ベルト式自動変速機の冷却構造
【課題】外気を導入する導入ダクトの通路断面積を確保しつつ、導入ダクトの導入口を塵や水の巻き上がりが少ない場所に配置できるベルト式自動変速機の冷却構造を提供する。
【解決手段】シリンダアセンブリ114をクランクケース115から前傾して延設させたエンジン116とエンジン116の左右方向における一方側から後側に延びて後輪118に動力を伝達するベルト式自動変速機117とを一体に構成して、車体に対して上下に揺動自在に支持されてなるスクータ型自動二輪車において、ベルト式自動変速機117のベルトケース143内に外気を導入するための導入ダクト150の導入口167が、左右方向における他方側に位置する車体部品126に固定されている。
【解決手段】シリンダアセンブリ114をクランクケース115から前傾して延設させたエンジン116とエンジン116の左右方向における一方側から後側に延びて後輪118に動力を伝達するベルト式自動変速機117とを一体に構成して、車体に対して上下に揺動自在に支持されてなるスクータ型自動二輪車において、ベルト式自動変速機117のベルトケース143内に外気を導入するための導入ダクト150の導入口167が、左右方向における他方側に位置する車体部品126に固定されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクータ型自動二輪車におけるベルト式自動変速機の冷却構造に関するものである。特に、ベルト式自動変速機のベルトケース内に外気を導入することでベルト式自動変速機のVベルトを冷却させる冷却構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スクータ型自動二輪車において、Vベルトを用いたベルト式自動変速機を備えたものが知られている。ベルト式自動変速機では、プーリとVベルトとの間の摩擦によりVベルトが発熱するため、Vベルトを冷却するための冷却構造が必要になる。従来から、Vベルトを冷却するために冷却ダクトを介してベルト式自動変速機のケース内に外気を導入させる冷却構造が採用されている(例えば、特許文献1および特許文献2を参照)。このような冷却構造において、冷却ダクトの吸入口がベルト式自動変速機の前側あるいは上側に配置される場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4134596号公報
【特許文献2】特許第4190052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、冷却ダクトの吸入口がベルト式自動変速機の前側にある場合、吸入口は車高の低い位置にあるために、前輪の巻き上げた塵や水が冷却ダクトの吸入口から吸い込まれ易く、ベルト式自動変速機にベルト滑り等の問題があった。したがって、吸入口にカバー等を設ける必要があった。
一方、特許文献1のように冷却ダクトの吸入口がベルト式自動変速機の上側にあったり、特許文献2のように車幅方向の中央にあったりする場合、燃料噴射装置など他の部品と干渉してしまう恐れがあり、Vベルトを冷却するための十分な通路断面積を確保することが困難であるという問題があった。
【0005】
本発明は、上述したような問題点に鑑みてなされたものであり、外気を導入する導入ダクトの通路断面積を確保しつつ、導入ダクトの導入口を塵や水の巻き上がりが少ない場所に配置できるベルト式自動変速機の冷却構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、シリンダアセンブリをクランクケースから前傾して延設させたエンジンと前記エンジンの左右方向における一方側から後側に延びて後輪に動力を伝達するベルト式自動変速機とを一体に構成して、車体に対して上下に揺動自在に支持されてなるスクータ型自動二輪車において、前記ベルト式自動変速機のベルトケース内に外気を導入するための導入ダクトの導入口が、前記左右方向における他方側に位置する車体部品に固定されている。
また、前記導入口は、前記ベルト式自動変速機よりも車体の前側に配置されている。
また、前記導入ダクトの一部に可撓部が形成されている。
また、前記可撓部は、車体の前後方向に沿って形成されている。
また、前記導入ダクトは、前記ベルトケースに結合され車体の左右方向に沿って配設される横断ダクト部と、前記横断ダクト部に結合され車体の前側に向かって延設される前後ダクト部と、前記前後ダクト部の前端に結合され、車体の外側に開口する前記導入口が形成された導入部とを有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、外気を導入する導入ダクトの通路断面積を確保しつつ、導入ダクトの導入口を塵や水の巻き上がりが少ない場所に配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本実施形態に係るスクータ型自動二輪車の右側面図である。
【図2A】スクータ型自動二輪車の車体カバーを取り外した左側面図である。
【図2B】スクータ型自動二輪車の車体カバーを取り外した右側面図である。
【図3】本実施形態に係るパワーユニットの左側面図である。
【図4】本実施形態に係るパワーユニットの右側面図である。
【図5】本実施形態に係るパワーユニットの平面図である。
【図6】本実施形態に係るパワーユニットを後側から見た斜視図である。
【図7】本実施形態に係るパワーユニットを前側から見た斜視図である。
【図8】本実施形態に係るパワーユニットを後側かつ上側から見た斜視図である。
【図9】本実施形態に係る車体カバーに導入ダクトを取り付けた状態を示す斜視図である。
【図10】本実施形態に係る導入ダクトの導入口を側方から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面に基づき、本発明に係るベルト式自動変速機の冷却構造を備えたスクータ型自動二輪車の好適な実施形態について説明する。
まず、スクータ型自動二輪車100の全体構成について図1、図2Aおよび図2Bを参照して説明する。図1は本実施形態に係るスクータ型自動二輪車の右側面図である。図2Aおよび図2Bは車体カバー等を取り外した状態の左側面図および右側面図である。なお、各図では、必要に応じて車体の前側を矢印Frにより、車体の後側を矢印Rrによりそれぞれ示し、車体の右側を矢印Rにより、車体の左側を矢印Lにより示す。
【0010】
スクータ型自動二輪車100(以下、自動二輪車という)は、鋼製あるいはアルミニウム合金材からなる複数の車体フレームにより車体骨格が形成されている。具体的には、車体前部には、ステアリングヘッドパイプ101が配設されている。ステアリングヘッドパイプ101の略中央部には、ダウンチューブ102が略後斜め下側に向かって延設されている。ダウンチューブ102の下端付近には、一対のアンダーフレーム103が略後側に向かって延設されている。一対のアンダーフレーム103の略後端のそれぞれには、メインフレーム104が略上側に向かって延設されている。一対のメインフレーム104の上端のそれぞれには、リアフレーム105が結合されている。一対のリアフレーム105は車体後側に亘って、後斜め上側に向かって延設されている。
【0011】
図1に示すように、ステアリングヘッドパイプ101は、フロントフォーク106を回動可能に支持している。フロントフォーク106の上端には操舵のためのハンドルバー107が左右方向に沿って配設され、下端には前輪108が回動可能に支持されている。前輪108はフロントフェンダー127によって覆われている。
【0012】
