説明

プロテアソーム調節薬およびその用途

【課題】アポトーシス調節剤、カスパーゼ3活性化調節剤などの提供。
【解決手段】PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを調節する物質を含む、カスパーゼ3活性化調節剤、アポトーシス調節剤、アポトーシス異常が関与する疾患の予防・治療剤;被験物質がPA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを調節するか否かを評価する工程を含む、カスパーゼ3活性化またはアポトーシスを調節し得る物質、あるいはアポトーシス異常が関与する疾患を予防・治療する物質のスクリーニング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを調節する物質を含む、アポトーシス調節剤、カスパーゼ3活性化調節剤などに関する。本発明はまた、PA28−20Sスタンダードプロテアソームレベルを指標とする、アポトーシスの調節物質、カスパーゼ3活性化の調節物質のスクリーニング方法に関する。さらに、本発明はインターロイキン(IL)18またはIL13を含む、PA28−20Sスタンダードプロテアソーム誘導剤に関する。
【背景技術】
【0002】
プロテアソームは、分子量250万、総サブユニット数約100個から構成された生命科学史上最も巨大で複雑な酵素複合体である。即ち、プロテアソームは触媒ユニット(20Sプロテアソーム)と調節ユニットからなる。調節ユニットとしてはPA700(19Sプロテアソーム)とPA28の2種類が知られている。真核生物のATP依存性プロテアーゼである26Sプロテアソームは、20Sプロテアソームの両端にPA700が会合し、主としてユビキチン化された蛋白質を選択的に分解する。20Sプロテアソームは、各々7種のサブユニットから構成されるαリングとβリングがαββαの順で会合した複合体である。βリングの7つのサブユニットのうち3つ(β1/Y、β2/Zおよびβ5/X;構成型 (constitutive form) という)がN末端にThr残基を有するスレオニンプロテアーゼであり、それぞれカスパーゼ様活性(酸性残基のC末側を切断)、トリプシン様活性(塩基性残基のC末側を切断)およびキモトリプシン様活性(疎水性残基のC末側を切断)を有する。
【0003】
哺乳類の細胞では、上記3つの触媒サブユニットY、ZおよびXが、各々と高い相同性を示すLMP2、MECL2およびLMP7に入れ替わったアイソザイムが存在する。これらの交換可能な触媒サブユニットはIFNγなどのT細胞誘導型サイトカインで誘導され、この誘導型酵素はMHCクラス抗原エピトープの切り出しを行うように機能変換されているため、「免疫プロテアソーム」と呼ばれている(これに対し、本明細書においては、上記3つの触媒サブユニットY、ZおよびXを含むプロテアソームを、便宜上「スタンダードプロテアソーム」という)。スタンダードプロテアソームと免疫プロテアソームとは、臓器によって異なる比率で存在している(例えば、脾臓やリンパ節では免疫プロテアソームの比率が高く、一方、肝臓や大腸ではスタンダードプロテアソームの比率が高い)。上述の通り、免疫プロテアソームは、IFNγに応答してスタンダードプロテアソームの3つの触媒サブユニットが分子置換することにより誘導されるが、他方、免疫プロテアソームからスタンダードプロテアソームへの移行については、これまで全く知られていなかった。
【0004】
一方、もう1つの調節ユニット(20Sプロテアソーム活性化分子)であるPA28は、PA28αとPA28βの2種のサブユニットが交互に会合したヘテロオリゴマー(6または7量体)として細胞質に存在し、20Sプロテアソームの両端に会合してPA28−20Sプロテアソーム(フットボール型プロテアソーム)を形成することが知られている。PA28もまたIFNγによって誘導されるので、IFNγにより誘導される免疫プロテアソームは、PA28−誘導型20Sプロテアソームの構造が支配的であると考えられている。
【0005】
本発明者らの1人は、PA28αの過剰発現により癌細胞にアポトーシスが誘発されることを、以前に報告している(特許文献1)。しかしながら、そのメカニズムは未だ明らかになっていない。
【0006】
ところで、IL18により心臓血管内皮細胞のアポトーシスが誘発されることが報告されている(非特許文献1〜3)。この現象は、心臓血管内膜の炎症性反応に重要な役割を果たしている可能性がある。その分子機構については、NF−κBの活性化が必須であると言われているが、その詳細については知られていない。中西らは、IL18がIL12と協調的にTh1応答を誘導することで、感染症やアレルギーの治療に寄与し得るが、逆に生体内での過剰発現は自己免疫疾患などのTh1病の原因となり得ること、また、IL18はIL12の非存在下では、IL4依存性のIgE産生を誘導してアレルギーなどのTh2病の原因ともなり得ることを報告している(非特許文献4)。また、IL13はTh2サイトカインとして知られ、アレルギーにおいて好酸球の浸潤を促進することが知られている。
しかしながら、これらのサイトカインとプロテアソームとの関係については明らかにされていない。
【0007】
カスパーゼ3は、細胞にアポトーシスを誘導するシグナル伝達経路を構成する酵素の一種であり、特にアポトーシスの実行そのものに関わっている。カスパーゼ3は、細胞内で酵素活性を持たない不活性型のプロカスパーゼ3として合成され、ミトコンドリア、細胞膜表面、小胞体などへの刺激により活性化されたイニシエータカスパーゼにより、あるいはグランザイムBなどのストレス因子により直接切断されることにより活性化する。しかし、カスパーゼ3の活性化にプロテアソームが直接的に関与するとの報告は皆無である。
【特許文献1】特許第3752544号公報
【非特許文献1】Wang, S.F.ら、Zhongguo Wei Zhong Bing Ji Jiu Yi Xue、18、237-9 (2006)
【非特許文献2】Chalikias, G.K.ら、Atherosclerosis、182、135-43 (2005)
【非特許文献3】Chandrasekar, B.ら、Biochem Biophys Res Commun、339、956-63 (2006)
【非特許文献4】Nakanishi, K.ら、Annu Rev Immunol、19、423-74 (2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の第一の目的は、免疫プロテアソームからスタンダードプロテアソームへの移行を誘導し得る物質を同定し、さらに、該物質によって誘導されるスタンダードプロテアソームの構造(即ち、調節ユニットの種類)を同定するとともに、該スタンダードプロテアソームの生理学的意義を解明することである。
本発明の第二の目的は、PA28によるアポトーシス誘導作用のメカニズムを解明し、該メカニズムに基づく新規な疾患治療手段、特に癌、自己免疫疾患、脳・神経変性疾患、肝炎、心疾患、アレルギーなどの治療手段を提供することである。
本発明の第三の目的は、IL18やIL13等のサイトカインとプロテアソームとの関係を明らかにし、それに基づく新規な疾患治療手段、特に癌、自己免疫疾患、脳・神経変性疾患、肝炎、心疾患、アレルギーなどの治療手段を提供することである。
本発明の第四の目的は、イニシエータカスパーゼを介さずに、直接カスパーゼ3等のエフェクターカスパーゼを活性化し得る物質を同定し、それを用いた新規アポトーシス調節剤、カスパーゼ3活性化調節剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意研究を行った結果、免疫プロテアソームからスタンダードプロテアソームへの移行を誘導する分子として、IL18とIL13を見いだした。これらの分子は、IFNγと同様にPA28の発現を誘導した。従って、IL18またはIL13により誘導されるプロテアソームは、PA28−20Sスタンダードプロテアソームであることが明らかとなった。本発明者らは、PA28−20Sスタンダードプロテアソームの酵素活性について、さらに検討を重ねた結果、該プロテアソームは、意外にもプロカスパーゼ3を直接的に切断して、活性型のカスパーゼ3を誘導することを初めて明らかにした。即ち、PA28やIL18によるアポトーシス誘導は、PA28−20Sスタンダードプロテアソームによるカスパーゼ3の活性化に基づくことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は以下の通りである。
〔1〕PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを調節する物質を含む、カスパーゼ3活性化調節剤、
〔2〕アポトーシス調節剤である、上記〔1〕記載の剤、
〔3〕PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルの調節が免疫プロテアソームからの移行の調節によるものである、上記〔1〕または〔2〕記載の剤、
〔4〕免疫プロテアソームがPA28−20S免疫プロテアソームである、上記〔3〕記載の剤、
〔5〕PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを増加させる物質を含有する、カスパーゼ3活性化剤、
〔6〕アポトーシス誘導剤である、上記〔5〕記載の剤、
〔7〕癌、自己免疫疾患またはウイルス感染症の予防・治療剤である、上記〔5〕記載の剤、
〔8〕PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを増加させる物質がIL18またはIL13である、上記〔5〕記載の剤、
