説明

ヘパラナーゼ活性阻害剤並びにそれを含有するしわ改善剤及び医薬組成物

【課題】ヘパラナーゼ活性を効率的に阻害し得るヘパラナーゼ活性阻害剤を提供する。
【解決手段】下記式(I)で示される桂皮酸誘導体


(式中、R1、R2及びR3は各々独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルコキシ基、又はハロゲン原子を表し、R4は、炭素数1〜6のアルキル基で置換されていてもよい複素環、又は、炭素数1〜6のアルキル基で置換されていてもよい複素環で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基を表す。)を活性成分として含んでなるヘパラナーゼ活性阻害剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、桂皮酸誘導体を活性成分とするヘパラナーゼ活性阻害剤と、かかるヘパラナーゼ活性阻害剤を用いたしわ改善剤及び医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘパラナーゼは、種々のヘパラン硫酸プロテオグリカンのヘパラン硫酸鎖を特異的に分解する酵素であり、血小板、白血球、内皮細胞、平滑筋細胞等の種々の細胞に存在する。特に皮膚では、表皮を構成する表皮角化細胞や、真皮の線維芽細胞及び血管内皮細胞等において産生される。また、各種癌細胞でも産生が高まっていることが知られている。
【0003】
ヘパラナーゼの分解基質であるヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)は、種々の動物組織の細胞表面や細胞外マトリックスに存在する高分子であり、ヘパラン硫酸結合性の増殖因子(bFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)、HGF(肝細胞増殖因子)、VEGF(血管内皮細胞増殖因子)、HB−EGF(ヘパリン結合EGF様増殖因子)等)を細胞外に蓄積させる等の働きを有することが知られている。
【0004】
表皮と真皮との境界部に存在する表皮基底膜には、ヘパラン硫酸プロテオグリカンの1種であるパールカンが存在し、ヘパラン硫酸結合性増殖因子を表皮基底膜に結合させることによって、表皮と真皮との間の増殖因子の移動を制御している。また、パールカンは、基底膜に結合する表皮基底細胞に対する増殖因子の作用も制御しており、表皮の良好な増殖・分化に必須であることが明らかにされている。従って、ヘパラナーゼの活性化又は発現亢進によるパールカンのヘパラン硫酸鎖の分解は、蓄積された増殖因子の放出及び表皮と真皮との間の増殖因子の制御を崩壊させ、表皮の分化・増殖制御の破綻及び真皮の肥厚を生じさせて、しわの形成を促進させる(PCT/JP2009/056717参照)。換言すれば、ヘパラナーゼ活性を阻害すれば、ヘパラン硫酸の分解に伴う増殖因子の遊離が抑制されるので、表皮と真皮との間の増殖因子の移動を制御することが可能となり、ひいては皮膚の抗老化に役立つと考えられる。
【0005】
また、ヘパラナーゼは、癌の悪性度との関連も示唆されている。特に、ヘパラナーゼの産生が高い癌細胞は増殖性や転移性が高く、血管新生の誘導能も高いことが知られている(非特許文献1)。更には、ヘパラナーゼが創傷治癒を促進する作用を有することも知られている(非特許文献2)。従って、ヘパラナーゼ活性を効果的に阻害することができれば、癌細胞の増殖又は転移の抑制、血管新生の抑制等の用途にも有効である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Vlodavsky I., et al., Semin Cancer Biol., 2002;12(2):121-129
【非特許文献2】Zcharia E., et al., FASEB J. 2005 Feb;19(2):211-21
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上の背景から、ヘパラナーゼ活性を効率的に阻害し得る物質が求められていた。
本発明は上記課題に鑑みてなされたもので、ヘパラナーゼ活性を効率的に阻害し得るヘパラナーゼ活性阻害剤と、斯かるヘパラナーゼ活性阻害剤を用いたしわ改善剤及び医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は鋭意検討の結果、所定の桂皮酸誘導体がヘパラナーゼ活性を効率的に阻害することを見出した。
