説明

プレ防曇性物品及び防曇性物品並びに防曇性物品のための塗布液

【課題】界面活性剤による防曇性が長期に渡って発現することが可能な防曇性物品を提供すること。
【解決手段】親水性を呈する防曇性物品を得るためのプレ防曇性物品として、基材及び、基材上に形成された吸水率が10〜40重量%のオキシエチレン鎖を有するウレタン樹脂よりなる被膜を有し、前記ウレタン樹脂よりなる被膜中には、オキシエチレン鎖を有する非イオン性界面活性剤が担持されているものを提供し、好適な防曇性物品として、基材及び、基材上に形成された吸水率が10〜40重量%のオキシエチレン鎖を有するウレタン樹脂よりなる被膜を有する防曇性物品として、前記ウレタン樹脂は、オキシエチレン鎖を有する非イオン性界面活性剤及び両イオン性界面活性剤を担持させたものとすること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長期的に防曇性を発揮せしめる防曇性物品に関し、より好ましくは、使用中に防曇性が低下しても容易に防曇性を回復せしめることが可能な防曇性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスやその他の物品の基材表面に生じる曇りは、無数の微小な水滴が基材表面上に生じる結露現象によって生じる。この曇りを防ぐために基材表面上に生じた無数の微小な水滴を一様な水膜とする親水性被膜、水滴を被膜中に取り込む吸水性被膜等が基材上に形成されてきた。
【0003】
例えば、特許文献1では基材上に親水性に優れる界面活性剤を塗布してガラス表面の親水性を向上させることが開示されている。又、特許文献2、及び3では、塗布された親水性の化学種の保持を長期化できるように、基材上に微細な凹凸形状を有する被膜を形成し、該凹凸部に界面活性剤等の親水性に優れる化学種が保持された親水性部材が開示されている。
【特許文献1】特公昭52−47926号公報
【特許文献2】特開平11−100234号公報
【特許文献3】特開2000−2651653号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1乃至3等を含め従来から、親水性に優れる界面活性剤を物品の最表面に保持することで物品の防曇性を向上させることが提案されてきている。しかしながら、これら化学種の表面での保持時間は短いので、表面からすぐに溶出され、防曇性を発揮できる時間が短いことが問題であった。従って、本発明では、この問題点を解決するために、前記化学種の保持を長期化することに効果を生じせしめる手段を提供することで、長期的に防曇性を発揮せしめる防曇性物品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明で前記の課題を解決する手段を提供するために、界面活性剤を被膜中に長期に保持することを可能とする被膜の構造等について検討した。そして、保持を長くするための一つの手法として、界面活性剤とこれを担持する被膜の化学構造を似たものにするとの着想に至った。
【0006】
本発明では、防曇性物品を構成する基材上の被膜を、ウレタン樹脂よりなるものとし、このウレタン樹脂は吸水性を発現させるためにオキシエチレン鎖を有するものとしている。界面活性剤の中で、オキシエチレン鎖を有する非イオン性界面活性剤は、同種の構造単位を有していることから、本発明でのウレタン樹脂は、非イオン性界面活性剤と親和性が高い。
【0007】
しかしながら、本発明での検討によって、非イオン性界面活性剤を被膜に導入する際には、次のことに注意する必要があることが明らかとなった。すなわち、非イオン性界面活性剤種を被膜中に担持させるために、非イオン性界面活性剤を有する塗布液を被膜に塗布した場合、非イオン性界面活性剤の種類によっては、非イオン性界面活性剤中の水酸基が基材側を向き、被膜に親水性をもたらさない場合があるということである。
【0008】
かくして、本発明では、ウレタン樹脂内に担持された非イオン性界面活性剤が被膜から溶出しにくいという知見を活用して、被膜の親水性の発現に寄与する界面活性剤を長期に渡って被膜中に担持させる手段として、前記非イオン性界面活性剤と親和性の高い界面活性剤を被膜に導入する着想、又は非イオン性界面活性剤の水酸基自体が被膜の外側方向を向きやすいものとするという着想に至った。
【0009】
