説明

プレコートアルミニウム合金板からのプレコート塗膜除去方法

【課題】赤外線レーザーを照射することにより、アルミニウム合金板へ熱影響を与えることなく、アルミニウム合金板からプレコート塗膜を除去することが可能な、プレコートアルミニウム合金板からのプレコート塗膜除去方法を提供すること。
【解決手段】アルミニウム合金板21の少なくとも一方の面にプレコート塗膜22を配設するプレコートアルミニウム合金板2からプレコート塗膜22を除去する方法である。プレコート塗膜22は、数平均分子量が5000〜40000の合成樹脂からなると共に、膜厚が0.5〜200μmである合成樹脂塗膜を採用し、プレコート塗膜形成面23における所望の領域に、波長が0.8〜12μmである赤外線レーザーを、10MJ/m2以下のエネルギー密度で照射するし、所望の領域内のプレコート塗膜22を、アルミニウム合金板21を溶解させることなくプレコートアルミニウム合金板2から除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線レーザーの照射による、機能性プレコートアルミニウム合金板からのプレコート塗膜除去方法、及びプレコートアルミニウム合金板を用いて成形してなる成形品に関する。なお、本明細書中の「アルミニウム合金」は、アルミニウムを主体とする金属及び合金の総称であり、いわゆるアルミニウム合金だけでなく、純アルミニウムを含む概念である。
【背景技術】
【0002】
従来より、表面を合成樹脂塗膜にてコーティングしてなるプレコートアルミニウム合金板は、耐食性に優れ、軽量であり、かつ、成形後に塗装処理を施す必要がないという優れた特性を有している。
プレコートアルミニウム合金板の塗膜には、その用途に応じて、意匠性、傷付き防止性、潤滑性、被接触物への傷付き防止性、絶縁性、導電性等の機能を付与している。
そのため、プレコートアルミニウム合金板は、家電製品やOA機器をはじめ、ハイブリット自動車や電気自動車のインバータ及びECU等の電子機器筐体の材料として広く使われている。特に金属基板としてアルミニウム合金を用いているので軽量化を図ることができ、非常に有効である。
【0003】
電子機器筐体は、一部分のみにアースが必要な場合や、機構部品と塗膜との接触を回避することが必要な場合がある。したがって電子機器筐体にプレコートアルミニウム合金板を用いる際に、部分的に塗装を回避することが求められる場合がある。
例えば、スロットインタイプの光ディスクドライブでは、上カバー内面側に、光ディスク出し入れ時に光ディスクを傷つけることのない塗装が施されているが、機構部品の摺動部や下カバーとのネジ締め部分は塗装を回避する必要がある。これまでは、塗装を回避したい部分にはマスキングしたうえでポストコートしており、大きなコストアップとなってきた。
また、ホコリを嫌うIT機器筐体に対しては、塗膜除去時の粉発生を抑える塗膜除去方法が必要とされる。
【0004】
また、ロールコートによってプレコートされるプレコートアルミニウム合金板においては、部分的に塗装を回避することは困難である。そこで、プレコートアルミニウム合金板を用いて成形加工した後に、塗膜をレーザー照射等で簡便に除去することができれば、プレコートアルミニウム合金板の適用範囲が大きく広がる。
レーザー照射による技術としては、塗膜強化を目的とした紫外線レーザーの照射する技術(特許文献1)や、レーザー照射によるマスキング塗料を切断する技術(特許文献2)、レーザー照射によりマーキングを行う技術(特許文献3)、及びレーザー照射により意匠の変更を行う技術(特許文献4〜6)等が報告されている。
しかしながら、アルミニウム合金板へ熱影響を与えることなく、プレコート塗膜を除去することができるレーザー照射の技術はなかった。
【0005】
【特許文献1】特開昭63−182080号公報
【特許文献2】特開平5−45308号公報
【特許文献3】特開2000−334854号公報
【特許文献4】特開平7−108750号公報
【特許文献5】特開平2−237682号公報
【特許文献6】特開平2−229687号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、アルミニウム合金板へ熱影響を与えることなく、アルミニウム合金板からプレコート塗膜を除去することが可能な、プレコートアルミニウム合金板からのプレコート塗膜除去方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、アルミニウム合金板の少なくとも一方の面に配設されたプレコート塗膜を有するプレコートアルミニウム合金板から、上記プレコート塗膜を除去する方法において、
