説明

プレートコンパクタのベルト張力調整装置

【課題】エンジンの回転力を起振体に伝達する張力調整ボルトの損傷を防止することが可能となる構成の張力調整ボルト取付け構造を有するプレートコンパクタのベルト張力調整装置を提供する。
【解決手段】エンジンベース3の下面に、エンジンを設置した位置調整板14と共に前後位置調整可能にフレーム17を設け、このフレーム17に雌ねじ部材27を設ける。エンジンベース3の下面における雌ねじ部材27より後方にボルト挿通孔3eを有するボルト支持板3dを設ける。頭部28aを有する張力調整ボルト28を、その頭部28aを後方にしてボルト挿通孔3eに通して雌ねじ部材27のねじ孔に螺合する。張力調整ボルト28の頭部28aを、エンジンベース3の後端より前方に位置させると共に、転圧板1の後部の傾斜縁3bの延長線30より前方に位置させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、舗装面の転圧や路面の締め固め等を行なうプレートコンパクタにおいて、エンジンの回転力を起振体に伝達するベルトの張力を調整する装置に係り、特にその調整ボルトの取付け構造に関する。
【背景技術】
【0002】
プレートコンパクタは、例えば特許文献1に記載のように、転圧板上に防振部材を介してエンジンベースを設置し、エンジンベース上にエンジンを載置固定し、エンジン出力軸に取付けたプーリと、転圧板上に載置した起振体の回転軸に取付けたプーリとにベルトを掛け、エンジン駆動によって起振体を回転させて転圧板を振動させることにより、アスファルト舗装面や砂利を敷き詰めた路面等の転圧を行なうものである。このようなプレートコンパクタにおいて、エンジンの回転力を起振体に伝達するベルトは、稼動時間の経過に伴って弛む傾向があり、弛みが生じた場合には張力を増大させる方向に調整する必要がある。
【0003】
図7(A)は従来のプレートコンパクタの構成を説明する側面図、図7(B)はこのプレートコンパクタにおけるベルト張力調整用ボルトの取付け構造を示す側面図である。図7(A)において、1は転圧板、2はこの転圧板1に設置した起振体、3は転圧板1上に防振ゴム7を介して設置したエンジンベース、14はこのエンジンベース3上に前後位置調整可能に設置した位置調整板、4はこの位置調整板14上に設置したエンジンである。エンジン4の出力軸には駆動プーリ(図示せず)が取付けられ、起振体2の中心軸には従動プーリ(図示せず)が取付けられ、これらのプーリにベルト(図示せず)が掛け回されており、エンジン4を作動させることにより起振体2が回転して振動を起こし、転圧板1の振動により転圧がなされる構成を有している。16はオペレータが把持してこのプレートコンパクタの移動、位置および姿勢の制御を行なうハンドルである。
【0004】
20は前記位置調整板14の前後位置調整により、前記ベルトの張力調整を行なう張力調整ボルトであり、この張力調整ボルト20の取付け構造を図7(B)に示す。図7(B)に示すように、位置調整板14はエンジンベース3の下面に設けたフレーム17との間でエンジンベース3を挟持し、フレーム17の上板17aに設けたボルト挿通孔17bに下方からボルト21を通し、このボルト21をエンジンベース3に設けた長孔3cと、位置調整板14に設けたボルト挿通孔14aに挿通してナット22に螺合することにより、位置調整板14をエンジンベース3に固定する構造を有する。
【0005】
張力調整ボルト20は、その頭部をフレーム17の縦板部17cに固定し、軸部をエンジンベース3の後に設けたボルト支持板3xのボルト挿通孔3yに回動可能に挿通し、ねじ先をエンジンベース3の後方に露出させて取付けられている。また、この張力調整ボルト20に螺合するナット23を、ボルト支持板3xの背面に当接させて取付けている。そして前記ベルトが弛んだ際には、前記ナット22を弛めて位置調整板14のエンジンベース3に対する締結を解き、ナット23の螺合深さを深くすることにより、位置調整板14を後方に移動させて起振体2に対するエンジン4の間隔が増大する方向に調整する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−129412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、図7に示した従来構造によると、張力調整ボルト20のねじ先がエンジンベース3の後方に突出した構造を有しているので、転圧作業により飛散した小石等がこの張力調整ボルト20のねじ部に衝突したり、何らかの落下物がこの張力調整ボルト20に衝突し易く、この衝突によりこの張力調整ボルト20のねじ部が損傷したり曲がる等の損傷を起こすおそれがあるという問題点があった。