説明

プラズマ処理装置、プラズマ処理方法、及びこの方法で処理された被処理体

【課題】配管等に十分な長さを有する環状部材や複雑な内部形状を有する部材の内面だけに成膜処理を行うことのできるプラズマ処理装置、プラズマ処理方法、及びこの方法で処理された被処理体を提供することを課題とする。
【解決手段】
電磁波を発生する電磁波発生源と、前記電磁波をプラズマ点火領域に誘導する電磁波誘導部と、前記プラズマ点火領域に誘導される電磁波により、内部空間内で電磁波励起プラズマが点火される誘電体製の真空容器と、前記真空容器に真空的に接続される内部空間を有する被処理体と、前記被処理体の内面にシースを形成するための所定電圧を前記被処理体に印加する電圧印加手段とを含み、前記被処理体の内面に形成されるシースによって前記被処理体の内部に誘導される電磁波励起プラズマを用いて前記被処理体の内面を処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理対象である被処理体を真空系の一部に含み、この被処理体の内部にプラズマを誘導することにより、被処理体の内面に成膜処理を行うプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、プラズマを用いて環状部材の内部に成膜等の処理を行う装置が提案されている。例えば、真空容器内に、筒状の被加工材料と棒状のターゲットを同心状に配設した装置において、真空容器の端部でECR(Electron Cyclotron Resonance)共鳴によって点火したプラズマを利用して負バイアスが印加されるターゲットの表面にプラズマシースを形成し、このプラズマシースによって生じるプラズマ粒子でターゲットを飛散(スパッタ)させることにより、被加工材料に成膜を行う処理手法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、ホローカソードによるプラズマを用いて配管の内壁面に成膜を行う処理手法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2004−47207号公報
【特許文献2】米国特許第7,300,684号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、半導体製造装置等の配管等の耐蝕性を向上させるために、内面に耐蝕性の高い皮膜を形成することが提案されている。半導体の製造工程では、反応性の高いガスや人体に有害なガスを利用する場合があるため、内面に耐蝕性の高い皮膜を形成した配管等の需要は今後増大する可能性がある。
【0005】
しかしながら、従来の処理手法では、真空容器内で筒状の被加工材料に成膜を行うため、被加工材料の長さは真空容器の長さの制約を受け、配管等に用いることのできるような十分な長さを有する筒状部材の成膜は困難であるという課題があった。
【0006】
また、真空容器内に筒状部材を収納して成膜するため、筒状部材の内周面のみでなく、外周面にまで成膜が行われてしまい、配管等に好適な内周面にのみ皮膜処理を行うことは困難であった。
また、ホローカソードによるプラズマを用いた成膜方法は印加電圧が高いために、プラズマの密度が軸方向に大きく非線形に不均一になってしまう課題があった。
【0007】
例えばアノードからの距離が離れたアスペクト比の高い細菅のような被処理体の中央部分のプラズマ密度が低くなってしまうために被処理体全体に渡って均一な処理が困難であった。
【0008】
そこで、本発明は、配管等に十分な長さを有する環状部材や複雑な内部形状を有する部材の内面だけに成膜処理を行うことのできるプラズマ処理装置、プラズマ処理方法、及びこの方法で処理された被処理体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一局面のプラズマ処理装置は、電磁波を発生する電磁波発生源と、前記電磁波をプラズマ点火領域に誘導する電磁波誘導部と、前記プラズマ点火領域に誘導される電磁波により、内部空間内でプラズマが点火される誘電体製の真空容器と、前記真空容器に接続され、内部空間が真空雰囲気に維持される被処理体と、前記被処理体の内部空間に処理ガスを供給するガス供給手段と、前記被処理体の内部空間を排気する排気手段と、前記被処理体に接続され、前記被処理体に所定電圧を印加する電圧印加手段とを含み、前記所定電圧が印加される前記被処理体の内部空間に誘導される電磁波励起プラズマにより前記被処理体の内壁面を処理する。
【0010】
また、電圧印加手段は、前記被処理体の外部に接続されてもよい。
【0011】
また、前記電圧印加手段によって印加させる前記所定電圧によって前記被処理体の内部空間にはシースが形成され、前記シースによって前記被処理体の内部空間に誘導される電磁波励起プラズマを用いて前記被処理体の内壁面を処理してもよい。