〔9〕PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを減少させる物質を含有する、カスパーゼ3活性化阻害剤、
〔10〕アポトーシス抑制剤である、上記〔9〕記載の剤、
〔11〕肝炎、エイズ、脳・神経変性疾患、心疾患、アレルギー、眼疾患または筋萎縮性疾患の予防・治療剤である、上記〔9〕記載の剤、
〔12〕PA28−20Sスタンダードプロテアソームを含む、カスパーゼ3活性化剤、
〔13〕アポトーシス誘導剤である、上記〔12〕記載の剤、
〔14〕PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを調節することによる、カスパーゼ3活性化の調節方法、
〔15〕アポトーシスの調節用である、上記〔14〕記載の方法、
〔16〕PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルの調節が、免疫プロテアソームからの移行によるものである、上記〔14〕または〔15〕記載の方法、
〔17〕免疫プロテアソームがPA28−20S免疫プロテアソームである、上記〔16〕記載の方法、
〔18〕PA28発現細胞に被験物質を接触させる工程、および該物質が該細胞におけるPA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを調節するか否かを評価する工程を含む、カスパーゼ3活性化を調節し得る物質のスクリーニング方法、
〔19〕アポトーシスを調節し得る物質のスクリーニング方法である、上記〔18〕記載の方法、
〔20〕アポトーシス異常が関与する疾患を予防・治療し得る物質のスクリーニング方法である、上記〔18〕記載の方法、
〔21〕PA28発現細胞に被験物質を接触させる工程、および該物質が該細胞におけるカスパーゼ3活性化またはアポトーシス誘導を調節するか否かを評価する工程を含む、PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルおよび/または機能を調節し得る物質のスクリーニング方法、
〔22〕細胞をIL18および/またはIL13で刺激する工程をさらに含む、上記〔18〕〜〔21〕のいずれかに記載の方法、
〔23〕PA28−20Sスタンダードプロテアソームおよびカスパーゼ3の基質に被験物質を接触させる工程、並びに該物質がPA28−20Sスタンダードプロテアソームによるカスパーゼ3活性化を調節するか否かを評価する工程を含む、PA28−20Sスタンダードプロテアソームの機能を調節し得る物質のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、PA28−20Sスタンダードプロテアソームが直接プロカスパーゼ3を切断してカスパーゼ3を活性化することの発見に基づく。本発明の剤は、PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを調節する物質を有効成分として含有することにより、アポトーシスの調節、カスパーゼ3の活性化の調節作用を示し、以ってアポトーシス異常が関与する疾患、例えば、癌、自己免疫疾患、ウイルス感染症、肝炎、エイズ、脳・神経変性疾患、心疾患(拡張性心筋症など)、アレルギー(アトピー性皮膚炎など)、眼疾患、筋萎縮性疾患などの予防・治療に有用であり得る。また、本発明のスクリーニング方法は、PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを指標とすることにより、アポトーシスを調節する物質、カスパーゼ3の活性化を調節する物質を選択し得るので、上記疾患の予防・治療剤の開発において有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(1.調節剤)
後述の実施例などに示されるように、IL18(IL13)刺激により誘導されたPA28−20Sスタンダードプロテアソームは、カスパーゼ3を活性化する。また、このカスパーゼ3を活性化する作用は、PA28−20S免疫プロテアソームには見られない。このことから、PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを調節する物質は、カスパーゼ3の活性化を調節し、その結果としてアポトーシスを調節し得ることが理解される。したがって、PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを調節する物質は、アポトーシスの調節用として、また、カスパーゼ3活性化の調節用として有用である。
【0013】
本発明において「PA28−20Sスタンダードプロテアソーム」とは、調節ユニットとしてPA28を含み、触媒ユニットとして、βリングの3つの触媒サブユニットβ1、β2およびβ5が、それぞれY、ZおよびXである20Sプロテアソームを含む、フットボールタイプのプロテアソームをいう。
【0014】
本発明において「PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを調節する物質」とは、その作用機序に関わらず、哺乳動物の細胞・組織などにおけるPA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベル(量)を調節する(増加または減少させる)任意の物質を意味する。ここで「増加」とは、新たに各サブユニット分子が会合してPA28−20Sスタンダードプロテアソームを形成する場合と、分子置換による既存の免疫プロテアソームからの移行によってPA28−20Sスタンダードプロテアソームを生じる場合との両方を包含する。また、ここで「減少」とは、既存のPA28−20Sスタンダードプロテアソームが解離および/または分解してプロテアソームが消失する場合と、分子置換による既存のPA28−20Sスタンダードプロテアソームからの移行によって免疫プロテアソームを生じる場合との両方を包含する。
「PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを調節する物質」としては、例えば、IL18(インターロイキン18)、IL13などのPA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを増加させる物質、あるいはIFNγ(インターフェロンガンマ)、PA28のα鎖またはβ鎖をコードするmRNAに対するアンチセンス核酸もしくはsiRNA、PA28ドミナントネガティブ変異体などのPA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを減少させる物質などが挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、「PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを調節する物質」は、免疫プロテアソーム、好ましくはPA28−20S免疫プロテアソームからPA28−20Sスタンダードプロテアソームへの移行を調節する物質であり、例えば、当該移行を正に調節(促進)する物質として、IL18(インターロイキン18)、IL13(インターロイキン13)等が、負に調節(抑制)する物質としてIFNγ(インターフェロンガンマ)、などが挙げられる。なお、「PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを調節する物質」には、後述の本発明のスクリーニング方法により得られる物質も含まれる。特に好ましくは、「PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを増加させる物質」は、IL18またはIL13である。
【0015】
1つの態様として、本発明の剤は、カスパーゼ3活性化調節用であり得る(カスパーゼ3活性化調節剤)。本発明の剤は、PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを増加させる物質を含む場合、カスパーゼ3の活性化を促進し得、また、PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを低下させる物質を含む場合、カスパーゼ3の活性化を抑制し得る。
【0016】
本発明のカスパーゼ3活性化調節剤は、上述の哺乳動物の所望の組織(例えば、肝臓、心臓、腎臓、消化管上皮、気管支上皮、皮膚、脳神経)由来の細胞(組織から分離された細胞(培養された細胞も含む)、正常細胞、癌細胞、細胞株など)、好ましくはT細胞、樹状細胞、線維芽細胞のカスパーゼ3の活性化を調節し得る。
【0017】
1つの態様として、本発明の剤は、アポトーシス調節用であり得る(アポトーシス調節剤)。本発明の剤は、PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを増加させる物質を含む場合、アポトーシスを誘導し得、また、PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを低下させる物質を含む場合、アポトーシスを抑制し得る。
【0018】
本発明のアポトーシス調節剤は、哺乳動物(例えば、霊長類、実験用動物、家畜、ペットなど(具体的には、ヒト、サル、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコなどであり、ヒトが最も好ましい。))の所望の組織(例えば、肝臓、心臓、腎臓、消化管上皮、気管支上皮、皮膚、脳神経)由来の細胞(組織から分離された細胞(培養された細胞も含む)、正常細胞、癌細胞、細胞株など)、好ましくはB細胞、T細胞、樹状細胞、線維芽細胞のアポトーシスを調節し得る。
