説明

プラズマ処理装置

【課題】付着物の発生を抑制可能なプラズマ処理装置を提供する。
【解決手段】一実施形態のプラズマ処理装置は、処理容器、ガス供給部、導入部、保持部材、及びフォーカスリングを備えている。処理容器により画成される処理空間において、導入部から導入されたエネルギーにより、ガス供給部から供給された処理ガスのプラズマが発生される。この処理空間に、被処理基体を保持するための保持部材と該保持部材の端面を囲むように設けられたフォーカスリングとが配置されている。保持部材の端面とフォーカスリングとの間には、350μm以下の間隙が画成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、一種のプラズマ処理装置が記載されている。特許文献1に記載されたプラズマ処理装置は、処理容器、第1及び第2の電極、高周波給電部、処理ガス供給部、主誘電体、フォーカスリング、及び周辺誘導体を備えている。
【0003】
第1の電極の主面には、主誘電体を含む静電チャック、及びフォーカスリングが取り付けられている。フォーカスリングは、第1の電極の主面上において静電チャックが配置された領域よりも外側に位置する周辺部を覆うように、第1の電極に取り付けられている。第1の電極は、プラズマの密度の面内均一性を確保するために、被処理基体よりも一回り大きな外径を有している。フォーカスリングは、第1の電極の周辺部を覆うように設けられることにより、第1の電極の表面をプラズマから保護している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008―244274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されたプラズマ処理装置では、被処理基体の処理後に、静電チャックの外縁部等に付着物が発生することがある。
【0006】
したがって、当技術分野では、付着物の発生を抑制可能なプラズマ処理装置が要請されている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面に係るプラズマ処理装置は、処理空間を画成する処理容器と、処理空間に処理ガスを供給するガス供給部と、処理ガスのプラズマを発生させるためのエネルギーを導入する導入部と、被処理基体を保持するための保持部材であり、誘電体材料製の表面を有し、処理空間内に設けられた該保持部材と、保持部材の端面を囲むように設けられたフォーカスリングであり、保持部材の端面と該フォーカスリングとの間に350μm以下の間隙を画成するように設けられた、該フォーカスリングと、を備える。
【0008】
プラズマ処理装置が稼動しているとき、保持部材及びフォーカスリングは所定の温度に加熱される。保持部材及びフォーカスリングが加熱されると、これらを構成するそれぞれの材料が有する熱膨張率に基づいて、保持部材及びフォーカスリングは変形する。この変形により保持部材の端面がフォーカスリングと接触することを防止するために、通常、保持部材の端面とフォーカスリングとの間に比較的大きな間隙が設定される。このようなプラズマ処理装置では、クリーニングの際など保持部材の端面とフォーカスリングとの間の間隙に侵入したプラズマにより微粒子が発生し、該微粒子が保持部材の外縁部等に付着する場合がある。
【0009】
一側面に係るプラズマ処理装置では、保持部材の端面とフォーカスリングの内縁との間の距離、即ち間隙の大きさが350μm以下に設定されているので、間隙へのプラズマの侵入が抑制され、その結果、微粒子の発生が抑制される。したがって、保持部材の外縁部等に付着する付着物の発生を抑制することができる。
【0010】
一実施形態においては、フォーカスリングは、該フォーカスリングの内縁を含む第1領域と、第1領域より外側の第2領域とを含み、第1領域は、保持部材の上面の延長面に沿って、又は、該延長面より下方に設けられており、第2領域は、保持部材の上面より上方に設けられていてもよい。このようなフォーカスリングによれば、保持部材により被処理基体を保持したとき、保持部材の端面とフォーカスリングの間の間隙は被処理基体により覆われる。したがって、保持部材の端面とフォーカスリングの間の間隙へのプラズマの侵入を抑制することができる。故に、微粒子の発生を更に抑制することができる。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明によれば、付着物の発生を抑制可能なプラズマ処理装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】一実施形態に係るプラズマ処理装置を概略的に示す断面図である。
【図2】一実施形態に係るスロット板を軸線X方向から見た平面図である。
