説明

プリプレグの製造方法

【課題】優れた剛性を有するプリプレグを連続的に効率よく製造することができるプリプレグの製造方法を提供すること。
【解決手段】連続的に走行する炭素繊維束を、シクロオレフィンモノマー及びメタセシス重合触媒を含む重合性組成物中に浸漬させつつ、炭素繊維束の走行方向と交差する面との交線が炭素繊維束側に凸である曲線となる曲面に接触させて、炭素繊維束への重合性組成物の含浸と炭素繊維束の開繊とを、重合性組成物の塊状重合が生じない温度範囲下にて同時に行う工程(I)と、工程(I)に続いて、重合性組成物が含浸し、かつ開繊された炭素繊維束を加熱して重合性組成物の塊状重合を行う工程(II)と、を有する、プリプレグの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリプレグの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂等のマトリックス樹脂と炭素繊維等の高強度・高弾性の強化繊維とからなる繊維強化複合材料は、機械強度や靭性に優れるため、釣竿やゴルフクラブ用シャフトなどのスポーツ用途から自動車や航空機等の乗物用構造体用途、一般産業用途までの幅広い用途で用いられている。このような繊維強化複合材料の成形方法のひとつに、プリプレグと呼ばれる、予め強化繊維にマトリックス樹脂を含浸させたシート状の中間材料を用いる方法がある。
【0003】
プリプレグは、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂の他、ポリエチレンやポリプロピレン等の熱可塑性樹脂を強化繊維に含浸させて形成されるが、樹脂を強化繊維に含浸させる際、強化繊維を開繊する、すなわち、強化繊維の束を構成する単繊維間の幅を拡張する必要がある。強化繊維の開繊方法として、例えば、特許文献1には、強化繊維のストランドを、該ストランドの走行方向と交差する面内において前記ストランド側に凸である曲面を有し、かつ振動する曲面体に接触させて、強化繊維の開繊を行う方法が開示されている。また、特許文献2には、強化繊維のストランドを、加熱溶融樹脂に浸漬させつつ、該ストランドの走行方向に対して交差する方向に延びる凸曲面部と接触させて、樹脂の含浸と強化繊維の開繊とを行う方法が開示されている。
【0004】
一方、前記の通り、プリプレグは一般に樹脂自体を強化繊維に直接含浸させて形成されるが、重合性組成物を強化繊維に含浸させた後、該組成物を重合し、プリプレグを形成する技術も知られている。重合性組成物は溶融樹脂に比べて非常に低粘度であるため、かかる技術によれば、マトリックス樹脂が強化繊維に充分に含浸してなるプリプレグをより容易に得ることができる。例えば、特許文献3には、環状オレフィンモノマー及び重合触媒を含む重合性組成物を繊維材料に含浸する工程と、繊維材料に含浸した重合性組成物を塊状重合する工程を連続的に行うプリプレグの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1−280040号公報
【特許文献2】特開平5−131446号公報
【特許文献3】国際公開第2004/069895号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1や2に記載されるように、強化繊維の開繊には、熱や振動といった物理的エネルギーを要する。しかしながら、特許文献3に記載されるように、重合性組成物を利用してプリプレグを形成する場合、強化繊維に重合性組成物を含浸させる際、該組成物に熱がかかると重合が進み、重合性組成物の粘度が上昇するため、強化繊維への含浸が不充分となり、得られるプリプレグの剛性が低下するおそれがある。また、熱以外の、振動などの物理的エネルギーを用いようとすると、当該エネルギーの供給工程を要し、プリプレグの生産効率が低下する一因となる。
【0007】
本発明の目的は、優れた剛性を有するプリプレグを連続的に効率よく製造することができるプリプレグの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討の結果、強化繊維として炭素繊維を用いる場合には、連続的に走行する炭素繊維束を、所定の重合性組成物中に浸漬させつつ、炭素繊維束の走行方向と交差する面との交線が炭素繊維束側に凸である曲線となる曲面に接触させることにより、炭素繊維束への重合性組成物の含浸と炭素繊維束の開繊とを、重合性組成物の塊状重合が実質的に開始されない温度範囲下にて同時に行うことで、所望のプリプレグが連続的に効率よく得られることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0009】
かくして本発明によれば、(1)〜(4)が提供される。
【0010】
(1) 連続的に走行する炭素繊維束を、シクロオレフィンモノマー及びメタセシス重合触媒を含む重合性組成物中に浸漬させつつ、炭素繊維束の走行方向と交差する面との交線が炭素繊維束側に凸である曲線となる曲面に接触させて、炭素繊維束への重合性組成物の含浸と炭素繊維束の開繊とを、重合性組成物の塊状重合が生じない温度範囲下にて同時に行う工程(I)と、工程(I)に続いて、重合性組成物が含浸し、かつ開繊された炭素繊維束を加熱して重合性組成物の塊状重合を行う工程(II)と、を有する、プリプレグの製造方法。
【0011】
(2) 工程(I)を行う温度範囲が−10〜+20℃である前記(1)記載のプリプレグの製造方法。
【0012】
(3) 重合性組成物を充填するための空洞部と、炭素繊維束の走行方向と交差する面との交線が炭素繊維束側に凸である曲線となる曲面をその表面に有し、前記空洞部内に突出してなる曲面体部と、を有する重合性組成物充填部の該空洞部内に充填された重合性組成物中を、連続的に走行する炭素繊維束を通過させることにより、工程(I)を行う、前記(1)又は(2)記載のプリプレグの製造方法。
【0013】
(4) 重合性組成物が、架橋剤をさらに含むものである前記(1)〜(3)いずれか記載のプリプレグの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、優れた剛性を有するプリプレグを連続的に効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に用いられる曲面体の一例を示す斜視図である。
【図2】本発明に用いられる重合性組成物充填部の一例を示す概略図である。(A)は、該充填部中央の横方向での断面を示し、(B)は、該充填部を前方から見た様子を示す。
【図3】本発明に用いられるプリプレグ製造装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のプリプレグの製造方法は、連続的に走行する炭素繊維束を、シクロオレフィンモノマー及びメタセシス重合触媒を含む重合性組成物中に浸漬させつつ、炭素繊維束の走行方向と交差する面との交線が炭素繊維束側に凸である曲線となる曲面に接触させて、炭素繊維束への重合性組成物の含浸と炭素繊維束の開繊とを、重合性組成物の塊状重合が生じない温度範囲下にて同時に行う工程(I)と、工程(I)に続いて、重合性組成物が含浸し、かつ開繊された炭素繊維束を加熱して重合性組成物の塊状重合を行う工程(II)と、を有する。
【0017】
本発明は、炭素繊維束への前記重合性組成物の含浸と炭素繊維束の開繊とを、重合性組成物の塊状重合が生じない温度範囲下、炭素繊維束を、重合性組成物中に浸漬させつつ、所定の曲面に接触させることにより同時に行うことを1つの大きな特徴とする。前記の通り、従来、強化繊維の開繊には熱や振動といった物理的エネルギーを要したが、本発明においては、そのような物理的エネルギーは不要である。これは、炭素繊維束を、本発明に用いる重合性組成物に浸漬すると、炭素繊維束が膨潤し、単繊維間の結合力が緩み、その結果、所定の曲面と接触させるだけで容易に単繊維間の幅を拡張できることによる、と推定される。かかる作用は、本発明に用いる重合性組成物に特有の性質であると思われる。従って、本発明によれば、重合性組成物を塊状重合してなる重合体(シクロオレフィンポリマー)が、適度に開繊した炭素繊維束に充分含浸してなる、優れた剛性を有するプリプレグを連続的に効率よく製造することができる。
