説明

プリプレグ及び積層板

【目的】熱膨張係数が低く,打抜加工に対しても十分な耐衝撃強度,機械応力の緩和能力を有し,白化現象の発生,進展を抑えた打抜加工性が良好な積層板を提供する。
【解決手段】ワニスを繊維基材に含浸乾燥してなるプリプレグにおいて、前記ワニスが、熱硬化性樹脂,アクリロニトリル−ブタジエン共重合体エラストマー及び無機充填剤を成分として含有する、プリプレグ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,プリプレグ及び積層板に関する。
【背景技術】
【0002】
積層板(本発明において積層板には片面又は,両面を金属はくで覆った積層板,すなわち,金属張積層板を含む)は,次のようにして作製される。まず,熱硬化性樹脂,硬化剤など必要な材料を加えてワニスを調整し,このワニスを繊維基材に含浸乾燥してプリプレグを作製する。次に,このプリプレグを所定枚数重ねて加熱加圧して積層板を作製する。このとき,プリプレグの片面又は,両面に金属はくを重ねて加熱加圧すると金属張積層板となる。
【0003】
積層板,特に金属張積層板の主な用途は,プリント配線板である。このため積層板には,配線及び,層間電気接続を目的としたスルーホール等に使用される金属や,実装する半導体パッケージ材料との間に生ずる加熱応力を低減し,電気接続信頼性を高めるために熱膨張係数差を低減することが求められている。そこで,熱硬化性樹脂の熱膨張係数の低減のための手法の1つとして無機充填剤を添加,増量する方法がとられている。
【0004】
【特許文献1】特開昭49−109476号公報
【特許文献2】特開平1−221413号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の積層板の熱膨張係数低減の手法である,無機充填剤を添加,増量の手法では,無機充填剤を添加,増量するほどプリント配線板に加工するときの加工性,特に打抜加工性が低下する問題があった。そのため,熱膨張係数低減と打抜加工性の両立が困難であった。
本発明はこれらの課題を解決し,熱膨張係数が低く,打抜加工に対しても十分な耐衝撃強度,機械応力の緩和能力を有し,白化現象の発生,進展を抑えた打抜加工性が良好な積層板を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは,熱膨張係数の低減と打抜加工性の両立について鋭意追求した結果,熱硬化性樹脂,アクリロニトリル−ブタジエン共重合体エラストマー及び無機充填剤を成分として含有することにより,上記の課題が解決されることを見出し,本発明を完成するに至った。
本発明は以下の通りである。
(1)ワニスを繊維基材に含浸乾燥してなるプリプレグにおいて、前記ワニスが、熱硬化性樹脂,アクリロニトリル−ブタジエン共重合体エラストマー及び無機充填剤を成分として含有することを特徴とするプリプレグ。
(2)アクリロニトリル−ブタジエン共重合体エラストマーが,予め主鎖の構造単位の一部が架橋された粒子であることを特徴とする前記(1)記載のプリプレグ。
(3)前記(1)または(2)に記載のプリプレグを所定枚数重ねて加熱加圧してなる積層板。
【発明の効果】
【0007】
本発明により,打抜加工性が良好でかつ,熱膨張係数が低減された積層板を提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明において,成分として含有される熱硬化性樹脂としては,構造中にジヒドロベンゾオキサジン環を有する樹脂,エポキシ樹脂,ポリイミド樹脂等の公知の熱硬化性樹脂が挙げられ,特に制限はなく,これらの熱硬化性樹脂を2種類以上適宜組み合せて使用することもできる。
【0009】
これら熱硬化性樹脂には,必要な硬化剤及び硬化促進剤が用いられるが,硬化剤及び硬化促進剤としては,それぞれの熱硬化性樹脂について公知の硬化剤及び,硬化促進剤を使用することができ,特に,制限はない。
【0010】
