説明

プラズマスプレー法及びこの方法によって形成された製品

第1材料を準備する段階、第2材料を準備する段階、プラズマ源を準備する段階、プラズマスプレーを生成するために、プラズマ源内部に第1及び第2材料を導入する段階、を含み、第2材料はプラズマ中で少なくとも部分的に溶融し第1材料に結合する、プラズマスプレー法。そのような方法によって形成される物の組成。そのような方法によって改質される基板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプラズマスプレー法及びこの方法によって形成された製品に関する。特に、本発明は開口多孔質表面構造体を形成するためのプラズマスプレー法に関する。本発明の方法は、医療装置、特にインプラント、とりわけセメントレス固定法に用いられてよいインプラントの製造に用いられてよい。
【背景技術】
【0002】
これまで、良好なセメントレスインプラント固定に関して二つのタイプのシステムが開発されてきた。第1のタイプのシステムは、骨が表面上に直接成長することを可能にする。第1の技術の典型的な例は、非常に粗い表面構造を示すチタン真空プラズマスプレー(VPS)コーティングである。骨の組織はこの種の表面上に直接成長する。
【0003】
第2のタイプのシステムは、骨が表面内部に成長することを可能にする。第2の技術の典型的な例は、焼結されたCoCrビーズを備えた開口多孔質表面である。骨は3D構造体内部に成長することができるが、CoCrビーズには直接結合しない。
【0004】
組織と人工表面との間の結合をさらに改良するために、骨の表面上成長及び内部成長を可能にする、両方の構造の組み合わせが開発されてきた。例えば、タンタル金属が、化学気相蒸着(CVD)法を用いて、熱分解炭素骨格上に堆積されてよい。その代わりに、そのような開口多孔質構造が、金属粒子でコーティングされ、その後に真空炉で焼結されたポリマー骨格(例えばポリウレタンを含む)を用いて作製されてよい。焼結において、ポリマー構造は完全に蒸発すべきである。
【0005】
これらの開口多孔質構造/コーティングは複数の重大な欠点を有する。製造コストが従来のインプラント表面と比較して高い。さらに、使用されるポリマー構造体(例えばポリウレタン)は、不完全な熱分解で、コーティング中に残り得る毒性の残渣をもたらす可能性がある。
【0006】
開口多孔質コーティング構造体を有する粗いチタンコーティングを形成する他の方法は、修正VPS法を含む。
【0007】
シリコン(焼結助剤、1質量%)を微量追加した単分散の市販の純チタン粉末(サイズ分布:90−250μm)が、コーティングを形成するために使用されてよい。比較のために、標準的なVPSは150μm未満(通常50−150μmの範囲)のサイズ分布を有し、焼結助剤としてのシリコンを使用しない。修正VPSにおいて、焼結助剤はチタン粒子の表面に機械的に合金化され、その表面の融点を下げる。これは、様々な組成でSi/Ti共晶混合物を潜在的に形成する。コーティングは、VPS法を用いて金属インプラント表面(CoCrMo、チタン/合金、ジルコニウム/合金)に塗布される。
【0008】
しかしながら、開口多孔質構造体を形成するためのそのような修正VPS法は不利な点を有する。VPS法に使用される市販の純チタン粉末は、粒子表面に焼結助剤(シリコン)を機械的に合金化するために、予備処理されなくてはならない。この追加の予備処理が製造コストを増やす。さらに、プロセス条件の完全な制御は非常に難しい。シリコン等の焼結助剤をプロセス内に導入することは望ましくない。これは製造コストを増大させる。さらに、シリコン等の焼結助剤の追加はインプラントの表面化学組成を変化させる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の局面によれば、以下のプラズマスプレー法が提供される:
第1材料を準備する段階、
第2材料を準備する段階、
プラズマ源を準備する段階、
プラズマスプレーを生成するために、プラズマ源内部に第1及び第2材料を導入する段階、を含み、
第2材料はプラズマ中で少なくとも部分的に溶融し、第1材料に結合する。
【0010】
第2材料はプラズマ中で完全に溶融してよい。
【0011】
第1材料はプラズマ中で部分的に溶融してよい。
【0012】
本発明の一実施形態によれば、第1材料はプラズマ中で溶融しない。
【0013】
本発明の一実施形態によれば、プロセスは三つ以上の材料の提供を含む。
