説明

ベンゾジアゼピンレセプターのアルファ3サブユニットに対する選択性を有する化合物を用いて中枢神経系障害を治療または予防する方法

本願発明は、うつ、不安、運動障害、ならびに特に失調症および精神障害、ならびに特に統合失調症およびその他の精神障害に関連する精神病症状を含む中枢神経系障害の治療または予防を目的とした、4位に二基置換のアミンラジカルを含む1−アリール(アルキル)イミダゾリン−2−オンの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明の属する分野
本願発明は、精神異常および特に統合失調症、ならびにうつ、不安および失調症を含む中枢神経系障害の治療または予防を目的とした4位に二基置換のアミンラジカルを含む1−アリール(アルキル)イミダゾリン−2−オンの使用、ならびに、これらおよびその他の作動物質であって、アルファ3サブユニットを含むベンゾジアゼピンレセプターに対してサブタイプ選択的なリガンドの使用に関するものである。
【0002】
発明の背景
中枢神経系障害は重篤な精神障害であり、日常生活に著しく支障をきたすものである。例えば、世界人口の約1%が統合失調症に罹患しているが(Capuanoら、2002年)、多くは生涯に渡る治療を暗示する30歳以前に発症している(Benes、1993年)。
【0003】
精神病(精神疾患)、特に統合失調症は異質の症状を示す(American Psychiatric Association、1994年)。本症状は二つの側面(画分)に分かれる。統合失調症は急性期には幻覚(外的刺激がない状態における知覚)および妄想(誤りであり、固定化されており、そして異常な信念)、例えば被害妄想が主症状となる。患者は激越し、現実との関係を絶つ。これらは陽性症状と呼ばれる(DavidsonおよびNeale、1988年;Bailerら、1999年)。激越相が和らぐと、いわゆる陰性症状が明らかとなってくる。本症状には、認知障害、注意力の低下、言語学習および記憶、発語の流暢さ、運動機能、ワーキングメモリの欠如のみならず、無関心や倦怠感も含まれる。患者らは不安定かつ不安である(DavidsonおよびNeale、1988年;Bailerら、1999年)。
【0004】
種々の抗精神病薬が入手可能であるものの、現在の精神病治療が充分なものだとはいえない。ドーパミンD2レセプターに対し高い親和性を持つ古典的な抗精神病薬は激しい運動障害と鎮静副作用を示す(Nybergら、2002年)。古典的な抗精神病薬の最も有名な原型であり、今もなお一次治療に使用される薬剤はハロペリドールである(Capuanoら、2002年)。本剤のネガティブな副作用により、また、本剤は統合失調症の陽性急性症状を減じるものの、陰性症状を減じるものではないという現実により、本剤が患者を日常生活へと戻すことは不可能である。
【0005】
この現実が、いわゆる非定型抗精神病薬と呼ばれる新規な抗精神病薬の開発を導いた。これらは、低いドーパミンD2レセプター親和性と、セロトニンレセプターサブタイプ5−HT2をターゲットとして、より多様なレセプター親和性プロフィールとを示す(SawaおよびSnyder、2002年)。本剤のレセプター親和性プロフィールにおける変化により、運動障害の副作用が減じられたが、その副作用は激しい体重増加、性的障害、認知機能障害、快感消失(無快感症)などの問題へと移行した。統合失調症の陽性および陰性症状双方の改善を行なうが、運動障害の副作用を呈さない標準治療薬として登場したクロザピンは、死に至る可能性を有する主要な副作用として顆粒球減少症を示している(Capuanoら、2002年)。何より、治療に抵抗を示す患者が未だに多数存在している(Lindenmayerら、2002年)。
【0006】
統合失調症の原因および抗精神薬、ならびに特に非定型抗精神病薬の作用機序は充分に解明されていない。遺伝的形質におけるポリジーンな態様であるように考えられる一方で、非遺伝的な要因によっても制御されている(Prasadら、2002年)。疫学的、遺伝的、ならびに臨床的な神経生物学上のエビデンスによれば、脳内における異常の進行が統合失調症の病態生理において決定的な役割を演じることが示唆されている(Arnold、1999年)。
【0007】
統合失調症の主要な仮説はドーパミン作動系の機能不全に起因する。したがって、急性の精神病症状はドーパミン作動薬による刺激を受ける可能性があり(Capuanoら、2002年)、先に記述したように、ハロペリドールのような古典的な抗精神薬はドーパミンD2レセプターに対して高い親和性を有する(Nybergら、2002年)。しかしながら、非定型抗精神薬の作用機序は、統合失調症の進行に関与するさらに別の神経伝達物質が存在することを示唆している。標準抗精神病薬であり、統合失調症における陽性および陰性症状の双方を改善する唯一の薬剤であるクロザピンは、ドーパミンD2レセプターに対する高親和性を呈さない(Gerlach、2002年)。例えば、統合失調症の病態生理に関与するもうひとつの神経伝達物質はセロトニンである(SawaおよびSnyder、2002年)。
【0008】
グルタミン酸作動性神経伝達物質系もまた、統合失調症の進行に関与しているようである。したがって、フェンシクリジンおよびケタミンのようなNMDA拮抗薬は、ヒトおよびげっ歯類における統合失調症状を刺激することが可能である(Abi−Saabら、1998年;Lahtiら、2001年)。統合失調症の陽性段階における激越・衝動行動のみならず陰性段階における認知障害を再現したことから、NMDAアンタゴニスト(拮抗薬)をベースとする精神病の動物モデルは、ドーパミン作動性モデルに対して優れている(Abi−Saabら、1998年;JentschおよびRoth、1999年)。したがって、このモデルは抗精神病薬としての効力を有する新薬を特定するために使用することが出来る。
【0009】
多くの中枢神経系疾患の原因の解明には程遠いものではあるが、神経伝達物質セロトニン(5−HT)が、多くの中枢神経系疾患において重要な役割を演じることが発見されている。うつおよび不安といった複雑な情動状態が、一種類の神経伝達物質によって誘発される平衡失調(アンバランス)へと単独で変化され得るわけではないが、5−HT神経伝達物質系における疾患は、うつおよび不安の進展に顕著に関与するものであると一般的に認識されている(Graeffら、1996年)。したがって大うつ病性障害およびエピソード、躁病性、混合性および軽躁病性気分エピソード、非定型性、緊張性または憂鬱性のうつ病エピソード、出産後に発現した月経前不快気分障害のうつ病エピソード、小うつ病性障害、外傷後および急性ストレス障害など、うつ病における可変性の臨床型とは独立して、うつ病患者は、脳脊髄液における5−HTの著しい減少ならびに患者中枢5−HT系における付加的な変性を示す(OwensおよびNemeroff、1994年)。うつ病に潜むメカニズムは、単なる5−HTレベルの減少あるいはこの系の機能の低下に比べ、もっと複雑であることは間違いなく(DelgadoおよびMoreno、1999年)、うつ病にセロトニン作動システムが関与していることは、例えば選択的セロトニン再取込み阻害剤(SSRI)などの薬剤の、脳内における細胞外5−HT濃度の増加といった治療効果によって最も顕著に示される。したがって、SSRIは、フルオキセチンあるいはシタロプラムと同様に、大うつ病性障害、強迫神経症を含むうつ病の各種サブグループおよび摂食障害の患者に有効であると記述されている(StokesおよびHolz、1997年)。セロトニン、ドーパミンおよびノルアドレナリンのレベルを同時に上昇させて広がりを(extent)変化させ、すなわちより多くの副作用を示す非選択的モノアミン再取込み阻害剤に比べ、SSRIは中枢神経系疾患の治療において相当な進歩であると認められたことを特記することは重要である。
【0010】
さらに、例えばSSRIによって脳内の細胞外5−HT濃度を長期間にわたって増加させることは、動物およびヒトにおける不安を減少させる可能性がある(Jonesら、2002年;StokeおよびHoltz、1997年)。したがって、SSRIであるフルオキセチンは、種々の不安障害の治療に使用され(Nuttら、1999年)、パニック障害、広場恐怖症、特定恐怖症、対人恐怖症および全般性不安障害において5−HTレベルを増強することによる付加的な調節作用が示唆される。薬理作用が神経伝達物質のレベルの増加により仲介され、その結果それぞれのレセプターの活性が増強されること、また、これは取込みを行なうトランスポーターの特異的な阻害の介在によるものではないことは明白である。しかしながら、SSRIのような脳内の5−HTレベルを増加する化合物において、抗不安作用および抗うつ作用の発現が遅いことは、これらの薬剤の治療上効果の限定要因となっている(Nuttら、1999年)。自殺の恐れが高い者が、治療薬が抗うつ作用、抗精神病作用および/または抗不安作用を呈示するまでの3週間を待つことは不可能である。
【0011】
SSRIとは反対に、ベンゾジアゼピンの抗不安作用は速やかに発現する(CostaおよびGuidotti、1996年)。しかしながら、ベンゾジアゼピンの作用に対する耐性の形成および薬物依存のリスクにより長期投与が制限されていることから、これらを治療のために使用することは比較的短期間に限定されている(CostaおよびGuidotti、1996年)。
【0012】
したがって、ベンゾジアゼピンに対する作用の急速な発現およびSSRIにおける長期的な効果という、両メカニズムを併せ持つ治療薬は、不安障害およびうつ病の治療を非常に進展させるであろう。
【0013】
中枢神経系疾患におけるその他の態様はジストニア(ジストニー、筋失調症)である。ジストニアは自発運動の調節に対する中枢神経系の機能不全に基づく運動障害であり、以前はpsychovegetativeシンドロームとしても知られていた。これは、不随意の繰り返し運動と、痛みを伴う筋けいれんを部分的に併せ持つ姿勢異常とによって特徴付けられる(Green、1992年;FriedmanおよびStandaert、2001年;HamannおよびRichter、2002年)。ジストニアのサブタイプにしたがい、症状は局所性から全身性のジストニア発作へと広がる。幼少期における局所性の発作が発端となった進行型もある。全ての年齢の人々が発症し得る。ドイツでは、ジストニア発作の患者は約80,000名である(DDG eV、2002年)。
【0014】
症状の分布に基づき、ジストニアはいくつかのサブタイプへと分けられる:局所性ジストニア、多発性−局所性または節性ジストニア、捻転ジストニア、半側性、全身性ならびに遅発性のジストニア。局所性ジストニアには頸部ジストニア(斜頸)、眼瞼痙攣(瞼の痙攣)、四肢ジストニア(書痙のような四肢の痙攣)、口顎ジストニアおよび痙攣性発生障害(声帯の痙攣)(DDG eV、2002年;FriedmanおよびStandaert、2001年)。
【0015】
現在、いくつかの特殊型を除き、ジストニアの治療には、対症療法に主眼が置かれている。限局性ジストニアはボツリヌス毒素を用いて、非常に首尾よく治療を行うことが可能である(Hsuiung GYら、2002年)。ボツリヌス毒素を病巣部分に局所的に投与すると筋肉の弛緩が生じ、これが数週間続く。この処置を定期的に繰り返さねばならない。この治療法の弱点は、患者によっては毒素に対して生じた抗体により対毒素耐性が形成されてしまい、身体のさらに広い範囲に病巣が広がるとこれを使用することが出来なくなってしまう(Dresslerら、2002年;Hsiungら、2002年)。
【0016】
節性および全身性ジストニアへの体系的な薬物療法は、満足のいくものとはいえない。これには抗コリン作用薬、ならびに前シナプス性に作用するGABABアゴニストであり、ジストニア症状に好ましい影響を与えることが報告されたバクロフェンが含まれる(Fahn、1987年;Green、1992年;Rawicki、1999年)。ジストニアに対する抗痙攣薬の効果には一貫性が見られず、フェノバルビタールおよびラモトリジンはプロジストニック(pro−dystonic)な効果を有すると思われるが、一方、ガバペンチンは抗ジストニック(anti−dystonic)である(RicherおよびLoescher、1999年;RichterおよびLoescher、2000年;Siepら、2002年)。
【0017】
淡蒼球への脳深層部電気刺激といった重篤なジストニーに対する外科的治療は、今だ開発の非常に初期段階にあり、特定型のジストニアでのみ成功に至っている。最も多くの場合、付加的な体系的薬物療法が必要である(KrackおよびVercueil、2001年;Vercueilら、2002年;KleinおよびOzelius、2002年)。
【0018】
ジストニアのメカニズムは充分に解明されていない。大脳基底核の機能不全に対する多数の手がかりは存在している(Gernertら、2002年;Herreroら、2002年)。体性求心性情報を統合し、これらの運動系への伝達を調整するメカニズムが損傷しているものと考えられている(Herreroら.、2002年)。ジストニアは脳損傷または脳梗塞によって起こり得るものではあるが、約80%の全身性ジストニアは特発性であり、異なる度合いの浸透度を有する遺伝性のものであると思われる(PaulsおよびKorczyn、1990年)。現在、13種の異型ジストニアが遺伝的に識別されている(ジストニア1−13型)(KleinおよびOzelius、2002年)。全身性ジストニアの希少なサブタイプ3種に対し、例えばL−ドーパ反応型の遺伝子突然変異が確認された(Thyagarajan、2001年)。
【0019】
発作性ジストニアのハムスター遺伝モデルは、ジストニアの動物モデルとして確立された希少なもののひとつである(HamannおよびRichter、2002年)。
【0020】
不安障害は、世界規模での発生率の増加により非常に一般的になっている。抗不安効果を速やかに発現するベンゾジアゼピンは、いまだに不安障害の治療に最も効果的な薬剤であるとみなされている。しかしながら、運動失調、鎮静、骨格筋弛緩、エタノールおよびバルビツール酸系催眠薬の相互作用による記憶喪失などの望ましくない副作用をも示す。主な問題として、これらの治療効果に対する耐性の発現および薬物乱用の可能性もある(CostaおよびGuidotti、1996年;Atack、2003年)。
【0021】
上述の通り、不安障害の治療に使用される薬剤類は、選択的セロトニン再取込み阻害剤(SSRI)である。これらの薬剤は抗うつ病薬として充分に確立されており、耐性や薬物乱用などのベンゾジアゼピンの持つ主要な副作用を誘発しないが、遅延性の抗不安作用および抗うつ作用は、治療上の有効性における限定要因である(Nuttら、1999年)。その上、これらの治療上の使用は、患者を治療中止へと導きかねない体重増加および性的障害の影響を受ける(Pernaら、2001年)。ベンゾジアゼピンレセプターリガンドとSSRIとの、両者のポジティブな作用の組み合わせは、理想的な抗不安薬に対するテンプレートとして役立つであろう。要するに、理想的な抗不安薬に対する需要は未だに高いのである。
【0022】
GABAレセプターにおけるベンゾジアゼピン認識部位に結合する薬剤の、これらの主要な副作用、すなわち鎮静作用、を軽減するためのひとつの試みは、特定のGABAレセプターサブタイプに対して非常に選択的な薬剤を開発することであろう(CostaおよびGuidotti、1996年)。ここ数年の薬理学的、遺伝学的研究によって、各種α−サブユニットが、ベンゾジアゼピンによって誘発されるそれぞれの行動症状の原因であることが解明された(Atack、2003年)
これまでに、レセプターを含むアルファ1−サブユニットが、ベンゾジアゼピンの鎮痛および抗痙攣作用を仲介することが記載されている(CostaおよびGuidotti、1996年;Crestaniら、2000年;Dubinskyら、2002年)。アルファ5−サブユニットを含むGABAレセプターはベンゾジアゼピンにより誘発される記憶喪失に関与するはずであるが、一方、レセプターを含むアルファ2−およびアルファ3−サブユニットは、これらの化合物類の抗不安効果に関与すると思われる(CostaおよびGuidotti、1996年;Lowら、2000年;Dubinskyら、2002年)。
【0023】
しかしながら、ベンゾジアゼピンのサブタイプの特定の効果は充分には解明されておらず、それぞれのサブユニットの役割については、物議を醸す論議が今もなお続いているが、各々のアルファサブユニットに加えて、各々のベータおよびガンマサブユニット、その他のサブユニットもまた報告されると共に多様性の一因となっているという事実によって、これはさらに複雑なものとなっている。例えば、ベンゾジアゼピンの鎮静作用は、レセプターサブタイプ(受容体サブタイプ)を含むアルファ1−サブユニットによって排他的に仲介されるわけではなく、その他のメカニズムによっても仲介されるものであり、そしてアルファ1−サブユニットは単独で運動失調症において主要な役割を演じることが複数の研究結果に示されている(Plattら、2002年)。Tauberら(2003年)は、ジアゼパムおよびエタノールの同時投与による正向反射の消失はアルファ2−サブユニット突然変異マウスでは見られなかったが(レセプター活性の消失と併せて)、両化合物の投与に起因する自発運動の低下(鎮静の兆候)は、アルファ1−、アルファ2−、アルファ3−およびアルファ5−サブユニット突然変異マウスで見られた。脳内で不均一に発現している種々のベンゾジアゼピンレセプターサブタイプの作用に関する知識が欠落している主な理由は、種々のサブタイプに対するサブタイプ選択性が非常に高いリガンドが存在しないからである。しかしながら、アルファサブユニット欠損型の遺伝子改変マウスでは、ベンゾジアゼピン作用の仲介が不可能であることを基盤とした上述の研究結果がもとになって、多くの企業が、アルファ2およびアルファ3サブユニットの双方に選択性を有し、アルファ1サブユニットに対する活性を減じたベンゾジアゼピンレセプターリガンドを開発するための研究プログラムを既に開始している(Lowら、2000年;Griebelら、2001年)。記載されているそのような類の化合物はわずかであり、サブタイプの選択性の度合いはどちらかといえば限りがあると思われる。機能的選択性は、各レセプターの部分アゴニズムの割合の違いにより達成される。例えば、SL651498という物質は、アルファ1およびアルファ5含有レセプターに対しておよそ40〜50%の部分アゴニズム活性、一方、アルファ2レセプター対して100%の部分アゴニズム活性、そしてアルファ3レセプターに対して70%の活性で作用することが示された。実際、これが機能的サブタイプ選択性をもたらしているかもしれないが、レセプターの活性化の割合が高いことを要件とする薬理効果に関してのみである。50%未満の活性化を要件とする作用に対しては、Griebelら、2001年の文献の第2図に見られるように、これらの化合物は非選択性アゴニストのように働くであろう。その議論は、どの作用にどういった割合のレセプター活性化が必要であるのかということが不足しているが、イミダゼニルなどの非選択性アゴニストが患者に鎮静作用をもたらすことが判った(Attack、2003年)。したがって、アルファ1サブユニットを選択しない、という意図された選択性を機能的部分アゴニズムストラテジーがもたらすことが出来るか否かについては疑問が残る。この事実にもかかわらず、他者も同様のアプローチを用いている(Dawson、1998年;McKernan、1998年)。Merck社の研究開発プログラムに基づくNS2710および臨床段階にある未公開の新規化合物(Adis Data Information、2003年;Goodacreら、2002年;Chambersら、2001年)は、期待された臨床プロフィールをもたらすことはなく、鎮静作用を示すことが判明すると共に、常習性をもたらす可能性があった(Atack、2003年)。これらの結果をまとめると、とりわけサブタイプ選択性の高い、新規ベンゾジアゼピンレセプターリガンドの開発には、これまでに大きな進歩は見られない。さらに、疾患の生理機能、病態生理機能における各種サブユニットの役割に関する知見は非常に限られたものであるが、これもまた選択性化合物が存在しないことによるものである。サブユニットであるアルファ1およびアルファ2の役割に関する知見は、少なくともいくらかの研究の目指すところであったが、むしろ脳内で選択的に分布するサブユニットであるアルファ3サブユニットはさらに未知の部分が多い。現在までにアルファ3サブユニットに対して何らかの選択性を有するリガンドは得られておらず、上述の薬剤は全て、アルファ1サブユニットの特定の割合に対して非選択性を示し、アルファ2とアルファ3サブユニットとの組み合わせに対して選択性を有するように設計されたものであり、せいぜい幾らかの選択性を示す程度である。アルファ3−サブユニットを含有するレセプターに関しては、わずかな研究が行われているのみである。免疫細胞科学的研究において、線条体、隔膜および大脳脚橋核のコリン作動性ニューロンならびに黒質ち密部のドーパミン作動性ニューロンではアルファ3−サブユニットが多量に発現されるが、これらの細胞はアルファ2−サブユニットをわずかに発現するのみである、と記述されている(Rodriguez−Pallaresら、2001年)。黒質ち密部のドーパミン作動性ニューロンにおいて、アルファ3サブユニットは主にアルファ4サブユニット(アルファ4サブユニットはベンゾジアゼピンへの感受性を持たない、)を伴っているようであったが、アルファ2−サブユニットのmRNAは発見されなかった(Guionら、1999年)。青斑核のノルアドレナリン作動性ニューロンは、アルファ3−およびアルファ2サブユニットに対する免疫反応性を持つと記述されている。これらの脳内領域は全てアルファ1−サブユニットに対する免疫反応性を有していた(Rodriguez−Pallaresら、2001年)。
【0024】
同様に、縫線のセロトニン作動性ニューロンは、アルファ3−サブユニットを高レベルで標識することが示されたが、アルファ2サブユニットを発現するニューロンはわずかであるにすぎない(Rodriguez−Pallaresら、2001年)。さらに、Gaoら(1993年)は、縫線のセロトニン作動性ニューロンの大部分は、強力なアルファ3−サブユニット免疫反応性を発現するものの、これらはアルファ1−サブユニット染色性ではないが、両サブユニットは縫線のGABAergニューロン内に存在する。しかしながら、これら全ては染色試験による研究であり、アルファ3−サブユニットを通じて仲介される薬理作用に関して何ら明確な見解を示すものではない。
【0025】
GABAアゴニストであるムシモールおよびGABA拮抗薬(アンタゴニスト)であるビククリンを背側および内側縫線に局所投与した場合の、局所および側座核細胞外5−HTレベルに対する効果が、微小透析法の研究において確認された(TaoおよびAuerbach、2000年)。このことは、GABAレセプターを含むアルファ3−サブユニットは、セロトニン作動性の神経伝達物質に関連する可能性があることを示唆している。
【0026】
本願発明の説明
上記に鑑み、精神病性障害、うつ病、不安障害および失調症のような運動障害を含む中枢神経系疾患の現在の治療方法および治療可能性は不十分であると共に少なくとも部分的に重篤な副作用を示すことは明らかである。
【0027】
したがって、本願発明のひとつの目的は、哺乳動物において、このような中枢神経系疾患の治療または予防のさらなる可能性を提供すること、とりわけヒトへの使用を目的とする治療法を提供することである。
【0028】
本願発明の第一の主題によれば、少なくとも一種以上の、式(I)
【0029】
【化1】

