説明

プリント配線基板を形成するための表面処理方法及びその表面処理方法に用いられるエッチング処理液

【課題】めっき皮膜が基板から引き剥がれることなく、絶縁樹脂基板とめっき皮膜との密着を向上させる。
【解決手段】シリカ系フィラーを含有する絶縁樹脂基板を粗化処理する粗化処理工程と、粗化処理工程により絶縁樹脂基板上に生成した処理残渣を還元して溶解する還元処理工程と、絶縁樹脂基板に含有されるフィラーをエッチングするエッチング処理工程と、エッチング処理工程にてエッチングされた絶縁樹脂に対してめっき処理を施すめっき処理工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ系フィラーを含有する絶縁樹脂を用いてプリント配線基板を形成するための表面処理方法及びその表面処理方法に用いられるエッチング処理液に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロニクス産業の飛躍的発展に伴い、プリント配線基板も、高密度化、高性能化の要求が高まり需要が大きく拡大している。特に、携帯電話やノートパソコン、カメラ等の最新デジタル機器のマザー配線基板においては、その小型化・薄型化に従って、配線パターンの高密度化・微細化の要望が高まっている。また、搭載された部品と部品との間において、より高周波で接続することの要求も高まっており、このことから、高速信号を扱うことが有利な表面粗さ(微小な凹凸)の小さな基材が求められている。
【0003】
現在、ビルドアップ工法における実装技術としては、セミアディティブ法やフルアディティブ法による配線基板の製造方法が多用されている。
【0004】
ビルドアップ工法のセミアディティブ法では、絶縁樹脂基板の表面を粗化した後に触媒を付与し、無電解銅めっき等の無電解めっき処理を行い、さらに電気銅めっき等の電気めっき処理を行う。また、フルアディティブ工法では、絶縁樹脂材の表面を粗化した後に触媒を付与し、無電解銅めっき等の無電解めっき処理のみを行う。これら絶縁樹脂材とめっきと皮膜の密着は、絶縁樹脂材表面を粗化することで形成される基板表面の凹凸のアンカーへの投錨効果により得られている。
【0005】
ところで、ビルドアップ工法に使用される絶縁樹脂には、シリカ系フィラーが含有されている場合が多く、このフィラーによって絶縁樹脂の機械的、電気的特性の改善を図ることが可能となっており、また一方で、絶縁樹脂の粗化時にアンカーを生成し、めっき皮膜との密着を向上させる役割も担っている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、最近の基材は、高速信号を扱うためや高密度な配線(配線自体および配線間のスペースが狭い配線)を得るために、基材表面の粗さ(アンカーとなる凹凸)を小さくすることが求められるようになってきており、アンカー効果はより小さくなってきている。このため、絶縁樹脂材とめっき皮膜との十分な密着が得られなくなってきており、良好な回路基板を形成することができなくなっている。
【0007】
【特許文献1】特開平11−067900号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、これら従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、高速信号や高密度配線に適した表面粗さの小さな基材でも、絶縁樹脂材とめっき皮膜との十分な密着が得られるプリント配線基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、シリカ系フィラーを含有する絶縁樹脂基板に対し、当該絶縁樹脂基板を粗化処理した後に、フッ素化合物を含有させた処理液でエッチング処理することにより、絶縁樹脂材とめっき皮膜の密着性を向上させることが可能であることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明に係る表面処理方法は、絶縁樹脂基板を粗化処理する粗化処理工程と、上記粗化処理工程により上記絶縁樹脂基板上に生成した処理残渣を還元処理する還元処理工程と、上記絶縁樹脂基板に含有されるフィラーをエッチングするエッチング工程と、上記エッチング工程にてエッチングされた絶縁樹脂に対してめっき処理を施すめっき処理工程とを有する。