【0019】
本発明のアポトーシス調節剤またはカスパーゼ3活性化調節剤は、上記した有効成分(すなわち、PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを調節する物質)に加え、所望により薬学的に許容される賦形剤、添加剤を含んでもよい。薬学的に許容される賦形剤、添加剤としては、担体、結合剤、香料、緩衝剤、増粘剤、着色剤、安定剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤等が挙げられる。
【0020】
薬学的に許容される担体としては、例えば、炭酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、砂糖、ラクトース、ペクチン、デキストリン、澱粉、ゼラチン、トラガント、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、低融点ワックス、カカオバター等が挙げられる。
【0021】
本発明の剤は、経口または非経口的に投与される。経口的に投与する場合、通常当分野で用いられる投与形態で投与することができる。非経口的に投与する場合には、局所投与剤(経皮剤等)、直腸投与剤、注射剤、経鼻剤等の投与形態で投与することができる。
【0022】
経口投与に好適な製剤は、水、生理食塩水のような希釈液に有効量の物質を溶解させた液剤、有効量の物質を固体や顆粒として含んでいるカプセル剤、顆粒剤、散剤または錠剤、適当な分散媒中に有効量の物質を懸濁させた懸濁液剤、有効量の物質を溶解させた溶液を適当な分散媒中に分散させ乳化させた乳剤等である。
【0023】
非経口的な投与(例、静脈内注射、皮下注射、筋肉注射、局所注入など)に好適な製剤としては、水性および非水性の等張な無菌の注射液剤があり、これには抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。また、水性および非水性の無菌の懸濁液剤が挙げられ、これには懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤等が含まれていてもよい。当該製剤は、アンプルやバイアルのように単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入することができる。また、有効成分および医薬上許容され得る担体を凍結乾燥し、使用直前に適当な無菌のビヒクルに溶解または懸濁すればよい状態で保存することもできる。
【0024】
PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを調節する物質が、サイトカインなどの蛋白質、ペプチドである場合、該物質はそれらをコードする核酸の形態で投与することもできる。このような場合、あるいはPA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを調節する物質自体がsiRNAなどの核酸分子である場合は、該核酸分子を単独あるいはレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターなどの適当な発現ベクター中に挿入した後、常套手段に従って投与することもできる。また、該核酸は、そのままで、あるいは摂取促進のための補助剤とともに、遺伝子銃やハイドロゲルカテーテルのようなカテーテルによって投与することもできる。
【0025】
PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを増加させる物質は、該プロテアソームによるカスパーゼ3活性化作用を誘導(増強)することができ、不要な、望ましくない細胞(癌細胞、ウイルス感染細胞、自己抗原提示細胞など)にアポトーシスを誘導することができるので、癌、自己免疫疾患、ウイルス感染症などの疾患の予防・治療用であり得(予防・治療剤)、特に、癌の予防・治療剤として有用であり得る。一方、PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを減少させる物質は、該プロテアソームによるカスパーゼ3活性化作用を阻害することができ、アポトーシスの異常亢進を抑制することができるので、肝炎、エイズ、脳・神経変性疾患、心疾患(拡張性心筋症など)、アレルギー(アトピー性皮膚炎など)、眼疾患、筋萎縮性疾患などの予防・治療剤として有用であり得る。
【0026】
本発明の剤の投与量、投与回数は、有効成分の活性や種類、病気の重篤度、適用対象となる動物種、適用対象の薬物受容性、体重、年齢などによって異なり、適宜設定され得るが、例えば、成人癌患者に投与する場合、PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを増加させる物質の量として、1日あたり1mg〜50mg/kg体重、好ましくは1mg〜10mg/kg体重が用いられ、これらの量を1日1回もしくは数回に分けて投与することができる。また、成人肝炎患者に投与する場合、PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを減少させる物質の量として、1日あたり1mg〜50mg/kg体重、好ましくは1mg〜10mg/kg体重が用いられ、これらの量を1日1回もしくは数回に分けて投与することができる。
【0027】
(2.調節方法)
本発明はまた、インビトロで、PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを調節することを含む、アポトーシスまたはカスパーゼ3活性化の調節方法を提供する。例えば、この方法は、アポトーシスまたはカスパーゼ3活性化の調節を所望するインビトロ系に、PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを調節する物質を添加する工程を含む。
【0028】
PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを調節する物質として、上記各種物質を使用することができる。PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを調節する手段は、PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを調節する物質に限定されず、PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを調節することができる限りいずれの手段で行なってもよい。
【0029】
使用するインビトロ系としては、組織切片、培養細胞、細胞破砕物、細胞抽出物等の系が挙げられるが、PA28−20Sスタンダードプロテアソームが機能し得且つPA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルの調節が可能な系である限りこれらに限定されない。本発明で使用するインビトロ系としては細胞が好ましく、このような細胞として、初代培養細胞、当該初代培養細胞から誘導された細胞株等を用いることができる。本明細書中では、細胞を含まない系(細胞破砕物、細胞抽出物等)を用いる場合であっても、その系のPA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを増大させることを「PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを調節する」と表現する。
【0030】
PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを調節する物質の添加は、培養培地中で行われる。培養培地は、使用する細胞に応じて適宜選択されるが、例えば、約5〜20%のウシ胎仔血清を含む最少必須培地(MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)等である。培養条件も同様に適宜決定されるが、例えば、培地のpHは約6〜約8であり、培養温度は通常約30〜約40℃であり、培養時間は約12〜約72時間である。
【0031】
この方法は、カスパーゼ3活性化、アポトーシスまたはアポトーシスが関与する疾患の研究等において有用であり得る。
【0032】
本発明はまた、有効量のPA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを調節する物質を投与することを含む、アポトーシスまたはカスパーゼ3活性化の調節方法を提供する。PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを調節する物質の投与対象としては、上記哺乳動物が挙げられる。「有効量」とは、投与対象のPA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを調節するのに十分な量をいう。投与経路や投与量は、本発明の剤において上記したのと同様のものが適用され得る。
【0033】
1つの態様において、本発明の方法は、アポトーシス異常が関与する疾患、例えば、癌、自己免疫疾患、ウイルス感染症、肝炎、エイズ、脳・神経変性疾患、心疾患(拡張性心筋症など)、アレルギー(アトピー性皮膚炎など)、眼疾患、筋萎縮性疾患などの疾患の予防・治療を可能とし、特に、癌、脳・神経変性疾患、肝炎、心疾患、アレルギーの予防・治療に有用であり得る。
【0034】
(3.スクリーニング方法)
(3.1.PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを指標とするスクリーニング方法(「スクリーニング方法(I)」))
