説明

ベルト式クラッチ機構

【課題】アウタワイヤをアウタ受け部材に保持したまま十分な調節量を確保すると共に、簡潔で廉価な構成によってベルト等の伸びに対応させたベルト伝動を適正に行うことができるベルト式クラッチ機構を提供する。
【解決手段】駆動プーリ28と従動プーリ33とに巻き掛けたベルト34を緊緩するテンションクラッチ35を備えるベルト伝動装置31と、該テンションクラッチ35を機体側に両端を固定したアウタワイヤ42bに内装されるインナワイヤ42aで緊緩操作することにより回動させ、ベルト伝動装置31の動力を入り切りするクラッチ操作装置31aとからなるベルト式クラッチ機構であって、機体にクラッチ操作装置31aを位置固定して設け、アウタ受け部材52をクラッチ操作装置31aまで延設すると共に、該アウタ受け部材52をクラッチ操作装置31aに対して移動調節可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テンションクラッチにより動力を入り切りするベルト式クラッチ機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、駆動プーリと従動プーリに巻き掛けたVベルトを、クラッチ操作装置により操作ワイヤを介してテンションクラッチを回動し動力を入り切りするベルト式クラッチ機構は既に公知である(例えば、特許文献1。)。
上記特許文献1のベルト式クラッチ機構は、コンバインに搭載されるグレンタンクの穀粒排出螺旋軸を回転及び停止することができ、グレンタンクの前側壁に設置したクラッチ操作装置の排出クラッチモータを正逆回転することにより、操作ワイヤを介してテンションクラッチを上下回動させて動力を入り切りする構成にしている。
上記操作ワイヤは、インナワイヤを内装するアウタワイヤの下端を前側壁の下部ワイヤ受け部に固定し、且つ上端のワイヤ調節部を、グレンタンクとクラッチ操作装置との間に介装されるベース板の下端に形成されるワイヤ取付片(アウタ受け部材)に位置決め調節可能に取付けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−32583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1で示されるベルト式クラッチ機構は、穀粒排出作業に伴いVベルトや操作ワイヤ等に伸びが生じた場合に、アウタワイヤの調節ナットを有するワイヤ調節部をアウタ受け部材に対して取付け位置を移動調節することにより、アウタワイヤを介してインナワイヤによるテンションクラッチの上下回動範囲を修正し、適正なベルト伝動を行うことができる。またこの際にクラッチ入り切り時に生ずる衝撃をベース板で受けさせるため、クラッチ操作装置やアウタ受け部材を取付ける機体側(グレンタンク)を強度アップさせることなく変形を防止することができる等の特徴がある。
然しながら、長期の使用によってVベルト等がさらに伸びた場合には、アウタワイヤのワイヤ調節部が調節限界になるものであり、この場合にはテンションクラッチによる入り位置でのベルト張りが不足しスリップを伴いながら伝動される等のトラブルを発生し易い等の課題がある。
本発明は上記課題を解決することを目的とし、クラッチ入り切り時の負荷による機体側の変形を防止できるものでありながら、ベルト張りの十分な調節量を確保できるベルト式クラッチ機構を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため本発明によるベルト式クラッチ機構は、駆動プーリ28と従動プーリ33とに巻き掛けたベルト34を緊緩するテンションクラッチ35を備えるベルト伝動装置31と、該テンションクラッチ35を機体側に両端を固定したアウタワイヤ42bに内装されるインナワイヤ42aで緊緩操作することにより回動させ、ベルト伝動装置31の動力を入り切りするクラッチ操作装置31aとからなるベルト式クラッチ機構において、機体にクラッチ操作装置31aを位置固定して設け、アウタ受け部材52をクラッチ操作装置31aまで延設すると共に、該アウタ受け部材52をクラッチ操作装置31aに対して移動調節可能としたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
上記構成を備えたベルト式クラッチ機構は次のような効果を奏する。請求項1の発明によれば、機体にクラッチ操作装置を位置固定して設け、アウタ受け部材をクラッチ操作装置まで延設すると共に、該アウタ受け部材をクラッチ操作装置に対して移動調節可能としたことにより、ベルトに伸びを生じた場合に、アウタ受け部材をクラッチ操作装置に対して相対的に位置変更することができるため、アウタワイヤの十分な調節量を確保することができる。またアウタ受け部材をクラッチ操作装置まで延設することにより、クラッチの動力入り切り時に生ずる衝撃負荷による機体の変形を防止し、ベルト伝動を簡潔で廉価な構成によって長期間にわたり適正に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明が適用されたベルト式クラッチ機構を備えるコンバインの右側面図である。
【図2】図1の平面図である。
【図3】ベルト式クラッチ機構をコンバインに搭載されるグレンタンクに設置した正面図である。
【図4】図3のクラッチ操作装置の構成を示す分解斜視図である。
【図5】クラッチ操作装置の構成を示す正面図である。
