説明

プレ洗浄に関する方法および洗浄装置

【課題】物品を洗浄する工程において、洗浄剤中に汚れ成分の増加や洗浄剤に溶解し難い汚れ成分により発生する洗浄不良の抑制効果に優れ、洗浄剤の液寿命を飛躍的に改善する洗浄方法および洗浄装置を提供することを課題とする。
【解決手段】物品を洗浄する工程において、洗浄に先立って、汚れに対する溶解能が乏しく比重の大きい(a)20℃における蒸気圧が1.33×10Pa以上の非塩素系フッ素化合物60容量%〜89容量%を含有する(b)組成物によりプレ洗浄する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械部品、精密機械部品、光学機械部品等の加工時に使用される加工油類、グリース類、ワックス類や電気電子部品のハンダ付け時に使用されるフラックス類および液晶等のあらゆる汚れを洗浄するのに好適な、洗浄方法および洗浄装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
機械部品、精密機械部品、光学機械部品等の加工時に使用される種々の加工油類、例えば、切削油、プレス油、引抜き油、熱処理油、防錆油、潤滑油等、または、グリース類、ワックス類等が使用されるが、これらの汚れは最終的には除去する必要があり、溶剤による除去が一般的に行われている。
また、電子回路の接合方法としてはハンダ付けが最も一般的に行われているが、ハンダ付けすべき金属表面の酸化物の除去清浄化、再酸化防止、ハンダ濡れ性の改良の目的で、ロジンを主成分としたフラックスでハンダ付け面を予め処理することが通常行われている。このフラックス残渣は金属の腐食や絶縁性の低下の原因となるため、ハンダ付け終了後、十分に除去する必要がある。
【0003】
これらの洗浄、除去には、不燃性で毒性が低く、優れた溶解性を示す等、多くの特徴を有することから、1,1,2−トリクロロ−1,2,2−トリフルオロエタン(以下CFC113という)やCFC113とアルコールなどを混合した溶剤で洗浄していたが、オゾン層破壊等の地球環境汚染問題が指摘され、日本では1995年末にその生産が全廃された。このCFC113の代替品として、3,3−ジクロロ−1,1,1,2,2−ペンタフルオロプロパンと1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパンの混合物(以下HCFC225という)等のハイドロクロロフルオロカーボンが提案されているが、これらもオゾン層破壊能があるため、日本では2020年にその使用が禁止される予定である。さらに、近年、塩素原子を全く含まないハイドロフルオロカーボン類(以下HFCという)やハイドロフルオロエーテル類(以下HFEという)等のオゾン層破壊能が全くなく、不燃性のフッ素系溶剤が提案されているが、塩素原子を含まないために溶解能が低く、単独では洗浄剤として使用できない。
【0004】
特許文献1、特許文献2、および特許文献3等に、HFCやHFE等の非塩素系フッ素化合物と汚れに対する洗浄力の向上を目的とした特定の条件を満たす化合物との混合溶剤が開示されている。これらの発明により上記問題点は解決され、オゾン層破壊能がなく溶解能に優れた非引火性の洗浄剤組成物が得られるものの、洗浄剤中に蓄積する汚れ成分の増加にともなう、被洗物表面への汚れ成分の再付着や汚れ成分と洗浄剤成分の分離の困難さから生じる洗浄液寿命の短縮が課題になっている。特許文献3や特許文献4には、洗浄槽において汚れ成分の混入した洗浄剤を連続的に汚れ分離槽に送り、汚れ成分を分離除去して清浄化し、清浄化された洗浄剤を洗浄槽に戻す洗浄方法および洗浄装置が提案されているが、装置が大型化するなどの課題があり十分な解決には至っていない。
【0005】
代替洗浄剤として、ハロゲン系溶剤以外にも炭化水素系溶剤やアルコール系溶剤などを用いた非水系洗浄剤、酸、アルカリ或いは界面活性剤等が配合された水系洗浄剤の開発が進められているが、これら洗浄剤、特に汚れに対する溶解能が高くて比較的沸点の高い溶剤を成分とする洗浄剤においては、同様に、洗浄剤中に蓄積する汚れ成分の分離除去や溶剤の蒸留再使用の困難さが問題となっている。(特許文献4)
特許文献5にはHFCやHFE等の非塩素系フッ素化合物を主成分とするプレ洗浄方法に関する記載があるが、脂肪酸エステルや極圧添加剤などを含む加工油に対するプレ洗浄効果が十分なく、かつ、蒸留装置を含む装置が大型化するなどの課題があり十分な解決には至っていない。
【特許文献1】特開平10−36894号公報
【特許文献2】特開平10−192797号公報
【特許文献3】国際公開第01/092456号パンフレット
【特許文献4】特開2000−8095号公報
【特許文献5】特開2007−144318号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、物品を洗浄する工程において、洗浄剤中に蓄積する汚れ成分の増加や洗浄剤に溶解し難い汚れ成分に起因する、洗浄性の低下や被洗物表面への汚れ成分の再付着により発生する洗浄不良の抑制効果に優れ、洗浄剤の液寿命を飛躍的に改善する洗浄方法および洗浄装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を達成するための洗浄剤組成物、洗浄方法、汚れ分離方法および洗浄装置につき種々の検討を重ねた結果、物品を洗浄する工程において、洗浄に先立って、汚れに対する溶解能が乏しく比重の大きい(a)20℃における蒸気圧が1.33×10Pa以上の非塩素系フッ素化合物60容量%〜89容量%を含有する(b)組成物によりプレ洗浄することで、仕上げ洗浄剤への汚れ持込み量を大幅に削減できるだけでなく、プレ洗浄において被洗物表面から除去された汚れ成分を(b)組成物より連続的かつ容易に分離することが可能となり、仕上げ洗浄剤の液寿命を大幅に改善できることを見出し、さらにプレ洗浄の前処理として炭化水素系溶剤で荒洗浄することによりプレ洗浄効果がよりいっそう高まり、仕上げ洗浄剤への汚れ持込み量をさらに削減することにより前期課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち第1の発明は、物品をプレ洗浄したのち仕上げ洗浄を行う工程において、(a)20℃における蒸気圧が1.33×10Pa以上の非塩素系フッ素化合物60容量%〜89容量%と、(d)20℃における蒸気圧が1.33×10Pa未満の有機化合物40容量%〜11容量%を含有する組成物(b)により、プレ洗浄することを特徴とする洗浄方法である。第2の発明は、成分(a)が、ハイドロフルオロカーボン(HFC)及び/またはハイドロフルオロエーテル(HFE)を含有することを特徴とする発明の第1に記載の洗浄方法である。