【0018】
まず、本発明のプリプレグの製造方法に用いる重合性組成物及び炭素繊維束について説明する。
【0019】
〔重合性組成物〕
本発明に用いる重合性組成物は、シクロオレフィンモノマー及びメタセシス重合触媒を含んでなる。
【0020】
(シクロオレフィンモノマー)
本発明に用いるシクロオレフィンモノマーとは、炭素原子で形成される脂環構造を有し、かつ該脂環構造中に重合性の炭素−炭素二重結合を有する化合物である。本明細書において「重合性の炭素−炭素二重結合」とは、連鎖重合(メタセシス開環重合)に関与する炭素−炭素二重結合をいう。
【0021】
シクロオレフィンモノマーの脂環構造としては、単環、多環、縮合多環、橋かけ環及びこれらの組み合わせ多環などが挙げられる。本発明により得られるプリプレグは、架橋硬化して繊維強化複合材料(以下、複合材料という場合がある。)として好適に用いられるが、そのようにして得られる複合材料の機械強度を向上させる観点から、用いるシクロオレフィンモノマーとしては多環のシクロオレフィンモノマーが好ましい。各脂環構造を構成する炭素原子数に特に限定はないが、通常、4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個である。シクロオレフィンモノマーは、アルキル基、アルケニル基、アルキリデン基、及びアリール基などの炭素数1〜30の炭化水素基や、カルボキシル基や酸無水物基などの極性基を置換基として有していてもよい。
【0022】
前記シクロオレフィンモノマーとしては、得られる複合材料の架橋密度を高め、その機械強度と耐熱性を向上させる観点から、架橋性炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有するシクロオレフィンモノマーが好適に用いられる。本明細書において「架橋性炭素−炭素不飽和結合」とは、メタセシス開環重合には関与せず、架橋反応に関与する炭素−炭素不飽和結合をいう。「架橋反応」とは橋架け構造を形成する反応をいう。本明細書においては、架橋反応とは、通常、ラジカル架橋反応又はメタセシス架橋反応、特にラジカル架橋反応をいう。
【0023】
前記架橋性炭素−炭素不飽和結合としては、芳香族炭素−炭素不飽和結合を除く炭素−炭素不飽和結合、すなわち、脂肪族炭素−炭素二重結合又は三重結合が挙げられる。本明細書においては、通常、脂肪族炭素−炭素二重結合をいう。架橋性炭素−炭素不飽和結合を有するシクロオレフィンモノマー中、該不飽和結合の位置は特に限定されるものではなく、炭素原子で形成される脂環構造内の他、該脂環構造以外の任意の位置、例えば、側鎖の末端や内部に存在していてもよい。例えば、前記脂肪族炭素−炭素二重結合は、ビニル基(CH=CH−)、ビニリデン基(CH=C<)、又はビニレン基(−CH=CH−)として存在し得、良好にラジカル架橋性を発揮することから、ビニル基及び/又はビニリデン基として存在するのが好ましく、ビニリデン基として存在するのがより好ましい。
【0024】
架橋性炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有するシクロオレフィンモノマーとしては、特に、架橋性炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有するノルボルネン系モノマーが好ましい。「ノルボルネン系モノマー」とは、ノルボルネン環構造を分子内に有するシクロオレフィンモノマーをいう。例えば、ノルボルネン類、ジシクロペンタジエン類、及びテトラシクロドデセン類などが挙げられる。
【0025】
架橋性炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有するシクロオレフィンモノマーとしては、例えば、3−ビニルシクロヘキセン、4−ビニルシクロヘキセン、1,3−シクロペンタジエン、1,3−シクロへキサジエン、1,4−シクロへキサジエン、5−エチル−1,3−シクロへキサジエン、1,3−シクロへプタジエン、1,3−シクロオクタジエンなどの単環シクロオレフィンモノマー;5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−メチリデン−2−ノルボルネン、5−イソプロピリデン−2−ノルボルネン、5−ビニルノルボルネン、5−アリルノルボルネン、5,6−ジエチリデン−2−ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、2,5−ノルボルナジエンなどのノルボルネン系モノマー;を挙げることができる。これらの中では、架橋性炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有するノルボルネン系モノマーが好ましい。
【0026】
本発明においてシクロオレフィンモノマーとしては、前記架橋性炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有するシクロオレフィンモノマーの他、架橋性炭素−炭素不飽和結合を持たないシクロオレフィンモノマーが用いられる。
【0027】
架橋性炭素−炭素不飽和結合を持たないシクロオレフィンモノマーとしては、例えば、シクロペンテン、3−メチルシクロペンテン、4−メチルシクロペンテン、3,4−ジメチルシクロペンテン、3,5−ジメチルシクロペンテン、3−クロロシクロペンテン、シクロへキセン、3−メチルシクロへキセン、4−メチルシクロヘキセン、3,4−ジメチルシクロヘキセン、3−クロロシクロヘキセン、シクロへプテンなどの単環シクロオレフィンモノマー;ノルボルネン、5−メチルノルボルネン、5−エチルノルボルネン、5−プロピルノルボルネン、5,6−ジメチルノルボルネン、1−メチルノルボルネン、7−メチルノルボルネン、5,5,6−トリメチルノルボルネン、5−フェニルノルボルネン、テトラシクロドデセン、1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−メチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−エチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−ヘキシル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−エチリデン−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、1,5−ジメチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−シクロへキシル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、5−クロロノルボルネン、5−フルオロノルボルネン、5,5,6−トリフルオロ−6−トリフルオロメチルノルボルネン、5−メトキシノルボルネン、5,6−ジカルボキシルノルボルネンアンハイドレート、5−ジメチルアミノノルボルネン、5−シアノノルボルネンなどのノルボルネン系モノマー;を挙げることができる。これらの中でも、架橋性炭素−炭素不飽和結合を持たないノルボルネン系モノマーが好ましい。
【0028】
以上のシクロオレフィンモノマーは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。例えば、シクロオレフィンモノマーとして、架橋性炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有するシクロオレフィンモノマーと架橋性炭素−炭素不飽和結合を持たないシクロオレフィンモノマーとの混合物が用いられる。