【0014】
本発明の一実施形態によれば、少なくとも一つの材料はプラズマ中で少なくとも部分的に溶融し、少なくとも一つの他の材料に結合する。
【0015】
本発明の一実施形態によれば、少なくとも一つの材料はプラズマ中で完全に溶融し、少なくとも一つの他の材料に結合する。
【0016】
少なくとも一つの材料は、不連続な粒子を含んでよい。
【0017】
少なくとも一つの材料は粉末であってよい。
【0018】
本発明の第2の局面によれば、以下のプラズマスプレー法が提供される:
第1粉末を準備する段階、
第2粉末を準備する段階、
プラズマ源を準備する段階、
プラズマスプレーを生成するために、プラズマ内部に第1及び第2粉末を導入する段階、を含み、
第1粉末は互いに融合しない傾向を有する粒子を含み、第2粉末は互いに融合する傾向を有する粒子を含む。
【0019】
第1粉末は互いに融合しない粒子を含んでよい。
【0020】
第2粉末は互いに融合する粒子を含んでよい。
【0021】
第2粉末は第1粉末粒子と融合する粒子を含んでよい。
【0022】
本発明の第3の局面によれば、以下のプラズマスプレー法が提供される:
第1粉末を準備する段階、
第2粉末を準備する段階、
プラズマ源を準備する段階、
プラズマスプレーを生成するために、プラズマ内部に第1及び第2粉末を導入する段階、を含み、
第1粉末はプラズマ内部で溶融する傾向を持たない粒子を含み、第2粉末はプラズマ内部で溶融する傾向を有する粒子を含む。
【0023】
第2粉末粒子の溶融物は第1粉末粒子に結合してよい。
【0024】
第1粉末は溶融しない粒子を含んでよい。
【0025】
第2粉末はプラズマ内部で全て溶融する粒子を含んでよい。
【0026】
本発明の第4の局面によれば、以下のプラズマスプレー法が提供される:
第1粒子サイズ分布を有する第1粉末成分を準備する段階、
第2粒子サイズ分布を有する第2粉末成分を準備する段階、
プラズマ源を準備する段階、
プラズマスプレーを生成するために、プラズマ内部に第1及び第2粉末成分を導入する段階、を含み、
第1粒子サイズ分布が第2粒子サイズ分布と比較して大きい。
【0027】
本発明の第5の局面によれば、以下のプラズマスプレー法が提供される:
第1粒子サイズ分布を有する第1粉末成分を準備する段階、
第2粒子サイズ分布を有する第2粉末成分を準備する段階、
プラズマ源を準備する段階、
プラズマスプレーを生成するために、プラズマ内部に第1及び第2粉末成分を導入する段階、を含み、
第1粉末の平均粒子サイズが第2粉末の平均粒子サイズと比較して大きい。
【0028】
本発明の一実施形態によれば、本方法は、
基板を準備する段階と、
基板上に開口多孔質構造体を形成するために、基板をプラズマスプレーに曝す段階と、をさらに含む。
【0029】
基板は金属、金属合金、セラミック、ポリマー、又はそれらの組み合わせからなる群から選択されてよい。
【0030】
基板は、チタン、チタン合金、コバルトクロム合金、ジルコニウム、ジルコニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、タンタル、タンタル合金、ハフニウム、ハフニウム合金、ニオブ、ニオブ合金、ステンレス鋼、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、ポリアリールエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、又はそれらの組み合わせからなる群から選択されてよい。
【0031】
本方法は基板とプラズマ源との間に移行アークを使用する段階をさらに含んでよい。
【0032】
本方法は基板と開口多孔質構造体との間に中間層を設ける段階をさらに含んでよい。
【0033】
中間層は、チタン、チタン合金、コバルトクロム合金、ジルコニウム、ジルコニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、ステンレス鋼、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、ポリアリールエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、又はそれらの組み合わせからなる群から選択される材料を含んでよい。
【0034】
第1粉末は粗い粒子を含んでよく、第2粉末は微細な粒子を含んでよい。