【図3】一実施形態に係る静電チャック及びフォーカスリングを軸線X方向から見た平面図である。
【図4】一実施形態に係る静電チャック及びフォーカスリングの一部を拡大して示す断面図である。
【図5】付着物が発生する要因を説明するための図である。
【図6】比較例に係る静電チャック及びフォーカスリングの写真である。
【図7】一実施形態に係る静電チャック及びフォーカスリングの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して種々の実施形態について詳細に説明する。なお、各図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を附すこととする。
【0014】
図1は、一実施形態に係るプラズマ処理装置を概略的に示す図である。図1に示すプラズマ処理装置10は、処理容器12、ステージ14、マイクロ波発生器16、アンテナ18、及び誘電体窓20を備えている。プラズマ処理装置10は、アンテナ18からのマイクロ波によりプラズマを発生させるマイクロ波プラズマ処理装置である。なお、プラズマ処理装置はマイクロ波プラズマ処理装置とは別の任意のプラズマ処理装置であってもよい。
【0015】
処理容器12は、被処理基体Wにプラズマ処理を行うための処理空間Sを画成している。処理容器12は、側壁12a、及び、底部12bを含み得る。側壁12aは、軸線X方向(即ち、軸線Xの延在方向)に延在する略筒形状を有している。底部12bは、側壁12aの下端側に設けられている。底部12bには、排気用の排気孔12hが設けられている。側壁12aの上端部は開口している。
【0016】
側壁12aの上端部開口は、誘電体窓20によって閉じられている。この誘電体窓20と側壁12aの上端部との間にはOリング21が介在していてもよい。このOリング21により、処理容器12の密閉がより確実なものとなる。
【0017】
マイクロ波発生器16は、例えば、2.45GHzのマイクロ波を発生する。一実施形態においては、プラズマ処理装置10は、チューナ22、導波管24、モード変換器26、及び同軸導波管28を更に備えている。なお、マイクロ波発生器16、チューナ22、導波管24、モード変換器26、同軸導波管28、アンテナ18、及び誘電体窓20は、プラズマを発生させるためのエネルギーを処理空間Sに導入する導入部を構成している。
【0018】
マイクロ波発生器16は、チューナ22を介して導波管24に接続されている。導波管24は、例えば、矩形導波管である。導波管24は、モード変換器26に接続されており、当該モード変換器26は、同軸導波管28の上端に接続されている。
【0019】
同軸導波管28は、軸線Xに沿って延びている。この同軸導波管28は、外側導体28a及び内側導体28bを含んでいる。外側導体28aは、軸線X方向に延びる略円筒形状を有している。内側導体28bは、外側導体28aの内部に設けられている。この内側導体28bは、軸線Xに沿って延びる略円筒形状を有している。
【0020】
マイクロ波発生器16によって発生されたマイクロ波は、チューナ22及び導波管24を介してモード変換器26に導波される。モード変換器26は、マイクロ波のモードを変換して、モード変換後のマイクロ波を同軸導波管28に供給する。同軸導波管28からのマイクロ波は、アンテナ18に供給される。
【0021】
アンテナ18は、マイクロ波発生器16によって発生されるマイクロ波に基づいて、プラズマ励起用のマイクロ波を放射する。アンテナ18は、スロット板30、誘電体板32、及び冷却ジャケット34を含み得る。
【0022】
スロット板30には、軸線Xを中心にして周方向に複数のスロットが配列されている。図2は、一実施形態に係るスロット板30を軸線X方向から見た平面図である。一実施形態においては、図2に示すように、スロット板30は、ラジアルラインスロットアンテナを構成するスロット板であり得る。スロット板30は、導電性を有する金属製の円板から構成される。スロット板30には、複数のスロット対30aが形成されている。各スロット対30aは、互いに交差又は直交する方向に延びるスロット30b及びスロット30cを含んでいる。複数のスロット対30aは、径方向に所定の間隔で配置されており、また、周方向に所定の間隔で配置されている。
【0023】
誘電体板32は、スロット板30と冷却ジャケット34の下側表面の間に設けられている。誘電体板32は、例えば石英製であり、略円板形状を有している。冷却ジャケット34の表面は、導電性を有し得る。冷却ジャケット34は、誘電体板32及びスロット板30を冷却する。そのために、冷却ジャケット34内には、冷媒用の流路が形成されている。この冷却ジャケット34の上部表面には、外側導体28aの下端が電気的に接続されている。また、内側導体28bの下端は、冷却ジャケット34及び誘電体板32の中央部分に形成された孔を通って、スロット板30に電気的に接続されている。