[式中、Xは水素、C1−4−アルキル、C1−4−アルコキシ、トリフルオロメチル、またはハロゲン残基であり、RおよびRはそれぞれ独立してC1−4−アルキル、C3−10−シクロアルキルまたはC3−10−ヘテロアルキル残基であるか、あるいはRおよびRは共にC2−6アルキレン残基であって、その−CH−基は任意に酸素、窒素、または硫黄により置換され、nは0または1であり、mは0または1〜5の基数である]に示される1−アリール(アルキル)イミダゾリン−2−オンの有効量を患者に投与することによる、精神病性障害、うつ病、不安障害ならびに運動障害および/または他の精神障害に関連する精神病症状を含む中枢神経系疾患の治療ならびに予防の方法により、課題が解決された。
【0030】
本願発明によれば、驚くべきことに式Iの化合物は以下の中枢神経系疾患の治療に非常に有効であることが解った。
1.精神病および精神病エピソード
さまざまなタイプの統合失調症(例えば、妄想型、解体型、緊張型、未分化型、または残遺統合失調症)および躁うつ病のような双極性気分障害ならびに統合失調症の精神病後の抑うつ障害。精神病エピソードは、統合失調症様障害、統合失調性感情障害、妄想性障害、(例えば、アルコール、アンフェタミン、大麻、コカイン、幻覚剤、吸入剤、オピオイドまたはフェンシクリジンなどにより誘発される)物質誘発性精神病性障害;(例えば境界性人格障害などの)人格障害、例えば不適応による攻撃などの衝動性障害;双極性障害および注意欠陥、多動性障害(AD/HD)ならびに(例えばアルコール、アンフェタミン、コカインまたは麻薬依存症などの)乱用および依存症
2.気分障害および気分エピソード
大うつ病性障害およびエピソード、躁病性・混合性および軽躁病性気分障害、非定型性・緊張性または憂うつに特徴付けられるうつ病エピソード、出産後に発現した月経前不快気分障害によるうつ病エピソード、小うつ病性障害、外傷後の急性ストレス障害、強迫神経症および摂食障害を有する患者。
3.不安障害および不安エピソード
慢性の不安障害、パニック障害、広場恐怖症、特定恐怖症、対人恐怖症および全般性不安障害。
4.主に基底核の機能不全に関連する運動障害
例えば局所性ジストニア、多形の(multiple)局所性または部分性ジストニア、捻転ジストニア、半側性、全身性ならびに遅発性のジストニア(精神薬理学的薬剤により誘発される)。局所性ジストニアには頸部ジストニア(斜頸)、眼瞼痙攣(瞼の痙攣)、四肢ジストニア(書痙のような四肢の痙攣)、口顎ジストニアおよび痙攣性発生障害(声帯の痙攣)ならびに発作性ジストニアなどのさまざまなタイプのジストニアが含まれる。
【0031】
式(I)の化合物は、てんかん性疾患の治療に好適な物質としてWO97/09314号に初めて記載された。驚くべきことに、これらの物質は、上記疾患のような(ただしこれらに限定されることなく)中枢神経系疾患に有効な治療または予防のために使用することが可能である。本化合物は哺乳動物の治療、特にヒトへの使用のために用いることが可能である。
【0032】
本願発明により使用される本化合物のCH基の数は0(1−アリールイミダゾリン−2−オン)または1(1−アラルキルイミダゾリン−2−オン)のいずれかである。式(I)の化合物の例には、以下のものが含まれる。
1−フェニル−4−モルホリノイミダゾリン−2−オン
1−(4−メトキシ)−4−ピペリジノイミダゾリン−2−オン
1−(4−クロロフェニル)−4−モルホリノイミダゾリン−2−オン
1−(4−クロロフェニル)−4−ピペリジノイミダゾリン−2−オン
1−(4−クロロフェニル)−4−ジメチルアミノイミダゾリン−2−オン
1−(4−ブロモフェニル)−4−モルホリノイミダゾリン−2−オン
1−(3−クロロフェニル)−4−モルホリノイミダゾリン−2−オン
1−(4−クロロフェニル)−4−ヘキサメチレンイミダゾリン−2−オン
1−(4−メチルフェニル)−4−モルホリノイミダゾリン−2−オン
1−(4−クロロフェニル)−4−(シクロヘキシルメチルアミノ)イミダゾリン−2−オン
1−(4−フルオロフェニル)−4−モルホリノイミダゾリン−2−オン、および
1−ベンジル−4−モルホリノイミダゾリン−2−オン。
【0033】
本願発明の方法に用いるこの物質は、US5,869,481号に記載の方法により調整することが出来る。
【0034】
本願発明によれば、薬剤としての使用に特に好ましい化合物は、1−(4−クロロフェニル)−4−ピペリジノイミダゾリン−2−オンである(ELB139;IB−命名法:1−(4−クロロフェニル)−4−ピペリジン−1−イル−2,5−ジヒドロ−1H−イミダゾリン−2−オン)。
【0035】
一種以上の式(I)の化合物の投与、特に1−(4−クロロフェニル)−4−ピペリジノイミダゾリン−2−オンは、向精神薬の通常の投与方法において効果を奏すことが出来る。
【0036】
この化合物は、薬理組成物の形で一日あたり患者の体重に対し1〜100mg/kgの量で投与することが好ましい。吸入または経鼻投与を選択した場合には、好ましい投与量は患者の体重に対して0.05〜5mg/kgである。統合失調症およびその他の精神病性障害の治療枠内での使用に関しては、体重に対し2〜70mg/kgがより好ましく、5〜50mg/kgが特に好ましいが、失調症の治療枠内での使用に関しては、1〜20mg/kgでの投与量がより好ましく、5〜15mg/kgの量が特に好ましい。
【0037】
好ましい態様において、この化合物は経口、あるいは好適な非経口製剤として注射により、吸入により、経鼻により、または座剤として投与される。
【0038】
さらに、この化合物は上記疾患および病期の単一治療剤として、あるいは該疾患および病期に有用な他の化合物との併用の形で投与される。併用治療は各薬剤を別々に投与することによる同時投与、あるいは通常使用される医薬品賦形剤または助剤と混合した結合剤の形であっても構わない。併用の使用形態は、有効成分の充分な吸収が保障されている限り、本願発明の枠組み内において限定されるものではない。
【0039】
本願発明による1−アリール(アルキル)イミダゾリン−2−オンの添付の実施例によって、精神病性疾患を治療する場合に本願発明による方法が極めて有用であり、また、実際、副作用が見られないことが実証された。本願発明による化合物は非常に良好な耐容性を示し、また、容易に治療用および予防用組成物へと処方することが可能である。
【0040】
したがって、本願発明のもうひとつの主題は、一種以上の有効量の式(I)
【0041】
【化2】

