複合材料の弾性および製造に原因する材料応力が利用される。巻回法で製造された軸受リングは周方向に働く十分に大きな固有応力を有し、この固有応力の働きで切れ目がひとりでに再び閉じる。
【0013】
従って本発明に基づく方法では、すべり層と支持層を1個の円柱形巻き取り心棒に簡単に巻きつけることができる。これは、すべり層を個々の糸または個々の繊維、糸または繊維の束もしくは事前製作した織物または編物(プリプレグ)を巻くかまたは巻き取り心棒に巻回することによって行われる。こうして作られた円形断面の管状巻回体を、プラスチックマトリックスの硬化の後に離型する。これを例えば鋸断して切り離した円筒形外輪に、外輪を開くちょうど1個の切れ目を設ける。切れ目は巻回したリング材料の固有応力によりひとりでに閉じる。弾性力が両方の端面側切断面に対して垂直であって、開いたリング端の相対変位を生じないように、切れ目はとりわけ軸方向に通り、特にリングの円柱軸を含む平面にあることが好ましい。代替実施形態では切れ目がジグザグパターンをなしまたは不規則である。
【0014】
切れ目がある程度の切削幅を有するならば、切れ目を閉じた後のリングの断面はもはや理想的な円形ではない。しかしこれは不都合ではない。本発明に基づき少なくとも内側が再加工されるからである。そこではリングからすべり層材料が削り取られ、すべり層は所望の寸法の球欠形表面を有する内輪の収容のための部分球面状の内側輪郭になる。こうして所要の軸受の遊びが同時に調整される。閉じた切れ目と正確な再加工によって、すべり面が全周にわたって最大の支持断面を得ることが保証される。
【0015】
通常外輪は外側も再加工される。これはリングの外周と切れ目の切削幅の比による。
【0016】
外輪のすべり層は強化部材として、とりわけポリエステルフィラメントと組み込まれたPTFE粒子を含むプラスチック糸を有する。それに対応して本発明方法が改良される。
【0017】
すべり層がポリエステルフィラメントと組み込まれたPTFE粒子を有するプラスチック糸から直接または間接に−上記のようにすべり層が個々のプラスチック糸、プラスチック糸の束またはプラスチック糸からなる織物または編物から巻回されるという意味で直接または間接に−巻回されるならば、周知の繊維複合材料と比較して著しく改善された再加工性が生じる。
【0018】
自己潤滑性すべり層の固形潤滑剤として、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)または黒鉛の使用が知られている。これらの物質は粒子状でプラスチックマトリックスに混入されるか、またはPTFEの場合はフィラメントの形で他のプラスチックフィラメントとより合わされてすべり層のプラスチック糸となる。なお糸のプラスチックとして、周知のようにたいていポリエステルが使用される。その場合代表的には2本のポリエステルと1本のPTFEフィラメントがより合わされて糸となる。
【0019】
ところがすべての用途に十分なトライボロジー的および機械的性質を得ることは依然としてできなかった。PTFEは炭素原子とフッ素原子の強い分子間結合が原因で反応がはなはだ緩慢であり、表面張力がすこぶる小さい。従ってプラスチックマトリックスとPTFEの化学反応はまったくまたはあまり起こらない。特に2本のポリエステルフィラメントと1本のPTFEフィラメントからなる周知のプラスチック糸を使用する場合は、PTFEフィラメントがプラスチックマトリックスに対してごく僅かな付着結合しか生じないことが確認された。その結果、PTFEフィラメントが繊維複合体から遊離することが少なくないため、周知のすべり層は機械的再加工が大変難しく、またはほとんどできなかった。その結果、たいていの場合すべり層の剥離、すべり層のトライボロジー的性質および耐摩耗性の悪化が生じた。
【0020】
この問題は、ポリエステルフィラメントと、組み込まれた特に紡ぎ入れたPTFE粒子とを有する本発明のプラスチック糸をベースとするすべり層によって解決される。しかもこの糸は周知のより糸と比較して、糸または繊維の個々の成分の含有量、特にPTFE含有量の大きな可変性という利点がある。従ってプラスチック糸の製造時にすでにその性質がきわめて精密に修正される。PTFEフィラメントと異なりPTFE粒子は連続していないという事情から、即ちポリエステルフィラメントの内部にランダムに配列され、定着されたPTFE粒子によって、プラスチック糸は粗面になっており、プラスチック糸とプラスチックマトリックスの間に良好な付着結合が得られる。最後に、PTFE粒子をプラスチック糸に組み込むことは、とりわけ形状適合によりプラスチック糸の機械的保持を強化する。