【0024】
同軸導波管28からのマイクロ波は、誘電体板32に伝播され、スロット板30のスロットから誘電体窓20を介して、処理空間S内に導入される。誘電体窓20は、略円板形状を有しており、例えば石英によって構成される。この誘電体窓20は、処理空間Sとアンテナ18との間に設けられており、一実施形態においては、軸線X方向においてアンテナ18の直下に設けられている。
【0025】
一実施形態においては、同軸導波管28の内側導体28bの内孔には、導管36が通っている。導管36は、軸線Xに沿って延在しており、ガス供給部38に接続され得る。
【0026】
ガス供給部38は、導管36に被処理基体Wを処理するための処理ガスを供給する。ガス供給部38によって供給される処理ガスは、炭素を含む。この処理ガスは、一実施形態では、エッチングガスであり、例えば、CFガス、又は、CHガスである。ガス供給部38は、ガス源38a、弁38b、及び流量制御器38cを含み得る。ガス源38aは、処理ガスのガス源である。弁38bは、ガス源38aからの処理ガスの供給及び供給停止を切り替える。流量制御器38cは、例えば、マスフローコントローラであり、ガス源38aからの処理ガスの流量を調整する。
【0027】
一実施形態においては、プラズマ処理装置10は、インジェクタ41を更に備え得る。インジェクタ41は、誘電体窓20に形成された貫通孔20hに導管36からのガスを供給する。誘電体窓20の貫通孔20hに供給されたガスは、処理空間Sに供給される。
【0028】
一実施形態においては、プラズマ処理装置10は、ガス供給部42を更に備え得る。ガス供給部42は、ステージ14と誘電体窓20との間において、軸線Xの周囲からガスを処理空間Sに供給する。ガス供給部42は、導管42aを含み得る。導管42aは、誘電体窓20とステージ14との間において軸線Xを中心に環状に延在している。導管42aには、複数のガス供給孔42bが形成されている。複数のガス供給孔42bは、環状に配列されており、軸線Xに向けて開口しており、導管42aに供給されたガスを軸線Xに向けて供給する。このガス供給部42は、導管46を介して、ガス供給部43に接続されている。
【0029】
ガス供給部43は、被処理基体Wを処理するための処理ガスをガス供給部42に供給する。ガス供給部43から供給される処理ガスは、ガス供給部38の処理ガスと同様に、炭素を含む。この処理ガスは、一実施形態では、エッチングガスであり、例えば、CFガス、又は、CHガスである。ガス供給部43は、ガス源43a、弁43b、及び流量制御器43cを含み得る。ガス源43aは、処理ガスのガス源である。弁43bは、ガス源43aからの処理ガスの供給及び供給停止を切り替える。流量制御器43cは、例えば、マスフローコントローラであり、ガス源43aからの処理ガスの流量を調整する。
【0030】
ステージ14は、軸線X方向において誘電体窓20と対面するように設けられている。このステージ14は、誘電体窓20と当該ステージ14との間に処理空間Sを挟むように設けられている。ステージ14上には、被処理基体Wが載置される。一実施形態においては、ステージ14は、台14a、静電チャック15、及び、フォーカスリング17を含み得る。
【0031】
台14aは、筒状支持部48によって支持されている。筒状支持部48は、絶縁性の材料で構成されており、底部12bから垂直上方に延びている。また、筒状支持部48の外周には、導電性の筒状支持部50が設けられている。筒状支持部50は、筒状支持部48の外周に沿って処理容器12の底部12bから垂直上方に延びている。この筒状支持部50と側壁12aとの間には、環状の排気路51が形成されている。
【0032】
排気路51の上部には、複数の貫通孔が設けられた環状のバッフル板52が取り付けられている。排気孔12hの下部には、排気管54を介して排気装置56が接続されている。排気装置56は、ターボ分子ポンプなどの真空ポンプを有している。排気装置56により、処理容器12内の処理空間Sを所望の真空度まで減圧することができる。
【0033】
台14aは、高周波電極を兼ねている。台14aには、マッチングユニット60及び給電棒62を介して、RFバイアス用の高周波電源58が電気的に接続されている。高周波電源58は、被処理基体Wに引き込むイオンのエネルギーを制御するのに適した一定の周波数、例えば、13.65MHzの高周波電力を所定のパワーで出力する。マッチングユニット60は、高周波電源58側のインピーダンスと、主に電極、プラズマ、処理容器12といった負荷側のインピーダンスとの間で整合をとるための整合器を収容している。この整合器の中に自己バイアス生成用のブロッキングコンデンサが含まれている。