[式中、Xは水素、C1−4−アルキル、C1−4−アルコキシ、トリフルオロメチル、またはハロゲン残基であり、RおよびRはそれぞれ独立してC1−4−アルキル、C3−10シクロアルキルまたはC3−10ヘテロアルキル残基であるか、あるいはRおよびRは共にC2−6アルキレン残基であって、その−CH−基は任意に酸素、窒素、または硫黄により置換され、nは0または1であり、mは0または1〜5の基数である]の1−アリール(アルキル)イミダゾリン−2−オンを必要に応じて患者に投与すること含む、中枢神経系疾患の治療または予防用の医薬組成物である。
【0042】
最も好ましくは、1−(4−クロロフェニル)−4−ピペリジノイミダゾリン−2−オン(ELB139)を有効成分として含む医薬組成物である。
【0043】
本願発明による医薬組成物は、さらに好適な賦形剤、助剤または充填剤、および/または好ましい使用形態を処方するために必要または効果的な物質を含有してもよい。本願発明による医薬組成物は、好ましくは患者の体重に対して1〜100mg/kg量の有効成分を含有し、経口または非経口(例えば静脈内、筋肉内または皮下投与)による投与の対象となる。
【0044】
より好ましくは、組成物は使用目的に応じてそれぞれ体重の25〜70mg/kg、あるいは体重の5〜15mg/kg量の有効成分を含有する。
【0045】
本願発明のもうひとつの主題によれば、精神病性障害、運動障害および/または他の精神障害に関連する精神病症状を含む中枢神経系疾患の治療ならびに予防方法、特に不安障害の治療方法を提供することにより、この課題が解決された。該方法は、アルファ3サブユニットを運搬するベンゾジアゼピンレセプターのサブタイプ選択性アゴニストでありながら、活性でない物質を少なくとも一種以上有効量投与することからなり、つまりこの物質は、レセプターへの結合の可否に関係なく、GABAレセプターのアルファ2および/またはアルファ4サブユニットを運搬するレセプターに対し、陽性GABAを顕著に増強する効果を発揮しない。
【0046】
ベンゾジアゼピンレセプターのアルファ3サブユニットに選択性を有するベンゾジアゼピンレセプターリガンドは、上記CNS疾患における治療に有効であると予測することが出来る。
【0047】
本願発明によれば、選択性とは、実施例において示されるように、50%の最大GABA増強反応を誘発するために必要とされる濃度における差異が少なくとも20倍であること、すなわちEC50における差異が少なくとも20倍であること、として定義される。また、結合性をそれぞれのレセプターサブタイプに対する機能的アゴニスト作用として解釈する場合、選択性は、結合親和性における少なくとも20倍の差異として定義することも可能である(標準的な結合性試験の手順を用いて特定した場合に比べて少なくとも20倍高い親和性)。特に好ましいものは、アルファ3サブユニットGABAレセプターを運搬するレセプターに対して選択的な化合物である。同様に好ましいものは、アルファ3サブタイプ選択的化合物であって、これがレセプターに反応するか否かに関係なく、GABAレセプターのアルファ2および4サブユニットを運搬するレセプターに対して完全に活性を示さない(顕著な陽性GABA増強作用を発揮しない)。特に好ましいものは、上記の特色を持つ場合に、加えてアルファ3サブユニットを運搬するGABAレセプターに対する部分アゴニストとして作用するような化合物および、加えて低親和性または部分アゴニストとして作用する(親和性において少なくとも20倍の差を持つ)ような化合物であり、もう一度述べるが、部分アゴニストとしてとりわけ好ましいものはアルファ1および/またはアルファ5サブユニットに対する低親和性を持つものである。先に定義した式Iの1−アリール(アルキル)イミダゾリン−2−オン化合物は、所望の選択性を示す化合物である。上述の選択性の基準を完全に満たす化合物として特に好ましい例は、1−(4−クロロフェニル)−4−ピペリジノイミダゾリン−2−オン(ELB139)である。
【0048】
予期せずして、ELB139および本願発明に含まれる他の物質は、アルファ3サブユニットを運搬するレセプターに対し、非常にサブタイプ選択的なベンゾジアゼピンレセプターへのアゴニストとして作用する。
これらのレセプターに対する作用の性質は、部分アゴニスト的なものであり、これらの化合物および特にELB139は、アルファ3サブユニットを運搬するレセプターに対するサブタイプ選択的な部分アゴニストとして作用することを示している。また、これらの化合物および特にELB139は、アルファ1またはサブユニットを運搬するレセプターに作用するが、アルファ3サブユニットと比較して20倍を超える高濃度でのことである。さらに、予想に反して、この化合物はアルファ2サブユニットを含むレセプターに全く作用しないことが判明した。他のベンゾジアゼピンと同様にELB139もまたアルファ4サブユニットを運搬するレセプターに作用しなかった。したがって、ELB139はアルファ3含有レセプターを活性化し、アルファ1および5含有レセプターに対して20倍低い効果を有し、アルファ2および4含有レセプターを選択しないサブタイプ選択性化合物として作用する。ELB139に対し感受性を有する全てのレセプターに対し、部分アゴニスト特性を示すジアゼパムに比べ、この化合物ではGABAが誘導する電流の増強作用が弱かった。この点について、1〜10μmの最大上(supramaximal)濃度において陽性対照化合物であるジアゼパムにより誘導された最大効果に比べ、試験における最大濃度におけるGABA誘発効果の最大増強作用がより低い場合、部分アゴニスト活性が推定される。相対部分アゴニズムは50〜70%の範囲であった。本願の化合物のサブタイプ選択性により、また、とりわけELB139がアルファ3サブユニットに対し選択性であることにより、本化合物を生理機能および薬理作用に関するアルファ3サブユニットの役割の評価に使用することが可能であった。ELB139がラット脳におけるセロトニンレベルの上昇を誘導することが発見されたが、当初、この作用のメカニズムは不明のままであった。この作用をさらに解明するために、これがセロトニントランスポーターの作用に関連するか否か、すなわちこのトランスポーターの作用を制限し、したがってセロトニンの上昇を生じる薬剤(選択的セロトニン再取込み阻害剤、SSRI)のメカニズムに、あるいは現在知られるアルファ3ベンゾジアゼピンレセプターとの選択的相互作用に関連するか否かの試験を行った。本願発明の化合物およびとりわけELB139は、シナプトソーム調製におけるセロトニン取込みに対する作用を持たない。一方、細胞外のセロトニンレベルに対するELB139の効果は完全にブロックされ得たと共に、特定のベンゾジアゼピンレセプター拮抗剤であり、ベンゾジアゼピンと、アルファ3サブユニットに対するレセプターを含む全ベンゾジアゼピン感受性レセプターとの相互作用を阻害するフルマゼニルの投与によって逆転された。サブタイプ選択性により、これらのデータは、セロトニン作動性システムに対するELB139の作用は、アルファ3サブユニットに対するベンゾジアゼピンレセプターにより仲介されることを明確かつ予想外に示している。ジアゼパムは、同様の試験において投与を行ってもセロトニンレベルに作用しないことが報告されており、サブタイプ選択性化合物のみがこのような作用を発現することが示唆される。したがって、これらのデータをもとに、セロトニン作動性システムを含む疾患、またはセロトニン作動性システムの機能増強が望ましい疾患、例えばうつや不安を含む気分障害などに対して、アルファ3サブユニットがユニークかつ新規な対象であることがここに結論付けられる。
【0049】
第二のアプローチにおいて、ベンゾジアゼピンに典型的ではない、ELB139の精神薬理学的行動上の作用がフルマゼニルの投与により覆され得るか否かの試験を行った。抗うつ作用は、脳内のセロトニンレベルの増加に容易に関連付けられ得る。SSRIの一種であるフルオキセチンを含む、セロトニンを増加させる全ての薬剤は、抗うつ作用を発現する。セロトニンの増加はフルマゼニルの投与により予防することが可能であったことから、ELB139の精神病理学的な側面におけるアルファ3サブユニットの役割を評価するためには、抗精神病性作用が選択された。アルファ3サブユニットに対する選択性を持たないベンゾジアゼピンは抗精神病性作用を発揮しないことで知られている。フルマゼニルをELB139との組み合わせにより投与した場合、意外なことにELB139の抗精神病性作用はアンタゴナイズ(阻害)され得た。アルファ3サブユニットは、先に記載のセロトニン作動性システムに関連する疾患のみならず、精神疾患などの他のCNS疾患に対しても理想的なターゲットである。さらに、これらの知見によって、ELB139およびアルファ3サブユニット含有レセプターに対する選択性を有する他の物質は、強力な抗不安、抗ジストニア、抗痙攣作用を持つことが示された。広範囲にわたるこの作用は、サブタイプ選択性、ならびに、アルファ3以外のサブユニットと他の疾患との関連で既に議論したものとは対照的である。例えば、抗痙攣作用は主にアルファ1サブユニットとこれまで関連付けられていたが、ELB139は非常に強力な抗不安剤として作用する一方、アルファ1サブユニットに対する親和性が低い。同様に、アルファ2サブユニットは、アルファ3サブユニットの不安に対する付加的な寄与を伴う場合のみ、抗不安作用に対して支配的であると見なされていた。しかしながら、ELB139はアルファ2サブユニットに作用するだけでなく、アルファ3サブユニットに対して選択性を有する。さらに、アルファ3サブユニットおよびアルファ3サブユニット上のベンゾジアゼピンレセプターは、不安障害やてんかんを含むこれらの疾患の治療への理想的な標的であることを、これらのデータは示している。
【0050】
要約すると、データの主体、つまり精神疾患、うつ病、ジストニア、てんかんおよび不安障害のモデルにおけるインビボ作用、ならびに抗うつ作用の指標となるセロトニンレベルに対する作用は、サブタイプ選択性作用との組み合わせにおいて、効力が高まり、ベンゾジアゼピンレセプターのアルファ3サブユニットに対して選択的な全てのベンゾジアゼピンレセプターリガンドが、上述のCNS疾患において作用することを期待することが可能である。
【0051】
したがって、本願発明のもうひとつの主題は、ベンゾジアゼピンレセプターのアルファ3サブユニットに対して選択的なベンゾジアゼピンレセプターリガンドを含む医薬組成物である。アルファ3サブユニットに対して高い選択性を有する物質は、十分に確立および記載されたスクリーニングシステムを用いて簡単に検出することが出来る。このようなシステムは、第一段階としてレセプターバインディングアッセイを含むことが可能であるが、しかしながら使用するバインディングアッセイは、それぞれのGABAレセプターサブユニットを含む膜画分に基づいたものでなければならない。このような調製は、トランジエントトランスフェクションが安定化した後に、調査中のアルファサブユニット、すなわちアルファ1、2、3、4または5からなる機能的GABAレセプター複合体を、一種類のベータサブユニット、好ましくはベータ2サブユニット、および一種類のガンマサブユニット、好ましくガンマ2サブユニットと一緒に発現およびアセンブルした細胞系から得ることが出来る。GABAレセプターサブタイプのさまざまな供給元は、さまざまなサブユニットの組み換えたんぱく質を発現する発現系から得ることが可能である。このような発現系は細菌、酵母または真核細胞であっても構わない。こうしたバインディングアッセイを用いることにより、アルファ3サブユニットに対する高い親和性を有し、アルファサブユニット1、2、3、4または5を含む他のGABAレセプターを超える高い選択性を有する化合物が容易に特定される。放射性リガンドは、3(H)−フルニトラゼパムまたはその他の十分に記載された放射性リガンドであって、それぞれのGABAサブユニットに対する選択性を持たないものであっても構わない。
【0052】
ベンゾジアゼピンレセプターリガンドはアゴニスト(作動剤)、中性リガンド(アンタゴニスト)およびインバースアゴニスト(逆作動剤)として作用し、アゴニストならびに部分アゴニストを特定するために機能的アッセイが必要となる。このようなアッセイとしては、アゴニストおよびアンタゴニストならびにインバースアゴニストはムシモールの結合特性にさまざまな形で作用することから、読み取りに3(H)−ムシモールの結合を使用した、改良型バインディングアッセイが可能である。
【0053】
ベンゾジアゼピンリガンドの本質的な活性を特定するために使用することが可能な、さまざまな機能的アッセイは、電気生理学的技術をベースとし、発現系としてアフリカツメガエル卵母細胞を使用するか、あるいは他で記載したようにアルファ、ベータ、ガンマの各サブユニットでトランスフェクトしたCHO細胞のようなトランスフェクト細胞系を使用する。さらに、その他の機能的アッセイとしては、GABAおよび試験に供する化合物に暴露したトランスフェクト細胞系をベースとすることが可能であるが、レセプターの相互作用に対する読み取りには膜電位を使用する。このような段階的なスクリーニングアプローチの結果は、アルファ3サブユニットに対する高い選択性を有し、アルファ3サブユニットにおいて完全または部分アゴニストとして作用する化合物である。
【0054】
こうしたレセプターリガンド化合物は、アルファ3含有GABAレセプターに比べて、アルファ1および5含有GABAレセプターに対して少なくとも20倍は低い親和性を有する部分アゴニストとして働くことも可能である。好ましくは、このような医薬組成物は、上記式Iの1−アリール(アルキル)イミダゾリン−2−オンを含み、所望の選択性を示す。好ましくは、このような医薬組成物は、1−(4−クロロフェニル)−4−ピペリジノイミダゾリン−2−オン(ELB139)を含む。加えて、本医薬組成物は、賦形剤または助剤をさらに含むことが可能であり、また、時には望ましく、本組成物は非経口または経口投与用に調製することが可能である。上記したように、患者の体重に対して1〜100mg/kgが活性化合物の有効量であることが判明している。医薬組成物中に含まれるさらに好ましい用量は、統合失調症またはその他の精神病性疾患の治療には2〜70mg/kg体重または5〜50mg/kg体重であり、ジストニアの治療には1〜20mg/kg体重または5〜15mg/kg体重である。
【0055】
このような医薬組成物は中枢神経系疾患の治療、好ましくは先に詳述した精神疾患、うつ病、ジストニア、てんかん、および不安障害の治療に有用である。
【0056】
ELB139を含有するこのような化合物または組成物は、入手可能なベンゾジアゼピンレセプターリガンドを用いて現在治療することができないCNS疾患、すなわちうつ病、精神疾患、ジストニア、および、うつ症状を持つ脳内のセロトニンレベルに効力を発揮する化合物を用いて治療することが可能な疾病を特に主眼とする関連CNS疾病に対する選択的陽性作用を発揮することも要求される。このような化合物は、ベンゾジアゼピンレセプターリガンドで現在治療することが可能である疾病において、健忘症、鎮静、催眠、依存症の誘発、筋肉弛緩ならびにベンゾジアゼピンレセプターリガンドのCNS抑制作用および耐性の形成を減少させるという、より良い副作用プロフィールにて効力を発揮することも要求される。このような疾病には、不安障害、てんかん、睡眠障害、およびベンゾジアゼピン治療への反応であるその他の疾病が含まれる。
【0057】
本発明を以下の実施例および図面を用いてさらに説明する。
【0058】
図面が示すものは:
第1図:試験の10分前に0.2mg/kgのMK−801を腹腔内に投与して刺激した雌ラットにおける活動、総移動距離、ステレオタイプ性の匂い嗅ぎ、他のステレオタイプおよび運動失調。
試験の1時間前にハロペリドールを腹腔内に投与し、E−131−00139を経口投与した。* p<0.05で対照に対して有意、** p<0.01で対照に対して有意、*** p<0.001で対照に対して有意、# p<0.05で互いに有意。
【0059】
第2図:E131−00139の抗ジストニア作用。
最小投与量、すなわち5mg/kgの腹腔内投与においてさえ、顕著な抗ジストニア作用が見られた。
【0060】
第3図:ラットの線条体における5−HT放出に対するE131−00139の作用。
30mg/kgのE131−00139を腹腔内に投与した。データは、5−HTの平均基礎レベルの百分率(平均SEM〔平均標準誤差〕)で表した。*=p<0.05でタイロースに対して有意。
【0061】
第4図:ラットの線条体におけるドーパミン放出に対するE131−00139の作用。
30mg/kgのE131−00139を腹腔内に投与した。データは、ドーパミンの平均基礎レベルの百分率(平均SEM〔平均標準誤差〕)で表した。
【0062】
第5図:組み換えラットαiβ2γ2(i=1〜5)GABAレセプターを発現するHEK293細胞に関する全細胞の記録。全種の薬剤の非存在下で使用されたGABA濃度に対して電流は正規化された。ジアゼパム(▲)、ジアゼパム+10μm Ro15−1788(△)、E131−139(■)またはE131−139+10μm Ro15−1788(□)の濃度の増加は、EC20値あたりのGABA濃度と共に適用された。エラーバーは4細胞毎の平均の標準誤差(±SEM)。
【0063】
第6図:ラット強制水泳試験における無動時間、水泳時間および動物がよじ登って脱出しようとするタイムスパンに対し、賦形剤を処方した対照と比較したELB139(=E131−00139、10+30mg/kg)の作用。(*p<0.05、一元配置分散分析〔One Way ANOVA〕に引き続きHolm−Sidak法による)。データは平均±SEM(n=10)で示した。
【0064】
第7図:ラット強制水泳試験における無動時間、水泳時間および動物がよじ登って脱出しようとするタイムスパンに対する、賦形剤を処方した対照と比較した、フルオキセチン(10+30mg/kg)の作用。(*p<0.05、一元配置分散分析〔One Way ANOVA〕に引き続きHolm−Sidak法による)。データは平均±SEM(n=10)で示した。
【0065】
第8図:雌ラットにおけるMK−801誘発性の精神疾患関連行動に対するハロペリドールの作用。
二種の異なる試験を示している。単独投与の場合は試験60分前に、また、フルマゼニル(F)を加える場合は試験30分前に、0.5mg/kg(腹腔内)のハロペリドール(H)を投与した。5mg/kg(腹腔内)のフルマゼニルは、試験20分前に投与した。0.1mg/kg(腹腔内)のMK−801は、試験10分前に投与した。データは平均±SEMで示した。対照(C)に対して有意:* p<0.05、** p<0.01、*** p<0.001。
【0066】
第9図:雌ラットにおけるMK−801誘発性の精神疾患関連行動に対するELB139の作用、およびフルマゼニルによるその可逆性。
30mg/kg(経口)のELB139を試験の一時間前に投与した。5mg/kg(腹腔内)のフルマゼニルは、試験20分前に投与した。0.1mg/kg(腹腔内)のMK−801は、試験10分前に投与した。MK−801誘発性の、ステレオタイプ性の匂い嗅ぎ、他のステレオタイプおよび運動失調を、平均±SEMで示した。対照に対して有意:* p<0.05、** p<0.01、*** p<0.001;ELB139群に対して有意:# p<0.05。
【0067】
第10a図:雌ラットにおけるMK−801誘発性の精神疾患関連行動に対するELB139の作用、およびフルマゼニルによるその可逆性。
30mg/kg(経口)のELB139を試験の一時間前に投与した。5mg/kg(腹腔内)のフルマゼニルは、試験20分前に投与した。0.1mg/kg(腹腔内)のMK−801は、試験10分前に投与した。MK−801誘発性の活動および移動距離を平均±SEMで示した。対照に対して有意:* p<0.05;ELB139群に対して有意:# p<0.05。
【0068】
第10b図:雌ラットにおけるMK−801誘発性の精神疾患関連行動に対するELB139の作用、およびフルマゼニルによるその可逆性。
30mg/kg(経口)のELB139を試験の一時間前に投与した。5mg/kg(腹腔内)のフルマゼニルは、試験20分前に投与した。0.1mg/kg(腹腔内)のMK−801は、試験10分前に投与した。MK−801誘発性の活動および移動距離を五分間隔にて平均±SEMで示した。対照に対して有意:* p<0.05;ELB139群に対して有意:# p<0.05。
【0069】
実施例
1.精神病疾患の治療
1.1.動物
150〜180gの重さの雌Wisterラット(Crl:(WI)BR、Charles River社、Sulzfeld、ドイツ)を試験に使用した。ラットは標準環境下、5匹を1グループとして12時間の明暗サイクル(午前6時に点灯)にて、食餌(ペレット,ssniff M/R 15、Spezialdiaet GmbH社、Soest/Westfalen)と水は自由に取らせて飼育した。
【0070】
1.2.化学物質
E131−00139(1−(4−クロロフェニル)−4−ピペリジノイミダゾリン−2−オン、分子量(MW)277.75)は、elbion AG社が製造した。ハロペリドール(4−(4−[4−クロロフェニル]−4−ヒドロキシ−1−ピペリジニル)−1−(4−フルオロフェニル)−1−ヌタノン、分子量(MW)375,9)は、ratiopharm GmbH社(ウルム、ドイツ)から入手し、MK−801(dizoclipine、分子量(MW)337.37)は、Tocrisから入手し、Biotrend Chemikalien GmbH社(ケルン、ドイツ)から配給された。その他の化学物質はすべて、Sigma−Aldrich Chemie GmbH社(ドイツ)またはMerck社(ドイツ)から入手した。
【0071】
1.3.投薬計画/投与量
適用量:0.5ml/100g
【0072】
【表1】