【0035】
第1粉末粒子サイズ分布は150−800μmの範囲であってよい。
【0036】
第1粉末粒子サイズ分布は180−500μmの範囲であってよい。
【0037】
第1粉末粒子サイズ分布は200−350μmの範囲であってよい。
【0038】
第2粉末粒子サイズ分布は30−250μmの範囲であってよい。
【0039】
第2粉末粒子サイズ分布は45−200μmの範囲であってよい。
【0040】
第2粉末粒子サイズ分布は75−200μmの範囲であってよい。
【0041】
第2粉末粒子サイズ分布は100−200μmの範囲であってよい。
【0042】
第2粉末粒子サイズ分布は125−200μmの範囲であってよい。
【0043】
第2粉末粒子サイズ分布は150−200μmの範囲であってよい。
【0044】
粗い粉末のサイズ及び化学的構成は、プラズマスプレー法によるSTIKTITE多孔質コーティング(Smith&Nephew)等の焼結された非対称粒子多孔質構造体と同様の最終製品を実現するため調整されてよい。
【0045】
本発明の一実施形態によれば、本方法は3つ以上の粉末を含んでよい。
【0046】
少なくとも二つの粉末が異なる粒子サイズ分布を有してよい。
【0047】
各粉末は異なる粒子サイズ分布を有してよい。
【0048】
少なくとも二つの粉末又は材料は、異なる化学組成を有してよい。
【0049】
例えば、二つではなく、三つの異なる粉末成分が使用されてよい。三つの異なる成分は、プラズマトーチ内部に別個に注入されてよい。異なる成分は、ここに記載されるような様々なものであってよい。
【0050】
粉末又は材料は、金属、金属合金、セラミック、ポリマー、又はそれらの組み合わせからなる群から選択されてよい。
【0051】
粉末又は材料は、チタン、チタン合金、ジルコニウム、ジルコニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、亜鉛、亜鉛合金、タンタル、又はそれらの組み合わせからなる群から選択されてよい。
【0052】
チタン合金(Ti6Al4V、又はTi6Al7Nb等)粉末が、市販の純チタンの代わりに使用されてよい。
【0053】
異なる化学組成を有する粉末が使用されてよい。例えば、市販の純チタン微粉末及びチタン合金粗粉末である。
【0054】
ジルコニウム又はジルコニウム合金粉末が使用されてよい。
【0055】
マグネシウム又はマグネシウム合金粉末が使用されてよい。
【0056】
粗い成分としてチタン又はチタン合金又はジルコニウム又はジルコニウム合金粉末の組み合わせが、微細な成分としてシリコン粉末が使用されてよい。
【0057】
粗い成分としての市販の純チタン粉末、及び微細な成分としての水素化チタン粉末が使用されてよい。
【0058】
チタン又はチタン合金粉末又はジルコニウム又はジルコニウム合金粉末の、吸収性金属(例えば、マグネシウム、マグネシウム合金、亜鉛、又は亜鉛合金)粉末との組み合わせが、吸収性金属の吸収を可能にするために使用されてよい。
【0059】
不活性のバイオセラミック粉末(例えば、アルミナ、ジルコニア、又は窒化シリコン)の、吸収性マグネシウム又は亜鉛ベース粉末又は吸収性リン酸カルシウムベース粉末との組み合わせが使用されてよい。
【0060】
バイオ吸収性成分を備えるコーティング生成のために金属粉末と組み合わせた非金属(無機)粉末が使用されてよい。例えば、市販の純チタン又はジルコニウム(合金)と組み合わせたブラッシュ石/プラスター(パリ)である。
【0061】
バイオ吸収性成分を備えるコーティング生成のために金属粉末と組み合わせた非金属(無機)粉末であって、バイオ吸収性成分が銀又は亜鉛等の抗菌物質を含むものが使用されてよい。
【0062】
バイオ吸収性成分を備えるコーティング生成のために金属粉末と組み合わせた非金属(無機)粉末であって、バイオ吸収性成分が、ストロンチウム、マグネシウム、又はフッ化物等の骨結合性を促進する成分を含むものが使用されてよい。
【0063】
少なくとも二つの粉末又は材料が同時に導入されてよい。
【0064】
少なくとも二つの粉末又は材料が続けて導入されてよい。
【0065】
様々な粉末成分を順次に使用することにより、形成された構造体の性質を調整する中間層の形成を可能にし得る。
【0066】
プラズマ源はプラズマトーチであってよい。
【0067】
様々なタイプのプラズマノズルデザインが、プラズマ形状及びトーチを通過する粒子流を変化させるために使用されてよい。