【0012】
また、前記真空容器は誘電体製の真空管であり、当該真空管の長手方向の一部における外周部には導電管が配設されており、前記電磁波誘導部は、前記導電管の外周に離間して配設され、前記導電管との間の空間を通じて前記電磁波を前記プラズマ点火領域に誘導するように構成されており、前記真空管内には、前記導電管と前記電磁波誘導部との間に発生する電界が印加されてもよい。
【0013】
また、前記電磁波発生源から前記電磁波誘導部に電磁波を誘導する導波管をさらに含み、前記真空管は、前記導波管の内部から外部に向けて前記電磁波の到来方向に直交する方向に延伸し、前記導波管内で前記導電管に覆われており、前記電磁波誘導部は、前記導波管の側壁部から前記真空管の延伸方向に突出する突出部を有しており、前記真空管は、前記突出部内において前記導電管に覆われていない非被覆部を有し、前記非被覆部において、前記導電管と前記電磁波誘導部との間に発生する電界が内部空間に印加されてもよい。
【0014】
また、前記電磁波発生源から前記電磁波誘導部に電磁波を誘導する導波管をさらに含み、前記真空管は、前記導波管の内部を前記電磁波の到来方向に直交する方向に貫通し、前記導波管内で前記導電管に覆われており、前記プラズマ誘導手段は、前記導波管の側壁部から前記真空管の貫通方向に突出する突出部を有しており、前記真空管は、前記突出部内において前記導電管に覆われていない非被覆部を有し、前記非被覆部において、前記導電管と前記電磁波誘導部との間に発生する電界が内部空間に印加されてもよい。
【0015】
また、前記電圧印加手段は、前記所定電圧として前記被処理体にパルス電圧を印加してもよい。
【0016】
また、前記電圧印加手段と前記電磁波発生源とに接続される同期回路をさらに含み、前記電圧印加手段から前記被処理体に印加される前記パルス電圧の周波数と、前記電磁波発生源で発生される電磁波の周波数は同一であり、かつ、前記同期回路によって同期が取られてもよい。
【0017】
また、前記被処理体は、ステンレス鋼製であってもよい。
【0018】
また、前記被処理体は、大気雰囲気中に配設されてもよい。
【0019】
また、前記被処理体は、湾曲部を有していてもよい。
【0020】
また、前記電磁波励起プラズマの密度は、1.0x1011cm−3以上であってもよい。
【0021】
また、前記電磁波の周波数は、50MHz〜50GHzであってもよい。
【0022】
また、前記電磁波の周波数は2.45GHzであり、前記電磁波によって励起される電磁波励起プラズマの密度は1.0x1011cm−3以上であってもよい。
【0023】
また、前記真空容器は、セラミックス又は石英で構成されてもよい。
【0024】
また、前記処理ガスは、炭素基を含んでもよい。
【0025】
また、前記処理ガスは、テトラメチルシランを含んでもよい。
【0026】
本発明の一局面のプラズマ処理方法は、電磁波を真空容器内のプラズマ点火領域に誘導し、プラズマを点火する第1工程と、前記真空容器に接続された被処理体の内部空間に前記プラズマにより表面波を誘導する第2工程と、前記被処理体に処理ガスを供給する第3工程と、前記被処理体を排気する第4工程と、前記被処理体に所定電圧を前記被処理体に印加する第5工程と、前記所定電圧が印加された前記被処理体に誘導される電磁波励起プラズマにより前記被処理体の内壁面を処理する第6工程とを含む。
【0027】
また、前記電圧印加手段によって印加させる所定電圧により前記被処理体の内部空間にはシースが形成され、前記シースによって前記被処理体の内部空間に誘導される電磁波励起プラズマを用いて前記被処理体の内壁面を処理してもよい。
【0028】
本発明の一局面の被処理体は、電磁波を真空容器内のプラズマ点火領域に誘導し、プラズマを点火する第1工程と、前記真空容器に接続された被処理体の内部空間に前記プラズマにより表面波を誘導する第2工程と、前記被処理体に処理ガスを供給する第3工程と、前記被処理体を排気する第4工程と、前記被処理体に所定電圧を前記被処理体に印加する第5工程と、前記所定電圧が印加された前記被処理体に誘導される電磁波励起プラズマにより前記被処理体の内壁面を処理する第6工程とを含む。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、配管等に十分な長さを有する環状部材や複雑な内部形状を有する部材の内面だけに成膜処理を行うことのできるプラズマ処理装置を提供できるという特有の効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明のプラズマ処理装置、プラズマ処理方法、及びこの方法で処理された被処理体を適用した実施の形態について説明する。
【0031】