特に図7に示すように張力調整ボルト20が全ねじ式のものである場合には、飛散する小石等によってねじ部の損傷を起こしやすいという問題点がある。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑み、エンジンの回転力を起振体に伝達するベルトの張力調整装置の張力調整ボルトの損傷を防止することが可能となる構成の張力調整ボルト取付け構造を有するプレートコンパクタのベルト張力調整装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1のプレートコンパクタのベルト張力調整装置は、転圧板上に起振体と、防振部材を介したエンジンベースとを設置し、前記エンジンベースに前後方向に位置調整可能に設けた位置調整板上にエンジンを載置して、前記エンジンの出力軸に取付けた駆動プーリと前記起振体の中心軸に取付けた従動プーリにベルトを掛け回わし、前記位置調整板の前後位置を張力調整ボルトによって調整することにより、前記ベルトの張力を調整するプレートコンパクタのベルト張力調整装置において、
前記エンジンベースの下面に前記位置調整板と共に移動可能に設けたフレームの縦板に雌ねじ部材を設けると共に、
前記エンジンベースにおける前記雌ねじ部材よりも後方位置に前記エンジンベースの下方に突出させてボルト挿通孔を有するボルト支持板を設け、
頭部付の張力調整ボルトを、その頭部を後方にして前記ボルト支持板の前記ボルト挿通孔に回動可能に挿通して前記雌ねじ部材に螺合し、
前記張力調整ボルトの頭部を、前記エンジンベースの後端より前方に位置させると共に、前記転圧板の後部の傾斜縁の延長線より前方に位置させたことを特徴とする。
【0010】
請求項2のプレートコンパクタのベルト張力調整装置は、請求項1に記載のプレートコンパクタのベルト張力調整装置において、
前記張力調整ボルトの頭部を、前記転圧板の傾斜縁の頂部より前方に位置させたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、張力調整ボルトの後端部を、エンジンベースの後端より前方に位置させたので、上方からの落下物が張力調整ボルトに衝突することが防止される。また、張力調整ボルトの後端部を転圧板の後部の傾斜縁の延長線より前方に位置させたので、転圧板の振動により生じた上方に向かう小石等は傾斜縁の下面に衝突するので、張力調整ボルトに衝突することが防止される。このため、張力調整ボルトが落下物や小石等により損傷することが防止され、長期にわたり張力調整ボルトの機能を維持することができる。
【0012】
請求項2の発明によれば、張力調整ボルトの後端の頭部の位置を、転圧板の傾斜縁の頂部より前方に位置させたので、転圧作業によって上方に向けて跳ぶ小石等による損傷の虞や、転圧以外の何らかの理由で飛翔物が張力調整ボルトに衝突することによる損傷の虞がさらに少なくなり、より確実に張力調整ボルトの損傷を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明によるベルト張力調整装置を適用するプレートコンパクタの一例を示す側面図である。
【図2】図1のプレートコンパクタの平面図である。
【図3】図1のプレートコンパクタの正面図である。
【図4】本発明によるプレートコンパクタのベルト張力調整装置の一実施の形態を示す側面断面図である。
【図5】図4の部分拡大断面図である。
【図6】本発明によるプレートコンパクタのベルト張力調整装置の一実施の形態を示す側面断面図である。
【図7】(A)は従来のベルト張力調整装置を有するプレートコンパクタの側面断面図、(B)はその部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1、図2、図3はそれぞれ本発明によるベルト張力調整装置を適用するプレートコンパクタの一例を示す側面図、平面図、正面図である。また、図4は本発明によるプレートコンパクタのベルト張力調整装置の一実施の形態を示す側面断面図である。図1ないし図4において、1は転圧板であり、この転圧板1は前後に傾斜縁1a、1bを有する底板1cと、この底板1c上に溶接された上部構造物取付け板1dとからなる。2はこの転圧板1の上部構造物取付け板1dの前部に取付けられた偏心錘を有する起振体である。
【0015】