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)下記式(I)で示される桂皮酸誘導体
【化1】

(式中、
1、R2及びR3は各々独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルコキシ基、又はハロゲン原子を表し、
4は、炭素数1〜6のアルキル基で置換されていてもよい複素環、又は、炭素数1〜6のアルキル基で置換されていてもよい複素環で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基を表す。)
を活性成分として含んでなるヘパラナーゼ活性阻害剤。
(2)式(I)中、R1、R2及びR3が各々独立に、水素原子又はメトキシ基である、(1)のヘパラナーゼ活性阻害剤。
(3)式(I)中、R4が、メチルイソオキサゾール基又はピリジルメチル基である、(1)又は(2)のヘパラナーゼ活性阻害剤。
(4)式(I)の桂皮酸誘導体が、(E)−N−(5−メチルイソオキサゾール−3−イル)−3−(3,4,5−トリメトキシフェニル)アクリルアミド又は(E)−3−(2−クロロフェニル)−N−(ピリジン−3−イルメチル)アクリルアミドである、(1)〜(3)のヘパラナーゼ活性阻害剤。
(5)ヘパラナーゼ活性に関連する状態又は症状を治療、改善又は予防するための医薬組成物であって、(1)〜(4)のヘパラナーゼ活性阻害剤を有効成分として含んでなる医薬組成物。
(6)創傷治癒、癌細胞の増殖若しくは転移の抑制、又は血管新生の抑制に用いられる、(5)の医薬組成物。
(7)しわの形成を予防又は抑制するしわ改善剤であって、(1)〜(4)のヘパラナーゼ活性阻害剤を有効成分として含んでなるしわ改善剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明のヘパラナーゼ活性阻害剤は、ヘパラナーゼ活性を効率的に阻害し得ることから、例えばしわ改善剤の有効成分として、しわ(特に大じわ)の形成の予防又は抑制等に、或いは、医薬組成物の有効成分として、ヘパラナーゼ活性に関連する状態又は症状の治療、改善又は予防等に、好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は正常ヒト角化細胞の紫外線照射及び未照射条件下におけるヘパラナーゼ活性の差異を表すグラフである。
【図2】図2は正常ヒト臀部組織の紫外線照射部位及び未照射部位におけるヘパラナーゼ及びヘパラン硫酸の免疫染色画像である。
【図3】図3(a),(b)は何れも擬似皮膚モデルを表す模式図である。図3(a)は基底膜シートにヘパラン硫酸を含まない「ヘパラン硫酸分解モデル」(ヘパラン硫酸(−))を表し、図3(b)は基底膜シートにヘパラン硫酸を含まない「正常モデル」(ヘパラン硫酸(+))を表す。
【図4】図3(a),(b)の擬似皮膚モデルを用いたVEGFの透過性の評価結果を表すグラフである。
【図5】図3(a),(b)の擬似皮膚モデルを用いた血管新生の評価結果を表す写真である。
【図6】図5の写真における血管面積の解析結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者は、ヘパラナーゼ活性を効率的に阻害し得る物質を探索すべく、ヘパラナーゼ活性の阻害度を指標として、種々の化合物についてスクリーニングを行った結果、ヘパラナーゼ活性を有意に抑制する特定の桂皮酸誘導体を見出し、本発明に到達した。
桂皮酸誘導体がヘパラナーゼ活性の阻害作用を示すことは、従来全く知られていない。桂皮酸誘導体がヒアルロニダーゼ阻害効果(特開2007−161632号公報)、メイラード反応阻害剤(特開2003−212774号公報)、美白化粧料(特開平5−105643号及び特開平5−105620号各公報)、紫外線吸収剤(特開平5−246949号、特開2006−131855号、特開2006−131603号、特開2008−7443号及び特開2008−7444号各公報)を有することは知られているが、ヘパラナーゼ活性を阻害する効果については新規である。
【0012】
即ち、本発明のヘパラナーゼ活性阻害剤は、下記式(I)で示される桂皮酸誘導体を活性成分として含んでなる。
【化2】

【0013】
式中、R1、R2及びR3は各々独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルコキシ基、又はハロゲン原子を表す。炭素数1〜6のアルコキシ基の例としてはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等が挙げられる。ハロゲン原子の例としてはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。中でも、R1、R2及びR3としては、各々独立に、水素原子又は炭素数1〜6のアルコキシ基であることが好ましく、水素原子又はメトキシ基であることが好ましい。