本実施の形態では、プラズマ点火領域とは、電磁波が減圧された内部空間を持つ誘電体を取り囲む導電体の狭いギャップに導かれるとき、その導電体のギャップ間で発生する高周波電場が誘電体を透過して減圧側に進入した前記ギャップの中点付近の領域をいう。
【0032】
また、電磁波励起プラズマとは、電磁波からエネルギーを得て電離状態を維持するプラズマをいう。
【0033】
また、表面波励起プラズマとは、プラズマと誘電体の界面に沿って伝わる表面波モードの電磁波からエネルギーを得て電離状態を維持するプラズマであって、投入電磁波の周波数とプラズマが接する誘電体の誘電率によって決定される、表面波の伝播可能な最低電子密度以上の電子密度を有するプラズマをいう。
【0034】
また、シースとは、バルク中で電子密度とイオン密度が平衡した準中性のプラズマが固体壁と接する際に、正イオンを壁に引き込むような電場を形成するために壁近傍に電子密度がイオン密度に比べ少なくなるような正チャージ(=低電子密度)領域が形成される領域をいう。
【0035】
[実施の形態1]
図1は、実施の形態1のプラズマ処理装置の構成を示す図である。
【0036】
実施の形態1のプラズマ処理装置10は、導波管11、導波管11に接続される電磁波発生装置12、導波管11の側壁部から突出し、導波管11内を伝搬する電磁波を図中右方向に誘導する誘導部13、導波管11を幅方向に貫通する石英管14、導波管11内で石英管14を覆う導電管15A、石英管14の内部に挿入される導電管15B、継手16を介して石英管14に接続される金属管17、金属管17にパルス電圧を印加するパルス電圧源18、及び電磁波の外部への漏洩を防ぐための金属メッシュ19を含む。
【0037】
導波管11は、方形断面を有する金属製の中空導波管であり、電磁波発生装置12から供給される2.45(GHz)の電磁波を伝搬するように構成される。
【0038】
この導波管11の内壁には、コーン型の反射板11Aが形成されるとともに、終端にはプランジャ11Bが配設されている。
【0039】
この反射板11Aは、電磁波発生装置12から供給され、導波管11内を伝搬する電磁波を伝搬方向(到来方向)と直交する方向に反射するためのコーン型の反射板である。この反射板11Aは、コーン形状の頂部を石英管14及び導電管15Aが貫通し、コーン形状、石英管14、導電管15A、及び誘導部13のすべての中心軸が一致するように配設されている。なお、反射板11Aの外周面(反射面)と、導波管11の側壁11Cとのなす角αは45度に設定される。
【0040】
このような反射板11Aを有する導波管11において、導波管11の内部を図中下方向から上方向に伝搬する電磁波は、その一部が反射板11Aによって反射されて図中右方向に誘導される。すなわち、導波管11内を伝搬する方向(到来方向)に対して直交する方向に誘導される。
【0041】
また、導波管11の内部のプランジャ11Bで反射され、図中上方向から下方向に伝搬される電磁波は、反射板11Aによって反射されて図中右方向に誘導される。
【0042】
以上のようにして、導波管11内を伝搬する電磁波は、反射板11Aによって図中右方向に反射され、誘導部13内を誘導される。
【0043】
電磁波発生装置12は、2.45(GHz)の電磁波を発生する装置であり、後述するダイアモンド薄膜を金属管17の内面に成膜するために十分な密度のプラズマを発生させることが要求されるため、このプラズマを発生させるための電界を印加できる出力を有することが必要とされる。ここでは、例えば、1.3(kW)の電磁波を出力するように構成される。
【0044】
誘導部13は、導波管11の側壁11Dから突出し、導波管11内を伝搬する電磁波を図中右方向に誘導する金属性の中空導波管である。この誘導部13の内面13aは管状に形成されており、内面13aの開口断面は円形である。すなわち、誘導部13の開口断面積は、電磁波の誘導方向における上流側と下流側で同一に設定されている。
【0045】
また、誘導部13の先端には孔部13Aが開口されており、この孔部13Aを通じて石英管14が外部に延伸している。
【0046】
なお、反射板11Aと誘導部13は、導波管11内を伝搬する電磁波を伝搬方向(到来方向)と直交する方向に誘導する電磁波誘導部として機能する。
【0047】
石英管14は、内部が真空雰囲気に維持される管状の真空容器であり、コーン型の反射板11Aの頂部と誘導部13の孔部13Aを貫くように導波管11を幅方向に貫通している。この石英管14の右端は孔部13Aを通じて継手16に接続されており、左端はガス混合器20に接続されている。
【0048】
また、この石英管14の外周は、導波管11と誘導部13の内部では、誘導部13の孔部13Aの近傍を除き、導電管15Aに覆われている。孔部13Aの近傍は導電管15Aに覆われておらず、非被覆部となっている。なお、石英管14の比誘電率は約3.7である。
