説明

プラズマとレーザーを用いた連続的な突き合せ溶接方法及びこれを用いた金属管製造方法

プラズマとレーザーとを用いた連続的な突き合せ溶接方法及びこれを用いた金属管の製造方法が開示される。本発明の溶接方法は、突き合せ間隔が非常に狭い被溶接材に対してレーザー溶接とプラズマ溶接を共に施し、特にプラズマをレーザーに先行させてプラズマにより被溶接材を予熱した後、レーザービームにより母材を溶融させて主溶接を行う。また、金属板材を断面円形に曲げて両側部を互いに対向させ、この対向する両側部を上述した溶接方法によって溶接することで金属管を製造する。本発明の溶接方法及び金属管の製造方法によれば、溶接速度及び金属管の生産性が著しく向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材の突き合せ溶接方法(butt welding)及びこれを用いた金属管の製造方法に関し、より詳しくは、二つの熱源を同時に用いて溶接することによって溶接速度を向上させた溶接方法及び金属管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザー溶接(Laser welding)及びアーク溶接(arc welding)は、二つの金属材を突き合せて互いに接合するのに広く用いられて来た。レーザー溶接は、熱源(レーザービーム)を非常に小さく集束でき、溶接時の熱影響部が小さく、精巧な部品の精密溶接が可能であり、キーホール(key hole)を生成させることでシーム溶接(deep penetration welding)が可能であるという長所がある。しかし、レーザーの狭い焦点半径は突き合せ溶接のような精巧な溶接線を追跡し難く、キーホールを不安定にさせて溶接部に気孔を発生させるなどの短所もある。また、レーザー溶接を用いる場合には、生産性を高めようとして溶接線速を速めるためには高出力レーザーを使わなければならないが、これは溶接コストの著しい増加をもたらす。
【0003】
一方、アーク溶接やプラズマ溶接は、レーザー溶接に比べて溶接欠陥が少なく溶接線の追跡も容易であるという長所がある。しかし、特にアーク溶接は、溶接部の熱源面積が広いため、突き合せ間隔の狭い(例えば0.2mm以下)精緻な製品の溶接には適していないという短所がある。
【0004】
このような二つの溶接法の短所を克服するため、レーザー溶接とアーク溶接を並行する溶接法(特許文献1、特許文献2、特許文献3等)が提案されてきた。これら日本及び米国の特開公報は、レーザー溶接とアーク溶接とを併用することで、アーク溶接では得られなかった深い溶込が得られ、溶接速度を高めるなどの効果が得られると主張している。しかし、二つの熱源の同時使用は、必ずしも長所だけをもたらすのではなく、二つの熱源間の先後関係や距離、角度、出力、溶接速度によっては、それぞれの熱源を単独で使ったときの効果の単なる組み合わせに過ぎない結果となる場合がある。
【0005】
一方、内部に複数の光ファイバーが緩やかな状態で組み込まれる金属管(通常、ステンレス鋼で製造された、いわゆるルーズチューブ(loose tube)と言う)の製造に、溶接が用いられている。すなわち、帯状の金属板材を断面が略円形になるように塑性加工し、その対向する端部を溶接して接合することで金属管を製造する。通常、このようなルーズチューブは、その直径が2〜5mm、厚さは0.1〜0.2mmであり、溶接前の突き合せ間隔が0.2mm以下で非常に精巧な溶接が必要である。したがって、現在はこの際の溶接としてCOレーザーを用いたレーザー溶接を使用しているが、前述のようにレーザー溶接だけでは生産性の向上に限界がある。すなわち、金属板材を断面が略円形になるように塑性加工する速度に溶接速度が追いつかず、溶接工程が律速工程(ボトルネック工程)になり得る。
【0006】
したがって、前述したレーザー溶接とアーク溶接との併用溶接のように、二つの熱源を同時に使用することで、溶接速度を向上させる方法が考えられる。しかし、前述したように二つの熱源の同時使用は、非常に煩雑な工程条件の管理を経て、初めて所望の効果が得られるだけでなく、被溶接材の特性毎に熱源の選択と工程条件の設定を行わなければならない。例えば、前述した日本国及び米国の特開公報に開示されたレーザーとアークとの併用溶接は、船舶や自動車の車体のように、相対的に厚い板材、さらにステンレス鋼以外の一般鋼板の溶接に用いられるものであり、突き合せ間隔が非常に小さく且つ薄板を対象とした被溶接材の溶接には不向きな技術である。
【0007】
このように、ルーズチューブのように突き合せ間隔が非常に小さく且つ薄板を対象とした金属板材の突き合せ溶接に対し、溶接速度を向上させながら精巧な溶接が可能な溶接方法が求められていた。
