説明

プラスチック混合物から塩素含有プラスチックを分離する方法および装置

【課題】 プラスチック混合物から塩素含有プラスチックを特異的に分離する方法および分離する装置を提供する。
【解決手段】 本発明のプラスチック混合物からの塩素含有プラスチックを分離する方法および装置は、オゾンによって、当該プラスチック混合物中の塩素含有プラスチックの表面を特異的に疎水性から親水性に改質して、当該塩素含有プラスチックの表面に気泡が付着し難くする。ここで当該プラスチック混合物を含む液体に、所定の撹拌速度で撹拌しながら、気体を導入することにより、親水化された塩素含有プラスチックの表面に付着した気泡は剥離し、塩素含有プラスチックは沈降する。一方、他のプラスチック(塩素非含有プラスチック)は液中で浮遊している。したがって、塩素含有プラスチックをプラスチック混合物から分離することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数種のプラスチックを含むプラスチック混合物、特に塩素含有プラスチック(ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等)を含むプラスチック混合物から当該塩素含有プラスチックを特異的に分離する方法、および当該方法を行なうための装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチック製品の増加から、プラスチックを含む廃棄物(以下「廃プラスチック」という)が急増している。廃プラスチックの処理は、埋め立てによる処理または焼却処理が主に行なわれてきた。埋め立てによる処理は、埋め立てるための広大な土地を要するという問題点や、埋め立て後の地盤沈下の原因となるという問題点を有している。一方、焼却処理はダイオキシンや塩化水素等の有毒ガスの発生原因となること、地球温暖化の原因となること等の問題点を有している。さらに上記処理はあくまで廃棄処理であり、化石燃料の浪費につながるものである。そこで上記問題点に鑑みて、廃プラスチックを資源として再利用(リサイクル)することが種々試みられている。リサイクルとしては、例えばマテリアルリサイクル、サーマルリサイクル等が挙げられる。マテリアルリサイクルとは、廃プラスチックを再度プラスチック製品の原料として利用することであり、例えばポリエチレンテレフタレート(以下「PET」という)をペットボトル、PET樹脂等の原料として再利用することが実施されている。一方、サーマルリサイクルとは、廃プラスチックを固形燃料(すなわち廃棄物から得られる燃料、RDF:Refuse Derived Fuel)などとして再利用することである。
【0003】
しかし、廃プラスチックには塩素含有プラスチック(ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等)が多量に含まれており、当該塩素含有プラスチックをリサイクルまたは焼却処理を行なうべく加熱すると、多量の塩化水素ガスが発生する。かかる塩化水素ガスはそれ自体が有毒であり、さらにダイオキシンの発生原因となる。また塩素水素ガスは加熱炉を著しく腐食する。したがって、廃プラスチックに多量に含まれる塩素含有プラスチックが、廃プラスチックのリサイクル、焼却処理の障害となっている。
【0004】
そこで、廃プラスチックから塩素含有プラスチックを分離する技術が種々開発され、提案されている。例えば、比重差を利用して塩素含有プラスチックを廃プラスチックから分離する方法が知られている(例えば特許文献1〜4参照)。また摩擦熱による軟化および溶解特性の違いにより塩素含有プラスチックと比塩素含有プラスチックとを分離する方法が知られている(例えば特許文献5参照)。さらに有機溶媒(ジメチルスルホキシド:DMSO)を用いて塩素含有プラスチックのみを溶解し、分離する方法が知られている(例えば特許文献6参照)。
【0005】
また、廃プラスチックから塩素含有プラスチックを分離することなく、廃プラスチックをリサイクルする方法および処理装置が特許文献7に記載されている。当該方法は、廃プラスチックを塩化水素ガスのみが発生する条件下で熱分解することによって、廃プラスチックから塩素分を除去し、塩素除去を行なった廃プラスチックをリサイクルするというものである。
【特許文献1】特開2000−254542号公報(公開日:平成12年9月19日)
【特許文献2】特開平11−254437号公報(公開日:平成11年9月21日)
【特許文献3】特開平10−225930号公報(公開日:平成10年8月25日)
【特許文献4】特開平7−144148号公報(公開日:平成7年6月6日)
【特許文献5】特開2004−209752号公報(公開日:平成16年7月29日)
【特許文献6】特開2000−44723号公報(公開日:平成12年2月15日)
【特許文献7】特開平5−245463号公報(公開日:平成5年9月24日)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1〜4に記載されている方法、すなわち比重差を利用して廃プラスチックから塩素含有プラスチックを分離する方法は、塩素含有プラスチックと比重差が小さいプラスチックとが混在している場合には分離することが難しいという問題点を有している。より具体的には、ポリ塩化ビニル(以下「PVC」という)(比重1.33〜1.45)、PET(比重1.38〜1.40)、アクリル(比重1.19)、ポリカーボネート(比重1.2)、ポリウレタン(比重1.0〜1.3)等が廃プラスチックに混在している場合、塩素含有プラスチックのみを分離することができない。
【0007】
また特許文献5に記載された方法であっても、廃プラスチック中の塩素含有プラスチック含量を低下させることができるが、完全に除去することはできない。また特許文献6に記載された方法では、有機溶剤を使用しており廃プラスチックをリサクルするためには、洗浄操作等を行なう必要がある。したがって従来公知の方法は、廃プラスチックから塩素含有プラスチックを分離する方法として、十分満足できるものとはなっていない。
【0008】
一方、特許文献7に記載されている方法は、塩化水素ガスを発生させる方法であるため、塩化水素ガスに耐えうる加熱炉等の設備が別途必要となり設備費が高くなること、塩化水素ガスの回収および処理が必要となること、および廃プラスチックは脱塩素処理が施されているため、PVCとしてのマテリアルリサイクルを行なうことができないこと、等の問題点を有している。
【0009】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は複数種のプラスチックを含むプラスチック混合物、特に塩素含有プラスチック(ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等)を含むプラスチック混合物(例えば廃プラスチック)から当該塩素含有プラスチックを特異的に分離する方法、および当該方法を行なうための装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者ら上記課題を解決すべく鋭意検討を行なった。その結果、プラスチック混合物に含まれる塩素含有プラスチックは、オゾン処理等の酸化処理により他のプラスチックに比して酸化(親水化)され易いという事実を、本発明者らは初めて発見した。上記事実に基づけば、従来公知の浮遊選別法(芝田隼次(1996)浮遊選別による混合プラスチックの分離、ECO INDUSTRY、1-5、15-28参照)を適用することによって、廃プラスチック等のプラスチック混合物から塩素含有プラスチックを特異的に分離することができる。