【0068】
プラズマスプレープロセスは真空内で実施されてよい。
【0069】
プラズマスプレープロセスは不活性雰囲気で実施されてよい。
【0070】
不活性雰囲気はアルゴンを含んでよい。
【0071】
不活性雰囲気はヘリウムを含んでよい。
【0072】
不活性雰囲気は窒素を含んでよい。
【0073】
チャンバ圧力は400mbarから大気圧の範囲であってよい。
【0074】
チャンバ圧力は500mbarから大気圧の範囲であってよい。
【0075】
チャンバ圧力は500−800mbarの範囲であってよい。
【0076】
チャンバ圧力は550−750mbarの範囲であってよい。
【0077】
プラズマ形成ガスは、アルゴン、ヘリウム、水素、窒素、又はそれらの組み合わせからなる群から選択されてよい。
【0078】
プラズマガス混合物は変更されてよい。例えば、水素又は窒素がアルゴン/ヘリウム混合物に追加されてよい。
【0079】
プラズマ温度を高めるために、アルゴン/水素混合物が使用されてよい。
【0080】
プラズマ形成ガスは、40−80l/minの範囲の流量を有するアルゴン及びヘリウムを含んでよい。
【0081】
プラズマ形成ガスはアルゴン及びヘリウムを含んでよく、プラズマガスに関して0.6−0.8の範囲のアルゴン/ヘリウム比を有してよい。
【0082】
粉末又は材料は、キャリアガスによってプラズマ内部に導入されてよい。
【0083】
様々な粉末又は材料が、様々なキャリアガスによってプラズマ内部に導入されてよい。これは局所的に様々な温度を可能にし得る。
【0084】
キャリアガス流量は、異なる粉末又は材料に関して、異なっていてよい。
【0085】
本方法は、プラズマ内部に導入するよりも前に、インサイチュで材料又は粉末を混合する段階をさらに含んでよい。
【0086】
本方法は、定義されているが変更可能であるコーティング中の微/粗粉末比を有するために、材料又は粉末の予備混合を行わない(すなわち、保管の間の脱混合を回避する)ことをさらに含んでよい。
【0087】
本方法は、粉末流をパルス化するために粉末供給ライン内に配置された装置をさらに含んでよい。すなわち、粉末の連続流ではなくむしろ、粉末は不連続なパルスで供給され得る。
【0088】
少なくとも一つの粉末又は材料が導電性であってよく、アークが基板と対向電極との間に生成されてよい。
【0089】
移行アーク電流は0−200Aの範囲であってよい。
【0090】
プラズマ生成電流は900−1300Aの範囲であってよい。
【0091】
粗い粉末と微細な粉末との間の比は1/4−1/2の範囲であってよい。
【0092】
コーティング工程の間のプラズマ源(銃、トーチ)と基板との間の距離は、145−205mmの範囲であってよい。これは、スタンドオフ距離と呼ばれる。
【0093】
本発明の第6の局面によれば、本発明の第1から第5の局面の何れかによって定義される方法の一つにより形成される物の組成が提供される。
【0094】
本発明の第7の局面によれば、本発明の第1から第5の局面の何れかによって定義される方法の一つにより改質される基板が提供される。
【0095】
本発明の第8の局面によれば、本発明の第7の局面による基板を含む医療装置が提供される。
【0096】
本発明の医療装置は、股関節、膝、肩、背骨、足、つま先、踝、又は人工歯根からなる群から選択されるインプラントであってよい。
【0097】
粉末は、予備混合なしで、プラズマトーチ内部に同時に又は続けて注入されてよい。小さな粒子及び粗い粒子を予備混合しないことによって、プラズマスプレーコーティング及びその性質は、予備混合された粉末と比較して、より広い範囲にわたって変化し得る。このインサイチュ混合を通じて、注入された粉末間の比は独立に変化し得る。さらに、新たなコーティング特性を、市販で入手可能な標準粉末から容易に得ることができる。幅広い粒子サイズを有する予備混合粉末のリスクの一つは、容器の振動又は移動/移送に起因する、保管容器中での脱混合であり、最終的に得られるプラズマスプレーコーティングの特性を不均一にし、かつ再現不可能なものとする。
【0098】
粒子のサイズ分布が異なってよいだけではなく、化学組成もまた異なってよい。粗い粒子が化学的に変更されない一方で、粒子の融点が低くなるように、一つの成分(例えば、小さな粒子)の化学組成が変更されてよい。これは、粗い粒子のミクロ構造を変化させることなく、プラズマスプレーコーティング内部で最適化された凝集をもたらし得る。