【0008】
【特許文献1】特開2001−334377号公報
【特許文献2】特開2002−346777号公報
【特許文献3】米国特許出願公開 2001/0047984 A1号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述のような要求に応じ、突き合せ間隔が非常に小さく且つ薄板の被溶接材に対し、溶接速度を向上させながら精巧な溶接が可能な溶接方法を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、突き合せ間隔が非常に小さく且つ薄板の金属板材を突き合せ溶接し、小さな直径の金属管を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記技術的課題を達成するために、本発明に係る溶接方法として、レーザー溶接とプラズマ溶接とを共に用いる方法であって、特に、レーザー溶接の前にプラズマ溶接を行い、プラズマにより母材(被溶接材)を予熱した後、レーザービームにより母材を溶融させて主溶接を行う。
【0012】
すなわち、本発明の一側面によるプラズマとレーザーとを用いた連続的な突き合せ溶接方法は、まず、互いに対向する溶接部を有する被溶接材を連続的に供給し、前記溶接部をプラズマトーチを使って予熱した後、プラズマトーチによって予熱された溶接部に対してレーザービームを照射して溶接する。
【0013】
本発明において、プラズマトーチとレーザーヘッドとは、プラズマトーチによる入熱領域の中心とレーザービームによる入熱領域の中心間の距離が0.5〜2.5mmになるように配置されることが望ましい。
【0014】
本発明の溶接方法は、特に互いに対向する溶接部の突き合せ間隔が0.2mm以下である被溶接材の溶接に好適である。
【0015】
本発明の溶接方法は、特にステンレス鋼に好適に適用できるが、この以外にニッケル合金、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン合金、軟鋼、または低合金鋼の突き合せ溶接に適用できる。
【0016】
また、前記の溶接方法は、厚さと直径とが相対的に小さい金属管の製造に適用できる。すなわち、本発明の他の側面による金属管の製造方法は、帯状の金属板材を連続的に供給するステップと、金属板材の両側部が互いに対向するように管状に加工するステップと、管状に加工されて互いに対向する溶接部をプラズマトーチを使用して予熱するステップと、プラズマトーチによって予熱された溶接部に対してレーザービームを照射して溶接するステップとを含むものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付された図面を参照して本発明の望ましい実施例を詳しく説明する。これに先立ち、本明細書及び請求範囲に使われた用語や単語は、通常的、辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者は自らが発明を最善の方法で説明するための用語の概念を適切に定義できるという原則に則し、本発明の技術的な思想に対応した意味及び概念で解釈されねばならない。したがって、本明細書に記載された実施例及び図面に示された構成は、本発明のもっとも望ましい一実施例に過ぎず、本発明の技術的な思想をすべて代弁するものではないため、本出願の時点において、これらを代替できる多様な均等物及び変形例があり得ることを理解せねばならない。
【0018】
図1は、本発明の実施例による溶接方法及び金属管の製造方法によって金属管を製造する装置を示した概略斜視図であり、図2aは図1のA−A線に沿う断面図、図2bは図1のB−B線に沿う断面図である。
【0019】
図1、図2a及び図2bを参照して本実施例によって金属管を製造する過程を説明すれば、まず、所定の幅と厚さとを有した金属板材10を、矢印x方向に一定の速度で供給する。すると、成形手段20が、金属板材10の両側部を塑性加工して、断面が円形である管状に曲げる。図2aに示されたように、所定の突き合せ間隔dを有して管状に成形された金属管10’は、プラズマトーチ30及びレーザーヘッド40によって溶接線10aに沿って溶接され、図2bに示されたように溶接部で接合された金属管10”になる。図1に示された構成において、金属板材10及び溶接前後の金属管10’、10”は、一体として進行し、成形手段20、プラズマトーチ30及びレーザーヘッド40が固定されているため、金属板材10の供給速度が溶接速度になる。しかし、金属板材10、成形手段20、プラズマトーチ30及びレーザーヘッド40の内、何れを固定して、何れを移動させるかは、装置構成や作業環境に応じて適切に変更でき、金属板材10と、プラズマトーチ30及びレーザーヘッド40とをそれぞれ移動させると、金属板材の供給速度と溶接速度とを