【0011】
ここで「浮遊選別法」とは、物質の表面特性の差に基づき特定の物質を浮遊させて分離する方法である。換言すれば、「浮遊選別法」とは粒子表面の親水性・疎水性の違いを利用して固液分離あるいは固固分離を図る方法である。より具体的に説明すれば当該浮遊選別法は、選別する物質を液体中に入れ、当該液体中に空気等のガスを導入し気泡を発生させると、疎水性表面を持つ物質は気泡が付着して浮上するが、親水性表面を持ち且つ比重が液体より大きな物質は沈むという原理に基づいて物質を分離する方法である。別の表現を用いて説明すれば、界面活性剤を加えて目的鉱物の表面だけを疎水性とし、多量の気泡の導入によって目的物質だけを気泡に付着浮上させて選択的に回収する方法である。
【0012】
通常のプラスチックの表面は疎水性であるため、浮遊選別法を行なうと気泡がプラスチックの表面に付着し、気泡が付着したプラスチックは液表面に浮上する。しかし既述の通り塩素含有プラスチックは、オゾン処理等によってその表面が容易に酸化(親水化)され易いという特性を有している。よってプラスチック混合物を酸化処理(オゾン処理等)を予め行なった後に浮遊選別法を適用すれば、塩素含有プラスチックの表面は他のプラスチックのそれよりも、親水化されている割合が高い。この時酸化処理(オゾン処理等)を行なった塩素含有プラスチックの表面には気泡が付着しにくく、塩素含有プラスチックは液体中で沈降することとなる。この原理を利用すれば、塩素含有プラスチックを含むプラスチック混合物(例えば廃プラスチック)から当該塩素含有プラスチックを特異的に分離することができる。
【0013】
なお、オゾン処理を行なうことによって、高分子材料の表面を酸化して改質することが、例えば特開2000−290405号公報(公開日:平成12年10月17日)等に記載されているが、これは高分子材料の表面を改質することによって、高分子材料表面の塗装性、接着性等を改善することを意図したものであり、上記オゾン処理による改質を利用して、プラスチック混合物から塩素含有プラスチックを特異的に分離することを意図したものではない。またオゾン処理による表面の酸化(親水化)は、他のプラスチックに比して塩素含有プラスチックの方が起こり易いという事実を示すものではない。
【0014】
本発明は発明者らが見出した新規知見に基づくものであり、以下の発明を包含する。
【0015】
すなわち本発明にかかる方法は、上記課題を解決すべく、プラスチック混合物から塩素含有プラスチックを分離する方法であって、前記プラスチック混合物を酸化処理する酸化処理工程;および前記酸化処理工程後のプラスチック混合物を含む液体へ気体を導入する気体導入工程;を含むことを特徴としている。
【0016】
また本発明にかかる方法は、上記課題を解決すべく、上記酸化処理工程は、プラスチック混合物をオゾンにより酸化する工程であってもよい。
【0017】
また本発明にかかる方法は、上記課題を解決すべく、上記気体導入工程後のプラスチック混合物を含む液体を、所定の撹拌速度で撹拌する撹拌工程をさらに含む方法であってもよい。
【0018】
また本発明にかかる方法は、上記課題を解決すべく、上記所定の撹拌速度は、上記気体導入工程後のプラスチック混合物を含む液体において塩素含有プラスチックのみが沈降する撹拌速度であることが好ましい。
【0019】
また本発明にかかる方法は、上記課題を解決すべく、プラスチック混合物から塩素含有プラスチックを分離する方法であって、前記プラスチック混合物を含む液体へオゾンを導入するオゾン導入工程を含む方法であってもよい。
【0020】
また本発明にかかる方法は、上記課題を解決すべく、上記オゾン導入工程後のプラスチック混合物を含む液体を、所定の撹拌速度で撹拌する撹拌工程をさらに含む方法であってもよい。
【0021】
また本発明にかかる方法は、上記課題を解決すべく、上記所定の撹拌速度は、上記オゾン導入工程後のプラスチック混合物を含む液体において塩素含有プラスチックのみが沈降する撹拌速度であることが好ましい。
【0022】
また本発明にかかる方法は、上記課題を解決すべく、上記プラスチック混合物に含まれるプラスチックの大きさを均等化する均等化工程をさらに含む方法であってもよい。
【0023】
また本発明にかかる方法は、上記課題を解決すべく、上記均等化工程は、プラスチック混合物を粉砕する工程であってもよい。
【0024】
また本発明にかかる方法は、上記課題を解決すべく、上記プラスチック混合物を含む液体は、気泡剤を含む液体であることが好ましい。
【0025】
一方、本発明にかかる装置は、上記課題を解決すべく、プラスチック混合物から塩素含有プラスチックを分離するための装置であって、前記プラスチック混合物および液体が導入される分離槽;前記プラスチック混合物を酸化処理するための酸化処理手段;および前記分離槽内に気泡を発生させる気泡発生手段;を備えることを特徴としている。
【0026】
また本発明にかかる装置は、上記課題を解決すべく、撹拌手段をさらに備える装置であってもよい。
【0027】
また本発明にかかる装置は、上記課題を解決すべく、上記酸化処理手段がオゾン供給手段であってもよい。
【発明の効果】
【0028】
本発明にかかる方法および装置によれば、塩素含有プラスチックが他のプラスチックに比して酸化(親水化)され易いという特性を利用して、塩素含有プラスチックを含むプラスチック混合物から当該塩素含有プラスチックを特異的に分離する手段を提供することができる。したがって本発明は、塩化水素ガスが発生することなく、廃プラスチックをリサイクルまたは焼却処理することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明の実施の形態について説明すれば、以下のとおりである。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
【0030】
<1.本発明にかかる方法>
本発明にかかる方法は、プラスチック混合物から塩素含有プラスチックを分離する方法である。ここで「プラスチック混合物」とは、上記塩素含有プラスチックを少なくとも1種類以上を含むプラスチックの混合物のことを意味する。当該プラスチック混合物に含まれる塩素含有プラスチックの含有率は特に限定されるものではない。
【0031】
また「塩素含有プラスチック」とは塩化物を含む合成樹脂のことを意味し、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(以下「PVD」という)、並びにこれらの共重合体等が含まれる。またPVCは、硬質PVCおよび軟質PVCいずれをも含む意味である。これに対して塩化物を含まない合成樹脂のことを「塩素非含有プラスチック」という。当該塩素非含有プラスチックとしては、ポリエチレン(以下「PE」という)、ポリスチレン(以下「PS」という)、ポリプロピレン(以下「PP」という)、ポリカーボネート(以下「PC」)、アクリル樹脂、PET等が挙げられる。