上記プレコート塗膜としては、数平均分子量が5000〜40000の合成樹脂からなると共に、膜厚が0.5〜200μmである合成樹脂塗膜を採用し、
上記プレコート塗膜形成面における所望の領域に、波長が0.8〜12μmである赤外線レーザーを、10MJ/m2以下のエネルギー密度で照射することにより、上記所望の領域内の上記プレコート塗膜を、上記アルミニウム合金板を溶解させることなく該アルミニウム合金板から除去することを特徴とするプレコートアルミニウム合金板からのプレコート塗膜除去方法にある(請求項1)。
【0008】
本発明において注目すべき点は、上記プレコート塗膜として上記特定の塗膜を採用しておき、かつ、脱膜すべき部分に照射するレーザー光として、上記特定の赤外線レーザーを用いることにある。この2つの要件を同時に具備することによって、アルミニウム合金板にダメージを与えることなく上記プレコート塗膜を部分的に除去することができる。
【0009】
すなわち、上記プレコート塗膜としては、数平均分子量が5000〜40000の合成樹脂からなると共に、膜厚が0.5〜200μmである合成樹脂塗膜を採用する。これにより、上記特定の赤外線レーザーを照射した際におけるプレコート塗膜の除去特性が良好となり、塗膜残りや除去した塗膜の粉状の飛散を抑制することができる。
【0010】
また、上記プレコート塗膜形成面における所望の領域、つまり、部分的に脱膜したい領域に照射するレーザー光としては、波長が0.8〜12μmである赤外線レーザーを選択し、かつ、その照射強度は、10MJ/m2以下のエネルギー密度とする。これによって、上記所望の領域内の上記プレコート塗膜に対して上記特定の赤外線レーザーを照射した際に、その金属基板であるアルミニウム合金を溶解させることなく、かつ、ほとんど熱影響をあたえることが無い。そして、塗膜が除去された後に直接アルミニウム合金板に照射されたとしても、アルミニウム合金板に大きなダメージを与えることがない。それ故、プレコート塗膜を除去することによって寸法精度に影響を与えることがないという効果を得ることができる。ただし、上記照射強度はアルミニウムを溶解させることのない上限値であり、好ましくは、上記エネルギー密度は7MJ/m2以下とするのがよい。
【0011】
第2の発明は、アルミニウム合金板の少なくとも一方の面に配設されたプレコート塗膜を有するプレコートアルミニウム合金板を用いて成形してなる成形品であって、
上記プレコート塗膜は、数平均分子量が5000〜40000の合成樹脂からなると共に、膜厚が0.5〜200μmである合成樹脂塗膜よりなり、
上記プレコートアルミニウム合金板を所望形状に成形した後に、上記プレコート塗膜形成面における所望の領域に、波長が0.8〜12μmである赤外線レーザーを、10MJ/m2以下のエネルギー密度で照射することにより、上記所望の領域内の上記プレコート塗膜を、上記アルミニウム合金板を溶解させることなく該アルミニウム合金板から除去することにより、該アルミニウム合金板が露出した脱膜部を形成してなることを特徴とするプレコートアルミニウム合金板を用いて成形してなる成形品にある(請求項4)。
【0012】
本発明の成形品は、アルミニウム合金板の少なくとも一方の面に配設された上記特定のプレコート塗膜を有するプレコートアルミニウム合金板を用いて成形してなると共に、上記特定の赤外線レーザーを照射することによって上記脱膜部を形成してなる。そのため、プレコート塗膜を有すると共に部分的に脱膜部を備えている成形品を、非常に寸法精度に優れたものとすることができる。
【0013】
すなわち、上述したごとく、上記プレコート塗膜としては、数平均分子量が5000〜40000の合成樹脂からなると共に、膜厚が0.5〜200μmである合成樹脂塗膜を採用する。これにより、上記特定の赤外線レーザーを照射した際におけるプレコート塗膜の除去特性が良好となり、塗膜残りや除去した塗膜の粉状の飛散を抑制することができる。そして、塗膜の除去特性が優れているので、脱膜部の寸法や形状も高精度とすることができる。
【0014】
