説明

プラスチック成形品及びその製造方法

【課題】環境負荷の軽減を図りつつ、低コストで耐衝撃性、耐熱性に優れたプラスチック成形品を作製する。
【解決手段】組み付け時あるいは使用時に力学的負荷がかかる部位を有するプラスチック成形品1において、主材料としてバイオマス原料樹脂が用い、前記力学的負荷がかかる部位2の樹脂結晶化度を、その他の部位の樹脂結晶化度よりも高くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマス原料由来の樹脂が主材料のプラスチック成形品、及びその製造方法に関するものであり、具体的には、製品への組付け時に力学的負荷のかかる部品や、使用時に力学的負荷のかかる部品で耐衝撃強度が必要なプラスチック成形品とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、膨大な量のプラスチック製品が使用されているが、その廃棄物により、自然への景観阻害、生物への脅威、環境汚染等の深刻な地球的環境問題を引き起こしている。
従来、汎用されている石油原料由来の樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート等が挙げられ、これらの処分方法としては、焼却、埋立てが行われている。
【0003】
しかしながら、従来行われていた処分方法には、各種課題を有している。例えば焼却においては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等の樹脂は、燃焼カロリーが高いため、焼却炉を痛めやすいことが問題となっていた。
また、ポリ塩化ビニルは、燃焼カロリーは比較的低いが、焼却時に有害なガスを発生し、大気汚染を引き起こすおそれがある。
埋立てについても、従来汎用されている石油原料由来の樹脂は、化学的安定性が高いため、原形をとどめたまま半永久的に残留してしまい、環境汚染や、埋立地自体の不足が深刻化する等の問題があった。
【0004】
上述したように、従来汎用されているプラスチックが自然環境中に廃棄されると、科学的に安定であることから長期間に亘って美観を損ね、海洋生物、鳥類等の各種生物が誤って捕食したりし、生物資源への影響が深刻化している。
かかる問題を解決するべく、近年、生分解性ポリマーの研究が行われている。
実用化が検討されている生分解性プラスチックとしては、例えば脂肪族ポリエステル、変性PVA(ポリビニルアルコール)、セルロースエステル化合物、デンプン変性体、およびこれらのブレンド体が挙げられる。
特に、脂肪族ポリエステルの中でも、半合成系重合体としてポリ乳酸系重合体が注目されている。
【0005】
植物を主原料とするバイオマス原料由来の樹脂は、原料として石油をほとんど用いないという点で、環境面に対する影響を効果的に低減可能な材料である。
バイオマス原料由来の樹脂の中でも、特に、ポリ乳酸は、優れた生分解性を有しているので、成形体の構成材料として注目されている(例えば、下記特許文献1参照。)。
【0006】
しかしながら、バイオマス原料由来の樹脂は、一般に機械的強度が低く、また耐熱性も低いという、物性面で従来汎用されているプラスチックに比較して劣るという問題を有している。
具体的な物性を挙げれば、融点やガラス転移温度が低く、その中間に位置する結晶化温度も低く、また、結晶化速度も遅い。例えば、ポリ乳酸は、融点が約170℃、結晶化温度が約110℃、ガラス転移温度が約57℃であり、成形加工性には優れるものの、結晶化速度が極めて遅く、通常の成形加工工程ではほとんど結晶化しない。そのため、結晶性高分子でありながら、成形品の耐熱性はガラス転移温度以下となり、実用的な樹脂としては改善の必要があった。
【0007】
耐衝撃強度や耐熱温度については、バイオマス原料由来の樹脂の結晶化を促進させることにより向上するが、この結晶化を促進させるための技術としては、バイオマス原料由来の樹脂に結晶化核剤を添加する方法がある(例えば、下記特許文献2乃至4参照。)。