また、アンダーフレーム103の後端には、エンジンを含むパワーユニットを支持するためのブラケット109が付設形成されている。ブラケット109には、第1のピボット軸110を介してステー111が略後側に向かって配設されている。また、ステー111には、第2のピボット軸112を介して、スイング式のパワーユニット113が支持されている。パワーユニット113は第1のピボット軸110および第2のピボット軸112(主に第2のピボット軸112)を中心にして上下に揺動可能である。
【0013】
図2Aおよび図2Bに示すように、パワーユニット113は、シリンダアセンブリ114およびクランクケース115からなるエンジン116とベルト式自動変速機117とをユニット化したものである。パワーユニット113の詳細は後述する。
ベルト式自動変速機117の後部には、後輪118が回動可能に支持されている。図1に示すように、後輪118は、リヤフェンダー128によって覆われている。ベルト式自動変速機117とリアフレーム105との間には、ショックアブソーバ119によって連結されている。ショックアブソーバ119は、後輪118およびパワーユニット113の上下の揺動を吸収する。
【0014】
後述する図6に示すように、ベルト式自動変速機117の上側にはエアークリーナボックス120が搭載されている。エアークリーナボックス120からの吸気は、燃料と共にシリンダアセンブリ114内に吸入され、燃焼された後、排気ガスとしてマフラー135から排気される。
パワーユニット113の上側には、ライダーが着座するためのシート121が設置されている。また、アンダーフレーム103の上側には、シート121に着座したライダーの足を載せるステップボード122がステップフレーム123(図2Aおよび図2Bを参照)に支持されている。パワーユニット113とシート121との間にはヘルメット等を収容できる収容スペースとしてのラゲッジボックス124が配置されている。
【0015】
車体外観としては、各種車体カバーが車体フレーム等の適所に支持されて被着されることで外観が整えられている。車体の前部には、フロントレッグシールド125がダウンチューブ102の周囲を被覆している。また、車体の中央部から後部には、フレームカバー126がメインフレーム104およびリアフレーム105の周囲を被覆している。フロントレッグシールド125とフレームカバー126とは、上述したステップボード122を介して一体的に連結されている。
【0016】
次に、パワーユニット113の構成について図3〜図5を参照して説明する。図3はパワーユニットの左側面図であり、図4はパワーユニットの右側面図であり、図5はパワーユニットの平面図である。
上述したように、パワーユニット113は、シリンダアセンブリ114およびクランクケース115からなるエンジン116とベルト式自動変速機117とを有している。シリンダアセンブリ114は、図示しないピストンの軸線pがクランクケース115から水平状態に近くまで前傾するように延設されている。シリンダアセンブリ114内のピストンが往復運動することによって、クランクケース115内のクランクシャフトを一方方向に回動させる。クランクシャフトの回動軸cは、図5に示すように、車体の幅方向(左右方向)に指向している。
【0017】
図4に示すように、クランクケース115の右側には、空気吸入口129に面して図示しない冷却ファンが設けられている。冷却ファンはクランクシャフトの右端に軸着され、クランクシャフトと同期して回動する。冷却ファンの外周およびシリンダアセンブリ114は、冷却風カウリング130により覆われていている。したがって、冷却ファンが回動することで、冷却風カウリング130内に外気を取り入れて、強制的にシリンダアセンブリ114を冷却している。
クランクケース115の上側には、エンジン116を始動するときにクランクシャフトを図示しない複数のギアを介して回転させるスタータモータ131が配設されている。
【0018】
クランクケース115の左側には、図3および図5に示すように、ベルト式自動変速機117が後側に向かって延設されている。図5に示す破線内には、ベルト式自動変速機117の構成を抜き出して図示している。図5に示すように、ベルト式自動変速機117は駆動プーリ140、従動プーリ141およびプーリ間に巻回されたVベルト142がベルトケース143内に配置されて構成されている。
【0019】
駆動プーリ140は、ベルトケース143内にまで延出されたクランクシャフト144に軸着されている。駆動プーリ140はクランクシャフト144と同期して回動し、遠心力の増加に応じ内部のウェイトローラが径方向に移動することで駆動プーリ140の有効径が拡大する。逆に、従動プーリ141の有効径が縮小するために、クランクシャフト144の回転速度に応じて無段階に変速されドリブンシャフト145に伝達される。従動プーリ141の左側には、遠心クラッチ146が設けられている。遠心クラッチ146は、クランクシャフト144の低回転域において、従動プーリ141からドリブンシャフト145への回動の伝達を遮断する。
【0020】
ドリブンシャフト145の右側には、図示しない複数のギアを含むミッション機構147が設けられている。ミッション機構147は、ドリブンシャフト145の回動を減速させて後輪軸148に伝達する。このようにベルト式自動変速機117は、クランクシャフト144の回転速度に応じて無段階で自動的に変速させることができる。
さらに、図5に示すように、駆動プーリ140の左端には外部からベルトケース143内に強制的に外気を導入させるためのファン134が一体的に設けられている。また、ベルトケース143の左側面には、図3に示すようにベルトケース143内に導入された外気を外部に排出するための排出孔149が開口している。
【0021】
上述したように構成されるベルト式自動変速機117において、駆動プーリ140および従動プーリ141の有効径が増減するときに、Vベルト142が駆動プーリ140および従動プーリ141を径方向に摺動する。すなわち、Vベルト142と駆動プーリ140および従動プーリ141との間で摩擦が生じ、Vベルト142が発熱する。したがって、ベルト式自動変速機117ではVベルト142を冷却するための冷却構造を必要とする。
【0022】
以下、本実施形態に係るベルト式自動変速機の冷却構造について、説明する。
本実施形態ではベルト式自動変速機117のベルトケース143内に外気を導入することで発熱したVベルト142を冷却する。ベルトケース143内に外気を導入するとき、外気を外部から取り入れるための導入口を配置する必要がある。
このとき、導入口をベルト式自動変速機117の前側に配置することが考えられるが、ベルト式自動変速機117は車高の低い位置にあるために、導入口から前輪108や後輪118が巻き上げた塵や水がベルトケース143内に入り込み易い。
また、導入口をベルト式自動変速機117の前側かつ上側に配置することが考えられる。しかしながら、本実施形態では、図6のパワーユニット周辺の構成を示す斜視図で示すように、ベルト式自動変速機117の上側にはエアークリーナボックス120が配置され、エアークリーナボックス120から前側に向かってエアダクト132が配置されている。したがって、ベルト式自動変速機117の前側かつ上側には部品が多く配置されていて、導入口を大きく取ることができない。
【0023】