相異させることができる。
【0020】
本実施例において、金属板材10は、次のような物性及び寸法を有するステンレス鋼を挙げて説明するが、金属板材の材質及び寸法は、要求に応じて金属管の材質や寸法の変更は任意に可能である。すなわち、金属板材10は、ステンレス鋼の他にニッケル合金、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン合金、軟鋼、または低合金鋼を用いることもできる。
【0021】
金属板材の常温における物性及び寸法
密度:7200kg/m
伝導度:14.9W/mK
比熱:477J/kgK
融点:1670K
融解潜熱:247kJ/kg
沸騰点:3000K
気化潜熱:7000kJ/kg
金属板材の厚さ:0.2mm
金属板材の幅:13.5mm
成形された金属管の直径:4.3mm
【0022】
図1において、成形手段20は、二対の対向して回転する成形ローラーとして示されたが、ローラー対の数は示された数に限定されない。また、本実施例において、成形ローラー20は、金属板材10の断面形状が、円形である金属管に曲げるように示しているが、例えば、楕円形の断面の金属管10’とすることもできる。
【0023】
この成形手段20によって、管状に曲げられた溶接前の金属管10’は、図2aに示されたように、互いに対向する溶接部がV字形の溝(groove)を形成して、突き合せ間隔dが略0.15mm、V字形溝の角度θは略10°程度になるが、dとθは金属板材10の寸法と成形手段20の形状によっても変化する。特に、θが5°以下と非常に小さくすることもできる。
【0024】
本発明において使用されるプラズマトーチ30は、通常のアーク溶接機とは異なり、プラズマの分散角度が小さく、高精度、高密度の溶接を可能にするものである。すなわち、プラズマ溶接は、TIG(Tungsten Inert Gas)溶接と類似するが、プラズマトーチ30では、タングステン溶接棒が銅電極のノズル内に内蔵されており、追加されるパイロットガスと水冷式銅ノズルのガス冷却効果とによってガスが収縮し、TIG溶接におけるアークの分散角度よりプラズマの分散角度をより減少させることができる。また、プラズマの効率、すなわち、プラズマトーチ30の端(カソード)から放出されて母材表面(アノード)に吸収される電力(熱)の割合は60%以上であって、通常43%の効率を有するTIG溶接に比べて効率が高く、溶接棒の汚染及び摩耗が少ない。本実施例において、プラズマ溶接機は80A以下のものを使用し、供給電圧は20〜30Vで操作するが、母材の種類や寸法、または溶接速度に応じて、他規格のトーチの使用が可能なことは当然である。
【0025】
また、本実施例において、レーザー溶接機は、出力680W、焦点位置におけるレーザービームの有効直径が略0.5mmであるCOレーザーを使用するが、母材の種類や寸法、または溶接速度に応じて、他規格のレーザー溶接機の使用が可能なことは当然である。
【0026】
一方、本発明において、プラズマトーチ30とレーザーヘッド40とを共に用いて金属管10’を溶接線10aに沿って溶接することによって、図2bに示されたような溶接された金属管10”を製造することになるが、プラズマトーチ30によるプラズマ30aとレーザーヘッド40によるレーザービーム40aとの位置関係、これらの間の距離xoff、プラズマ30aとレーザービーム40aとの入射角度などが溶接速度及び溶接結果に大きい影響を及ぼす。このような溶接性能に影響を及ぼす要素に対して詳しく説明する。
【0027】
まず、プラズマトーチ30は、図3a及び図3bに示されたように、母材10’表面に対して略45°程度に傾けて使用するが、このときの母材表面におけるプラズマによる入熱エネルギー分布に関して説明する。
【0028】
プラズマ30aが平らな母材表面に垂直に入射するならば、プラズマによる入熱エネルギー分布I(r)は次の数1のようにガウス分布になるはずであるが、母材表面に斜めに入射する場合には、母材表面でプラズマの入熱領域(図4の30b参照)は、母材の進行方向xに沿って長い楕円になり、この際の入熱エネルギー分布は数2のようになる。
【0029】
【数1】

【0030】
ここで、Iはピークエネルギー密度、rは入熱領域における半径方向の距離、rは入熱領域の有効半径、cはプラズマエネルギーがr内に分布する集中度である。一方、以下の説明において、プラズマの分散角度は無視できる程度であるため0°にし(すなわち、プラズマを円柱と仮定し)計算して説明する。