また、成形品の結晶化を促進するためにアニール処理する方法(例えば、下記特許文献5参照。)、金型内で結晶化を促進する方法(例えば、下記特許文献6、7参照。)等がある。
【0008】
【特許文献1】特開2005−74791号公報
【特許文献2】特許第3359764号公報
【特許文献3】特許第3334338号公報
【特許文献4】特許第2688330号公報
【特許文献5】特開平8−73628号公報
【特許文献6】特開2005−74791号公報
【特許文献7】特開2005−138458号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した樹脂に結晶化核剤を添加する方法は、結晶化速度を高めるために結晶化核剤を添加しすぎると、成形品が脆くなったり、成形品の表面にひけが発生したりする等の不具合が生じやすい。
また、アニール処理で成形品全体の結晶化を促進させる方法は、成形品が不均一に収縮したり、成形歪が開放されて成形品が変形したりするという不具合が生じやすい。
更に、金型内で成形品全体の結晶化を促進させる方法は、工程上、樹脂の金型占有時間が長く、成形時間の増加によるコストアップの問題が生じる。かかる問題に鑑み、充分な成形時間を確保せずに成形品を離型しようとすると、金型温度は通常樹脂のガラス転移温度以上になっているため、結晶化が不充分(非晶状態)な箇所が軟化状態となり、離型時に変形してしまうという不具合が生じる。
【0010】
そこで本発明においては、上述した従来技術の課題の解決を図るために、成形時間を長時間とすることなく、実用上充分な耐衝撃強度、及び耐熱性を有するバイオマス原料樹脂を用いた成形品、及びその製造方法を提供することとした。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明においては、少なくとも、組み付け時あるいは使用時に、力学的負荷がかかる部位を有するプラスチック成形品であり、主材料がバイオマス原料樹脂であり、前記力学的負荷がかかる部位を構成する樹脂結晶化度が、その他の部位を構成する樹脂結晶化度よりも高いものとしたプラスチック成形品を提供する。
【0012】
請求項2の発明においては、前記力学的負荷がかかる部位が、ネジ取り付け部である請求項1に記載のプラスチック成形品を提供する。
【0013】
請求項3の発明においては、前記力学的負荷がかかる部位が、組み付け時の突起部である請求項1に記載のプラスチック成形品を提供する。
【0014】
請求項4の発明においては、前記力学的負荷がかかる部位が、スナップフィット部である請求項1に記載のプラスチック成形品を提供する。
【0015】
請求項5の発明においては、前記力学的負荷がかかる部位が、組み付け時の位置決め部である請求項1に記載のプラスチック成形品を提供する。
【0016】
請求項6の発明においては、前記力学的負荷がかかる部位を構成する材料の樹脂結晶化度が、使用するバイオマス原料樹脂が完全に結晶化した状態を1.0としたとき、0.8以上であることとした請求項1乃至5のいずれか一項に記載のプラスチック成形品を提供する。
【0017】
請求項7の発明においては、前記バイオマス原料樹脂が、生分解性樹脂と、石油原料樹脂とのブレンド体ものとした請求項1乃至6のいずれか一項に記載のプラスチック成形品を提供する。
【0018】
請求項8の発明においては、前記バイオマス原料樹脂中に、樹脂結晶化度を高めるために結晶化核剤が含有されているものとしたプラスチック成形品を提供する。
【0019】
請求項9の発明においては、少なくとも、組み付け時あるいは使用時に、力学的負荷がかかる部位を有するプラスチック成形品の製造方法であって、主材料としてバイオマス原料樹脂を用い、金型を用いて前記バイオマス原料樹脂を成形する工程を有しており、前記力学的負荷がかかる部位を創製する金型の温度を、前記バイオマス原料樹脂の結晶化温度を基準として−10℃〜+40℃の範囲に設定し、その他の部位を創製する金型の温度を、前記バイオマス原料樹脂のガラス転移温度以下に設定することとしたプラスチック成形品の製造方法を提供する。
【0020】
