説明

プロトン交換膜の組成

【課題】プロトン伝導性の高いプロトン交換膜の組成を提供する。
【解決手段】プロトン交換膜の組成は、DB(分岐度)が0.5よりも大きいハイパーブランチポリマーを含む。イオン伝導性の高いポリマーが該ハイパーブランチポリマーに均一に分布される。ハイパーブランチポリマーの重量比は、プロトン交換膜の組成の固形成分含有量の5wt%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、出願日を2008年12月31日とする台湾特許出願第97151788号に基づきその優先権を主張するものであり、その全体がここに参照として組み入れられる。
【0002】
[技術分野]
本発明はプロトン交換膜の組成に関し、より詳細には高温での伝導に用いられるプロトン交換膜の組成に関する。
【背景技術】
【0003】
燃料電池はすでに周知となっており、一般に電気化学反応によって電気エネルギーを生じる電池として利用されている。従来の発電装置に比べ、燃料電池は汚染と騒音がより低く、エネルギー密度とエネルギー変換効率がより高いという長所を備える。燃料電池は、携帯用電子製品、家庭用または工場用(plant use)発電システム、運搬用車両(transportation vehicle)、軍用設備、宇宙産業の用途、大型発電システムなどへの使用が可能である。
【0004】
例として、プロトン交換膜燃料電池(PEMFC)では、アノードに供給された水素が、アノード触媒層(anode catalyst layer)の存在下で酸化反応を起こし、これによってプロトンと電子が生じる。プロトンはプロトン交換膜を通ってカソードに達する。一方カソードでは、外部回路を通りアノードから流れて来た電子が、カソードに供給される酸素およびプロトンと還元反応し、水が生成される。
【0005】
図1Aは膜電極接合体(membrane electrode assembly)を備える従来の燃料電池10の分解図を示し、図1Bは図1Aの断面図を示している。図1Aおよび1Bに示されるように、従来の燃料電池10は、触媒アノードフィルム(catalytic anode film)121と、プロトン交換膜122と、触媒カソードフィルム(catalytic cathode film)123とからなる膜電極接合体12を備えており、触媒アノードフィルム121とプロトン交換膜122とを結合させるために、および/または触媒カソードフィルム123とプロトン交換膜122とを結合させるためにバインダー組成物124を用いることができる。従来の燃料電池10は、接続に用いるバイポーラプレート13および両端の端電極プレート(end electrode plates)11をさらに備え、バイポーラプレート13および端電極プレート11は、水素と酸素を膜電極接合体12へ導くための気体通路(gas passage)111および131を有する。
【0006】
一般に、従来のプロトン交換膜燃料電池(PEMFCs)は、ナフィオン(Nafion、登録商標)ベースのプロトン交換膜を含んでいる。ナフィオンは、含水量が高い場合にのみ導電率が許容できる程度になるため、ナフィオンベースのプロトン交換膜の作動温度は90℃以下(一般には70〜80℃)となっている。
【0007】
しかしながら、プロトン交換膜燃料電池が低い温度で作動するとき、2つの重大な問題が生じる。1つ目は、白金触媒が水素ガス中に存在する微量のCOと反応し易いために触媒効率が低下するという問題である。2つ目は、水管理が困難であるという問題である。水管理の効率が悪いと、アノードが容易に乾燥し、カソードはフラッディングが生じ易くなり、酸素が触媒の表面に接触できなくなって、プロトン輸送が制限されてしまう。
【0008】
プロトン交換膜におけるプロトン伝導は、VehicularまたはGrotthuss機構のいずれかによって達成されている。
【0009】
Vehicular機構では、プロトンは水分子(HO)と共にプロトン交換膜を通って移動し、ヒドロニウムイオン(H)を形成する。よって、プロトン伝導度はプロトン交換膜の保水能(water retention ability)によって決まる。しかし、水分子は高温下で拡散する(scatter)傾向にある。硫酸水素塩を有する材料を含んだプロトン交換膜(例えばナフィオン)は、Vehicular機構によりプロトンを伝導する。
【0010】
Grotthuss機構では、水素イオン(プロトン)は、水の存在なしに、それぞれ異なるプロトン受容体サイトからホッピングすることによってプロトン交換膜を移動する。通常、Grotthuss機構に基づくプロトン交換膜は、ブレンステッド酸塩基のペア(イオン液体)を含んでなる、またはプロトン酸を過剰にドープしてなる。Grotthuss機構において、プロトン伝導率と作動温度は正比例する(特に130℃より高い温度の場合)。ポリベンゾイミダゾール(polybenzimidazole)プロトン交換膜は、Grotthuss機構に基づくプロトン交換膜の代表である。しかし、160℃で測定されるポリベンゾイミダゾールの導電率は、80℃で測定されるナフィオンの導電率よりも低い。
【0011】
全体的に見て、プロトン交換膜の高温プロトン伝導を実現するためには、高温作動時のプロトン交換膜の保水能、耐化学薬品性、柔軟性、および/または機械強度を高めることが要される。
【0012】
すでに、リン酸または硫酸がドープされた、ポリベンゾイミダゾール(PBI)を主成分として含むプロトン交換膜が開示されている。かかるPBIベースのプロトン交換膜の作動温度は150〜200℃とすること可能で、かつ160℃の温度下でそのプロトン交換膜燃料電池のCO耐性(CO tolerance)を1%まで高めることができている。しかしながら、PBIベースのプロトン交換膜は、イオン伝導率が1mS/cm(120℃にて測定)であり、浸漬した(immersed)ナフィオンベースのプロトン交換膜 (80℃で60mS/cmを測定)に比べて低い。さらに、PBIベースのプロトン交換膜の出力密度(power density)も、ナフィオンベースのプロトン交換膜に比べ劣っている。
【0013】
したがって、従来のナフィオンベースのプロトン交換膜に取って代わる膜電極接合体用の新規なプロトン交換膜が求められる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述した事情に鑑みて、本発明の目的は、プロトン交換膜の組成を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の例示的実施形態によるプロトン交換膜の組成は、ハイパーブランチポリマー(hyper-branched polymer)を含み、該ハイパーブランチポリマーのDB(分岐度、degree of branching)は0.5よりも大きい。該ハイパーブランチポリマーにイオン伝導性の高いポリマーが均一に分布される。ハイパーブランチポリマーの重量比(weight ratio)は、プロトン交換膜の組成の固形成分含有量の5wt%以上(equal to or more than)である。
【0016】
本発明の実施形態において、ハイパーブランチポリマーは、ビスマレイミド含有化合物とバルビツール酸とを重合させることにより作製されたポリマーを含む。
【発明の効果】
【0017】
本発明のプロトン交換膜の組成は、マトリックスとしてのハイパーブランチポリマー(例えばSTOBA(self-terminated oligomer with hyper-branched architecture))と、該ハイパーブランチポリマーに均一に分布されるイオン伝導性の高いポリマーと、を含み、これにより櫛状構造(comb-like structure)とプロトンチャネルを有するセミ相互侵入網目(semi interpenetrating network, semi‐IPN)構造が構成される。このため、保水能、耐化学薬品性、機械強度、耐熱性、靭性、およびプロトン伝導性に一層優れたプロトン交換膜が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1A】図1Aは膜電極接合体を備える従来の燃料電池の分解図である。
【図1B】図1Bは、図1Aに示された膜電極接合体を備える従来の燃料電池の断面図である。
【図2】本発明の実施形態によるプロトン交換膜の局部概略図である。
【図3】図2に示したプロトン交換膜を用いた本発明の実施形態による膜電極接合体の概略図である。
【図4】実施例13に開示した膜のTMA(熱機械分析装置)のスペクトルである。
【図5】実施例15に開示した燃料電池の電流に対する電圧および出力の変化をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
添付の図面を参照にしながら、以下の実施形態においてより詳細な説明を行う。
【0020】
添付の図面を参照に下記の詳細な説明および実施例を読めば、本発明をより完全に理解することができる。
【0021】
以下の記載は本発明を実施するための最良の形態である。この記載は本発明の主要な原理を説明するためのものであり、限定の意味で解されるべきではない。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲を参照に判断されなくてはならない。
【0022】
本発明は、マトリックスとしてのハイパーブランチポリマー(例えばSTOBA(self-terminated oligomer with hyper-branched architecture)と、該ハイパーブランチポリマーに均一に分布されるイオン伝導性の高いポリマーと、を含み、これによりプロトン(またはイオン)チャネルを有しかつ高機械強度を備えたセミ相互侵入網目(semi interpenetrating network, semi‐IPN)構造が構成されるプロトン交換膜を提供する。さらに、本発明のプロトン交換膜は、従来のプロトン交換膜に比してより優れた耐熱性および構造強度を有する。
【0023】
本発明のプロトン交換膜の組成は、ハイパーブランチポリマー(hyper-branched polymer)と、ハイパーブランチポリマーに均一に分布されるイオン伝導性の高いポリマーと、を含み、ハイパーブランチポリマーのDB(分岐度、degree of branching)は0.5よりも大きい。
【0024】
本発明によるハイパーブランチポリマーの分岐度(DB)は0.5よりも大きい。分岐度(DB)は、分子あたりにおける、分岐状基の平均割合(fraction)として定義される。すなわち、末端基、分岐状基、および直鎖状基(linear groups)の総数に対する、末端基及び分岐状基(branched groups)の割合である。分岐度は数学的に次のように表現される。
DB=(ΣD+ΣT)/(ΣD+ΣL+ΣT)
式中、Dは樹状ユニット(dendritic units)の数(少なくとも3つのリンケージ結合(linkage bonds)を含む)を表し、Lは直鎖状ユニットの数を表し、Tは末端ユニット(terminal units)の数を表す(Hawker, C. J.; Lee, R. Frchet, J. M. J., J. Am. Chem Soc., 1991, 113, 4583に定義)。
【0025】
本発明の実施形態において、ハイパーブランチポリマーは、例えばビスマレイミド含有化合物とバルビツール酸とを重合させることにより作製されたポリマーであるSTOBA(self-terminated oligomer with hyper-branched architecture)を含む。
【0026】
ビスマレイミド含有化合物は、置換もしくは未置換のビスマレイミドモノマー、または、置換もしくは未置換のビスマレイミドオリゴマーを含む。例えば、ビスマレイミド含有化合物は、式1、式2または式3であってよい。
【化1】