【0073】
1.4.化合物の調製
E131−00139を、0.5%のヒドロキシエチルセルロース中で新たにけん濁することによって、各物質および投与量のための投薬容積である0.5ml/100gとした。ハロペリドール注射液を生理食塩水で希釈することによって、投薬容積である0.5ml/100gとした。投与前ならびに投与中は、けん濁液を電磁かくはん機に設置した。ヒドロキシエチルセルロースは蒸留水中に溶解した。
【0074】
1.5.試験手順
NMDAアンタゴニストであるMK−801に誘発される行動は、精神疾患のラットモデルとして一般的に認められるものである。MK−801は、腹腔内投与後のラットにおいて、ステレオタイプ、多動および運動失調を誘発する。
【0075】
ラットの自発運動を、MotiTest装置(TSE、Bad Homburg、ドイツ)を用いて記録する。保護用のプレキシグラスの壁(高さ20cm)を有する正方形のアリーナ(45×45cm)で構成される試験領域では、ラットは自由に動くことが出来る。アリーナの各壁底部に沿って取り付けた32赤外線フォトセル(32 infrared photocells)で、水平運動を記録する。床から12センチ上部の、横一列に並べた32赤外線フォトセルで、垂直運動(立ち上がり)を記録する。コンピュータプログラム「ActiMot」(TSE、Bad Homburg、ドイツ)で、以下のパラメータを測定する:活動時間〔s〕および総移動距離〔m〕。
【0076】
一時間の間、5分毎に(12インターバル)、Andineら(1999)に記載の方法に従い、ステレオタイプ性の匂い嗅ぎとその他のステレオタイプに分けたステレオタイプ、および運動失調を試験者が採点する。12のインターバルにおける点数を各パラメータに加えた。
【0077】
【表2】

【0078】
試験の当日、雌ラットを実験室に移し、試験化合物、対照品または賦形剤を試験前の適切な時間に与える。0.2mg/kgのMK−801を、試験の10分前に腹腔内に投与する。
【0079】
試験開始時に、MotiTest装置の正方形のアリーナの中心にラットを置く。ラットの行動を一時間記録する。各記録作業後には動物を除去して箱を完全に清掃して乾燥させる。
【0080】
1.6.統計
一元配置分散分析(ANOVA)により結果を分析した。個々の比較にはTukey検定を使用した。P<0.05を有意であると見なした。
【0081】
1.7.結果
試験の結果を第1図に示す。Andieら(1999)に記載されるように、ハロペリドールはMK−801により誘発されたすべての症状を有意に低減した〔p<0.001〕。
【0082】
30mg/kg(経口)のE131−00139は、MK−801により誘発されたステレオタイプ性の匂い嗅ぎ、その他のステレオタイプおよび運動失調を有意に逆転させるとともに、MK−801により誘発された総移動距離を明らかに減少させた。この投与量ではMK−801により刺激を受けた活動が減少することはなかった。
【0083】
60mg/kg(経口)では、E131−00139は、MK−801により誘発されたすべてのパラメータが有意に減少した。
【0084】
ステレオタイプ性の匂い嗅ぎは投与量に依存して減少した〔p<0.05〕。
【0085】
2.ジストニアの治療
2.1.動物
先に詳述したように品種改良により得られた雄および雌のdtsz突然変異シリアンゴールデンハムスター(FredowおよびLoescher、1991)を試験に使用した。ハムスターは標準環境下、3〜5匹毎のグループで、12時間の明暗サイクル(午前6時に点灯)にて、食餌(Altromin 1320 標準餌、Altromin社、Lage、ドイツ)と水は自由に取らせて飼育した。
【0086】
2.2.化学物質
E131−00139(1−(4−クロロフェニル)−4−ピペリジノイミダゾリン−2−オン、分子量(MW)277.75)は、elbion AG社が製造した。その他の化学物質はすべて、Sigma−Aldrich Chemie GmbH社(ドイツ)またはMerck社(ドイツ)から入手した。
【0087】
2.3.投薬計画/投与量
適用量:0.2ml/20g
【0088】
【表3】