【0021】
このためすべり層は機械的に、即ち切削加工により加工しやすい。従ってPTFE粒子を含むプラスチック糸のすべり層への使用は、巻回体の内側のすべり層材料が後で削除される本発明の外輪に特に適している。優れた加工性とともに、PTFE粒子の改善された組み込みによって、特に表面下摩耗に関して改善された摩耗値が得られる。
【0022】
プラスチックマトリックス中に固形潤滑剤としてPTFE粒子を含む周知のすべり層と比較しても、本発明に基づく上記のすべり層は有利である。プラスチックマトリックス中の固形潤滑剤としてPTFEは強度を減少する効果もあり、このため高い負荷の場合や含水環境でトライボロジー的性質が損なわれる。またプラスチックマトリックス中のPTFE粒子は異なる材料密度によりたいてい不均質な分布になるが、すべり層の全厚さに伸びる繊維または糸に粒子が固く組み込まれているから、全すべり面で見て粒子の分布はすこぶる均質である。最後に、改善された均質性および改善された機械的組み込みに基づき、改善されたトライボロジー的性質も得られる。このことは乾式運転にも含水環境での使用にも当てはまる。
【0023】
プラスチック糸中のPTFE粒子の重量比が2重量%ないし60重量%、プラスチック糸中のポリエステルフィラメントの重量比が40重量%ないし98重量%であれば有利であることが判明した。PTFE粒子の割合がこれより高ければ繊維への粒子の結合が悪化し、すべり層の負荷容量が低下する。プラスチック糸中のPTFE粒子の重量比が2重量%ないし40重量%、ポリエステルフィラメントの重量比が60重量%ないし98重量%であることが特に好ましく、とりわけPTFE粒子の重量比が30重量%ないし36重量%であり、プラスチック糸中のポリエステルフィラメントの重量比が64重量%ないし70重量%であることが好ましい。この組成範囲ですべり層の耐久性とトライボロジー的性質の関係は、考えられるたいていのすべり対偶に対して最適となる。
【0024】
この重量比でプラスチック糸とプラスチックマトリックスの間の付着力は十分に高いから、良好な加工性が得られる。他方、PTFE粒子の割合は良好なすべり性を得るのに十分である。
【0025】
すでに前に指摘したように、繊維複合材料の強化部材はプラスチック糸製の織物または編物構造、もしくは代表的には巻き取り心棒に巻きつけることによって作られる個々の糸または複数の平行なまたは束ねた糸の単純な巻回構造を有することができる。
【0026】
この場合本発明に基づき使用されるプラスチック糸の長所が特に効果を挙げる。即ちこのプラスチック糸は表面が粗いので、糸をまず合成樹脂入りの含浸槽に通し、その際合成樹脂で十分に含浸させて行う巻回法ですべり層を製造するのにはなはだ適している。この巻回法は、すべり部材またはすべり層の所期の用途に合わせた特定の巻回構造を作ることができるという利点をもたらす。こうして繊維をなるべく負荷に適応して、即ち力と応力の分布に従って、繊維複合材に配置することができる。
【0027】
すべり層は合成樹脂、とりわけエポキシ樹脂からなるプラスチックマトリックスを有することが好ましい。
【0028】
多くの用途にとって−プラスチック糸に紡ぎ入れたPTFE粒子のほかに−プラスチックマトリックスにもPTFE粒子を加えることが好ましい。その場合プラスチックマトリックス中のPTFE粒子の割合は最大で40重量%である。
【0029】
代案としてプラスチックマトリックスは黒鉛粒子を含むことができる。プラスチックマトリックス中の黒鉛粒子の重量比は1重量%ないし40重量%であることが好ましい。
【0030】
さらにプラスチックマトリックスにPTFE粒子も黒鉛粒子も加えることができ、その総重量比は40重量%以下であることが好ましい。
【0031】
すべり層と同様に支持層も巻回された繊維複合材料で形成することができる。支持層の繊維強化プラスチックは、強化部材としてガラス繊維を含むプラスチックマトリックスからなることが好ましい。その場合プラスチックマトリックスは合成樹脂、とりわけやはりエポキシ樹脂からなることが好ましい。
【0032】
すべり層のプラスチックマトリックスと同じく、エポキシ樹脂は優れた付着性、機械的および動的性質に基づき支持層のためのプラスチックマトリックスとしても適している。エポキシ樹脂はさらにその分子構造に基づき耐湿性が大変優れており、膨潤傾向が比較的少ない。またすべり層と支持層に同じプラスチックマトリックスを使用することによって、すべり層と支持層の間の結合力が増加する。支持層の強化部材もガラス繊維製の織物または編物を巻き心の周りに巻回された構造、もしくは別の好ましい実施形態ではガラス繊維またはガラス繊維束を巻き取り心棒に巻くことによって生じる巻回構造を有することが好ましい。