本発明において,成分として含有されるアクリロニトリル−ブタジエン共重合体エラストマーについては,エラストマー主鎖にカルボシキル基,アミノ基等の官能基を導入したものが用いられる。さらに,アクリロニトリル−ブタジエン共重合体エラストマーについては,予め主鎖の構造単位の一部が架橋された粒子であることが好ましい。架橋構造を有するアクリロニトリル−ブタジエン共重合体エラストマーは,熱硬化性樹脂及び無機充填剤と混合硬化する際に粒子の凝集が起こらない限り,選択した粒子系をそのまま維持した海島型分散構造を容易に得ることができるため,熱膨張係数の上昇及び,ガラス転移温度(以下,Tgとする)の低下を抑え,可撓性,破壊靭性を向上させる。これに対し,架橋構造を有しないアクリロニトリル−ブタジエン共重合体エラストマーを用いた場合のスピダノール分解等で海である熱硬化性樹脂中にアクリロニトリル−ブタジエン共重合体エラストマーを析出分解させる方法では,アクリロニトリル−ブタジエン共重合体エラストマーの粒子径の制御が難しく,均一な海島構造ができないことがある。アクリロニトリル−ブタジエン共重合体エラストマーの主鎖の構造単位同志を架橋する方法としては,縮合等により架橋する等各種の方法がある。これらの粒子径は,熱硬化性樹脂及び無機充填剤への分散性の観点から10nm〜0.2mmが好ましく,0.5〜2μmであるのがより好ましい。
【0011】
本発明において使用される無機充填剤としては,水酸化アルミニウム,水酸化マグネシウム等の無機水和物,アルミナ,シリカ,ガラス粉等の汎用無機充填剤等を限定なく目的に応じて使用可能であり,また,これら無機充填剤をシランカップリング剤やチタネートカップリング剤などによりコート又は処理して使用することにより熱硬化性樹脂及びアクリロニトリル−ブタジエン共重合体エラストマーとの接着性や,耐熱性,温湿度に対する安定性や安全性が増し好ましい。これらの粒子径は,熱硬化性樹脂及びアクリロニトリル−ブタジエン共重合体エラストマーへの分散性の観点から,0.02μm〜200μmであるのが好ましく,0.05μm〜100μmであるのがより好ましい。
【0012】
熱硬化性樹脂,アクリロニトリル−ブタジエン共重合体エラストマー及び無機充填剤の配合割合は,熱硬化性樹脂100質量部に対して,アクリロニトリル−ブタジエン共重合体エラストマーを1〜10質量部、無機充填剤を20〜140質量部とするのが好ましい。アクリロニトリル−ブタジエン共重合体エラストマーが1質量部未満であると打抜加工に対する耐衝撃強度,機械応力の緩和能力が低下し,白化現象の発生,進展の抑制効果が小さくなり,無機充填剤が20質量部未満であると熱膨張係数の低減効果が小さくなる。また,アクリロニトリル−ブタジエン共重合体エラストマーが10質量部を超える場合、または無機充填剤が140質量部を超える場合には,熱硬化性樹脂の量が相対的に少なくなり,熱硬化性樹脂の相が連続しなくなるため,金属はくとの接着性低下に伴う加熱応力等に対する電気接続信頼性が低下する傾向にある。
【0013】
このことから,熱硬化性樹脂100質量部に対して,アクリロニトリル−ブタジエン共重合体エラストマーを2〜5質量部、無機充填剤を30〜130質量部とするのが,より好ましい。
【0014】
本発明は,熱膨張係数が小さい無機充填剤の添加と高い可撓性,破壊靭性向上効果を有するアクリロニトリル−ブタジエン共重合体エラストマーを使用することにより,熱膨張係数低減による優れた電気接続信頼性と耐衝撃強度,機械的応力の緩和能力向上による優れた打抜き加工性を両立可能としている。
さらに,予め主鎖の構造単位の一部が架橋されたアクリロニトリル−ブタジエン共重合体エラストマー粒子は,熱硬化性樹脂及び無機充填剤と混合硬化する際に粒子の凝集が起こらない限り,選択した粒子系をそのまま維持した海島型分散構造を容易に得ることができるため,熱膨張係数の上昇及び,Tgの低下を抑えかつ,可撓性,破壊靭性を向上させる。
【実施例】
【0015】
(実施例1)
フェノール性水酸基を有する化合物,ホルマリン,1級アミンから合成される構造中にジヒドロベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂80質量部,ビスフェノールA型臭素化エポキシ樹脂(エポキシ当量400g/eq,臭素含有量48質量%)20質量部,さらに硬化剤としてフェノールノボラック樹脂(軟化点89℃,水酸基当量106,平均構造4核体,日立化成工業株式会社製,HP−850N(商品名)),触媒として2エチル4メチルイミダゾール,架橋アクリロニトリル−ブタジエン共重合体エラストマー(日本合成ゴム株式会社製,XER−91(商品名))1質量部,水酸化アルミニウム(平均粒径約3μm)130質量部を,メチルエチルケトンとジメチルホルムアミドとの等量(重量比)混合溶剤に,溶解分散させることによりワニスを調製した。
【0016】
〔1〕ジヒドロベンゾオキサジン環を有する樹脂の合成
(1)フェノールノボラックの合成