【0011】
また、本発明の他の実施形態に係る表面処理方法は、絶縁樹脂基板を粗化処理する粗化処理工程と、上記粗化処理工程により上記絶縁樹脂基板上に生成した処理残渣を還元処理するとともに、該絶縁樹脂基板に含有されるフィラーをエッチングする還元及びエッチング処理工程と、上記還元及びエッチング工程にてエッチングされた絶縁樹脂に対してめっき処理を施すめっき処理工程とを有する。
【0012】
また、本発明に係る表面処理方法におけるフィラーのエッチング処理工程では、フッ素化合物を含有するエッチング処理液を用いてフィラーをエッチングする。
【0013】
そして、そのエッチング処理液に含有されるフッ素化合物としては、フッ化水素、フッ化ナトリウム、ホウフッ化水素酸、フッ化水素アンモニウム、フッ化水素ナトリウム、ヘキサフルオロケイ酸アンモニウム、ヘキサフルオロリン酸アンモニウム等が挙げられる。
【0014】
また、本発明に係るエッチング処理液は、上記表面処理方法に用いられ、フッ素化合物を含有し、絶縁樹脂に添加されるフィラーをエッチングするエッチング処理液である。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る表面処理方法によれば、表面の粗さが小さな基板でもめっき皮膜との十分な密着が得られ、高速信号を扱うプリント配線基板や配線密度の高いプリント配線基板の製造に好適に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本実施の形態に係る回路基板の製造方法について詳細に説明する。
【0017】
本実施の形態に係る表面処理方法は、シリカ系フィラーを含有する絶縁樹脂基板に対する表面処理方法であって当該絶縁樹脂基板を粗化処理する粗化処理工程と、粗化処理工程により絶縁樹脂基板上に生成した処理残渣を還元反応により溶解除去する還元処理工程と、絶縁樹脂基板に含有されるフィラーを、フッ素化合物を含有するエッチング処理液を用いてエッチングするエッチング処理工程と、エッチング工程にてエッチングされた絶縁樹脂基板に対してめっき処理を施すめっき処理工程とを有する。
【0018】
また、他の実施形態に係る表面処理方法は、上述のようにシリカ系フィラーを含有する絶縁樹脂基板を粗化処理した後、処理残渣を還元反応により溶解除去する還元処理とともに、絶縁樹脂基板に含有されるフィラーをフッ素化合物を含有するエッチング処理液を用いてエッチングするフィラーエッチング処理を同時に行い、エッチングされた絶縁樹脂基板に対してめっき処理を施す。
【0019】
このように、以下に詳細に説明する表面処理方法は、シリカ系フィラーを含有する絶縁樹脂基板に対し、当該絶縁樹脂基板の粗化処理に伴う処理残渣に対する還元処理後に、又はその還元処理と同時に、フッ素化合物を含有する処理液を用いて、絶縁樹脂基板に含有されるフィラーに対してエッチング処理を施すことを特徴としている。このように、フッ素化合物を含有させた処理液によってエッチング処理を施すことにより、シリカ系フィラーを含有する絶縁樹脂基板と、後のめっき処理にて形成させるめっき皮膜との密着を向上させることができる。
【0020】
従来のシリカ系フィラーを含有する絶縁樹脂材に対する一般的な表面処理方法としては、N−メチル−2−ピロリドン等の膨潤液による膨潤処理後、過マンガン酸ナトリウム溶液又は過マンガン酸カリウム溶液等によって樹脂基板をエッチング処理して粗化する。そしてその後、硫酸ヒドロキシルアミン等の溶液によって、樹脂基板に残留している、例えばマンガン酸化物等を還元して溶解させる還元処理を行う。
【0021】
より具体的に説明すると、まず、シリカ系フィラーを含有する絶縁樹脂基板に対する膨潤処理としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクトン等を含有した膨潤液を用い、約60〜90℃程度の条件で10〜30分間、絶縁樹脂基板をその膨潤液に浸漬させる。このようにして、絶縁樹脂基板に対して膨潤処理を施すことによって、後工程における粗化処理において基板表面を粗化し易くする。