【0032】
以下に本発明にかかる方法を、その一形態を例に挙げてさらに説明する。
【0033】
〔実施の形態1〕
本発明にかかる方法の一実施形態は、プラスチック混合物から塩素含有プラスチックを分離する方法であって、(a)前記プラスチック混合物を酸化処理する酸化処理工程;および(b)前記酸化処理工程後のプラスチック混合物を含む液体へ気体を導入する気体導入工程;を包含することを特徴とする方法である。
【0034】
上記(a)の酸化処理工程は、プラスチックを酸化することによって、その表面を疎水性から親水性に改質する工程、より好ましくは、プラスチック混合物に含まれる塩素含有プラスチックの表面を特異的に親水性へ改質する工程を意味する。当該酸化処理工程における酸化処理は、公知の方法で行なえばよく、例えばプラスチック表面に紫外線(UV)を照射する処理方法(UV処理法)(Surface modification of thin polymeric films by air-plasma or UV-irradiation (2002) Halina Kaczmarek et al., Surface Science 507-510, p883-888参照)、プラズマを照射する処理方法(プラズマ処理法)(Surface modification of thin polymeric films by air-plasma or UV-irradiation (2002) Halina Kaczmarek et al., Surface Science 507-510, p883-888参照)、およびオゾンにプラスチックを暴露する処理方法(オゾン処理法)を適宜利用すればよい。上記酸化処理を施すことで、プラスチック本来の物性は変えることなく、プラスチックの表面のみが酸化され極性基(例えば、水酸基)が付与される。この極性基により、プラスチックの表面が親水性を示すことになる。特に塩素含有プラスチックは、非塩素含有プラスチックに比して酸化(親水化)され易いという知見を本発明者らは得ている。したがって、かかる特性の違いを利用すれば、塩素含有プラスチックの表面を特異的に酸化(親水化)することができる。
【0035】
上記(b)の気体導入工程は、上記(a)酸化工程後のプラスチック混合物を含む液体へ気体を導入する工程である。酸化工程を経たプラスチックはその表面が酸化(親水化)されている。特に塩素含有プラスチックは塩素非含有プラスチックに比して酸化(親水化)され易く、塩素含有プラスチックの表面の酸化(親水化)の程度は塩素非含有プラスチック表面のそれに比して大きいものといえる。このように表面の酸化の程度が大きい(親水性が高い)塩素含有プラスチックと表面の酸化の程度が低い(親水性が低い)塩素非含有プラスチックとを含むプラスチック混合物と液体とを混合し、当該液体に気体を導入すれば、塩素含有プラスチックの表面には気泡が付着しにくく、また気泡が剥離し易いため、塩素含有プラスチックは液体中で容易に沈降することとなる。一方塩素非含有プラスチックの表面は気泡が付着し易く、また気泡が剥離しにくいため、塩素非含有プラスチックは液体中で浮遊することとなる。この原理を利用すれば、塩素含有プラスチックを含むプラスチック混合物(例えば廃プラスチック)から当該塩素含有プラスチックを特異的に分離することができる。すなわち当該気体導入工程は、既述の「浮遊選別法」を実施する工程である。
【0036】
次に、図面を参照しながら、本実施形態にかかる方法をさらに詳細に説明する。
【0037】
図2(a)は、本実施形態にかかる方法の工程図である。ここでは、酸化処理方法としてオゾン処理法を用いているが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0038】
(酸化処理工程)
まず、酸化処理工程(オゾン処理工程)では、塩素含有プラスチックを含むプラスチック混合物をオゾンで曝露することによって、プラスチック混合物に含まれる塩素含有プラスチックの表面を特異的に酸化(親水化)する。
【0039】
オゾンの暴露方法は特に限定されるわけではなく、公知の方法を適宜採用すればよい。例えば、オゾンガスとプラスチック混合物とを接触させてもよいし、プラスチック混合物と液体とを混合した液体にオゾンガスまたはオゾン水を導入してもよい。またオゾン水をプラスチック混合物の表面へ噴射してもよい。オゾンガスを用いて高分子材料の表面を改質する方法については例えば特開平3−195745号公報、特開平3−103448号公報および特開平10−101820号公報等に記載されている。またオゾン水を用いて高分子材料の表面を改質する方法については、例えば特開平8−215618号公報に記載されている。
【0040】
ただし、プラスチック混合物に含まれる各種プラスチックに対して、より均一に酸化処理(オゾン処理)を行なうことができるという点において、液体中(液相)でオゾン処理を行なうことが好ましいといえる。さらに本発明にかかる方法において当該酸化処理工程の次に行なう気体導入工程は、液相で実施されるため、オゾン処理を液相で行なうことでオゾン処理工程と気体導入工程とを同一の反応槽において連続的に行なうことができる。したがって、作業効率の面においても液体中(液相)でオゾン処理を行なうことが好ましいといえる。
【0041】
この時、オゾンとプラスチック混合物に含まれる各種プラスチックとが接触する時間、または各種プラスチックと接触するオゾンの濃度を適宜調整することにより、塩素含有プラスチックの表面を特異的に酸化(親水化)することができる。なお、上記オゾンとプラスチック混合物との接触時間の好ましい条件、およびプラスチック混合物へ接触させるオゾンの濃度の好ましい条件は、プラスチック混合物に含まれる塩素混合プラスチックの含量、プラスチック混合物に含まれる各種プラスチックの粒子径、プラスチックに付着した不純物の含量、オゾンの暴露方法等によって異なるため、適宜検討の上、決定すればよい。また酸化処理(オゾン処理)を行なう際の雰囲気の温度は、特に限定されるものではない。したがって室温で酸化処理(オゾン処理)を行なえばよい。
【0042】
なお、上記酸化処理(オゾン処理)工程の前に、均等化工程をさらに行なうことが好ましい。均等化工程とは、プラスチック混合物に含まれるプラスチックの大きさ(粒径)を均等にする工程、換言すればプラスチック混合物の表面積を均等にする工程を意味する。これにより、プラスチック混合物に含まれるプラスチックの粒径のばらつきを減少させることができ、プラスチック混合物に含まれる各種プラスチックに対して酸化処理(オゾン処理)を均一に行なうことが可能となる。さらにプラスチック混合物に含まれるプラスチックの粒径が均等となることによって、液相で各種プラスチックに働く浮力が均一となり、次に行なう気体導入工程において、各種プラスチック表面の酸化の程度(親水化の程度)の差に対応した厳密な浮遊選別法を実施することができ、プラスチック混合物から塩素含有プラスチックをより厳密に分離することが可能となる。
