説明

プレキュアトレッド用ゴム組成物、空気入りタイヤおよびその製造方法

【課題】破断特性等のタイヤに求められる物性を悪化させることなく、加工性を大幅に向上したプレキュアトレッド用ゴム組成物、空気入りタイヤおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】天然ゴムおよび合成イソプレンゴムから選択されたジエン系ゴム成分100質量部に対し、モノメタクリル酸亜鉛および/またはジメタクリル酸亜鉛を1.0〜5.0質量部および有機チオスルフェート化合物を0.5〜3.0質量部配合してなるプレキュアトレッド用ゴム組成物。該ゴム組成物から調製されたプレキュアトレッドPを台タイヤTのトレッド1に使用してなる空気入りタイヤ。該ゴム組成物を180℃以上の温度で加硫し、プレキュアトレッドPを調製する工程と、前記プレキュアトレッドPを台タイヤTのトレッド1に接合する工程とを有する、空気入りタイヤの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレキュアトレッド用ゴム組成物、空気入りタイヤおよびその製造方法に関するものであり、詳しくは、破断特性等のタイヤに求められる物性を悪化させることなく、加工性を大幅に向上したプレキュアトレッド用ゴム組成物、空気入りタイヤおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤを高温加硫した場合、加硫時間を短縮できるため生産性は良くなるが、ゴム物性の低下により、耐久性が悪化するという問題がある。特に、重荷重用タイヤでは、破断特性を重視するため、天然ゴムを多く使用しており、加硫戻りによる物性低下も問題となる。
一方、更生タイヤに用いられるプレキュアトレッドは、台タイヤとは別に加硫を行うため、台タイヤの物性に影響を及ぼすことなく、加硫温度を決定することができる。しかしこの場合も高温加硫を行なうと、プレキュアトレッド自体の硬さ(Hs、ModulusおよびE’)が低下し、破断特性および発熱性が悪化してしまう。この問題点を改善するため、カーボンブラックを高充填する方法や、シリカを配合する方法が知られている。しかしながら、前者の方法は硬さは改善されるが発熱性が悪化し、後者の方法は発熱性は改善されるものの加工性が悪化するという問題点がある。
【0003】
なお、下記特許文献1には、特定のジエン系ゴム成分に対して、充填剤、硫黄、シトラコンイミド化合物、有機チオスルフェート化合物、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物、特定の含硫黄含窒素化合物およびメタクリル酸金属塩を配合してなるサイドウォール、クリンチおよび/またはインスレーション用ゴム組成物が開示されている。しかしながら特許文献1には、該ゴム組成物を高温で加硫し、これをプレキュアトレッドに用いるという技術的思想は何ら開示または示唆されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−155631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、破断特性等のタイヤに求められる物性を悪化させることなく、加工性を大幅に向上したプレキュアトレッド用ゴム組成物、空気入りタイヤおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、ジエン系ゴム成分にモノメタクリル酸亜鉛およびジメタクリル酸亜鉛から選択された少なくとも1種の特定量および有機チオスルフェート化合物の特定量を配合し、得られたゴム組成物をプレキュアトレッドに採用することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成することができた。
すなわち本発明は以下のとおりである。
1.天然ゴムおよび合成イソプレンゴムから選択された少なくとも1種の加硫可能なジエン系ゴム成分100質量部に対し、モノメタクリル酸亜鉛およびジメタクリル酸亜鉛から選択された少なくとも1種を1.0〜5.0質量部および有機チオスルフェート化合物を0.5〜3.0質量部配合してなるプレキュアトレッド用ゴム組成物。
2.前記1に記載のプレキュアトレッド用ゴム組成物から調製されたプレキュアトレッドを、台タイヤのトレッドに使用してなる空気入りタイヤ。
3.前記プレキュアトレッドが、前記プレキュアトレッド用ゴム組成物を180℃以上の温度で加硫して調製されてなる前記2に記載の空気入りタイヤ。
