説明

プレス成形装置

【課題】空気中に浮遊する異物の混入を防止することで、成形品の外観不良を低減するプレス成形装置を得ることを課題とする。
【解決手段】上部金型14を下降させて、凹型部14AがSMC24に接触する前に、上部金型14と下部金型12の間に、空気孔26から空気を噴射させる。これにより、上部金型14と下部金型12の間には、内側から外側へ向かって気流が発生する。したがって、上部金型14と下部金型12の間の浮遊物質Pが、上部金型14と下部金型12の外側に吹き飛ばされるので、SMC24がプレスされる際に、浮遊物質PがSMC24に付着することがないので、FRP成形品22に外観不良が発生するのを防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被成形材料を圧縮成形するプレス成形装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
樹脂と強化材(繊維)の複合材をシート状としたもの(SMC)を必要寸法にカットし、プレス成形によって加熱加圧して得られるFRP成形品は、金属板に比べ、意匠的に特徴のある3次元凹凸形状を容易に成形できる。このため、例えば、自動車、住宅設備用水関連製品、ブレーカ、配電ボックス等の電気製品、水タンクパネル、浄化槽、パイプライニング等の耐薬品製品などあらゆる工業製品に利用されている(特許文献1参照)。
【0003】
例えば、浴槽等を成形する際、図4(A)に示すように、下部金型102(図4(A)の下側の金型)上にSMC106を載置し、図4(B)及び図4(C)に示すように、上部金型104を下降させ、SMC106をプレスする。このとき、空気中の浮遊物質Pを上部金型104と下部金型102のキャビティ内に巻き込んだ状態でSMC106をプレスすると、図4(D)に示すように、下部金型102に浮遊物質Pを付着した状態でSMC106が引き伸ばされ、図4(E)に示すように、浴槽108(FRP成形品)の意匠面に外観不良が発生する。
【0004】
キャビティ内に浮遊物質Pを巻き込まないようにするためには、例えばプレス成形装置をクリーンルーム内に設置して成形を行う方法が考えられるが、浴槽等の大型製品を成形するプレス成形装置は大型のため、大きなクリーニングルームを用意しなければならず、コストが掛りすぎて実用的ではない。
【特許文献1】特開2002−192542号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、空気中に浮遊する異物の混入を防止することで、成形品の外観不良を低減するプレス成形装置を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、固定側金型と可動側金型を型締めして被成形材料をプレスすることにより、所望の成形品を得るプレス成形装置において、前記固定側金型又は前記可動側金型の少なくとも一方には、気体を噴射して該固定側金型と該可動側金型の間に、内側から外側へ向かって気流を発生させる噴射手段が設けられていることを特徴としている。
【0007】
請求項1に記載のプレス装置では、固定側金型又は可動側金型の少なくとも一方に設けられた噴射手段から、固定側金型と可動側金型の間に気体が噴射されて、固定側金型と可動側金型の間には、内側から外側へ向かって気流が発生する。
【0008】
これにより、固定側金型と可動側金型の間の浮遊物質が、固定側金型と可動側金型の外側に吹き飛ばされる。したがって、固定側金型と可動側金型の間に装填された被成形材料がプレスされる際に、浮遊物質が被成形材料に付着することがないので、成形品に外観不良が発生するのを防止できる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、前記可動側金型が型締めを開始して前記被成形材料に接触する前に、前記噴射手段から気体を噴射することを特徴としている。
【0010】
請求項2に記載のプレス装置では、可動側金型が被成形材料に接触する前に、噴射手段から気体を噴射する。つまり、可動側金型と固定側金型の間の隙間を十分に小さくしてから、噴射手段から気体を噴射する。これにより、噴射手段から噴射された気体が、可動側金型と固定側金型の間を漂うことなく、内側から外側に向かって流れるので、内側から外側に向かう気流を発生させやすい。
【0011】
請求項3に記載の発明は、前記噴射手段は、前記被成形材料の周囲に気体を噴射することを特徴としている。
【0012】
請求項3に記載のプレス装置では、被成形材料の周囲に気体が噴射されるので、この気体が被成形材料に邪魔されず、可動側金型又は固定側金型に直接かかる。このため、可動側金型、固定側金型に付着した浮遊物質は、噴射手段から吹き出された気体によって可動側金型、固定側金型から剥離され、可動側金型と固定側金型の間で、内側から外側に向かって発生する気流に乗って、可動側金型と固定側金型の外に吹き出される。