そこで、本実施形態では車体の幅方向における左側に配置されているベルト式自動変速機117に対して、反対側の右側に導入ダクト150の導入口167を配置する。導入口167が形成された導入部165からベルト式自動変速機117のベルトケース143までは前後ダクト部158と横断ダクト部151とを用いて外気を送る。以下、導入ダクト150の配置について図3〜図8を参照して詳細に説明する。図7は、パワーユニットを前側から見た斜視図である。図8は、パワーユニットを後側から見た斜視図である。
【0024】
図5、図7および図8に示すように、導入ダクト150は、ベルトケース143の前部かつ上部から車体の幅方向に亘って水平に配設された横断ダクト部151と、横断ダクト部151の右端から直交し車体の前側に向かって略水平に配設された前後ダクト部158と、前後ダクト部158の前端に配設された導入部165を有して構成されている。
横断ダクト部151は、クランクケース115の後部かつ上側で車体を横断するように配置されている。図5に示すように、横断ダクト部151の後縁は、クランクケース115の後縁115aよりも後側になるように配置されている。また、横断ダクト部151の周辺は、前側にスタータモータ131、上側にラゲッジボックス124(図6を参照)、後側に後輪118が密集して配置されている。したがって、横断ダクト部151が配置される空間は、例えばエアークリーナボックス120からシリンダアセンブリ114までの通路用としては狭すぎるが、Vベルト142を冷却させるための通路用としては好適な大きさである。
【0025】
また、横断ダクト部151は、組み立て性や要求される機能に応じた形状に形成できるように複数の部材、ここでは複数の樹脂成形品から構成されている。具体的には、横断ダクト部151は第1の横断ダクト部材152と第2の横断ダクト部材154とが結合されている。
【0026】
図5、図7および図8に示すように、第1の横断ダクト部材152は、ベルトケース143の上部で右側に向かって開口する開口部133に係止部153を介して結合されている。第2の横断ダクト部材154は、第1の横断ダクト部材152の右端に係止部155を介して結合されている。第1の横断ダクト部材152および第2の横断ダクト部材154は、それぞれ下側で図示しない固定ボルトを介してクランクケース115と結合されている。このとき、第1の横断ダクト部材152の下面とクランクケース115の後部上面との間には、隙間を有した状態でクランクケース115に結合されている。したがって、第1の横断ダクト部材152の前側に配置されたスタータモータ131から放熱された周辺の空気を、この隙間を介して後側に排出することができる。
また、第1の横断ダクト部材152および第2の横断ダクト部材154は、上述したようにクランクケース115、すなわちパワーユニット113と一体的に結合されるため、パワーユニット113と共に第1のピボット軸110および第2のピボット軸112を中心にして上下に揺動する。
【0027】
第1の横断ダクト部材152および第2の横断ダクト部材154の断面外形は、上下寸法が前後寸法よりも短い扁平形の略矩形状に形成されている。また、断面内形は、外形を縮小させた扁平形の略矩形状に形成されている。断面内形の内部が、Vベルト142を冷却するための外気が通る通路となる。通路は、Vベルト142を冷却するのに必要な外気の量を流動させることができる通路断面積を有している。このように、横断ダクト部151を扁平形に形成することで、横断ダクト部151がパワーユニット113と共に上下に揺動したときに、ラゲッジボックス124等と干渉することなく、Vベルト142を冷却させるために必要な通路断面積を広く確保することができる。
【0028】
また、図5に示すように、第1の横断ダクト部材152の前端は、前側に配置されているスタータモータ131との干渉を避けるように、第2の横断ダクト部材154の前端よりも後側に位置している。さらに、第1の横断ダクト部材152は車体の左右方向における略中央に位置するために、第1の横断ダクト部材152の上側にはラゲッジボックス124の底部と近接する。したがって、パワーユニット113と共に上下に揺動したときにラゲッジボックス124の底部との干渉を避けるように、第1の横断ダクト部材152の上面が、第2の横断ダクト部材154の上面よりも下側に位置している。
【0029】
また、第1の横断ダクト部材152と第2の横断ダクト部材154との境界には、図7に示すように、後斜め上側に延出した後、右側に向かって突出する係止突部156が形成されている。係止突部156はリヤフェンダーの1種であるリヤロアフェンダーと係止可能である。リヤロアフェンダーと係止することで第1の横断ダクト部材152はリヤロアフェンダーと共に、後輪118の跳ね上げた砂や水が前側へ飛散するのを遮断する。
また、第2の横断ダクト部材154の右端は、前側に向かって直交するように屈曲していて、その屈曲した部位の下面には導入部165から浸入した水を外部に排水するための水抜き孔157が形成されている(図6を参照)。
【0030】
次に、前後ダクト部158は、クランクケース115の右部の上側、より正確には、図5に示すような平面視で見て、冷却風カウリング130とオーバラップする位置から、前側に延出するように配置されている。前後ダクト部158は、図4に示すように、ピストンの軸線pと略平行に沿うように、前側に向かうにしたがって僅かに上側に傾いて延出している。前後ダクト部158の前端には、外部から外気を導入ダクト150内に取り込むための導入口167が形成された導入部165が一体的に付設されている。なお、導入部165は外部からより多くの外気を取り込めるように、車体の外側に位置するフレームカバー126に取り付けられている。導入部165の取り付けについては、後述する。
【0031】
一方、前後ダクト部158はラバー製であって、その一部に可撓部159が形成されている。本実施形態の可撓部159は蛇腹状であって、第2の横断ダクト部材154の右端にバンド160により結合されている。可撓部159は、前側に結合されている導入部165と後側に結合されている横断ダクト部151との間の相対変位を吸収する機能がある。すなわち、横断ダクト部151はパワーユニット113と共に上下に揺動するが、導入部165はフレームカバー126に取り付けられているためにパワーユニット113と共に揺動しない。したがって、走行中のパワーユニット113の上下に揺動に応じて、横断ダクト部151と導入部165との間には相対変位が発生する。このとき、横断ダクト部151と導入部165との間の相対変位に応じて可撓部159が撓むことで、横断ダクト部151と導入部165との間の相対変位が吸収される。なお、可撓部159は、蛇腹状であるために少ない外力で容易に撓み可能である上に、ラバー製であるために繰り返しの撓みに対しても耐久性を有している。
【0032】
また、パワーユニット113の揺動に応じて、第2の横断ダクト部材154の右端は、図5に示す揺動面F上を揺動する。このとき、可撓部159および導入部165は揺動面F上に位置しているので、第2の横断ダクト部材154の右端の揺動に合わせて、可撓部159の上部と下部とが揺動面F上で互いに伸縮する。すなわち、可撓部159が揺動面F上を外れて捩れたり、揺動面F上を外れる方向にせん断されることがないので、可撓部159の耐久性をより向上させることができる。
【0033】
また、可撓部159を含む前後ダクト部158の断面外形は、左右寸法(車体の幅方向)が上下寸法よりも短い略楕円形状に形成されている。また、断面内形は、外形を縮小させた略楕円形状に形成されている。断面内形の内部が、Vベルト142を冷却するための外気が通る通路となる。通路は、Vベルト142を冷却するのに必要な外気の量を流動させることができる通路断面積を有している。このように、前後ダクト部158の上下寸法を長くすることにより、クランクケース115およびシリンダアセンブリ114の上側に配置される部品に対して干渉することなく、Vベルト142を冷却させるために必要な通路断面積を広く確保することができる。