請求項10の発明においては、少なくとも、組み付け時あるいは使用時に、力学的負荷がかかる部位を有するプラスチック成形品の製造方法であって、主材料としてバイオマス原料樹脂を用い、金型を用いて前記バイオマス原料樹脂を成形する工程と、前記金型から取り出す工程と、前記力学的負荷がかかる部位のみを、前記バイオマス原料樹脂の結晶化温度を基準として−10℃〜+40℃の範囲で加熱し、結晶化を高める工程を有するプラスチック成形品の製造方法を提供する。
【0021】
請求項11の発明においては、少なくとも、組み付け時あるいは使用時に、力学的負荷がかかる部位を有するプラスチック成形品の製造方法であって、主材料としてバイオマス原料樹脂を用い、金型を用いて前記バイオマス原料樹脂を成形する工程を有するものとし、
前記力学的負荷のかかる部位を創製する金型の成形収縮率を、その他の部位を創製する金型の成形収縮率よりも大きく設定するものとしたプラスチック成形品の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0022】
組み付け時や、使用時に力学的負荷のかかる部位を含むプラスチック成形品において、前記成形品の主材料にバイオマス原料樹脂を用い、かつ前記力学的負荷のかかる部位を含む箇所が、その他の部位よりも樹脂の結晶化度が高いものとしたことにより、環境負荷の軽減を図りつつ、低コストで耐久性に優れたプラスチック成形品が得られた(請求項1乃至5)。
【0023】
前記力学的負荷のかかる部位の結晶化度が、使用するバイオマス原料樹脂が完全に結晶化した状態を1.0とした時に、0.8以上であるものとしたことにより、各種耐久消費財に使用可能な耐衝撃強度、耐熱温度を有するバイオマス原料由来のプラスチック成形品を低コストで提供できた(請求項6)。
【0024】
前記バイオマス原料樹脂が、バイオマス原料樹脂と石油原料樹脂とのブレンド体としたことにより、力学的負荷のかかる部位だけではなく、成形品全体の耐衝撃強度や耐熱温度を底上げし、更に力学的負荷のかかる部位の結晶化度を高められ、耐衝撃強度や耐熱温度に優れたバイオマス原料由来のプラスチック成形品を提供できた(請求項7)。
【0025】
前記バイオマス原料樹脂に結晶化速度を高める結晶化核剤を含有させたことにより、樹脂の結晶化速度が高められ、成形時間を短縮でき、低コストで力学的負荷のかかる部位の結晶化度を高められ、優れた耐衝撃強度、耐熱温度を有するバイオマス原料由来のプラスチック成形品を提供できた(請求項8)。
【0026】
前記力学的負荷のかかる部位を創製する金型の温度が使用するバイオマス原料樹脂の結晶化温度を基準として−10℃から+40℃の範囲で、かつ、他の部位を創製する金型の温度が、使用するバイオマス原料樹脂のガラス転移温度以下であるものとしたことにより、成形時間を長くすることなく、力学的負荷のかかる部位の結晶化度を高め、耐衝撃強度や耐熱温度を高めたバイオマス原料由来のプラスチック成形品を低コストで作製することができた(請求項9)。
【0027】
前記プラスチック成形品を成形後に金型から取り出した後に、前記力学的負荷のかかる部位のみを、使用するバイオマス原料樹脂の結晶化温度を基準として−10℃から+40℃の範囲に加熱して、結晶化度を高めるようにしたことにより、前記金型の占有時間を短縮でき、低コストで力学的負荷のかかる部位の結晶化度を高められ、高い耐衝撃強度や耐熱温度を有するバイオマス原料由来のプラスチック成形品を提供できた(請求項10)。
【0028】
前記力学的負荷のかかる部位を創製する金型の成形収縮率を、他の部位を創製する金型の成形収縮率よりも大きく設定したことにより、成形品の結晶化度が部位によって異なる場合でも、形状精度(寸法)を狙い通りの値にして作製でき、精度の高いバイオマス原料由来のプラスチック成形品が得られた(請求項11)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の例に限定されるものではない。