本発明は、以下の工程を含むカスパーゼ3の活性化を調節し得る物質のスクリーニング方法も提供する。
(a)PA28発現細胞に被験物質を接触させる工程;
(b)被験物質がPA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを調節するか否かを評価する工程;
(c)PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを調節する物質を、カスパーゼ3の活性化および/またはアポトーシスの誘導を調節し得るおよび/またはアポトーシス異常が関与する疾患を予防・治療し得る物質として得る工程。
【0035】
本発明のスクリーニング方法に供される被験物質は、いかなる公知化合物および新規化合物であってもよく、例えば、核酸、糖質、脂質、タンパク質、ペプチド、有機低分子化合物、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、ランダムペプチドライブラリー、あるいは微生物、動植物、海洋生物由来の天然成分などが挙げられる。
【0036】
上記において、PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベル(量)を調節し得る物質を選択する場合、例えば工程(a)において、被験物質とPA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを測定可能な細胞とを接触させ、被験物質を接触させた細胞におけるPA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを測定し、該レベルを被験物質を接触させない対照細胞におけるPA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルと比較する。
【0037】
使用する細胞は、PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを測定するのに使用可能な細胞である限り特に限定されず、初代培養細胞、当該初代培養細胞から誘導された細胞株、市販の細胞株、セルバンクより入手可能な細胞株などを使用することができるが、好ましくは、PA28α鎖(もしくはさらにβ鎖)をコードするDNAでトランスフェクトしたPA28過剰発現細胞である。
【0038】
PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを測定可能な細胞に対する被験物質の接触は、適切な培養培地中で行われ得る。当該培養培地は、用いられる細胞の種類などに応じて適宜選択されるが、例えば、約5〜20%のウシ胎仔血清を含む最少必須培地(MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地などである。培養条件もまた、用いられる細胞の種類などに応じて適宜決定されるが、例えば、培地のpHは約6〜約8であり、培養温度は通常約30〜約40℃であり、培養時間は約12〜約72時間である。なお、該接触は、IL18および/またはIL13刺激下で行われることが好ましい。
【0039】
上記方法の工程(b)では、先ず、被験物質を接触させた細胞におけるPA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルが測定される。PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルの測定は、用いた細胞の種類などを考慮し、自体公知の方法により行われ得る。例えば、細胞から抽出液を調製し、PA28に対する抗体および20Sスタンダードプロテアソーム特異的な構成サブユニットである、βリングのY、ZまたはXに対する抗体とを用いた免疫学的手法により測定され得る。免疫学的手法としては、放射性同位元素免疫測定法(RIA法)、ELISA法(Methods in Enzymol. 70: 419-439 (1980))、蛍光抗体法、ウェスタンブロッティング法などが使用できる。
【0040】
次いで、被験物質を接触させた細胞におけるPA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルが、被験物質を接触させない対照細胞におけるPA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルと比較される。レベルの比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれる。被験物質を接触させない対照細胞におけるPA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルは、被験物質を接触させた細胞におけるPA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルの測定に対し、事前に測定したレベルであっても、同時に測定したレベルであってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定したレベルであることが好ましい。
【0041】
工程(c)では、工程(b)で選択されたPA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを増加させる物質が、カスパーゼ3の活性化および/またはアポトーシスの誘導を促進し得る物質、および/またはアポトーシスの不全が関与する疾患の予防・治療物質として、また、PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを減少させる物質が、カスパーゼ3の活性化および/またはアポトーシスの誘導を抑制し得る物質、および/またはアポトーシスの異常亢進が関与する疾患の予防・治療物質として獲得される。
【0042】
更に工程(b)と(c)の間に、工程(b´)として工程(b)で選択された物質がカスパーゼ3の活性化を調節し得るか確認し、該効果が確認された物質を工程(c)においてカスパーゼ3の活性化および/またはアポトーシスの誘導を調節し得るおよび/またはアポトーシス異常が関与する疾患を予防・治療し得る物質として得ることも出来る。これにより、より高い効率で目的とする物質を獲得することが出来る。
【0043】
上記方法の工程(c)で選択した物質は、カスパーゼ3の活性化、アポトーシスの誘導を調節する作用を有する物質、アポトーシス異常が関与する疾患の予防・治療物質として、本発明の剤において使用され得る。
【0044】
(3.2.カスパーゼ3の活性化またはアポトーシスの誘導を指標とするスクリーニング方法(「スクリーニング方法(II)」))
また、本発明は、以下の工程を含む、PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルおよび/または機能を調節し得る物質のスクリーニング方法も提供する。
(a)PA28発現細胞に被験物質を接触させる工程;
(b)被験物質がカスパーゼ3活性化またはアポトーシス誘導を調節するか否かを評価する工程;
(c)カスパーゼ3活性化またはアポトーシス誘導を調節する物質を、PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルおよび/または機能を調節し得る物質として得る工程。
【0045】
工程(a)において使用されるPA28発現細胞および被験物質としては、上記スクリーニング方法(I)と同様のものが挙げられる。
【0046】
工程(b)におけるカスパーゼ3の活性化は、細胞抽出液を、標識したカスパーゼ3の基質アナログと接触させ、該基質の切断による分子量の変化を該標識をマーカーにして検出することなどにより測定することができる。一方、アポトーシス活性は、例えば、光学顕微鏡、位相差顕微鏡、蛍光顕微鏡などを用いた形態学的観察により膜のブレッビング(blebbing)、細胞サイズの縮小化、クロマチン凝縮、DNA断片化等を検出することにより調べることができる。また、トリパンブルー、エリスロシンB、ネグロシン、エオシンY、フルオレッセンジアセテート、アクリジンオレンジ、エチジウムブロマイド等の色素を用いて死細胞を染色、顕微鏡下で計数することによっても細胞死誘導率を導出することができる。さらに、DAPIやヘキスト33342等の蛍光色素を用いてDNAを染色し、蛍光顕微鏡下でクロマチン凝縮の起こっている細胞を計数することもできる。あるいは、断片化されたDNAの3’末端にターミナル・デオキシヌクレオチジル・トランスフェラーゼ(TdT)を用いてビオチンや蛍光色素などで標識したdUTPを付加させ(TUNEL法)、強く染色された細胞数を光学顕微鏡、蛍光顕微鏡などを用いて計数することにより、アポトーシス誘導率を算出することもできる。また、粒子サイズ測定装置(例:Coulter multisizer等)を用いて細胞サイズ分布を測定することにより縮小化・断片化した細胞数を計数し、アポトーシス誘導率を計算することができる。あるいは、フローサイトメトリー(FACS)を用いて細胞サイズの縮小・アポトーシス小体への断片化を検出することにより、生死細胞を分離、細胞死誘導率を算出することもできる。さらには、常法を用いて細胞から染色体DNAを抽出し、ゲル電気泳動してDNAの断片化の度合をデンシトメーターなどを用いて測定することにより、生化学的にアポトーシスを検出することもできる。あるいは、3-(4,5-dimethyl-thiazol-2-yl)-2,5-diphenyl tetrazolium bromide(MTT)が生細胞によりホルマザンに還元されることを利用して、マイクロプレートリーダーを用いて570−630nmにおける吸光度の減少を測定することにより細胞死誘導率を算出することもできる。