また、上記プレコート塗膜形成面における所望の領域、つまり、脱膜部とすべき領域に照射するレーザー光としては、波長が0.8〜12μmである赤外線レーザーを選択し、かつ、その照射強度は、10MJ/m2以下のエネルギー密度とする。これによって、上記所望の領域内の上記プレコート塗膜に対して上記特定の赤外線レーザーを照射した際に、その金属基板であるアルミニウム合金を溶解させることなく、かつ、ほとんど熱影響を与えることが無い。それ故、プレコート塗膜を除去することによって成形品の寸法精度に影響を与えることがないという効果を得ることができる。ただし、上記照射強度はアルミニウムを溶解させることのない上限値であり、好ましくは、上記エネルギー密度は7MJ/m2以下とするのがよい。
【0015】
また、この脱膜処理は、上記プレコートアルミニウム合金板を所望形状に成形した後に行うことができる。それ故、上記の成形品そのものの寸法精度向上だけでなく、脱膜部の配設位置も高精度となり、電子機器等の精密な機器の部品として最適なものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
第1、第2の発明においては、上記のごとく、上記プレコート塗膜としては、数平均分子量が5000〜40000の合成樹脂からなると共に、膜厚が0.5〜200μmである合成樹脂塗膜を採用する。
上記プレコート塗膜の主成分となる上記合成樹脂の数平均分子量が5000未満の場合には、塗膜が硬く、成形性が悪いうえ、レーザー照射時に粉が発生しやすいという問題がある。そのため、例えばIT機器筐体にも適用可能なプレコート用樹脂としては望ましくない。一方、数平均分子量が40000を超える場合には、塗膜が軟らかく、耐傷つき性が低下するという問題や、レーザー照射時に塗膜切断性が悪く、塗膜残りが起きやすいため、望ましくない。
【0017】
また、上記プレコート塗膜の膜厚が0.5μm未満の場合には、用途によってプレコート塗膜に求められる特性、例えば、傷つき防止性、導電性、及び絶縁性等が不十分になるという問題や、レーザー照射時に塗膜が粉々になりやすいという問題がある。そのため、例えば、IT機器筐体等に適用可能なプレコート塗膜用樹脂としては好ましくない。一方、プレコート塗膜の膜厚が200μmを超える場合には、コストアップにつながるという問題や、塗膜除去不良が発生しやすいため、望ましくない。
【0018】
また、上記プレコート塗膜形成面における所望の領域には、波長が0.8〜12μmである赤外線レーザーを、10MJ/m2以下のエネルギー密度で照射する。
上記赤外線レーザーの波長が12μmを超える場合には、吸収効率が低下するという問題がある。
また、上記エネルギー密度が10MJ/m2を超える場合には、金属基板の素地に熱影響が及ぶという問題がある。ただし、上記照射強度はアルミニウムを溶解させることのない上限値であり、好ましくは、上記エネルギー密度は7MJ/m2以下とするのがよい。また、赤外線レーザーの上記エネルギー密度の下限値は、上記プレコート塗膜の種類により異なるが、0.5MJ/m2とすることが好ましい。
【0019】
上記赤外線レーザーとしては、例えば、固体レーザー及び気体レーザー等が挙げられる。固体レーザーとしては、例えばYAGレーザー等が挙げられ、気体レーザーとしては、例えば、CO2レーザー等が挙げられる。
また、レーザー発振モードは、パルス式でも連続波式でもよく、特に制限を設けない。
【0020】
上記合成樹脂塗膜は、発泡ビーズ、及びインナーワックスを含有することが好ましい(請求項2、5)。
この場合には、プレコートアルミニウム合金板に接触して摺動する被接触物に傷を付けない傷付け防止性の向上と、摺動性の向上を図ることができる。そして、このような発泡ビーズやインナーワックスを含有させた場合であっても、上述した特定の赤外線レーザーを用いることによって、優れた脱膜性を維持することができる。
【0021】
上記発泡ビーズの含有量は、上記プレコート塗膜中の合成樹脂固形分100重量部に対し、0.01〜10重量部であることが好ましい。上記発泡ビーズの含有量が、上記プレコート塗膜中の合成樹脂固形分100重量部に対し0.01未満である場合には、発泡ビーズによる上記作用効果が十分に発揮されないおそれがある。一方、10重量部を超える場合には、ビーズの脱落数が増加するおそれがある。
【0022】