本発明のプラスチック成形品は、少なくとも、組み付け時あるいは使用時に、力学的負荷がかかる部位を有するものであり、主材料はバイオマス原料樹脂であり、前記力学的負荷がかかる部位を構成する材料は、その他の部位を構成する材料に比較して、樹脂結晶化度が高いものである。
【0030】
本発明は、従来公知のいずれのプラスチック成形品にも適用することができるものとし、力学的負荷がかかる部位とは、所定の部位が機械的、物理的な機能を発揮することにより、負荷を受ける部分を意味し、具体的には、ネジ取り付け部、他の部材との組み付け時の突起部、スナップフィット部、組み付け時の位置決め部等が挙げられる。
【0031】
上述した力学的負荷がかかる部位を構成する材料に関しては、樹脂結晶化度が、使用するバイオマス原料樹脂が完全に結晶化した状態を1.0としたとき、0.8以上であることが好ましい。これにより、この部位の耐衝撃強度や耐熱性を実用上充分に高められる。
なお、樹脂結晶化度を高めるために、結晶化核剤を適宜含有させてもよい。
【0032】
本発明のプラスチック成形品に用いるバイオマス原料樹脂は、生分解性樹脂に、従来公知の石油原料樹脂を混合したブレンド体としてもよい。
これにより、一般に強度が低く耐熱性に劣る生分解性樹脂の機械的強度や物性の向上を図ることができる。
【0033】
次に、本発明のプラスチック成形品の作製方法について説明する。
主材料としてバイオマス原料樹脂を用い、金型を用いて樹脂成形を行うが、このとき、目的とするプラスチック成形品の力学的負荷がかかる部位を創製する金型の温度を、バイオマス原料樹脂の結晶化温度を基準として−10℃〜+40℃の範囲に設定し、その他の部位を創製する金型の温度を、バイオマス原料樹脂のガラス転移温度以下に設定する。
【0034】
また、力学的負荷がかかる部位の結晶化を高める工程は、射出成形工程とは別途行ってもよい。
すなわち、射出成形金型から取り出し、力学的負荷がかかる部位のみを、バイオマス原料樹脂の結晶化温度を基準として−10℃〜+40℃の範囲で加熱し、結晶化を高める工程を別途行うようにしてもよい。
【0035】
また、プラスチック成形品の、力学的負荷のかかる部位を創製する金型の成形収縮率を、その他の部位を創製する金型の成形収縮率よりも大きく設定することが好ましい。
【0036】
〔実施例1〕
図1に、複写機やプリンタに使用される外装部品の1つであるカバーの概略図を示す。
図1(a)は側面図であり、図1(b)は平面図である。
図2に、カバー1が組み付けられた状態の概略断面図を示す。
カバー1には、組み付け用の突起部2が4箇所設けられており、下部カバー3に取り付ける際には、カバー1を弾性変形させながら、図2に示すような状態に組み付けられるものとする。カバー1を下部カバー3から取り外す際も同様である。
【0037】
カバー1の材料には、生分解性樹脂原料由来のポリ乳酸と、石油原料由来のポリカーボネートとを、60:40の比率で混合したブレンド体を使用した。
ポリ乳酸は、融点が約170℃、結晶化温度が約110℃、ガラス転移温度が約57℃であり、ポリカーボネートは、融点が約220℃、ガラス転移温度が約145℃である。
更に、難燃剤、酸化防止剤、可塑化剤、相溶化剤、結晶化核剤等の各種添加剤を適量添加した。
【0038】
下部カバー3の材料には、石油原料由来のABS樹脂を使用した。
但し、本発明はこれに限定されるものではなく、他の石油原料由来の樹脂やバイオマス原料由来の樹脂を使用できるものとする。
【0039】
図3に、本発明のプラスチック成形品を作製するための、射出成形用金型の概略構成図を示す。
キャビティ面を形成する一対のキャビティ駒5a、5bの組み付け用の突起部を含む部位を形成する一対の入駒6で囲まれたキャビティ7を有している。
入駒6には、カートリッジヒーター8、熱電対9が設けられており、カートリッジヒーター8と熱電対9は、金型外部に用意された温度制御装置(図示せず)に接続されている。
また、キャビティ駒5a,5bと、入駒6との間には、断熱部材10が設けられている。
更に、金型ベース11には、金型全体を加熱・冷却するための水管12を設け、金型外部に設けた水媒体の温度制御装置(図示せず)に連結する。