【0031】
【数2】

【0032】
ここで、θはプラズマの入射角、aは楕円の長軸長さであってr/sinθ、bは楕円の短軸長さであってb=r、xは楕円の中心から長軸方向の距離、yは楕円の中心から短軸方向の距離である。
【0033】
一方、上記の数1及び数2は、プラズマが平坦な母材の表面に入射する場合のエネルギー密度であるが、実際、本実施例の場合、プラズマ30aはその中心でV字形溝に入射する。したがって、V字形溝の内部に入射するプラズマの入熱エネルギー分布を考慮せねばならないが、プラズマは質量の流れであるため、V字形溝の内部ではかなり複雑な流動をを行うことになり、この現象の解析は極めて困難である。よって、ここではV字形溝の壁面における入熱エネルギー分布を、プラズマの進行方向に対して一定であって、トーチの移動方向(実際には母材の移動方向x)に対してはガウス分布しているものと単純化した状態を想定する。すなわち、V字形溝の壁面に沿って深さ方向に対するプラズマ入熱エネルギー密度は一定であると仮定する。
【0034】
レーザーヘッド40のレーザービーム40aによる入熱エネルギー分布は、平坦な母材の表面に垂直にレーザービームが入射するとすれば、上記の数1で示されると同様になる。但し、レーザービームのエネルギーは、母材の表面に吸収されるとともに、反射されることもあるため、これを考慮せねばならない。レーザービームの母材表面における吸収率は、レーザービームの特性及び母材の材質や特性によって異なるが、レーザービームの入射角にも依存する。フレネル(Fresnel)の吸収率式によれば、レーザービームは入射角が約85°であるときに最も高い吸収率を示す。すなわち、母材に対してレーザービームを傾け、母材の表面とほとんど平行に照射する場合に、最大の吸収率が得られる。ここで、注意すべき点は、最大の吸収率を得るため、図3aまたは図3bにおいて、レーザーヘッド40を母材10’に対して、ほとんど平行になるように傾けねばならないことを意味しているのではない。前述のように、本実施例の母材10’の溶接部は、突き合せ間隔dが約0.15mmであるV字形溝であり、レーザービーム40aの大部分は該V字形溝の内部に照射される(図4の40b参照)。また、V字形溝は前述したように、その挟角θが約10°程度であるため、図3aまたは図3bにおいてレーザーヘッド40を、母材10’表面にほぼ垂直に配置するとしたとき、V字形溝の壁面に入射するレーザービームの入射角は、ほぼ85°になる。但し、V字形溝外側の母材10’表面に照射されるレーザービームが反射され、レーザーヘッド40に損傷を与える恐れがあるため、図3a及び図3bに示されたように、レーザーヘッド40を少し傾けて配置することが望ましい。
【0035】
一方、このようにレーザービームがV字形溝の内部に照射されるとき、V字形溝の内部の壁面に入熱されるエネルギー分布は多重反射効果によって説明される。すなわち、図5に示されたように、V字形溝に入射するレーザービーム40aは内部壁面で多重反射を経るようになり、その結果、非常に微小なエネルギーだけを有して溝外部へ反射されて行く。V字形溝の内部における多重反射の回数は、溝の角度が小さいほど増加するが、本発明者の計算では溝の角度が20°であるとき、8回程度反射することになる。該8回の反射のそれぞれにおいて、壁面に対するレーザービームの入射角が変化するため、それぞれの反射時の吸収率も変化するはずであるが、概ね平均して一回の反射時の吸収率を0.5と仮定すると、8回の反射を経て溝外部へと出て行くレーザービームのエネルギーは、当初の入射時エネルギーの0.4%以下(0.5≒0.0039)に落ちる。すなわち、ほとんどすべてのエネルギーは、V字形溝の内部に吸収されると言える。また、V字形溝の壁面に沿って深さ方向に深くなるほど、反射の回収が増加し、入熱領域40bの中心部分でエネルギー密度が最も高いため(図5の40c参照)、V字形溝の内部における入熱エネルギー分布は、溝の最も下部で最大になり、上方へ行くほど少なくなる分布を示す。
【0036】
一方、本発明に係る実験によれば、V字形溝の内部の全体エネルギー吸収率(効率)は、V字形溝の角度θによって(結局、レーザービームの入射角の変化によって)異なっていたが、θが10°であるとき約35%の効率を見せ、20〜40°において最大の効率を示し、120°以上では単純平板とほとんど同じ約15%の効率を示すことが分かった。上記の解析では、θが小さいほど多重反射が多く起きるので効率が高くなるはずだが、θが小さいほど入熱領域40bのV字形溝の外側に集中するエネルギーの割合が増加することで、V字形溝の内部への絶対入射量が少なくなるため、上記の結果となると考えられる。