【0099】
さらなる可能性として、バイオ吸収性及びバイオ不活性材料(例えば、チタン及びブラッシュ石等のリン酸カルシウム)の同時スプレーが挙げられ、バイオ吸収性成分が抗菌成分(例えば銀又は亜鉛)を含むことも考えられる。さらに、バイオ吸収性成分は、ストロンチウム、マグネシウム、又はフッ化物等、骨結合を促進する添加剤を含んでよい。従来のVPSチタンコーティングをその表面に配置するために今迄使用されている任意の基板が適する。
【発明を実施するための形態】
【0100】
実施例
以下の実施例は本発明の幾つかの局面によるものである。
【0101】
実施例1
真空プラズマスプレー法は、開口多孔質チタンコーティングを準備するために使用される。様々な粒子サイズ分布を有する二つの粉末が、プラズマトーチ内部に同時に注入される。微粉末は75−180μmのサイズ分布を有し、粗粉末は200−350μmのサイズ分布を有する。微粉末と粗粉末との間の供給速度比(質量/質量)は3に固定され、空隙率40から70%、及び平均孔サイズ>100μmが得られる。形成されるコーティング厚みは500から1500μmの範囲である。プラズマガスとしてアルゴン及びヘリウムの混合物が使用される。プラズマトーチでは、円筒形8mmノズルが使用される。
【0102】
実施例2
実施例1と同じ方法であるが、スプレープロセスの間の開口多孔質コーティングの機械的完全性を改良するために、基板とプラズマトーチとの間に移行アークを使用する追加の段階(DC電流:50A)を有する。
【0103】
既知のSi合金化チタン粉末に関して、抵抗加熱により堆積された粒子の凝集を改良するために、プラズマスプレープロセスの間、移行アーク(電流)を使用することは都合がよい。この電気アークは、基板と対向電極、すなわちプラズマトーチとの間に作られる。電気アークを通じて印加される電流の加熱効果は、既に堆積された粒子間の焼結ネックにおいて顕著であり、これは焼結ネックにおける材料断面が最小であることに起因する。金属粒子内部の熱活性化拡散は、粒子間の界面の強化をもたらし、理想的には界面を粒界のような構造に転換する。本発明の二粉末法に関して、同様に、アークがこれらの新しいコーティングの完全性(機械的強度)を改良することが示された。二粉末法と移行アークとの組み合わせは、開口多孔質チタンコーティングの性質を最適化する。
【0104】
本発明は、金属インプラント材料の3次元開口多孔質構造体を提供する。本発明のコーティングは、三つの重要な性質を提供する:骨組織刺激に関するミクロ粗さ、組織/インプラント連結に関するマクロ粗さ、及び一体化領域に関する適切な厚み。
【0105】
二以上の粉末法は開口多孔質チタンコーティングに制限されず、上述したような代替材料から形成される新規の及び生物活性のコーティングを含むことには注意すべきである。
【0106】
従来技術は、開口多孔質プラズマスプレーコーティングの製造に関して、プラズマスプレープロセスにおける2つ以上の異なる粉末の使用を開示しない。本発明の重要な利点は、従来技術と比較したときの、開口多孔質コーティングの製造に関するかなりのコスト低減である。チタン粉末と、シリコン等の焼結助剤との機械的合金化の必要が無い。標準的な、本発明においては市販で入手可能なチタン粉末を使用することができる。さらに、本発明においては焼結助剤が使用されないという事実に起因して、最終的なコーティングの化学組成が構成成分である粉末に非常に類似することから(例えば、市販の純チタン粉末はASTM F1537に準拠するコーティングを形成するだろう)、新規製品の登録が容易となる。さらに、既知のプロセス/コーティングとは違って、3D構造を形成するために使用されるベースポリマー又は無機骨格によるコーティングの汚染のリスクがない(第1頁参照)。
【0107】
既知のプロセスを簡素化し、コストを低減し、かつ潜在的な登録手続きを軽減するために、本発明は焼結助剤(例えば、シリコン)が使われなくなるようにVPS法を改良する。本発明の実施形態によれば、プラズマ中で小さな粒子が完全に溶融する一方で、大きな粒子は固体で残り得る。粉末中の小さな、完全に融合された粒子は、より粗い粒子間の相互連結の形成に重要な役割を演じる。これらの小さな、融合された粒子は、大きく、部分的にしか融合しない粒子に対して、「接着剤」として働く。粒子の溶融の程度は、それらが非常に限られた時間しかプラズマ内に存在しないので、粒子サイズに依存する。プラズマトーチの速度及び温度に依存して、伝わる熱は大きな粒子を融合させるのに十分ではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1材料を準備する段階、