なお、断熱部材10には、従来公知の各種セラミックスや熱硬化性樹脂等を適用できる。
【0040】
本実施例のプラスチック成形品は、以下のようにして作製した。
射出成形用金型30を、所定の射出成形機(図示せず)にセットし、図1及び図2に示したカバー1の成形を行う。
シリンダー温度は220℃とし、金型全体の温度を、ポリ乳酸のガラス転移温度以下である30℃にし、入駒6が具備するカートリッジヒーター8は、ポリ乳酸の結晶化温度以上の120℃に設定した。
キャビティ7に溶融樹脂を充填し、キャビティ7内に樹脂圧力を発生させた後、3分間かけて樹脂を冷却固化させ、その後、所定の成形品取り出し装置(図示せず)を用いて金型内から取り出し、室温下で冷却した。
これにより、本発明のプラスチック成形品が作製できた。
【0041】
〔比較例1〕
本例において使用した射出成形用金型13の断面概略図を図4に示す。
成形品は、上記実施例1と同様のカバー1であるものとし、原料樹脂についても、上記実施例1と同様とした。
この射出成形用金型13は、キャビティ面を形成する一対のキャビティ駒14a,14bで囲まれたキャビティ15を有している。
金型ベース16には、カートリッジヒーター17と熱電対18が設けられており、カートリッジヒーター17と熱電対18は、金型外部の所定の温度制御装置(図示せず)に接続されている。
【0042】
本例におけるプラスチック成形品を、以下のようにして作製した。
射出成形用金型40を所定の射出成形機(図示せず)にセットし、カバー1の成形を行う。
シリンダー温度は220℃にし、金型温度はポリ乳酸の結晶化温度以上の120℃に設定した。
キャビティ15に溶融樹脂を充填し、キャビティ15内に樹脂圧力を発生させた後、30分間かけて樹脂を充分に結晶化させ、その後、所定の成形品取り出し装置(図示せず)を用いて金型から取り出し、室温下で冷却した。
【0043】
〔比較例2〕
成形品は、上記比較例1と同様のカバー1であるものとし、原料樹脂、射出成形用金型、成形設備についても、上記比較例1と同様のものを使用した。
射出成形用金型40を所定の射出成形機(図示せず)にセットし、カバー1の成形を行う。
シリンダー温度は220℃にし、金型温度はポリ乳酸のガラス転移温度以下の30℃に設定した。
キャビティ14a、14bに溶融樹脂を充填し、キャビティ内に樹脂圧力を発生させた後、3分間かけて樹脂を冷却固化させた。その後、所定の成形品取り出し装置(図示せず)を用いて金型から取り出し、室温下で冷却した。
【0044】
次に、上述した実施例1、比較例1、2でそれぞれ作製したプラスチック成形品のサンプルを用いて、密度と結晶化度との相関を調べた。
実施例1、比較例1、比較例2で作製した成形品の突起部について密度測定を行い、比較例1の成形品密度を1、比較例2の成形品密度を0として、その割合から実施例1の結晶化度を算出したところ0.83であった。
【0045】
次に、実施例1及び比較例2で作製した成形品(カバー1)を、下部カバー3に組み付けしたところ、実施例1の成形品は割れや破損が生じることなく組み付けを行うことができた。これは、実施例1の成形品は、組み付けや取り外しの際に力学的負担がかかる部位である突起部2の結晶化度をその他の部位よりも高くなるように作製したため、耐衝撃強度に優れ、実用上高い機能を担保することができた。
一方、比較例2の成形品は、組み付けの際、あるいは取り外しの際に突起部2に割れが発生してしまった。比較例2の成形品は、カバー1の突起部2すなわち組み付けや取り外しの際に力学的負荷がかかる部位の樹脂結晶化度が、その他の部位の結晶化度よりも高くなるように作製しなかったため、衝撃強度に劣り、実用面における機能を充分に担保することができなかった。
【0046】
上述したように、本発明のプラスチック成形品は、部位の機能に応じて結晶化度を制御したことにより、簡易な成形プロセスで、高い耐衝撃強度を有するものとすることができた。
【0047】
〔実施例2〕
本例における成形品は、上記比較例1と同様のカバー1であるものとし、原料樹脂、射出成形用金型、成形設備についても、上記比較例1と同様のものを使用した。