【0089】
2.4.化合物の調製
E131−00139を、0.5%のヒドロキシエチルセルロース中で新たにけん濁することによって、各物質および投与量のための投薬容積である0.2ml/20gとした。投与前ならびに投与中は、けん濁液を電磁かくはん機に設置した。ヒドロキシエチルセルロースは蒸留水中に溶解した。
【0090】
2.5.試験手順
ジストニア発病の誘発に対し、ハムスターの感受性が最大である30〜40日齢において薬剤試験を行った。三重刺激技法(triple stimulation technique)によりジストニア発病を誘発した。ハムスターを飼育ケージから取り出し、(体重を測定するために)量りに載せた後、生理食塩水(対照)または薬剤を腹腔内に投与し、新品で空のプラスチックケージに速やかに入れる。新たなプラスチックケージにハムスターを入れてから数分以内に、ジストニアの発病が始まった。このケージ内で3時間のあいだ動物を観察し、0〜1時間、1〜2時間、2〜3時間の期間におけるジストニア運動を以下のように採点したが、観察期間内において、常に評定は最終ステージへと到達した。
第1ステージ:歩行中にフラットな耳およびフラットな姿勢。
第2ステージ:顔面のゆがみ、前脚を交差させた立ち上がり、前足のセッティングの遅延を伴う不安定な歩行。
第3ステージ:後肢の硬直、そのために動物は測定障害的な過剰歩行においてつま先で歩行しているように見える。
第4ステージ:平衡感覚障害
第5ステージ:尾方に過度に伸ばされた後肢、動物は動く前肢で体を引きずり続ける。
第6ステージ:後肢・前肢双方の強直状態での前方への伸展、尾の直立(Starub様)、片側後肢の交互の挙上、頭部のゆれ、後弓反張を伴い、ねじれて湾曲した姿勢で動物の体が不動化。
【0091】
最終ステージは2〜5時間持続したが、その後急速な回復が見られた。一連の記載した手順全体を通じ、突然変異ハムスターの回復はいずれにも見受けられず、最終ステージへは通常45〜170分後にそれぞれ到達した。
【0092】
2.6.統計
Friedman検定およびこれに続くWilcoxon検定により結果を分析した。P<0.05を有意であると見なした。
【0093】
2.7.結果
最初の群の動物(n=8)を、32〜33日齢にて、賦形剤(腹腔内)投与後、ならびに上述の三重刺激手順を行った後、ジストニア発病の頻度および重症度の試験に供した。2〜3日後、同じ動物にE131−00139(腹腔内)の投与を行い、再び3時間の観察を行い、再び2〜3日後には、投与後対照群を用意するためにこの動物に対して賦形剤を投与し、その後再試験に供した。この試験の結果を第2図に示した。このグラフでは、3本の棒グラフ毎の3つの束が示されている。最初の束は薬剤投与と共に開始された観察の最初の一時間を、2番目の棒グラフの束は観察の2時間目を、そして3番目の束は3時間目を表している。
【0094】
各束には3本の棒グラフが表示されている。第1番目(白抜き)の棒グラフは薬剤試験の2〜3日前に記録した動物の対照反応を示し、黒色の棒グラフは薬剤投与後の結果を示し、第3番目(灰色)の棒グラフは、薬剤投与2〜3日後に試験に供した投与後対照例を示す。ジストニア発病の誘発に対する感受性の低下は日齢に依存する、ということだけを理由とするステージの重症度の低減を排除するために、投与前および投与後試験を採用した。
【0095】
この試験では、E131−00139が強力な抗ジストニア作用を発揮することが示された。試験における投与量、すなわち10mg/kgにおいて、化合物は良好な耐容性を示すと共に鎮静作用は観察されなかった。全観察期間の間、ジストニア発病の重症度は有意に低下し、行動の長期化が示された。消失しなかった症状、すなわちステージ平均2.3〜2.4は、試験開始後数分以内に到達するステージであり、換言すれば、同時にE131−00139の血漿レベルは皆無であるか、あるいはほんの僅かである。
【0096】
3.抗不安および抗うつ活性
E131−00139をさらに特徴付けるために、微小透析による本化合物の調査を行った。線条体におけるセロトニン(5HT)およびドーパミンの二種の神経伝達物質の細胞外濃度およびその代謝物を測定した。
【0097】
3.1.動物
200〜260gの重さの雌Wistarラット(Crl:(WI)BR、Charles River社、Sulzfeld、ドイツ)を試験に使用した。ラットは標準環境下、5匹を1グループとして12時間の明暗サイクル(午前6時に点灯)にて、食餌(Pellets,ssniff M/R 15、Spezialdiaet GmbH社、Soest/Westfalen)と水は自由に取らせて飼育した。
【0098】
3.2.化学物質(PEG300)
E131−00139(1−(4−クロロフェニル)−4−ピペリジノイミダゾリン−2−オン、分子量(MW)277.75)は、elbion AG社が製造した。その他の化学物質はすべて、Sigma−Aldrich Chemie GmbH社(ドイツ)またはMerck社(ドイツ)から入手した。
【0099】
3.3.投薬計画/投与量
投与経路:腹腔内投与
適用量:0.5ml/100g
【0100】
【表4】

【0101】
3.4.10%のポリエチレングリコールを含む0.5%のヒドロキシエチルセルロース中にけん濁した化合物の調製
E131−00139を、0.5%のヒドロキシエチルセルロース中で新たにけん濁することによって、各物質および投与量のための投薬容積である0.5ml/100gとした。投与前ならびに投与中は、けん濁液を電磁かくはん機に設置した。ヒドロキシエチルセルロースは蒸留水中に溶解した。
【0102】
3.5.試験手順
手術
試験の前日、抱水クロラール(3.6%、1ml/100g、腹腔内投与)で雌ラットに麻酔をかけ、定位固定フレーム内に置き、微小透析のガイドカニューレ(CMA/12、Carnegie Medicin、スウェーデン)を移植した。頭皮はラムダとブレグマの間の中央を前後方向に切開し、ドリルで頭蓋骨に小さな穴を開けた。PaxinosおよびWatson(1986)にしたがい、定位座標はブレグマよりAP=+1.0mm、L=−3.0mm、線条体に対する頭蓋骨表面から1.5mmであった(1)。頭蓋に対するガイドカニューレおよびアンカースクリューの固定には歯科用セメント(Sinfony(2))を使用した。手術中は、電気毛布を用いて直腸の温度を37℃に保持した。
【0103】
微小透析
試験前日、ガイドカニューレを通じて微小透析プローブ(CMA/12、膜の長さ4mm、Carnegie Medicin、スウェーデン)を線条体に挿入した。試験当日、プローブをリンゲル液(148mM NaCl、4mM KCl、2,4mM CaCl、pH=6,0)で潅流した。流速(1μm)にて20分毎に20μmの試料をマイクロバイアルに採取した。マイクロバイアルは、分析に供するまではフラクションコレクタ(CMA/170)内で温度8℃にて貯蔵した。スイベルジョイントを用いて、潅流処理中も動物は半球形の容器内を自由に動くことが出来るようにした。一時間の調整時間をとった後、3回連続で20分間の画分を採取し、神経伝達物質の放出の安定な基礎レベルを規定した。
【0104】
その後、30mg/kgのE131−00139または同一容積の0.5%のタイロース/PEG300 9:1を、それぞれ投与した。その後、少なくとも220分の間、サンプル採取を続けた。
【0105】
透析液の分析
電気化学検出を用いた逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC−EC)により、透析液を直接分析した。ZORBAX SB−Aq 内径(ID)2.1mm×100mm カラム(Agilent Technologies)を用いてサンプルを単離した。1%の過塩素酸1μlを20分間の画分に加え、この混合液10μlをHPLCシステムに注入した。
【0106】
移動相は以下を含んでいた:
KH2PO4 50mM
オクタン−1−スルホン酸ナトリウム塩(NOS) 2,2mM
EDTA 0.086mM
2MHPO 5ml
メタノール(MeOH) 83ml
アセトニトリル 10ml
pH3.5にて
流速0.23ml/分、カラム温度38℃、サンプルのサーモスタット8℃にて、メソッド(セロトニン)を実行した。
【0107】
夜間の流速は、流速0.1ml/分に減じた。カテコールアミンを500mV(モデル5014B 微小透析セル、esa)で酸化した。Dopacは200nA、ドーパミンは2nA、HIAAは100nA、HVAは2nA、およびセロトニンは500pAにて測定した。
【0108】
5種類の濃度でのシステムの外部標準を標準化するためにそれぞれを定期的に実行した。
【0109】
DOPAC(3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸) 1000,500,250,125,62.5nM
DOPAMINE(塩酸 3−ヒドロキシチラミン) 8,4,2,1,0.5nM
HIAA(5−ヒドロキシ−3−インドール酢酸) 200,100,50,25,12.5nM
HVA(ホモバニリン酸) 800,400,200,100,50nM
SEROTONIN(5−ヒドロキシトリプタミン−クレアチニン硫酸塩) 0.15,0.075,0.0375,0.01875,0.009375nM
微小透析プローブの移植前および除去後、2000nMのDOPAC、40nMのドーパミン、1000nMのHIAA、2000nMのHVAおよび0.8nMのセロトニンを含む溶液でリカバリー(回収)を行った。プローブの回収率は5〜20%の間であった。
【0110】
組織像
試験終了後にラットの脳を除去し、ホルマリン(10%)中で約10日間固定した。ビブロスライス(TSE)を用いて脳を切断し、トロイジンブルーで染色してプローブが正しい位置にあることを確認した。
【0111】
統計
5−HT放出の基礎レベルは個体差を示した。そのため、各動物のデータを百分率で示した。薬剤投与前の微小透析のデータを平均化し、平均値を100%とした;全個体値は適宜算出した。
【0112】
時間および薬剤を二つの因子として、二元配置分散分析(ANOVA)により結果を分析した。個々の比較にはTukey検定を使用した。P<0.05を有意であると見なした。
【0113】
3.6.結果
30mg/kg(腹腔内)のE131−00139は、5−HATの代謝産物であるHIAA濃度に影響を与えることなく(データは示さず)、1時間40分の間(第3図)、ラット線条体における5−HTの濃度を驚くべきことに上昇させた。同剤は、同時に測定された線条体におけるドーパミンの濃度にも影響を与えなかった(第4図)。5−HTレベルの変化は抗不安および抗うつ作用を示している。
【0114】
この上昇のメカニズムは解明されていない。ジアゼパムのようなベンゾジアゼピンは、脳内の5−HT放出を増加させることはなく、むしろ減少させることから、この化合物のベンゾジアゼピン様の作用により(Peiら、1989年)、また、SSRIの作用に対して拮抗することにより、これを説明することはできない。加えて、線条体5−HTの増加は必須とはいえず、脳内の5−HT放出に対する抗てんかん作用としての抗てんかん剤の典型的なメカニズムは、抗痙攣剤に依存して変化する。カルバマゼピンもまた、NタイプCa2+チャンネルに影響を与えることによるものと推定されるが、基本的な5−HT放出を増大させる(Kawataら、2001年)。バルプロエートもまた細胞外5−HTを増強させるが(Murakamiら、2001年)、一方、フェニトインおよびガバペンチンはこれを減少させる(Okadaら、1997年、Taylorら、1998年)。
【0115】
細胞外5−HT濃度に対するE131−00139の作用を、フルオキセチンおよびその他の選択的セロトニン再取込み阻害剤(SSRI)のそれと比較することも可能である(Liら、1996年)。したがって、E131−00139は、中枢神経系疾患の治療に対する新たな展望を広げているが、この化合物類は、長期間ではあるが発現が遅い(遅延型の)脳内の細胞外5−HT濃度を増加させるという薬剤作用、およびベンゾジアゼピンの直接的で迅速な抗不安作用を併せ持つ可能性があるからであり、これは化合物類1−アリール(アルキル)イミダゾリン−2−オンの持つ周知の性質である。ベンゾジアゼピンアゴニストのもつ有益な特徴、ならびに、ベンゾジアゼピン仲介作用によるセロトニンレベルに対する作用を軽減する恐れが全くないというSSRIの特徴を併せることによって、E131−00139は、慢性不安症候群、パニック障害、広場恐怖症、特定恐怖症、対人恐怖症および全般性不安障害、ならびに、例えば大うつ病性障害およびエピソード、躁病性、混合性および軽躁病性気分エピソード、非定型性、緊張性または憂鬱性のうつ病エピソード、出産後に発現した月経前不快気分障害のうつ病エピソード、小うつ病性障害、外傷後および急性ストレス障害の抑うつ障害の治療に対して、桁外れで改良された効力を示す。
【0116】
実施例4
サブタイプ選択性で部分アゴニスト性のα3選択性化合物の一例としての、ELB139のサブタイプ選択的作用および部分アゴニスト作用
γアミノ酪酸(GABAレセプター)により開く、リガンド開閉型イオンチャンネルは、6個のα、3個のβ、3個のγ、一個のδ、一個のε、一個のπ、一個のθサブユニットの配列から2〜3個の異なるサブユニットを組み合わせた5量体である(Heversら、1998年)。その機能的多様性を形成するベースとなるものは、おそらくGABAレセプターの構造的な多様性(不均一性)であろう。GABAレセプターを認識する多くのベンゾジアゼピン(BZ)は、これらのレセプターチャンネルを通じてCl−の流量を制御し、これによりCNSにおけるシナプス性の伝達に作用する。例えば、今回の試験で対照化合物として使用した鎮静・催眠作用を持つBZジアゼパムは、CNSの機能に多くの影響を与え、低用量における鎮静作用から極めて高用量における感覚消失に至る、臨床作用の広がりを引き起こす。したがって、治療効果に含まれない神経系に対する作用を低減する目的で、BZのような薬剤のGABA性サブタイプ特異性を改善するために多くの取り組みがなされている。
【0117】
GABAレセプターサブユニット化合物は、BZのような薬剤と同様に内因性のリガンドの親和性ならびに有効性の双方を決定する。αサブユニット間の多様性は特定クラスのBZリガンドの親和性ならびに有効性に対しては意味深いインパクトを与えるが、その他のクラスでは差を生じない(Pritchettら、1989年、Wisdenら、1991年)。例えば、ジアゼパムは、すべてではないが大半の1,4−BZと同様に、一般式αiβjγ2(i=1〜3、5;j=1〜3)のレセプターサブタイプに対して特異的に結合しないことが以前に示されている(Lueddens、1995年;Benavides、1992年;Pritchet、1990年)。
【0118】
本試験は、推定BZアンタゴニストであるフルマゼニル(Ro15−1788)の存在または非存在下で、BZレセプターリガンドであるELB139の、ヒト胎児腎臓(HEK293)細胞の異種系におけるGABAレセプターサブタイプに対する効力および有効性を詳細に渡って検討するために行われた。選択されたレセプターサブタイプであるαiβ2γ2(i=1〜5)は、天然型のGABA/BZレセプターの大半を構成しているようである。新規化合物の有効性、効力ならびにαサブユニット特異性を、ジアゼパムの場合と比較した。
【0119】
4.1.試験の部
材料
ELB139(E131−00139)を除くすべての化合物は商業的供給源から入手されており、分析に用いるグレードのものであった。
【0120】
4.2.細胞培養および細胞トランスフェクション
電気生理学的記録の目的で、HEK−293細胞を継代培養し、158mg/lの重炭酸ナトリウム、2mMのグルタミン(Gibco社)、100U/mlのペニシリン−ストレプトマイシン(Gibco社)、および10%のウシ胎児血清(Gibco社)を補充した10mlの最小必須培地(MEM、Gibco社)で満たした9.6cmプラスチック皿中の12mmのガラス製のカバースリップ上に再プレート化した。95% O/5%CO雰囲気の加湿条件下、37℃にて培養物を2〜3日の間保持した。
【0121】
詳細な記述に従い、組み換えラットGABAレセプターを用いたトランスフェクションを実行した(KorpiおよびLueddens、1993年;LueddensおよびKorpi、1995b)。手短に言えば、α、βおよびγサブユニットに対する真核発現ベクター(Pritchett、1990年)中のラットGABAレセプターcDNAを用い、リン酸塩沈殿法を使用してHEK293細胞をトリプルコンビネーション中でトランスフェクトした。最適レセプター発現に対する最終濃度(μgベクターDNA/9.6cm組織培養プレート)は:α1 2;α2 4.8;α3 1.2;α4 10;α5 0.8;β2 0.4;およびγ2S 0.3であった。本明細書の以下の記載において、γ2S変異体はγ2と略する。トランスフェクトした細胞を特定するために、すべてのサブユニットの組み合わせを1μg/プレートのpNI−EGFPでコトランスフェクトした。
【0122】
4.3.電気生理学
トランスフェクションの2日後、HEK293を含むシングルカバースリップを、蛍光顕微鏡(オリンパスIX70)の可動式ステージに取り付けた記録槽に入れ、130 NaCl、5.4 KCl、2 CaCl、2 MgSO、10 グルコース、5 ショ糖、および10 HEPES(遊離酸)(単位はmM)を含む特定の食塩溶液、約35mMのNaOHでpHを7.35に調整、を用いて潅流した。pNI−EGFPベクターの発現による緑色蛍光によってトランスフェクト細胞を特定し、これらの細胞のリガンド仲介による膜電流を、全細胞構造(configration)パッチクランプ法により調査した(Hamilら、1981年)。マルチステージ法において水平型のプラー(horizontal puller)(Sutter Instruments社、カナダ、モデルP−97)を用いて、硬質ホウケイ酸ガラス毛管(内径0.5mm、外径1.5mm、Vitrex、Science Products GmbH社、Hofheim、ドイツ)で、パッチクランプピペットを吸引した。このピペットは、90 KCl、50 KOH、2 CaCl、2 MgCl、10 EGTA、3.1 ATP(ジカリウム塩)、0.4 GTP(三ナトリウム塩)および10 HEPES(遊離酸)(単位はmM)、pH7.35、を含む溶液で満たした時に、2〜4MΩの初期抵抗を示した。
【0123】
ピペットと外部溶液との間の接合部電位は2.3mV未満であったので、考慮からはずした。緩やかにピペットを吸引することにより、1GΩを超えるシール抵抗が通常的に得られた。容量を増加するにつれ、膜の破裂が電気的に観察された。容量性の過渡電流が最小となるように、ピペット電気容量、膜電気容量、および直列抵抗を電気的に補正した。直列抵抗補正>60%を定期的に使用した。
【0124】
fast perfusion stepper system(SF−77B、Perfusion Fast Step、Warner Instruments Inc.社、ミッドウェスト、米国)を用いた、類似(approximate)レセプターサブタイプ特異性GABA EC20、GABA EC20に:0.01、0.1、1、10(μM単位)へと濃度を増加させたジアゼパムを加えたもの、および、GABA EC20に:0.01、0.03、0.1、0.3、1、3、10、30(μM単位)へと濃度を増加させたELB139を加えたもの、を含む試験溶液。ジアゼパムおよびELB139の場合、全濃度に10μMのRo15−1788を加えた試験セットを試験に供した。記録を取った全細胞において、試験薬剤を試験する前に1μMのゾルピデム+GABA EC20を与えることによりヘテロ5量体中のγ2サブユニットの存在をモニターした。
【0125】
細胞の応答は、標準的なパーソナルコンピュータおよびpClamp8.1ソフトウェアパッケージ(Axon Instruments社、Foster City、カナダ)に接続したパッチクランプ増幅器(EPC−8、HEKA−Electronic社、Lambrecht、ドイツ)を用いて記録した。細胞に対する標準保持電位は−40mVであった。Digidata 1322Aインターフェース(Axon Instruments社、Foster City、カナダ)によりデジタル化を行う前に、全細胞の電流を、5または3KHzの8極Besselフィルターを用いて低域通過フィルター(ローパスフィルター)に通し、少なくとも1kHzのサンプリング速度においてコンピュータに記録した。
【0126】
4.4.結果および考察
全細胞構造(configration)パッチクランプ法を用い、緑色蛍光細胞上の類似(approximate)EC20のGABAと共に薬剤濃度を上昇させることにより、新規化合物ELB139の効果、有効性、およびGABAレセプターαサブユニット特異性を調査した。同一細胞における新規化合物のBZ結合部位特異性を、10μM Ro15−1788をさらに加えた実験設定において調査した。
【0127】
β2およびγ2サブユニットと共に共発現したα1、α3およびα5を含有するレセプターにおいて、E139はGABA誘発性の電流を強めるが、ジアゼパムに比べて効果が弱く、また効率的ではなかった(第1表)。10μMのRo15−1788は、これらの3つのGABAレセプターの全組み合わせにおいて、ELB139の効果を完全に阻害した。α1含有レセプターでは、E139による正電流調節作用は、0.3μMにおいて観察可能となり、30μMにおいて1.6±0.08倍の最大値に到達したが(第5A図)、これはジアゼパムの効果(ジアゼパム1μMにおいて2.2±0.9倍)の約半分である。α5β2γ2レセプターでは、ELB139による正電流調節作用は、1μMにおいて初めて観察され、30μMにおいて1.4±0.06倍の最大値に到達し、すなわち、ELB139の効力および効果はジアゼパムより有意に低く、ジアゼパムは用量10nMにおいて電流が増強され、また、1μMにおいては2±0.05倍に電流が増強されるという最大アゴニスト作用に到達した(第5図E)。α3含有レセプターでは、0.3μMを超える濃度における最高有効値1.3±0.07倍を示す約30nMを超える濃度において、新規化合物ELB139は、GABA誘発型の電流を正の方向に調節した。対照的に、ジアゼパムに対しては、正電流調節作用は10nM未満の濃度にて観察可能であり、1μMにおいて1.8±0.11倍の最大刺激に到達した。
【0128】
プロトタイプ的なBZジアゼパムとは対照的に、ELB139はα2含有レセプターに対するαサブユニット特異性を示した。このGABAレセプターに対し、ジアゼパムは、0.1μM未満の濃度において初めて検出され得、また、1μMにおいては1.8倍の増強を伴う最大アゴニストを備えた、高い効力と有効性を示した(第5B図、第1表)。対照的に、E139は、組み換えα2β2γ2GABAレセプターにおけるGABA誘発性電流のアゴニスト性または逆アゴニスト性調節に機能しなかった。
【0129】
α4含有レセプターに対し、ジアゼパムは1μMmまでの濃度ではGABA誘発型の電流の調節作用の有意性を示さなかった(第5D図)。同様に、試験に供された全濃度において、Cl−電流はELB139の影響を受けなかった。α1β2γ2およびα5β2γ2レセプターにおけるELB139の効力は同様、すなわち、両ケースにおいて、約1μMのELB139における有意なアゴニスト性の効果は注目に値するものであるが、α1−含有レセプターに対するこの薬剤の効果は、α5β2γ2に対する効果に比べてわずかに高い(1.6倍に対し1.4倍、第1表を参照のこと)。興味深いことに、ELB139は、α3β2γ2レセプターに対して、30nMを超える濃度において既に観察されている増強効果を伴った最も高い効力を示したものの、これらのレセプターに対してわずか1.3倍のみの電流増強という最も低い効果を示した。
第1表:類似(approximate)レセプターサブタイプ特異性GABA EC20と共に適用したELB139およびジアゼパムのEC50および増強度。アスタリスク(*)はグラフィカルに特定された値である。
【0130】
【表5】