【0043】
なお本発明にかかる方法において当該均等化工程は、酸化処理(オゾン処理)工程の後であって、気体導入工程の前に行なう態様であってもよい。かかる態様であっても、浮遊選別法を実施する際に、プラスチック混合物から塩素含有プラスチックをより厳密に分離することが可能となるという効果を享受することができる。
【0044】
ここで上記均等化工程は、プラスチックの大きさ(粒径)を均等化することができる工程であれば、その具体的態様については特に限定されるものではなく、公知の方法を選択の上、適宜採用すればよい。例えばプラススチック混合物を公知の粉砕機等を用いて粉砕してもよいし、プラスチック混合物を剪断する方法であってもよい。
【0045】
(気体導入工程)
次に、気体導入工程では、上記酸化処理工程(オゾン処理工程)後のプラスチック混合物を含む液体へ、気体を導入し、プラスチック混合物に含まれる各種プラスチック表面に、当該気体によって生じた気泡を付着させる。この時、気泡の付着量が多いプラスチックと、気泡の付着量が少ないプラスチックとに分かれる。具体的には、その表面の疎水性が高いプラスチック(本発明の方法においては塩素非含有プラスチック)には気泡が多く付着し、その表面の疎水性が低い(親水性が高い)プラスチック(本発明の方法においては塩素含有プラスチック)には気泡があまり付着しないし、気泡が付着したとしても剥離し易い。したがって、気体の導入を停止すれば、気泡が剥離しにくい塩素非含有プラスチックは液表面に浮上し、気泡が剥離し易い塩素含有プラスチックは沈降することとなる。その結果、プラスチック混合物から塩素含有プラスチックのみを分離することができる。つまり気体導入工程は、既述の「浮遊選別法」を実施する工程である。
【0046】
ここで、当該気体導入工程で使用する気体(気泡用気体)は、特に限定されるものではない。ただし、可燃性ガス、有毒ガス等は危険であるために好ましくない。当該気泡用気体としては、例えば、空気、窒素ガス、酸素、オゾン等が利用可能である。コストが安いとの理由から空気が最も好ましいといえる。またオゾンを気泡用気体として用いる態様によれば、酸化処理工程と気体導入工程を同時に行なうことができる。上記態様については〔実施の形態2〕において詳述する。
【0047】
なお導入する気体の導入量は「浮遊選別法」を実施することが可能な条件であれば特に限定されるものではなく、導入する気体の種類、液体中に含まれるプラスチックの粒径等に応じて適宜決定すればよい。
【0048】
また、上記気体導入工程で使用する「プラスチック混合物を含む液体」とは、プラスチック混合物を混合した液体のことであり、酸化処理工程後のプラスチック混合物を適当な液体に導入して調製してもよいし、酸化処理工程を液相で行なった場合においては酸化処理を実施した「プラスチック混合物を含む液体」を、気体導入工程で使用する「プラスチック混合物を含む液体」としてもよい。ただし作業効率の観点からは、後者の方がより好ましい態様であるといえる。
【0049】
なお「プラスチック混合物を含む液体」における「液体」の種類は特に限定されるものではなく、水(水道水)等を適用すればよい。
【0050】
また当該気体導入工程において使用する「プラスチック混合物を含む液体」は、気泡剤を含む液体であることが好ましい。「気泡剤」とは、それが液体中に存在することにより、前記液体中で生じる気泡の径を小さくすることが可能な物質のことである。当該気泡剤としては、例えば、4−メチル−2−ペンタノール(C14O)、パイン油、メタノール、ステアロイルグルタミン酸ナトリウム、セチル硫酸ナトリウム、石ケン素地、ミリスチン酸カリウム、ミリストイルグルタミン酸K、ムクロジエキス、ラウリルグルコシド、ラウリルリン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム、ラウレス硫酸ナトリウム、ラウロイルアスパラギン酸ナトリウム、およびラウロイルグルタミン酸ナトリウム等が挙げられる。気泡剤が含まれる液体を使用して「浮遊選別法」を実施することによって、分離性能が向上することが知られている(芝田隼次、松本茂野、廃プラスチックからのPVCの除去、粉体と工業、1997、29-10、39-46参照)。
【0051】
したがって本発明において上記気泡剤を用いることによって、混合プラスチックから塩素含有プラスチックを分離する際の分離性能を向上させることができる。
【0052】
「プラスチック混合物を含む液体」に含むべき気泡剤の濃度は、気泡剤の種類によって異なるために限定的ではないが、4−メチル−2−ペンタノールを用いた場合、1μg/l〜1000μg/lが好ましく、10μg/l〜100μg/lがさらに好ましい。
【0053】
また、上記の気体導入工程において、酸化処理工程(オゾン処理工程)後のプラスチック混合物を含む液体へ気体を導入する際に、液体を撹拌することが好ましい。液体中に含まれる各種プラスチックと気泡とを効率良く接触させることが可能となり、プラスチックの表面により均一に気泡を付着させることができる。この際の撹拌速度の好適な範囲については、撹拌手段の撹拌翼の形状、撹拌性能等によって異なるため、限定されるものではない。したがって撹拌速度の好適な条件は、適宜検討の上、採用すればよい。
【0054】
(撹拌工程)
本発明にかかる方法には、上記2工程に加え、上記気体導入工程後のプラスチック混合液を含む液体を、所定の撹拌速度で撹拌する撹拌工程がさらに含まれていることが好ましい。気体導入工程後のプラスチック混合液を含む液体を、所定の撹拌速度で撹拌することによって、気泡が付着しにくい塩素含有プラスチックから気泡を素早く除去し、塩素含有プラスチックのみ沈降させることが可能となる。したがって、液体中で浮上する塩素非含有プラスチックと液体中で沈降する塩素含有プラスチックとの選別をより効果的に行なうことが可能となる。なお当該撹拌工程は、公知の撹拌手段を用いて実施すればよい。
【0055】
ここで本工程における「所定の撹拌速度」とは、気体導入工程後のプラスチック混合物を含む液体において塩素含有プラスチックのみが沈降する撹拌速度である。また「塩素含有プラスチックのみが沈降する」とは、プラスチック混合物に含まれている塩素非含有プラスチックの全部が液体に浮遊しており、塩素含有プラスチックのみが沈降する撹拌速度を意味する。なお「塩素含有プラスチックのみが沈降する」は、塩素含有プラスチックの全部が沈降する撹拌速度のみならず、その一部が沈降する撹拌速度をも含む意味である。また「撹拌速度」とは撹拌工程に用いる撹拌手段における撹拌翼の1分間当たりの回転数(rpm)で表される値である。当該「所定の撹拌速度」は塩素含有プラスチックの種類、粒径、その表面の酸化(親水化)の程度、撹拌手段の撹拌能力等によって異なるため、限定的ではない。よって適宜検討の上、「所定の撹拌速度」を決定すればよい。
【0056】
〔実施の形態2〕