4.前記1に記載のプレキュアトレッド用ゴム組成物を180℃以上の温度で加硫し、プレキュアトレッドを調製する工程と、前記プレキュアトレッドを台タイヤのトレッドに接合する工程とを有する、空気入りタイヤの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ジエン系ゴム成分にモノメタクリル酸亜鉛およびジメタクリル酸亜鉛から選択された少なくとも1種の特定量および有機チオスルフェート化合物の特定量を配合し、得られたゴム組成物をプレキュアトレッドに採用したので、破断特性等のタイヤに求められる物性を悪化させることなく、加工性を大幅に向上したプレキュアトレッド用ゴム組成物、空気入りタイヤおよびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の空気入りタイヤ(更生タイヤ)一例の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
図1は、本発明の空気入りタイヤ(更生タイヤ)一例の部分断面図である。
図1において、1はトレッド、2はサイドウォール、3はビード部である。左右一対のビード部3,3間にはカーカス層4が装架されている。カーカス層4はビードコア5の廻りにタイヤ内側から外側へ巻き上げられている。また、ビード部3にはスチールコード補強層6が埋設されている。
一方、トレッド1におけるカーカス層4の外周側には複数層のベルト層7が埋設されている。これらベルト層7はタイヤ周方向に対して傾斜する補強コードを含み、これら補強コードが層間で互いに交差するように配置されている。また、トレッド1にはタイヤ周方向に延びる複数本の主溝11及びタイヤ幅方向に延びる複数本のラグ溝(図示せず)を含む溝が形成されている。
上記空気入りタイヤは、トレッド1が摩耗した後で更生したものである。即ち、この空気入りタイヤは、図1に示すように、トレッド1の更生面Xを境にして、ベルト層7を含む台タイヤTと、主溝11およびラグ溝を含む溝を備えたプレキュアトレッドPとからなり、そのプレキュアトレッドPを台タイヤTに対して接合したものである。
本発明のゴム組成物は、プレキュアトレッドPに使用される。
【0010】
(ジエン系ゴム成分)
本発明で使用されるジエン系ゴム成分は、天然ゴム(NR)および合成イソプレンゴム(IR)から選択された少なくとも1種の加硫可能なゴム成分からなる。なお本発明においては、必要に応じてブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)を使用することもできる。なおBRおよび/またはSBRを使用する場合、下記で説明する亜鉛化合物および有機チオスルフェート化合物の配合量は、BRおよび/またはSBRを加えたジエン系ゴムの合計100質量部に対して決定される。
【0011】
(モノメタクリル酸亜鉛およびジメタクリル酸亜鉛)
本発明で使用されるモノメタクリル酸亜鉛および/またはジメタクリル酸亜鉛(以下、亜鉛化合物ということがある)は、公知の化合物であり、モノメタクリル酸亜鉛は、メタクリル酸が亜鉛に対して配位結合しているものである。モノメタクリル酸亜鉛は、例えば特開2009−242581号公報に開示されているように、塩基過剰でメタクリル酸と酸化亜鉛とを反応させて得ることができる(この場合、モノメタクリル酸亜鉛、ジメタクリル酸亜鉛および酸化亜鉛の混合物が得られる)。またモノメタクリル酸亜鉛は、市販されているものを利用することができ、例えばサートマー社製SR709が挙げられる。また、ジメタクリル酸亜鉛は、[CH=C(CH)COO]Znで表すことができる。
【0012】
(有機チオスルフェート化合物)
本発明において使用する有機チオスルフェート化合物は、以下の式で表すことができる。
MO3S−S−(CH2m−S−SO3
(式中、mは3〜10であり、Mはリチウム、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛、ニッケルまたはコバルトである。また、結晶水を含有していてもよい。)
【0013】
mは本発明の効果の点から、3〜10が好ましく、3〜6がより好ましい。Mは本発明の効果の点から、カリウムまたはナトリウムが好ましい。また、分子内に結晶水を含んでいてもよく、具体的には、ナトリウム塩1水和物、ナトリウム塩2水和物などが挙げられ、本発明の効果の点から、チオ硫酸ナトリウムからの誘導体、例えばヘキサメチレンビスチオサルフェート2ナトリウム塩2水和物が好ましい。