【0022】
そして、膨潤処理を施した絶縁樹脂基板を水洗後、次に、例えば過マンガン酸ナトリウム溶液、過マンガン酸カリウム、クロム酸ナトリウム、クロム酸カリウム等を含有するエッチング液に、その絶縁樹脂基板を接触させることによって、基板表面を粗化する。具体的には、例えば50〜80℃程度の温度条件で1〜10分間、樹脂表面を粗化する。
【0023】
そして、このようにして樹脂基板の表面を粗化すると、次に、粗化処理によって樹脂基板表面に生じた処理残渣を溶解除去する。具体的には、粗化処理で用いたエッチング処理液に含有されていた、例えば過マンガン酸ナトリウムに由来するマンガン酸化物が残渣となって生じた樹脂基板表面を、還元剤を含有した処理液を用いて還元反応により溶解除去することによって清浄にする。還元処理液としては、例えば、硫酸ヒドロキシルアミン、次亜リン酸ナトリウム、アミノボラン、ジメチルアミンボラン、ハイドロサルファイト、ホルマリン等の還元剤を含有する処理液を用い、約20〜90℃程度の温度条件で約5〜30分間、絶縁樹脂を浸漬させてマンガン酸化物等の粗化処理残渣を溶解除去する。
【0024】
以上のようにして、めっき前処理工程を経ると、その絶縁樹脂基板に対してめっき処理を施す。めっき前処理に際しては、触媒の付与や、めっきレジストの形成等、所望の回路パターンとなるような処理を行い、セミアディティブ法やフルアディティブ法等を利用して、めっき皮膜を形成していく。
【0025】
このような従来の表面処理方法においては、例えば、高密度、高精細なプリント配線基板の製造を考慮して小さい凹凸を基板表面に形成させた場合には、樹脂基板と後の工程にて形成させるめっき皮膜とを十分に密着させることができなくなってしまう。一方で、密着性を考慮して、樹脂基板に対して大きな凹凸を形成させた場合には、めっき皮膜との密着を向上させることはできるものの、高速信号を扱う基板や、高密度な配線には適さない不良な回路基板が製造されてしまうこととなる。
【0026】
そこで、本実施の形態に係る表面処理方法では、上述した従来の表面処理方法における還元処理時に、又は還元処理の後に、シリカ系フィラーをエッチングさせる効果のあるエッチング処理液(以下、フィラーエッチング処理液という。)を用いて、エッチング処理を施すことを特徴としている。
【0027】
本実施の形態に係る表面処理方法におけるフィラーエッチング処理に用いられるフィラーエッチング処理液には、フッ素化合物が含有されていることを特徴としている。このフッ素化合物としては、フッ化水素、フッ化ナトリウム、ホウフッ化水素酸、フッ化水素アンモニウム、フッ化水素ナトリウム、ヘキサフルオロケイ酸アンモニウム、ヘキサフルオロリン酸アンモニウム等から選択される1種を、又は2種以上を任意の割合で混合させて用いることができる。
【0028】
本実施の形態に係る表面処理方法においては、このフィラーエッチング処理液を用いたフィラーのエッチング処理を、絶縁樹脂基板のエッチング後の残留したマンガン酸化物等の処理残渣に対する還元反応による溶解処理(還元処理)後に、又はこの溶解処理時に同時に行う。したがって、溶解処理後にフィラーエッチング処理を行う場合には、還元処理後、適宜樹脂基板の水洗処理等を経て、当該フィラーエッチング処理液に樹脂基板を含浸させる等して、エッチング処理を行う。一方、溶解処理時にフィラーエッチング処理を同時に行う場合には、還元剤を含有した溶解処理液にフィラーエッチング処理液を含有させることによって処理する。
【0029】