【0034】
次に、導入部165は、シリンダアセンブリ114の右側かつ上側でフレームカバー126に取り付けられる。また、導入部165がフレームカバー126に取り付けられた状態では、図3の左側面から見るとベルトケース143の前側かつ上側、図4の右側面から見ると冷却ファンの空気吸入口129の前側かつ上側に位置する。この位置は、前輪108および後輪118間の中央であって、走行面から上側に離間した位置であることから、前輪108および後輪118が巻き上げた埃や水等が到達し難いクリーンな場所である。
【0035】
導入部165は、前後ダクト部158の前端と一体的に結合され、前後ダクト部158と連通する導入ボックス166を有している。導入ボックス166は、ラバー製であって前後ダクト部158の前端から前後ダクト部158の延出方向に沿って細長形状に形成されている。導入ボックス166の右側は、図4に示すように、外部から外気を取り込むための導入口167が開口している。また、導入口167の周縁には、導入ボックス166の外側に張り出すフランジ168が形成されている。フランジ168の外周面は、図5の平面図に示すように、緩やかに湾曲している。この湾曲は、取り付けられるフレームカバー126の内周面の曲率に合わせた形状となっている。また、図4に示すように、フランジ168には、導入ボックス166をフレームカバー126に取り付けるために、それぞれ間隔を開けた複数の取付孔169が形成されている。また、導入口167には、外部から取り入れる外気の量を調整するために、開口の一部を閉塞する仕切り板172が取り付けられている。
【0036】
次に、導入部165の取り付け方法について図9および図10を参照して説明する。図9および図10は、導入部を車体カバーに取り付けた状態をそれぞれ車体の内側および外側から見た斜視図である。
図9に示すように、フレームカバー126の内周面には、導入ボックス166の取付孔169に対応する位置に複数の取付軸175が突設されている。取付軸175をそれぞれ導入ボックス166の各取付孔169に挿入することで、導入ボックス166がフレームカバー126に固定される。なお、フレームカバー126は、図示しない固定ボルトを用いてリアフレーム105に結合される。このように、導入ボックス166はリアフレーム105に結合されたフレームカバー126に取り付けられることから、パワーユニット113と共に揺動する横断ダクト部151との間で相対変位が生じる。
【0037】
また、フレームカバー126には、図10に示すように、導入ボックス166が取り付けられた状態で導入口167と連通する開口部176が形成されている。導入ボックス166がフレームカバー126に取り付けられた状態では、導入口167はフレームカバー126の開口部176と密着している。したがって、導入口167は、フレームカバー126の開口部176から吸入された外気を漏らさず取り込むことができる。なお、図10では、フレームカバー126の開口部176から、導入口167の後側に取り付けられた仕切り板172を視認することができる。
【0038】
上述したように構成される冷却構造を用いて、Vベルトを冷却する動作について説明する。まず、ベルトケース143内に配設されたファン134が回転することで、ベルトケース143内が負圧になるために、車体の右側に配置された導入部165は、導入口167からクリーンな外気を取り込む。導入口167から取り込まれた外気は、導入ボックス166から前後ダクト部158に沿って車体の後側に送られる。その後、外気は横断ダクト部151に沿って、車体の左側に送られた後、車体の左側に配置されたベルトケース143の上側からベルトケース143内に導入される。ベルトケース143内に導入された外気はVベルト142を冷却した後、ベルトケース143内の左側面に形成された排出孔149から外部に排出される。
【0039】
このように、本実施形態によれば、Vベルト142を冷却するために、外気を導入する導入ダクト150の導入部165を、車体の左右方向の一方側に配設されているベルト式自動変速機117の他方側に位置するフレームカバー126に固定しているので、クリーンな場所から外気を導入することができる。したがって、ベルトケース143内に埃や水が吸い込まれることがないので、エアークリーナ等を用いなくとも常にベルト式自動変速機117を良好に作動させることができる。
【0040】
なお、本実施形態では、外気を導入する導入部165を車体カバーとしてフレームカバー126に取り付ける場合について説明したが、この場合に限られず、外気を導入し易い外部に近接した他の車体部品に固定することも可能である。また、本実施形態では、ベルト式自動変速機117を車体の左側に配設し、導入ダクト150の導入口167を車体の右側に配設する場合について説明したが、ベルト式自動変速機117を車体の右側に配設し、導入ダクト150の導入口167を車体の左側に配設してもよい。
【符号の説明】
【0041】
100:自動二輪車 101:ステアリングヘッドパイプ 102:ダウンチューブ 103:アンダーフレーム 104:メインフレーム 105:リアフレーム 110:第1のピボット軸 112:第2のピボット軸 113:パワーユニット 114:シリンダアセンブリ 115:クランクケース 116:エンジン 117:ベルト式自動変速機 118:後輪 120:エアークリーナボックス 121:シート 124:ラゲッジボックス 125:フロントレッグシールド 126:フレームカバー 127:フロントフェンダー 128:リヤフェンダー 131:スタータモータ 140:駆動プーリ 141:従動プーリ 142:Vベルト 143:ベルトケース 144:クランクシャフト 147:ミッション機構 148:後輪軸 149:排出孔 150:冷却ダクト 151:横断ダクト部 152:第1の横断ダクト部材 154:第2の横断ダクト部材 158:前後ダクト部 159:可撓部 160:バンド 165:導入部 167:導入口 168:フランジ 172:仕切り板
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクータ型自動二輪車におけるベルト式自動変速機の冷却構造に関するものである。特に、ベルト式自動変速機のベルトケース内に外気を導入することでベルト式自動変速機のVベルトを冷却させる冷却構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スクータ型自動二輪車において、Vベルトを用いたベルト式自動変速機を備えたものが知られている。ベルト式自動変速機では、プーリとVベルトとの間の摩擦によりVベルトが発熱するため、Vベルトを冷却するための冷却構造が必要になる。従来から、Vベルトを冷却するために冷却ダクトを介してベルト式自動変速機のケース内に外気を導入させる冷却構造が採用されている(例えば、特許文献1および特許文献2を参照)。このような冷却構造において、冷却ダクトの吸入口がベルト式自動変速機の前側あるいは上側に配置される場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4134596号公報