【0037】
以上のプラズマ入熱エネルギー分布及びレーザー入熱エネルギー分布に対する解析は、それぞれの熱源を単独で使用したときの解析結果である。該二つの熱源を共に使用するときの入熱エネルギー分布は、二つの熱源が互いに干渉とすると、一応それぞれの入熱エネルギー分布を重ね合わせた値になると考えられる。
【0038】
二つの熱源の干渉性を確認するため、次のような簡単な実験を行った。まず、レーザービームのみを平坦な母材の表面に垂直に入射させ、母材表面に入射するエネルギーを測定する。このとき、レーザービームは母材表面より少し上側で焦点が合わせられるようにデフォーカスする。以後、レーザービームと垂直に(すなわち、母材表面と平行な方向で)レーザービームの焦点位置にプラズマを重畳させ、このときの母材表面に入射されるエネルギーを測定する。その結果、レーザービームだけを照射したときに測定されたエネルギーは41Wであったし、プラズマで干渉させたときの測定されたエネルギーは40Wであった。すなわち、二つの熱源を同時に重畳させると、僅かではあるが、プラズマ柱にレーザービームが少し吸収されるようになる。同時に、この結果は母材表面でレーザービームとプラズマ柱とを重畳させたときの測定ではないという点、すなわち、実際母材表面で重畳させる場合の溶接の干渉まで考慮すると、二つの熱源を同時に使用する場合、二つの熱源による入熱領域30b、40bの中心間には、少し距離xoffを設けた方がよいと判断できる。しかし、二つの入熱領域間の距離xoffを過度に大きくすると、先行する熱源による予熱効果が落ちるはずであり、これも避けねばならないと考える。xoffの最適値は、プラズマトーチ及びレーザー溶接機の出力と溶接速度など工程条件によって異なるが、その具体的な値は、後述する実験例を通じて算出する。
【0039】
一方、二つの熱源を同時に使用したとき、二つの熱源間の干渉を避ければ、入熱エネルギー分布がそれぞれの熱源を単独で使用したときに比べ増加するはずであるが、全体の入熱エネルギー分布はそれぞれの入熱エネルギー分布を単純に積算した以上となることが望ましいと考える。そこで、この二つの熱源の同時使用による相乗効果は、プラズマによる予熱を行い、レーザービームの吸収率を増加させることが好ましいものとして求められ得る。すなわち、前述においてレーザービームの吸収率は、母材表面に対するレーザービームの入射角によって異なると説明したが、レーザービームの吸収率は、その他母材の温度にも依存する。前述した物性を有する本実施例のステンレス鋼の場合、前述したフレネルの吸収率式において、温度が1℃増加するとき、吸収係数は約3.5×10−5増加する。この数値は些細なもののように考えられるが、プラズマ予熱によって、母材の温度が例えば1000℃増加すると、レーザービームの吸収係数は0.035増加し、常温における吸収係数が0.08程度であることを考慮すると、かなりの吸収率の増加となると言える。
【0040】
以上のような分析によれば、二つの熱源を同時に使用する場合、入熱領域の間に適切な距離を設けてプラズマをレーザーに先行させて母材を予熱することで、レーザービームの吸収率を高める方向に溶接を施した方がよいことが分かる。「プラズマをレーザーに先行させる」とは、母材10’が進行方向xに沿って供給されるとき、まずプラズマ30aが照射された後、レーザービーム40aが照射されることを意味する。プラズマトーチ30及びレーザーヘッド40は、図3aに示されたように、互いに対向するように配置してプラズマ30aとレーザービーム40aとを交差させるか(またはすれ違わせるか)、図3bのようにプラズマトーチ30とレーザーヘッド40とを平行な方向に配置して、プラズマ30aとレーザービーム40aとを平行な方向から照射する。
【0041】
このとき、プラズマ30aとレーザービーム40aとがなす挟角φは、図3aの場合は略70°以内、図3bの場合は略50°以内の範囲にあることが好ましい。一方、母材10’の進行方向から見たとき、母材10’のV字形溝(すなわち、溶接線)に対してプラズマトーチによるプラズマ30aの吐出方向及びレーザービーム40aの照射方向が±20°以内の角を有することが好ましい(図3c参照)。これはプラズマ30aまたはレーザービーム40aが、過度に傾いて吐出または照射されると、いずれか一方に偏って接合が行われ、溶接部の表面に凹凸ができるか、または、不完全な接合になる恐れがあるためである。
【0042】