第2材料を準備する段階、
プラズマ源を準備する段階、
プラズマスプレーを生成するために、プラズマ源内部に第1及び第2材料を導入する段階、を含み、
第2材料はプラズマ中で少なくとも部分的に溶融し第1材料に結合する、プラズマスプレー法。
【請求項2】
第2材料がプラズマ中で完全に溶融する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第1材料がプラズマ中で部分的に溶融する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
第1材料がプラズマ中で溶融しない、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
三つ以上の材料を含む、請求項1から4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも一つの材料がプラズマ中で少なくとも部分的に溶融し、少なくとも一つの他の材料と結合する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも一つの材料がプラズマ中で完全に溶融し、少なくとも一つの他の材料と結合する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
少なくとも一つの材料が不連続な粒子を含む、請求項1から7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
少なくとも一つの材料が粉末である、請求項1から8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
第1粉末を準備する段階、
第2粉末を準備する段階、
プラズマ源を準備する段階、
プラズマスプレーを生成するために、プラズマ内部に第1及び第2粉末を導入する段階、を含み、
第1粉末は互いに融合しない傾向を有する粒子を含み、第2粉末は互いに融合する傾向を有する粒子を含む、プラズマスプレー法。
【請求項11】
第1粉末が互いに融合しない粒子を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
第2粉末が互いに融合する粒子を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
第2粉末が第1粉末粒子と融合する粒子を含む、請求項10から12の何れか一項に記載の方法。
【請求項14】
第1粉末を準備する段階、
第2粉末を準備する段階、
プラズマ源を準備する段階、
プラズマスプレーを生成するために、プラズマ内部に第1及び第2粉末を導入する段階、を含み、
第1粉末はプラズマ内部で溶融しない傾向を有する粒子を含み、第2粉末はプラズマ内部で溶融する傾向を有する粒子を含む、プラズマスプレー法。
【請求項15】
溶融する第2粉末粒子が第1粉末粒子を結合する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
第1粉末が溶融しない粒子を含む、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
第2粉末がプラズマ内部で全て溶融する粒子を含む、請求項14から16の何れか一項に記載の方法。
【請求項18】
第1粒子サイズ分布を有する第1粉末成分を準備する段階、
第2粒子サイズ分布を有する第2粉末成分を準備する段階、
プラズマ源を準備する段階、
プラズマスプレーを生成するために、プラズマ内部に第1及び第2粉末成分を導入する段階、を含み、
第1粒子サイズ分布が第2粒子サイズ分布と比較して大きい、プラズマスプレー法。
【請求項19】
第1粒子サイズ分布を有する第1粉末成分を準備する段階、
第2粒子サイズ分布を有する第2粉末成分を準備する段階、
プラズマ源を準備する段階、
プラズマスプレーを生成するために、プラズマ内部に第1及び第2粉末成分を導入する段階、を含み、
第1粉末の平均粒子サイズが第2粉末の平均粒子サイズと比較して大きい、プラズマスプレー法。
【請求項20】