【0029】
本発明に用いる重合性組成物に配合するシクロオレフィンモノマー中、架橋性炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有するシクロオレフィンモノマーと架橋性炭素−炭素不飽和結合を持たないシクロオレフィンモノマーとの配合割合は所望により適宜選択すればよいが、重量比(架橋性炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有するシクロオレフィンモノマー/架橋性炭素−炭素不飽和結合を持たないシクロオレフィンモノマー)で、通常、5/95〜100/0、好ましくは10/90〜95/5、より好ましくは15/85〜90/10の範囲である。当該配合割合がかかる範囲にあれば、得られる複合材料において耐熱性や機械強度がバランスよく向上し、好適である。
【0030】
なお、本発明に用いる重合性組成物には、本発明の効果の発現が阻害されない限り、以上のシクロオレフィンモノマーと共重合可能な任意のモノマーが含まれていてもよい。
【0031】
(メタセシス重合触媒)
本発明に用いるメタセシス重合触媒としては、シクロオレフィンモノマーをメタセシス開環重合できるものであれば格別な限定はないが、通常、遷移金属原子を中心原子として、複数のイオン、原子、多原子イオン及び/又は化合物が結合してなる錯体が挙げられる。遷移金属原子としては、5族、6族及び8族(長周期型周期表による。以下、同じ。)の原子が使用される。それぞれの族の原子は特に限定されないが、5族の原子としては、例えば、タンタルが挙げられ、6族の原子としては、例えば、モリブデンやタングステンが挙げられ、8族の原子としては、例えば、ルテニウムやオスミウムが挙げられる。遷移金属原子としては、中でも、8族のルテニウムやオスミウムが好ましい。すなわち、本発明に使用されるメタセシス重合触媒としては、ルテニウム又はオスミウムを中心原子とする錯体が好ましく、ルテニウムを中心原子とする錯体がより好ましい。ルテニウムを中心原子とする錯体としては、カルベン化合物がルテニウムに配位してなるルテニウムカルベン錯体が好ましい。ここで、「カルベン化合物」とは、メチレン遊離基を有する化合物の総称であり、(>C:)で表されるような電荷のない2価の炭素原子(カルベン炭素)を持つ化合物をいう。ルテニウムカルベン錯体は、塊状重合時の触媒活性に優れるため、本発明に用いる重合性組成物を塊状重合した場合、未反応モノマーの残存が少なく、生産性良く良質な重合体が形成される。また、酸素や空気中の水分に対して比較的安定であって、失活しにくいので、大気下でも使用可能である。
【0032】
ルテニウムカルベン錯体の具体例としては、以下の式(1)又は式(2)で表される錯体が挙げられる。
【化1】

【0033】
式(1)及び(2)において、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子;ハロゲン原子;又はハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子若しくは珪素原子を含んでいてもよい、環状又は鎖状の、炭素数1〜20の炭化水素基を表す。X及びXはそれぞれ独立して、任意のアニオン性配位子を示す。L及びLはそれぞれ独立して、ヘテロ原子含有カルベン化合物又はヘテロ原子含有カルベン化合物以外の中性電子供与性化合物を表す。また、RとRは互いに結合して、ヘテロ原子を含んでいてもよい脂肪族環又は芳香族環を形成してもよい。さらに、R、R、X、X、L及びLは、任意の組合せで互いに結合して多座キレート化配位子を形成してもよい。
【0034】
ヘテロ原子とは、周期律表15族及び16族の原子を意味し、具体的には、窒素原子(N)、酸素原子(O)、リン原子(P)、硫黄原子(S)、砒素原子(As)、及びセレン原子(Se)などを挙げることができる。これらの中でも、安定なカルベン化合物が得られる観点から、N、O、P、及びSなどが好ましく、Nが特に好ましい。
【0035】
前記ルテニウムカルベン錯体としては、得られる複合材料において耐熱性と機械強度とを高度にバランスさせる観点から、ヘテロ原子含有カルベン化合物としてヘテロ環構造を有するカルベン化合物を配位子として少なくとも1つ有するものが好ましい。ヘテロ環構造としては、イミダゾリン環構造又はイミダゾリジン環構造が好ましい。
【0036】
ヘテロ環構造を有するカルベン化合物としては、以下の式(3)又は式(4)で示される化合物が挙げられる。
【化2】

【0037】
式(3)及び(4)において、R〜Rはそれぞれ独立して、水素原子;ハロゲン原子;又はハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子若しくは珪素原子を含んでいてもよい、環状又は鎖状の、炭素数1〜20個の炭化水素基を表す。また、R〜Rは任意の組合せで互いに結合して環を形成していてもよい。
【0038】
前記式(3)又は式(4)で表される化合物としては、1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジ(1−アダマンチル)イミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジシクロヘキシルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジメシチルオクタヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン、1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾリン−2−イリデン、1,3−ジ(1−フェニルエチル)−4−イミダゾリン−2−イリデン、及び1,3−ジメシチル−2,3−ジヒドロベンズイミダゾール−2−イリデンなどが挙げられる。
【0039】
前記式(1)及び(2)において、アニオン(陰イオン)性配位子X、Xは、中心原子から引き離されたときに負の電荷を持つ配位子である。例えば、弗素原子(F)、塩素原子(Cl)、臭素原子(Br)、及び沃素原子(I)などのハロゲン原子、ジケトネート基、置換シクロペンタジエニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、及びカルボキシル基などを挙げることができる。これらの中でもハロゲン原子が好ましく、塩素原子がより好ましい。
【0040】
また、中性電子供与性化合物は、中心原子から引き離されたときに中性の電荷を持つ配位子であればいかなるものでもよい。その具体例としては、カルボニル類、アミン類、ピリジン類、エーテル類、ニトリル類、エステル類、ホスフィン類、チオエーテル類、芳香族化合物、オレフィン類、イソシアニド類、及びチオシアネート類などが挙げられる。これらの中でも、ホスフィン類、エーテル類及びピリジン類が好ましく、トリアルキルホスフィンがより好ましい。
【0041】