本発明にかかる方法の他の実施形態は、プラスチック混合物から塩素含有プラスチックを分離する方法であって、(c)前記プラスチック混合物を含む液体へオゾンを導入するオゾン導入工程を含むことを特徴とする方法である。
【0057】
本実施の形態にかかる方法におけるプラスチック混合物から塩素含有プラスチックを分離する基本原理は、〔実施の形態1〕のそれと同様である。本実施の形態にかかる方法の特徴点は、プラスチック混合物を含む液体へオゾンを導入することによって、〔実施の形態1〕における(a)の酸化処理工程(特にオゾン処理工程)と(b)の気体導入工程とを同時に行なうことにある。つまり、本実施の形態にかかる方法は、プラスチック混合物を含む液体にオゾンガスを導入し、オゾンガスによって各種プラスチック表面の酸化処理を行ないつつ、オゾンガスの導入により生じる気泡によって、プラスチック(特に塩素非含有プラスチック)を液表面に浮上させる方法である。本実施の形態にかかる方法によれば、実施の形態1における方法に対して1工程減少させることができ、作業効率を向上させることが可能となる。
【0058】
なお本実施の形態にかかる方法では、上記のごとく実施の形態1における酸化処理工程と気体導入工程とを同時に行なうため、プラスチック混合物を含む液体へ導入する気体はプラスチックを酸化することができる気体、すなわちオゾンであることが必須である。
【0059】
また本実施の形態にかかる方法は、上記のごとく酸化処理工程(特にオゾン処理工程)と気体導入工程とを同時に行なうこと以外は、特に実施の形態と同様であり、〔実施の形態1〕で示した、「気泡剤」、「撹拌工程」等、その他の用語については、既述の説明を援用することができる。
【0060】
次に、図面を参照しながら、本実施形態にかかる方法についてさらに具体的に説明する。図2(b)は、本実施の形態にかかる方法の工程図である。
【0061】
まず、オゾン導入工程では、プラスチック混合物と液体とを混合し、プラスチック混合物を含む液体にオゾンを導入する。この時オゾンは気体として導入され、プラスチック混合物の表面にオゾンからなる気泡として付着する。オゾンの気泡が付着したプラスチック混合物に含まれるプラスチック、特に塩素含有プラスチックは、オゾンの気泡により酸化され、プラスチック(特に塩素含有プラスチック)の表面が疎水性から親水性に改質されることになる。
【0062】
また、オゾン導入工程において、プラスチック混合物を含む液体を撹拌することが好ましい。液体中に含まれる各種プラスチックと気泡とを効率良く接触させることが可能となり、プラスチックの表面により均一に気泡を付着させることができ、プラスチック表面の酸化(親水化)およびプラスチックの浮遊を効率的の行なうことができる。この際の撹拌速度の好適な範囲については、撹拌手段の撹拌羽の形状、撹拌性能等によって異なるため、限定されるものではない。したがって撹拌速度の好適な条件は、適宜好適な条件を検討の上、採用すればよい。
【0063】
本実施の形態にかかる方法には、上記オゾン導入工程に加え、上記オゾン導入工程後のプラスチック混合液を含む液体を、所定の撹拌速度で撹拌する撹拌工程がさらに含まれていることが好ましい。かかる撹拌工程については、〔実施の形態1〕で説示したとおりである。
【0064】
本発明にかかる方法は、上記工程以外の工程が含まれていてもよい。例えば、プラスチック混合物に付着した不純物を除去する洗浄工程が含まれていてもよい。洗浄工程は、水洗、各種洗剤等の洗浄液による洗浄、または超音波による洗浄等、適宜公知の方法を適用すればよい。
【0065】
<2.本発明にかかる装置>
本発明にかかる装置は、プラスチック混合物から塩素含有プラスチックを分離するための装置である。すなわち上記本発明にかかる方法の実施に好適な装置である。
【0066】
より具体的には、本発明にかかる装置は、(d)前記プラスチック混合物および液体が導入される分離槽;(e)前記プラスチック混合物を酸化処理するための酸化処理手段;および(f)分離槽内に気泡を発生させる気泡発生手段;を備えることを特徴としている。
【0067】
ここで、(d)の分離槽とは、プラスチック混合物および液体を導入することが可能な槽であれば、その形状、材質等、特に限定されるものではない。なお分離槽を用いてオゾン処理を行なうことを可能とすべく、分離槽はオゾンの酸化力に耐性の有る材質(ステンレス、ガラス製、テフロン(登録商標)、およびポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)からなることが好ましい。
【0068】
(f)の酸化処理手段とは、公知の酸化処理を行なうための装置、たとえばUV照射器、プラズマ照射器やオゾン発生器等の装置を意味する。
【0069】
(g)の気泡発生手段とは、分離槽内に気体を供給して分離槽内の液体中に気泡を発生させることができるものであれば特に限定されるものではない。例えば当該気泡発生装置には気体を発生させる装置、または気体が充填されたボンベが含まれていてもよい。上記気体を発生させる装置は、オゾン発生装置であってもよい。かかる場合は、気泡発生手段と酸化処理手段とが一体となっている構成といえる。また気泡発生装置には、気体を分離槽へ供給するためのパイプ、バルブ、等が含まれていてもよく、また気泡を発生させ易くするための散気板(貫通孔を多数有する板状体)が含まれていてもよい。
【0070】
以下、本発明にかかる装置の一実施形態を図1に基づいてさらに具体的に説明する。図1は本実施の形態にかかる装置(以下「本装置」という)の概略を示す模式図である。図1に示すように、本装置は分離槽1;オゾン発生器(上記酸化処理手段)2;オゾン回収器3;撹拌機4;散気板(気泡発生手段)5;気体導入孔6;三方弁7;および窒素ボンベ8(気泡発生手段)とから構成されている。
【0071】
分離槽1は、プラスチック混合物と液体(水)とを導入して、本発明の方法における酸化処理工程気体導入工程とを行なうための部材である。
【0072】
オゾン発生器2は、オゾンを発生させる装置である。かかるオゾン発生装置は市販品を適宜利用可能である。例えば、富士電機システムズ株式会社製の高濃度オゾン発生装置〔富士オゾナイザFWXシリーズ〕、エコデザイン株式会社製の空冷式オゾン発生器〔ED-OG-A7〕およびオゾン水生成装置〔ED-OW-3〕、並びに日本オゾン発生器株式会社製のオゾンガス発生装置(酸素PSA搭載)〔HYD-G3000-4CH〕およびオゾン水(専用)発生装置(酸素PSA搭載)〔HYD-W5000〕等が適用可能である。オゾン発生器2によって発生したオゾンは、三方弁7から気体導入孔6を通り、分離槽1へと供給される。分離槽1へと供給されたオゾンは、プラスチック混合物の酸化処理に利用される。なお本装置には、オゾン回収器3が備えられている。オゾンは強力な酸化力を有するため、それ自体に毒性がある。そこで余剰オゾン回収して、オゾンによる外界に対する悪影響を回避すべく、オゾン回収器3が本装置に備えられている。なお当該オゾン回収器3としては、例えば活性炭カラム、加熱分解法、接触分解法、水洗法、薬液洗浄法(アルカリ洗浄法)、薬液還元法等を利用する装置が利用可能である。なお、加熱分解法とは、オゾンガスを加温(200-400℃)して回収する方法である。接触分解法とは、シリカ(SiO)、アルミナ(Al)、酸化第二鉄(Fe)、二酸化マンガン(MnO)、酸化第一鉄(Fe)、酸化ニッケル(NiO)を50℃〜150℃程度に加熱してオゾンガスを通して回収する方法である。薬液洗浄法(アルカリ洗浄法)とは、pHを調整した温水にオゾンガスを接触させて回収する方法である。薬液還元法とは、亜硫酸ナトリウムなど安価な還元剤溶液にオゾンガスを接触させて回収する方法である。