カスパーゼ3の活性化またはアポトーシス誘導の度合を、上記スクリーニング法(I)と同様、被験物質に接触させていないPA28発現細胞との間で比較し、被験物質存在下でカスパーゼ3の活性化またはアポトーシス誘導が有意に変動する物質を選択する。
【0047】
工程(c)では、工程(b)で選択されたカスパーゼ3の活性化および/またはアポトーシスの誘導を促進し得る物質が、PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルおよび/または機能を増大させる物質として、また、カスパーゼ3の活性化および/またはアポトーシスの誘導を抑制し得る物質が、PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルおよび/または機能を低下させる物質として、それぞれ獲得される。
【0048】
上記スクリーニング法(I)(II)において、被験物質をPA28発現細胞に接触させる前後(あるいは同時でもよい)に、該細胞をIL18および/またはIL13で刺激することもできる。これらのサイトカインは、PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを顕著に増加させ(免疫プロテアソームからPA28−20Sスタンダードプロテアソームへの移行を促進し)、カスパーゼ3の活性化、アポトーシス誘導を促進するので、該処理を施すことにより、カスパーゼ3活性化を阻害する物質、アポトーシスを抑制する物質、PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを減少させる物質の検出・同定をよりクリアカットに行える。さらに、IL18は、IL12と協調してTh1応答を引き起こすことから自己免疫疾患や移植片対宿主病(GvHD)などのTh1病に関与するとともに、IL2やIL3の存在下ではTh2応答を引き起こしてアレルギー等のTh2病に関与することが示唆されており、一方、IL13は、アレルギーにおける好酸球浸潤に関与するTh2サイトカインであること等から、IL18またはIL13刺激によるPA28−20Sスタンダードプロテアソームの誘導、並びにカスパーゼ3活性化およびアポトーシス誘導の亢進が、これらサイトカインに起因する上記疾患に深く関与していることが示唆される。したがって、当該スクリーニング方法により選択される、カスパーゼ3活性化を阻害する物質、アポトーシスを抑制する物質、PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを減少させる物質は、IL18および/またはIL13が関与する各種疾患、例えば、炎症(例えば、肝炎など)、自己免疫疾患(例えば、クローン病、潰瘍性大腸炎など)、GvHD、アレルギー(例えば、アトピー性皮膚炎など)、エイズ、脳・神経変性疾患、心疾患(例えば、拡張性心筋症など)、眼疾患、筋萎縮性疾患などの予防・治療物質の候補となり得る。
【0049】
(3.3.PA28−20Sスタンダードプロテアソームの酵素活性を指標とするスクリーニング方法(「スクリーニング方法(III)」))
また、本発明は、以下の工程を含むPA28−20Sスタンダードプロテアソームの機能を調節し得る物質のスクリーニング方法も提供する。
(a)PA28−20Sスタンダードプロテアソームおよびカスパーゼ3の基質に被験物質を接触させる工程;
(b)被験物質がPA28−20Sスタンダードプロテアソームによるカスパーゼ3の活性化を調節するか否かを評価する工程;
(c)PA28−20Sスタンダードプロテアソームによるカスパーゼ3の活性化を調節する物質を、PA28−20Sスタンダードプロテアソームの機能を調節し得る物質として得る工程。
【0050】
本発明のスクリーニング方法(III)に供される被験物質としては、上述の「スクリーニング方法(I)」と同様なものが挙げられる。PA28−20Sスタンダードプロテアソームは、例えば、上記PA28発現細胞から、抗PA28抗体および20Sスタンダードプロテアソームに特異的なβリングのサブユニットであるY、ZもしくはXのいずれかに対する抗体を用いたpull-down法などにより、単離・精製することができる。カスパーゼ3の基質としては、上記「スクリーニング方法(II)」と同様なものが挙げられる。
【0051】
工程(b)においては、被験物質存在下でのカスパーゼ3の活性を、スクリーニング方法(II)と同様にして測定し、被験物質非存在下におけるカスパーゼ3活性と比較して、被験物質存在下でカスパーゼ3活性が有意に変動する物質を選択する。
【0052】
工程(c)では、工程(b)で選択されたカスパーゼ3の活性化を促進し得る物質が、PA28−20Sスタンダードプロテアソームの機能を増大させる物質として、また、カスパーゼ3の活性化を抑制し得る物質が、PA28−20Sスタンダードプロテアソームの機能を低下させる物質として、それぞれ獲得される。
【0053】
本発明のスクリーニング方法(I)〜(III)によって得られ得る化合物は、医薬品開発のための候補化合物とすることができ、また、上記の本発明の剤と同様に、製剤化することにより、PA28−20Sスタンダードプロテアソーム誘導調節剤、PA28−20Sスタンダードプロテアソーム誘導性カスパーゼ3活性化調節剤、PA28−20Sスタンダードプロテアソーム誘導性アポトーシス誘導調節剤とすることができる。これらの剤は、上記した本発明の剤と同様に、アポトーシス異常が関与する疾患、例えば、癌、自己免疫疾患、ウイルス感染症、肝炎、エイズ、脳・神経変性疾患、心疾患(拡張性心筋症など)、アレルギー(アトピー性皮膚炎など)、眼疾患、筋萎縮性疾患などの予防・治療剤として使用することができる。
【0054】
以下に実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0055】
(方法・材料)
細胞、細胞培養、マウス
MethA細胞(メチルコラントレン誘導肉腫、BALB/cマウス由来)。EL4細胞(メチルコラントレン誘導胸腺腫、C57BL/6マウス由来)。B16細胞(黒色腫、C57BL/6マウス由来)。E.G7細胞(卵白アルブミン蛋白ovalbumin(OVA)のcDNAが導入されたEL4細胞)。PA28αβ欠損腫瘍(メチルコラントレン誘導線維肉腫、PA28α-/-β-/- BALB/cマウス由来)。MEF/3T3 Tet-Off細胞とHela Tet-Off細胞はタカラバイオ株式会社より購入。マウスPA28α、PA28αΔC5遺伝子(pMSCVpuroに組み込まれた)を導入した細胞はピューロマイシン2μg/ml(Sigma-Aldrich)にて選択・維持を行った。C57BL/6、BALB/c、ヌードマウス(BALB/Jcl-nu)は日本クレアより購入した。IFNγ-/-マウス(C57BL/6 background)は谷口克氏(理化学研究所 免疫・アレルギー科学総合研究センター)より供与を受けた。B6;C3-Tg(TettTALuc)1Dgs/JマウスはJackson Laboratory(Bar Harbor, ME)より購入し、このマウスをC57BL/6マウスに掛け戻し交配を行い、B6-Tg(TettTALuc)マウスとして維持した。CD4+又は CD8+T細胞は脾臓細胞よりIMag Cell separation system(BD Biosciences)にて精製し、培養はConA(5μg/ml)刺激を他の脾細胞と共に行うことにより行った。骨髄由来樹状細胞(BM-DC)はC57BL/6マウスの骨髄細胞をリコンビナントマウスGM-CSF(20ng/ml, R&D Systems, Inc. Minneapolis, MN)存在下にて6日間培養することにより樹立した。リコンビナントマウスIFNγ、IL3、IL12、IL13、およびIL23はR&D Systems, Incより購入した。リコンビナントマウスIL18はMBLより購入した。
【0056】
抗体、ペプチド、試薬
抗CD8(2.43)、CD4(GK1.5)ラットモノクロナル抗体及び抗マウスPA28α(1G11)マウスモノクロナル抗体は研究室ストックのものを使用した。マウスモノクロナル抗体-抗20Sα2、Rpt1及びラビットポリクロナル抗体-抗 PA28β、20Sβ5(X)、20Sβ5i(LMP7)及びプロテアソーム特異的阻害剤エポキソマイシン(Ep)はBIOMOL(Plymouth Meeting, PA)より購入した。蛍光基質ac-DNLD-AMC(カスパーゼ3の基質)とsuc-LLVY-AMC、boc-LRR-AMC(プロテアソームの基質)はペプチド研究所より購入した。他のカスパーゼの基質Ac-YVAD-AFC(カスパーゼ1)、Ac-VDVAD-AFC(カスパーゼ2)、Ac-VEID-AFC(カスパーゼ6)、Ac-IETD-AFC(カスパーゼ8)、Ac-LEHD-AFC(カスパーゼ9)はMBLより購入した。抗カスパーゼ3ラビットポリクロナル抗体はSanta Cruz Biotechnology, Inc(Santa Cruz,CA)より購入した。Caspase3、Active form、mAb Apoptosis KitはBD Biosciencesより購入した。Concanavalin A(ConA)は和光純薬より購入した。ATPはSigma-Aldrichより購入した。
【0057】
リコンビナント蛋白およびプラスミド