そして、これら着想の基礎となる概念は、親水性を呈する防曇性物品を得るためのプレ防曇性物品という概念で表される。すなわち本発明において、プレ防曇性物品とは、基材及び、基材上に形成された吸水率が10〜40重量%のオキシエチレン鎖を有するウレタン樹脂よりなる被膜を有し、そして、前記ウレタン樹脂よりなる被膜中には、オキシエチレン鎖を有する非イオン性界面活性剤が担持されているものをいう。そしてさらに好適には、該プレ防曇性物品は、両イオン性界面活性剤を担持させた場合に、両イオン性界面活性剤を長期に被膜中に担持させる能力を有するものである。この能力については、本発明実施例中の評価項目2にて詳細に説明される。
【0010】
プレ防曇性物品の表面の親水性の程度によっては、プレ防曇性物品自体を防曇性物品として扱ってもよい場合がある。前記非イオン性界面活性剤は、さらに水酸基を有していることが好ましい。
【0011】
本発明の防曇性物品は、前記プレ防曇性物品と両イオン性界面活性剤とを有する防曇性物品であり、該両イオン性界面活性剤が前記ウレタン樹脂よりなる被膜中に担持されていることで親水性を呈することを特徴とする。
【0012】
両イオン性界面活性剤は、その分子内にカチオンサイトとアニオンサイトの両方を有し、前記非イオン性界面活性剤と比較すると極性が高い。そのため、該両イオン性界面活性剤は、水との親和性が高いので、それが被膜中に取り込まれることによって、被膜の親水性を付与できるようになる。しかしながら、被膜中に非イオン性界面活性剤が担持されていない状態で、両イオン界面活性剤のみを被膜中に担持させた場合、被膜上に水膜が形成されたときに、界面活性剤は流失しやすくなる。
【0013】
該防曇性物品では、オキシエチレン鎖を有する非イオン性界面活性剤及び両イオン性界面活性剤の2種類が被膜中に担持されている。この2種類の界面活性剤が存在することで、両イオン性界面活性剤の分子内のアニオンサイトが水と親和することによる良好な防曇性の発現、該界面活性剤のカチオンサイトが非イオン性界面活性剤及びウレタン樹脂を形成しているオキシエチレン鎖の双方と担持されることの効果が生じる。
【0014】
該防曇性物品では、両イオン性界面活性剤のカチオンサイトが被膜から溶出され難い非イオン性界面活性剤に担持されているので、両イオン性界面活性剤が被膜から溶出し難くなり、結果、防曇性物品の防曇性の持続性が向上するものとなる。
【0015】
また、防曇性物品は、前記したプレ防曇性物品と水酸基及びオキシエチレン鎖を有するHLB値(Hydrophile-Lipophile Balance値)が9〜14の非イオン性界面活性剤とを有し、該HLB値が9〜14の非イオン性界面活性剤が前記ウレタン樹脂よりなる被膜中に担持されていることで、親水性を呈する防曇性物品としてもよい。HLB値が9〜14の非イオン性界面活性剤を被膜中に取り込むと、該界面活性剤中の水酸基が基材側を向かずに被膜の外側を向く状態で、該界面活性剤が被膜中に配置される。
【0016】
本発明の防曇性物品において、さらには、被膜中に担持された全ての非イオン性界面活性剤が水酸基を有し、そのHLB値が9〜14を有するものとすることが好ましい。この形態の防曇性物品では、前記したプレ防曇性物品の状態で、親水性を呈する物品となりうる。プレ防曇性物品の状態で親水性を呈する場合、これを防曇性物品に適用してもよい。
【0017】
本発明の防曇性物品は、基材上に吸水率が10〜40重量%のオキシエチレン鎖を有するウレタン樹脂よりなる被膜を形成する工程、及びオキシエチレン鎖を有する非イオン性界面活性剤を被膜中に導入する工程、又はオキシエチレン鎖を有する非イオン性界面活性剤及び両イオン性界面活性剤を同時又は順次被膜中に導入する工程を有する製法にて製造することが効率的である。
【0018】
そして、製造効率を考慮すると、全界面活性剤種を同時に被膜に導入することがより好ましい。界面活性剤の被膜への導入は、界面活性剤の被膜への塗布で行うことができ、被膜に親水性を付与するための塗布液として、該塗布液はオキシエチレン鎖を有する非イオン性界面活性剤及び両イオン性界面活性剤を有するものとすることが好ましい。
【0019】
さらに本発明の防曇性物品を得るために好適な塗布液は、被膜に塗布するためのものであり、オキシエチレン鎖を有する非イオン性界面活性剤及び両イオン性界面活性剤、又は水酸基及びオキシエチレン鎖を有するHLB値が9〜14の非イオン性界面活性剤を有するものである。
【0020】