【図6】図5のアウタ受けベース板を下方に移動調節した状態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1,図2において符号1は本発明に係わるベルト式クラッチ機構2を備えたコンバインであり、クローラー式の走行装置3を備えた走行機台4に、従来のものと同様に前処理部5と脱穀部6等の作業部を前後方向に配置し、前処理部5の後方で脱穀部6の右側に運転部7とグレンタンク8を配置している。そして、運転部7の運転座席9を支持するエンジンカバー10内にエンジン(図示せず)を搭載している。
【0009】
上記構成からなるコンバイン1は、前処理部5で刈り取った穀稈を扱深搬送部11等を介して脱穀部6のフィードチェン12に扱深調整可能に継送し、脱穀部6によって脱穀選別された穀粒をグレンタンク8に収容する。またグレンタンク8に収容された穀粒は穀粒排出オーガ13を操作することにより機外に排出して一連のコンバイン作業を行うことができる。
【0010】
このコンバイン1の運転部7は、運転部フロア15の前側で横方向に立設される前部運転パネル部16と、該前部運転パネル部16に連なり運転部フロア15及び運転座席9の左側で前後方向に立設される側部運転パネル部17を平面視でL字状に構成し、運転座席9の後方にグレンタンク8及び穀粒排出オーガー13を操作する穀粒操作部19を配置している。
上記グレンタンク8は貯留する穀粒をグレンタンク8の後面下端部に固設した図示しない固定パイプと、この固定パイプに接続して立設した縦パイプ21と、該縦パイプ21の上端に一体旋回可能に接続すると共に起伏動作可能な穀粒排出オーガ13を経由して機外に排出できるようになっている。
【0011】
またエンジン動力は、その出力軸23に設けた出力プーリ24からVベルト25を介してカウンタケース26の入力プーリ27に伝達され、次いで図3に示すように、カウンタケース26の出力プーリ28を駆動プーリとするベルト伝動装置31、即ちグレンタンク8底部の穀粒排出螺旋軸32の軸端に固設した従動プーリ33と、前記両プーリ28,33に巻き掛けたVベルト34と、該Vベルト34を緊緩するテンションクラッチ35等を備えるベルト伝動装置31を介して穀粒排出オーガ13へ伝達されるようになっている。
【0012】
上述したテンションクラッチ35によるVベルト34の緊緩は、前記穀粒操作部19に設置される穀粒排出スイッチ36の入/切操作によってなされ、この穀粒排出スイッチ36を入/切操作することによって、図3〜図6で示すグレンタンク8の前面上部に設置される排出クラッチモータ37を正転または逆転駆動させ、次いで排出クラッチモータ37の出力ギヤ37aに歯合して回動するギヤアーム38、このギヤアーム38の先端に連結する円弧状リンク39、該円弧状リンク39の他端に連結する引張スプリング41、及び操作ワイヤ42のインナワイヤ42aを介してテンションクラッチ35を回動操作するように構成している。
【0013】
またテンションクラッチ35は、グレンタンク8の前側板43に基端部を軸支され操作ワイヤ42に接続し矢印方向に上下回動するクラッチアーム44と、このクラッチアーム44の先端に設けたテンションプーリ45とで構成している。
上記構成において前記排出クラッチモータ37及び円弧状リンク39等からなるクラッチ操作装置(クラッチ作動ユニット)31aは、モータ取付プレート47に取付けると共に、該モータ取付プレート47を操作ワイヤ42のアウタワイヤ42bを取付けるアウタ受け用のベース板48を介して、グレンタンク8の前側壁8aに以下に記す構成によって取付けている。
【0014】
即ち、モータ取付プレート47は平面視でコ字状に屈曲形成した取付ブラケット49,49・・にそれぞれボルト50を突設しており、ベース板48は上記ボルト50の対応位置に上下方向の長孔状となして穿設した調節孔51,51・・を設け、且つ下部の左右に調節孔51と同様な調節孔51aを穿設している。またベース板48は下部を外向きに屈曲させたアウタ受け部材52にアウタワイヤ42bを取付けるワイヤ取付孔53を穿設している。そして、前側壁8aには前記各ボルト50を挿入するボルト孔55を穿設していると共に、調節孔51aに挿入されるボルト50aを位置決め挿入するボルト孔55aを穿設している。
【0015】
上記構成によりクラッチ操作装置31aは、モータ取付プレート47のボルト50をベース板48の調節孔51に挿入した状態で、前側壁8aのボルト孔55に挿入し、前側壁8aの内側に突出した頭部にグレンタンク8内からナット56を締着することにより取付け固定することができる。次いでボルト50aを各調節孔51aとボルト孔55aに挿入し前側壁8aの内側に突出した頭部にナット56を締着する。これによりアウタ受け部材52を上方に長く延設した形状にするベース板48を前側壁8aに強固に取付けることができる。
【0016】
このときベース板48は、図5で示すようにその初期取付け位置を、ボルト50,50aに対する調節孔51,51aの長孔で規定される最上昇位置において位置決め固定される。次いでアウタワイヤ42bの上端に形成されるワイヤ調節部57をワイヤ取付孔53に挿入した状態で、インナワイヤ42aが適正操作長さとなるように、上記ワイヤ調節部57の上下に螺挿される調節ナット58を締着し固定する。このときアウタワイヤ42bの下端は前記前側板43に固定されるワイヤ取付部59によって予め位置決め固定される。