【化2】

【化3】

式中、n>1である。さらに、上述のビスマレイミド含有化合物の炭素原子に結合した少なくとも1つの水素原子は、任意でフッ素、ハロゲン原子、シアノ基、−R”、−COH、−COR”、−COR”、−R”CN、−CONH、−CONHR”、−CONR”、−OCOR”またはORで置換することができ、このうちR”は、置換または未置換の炭素数1〜12のアルキル基、チオアルキル基、アルキニルオキシ基、アルコキシ基、アルケニル基、アルキニレン基、アルケニルオキシ基、アリール基、アルキルアリール基、ヘテロアリール基、アリールアルキル基、またはこれらの組み合わせからなる群より選ばれたものであってよい。また、ビスマレイミド含有化合物は、下記式4、または式5の構造を備えていてよい。
【化4】

【化5】

【0027】
式中、Rは、−RCH−(アルキル)、−RNHR−、−C(O)CH−、−CHOCH−、−C(O)−、−O−、−O−O−、−S−、−S−S−、−S(O)−、−CHS(O)CH−、−(O)S(O)−、−C−、−CH(C)CH−、−CH(C)(O)−、フェニレン、ジフェニレン、置換フェニレンまたは置換ジフェニレンとすることができ、Rは、−RCH−、−C(O)−、−C(CH−、−O−、−O−O−、−S−、−S−S−、−(O)S(O)− または−S(O)−とすることができる。Rはそれぞれ独立に、水素または炭素数1〜4のアルキルであってよい。ビスマレイミド含有化合物は、N,N’−ビスマレイミド−4,4’−ジフェニルメタン(N,N’-bismaleimide-4,4’-diphenylmethane)、[1,1’−(メチレンジ−4,1−フェニレン)ビスマレイミド]([1,1’-(methylenedi-4,1-phenylene)bismaleimide])、[N,N’−(1,1’−ビフェニル−4,4’−ジイル)ビスマレイミド]([N,N’-(1,1’-biphenyl-4,4’-diyl) bismaleimide])、[N,N’−(4−メチル−1,3−フェニレン)ビスマレイミド]([N,N’-(4-methyl-1,3-phenylene)bismaleimide])、 [1,1’−(3,3’−ジメチル−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジイル)ビスマレイミド]([1,1’-(3,3’-dimethyl-1,1’-biphenyl-4,4’-diyl)bismaleimide])、N,N’−エチレンジマレイミド(N,N’-ethylenedimaleimide)、[N,N’−(1,2−フェニレン)ジマレイミド]([N,N’-(1,2-phenylene)dimaleimide])、[N,N’−(1,3−フェニレン)ジマレイミド]([N,N’-(1,3-phenylene)dimaleimide])、N,N’−チオジマレイミド(N,N’-thiodimaleimide)、N,N’−ジチオジマレイミド(N,N’-dithiodimaleimide)、N,N’−ケトンジマレイミド(N,N’-ketonedimaleimide)、N,N’−メチレン−ビス−マレインイミド(N,N’-methylene-bis-maleinimide)、ビス−マレインイミドメチル−エーテル(bis-maleinimidomethyl-ether)、[1,2−ビス−(マレイミド)−1,2−エタンジオール]([1,2-bis-(maleimido)-1,2-ethandiol])、N,N’−4,4’−ジフェニルエーテル−ビス−マレイミド(N,N’-4,4’-diphenylether-bis-maleimid)、および[4,4’−ビス(マレイミド)−ジフェニルスルホン]([4, 4’-bis(maleimido)-diphenylsulfone])からなる群より選ぶことができる。
【0028】
さらに、バルビツール酸は、下記式6、または式7であってよい。
【化6】

【化7】

式中、R、R、RおよびRは同じであっても、あるいは異なっていてもよく、H、CH、C、C、CH(CH、CHCH(CH、CHCHCH(CH、または下記式8とすることができる。
【化8】