【0049】
導電管15Aは、石英管14の外周を覆う導電性のある管状部材であり、例えば、銅(Cu)で構成される。この導電管15Aは、上述のように、導波管11と誘導部13の内部において、孔部13Aの近傍を除く石英管14の外周を被覆する。
【0050】
導電管15Bは、石英管14の内周面を覆う導電性のある管状部材であり、例えば、銅(Cu)で構成される。この導電管15Bは、長手方向の長さが導電管15Aよりも短く設定されており、導波管11内において石英管14の内周面を覆うとともに、誘導部13内における端部が、石英管14の非被覆部よりも導波管11の側壁11D側に位置するように(すなわち、誘導部13内における端部が導電管15Aの端部よりも導波管11の側壁11D側に位置するように)配設されている。
【0051】
なお、反射板11Aのコーン形状の中心軸、誘導部13の開口内断面(円形)の中心軸、石英管14の中心軸、及び導電管15Aの中心軸は、すべて一致するように配設されている。
【0052】
継手16は、石英管14と金属管17を真空接続するための金属製の継手である。
【0053】
金属管17は、内面にダイアモンド薄膜が成膜される被処理体であり、例えば、ステンレス鋼製であり、日本工業規格で規定されている長さ100mm、外径6.35mm、内径4.35mm等の管状部材である。
【0054】
この金属管17の左端は継手16によって石英管14に接続され、右端にはロータリポンプ21が接続される。ロータリポンプ21によって真空引きが行われることにより、金属管17と石英管14の内部空間は、圧力が1.0(Pa)程度の真空雰囲気に維持される。すなわち、金属管17自体が真空空間を生成するためのチャンバとなる。
【0055】
また、金属管17には、パルス電圧源18が接続されており、パルス状の負電圧が印加されることにより、内面にはシースが形成される。この金属管17の内壁近傍に生成されるシースの比誘電率は約1.0である。
【0056】
パルス電圧源18は、金属管17の表面にシースを形成するために、パルス状の負電圧を印加するための電源であり、金属管17との間にはスイッチ18Aが配設されている。このパルス電圧源18は、金属管17の外部(外周面)に接続されており、金属管17の外周面から(矩形波状の)パルス状の負電圧を印加する。ここでは、例えば、デューティーレシオ3%で200Hzのパルス状の−200Vの負電圧を印加する。
【0057】
金属メッシュ19は、銅製のメッシュであり、誘導部13と継手16との間で石英管14の非被覆部を覆うように配設される。この金属メッシュ19により、誘導部13の孔部13Aから放出される電磁波を吸収し、外部への漏洩を防いでいる。
【0058】
ガス混合器20は、真空引きされる石英管14及び導電管15Aの内部空間に供給するガスを混合するためのミキサである。このガス混合器20には、処理ガスとしてメタン(CH)、水素(H)、アルゴン(Ar)、及びテトラメチルシラン(TMS)が導入される。
【0059】
ロータリポンプ21は、石英管14と金属管17の内部空間を真空引きするための真空ポンプである。例えば、到達真空度が1.0(Pa)程度のものを用いればよい。
【0060】
このロータリポンプ21を通じて排気されるガスは、防爆ファンを通じて大気に排出される。
【0061】
また、電磁波発生装置12とパルス電圧源18には、パルス同期回路22が接続されており、電磁波発生装置12とパルス電圧源18から発振されるパルス電圧の同期を取るように構成されている。
【0062】
図2は、実施の形態1のプラズマ処理装置におけるプラズマ点火の原理を説明するための部分拡大図である。また、石英管14及び金属管17の内部には、図中左から右の方向に処理ガス(CH、H、Ar、TMS)が通流していることとする。
【0063】
なお、図2に示す状態は、パルス電源18のスイッチ18Aは開放されており、金属管17にはパルス電圧は印加されていない。
【0064】
導波管11の反射板11Aによって反射された電磁波100は、誘導部13の内面13aと導電管15Aの外周面との間を孔部13Aの方向に誘導され、石英管14の非被覆部に到達する。この非被覆部では、誘電部13と導電管15Aのギャップにおいて電磁波による電界が発生し、この電界は石英管14の内部に印加される。
【0065】
石英管14の内部に電圧が印加されると、石英管14の内面に表面波(電磁波)200が生成されるとともに、内部空間にプラズマ300が点火される。このプラズマ300はCHガスが励起されることによって発生し、プラズマ粒子として、炭素、水素、アルゴン、シリコンの原子、イオンおよびそれらの組み合わせた分子、ラジカルが含まれる表面波プラズマである。
【0066】