【0033】
すべり層と支持層を巻回法で1つの巻き取り心棒に逐次配列すれば、軸受複合材料の製造効率が向上する。
【0034】
半径方向内側へ狭まる断面を有するくさび形の切れ目が特に好ましい。
【0035】
この場合切れ目を作る切断は、切れ目が閉じた後に両方の端面側切断面が完全に相接するように選定する。従って切れ目の断面のくさび角は、外輪が作る円の切片の角と一致しなければならない。
【0036】
切れ目は総形フライス、のこ刃等により、もしくはウォータジェット切断またはレーザビーム切断により作ることができる。加工品の内部応力が大きいため、ウォータジェット切断がプロセス技術的に好ましいことが判明した。しかもこの方法では、ほかならぬ複合材料で短い工具寿命を招く工具摩耗が起こらない。こうして作られた切れ目はすべて「ある程度の切削幅」を有する。また周知のようにき裂またはいわゆる「クラック」によって切削幅がない、従ってリングの円形を損なわない切れ目を作ることができる。
【0037】
発明のその他の課題、特徴および利点を次に図面により実施例に基づいて説明する。
【0038】
外輪のすべり層のために本発明に基づき強化部材として使用されるプラスチック糸10の拡大断面図を図1に示す。このプラスチック糸は糸に沿って配向されたポリエステルフィラメント12からなり、第2の成分として複数のポリエステルフィラメント12にランダム配列で紡ぎ入れたPTFE粒子14を含む。製造工程で糸の性質を改良する非常に多くの可能性がある。例えば糸10当りのポリエステルフィラメント12の数を用途に応じて変えることができる。しかしその場合は拘束されたPTFE粒子14との十分な形状適合に注意すべきである。
【0039】
またポリエステルフィラメント12とPTFE粒子14の重量比を変えることもできる。しかし付着、摩擦およびすべり特性に関連して、プラスチック糸のPTFE粒子14の重量比が30重量%ないし36重量%、ポリエステルフィラメント12の重量比が64重量%ないし70重量%であれば特に好適であることが判明した。
【0040】
図1のプラスチック糸10の繊度の好ましい値は100dtexないし600dtex、特に400dtexないし550dtex(1dtex=1g/1000m糸)である。
【0041】
これらのパラメータによってポリエステルフィラメント12へのPTFE粒子14の十分に強固な拘束が得られ、ポリエステルフィラメント12は耐摩耗性のためにも機械加工のためにも十分な支えを得る。それ故すべり層は、例えば溝のフライス削りまたは穴あけにより再加工しても、優れたトライボロジー的性質を保つ。
【0042】
またPTFE粒子14は糸の長さにわたって、即ち強化部材の全織成、編成または巻回構造にわたって、均質に分布している。糸10は結合が一部でゆるんでいて、それが多数の通路を形成するため、大変濡れやすく、従ってよく加工される。通路の奥に入り込むマトリックスの架橋結合は良好な付着結合をもたらす。
【0043】
全体としてプラスチック糸10も完成すべり層も表面が粗くまたはけば立っている。この光学的粗さはランダムに配向されたPTFE粒子14によるものであり、そのすべり特性に基づき高い摩擦係数をもたらさない。全体として本発明に基づくすべり層のすべり特性は、図3および図4の線図に関連して明らかなように、様々な用途で長い負荷時間にわたり常に良好である。
【0044】
図2a、図2bおよび図5は本発明に基づく球面すべり軸受20の種々の図を示す。球面すべり軸受20は内輪24を抱持する、即ち形状適合的かつ取り外し不能に取り囲む外輪22からなる。外輪22は内側にすべり層26、外側に支持層28を有する。
【0045】
2つの層26、28は巻回法で1本の巻き取り心棒に逐次配列され、こうして典型的な巻回構造が生じる。巻回は回転対称なすべり部材にとって特に簡単かつ安価な製造方法である。2つの層の構造を軸受の機械的必要条件に個別に簡単に適応させることができる。個別に配列された糸の簡単な交差構造のほかに、糸を束にまとめて巻くこともでき、それによって当該の層をより迅速に巻回することができる。すべり層と支持層を異なる方法で製造することもできる。
【0046】
すべり層26および支持層28に異なる強化部材、即ち一方では図1に示すプラスチック糸、他方では支持層28にガラス繊維を使用するが、2つの層のプラスチックマトリックスは同じであり、即ちエポキシ樹脂であることが好ましい。エポキシ樹脂は付着性と機械的性質が優れているのですこぶる好適である。代案として例えば不飽和ポリエステル樹脂またはビニルエステル樹脂を使用することもできる。