フェノール1.9kg,ホルマリン(37%水溶液)1.15kg,しゅう酸4gを5リットルフラスコに仕込み,還流温度で6時間反応させた。引き続き,内部を6666.1Pa以下に減圧して未反応のフェノールおよび水を除去した。得られた樹脂は軟化点89℃(環球法),3核体以上/2核体比=89/11(ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるピーク面積比)であった。
【0017】
(2)ジヒドロベンゾオキサジン環の導入
上記により合成したフェノールノボラック樹脂1.7kg(ヒドロキシル基16molに相当)をアニリン1.49kg(16molに相当)と80℃で5時間撹袢し,均一な混合溶液を調整した。5リットルフラスコ中に,ホルマリン1.62kgを仕込み90℃に加熱し,ここへノボラック/アニリン混合溶液を30分間かけて少しずつ添加した。添加終了後30分間,還流温度に保ち,然る後に100℃で2時間6666.1Pa以下に減圧して縮合水を除去し,反応しうるヒドロキシル基の95%がジヒドロベンゾオキサジン化された下記式(1)に示す熱硬化性樹脂を得た。
【0018】
【化1】

(式中のRはアルキル基,シクロヘキシル基,フェニル基またはアルキル基もしくはアルコキシル基で置換されたフェニル基である。)
【0019】
この調整したワニスを厚さ200μmmのガラスクロス基材(坪量210g/m)に固形分46質量%になる様に含浸し,乾燥して,プリプレグを作製した。作製したプリプレグを8枚重ね,その両面に厚さ18μmの銅はくを重ね,温度185℃,圧力4MPaで100分間加熱加圧することにより厚さ1.5mmの両面銅張積層板を作製した。
【0020】
(実施例2)
架橋アクリロニトリル−ブタジエン共重合体エラストマーを液状アクリロニトリル−ブタジエン共重合体エラストマー(日本ゼオン株式会社製,ニポール1072B(商品名))に変更し,1質量部としたほかは,実施例1と同様にして,ワニスを調整し,プリプレグを作製し,両面銅張積層板を作製した。
【0021】
(比較例1)
架橋アクリロニトリル−ブタジエン共重合体エラストマーを,配合せず,そのほかは,実施例1と同様にして,ワニスを調整し,プリプレグを作製し,両面銅張積層板を作製した。
【0022】
試験方法は以下の通りとした。
厚さ方向の熱膨張係数及びTgは,JIS C−6481に定めるTMA法に従って測定した。熱膨張係数は,20℃〜125℃の範囲で算出した。
打抜加工性は,プレスとスリットを有する外形用打抜き金型を使って,温度20℃,ホルダー力2.9t,ノックアウト力4.5tの条件で試験し,打抜箇所縁部の白化現象を白化の最大長さにて評価した。
これらの結果を表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
表1から,アクリロニトリル−ブタジエン共重合体エラストマーを配合しない比較例1に対し,アクリロニトリル−ブタジエン共重合体エラストマーを配合した実施例1,2では,打抜加工時に発生する白化現象の長さの最大値が約1/2に短くなっていること,熱膨張係数,Tgは同等ないし,やや劣る程度であること,アクリロニトリル−ブタジエン共重合体エラストマーとして,架橋アクリロニトリル−ブタジエン共重合体エラストマーを配合した実施例1は,液状アクリロニトリル−ブタジエン共重合体エラストマーを配合した実施例2と比較して,熱膨張係数の上昇及び,Tgの低下が小さいことが示される。
【0025】
本発明の積層板により,熱膨張係数の低減と打抜加工性を両立した積層板を提供可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワニスを繊維基材に含浸乾燥してなるプリプレグにおいて、前記ワニスが、熱硬化性樹脂,アクリロニトリル−ブタジエン共重合体エラストマー及び無機充填剤を成分として含有することを特徴とするプリプレグ。
【請求項2】
アクリロニトリル−ブタジエン共重合体エラストマーが,予め主鎖の構造単位の一部が架橋された粒子であることを特徴とする請求項1記載のプリプレグ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のプリプレグを所定枚数重ねて加熱加圧してなる積層板。

【公開番号】特開2010−95647(P2010−95647A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−268556(P2008−268556)
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】