このように、本実施の形態に係る表面処理方法においては、膨潤処理を施した樹脂基板に対する過マンガン酸カリウム等による粗化処理後、さらにはその粗化処理によって生じた処理残渣の還元反応による溶解除去後に、フィラーをエッチングするようにしている。すなわち、過マンガン酸カリウム等による粗化処理を行う前にフィラーをエッチングしようとしても、フィラーは樹脂に覆われるようにして含有されているので、効果的にフィラーをエッチングすることはできず、その結果として、樹脂基板とめっき皮膜との十分な密着性の向上効果を発揮させることができない。そこで、本実施の形態に係る表面処理方法においては、フィラーを覆っている樹脂を、その樹脂基板を粗化させることによって除き、さらに粗化処理によって生じた酸化物等の残渣も除いた後に、または残渣を除くと同時に、フィラーをエッチングするようにしている。これにより、樹脂基板に含有されているフィラーを効果的にエッチング処理することができ、その結果樹脂基板とめっき皮膜との十分な密着性の向上効果を発揮させることが可能となる。
【0030】
そのフィラーエッチング処理と同時に行う、又はフィラーエッチング処理の前に行う還元処理は、上述したように、絶縁樹脂基板に対する過マンガン酸溶液等によるエッチング処理によって生成した酸化残留物等の処理残渣を、還元反応によって溶解除去させる処理である。本実施の形態に係る表面処理方法における還元処理に用いられる還元処理液としては、従来と同様に、例えば硫酸ヒドロキシルアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸等、種々のアミン系化合物からなる還元剤を含有させることができる。また、これらのアミン系化合物等の還元剤を含有させた還元処理液には、硫酸または水酸化ナトリウム等のpH調整剤や、樹脂基板の表面濡れ性を向上させることを目的として、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリアセチレングリコールといった非イオン系界面活性剤等の界面活性剤を含有させることもできる。
【0031】
また、還元処理と同時にではなく、当該残留酸化物等の処理残渣に対する溶解除去のための還元処理の後にフィラーエッチング処理を行う場合、すなわち、フィラーエッチング処理のみを還元溶解処理後に行う場合においても、そのフィラーエッチング処理液は、上述したアミン系化合物等を含有させた還元剤を用いることができ、さらに硫酸あるいは水酸化ナトリウム等のpH調整剤、基板の表面濡れ向上等を目的とした界面活性剤等を含有させることができる。
【0032】
また、本実施の形態に係る表面処理方法におけるフィラーエッチング処理は、処理対象である絶縁樹脂の表面粗さがほとんど変化しない程度で処理を行うことが好ましい。すなわち、フィラーエッチング処理は、過剰に行うとフィラーのエッチングが過剰となり、絶縁樹脂の表面粗さが増加してしまうこととなる。この場合、高速信号を扱う配線や、高密度な配線に対して、表面粗さの増加した配線基板を用いると、短絡や断線等の接続性を低下させる要因となり、良好な回路基板を製造することができなくなる。したがって、本実施の形態に係る表面処理方法では、これらの配線基板に良好に適用することができるように、表面粗さを粗くしないような処理条件でフィラーエッチング処理を施すことが好ましい。
【0033】
具体的には、処理温度としては、20〜50℃程度の範囲内に設定された処理液を用い、また処理時間として、1〜15分程度の間、その処理液に含浸させて処理することが好ましい。さらに、上述した処理液に含有されるフッ素化合物濃度としては、1〜100g/L程度の範囲内に設定することが好ましい。
【0034】
このように、本実施の形態に係る表面処理方法においては、フッ素化合物を含有する処理液を用いて樹脂基板に含有されているフィラーをエッチングするようにしている。これにより、微小なアンカーを形成させることが可能となっている。すなわち、樹脂基板に含有されているフィラーをエッチングすることによって、このフィラーのエッチング処理によって形成される小さくなったフィラーと、フィラーを保持している樹脂との間に間隙が形成されるようになり、この間隙が、後工程のめっき処理によって析出されるめっき皮膜を保持するアンカーとして作用するようになる。そして、このアンカー効果により、表面粗さの小さな基板でも、めっき皮膜と樹脂基板との密着を向上させることが可能となっている。
【0035】