射出成形用金型40を所定の射出成形機(図示せず)にセットし、カバー1の成形を行った。
シリンダー温度を220℃とし、金型温度をポリ乳酸のガラス転移温度以下の30℃に設定した。
キャビティ14a、14bに溶融樹脂を充填し、キャビティ内に樹脂圧力を発生させた後、1分間かけて樹脂を冷却固化させた。
その後、所定の成形品取り出し装置(図示せず)を用いて金型から取り出し、室温下で更に冷却した。
次に、図5の概略断面図に示す加熱治具50を用意した。上述のようにして金型から取り出し冷却した成形品(カバー1)の突起部2が当接するように加熱治具50にセットする。次に、加熱治具50を、ポリ乳酸の結晶化温度以上である120℃に加熱し、30分間保持して結晶化度を高めた。その後、室温まで冷却して成形品を加熱治具50から取り出した。
本例においては、射出成形工程と、その後の結晶化を高める工程とを二工程に分けてプラスチック成形品を作製した。
このような工程としたことにより、樹脂が金型内を占有する時間を短縮化することができ、特に多くの製造ラインを持つ場合に、全体としてのコスト低減化を図ることができる。
【0048】
上述した実施例において用いた樹脂は、ポリ乳酸とポリカーボネートのブレンド材としたが、本発明は、これらの例に限定されるものではない。
例えば、バイオマス原料由来の樹脂では、原料として石油を殆ど用いずに、植物もしくは微生物から取り出されたものを原料として製造された樹脂であれば特に限定されず、ポリ乳酸の他、ポリグリコール酸、ポリカプロン酸、及びそれら樹脂を組み合わせたコポリマーやポリヒドロキシアルカノエート(PHA)等の微生物原料樹脂、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリエチレンアジペート、それら樹脂を組み合わせたコポリマー(ポリブチレンサクシネート・アジペート)、セルロース誘導体、デンプン、キチン、キトサン等の糖質系高分子等が使用できる。
また、ブレンドする石油原料樹脂は、ポリカーボネートの他、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ABS樹脂、AS樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等、各種樹脂材料が使用できる。
これらの配合比率についても、60:40に限定されるものではない。
適宜配合比を選定し、更には石油原料樹脂を含有させなかった場合においても、力学的負荷がかかる部位の結晶化度をその他の部位よりも高くすることによって、衝撃強度を高め耐熱性の向上効果が得られた。
【0049】
上述した実施例1、2においては、プラスチック成形品の力学的負荷のかかる部位が、組付け用の突起部であるものとしたが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
例えば、ネジ取り付け部(ネジ用の穴部、またはタッピングネジの挿入部)、スナップフィット組付け時の位置決め部が挙げられ、これらはいずれもプラスチック成形品の組み付け時、あるいは使用時に力学的負荷のかかる部位であり、かかる部位に関して、樹脂結晶化度をその他の部位よりも高くなるように成形することにより、衝撃強度、耐熱性の向上効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】(a)複写機やプリンタに使用される外装部品の1つであるカバーの概略側面図を示す。(b)複写機やプリンタに使用される外装部品の1つであるカバーの概略平面図を示す。
【図2】カバーが組み付けられた状態の概略断面図を示す。
【図3】射出成形用金型の概略構成図を示す。
【図4】比較例で適用した射出成形用金型の概略構成図を示す。
【図5】加熱治具の概略断面図を示す。
【符号の説明】
【0051】
1 カバー
2 突起部
3 下部カバー
5a,5b キャビティ駒
6 入駒
7 キャビティ
8 カートリッジヒーター
9 熱電対
10 断熱部材