第3の発明は、成分(a)が、2H,2H,4H,4H,4H−ペンタフルオロブタン(HFC365mfc)、2H,3H−パーフルオロペンタン(HFC43−10mee)、メチルパーフルオロブチルエーテル、メチルパーフルオロイソブチルエーテルおよびこれらの混合物(HFE7100)、エチルパーフルオロブチルエーテル、エチルパーフルオロイソブチルエーテルおよびこれらの混合物(HFE7200)、1,1,2,2−テトラフルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン(HFE347pc−f)及び4H,5H,5H−ヘプタフルオロシクロペンタン(ゼオローラH)から選ばれる一種又は二種以上の組み合わせを含有することを特徴とする発明の第1〜2のいずれか1項に記載の洗浄方法である。
【0009】
発明の第4は、プレ洗浄した後の洗浄工程に使用する(c)仕上げ洗浄剤が(d)20℃における蒸気圧が1.33×10Pa未満の成分を含有することを特徴とする発明の第1〜第3のいずれか1項に記載の洗浄方法である。
発明の第5は、(c)仕上げ洗浄剤が、(a)20℃における蒸気圧が1.33×10Pa以上の非塩素系フッ素化合物10容量%〜60容量%と(d)20℃における蒸気圧が1.33×10Pa未満の成分90容量%〜40容量%とを含有する(c)仕上げ洗浄剤であることを特徴とする発明の第1〜第4のいずれか1項に記載の洗浄方法である。
【0010】
発明の第6は、(b)組成物と分離する成分を分離フィルターを用いて系外に排出しながら、(b)組成物によりプレ洗浄することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の洗浄方法である。
発明の第7は、(b)組成物によるプレ洗浄の前工程として、(e)炭化水素類から選ばれる一種又は二種以上の組み合わせで、荒洗浄することを特徴とする発明の第1〜第6のいずれか1項に記載の洗浄方法である。
発明の第8は、(e)炭化水素類が、C8からC16の飽和炭化水素及び/または灯油であることを特徴とする発明の第7に記載の洗浄方法である。
【0011】
発明の第9は、(A)(b)組成物により被洗物を浸漬するためのプレ洗浄槽と、(B)(b)組成物と分離する成分を系外に排出する機構とこれを分離する分離フィルターとを有するプレ洗浄装置である。
発明の第10は、(D)(c)仕上げ洗浄剤を構成する少なくとも一種の成分を加熱及び/または加熱して蒸気を発生させるための加熱機構を有する仕上げ洗浄槽、(F)該仕上げ洗浄槽(D)から発生した蒸気で蒸気洗浄するための蒸気ゾーン、(G)発生した蒸気を凝縮して得られた凝縮液から水分を除去するための水分離槽、(E)水分離槽において水分の除去された凝縮液により浸漬リンスするためのリンス槽を有する発明の第9に記載の洗浄装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明は物品を洗浄する工程において、仕上げ洗浄の前処理として行うプレ洗浄に、汚れに対する溶解力に乏しくかつ比重の大きい成分(a)60容量%〜89容量%と、成分(d)40容量%〜11容量%からなる(b)組成物をプレ洗浄剤とすることで、加工油に含まれる脂肪酸エステルや極圧添加剤に対する洗浄性を維持しつつ、(b)組成物からの汚れ成分の比重差分離が極めて容易となることを特徴とする。さらに、汚れたプレ洗浄液を分離フィルターにより汚れ成分と(b)組成物とを分離することで、(b)高い清浄度を有する(b)組成物により優れたプレ洗浄性を長期間維持することができる。この(b)組成物によるプレ洗浄効果により、仕上げ洗浄工程への脂肪酸エステルや極圧添加剤等の加工油成分の持込み量の大幅削減が達成され、仕上げ洗浄剤への負荷を低減することで液寿命を飛躍的に改善すると共に、仕上げ洗浄剤単独で洗浄するよりも高い洗浄レベルの要求される精密洗浄を可能とした。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本明細書において、「プレ洗浄」とは、汚れに対する溶解力に乏しくかつ比重の大きい成分(a)を含有する(b)組成物により、被洗物表面に付着する汚れ成分を除去する中間洗浄を表し、後工程における仕上げ洗浄を必要とする。
また、「仕上げ洗浄」とは、プレ洗浄された被洗物表面に残留する汚れ成分を各種洗浄剤により最終的に除去し、洗浄を完了させる最終洗浄を表す。
また、「荒洗浄」とは、プレ洗浄の前工程として汚れ成分に対する優れた溶解性を有する(e)炭化水素類により被洗物表面に付着する汚れ成分を除去するための予備洗浄を表す。
また、「汚れ成分」とは、被洗物から除去したい成分を表す。例えば精密部品に付着した加工油、プリント基板に付着したフラックス残渣、液晶セルのギャップ間に残留した液晶等が挙げられ、またリンス工程においては、仕上げ洗浄剤成分も表す。分離フィルターとはプレ洗浄剤中に微分散している汚れ成分を分離するフィルターを表す。
【0014】
本発明における洗浄方法は仕上げ洗浄工程とその前工程として、汚れに対する溶解力に乏しくかつ比重の大きい成分(a)60〜89容量%以下と成分(d)40容量%〜11容量%からなる(b)組成物によるプレ洗浄工程からなる。本発明に係る洗浄方法に必須のプレ洗浄工程は、仕上げ洗浄工程の前処理工程として、被洗物に付着する汚れ成分を被洗物表面から50%以上、好ましくは75%以上、さらに好ましくは90%以上除去することにより、後工程の仕上げ洗浄工程における汚れ成分の蓄積による洗浄不良の発生や液交換作業の負荷を低減し、かつ仕上げ洗浄単独では得られない高清浄度の仕上がりを得るための工程であり、プレ洗浄槽に貯留する(b)組成物によるプレ洗浄を主体とし、使用中の(b)組成物からなるプレ洗浄剤を分離フィルターによる各種汚れ成分を分離する工程等を組み合わせて使用する工程である。
具体的なプレ洗浄工程としては、プレ洗浄するためのプレ洗浄槽、プレ洗浄槽中のプレ洗浄剤を循環し(b)組成物から汚れ成分を分離するための分離フィルターからなる。必要に応じて、プレ洗浄槽中に蓄積する汚れ成分を分離するための比重差を利用した静置槽等のあらゆる機構を設置することができる。