【0029】
STOBA(self-terminated oligomer with hyper-branched architecture)は、開始剤および溶媒の存在下、ビスマレイミド含有化合物とバルビツール酸とを重合させることにより作製することができる。より具体的に言うと、ビスマレイミド含有化合物とバルビツール酸のモル比(ビスマレイミド含有化合物:バルビツール酸)は20:1から1:5、好ましくは5:1から1:2とすることができる。
【0030】
溶媒は、γ−ブチロラクトン(γ-butyrolactone,GBL)、1−メチル−2−ピロリジノン(1-methyl-2-pyrrolidinone,NMP)、ジメチルアセトアミド(dimethylacetamide,DMAC)、N,N−ジメチルホルムアミド(N,N-dimethylformamide,DMF)、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide,DMSO)、ジメチルアミン(dimethylamine,DMA)、テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran,THF)、メチルエチルケトン(methyl ethyl ketone,MEK)、プロピレンカーボネート(propylene carbonate,PC)、水、イソプロピルアルコール(isopropyl alcohol,IPA)、またはこれらの組み合わせとすることができる。
【0031】
本発明によれば、用いられる少なくとも1つの開始剤は、例えば過酸化物開始剤またはアゾ開始剤などの薬剤であり、かかる薬剤は、活性化(activation)により、分解することによってフリーラジカル種を生成するものであって、2,2'−アゾビス(2−シアノ−2−ブタン)(2,2'-azobis(2-cyano-2-butane))、ジメチル2,2'−アゾビス(メチルイソブチレート)(dimethyl 2,2'-azobis(methyl isobutyrate))、 4,4'−アゾビス(4−シアノペンタン酸)(4,4'-azobis(4-cyanopentanoic acid))、 4,4'−アゾビス(4−シアノペンタン−1−オール)(4,4'-azobis(4-cyanopentan-1-ol))、1,1'−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)(1,1'-azobis(cyclohexanecarbonitrile))、2−(t−ブチルアゾ)−2−シアノプロパン(2-(t-butylazo)-2-cyanopropane)、2,2'−アゾビス[2−メチル−(N)−(1,1)−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド(2,2'-azobis[2-methyl-(N)-(1,1)-bis(hydroxymethyl)-2-hydroxyethyl] propionamide)、2,2'−アゾビス[2−メチル−N−ヒドロキシエチル)] プロピオンアミド(2,2'-azobis[2-methyl-N-hydroxyethyl)] propionamide)、2,2'−アゾビス(N,N'−ジメチレンイソブチルアミジン)ジヒドロクロリド(2,2'-azobis(N,N'-dimethyleneisobutyramidine) dihydrochloride)、2,2'−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロリド(2,2'-azobis(2-amidinopropane) dihydrochloride)、2,2'−アゾビス(N,N'−ジメチレンイソブチルアミン(2,2'-azobis(N,N'-dimethyleneisobutyramine))、2,2'−アゾビス(2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド(2,2'-azobis(2-methyl-N-[1,1-bis(hydroxymethyl)-2-hydroxyethyl] propionamide)、2,2'−アゾビス(2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)エチル]プロピオンアミド)(2,2'-azobis(2-methyl-N-[1,1-bis(hydroxymethyl)ethyl]propionamide))、2,2'−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド](2,2'-azobis[2-methyl-N-(2-hydroxyethyl)propionamide])、2,2'−アゾビス(イソブチルアミド)二水和物(2,2'-azobis(isobutyramide)dihydrate)、2,2'−アゾビス(2,2,4−トリメチルペンタン)(2,2'-azobis(2,2,4-trimethylpentane))、2,2'−アゾビス(2−メチルプロパン)(2,2'-azobis(2-methylpropane))、ジラウロイルパーオキサイド(dilauroyl peroxide)、ターシャリーアミルパーオキサイド(tertiary amyl peroxides)、ターシャリーアミルパーオキシジカーボネート(tertiary amyl peroxydicarbonates)、t−ブチルパーオキシアセテート(t-butyl peroxyacetate)、t−ブチルパーオキシベンゾエート(t-butyl peroxybenzoate)、t−ブチルパーオキシオクトエート(t-butyl peroxyoctoate)、t−ブチルパーオキシネオデカノエート(t-butyl peroxyneodecanoate)、t−ブチルパーオキシイソブチレート(t-butylperoxy isobutyrate)、t−アミルパーオキシピバレート(t-amyl peroxypivalate)、t−ブチルパーオキシピバレート(t-butyl peroxypivalate)、ジ−イソプロピルパーオキシジカーボネート(di-isopropyl peroxydicarbonate)、ジシクロヘキシルパーオキシジカーボネート(dicyclohexyl peroxydicarbonate)、ジクミルパーオキサイド(dicumyl peroxide)、ジベンゾイルパーオキサイド(dibenzoyl peroxide)、パーオキシ二硫酸カリウム(potassium peroxydisulfate)、パーオキシ二硫酸アンモニウム(ammonium peroxydisulfate)、ジ−tert−ブチルパーオキサイド(di-tert-butyl peroxide)、次亜硝酸ジ−t−ブチル(di-t-butyl hyponitrite)、次亜硝酸ジクミル(dicumyl hyponitrite)、またはこれらの組み合わせとすることができる。
【0032】
本発明の実施形態では、イオン伝導性の高いポリマーは、ナフィオン(登録商標、パーフルオロスルホン酸とテトラフルオロエチレンとの共重合体)、スルホン化ポリ(エーテルエーテルケトン)(sulfonated poly(ether ether ketone), s−PEEK)、スルホン化ポリイミド(sulfonated polyimides, s−PI)、 リン酸/ポリベンゾイミダゾールポリマー(phosphoric acid/polybenzimidazole polymer, p−PBI)、スルホン化ポリ(フェニレンオキシド)(sulfonated poly(phenylene oxide), s−PPO)、スルホン化ポリ(アリーレンエーテルスルホン)(sulfonated poly(arylene ether sulfone), s−PES)、スルホン化ポリ(4−フェノキシベンゾイル−1,4−フェニレン(sulfonated poly(4- phenoxybenzoyl-1,4-phenylene) , s−PPBP)、またはこれらの組み合わせとすることができる。
【0033】
本発明の実施形態において、本発明のプロトン交換膜を作製する方法は、ハイパーブランチポリマーおよびイオン導電性の高いポリマーを溶媒に溶解してプロトン交換膜の組成を作る工程、 ならびに、その組成を基板上に塗布してプロトン交換膜を形成する工程を含み得る。該溶媒は、γ−ブチロラクトン(γ-butyrolactone, GBL)、1−メチル−2−ピロリジノン(1-methyl-2-pyrrolidinone, NMP)、ジメチルアセトアミド(dimethylacetamide, DMAC)、N,N−ジメチルホルムアミド(N,N-dimethylformamide, DMF)、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide, DMSO)、ジメチルアミン(dimethylamine ,DMA)、テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran,THF)、メチルエチルケトン(methyl ethyl ketone, MEK)、プロピレンカーボネート(propylene carbonate, PC)、水、イソプロピルアルコール(isopropyl alcohol, IPA)、またはこれらの組み合わせとすることができる。