このように、二つの熱源間の距離xoff、プラズマトーチ30とレーザーヘッド40との位置関係及び角度が適切に調整されて、所定の出力でプラズマ30a及びレーザービーム40aが発生すると同時に、母材10’がx方向に連続的に供給されると、図4に示されたように、まずプラズマトーチ40のプラズマ40aによる入熱領域30bが形成されて母材を予熱する。母材の進行に従って、プラズマによる入熱領域30bの後方には予熱領域30cが尾を引くようにテール状になり、この予熱領域30cのテール側の内部にレーザービーム40aによる入熱領域40bが形成され後を付いていく形になる。予熱された母材は、レーザービームによる入熱領域40bで溶融され、主溶接が行われて連続的にビード10bを生成して行く。これで、金属板材10から断面円形である金属管10”が連続的に製造される。
【0043】
以下、本発明の溶接方法に関して、多様な実験を通じて溶接性能を確認した結果を説明する。まず、図6を参照して以下の実験で評価した溶接特性を定義する。図6は、母材10’の進行方向を境として、半分の領域だけを示したものである。溶接性能の評価は、他の評価方法もあり得るが、溶融プールAの深さを示す溶込深さ(penetration depth)LとビードBの幅(bead width)Lとを測定することで評価できる。
【0044】
以下の実験において、金属板材は、前述した実施例の説明で述べたステンレス鋼を使用し、V字形溝の角度は10°にして行った。また、プラズマトーチ及びレーザー溶接機は前述した実施例で説明した装置を使用した。
【0045】
以下の実験は、プラズマ溶接機だけを用いて溶接した場合(比較例1)、レーザー溶接機だけを用いて溶接した場合(比較例2)、プラズマを先行させて二つの熱源を共に使用した場合(実施例1)、及びレーザーを先行させて二つの熱源を共に使用した場合(比較例3)に分けて行った。比較例1と比較例2とにおいては、それぞれプラズマ出力及びレーザー出力を固定させて、溶接速度を変化させながら溶込深さとビード幅とを測定し、実施例1及び比較例3においては、溶接速度を固定させてプラズマ出力及び二つの熱源間の距離xoffを変化させながら溶込深さとビード幅とを測定した。各実験結果を説明すると、次のようになる。
【0046】
まず、比較例1の結果は、図7a(プラズマ電流を10Aに固定)及び図7b(プラズマ電流が15A)に示されたように、溶接速度が増加するほど溶込深さとビード幅とが減少するものとなった。本実験で使用した金属板材の厚さが0.2mmであるので、溶込深さが0.2mm以上である場合を完全溶込とすると、図7a及び図7bの場合、溶接速度をそれぞれ4.0m/min以下及び6.0m/min以下に維持して初めて完全溶込が成り立つことが分かる。
【0047】
図8に示された比較例2においても、溶接速度が増加するにつれ、溶込深さ及びビード幅が減少するものとなり、完全溶込が起きるためには溶接速度を略5.0m/min以下にしなければならないことが分かる。
【0048】
図9a及び図9bは、実施例1と比較例3の結果を示したグラフであって、溶接速度を12m/minに固定して、二つの熱源間の距離xoffを変化させながら測定したビード幅と溶込深さとを示したものである。図面において、LFとPFとは、それぞれレーザー先行させた場合とプラズマを先行させた場合とを意味し、その後の電流値はプラズマ溶接機の電流を示すものである。
【0049】
図9a及び図9bに示されたように、二つの熱源を共に使用するときには、プラズマを先行させた場合の実施例1がレーザー先行を先行させた場合の比較例3より溶接性に優れている結果となった。また、本実験のような条件では、xoffが0.5〜2.5mmであるとき、実施例1の溶接性が優れることが確認された。
【0050】
このように、実施例1によれば、溶接速度を12.0m/minまで増加でき、従来のプラズマを単独で用いた溶接時の溶接速度(6.0m/min以下)とレーザーを単独で用いた溶接時の溶接速度(5.0m/min以下)のそれぞれの溶接速度はもとより、これらの溶接速度を単純に積算した値を明らかに超える速い溶接速度が得られる。
【0051】
以上、本発明を限定された実施例と図面とによって説明したが、これらの限定した記載に拘泥されることなく、多様な修正及び変形が可能である。例えば、上述した実施例においては、金属板材を曲げて溶接して金属管を製造する場合に関して説明したが、金属管に限定せず本発明の溶接方法の適用が可能である。
【0052】
また、上述した実施例においては、母材(被溶接材)としてステンレス鋼を挙げて説明したが、他にもニッケル合金、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン合金、軟鋼、低合金鋼などの金属材にも適用できる。さらに、上述した実施例においては、金属板材を曲げて対向させたため、対向する二つの被溶接材が同じ金属になるが、組成の異なる金属材の突き合せ溶接にも本発明の溶接方法は適用できる。勿論、母材の材質がステンレス鋼以外の金属や異なる組成の金属材の突き合せ溶接の場合には、プラズマ溶接機及びレーザー溶接機の出力や溶接速度を、それに合わせて適切に変更できる。