【0014】
4は、炭素数1〜6のアルキル基で置換されていてもよい複素環、又は、炭素数1〜6のアルキル基を表す。アルキル基は無置換でもよく、炭素数1〜6のアルキル基で置換されていてもよい複素環により置換されていてもよい。複素環の例としてはピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、ピラゾール、イソオキサゾール、イソチアゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン等が挙げられる。中でもR4としては、メチルイソオキサゾール基又はピリジルメチル基が好ましい。
【0015】
式(I)の桂皮酸誘導体としては、(E)−N−(5−メチルイソオキサゾール−3−イル)−3−(3,4,5−トリメトキシフェニル)アクリルアミド又は(E)−3−(2−クロロフェニル)−N−(ピリジン−3−イルメチル)アクリルアミドが最も好ましい。
【0016】
式(I)の桂皮酸誘導体の製造方法は、制限されるものではないが、公知のアミド結合生成法等を用いることができる。例えば、p−ニトロフェニルエステル、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル等を用いる活性エステル法や、塩化イソブチルオキシカルボニル、塩化エチルオキシカルボニル等を用いる炭酸モノアルキルエステルとの混合酸無水物を用いる混合酸無水物法、三塩化リン、五塩化リン、塩化チオニル等と反応させて得られる酸塩化物を用いる酸塩化物法、桂皮酸無水物を用いる対称無水物法、N,N′−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)や1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)等の縮合剤を用いるカップリング法等の手法が挙げられる。
【0017】
本発明のヘパラナーゼ活性阻害剤は、式(I)の桂皮酸誘導体を1種のみ単独で含んでいてもよいが、2種以上の式(I)の桂皮酸誘導体を任意の組み合わせ及び比率で含んでいてもよい。
本発明のヘパラナーゼ活性阻害剤における、式(I)の桂皮酸誘導体の含有量は、ヘパラナーゼ活性の阻害作用を有効に発揮するのに十分な量であれば特に限定されず、ヘパラナーゼ活性阻害剤の用途に応じて適宜選択すればよい。但し一般には、ヘパラナーゼ活性阻害剤全体に対する式(I)の桂皮酸誘導体の比率を、通常0.0001質量%以上、中でも0.0001質量%以上、また、通常1質量%以下、中でも0.2質量%以下とするのが好ましい。2種以上の式(I)の桂皮酸誘導体を用いる場合は、それらの合計量が上記範囲を満たすようにすればよい。
【0018】
また、本発明のヘパラナーゼ活性阻害剤は、式(I)の桂皮酸誘導体によるヘパラナーゼ活性の阻害作用を実質的に損なわない限りにおいて、式(I)の桂皮酸誘導体に加えて、他の任意の成分を含有していてもよい。他の成分としては、ヘパラナーゼ活性の阻害作用を有する他の化合物(他の活性成分)や、医薬的に許容され得る担体及び/又は補助剤が挙げられる。かかる他の成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。
【0019】
本発明のヘパラナーゼ活性阻害剤は、限定されるものではないが、化粧料、医薬部外品、医薬組成物等として、又はそれらの配合成分として使用することができる。
本発明のヘパラナーゼ活性阻害剤を有効成分として配合した医薬組成物(本発明の医薬組成物)は、ヘパラナーゼ活性に関連する種々の状態又は症状の治療、改善又は予防に用いることができる。ここで「ヘパラナーゼ活性に関連する状態又は症状」としては、例えば皮膚の老化、癌細胞の増殖又は転移、血管新生等が挙げられる。よって本発明の医薬組成物は、例えば皮膚の老化の改善又は予防(抗老化)、癌細胞の増殖又は転移の抑制、血管新生の抑制等に、好適に用いられる。
【0020】
皮膚の老化は、マクロ的に見れば加齢が重要な要因であるが、それに加えて酸化、乾燥、太陽光(紫外線)等も、皮膚老化に関わる直接的な因子として挙げられる。皮膚の老化の具体的な現象としては、ヒアルロン酸をはじめとするムコ多糖類の減少、コラーゲンの架橋反応、紫外線による細胞の損傷等が知られる。