また、上記発泡ビーズは、熱膨張性のマイクロスフェアーを発泡させたものであることが好ましい。すなわち、上記発泡ビーズの原料粒子として上記マイクロスフェアーを用いることが好ましい。この場合には、上記の特定の温度範囲での発泡を確実に実現することができると共に、健全な発泡ビーズを容易に得ることができる。
【0023】
上記マイクロスフェアーとは、ガスや低沸点炭化水素などの芯材を内包した熱可塑性樹脂の皮膜に覆われた微小球体である。上記ガスとしては、例えば、二酸化炭素及び窒素等が挙げられる。また、上記低沸点炭化水素としては、例えば、プロパンやヘキサン等の炭化水素が挙げられる。また、上記マイクロスフェアーを形成する熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリロニトリル及び塩化ビニリデン等が挙げられる。そして、このマイクロスフェアーは、加熱によって芯材が熱膨張することにより微小球体が膨らみ、上記の発泡ビーズとなる。
【0024】
また、上記インナーワックスの含有量は、上記プレコート塗膜中の合成樹脂固形分100重量部に対し、0.05〜20重量部であることが好ましい。この場合には、摺動性が向上するという効果を得ることができる。
上記インナーワックスの含有量が上記プレコート塗膜中の合成樹脂固形分100重量部に対し、0.05重量部未満の場合には、摺動性が低下するおそれがあり、また、20重量部をこえる場合には、コストアップにつながるため望ましくない。
上記インナーワックスとしては、例えば、カルナウバ、ラノリン、パラフィン、マイクロクリスタリン、及びポリエチレン等が挙げられる。また、これらは、上記インナーワックス含有量の範囲内において、必要に応じて組み合わせて使用することができる。
【0025】
また、上記合成樹脂塗膜は、樹脂ビーズを含有することが好ましい(請求項3、6)。
この場合には、プレコートアルミニウム合金板に、耐傷つき性、つまり、アルミニウム合金板が傷つくことを防止する効果を高めることができる。
上記樹脂ビーズの含有量は、プレコート塗膜中の合成樹脂固形分100重量部に対し、5〜200重量部であることが好ましい。5重量部未満の場合には、摺動性が低下するおそれがあり、一方、200重量部を超える場合には、樹脂ビーズがプレコート塗膜から脱落するおそれがある。
【0026】
また、上記樹脂ビーズの直径は0.05〜200μmであることが好ましい。0.05μm未満の場合には、摺動性や耐傷つき性の向上への効果が十分でないおそれがあり、200μmを超える場合には、省スペースへの要求に応えることができないというおそれがある。
上記樹脂ビーズは、上記発泡ビーズとは異なり、塗装焼き付け時において膨張等することがなく、中実状のものである。上記樹脂ビーズとしては、例えば、ナイロンビーズ、アクリルビーズ、ウレタンビーズ、フッ素樹脂ビーズ、及びシリコーンビーズ等を用いることができる。
【実施例】
【0027】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によってのみ限定されるものではない。
【0028】
(実施例1)
本例は、図1に示すごとく、アルミニウム合金板21の一方の面に配設されたプレコート塗膜22を有するプレコートアルミニウム合金板2を用いて成形してなる成形品1の例である。
【0029】
本例の成形品1は、同図に示すごとく、電子機器筐体用に成形してあると共に、複数箇所に脱膜部24、25を設けてある。脱膜部24、25以外の領域は、プレコート塗膜22が残存している部分である。
脱膜部24は、電子機器の別部品が摺動する部分であり、塗膜との接触を避けるために脱膜した部分である。また、脱膜部25は、ビスを挿入する穴の周囲であるが、ビスとの電気的導通を図るために脱膜した部分である。
また、上記プレコート塗膜22は、数平均分子量が10000のポリエステル樹脂からなると共に、膜厚が20μmである合成樹脂塗膜とした。
【0030】
この成形品1を作製するに当たっては、まず、その素材としてのプレコートアルミニウム合金板2を準備する。
プレコートアルミニウム合金板2としては、金属基板として、厚さ0.5mmのA5052−H34のアルミニウム合金板を用い、その表面に下地処理を施した後に上記のプレコート皮膜を形成したものとした。
【0031】
次に、このプレコートアルミニウム合金板2を、図1に示すような、所望の形状にプレス成形する。