【0015】
本発明で用いる「分離フィルター」は、織布、編布、不織布のいずれでも良い。また、この「分離フィルター」を構成する繊維は、何ら限定されるものではないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系共重合体の繊維、ポリヘキサメチレンアジパミド、ポリカプラミド等のポリアミド繊維、ポリアミド・イミド繊維、芳香族ポリアミド繊維、ポリパラオキシベンゾエート等のポリエステルエーテルの繊維、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のハロゲン含有重合体の繊維、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィンの繊維、各種アクリル繊維およびポリビニルアルコール系繊維、再生セルロース、アセテート、木綿、麻、絹、羊毛、等の天然繊維が挙げられる。これらの繊維は単独あるいは組み合わせて使用される。また、これら繊維をジメチルポリシロキサンやパーフルオロアルキル基を持ったフッ素系樹脂等で撥水加工処理したものも使用可能である。
【0016】
本発明で用いる「分離フィルター」を構成する繊維の単繊維直径は汚れ分離性が損なわれない範囲であれば特に限定はないが、好ましくは0.1〜10μmのものを主体とし、より好ましくは単繊維直径2μm以下のものを主体とする。「主体とする」とは、分離フィルターを構成する繊維の総重量に対して、上述の単繊維直径を有する繊維の総重量が50%以上であることである。単繊維直径が10μm以下で、より好ましい微分散した汚れ成分の除去性及び処理速度が得られ、0.1μm以上で容易に入手することができる。
分離フィルターの厚みは汚れ分離性が損なわれない範囲であれば特に限定はないが、好ましくは0.1〜70mmである。厚みが0.1mm以上でより好ましい分離効果が得られ、70mm以下でより好ましい液透過時の圧力損失の抑制が可能となる。
【0017】
本発明に用いる分離フィルターは平膜状、円筒状、スパイラル状、プリーツ状等の任意の形態で用いることができる。処理効率の面から、分離フィルターはプリーツ状の形態で用いることが好ましい。また、分離フィルターは1枚あるいは復数枚の重ね合わせによって使用され、通液方法は重力による液透過、圧送による液透過等の任意の方法をとることができ、なんら限定されるものではない。
本発明で用いる分離フィルターに対して、補強等の目的で金網、プラスチック、繊維構造体等の補強剤を用いることも可能である。また、本発明に用いる分離フィルターに戻り液を通す前にゴミ等の捕集するためのプレフィルター、例えば膜状、わた状のゴミ捕集材を置くことも可能である。
【0018】
本発明に用いる分離フィルターとしては旭化成せんい(株)製「ユーテック」(登録商標)という(イ)または(ロ)の特徴を有する分離フィルターが特に好ましい。
分離フィルター(イ)は単繊維直径0.1〜10μmの繊維を主体とし、空隙率が30〜90%、厚さ0.1〜70mmで、かつ、繊維表面の臨界表面張力が3.5×10−2N/m以上の分離フィルターによって粗粒化分離するフィルターであり、分離フィルター(ロ)は単繊維直径0.1〜10μmの繊維を主体とし、空隙率が30〜90%の撥水性を有する分離フィルターによって、戻り液中の汚れ成分を分離するフィルターである。
本発明の分離フィルター(イ)または/および(ロ)により、汚れ成分を分離する場合には、汚れ分離槽において微分散した汚れ成分の戻り液への再溶解を防止することを目的に液温を20℃をより低く保持することが好ましく、より好ましくは10℃以下である。
【0019】
さらに、本発明に係る洗浄方法は、プレ洗浄工程とこれにつづく仕上げ洗浄工程の組み合わせにより、仕上げ洗浄剤では困難な高い洗浄性が要求される精密洗浄に対応した洗浄方法を可能とすると共に、仕上げ洗浄剤への汚れ持込み量が削減されることで、液寿命が飛躍的に高まり洗浄現場における作業効率の大幅な改善が可能となる。
仕上げ洗浄工程は、プレ洗浄工程でプレ洗浄された被洗物に残留する汚れ成分を除去し洗浄を完了させる工程で、仕上げ洗浄槽に貯留する各種仕上げ洗浄剤による仕上げ洗浄を主体として、必要に応じて、仕上げ洗浄した被洗物表面に付着している汚れ成分を含む仕上げ洗浄剤成分を汚れ成分を含まない溶剤に置換するためのリンス槽あるいはシャワーリンスするための機構や、更に被洗物表面に僅かに残留する汚れ成分を被洗物と蒸気との温度差によって被洗物表面で凝縮する液体で除去する蒸気洗浄するための機構などを含む工程である。
【0020】
さらに、本発明に係る洗浄方法ではプレ洗浄工程の前工程として、汚れ成分に対する優れた溶解性を有する(e)炭化水素類による荒洗浄工程を組み合わせる事により、プレ洗浄工程への汚れ成分の持込み量を削減すると共に荒洗浄剤で置換し、プレ洗浄工程において溶解力に乏しくかつ比重の大きい成分(a)を含有する(b)組成物の汚れ成分に対する溶解力をわずかに付与することにより、汚れ成分の被洗物表面からの分離除去性が向上することでプレ洗浄効果を高めることが可能となる。
荒洗浄工程はプレ洗浄工程の前工程で被洗物に付着する多量の汚れ成分の付着量を削減し、荒洗浄剤で置換する工程で、荒洗浄槽に貯留する(e)炭化水素類による浸漬荒洗浄を主体として、必要に応じて荒洗浄槽で揺動、振動、液中噴流、シャワー及び超音波或いはこれら物理的な力の組み合わせの併用等を含む工程である。
【0021】
(b)組成物からなるプレ洗浄剤に用いる(a)20℃における蒸気圧が1.33×10Pa以上の非塩素系フッ素化合物は、20℃における蒸気圧が1.33×10Pa以上あれば特に種類を問わないが、例えば、下記一般式(1)で特定される環状HFC、(2)で特定される鎖状HFC、又は(3)で特定されるHFEの、塩素原子を含まない、炭素原子、水素原子、酸素原子、フッ素原子からなる化合物、及びこれらの中から選ばれる2種以上の化合物の組み合わせ等を挙げることができる。
【0022】
2n−m(1)
(式中、4≦n≦6、5≦m≦2n−1の整数を示す)
2x+2−y(2)
(式中、4≦x≦6、5≦y≦12の整数を示す)
2s+1OR(3)
(式中、4≦s≦6、Rは炭素数1〜3のアルキル基)環状HFCの具体例としては3H,4H,4H−パーフルオロシクロブタン、4H、5H、5H−パーフルオロシクロペンタン(ゼオローラH)、5H,6H,6H−パーフルオロシクロヘキサン等を挙げることができる。