3はエンジンベースであり、このエンジンベース3にはクランクケース5を有するエンジン4が搭載される。6は燃料タンクである。エンジンベース3の左右両側に下方に折り曲げて形成した折り曲げ片3aを有する。この左右の折り曲げ片3aにはそれぞれ前後方向に間隔を有してスリット3b(図1参照)を設ける。図1、図4に示すように、上部構造物取付け板1dには上方へ突出させて防振部材取付けのための立ち上げ片1eを溶接し、各立ち上げ片1eとエンジンベース3の折り曲げ片3aとの間に防振部材として防振ゴム7を介装し、防振ゴム取付け用のボルト8を、スリット3b、防振ゴム7、および立ち上げ片1eに設けた孔に挿通してナット9に螺合し締結することにより、転圧板1にエンジンベース3を結合する。
【0016】
図1に示すように、エンジンの出力軸10に取付けられた駆動プーリ11と、起振体2の中心軸2aに取付けられた従動プーリ12との間にベルト13が掛け回され、エンジン4を作動させることにより、起振体2が回転して振動が発生し、転圧板1が振動する。なお、この実施の形態においては、起振体2の上面の回転方向が後方(後述のハンドル16側)から前方へ移動する方向とすることにより、この起振体2による振動発生と同時にプレートコンパクタを前方へ走行させる力を発生させる構成としている。
【0017】
前記ベルト13はその張力を好適な度合に調整するため、クランクケース5を含めたエンジン4は、エンジンベース3に対して前後位置調整可能に取付けられた位置調整板14(図4、図5参照)上に設置されており、その詳細構造については後述する。15はこのプレートコンパクタをトラック等に積み込み、積み下ろしする際に持ち上げるためにエンジンベース3に設けた運搬用のパイプである。16はエンジンベース3の後部に取付けられたハンドルであり、このハンドル16は、オペレータが把持してこのプレートコンパクタの移動、位置および姿勢の制御を行なうものである。
【0018】
17は前記位置調整板14と共にエンジンベース3の前後方向に位置調整可能に取付けられたボックス状のフレームであり、このフレーム17の下面には防振ゴム18をボルト19により取付けている。この防振ゴム18は、例えばこのプレートコンパクタが地面に落下する等の事態の発生により、防振ゴム7が過度に変形して防振ゴム7やボルト8、ナット9などが破損することを防止するために設けられるものであり、防振ゴム7が過度に変形する前に防振ゴム18を転圧板1の上部構造物取付け板1dに先行して当接させるものである。
【0019】
図5に示すように、エンジンベース3の下面に設けられたフレーム17は、位置調整板14との間にエンジンベース3を挟む上板17aを有し、上板17aには左右前後の4カ所にボルト挿通孔17bを有する。また、エンジンベース3にはボルト挿通孔17bにそれぞれ対応する前後に長い長孔3cを有し、位置調整板14にはボルト挿通孔17bに対応するボルト挿通孔14aを有する。そして固定用ボルト21を上板17aのボルト挿通孔17b、エンジンベース3の長孔3c、およびボルト挿通孔14aに挿通し、ナット22に螺合して締結することにより、位置調整板14およびフレーム17はエンジンベース3の前後方向に調整された位置に固定することが可能である。
【0020】
27はフレーム17の縦板部17cに雌ねじ部材として溶接により固定して設けたナットである。3dは張力調整ボルト28を支持するボルト支持板であり、このボルト支持板3dは、エンジンベース3の下面に溶接により設けられている。28は張力調整ボルトであり、この張力調整ボルト28は頭部28aを後方に向け、前記ボルト支持板3dのボルト挿通孔3eに回動可能に挿通し、前記フレーム17に固定したナット27に螺合して取付ける。ここで、張力調整ボルト28の後端部にある頭部28aは、エンジンベース3の後端より前方に位置させることにより、エンジンベース3でカバーされており、かつこの頭部28aは、転圧板1の後部の傾斜縁1bの延長線29より前方に位置させる。さらにこの実施の形態においては、張力調整ボルト28の保護をより確実にするため、張力調整ボルト28の頭部28aの位置を、転圧板1の傾斜縁1bの頂部(頂部の前後方向の位置を線30で示す。)より前方に位置させている。
【0021】
この構成において、ナット22を緩めて位置調整板14をエンジンベース3に対して前後方向に移動可能とし、張力調整ボルト28のナット27に対する螺合深さを深めることにより、位置調整板14をエンジンベース3に対して後方に移動させ、起振体2に対するエンジン4の距離を大きくすることにより、ベルト13の張力を増大させる方向に調整することができる。反対に張力調整ボルト28のナット27に対する螺合深さを浅くすることによりベルト13の張力を低下させることができる。
【0022】