【0014】
(充填剤)
本発明のゴム組成物は、各種充填剤を配合することができる。充填剤としてはとくに制限されず、適宜選択すればよいが、例えばカーボンブラック、シリカ、無機充填剤等が挙げられる。無機充填剤としては、例えばクレー、タルク、炭酸カルシウム等を挙げることができる。
【0015】
(ゴム組成物の配合割合)
本発明のゴム組成物は、前記ジエン系ゴム成分100質量部に対し、亜鉛化合物を1.0〜5.0質量部および有機チオスルフェート化合物を0.5〜3.0質量部配合してなることを特徴とする。
亜鉛化合物の配合量が1.0質量部未満であると、300%伸張時の応力(M300)が悪化する。逆に5.0質量部を超えると切断時伸び(EB)が悪化する。
有機チオスルフェート化合物の配合量が0.5質量部未満では、M300が悪化する。逆に3.0質量部を超えるとEBが悪化する。
【0016】
好ましい前記亜鉛化合物の配合量は、ジエン系ゴム成分100質量部に対し、1.5〜4.5質量部である。
好ましい前記有機チオスルフェート化合物の配合量は、ジエン系ゴム成分100質量部に対し、1.0〜2.5質量部である。
【0017】
本発明のゴム組成物には、前記した成分に加えて、加硫又は架橋剤、加硫又は架橋促進剤、各種オイル、老化防止剤、可塑剤などのゴム組成物に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練して組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量も、本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
本発明のゴム組成物は、上記の本発明の配合量の規定を満たす限り、いかなる配合設計を行なってもよい。所望の配合設計を行なった組成物に対し、180℃未満の温度で加硫を行なった場合と、180℃以上の温度で加硫を行なった場合とを比較すると、両者はゴム物性にそれほどの差異が生じない。したがって、タイヤに求められる物性を悪化させることなく、加硫工程に必要な時間を大幅に短縮することができ、加工性が向上する。
【0018】
また本発明は、前記の本発明のゴム組成物を180℃以上の温度で加硫し、プレキュアトレッドを調製する工程と、前記プレキュアトレッドを台タイヤのトレッドに接合する工程とを有する、空気入りタイヤの製造方法を提供する。
上記プレキュアトレッドの調製工程において、加硫温度は、180〜190℃がさらに好ましい。また、加硫時間は、例えば1.0分〜6.0分であり、1.5分〜5.0分がさらに好ましい。
上記接合する工程について説明する。
図1において、トレッド1が摩耗した空気入りタイヤを更生する場合、台タイヤTとプレキュアトレッドPを用意し、そのプレキュアトレッドPを台タイヤTに対して更生面Xに沿って接合する。接合方法としては、公知の手法に従って行なえばよいが、例えば特開2009−190377号公報に開示されているように、バフ処理した台タイヤのクラウン部に、プレキュアトレッドを未加硫のクッションゴムを介して貼付ける方法が挙げられる。このようにして、更生タイヤを得ることができる。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0020】
実施例1〜6および比較例1〜9
サンプルの調製
表1に示す配合(質量部)において、加硫系(加硫促進剤、硫黄)を除く成分を1.7リットルの密閉式バンバリーミキサーで5分間混練した後、ミキサー外に放出させて室温冷却した。続いて、該組成物を同バンバリーミキサーに再度入れ、加硫系を加えて混練し、ゴム組成物を得た。次に得られたゴム組成物を所定の金型中で表1に示す温度および時間でプレス加硫して加硫ゴム試験片を調製した。得られた加硫ゴム試験片について以下に示す試験法で性能を評価した。
【0021】
生産性:加硫時間の逆数を生産性の目安とし、比較例1を100として指数表示した。数値が大きいほど生産性が高いことを表す。
M300:JIS K6251に準拠して、引張り試験を行い、その300%伸張時の応力をM300とした。結果は、比較例1を100として指数表示した。数値が大きいほどM300が高いことを表す。
EB:JIS K6251に準拠して引張り試験を行い、切断時伸び(EB)を測定した。結果は、比較例1を100として指数表示した。数値が大きいほどEBが高いことを表す。
結果を表1に併せて示す。
【0022】
【表1】

【0023】
*1:NR(天然ゴムRSS#3)