【0023】
鎖状HFCの具体例としては1H,2H−パーフルオロブタン、1H,3H−パーフルオロブタン、2H,3H−パーフルオロブタン、4H,4H−パーフルオロブタン、1H,1H,3H−パーフルオロブタン、1H,1H,4H−パーフルオロブタン、1H,2H,3H−パーフルオロブタン、1H,2H,3H,4H−パーフルオロブタン、2H,2H,4H,4H,4H−パーフルオロブタン(HFC365mfc)、1H,2H−パーフルオロペンタン、1H,4H−パーフルオロペンタン、2H,3H−パーフルオロペンタン(HFC43−10mee)、2H,4H−パーフルオロペンタン、2H,5H−パーフルオロペンタン、1H,2H,3H−パーフルオロペンタン、1H,3H,5H−パーフルオロペンタン、1H,5H,5H−パーフルオロペンタン、2H,2H,4H−パーフルオロペンタン、1H,2H,4H,5H−パーフルオロペンタン、1H,4H,5H,5H,5H−パーフルオロペンタン、1H,2H−パーフルオロヘキサン、2H,3H−パーフルオロヘキサン、2H,4H−パーフルオロヘキサン、2H,5H−パーフルオロヘキサン、3H,4H−パーフルオロヘキサン等を挙げることができる。
【0024】
HFEの具体例としてはメチルパーフルオロブチルエーテル、メチルパーフルオロイソブチルエーテルおよびこれらの混合物(HFE7100)、メチルパーフルオロペンチルエーテル、メチルパーフルオロシクロヘキシルエーテル、エチルパーフルオロブチルエーテル、エチルパーフルオロイソブチルエーテルおよびこれらの混合物(HFE7200)、エチルパーフルオロペンチルエーテル、及び1,1,2,2−テトラフルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン(HFE347pc−f)等を挙げることができる。
【0025】
これら(a)非塩素系フッ素化合物の中から選ばれる1種又は2種以上の化合物を組み合わせて用いることができるが、好ましくは地球温暖化係数の低いHFCまたはHFEを挙げることができる。より好ましくは、HFC365mfc、ゼオローラH、メチルパーフルオロブチルエーテルとメチルパーフルオロイソブチルエーテルおよびHFE7100、エチルパーフルオロブチルエーテルとエチルパーフルオロイソブチルエーテルおよびHFE7200、HFE347pc−fを挙げることができる。さらに好ましくは引火点抑制効果に優れるメチルパーフルオロブチルエーテル、メチルパーフルオロイソブチルエーテルおよびHFE7100やプレ洗浄剤として適した汚れ溶解性を有するHFC365mfcを挙げることができる。特に(b)組成物や仕上げ洗浄剤を非引火性とするためには成分(a)である非塩素系フッ素化合物を含有する必要がある。
【0026】
本発明のプレ洗浄に用いられる(b)組成物は成分(a)60容量%以上〜89容量%以下と、成分(d)40容量%〜11容量%を必須成分とするが、その特性を損なわない範囲で、必要に応じて、酸化防止剤或いは紫外線防止剤等を含有しても良い。(b)組成物における成分(a)の割合は、本発明のプレ洗浄剤としての特徴である汚れに対する溶解能、比重、揮発性、不燃性を損なわない範囲であれば特に制限はないが、好ましくは全組成物の65容量%以上〜80容量%以下である。この範囲において、充分な汚れ分離性、乾燥性及び非引火性が得られる。
【0027】
本発明のプレ洗浄方法は、被洗物をプレ洗浄可能な如何なる方法で洗浄しても良く、プレ洗浄方法を限定するものではないが、成分(a)60容量%〜89容量%を含有する(b)組成物により、物品をプレ洗浄することを必須の要件とする。プレ洗浄工程にはプレ洗浄性を向上することを目的とした浸漬、揺動、振動、液中噴流及び超音波等の物理的な方法を組み合わせることにより、効果的なプレ洗浄が可能となる。汚れ分離工程では(b)組成物と分離する成分を系外に排出するために、ポンプ等で(b)組成物を循環し連続的に汚れ成分を(b)組成物より分離することにより、清浄度の高い(b)組成物によるプレ洗浄が可能となる。本発明のプレ洗浄方法は(b)組成物により被洗物表面の汚れ成分を除去すると共に、除去した汚れ成分を連続的に(b)組成物から分離することにより、後工程における仕上げ洗浄効果を高めるのに最も適した洗浄方法と言える。
【0028】
具体的なプレ洗浄方法及びプレ洗浄装置を添付図面によって説明する。図1は請求項9に記載のプレ洗浄装置の一例である。主な構造として、(b)組成物により被洗物を浸漬するためのプレ洗浄槽(A)1、(b)組成物と分離する成分を系外に排出する機構(B)2、4、5、6を有する。実際のプレ洗浄においては被洗物を専用のジグやカゴ等に入れて、洗浄装置内のプレ洗浄槽(A)1を通過させてプレ洗浄を完了する。一方、被洗物表面より除去された汚れを含む(b)組成物はプレ洗浄槽(A)1から連続的にオーバーフローして矢印7のように貯液槽(B)2へ入り、配管(B)6から循環用ポンプ(B)4により分離フィルター(B)5を通過することで汚れ成分を分離し、(b)組成物をプレ洗浄槽(A)1に戻すことにより、常にプレ洗浄槽(A)1内の(b)組成物の清浄度を高く維持することが可能となる。
【0029】
プレ洗浄槽(A)1では、(b)組成物に被洗物を浸漬し、物理的な力として超音波3により被洗物表面に付着した汚れを被洗物表面から剥離する。(b)組成物によるプレ洗浄では、被洗物表面に付着した汚れの一部成分を溶解することで溶解性に乏しい汚れ成分を(b)組成物中に分散させるのに物理的な力が有効である。物理的な力としては、例えば、超音波、揺動、攪拌、(b)組成物の液中噴霧及びブラッシング或いはこれらの組み合わせを併用する等、これまでの洗浄機に採用されている物理的な力であれば、いかなる方法を使用しても良い。また、プレ洗浄槽(A)1において発生する(b)組成物の蒸気は冷却管8によって凝縮し、配管9を通り水分離槽(C)10に集めた後冷却管11により温度を下げることにより、凝縮液と冷却管8に付着した水とを静置分離し、配管12からプレ洗浄槽(A)1に戻す。
【0030】
プレ洗浄槽(A)1では(b)組成物の汚れに対する溶解能が低いため、汚れ成分の一部は(b)組成物に溶解するが、大部分は溶解せず(b)組成物との比重差により、(b)組成物の上層に浮遊した状態で存在する。プレ洗浄槽(A)1中の(b)組成物と浮遊する汚れ成分とは、(b)組成物を循環するための循環用ポンプ(B)4により、貯液槽(B)2からプレ洗浄槽(A)1へ連続的に給液される(b)組成物の凝縮液により、プレ洗浄槽(A)1からオーバーフローして矢印6のように配管7を通り、貯液槽(B)2に移行する。