前記式(1)で表されるルテニウムカルベン錯体としては、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−4,5−ジブロモ−4−イミダゾリン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリン−2−イリデン)(3−フェニル−1H−インデン−1−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(3−メチル−2−ブテン−1−イリデン)(トリシクロペンチルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−オクタヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン[1,3−ジ(1−フェニルエチル)−4−イミダゾリン−2−イリデン](トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−2,3−ジヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(トリシクロヘキシルホスフィン)(1,3,4−トリフェニル−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−1,2,4−トリアゾール−5−イリデン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジイソプロピルヘキサヒドロピリミジン−2−イリデン)(エトキシメチレン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)ピリジンルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(2−フェニルエチリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリン−2−イリデン)(2−フェニルエチリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4,5−ジブロモ−4−イミダゾリン−2−イリデン)[(フェニルチオ)メチレン](トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、及び(1,3−ジメシチル−4,5−ジブロモ−4−イミダゾリン−2−イリデン)(2−ピロリドン−1−イルメチレン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリドなどの、ヘテロ原子含有カルベン化合物及び中性の電子供与性化合物が各々1つ結合したルテニウムカルベン錯体;ベンジリデンビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリドや(3−メチル−2−ブテン−1−イリデン)ビス(トリシクロペンチルホスフィン)ルテニウムジクロリドなどの、2つの中性電子供与性化合物が結合したルテニウムカルベン錯体;ベンジリデンビス(1,3−ジシクロヘキシルイミダゾリジン−2−イリデン)ルテニウムジクロリドやベンジリデンビス(1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾリン−2−イリデン)ルテニウムジクロリドなどの、2つのヘテロ原子含有カルベン化合物が結合したルテニウムカルベン錯体;などが挙げられる。
【0042】
前記式(2)で表されるルテニウムカルベン錯体としては、(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(フェニルビニリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(t−ブチルビニリデン)(1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾリン−2−イリデン)(トリシクロペンチルホスフィン)ルテニウムジクロリド、及びビス(1,3−ジシクロヘキシル−4−イミダゾリン−2−イリデン)フェニルビニリデンルテニウムジクロリドなどが挙げられる。
【0043】
これらのルテニウムカルベン錯体の中でも、前記式(1)で表され、かつ配位子として前記式(4)で表される化合物を1つ有するものが最も好ましい。
【0044】
これらのルテニウムカルベン錯体は、Org. Lett., 1999年, 第1巻, 953頁や、Tetrahedron. Lett., 1999年, 第40巻, 2247頁などに記載された方法によって製造することができる。
【0045】
前記メタセシス重合触媒は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。メタセシス重合触媒の使用量は、モル比(メタセシス重合触媒中の金属原子:シクロオレフィンモノマー)で、通常、1:2,000〜1:2,000,000、好ましくは1:5,000〜1:1,000,000、より好ましくは1:10,000〜1:500,000の範囲である。
【0046】
メタセシス重合触媒は所望により、少量の不活性溶媒に溶解又は懸濁して重合性組成物の調製に使用することができる。かかる溶媒としては、通常、鎖状脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素、及び脂環と芳香環とを有する炭化水素の使用が好ましい。
【0047】
(その他の成分)
本発明に用いる重合性組成物には、上記するシクロオレフィンモノマー及びメタセシス重合触媒の他、所望により、架橋剤、架橋助剤、充填剤、連鎖移動剤、重合調整剤、重合反応遅延剤、老化防止剤、及びその他の配合剤を添加することができる。
【0048】
架橋剤は、前記重合性組成物を塊状重合してなる重合体において架橋反応を誘起可能なものであれば、特に限定されないが、通常、ラジカル発生剤が用いられる。ラジカル発生剤としては、有機過酸化物、ジアゾ化合物、及び非極性ラジカル発生剤などが挙げられ、好ましくは有機過酸化物や非極性ラジカル発生剤である。
【0049】
有機過酸化物としては、例えば、t−ブチルヒドロペルオキシド、p−メンタンヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシドなどのヒドロペルオキシド類;ジクミルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、α,α’−ビス(t−ブチルペルオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、ジ−t−ブチルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)−3−ヘキシン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサンなどのジアルキルペルオキシド類;ジプロピオニルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシドなどのジアシルペルオキシド類;2,2−ジ(t−ブチルペルオキシ)ブタン、1,1−ジ(t−ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサンなどのペルオキシケタール類;t−ブチルペルオキシアセテート、t−ブチルペルオキシベンゾエートなどのペルオキシエステル類;t−ブチルペルオキシイソプロピルカルボナート、ジ(イソプロピルペルオキシ)ジカルボナートなどのペルオキシカルボナート類;t−ブチルトリメチルシリルペルオキシドなどのアルキルシリルペルオキシド類;などが挙げられる。中でも、重合反応に対する障害が少ない点で、ジアルキルペルオキシド及びペルオキシケタール類が好ましい。
【0050】
ジアゾ化合物としては、例えば、4,4’−ビスアジドベンザル(4−メチル)シクロヘキサノンや2,6−ビス(4’−アジドベンザル)シクロヘキサノンなどが挙げられる。
【0051】
非極性ラジカル発生剤としては、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、3,4−ジメチル−3,4−ジフェニルヘキサン、及び1,1,2−トリフェニルエタン、1,1,1−トリフェニル−2−フェニルエタンなどが挙げられる。
【0052】