基板を準備する段階と、
基板上に開口多孔質構造体を形成するために、基板をプラズマスプレーに曝す段階と、をさらに含む、請求項1から19の何れか一項に記載の方法。
【請求項21】
基板が金属、金属合金、セラミック、ポリマー、又はそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
基板が、チタン、チタン合金、コバルトクロム合金、ジルコニウム、ジルコニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、タンタル、タンタル合金、ハフニウム、ハフニウム合金、ニオブ、ニオブ合金、ステンレス鋼、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、ポリアリールエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、又はそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項20又は21に記載の方法。
【請求項23】
基板とプラズマ源との間に移行アークを使用する段階をさらに含む、請求項20から22の何れか一項に記載の方法。
【請求項24】
基板と開口多孔質構造体との間に中間層を設ける段階をさらに含む、請求項20から23の何れか一項に記載の方法。
【請求項25】
中間層が、チタン、チタン合金、コバルトクロム合金、ジルコニウム、ジルコニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、ステンレス鋼、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、ポリアリールエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、又はそれらの組み合わせからなる群から選択される材料を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
第1粉末が粗粒子を含み、第2粉末が微粒子を含む、請求項9から25の何れか一項に記載の方法。
【請求項27】
第1粉末粒子サイズ分布が150−800μmの範囲である、請求項18から26の何れか一項に記載の方法。
【請求項28】
第1粉末粒子サイズ分布が180−500μmの範囲である、請求項18から27の何れか一項に記載の方法。
【請求項29】
第1粉末粒子サイズ分布が200−350μmの範囲である、請求項18から28の何れか一項に記載の方法。
【請求項30】
第2粉末粒子サイズ分布が30−250μmの範囲である、請求項18から29の何れか一項に記載の方法。
【請求項31】
第2粉末粒子サイズ分布が45−200μmの範囲である、請求項18から30の何れか一項に記載の方法。
【請求項32】
第2粉末粒子サイズ分布が75−200μmの範囲である、請求項18から31の何れか一項に記載の方法。
【請求項33】
三つ以上の粉末を含む、請求項10から32の何れか一項に記載の方法。
【請求項34】
少なくとも二つの粉末が異なる粒子サイズ分布を有する、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
各粉末が異なる粒子サイズ分布を有する、請求項33又は34に記載の方法。
【請求項36】
少なくとも二つの粉末又は材料が異なる化学組成を有する、請求項1から35の何れか一項に記載の方法。
【請求項37】
粉末又は材料が金属、金属合金、セラミック、ポリマー、又はそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1から36の何れか一項に記載の方法。
【請求項38】
粉末又は材料がチタン、タンタル、ハフニウム、ニオブ、ジルコニウム、マグネシウム、亜鉛、又はそれらの合金若しくはそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1から37の何れか一項に記載の方法。
【請求項39】
少なくとも二つの粉末又は材料が同時に導入される、請求項1から38の何れか一項に記載の方法。
【請求項40】
少なくとも二つの粉末又は材料が順次導入される、請求項1から39の何れか一項に記載の方法。
【請求項41】
プラズマ源がプラズマトーチである、請求項1から40の何れか一項に記載の方法。
【請求項42】