【0031】
貯液槽(B)2に移行した(b)組成物に溶解せず浮遊した汚れ成分は、(b)組成物に微分散した汚れ成分を(b)組成物と分離する成分を系外に排出する機構(B)2、4、5、6により系外に排出し、貯液槽(B)2内において(b)組成物の液面に蓄積された汚れ成分は、必要に応じて貯液槽(B)2内より系外に排出する。排出する方法についてはこれまで使用されてきたいかなる方法を使用しても良いが、例えば、分離浮遊している汚れ成分をポンプ循環によりオーバーフローさせ系外に排出した後、オイルスキマー及びフィルターにより連続的に処理する方法や、槽内に一定量蓄積した段階でオイルマットによる吸着や容器等によりすくい取る方法を挙げることができる。さらに、(b)組成物の液温を低下させることでより効果的に汚れ成分の分離を加速することが可能となる。
本発明のプレ洗浄方法及びプレ洗浄装置では、汚れ成分に対する溶解能の低い(b)組成物を使用し、汚れ成分を溶解せず被洗物表面から物理的に除去することにより、(b)組成物と汚れ成分との分離性を高め、汚れ成分の系外への排出を容易とするだけでなく、後工程における仕上げ洗浄剤への汚れ成分の持込み量を大幅に削減することができる。特に蒸留等の方法により、仕上げ洗浄剤中に持ち込まれた汚れ成分を容易に分離できない仕上げ洗浄剤の前処理工程として有効である。
【0032】
該プレ洗浄工程の洗浄装置では、主に(c)仕上げ洗浄剤に含まれる蒸気圧の高い成分(a)とわずかに含まれる成分(d)が洗浄装置内で液体や気体に状態変化させながら循環し被洗物に残留している可能性の有る汚れ成分をプレ洗浄槽(A)1において洗浄することで、後工程の仕上げ洗浄剤への汚れ持込み量を大幅に削減することが可能となる。この洗浄方法においては、仕上げ洗浄剤への汚れ成分の持込み量をより削減するのに効果的な方法及び装置である。
より高い洗浄レベルの求められる精密洗浄、或いは、汚れの種類などによっては、本発明の(b)組成物によるプレ洗浄の前工程として、(e)炭化水素類から選ばれる一種又は二種以上の組み合わせで、荒洗浄することが有効である。ここに用いられる(e)炭化水素類としてはヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、ペンタデカン、テトラデカン、ペンタデカン、メンタン、ビシクロヘキシル、シクロドデカン、2,2,4,4,6,8,8−ヘプタメチルノナン、灯油、軽油等が挙げられる。これら(e)炭化水素類の中から選ばれる1種又は2種以上の化合物を組み合わせて用いることができるが、好ましくは引火点が高く粘度の低いデカン及び灯油を挙げることができる。荒洗浄に用いられる洗浄方法及び洗浄装置としては、洗浄可能な如何なる方法および装置であっても良く、これまで炭化水素系洗浄剤で使用されていた一般的な洗浄方法及び洗浄装置や単に浸漬洗浄するためのタンクを使用することも可能である。
【0033】
プレ洗浄された被洗物は仕上げ洗浄工程において、被洗物に残留する汚れ成分を最終的に洗浄除去することで洗浄が完了する。この仕上げ洗浄工程に用いられる洗浄剤、洗浄方法及び洗浄装置は、従来公知のものが適用される。特に本発明のプレ洗浄方法の効果がより顕著に示されるのは、洗浄剤成分と汚れ成分との分離が困難である場合や蒸留回収の比較的困難な洗浄剤成分を含む洗浄剤においてである。従って、限定するものではないが、好ましくはプレ洗浄した後の洗浄工程に使用する(c)仕上げ洗浄剤が(d)20℃における蒸気圧が1.33×10Pa未満の成分を含有する仕上げ洗浄剤であり、特に仕上げ洗浄工程の不燃化、各種汚れに対する洗浄性、リンス性、更には、仕上げ洗浄工程におけるリンス洗浄や蒸気洗浄に用いる仕上げ洗浄剤とプレ洗浄剤とを共通の溶媒にできることをも考慮すると、(c)仕上げ洗浄剤が(a)20℃における蒸気圧が1.33×10Pa以上の非塩素系フッ素化合物と(d)20℃における蒸気圧が1.33×10Pa未満の成分とを含有する仕上げ洗浄剤において最も効果的な洗浄が可能となる。
【0034】
ここにおいて、(d)20℃における蒸気圧が1.33×10Pa未満の成分は、種々の炭化水素類、アルコール類、ケトン類およびエーテル結合及び/またはエステル結合を有する有機化合物等の、各種汚れに対して良好な洗浄性を有し、且つ20℃における蒸気圧が1.33×10Pa未満の化合物である。成分(d)の蒸気圧が、この範囲にあるときに、仕上げ洗浄工程における洗浄性及びリンス性に優れた仕上げ洗浄剤が得られる。好ましくは、20℃において6.66×10Pa以下であり、さらに好ましくは1.33×10Pa以下である。以下、成分(d)について具体例を挙げて説明する。
【0035】
炭化水素類の具体例としてはデカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、メンタン、ビシクロヘキシル、シクロドデカン、2,2,4,4,6,8,8−ヘプタメチルノナン等が挙げられ、アルコール類の具体例としてはn−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、イソアミルアルコール、n−ヘプタノール、n−オクタノール、n−ノナノール、n−デカノール、n−ウンデカノール、ベンジルアルコール、フルフリルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられ、ケトン類の具体例としてはメチル−n−アミルケトン、ジイソブチルケトン、ジアセトンアルコール、ホロン、イソホロン、シクロヘキサノン、アセトフェノン等が挙げられる。エーテル結合を有する有機化合物とは、分子構造の中にエーテル結合(C−O−C)を少なくとも1個以上含有する化合物であり、エステル結合を有する有機化合物とは、分子構造の中にエステル結合(−COO−)を少なくとも1個以上含有する化合物である。
【0036】