尚、本発明での防曇性物品は、親水性が良好なものを指し、物品を水平にし、被膜上に2μlの水滴を静置させたときの被膜上での水滴の接触角が、「JIS R 3257、「基板ガラス表面のぬれ性試験方法」、(1999年)」に準拠した方法による測定で、15°以下、好ましくは8°以下、より好ましくは5°以下のものを指す。そして、両イオン性界面活性剤を有する前記防曇性物品は、被膜上での水滴の接触角を8°以下、より好ましくは5°以下のものとしやすいので、より好ましい形態の防曇性物品と言える。
【発明の効果】
【0021】
本発明の防曇性物品は、物品に親水性をもたらす界面活性剤が被膜から溶出し難く、防曇性物品の長期の使用に効果を奏する。また、物品に親水性をもたらす界面活性剤が溶出した場合であっても、塗布等の手段で被膜に界面活性剤を容易に供給せしめるので、物品の防曇性回復も容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の防曇性物品で使用される基材には、代表的なものとしてソーダライムガラスが用いられる。該ガラスは自動車用、建築用、産業用ガラス等に通常用いられているガラスで、フロート法、デュープレックス法、ロールアウト法等によって作製される。
【0023】
ガラス種としては、クリアをはじめグリーン、ブロンズ等の各種着色ガラスやUV、IRカットガラス、電磁遮蔽ガラス等の各種機能性ガラス、網入りガラス、低膨張ガラス、ゼロ膨張ガラス等防火ガラスに供し得るガラス、強化ガラスやそれに類するガラス、合わせガラスのほか複層ガラス等、銀引き法、あるいは真空成膜法により作製された鏡、さらには平板、曲げ板等各種ガラス製品を使用できる。板厚は特に制限されないが、1.0mm以上10mm以下が好ましく、車両用としては1.0mm以上5.0mm以下が好ましい。
【0024】
また、上記したガラスだけでなく、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂フィルム、ポリカーボネート等の樹脂、金属(特には金属鏡)、セラミックス等も使用することができる。
【0025】
上記基材の最表面にイソシアネート基(NCO基)を有する化学種と活性水素基を有するポリオールとを混合して得られる「吸水率が10〜40重量%のオキシエチレン鎖を有するウレタン樹脂よりなる被膜」を形成するための塗布液(以下、被膜形成塗布液)を、基材に塗布し、80℃〜140℃、10分〜60分で加熱することにより被膜の硬化を行って、吸水率が10〜40重量%のウレタン樹脂よりなる被膜を得る。
【0026】
被膜形成塗布液の塗布方法は、ロールコート法、ディップコート法、ハケ塗り法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ダイコート法、スピンコート法、カーテンコート法、手塗り等の周知の方法で行うことができる。塗布した後、80℃〜140℃、10分〜60分で加熱することにより塗布液中の溶媒を乾燥させ被膜を形成させる。
【0027】
被膜形成塗布液には、NCO基を有する化学種、及びポリオールの防曇性ウレタン成分に加え、必要に応じ、被膜に親水性を付与するための界面活性剤、硬化触媒である有機錫化合物、フィラー成分、希釈溶媒を加えることができる。該界面活性剤として、NCO基と反応できるヒドロオキシル基、アミノ基、メルカプト基を有する界面活性剤を使用してもよい。そして、好ましくは、NCO基を有する化学種と、ポリオールの混合物とを混合することで塗布液を調製する。
【0028】
NCO基を有する化学種には、ジイソシアネート、好ましくは、ヘキサメチレンジイソシアネートを出発原料としたビウレット及び/又はイソシアヌレート構造を有する3官能のポリイソシアネートを使用できる。当該物質は、耐候性、耐薬品性、耐熱性があり、特に耐候性に対して有効である。又、当該物質以外にも、ジイソフォロンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ビス(メチルシクロヘキシル)ジイソシアネート及びトルエンジイソシアネート等も使用することができる。
【0029】
ポリオールには、被膜に吸水性による防曇性を発現させるために、オリゴマーの吸水性ポリオールを使用することができる。吸水性ポリオールとは、水を吸水して膨潤する性状を有するものであり、分子内の水酸基がイソシアネートプレポリマーのイソシアネート基と反応してウレタン結合を生じ、ウレタン樹脂に吸水性の性状を導入することができる。該吸水性ポリオールは水溶性の性状を有してもよい。
【0030】