皮膚傷害を原因とする、或いは紫外線暴露による皮膚老化を原因とする、肌のしわ、こじわ、たるみ等の抑制、改善を目的とした様々な研究がなされている。その結果、例えばヒアルロン酸の産生促進(特開2001−163794号公報)、マトリックス・金属プロテイナーゼ(MMP)の産生・活性の抑制(特表2000−503660号公報)、コラーゲンの産生促進、エステラーゼの活性の阻害(特開平11−335235号公報)、血管新生の抑制(WO03/84302、特願2003−581562号公報)、リンパ管拡張抑制(K. Kajiya et al., Am. J. Pathol., 2006, 169(4): 1496-1503.参照)等が、有効であることが解明されている。
【0021】
これらの研究は、表皮又は表皮細胞に注目した小じわ等の抑制、改善を図るものと、血管やリンパ管を含む真皮変化の抑制に注目した大じわ等の抑制、改善を図るものとの2つに大分される。表皮の変化が真皮に伝わることによって、血管やリンパ管を含む真皮の変化が誘導されるが、その過程にヘパラナーゼが深く関わっている。
実際、本発明者等は以前、ヘパラナーゼ活性阻害剤を小じわモデルに塗布することで、有意な抗しわ効果があることを明らかにしている(PCT/JP2009/056717)。
【0022】
実施例の欄で詳述するように、本発明者等は今回、培養正常角化細胞に紫外線を照射すると、正常角化細胞のヘパラナーゼが活性化することを明らかにした(図1参照)。また、ヒトの皮膚に紫外線が照射されることによって、表皮でヘパラナーゼの量が増加し、基底膜のヘパラン硫酸が低下することを明らかにした(図2参照)。ここから、小じわモデルだけでなく紫外線によっても、ヘパラナーゼが活性化することが明らかになった。
【0023】
更に、ヘパラナーゼが活性化すると基底膜ヘパラン硫酸が分解されることから、本発明者等は擬似皮膚モデルとして、基底膜にヘパラン硫酸を含む正常モデルと、基底膜にヘパラン硫酸を含まないヘパラン硫酸分解モデルとを作製し、VEGFの透過性及び血管新生の評価を行った。その結果、正常モデルと比較して、ヘパラン硫酸分解モデルではVEGFの透過性が増大し、血管新生が誘導されることを明らかにした(図3〜6参照)。
【0024】
これまでに矢野らは、紫外線によって真皮で血管新生が誘導され、真皮の変化が起こることが大じわ形成に重要であることを示していることから(特願2002−580892)、ヘパラナーゼは小じわ形成のみならず大じわ形成にも深く関与する酵素であることを見出した。すなわち、ヘパラナーゼ活性を阻害することは、乾燥による小じわの予防だけでなく長期日光暴露などによる大じわの予防にも効果的である。
【0025】
なお、本明細書において「抗老化」とは、加齢や光老化による基底膜プロテオグリカンのヘパラン硫酸の分解によるヘパラン硫酸結合性増殖因子の遊離に伴う皮膚変化、具体的には表皮分化異常、真皮血管新生、リンパ管拡張、エラスチン分解を抑制することで、皮膚のしわ、たるみ、硬化等を防止、改善し、弾力のある若々しい健康な肌の状態を維持することを意味する。
【0026】
本発明の医薬組成物の投与経路及び剤型はいずれも限定されず、その用途に応じて適宜選択すればよい。投与経路の例としては、経口投与、非経口投与(静脈投与、腹腔内投与等)、局所投与(皮膚外用等)等が挙げられる。剤型としては、経口投与の場合、錠剤、コート錠、糖衣錠、顆粒剤、散剤、カプセル剤(例えばハード又はソフトゼラチンカプセル)等の固形製剤や、内服液剤、シロップ剤等の液体製剤(溶液、懸濁液)等の形態が挙げられる。非経口投与の場合、注射液等の形態が挙げられる。局所投与の場合、溶液系、可溶化系、乳化系、粉末分散系、水−油二層系、水−油−粉末三層系等を、パッチ剤、軟膏、クリーム、乳液、化粧水、ゲル、エアゾール等にした形態が挙げられる。
【0027】
本発明の医薬組成物における本発明のヘパラナーゼ活性阻害剤の配合量も限定されず、医薬組成物の用途、剤型、投与形態等に応じて適宜選択すればよい。例えば、本発明の医薬組成物が皮膚外用剤である場合、本発明のヘパラナーゼ活性阻害剤の配合量は、皮膚外用剤全量中、乾燥質量(固形分質量)として通常0.0001質量%以上、中でも0.0001質量%以上、また、通常1質量%以下、中でも0.2質量%以下の範囲が好ましい。配合量が前記範囲より少ないと、本発明のヘパラナーゼ活性阻害剤の効果が十分に発揮されない傾向がある一方、前記範囲を超えて配合しても、配合量に応じた効果の向上が得られない傾向があり、また、製剤化も困難となる傾向がある。