【0073】
撹拌機4は、酸化処理工程、気体導入工程、および撹拌工程を行なう際に用いられる部材である。撹拌機4は、市販品を適宜利用すればよい。
【0074】
散気板5は、多数の貫通孔を有する板状体であって、気体導入孔6から導入された気体が、散気板5の貫通孔を通過して分離槽1に導入するように接続されている。気体が散気板5を通過することによって、気体が分散し、分離槽1内の液体に気泡を効率良く発生させることが可能となる。
【0075】
窒素ボンベ8は、分離槽1へ窒素を導入するための部材であり、本発明の方法における気体導入工程を行なうためのものである。なお、本実施形態においては窒素ボンベを用いているが、本発明はこれに限定されるものではなく、空気ボンベ、酸素ボンベ等の気体供給手段と交換可能である。窒素ボンベから供給される窒素は三方弁7からから気体導入孔6を通り、分離槽1へと供給される。
【0076】
次に、本実施形態の装置を用いてプラスチック混合物から塩素含有プラスチックを分離する工程を図2(a)および(b)を用いてさらに具体的に説示する。
【0077】
まず図2(a)に基づいて説明する。酸化処理工程(オゾン処理工程)では、分離槽1に液体(水)を満たし、プラスチック混合物を導入する。次に、オゾン発生器2により発生したオゾンガスを分離槽1の気体導入孔6から導入する。この時、オゾンガスは散気板5を経由して分離槽1内の液体(水)に導入され、オゾンの気泡が発生する。かかるオゾンの気泡と分離槽1内のプラスチック混合物の各種プラスチックとが接触し、オゾンによってプラスチック(特に塩素含有プラスチック)の表面が酸化(親水化)される。そして、余剰のオゾンガスは、オゾン回収器3により回収される。なお、かかる酸化処理(オゾン処理)を行なう場合は、オゾンとプラスチック混合物に含まれる各種プラスチックとが十分に反応するように、撹拌機4を用いて撹拌することが好ましい。また酸化処理(オゾン処理)は、上記の通り液相で行なってもよいが、気相で行なってもよい。すなわち、分離槽1に液体(水)を満たすことなく、プラスチック混合物を導入し、オゾンガスを分離槽1内に導入することによって酸化処理(オゾン処理)を行なってもよい。
【0078】
酸化処理工程(オゾン処理工程)の終了は、オゾン発生器2からのオゾンの供給を停止することにより行なう。
【0079】
次に気体導入工程を行なう。液相で酸化処理(オゾン処理)を行なった場合、分離槽1内には、酸化処理工程(オゾン処理工程)後のプラスチック混合物を含む液体が存在する(気相で酸化処理(オゾン処理)を行なった場合は、分離槽1へ液体(水)を導入する)。三方弁7を切り替え、窒素ボンベ8から窒素ガスを分離槽1内に供給する。この時、窒素ガスは散気板5を経由して分離槽1内の液体(水)に導入され、窒素の気泡が発生する。かかる窒素の気泡は、プラスチック混合物に含まれる各種プラスチックに接触し付着する。窒素の気泡が付着したプラスチックは浮上し、液体中で浮遊することとなる。オゾン処理により塩素含有プラスチックは、他のプラスチック(塩素非含有プラスチック)に比べてその表面がより親水化されており、気泡が付着しにくく又付着しても剥離し易い。よって窒素ガスの供給を停止すると、塩素含有プラスチックから気泡が剥離して液体内で沈降する。一方、その他のプラスチック(塩素非含有プラスチック)には、気泡が依然として付着しているため液体内で浮遊する。したがって、沈降する塩素含有プラスチックと浮遊しているその他のプラスチック(非塩素含有プラスチック)とを分離することができる。
【0080】
この時、撹拌機4により、分離槽1内の液体を所定の撹拌速度で撹拌することが好ましい。塩素含有プラスチックに付着した気泡を素早く剥離させることができ、塩素含有プラスチックのみ沈降させることが可能となる。したがって、液体中で浮遊するその他のプラスチック(塩素非含有プラスチック)と液体中で沈降する塩素含有プラスチックとの選別をより効果的に行なうことが可能となる。
【0081】
また、必ずしも同一槽内で酸化処理工程(オゾン処理工程)と気体導入工程とを行なう必要はなく、分離槽1とは別に酸化処理槽を設け、そこで酸化処理工程を行なうという態様であってもよい。この場合、酸化処理槽で酸化処理されたプラスチック混合物が分離槽1に導入された後、分離槽1内でプラスチック混合物から塩素含有プラスチックが分離される。これにより、連続運転が可能となり、処理時間を短縮することが可能となる。
【0082】
次に本実施形態の装置を用いてプラスチック混合物から塩素含有プラスチックを分離する工程を図2(b)を用いて説示する。図2(b)に示す工程は、酸化処理工程(オゾン処理工程)と気体導入工程を同時に行なうものである。かかる工程では、プラスチックを浮上させるガスとしてオゾンを用いるため、窒素ガスを一切使用しない。よって、図1における窒素ボンベ8は使用しない。
【0083】
まず分離槽1に液体(水)を満たし、プラスチック混合物を導入する。次に、オゾン発生器2により発生したオゾンガスを分離槽1の気体導入孔6から導入する(オゾン導入工程)。この時、オゾンガスは散気板5を経由して分離槽1内の液体(水)に導入され、オゾンの気泡が発生する。かかるオゾンの気泡と分離槽1内のプラスチック混合物の各種プラスチックとが接触し、オゾンによってプラスチック(特に塩素含有プラスチック)の表面が酸化(親水化)されると同時に、かかるオゾンの気泡は、プラスチック混合物に含まれる各種プラスチックに接触し付着する。オゾンの気泡が付着したプラスチックは浮上し、液体中で浮遊することとなる。なおこの時、オゾンとプラスチック混合物に含まれる各種プラスチックとが十分に反応するように、撹拌機4を用いて撹拌することが好ましい。
【0084】
オゾン処理により塩素含有プラスチックは他のプラスチック(塩素非含有プラスチック)に比べてその表面がより親水化されているので気泡が付着しにくく、または付着しても剥離し易い。よってオゾンガスの導入を停止すると、塩素含有プラスチックは気泡が剥離して液体内で沈降する。一方、その他のプラスチック(塩素非含有プラスチック)は気泡が依然として付着しているため液体内で浮遊する。したがって、沈降する塩素含有プラスチックと浮遊しているその他のプラスチック(非塩素含有プラスチック)とを分離することができる。この時、撹拌機4により、分離槽1内の液体を所定の撹拌速度で撹拌することが好ましい。塩素含有プラスチックに付着した気泡を素早く剥離させることができ、塩素含有プラスチックのみ沈降させることが可能となる。したがって、液体中で浮上するその他のプラスチック(塩素非含有プラスチック)と液体中で沈降する塩素含有プラスチックとの選別をより効果的に行なうことが可能となる。