11 金型ベース
12 水管
14a,14b キャビティ駒
15 キャビティ
16 金型ベース
17 カートリッジヒーター
18 熱電対
19 加熱治具
20 カートリッジヒーター
21 熱電対
22 断熱部材
30 射出成形用金型
40 射出成形用金型
50 加熱治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも組み付け時あるいは使用時に、力学的負荷がかかる部位を有するプラスチック成形品であって、
主材料としてバイオマス原料樹脂が用いられており、
前記力学的負荷がかかる部位を構成する樹脂の結晶化度を、その他の部位の樹脂の結晶化度よりも高くしたことを特徴とするプラスチック成形品。
【請求項2】
前記力学的負荷がかかる部位が、ネジ取り付け部であることを特徴とする請求項1に記載のプラスチック成形品。
【請求項3】
前記力学的負荷がかかる部位が、組み付け時の突起部であることを特徴とする請求項1に記載のプラスチック成形品。
【請求項4】
前記力学的負荷がかかる部位が、スナップフィット部であることを特徴とする請求項1に記載のプラスチック成形品。
【請求項5】
前記力学的負荷がかかる部位が、組み付け時の位置決め部であることを特徴とする請求項1に記載のプラスチック成形品。
【請求項6】
前記力学的負荷がかかる部位を構成する材料の樹脂結晶化度が、使用するバイオマス原料樹脂が完全に結晶化した状態を1.0としたとき、0.8以上であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のプラスチック成形品。
【請求項7】
前記バイオマス原料樹脂が、生分解性樹脂と、石油原料樹脂とのブレンド体であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載のプラスチック成形品。
【請求項8】
前記バイオマス原料樹脂に、樹脂結晶化度を高める結晶化核剤が含有されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載のプラスチック成形品。
【請求項9】
少なくとも組み付け時あるいは使用時に、力学的負荷がかかる部位を有するプラスチック成形品の製造方法であって、
主材料としてバイオマス原料樹脂を用い、金型を用いて前記バイオマス原料樹脂を成形する工程を有しており、
前記力学的負荷がかかる部位を創製する金型の温度を、前記バイオマス原料樹脂の結晶化温度を基準として−10℃〜+40℃の範囲に設定し、
その他の部位を創製する金型の温度を、前記バイオマス原料樹脂のガラス転移温度以下に設定することを特徴とするプラスチック成形品の製造方法。
【請求項10】
少なくとも、組み付け時あるいは使用時に、力学的負荷がかかる部位を有するプラスチック成形品の製造方法であって、
主材料としてバイオマス原料樹脂を用い、
金型を用いて前記バイオマス原料樹脂を成形する工程と、
前記金型から取り出す工程と、
前記力学的負荷がかかる部位のみを、前記バイオマス原料樹脂の結晶化温度を基準として−10℃〜+40℃の範囲で加熱し、結晶化を高める工程を有することを特徴とするプラスチック成形品の製造方法。
【請求項11】
少なくとも、組み付け時あるいは使用時に、力学的負荷がかかる部位を有するプラスチック成形品の製造方法であって、
主材料としてバイオマス原料樹脂を用い、金型を用いて前記バイオマス原料樹脂を成形する工程を有しており、
前記力学的負荷のかかる部位を創製する金型の成形収縮率を、その他の部位を創製する金型の成形収縮率よりも大きく設定したことを特徴とするプラスチック成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−169468(P2007−169468A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−369326(P2005−369326)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】