なお、本実施の形態に係る表面処理方法を適用することができる絶縁樹脂としては、デスミア処理やフィラーエッチング処理に用いられる溶液に容易に溶解することのない樹脂であればよく、例えば、電気絶縁樹脂として広く用いられているエポキシ樹脂の他、イミド樹脂や、フェノールホルムアルデヒド樹脂、ノボラック樹脂、メラミン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ビスマレイミド―トリアジン樹脂、シロキサン樹脂、マレイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルサルホン等を用いることができるが、これらの限られるものでなく、また一例として挙げた上述の樹脂から選択された2種以上の樹脂を任意な割合で混合させて生成した樹脂を用いて、本実施の形態に係る表面処理方法を適用し、めっき皮膜を形成させるようにしてもよい。
【0036】
そして、上述したように、フィラーエッチング処理を施した後には、周知の方法によりめっき処理を施し、めっき皮膜を形成させる。このめっき処理においては、セミアディティブ法を用いてもよく、フルアディティブ法を用いて処理するようにしてもよい。
【0037】
以下では具体的に、フルアディティブ法によるめっき処理について説明する。なお、以下の説明においては、銅めっき皮膜を形成する例について具体的に説明するが、金属めっき皮膜は銅めっき皮膜に限られず、ニッケル等のその他の金属めっき皮膜であっても、本実施の形態に係る表面処理方法を適用することができる。また、上述したように、本実施の形態に係る表面処理方法では、めっき処理として、フルアディティブ法によるめっき処理だけではなく、セミアディティブ法を用いて、電気めっきによりめっき皮膜を形成するようにしてもよい。
【0038】
上述した、絶縁樹脂基板に対する膨潤処理、粗化処理を経た後、粗化処理により発生した処理残渣に対する還元溶解処理と共に、または還元溶解処理の後に、フッ素化合物を含有するフィラーエッチング処理液を用いてフィラーに対してエッチング処理を施すと、まず、周知の方法により清浄処理を施して樹脂基板をクリーニングする。清浄処理は、例えば、清浄溶液中に65℃で5分間、表面処理を施した樹脂基板を浸漬させて、表面のゴミ等を除去するとともに、樹脂基板に水濡れ性を与える。溶液としては、酸性溶液を用いても、アルカリ性溶液を用いてもよい。この清浄処理工程によって、樹脂基板の表面を清浄にし、後工程にて形成されるめっき皮膜のより一層の密着性等を向上させる。
【0039】
そして、このようにして樹脂基板をクリーニングすると、次に、回路パターンを形成させる樹脂基板の表面に触媒を付与する。この触媒付与において用いられる触媒は、例えば、2価のパラジウムイオン(Pd2+)を含有した触媒液、例えば、塩化パラジウム(PdCl・2HO)、塩化第一スズ(SnCl・2HO)、塩酸(HCl)等を組成する混合溶液を用いることができる。また、この触媒液の濃度としては、例えば、Pd濃度が100〜300mg/L、Sn濃度が10〜20g/L、HCl濃度が150〜250mL/Lの各濃度組成とすることができる。そして、この触媒液中に樹脂基板を、例えば温度30〜40℃の条件で1〜3分間浸漬させて、まずPd−Snコロイドを樹脂基板の表面に吸着させ、そして次に常温条件下で、例えば50〜100mL/Lの硫酸又は塩酸からなるアクセレータ(促進剤)に浸漬させて触媒の活性化を行う。この活性化処理によって、錯化合物のスズが除去され、パラジウム吸着粒子となり、最終的にパラジウム触媒として、その後の無電解銅めっきによる銅の析出を促進させるようにする。なお、水酸化ナトリウムやアンモニア溶液をアクセレータとして用いてもよい。また、この樹脂基板に対する触媒付与に際しては、コンディショナー液やプレディップ液を用いた前処理を施し、より樹脂基板と銅めっき皮膜との密着性をより一層に高めるようにしてもよく、さらに触媒の樹脂基板の表面への馴染みを良くする前処理を施すようにしてもよい。なお、触媒液は、当然上記のものに限られるものではない。
【0040】