【0085】
また、本発明の装置には均等処理手段を備えていてもよい。均等処理手段は、オゾン処理を行なう前にプラスチック混合物を粉砕等により大きさを均等化する手段である。かかる均等化手段は、公知の粉砕機、剪断機を適宜選択の上、適用すればよい。またプラスチック混合物から塩素含有プラスチックを分離するために必要なその他の構成が含まれていてもよい。例えば、プラスチック混合物に付着した不純物を除去する洗浄手段が含まれていてもよい。洗浄手段は、水洗、各種洗剤等の洗浄液、あるいは超音波などと組み合わせた洗浄装置を適宜選択の上、適用すればよい。
【0086】
以下添付した図面に沿って実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また本明細書において挙げた全ての技術文献は、本明細書の説明において援用される。
【実施例】
【0087】
〔実施例1〕
《試料》
対象プラスチック:
塩素含有プラスチック:軟質PVC、硬質PVC
塩素非含有プラスチック:PC(ポリカーボネート)、PET、アクリル樹脂
なお上記対象プラスチックは、全て水よりも比重が大きく、何もしない状態では水中に沈んでしまい、かつ酸化処理(オゾン処理)を行なわずに浮遊選別にかけると全て浮上してしまうものを採用した。また水より比重が小さい各種プラスチックは、浮遊選別にかける前から水に浮くため、対象プラスチックには採用しなかった。
対象プラスチックの粒径:3〜5mm
使用量:各1g
《酸化処理工程(オゾン処理工程)》
反応容器:底部に散気板(孔径16μm)を設けた400mlの円筒形ガラス容器
供給ガス種:オゾン
ガス濃度:150mgO/l
ガス流量:15ml/分
処理温度:常温
処理時間:10分
《気体導入工程》
反応容器:底部に散気板(孔径16μm)を設けた400mlの円筒形ガラス容器(オゾン処理と同一のもの)
供給ガス種:窒素
ガス流量:15ml/分
気泡剤:4−メチル−2−ペンタノール(C14O)29.4mg/l(気泡剤を添加した場合と添加しない場合を検討した)
処理温度:常温
処理時間:10分
撹拌速度:
(気泡剤無添加)0rpm、150rpm、270rpm、330rpm、366rpm、390rpm、414rpm、450rpm、510rpm、570rpm
(気泡剤添加)0rpm、150rpm、270rpm、330rpm、366rpm、390rpm、414rpm、450rpm、486rpm、570rpm
《操作手順》
(1)200mlの水を満たした反応容器に各種プラスチックを各1gずつ加える。続いて、反応容器内に、10分間、オゾンガスを導入する。この時撹拌は行なわない。
(2)同一容器内で所定の撹拌速度で撹拌しながら、10分間、オゾンガスの代わりに窒素ガスを導入する。
(3)ガス供給を停止し、15秒間さらに撹拌を行なう。
(4)浮上しているプラスチック、および沈降しているプラスチックを回収する。
(5)次に、上記(1)〜(4)と同様にして、水に気泡剤を添加した条件で操作する。
【0088】
《結果》
図3にプラスチック混合物を分離処理した結果を示す。図3(a)は気泡剤を添加せずに試験を行なった結果を示し、図3(b)は気泡剤を添加して試験を行なった結果を示している。なお図中の横軸は、上記操作手順(3)における撹拌速度を示し、縦軸は各種プラスチックのそれぞれについて、反応容器へ導入した全重量に対する浮上しているプラスチックの割合(wt%:「浮上分」と表記)を示している。
【0089】
図3(a)に示すように、撹拌速度0rpm(すなわち撹拌なし)の場合においても軟質PVCのみが一部沈降しており、プラスチック混合物から塩素含有プラスチックを分離することができるということを示している。
【0090】
また撹拌速度が366rpmの時は、塩素含有プラスチックである軟質PVCおよび硬質PVCのみが完全に沈降した。この時塩素非含有プラスチックは全く沈降していない。したがって、撹拌速度を366rpmに設定することで、プラスチック混合物から塩素含有プラスチックを完全に分離することができるということが分かった。なお、撹拌速度が366rpmを超えると塩素非含有プラスチックの一部が沈降し始め、500rpmを超えるとでは、塩素非含有プラスチックについても完全に沈降してしまった。したがって、撹拌速度が366rpmを超え、500rpm未満の範囲では、プラスチック混合物から塩素含有プラスチックを分離することはできるが、一部塩素非含有プラスチックが混入してしまい塩素非含有プラスチックの回収率が低下するということが分かった。また撹拌速度が500rpm以上になると、プラスチック混合物から塩素含有プラスチックを分離することができないということが分かった
一方、気泡剤を添加した場合(図3(b))についても、上記とほぼ同様の傾向を示したが、プラスチック混合物から塩素含有プラスチックを完全に分離することができる撹拌速度が、330rpm、366rpmとなり、気泡剤添加なしの場合に比して分離条件が広くなっていた。したがって気泡剤の添加により、塩素含有プラスチックの分離性が向上することができるということが分かった。
【0091】
〔実施例2〕
《試料》
対象プラスチック:
塩素含有プラスチック:軟質PVC、硬質PVC
塩素非含有プラスチック:PC(ポリカーボネート)、PET、アクリル樹脂
なお上記対象プラスチックは、全て水よりも比重が大きく、何もしない状態では水中に沈んでしまい、かつ酸化処理(オゾン処理)を行なわずに浮遊選別にかけると全て浮上してしまうものを採用した。また水より比重が小さい各種プラスチックは、浮遊選別にかける前から水に浮くため、対象プラスチックには採用しなかった。
対象プラスチックの粒径:3〜5mm
使用量:各1g
《オゾン導入工程》
反応容器:底部に散気板(孔径16μm)を設けた400mlの円筒形ガラス容器
供給ガス種:オゾン
ガス濃度:150mgO/l
ガス流量:15ml/分
気泡剤:4−メチル−2−ペンタノール(C14O)29.4mg/l(気泡剤を添加した場合と添加しない場合を検討した)
処理温度:常温
処理時間:10分
撹拌速度:
(気泡剤無添加)0rpm、150rpm、270rpm、330rpm、366rpm、390rpm、426rpm、450rpm、510rpm、570rpm
(気泡剤添加)0rpm、150rpm、270rpm、330rpm、366rpm、390rpm、414rpm、450rpm、486rpm、570rpm
《操作手順》
(1)200mlの水を満たした反応容器に各種プラスチックを各1gずつ加え、供給ガス種としてオゾンを用いて10分間、所定の撹拌速度で撹拌しながらオゾンを導入する。
(2)ガス供給を停止し、さらに15秒間撹拌を行なう。
(3)浮上しているプラスチック、および沈降しているプラスチックを回収する。
【0092】
《結果》
図4にプラスチック混合物を分離処理した結果を示す。図4(a)は気泡剤を添加せずに分離した結果を示し、図4(b)は気泡剤を添加して分離した結果を示している。なお図中の横軸は、上記操作手順(2)における撹拌速度を示し、縦軸は各種プラスチックのそれぞれについて、反応容器へ導入した全重量に対する浮上しているプラスチックの割合(wt%:「浮上分」と表記)を示している。