被膜に吸水性による防曇性の効果を発揮させるためには、被膜の吸水飽和時の吸水率が15重量%以上となるように、吸水性ポリオールの使用量を調整し、被膜中の吸水性ポリオール由来の吸水成分を適当量とすることが好ましい。該吸水性成分は、オキシアルキレン系のポリオール由来のものを使用でき、オキシエチレン鎖、オキシプロピレン鎖等を有することが好ましく、吸水性に優れるオキシエチレン鎖を有することが特に好ましい。
【0031】
また、前記吸水率は、高すぎると被膜の耐水性、硬度、耐磨耗性等が低くなる傾向になるので、被膜の吸水率が30重量%以下となるように調整することが好ましい。
【0032】
前記オキシアルキレン系のポリオールは、数平均分子量が400〜5000のものを使用することが好ましい。数平均分子量が400未満の場合は、水を結合水として吸収する能力が低くなり、平均分子量が5000を超える場合は、被膜の強度が低下しやすくなる。吸水性や膜強度等を鑑み、該平均分子量は、400〜4500がより好ましい。該ポリオールには、オキシエチレン/オキシプロピレンの共重合体ポリオール、ポリエチレングリコール等を使用でき、ポリエチレングリコールを使用する場合は、吸水性と得られる被膜の強度を考慮して、数平均分子量を400〜2000とすることが好ましい。
【0033】
ポリオールには上記吸水性ポリオールに加え、疎水性ポリオール、数平均分子量が60〜200の短鎖ポリオール等を使用することができる。前記疎水性ポリオールは、可撓性と耐擦傷性の両方を併せ持ち、被膜の吸水性の機能、及び親水性の機能を低下させにくく、結果、被膜の耐水性及び耐摩耗性を向上させることができる数平均分子量500〜2000のポリエステルポリオール、又は平均分子量2000〜4000アクリルポリオールとすることが好ましい。
【0034】
ポリエスルポリオールの場合、数平均分子量が500未満の場合は、被膜が緻密になりすぎ耐摩耗性が低下する。一方、2000超では、塗布剤の成膜性が悪化し、被膜を形成することが難しくなる。又、得られる膜の緻密性を考慮すると、該ポリオールの水酸基数は2又は3とすることが好ましい。該ポリエステルポリオールには、ポリカーボネートポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、及びそれらの混合物のいずれかを使用することができる。
【0035】
アクリルポリオールの場合、数平均分子量が2000未満の場合、被膜の耐磨耗性が低下する傾向にあり、4000超では、塗布剤の塗布性が悪くなり、被膜の形成が難しくなる傾向にある。又、得られる被膜の緻密性、硬度を考慮すると、該ポリオールの水酸基数は3又は4とすることが好ましい。
【0036】
これら疎水性ポリオール由来の疎水成分は、被膜の吸水率、及び水滴接触角が上記した範囲となるように導入し、好ましくは、「JIS K 5400」に準拠して得られる被膜の鉛筆硬度が被膜の吸水飽和時において、好ましくはHB乃至Fとなるように導入する。
【0037】
また、短鎖ポリオール由来の成分は、塗布剤の硬化性を高め、被膜膜の強度を高める役割、被膜表面の静的摩擦係数を小さくする効果を有する。該短鎖ポリオールの水酸基数は、2又は3であることが好ましい。水酸基が1の場合は、該短鎖ポリオールが膜の骨格成分とならないため膜がもろくなり、3超では、反応性が活性過ぎて、塗布剤が不安定となりやすい。
【0038】
短鎖ポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−ブテン−1,4−ジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、2−エチル−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、2,2’−チオジエタノール等のアルキルポリオール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミンが挙げられ、それらを単独、又は混合物、若しくはそれらの平均分子量200超とならない共重合体等を使用することができ、短鎖ポリオール由来の成分は、被膜の吸水率、及び水滴接触角が上記した範囲となるように導入することができ、導入する場合、短鎖ポリオールを吸水性ウレタン成分の総量に対して、2.5重量%〜10重量%とすることが好ましい。
【0039】
該吸水膜は吸水率が10重量%以下では防曇性が低いため微量な水蒸気(呼気など)をあてただけで曇ってしまう。逆に40重量%以上の場合、実用上の強度不足になることから10〜40重量%の範囲とした。また膜厚が薄いと吸水量が僅かなため、吸水率が10重量%以下のものと同様、微量な水蒸気(呼気など)をあてただけで曇ってしまう。膜厚が大きいと均一な膜厚にしにくく光学的な歪が出来やすいため、膜厚は1〜50μmとすることが好ましい。