【特許文献2】特許第4190052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、冷却ダクトの吸入口がベルト式自動変速機の前側にある場合、吸入口は車高の低い位置にあるために、前輪の巻き上げた塵や水が冷却ダクトの吸入口から吸い込まれ易く、ベルト式自動変速機にベルト滑り等の問題があった。したがって、吸入口にカバー等を設ける必要があった。
一方、特許文献1のように冷却ダクトの吸入口がベルト式自動変速機の上側にあったり、特許文献2のように車幅方向の中央にあったりする場合、燃料噴射装置など他の部品と干渉してしまう恐れがあり、Vベルトを冷却するための十分な通路断面積を確保することが困難であるという問題があった。
【0005】
本発明は、上述したような問題点に鑑みてなされたものであり、外気を導入する導入ダクトの通路断面積を確保しつつ、導入ダクトの導入口を塵や水の巻き上がりが少ない場所に配置できるベルト式自動変速機の冷却構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、シリンダアセンブリをクランクケースから前傾して延設させたエンジンと前記エンジンの左右方向における一方側から後側に延びて後輪に動力を伝達するベルト式自動変速機とを一体に構成して、車体に対して上下に揺動自在に支持されてなるスクータ型自動二輪車において、前記ベルト式自動変速機のベルトケース内に外気を導入するための導入ダクトの導入口が、前記左右方向における他方側に位置する車体部品に固定されている。
また、前記導入口は、前記ベルト式自動変速機よりも車体の前側に配置されている。
また、前記導入ダクトの一部に可撓部が形成されている。
また、前記可撓部は、車体の前後方向に沿って形成されている。
また、前記導入ダクトは、前記ベルトケースに結合され車体の左右方向に沿って配設される横断ダクト部と、前記横断ダクト部に結合され車体の前側に向かって延設される前後ダクト部と、前記前後ダクト部の前端に結合され、車体の外側に開口する前記導入口が形成された導入部とを有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、外気を導入する導入ダクトの通路断面積を確保しつつ、導入ダクトの導入口を塵や水の巻き上がりが少ない場所に配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本実施形態に係るスクータ型自動二輪車の右側面図である。
【図2A】スクータ型自動二輪車の車体カバーを取り外した左側面図である。
【図2B】スクータ型自動二輪車の車体カバーを取り外した右側面図である。
【図3】本実施形態に係るパワーユニットの左側面図である。
【図4】本実施形態に係るパワーユニットの右側面図である。
【図5】本実施形態に係るパワーユニットの平面図である。
【図6】本実施形態に係るパワーユニットを後側から見た斜視図である。
【図7】本実施形態に係るパワーユニットを前側から見た斜視図である。
【図8】本実施形態に係るパワーユニットを後側かつ上側から見た斜視図である。
【図9】本実施形態に係る車体カバーに導入ダクトを取り付けた状態を示す斜視図である。
【図10】本実施形態に係る導入ダクトの導入口を側方から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面に基づき、本発明に係るベルト式自動変速機の冷却構造を備えたスクータ型自動二輪車の好適な実施形態について説明する。
まず、スクータ型自動二輪車100の全体構成について図1、図2Aおよび図2Bを参照して説明する。図1は本実施形態に係るスクータ型自動二輪車の右側面図である。図2Aおよび図2Bは車体カバー等を取り外した状態の左側面図および右側面図である。なお、各図では、必要に応じて車体の前側を矢印Frにより、車体の後側を矢印Rrによりそれぞれ示し、車体の右側を矢印Rにより、車体の左側を矢印Lにより示す。
【0010】
スクータ型自動二輪車100(以下、自動二輪車という)は、鋼製あるいはアルミニウム合金材からなる複数の車体フレームにより車体骨格が形成されている。具体的には、車体前部には、ステアリングヘッドパイプ101が配設されている。ステアリングヘッドパイプ101の略中央部には、ダウンチューブ102が略後斜め下側に向かって延設されている。ダウンチューブ102の下端付近には、一対のアンダーフレーム103が略後側に向かって延設されている。一対のアンダーフレーム103の略後端のそれぞれには、メインフレーム104が略上側に向かって延設されている。一対のメインフレーム104の上端のそれぞれには、リアフレーム105が結合されている。一対のリアフレーム105は車体後側に亘って、後斜め上側に向かって延設されている。
【0011】
図1に示すように、ステアリングヘッドパイプ101は、フロントフォーク106を回動可能に支持している。フロントフォーク106の上端には操舵のためのハンドルバー107が左右方向に沿って配設され、下端には前輪108が回動可能に支持されている。前輪108はフロントフェンダー127によって覆われている。
【0012】
また、アンダーフレーム103の後端には、エンジンを含むパワーユニットを支持するためのブラケット109が付設形成されている。ブラケット109には、第1のピボット軸110を介してステー111が略後側に向かって配設されている。また、ステー111には、第2のピボット軸112を介して、スイング式のパワーユニット113が支持されている。パワーユニット113は第1のピボット軸110および第2のピボット軸112(主に第2のピボット軸112)を中心にして上下に揺動可能である。
【0013】
図2Aおよび図2Bに示すように、パワーユニット113は、シリンダアセンブリ114およびクランクケース115からなるエンジン116とベルト式自動変速機117とをユニット化したものである。パワーユニット113の詳細は後述する。
ベルト式自動変速機117の後部には、後輪118が回動可能に支持されている。図1に示すように、後輪118は、リヤフェンダー128によって覆われている。ベルト式自動変速機117とリアフレーム105との間には、ショックアブソーバ119によって連結されている。ショックアブソーバ119は、後輪118およびパワーユニット113の上下の揺動を吸収する。
【0014】
後述する図6に示すように、ベルト式自動変速機117の上側にはエアークリーナボックス120が搭載されている。エアークリーナボックス120からの吸気は、燃料と共にシリンダアセンブリ114内に吸入され、燃焼された後、排気ガスとしてマフラー135から排気される。
パワーユニット113の上側には、ライダーが着座するためのシート121が設置されている。また、アンダーフレーム103の上側には、シート121に着座したライダーの足を載せるステップボード122がステップフレーム123(図2Aおよび図2Bを参照)に支持されている。パワーユニット113とシート121との間にはヘルメット等を収容できる収容スペースとしてのラゲッジボックス124が配置されている。
【0015】
車体外観としては、各種車体カバーが車体フレーム等の適所に支持されて被着されることで外観が整えられている。車体の前部には、フロントレッグシールド125がダウンチューブ102の周囲を被覆している。また、車体の中央部から後部には、フレームカバー126がメインフレーム104およびリアフレーム105の周囲を被覆している。フロントレッグシールド125とフレームカバー126とは、上述したステップボード122を介して一体的に連結されている。
【0016】