*2:カーボンブラック(キャボットジャパン(株)製ショウブラックN234)
*3:モノメタクリル酸亜鉛(サートマー社製SR709)
*4:有機チオスルフェート化合物(FLEXSYS社製Duralink HTS、ヘキサメチレンビスチオサルフェート2ナトリウム塩2水和物)
*5:ステアリン酸(千葉脂肪酸(株)製工業用ステアリン酸)
*6:老化防止剤(住友化学(株)製アンチゲン6C)
*7:亜鉛華(正同化学工業(株)製酸化亜鉛3種)
*8:加硫促進剤(大内新興化学工業(株)製ノクセラーNS−F)
*9:硫黄(鶴見化学工業(株)製金華印油入微粉硫黄)
【0024】
上記の表1から明らかなように、実施例1〜6で調製されたゴム組成物は、ジエン系ゴム成分に亜鉛化合物の特定量および有機チオスルフェート化合物の特定量を配合しているので、破断特性等のタイヤに求められる物性を悪化させることなく、加工性を大幅に向上することができる。したがって、実施例1〜6のゴム組成物は、プレキュアトレッドに好適に採用することができる。
これに対し、比較例1は、従来の代表的な例であり、加硫温度が低く、かつ加硫時間が長いので、実施例と同等な物性を得るためには生産性が劣る結果となった。
比較例2は、加硫温度および加硫時間は実施例1〜5と同じであるが、亜鉛化合物および有機チオサルフェート化合物を配合していないので、M300が大幅に低下した。
比較例3は、加硫温度および加硫時間は実施例6と同じであるが、亜鉛化合物および有機チオサルフェート化合物を配合していないので、M300が大幅に低下した。
比較例4は、加硫温度および加硫時間は実施例1〜5と同じであるが、有機チオサルフェート化合物を配合していないので、M300が悪化した。
比較例5は、加硫温度および加硫時間は実施例1〜5と同じであるが、亜鉛化合物を配合していないので、M300が悪化した。
比較例6は、加硫温度および加硫時間は実施例1〜5と同じであるが、亜鉛化合物の配合量が本発明で規定する下限未満であるので、M300が悪化した。
比較例7は、加硫温度および加硫時間は実施例1〜5と同じであるが、亜鉛化合物の配合量が本発明で規定する上限を超えているので、EBが悪化した。
比較例8は、加硫温度および加硫時間は実施例1〜5と同じであるが、有機チオサルフェート化合物の配合量が本発明で規定する下限未満であるので、M300が悪化した。
比較例9は、加硫温度および加硫時間は実施例1〜5と同じであるが、有機チオサルフェート化合物の配合量が本発明で規定する上限を超えているので、EBが悪化した。
【符号の説明】
【0025】
1 トレッド
2 サイドウォール
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
7 ベルト層
P プレキュアトレッド
T 台タイヤ
X 更生面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴムおよび合成イソプレンゴムから選択された少なくとも1種の加硫可能なジエン系ゴム成分100質量部に対し、モノメタクリル酸亜鉛およびジメタクリル酸亜鉛から選択された少なくとも1種を1.0〜5.0質量部および有機チオスルフェート化合物を0.5〜3.0質量部配合してなるプレキュアトレッド用ゴム組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のプレキュアトレッド用ゴム組成物から調製されたプレキュアトレッドを、台タイヤのトレッドに使用してなる空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記プレキュアトレッドが、前記プレキュアトレッド用ゴム組成物を180℃以上の温度で加硫して調製されてなる請求項2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
請求項1に記載のプレキュアトレッド用ゴム組成物を180℃以上の温度で加硫し、プレキュアトレッドを調製する工程と、前記プレキュアトレッドを台タイヤのトレッドに接合する工程とを有する、空気入りタイヤの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−111897(P2012−111897A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263702(P2010−263702)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】