【0034】
台14aの上面には、被処理基体Wを保持するための保持部材である静電チャック15が設けられている。静電チャック15は、被処理基体Wを静電吸着力で保持する。静電チャック15の径方向外側には、被処理基体Wの周囲及び静電チャック15の周囲を環状に囲むフォーカスリング17が設けられている。
【0035】
静電チャック15は、電極15d、絶縁膜15e、及び、絶縁膜15fを含んでいる。電極15dは、導電膜によって構成されており、絶縁膜15eと絶縁膜15fとの間に設けられている。電極15dには、スイッチ66および被覆線68を介して高圧の直流電源64が電気的に接続されている。静電チャック15は、直流電源64から印加される直流電圧により発生するクーロン力によって、被処理基体Wを保持することができる。
【0036】
台14aの内部には、周方向に延びる環状の冷媒室14gが設けられている。この冷媒室14gには、チラーユニット(図示せず)より配管70,72を介して所定の温度の冷媒、例えば、冷却水が循環供給される。冷媒の温度によって静電チャック15の伝熱ガス、例えば、Heガスがガス供給管74を介して静電チャック15の上面と被処理基体Wの裏面との間に供給される。
【0037】
このように構成されたプラズマ処理装置10では、導管36及びインジェクタ41の貫通孔を介して、誘電体窓20の貫通孔20hから処理空間S内に軸線Xに沿ってガスが供給される。また、貫通孔20hよりも下方において、ガス供給部42から軸線Xに向けてガスが供給される。さらに、アンテナ18から誘電体窓20を介して処理空間S及び/又は貫通孔20h内にマイクロ波が導入される。これにより、処理空間S及び/又は貫通孔20hにおいてプラズマが発生する。このように、プラズマ処理装置10によれば、磁場を加えずに、プラズマを発生させることができる。このプラズマ処理装置10では、ステージ14上に載置された被処理基体Wを、処理ガスのプラズマによって処理することができる。
【0038】
以下、図3及び図4を参照して、静電チャック15及びフォーカスリング17についてより詳細に説明する。図3は、一実施形態に係る静電チャック15及びフォーカスリング17を軸線X方向から見た平面図である。
【0039】
静電チャック15は、例えば酸化アルミニウム(Al)或いは酸化イットリウム(Y)といった誘電体材料製であり、略円板形状を有している。静電チャック15は端面15aを有する。一実施形態においては、端面15aは部分的に平端面15bを含んでいる。静電チャック15は、所定の外径(直径)D1を有している。
【0040】
フォーカスリング17は、静電チャック15の端面15aを囲むように台14a上に搭載されている。フォーカスリング17は、例えば酸化シリコン(SiO)製であり、環状板である。フォーカスリング17には、内径D2を有する孔17aが設けられている。孔17aを画成する内壁面17bは、静電チャック15の平端面15bと対面する平壁面17cを部分的に含んでいる。
【0041】
静電チャック15の端面15aと、内壁面17b、即ちフォーカスリング17の内縁との間には間隙hが画成されている。この間隙hが、例えば25℃のような常温の温度環境において350μm以下になるように、静電チャック15の外径D1及びフォーカスリング17の内径D2が設定されている。フォーカスリング17は、フォーカスリング17の中心軸17gの位置が静電チャック15の中心軸15gの位置と略一致するように、台14aの上に配置されている。
【0042】
静電チャック15の平端面15bと、フォーカスリング17の平壁面17cとの間には間隙gが画成されている。フォーカスリング17の中心軸17gの位置が静電チャック15の中心軸15gと一致するとしたとき、間隙gは、距離dと距離cにより規定される。距離dは、静電チャック15の平端面15bから、該平端面15bと互いに平行であって中心軸15gを含む面までの距離により規定される。距離cは、フォーカスリング17の平壁面17cから、該平壁面17cと互いに平行であって中心軸17gを含む面までの距離により規定される。この間隙gが、例えば25℃のような常温の温度環境において350μm以下になるように、静電チャック15の距離d及びフォーカスリング17の距離cが設定されている。
【0043】
図4は、一実施形態に係る静電チャック15及びフォーカスリング17の一部を拡大して示す断面図であり、図3のIV‐IV線に沿った断面図である。フォーカスリング17は、内縁17fを含む第1領域17dと、第1領域17dより外側の第2領域17eとを含んでいる。フォーカスリング17の内壁面17bは静電チャック15の端面15aと対面している。
【0044】