ここで、石英管14の内部には導電管15Bが配設されているので、表面波200は導電管15Bが配設されている領域には伝搬されず、プラズマ300は図2に示す非被覆部を中心とする領域で点火される。
【0067】
なお、このように、石英管14の内部でプラズマ300が点火される領域をプラズマ点火領域と称す。
【0068】
図3は、実施の形態1のプラズマ処理装置におけるプラズマ誘導の原理を説明するための部分拡大図であり、(a)はスイッチ18Aを閉成する直前の状態、(b)はスイッチ18Aを閉成した直後の状態を示す図である。
【0069】
図3(a)に示すように、スイッチ18Aを閉成した直後には、金属管17の内表面にシース400が生成され、表面波200は金属管17の内部に生成されるシース400に沿って金属管17の内部に伝搬される。また、この表面波200が金属管17の内部に伝播されると、金属管17内の処理ガスが励起され、これにより表面波励起プラズマが生成される。また同時にこの表面波励起プラズマと金属管17の内壁との間にシースが生成されこれらの界面に沿って表面波が更に伝播する。
【0070】
このようにして金属管17に所定電圧を印加する前に発火点で生成した表面波励起プラズマは、電磁波の伝播を伴って金属管17の一端に達する。
【0071】
図3(b)に示すように、スイッチ18Aを閉成して所定電圧を印加すると、金属管17の内部空間のシースは更に内壁面からの厚みを増して金属管17内壁面に沿って他端まで広がる。
【0072】
表面波200はこの所定電圧を印加されたことによって金属管17内壁面に広がったシースと同じく金属管17の内部に進入してきた表面波励起プラズマ300の界面にそって金属管17の他端まで伝播していく。
【0073】
また同時に金属管17の他端まで伝播した表面波200によって処理ガスが励起されまた表面波励起プラズマが金属管17の内部空間でその密度を増加させていく。
【0074】
特に、パルス同期回路22により、電磁波発生装置12とパルス電圧源18から供給されるパルスの同期が取られているので、表面波200とシース400の同期が取られるため、プラズマ300が金属管17の奥(図中右側)まで誘導されやすくなる。
【0075】
このように、実施の形態1のプラズマ処理装置によれば、被処理体である金属管17自体を真空チャンバとして用い、負バイアスを印加することにより、内部表面にシース400を発生させ、このシース400によって表面波200及びプラズマ300が内部空間に誘導されるので、細長い配管状の金属管17の内面だけにダイアモンド薄膜を成膜することができる。
【0076】
このように、内周面だけにダイアモンド薄膜が成膜された細長い配管状の金属管17は、耐蝕性が非常に高いため、例えば、半導体製造装置において、反応性の高いガスや人体に有害なガスを供給するための配管として好適である。
【0077】
以上では、導波管11の内部にコーン型の反射板11Aを備える形態について説明したが、反射板11Aを備えなくても電磁波は誘導部13内に誘導されるため、必ずしも反射板11Aを備えなくてもよい。
【0078】
また、以上では、石英管14の内側に導電管15Bを備える形態について説明したが、導電管15Bを備えない構成においても、金属管17の内面にプラズマ300を誘導してダイアモンド薄膜を成膜することができる。
【0079】
また、以上では、金属管17がステンレス鋼製である形態について説明したが、金属管17の材質はステンレスに限られず、その他のあらゆる金属材料で構成することができる。
【0080】
また、以上では、金属管17が直線上の管状部材である形態について説明したが、金属管17は、図4に示すように、折れ曲がっていてもよい。折れ曲がり方(角度、方向)はどのようでもよく、また、折れ曲がり部の数は幾つあってもよい。すなわち、金属管17は、湾曲部を幾つ有していてもよく、湾曲部の数は幾つあってもよい。
【0081】
また、以上では、金属管17に(矩形波状の)パルス状の負電圧を印加するパルス電圧源18を用いる形態について説明したが、このようなパルス状の負電圧の代わりに、正弦波状、三角波状、又は鋸波状の高周波電圧を印加してもよい。また、その周波数は、10Hz〜1MHz程度であってもよい。
【0082】
また、パルス電圧源18の代わりに直流の負電圧を印加する電源を用いてもよい。
【0083】
また、パルス同期回路22を必ずしも含む必要はなく、電磁波発生装置12とパルス電圧源18から発振されるパルス電圧の同期が取られていなくてもよい。
【0084】
また、以上では、二つの端だけを持つ直管について処理ガスを供給する構成について説明したが、被処理体が三つ以上の端を持つ多岐管の場合、処理ガスは石英管14と金属管17の間(継手16が配設される位置)から供給してもよいし、また複数の分岐端の内いずれを排気端、処理ガス供給端、または閉端として選択してもよい。
【0085】