【0034】
なお、ハイパーブランチポリマーの重量比(weight ratio)が、プロトン交換膜の組成の固形成分含有量の5wt%以上(equal to or more than)とする点に注目されたい。さらに、ハイパーブランチポリマーの重量比を、プロトン交換膜の組成の固形成分含有量の1〜30wt%、好ましくは5〜25wt%とすることができる。プロトン交換膜の組成は、例えば白金、ルテニウム、または白金−ルテニウム合金などの触媒をさらに含んでいてもよい。
【0035】
図2は、ハイパーブランチポリマー(例えばSTOBA)およびイオン導電性の高いポリマー(例えばs−PEEK)内における水分子とプロトンの伝導機構を説明するプロトン交換膜の局部概略図であり、s−PEEKの鎖長は20Åであり、ハイパーブランチポリマーは、分子量が9000から12000のビスマレイミド部分(bismaleimide moiety)を含む。特に、上記プロトン交換膜の組成から作製されるプロトン交換膜は、作動温度が25℃から150℃となる。
【0036】
さらに、図3を参照されたい。本発明の実施形態の膜電極接合体200は、図2に示したごとくのプロトン交換膜202を含んでいる。膜電極接合体200は、触媒アノード(catalytic anode)201および触媒カソード(catalytic cathode)203をさらに含み、プロトン交換膜202は触媒アノード201と触媒カソード203との間に配置される。
【0037】
図3に示されるように、触媒アノード201に供給された水素ガス204が、炭素質材料207上に付着した触媒208と反応してプロトン211が生成される。その反応式は次のとおりである。
→ 2H + 2e
【0038】
そして、触媒カソード203から入って来る酸素ガス205は、プロトン交換膜202のプロトン211および電子212とプロトン交換膜接触領域230にて反応し、水206が生成される。その反応式は次のとおりである。
1/2O + 2H + 2e→ H
【0039】
したがって、本発明は、マトリックスとしてのハイパーブランチポリマー(例えばSTOBA(self-terminated oligomer with hyper-branched architecture))と、該ハイパーブランチポリマーに均一に分布されるイオン伝導性の高いポリマーと、を含み、これにより櫛状構造(comb-like structure)とプロトンチャネルを有するセミ相互侵入網目(semi interpenetrating network, semi‐IPN)構造が構成されて、保水能、耐化学薬品性、機械強度、耐熱性、靭性、およびプロトン伝導性が備わると共に、酸の浸出が回避されるプロトン交換膜を提供する。
【0040】
当業者には多くの修飾および変更が明らかであろうことより、以下の実施例は本発明の範囲を限定することなく本発明をより十分に説明することを意図している。
【実施例】
【0041】
ハイパーブランチポリマーの作製
【0042】
実施例1
4,4’−ビスマレイミドジ−フェニルメタン(4,4’-bismaleimidodi-phenylmethane)18.6668gを、溶媒であるγ−ブチロラクトン(GBL)50ml中に溶解し、130℃に加熱して、ビスマレイミドモノマーが完全に溶解するまで攪拌した。次に、2,4,6−トリオキソヘキサヒドロピリミジン(2,4,6-trioxohexahydropyrimidine)(バルビツール酸)1.3341gをγ−ブチロラクトン(GBL)30ml中に溶解してから、8等分し、4,4’−ビスマレイミドジ−フェニルメタン/γ−ブチロラクトンにバッチ方式で30分間隔で加え入れ、攪拌してビスマレイミド重合反応を進行させた。バルビツール酸のバッチの添加が完了した後、引き続き4時間重合反応を進行させ、ハイパーブランチポリマー(A)を得た。ビスマレイミドとバルビツール酸のモル比は5:1、固形成分含有量は20wt%であった。
【0043】
実施例2
4,4’−ビスマレイミドジ−フェニルメタン(4,4’-bismaleimidodi-phenylmethane)20.0002gを、溶媒であるγ−ブチロラクトン(GBL)62ml中に溶解し、130℃に加熱して、ビスマレイミドモノマーが完全に溶解するまで攪拌した。次に、2,4,6−トリオキソヘキサヒドロピリミジン(2,4,6-trioxohexahydropyrimidine)(バルビツール酸)3.5752gをγ−ブチロラクトン(GBL)32ml中に溶解してから、4等分し、4,4’−ビスマレイミドジ−フェニルメタン/γ−ブチロラクトンにバッチ方式で60分間隔で加え入れ、攪拌してビスマレイミド重合反応を進行させた。バルビツール酸のバッチの添加が完了した後、引き続き4時間重合反応を進行させ、ハイパーブランチポリマー(B)を得た。ビスマレイミドとバルビツール酸のモル比は2:1、固形成分含有量は20wt%であった。
【0044】
実施例3
4,4’−ビスマレイミドジ−フェニルメタン(4,4’-bismaleimidodi-phenylmethane)17.8712gを、溶媒であるγ−ブチロラクトン(GBL)50ml中に溶解し、130℃に加熱して、ビスマレイミドモノマーが完全に溶解するまで攪拌した。次に、2,4,6−トリオキソヘキサヒドロピリミジン(2,4,6-trioxohexahydropyrimidine)(バルビツール酸)6.9090gをγ−ブチロラクトン(GBL)30ml中に溶解してから、8等分し、4,4’−ビスマレイミドジ−フェニルメタン/γ−ブチロラクトンにバッチ方式で30分間隔で加え入れ、攪拌してビスマレイミド重合反応を進行させた。バルビツール酸のバッチの添加が完了した後、引き続き4時間重合反応を進行させ、ハイパーブランチポリマー(C)を得た。ビスマレイミドとバルビツール酸のモル比は1:1、固形成分含有量は20wt%であった。
【0045】
実施例4
4,4’−ビスマレイミドジ−フェニルメタン(4,4’-bismaleimidodi-phenylmethane)19.9991gを、溶媒であるプロピレンカーボネート(PC)62ml中に溶解し、130℃に加熱して、ビスマレイミドモノマーが完全に溶解するまで攪拌した。次に、2,4,6−トリオキソヘキサヒドロピリミジン(2,4,6-trioxohexahydropyrimidine)(バルビツール酸)3.5757gをプロピレンカーボネート(PC)32ml中に溶解してから、4等分し、4,4’−ビスマレイミドジ−フェニルメタン/プロピレンカーボネートにバッチ方式で60分間隔で加え入れ、攪拌してビスマレイミド重合反応を進行させた。バルビツール酸のバッチの添加が完了した後、引き続き4時間重合反応を進行させ、ハイパーブランチポリマー(D)を得た。ビスマレイミドとバルビツール酸のモル比は2:1、固形成分含有量は20wt%であった。
【0046】
実施例5
4,4’−ビスマレイミドジ−フェニルメタン(4,4’-bismaleimidodi-phenylmethane)19.9997gを、溶媒であるプロピレンカーボネート(PC)72ml中に溶解し、130℃に加熱して、ビスマレイミドモノマーが完全に溶解するまで攪拌した。次に、2,4,6−トリオキソヘキサヒドロピリミジン(2,4,6-trioxohexahydropyrimidine)(バルビツール酸)7.1498gをγ−ブチロラクトン(GBL)36ml中に溶解してから、8等分し、4,4’−ビスマレイミドジ−フェニルメタン/プロピレンカーボネートにバッチ方式で30分間隔で加え入れ、攪拌してビスマレイミド重合反応を進行させた。バルビツール酸のバッチの添加が完了した後、引き続き4時間重合反応を進行させ、ハイパーブランチポリマー(E)を得た。ビスマレイミドとバルビツール酸のモル比は1:1、固形成分含有量は20wt%であった。
【0047】
イオン伝導性の高いポリマーの作製
【0048】
実施例6
スルホン化ポリ(エーテルエーテルケトン)(Sulfonated poly(ether ether ketone))
Vitrex PF 450(ポリ(エーテルエーテルケトン)の粉末)をオーブンに入れ、110℃で2時間ベークした。ベークしたVitrex PF 450を丸底フラスコに入れ、水浴に浸しながらそのフラスコに濃硫酸(95から98%)を少しずつ注ぎ入れた。Vitrex PF 450と硫酸の重量比は1:10とした。そして回転速度9rpmで機械的に攪拌し、45℃に加熱し、窒素を導入して反応させた。反応時間は7時間とした。反応時間が終了したら、その溶液を攪拌しながら氷水中に注ぎ入れ、s−PEEK沈殿物を作った。そして、そのs−PEEK沈殿物を脱イオン水で洗浄してpH>6の溶液を得た。得られたs−PEEKを80℃にセットしたオーブンに入れ、その後110℃に昇温し、2時間真空にして水分をほぼ除去した後、黄色い固体としてのs−PEEK (スルホン化63%) を得た。上記反応の合成式は下記式9のように示される。
【化9】