架橋剤として用いるラジカル発生剤の1分間半減期温度としては、プリプレグの硬化条件により適宜選択すればよいが、通常、100〜300℃、好ましくは150〜250℃、より好ましくは160〜230℃の範囲である。ここで1分間半減期温度とは、ラジカル発生剤の半量が1分間で分解する温度である。例えば、ジ−t−ブチルペルオキシドでは186℃、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルペルオキシ)−3−ヘキシンでは194℃である。
【0053】
これらの架橋剤は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。架橋剤の使用量は、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して、通常0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.5〜5重量部の範囲である。
【0054】
本発明に用いられる重合性組成物に架橋助剤を配合すると、得られる複合材料において機械強度を向上させることができ、好適である。架橋助剤としては、特に限定されるものではないが、通常、開環重合に関与せず、架橋剤、特にラジカル発生剤により誘起される架橋反応に関与可能な架橋性の炭素−炭素不飽和結合を2以上有する多官能性化合物が好適に用いられる。かかる架橋性の炭素−炭素不飽和結合は、架橋助剤を構成する化合物中、例えば、末端ビニリデン基として、特に、イソプロペニル基やメタクリル基として存在するのが好ましく、メタクリル基として存在するのがより好ましい。
【0055】
架橋助剤の具体例としては、p−ジイソプロペニルベンゼン、m−ジイソプロペニルベンゼン、o−ジイソプロペニルベンゼンなどの、イソプロペニル基を2以上有する多官能性化合物;エチレンジメタクリレート、1,3−ブチレンジメタクリレート、1,4−ブチレンジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、2,2’−ビス(4−メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、トリメチロ−ルプロパントリメタクリレート、ペンタエリトリトールトリメタクリレートなどの、メタクリル基を2以上有する多官能性化合物などを挙げることができる。中でも、架橋助剤としては、メタクリル基を2以上有する多官能性化合物が好ましい。メタクリル基を2以上有する多官能性架橋助剤の中では、特に、トリメチロ−ルプロパントリメタクリレート、ペンタエリトリトールトリメタクリレートなどの、メタクリル基を3つ有する多官能性化合物がより好適である。
【0056】
前記架橋助剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明に用いる重合性組成物への架橋助剤の配合量としては、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して、通常、1〜100重量部の範囲である。
【0057】
前記重合性組成物に充填剤を加えることにより、得られる複合材料において機械強度や耐熱性を向上させることができ、好適である。充填剤としては、工業的に一般に使用されるものであれば格別な限定なく用いることができる。充填剤としては、無機充填剤及び有機充填剤のいずれも用いることができるが、好適には無機充填剤である。
【0058】
無機充填剤としては、例えば、鉄、銅、ニッケル、金、銀、アルミニウム、鉛、タングステン等の金属粒子;カーボンブラック、グラファイト、活性炭、炭素バルーン等の炭素粒子;シリカ、シリカバルーン、アルミナ、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化すず、酸化ベリリウム、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト等の無機酸化物粒子;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム等の無機炭酸塩粒子;硫酸カルシウム等の無機硫酸塩粒子;タルク、クレー、マイカ、カオリン、フライアッシュ、モンモリロナイト、ケイ酸カルシウム、ガラス、ガラスバルーン等の無機ケイ酸塩粒子;チタン酸カルシウム、チタン酸ジルコン酸鉛等のチタン酸塩粒子、窒化アルミニウム、炭化ケイ素粒子やウィスカー等が挙げられる。有機系充填剤としては、例えば、木粉、デンプン、有機顔料、ポリスチレン、ナイロン、ポリエチレンやポリプロピレンのようなポリオレフィン、塩化ビニル、廃プラスチック等の粒子化合物が挙げられる。
【0059】
これらの充填剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明に用いる重合性組成物への配合量としては、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して、通常、1〜1,000重量部、好ましくは10〜500重量部、より好ましくは50〜350重量部の範囲である。
【0060】
本発明に用いる重合性組成物に連鎖移動剤を配合すると、例えば、プリプレグに対し任意の材料を加熱圧着する際、プリプレグ表面に存在する樹脂の、該材料の表面に対する追従性が高まり、プリプレグを架橋硬化してなる複合材料と前記材料との密着性が向上し、また、該複合材料において耐クラック性を高めることができ、好適である。
【0061】
かかる連鎖移動剤の具体例としては、1−ヘキセン、2−ヘキセン、スチレン、ビニルシクロヘキサン、アリルアミン、アクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、エチルビニルエーテル、メチルビニルケトン、2−(ジエチルアミノ)エチルアクリレート、4−ビニルアニリンなどの、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を持たない連鎖移動剤;ジビニルベンゼン、メタクリル酸ビニル、メタクリル酸アリル、メタクリル酸スチリル、アクリル酸アリル、メタクリル酸ウンデセニル、アクリル酸スチリル、エチレングリコールジアクリレートなどの、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1つ有する連鎖移動剤;アリルトリビニルシラン、アリルメチルジビニルシランなどの、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を2以上有する連鎖移動剤などが挙げられる。かかる連鎖移動剤の中でも、ビニル基とメタクリル基とを1つずつ有する連鎖移動剤が好ましく、メタクリル酸ビニル、メタクリル酸アリル、メタクリル酸スチリル、メタクリル酸ウンデセニルなどが特に好ましい。
【0062】
これらの連鎖移動剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明に用いる重合性組成物への連鎖移動剤の配合量としては、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して、通常、0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜5重量部である。
【0063】
重合調整剤は、重合活性を制御したり、重合反応率を向上させたりする目的で配合されるものであり、例えば、トリアルコキシアルミニウム、トリフェノキシアルミニウム、ジアルコキシアルキルアルミニウム、アルコキシジアルキルアルミニウム、トリアルキルアルミニウム、ジアルコキシアルミニウムクロリド、アルコキシアルキルアルミニウムクロリド、ジアルキルアルミニウムクロリド、トリアルコキシスカンジウム、テトラアルコキシチタン、テトラアルコキシスズ、テトラアルコキシジルコニウムなどが挙げられる。これらの重合調整剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明に用いる重合性組成物への重合調整剤の配合量は、例えば、モル比(メタセシス重合触媒中の金属原子:重合調整剤)で、通常、1:0.05〜1:100、好ましくは1:0.2〜1:20、より好ましくは1:0.5〜1:10の範囲である。