【0040】
上記被膜に界面活性剤を導入することを目的とする親水性を付与するための塗布液は、溶媒、オキシエチレン鎖を有する非イオン性界面活性剤、及び両イオン性界面活性剤親水性を混合することで調製することができる。
【0041】
該溶媒は使用される界面活性剤を溶かし、且つ、界面活性剤が溶けた状態で前記被膜に吸液され、蒸発過程で界面活性剤と分離し前記被膜外へ放出されるものが好ましく、水、アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、多価アルコール類が好適に使用される。
【0042】
水としては精製水、イオン交換水などが使用できる。アルコール類としては、イソプロピルアルコール、エチルアルコールなどが使用できる。ケトン類としては、アセトン、アセトンアルコール、アセトイン、ジアセトンアルコール、ベンゾインなどが使用できる。エーテル類としては、テトラヒドロフラン、イソプロピルエーテル、エチルエーテルなどが使用できる。エステル類としては、酢酸イソブチル、酢酸ブチルなどが使用できる。多価アルコール類としては、エチレングリコール、エチレングリコールジアセタート、エチレングリコールジエチルエーテルなどが使用できる。
【0043】
オキシエチレン鎖を有する非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、モノオレイン酸ポリエチレングリコール、ジオレイン酸ポリエチレングリコール、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、ジステアリン酸エチレングリコール、ジステアリン酸ポリエチレングリコールなどが使用できる。
【0044】
両イオン性界面活性剤としては、ラウリルジメチルアミンオキシド、ヤシ油アルキルジメチルアミンオキシド、ミリスタミドプロピルヒドトキシスルホベタイン、ラウリルヒドロキシスルホベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリウムベタイン、N−ラウロイル−N′−カルボキシメチル−N′−ヒドロキシエチルエチレンジアミンナトリウム、ヤシ油アルキルベタイン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタインなどが使用できる。
【0045】
そして、オキシエチレン鎖を有する非イオン性界面活性剤と両イオン性界面活性剤との比は、両イオン性界面活性剤が非イオン性界面活性剤に対して、重量比で0.2倍〜5倍量、好ましくは、0.3倍〜3倍量、より好ましくは、0.5倍〜2倍量とすることが好ましい。
【0046】
被膜に親水性を付与するための塗布液の被膜への塗布方法は、ロールコート法、ディップコート法、ハケ塗り法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ダイコート法、スピンコート法、カーテンコート法、手塗り等の常法に従ったいずれの方法でもよい。基材に塗布し、室温で24時間程度自然乾燥させるか、80℃〜140℃、10分〜60分で加熱することにより塗布液中の溶媒を乾燥させ被膜を形成させる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の防曇性物品は、吸水性を有し、且つ親水性にも優れるので、ミストサウナの脱衣場など水蒸気量変化が非常に大きい使用環境において速やかに防曇性を発現させることができる。
【実施例】
【0048】
実施例1
1.吸水性を有するウレタン樹脂よりなる被膜の作製
基材の最表面に被膜形成塗布液を次の手順で作製した。平均分子量1250のポリカプロラクトンジオール(商品名「プラクセルL212AL」ダイセル化学工業製)0.95g量と、エチレングリコール(1級グレード キシダ化学株式会社製)を0.47g量と、樹脂に吸水性をもたらす平均分子量1000のポリエチレングリコールを3.32g量とを混合した。
【0049】
上記で得た混合物にヘキサメチレンジイソシアネートのビューレットタイプポリイソシアネート(住友バイエルウレタン製、商品名「N3200」)を4.26g量添加混合し、上記全成分が30重量%となるようにジアセトンアルコールで希釈し、被膜形成塗布液を調製した。
【0050】