【0028】
また、本発明の医薬組成物には、本発明のヘパラナーゼ活性阻害剤によるヘパラナーゼ活性の阻害作用を実質的に損なわない限りにおいて、本発明のヘパラナーゼ活性阻害剤に加えて、他の1種又は2種以上の任意の成分を配合してもよい。他の成分は特に限定されず、医薬組成物の用途、剤型、投与形態等に応じて適宜選択すればよいが、例としては、医薬的に許容され得る担体及び/又は補助剤が挙げられる。補助剤としては、例えば希釈剤、結合剤、崩壊剤、増粘剤、分散剤、再吸収促進剤、矯味剤、緩衝剤、界面活性剤、溶解補助剤、保存剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤、pH調製剤等が挙げられる。
【0029】
具体例として、本発明の医薬組成物を皮膚外用剤とする場合、外用剤に通常用いられる成分、例えば、美白剤、保湿剤、酸化防止剤、油性成分、紫外線吸収剤、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、粉末成分、色剤、水性成分、水、各種皮膚栄養剤等を、必要に応じて適宜配合することができる。さらに、エデト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、グルコン酸等の金属イオン封鎖剤、メチルパラベン、エチルパラベン、ブチルパラベン等の防腐剤、カフェイン、タンニン、ベラパミル、トラネキサム酸及びその誘導体、甘草抽出物、グラブリジン、カリンの果実の熱水抽出物、各種生薬、酢酸トコフェロール、グリチルリチン酸及びその誘導体又はその塩等の薬剤、ビタミンC、アスコルビン酸リン酸マグネシウム、アスコルビン酸グルコシド、アルブチン、コウジ酸等の美白剤、グルコース、フルクトース、マンノース、ショ糖、トレハロース等の糖類、レチノイン酸、レチノール、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール等のビタミンA誘導体類等も適宜配合することができる。
【0030】
一方、本発明のヘパラナーゼ活性阻害剤を化粧料又は医薬部外品に用いる場合、しわ改善剤の有効成分としての使用が好ましい。本発明のヘパラナーゼ活性阻害剤を有効成分として配合したしわ改善剤(本発明のしわ改善剤)は、しわの形成の予防又は抑制等に用いることができる。なお、上述のように、しわは、乾燥等によって表皮に形成される小じわと、紫外線等によって真皮に形成される大じわとに分けられ、本発明のしわ改善剤はその何れにも適用可能であるが、特に紫外線等による大じわの改善に有効である。
【0031】
本発明のしわ改善剤の投与経路及び剤型はいずれも限定されず、その用途に応じて適宜選択すればよい。投与経路の例としては、経口投与、局所投与等が挙げられる。剤型の例としては、医薬組成物について上述した各種の剤型に加えて、経口投与については各種の食品や飲料品への添加等が挙げられる。
本発明のしわ改善剤における本発明のヘパラナーゼ活性阻害剤の配合量も限定されず、しわ改善剤の用途、剤型、投与形態等に応じて適宜選択すればよい。
【0032】
また、本発明のしわ改善剤には、本発明のヘパラナーゼ活性阻害剤によるヘパラナーゼ活性の阻害作用を実質的に損なわない限りにおいて、本発明のヘパラナーゼ活性阻害剤に加えて、他の1種又は2種以上の任意の成分を配合することができる。他の成分は特に限定されず、しわ改善剤の用途、剤型、投与形態等に応じて適宜選択すればよい。
【0033】
以上、本発明について具体例を挙げて説明したが、以上の具体例はあくまでも例示であり、本発明は特許請求の範囲を逸脱しない範囲において、任意の変更を加えて実施することが可能である。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0034】
ヘパラナーゼ活性の阻害率を指標とした評価
A431細胞(浸潤性ヒト上皮ガン細胞)を10%血清入りDMEM(ダルベッコ変法イーグル培地)にて培養した。培養細胞を溶解バッファー(Lysis Buffer)(50mM トリス、0.5% TritonX-100、0.15M 塩化ナトリウム、pH4.5)にて可溶化し、スクレイパーにて回収した後、ピペッティングを行い、氷上で30分間静置した。その後、10,000rpmで10分遠心して不溶解物を除去し、上清を細胞抽出液として回収した。この細胞抽出液中のタンパク質量を、BCAタンパク質定量キット(BCA Protein Assay Kit、PIERCE、CA46141)にて測定した。
【0035】