【0049】
得られたs−PEEKを溶媒、例えばNMP中にさらに溶解した。
【0050】
本発明の実施形態によれば、s−PEEKのスルホン化は50〜70%の範囲であるのが好ましい。s−PEEKのスルホン化が50%よりも低いと、s−PEEKの導電率が劣るものとなる場合がある。一方、s−PEEKのスルホン化が70%よりも高いと、s−PEEKは溶融温度(fusing temperatures)で溶融し易くなる。
【0051】
実施例7
スルホン化ポリイミド
m−クレゾ−ル280gおよび4,4'−ジメチル−2,2'−ビフェニルジスルホン酸(4,4'-Dimethyl-2,2'-biphenyldisulfonic acid)7.29g(0.02mole)を反応瓶中に入れた。次いで、その瓶にトリエチルアミン5.35g(0.053mole)を加えて90℃に加熱した。攪拌後、その混合物を30℃まで冷却してから、その瓶に、1,4,5,8−ナフタレンテトラ−カルボン酸二無水物(1,4,5,8-Naphthalene tetra-carboxylic dianhydride)10.5g (0.039mol)、4,4'−ビス(4−アミノ−フェノキシ)ビフェニル(4,4’-bis(4-amino-phenoxy) biphenyl)7.21g (0.020mol)、および安息香酸6.79g (0.056mole)を加えた。そして80℃に加熱し3時間反応させた後、その混合物を180℃まで加熱して20時間反応させた。その粘度は加熱温度と正比例を呈した。室温まで冷却した後、高粘度の赤色の溶液であるスルホン化ポリイミド(SPI−MCL−1)を得た(スルホン化50%)。上記反応の合成式は下記式10のように示される。
【化10】