【0047】
支持層28のために強化部材として、実証済みのガラス繊維のほかに例えば炭素繊維も考えられる。糸をまず織物、編物またはその他の構成物に事前加工することもできる。
【0048】
多くの用途ですべり層26のプラスチックマトリックスに固形潤滑剤、例えば黒鉛粒子またはPTFE粒子が混入される。これに対して支持層28は通常、補助成分を混入しないプラスチックマトリックスを有する。
【0049】
すべり層26は内向きの側に球面状の表面輪郭を有する。この表面輪郭は、内輪24が形成する球欠に対して相補形である。この表面輪郭は完成巻回体の硬化、リングの分離、切れ目30に沿ったこのリングの切断の後にドリル加工または旋削によって作る。その場合本発明に基づき強化部材として使用される糸の上記の性質に基づき、きわめて高い精度が得られ、しかもすべり層のトライボロジー的性質は損なわれない。特に所望の軸受の遊びをこうしてきわめて正確に調整することができる。すべり層26は頂点区域27の輪郭に基づき、半径方向に支持層28より薄く形成されている。従って巻回のときにすでに球面すべり軸受20の幾何学的形状を考慮して、十分に厚いすべり層26を被着しなければならない。
【0050】
次に内輪24を完成外輪22に挿入する。その際外輪22の切れ目30の区域が拡開される。内輪24を押し込むことによって、または補助的に外輪22を引き開くことによって拡開することができる。次に外輪がその固有応力により弾性的にパチンと閉じ、内輪を取り外し不能に固定する。切れ目30が閉じる。
【0051】
内輪24は通例のように軸方向に外輪22より大きな長さを有するから、2つのリングを同軸に整列すると、内輪24は外輪22から両側に対称に張り出す。内輪24はやはり通例のように、支承される軸を収容するための中心貫通穴32を有する。
【0052】
図3a、3bは乾式運転試験で確かめた本発明のラジアルすべり軸受ブシュと、その中に支承された鋼製の軸との間の摩擦係数の推移を示す。この場合R=0.4ないし0.8のあらさを有する軸を0.01m/sの周速で45°の角度だけ往復回転した。その際半径方向に掛かる比荷重は、上側の測定曲線の場合25MPaであった(図3a)。下側の測定曲線(図3b)の場合は、その他が同じ条件で50MPaの半径方向比荷重を掛けた。
【0053】
結果が示すところでは、約2000サイクルの短いなじみ運転段階の後にそれぞれ最小の摩擦係数に到達した。高い荷重の場合は、60000サイクルの全テスト期間にわたり摩擦係数が0.05でほぼ一定であった。小さい荷重の場合は、摩擦係数は最小に到達した後にまず約0.06から緩やかに上昇し、約15000サイクルの期間の後に約0.1の飽和状態に達した。小さな荷重の場合の僅かに高い摩擦係数は摩耗率と一致する。25MPaの場合、摩耗率は5.1μm/km(摺動距離)であるが、50MPaの高い荷重の場合は10.7μm/kmの値に達した。小さな荷重の場合の17.5μmに対して大きな荷重での35μmの全体として高い摩耗によってより多くの固形潤滑剤が放出され、それが摩擦係数を引き下げるのである。従ってとりわけ高い荷重の場合は、圧縮荷重がかかるすべり軸受面の著しい平滑化が認められた。
【0054】
図4aおよび4bはラジアルすべり軸受ブシュに支承された軸の湿式運転条件即ち水中での摩擦係数の推移を示す。その他の試験条件は上記と同じであった。この場合も50MPaの高い荷重の場合(図4bの下側の線図)の摩擦係数は、25MPaの低い荷重の場合(図4aの上側の線図)より小さいことが示される。摩擦係数は25MPaの乾式運転と比較してやや長引いたなじみ運転段階の後に、0.1のほぼ同じ値に到達した。50MPaの場合は乾式運転と比較して0.06のやや高い平均値を確かめることができた。この場合も50MPaの場合の27.2μm/kmまたは70μmに対して、25MPaで8.1μm/kmの低い摩耗率、それとともに約47000サイクルの全テスト期間にわたって21.25μmの小さな摩耗が認められた。とりわけ高い荷重の場合は、圧縮荷重が掛かるすべり軸受面の著しい平滑化を確認することができた。
【0055】
しかしいずれの負荷例でもすべり層の顕著な剥離は認められなかった。摩耗値は周知のプラスチックすべり部材よりも明らかに低かった。
【0056】