次に、上記脱膜部24,25とすべき所望の領域に、レーザーを照射して、プレコート塗膜を除去する。レーザー照射は、波長が1.1μmである赤外線レーザーを、5MJ/m2以下のエネルギー密度で照射することにより行った。
これにより、プレコートアルミニウム合金板2の金属基板であるアルミニウム合金板21を溶解させることなく、かつ熱変形等をさせることなく、該アルミニウム合金板21からプレコート塗膜22を除去することができ、アルミニウム合金板21が露出した脱膜部を形成できた。
【0032】
得られた成形品1は、上記の脱膜部24、25を有しているので、他部品の摺動特性、電気的導通性等を確保することができると共に、寸法精度に非常に優れたものとなる。
なお、本例の成形品1に採用するプレコート塗膜22として、上記の数平均分子量が5000〜40000の合成樹脂からなると共に、膜厚が0.5〜200μmである合成樹脂塗膜である点を具備していれば、例えば、発泡ビーズを含有させることによる被接触物を傷つけることを防止する機能や、インナーワックスを含有させることによる摺動性を向上させる機能や、樹脂ビーズを含有させることによる金属基板であるアルミニウム合金板21が傷つくことを防止する機能などを付加することができる。
【0033】
(実施例2)
本例では、本発明のプレコート塗膜除去方法にかかる実施例及び比較例を行うために、複数種類の試料(プレコートアルミニウム合金板)を作製した。
【0034】
各試料を製作するに当たっては、金属基板として、厚さ0.5mmのA5052−H34のアルミニウム合金板を使用した。
また、上記金属基板には、塗装前の下地処理を施した。具体的には、アルカリ系脱脂剤で上記金属基板を脱脂後、リン酸クロメート浴中でリン酸クロメート処理を実施した。クロメート皮膜量は皮膜中のCr含有量として20±5mg/m2である。
【0035】
塗装処理は、下地処理後の上記金属基板の一方の面に対して、ポリエステル樹脂系塗料を、バーコーターを用いて所定量塗布し、アルミニウム表面の温度が230℃になるよう240℃のオーブンの中で60秒焼付け、硬化することによりプレコート塗膜を形成した。また、上記塗料としては、ベース樹脂としてポリエステル樹脂を選択したが、その添加物として、発泡ビーズ、インナーワックス、樹脂ビーズなどを適宜選択した。なお、形成された塗膜は、表1及び表2に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
本例では、次いで、各試料についレーザー剥離試験を実施し、塗膜剥離性及び熱影響を評価した。
<レーザー剥離試験>
レーザー剥離試験は、図2に示すごとく、プレコートアルミニウム合金板2のプレコート塗膜形成面23における所望の領域26に、レーザー照射装置3からレーザー4を照射することにより、プレコート塗膜22をアルミニウム合金板21から除去する。レーザー4の種類及び試験条件を表1及び表2に示す。なお、走査速度は1000mm/min、剥離面積は500mm2で行った。また、照射完了部分のプレコート塗膜265の除去形態の一例(最も好ましい例)は、図2に示すごとく、全体的にばらばらにならずにアルミニウム合金板21から剥離されていく。
<塗膜剥離性>
顕微鏡の倍率を2倍にして観察し、塗膜除去面積を測定し、塗膜剥離性を評価し、評価が○のものを合格とした。塗膜除去面積とは、レーザー照射面積のうち、塗膜が除去された部分の面積である。この結果は表3及び表4に示す通りである。
(評価方法)
○:塗膜除去面積がレーザー照射面積の90%以上である場合
△:塗膜除去面積がレーザー照射面積の10%以上、90%未満である場合、もしくは、塗膜除去面積がレーザー照射面積の90%以上であるがレーザー照射時に粉が発生した場合
×:塗膜除去面積がレーザー照射面積の10%未満である場合
上記粉は、直径1mm以下の粒子とした。
<熱影響>
目視にて熱影響を評価し、評価が○のものを合格とした。該熱影響とは、例えば、レーザー照射部が熱により膨張し、アルミニウム合金板が膨れた状態等である。この結果は表3及び表4に示す通りである。
(評価方法)
○:熱影響が確認されないもの
×:熱影響が確認させるもの
【0039】
総合判定は、塗膜剥離性評価、及び熱影響評価がいずれも○であるものを○、一つでも△又は×があるものを×とし、○を合格とした。この結果は表3及び表4に示す通りである。
【0040】
表3より知られるごとく、本例の試料E1〜試料E15は、塗膜剥離性、熱影響という評価項目において、いずれも良好な結果を示し、合格であった。