次に、このようにして樹脂基板に触媒を付与した後、適宜、所望の回路パターンを形成するためのめっきレジストを形成する。つまり、次の工程で回路パターンを構成する銅めっき皮膜を析出させる箇所以外をマスキングするレジストパターンを形成する。このレジストパターンは、めっき処理終了後にエッチング操作等により剥離除去してもよいが、めっき処理後に剥離除去せずに、ソルダーレジストとして機能するようにしてもよい。めっきレジストの形成方法は、周知の方法を用いて行うことができる。
【0041】
そして、めっきレジストを形成すると、次に、無電解めっき法により、銅めっき皮膜を析出させ、回路パターンを形成する。なお、無電解めっき法により銅めっき皮膜を析出させるにあたり、めっきレジストの形成後、例えば10%硫酸及びレデュサーを用いて、樹脂基板の表面に付着している触媒のパラジウム吸着粒子を還元することによって触媒を活性化させ、樹脂基板上における銅めっきの析出を向上させるようにしてもよい。
【0042】
具体的に、このめっき処理においては、無電解銅めっき浴として、例えば、錯化剤としてEDTAを用いためっき浴を用いることができる。この無電解銅めっき浴の組成の一例としては、硫酸銅(10g/L)、EDTA(30g/L)を含有し、水酸化ナトリウムによってpH12.5に調整された無電解銅めっき浴を使用することができる。また、錯化剤としてロッシェル塩を用いた無電解銅めっき浴を使用してもよい。そして、この無電解銅めっき浴中に樹脂基板を、例えば60〜80℃の温度条件で30〜600分間浸漬することによって、銅めっき皮膜を形成させていく。また、例えば、多層配線基板において下層との導通のためのビア等を形成させた場合には、液の攪拌を十分に行って、ビアにイオン供給が十分に行われるようにするとよい。攪拌方法としては、空気攪拌やポンプ循環等による方法等を適用することができる。
【0043】
なお、このめっき処理においては、樹脂基板との密着をさらに向上させるために、二段階めっきを施すようにしてもよい。すなわち、樹脂基板上に下地めっき皮膜を形成する一次めっき処理を行い、そして形成された下地めっき皮膜上に、下地めっき皮膜よりも膜厚の厚い厚付けめっき皮膜を形成する二次めっき処理を行って回路パターンを形成するようにしてもよい。そして特に、一次めっき処理に際しては、二次めっき処理において形成される厚付けめっき皮膜の内部応力の向きとは異なる向きの内部応力、換言すると、二次めっき処理において形成される厚付けめっき皮膜の内部応力とは逆方向の向きの内部応力であって、一般的には引張内部応力を有する下地めっき皮膜を形成させる無電解めっき浴を用いてめっき処理を行うようにしてもよい。
【0044】
なお、上述しためっき処理において用いためっき浴及びその組成、処理条件等は一例であり、当然これらに限られるものではない。
【0045】
以上説明したように、本実施の形態に係る表面処理方法は、従来の表面処理方法とは異なり、シリカ系フィラーを含有する絶縁樹脂基板を粗化処理し、その粗化処理によって生成した残渣を還元処理液を用いて溶解除去する還元処理した後に、又はその還元処理とともに、フッ素化合物を含有するフィラーエッチング溶液を用いて、絶縁樹脂基板に含まれているフィラーをエッチングするようにしている。これにより、樹脂基板に含有されているフィラーを効果的にエッチング処理することができるとともに、そのフィラーのエッチング処理によって、フィラーと樹脂との間にアンカー効果を発揮する微小な間隙を形成させることができるようになる。その結果、その微小な間隙にめっき皮膜が析出されるようになり、基板の表面粗さを粗くしなくとも、析出生成しためっき皮膜と樹脂基板との密着を向上させることができ、短絡等の接続性を高いプリント配線基板を製造することが可能となる。
【0046】
また、このように、表面粗さを粗くしなくとも密着を向上させることができるので、高速信号や高密度配線等の表面粗さの小さいプリント配線基板の製造に、特に好適に適用することができる。
【0047】
なお、本実施の形態に係る表面処理方法は、表面粗さの小さくない基材にも適用することができることはいうまでもない。
【0048】
本発明は、上述の実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲での設計変更等があっても本発明に含まれる。