【0093】
図4(a)に示すように、撹拌速度0rpm(すなわち撹拌なし)の場合においては全てのプラスチックが浮遊しており、プラスチック混合物から塩素含有プラスチックを分離することができないという結果を示しているが、撹拌しない場合であってもそのまま放置すると、やがて塩素含有プラスチックのみ沈降しはじめ、プラスチック混合物から塩素含有プラスチックのみを分離することができる。
【0094】
また撹拌速度が366rpm、390rpm、426rpm時は、塩素含有プラスチックである軟質PVCおよび硬質PVCのみが完全に沈降した。この時塩素非含有プラスチックは全く沈降していない。したがって、撹拌速度を上記範囲に設定することで、プラスチック混合物から塩素含有プラスチックを完全に分離することができるということが分かった。なお、撹拌速度が426rpmを超えると塩素非含有プラスチックの一部が沈降し始め、570rpmでは、塩素非含有プラスチックについても完全に沈降してしまった。したがって、撹拌速度が426rpmを超え、570rpm未満の範囲では、プラスチック混合物から塩素含有プラスチックを分離することはできるが、一部塩素非含有プラスチックが混入してしまい塩素非含有プラスチックの回収率が低下するということが分かった。また撹拌速度が570rpm以上になると、プラスチック混合物から塩素含有プラスチックを分離することができないということが分かった
一方、気泡剤を添加した場合(図4(b))についても、上記とほぼ同様の傾向を示し、撹拌速度が366rpm、390rpm、414rpmの時に、プラスチック混合物から塩素含有プラスチックを完全に分離することができるということが分かった。また気泡剤の添加により、塩素含有プラスチックの分離性が向上していた。
【0095】
よって実施例1および2の結果から、本発明を実施する際に、酸化処理工程(オゾン処理工程)および気体導入工程を別工程として行なった場合、または上記2工程を同時に行なった場合に関わらす、塩素含有プラスチックを含むプラスチック混合物から当該塩素含有プラスチックを特異的に分離することができるということが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明にかかる方法および装置によれば、塩素含有プラスチックが他のプラスチックに比して酸化(親水化)され易いという特性を利用して、塩素含有プラスチックを含むプラスチック混合物から当該塩素含有プラスチックを特異的に分離する手段を提供することができる。したがって本発明は、塩化水素ガスが発生することなく、廃プラスチックをリサイクルまたは焼却処理することができるという効果を奏する。
【0097】
それゆえ、廃棄物処理関連産業、プラスチックリサイクル関連産業、その他プラスチックを利用する産業全般に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明にかかる装置の一実施形態を示す概略図である。
【図2】本発明にかかる方法の一実施形態を示す工程図であり、(a)は実施の形態1の工程図であり、(b)は実施の形態2の工程図である。
【図3】実施例1の結果を示すグラフであり、(a)は気泡剤を添加しなかった場合の結果を示し、(b)は気泡剤を添加した場合の結果を示す。
【図4】実施例2の結果を示すグラフであり、(a)は気泡剤を転化しなかった場合の結果を示し、(b)は気泡剤を添加した場合の結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック混合物から塩素含有プラスチックを分離する方法であって、
前記プラスチック混合物を酸化処理する酸化処理工程;および
前記酸化処理工程後のプラスチック混合物を含む液体へ気体を導入する気体導入工程;
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
上記酸化処理工程は、プラスチック混合物をオゾンにより酸化する工程である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記気体導入工程後のプラスチック混合物を含む液体を、所定の撹拌速度で撹拌する撹拌工程をさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
上記所定の撹拌速度は、上記気体導入工程後のプラスチック混合物を含む液体において塩素含有プラスチックのみが沈降する撹拌速度であることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
プラスチック混合物から塩素含有プラスチックを分離する方法であって、
前記プラスチック混合物を含む液体へオゾンを導入するオゾン導入工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項6】
上記オゾン導入工程後のプラスチック混合物を含む液体を、所定の撹拌速度で撹拌する撹拌工程をさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
上記所定の撹拌速度は、上記オゾン導入工程後のプラスチック混合物を含む液体において塩素含有プラスチックのみが沈降する撹拌速度であることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
上記プラスチック混合物に含まれるプラスチックの大きさを均等化する均等化工程をさらに含む、請求項1ないし7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
上記均等化工程は、プラスチック混合物を粉砕する工程である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
上記プラスチック混合物を含む液体は、気泡剤を含む液体である請求項1ないし9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
プラスチック混合物から塩素含有プラスチックを分離するための装置であって、
前記プラスチック混合物および液体が導入される分離槽;
前記プラスチック混合物を酸化処理するための酸化処理手段;および
前記分離槽内に気泡を発生させる気泡発生手段;を備えることを特徴とする装置。
【請求項12】
撹拌手段をさらに備える、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
上記酸化処理手段がオゾン供給手段である請求項11または12に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−305784(P2006−305784A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−128513(P2005−128513)
【出願日】平成17年4月26日(2005.4.26)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】