[実施の形態2]
図5は、実施の形態2のプラズマ処理装置の要部を示す図である。実施の形態2のプラズマ処理装置は、実施の形態1における導波管11及び誘導部13の代わりに、導波管50、同軸ケーブル60、及び高周波電源70を含み、この同軸ケーブル60に高周波電源70から高周波電力が供給されることによって導波管50内に電磁波が供給される点が実施の形態1のプラズマ処理装置10と異なる。なお、この電磁波の周波数は、実施の形態1の電磁波に比べて1桁以上低く設定されている。
【0086】
導波管50は、内部が方形断面形状を有する箱状の導波管であり、アルミニウム等の導電体で構成される。石英管14、導電管15A、及び導電管15Bは、導波管50を貫通しており、また、側壁部50aの貫通孔50bに同軸ケーブル60が挿入されており、高周波電力が供給される芯線60Aの先端は、導電管15Aの外周に離間するように配設されている。同軸ケーブル60のシールド線は接地されている。
【0087】
なお、導波管50の孔部50Aは、実施の形態1における誘導部13の孔部13Aに相当する物であり、石英管14、導電管15A、及び導電管15Bと孔部50Aの位置関係は、実施の形態1における石英管14、導電管15A、及び導電管15Bと孔部13Aと同一に設定される。
【0088】
このような構成のプラズマ処理装置において、高周波電源70から同軸ケーブル60に高周波電力が供給されると、同派館内に電磁波100が発生し、石英管14の周囲に電磁波が発生し、ガラス管100の内面に表面波200が生成され、プラズマ300が点火される。
【0089】
プラズマが点火された状態で、スイッチ18Aを閉成すれば、金属管17にシース400が形成され、プラズマ300を金属管17の内部に誘導することができる。これは、シース400によって金属管17の内部に伝搬される表面波200により、金属管17の内部で処理ガスが励起されて電磁波励起プラズマが生成されるためである。
【0090】
これにより、実施の形態1と同様に、金属管17の内面にダイアモンド薄膜を形成することができる。
【0091】
このように、実施の形態2のように石英管14に同軸ケーブル60を巻回し、この同軸ケーブル60に電磁波発生装置12から電磁波を供給するプラズマの点火方法によっても、実施の形態1と同様に、金属管17の内面にダイアモンド薄膜を形成することができる。
【0092】
[実施の形態3]
図6は、実施の形態3のプラズマ処理装置の要部を示す図である。実施の形態3のプラズマ処理装置は、実施の形態1における金属管17の代わりに、チャンバ40を石英管14に接続した点が実施の形態1のプラズマ処理装置10と異なる。なお、説明の便宜上、図6には、石英管14の先端のみを示すが、石英管14には導波管11及び誘導部13を通じて電磁波が供給される。
【0093】
チャンバ40は、内部が入り組んだ複雑な形状をしており、上部は蓋41によって密封される。この蓋41には3つの孔部が開口されており、石英管14、ガス導入管42、及び排気管43が密封された状態で貫通されている。
【0094】
また、チャンバ40には、スイッチ18Aを介してパルス電圧源18が接続されており、内外面にシース400を生成することができる。
【0095】
このため、パルス電圧源18からパルス電圧を印加してシース400が生成されると、石英管14から表面波200がチャンバ40の内面に行き渡り、チャンバ40の内部で処理ガスが励起されて電磁波励起プラズマが生成されるので、複雑な内部形状を有するチャンバ40の内面にダイアモンド薄膜を形成することができる。
【0096】
なお、石英管14の先端とチャンバ40の内面との間の距離D1は、表面波200及びプラズマ300が誘導可能な距離に設定される必要がある。
【0097】
以上、実施の形態3のプラズマ処理装置によれば、内部形状の複雑なチャンバ40の内面にダイアモンド薄膜を形成することができる。このようなチャンバ40を半導体製造装置のチャンバに用いれば、プラズマ等の半導体ウェーファの処理のために用いる物理的、化学的被爆からチャンバ表面を保護し、チャンバ表面への堆積物の低減、チャンバ表面からの異物の剥離が押さえられる、チャンバそのものの洗浄サイクルが長くなる、チャンバの寿命を長くすることが可能となる。
【0098】
なお、チャンバ40の内部形状は、どのような形状であってもよい。チャンバ40は、湾曲部を幾つ有していてもよく、湾曲部の数は幾つあってもよい。例えば、自動車用の内燃機関のシリンダであってもよく、内壁面にダイアモンド薄膜を形成した内燃機関のシリンダを作製してもよい。
【0099】
図7は、実施の形態3の変形例のプラズマ処理装置の要部を示す図である。このプラズマ処理装置は、石英管14がチャンバ40の内部の底面近傍にまで石英管14が延伸している点が図6に示す処理装置床となる。その他の構成は、図6に示すプラズマ処理装置と同一である。