PTFE粒子を含む繊維を有する繊維複合材料からなる外輪のすべり対偶として鋼から成るまたは少なくとも鋼表面を有する、とりわけ表面硬さ>120HB、特に好ましくは表面硬さ>180HBの鋼からなる内輪を選ぶならば、上記の結果および結論は本発明に基づく球面すべり軸受に転用される。代案として本発明に基づく繊維複合材料とセラミックスまたはメタルセラミックスからなる内輪との対偶も考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明に基づくすべり層に使用されるプラスチック糸の断面図を示す。
【図2a】本発明に基づく球面すべり軸受を部分断面図で図解するための斜視図を示す。
【図2b】本発明に基づく球面すべり軸受を完全図で図解するための斜視図を示す。
【図3】乾式運転で異なる荷重での本発明に基づくラジアルすべり軸受の摩擦係数の2つの線図を示す。
【図4】湿式運転で異なる荷重での本発明に基づくラジアルすべり軸受の摩擦係数の2つの線図を示す。
【図5】本発明に基づく球面すべり軸受の断面図を示す。
【符号の説明】
【0058】
10 プラスチック糸
12 ポリエステルフィラメント
14 PTFE粒子
20 球面すべり軸受
22 外輪
24 内輪
26 すべり層
28 支持層
30 切れ目
32 穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側のすべり層と外側の支持層とを有し、すべり層と支持層とが巻回された繊維複合材料から形成されている球面すべり軸受用の外輪において、外輪を開くちょうど1個の切れ目を特徴とする外輪。
【請求項2】
すべり層は強化部材としてプラスチック糸を含み、プラスチック糸はポリエステルフィラメントおよび組み込まれたPTFE粒子を有することを特徴とする請求項1に記載の外輪。
【請求項3】
PTFE粒子を複数のポリエステルフィラメントに紡ぎ入れたことを特徴とする請求項2に記載の外輪。
【請求項4】
プラスチック糸中のPTFE粒子の割合が2重量%ないし60重量%、ポリエステルフィラメントの割合が40重量%ないし98重量%であることを特徴とする請求項2または3に記載の外輪。
【請求項5】
プラスチック糸中のPTFE粒子の割合が30重量%ないし36重量%、ポリエステルフィラメントの割合が64重量%ないし70重量%であることを特徴とする請求項4に記載の外輪。
【請求項6】
すべり層は合成樹脂のプラスチックマトリックスを有することを特徴とする上記請求項のいずれか1項に記載の外輪。
【請求項7】
プラスチックマトリックスがエポキシ樹脂からなることを特徴とする請求項6に記載の外輪。
【請求項8】
プラスチックマトリックスがPTFE粒子を含むことを特徴とする請求項6または7に記載の外輪。
【請求項9】
切れ目が半径方向内側へ狭まる断面をもつくさび形に形成されていることを特徴とする上記請求項のいずれか1項に記載の外輪。
【請求項10】
上記請求項のいずれか1項に記載の外輪と内輪とを有する球面すべり軸受。
【請求項11】
内輪が表面硬さ120HB超の鋼表面を有することを特徴とする請求項10に記載の球面すべり軸受。
【請求項12】
内輪が表面硬さ180HB超の鋼表面を有することを特徴とする請求項11に記載の球面すべり軸受。
【請求項13】
プラスチック含浸繊維からなるすべり層および支持層を巻き取り心棒に逐次巻きつけ、硬化の後にこうして作られた巻回体から外輪を形成する球面すべり軸受用の外輪の製造方法において、すべり層と支持層を円柱形の巻き取り心棒に巻きつけ、外輪にこれを開くちょうど1個の切れ目を設け、相補形の内輪を収容するための部分球面状の輪郭が得られるように、外輪の内側のすべり層材料を削除することを特徴とする方法。
【請求項14】
すべり層をポリエステルフィラメントおよび組み込まれたPTFE粒子を有するプラスチック糸から直接または間接に巻回することを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
半径方向内側に狭まるくさび形断面を有する切れ目を作ることを特徴とする請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
ウォータジェット切断により切れ目を作ることを特徴とする請求項13ないし15のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−69971(P2008−69971A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−239318(P2007−239318)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【出願人】(506038062)フェデラル−モーグル・デバ・ゲーエムベーハー (4)
【Fターム(参考)】