該塗布液を、ソーダライムガラス板を銀引きして得られた鏡基材(100mm×100mm×5mm(厚さ)サイズ)の反射層側と反対側全表面にスピンコート法で塗布した。その後150℃で60分間加熱することにより、吸水性を有するウレタン樹脂よりなる被膜を基材上に形成した。該被膜の吸水率は、20%であった。
【0051】
該吸水率は、次の手順で測定されたものである。塗布前のガラスの重量(A)、ガラスに塗布し加熱後、即座に精密天秤で測定した試料の重量(B)、40℃の水蒸気を被膜にあて、曇りが発生し視界の歪が生じたときの試料の重量(C)より下記の計算式から導き出した。
吸水率=(C−B)/(B−A)×100 [%]
【0052】
尚、反射層側と反対側のガラス基材上には、物品の耐アルカリ性と密着性を向上させるために、プライマー層を形成している。そして、プライマー層は、次の手順で得られたものである。γ―アミノプロピルトリエトキシシラン(LS−3150、信越シリコーン製)を、90重量%のエタノールと10重量%のイソプロピルアルコールからなる変性アルコール(エキネン F−1、日本アルコール販売製)で1重量%となるように調製し、これに加水分解性ジルコニウム化合物であるオキシ塩化ジルコニウム8水和物を、前記ケイ素化合物のケイ素量に対し、前記ジルコニウム化合物のジルコニウム量が、重量比で0.0008倍量となるように添加し、pHが1.5であるプライマー層を得るための液が得られる。そして、該液を吸収したセルロース繊維からなるワイパー(商品名「ベンコット」、型式M−1、50mm×50mm、小津産業製)で、ガラス基材表面を払拭することで該液を塗布し、室温状態にて乾燥後、水道水を用いてワイパーで被塗布面を水洗することで、プライマー層が得られる。
【0053】
2.被膜に親水性を付与するための塗布液の作製及び防曇性物品の作製
両イオン性界面活性剤(東邦化学工業製、製品名「ソフタミンL」、界面活性剤濃度30%)3.0g量、HLBの値が12.9のポリエチレングリコール型の非イオン性界面活性剤(東邦化学工業製、製品名「ペグノールTH−8」、界面活性剤濃度100%)1.0g量、及び精製水6.0g量を混合し、被膜に親水性を付与するための塗布液を調製した。そして、該塗布液が染み込んだ綿布で、前記1で得られた被膜を払拭することで、被膜に該塗布液を塗布し、その後24時間静置することで、吸水性を有する被膜に親水性を付与し、防曇性物品を得た。
【0054】
実施例2
HLBの値が12.9のポリエチレングリコール型の非イオン性界面活性剤(東邦化学工業製、製品名「ペグノールTH8」、界面活性剤濃度100%)、1.0g量、及び精製水9.0g量を混合し、被膜に親水性を付与するための塗布液を作製した。そして、該塗布液が染み込んだ綿布で、実施例1で得られた吸水性を有するウレタン樹脂よりなる被膜を払拭することで、被膜に該塗布液を塗布し、その後24時間静置することで、吸水性を有する被膜に親水性を付与し、防曇性被膜を得た。
【0055】
実施例3
両イオン性界面活性剤(東邦化学工業製、製品名「ソフタミンL」、界面活性剤濃度30%)3.0g量、HLBの値が9.7のポリエチレングリコール型の非イオン性界面活性剤(東邦化学工業製、製品名「ペグノールL−4」、界面活性剤濃度100%)1.0g量、及び精製水6.0g量を混合し、被膜に親水性を付与するための塗布液を調製した。そして、該塗布液が染み込んだ綿布で、前記1で得られた被膜を払拭することで、被膜に該塗布液を塗布し、その後24時間静置することで、吸水性を有する被膜に親水性を付与し、防曇性物品を得た。
【0056】
実施例4
HLBの値が9.7のポリエチレングリコール型の非イオン性界面活性剤(東邦化学工業製、製品名「ペグノールL−4」、界面活性剤濃度100%)、1.0g量、及び精製水9.0g量を混合し、被膜に親水性を付与するための塗布液を作製した。そして、該塗布液が染み込んだ綿布で、実施例1で得られた吸水性を有するウレタン樹脂よりなる被膜を払拭することで、被膜に該塗布液を塗布し、その後24時間静置することで、吸水性を有する被膜に親水性を付与し、防曇性被膜を得た。
【0057】
実施例5
両イオン性界面活性剤(東邦化学工業製、製品名「ソフタミンL」、界面活性剤濃度30%)3.0g量、HLBの値が15.4のポリエチレングリコール型の非イオン性界面活性剤(東邦化学工業製、製品名「ペグノールO20」、界面活性剤濃度100%)1.0g量、及び精製水6.0g量を混合し、被膜に親水性を付与するための塗布液を調製した。そして、該塗布液が染み込んだ綿布で、前記1で得られた被膜を払拭することで、被膜に該塗布液を塗布し、その後24時間静置することで、吸水性を有する被膜に親水性を付与し、防曇性物品を得た。