【0131】
4.5.結論
結論として、新規薬剤ELB139は、ジアゼパムに比べて低い効力および効果で、α1、α3およびα5β2γ2 GABAレセプターに対し、BZ結合部位を介してGABA誘発型電流を正の方向に調節した。しかしながら、ELB139は、α1およびα5に比べ、α3含有GABAレセプターに対して約50倍の選択性を示した。さらに、ジアゼパムと比較して、ELB139はα2含有レセプターに対してアゴニスト作用を示さなかった。ジアゼパムに比べてELB139のGABAレセプター選択性がばらばらであることは、これらのインビボにおける作用の違いの根拠をなす可能性があることを本結果は示している。
【0132】
実施例5
サブタイプ部分選択的アゴニストであるα3選択性化合物の一例としての、うつ病のげっ歯類モデルにおける、ELB139のインビボでの抗うつ作用
ELB139の効果をラット強制水泳試験(FST)にて調査した。大うつ病を含むうつ疾患は、重篤であり、生活に支障をきたすものである。選択的セロトニン再取込み阻害剤(SSRI)は、抗うつ治療の安全性および忍容性を改善した。しかしながら、薬物副作用(主に治療の初期段階における)により、コンプライアンスがしばしば妨害されている。特に重度にうつ状態の患者においては、SSRIの抗うつ効果は、三環系抗うつ剤の効果よりも優れているとはいえない(約30%の患者で改善が見られなかった)(AndersonおよびThomenson、1994年;Biler、2001年;AndersonおよびTomenson、1994、年;BurkeおよびPreskorn、1995年)。こうした理由から、うつ病治療への新規な治療上のアプローチに対し、非常に関心が集まっている。
【0133】
抗うつ剤に対する約1ダースの動物試験が使用されている(Cryanら、2002年、Crianら、2002年)。ラットとマウスにおける使用に対し、Porsoltおよび共同研究者ら(Porso ltら、1977年)による、ストレスに対する非特異的抵抗を測定するために使用された強制水泳試験が記述・検証されている(Porsolt、2000年)。強制水泳試験は、ほぼ完全に消耗した状態へと強制的に泳がせる(15分間)という行動療法アプローチを利用している。開始直後の力強い活動期間に続き、げっ歯類は一般的には固定姿勢を急に採るようになり、浮いた状態を保つために最小限にのみ活動する(Porsoltら、1977年)。強制水泳試験(Porsoltの試験)の有効性およびうつ状態との関連性が広きに渡って再検討され(Cryanら、2002年;Willner、1984年;Willner、1990年)ており、また、これは抗うつ剤に対する既に確立されたスクリーニング試験である。さまざまな研究所が本装置に技術的な改良を加えてはいるが、本試験の原理は変わらないままである。選択的セロトニン再取込み阻害剤(SSRI)の検出は臨床的に有効であるが、残念ながら、従来の強制水泳試験では信頼性が低い(BorsiniおよびMeli、1988;Detkeら、1995年、Cryan、2002年)。行動の詳細な分析をベースとするFSTの改良が、より信頼性の高いセロトニン作動性およびノルアドレナリン作動性の検出および識別を可能にしている(Lucki、1997年;Detkeら、1995年)。
【0134】
5.1.材料および方法
動物
180〜220gの体重の雌Wistarラット(Shoe:Wist、Dimed Schoenwalde GmbH社、ドイツ)を使用した。ラットはグループで飼育し、5匹を1ケージ(45×60×25cm)として室温(22±2℃)で、12時間の明暗サイクル(午前6時に点灯)にて170ルクスを照射した。標準ペレットフード(Altromin 1326)および水は自由に摂取させた。新しい環境に確実に慣らすために、試験前の2週間は、ラットを個別(departmental)動物ユニット内で飼育した。到着次第、ラットを治療群へと無作為に割り当てた。照明を明るく付けた防音室で、14:00〜17:00の間に試験を行った。
【0135】
化学物質
試験化合物:ELB139
化学名:1−(p−クロロフェニル)−4−ピペリジン−1−イル−1,5−ジヒドロ−イミダゾ−2−オン)
分子量:277.75
バッチ:S306767
製造業者:elbion AG
対照化合物:フルオキセチン
化学名:N−メチル−γ―〔4−(トリフルオロメチル)フェノキシ〕ベンゼンプロパンアミン
分子量:345.8
賦形剤1:タイロース
化学名:ヒドロキシエチルセルロース
バッチ:S22341 743
製造業者:Merck Eurolab GmbH
賦形剤2:PEG300
バッチ:Lot53616433
製造業者:Merck Eurolab GmbH
投薬計画/投与量
E131−00139を、10%のPEG+90%の0.5% ヒドロキシエチルセルロース中で試験前に新たにけん濁した。確立された抗うつ剤であるSSRIのフルオキセチン(10、30mg/kg)および賦形剤を処方する対照品(10% PEG+90%0.5% ヒドロキシエチルセルロース)を含めることで試験手順を有効なものとした。
【0136】
馴化セッション(23時間)の後すぐに、試験の5時間前および1時間前に、すべての動物にverumまたは賦形剤を3回処方した。すべての薬剤を、用量1mg/kgにて経口にて投与した。
【0137】
5.2.試験手順
22℃の水を28cmの深さまで満たした(動物は底面に届かない)ガラスタンク(23×30cm、高さ40cm)の中で動物を試験に供した。ガラスタンクは間接的に照明を行い、濃茶色の遮へい壁(タンクからの距離20cm)囲んで試験者が見えないようにした。試験は14:00〜17:00の間に行い、概ね記述に従った方法で行った(Porsoltら、1979年、Lucki、1997年)
試験の初日、馴化のために15分の間、ラットをそっと水中にいれた。水から取り出して、床をペーパータオルで覆った標準プレキシガラスの箱に入れ、赤外線ヒーターで30分間乾かした。翌日、もう一度ガラスタンクの中にそっと入れ、5分間観察した。動物の行動をビデオテープに録画した。
【0138】
5分終了時に、赤外線ヒーターの入った箱にラットを移して乾かした。試験後にビデオテープを手作業で分析し、以下の行動の持続期間を記録した。無動時間:浮いた状態で鼻を水面に保持するために必要な動きのみを行う。水泳時間:動物が活動的な動きをとっているとき、すなわち、潜水を含めてタンクの周囲を動きまわる。よじ登り:前足を水の中と外に強く動かしているときであり、通常は壁に向かって行う。
【0139】
5.3.解析
平均±SEMでデータを表し、群の大きさはラット10匹であった。群と群との間の比較は一元配置分散分析(One Way ANOVA)を用いて行い、続いてHolm−Sidak検定を用いた群間比較を行った。p<0.05の値を有意と見なした。全ての解析手続きはSigmaStat version 3.0を用いて行った。各データを第2−4表に示した。
【0140】
5.4.結果
強制水泳試験中の無動時間に対してELB139は効果を示さなかったものの、投与量30mg/kg(経口)において水泳時間は増大し、その一方で、よじ登り行動は変化しなかった(第6図)。主観的観察では、30mg/kg(経口)において、飼育用のケージに戻った後の中度の自発運動の抑制が示唆された。
【0141】
既に確立された抗うつ剤であるフルオキセチンは、10および30mg/kgにおいて無動時間を減少し、水泳時間を増大したが、その一方で、よじ登り行動は変化しなかった(第7図)。
【0142】
5.5.考察
我々の研究において、ELB139は強制水泳試験において効果を発揮した。想定される抗うつ様の作用に関するさらに多くの情報を調査するために、強制水泳試験中の行動を、種々のクラスの抗うつ剤間における差異を得るために、より複雑な方法で分析した(Lopez−RubalcavaおよびLucki、2000年:Lucki、1997年)これまでの調査と同様に、選択的セロトニン再取込み阻害剤であるフルオキセチンは、よじ登り行動を増大させることなく、水泳行動を促進した。
【0143】
強制水泳試験における被測定パラメーターに対するELB139の効果はフルオキセチンの場合と類似しており(水泳における変化、一方で無動時間への効果はより少なかった)、デシプラミンの場合(無動およびよじ登りにおける変化)とは異なる(Rexら、現在印刷中)。したがって、ELB139の作用がセロトニン作動性システムに含まれる可能性があると想像できる。セロトニン作動性の神経伝達の減少が、うつ病の原因論において鍵となる役割を演じていると提議されている。これは、第3世代の抗うつ剤であり、セロトニン作動性の伝達を高めるSSRIの臨床効果によって主に確立された(Beiqueら、2000年;Blier,2001年)。ELB139は、10および30mg/kg双方の投与量において非常に耐容性であった。
【0144】
試験セッションの間、ELB139を10または30mg/kg投与されたラットは、無動時間の増加を示さず、しかしながら、30mg/kgでわずかではあるが有意ではないよじ登り時間の減少が検出され得た。これは、ELB139の自発運動に対する減少効果によるものであるかもしれない。ラットを飼育ケージに戻した後、ラットの活動のわずかな減少も観察された。しかしながら、よじ登り時間の減少が、同時に水泳時間の著しい増加を伴うことから、ラットの総活動量は一定であるように見える。したがって、オープンフィールド試験において、また、さまざまなうつ病動物モデルにおいて、ELB139は自発運動の有意な減少を示すことはなかった(Langen、2002年;Langen、2003a+b)。その上、フルオキセチンとは対照的に、ELB139はラットの総活動量を増加させることはなかった。
【0145】
まとめると、投与量30mg/kg(経口)における水泳行動の顕著な増加を考慮すると、ELB139は抗うつ治療の候補化合物であると見なすことができる。
【0146】
実施例6
ベンゾジアゼピンアンタゴニストであるフルマゼニルを用いた、ELB139のセロトニンレベルに対する作用の逆転
6.1.材料および方法
動物
200〜260gの重さの雌Wistarラット(Crl:(WI)BR、Charles River社、Sulzfeld、ドイツ)を試験に使用した。ラットは標準環境下、5匹を1グループとして12時間の明暗サイクル(午前6時に点灯)にて、食餌(ペレット,ssniff M/R 15、Speziaeldiat GmbH社、Soest/Westfalen)と水は自由に取らせて飼育した。
【0147】
化学物質
E139(1−(p−クロロフェニル)−4−ピペリジン−1−イル−1,5−ジヒドロ−イミダゾ−2−オン、分子量(MW)277.75)は、elbion AG社が製造した。フルマゼニル(8−フルオロ−5−メチル−6−オキソ−5,6−ジヒドロ−4H−2,5,10b−トリアザ−ベンゾ〔エ〕アズレン−3−カルボキシリカシドエチルエステル)は、Tocris社から入手し、Biotrend Chemikalien GmbH社(ケルン、ドイツ)から配給された。その他の化学物質はすべて、Sigma−Aldrich Chemie GmbH社(ドイツ)またはMerck社(ドイツ)から入手した。
【0148】
投薬計画および投与量
投与経路:腹腔内
適用量:0.5ml/100g
【0149】
【表6】