【0052】
プロトン交換膜の作製
【0053】
比較例1
s−PEEKプロトン交換膜
実施例6に開示したs−PEEKを、NMP溶媒の入った血清瓶(serum bottle)に入れた。その血清瓶を80℃の油浴に移し、攪拌してs−PEEKをNMP溶媒中に溶解し、固形成分含有量10重量%の溶液を作った。そのs−PEEK溶液を、400μmのギャップ(gap)を有するスクレーパーを用い、塗布速度17.8cm/分でガラス基板上に塗布してから、それを60℃にセットしたオーブンに入れてベークし、膜(membrane)にした。成膜させた後、温度を110℃まで上げ、真空にして残留している溶媒を除去した。最後に、作製されたs−PEEK膜を60℃の0.5M硫酸中に1時間浸し、その後、60℃の脱イオン水に移してpH>6の水溶液を得た。得られた黄色がかった透明のs−PEEK膜の厚さは25から35μmであった。
【0054】
実施例8
s−PEEK−STOBAプロトン交換膜
実施例1〜5に示したSTOBAを、表1に示すモル比で、実施例6に開示したs−PEEK−NMP(固形成分含有量20%)とそれぞれ混合し、黄色がかった透明のs−PEEK−STOBA溶液を得た。
【0055】
【表1】

【0056】
表1に示したs−PEEK−STOBA溶液を、400μmのギャップを有するスクレーパーを用い、塗布速度17.8cm/分でガラス基板上に塗布してから、それを60℃にセットしたオーブンに入れて45分間ベークし、膜にした。成膜させた後、温度を110℃まで上げ、真空にして残留している溶媒を除去した。最後に、作製されたs−PEEK−STOBA膜を60℃の0.5M硫酸中に1時間浸し、その後、80〜90℃の脱イオン水に移してpH>6の水溶液を得た。得られた黄色がかった透明のs−PEEK−STOBA膜の厚さは25から35μmであった。
【0057】
比較例2
s−PIプロトン交換膜
実施例7に開示したSPI−MCL−1溶液を、400μmのギャップを有するスクレーパーを用い、塗布速度17.8cm/分でガラス基板上に塗布してから、それを60℃にセットしたオーブンに入れて45分間ベークし、膜にした。成膜させた後、温度を110℃まで上げ、真空にして残留している溶媒を除去した。最後に、作製されたs−PI膜を60℃の0.5M硫酸中に1時間浸し、その後、60℃の脱イオン水に移してpH>6の水溶液を得た。そして24時間ベークした後、厚さ20から25μmの褐色の透明なs−PI膜を得た。
【0058】
実施例9
s−PI−STOBAプロトン交換膜
実施例1〜5に開示したSTOBAを、表2に示すモル比で、実施例7に開示したSPI−MCL−1とそれぞれ混合し、褐色の不透明なs−PI−STOBA溶液を得た。
【0059】
【表2】