【0017】
以上のように構成されるベルト式クラッチ機構2を備えたコンバイン1は、穀粒排出スイッチ36を操作すると排出クラッチモータ37が正転し、円弧状リンク39を上昇させて引張スプリング41を介しインナワイヤ42aを引き作動し、テンションクラッチ35を上方回動させVベルト34を緊張させる。これによりベルト伝動装置31は伝動入り状態となり穀粒排出螺旋軸32及び穀粒排出オーガ13を回転させ、グレンタンク8内の穀粒を排出することができる。また穀粒排出スイッチ36の再操作により排出クラッチモータ37は逆転し、円弧状リンク39が下降しインナワイヤ42aを弛緩させるので、テンションクラッチ35は下方回動してVベルト34を緩め伝動切り状態にする。これにより穀粒排出螺旋軸32及び穀粒排出オーガ13は回転停止し、穀粒の排出作業を終了することができる。
【0018】
このような穀粒の排出作業において排出クラッチモータ37及び円弧状リンク39等からなるクラッチ操作装置31aとアウタ受け部材52は、テンションクラッチ35の入り切り上下回動による引張り方向の負荷を繰り返し衝撃的に受けるが、アウタ受け部材52をモータ取付プレート47の取付けベース座となるように広幅状に延設した形状のベース板48にしていることにより、上記衝撃負荷に対し簡潔な構成ながら十分な強度を有してトラブルを回避することができる。
【0019】
即ち、前記クラッチ操作装置31aを機体側の取付部材として利用するグレンタンク8の前側壁8aに取付けるに、前側壁8aにアウタ受け部材52を有するベース板48を重ねた剛構造によって取付けることができ、上記衝撃負荷を主としてベース板48で吸収することができるため、薄肉板で構成されるグレンタンク8の壁面負荷を軽減し変形や亀裂の発生等によるトラブルを防止することができる。
【0020】
また長期の使用によりVベルト34及びワイヤ42或いは引張スプリング41等に伸びを生じた場合には、従来のものと同様にアウタワイヤ42bのワイヤ調節部57を調節ナット58を緩め下方側に位置決めセットをすることにより、アウタワイヤ42bを介してインナワイヤ42aの作動代を大きくし、テンションクラッチ35の作動量を修正して適正伝動をすることができる。
【0021】
またVベルト34等の伸びがさらに大きくなった場合には、グレンタンク8内で前記各ナット56を緩めベース板48を、図6で示すように下方に適正調節量だけ移動して締着すると、クラッチ操作装置31aを前側壁8aに対し取付け位置を変えることなく、アウタワイヤ42bをアウタ受け部材52に保持したまま下方に移動調節することができる。これにより操作ワイヤ42はインナワイヤ42aの作動代を大きくして、テンションクラッチ35の作動量を修正し適正伝動をすることができる。
【0022】
また本発明に係わるベルト式クラッチ機構2は、従来のものと同様なワイヤ調節部57とアウタ受け部材52によるワイヤ調節手段を備えながら、ベース板48を調節方向に移動することができるため、アウタワイヤ42bの複合的な調節によってテンションクラッチ35の十分な調節量を確保することができる。従って、在来の操作ワイヤ42を特別なものに変更することなく、簡潔で廉価な構成によってVベルト34等の伸びに対応させたベルト伝動を長期間にわたり適正に行うことができる等の特徴がある。
【0023】
尚、実施形態のベルト式クラッチ機構2は、穀粒排出スイッチ36を押し操作することにより排出クラッチモータ37を正逆回転し、インナワイヤ42aを作動するようにしたが、排出クラッチモータ37に代えて手動によって回動操作される操作レバーによってインナワイヤ42aを緊緩させる構成にすることもできる。
【符号の説明】
【0024】
1 コンバイン
2 ベルト式クラッチ機構
8 グレンタンク
8a 前側壁(機体)
28 駆動プーリ
31 ベルト伝動装置
31a クラッチ操作装置
33 従動プーリ
34 Vベルト(ベルト)
35 テンションクラッチ
42 操作ワイヤ
42a インナワイヤ
42b アウタワイヤ
48 ベース板
52 アウタ受け部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動プーリ(28)と従動プーリ(33)とに巻き掛けたベルト(34)を緊緩するテンションクラッチ(35)を備えるベルト伝動装置(31)と、該テンションクラッチ(35)を機体側に両端を固定したアウタワイヤ(42b)に内装されるインナワイヤ(42a)で緊緩操作することにより回動させ、ベルト伝動装置(31)の動力を入り切りするクラッチ操作装置(31a)とからなるベルト式クラッチ機構において、機体にクラッチ操作装置(31a)を位置固定して設け、アウタ受け部材(52)をクラッチ操作装置(31a)まで延設すると共に、該アウタ受け部材(52)をクラッチ操作装置(31a)に対して移動調節可能としたことを特徴とするベルト式クラッチ機構。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−38588(P2011−38588A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−186010(P2009−186010)
【出願日】平成21年8月10日(2009.8.10)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】