次に、パワーユニット113の構成について図3〜図5を参照して説明する。図3はパワーユニットの左側面図であり、図4はパワーユニットの右側面図であり、図5はパワーユニットの平面図である。
上述したように、パワーユニット113は、シリンダアセンブリ114およびクランクケース115からなるエンジン116とベルト式自動変速機117とを有している。シリンダアセンブリ114は、図示しないピストンの軸線pがクランクケース115から水平状態に近くまで前傾するように延設されている。シリンダアセンブリ114内のピストンが往復運動することによって、クランクケース115内のクランクシャフトを一方方向に回動させる。クランクシャフトの回動軸cは、図5に示すように、車体の幅方向(左右方向)に指向している。
【0017】
図4に示すように、クランクケース115の右側には、空気吸入口129に面して図示しない冷却ファンが設けられている。冷却ファンはクランクシャフトの右端に軸着され、クランクシャフトと同期して回動する。冷却ファンの外周およびシリンダアセンブリ114は、冷却風カウリング130により覆われていている。したがって、冷却ファンが回動することで、冷却風カウリング130内に外気を取り入れて、強制的にシリンダアセンブリ114を冷却している。
クランクケース115の上側には、エンジン116を始動するときにクランクシャフトを図示しない複数のギアを介して回転させるスタータモータ131が配設されている。
【0018】
クランクケース115の左側には、図3および図5に示すように、ベルト式自動変速機117が後側に向かって延設されている。図5に示す破線内には、ベルト式自動変速機117の構成を抜き出して図示している。図5に示すように、ベルト式自動変速機117は駆動プーリ140、従動プーリ141およびプーリ間に巻回されたVベルト142がベルトケース143内に配置されて構成されている。
【0019】
駆動プーリ140は、ベルトケース143内にまで延出されたクランクシャフト144に軸着されている。駆動プーリ140はクランクシャフト144と同期して回動し、遠心力の増加に応じ内部のウェイトローラが径方向に移動することで駆動プーリ140の有効径が拡大する。逆に、従動プーリ141の有効径が縮小するために、クランクシャフト144の回転速度に応じて無段階に変速されドリブンシャフト145に伝達される。従動プーリ141の左側には、遠心クラッチ146が設けられている。遠心クラッチ146は、クランクシャフト144の低回転域において、従動プーリ141からドリブンシャフト145への回動の伝達を遮断する。
【0020】
ドリブンシャフト145の右側には、図示しない複数のギアを含むミッション機構147が設けられている。ミッション機構147は、ドリブンシャフト145の回動を減速させて後輪軸148に伝達する。このようにベルト式自動変速機117は、クランクシャフト144の回転速度に応じて無段階で自動的に変速させることができる。
さらに、図5に示すように、駆動プーリ140の左端には外部からベルトケース143内に強制的に外気を導入させるためのファン134が一体的に設けられている。また、ベルトケース143の左側面には、図3に示すようにベルトケース143内に導入された外気を外部に排出するための排出孔149が開口している。
【0021】
上述したように構成されるベルト式自動変速機117において、駆動プーリ140および従動プーリ141の有効径が増減するときに、Vベルト142が駆動プーリ140および従動プーリ141を径方向に摺動する。すなわち、Vベルト142と駆動プーリ140および従動プーリ141との間で摩擦が生じ、Vベルト142が発熱する。したがって、ベルト式自動変速機117ではVベルト142を冷却するための冷却構造を必要とする。
【0022】
以下、本実施形態に係るベルト式自動変速機の冷却構造について、説明する。
本実施形態ではベルト式自動変速機117のベルトケース143内に外気を導入することで発熱したVベルト142を冷却する。ベルトケース143内に外気を導入するとき、外気を外部から取り入れるための導入口を配置する必要がある。
このとき、導入口をベルト式自動変速機117の前側に配置することが考えられるが、ベルト式自動変速機117は車高の低い位置にあるために、導入口から前輪108や後輪118が巻き上げた塵や水がベルトケース143内に入り込み易い。
また、導入口をベルト式自動変速機117の前側かつ上側に配置することが考えられる。しかしながら、本実施形態では、図6のパワーユニット周辺の構成を示す斜視図で示すように、ベルト式自動変速機117の上側にはエアークリーナボックス120が配置され、エアークリーナボックス120から前側に向かってエアダクト132が配置されている。したがって、ベルト式自動変速機117の前側かつ上側には部品が多く配置されていて、導入口を大きく取ることができない。
【0023】
そこで、本実施形態では車体の幅方向における左側に配置されているベルト式自動変速機117に対して、反対側の右側に導入ダクト150の導入口167を配置する。導入口167が形成された導入部165からベルト式自動変速機117のベルトケース143までは前後ダクト部158と横断ダクト部151とを用いて外気を送る。以下、導入ダクト150の配置について図3〜図8を参照して詳細に説明する。図7は、パワーユニットを前側から見た斜視図である。図8は、パワーユニットを後側から見た斜視図である。
【0024】
図5、図7および図8に示すように、導入ダクト150は、ベルトケース143の前部かつ上部から車体の幅方向に亘って水平に配設された横断ダクト部151と、横断ダクト部151の右端から直交し車体の前側に向かって略水平に配設された前後ダクト部158と、前後ダクト部158の前端に配設された導入部165を有して構成されている。
横断ダクト部151は、クランクケース115の後部かつ上側で車体を横断するように配置されている。図5に示すように、横断ダクト部151の後縁は、クランクケース115の後縁115aよりも後側になるように配置されている。また、横断ダクト部151の周辺は、前側にスタータモータ131、上側にラゲッジボックス124(図6を参照)、後側に後輪118が密集して配置されている。したがって、横断ダクト部151が配置される空間は、例えばエアークリーナボックス120からシリンダアセンブリ114までの通路用としては狭すぎるが、Vベルト142を冷却させるための通路用としては好適な大きさである。
【0025】
また、横断ダクト部151は、組み立て性や要求される機能に応じた形状に形成できるように複数の部材、ここでは複数の樹脂成形品から構成されている。具体的には、横断ダクト部151は第1の横断ダクト部材152と第2の横断ダクト部材154とが結合されている。
【0026】
図5、図7および図8に示すように、第1の横断ダクト部材152は、ベルトケース143の上部で右側に向かって開口する開口部133に係止部153を介して結合されている。第2の横断ダクト部材154は、第1の横断ダクト部材152の右端に係止部155を介して結合されている。第1の横断ダクト部材152および第2の横断ダクト部材154は、それぞれ下側で図示しない固定ボルトを介してクランクケース115と結合されている。このとき、第1の横断ダクト部材152の下面とクランクケース115の後部上面との間には、隙間を有した状態でクランクケース115に結合されている。したがって、第1の横断ダクト部材152の前側に配置されたスタータモータ131から放熱された周辺の空気を、この隙間を介して後側に排出することができる。