【0060】
表2に示したs−PI−STOBA溶液を、400μmのギャップを有するスクレーパーを用い、塗布速度17.8cm/分でガラス基板上に塗布してから、それを60℃にセットしたオーブンに入れて45分間ベークし、膜にした。成膜させた後、温度を110℃まで上げ、真空にして残留している溶媒を除去した。最後に、作製されたs−PI−STOBA膜を60℃の0.5M硫酸中に1時間浸し、その後、80〜90℃の脱イオン水に移してpH>6の水溶液を得た。そして24時間ベークした後、厚さ20から25μmの褐色の透明なs−PI−STOBA膜を得た。
【0061】
プロトン交換膜の特性測定
【0062】
実施例10
導電性
ナフィオン112、比較例1に示したs−PEEK膜、実施例8に開示したs−PEEK−STOBAプロトン交換膜(10) 、比較例2に示したs−PI膜、および実施例9に開示したs−PI−STOBAプロトン交換膜(10) の導電率を、インプレーンフィールドパルス(IN-PLANE field pulses)によりそれぞれ測定した。その結果が表3に示してある。
【0063】
【表3】

【0064】
表3に示されるように、s−PEEK−STOBAプロトン交換膜とs−PI−STOBAプロトン交換膜は、STOBAの添加によって、s−PEEKまたはs−PI膜に比べて優れた導電性を示した。
【0065】
実施例11
s−PEEK−STOBAの保水能(water retention ability)
実施例8に開示したs−PEEK−STOBAプロトン交換膜(10)をTGA(Thermo Gravimetric Analysis、熱重量分析)により測定した。スルホン酸基(sulfonic groups)、STOBA部分(moieties)、PEEK部分(moieties)およびBMI部分(moieties)の保水に対する寄与度(water retention contributions)(単位重量当たり)は表4に示すとおりである。
【0066】
【表4】

【0067】
なお、100℃以下で測定された保水に対する寄与度を遊離水の重量として定義し、100℃から200℃で測定された保水に対する寄与度を結合水の重量として定義している点に留意されたい。
【0068】
表4に示されるように、STOBAと水との間の分子内水素結合の形成により、STOBAは、−SOH、PEEKおよびBMI(ビスマレイミドモノマー)に比して優れた保水能を示した。
【0069】
実施例12
機械強度の測定
ナフィオン112、比較例1に示したs−PEEK膜、実施例8に開示したs−PEEK−STOBAプロトン交換膜(10) 、比較例2に示したs−PI膜、および実施例9に開示したs−PI−STOBAプロトン交換膜(10)の引張強度(tensile strength)および伸長度(extension)を測定した。その結果が表5に示してある。
【0070】
【表5】

【0071】
表5に示されるように、s−PEEK−STOBAプロトン交換膜およびs−PI−STOBAプロトン交換膜は、STOBAを添加したことにより、s−PEEKまたはs−PIよりも優れた引張強度および伸長度を示した。さらに、STOBAを含むプロトン交換膜は、引張強度がナフィオン112膜の2倍であった。
【0072】
実施例13
寸法変化(dimensional change)の測定
ナフィオン112、比較例1に示したs−PEEK膜、実施例8に開示したs−PEEK−STOBAプロトン交換膜(10) 、比較例2に示したs−PI膜、および実施例9に開示したs−PI−STOBAプロトン交換膜(10)を、沸騰水(100℃)中に90分間浸した。冷却後、その寸法変化を測定した。その結果が表6に示してある。
【0073】
【表6】

【0074】
なお、ΔLは長さの寸法変化を表し、ΔWは幅の寸法変化を表し、ΔTは厚さの寸法変化を表している。
【0075】
表6に示されるように、s−PEEKプロトン交換膜およびs−PIプロトン交換膜は、より優れた寸法安定性を示し、かつ、s−PIまたはs−PEEKの有する脆化の問題を克服することができていた。さらに、本発明のSTOBAを含むプロトン交換膜は、沸騰水(100℃)に90分間浸した後でも、膨張(swelling)が最小限に抑えられていた。
【0076】
次に、熱機械分析装置(TMA)(引張荷重0.5N)を用い、ナフィオン112、比較例1に示したs−PEEK膜、実施例8に開示したs−PEEK−STOBAプロトン交換膜(10) 、比較例2に示したs−PI膜、および実施例9に開示したs−PI−STOBAプロトン交換膜(10)を測定した。その結果が図4に示されている。測定結果より、ナフィオン112は、80℃以上になると寸法安定性が低下した。これとは逆に、本発明のSTOBAを含むプロトン交換膜は高温で優れた寸法安定性を示した。
【0077】
実施例14
保水能の測定
ナフィオン117、比較例1に示したs−PEEK膜、および実施例8に開示したs−PEEK−STOBAプロトン交換膜(10)を60℃で6時間、次いで25℃で10分間水中に浸した。そして乾燥させた後、その寸法変化をジャンプ−等温TGA(jump-isothermal TGA)により測定した。その結果が表7に示してある。
【0078】
【表7】