【0053】
したがって、本発明は特許請求の範囲の権利範囲は、その均等範囲まで及ぶものと解釈されねばならない。本明細書に記載された実施例と図面とに示された構成は、本発明の最も望ましい一実施例に過ぎず、本発明の技術的思想をすべて代弁するものではないため、本出願時点において、これらを代替できる多様な均等物及び変形例があり得ることを理解せねばならない。
【産業上の利用可能性】
【0054】
以上の如く、本発明の溶接方法によれば、プラズマトーチによる予熱処理後、レーザー溶接を行うことによって、突き合せ間隔が非常に狭い被溶接材の突き合せ溶接時の溶接性及び溶接速度を著しく向上できる。特に、従来には正確かつ迅速な溶接のために、高価なレーザー溶接装備が必要であったが、プラズマ溶接とレーザー溶接とを共に施すことで溶接精度の正確性を保ちつつ、安価なコストで溶接速度を向上させることができる。さらに、レーザー溶接だけを単独で施す場合には、精密な溶接線の追跡が必要であって、作業性が低下したが、プラズマ溶接を共に施すことで作業性が向上し溶接品質も向上する。
【0055】
また、本発明の溶接方法は、厚さと直径とが小さい金属管の製造に好適であり、金属板材の供給速度(塑性加工速度)に合わせた溶接が可能であるため、金属管製造時の律速工程を解消でき、金属管製造の生産性を大きく向上させ得る。
【図面の簡単な説明】
【0056】
明細書内に統合され明細書の一部を構成する添付図面は、発明の現在の望ましい実施例を例示し、実施例の詳細な説明とともに本発明の技術的思想を説明する役割をする。
【図1】図1は、本発明の実施例による溶接方法及び金属管の製造方法によって金属管を製造するための装置の概略構成図である。
【図2a】図2aは、図1のA−A線に沿う断面図である。
【図2b】図2bは、図1のB−B線に沿う断面図である。
【図3a】図3aは、被溶接材に対するプラズマトーチとレーザーヘッドの配置例を示した図面である。
【図3b】図3bは、被溶接材に対するプラズマトーチとレーザーヘッドの配置例を示した図面である。
【図3c】図3cは、プラズマトーチとレーザーヘッドとの角度を説明するために被溶接材の進行方向から見た模式図である。
【図4】図4は、本発明の溶接方法を説明するために溶接部及びその周辺を示した平面図である。
【図5】図5は、V字形溝の内部で起きるレーザービームの多重反射効果を説明するための模式断面図である。
【図6】図6は、溶込深さとビード幅とを説明するための模式断面図である。
【図7a】図7aは、プラズマ単独溶接時の溶接速度と溶込深さ及びビード幅との関係を示したグラフである。
【図7b】図7bは、プラズマ単独溶接時の溶接速度と溶込深さ及びビード幅との関係を示したグラフである。
【図8】図8は、レーザー単独溶接時の溶接速度と溶込深さ及びビード幅との関係を示したグラフである。
【図9a】図9aは、プラズマ溶接とレーザー溶接とを共に施した場合、二つの熱源による入熱領域の中心間距離とビード幅及び溶込深さとの関係を示したグラフである。
【図9b】図9bは、プラズマ溶接とレーザー溶接とを共に施した場合、二つの熱源による入熱領域の中心間距離とビード幅及び溶込深さとの関係を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する溶接部を有する被溶接材を連続的に供給するステップと、
前記溶接部に対してプラズマトーチを使用して予熱するステップと、
前記プラズマトーチによって予熱された前記溶接部に対してレーザービームを照射して溶接するステップとを含むプラズマとレーザーとを用いた連続的な突き合せ溶接方法。
【請求項2】
前記互いに対向する溶接部の突き合せ間隔が0.2mm以下であることを特徴とする請求項1に記載のプラズマとレーザーとを用いた連続的な突き合せ溶接方法。
【請求項3】
前記プラズマトーチによる入熱領域の中心と前記レーザービームによる入熱領域の中心との間の距離が0.5〜2.5mmであることを特徴とする請求項1に記載のプラズマとレーザーを用いた連続的な突き合せ溶接方法。
【請求項4】
前記プラズマトーチによるプラズマの吐出方向と前記レーザービームの照射方向との間の挟角が70°以内であることを特徴とする請求項1に記載のプラズマとレーザーとを用いた連続的な突き合せ溶接方法。
【請求項5】