この実施の形態においては、張力調整ボルト28の後端部を、エンジンベース3の後端より前方に位置させたので、上方からの落下物が張力調整ボルト28に衝突することが防止される。また、張力調整ボルト28の後端を、転圧板1の傾斜縁1bの頂部より前方に位置させたので、転圧板1の振動により発生した上方に向かう小石等は傾斜縁1bにより張力調整ボルト28に衝突することが防止される。また、転圧以外の何らかの作用で張力調整ボルト28に向かう小石等も傾斜縁1bに阻まれる。このため、張力調整ボルト28が落下物や小石等により損傷することが防止され、長期にわたり張力調整ボルト28の機能を維持することができる。
【0023】
また、図7に示した従来の張力調整ボルト20は全ねじ式のボルトであるため、ナット23を回動させるためには、張力調整ボルト20の後方に突出したねじ部を内嵌する構造の貫通式ラチェットと称される特殊の回動用工具が必要となるが、前記実施の形態においては、頭部28aが後端部に位置する張力調整ボルト28を用いているので、汎用のボルト回動用ラチェットを用いることができる。また、図7に示した従来の張力調整ボルト20の場合、貫通式ラチェットが無い場合には、スパナを使用して回動させることができるが、ナット23に対するスパナの装着、離脱を繰り返して回動を行なう必要があるので、作業能率が上がらない。一方、本実施の形態によれば、頭部28aとの嵌合凹部が浅い汎用のボルト回動用ラチェットを用いることができ、このラチェット使用により、頭部28aに対するラチェットの装着後はラチェットを連続的に回動操作するだけで能率よく調整作業を行なうことができる。
【0024】
図6は本発明の他の実施の形態であり、この実施の形態においては、張力調整ボルト28の頭部28aを、転圧板1の後部の傾斜縁1bの延長線29より前方に位置させたものである。ただし、この頭部28aは、転圧板1の傾斜縁1bの頂部より後方に位置している。この実施の形態においても、転圧板1の振動により生じやすい上方に向かう小石等は傾斜縁1bにより張力調整ボルト28に衝突することが防止される。
【0025】
本発明を実施する場合、上記各実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の変更、付加が可能である。
【符号の説明】
【0026】
1:転圧板、1a,1b:傾斜縁、2:起振体、3:エンジンベース、3a:折り曲げ片、3c:長孔、3d:ボルト支持板、3e:ボルト挿通孔、4:エンジン、5:クランクケース、6:燃料タンク、7:防振ゴム、10:エンジンの出力軸、11:駆動プーリ、12:従動プーリ、13:ベルト、14:位置調整板、14a:ボルト挿通孔、15:運搬用のパイプ、16:ハンドル、17:フレーム、17a:上板、17b:ボルト挿通孔、17c:縦板部、19:防振ゴム、21:固定用ボルト、22:ナット、27:ナット、28:張力調整ボルト,28a:頭部、29:傾斜縁1bの延長線、30:傾斜縁1bの頂部の前後位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転圧板上に起振体と、防振部材を介したエンジンベースとを設置し、前記エンジンベースに前後方向に位置調整可能に設けた位置調整板上にエンジンを載置して、前記エンジンの出力軸に取付けた駆動プーリと前記起振体の中心軸に取付けた従動プーリにベルトを掛け回わし、前記位置調整板の前後位置を張力調整ボルトによって調整することにより、前記ベルトの張力を調整するプレートコンパクタのベルト張力調整装置において、
前記エンジンベースの下面に前記位置調整板と共に移動可能に設けたフレームの縦板に雌ねじ部材を設けると共に、
前記エンジンベースにおける前記雌ねじ部材よりも後方位置に前記エンジンベースの下方に突出させてボルト挿通孔を有するボルト支持板を設け、
頭部付の張力調整ボルトを、その頭部を後方にして前記ボルト支持板の前記ボルト挿通孔に回動可能に挿通して前記雌ねじ部材に螺合し、
前記張力調整ボルトの頭部を、前記エンジンベースの後端より前方に位置させると共に、前記転圧板の後部の傾斜縁の延長線より前方に位置させたことを特徴とするプレートコンパクタのベルト張力調整装置。
【請求項2】
請求項1に記載のプレートコンパクタのベルト張力調整装置において、
前記張力調整ボルトの頭部を、前記転圧板の傾斜縁の頂部よりも前方に位置させたことを特徴とするプレートコンパクタのベルト張力調整装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−241413(P2012−241413A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−112350(P2011−112350)
【出願日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(594201397)株式会社日立建機カミーノ (18)
【Fターム(参考)】