マウスPA28α、PA28βのcDNAはpQE31発現ベクター(Qiagen, Valencia, CA:導入したcDNAのN末端側に6xHisタグを付与する)(PA28α:5’BamHI and 3’ KpnI、PA28β:5’SalI and 3’KpnI)にクローニングした。マウスPA28α変異分子(PA28αΔC5:C末端側のアミノ酸を5個欠損)の作製はPA28αの3’コドンを15塩基欠損させたものをpQE31発現ベクター(5’BamHlI and 3’KpnI)に組み込んだ。マウスカスパーゼ3のcDNAはpET21b発現ベクター(Novagen, Darmstadt, Germany:導入したcDNAのC末端側に6xHisタグを付与する)(5’BamHlI and 3’SalI)にクローニングした。ヒトhsp90αは根本孝幸氏(長崎大学大学院 医歯薬総合研究科 口腔分子生化学分野)より供与を受けた。大腸菌による蛋白発現は1mMのisopropyl-β-D-thiogalactoside(IPTG)にて37℃の条件で行った(PA28とhsp90αの発現誘導:O.D 0.6にてIPTG添加後3時間培養。カスパーゼ3の発現誘導:O.D 0.3にてIPTG添加後30分)。蛋白精製はQiagenのネイティブ条件下のE.coliからの6xHisタグ・タンパク質精製法に従って行った。マウスPA28αとPA28αΔC5はpMSCVpuro(Takara Bio Inc.)(5’XhoI、3’HpaI)とpBI-hrGFP(中村幸夫氏(理化学研究所 バイオリソースセンター)より供与を受けた)(5’XhoI、3’HindIII)に組み込んだ。細胞株へのpMSCVpuro及びpBI-hrGFPの導入はNucleofector(amaxa Inc, Gaithersburg, MD)を用い行った。
【0058】
細胞抽出物の調製、及びこれを用いたプロテアソームのプルダウン
細胞は1% NP40を添加した26Sバッファー(25mM Tris-HCl pH7.5, 250mM sucrose, 1mM DTT, 1mM PMSF)に懸濁し溶解した。氷上に30分静置後、16000G30分遠心する。その上清を細胞抽出物として使用した。細胞抽出物を用いたプロテアソーム(PA28αβ-20Sプロテアソーム)のプルダウン:リコンビナントPA28α(5μg)とPA28β(5μg)を細胞抽出物(250μg/100μl)に加え、4℃でローテーターにてマイルドに3時間混和する。最後の1時間Ni-NTA-アガロース(ビーズ容量が総量の30%になるように調整)を加え混和する。ビーズ容量の15倍量の25mMイミダゾール含有26Sバッファーを加え2,500Gにて5分間遠心後上清を除去する。この洗浄過程を再度行った後、ビーズに結合しているプロテアソーム(PA28αβ-20Sプロテアソーム)を溶出バッファー(250mMイミダゾール含有26Sバッファー、100μl)にて溶出しこれをPA28αβ-20Sプロテアソームとして使用した。
【0059】
電気泳動、ゲル内に分離されたプロテアソームの活性可視化
Native-PAGEは3-10% gradient gel(Wako Pure Chemical Industries, Ltd)を用いた。泳動サンプルはxylene cyanolと混和後4℃で100Vにてxylene cyanolがゲル下端から溶出されるまで行った。SDS-PAGEは5-20% gradient gelを用いた。プロテアソーム活性可視化は0.1mMの蛍光基質suc-LLVY-AMC(キモトリプシン様活性)又はboc-LRR-AMC(trypsin-like activity)を含む26Sバッファー内にて泳動後のゲルを37℃にて10分間振とう後、360nm UV光のトランスイルミネーターにて惹起される光を460nmのフィルターを装着した撮影装置にて撮影することにより可視化した。
【0060】
ペプチダーゼ活性の測定
ペプチダーゼ活性は、プロテアソーム並びにカスパーゼ特異的な蛍光基質を用い測定した。基質(0.1mM)を細胞抽出物、プルダウン精製のプロテアソーム、リコンビナントカスパーゼ3と混和し、蛍光強度(MCA:excitation at 380nm, emission at 460nm, AFC:excitation at 400nm, emission at 505nm)をPOWERSCANRHT(Dainippon Sumitomo Pharma Co., Ltd., Osaka, Japan)を測定することにより酵素活性の定量を行った。
【0061】
プロテアソームの精製(26Sプロテアソーム、PA28-20Sプロテアソーム)
26SプロテアソームはC57BL/6マウスの肝臓より精製した。肝臓を26Sバッファー(25mM Tris-HCl pH 7.5, 1mM DTT, 0.25M sucrose, 2mM ATP, 1mM PMSF)にて懸濁後ホモジェナイザーにて破砕、その後10,000Gにて10分間遠心した。遠心後の上清を100,000Gにて1時間遠心した。さらにその遠心上清を100,000Gにて5時間遠心する。遠心後のペレットを26Sバッファーにて可溶化し、superose6(10/300GL)カラム(Amersham Biosciences)を装着したAKTA purifier(Amersham Biosciences)を用い流速0.5ml/minにて分離し1ml/fractionにて回収した。
PA28-20SプロテアソームはMethA細胞より精製した。10ml容量のMethA細胞ペレットをバッファーA(25mM Tris-HCl pH 7.5, 1mM DTT, 0.25M sucrose, 1mM PMSF)に懸濁後ホモジェナイズし、10,000Gにて10分間遠心した。さらに遠心上清を100,000Gにて1時間遠心した。この遠心上清をバッファーAにて平衡化されたRESOURCETMQカラム(Amersham Biosciences)にロードした。NaCl濃度勾配(0-1M)を30分かけて行いそこで溶出されてくる分子を1ml/fractionにて回収した。プロテアソーム活性を持つ分画(Fr.7-15:ATP非存在下にてsuc-LLVY-AMCを用い測定)を集めCentrifugal Filter Device(Ultrafree-0.5, Millipore, Bedford, MA)を用い濃縮した。濃縮サンプルをHeparin column(HiPrepTM 16/10 Heparin FF, Amersham Biosciences)にロードし、NaCl濃度勾配(0-1M)を40分かけて行いそこで溶出されてくる分子を1ml/fractionにて回収した。NaCl 40mM以下の濃度にて溶出されてくるプロテアソーム活性を持つ分画(suc-LLVY-AMCを用い測定)を集めさらにバッファーB(10mM potassium phosphate pH 7.5, 1mM DTT, 0.25M sucrose)にて平衡化されたhydrophobic column(RESOURCE PHE for HIC, Amersham Biosciences)にロードし、potassium phosphateの濃度勾配(10-500mM)にて溶出した。プロテアソーム活性を持つ分画を集めCentrifugal Filter Deviceを用いて濃縮し、バッファーAに溶媒置換を行いこれをPA28-20Sプロテアソームとして使用した。
【0062】
フローサイトメトリー
細胞内分子染色については、細胞をCytofix/Cytoperm(BD Biosciences)にて固定後Perm/Wash(BD Biosciences)にて洗浄した。その後細胞をFITC-ラベルラビットmAb抗-活性化型カスパーゼ3抗体を含むPerm/Washに懸濁することにより、細胞内活性化型カスパーゼ3を染色した。アポトーシス検出目的にて、細胞をpropidium iodide(PI)、Rhodamine123(Wako Pure Chemical Industries, Ltd.)、FITCラベルAnnexin-V(A)(Sigma-Aldrich)、TUNEL with Apotag-Direct Apoptosis in situ Detection Kit(Fluorescence)(Chemicon International Inc., Temecula, CA)にて染色した。染色した細胞はEPICS XL(BECKMAN COULTER, CA)を用いて解析を行った。
【0063】
(結果)
1.IL18処理は細胞内に於いてPA28結合-20Sスタンダンダードプロテアソームの形成を誘導し、その結果内在性カスパーゼ3を活性化する(図1)。
(A)正常マウス(PA28αβ陽性)並びにPA28αβ欠損マウス由来のT細胞と樹状細胞(DC)を用い細胞内カスパーゼ3の活性化について検討した。T細胞刺激は48時間ConA(5μg/ml)にて行った、同時にIL18(10ng/ml)又はインターフェロンガンマ(IFNγ)(10ng/ml)を加えこれらサイトカインの影響について検討を行った。さらにプロテアソーム特異的阻害剤であるエポキソマイシン(Ep 10μM)を最終12時間添加することにより、内在性カスパーゼ3活性化のプロテアソーム依存性についても検討した。DCはGM-CSFにて6日間培養し樹立し、T細胞と同様にIL18、IFNγ、Epを加え検討を行った。T細胞(48時間培養)並びにDC(6日間培養)の細胞抽出液(6μg)を作製し、抽出液中のカスパーゼ3活性をカスパーゼ3特異的蛍光基質ac-DNLD-AMCを用い測定した(基質0.1mMを抽出液に加え1時間処理後測定、測定条件Ex380nm Em460nm)。
その結果、IL18は樹状細胞並びにT細胞の内在性カスパーゼ3を活性化することが示された(図1(A))。
(B)EL4細胞を様々なサイトカインにて48時間培養し上記(A)と同様に内在性のカスパーゼ3の活性化を測定した。
その結果、IL18(IL13)はマウス腫瘍細胞株EL4細胞の内在性カスパーゼ3を活性化することが示された(図1(B))。