具体例として、エーテル結合を有する化合物としては、エチレングリコールモノ−n−ヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−i−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−i−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−i−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−i−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−i−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−i−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、3−メトキシブタノール、3−メチル−3−メトキシブタノール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等を挙げることができる。
【0037】
エステル結合を有する化合物としては酢酸−n−ブチル、酢酸イソアミル、酢酸−2−エチルヘキシル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸プロピル、乳酸ブチル、γ−ブチルラクトン、コハク酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート等が挙げられる。本発明に使用する成分(d)としては、非塩素系フッ素化合物は含まれない。本発明に使用する成分(d)としては、人体における代謝系でアルコキシ酢酸を生成しないジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、3−メトキシブタノールおよび3−メチル−3−メトキシブタノール、乳酸ブチル、3−メチル−3−メトキシブチルアセテート等がより毒性が低く好ましい。
【0038】
(c)仕上げ洗浄剤の成分として用いられる(a)20℃における蒸気圧が1.33×10Pa以上の非塩素系フッ素化合物としてはプレ洗浄剤のところで説明した化合物の一種または又は二種以上の組み合わせが用いられる。必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤を添加することができる。
各成分の質量割合については、仕上げ洗浄剤の特徴である、高洗浄性、低毒性、非引火性が損なわれない範囲であれば、特に制限はないが、(a)20℃における蒸気圧が1.33×10Pa未満の非塩素性フッ素化合物と(d)20℃における蒸気圧が1.33×10Pa未満の成分とを併用する場合の成分(a)/成分(d)の質量割合の範囲が90/10〜20/80であることがより好ましい。成分(d)の質量割合が10より大きいときに、各種汚れに対するより好ましい溶解力改善効果が得られ、80より小さいときにより好ましい被洗物表面における洗浄剤成分の低残留性が得られる。洗浄剤の洗浄性と被洗物表面における洗浄剤成分の残留性のバランスを考慮した、さらに好ましい成分(a)と(b)の質量割合の範囲は80/20〜40/60であり、いっそう好ましくは70/30〜50/50である。
【0039】
仕上げ洗浄工程における洗浄方法及び洗浄装置としては、被洗物を洗浄可能な如何なる方法および装置でも良く、これまで塩素系洗浄剤で使用されていた一般的な洗浄方法及び洗浄装置等を改良することにより使用することも可能である。洗浄方法及び洗浄装置を限定するものではないが、本発明のプレ洗浄に続く仕上げ洗浄を実施する上で特に好ましい、(a)20℃における蒸気圧が1.33×10Pa以上の非塩素系フッ素化合物と(d)20℃における蒸気圧が1.33×10Pa未満の成分とを含有する(c)仕上げ洗浄剤を用いた洗浄方法および洗浄装置について以下に説明する。
【0040】
高い洗浄レベルの要求される精密洗浄を行う場合に好ましい洗浄方法および洗浄装置としては、仕上げ洗浄槽において被洗物に残留する汚れを洗浄し、かつ、(c)仕上げ洗浄剤を加熱して発生する蒸気に主に含まれる蒸気圧の高い成分(a)とわずかに含まれる成分(d)の凝縮液を浸漬リンス槽に滞留させ被洗物を浸漬してリンスすることにより、被洗物表面に付着している可能性のあるわずかな汚れ成分をリンスするとともに、被洗物温度を低下させることで蒸気洗浄効果を高める方法及び装置を挙げることができる。浸漬リンス槽に使用できるリンス剤としては、仕上げ洗浄剤を加熱することによって得られる凝縮液を使用する以外に、成分(a)又は成分(a)に成分(d)を適宜混合したものを用いることもできる。さらに、仕上げ洗浄工程において使用するリンス剤は、プレ洗浄をするための(b)組成物と同一組成とすることにより、プレ洗浄工程及び仕上げ洗浄工程を合わせた洗浄工程全体の液管理が容易となるのでより好ましい。
【0041】
成分(a)と成分(d)とを含有する(c)仕上げ洗浄剤を用いた仕上げ洗浄工程の具体的な洗浄方法の事例を添付図面によって説明する。図2は請求項9に記載のプレ洗浄装置と請求項10に記載の仕上げ洗浄装置からなる洗浄装置の一例を示したものである。仕上げ洗浄装置の主な構造として(c)仕上げ洗浄剤を構成する少なくとも一種の成分を加熱及び/または加熱して蒸気を発生させるための加熱機構を有する仕上げ洗浄槽(D)13、該仕上げ洗浄槽(D)から発生した蒸気で蒸気洗浄するための蒸気ゾーン(E)15、発生した蒸気を凝縮して得られた凝縮液から水分を除去するための水分離槽(F)16、水分離槽(F)において水分の除去された凝縮液により浸漬リンスするためのリンス槽(G)14とからなる。実際の洗浄においてはプレ洗浄工程を経た被洗物を専用のジグやカゴ等に入れて、仕上げ洗浄装置内を仕上げ洗浄槽(D)13、リンス槽(G)14、蒸気ゾーン(E)15の順に通過させながら洗浄を完了させる。
【0042】
仕上げ洗浄槽(D)13における仕上げ洗浄では、(c)仕上げ洗浄剤をヒーターで加熱し、プレ洗浄された被洗物に残留する汚れを沸騰状態で洗浄除去する。この時、物理的な力としては揺動や仕上げ洗浄剤の液中噴流等のこれまでの洗浄機に採用されている物理的な力であれば、いかなる方法を使用しても良い。リンス槽(G)14では、仕上げ洗浄槽(D)13で(c)仕上げ洗浄剤をヒーターで加熱し、蒸発した仕上げ洗浄剤を冷却管によって凝縮し、水分離槽(F)16で冷却管により凝縮液の液温を低下させるとともに水分を除去し、リンス槽(G)14に戻った水分の除去された凝縮液で超音波により、被洗物に付着した仕上げ洗浄剤および汚れ成分を洗浄除去する。この時、物理的な力としては揺動や仕上げ洗浄剤の液中噴流等のこれまでの洗浄機に採用されている物理的な力であれば、いかなる方法を使用しても良い。また、リンス槽に用いるリンス剤組成を任意に調整してもよいが、仕上げ洗浄剤を加熱して得られる凝縮液と同一組成とすることで、仕上げ洗浄剤の組成変動を抑制できるので好ましい。