また、第1の横断ダクト部材152および第2の横断ダクト部材154は、上述したようにクランクケース115、すなわちパワーユニット113と一体的に結合されるため、パワーユニット113と共に第1のピボット軸110および第2のピボット軸112を中心にして上下に揺動する。
【0027】
第1の横断ダクト部材152および第2の横断ダクト部材154の断面外形は、上下寸法が前後寸法よりも短い扁平形の略矩形状に形成されている。また、断面内形は、外形を縮小させた扁平形の略矩形状に形成されている。断面内形の内部が、Vベルト142を冷却するための外気が通る通路となる。通路は、Vベルト142を冷却するのに必要な外気の量を流動させることができる通路断面積を有している。このように、横断ダクト部151を扁平形に形成することで、横断ダクト部151がパワーユニット113と共に上下に揺動したときに、ラゲッジボックス124等と干渉することなく、Vベルト142を冷却させるために必要な通路断面積を広く確保することができる。
【0028】
また、図5に示すように、第1の横断ダクト部材152の前端は、前側に配置されているスタータモータ131との干渉を避けるように、第2の横断ダクト部材154の前端よりも後側に位置している。さらに、第1の横断ダクト部材152は車体の左右方向における略中央に位置するために、第1の横断ダクト部材152の上側にはラゲッジボックス124の底部と近接する。したがって、パワーユニット113と共に上下に揺動したときにラゲッジボックス124の底部との干渉を避けるように、第1の横断ダクト部材152の上面が、第2の横断ダクト部材154の上面よりも下側に位置している。
【0029】
また、第1の横断ダクト部材152と第2の横断ダクト部材154との境界には、図7に示すように、後斜め上側に延出した後、右側に向かって突出する係止突部156が形成されている。係止突部156はリヤフェンダーの1種であるリヤロアフェンダーと係止可能である。リヤロアフェンダーと係止することで第1の横断ダクト部材152はリヤロアフェンダーと共に、後輪118の跳ね上げた砂や水が前側へ飛散するのを遮断する。
また、第2の横断ダクト部材154の右端は、前側に向かって直交するように屈曲していて、その屈曲した部位の下面には導入部165から浸入した水を外部に排水するための水抜き孔157が形成されている(図6を参照)。
【0030】
次に、前後ダクト部158は、クランクケース115の右部の上側、より正確には、図5に示すような平面視で見て、冷却風カウリング130とオーバラップする位置から、前側に延出するように配置されている。前後ダクト部158は、図4に示すように、ピストンの軸線pと略平行に沿うように、前側に向かうにしたがって僅かに上側に傾いて延出している。前後ダクト部158の前端には、外部から外気を導入ダクト150内に取り込むための導入口167が形成された導入部165が一体的に付設されている。なお、導入部165は外部からより多くの外気を取り込めるように、車体の外側に位置するフレームカバー126に取り付けられている。導入部165の取り付けについては、後述する。
【0031】
一方、前後ダクト部158はラバー製であって、その一部に可撓部159が形成されている。本実施形態の可撓部159は蛇腹状であって、第2の横断ダクト部材154の右端にバンド160により結合されている。可撓部159は、前側に結合されている導入部165と後側に結合されている横断ダクト部151との間の相対変位を吸収する機能がある。すなわち、横断ダクト部151はパワーユニット113と共に上下に揺動するが、導入部165はフレームカバー126に取り付けられているためにパワーユニット113と共に揺動しない。したがって、走行中のパワーユニット113の上下に揺動に応じて、横断ダクト部151と導入部165との間には相対変位が発生する。このとき、横断ダクト部151と導入部165との間の相対変位に応じて可撓部159が撓むことで、横断ダクト部151と導入部165との間の相対変位が吸収される。なお、可撓部159は、蛇腹状であるために少ない外力で容易に撓み可能である上に、ラバー製であるために繰り返しの撓みに対しても耐久性を有している。
【0032】
また、パワーユニット113の揺動に応じて、第2の横断ダクト部材154の右端は、図5に示す揺動面F上を揺動する。このとき、可撓部159および導入部165は揺動面F上に位置しているので、第2の横断ダクト部材154の右端の揺動に合わせて、可撓部159の上部と下部とが揺動面F上で互いに伸縮する。すなわち、可撓部159が揺動面F上を外れて捩れたり、揺動面F上を外れる方向にせん断されることがないので、可撓部159の耐久性をより向上させることができる。
【0033】
また、可撓部159を含む前後ダクト部158の断面外形は、左右寸法(車体の幅方向)が上下寸法よりも短い略楕円形状に形成されている。また、断面内形は、外形を縮小させた略楕円形状に形成されている。断面内形の内部が、Vベルト142を冷却するための外気が通る通路となる。通路は、Vベルト142を冷却するのに必要な外気の量を流動させることができる通路断面積を有している。このように、前後ダクト部158の上下寸法を長くすることにより、クランクケース115およびシリンダアセンブリ114の上側に配置される部品に対して干渉することなく、Vベルト142を冷却させるために必要な通路断面積を広く確保することができる。
【0034】
次に、導入部165は、シリンダアセンブリ114の右側かつ上側でフレームカバー126に取り付けられる。また、導入部165がフレームカバー126に取り付けられた状態では、図3の左側面から見るとベルトケース143の前側かつ上側、図4の右側面から見ると冷却ファンの空気吸入口129の前側かつ上側に位置する。この位置は、前輪108および後輪118間の中央であって、走行面から上側に離間した位置であることから、前輪108および後輪118が巻き上げた埃や水等が到達し難いクリーンな場所である。
【0035】
導入部165は、前後ダクト部158の前端と一体的に結合され、前後ダクト部158と連通する導入ボックス166を有している。導入ボックス166は、ラバー製であって前後ダクト部158の前端から前後ダクト部158の延出方向に沿って細長形状に形成されている。導入ボックス166の右側は、図4に示すように、外部から外気を取り込むための導入口167が開口している。また、導入口167の周縁には、導入ボックス166の外側に張り出すフランジ168が形成されている。フランジ168の外周面は、図5の平面図に示すように、緩やかに湾曲している。この湾曲は、取り付けられるフレームカバー126の内周面の曲率に合わせた形状となっている。また、図4に示すように、フランジ168には、導入ボックス166をフレームカバー126に取り付けるために、それぞれ間隔を開けた複数の取付孔169が形成されている。また、導入口167には、外部から取り入れる外気の量を調整するために、開口の一部を閉塞する仕切り板172が取り付けられている。
【0036】
次に、導入部165の取り付け方法について図9および図10を参照して説明する。図9および図10は、導入部を車体カバーに取り付けた状態をそれぞれ車体の内側および外側から見た斜視図である。
図9に示すように、フレームカバー126の内周面には、導入ボックス166の取付孔169に対応する位置に複数の取付軸175が突設されている。取付軸175をそれぞれ導入ボックス166の各取付孔169に挿入することで、導入ボックス166がフレームカバー126に固定される。なお、フレームカバー126は、図示しない固定ボルトを用いてリアフレーム105に結合される。このように、導入ボックス166はリアフレーム105に結合されたフレームカバー126に取り付けられることから、パワーユニット113と共に揺動する横断ダクト部151との間で相対変位が生じる。