前記被溶接材の進行方向から見たとき、前記溶接部に対して前記プラズマトーチによるプラズマの吐出方向と前記レーザービームの照射方向とが±20°以内の角を有することを特徴とする請求項1に記載のプラズマとレーザーとを用いた連続的な突き合せ溶接方法。
【請求項6】
前記被溶接材はステンレス鋼、ニッケル合金、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン合金、軟鋼及び低合金鋼のうちいずれか一つまたは二つであることを特徴とする請求項1に記載のプラズマとレーザーとを用いた連続的な突き合せ溶接方法。
【請求項7】
前記被溶接材は前記溶接部の断面形象がV字形溝をなして互いに対向するように供給されることを特徴とする請求項1に記載のプラズマとレーザーとを用いた連続的な突き合せ溶接方法。
【請求項8】
前記V字形溝の挟角が40°以下であることを特徴とする請求項7に記載のプラズマとレーザーを用いた連続的な突き合せ溶接方法。
【請求項9】
帯状の金属板材を連続的に供給するステップと、
前記金属板材の両側部が互いに対向するように管状に加工するステップと、
管状に加工されて互いに対向する溶接部をプラズマトーチを使って予熱するステップと、 前記プラズマトーチによって予熱された前記溶接部に対してレーザービームを照射して溶接するステップとを含む金属管の製造方法。
【請求項10】
前記互いに対向する溶接部の突き合せ間隔が0.2mm以下であることを特徴とする請求項9に記載の金属管の製造方法。
【請求項11】
前記プラズマトーチによる入熱領域の中心と前記レーザービームによる入熱領域の中心間距離が0.5〜2.5mmあることを特徴とする請求項9に記載の金属管の製造方法。
【請求項12】
前記プラズマトーチによるプラズマの吐出方向と前記レーザービームの照射方向間の挟角が70°以内であることを特徴とする請求項9に記載の金属管の製造方法。
【請求項13】
前記金属板材の進行方向から見たとき、前記溶接部に対して前記プラズマトーチによるプラズマの吐出方向と前記レーザービームの照射方向とが±20°以内の角を有することを特徴とする請求項9に記載の金属管の製造方法。
【請求項14】
前記金属板材はステンレス鋼、ニッケル合金、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン合金、軟鋼及び低合金鋼のうちいずれか一つよりなることを特徴とする請求項9に記載の金属管の製造方法。
【請求項15】
前記管状に加工するステップにおいて、前記金属板材の両側部は断面形象がV字形溝をなしながら互いに対向するように加工されることを特徴とする請求項9に記載の金属管の製造方法。
【請求項16】
前記V字形溝の挟角が40°以下であることを特徴とする請求項15に記載の金属管の製造方法。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7a】
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【図7b】
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【図8】
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【図9a】
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【図9b】
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【公表番号】特表2008−502485(P2008−502485A)
【公表日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−516371(P2007−516371)
【出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【国際出願番号】PCT/KR2004/001466
【国際公開番号】WO2005/123325
【国際公開日】平成17年12月29日(2005.12.29)
【出願人】(505297002)エルエス ケーブル リミテッド (44)
【氏名又は名称原語表記】LS Cable Ltd.
【住所又は居所原語表記】19−20F ASEM Tower 159 Samsung−dong, Gangnam−gu, Seoul 135−090 Republic of Korea
【出願人】(502318478)コリア アドバンスド インスティチュート オブ サイエンス アンド テクノロジィ (27)
【Fターム(参考)】