【0013】
請求項4に記載の発明は、前記噴射手段は、前記固定側金型又は前記可動側金型の成形面に形成された噴射孔を備え、前記噴射孔は、前記可動側金型が前記被成形部材をプレスし該被成形部材が該噴射孔に至る前に該噴射孔を閉鎖する閉鎖機構を備えていることを特徴としている。
【0014】
請求項4に記載のプレス装置では、可動側金型又は固定側金型の成形面に形成された噴射孔は、可動側金型にプレスされた被成形部材が噴射孔に至る前に、閉鎖機構に閉鎖される。これにより、被成形材料が噴射孔に入り込むのを防止できる。
【0015】
請求項5に記載の発明は、前記被成形材料が、SMCであることを特徴としている。
【0016】
請求項5に記載のプレス装置では、被成形材料としてSMCを用いることで、成形しやすく低コストの成形品を得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は上記構成としたので、塑性流動材料と硬質充填材の混合物片を混練して混練物中の気体を除去することで、性能が安定した成型品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明に係るプレス成形装置10について説明する。
【0019】
図1に示すように、プレス成形装置10は、下部金型12と上部金型14で構成されている。上部金型14は、下部金型12に対して接近又は離間するように、上下方向に移動するようになっている。
【0020】
上部金型14は支持板16、18を介し、下部金型12は支持板20を介して、図示しないプレス機に取り付けられている。
【0021】
プレス機は、上部金型14を下降させて(以下、この動作を「型締め」と言うことがある)、上部金型14と下部金型12の間に装填された成形材料を加熱加圧して成形する。
【0022】
図1に示す本実施形態のプレス成形装置10は、例えば、浴槽のような容器形状のFRP成形品22(図2参照)を成形するためのものであり、下部金型12には、容器形状の内側の意匠面を成形するための、上方に向けて突出された突型部12Aが形成されている。この突型部12Aの基部周囲には、水平方向に張り出したフランジ形成部12Bが形成されている。
【0023】
一方、上部金型14の下部金型12に対向する面(下面)には、下部金型12の突型部12Aが嵌合可能な凹状の凹型部14Aが形成されており、容器形状の外側の面を成形する。この凹型部14Aの基部周囲には、水平方向に張り出したフランジ部14Bが形成されている。
【0024】
上記構成のプレス成形装置10において、成形材料から成形品を得る工程を簡単に説明する。本実施形態では、成形材料として強化繊維、樹脂、硬化剤、充填剤等を配合してシート状にしたSMC24(シートモールドコンパウンド)を用い、耐候性、耐熱性、耐薬品性にすぐれたFRP成形品22を成形する。
【0025】
まず、上部金型14を上昇させた状態(以下、この動作を「型開き」ということがある)で、下部金型12の突型部12A上に、所定のサイズに裁断されたSMC24を載置する。そして、プレス機を駆動させ、上部金型14を下降させて型締めする。これにより、上部金型14の凹型部14Aと下部金型12の突型部12Aに挟まれてSMC24が加熱加圧され、上部金型14の凹型部14Aと下部金型12の突型部12Aで形成されるキャビティ内の形状に沿って流動することで、FRP成形品22が成形される。
【0026】
一方、上部金型14には、下部金型12上のSMC24の周囲に対応する位置に、複数の空気孔26が形成されている。空気孔26は、支持板16、18に形成された孔28、30及びパイプ32を介して、制御装置34が接続されたコンプレッサー36に連結されている。
【0027】
パイプ32には、制御装置34によって開閉動作を行う電磁弁38が設けられている。この電磁弁38を開放すると、コンプレッサー36によって圧縮された空気が、パイプ32、孔30、28を介して空気孔26へ供給される。また、電磁弁38を閉鎖すると、空気孔26への空気の供給が遮断される。
【0028】
また、図2に示すように、上部金型14には、空気孔26の先端を取り囲むように、ザグリ40が形成されている。このザグリ40には、ザグリ40内を水平方向(空気孔26と直交する方向)に沿って移動可能とされた薄板状のシャッター部材42が設けられている。
【0029】
シャッター部材42の裏面(下部金型12に対向する側と反対側の面)には、ソレノイド44の可動鉄心44Aが固定されている。ソレノイド44は制御装置34に接続されており、制御装置34からの信号によってソレノイド44に通電されると、可動鉄心44Aが突出して、シャッター部材42を水平方向へ移動させるようになっている。
【0030】