【0058】
実施例6
両イオン性界面活性剤(東邦化学工業製、製品名「ソフタミンL」、界面活性剤濃度30%)3.0g量、HLBの値が8.6のポリエチレングリコール型の非イオン性界面活性剤(東邦化学工業製、製品名「ペグノールS−4D」、界面活性剤濃度100%)1.0g量、及び精製水6.0g量を混合し、被膜に親水性を付与するための塗布液を調製した。そして、該塗布液が染み込んだ綿布で、前記1で得られた被膜を払拭することで、被膜に該塗布液を塗布し、その後24時間静置することで、吸水性を有する被膜に親水性を付与し、防曇性物品を得た。
【0059】
実施例7
両イオン性界面活性剤(東邦化学工業製、製品名「ソフタミンL」、界面活性剤濃度30%)3.0g量、HLBの値が5.2のポリエチレングリコール型の非イオン性界面活性剤(青木油脂製、製品名「ブラウノンCH−302L」、界面活性剤濃度100%)1.0g量、及び精製水6.0g量を混合し、被膜に親水性を付与するための塗布液を調製した。そして、該塗布液が染み込んだ綿布で、前記1で得られた被膜を払拭することで、被膜に該塗布液を塗布し、その後24時間静置することで、吸水性を有する被膜に親水性を付与し、防曇性物品を得た。
【0060】
実施例8
両イオン性界面活性剤(東邦化学工業製、製品名「ソフタミンL」、界面活性剤濃度30%)3.0g量、HLBの値が3.2のポリエチレングリコール型の非イオン性界面活性剤(青木油脂製、製品名「ブラウノンBR−404」、界面活性剤濃度100%)1.0g量、及び精製水6.0g量を混合し、被膜に親水性を付与するための塗布液を調製した。そして、該塗布液が染み込んだ綿布で、前記1で得られた被膜を払拭することで、被膜に該塗布液を塗布し、その後24時間静置することで、吸水性を有する被膜に親水性を付与し、防曇性物品を得た。
【0061】
[防曇性物品の特性評価]
次の項目を評価することで、防曇性物品の特性評価を行った。評価結果を表1に示す。
○評価項目1;呼気を被膜にかけたときの鏡に写る像の目視評価。
【0062】
○評価項目2;水温43℃に設定した恒温槽の水面から3cmの位置に試料を水蒸気が防曇性被膜に当るように3分間静置したのちに約25℃の室温に速やかに移動させたときの鏡に写る像を目視評価する。これを1サイクルとし、繰返し評価を行い、視界の歪が発生するために要するサイクル数を数える。このサイクル数が5以上、好適には9以上、さらに好適には10以上の物品を良品として判断した。
【0063】
また、プレ防曇性物品が両イオン性界面活性剤を長期に担持させる能力については、本評価の結果から判断できる。非イオン性界面活性剤と両イオン性界面活性剤の両方を担持している物品に対して実施される本評価にて、前記サイクル数が5以上、好適には9以上、さらに好適には10以上となれば、各実施例で両イオン性界面活性剤が良好に担持されているものと判断される。
【0064】
○評価項目3;水平に置かれた試料に2μlの水滴を静置したときの試料と水滴の接触角(JIS R 3257、「基板ガラス表面のぬれ性試験方法」、1999年)。
【0065】
【表1】

【0066】
比較例1
被膜に親水性を付与するための塗布液を塗布しなかった以外は実施例と同一の手順で防曇性物品を得、特性評価を行った。物品の特性評価の結果を表1に示す。
【0067】
比較例2
実施例1で得られた被膜に親水性を付与するための塗布液が染み込んだ綿布で鏡基材を払拭し、その後24時間静置することで防曇性物品を得、実施例と同様の特性評価を行った。物品の特性評価の結果を表1に示す。
【0068】
比較例3
被膜に親水性を付与するための塗布液に非イオン性界面活性剤を加えなかった以外は実施例1と同一の手順で防曇性物品を得、特性評価を行った。物品の特性評価の結果を表1に示す。
【0069】
比較例4
被膜に親水性を付与するための塗布液中の界面活性剤を、陰イオン性界面活性剤(東邦化学工業製、製品名「アルスコープNS−230」、界面活性剤濃度30%)とした以外は、実施例1と同一の手順で防曇性物品を得、特性評価を行った。物品の特性評価の結果を表1に示す。
【0070】
比較例5
被膜に親水性を付与するための塗布液中の界面活性剤を、陽イオン性界面活性剤(東邦化学工業製、製品名「カチナールAOC」、界面活性剤濃度30%)とした以外は、実施例1と同一の手順で防曇性物品を得、特性評価を行った。物品の特性評価の結果を表1に示す。
【0071】
比較例6