プラズマスプレープロセスが真空下で実施される、請求項1から41の何れか一項に記載の方法。
【請求項43】
プラズマスプレープロセスが不活性雰囲気下で実施される、請求項1から41の何れか一項に記載の方法。
【請求項44】
不活性雰囲気がアルゴンを含む、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
不活性雰囲気がヘリウムを含む、請求項43又は44に記載の方法。
【請求項46】
不活性雰囲気が窒素を含む、請求項43から45の何れか一項に記載の方法。
【請求項47】
チャンバ圧力が400mbarから大気圧の範囲である、請求項43から46の何れか一項に記載の方法。
【請求項48】
チャンバ圧力が500mbarから大気圧の範囲である、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
チャンバ圧力が500−800mbarの範囲である、請求項47又は48に記載の方法。
【請求項50】
チャンバ圧力が550−750mbarの範囲である、請求項47から49の何れか一項に記載の方法。
【請求項51】
プラズマ形成ガスが、アルゴン、ヘリウム、水素、窒素、又はそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1から50の何れか一項に記載の方法。
【請求項52】
プラズマ形成ガスが、40−80l/minの範囲の流量を有するアルゴン及びヘリウムを含む、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
プラズマ形成ガスがアルゴン及びヘリウムを含み、アルゴン/ヘリウム比がプラズマガスに関して0.6−0.8の範囲である、請求項51又は52に記載の方法。
【請求項54】
粉末又は材料がキャリアガスによってプラズマ内部に導入される、請求項1から53の何れか一項に記載の方法。
【請求項55】
異なる粉末又は材料が異なるキャリアガスによってプラズマ内部に導入される、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
キャリアガス流量が粉末又は材料の違いに応じて異なる、請求項54又は55に記載の方法。
【請求項57】
プラズマ内部に導入するよりも前に、インサイチュで材料又は粉末を混合する段階をさらに含む、請求項1から56の何れか一項に記載の方法。
【請求項58】
粉末流をパルス化するために粉末供給ライン内に配置された装置をさらに含む、請求項1から57の何れか一項に記載の方法。
【請求項59】
少なくとも一つの粉末又は材料が導電性であり、基板と対向電極との間にアークが生成される、請求項20から58の何れか一項に記載の方法。
【請求項60】
移行アーク電流が0−200Aの範囲である、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
プラズマ生成電流が900−1300Aの範囲である、請求項1から60の何れか一項に記載の方法。
【請求項62】
粗粉末と微粉末との間の比が1/4−1/2の範囲である、請求項26から61の何れか一項に記載の方法。
【請求項63】
実質的に上述された方法。
【請求項64】
請求項1から63の何れか一項に定義された方法により形成された物の組成。
【請求項65】
実質的に上述された物の組成。
【請求項66】
請求項20から63の何れか一項に定義された方法により改質された基板。
【請求項67】
実質的に上述された基板。
【請求項68】
請求項66又は67に記載の基板を含む医療装置。
【請求項69】
股関節、膝、肩、背骨、足、つま先、踝、又は人工歯根からなる群から選択されるインプラントである、請求項68に記載の医療装置。

【公表番号】特表2012−504702(P2012−504702A)
【公表日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−529485(P2011−529485)
【出願日】平成21年10月5日(2009.10.5)
【国際出願番号】PCT/EP2009/007115
【国際公開番号】WO2010/037562
【国際公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(510059882)スミス・アンド・ネフュー・オルソペディクス・アーゲー (8)
【Fターム(参考)】