また、表2及び表4に示すごとく、比較例としての試料C1は、He−Neレーザーを使用し、レーザーの波長が本発明の下限を下回るため、エネルギー吸収効率が悪く、膜剥離性が低下した。
また、比較例としての試料C2は、プレコート塗膜の合成樹脂の数平均分子量が本例の上限を上回るため、塗膜が軟らかく、耐傷つき性が低下し、レーザー照射時に塗膜切断性が悪くなり、塗膜残りが起きやすいため、塗膜の剥離性が低下した。
また、比較例としての試料C3は、膜厚が本例の下限を下回るため、傷つき防止性や導電性、絶縁性等が不十分となり、レーザー照射時に塗膜が粉々になりやすいため、塗膜剥離性が低下した。
また、比較例としての試料C4は、照射エネルギーが本発明の上限を上回るため、熱影響が確認された。
【0041】
【表3】

【0042】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施例1における、プレコートアルミニウム合金板を用いて成形してなる成形品を示す説明図。
【図2】実施例2における、レーザー剥離試験を行っている状態を示す説明図。
【符号の説明】
【0044】
1 成形品
2 プレコートアルミニウム合金板
21 アルミニウム合金板
22 プレコート塗膜
23 プレコート塗膜形成面
24 脱膜部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金板の少なくとも一方の面に配設されたプレコート塗膜を有するプレコートアルミニウム合金板から、上記プレコート塗膜を除去する方法において、
上記プレコート塗膜としては、数平均分子量が5000〜40000の合成樹脂からなると共に、膜厚が0.5〜200μmである合成樹脂塗膜を採用し、
上記プレコート塗膜形成面における所望の領域に、波長が0.8〜12μmである赤外線レーザーを、10MJ/m2以下のエネルギー密度で照射することにより、上記所望の領域内の上記プレコート塗膜を、上記アルミニウム合金板を溶解させることなく該アルミニウム合金板から除去することを特徴とするプレコートアルミニウム合金板からのプレコート塗膜除去方法。
【請求項2】
請求項1において、上記合成樹脂塗膜は、発泡ビーズ、及びインナーワックスを含有することを特徴とするプレコートアルミニウム合金板からのプレコート塗膜除去方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、上記合成樹脂塗膜は、樹脂ビーズを含有することを特徴とするプレコートアルミニウム合金板からのプレコート塗膜除去方法。
【請求項4】
アルミニウム合金板の少なくとも一方の面に配設されたプレコート塗膜を有するプレコートアルミニウム合金板を用いて成形してなる成形品であって、
上記プレコート塗膜は、数平均分子量が5000〜40000の合成樹脂からなると共に、膜厚が0.5〜200μmである合成樹脂塗膜よりなり、
上記プレコートアルミニウム合金板を所望形状に成形した後に、上記プレコート塗膜形成面における所望の領域に、波長が0.8〜12μmである赤外線レーザーを、10MJ/m2以下のエネルギー密度で照射することにより、上記所望の領域内の上記プレコート塗膜を、上記アルミニウム合金板を溶解させることなく該アルミニウム合金板から除去することにより、該アルミニウム合金板が露出した脱膜部を形成してなることを特徴とするプレコートアルミニウム合金板を用いて成形してなる成形品。
【請求項5】
請求項4において、上記合成樹脂塗膜は、発泡ビーズ、及びインナーワックスを含有することを特徴とするプレコートアルミニウム合金板を用いて成形してなる成形品。
【請求項6】
請求項4又は5において、上記合成樹脂塗膜は、樹脂ビーズを含有することを特徴とするプレコートアルミニウム合金板を用いて成形してなる成形品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−105607(P2007−105607A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−298085(P2005−298085)
【出願日】平成17年10月12日(2005.10.12)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)
【Fターム(参考)】