制御装置34は、型締め開始時からの経過時間をカウントすることで、上部金型14によってプレスされたSMC24が空気孔26に至るまでのタイミングを検出する。そして、制御装置34からの信号によって、上部金型14でプレスされたSMC24が空気孔26に至る前のタイミングで、シャッター部材42が移動し、空気孔26を閉鎖するようになっている。
【0031】
次に、本発明のプレス成形装置10の動作について説明する。
【0032】
図3(A)に示すように、まず、載置台46上に用意されたSMC24を、下部金型12の突型部12A上に載置する。この突型部12Aの表面は、SMC24を載置する前の段階で、エアーを吹きかけたりすることによって汚れが除去されている。
【0033】
SMC24が用意された載置台46上から、下部金型12の突型部12A上にSMC24を移動させるとき、プレス成形装置10の周囲に気流が発生して、突型部12A周囲の空気中(大気中)に浮遊する浮遊物質P(Particulate Matter)が、プレス成形装置10の周囲に漂う。この状態で上部金型14を下降させると、上部金型14と下部金型12の間に浮遊物質Pを巻き込んだ状態でSMC24を加熱加圧することになってしまう。
【0034】
また、下部金型12と上部金型14の間に巻き込まれた浮遊物質Pは、上部金型14の下降によって発生する下側に向かう気流によって、下部金型12側に移動して突型部12A表面に付着する。この状態で上部金型14でSMC24を加熱加圧すると、突型部12A表面の浮遊物質PはSMC24によって引き伸ばされ、FRP成形品22の表面には引き伸ばされた状態の浮遊物質Pが付着してしまう。これが、FRP成形品22の表面に現れる汚れや異物混入である。
【0035】
そこで、上部金型14の型締めを開始して、凹型部14Aが下部金型12上のSMC24に接触する前(SMC24を加圧する直前)に電磁弁38(図1参照)を開放し、コンプレッサー36から供給される空気を空気孔26から噴射させる。
【0036】
なお、本実施形態では、型締め開始時からの経過時間をカウントすることで、上部金型14の凹型部14Aが、下部金型12上のSMC24に接触する前のタイミングを検出するようになっている。つまり、型開き時の上部金型14と下部金型12間の距離とSMC24の厚さから、上部金型14の凹型部14AがSMC24に接触するまでの距離が算出され、型締め速度に応じて型締め開始時から電磁弁38を開放するまでの時間が決定される。
【0037】
ここで、空気孔26から空気が噴射されると、上部金型14と下部金型12の間のスペースはSMC24の厚さよりも少し大きい程度とされているため、下部金型12の突型部12A表面に空気がぶつかり、上部金型14と下部金型12の間の細いスペースに沿って空気が移動する。これにより、上部金型14と下部金型12の間には、内側から外側に向かって気流が発生する。
【0038】
この気流によって、下部金型12の突型部12A表面に付着している浮遊物質Pが、下部金型12及び上部金型14の外側に向かって吹き出され、下部金型12及び上部金型14の間から浮遊物質Pが除去される。
【0039】
この状態で、上部金型14と下部金型12でSMC24を加熱加圧したとき、SMC24は浮遊物質Pを巻き込むことがないので、FRP成形品22の意匠面に汚れや異物混入が現れない。つまり、FRP成形品22に外観不良が発生するのを防止できる。
【0040】
また、上部金型14と下部金型12の間の隙間を十分に小さくしてから、空気孔26から空気を噴射する構成としている。これにより、空気孔26から噴射された空気が、上部金型14と下部金型12の間を漂うことなく、内側から外側に向かって流れるので、内側から外側に向かう気流を発生させやすい。
【0041】
さらに、上部金型14には、下部金型12上のSMC24(プレスされる前の状態のSMC)の周囲に対応する位置に空気孔26を形成している。これにより、空気孔26から噴射された空気は、SMC24に邪魔されず、下部金型12に直接かかる。このため、下部金型12に付着した浮遊物質Pは、空気孔26から噴射された空気によって下部金型12から剥離され、上部金型14と下部金型12の間で内側から外側に向かって発生する気流に乗って、プレス成形装置10の外に吹き出される。
【0042】
また、上部金型14でプレスされたSMC24が空気孔26に至る前のタイミングで、シャッター部材42によって空気孔26が閉鎖されるようになっている。これにより、SMC24が空気孔26に入り込むのを防止できる。
【0043】
なお、本実施形態では、空気孔26をSMC24の周囲に対応する位置に設けているが、SMC24の内側となる位置に空気孔26を形成してもよい。また、空気孔26は上部金型14にのみ形成された構成に限定されるものではなく、下部金型12や、上部金型14と下部金型12の両方に形成された構成としてもよい。