【0150】
6.2.化合物の調製
ELB139を、90%の0.5% ヒドロキシエチルセルロースおよび10%のPEG300中で新たにけん濁することによって、各物質および投与量のための投薬容積である0.5ml/100gを得た。ハロペリドール注射溶液を生理食塩水で希釈することによって、投薬容積である0.5ml/100gを得た。投与前ならびに投与中は、溶液およびけん濁液を電磁かくはん機に設置した。ヒドロキシエチルセルロースは蒸留水中に溶解した。
【0151】
6.3.試験手順
手術
試験の前日、抱水クロラール(3.6%、1ml/100g、腹腔内)で雌ラットに麻酔をかけ、定位固定フレーム内に置き、微小透析のガイドカニューレ(CMA/12、Carnegie Medicine社、スウェーデン)を移植した。頭皮はラムダとブレグマの間の中央を前後方向に切開し、ドリルで頭蓋骨に小さな穴を開けた。PaxinosおよびWatson(1986)にしたがい、定位座標はブレグマよりAP=+1.0mm、L=−3.0mm、線条体に対する頭蓋骨表面から1.5mmであった(1)。頭蓋に対するガイドカニューレおよびアンカースクリューの固定には歯科用セメント(Sinfony(2))を使用した。手術中は、電気毛布を用いて直腸の温度を37℃に保持した。
【0152】
微小透析
試験前日、ガイドカニューレを通じて微小透析プローブ(CMA/12、膜の長さ4mm、Carnegie Medicin、スウェーデン)を線条体に挿入した。試験当日、プローブをリンゲル液(148mM NaCl、4mM KCl、2,4mM CaCl、pH=6,0)で潅流した。流速(1μm/分)にて20分毎に20μmの試料をマイクロバイアルに採取した。マイクロバイアルは、分析に供するまではフラクションコレクタ(CMA/170)内で温度8℃にて貯蔵した。スイベルジョイントを用いて、潅流処理中も動物は半球形の容器内を自由に動くことが出来るようにした。一時間の調整時間をとった後、3回連続で20分間の画分を採取し、神経伝達物質の放出の安定な基礎レベルを規定した。
【0153】
その後、30mg/kgのELB139または同一容積の0.5%のタイロースを、それぞれ投与した。その後、少なくとも220分の間、サンプル採取を続けた。
【0154】
透析液の分析
電気化学検出を用いた逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC−EC)により、透析液を直接分析した。ZORBAX SB−Aq 内径(ID)2.1mm×100mm カラム(Agilent Technologies社)を用いてサンプルを単離した。1%の過塩素酸1μlを20分間の画分に加え、この混合液10μlをHPLCシステムに注入した。
【0155】
移動相は以下を含んでいた:
KHPO 50mM
オクタン−1−スルホン酸ナトリウム塩(NOS) 2,2mM
EDTA 0.086mM
2MHPO 5ml
メタノール(MeOH) 83ml
アセトニトリル 10ml
pH3.5にて
流速0.23ml/分、カラム温度38℃、サンプルのサーモスタット8℃にて、メソッド(セロトニン)を実行した。
【0156】
夜間の流速は、流速0.1ml/分に減じた。カテコールアミンを500mV(モデル5014B 微小透析セル、esa)で酸化した。DOPACは200nA、ドーパミンは2nA、HIAAは100nA、HVAは2nA、およびセロトニンは500pAにて測定した。
【0157】
5種類の濃度でのシステムの外部標準を標準化(calibrate)するためにそれぞれを定期的に実行した。
【0158】
DOPAC(3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸) 1000,500,250,125,62.5nM
DOPAMINE(塩酸 3−ヒドロキシチラミン) 8,4,2,1,0.5nM
HIAA(5−ヒドロキシ−3−インドール酢酸) 200,100,50,25,12.5nM
HVA(ホモバニリン酸) 800,400,200,100,50nM
SEROTONIN(5−ヒドロキシトリプタミン−クレアチニン硫酸塩) 0.15,0.075,0.0375,0.01875,0.009375nM
微小透析プローブの移植前および除去後、2000nMのDOPAC、40nMのドーパミン、1000nMのHIAA、2000nMのHVAおよび0.8nMのセロトニンを含む溶液でリカバリー(回収)を行った。プローブの回収率は5〜20%の間であった。
【0159】
組織像
試験終了後にラットの脳を除去し、ホルマリン(10%)中で約10日間固定した。ビブロスライス(TSE)を用いて脳を切断し、トロイジンブルーで染色してプローブが正しい位置にあることを確認した。
【0160】
6.4.統計
5−HT放出の基礎レベルは個体差を示した。そのため、各動物のデータを百分率で示した。物質投与前の微小透析のデータを平均化し、平均値を100%とした;全個体値は適宜算出した。
【0161】
時間および薬剤を二つの因子として、二元配置分散分析(ANOVA)により結果を分析した。個々の比較にはTuckey検定を使用した。P<0.05を有意であると見なした。
【0162】
6.5.結果
平均基礎レベルと比較すると、ELB139はラット線条体における細胞外セロトニンの顕著な増加を誘発する。30mg/kg(腹腔内)のELB139投与の40分後に、10mg/kg(腹腔内)のフルマゼニルを与えると、細胞外のセロトニン増加が逆転するだけでなく、セロトニンレベルは平均基礎レベル以下へと減少さえする。記録時間(3時間)の終了時には、セロトニンレベルは再び平均基礎レベルへと戻った。
【0163】
実施例7
ベンゾジアゼピンアンタゴニストであるフルマゼニルを用いた、ELB139の抗精神病性作用の逆転
7.1.材料および方法
動物
168〜217gの重さの雌Wistarラット(Crl:(WI)BR、Charles River社、Sulzfeld、ドイツ)を試験に使用した。ラットは標準環境下、5匹を1グループとして12時間の明暗サイクル(午前6時に点灯)にて、食餌(ペレット,ssniff M/R 15、Spezialdiaet GmbH社、Soest/Westfalen)と水は自由に取らせて飼育した。
【0164】
化学物質
ELB139(1−(p−クロロフェニル)−4−ピペリジン−1−イル−1,5−ジヒドロ−イミダゾ−2−オン、分子量(MW)277.75)は、elbion AG社が製造した。ハロペリドール(4−(4−[4−クロロフェニル]−4−ヒドロキシ−1−ピペリジニル)−1−(4−フルオロフェニル)−1−ヌタノン、分子量(MW)375,9)は、ratiopharm GmbH社(ウルム、ドイツ)から入手し、MK−801(dizoclipine、分子量(MW)337.37)およびフルマゼニル(8−フルオロ−5−メチル−6−オキソ−5,6−ジヒドロ−4H−2,5,10b−トリアザ−ベンゾ〔エ〕アズレン−3−カルボキシリカシドエチルエステル)は、Tocris社から入手し、Biotrend Chemikalien GmbH社(ケルン、ドイツ)から配給された。その他の化学物質はすべて、Sigma−Aldrich Chemie GmbH社(ドイツ)またはMerck社(ドイツ)から入手した。
【0165】
7.2.投薬計画および投与量
適用量:0.5ml/100g
【0166】
【表7】

【0167】
7.3.化合物の調製
ELB131−00139を、90%の0.5% ヒドロキシエチルセルロースおよび10%のPEG300中で新たにけん濁することによって、各物質および投与量のための投薬容積である0.5ml/100gを得た。ハロペリドール注射溶液を生理食塩水で希釈することによって、投薬容積である0.5ml/100gを得た。フルマゼニルおよびMK−801を生理食塩水で希釈することによって、投薬容積である0.5ml/100gを得た。投与前ならびに投与中は、溶液ならびにけん濁液を電磁かくはん機に設置した。ヒドロキシエチルセルロースは蒸留水中に溶解した。
【0168】
試験の30分前にハロペリドールを、10分前にMK−801を投与されたハロペリドールラットを除き、その他の試験群には、試験の60分前にハロペリドール、ELB139または賦形剤を、試験の20分前に生理食塩水またはフルマゼニルを、試験の10分前にMK801を投与した。
【0169】
7.4.試験手順
NMDAアンタゴニストであるMK−801に誘発される行動は、うつ病ラットモデルとして概ね許容できるものである。MK−801は、腹腔内投与後のラットにおいてステレオタイプ、多動および運動失調を誘発する。
【0170】
ラットの自発運動は、MotiTest装置(TSE、Bad Homburg、ドイツ)を用いて記録する。保護用のプレキシグラスの壁(高さ20cm)を有する正方形のアリーナ(45×45cm)で構成される試験領域では、ラットは自由に動くことが出来る。アリーナの各壁底部に沿って取り付けた32赤外線フォトセル(32 infrared photocells)で、水平運動を記録する。床から12センチ上部の、横一列に並べた32赤外線フォトセルで、垂直運動(立ち上がり)を記録する。コンピュータプログラム「ActiMot」(TSE、Bad Homburg、ドイツ)で、以下のパラメータを測定する:
1.活動時間〔s〕
2.総移動距離〔m〕。
【0171】
一時間の間、5分毎に(12インターバル)、Andineら(1999)に記載の方法に従い、ステレオタイプ性の匂い嗅ぎとその他のステレオタイプに分けたステレオタイプ、および運動失調を試験者が採点する。12のインターバルにおける点数を各パラメータに加えた。
【0172】
【表8】