【0049】
また、本発明は、配線基板の製造方法、ビルドアップ工法による高密度多層配線基板の製造にのみ適用されるものではなく、例えば、ウエハレベルCSP(Chip SizエポキシPackageまたはChip ScalエポキシPackage)、あるいはTCP(Tape Carrier Package)等における多層配線層の製造工程にも適用されるものである。
【実施例】
【0050】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。なお、下記に詳述する実施例1及び2、並びに比較例1及び2の各実験においては、アンカー効果の小さい、すなわち表面粗さの小さい基材を用いてめっき処理を施し、めっき皮膜の基板からの引き剥がれ性について調べた。なお、本発明は、下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0051】
(実施例1)
一般的な絶縁樹脂(味の素ファインテクノ株式会社製 ABF-GX13)を積層させた基板を用い、この基板を膨潤液(上村工業株式会社製 DEC-501)及び樹脂エッチング液(上村工業株式会社製 DES-502)により粗化した後、還元液(上村工業株式会社製 DEN-503H)にフッ化水素ナトリウム30g/Lを含有させた還元処理液にて、30℃の温度条件で10分間の還元処理及びフィラーエッチング処理を行い、基板の表面粗さを測定した。
【0052】
続いて、その基板に対して、触媒付与プロセス(スルカッププロセス:クリーナーコンディショナーACL-009、プレディップ PED-104、キャタリスト AT-105、アクセレレータ AL-106(全て上村工業株式会社製))により触媒を付与した後、無電解銅めっき液(上村工業株式会社製 PEA)にて無電解銅めっき処理を行い、1μmのめっき皮膜を形成させた。そして、さらに電気銅めっき液(上村工業株式会社製 ETN)を用いて、電気銅めっき処理を行い、30μmの厚みの銅めっき皮膜を形成させ、銅めっき皮膜の引き剥がし強度を測定した。
【0053】
(実施例2)
実施例1と同じく、一般的な絶縁樹脂(味の素ファインテクノ株式会社製 ABF-GX13)を積層させた基板を用い、この基板を膨潤液(上村工業株式会社製 DEC-501)及び樹脂エッチング液(上村工業株式会社製 DES-502)により粗化した後、この実施例2においては、まず還元液(上村工業株式会社製 DEN-503H)にて還元処理を行い、引き続きフッ化水素ナトリウム30g/Lを含むエッチング処理液にて、30℃の温度条件で10分間のフィラーエッチング処理を行い、基板の表面粗さを測定した。すなわち、実施例1とは異なり、還元処理の後に、独立してフィラーエッチング処理を行った。
【0054】
その後、実施例1と同様に、前処理、無電解銅めっき、電気銅めっきを行って、銅めっき皮膜の引き剥がし強度を測定した。
【0055】
(比較例1)
実施例1と同じく、一般的な絶縁樹脂(味の素ファインテクノ株式会社製 ABF-GX13)を積層させた基板を用い、この基板を膨潤液(上村工業株式会社製 DEC-501)及び樹脂エッチング液(上村工業株式会社製 DES-502)により粗化した後、還元液(上村工業株式会社製 DEN-503H)にて還元処理を行い、基板の表面粗さを測定した。しかしながら、この比較例1においては、実施例1及び2とは異なり、フィラーエッチング処理は行わなかった。
【0056】
その後、引き続き、実施例1と同様に、前処理、無電解銅めっき、電気銅めっきを行って、銅めっき皮膜の引き剥がし強度を測定した。
【0057】
(比較例2)
実施例1と同じく、一般的な絶縁樹脂(味の素ファインテクノ株式会社製 ABF-GX13)を積層させた基板を用い、この基板を膨潤液(上村工業株式会社製 DEC-501)及び樹脂エッチング液(上村工業株式会社製 DES-502)により、比較例1より基板の表面粗さが粗くなるように粗化処理をした後、還元液(上村工業株式会社製 DEN-503H)にて還元処理を行い、基板の表面粗さを測定した。比較例2においても、比較例1と同様に、フィラーエッチング処理を行わなかった。