【0079】
このように、本発明のSTOBAを含むプロトン交換膜は、ナフィオン117よりも優れた保水能を示した。さらに、STOBAによって、s−PEEKから硫酸水素基(hydrogen sulfate groups)が溶出するのが阻止された。
【0080】
実施例15
膜電極接合体燃料電池(Membrane electrode assembly fuel cell)
実施例9に開示したs−PI−STOBAプロトン交換膜(10)をプロトン交換膜として含む膜電極接合体、および一対の電極(Pt/XC-72(0.4mg/cm2)を触媒として含むE-TEK Carbon Cloth)を準備した。上記膜電極接合体を用いた燃料電池の電圧および出力を、それぞれ異なる電流にて測定した。その結果が図5に示されている。
【0081】
測定の結果から、本発明の組成より作製されたプロトン交換膜(STOBAとs−PEEK、またはSTOBAとs−PI)は、従来のs−PEEKまたはs−PI膜に比べて高い保水能および機械強度を示したことがわかった。さらに、本発明のプロトン交換膜は、その主成分であるSTOBAのために、沸騰水中に浸したときに優れた寸法安定性を示した。よって、本発明のプロトン交換膜は、100℃および100%RHにさらされたときでも、膨張および脆性が最小限に抑えられた。
【0082】
また、従来のナフィオン112と比較して、本発明のプロトン交換膜は保水能および機械強度がより高く、かつ軟化または脆化もしなかった。本発明のプロトン交換膜の25℃での導電率はナフィオンフィルムに近い1×10−2〜5×10−2S/cmであり、さらに120℃での導電率は1×10−1〜5×10−1S/cmであった。
【0083】
以上、実施例および好適な実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はこれらに限定はされないと解されるべきである。本発明は、(当業者には明らかであるように) 各種の変更および類似のアレンジが包含されるべく意図されている。よって、添付の特許請求の範囲は、かかる変更および類似のアレンジがすべて包含されるように、最も広い意味に解釈されなければならない。
【符号の説明】
【0084】
10 従来の燃料電池
11 端電極プレート
111 気体通路
12 膜電極接合体
121 触媒アノードフィルム
122 プロトン交換膜
123 触媒カソードフィルム
13 バイポーラプレート
131 気体通路
200 膜電極接合体
201 触媒アノード
202 プロトン交換膜
203 触媒カソード
204 水素ガス
205 酸素ガス
206 水
207 炭素質材料
208 触媒
211 プロトン
212 電子
230 プロトン交換膜接触領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
DB(分岐度、degree of branching)が0.5よりも大きいハイパーブランチポリマー(hyper-branched polymer)と、
前記ハイパーブランチポリマーに均一に分布されたイオン伝導性の高いポリマーと、
を含むプロトン交換膜の組成であって、
前記ハイパーブランチポリマーの重量比が、前記プロトン交換膜の組成の固形成分含有量の5wt%以上(equal to or more than)であるプロトン交換膜の組成。
【請求項2】
前記ハイパーブランチポリマーが、ビスマレイミド含有化合物とバルビツール酸とを重合させることにより作製されるポリマーを含む請求項1に記載のプロトン交換膜の組成。
【請求項3】
前記ビスマレイミド含有化合物とバルビツール酸のモル比が20:1から1:5である請求項2に記載のプロトン交換膜の組成。
【請求項4】
前記ビスマレイミド含有化合物とバルビツール酸のモル比が5:1から1:2である請求項2に記載のプロトン交換膜の組成。
【請求項5】
前記ビスマレイミド含有化合物が、置換もしくは未置換のビスマレイミドモノマー、または、置換もしくは未置換のビスマレイミドオリゴマーを含む請求項2〜4のいずれかに記載のプロトン交換膜の組成。
【請求項6】
前記ビスマレイミド含有化合物が、下記式1、式2、または式3を含む(式中n>1である)請求項2〜5のいずれかに記載のプロトン交換膜の組成。
【化11】

【化12】

【化13】

【請求項7】
前記ハイパーブランチポリマーの重量比が、前記プロトン交換膜の組成の固形成分含有量の1〜30wt%である請求項1〜6のいずれかに記載のプロトン交換膜の組成。
【請求項8】
前記ハイパーブランチポリマーの重量比が、前記プロトン交換膜の組成の固形成分含有量の5〜25wt%である請求項1〜6のいずれかに記載のプロトン交換膜の組成。
【請求項9】
前記イオン伝導性の高いポリマーが、ナフィオン、スルホン化ポリ(エーテルエーテルケトン)(sulfonated poly(ether ether ketone), s−PEEK)、スルホン化ポリイミド(sulfonated polyimides, s−PI)、 リン酸/ポリベンゾイミダゾールポリマー(phosphoric acid/polybenzimidazole polymer, p−PBI)、スルホン化ポリ(フェニレンオキシド)(sulfonated poly(phenylene oxide), s−PPO)、スルホン化ポリ(アリーレンエーテルスルホン)(sulfonated poly(arylene ether sulfone), s−PES)、またはスルホン化ポリ(4−フェノキシベンゾイル−1,4−フェニレン(sulfonated poly(4-phenoxybenzoyl-1,4-phenylene), s−PPBP)を含む請求項1〜8のいずれかに記載のプロトン交換膜の組成。
【請求項10】
触媒をさらに含む請求項1〜9のいずれかに記載のプロトン交換膜の組成。
【請求項11】
前記触媒が、白金、ルテニウム、または白金−ルテニウム合金を含む請求項10に記載のプロトン交換膜の組成。
【請求項12】
前記プロトン交換膜の組成より作られるプロトン交換膜の作動温度(operating temperature)が25℃から150℃である請求項1〜11のいずれかに記載のプロトン交換膜の組成。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−155991(P2010−155991A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293948(P2009−293948)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(390023582)財団法人工業技術研究院 (524)
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIAL TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE
【住所又は居所原語表記】195 Chung Hsing Rd.,Sec.4,Chutung,Hsin−Chu,Taiwan R.O.C
【Fターム(参考)】