次いで、上述のA431細胞抽出液を、アッセイバッファー(50mM HEPES、50mM 酢酸ナトリウム、150mM 塩化ナトリウム、9mM 塩化カルシウム、0.1% BSA)にて500μg/mLに希釈した。続いて、試験対象の化合物をDMSOに溶解し、この希釈細胞抽出液に対して0.0005質量%、0.005質量%及び0.05質量%の比率となるように添加し、混合して試料溶液を作製した(DMSOの終濃度5%)。コントロール溶液は、希釈細胞抽出液に対してDMSOを終濃度5%になるように混合した。これら試料溶液及びコントロール溶液を、ビオチン化ヘパラン硫酸固定化プレートに100μL/ウェルの割合で播種した。37℃で2時間反応させ、PBS−Tで3回洗浄してから、10,000倍希釈HRP−アビジン(Vector、A-2004)/PBS−Tを100μL/ウェルの割合で加え、37℃で1時間反応させた。再度PBS−Tにて3回洗浄し、TMB試薬(BIO-RAD、172-1066)を100μL/ウェルの割合で加えて反応させ、1N 硫酸にて反応を停止した後、475nmでの吸光度(OD475)を測定した。
【0036】
また、上述のA431細胞抽出液のアッセイバッファーによる段階希釈液(細胞抽出液濃度500μg/mL、50μg/mL、5μg/mL、0.5μg/mL)に、試験対象の化合物を添加せず、DMSOを終濃度5%になるように添加して混合した(検量線用溶液)。この検量線用溶液について、上述と同様の手順でビオチン化ヘパラン硫酸固定化プレートへの播種以降の処理を行い、OD475を測定した。
【0037】
次いで、検量線用溶液のOD475の値に基づいてタンパク質濃度の検量線を作成し、この検量線を用いて、試験対象化合物を各添加濃度で添加した試料溶液のOD475の値から、各試料溶液のタンパク質濃度を算出した。更に、コントロール用溶液についても同様にタンパク質濃度を算出した。各試料溶液のタンパク質濃度とコントロール用溶液のタンパク質濃度との比率(%)から、各試料溶液のヘパラナーゼ活性の阻害率を求めた。
なお、以上の手順については、特表2003−502054号公報を参照されたい。
【0038】
以上の手順で、(E)−N−(5−メチルイソオキサゾール−3−イル)−3−(3,4,5−トリメトキシフェニル)アクリルアミド及び(E)−3−(2−クロロフェニル)−N−(ピリジン−3−イルメチル)アクリルアミドのヘパラナーゼ活性阻害作用を試験した。結果を表1に示す。表1から、(E)−N−(5−メチルイソオキサゾール−3−イル)−3−(3,4,5−トリメトキシフェニル)アクリルアミド及び(E)−3−(2−クロロフェニル)−N−(ピリジン−3−イルメチル)アクリルアミドは、添加濃度0.05%で、それぞれ94.88%及び75.18%の阻害率を示し、ヘパラナーゼ活性を効果的に阻害することが明らかとなった。
【表1】

【実施例2】
【0039】
紫外線によるヘパラナーゼの活性変化の評価
正常ヒト角化細胞を正常角化細胞用培地EpiLifeにて培養した。培地をPBSに一時的に置換してから50mJのUVBを照射し、1時間、2時間、4時間培養後に細胞を溶解バッファー(Lysis Buffer)にて可溶化したものを、紫外線照射群の試料溶液として用いた。また、培地をPBSに一時的に置換し、紫外線を照射しないものを、コントロール用溶液として用いた。これらの試料溶液及びコントロール用溶液を用い、実施例1と同様に処理を行って、OD475を測定した。得られたOD475の値に基づいて、実施例1と同様にしてヘパラナーゼ活性を評価した。その結果を図1に示す。紫外線を照射しないコントロールと比べて、紫外線照射群ではヘパラナーゼが有意に活性化することが明らかになった。
【0040】
紫外線照射ヒト皮膚におけるヘパラナーゼ及びヘパラン硫酸の免疫染色
20代ヒト臀部に2MEDの紫外線を照射し、2日後に照射部位と近傍の紫外線を照射していない臀部皮膚をバイオプシーにて採取し、AMeX法にてパラフィンブロックを作製した。3μmの組織切片を作製し、ヘパラナーゼ及びヘパラン硫酸の免疫染色を実施した。得られた免疫染色画像を図2に示す。紫外線照射部位では、未照射部位と比較して、ヘパラナーゼの量が増加しており、また、ヘパラン硫酸の量は低下していることが明らかになった。
【0041】
ヘパラン硫酸の有無によるVEGFの透過性及び血管新生の評価
ヘパラン硫酸2mg及びアガロース10mgをPBS1ml(1%アガロース溶液)に加熱溶解してから、インサート(コーニング社製24ウェル用トランスウェル)に塗布することで、ヘパラン硫酸を含むシートを形成した。また、コントロールとして、ヘパラン硫酸を使用せずアガロースのみを使用した他は同様の手順により、ヘパラン硫酸を含まないシートを形成した。こうして、インサート内を表皮側、シートを基底膜、ウェルを真皮側に見立てた擬似皮膚モデルを作製した(図3a,b)。