【0043】
蒸気ゾーン(E)15では、主に(c)仕上げ洗浄剤に含まれる蒸気圧の高い成分(a)の蒸気とわずかに含まれる成分(d)の蒸気を冷却管で凝縮させ水分離槽(F)16に集めた後、リンス槽(G)14に送りリンス槽(G)14において被洗物を凝縮液に浸漬することによって付着している仕上げ洗浄剤中に溶解および/または分散している汚れ成分を除去する。凝縮液は、水分離槽(F)16に集められた後、配管24からリンス槽(G)14に入り、オーバーフローして矢印18のように仕上げ洗浄槽(D)13に戻りヒーター17で加熱沸騰され、その組成の一部または全部が蒸気となって矢印のように冷却管で凝縮された後、配管から水分離槽(F)16に戻る。仕上げ洗浄槽(D)13で発生した蒸気に満たされた蒸気ゾーン(E)15で行う蒸気洗浄は、被洗物表面で蒸気が凝縮することによりできた液中に汚れ成分が全く含まれないので、洗浄工程最後の仕上げ洗浄として有効である。該仕上げ洗浄工程の洗浄装置では、主に(c)仕上げ洗浄剤に含まれる蒸気圧の高い成分(a)とわずかに含まれる成分(d)が洗浄装置内で液体や気体に状態変化させながら循環し被洗物に付着しているわずかに残留している可能性の有る汚れ成分をリンス槽(G)14および蒸気ゾーン(E)15で洗浄することで、より高い洗浄レベルの求められる精密洗浄に適合することができる。
【実施例】
【0044】
本発明を実施例に基づいて説明する。なお、洗浄方法及び洗浄装置による効果は以下のようにして測定、評価した。
(1)脱脂洗浄性試験
表1に記載の組成で各成分を混合し、目的の(b)組成物及び(c)仕上げ洗浄剤を得た。各(b)組成物及び(c)仕上げ洗浄剤について、脱脂洗浄性試験を行ない、結果を表1にまとめた。表面を鏡面仕上げしたアルミ製テストサンプル(20×50×2mm)を金属加工油に浸漬し、引き上げてから室温で1時間放置した後テストサンプルとした。 下記に示す試験条件に基づき、荒洗浄、プレ洗浄及び仕上げ洗浄の順に洗浄を行い、脱脂洗浄性を評価する。
1)荒洗浄条件
25℃の灯油300mlで1分間超音波洗浄(28kHz、100w)する。
2)プレ洗浄条件
25℃の(b)組成物300mlで10分間超音波洗浄(28kHz、100w)する。
【0045】
3)仕上げ洗浄条件
洗浄:1分間、沸騰、液量300ml
リンス:1分間、液温30℃、液量300ml(HFC365mfc、商品名:ソルカン365mfc、日本ソルベイ(株)製)、超音波/28kHz、100w
蒸気洗浄:1分間、液量300ml(HFC365mfc、商品名:ソルカン365mfc、日本ソルベイ(株)製)
上記記載の仕上げ洗浄終了後、サンプル表面状態を目視評価する。
評価は以下の基準による。
◎:白色シミなし
○:白色シミ僅かにあり
△:白色シミ部分的にあり
×:白色シミあり
試験に用いた金属加工油:
1.F−185M(商品名:アクアプレス、アクア化学製)
2.R−99(商品名:プレトン、スギムラ化学工業製):40wt%
NR(商品名:ダフニースーパーコート、出光興産製):30wt%
550ルブリカント(商品名:SOLVEST、エスティーティー製):30wt%)
【0046】
[実施例1〜4]
表1に記載の組成で各成分を混合し、目的の(b)組成物及び(c)仕上げ洗浄剤を得た。(b)組成物及び(c)仕上げ洗浄剤を用いて上記評価試験を行ない、結果を表1にまとめた。成分(a)を含む(b)組成物によりプレ洗浄することで優れた脱脂洗浄性が得られ、さらに灯油による荒洗浄を加えることにより脱脂洗浄性が向上した。
【0047】
[比較例1〜4]
上記評価試験に記載の荒洗浄及び/またはプレ洗浄を実施した上で、仕上げ洗浄を行った。結果を表1にまとめた。アルミ製テストサンプル表面全体に白色シミが確認され、十分な脱脂洗浄性が得られなかった。
(2)実機洗浄試験
図2に示す洗浄装置のプレ洗浄槽(A)1、貯液槽(B)2、水分離槽(C)10に(b)組成物を入れ、仕上げ洗浄槽(D)13に仕上げ洗浄剤を入れ、リンス槽(G)14及び水分離槽(F)16にリンス剤を入れ、仕上げ洗浄槽(D)13の仕上げ洗浄剤をヒーター17により加熱沸騰させ、被洗物をプレ洗浄槽(A)1、仕上げ洗浄槽(D)13、リンス槽(G)14、蒸気ゾーン(E)15の順に移動して、加工油に対するプレ洗浄性について、以下の操作及び洗浄条件により測定した。
【0048】
プレ洗浄条件
プレ洗浄槽(A)1:10分間、液温25℃、液量3000ml、超音波/28kHz、100w
仕上げ洗浄条件
仕上げ洗浄槽(D)13:1分間、沸騰、液量3000ml
リンス槽(G)14:1分間、液温30℃、液量3000ml、超音波/28kHz、100w
蒸気ゾーン(E)15:1分間
リンス剤:各(c)仕上げ洗浄剤を加熱して得られる蒸気の凝縮液組成と同一組成液
操作
【0049】
・プレ洗浄性評価
表2に記載の組成で各成分を混合し、目的の(b)組成物及び(c)仕上げ洗浄剤を得た。各(b)組成物及び(c)仕上げ洗浄剤について洗浄試験を行ない、結果を表1にまとめた。75000個のステンレス製玉軸受用鋼球(φ2mm)を洗浄カゴに入れたまま金属加工油に含浸して引き上げた後、金属加工油付着量が18〜22g/75000個の範囲に入るまで室温で一定時間放置しサンプルとした。これを別な洗浄カゴに移し変え金属加工油の付着した75000個のステンレス製玉軸受用鋼球(φ2mm)を(b)組成物により浸漬超音波プレ洗浄した後、さらに仕上げ洗浄剤による沸騰浸漬仕上げ洗浄、リンス剤による超音波浸漬リンス、蒸気洗浄の順に洗浄する。
【0050】
洗浄操作は金属加工油を付着させたサンプルを繰り返し洗浄し、仕上げ洗浄剤中の金属加工油濃度の上昇による洗浄性の低下を部品表面に残留する残存油分量の測定及びステンレス製玉軸受用鋼球の表面を100倍のマイクロスコープで観察することによりプレ洗浄性を評価する。洗浄操作は残存油分量が5μg/cmに達した段階または鋼球表面にシミ等の残留物が確認された段階で終了とする。残存油分量は油分測定装置(OIL−20、セントラル科学(株)製)で測定し、鋼球表面はマイクロスコープ(VH−5000、(株)キーエンス製)で観察し、評価は以下の基準による。