【0064】
重合反応遅延剤は、本発明に用いる重合性組成物の粘度増加を抑制しうるものである。従って、重合反応遅延剤を配合してなる重合性組成物は、炭素繊維束に充分かつ容易に含浸させることができ、好ましい。重合反応遅延剤としては、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、ジシクロヘキシルホスフィン、ビニルジフェニルホスフィン、アリルジフェニルホスフィン、トリアリルホスフィン、スチリルジフェニルホスフィンなどのホスフィン化合物;アニリン、ピリジンなどのルイス塩基;等を用いることができる。その配合量は、所望により適宜調整すればよい。
【0065】
また、老化防止剤として、フェノール系老化防止剤、アミン系老化防止剤、リン系老化防止剤及びイオウ系老化防止剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の老化防止剤を前記重合性組成物に配合してもよい。老化防止剤の配合により、プリプレグの架橋硬化時に架橋反応が阻害されず、得られる複合材料の耐熱性を向上させることができ、好適である。中でも、フェノール系老化防止剤とアミン系老化防止剤が好ましく、フェノール系老化防止剤がより好ましい。これらの老化防止剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。老化防止剤の配合量は、所望により適宜選択されるが、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して、通常、0.0001〜10重量部、好ましくは0.001〜5重量部、より好ましくは0.01〜2重量部の範囲である。
【0066】
本発明に用いる重合性組成物には、さらに、その他の配合剤を配合することができる。その他の配合剤としては、例えば、チョップなどの短繊維、難燃剤、着色剤、光安定剤、顔料、発泡剤、高分子改質剤などが挙げられる。難燃剤としては、リン系難燃剤、窒素系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物、三酸化アンチモンなどのアンチモン化合物などが挙げられる。着色剤としては、染料、顔料などが用いられる。染料の種類は多様であり、公知のものを適宜選択して使用すればよい。
【0067】
これらのその他の配合剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明に用いる重合性組成物への配合量は、本発明の効果を損ねない範囲で適宜選択される。
【0068】
本発明に用いる重合性組成物は、上記成分を混合して得ることができる。混合方法としては、常法に従えばよい。例えば、メタセシス重合触媒を適当な溶媒に溶解若しくは分散させた液(触媒液)を調製し、別にシクロオレフィンモノマー、及び所望により、架橋剤やその他の配合剤等を配合した液(モノマー液)を調製し、該モノマー液に該触媒液を添加し、攪拌することによって調製することができる。
【0069】
〔炭素繊維束〕
本発明においては、プリプレグに含まれる強化繊維の材料として炭素繊維束を用いる。炭素繊維束とは、炭素繊維からなる単繊維がサイジング剤により束ねられたものである。サイジング剤とは、被処理炭素繊維の整形性を高めるために用いられる一種の糊剤であり、通常、エポキシ樹脂からなる。炭素繊維は、シクロオレフィンモノマーを含む重合性組成物との相溶性に優れており、炭素繊維束を該重合性組成物に浸漬すると、炭素繊維束が膨潤し、単繊維間の結合力が緩むものと推定される。それゆえ、炭素繊維束に該重合性組成物を均一に含浸させることができる。
【0070】
炭素繊維の種類としては、格別な限定はなく、例えば、アクリル系、ピッチ系、及びレーヨン系等の、従来公知の方法で製造される各種炭素繊維を任意に用いることができる。中でも、アクリル系炭素繊維(PAN系炭素繊維)は、得られる複合材料において機械強度や靭性等の特性を高度に向上でき、好適である。
【0071】
炭素繊維の強度特性としては格別な限定はない。例えば、以下の通りの強度特性を有する炭素繊維から、目的に応じ、所望の強度特性を有するものを適宜選択して用いれば、剛性に優れたプリプレグが得られる。引張強度としては、JIS R7601に従って測定されるストランド引張強度で、通常、0.5〜50GPa、好ましくは1〜10GPa、より好ましくは2〜8GPaの範囲である。引張弾性率としては、JIS R7601に従って測定されるストランド引張弾性率で、通常、100〜1,000GPa、好ましくは200〜800GPa、より好ましくは300〜700GPaの範囲である。伸びとしては、JIS R7601に従って測定されるストランド引張伸びで、通常、0.1〜10%、好ましくは0.5〜5%、より好ましくは1〜3%の範囲である。また、炭素繊維の強度特性がこれらの範囲にあるとき、得られる複合材料においては外観性、機械強度、及び靭性が高度にバランスされ、好適である。
【0072】
以上の炭素繊維は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0073】
本発明に用いられる炭素繊維束を構成する、炭素繊維からなる単繊維の太さとしては、一般的なものであればよく、特に限定されない。一方、炭素繊維束1本中の単繊維数としては、格別な限定はないが、通常、1,000〜100,000本、好ましくは6,000〜80,000本、より好ましくは12,000〜60,000本の範囲である。
【0074】
本発明により得られるプリプレグ中の炭素繊維含有量としては、目的に応じて適宜選択されるが、通常、10〜90重量%、好ましくは20〜80重量%、より好ましくは30〜70重量%の範囲である。炭素繊維含有量がこの範囲にあるとき、得られる複合材料において機械強度や靭性が高度にバランスされ、好適である。
【0075】
〔プリプレグの製造方法〕
続いて、本発明のプリプレグの製造方法について説明する。
【0076】
(工程(I))
工程(I)では、連続的に走行する炭素繊維束を、前記重合性組成物中に浸漬させつつ、炭素繊維束の走行方向と交差する面との交線が炭素繊維束側に凸である曲線となる曲面に接触させて、炭素繊維束への前記重合性組成物の含浸と炭素繊維束の開繊とを、前記重合性組成物の塊状重合が生じない温度範囲下にて同時に行う。
【0077】
本発明において、炭素繊維束は、例えば、炭素繊維束の送り出し手段から、得られるプリプレグの巻き取り手段に向って連続的に走行させる。その際、単繊維のもつれなく、炭素繊維束を充分に開繊させる観点から、炭素繊維束がたるまない程度に、炭素繊維束に適度に緊張を与えるのが好ましい。緊張の程度としては、通常、各単繊維に平均して0.01〜0.1gの張力が加わるような程度であるのが好ましい。走行する炭素繊維束への緊張の付与は、例えば、走行速度の調整や、ニップロール又はダンサーロールを用いることにより適宜行うことができる。炭素繊維束は、1本で用いてもよいし、又は複数本を一方向に互いに平行かつシート状に引き揃えて用いてもよい。
【0078】
炭素繊維束の前記重合性組成物への浸漬は、例えば、該組成物中を炭素繊維束を通過させることにより行うことができる。重合性組成物を炭素繊維束に充分に含浸させる観点から、その走行速度としては、通常、0.5〜30m/分、好ましくは1〜10m/分である。本発明においては、そのようにして炭素繊維束を重合性組成物中に浸漬させつつ、炭素繊維束の走行方向と交差する面との交線が炭素繊維束側に凸である曲線となる曲面に接触させて、炭素繊維束への重合性組成物の含浸と同時に、炭素繊維束の開繊を行う。炭素繊維束への重合性組成物の含浸と炭素繊維束の開繊とは実質的に同時に行われればよく、炭素繊維束の重合性組成物中への浸漬と、炭素繊維束の前記曲面との接触とは、必ずしも同時である必要はないが、炭素繊維束の適度な開繊と重合性組成物の充分な含浸を得る観点から、同時に行うのが好ましい。