【0100】
このプラズマ処理装置では、石英管14の先端とチャンバ40の内部の底面との間の距離D2が、表面波200及びプラズマ300が誘導可能な距離に設定される必要がある。
【0101】
このような実施の形態3の変形例のプラズマ処理装置において、パルス電圧源18からパルス電圧を印加してシース400が生成されると、石英管14から表面波200がチャンバ40の内面に行き渡り、チャンバ40の内部で処理ガスが励起されて電磁波励起プラズマが生成されるので、複雑な内部形状を有するチャンバ40の内面にダイアモンド薄膜を形成することができる。
【0102】
以上、本発明の例示的な実施の形態のプラズマ処理装置について説明したが、本発明は、具体的に開示された実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】実施の形態1のプラズマ処理装置の構成を示す図である。
【図2】実施の形態1のプラズマ処理装置におけるプラズマ点火の原理を説明するための部分拡大図である。
【図3】実施の形態1のプラズマ処理装置におけるプラズマ誘導の原理を説明するための部分拡大図であり、(a)はスイッチ18Aを閉成する直前の状態、(b)はスイッチ18Aを閉成した直後の状態を示す図である。
【図4】実施の形態1のプラズマ処理装置の要部の変形例の構成を示す図である。
【図5】実施の形態2のプラズマ処理装置の要部を示す図である。
【図6】実施の形態3のプラズマ処理装置の要部を示す図である。
【図7】実施の形態3の変形例のプラズマ処理装置の要部を示す図である。
【符号の説明】
【0104】
10 プラズマ処理装置
11 導波管
11A 反射板
11B プランジャ
11C 側壁
11D 側壁
12 電磁波発生装置
13 誘導部
13a 内面
13A 孔部
14 石英管
15A 導電管
16 継手
17 金属管
18 パルス電圧源
18A スイッチ
19 金属メッシュ
20 ガス混合器
21 ロータリポンプ
22 パルス同期回路
30 同軸ケーブル
40 チャンバ
41 蓋
42 ガス導入管
43 排気管
100 電磁波
200 表面波
300 プラズマ
400 シース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波を発生する電磁波発生源と、
前記電磁波をプラズマ点火領域に誘導する電磁波誘導部と、
前記プラズマ点火領域に誘導される電磁波により、内部空間内でプラズマが点火される誘電体製の真空容器と、
前記真空容器に接続され、内部空間が真空雰囲気に維持される被処理体と、
前記被処理体の内部空間に処理ガスを供給するガス供給手段と、
前記被処理体の内部空間を排気する排気手段と、
前記被処理体に接続され、前記被処理体に所定電圧を印加する電圧印加手段と
を含み、前記所定電圧が印加される前記被処理体の内部空間に誘導される電磁波励起プラズマにより前記被処理体の内壁面を処理する、プラズマ処理装置。
【請求項2】
電圧印加手段は、前記被処理体の外部に接続される、請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記電圧印加手段によって印加させる前記所定電圧によって前記被処理体の内部空間にはシースが形成され、前記シースによって前記被処理体の内部空間に誘導される電磁波励起プラズマを用いて前記被処理体の内壁面を処理する、請求項1又は2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記真空容器は誘電体製の真空管であり、当該真空管の長手方向の一部における外周部には導電管が配設されており、
前記電磁波誘導部は、前記導電管の外周に離間して配設され、前記導電管との間の空間を通じて前記電磁波を前記プラズマ点火領域に誘導するように構成されており、
前記真空管内には、前記導電管と前記電磁波誘導部との間に発生する電界が印加される、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記電磁波発生源から前記電磁波誘導部に電磁波を誘導する導波管をさらに含み、
前記真空管は、前記導波管の内部から外部に向けて前記電磁波の到来方向に直交する方向に延伸し、前記導波管内で前記導電管に覆われており、
前記電磁波誘導部は、前記導波管の側壁部から前記真空管の延伸方向に突出する突出部を有しており、
前記真空管は、前記突出部内において前記導電管に覆われていない非被覆部を有し、前記非被覆部において、前記導電管と前記電磁波誘導部との間に発生する電界が内部空間に印加される、請求項4に記載のプラズマ処理装置。
【請求項6】
前記電磁波発生源から前記電磁波誘導部に電磁波を誘導する導波管をさらに含み、