【0037】
また、フレームカバー126には、図10に示すように、導入ボックス166が取り付けられた状態で導入口167と連通する開口部176が形成されている。導入ボックス166がフレームカバー126に取り付けられた状態では、導入口167はフレームカバー126の開口部176と密着している。したがって、導入口167は、フレームカバー126の開口部176から吸入された外気を漏らさず取り込むことができる。なお、図10では、フレームカバー126の開口部176から、導入口167の後側に取り付けられた仕切り板172を視認することができる。
【0038】
上述したように構成される冷却構造を用いて、Vベルトを冷却する動作について説明する。まず、ベルトケース143内に配設されたファン134が回転することで、ベルトケース143内が負圧になるために、車体の右側に配置された導入部165は、導入口167からクリーンな外気を取り込む。導入口167から取り込まれた外気は、導入ボックス166から前後ダクト部158に沿って車体の後側に送られる。その後、外気は横断ダクト部151に沿って、車体の左側に送られた後、車体の左側に配置されたベルトケース143の上側からベルトケース143内に導入される。ベルトケース143内に導入された外気はVベルト142を冷却した後、ベルトケース143内の左側面に形成された排出孔149から外部に排出される。
【0039】
このように、本実施形態によれば、Vベルト142を冷却するために、外気を導入する導入ダクト150の導入部165を、車体の左右方向の一方側に配設されているベルト式自動変速機117の他方側に位置するフレームカバー126に固定しているので、クリーンな場所から外気を導入することができる。したがって、ベルトケース143内に埃や水が吸い込まれることがないので、エアークリーナ等を用いなくとも常にベルト式自動変速機117を良好に作動させることができる。
【0040】
なお、本実施形態では、外気を導入する導入部165を車体カバーとしてフレームカバー126に取り付ける場合について説明したが、この場合に限られず、外気を導入し易い外部に近接した他の車体部品に固定することも可能である。また、本実施形態では、ベルト式自動変速機117を車体の左側に配設し、導入ダクト150の導入口167を車体の右側に配設する場合について説明したが、ベルト式自動変速機117を車体の右側に配設し、導入ダクト150の導入口167を車体の左側に配設してもよい。
【符号の説明】
【0041】
100:自動二輪車 101:ステアリングヘッドパイプ 102:ダウンチューブ 103:アンダーフレーム 104:メインフレーム 105:リアフレーム 110:第1のピボット軸 112:第2のピボット軸 113:パワーユニット 114:シリンダアセンブリ 115:クランクケース 116:エンジン 117:ベルト式自動変速機 118:後輪 120:エアークリーナボックス 121:シート 124:ラゲッジボックス 125:フロントレッグシールド 126:フレームカバー 127:フロントフェンダー 128:リヤフェンダー 131:スタータモータ 140:駆動プーリ 141:従動プーリ 142:Vベルト 143:ベルトケース 144:クランクシャフト 147:ミッション機構 148:後輪軸 149:排出孔 150:冷却ダクト 151:横断ダクト部 152:第1の横断ダクト部材 154:第2の横断ダクト部材 158:前後ダクト部 159:可撓部 160:バンド 165:導入部 167:導入口 168:フランジ 172:仕切り板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダアセンブリをクランクケースから前傾して延設させたエンジンと前記エンジンの左右方向における一方側から後側に延びて後輪に動力を伝達するベルト式自動変速機とを一体に構成して、車体に対して上下に揺動自在に支持されてなるスクータ型自動二輪車において、
前記ベルト式自動変速機のベルトケース内に外気を導入するための導入ダクトの導入口が、前記左右方向における他方側に位置する車体部品に固定されていることを特徴とするベルト式自動変速機の冷却構造。
【請求項2】
前記導入口は、前記ベルト式自動変速機よりも車体の前側に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のベルト式自動変速機の冷却構造。
【請求項3】
前記導入ダクトの一部に可撓部が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のベルト式自動変速機の冷却構造。
【請求項4】
前記可撓部は、車体の前後方向に沿って形成されていることを特徴とする請求項3に記載のベルト式自動変速機の冷却構造。
【請求項5】
前記導入ダクトは、
前記ベルトケースに結合され車体の左右方向に沿って配設される横断ダクト部と、
前記横断ダクト部に結合され車体の前側に向かって延設される前後ダクト部と、
前記前後ダクト部の前端に結合され、車体の外側に開口する前記導入口が形成された導入部とを有することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載のベルト式自動変速機の冷却構造。
【請求項1】
シリンダアセンブリをクランクケースから前傾して延設させたエンジンと前記エンジンの左右方向における一方側から後側に延びて後輪に動力を伝達するベルト式自動変速機とを一体に構成して、車体に対して上下に揺動自在に支持されてなるスクータ型自動二輪車において、
前記ベルト式自動変速機のベルトケース内に外気を導入するための導入ダクトの導入口が、前記左右方向における他方側に位置する車体部品に固定されていることを特徴とするベルト式自動変速機の冷却構造。
【請求項2】
前記導入口は、前記ベルト式自動変速機よりも車体の前側に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のベルト式自動変速機の冷却構造。
【請求項3】
前記導入ダクトの一部に可撓部が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のベルト式自動変速機の冷却構造。
【請求項4】
前記可撓部は、車体の前後方向に沿って形成されていることを特徴とする請求項3に記載のベルト式自動変速機の冷却構造。
【請求項5】
前記導入ダクトは、
前記ベルトケースに結合され車体の左右方向に沿って配設される横断ダクト部と、
前記横断ダクト部に結合され車体の前側に向かって延設される前後ダクト部と、
前記前後ダクト部の前端に結合され、車体の外側に開口する前記導入口が形成された導入部とを有することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載のベルト式自動変速機の冷却構造。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2012−47303(P2012−47303A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−191242(P2010−191242)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】
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