【0079】
炭素繊維束の走行方向と交差する面としては、通常、その交差角が60〜120度になるような面であるが、特に炭素繊維束の走行方向と直交するような面であるのが好ましい。かかる面と前記曲面との交線はいずれも、炭素繊維束側に凸である曲線となるが、かかる曲線は、通常、炭素繊維束側に極大点を一つ有する曲線である。炭素繊維束の走行方向と交差する面との交線が、そのような曲線となる曲面であれば、その勾配が、極大点付近では小さく、端部にいくほど大きくなるので、炭素繊維束を構成する単繊維間の幅を一様に充分拡張することができる。
【0080】
炭素繊維束と前記曲面との接触は、通常、かかる曲面を表面に有する曲面体の該表面と炭素繊維束とを接触させることにより行われる。そのような曲面体としては、その中央部が高く、炭素繊維束の走行方向に対し左右対称になる曲面を有するものが好ましい。かかる曲面体の例としては、図1に示すかまぼこ状曲面体2が挙げられる。なお、図1には、曲面体2の表面に炭素繊維束1を接触させた状態の例を模式的に示す。本発明において、曲面体は固定されていてもよく、また、形態に応じて、回転するように設置されていてもよい。かかる曲面体の曲面の材質としては、特に限定されるものではなく、任意の金属やセラミック等が挙げられる。また、該曲面は、例えば、フッ素樹脂等の合成樹脂により被覆処理されていてもよい。
【0081】
工程(I)は、例えば、炭素繊維束の送り出し手段から、得られるプリプレグの巻き取り手段の間に、重合性組成物を充填するための空洞部と、炭素繊維束の走行方向と交差する面との交線が炭素繊維束側に凸である曲線となる曲面をその表面に有し、前記空洞部内に突出してなる曲面体部と、を有する重合性組成物充填部を設け、該空洞部内に充填された重合性組成物中を、連続的に走行する炭素繊維束を該曲面体部の表面に接触させながら通過させることにより好適に行うことができる。図2に、かかる重合性組成物充填部の一例を示す。図2の(A)は、該充填部中央の横方向での断面を示し、(B)は、該充填部を前方から見た様子を示す。図2の重合性組成物充填部は、炭素繊維束1の導入口3と導出口4、重合性組成物注入口(図示せず。)、重合性組成物充填用空洞部5、及び該空洞部の中に突出した、図1に示す形状を有する曲面体部2’を有する。図2における矢印は、炭素繊維束1が走行する向きを示す。
【0082】
工程(I)は、重合性組成物の塊状重合が生じない温度範囲下にて行われる。重合性組成物の塊状重合が生ずると重合性組成物の粘度が上昇し、該組成物の炭素繊維束への含浸が阻害されるためである。かかる温度範囲としては、重合性組成物の塊状重合が実質的に開始されない温度範囲であればよく、工程(I)を効率よく行う観点から、通常、−10〜+20℃の範囲が好適である。
【0083】
(工程(II))
工程(II)では、工程(I)に続いて、重合性組成物が含浸し、かつ開繊された炭素繊維束を加熱して重合性組成物の塊状重合を行う。
【0084】
工程(I)により、重合性組成物が含浸し、かつ開繊された炭素繊維束が連続的に得られるため、当該繊維束を、重合性組成物の塊状重合が開始される温度以上に加熱して、重合性組成物の塊状重合を行う。重合性組成物の塊状重合により得られる重合体はプリプレグのマトリックス樹脂となる。該マトリックス樹脂を架橋性樹脂とする観点から、加熱温度としては、実質的に塊状重合のみが進行して、架橋反応が生じない温度とするのが好ましい。例えば、重合性組成物が架橋剤としてラジカル発生剤を含有する場合、加熱温度としては、通常、30〜250℃、好ましくは50〜200℃、より好ましくは90〜150℃の範囲であって、かつラジカル発生剤の1分間半減期温度以下、好ましくは1分間半減期温度の10℃以下、より好ましくは1分間半減期温度の20℃以下である。重合時間は適宜選択すればよいが、通常、1秒間〜20分間、好ましくは10秒間〜5分間である。重合性組成物をかかる条件で加熱して塊状重合を行うと、未反応モノマーの少ない重合体が得られるので好適である。
【0085】
以上のようにして得られる重合体は、実質的に架橋構造を有さず、例えば、トルエンに可溶である。当該重合体の分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(溶離液:トルエン)で測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量で、通常、1,000〜1,000,000、好ましくは5,000〜500,000、より好ましくは10,000〜100,000の範囲である。
【0086】
工程(II)における、重合性組成物の塊状重合は、例えば、炭素繊維束の送り出し手段から、得られるプリプレグの巻き取り手段の間において、前記重合性組成物充填部の後に加熱炉をさらに設け、当該加熱炉中を、重合性組成物が含浸し、かつ開繊された炭素繊維束を通過させ、上記の通りの条件で加熱することにより行うことができる。
【0087】
本発明のプリプレグの製造方法は、以上のようにして行われるが、当該方法の実施にあたっては、例えば、図3に示すような装置が好適に用いられる。かかる装置では、炭素繊維束1の送り出し手段としての送出機6、図2に示されるものと同型の重合性組成物充填部7、加熱炉8、及びプリプレグの巻き取り手段としての巻取り機9が、この順序で直列に配置されている。重合性組成物充填部7には、チューブポンプ11を介してモノマー液タンク10と、チューブポンプ13を介して触媒液タンク12とが連結されたミキサー14が、該充填部7の重合性組成物注入口(図示せず。)に連結されている。また、炭素繊維束1は、重合性組成物充填部7を通過した後、カバーフィルム15と支持体16とにより挟まれるようになっている。なお、図3における矢印は、炭素繊維束1が走行する向きを示す。
【0088】
図3の態様では、炭素繊維束1は、重合性組成物充填部7を通過後、カバーフィルム15と支持体16とにより挟まれるが、カバーフィルムや支持体の供給手段を設けるのは任意である。カバーフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリアリレートフィルム、ナイロンフィルム、及びポリテトラフルオロエチレンフィルムなどが挙げられる。また、カバーフィルムとして離型紙を用いてもよい。支持体としては、上記フィルムの他、銅、アルミニウム、ニッケル、クロム、金、及び銀などからなる金属箔などが挙げられる。金属箔は、その表面がシランカップリング剤、チオール系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、及び各種接着剤等で処理されていてもよい。上記フィルム及び金属箔の厚さは、特に限定されないが、通常、1〜150μmである。
【0089】
図3のプリプレグ製造装置では、炭素繊維束1を送出機6により送り出し、炭素繊維束1がたるまない程度に適度に緊張を付与した状態で、巻取り機9に向って走行させる。送出機6により送り出された炭素繊維束1は重合性組成物充填部7を通過し、炭素繊維束1への重合性組成物の含浸と炭素繊維束1の開繊とが実質的に同時に行われる。なお、重合性組成物は、モノマー液が、モノマー液タンク10から、チューブポンプ11による送液制御の下、ミキサー14に送られ、触媒液が、触媒液タンク12から、チューブポンプ13による送液制御の下、ミキサー14に送られ、ミキサー14によるモノマー液と触媒液との混合により調製され、重合性組成物注入口から重合性組成物充填部7に供給される。重合性組成物の調製後、重合性組成物充填部7に供給するまでの時間としては、通常、重合性組成物の可使時間(モノマー液と触媒液との混合開始時点から、混合液が液体状からプリン状に変化して流動しなくなるまでの時間。ポットライフともいう。)未満が好ましく、可使時間の60%以下の時間内であるのが好ましい。