【0173】
試験の当日、雌ラットを実験室に移し、試験化合物、対照品または賦形剤を試験前の適切な時間に与える。0.2mg/kgのMK−801を、試験の10分前に腹腔内に投与する。
【0174】
試験開始時に、MotiTest装置の正方形のアリーナの中心にラットを置く。ラットの行動を一時間記録する。各記録作業後には動物を除去して箱を完全に清掃して乾燥させる。
【0175】
7.5.統計
匂い嗅ぎ、その他のステレオタイプおよび運動失調の結果を、一元配置分散分析(ANOVA)により分析した。個々の比較にはTukey検定を使用した。活動および総移動距離の結果は、二元配置分散分析(ANOVA)(化合物×時間)により分析した。個々の比較にはStudent−Newman−Keuls検定を使用した。P<0.05を有意であると見なした。
【0176】
7.6.結果
0.5mg/kg(腹腔内)のハロペリドールは、MK−801により誘発された活動の増加、総移動距離の増加、および匂い嗅ぎ(ステレオタイプ)を有意に逆転した(第1図)。MK−801により誘発されたその他のステレオタイプは、0.5mg/kgのハロペリドールによってわずかに減少した。ハロペリドールのこれらの効果は5mg/kgのフルマゼニルによる影響を受けなかった。MK−801誘発性の運動失調は、ハロペリドールによりわずかに減少したが、ハロペリドールとフルマゼニルを併用して投与することによって有意に逆転した。(第8図)
ELB139のデータは、2名の実験助手により別々に行われた2回の試験(2003年11月、2004年1月)によって得られたものである。2回の試験および両試験の合計は、第9図ならびに第10図aおよびbに記載し、図示している。
【0177】
30mg/kg(経口)のELB139は、個々の試験において、また、両試験のデータを合算した場合において、ステレオタイプ性の匂い嗅ぎを有意に逆転させた。ELBの効果は、2回目の試験ではフルマゼニルにより明らかに無効となり、また、初回の試験および両試験の合計では有意に逆転した(第9図)。
【0178】
MK−801により誘発されたその他のステレオタイプは、30mg/kg(経口)のELB139により、初回の試験ではわずかに減少し、2回目の試験および両試験の合計では有意に逆転した。ELB139の作用は、5mg/kgのフルマゼニルにより、最初の試験ではどちらかといえば増幅され、2回目の試験では有意に逆転したことから、データを加算した場合、フルマゼニルによるELB139の作用の変化はもはや見られない。これらの論争を招くような結果は、初回の試験における「その他のステレオタイプ」の定義が不明確であったことにより、おそらく起きたのであろう(第9図)。
【0179】
30mg/kg(経口)のELB139は、初回の試験(2003年11月)において、MK−801により誘発される運動失調にはほとんど作用しなかった。2回目の試験(2004年1月)では作用がより明確になったものの、未だ有意に至るものではなく、したがって、両試験を合算しても運動失調のわずかな減少は観察されただけであった。2回目の試験で観察された、運動失調を減少させるELB139の作用は、5mg/kg(腹腔内)のフルマゼニルにより逆転した。両試験のデータを集計すると、フルマゼニルの逆転作用はわずかなものであった(第9図)。
【0180】
MK−801により誘発された多動(活動過剰)は、活動および移動距離として記録され、5分間隔で記述された。全時間曲線を考慮すると、30mg/kg(経口)のELB139は、MK−801により誘発される活動を2回目の試験では明らかに減少させ、また、初回の試験および両試験のデータの合計では有意に減少させた(二元配置ANOVA、第10a図)。2つの試験および両試験の合計において、活動に対するELB139の作用は、5mg/kg(腹腔内)のフルマゼニルにより逆転した(第10a図)。
【0181】
MK−801により誘発された移動距離の増加は、2つの試験および両試験のデータの合計において、全時間曲線を考慮した場合、ELB139により有意に減少した(二元配置ANOVA、第10a図)。この作用は、全試験および両試験のデータの合計において、フルマゼニルにより有意に逆転した(第10a図)。
【0182】
各タイムポイントに注目すると、活動および移動距離に対するELB139の作用がより顕著であったのは最初の半時間であった(第10b図)。
【0183】
参考資料
【0184】
【表9】

【0185】
【表10】

【0186】
【表11】

【0187】
【表12】

【0188】
【表13】

【0189】
【表14】

【0190】
【表15】

【0191】
【表16】

【0192】
【表17】

【0193】
【表18】

【0194】
【表19】

【図面の簡単な説明】
【0195】
【図1】図1は、試験の10分前に0.2mg/kgのMK−801を腹腔内に投与して刺激した雌ラットにおける活動、総移動距離、ステレオタイプ性の匂い嗅ぎ、他のステレオタイプおよび運動失調を示している
【図2】図2は、E131−00139の抗ジストニア作用を示している
【図3】図3は、ラットの線条体における5−HT放出に対するE131−00139の作用を示している
【図4】図4は、ラットの線条体におけるドーパミン放出に対するE131−00139の作用を示している
【図5a】図5aは、組み換えラットαiβ2γ2(i=1〜5)GABAレセプターを発現するHEK293細胞に関する全細胞の記録を示している
【図5b】図5bは、組み換えラットαiβ2γ2(i=1〜5)GABAレセプターを発現するHEK293細胞に関する全細胞の記録を示している
【図5c】図5cは、組み換えラットαiβ2γ2(i=1〜5)GABAレセプターを発現するHEK293細胞に関する全細胞の記録を示している
【図5d】図5dは、組み換えラットαiβ2γ2(i=1〜5)GABAレセプターを発現するHEK293細胞に関する全細胞の記録を示している
【図5e】図5eは、組み換えラットαiβ2γ2(i=1〜5)GABAレセプターを発現するHEK293細胞に関する全細胞の記録を示している
【図6】図6は、ラット強制水泳試験における無動時間、水泳時間および動物がよじ登って脱出しようとするタイムスパンに対し、賦形剤を処方した対照と比較したELB139(=E131−00139、10+30mg/kg)の作用を示している
【図7】図7は、ラット強制水泳試験における無動時間、水泳時間および動物がよじ登って脱出しようとするタイムスパンに対する、賦形剤を処方した対照と比較した、フルオキセチン(10+30mg/kg)の作用を示している
【図8】図8は、雌ラットにおけるMK−801誘発性の精神疾患関連行動に対するハロペリドールの作用を示している
【図9】図9は、雌ラットにおけるMK−801誘発性の精神疾患関連行動に対するELB139の作用、およびフルマゼニルによるその可逆性を示している
【図10a】図10aは、雌ラットにおけるMK−801誘発性の精神疾患関連行動に対するELB139の作用、およびフルマゼニルによるその可逆性を示している
【図10b】図10bは、雌ラットにおけるMK−801誘発性の精神疾患関連行動に対するELB139の作用、およびフルマゼニルによるその可逆性を示している

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一種以上の、式(I)
【化1】

[式中、Xは水素、C1−4−アルキル、C1−4−アルコキシ、トリフルオロメチル、またはハロゲン残基であり、RおよびRはそれぞれ独立してC1−4−アルキル、C3−10−シクロアルキルまたはC3−10−ヘテロアルキル残基であり、あるいはRおよびRは共にC2−6アルキレン残基であって、その−CH−基は任意に酸素、窒素、または硫黄により置換され、nは0または1であり、mは0または1〜5の基数である]に示される1−アリール(アルキル)イミダゾリン−2−オンの有効量を必要に応じて患者に投与することによる、精神病性障害、運動障害、および/または他の精神障害に関連する精神病症状を含む中枢神経系疾患の治療および予防のための方法。
【請求項2】
アルファ3サブユニットを運搬するベンゾジアゼピンレセプターのサブタイプ選択的アゴニストであるが、GABAレセプターのアルファ2またはアルファ4サブユニットを運搬するレセプターには作動しない物質の少なくとも一種以上を、有効量投与することを含む、精神病性障害、運動障害、および/または他の精神障害に関連する精神病症状を含む中枢神経系疾患の治療および予防するための方法、ならびに、特に、不安障害を治療するための方法。
【請求項3】
物質が、アルファ3運搬レセプターに対して高い親和性を持つ部分アゴニストとして、さらにアルファ1および/またはアルファ5運搬レセプターに対して低い親和性を持つ部分アゴニストとして働くことを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
有効量の1−(4−クロロフェニル)−4−ピペリジノイミダゾリン−2−オンを投与することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
式(I)の化合物を非経口または経口投与することを特徴とする、請求項1、2、または3に記載の方法。
【請求項6】
式(I)の化合物を患者の体重に対して1〜100mg/kgの量を投与することを特徴とする、請求項1のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
中枢神経系疾患が精神病または精神病エピソードであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
精神病または精神病エピソードが、統合失調症の一種(例えば、妄想型、解体型、緊張型、未分化型、または残遺統合失調症)および躁うつ病のような双極性気分障害ならびに統合失調症の精神病後の抑うつ障害であり;精神病エピソードは、統合失調症様障害、統合失調性感情障害、妄想性障害、(例えば、アルコール、アンフェタミン、大麻、コカイン、幻覚剤、吸入剤、オピオイドまたはフェンシクリジンなどにより誘発される)物質誘発性精神病性障害;(例えば境界性人格障害などの)人格障害、例えば不適応による攻撃などの衝動性障害;双極性障害および注意欠陥、多動性障害(AD/HD)ならびに(例えばアルコール、アンフェタミン、コカインまたは麻薬依存症の)乱用および依存症、であることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
中枢神経系疾患が気分障害または気分エピソードであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
気分障害または気分エピソードが、大うつ病性障害またはエピソード、躁病性・混合性および軽躁病性気分障害、非定型性・緊張性または憂うつに特徴付けられるうつ病エピソード、出産後に発現した月経前不快気分障害によるうつ病エピソード、小うつ病性障害、外傷後の急性ストレス障害、強迫神経症および摂食障害を有する患者であることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
中枢神経系疾患が不安障害または不安エピソードであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
不安障害または不安エピソードが、慢性の不安障害、パニック障害、広場恐怖症、特定恐怖症、対人恐怖症および全般性不安障害であることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
中枢神経系疾患が、主に基底核の機能不全に関連する運動障害であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
運動障害がさまざまなサブタイプのジストニア、例えば局所性ジストニア、多形の局所性または部分性ジストニア、捻転ジストニア、半側性、全身性ならびに遅発性のジストニア(精神薬理学的薬剤により誘発される)であり;局所性ジストニアには頸部ジストニア(斜頸)、眼瞼痙攣(瞼の痙攣)、四肢ジストニア(書痙のような四肢の痙攣)、口顎ジストニアおよび痙攣性発生障害(声帯の痙攣)ならびに発作性ジストニアであることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
少なくとも一種以上の、式(I)
【化2】

[式中、Xは水素、C1−4−アルキル、C1−4−アルコキシ、トリフルオロメチル、またはハロゲン残基であり、RおよびRはそれぞれ独立してC1−4−アルキル、C3−10−シクロアルキルまたはC3−10−ヘテロアルキル残基であり、あるいはRおよびRは共にC2−6アルキレン残基であって、その−CH−基は任意に酸素、窒素、または硫黄により置換され、nは0または1であり、mは0または1〜5の基数である]に示される1−アリール(アルキル)イミダゾリン−2−オンの有効量を含有する、精神病性障害、運動障害、および/または他の精神障害に関連する精神病症状を含む中枢神経系疾患の治療および予防のための医薬組成物。
【請求項16】
ベンゾジアゼピンレセプターのアルファ3サブユニットに対して選択性を有するが、GABAレセプターのアルファ2および/またはアルファ4サブユニットを運ぶレセプターに対して陽性GABA増強効果を有意に発揮しないベンゾジアゼピンレセプターリガンドを含有する、精神病性障害、運動障害、および/または他の精神障害に関連する精神病症状を含む中枢神経系疾患の治療のための医薬組成物。
【請求項17】
ベンゾジアゼピンリガンドが、アルファ3運搬レセプターに対して高い親和性を持つ部分アゴニストとして、さらにアルファ1および/またはアルファ5運搬レセプターに対して低い親和性を持つ部分アゴニストとして働くことを特徴とする、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
式(I)の化合物が1−(4−クロロフェニル)−4−ピペリジノイミダゾリン−2−オンであること特徴とする、請求項15、16または17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
さらに賦形剤、助剤を含有することを特徴とする、請求項15〜18のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項20】
非経口または経口投与することを特徴とする、請求項15〜19のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項21】
式(I)の化合物を患者の体重に対して1〜100mg/kgの量を投与することを特徴とする、請求項15または16に記載の医薬組成物。
【請求項22】
中枢神経系疾患が精神病または精神病エピソードであることを特徴とする、請求項15〜21のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項23】
精神病または精神病エピソードが、統合失調症の一種(例えば、妄想型、解体型、緊張型、未分化型、または残遺統合失調症)および躁うつ病のような双極性気分障害ならびに統合失調症の精神病後の抑うつ障害であり;精神病エピソードは、統合失調症様障害、統合失調性感情障害、妄想性障害、(例えば、アルコール、アンフェタミン、大麻、コカイン、幻覚剤、吸入剤、オピオイドまたはフェンシクリジンなどにより誘発される)物質誘発性精神病性障害;(例えば境界性人格障害などの)人格障害、例えば不適応による攻撃などの衝動性障害;双極性障害および注意欠陥、多動性障害(AD/HD)ならびに(例えばアルコール、アンフェタミン、コカインまたは麻薬依存症の)乱用および依存症、であることを特徴とする、請求項22に記載の医薬組成物。
【請求項24】
中枢神経系疾患が気分障害または気分エピソードであることを特徴とする、請求項15〜21のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項25】
気分障害または気分エピソードが、大うつ病性障害またはエピソード、躁病性・混合性および軽躁病性気分障害、非定型性・緊張性または憂うつに特徴付けられるうつ病エピソード、出産後に発現した月経前不快気分障害によるうつ病エピソード、小うつ病性障害、外傷後の急性ストレス障害、強迫神経症および摂食障害を有する患者であることを特徴とする、請求項24に記載の医薬組成物。
【請求項26】
中枢神経系疾患が不安障害または不安エピソードであることを特徴とする、請求項15〜21のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項27】
不安障害または不安エピソードが、慢性の不安障害、パニック障害、広場恐怖症、特定恐怖症、対人恐怖症および全般性不安障害であることを特徴とする、請求項26に記載の医薬組成物。
【請求項28】
中枢神経系疾患が、主に基底核の機能不全に関連する運動障害であることを特徴とする、請求項15〜21のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項29】
運動障害がさまざまなサブタイプのジストニア、例えば局所性ジストニア、多形の局所性または部分性ジストニア、捻転ジストニア、半側性、全身性ならびに遅発性のジストニア(精神薬理学的薬剤により誘発される)であり;局所性ジストニアには頸部ジストニア(斜頸)、眼瞼痙攣(瞼の痙攣)、四肢ジストニア(書痙のような四肢の痙攣)、口顎ジストニアおよび痙攣性発生障害(声帯の痙攣)ならびに発作性ジストニアであることを特徴とする、請求項28に記載の医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【図5c】
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【図5d】
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【図5e】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10a】
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【図10b】
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【公表番号】特表2009−513539(P2009−513539A)
【公表日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−519793(P2006−519793)
【出願日】平成16年6月28日(2004.6.28)
【国際出願番号】PCT/EP2004/006989
【国際公開番号】WO2005/004867
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(397047383)ベーリンガー・インゲルハイム・フエトメデイカ・ゲゼルシヤフト・ミツト・ベシユレンクテル・ハフツング (1)
【氏名又は名称原語表記】Boehringer Ingelheim Vetmedica GmbH
【住所又は居所原語表記】173,Binger Strasse, Ingelheim,Germany
【Fターム(参考)】