(C)上記(B)の細胞抽出液をnative-PAGEにて分離し、抗X抗体(スタンダンダードプロテアソーム)、抗LMP7抗体(免疫プロテアソーム)、抗PA28α抗体を用いたウェスタンブロットを行うことにより抽出液中のプロテアソームの構造を調べた。
その結果、IL18(IL13)はPA28結合-20Sスタンダンダードプロテアソームを誘導することが示された(図1(A))。
(D)上記(C)のゲル内にて分離されたプロテアソームの酵素活性を検討した。蛍光基質:suc-LLVY-AMC(キモトリプシン様活性)、boc-LRR-AMC(トリプシン様活性)(Ex380nm Em460nm)。
その結果、IL18(IL13)により誘導されたPA28結合-20Sスタンダンダードプロテアソームはキモトリプシン様活性を有することが示された(図1(D))。
【0064】
2.PA28α過剰発現により内在性のカスパーゼ3は活性化し、さらにこの活性化はIFNγにより増強される(図2)。
(A)レトロウイルスベクターによるPA28α、PA28αΔC5、mock導入E.G7細胞をIFNγ(0、1、10ng/ml)にて48時間処理し、その細胞抽出液中(6μg)のカスパーゼ活性(1、2、3、6、8、9)の活性を特異的蛍光基質(0.1mM)を用い測定した(基質0.1mMを抽出液に加え1時間処理後測定 AFC:カスパーゼ1、2、6、8、9 Ex 400nm, Em 505nm、AMC:カパーゼ3 Ex 380nm, Em 460nm)。
その結果、PA28α発現腫瘍においては、カスパーゼ3及びカスパーゼ2さらにはカスパーゼ6の活性増加が認められた。さらにIFNγの濃度依存性にカスパーゼ3及びカスパーゼ2の活性は上昇した。一方、カスパーゼ6の活性についてはIFNγの存在により活性は減少した。(図2(A))。
(B)MEF3T3 Tet-off細胞とB6-Tg(TettTALuc)マウスより精製したCD4+T細胞を用い、これらの細胞にpBI-hrGFP(mock)又はPA28αをコードするpBI-hrGFP(PA28α)を導入しドキシサイクリン(DX, 1μg/ml)存在下又は非存在下にて48時間培養し(A)と同様にカスパーゼ活性を測定した。(CD4+T細胞はConA(5μg/ml)刺激による培養を行った。)
その結果、Tet-offシステムによるPA28α発現コントロールにても内在性カスパーゼ3の活性は特異的に上昇したことが示された(図2(B))。
(C)細胞内活性化カスパーゼ3のフローサイトメトリーによる解析。
Hela Tet-off細胞にpBI-hrGFP(mock)又はPA28αをコードするpBI-hrGFP(PA28α)を導入しドキシサイクリン(DX, 1μg/ml)存在下又は非存在下にて48時間培養した。細胞内活性化カスパーゼ3を染色しこれをフローサイトメトリーによる解析に用いることにより、PA28αを導入することにより特異的に細胞内活性化カスパーゼ3が活性化するのか検討を行った。同時に蛍光タンパク質であるGFPの発現を検討することにより、遺伝子導入効率についても解析した。
その結果、PA28αの発現があるDX- においては、細胞内に活性型カスパーゼ3の存在が認められた。なお、GFPについては遺伝子導入効率を見たものであり、mockプラスミド、 PA28αをコードするプラスミドともにDX- においてGFPを発現していた。(図2(C))。
【0065】
3.PA28結合プロテアソームはin vitroにてリコンビナントのプロカスパーゼ3を活性化し、その効率はPA28非結合プロテアソームと比較して極めて高い(図3)。
(A)正常マウス(PA28αβ陽性)並びにPA28αβ欠損マウス由来26Sプロテアソーム溶出分画(Fr9-12)をnative-PAGEにて分離し、どの溶出分画のどのサイズのプロテアソームが酵素活性を持つのか、さらに正常マウスとPA28αβ欠損マウスより異なるプロテアソームが溶出されるのか検討した。分離されたプロテアソームの酵素活性は図3(A)のRCR、RC、Cの矢印が指し示すように、正常マウスとPA28αβ欠損マウスでは異なる。特に正常マウスからのみ活性を持つCのプロテアソームが精製されている。蛍光基質:suc-LLVY-AMC(キモトリプシン様活性)。
(B)正常マウスからPA28結合プロテアソームが精製される。
26Sプロテアソーム溶出分画(Fr9-12)をSDS-PAGEにて分離し抗20Sα2抗体、抗Rpt1(19S)抗体、抗PA28α抗体、抗PA28β抗体を用いたウェスタンブロットを行うことにより分画中に含まれるプロテアソーム構成分子について検討した。正常マウス由来溶出分画10-12に渡ってPA28αβが溶出されており、このことはこれら溶出分画にPA28結合プロテアソーム(ハイブリッド型プロテアソーム(19S-20Sプロテアソーム-PA28)並びにPA28結合-20Sプロテアソーム(PA28-20S-PA28))が含まれていることを示唆する(図3(B))。
上記(A)および(B)の結果より、正常マウス(PA28αβ陽性)より精製した26SプロテアソームはPA28結合プロテアソーム(ハイブリッド型プロテアソーム(19S-20Sプロテアソーム-PA28)並びにPA28結合-20Sプロテアソーム(PA28-20S-PA28))を含むことが示された。
(C)溶出分画(10μl、Fr9-12)の希釈サンプル(×1、2、4、8、16)を作製し、リコンビナントプロカスパーゼ3(100ng)と混和し1時間37℃にて反応させた。混和したプロテアソーム活性並びにプロテアソームにより活性化されたカスパーゼ3活性は、suc-LLVY-AMC(0.1mM、プロテアソーム活性)ac-DNLD-AMC(0.1mM、カスパーゼ3活性)を加え37℃にて1時間反応させた後測定した(Ex 380nm, Em 460nm)(図3(C))。
(D)(C)のカスパーゼ3活性化のプロテアソーム依存性についての検討。
26Sプロテアソーム溶出分画(10μl、Fr9-12)とプロカスパーゼ3(100ng)の混和の際、エポキソマイシン(Ep 10μM)を添加することによりカスパーゼ3活性化がプロテアソームの酵素活性に依存するのか同定した(図3(D))。
上記(C)および(D)の結果より、PA28を含むプロテアソーム分画はin vitroにてリコンビナントのプロカスパーゼ3を活性化することが示された。
(E)MethA細胞より精製したPA28結合-20Sプロテアソームの活性、純度についての検討。
PA28結合-20Sプロテアソームをnative-PAGEにて分離し、分離されたプロテアソームの酵素活性(蛍光基質:suc-LLVY-AMC)並びにウェスタンブロットによる構成分子(抗20Sα2抗体、抗PA28α抗体、抗PA28β抗体、抗Rpt1(19S)抗体)の検討を行った(図3(E))。
(F)精製PA28結合-20Sプロテアソームはin vitroにてリコンビナントプロカスパーゼ3を活性化する。
プロカスパーゼ3(100ng)をPA28結合-20Sプロテアソームと混和し6時間37℃にて反応させた。lane1:プロカスパーゼ3のみ、lane2:プロカスパーゼ3+プロテアソーム、lane3:プロカスパーゼ3+プロテアソーム+Ep、10μM。反応サンプルはSDS-PAGEにて分離後抗カスパーゼ3ポリクローナル抗体を用いたウェスタンブロットにより活性化型カスパーゼ3(p20、p17)の存在を確認した(図3(F))。
上記(E)および(F)の結果より、精製PA28結合-20Sプロテアソーム(PA28-20S-PA28)はin vitroにてリコンビナントのプロカスパーゼ3を活性化することが示された。
(G)IFNγ(10ng/ml、96時間)未処理並びに処理PA28αβ欠損マウス腫瘍の細胞抽出物とリコンビナントPA28αとβ蛋白を用いプルダウンされたPA28結合-20S(スタンダンダード)プロテアソームとPA28結合-20S(免疫)プロテアソームの機能並びに構造解析を行った。プルダウンされたプロテアソームをnative-PAGEにて分離した。ゲル内にて分離されたプロテアソームの酵素活性の検討(蛍光基質:suc-LLVY-AMC(キモトリプシン様活性)、boc-LRR-AMC(トリプシン様活性))並びにウェスタンブロットによる構成分子(抗20Sα2抗体、抗PA28α抗体、抗スタンダンダードプロテアソームサブユニットX抗体、抗免疫プロテアソームサブユニットLMP7抗体)の同定を行った(図3(G))。
(H)リコンビナントのプロカスパーゼ3(100ng)を(G)のプルダウンされた2種類のプロテアソームと混和し、1時間37℃にてEp(10μM)非存在又は存在下にて反応させた。その後カスパーゼ3特異的蛍光基質ac-DNLD-AMC(0.1mM)を加え経時的に測定した(37℃、10分毎測定)(図3(H))。
上記(G)および(H)の結果より、PA28結合-20S(スタンダンダード)プロテアソームはin vitroにてリコンビナントのプロカスパーゼ3を活性化出来るが、PA28結合-20S(免疫)プロテアソームは出来ないことが示された。
【0066】
4.PA28αβ欠損細胞抽出物にPA28αを添加するとプロテアソーム依存性に内在性のカスパーゼ3が活性化される(図4)。
PA28αβ欠損腫瘍抽出物(6μg)にPA28α、PA28β、PA28+PA28β、PA28αΔC5、PA28αΔC5+PA28β、hsp90α(それぞれ4、2、1、0.5、0.25、0μg)をEp(10μM)非存在下又は存在下にて混和し室温にて30分反応させた。その後内在性カスパーゼ3活性を特異的蛍光基質ac-DNLD-AMC(0.1mM)を用い測定した(37℃、10分毎測定)。
その結果、リコンビナントPA28αの添加、又はPA28αとPA28βの両方の添加により濃度依存性に内在性カスパーゼ3の活性化上昇が認められた。この上昇は、プロテアソーム阻害剤エポキソマイシン(Ep)を同時に入れると強く抑制された。その他のリコンビナント蛋白では活性上昇は認められなかった。(図4)。