実施例1の塗布液の成分である両イオン性界面活性を陰イオン性界面活性剤(東邦化学工業製、製品名「アルスコープNS−230」、界面活性剤濃度30%)とした以外は、実施例1と同一の手順で防曇性物品を得、特性評価を行った。物品の特性評価の結果を表1に示す。
【0072】
比較例7
実施例1の塗布液の成分である両イオン性界面活性剤を陽イオン性界面活性剤(東邦化学工業製、製品名「カチナールAOC」、界面活性剤濃度30%)とした以外は、実施例1と同一の手順で防曇性物品を得、特性評価を行った。物品の特性評価の結果を表1に示す。
【0073】
実施例9
実施例4の塗布液の成分であるHLBの値が9.7の非イオン性界面活性剤をHLBの値が15.4の非イオン性界面活性剤(東邦化学工業製、製品名「ペグノールO20」、界面活性剤濃度100%)とした以外は、実施例4と同一の手順でプレ防曇性物品を得、特性評価を行った。物品の特性評価の結果を表2に「プレ9」として示す。そして、このプレ防曇性物品の被膜を、比較例3で使用した被膜に親水性を付与するための塗布液、すなわち界面活性剤種として両イオン性だけを有する塗布液が染み込んだ綿布で払拭し、その後24時間静置することで防曇性物品を得た。そして、防曇性物品の特性評価を行った。物品の特性評価の結果を表2に示す。
【0074】
【表2】

【0075】
実施例10
実施例4の塗布液の成分であるHLBの値が9.7の非イオン性界面活性剤をHLBの値が8.6の非イオン性界面活性剤(東邦化学工業製、製品名「ペグノールS−4D」、界面活性剤濃度100%)とした以外は、実施例4と同一の手順でプレ防曇性物品を得、特性評価を行った。物品の特性評価の結果を表2に「プレ10」として示す。そして、このプレ防曇性物品の被膜を、比較例3で使用した被膜に親水性を付与するための塗布液、すなわち界面活性剤種として両イオン性だけを有する塗布液が染み込んだ綿布で払拭し、その後24時間静置することで防曇性物品を得た。そして、防曇性物品の特性評価を行った。物品の特性評価の結果を表2に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性を呈する防曇性物品を得るためのプレ防曇性物品であり、該プレ防曇性物品は、基材及び、基材上に形成された吸水率が10〜40重量%のオキシエチレン鎖を有するウレタン樹脂よりなる被膜を有し、前記ウレタン樹脂よりなる被膜中には、オキシエチレン鎖を有する非イオン性界面活性剤が担持されていることを特徴とするプレ防曇性物品。
【請求項2】
請求項1に記載のプレ防曇性物品と両イオン性界面活性剤とを有する防曇性物品であり、該両イオン性界面活性剤が前記ウレタン樹脂よりなる被膜中に担持されていることを特徴とする親水性を呈する防曇性物品。
【請求項3】
請求項1に記載のプレ防曇性物品と水酸基及びオキシエチレン鎖を有するHLB値が9〜14の非イオン性界面活性剤とを有する防曇性物品であり、該HLB値が9〜14の非イオン性界面活性剤が前記ウレタン樹脂よりなる被膜中に担持されていることを特徴とする親水性を呈する防曇性物品。
【請求項4】
被膜中に担持された全ての非イオン性界面活性剤が水酸基を有し、そのHLB値が9〜14であることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の親水性を呈する防曇性物品。
【請求項5】
基材上に吸水率が10〜40重量%のオキシエチレン鎖を有するウレタン樹脂よりなる被膜を形成する工程、及びオキシエチレン鎖を有する非イオン性界面活性剤を被膜中に導入する工程、又はオキシエチレン鎖を有する非イオン性界面活性剤及び両イオン性界面活性剤を同時又は順次被膜中に導入する工程を有することを特徴とする請求項2乃至4のいずれかに記載の親水性を呈する防曇性物品の製法。
【請求項6】
請求項2乃至4のいずれかに記載の親水性を呈する防曇性物品を得るための塗布液であり、該塗布液は、オキシエチレン鎖を有する非イオン性界面活性剤及び両イオン性界面活性剤、又は水酸基及びオキシエチレン鎖を有するHLB値が9〜14の非イオン性界面活性剤を有することを特徴とする被膜に塗布するための塗布液。

【公開番号】特開2008−74694(P2008−74694A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−113873(P2007−113873)
【出願日】平成19年4月24日(2007.4.24)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】