【0058】
その後、引き続き、実施例1と同様に、前処理、無電解銅めっき、電気銅めっきを行って、銅めっき皮膜の引き剥がし強度を測定した。
【0059】
<実験結果>
【0060】
【表1】

【0061】
表1は、各実験における表面粗さ(Ra)と引き剥がし強度についての測定結果である。なお、表面粗さについては、レーザー顕微鏡(株式会社キーエンス製 VK-8550)を用いて測定し、また引き剥がし強度については、オートグラフ(島津製作所株式会社製 AGS-100D)を用いて測定した。
【0062】
表1から明瞭に判るように、実施例1及び実施例2では、基板の表面粗さの小さい基板でも、絶縁樹脂材と銅めっき皮膜との十分な密着効果が確認された。また、この実施例1及び2では、フィラーエッチング処理を行っても、基板表面の粗さの増加は確認されなかった。
【0063】
これに対し、比較例1では、基板の表面粗さを抑えることはできたものの、絶縁樹脂材と銅めっき皮膜との十分な密着効果を発揮させることはできなかった。また、比較例2では、基板表面を比較例1に比べて粗くなるように処理したことにより、絶縁樹脂材と銅めっき皮膜との十分な密着効果を発揮させることはできたものの、表面粗さが0.78μmと非常に粗くなり、高速信号を扱う配線基板や高密度な配線基板には不適当な基板となってしまった。
【0064】
以上の実験結果からも明確に判るように、本実施の形態に係る表面粗化方法によれば、表面粗さを粗くすることなく、めっき皮膜との密着を向上させることが可能となり、高速信号を扱う配線基板や高密度配線基板に適したプリント回路基板を良好に製造できることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁樹脂基板を粗化処理する粗化処理工程と、
上記粗化処理工程により上記絶縁樹脂基板上に生成した処理残渣を還元処理する還元処理工程と、
上記絶縁樹脂基板に含有されるフィラーをエッチングするエッチング処理工程と、
上記エッチング処理工程にてエッチングされた絶縁樹脂に対してめっき処理を施すめっき処理工程と
を有する表面処理方法。
【請求項2】
絶縁樹脂基板を粗化処理する粗化処理工程と、
上記粗化処理工程により上記絶縁樹脂基板上に生成した処理残渣を還元処理するとともに、該絶縁樹脂基板に含有されるフィラーをエッチングする還元及びエッチング処理工程と、
上記還元及びエッチング処理工程にてエッチングされた絶縁樹脂に対してめっき処理を施すめっき処理工程と
を有する表面処理方法。
【請求項3】
上記エッチング処理工程では、フッ素化合物を含有するエッチング処理液を用いてフィラーをエッチングする請求項1又は2記載の表面処理方法。
【請求項4】
上記フッ素化合物は、フッ化水素、フッ化ナトリウム、ホウフッ化水素酸、フッ化水素アンモニウム、フッ化水素ナトリウム、ヘキサフルオロケイ酸アンモニウム、ヘキサフルオロリン酸アンモニウムから選択される少なくとも1種である請求項3記載の表面処理方法。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項記載の表面処理方法に用いられ、
フッ素化合物を含有し、絶縁樹脂に添加されるフィラーをエッチングするエッチング処理液。
【請求項6】
上記フッ素化合物は、フッ化水素、フッ化ナトリウム、ホウフッ化水素酸、フッ化水素アンモニウム、フッ化水素ナトリウム、ヘキサフルオロケイ酸アンモニウム、ヘキサフルオロリン酸アンモニウムから選択される少なくとも1種である請求項5記載のエッチング処理液。

【公開番号】特開2009−270174(P2009−270174A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−123457(P2008−123457)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(000189327)上村工業株式会社 (101)
【Fターム(参考)】