【0067】
5.IFNγはPA28α高発現細胞の内在性カスパーゼ3活性を上昇させるが、逆にIFNγにより免疫プロテアソームが誘導された細胞はPA28αを高発現による内在性カスパーゼ3活性上昇に抵抗性を持つ(図5)。
(A)タイムテーブル:MEF3T3 Tet-off細胞にPA28αをコードするpBI-hrGFP(PA28α)を導入しドキシサイクリン(DX, 1μg/ml)存在下又は非存在下にて48時間培養しカスパーゼ3活性を測定した。同時に図5(A)に示す様にIFNγ(10ng/ml)をいくつかのポイントにて添加し、IFNγの影響を検討した。
(B)上記(A)のそれぞれのコンディションの細胞の抽出物を作製しカスパーゼ3特異的蛍光基質ac-DNLD-AMC(0.1mM)を用いカスパーゼ3活性を測定した(37℃、10分毎測定)。
その結果、PA28αの遺伝子導入から24時間後にIFNγを添加した場合に最もカスパーゼ3の活性が上昇した(24)。一方、PA28αの遺伝子導入の48時間前からIFNγを添加した場合には、カスパーゼ3の活性化は認められなかった(48)。図5(B)。
(CとD)上記(B)の細胞抽出物をnative-PAGEにて分離し、分離されたゲル内プロテアソームの酵素活性の検討を行った。蛍光基質:suc-LLVY-AMC(キモトリプシン様活性)and boc-LRR-AMC(トリプシン様活性)。
その結果、キモトリプシン様活性(LLVY)は、PA28αの発現(DX-)によって上昇するもののIFNγとの培養時間が長くなるにつれ低下した。一方、トリプシン様活性(LRR)は、PA28αの発現(DX-)によって上昇しかつIFNγとの培養時間が長くなるにつれ増加が強くなった。図5(C)。
(D)上記(C)のnative-PAGEにて分離されたゲル内プロテアソーム構成分子の検討を行った。
抗20Sα2抗体、抗X抗体、抗LMP7抗体、抗PA28α抗体を用いたウェスタンブロットを行った。
その結果、PA28αの発現とは関係なく、IFNγとの培養時間が長くなるにつれ20Sβ5(x)は減少し、20Sβ5i(LMP7)は増加した。即ち免疫プロテアソームの量がIFNγにより多くなった。図5(D)。
【0068】
6.IL-18投与により誘導される肝炎は、PA28αβ欠損(PA28KO)マウスでは起らない(図6)。
C57BL/6マウス(WILD)またはPA28αβ欠損(PA28KO)マウスの腹腔内に、リコンビナントIL-18単独またはIL-18+IFNγを投与した。投与量はIL-18の2μgを1日1回で2日間、または2日目にIFNγ 500 ngを追加投与した。IFNγの投与は、より激烈な肝炎を起こす目的で行った。3日目にマウス血清を採取し、GPT、GOTの血中濃度を常法に従って測定した。各実験群は1群5匹で行った。その結果を図6に示す。
IL-18+IFNγ投与によりC57BL/6マウス(WILD)では有意なGPT、GOTの血中上昇を認めたが、PA28KOマウスでの上昇は軽微であった。IL-18単独投与に於いても同様であった。なお、正常マウスの血中GPT、GOT濃度は45(IU/L)以下である。
この結果より、IL-18を介した肝炎誘導にPA28分子が関与している事が確認された。また、PA28の発現または機能を阻害すればIL-18誘導肝炎を抑制し得ることが、in vivoにおいて示された。
【産業上の利用可能性】
【0069】
PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを調節することによって、カスパーゼ3の活性化を調節し、それによってアポトーシスを制御することが可能となる。したがって、本発明の薬剤は、癌、脳・神経変性疾患、肝炎、心疾患、アレルギーなどの予防・治療などに有用である。
【0070】
本発明を好ましい態様を強調して説明してきたが、好ましい態様が変更され得ることは当業者にとって自明であろう。本発明は、本発明が本明細書に詳細に記載された以外の方法で実施され得ることを意図する。したがって、本発明は添付の請求の範囲の精神および範囲に包含されるすべての変更を含むものである。
本明細書中で挙げられた特許および特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、本明細書での引用により、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】図1は、IL18処理によるPA28−20Sスタンダードプロテアソームの形成誘導および内在性カスパーゼ3の活性化を示す図である。
【図2】図2は、PA28α過剰発現による内在性カスパーゼ3の活性化およびIFNγによる増強を示す図である。
【図3】図3は、PA28−20Sスタンダードプロテアソームによるプロカスパーゼ3の活性化を示す図である。
【図4】図4は、PA28αβ欠損細胞抽出物におけるPA28α依存性内在性カスパーゼ3の活性化を示す図である。
【図5】図5は、PA28−20S免疫プロテアソームによるプロカスパーゼ3活性化の抵抗性を示す図である。
【図6】図6は、正常マウス(WILD)およびPA28αβ欠損マウス(PA28KO)におけるIL18処理による血中GPTおよびGOT濃度上昇を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを調節する物質を含む、カスパーゼ3活性化調節剤。
【請求項2】
アポトーシス調節剤である、請求項1記載の剤。
【請求項3】
PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルの調節が免疫プロテアソームからの移行の調節によるものである、請求項1または2記載の剤。
【請求項4】
免疫プロテアソームがPA28−20S免疫プロテアソームである、請求項3記載の剤。
【請求項5】
PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを増加させる物質を含有する、カスパーゼ3活性化剤。
【請求項6】
アポトーシス誘導剤である、請求項5記載の剤。
【請求項7】
癌、自己免疫疾患またはウイルス感染症の予防・治療剤である、請求項5記載の剤。
【請求項8】
PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを増加させる物質がIL18またはIL13である、請求項5記載の剤。
【請求項9】
PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを減少させる物質を含有する、カスパーゼ3活性化阻害剤。
【請求項10】
アポトーシス抑制剤である、請求項9記載の剤。
【請求項11】
肝炎、エイズ、脳・神経変性疾患、心疾患、アレルギー、眼疾患または筋萎縮性疾患の予防・治療剤である、請求項9記載の剤。
【請求項12】
PA28−20Sスタンダードプロテアソームを含む、カスパーゼ3活性化剤。
【請求項13】
アポトーシス誘導剤である、請求項12記載の剤。
【請求項14】
PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを調節することによる、カスパーゼ3活性化の調節方法。
【請求項15】
アポトーシスの調節用である、請求項14記載の方法。
【請求項16】
PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルの調節が、免疫プロテアソームからの移行によるものである、請求項14または15記載の方法。
【請求項17】
免疫プロテアソームがPA28−20S免疫プロテアソームである、請求項16記載の方法。
【請求項18】
PA28発現細胞に被験物質を接触させる工程、および該物質が該細胞におけるPA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルを調節するか否かを評価する工程を含む、カスパーゼ3活性化を調節し得る物質のスクリーニング方法。
【請求項19】
アポトーシスを調節し得る物質のスクリーニング方法である、請求項18記載の方法。
【請求項20】
アポトーシス異常が関与する疾患を予防・治療し得る物質のスクリーニング方法である、請求項18記載の方法。
【請求項21】
PA28発現細胞に被験物質を接触させる工程、および該物質が該細胞におけるカスパーゼ3活性化またはアポトーシス誘導を調節するか否かを評価する工程を含む、PA28−20Sスタンダードプロテアソームのレベルおよび/または機能を調節し得る物質のスクリーニング方法。
【請求項22】
細胞をIL18および/またはIL13で刺激する工程をさらに含む、請求項18〜21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
PA28−20Sスタンダードプロテアソームおよびカスパーゼ3の基質に被験物質を接触させる工程、並びに該物質がPA28−20Sスタンダードプロテアソームによるカスパーゼ3活性化を調節するか否かを評価する工程を含む、PA28−20Sスタンダードプロテアソームの機能を調節し得る物質のスクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−189649(P2008−189649A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−106555(P2007−106555)
【出願日】平成19年4月13日(2007.4.13)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】