静電チャック15の表面15cの上には、被処理基体Wが保持される。静電チャック15の外径D1は被処理基体Wの外径D3よりも小さいので、被処理基体Wの外縁部は静電チャック15の端面15aよりも軸線Xに直交する方向に突出している。
【0045】
フォーカスリング17の第1領域17dは、静電チャック15の表面15cの延長面に沿って設けられている。なお、第1領域17dは、静電チャック15の表面15cの延長面より下方に設けられていてもよい。フォーカスリング17の第1領域17dにおける一部の領域は、被処理基体Wによって覆われている。また、静電チャック15と、フォーカスリング17との間にある間隙h及び間隙gは、被処理基体Wによって覆われている。したがって、被処理基体Wが静電チャック15上に載置されると、間隙h及び間隙gへのプラズマの侵入が抑制される。
【0046】
また、フォーカスリング17の第2領域17eは、静電チャック15の表面15cよりも上方に設けられている。このように構成されることにより、被処理基体Wの表面上のプラズマの分布を均一にすることができる。
【0047】
図5を参照して、比較例に係る静電チャック92及びフォーカスリング93を用いた場合に生じる現象について説明する。図5(a)に示した静電チャック92とフォーカスリング93との間の間隙95は、例えば500μmである。被処理基体を静電チャック92の表面92aに吸着していない状態において、クリーニング(WLDC:wafer less dry cleaning)が実施される。このとき、処理ガスとして六フッ化硫黄及び酸素の混合ガス(SF/O)が用いられる。プラズマ94が静電チャック92とフォーカスリング93との間の間隙95に侵入すると、酸化アルミニウム(Al)からなる静電チャック92の端面92bが、処理ガスに含まれるフッ素によりフッ化されて、フッ化アルミニウム(AlF)の微粒子96が発生する。この微粒子96は、間隙95に堆積する、或いは静電チャック92の外縁部の表面92aに付着するものと想定される。
【0048】
図5(b)に示すように、静電チャック92の外縁部の表面92aに微粒子96が付着した状態において、被処理基体97が静電チャック92の表面92aに吸着されると、被処理基体97と静電チャック92の表面92aとの間に微粒子96が挟まれる。ここで、台91に高周波電力を印加すると、微粒子96を介して電流が集中的に流れるので、アーキングが発生するおそれがある。アーキングの発生により、静電チャック92に含まれた電極が露出すると、静電チャック92に直流電圧を印加することができなくなるので、静電チャック92により被処理基体97を吸着することができなくなる場合がある。
【0049】
比較例に係る静電チャック92及びフォーカスリング93を用いて、被処理基体97を処理した後に、静電チャック92の表面92aの状態等を確認した。その結果、静電チャック92とフォーカスリング93との間の間隙95にはアルミニウム、フッ素及び酸素を含む微粒子が付着していることが確認された。図6(a)は静電チャック92の表面92aの一部を撮影した写真である。図6(b)は、図6(a)のA部を拡大した写真である。図6(b)を参照すると、アーキングにより生じたと考えられる孔92cが表面92aに形成されていることが確認された。また、図6(c)は静電チャック92の表面92aの別の領域の一部を撮影した写真である。図6(d)は、図6(c)のB部を拡大した写真である。図6(d)を参照すると、図6(b)で確認された孔92cと同様に、アーキングにより生じたと考えられる孔92dが表面92aに形成されていることが確認された。
【0050】
一実施形態に係るプラズマ処理装置10では、静電チャック15とフォーカスリング17との間に350μm以下の間隙h及び間隙gが画成されているので、この間隙h及び間隙gへのプラズマの侵入が抑制され、その結果、微粒子の発生が抑制される。したがって、静電チャック15の外縁部等に付着する付着物の発生を抑制することができる。さらに、付着物の発生を抑制できるので、アーキングの発生が抑制される。これにより、静電チャック15の吸着不良の発生を防止することができる。
【0051】
ここで、間隙h及び間隙gの寸法とプラズマとの関係について説明する。間隙h及び間隙gにおいてプラズマが存在するためには、間隙h及び間隙gの距離がデバイの長さλ(下記式(1)参照)よりも十分に大きいことが必要である。
【数1】