前記真空管は、前記導波管の内部を前記電磁波の到来方向に直交する方向に貫通し、前記導波管内で前記導電管に覆われており、
前記プラズマ誘導手段は、前記導波管の側壁部から前記真空管の貫通方向に突出する突出部を有しており、
前記真空管は、前記突出部内において前記導電管に覆われていない非被覆部を有し、前記非被覆部において、前記導電管と前記電磁波誘導部との間に発生する電界が内部空間に印加される、請求項4に記載のプラズマ処理装置。
【請求項7】
前記電圧印加手段は、前記所定電圧として前記被処理体にパルス電圧を印加する、請求項1乃至6のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項8】
前記電圧印加手段と前記電磁波発生源とに接続される同期回路をさらに含み、
前記電圧印加手段から前記被処理体に印加される前記パルス電圧の周波数と、前記電磁波発生源で発生される電磁波の周波数は同一であり、かつ、前記同期回路によって同期が取られる、請求項7に記載のプラズマ処理装置。
【請求項9】
前記被処理体は、ステンレス鋼製である、請求項1乃至8のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項10】
前記被処理体は、大気雰囲気中に配設される、請求項1乃至9のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項11】
前記被処理体は、湾曲部を有する、請求項1乃至10のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項12】
前記電磁波励起プラズマの密度は、1.0x1011cm−3以上である、請求項1乃至11のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項13】
前記電磁波の周波数は、50MHz〜50GHzである、請求項1乃至12のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項14】
前記電磁波の周波数は2.45GHzであり、前記電磁波によって励起される電磁波励起プラズマの密度は1.0x1011cm−3以上である、請求項1乃至11のいずれかの一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項15】
真空容器は、セラミックス又は石英で構成される、請求項1乃至14のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項16】
前記処理ガスは、炭素基を含む、請求項1乃至15のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項17】
前記処理ガスは、テトラメチルシランを含む、請求項1乃至16のいずれかの一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項18】
電磁波を真空容器内のプラズマ点火領域に誘導し、プラズマを点火する第1工程と、
前記真空容器に接続された被処理体の内部空間に前記プラズマにより表面波を誘導する第2工程と、
前記被処理体に処理ガスを供給する第3工程と、
前記被処理体を排気する第4工程と、
前記被処理体に所定電圧を前記被処理体に印加する第5工程と、
前記所定電圧が印加された前記被処理体に誘導される電磁波励起プラズマにより前記被処理体の内壁面を処理する第6工程と
を含む、プラズマ処理方法。
【請求項19】
前記電圧印加手段によって印加させる所定電圧により前記被処理体の内部空間にはシースが形成され、前記シースによって前記被処理体の内部空間に誘導される電磁波励起プラズマを用いて前記被処理体の内壁面を処理する、請求項17に記載のプラズマ処理方法。
【請求項20】
電磁波を真空容器内のプラズマ点火領域に誘導し、プラズマを点火する第1工程と、
前記真空容器に接続された被処理体の内部空間に前記プラズマにより表面波を誘導する第2工程と、
前記被処理体に処理ガスを供給する第3工程と、
前記被処理体を排気する第4工程と、
前記被処理体に所定電圧を前記被処理体に印加する第5工程と、
前記所定電圧が印加された前記被処理体に誘導される電磁波励起プラズマにより前記被処理体の内壁面を処理する第6工程と
を含むプラズマ処理方法により処理された被処理体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−235469(P2009−235469A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−81840(P2008−81840)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】