【0042】
こうして得られた擬似皮膚モデルは、基底膜に見立てたシート(以下「基底膜シート」という)におけるヘパラン硫酸の有無によって、VEGFの透過性及び血管新生を評価する評価系として使用できる。なお、以下の記載では、基底膜シート中にヘパラン硫酸を含む擬似皮膚モデルを「正常モデル」、基底膜シート中にヘパラン硫酸を含まない擬似皮膚モデルを「ヘパラン硫酸分解モデル」とする。
【0043】
まず、VEGFの透過性を評価するため、各モデルの表皮側(インサート内)に10μg/mLのVEGF水溶液を添加して、室温にて3時間静置し、真皮側のウェル内のVEGF濃度をVEGF ELISAキット(R&D systems)にて検出した。その結果を図4に示す。正常モデルでは、ヘパラン硫酸分解モデルと比較して、VEGFの透過量が顕著に減少していた。
【0044】
次に、血管新生を評価するため、各モデルの表皮側(インサート内)に100μg/mLのVEGF水溶液を添加し、血管新生キット(クラボウ社)にセットして11日間培養した後、培養物の光学顕微鏡写真を撮像した。得られた画像を図5に示す。ヘパラン硫酸分解モデルでは濃度依存的に顕著な血管新生が認められたが、正常モデルでは血管新生は認められなかった。
【0045】
さらに、血管新生キット用解析ソフト(クラボウ社)を用いて、図5の画像の血管面積を解析した。その結果を図6に示す。ヘパラン硫酸分解モデルでは、正常モデルと比較して、顕著な血管面積の増加が認められ、血管新生が有意に起きていることを明らかにした。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、ヘパラナーゼ活性に関連する状態又は症状の治療、改善又は予防、具体的には皮膚の老化の改善又は予防(抗老化)、創傷治癒、癌細胞の増殖又は転移の抑制、血管新生の抑制等を目的とする医薬組成物等の分野で好適に使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で示される桂皮酸誘導体
【化1】

(式中、
1、R2及びR3は各々独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルコキシ基、又はハロゲン原子を表し、
4は、炭素数1〜6のアルキル基で置換されていてもよい複素環、又は、炭素数1〜6のアルキル基で置換されていてもよい複素環で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基を表す。)
を活性成分として含んでなるヘパラナーゼ活性阻害剤。
【請求項2】
式(I)中、R1、R2及びR3が各々独立に、水素原子又はメトキシ基である、請求項1記載のヘパラナーゼ活性阻害剤。
【請求項3】
式(I)中、R4が、メチルイソオキサゾール基又はピリジルメチル基である、請求項1又は請求項2に記載のヘパラナーゼ活性阻害剤。
【請求項4】
式(I)の桂皮酸誘導体が、(E)−N−(5−メチルイソオキサゾール−3−イル)−3−(3,4,5−トリメトキシフェニル)アクリルアミド又は(E)−3−(2−クロロフェニル)−N−(ピリジン−3−イルメチル)アクリルアミドである、請求項1〜3の何れか一項に記載のヘパラナーゼ活性阻害剤。
【請求項5】
ヘパラナーゼ活性に関連する状態又は症状を治療、改善又は予防するための医薬組成物であって、請求項1〜4の何れか一項に記載のヘパラナーゼ活性阻害剤を有効成分として含んでなる医薬組成物。
【請求項6】
創傷治癒、癌細胞の増殖若しくは転移の抑制、又は血管新生の抑制に用いられる、請求項5記載の医薬組成物。
【請求項7】
しわの形成を予防又は抑制するしわ改善剤であって、請求項1〜4の何れか一項に記載のヘパラナーゼ活性阻害剤を有効成分として含んでなるしわ改善剤。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図2】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−74027(P2011−74027A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−228307(P2009−228307)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】