上記式(1)においてTは電子温度であり、nは電子密度である。プラズマに電場を印加したとき、自由電子が熱運動により動いて電場を遮断する。デバイの長さλは、その電場を遮断する長さのオーダーを示す長さである。したがって、デバイの長さλよりも小さい空間ではプラズマの電気的な中性が確保されない。間隙h及び間隙gにプラズマが存在するためには、静電チャック15とフォーカスリング17との間の距離、即ち間隙h及び間隙gの大きさが、シース長を考慮してデバイの長さλの2〜3倍より大きいことが必要である。すなわち、間隙h及び間隙gの大きさが、デバイの長さλの2〜3倍以下になるように設定すれば、間隙h及び間隙gへのプラズマの侵入が抑制される。これ故、プラズマに起因する微粒子の発生を抑制することができる。
【0052】
例えばT=1.5eVであり、n=6×10cm−3であるとすると、デバイの長さλ=117μmである。したがって、間隙h及び間隙gの寸法がデバイの長さλの3倍、即ち350μm以下であれば、間隙h及び間隙gにおけるプラズマの発生を抑制し得る。
【0053】
具体的な実施例について説明する。本実施例において被処理基体Wの外径D3は、300mmである。一実施例として、25℃の温度環境において、酸化アルミニウム(Al)を含む静電チャック15、及び酸化シリコン(SiO)を含むフォーカスリング17は以下の寸法に設定した。
静電チャック15の外径D1:297.9mm
フォーカスリング17の内径D2:298.1mm
距離c:148.1mm
距離d:148mm
上記寸法に設定したとき、間隙hは0.1mm(100μm)であり、間隙gは0.1mm(100μm)であった。さらに上記寸法を有する静電チャック15及びフォーカスリング17を80℃まで加熱すると、間隙hは0.029mm(29μm)であり、間隙gは0.029mm(29μm)であった。このように、静電チャック15及びフォーカスリング17が80℃まで加熱されたときであっても、静電チャック15はフォーカスリング17と接触することはなかった。
【0054】
上記寸法を有する静電チャック15及びフォーカスリング17を用いて、被処理基体Wを処理した後に、静電チャック15の表面15cの状態等を確認した。図7(a)〜図7(d)は静電チャック15及びフォーカスリング17の一部を撮影した写真である。一実施形態に係る静電チャック15及びフォーカスリング17では、比較例に係る静電チャック92の表面92aにおいて確認されたような孔92c,92dは確認されなかった。また、目視による検査では、静電チャック15及びフォーカスリング17の表面に微粒子の付着は確認されなかった。したがって、間隙h及び間隙gを0.1mm(100μm)にすることにより、静電チャック15の外縁部等に付着する付着物の発生を抑制することができることが確認された。
【0055】
以上、種々の実施形態について説明したが、上述した実施形態に限定されることなく、種々の変形態様を構成可能である。例えば、マイクロ波プラズマ処理装置の他、平行平板電極型のプラズマ処理装置といった任意のプラズマ処理装置にも本発明の思想は適用可能である。
【0056】
また、例えば、フォーカスリングは酸化シリコンの他、処理ガスの種類によってはシリコン(Si)製であってもよい。
【符号の説明】
【0057】
10…プラズマ処理装置、12…処理容器、42,43…ガス供給部、16…マイクロ波発生器(導入部)、15,92…静電チャック(保持部材)、17,93…フォーカスリング、h,g…間隙。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理空間を画成する処理容器と、
前記処理空間に処理ガスを供給するガス供給部と、
前記処理ガスのプラズマを発生させるためのエネルギーを導入する導入部と、
被処理基体を保持するための保持部材であり、誘電体材料製の表面を有し、前記処理空間内に設けられた該保持部材と、
前記保持部材の端面を囲むように設けられたフォーカスリングであり、前記保持部材の前記端面と該フォーカスリングとの間に350μm以下の間隙を画成するように設けられた、該フォーカスリングと、
を備えるプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記フォーカスリングは、該フォーカスリングの内縁を含む第1領域と、前記第1領域より外側の第2領域とを含み、
前記第1領域は、前記保持部材の上面の延長面に沿って、又は、該延長面より下方に設けられており、
前記第2領域は、前記保持部材の上面より上方に設けられている、
請求項1に記載のプラズマ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−33940(P2013−33940A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−132838(P2012−132838)
【出願日】平成24年6月12日(2012.6.12)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】