【0090】
重合性組成物充填部7を通過し、重合性組成物が含浸し、かつ開繊された炭素繊維束1(プリプレグ前駆体)は、カバーフィルム15と支持体16とにより挟まれた状態で加熱炉8に達する。加熱炉8で重合性組成物の塊状重合が行われてプリプレグとなり、巻取り機9により巻き取られる。なお、プリプレグ前駆体にカバーフィルム等を付着させた後、加熱炉8に送る前に、例えば、対向する1対のロールを設置し、該ロール間を通して該前駆体の厚さ調整を行ってもよい。
【0091】
本発明により得られるプリプレグは、マトリックス樹脂としてのシクロオレフィンポリマーが、適度に開繊した炭素繊維束に充分含浸されており、優れた剛性を有する。また、重合性組成物の塊状重合は完結されているため、保管中にさらに重合反応が進行するという恐れがない。さらに、ラジカル発生剤などの架橋剤を含有する場合があるが、架橋反応を生ずる温度以上に加熱しない限り、表面硬度が変化するなどの不具合を生じず、保存安定性にも優れる。
【0092】
本発明により得られるプリプレグの厚さは、所望により適宜選択すればよいが、通常、0.001〜10mm、好ましくは0.01〜1mm、より好ましくは0.05〜0.5mmの範囲である。
【0093】
本発明により得られるプリプレグは、繊維強化複合材料の製造に好適に用いられる。かかる繊維強化複合材料は、例えば、該プリプレグを、所望により賦形した後に架橋硬化することで得られる。また、該プリプレグを複数枚積層して、若しくは該プリプレグと他材料とを積層して、所望により賦形した後に架橋硬化することで、繊維強化複合材料を含んでなる積層体が得られる。前記他材料としては、所望により適宜選択すればよいが、例えば、公知の熱可塑性樹脂材料や金属材料などが挙げられる。架橋硬化は、例えば、平板成形用のプレス枠型を有する公知のプレス機、シートモールドコンパウンド(SMC)やバルクモールドコンパウンド(BMC)などのプレス成形機を用い、熱プレスすることで行なうことができる。加熱温度は、プリプレグで架橋反応が生ずる温度以上であり、プリプレグが架橋剤としてラジカル発生剤を含む場合、該ラジカル発生剤の1分間半減期温度以上、好ましくは1分間半減期温度より5℃以上高い温度、より好ましくは1分間半減期温度より10℃以上高い温度である。通常、100〜300℃、好ましくは150〜250℃の範囲である。加熱時間は、0.1〜180分間、好ましくは1〜120分間、より好ましくは2〜20分間の範囲である。プレス圧力としては、通常、0.1〜20MPa、好ましくは1〜10MPa、より好ましくは2〜5MPaである。熱プレスは、真空又は減圧雰囲気下で行ってもよい。
【0094】
本発明のプリプレグを用いて得られる繊維強化複合材料は、軽量且つ外観性に優れ、しかも機械強度と靭性に優れるので、例えば、OAやAV機器の筐体、自動車や鉄道などの車両用構造体材、航空機内装部品などをはじめとして、ゴルフシャフトや釣竿等のスポーツ用途、その他一般産業用途に好適に用いられる。
【実施例】
【0095】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。以下において「部」及び「%」は特に断りのない限り重量基準である。
【0096】
実施例1
図3に示す装置を用い、連続的にプリプレグの製造を行った。
【0097】
シクロオレフィンモノマーとして、ジシクロペンタジエン 50部及びテトラシクロドデセン 50部、架橋助剤としてトリメチロ−ルプロパントリメタクリレート 10部、連鎖移動剤としてメタクリル酸ビニル 2部、並びに架橋剤としてジ−t−ブチルパーオキサイド(1分間半減期温度:186℃)1.5部を攪拌しながら混合して、モノマー液を調製した。
【0098】
これとは別に、メタセシス重合触媒としてベンジリデン(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド 15部を、トルエン 40部に溶解させて触媒液を調製した。
【0099】
図3に示す装置のモノマー液タンク10及び触媒液タンク12に、上記で得たモノマー液及び触媒液を入れ、各タンクを10℃に冷却した。モノマー液及び触媒液をそれぞれ、モノマー液タンク10 及び触媒液タンク12からチューブポンプ11及び13を介して15mL/分及び0.15mL/分の流速でミキサー14に送って混合し、得られる重合性組成物を、重合性組成物充填部7内の、10℃に保たれた重合性組成物充填用空洞部に送液した。なお、ミキサー14として小型スタティックミキサーを用いた。
【0100】
一方、炭素繊維束送出機6から炭素繊維束(単繊維の太さ:6μm、単繊維数:12,000本)を送り出し、各単繊維に平均して0.1gの張力が加わるようにして1m/分の速度で走行させた。炭素繊維束は、重合性組成物充填部7を通過する際、重合性組成物充填用空洞部5にて、重合性組成物中に浸漬されつつ、かまぼこ状の曲面体部2’表面の曲面に接触して、重合性組成物の含浸と開繊を受け、プリプレグ前駆体を形成した。続いて、厚さ25μmの長尺状の連続したポリエチレンナフタレートフィルムをプリプレグ前駆体の両面に重ね合わせ、95±5℃に保たれた加温炉8に連続的に送った。加温炉8でプリプレグ前駆体を3分間加熱し、重合性組成物を塊状重合してプリプレグとし、前記フィルムごとプリプレグ巻取り機9で巻き取った。プリプレグの厚さは0.05mm、幅は300mmであった。得られたプリプレグでは、炭素繊維束は当初の約6mmの単繊維幅から約30mmの単繊維幅に拡張されており、炭素繊維含有量は65%であり、該繊維束にはシクロオレフィンポリマーが充分に含浸していた。なお、プリプレグの膜厚精度は±5μm以内であった。また、単糸切れや毛羽立ちは実質的に認められなかった。以上により、剛性に優れたプリプレグを連続的に効率よく製造することができた。
【符号の説明】
【0101】
1 炭素繊維束
2 かまぼこ状曲面体
2’かまぼこ状曲面体部
5 重合性組成物充填用空洞部
6 炭素繊維束送出機
7 重合性組成物充填部
8 加熱炉
9 プリプレグ巻取り機
10 モノマー液タンク
12 触媒液タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続的に走行する炭素繊維束を、シクロオレフィンモノマー及びメタセシス重合触媒を含む重合性組成物中に浸漬させつつ、炭素繊維束の走行方向と交差する面との交線が炭素繊維束側に凸である曲線となる曲面に接触させて、炭素繊維束への重合性組成物の含浸と炭素繊維束の開繊とを、重合性組成物の塊状重合が生じない温度範囲下にて同時に行う工程(I)と、
工程(I)に続いて、重合性組成物が含浸し、かつ開繊された炭素繊維束を加熱して重合性組成物の塊状重合を行う工程(II)と、
を有する、プリプレグの製造方法。
【請求項2】
工程(I)を行う温度範囲が−10〜+20℃である請求項1記載のプリプレグの製造方法。
【請求項3】
重合性組成物を充填するための空洞部と、炭素繊維束の走行方向と交差する面との交線が炭素繊維束側に凸である曲線となる曲面をその表面に有し、前記空洞部内に突出してなる曲面体部と、を有する重合性組成物充填部の該空洞部内に充填された重合性組成物中を、連続的に走行する炭素繊維束を通過させることにより、工程(I)を行う、請求項1又は2記載のプリプレグの製造方法。
【請求項4】
重合性組成物が、架橋剤をさらに含むものである請求項1〜3いずれか記載のプリプレグの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−207925(P2011−207925A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74174(P2010−74174)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】