【0044】
また、本実施形態では、型締め開始時からの経過時間をカウントすることで、電磁弁38を開放する構成で説明したが、例えば、プレス成形装置10の外側に設けたセンサで、上部金型14が所定位置まで下降したのを検知して、電磁弁38を開放させてもよい。
【0045】
また、上部金型14のSMC24に接触する領域内にセンサを取り付け、このセンサにSMC24が接触したのを検知して、電磁弁38を開放させてもよい。なお、上部金型14がSMC24に接触しても、完全に型が締まっていないため、上部金型14と下部金型12の間には隙間が形成される。このため、上部金型14がSMC24に接触したタイミングで電磁弁38を開放させ、空気孔26から空気を噴射させれば、上部金型14と下部金型12の間に、内側から外側に向かう気流を発生させることができる。
【0046】
さらに、本実施形態では、上部金型14の凹型部14Aが、下部金型12に載置されたSMC24に接触する前に、電磁弁38を開放させる構成としているが、電磁弁38を開放させるタイミングは上記に限定されるものではなく、上部金型14と下部金型12の間に、内側から外側に向かう気流を発生させることができれば、例えば、型締め開始直後に電磁弁38を開放してもよい。
【0047】
また、本実施形態では、シャッター部材42をスライドさせることで、型締め時に空気孔26を閉鎖する構成としているが、空気孔26を閉鎖する構成は、上記形態に限定されるものではない。例えば、型締め時に空気孔26内にピンが挿入されることで空気孔26を閉鎖する構成としてもよい。また、空気孔26の先端(送風側)に、空気の送風方向へのみ開放される弁を設け、電磁弁38が開放されて空気孔26へ空気が噴射されると弁が開放されて、型締め時に弁にSMC24が接触すると、弁によって空気孔26が閉鎖される構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施形態に係るプレス成形装置の概略を示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係るプレス成形装置に設けられた空気孔を閉鎖するシャッター部材を示す側面図であり、(A)はシャッター部材が退避位置にある状態を示す図であり、(B)はシャッター部材で空気孔を閉鎖している状態を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係るプレス成形装置の動作を示す断面図である。
【図4】従来のプレス成形装置の動作を示す断面図である。
【符号の説明】
【0049】
10 プレス成形装置
12 下部金型(固定側金型)
14 上部金型(可動側金型)
24 SMC(被成形材料)
26 空気孔(噴射手段、噴射孔)
42 シャッター部材(開閉機構)
44 ソレノイド(開閉機構)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定側金型と可動側金型を型締めして被成形材料をプレスすることにより、所望の成形品を得るプレス成形装置において、
前記固定側金型又は前記可動側金型の少なくとも一方には、気体を噴射して該固定側金型と該可動側金型の間に、内側から外側へ向かって気流を発生させる噴射手段が設けられていることを特徴とするプレス成形装置。
【請求項2】
前記可動側金型が型締めを開始して前記被成形材料に接触する前に、前記噴射手段から気体を噴射することを特徴とする請求項1に記載のプレス成形装置。
【請求項3】
前記噴射手段は、前記被成形材料の周囲に気体を噴射することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のプレス成形装置。
【請求項4】
前記噴射手段は、前記固定側金型又は前記可動側金型の成形面に形成された噴射孔を備え、前記噴射孔は、前記可動側金型が前記被成形部材をプレスし該被成形部材が該噴射孔に至る前に該噴射孔を閉鎖する閉鎖機構を備えていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のプレス成形装置。
【請求項5】
前記被成形材料が、SMCであることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のプレス成形装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−23139(P2009−23139A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−186745(P2007−186745)
【出願日】平成19年7月18日(2007.7.18)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】