◎:洗浄回数300回以上
○:洗浄回数200回以上〜300回未満
△:洗浄回数100回以上〜200回未満
×:洗浄回数1回以上〜100回未満
試験に用いた金属加工油:
1.F−185M(商品名:アクアプレス、アクア化学製)
2.R−99(商品名:プレトン、スギムラ化学工業製):40wt%
NR(商品名:ダフニースーパーコート、出光興産製):30wt%
550ルブリカント(商品名:SOLVEST、エスティーティー製):30wt%)
【0051】
[実施例5〜6]
表2に記載の組成で各成分を混合し、目的のプレ洗浄剤及び仕上げ洗浄剤を得た。プレ洗浄剤及び仕上げ洗浄剤を用いて上記評価試験を行ない、結果を表2にまとめた。成分(a)を含む(b)組成物によるプレ洗浄効果により、比較例5と比較して洗浄回数が大幅に増加し、仕上げ洗浄剤への汚れ持込み量の削減に優れた効果のあることが確認された。
【0052】
[比較例5]
表2に記載の仕上げ洗浄剤について上記洗浄評価試験を行った。結果を表2にまとめた。プレ洗浄を実施しても洗浄回数100回未満で残存油分量が5μg/cmを越えるか、または鋼球表面にシミが確認されてしまった。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、精密機械部品、光学機械部品等の加工時に使用される種々の加工油類やグリース類やワックス類、電気電子部品のハンダ付け時に使用されるフラックス類、基板製造時に使用されるスクリーンに付着したインキやペースト類および樹脂吐出装置のミキシング部に付着した樹脂類を洗浄する洗浄方法及び洗浄装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の第9に記載の洗浄装置の一例である。
【図2】本発明の第9、第10に記載の洗浄装置の一例である。
【符号の説明】
【0057】
1プレ洗浄槽(A)
2貯液槽(B)
3 超音波振動子
4 循環用ポンプ(B)
5 分離フィルター(B)
6 配管(B)
7 (b)組成物の流れ
8 冷却管
9 凝縮用配管
10 水分離槽(C)
11 冷却管
12 配管
13 仕上げ洗浄槽(D)
14 リンス槽(G)
15 蒸気ゾーン(E)
16 水分離槽(F)
17 ヒーター
18 凝縮液の流れ
19 超音波振動子
20 蒸気の流れ
21 冷却管
22 凝縮液用配管
23 冷却管
24 凝縮液用配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物品をプレ洗浄したのち仕上げ洗浄を行う工程において、(a)20℃における蒸気圧が1.33×10Pa以上の非塩素系フッ素化合物60容量%〜89容量%と、(d)20℃における蒸気圧が1.33×10Pa未満の有機化合物40容量%〜11容量%を含有する組成物(b)により、プレ洗浄することを特徴とする洗浄方法。
【請求項2】
成分(a)が、ハイドロフルオロカーボン(HFC)及び/またはハイドロフルオロエーテル(HFE)を含有することを特徴とする請求項1に記載の洗浄方法。
【請求項3】
成分(a)が、2H,2H,4H,4H,4H−ペンタフルオロブタン(HFC365mfc)、2H,3H−パーフルオロペンタン(HFC43−10mee)、メチルパーフルオロブチルエーテル、メチルパーフルオロイソブチルエーテルおよびこれらの混合物(HFE7100)、エチルパーフルオロブチルエーテル、エチルパーフルオロイソブチルエーテルおよびこれらの混合物(HFE7200)、1,1,2,2−テトラフルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン(HFE347pc−f)及び4H,5H,5H−ヘプタフルオロシクロペンタン(ゼオローラH)から選ばれる一種又は二種以上の組み合わせを含有することを特徴とする請求項1〜2のいずれか1項に記載の洗浄方法。
【請求項4】
プレ洗浄した後の洗浄工程に使用する(c)仕上げ洗浄剤が(d)20℃における蒸気圧が1.33×10Pa未満の成分を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の洗浄方法。
【請求項5】
(c)仕上げ洗浄剤が、(a)20℃における蒸気圧が1.33×10Pa以上の非塩素系フッ素化合物10容量%〜60容量%と(d)20℃における蒸気圧が1.33×10Pa未満の成分90容量%〜40容量%とを含有する(c)仕上げ洗浄剤であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の洗浄方法。
【請求項6】
(b)組成物と分離する成分を分離フィルターを用いて系外に排出しながら、(b)組成物によりプレ洗浄することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の洗浄方法。
【請求項7】
(b)組成物によるプレ洗浄の前工程として、(e)炭化水素類から選ばれる一種又は二種以上の組み合わせで、荒洗浄することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の洗浄方法。
【請求項8】
(e)炭化水素類が、C8からC16の飽和炭化水素及び/または灯油であることを特徴とする請求項7に記載の洗浄方法。
【請求項9】
(A)(b)組成物により被洗物を浸漬するためのプレ洗浄槽と、(B)(b)組成物と分離する成分を系外に排出する機構とこれを分離する分離フィルターとを有するプレ洗浄装置。
【請求項10】
(D)(c)仕上げ洗浄剤を構成する少なくとも一種の成分を加熱及び/または加熱して蒸気を発生させるための加熱機構を有する仕上げ洗浄槽、(F)該仕上げ洗浄槽(D)から発生した蒸気で蒸気洗浄するための蒸気ゾーン、(G)発生した蒸気を凝縮して得られた凝縮液から水分を除去するための水分離槽、(E)水分離槽において水分の除去された凝縮液により浸漬リンスするためのリンス槽を有する請求項9に記載の洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−262090(P2009−262090A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−116749(P2008−116749)
【出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】