説明

ベータアミロイドペプチドとVEGFの相互作用を抑制する物質の探索方法およびそれによって探索された阻害剤

本発明は、ベータアミロイド1−42ペプチドとVEGF165の結合を抑制する物質を探索して発見された化合物に関する発明である。前記本発明によって探索された抑制物質は、アルツハイマー治療物質としての有効性を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベータアミロイド1−42ペプチドとVEGF165の結合を抑制する物質を探索して発見された化合物に関する発明である。前記本発明によって探索された抑制物質は、アルツハイマー治療物質としての有効性を向上させることができる。
【背景技術】
【0002】
痴呆の主な原因となっているアルツハイマー病は、記憶喪失、思考減少、進行性神経退行などの特徴がある。アルツハイマー病の病理学的な特徴としては、神経細胞外に蓄積される老人斑(senile plaques)と、細胞内に見られる神経原繊維のもつれ(neurofibrillary tangles)を挙げることができる。このような病理学的特徴は、家族性アルツハイマー病(familial alzheimers disease、FAD)と孤発性アルツハイマー病(sporadic alzheimers disease、SAD)のすべての場合に現れ、そのうち、老人斑はベータアミロイドという毒性蛋白質が主な構成要素であることが明らかになり、ベータアミロイドの蓄積過多が共通した形状として現れることが報告されている(Parihar MS,Hemnani T.,J Clin Neurosci.2004,Jun;11(5):456−67,Selkoe DJ.,Nature.1999 Jun 24;399(6738 Suppl):A23−31)。
【0003】
このアミロイドは、βプリーツシート構造(β−pleated sheet formation)を有してベータアミロイドと呼ばれるようになり、略39〜43個のアミノ酸からなり、水溶性ペプチドがβプリーツシート構造を形成すると、繊維体(fibril)を形成して沈着しやすくなって毒性を形成し、これがアルツハイマー病(AD)の重要な病因であると考えられている。大きい分子量の前駆蛋白質であるAPP695、APP751、APP770が、蛋白質分解酵素による代謝過程によって分解されて生成される代謝産物である。
【0004】
APPは、内在性膜蛋白質(Integral membrane protein)で、アミロイド生成経路(amyloidogenic pathway)と非アミロイド生成経路(non−amyloidogenic pathway)の2つでその代謝過程が進行する。アミロイド生成経路は、ベータアミロイドが生成されるもので、ベータセクレターゼとガンマセクレターゼという蛋白質分解酵素によってベータアミロイドが形成され、このとき、付随的に細胞外ドメイン(extracellular domain)が切断され、APPβの形態で細胞外に分泌される。これに対し、非アミロイド生成経路は、正常人に優れて見える経路で、ベータアミロイドが形成されず、アルファセクレターゼという蛋白質分解酵素によってベータアミロイドの16/7番目の部分が切断され、この切断された細胞外ドメインは、APPαの形態で細胞外に分泌される。
【0005】
ベータセクレターゼによって切断されたAPPは、C99と呼ばれる細胞質ドメイン(cytoplasmic domain)と、sAPPβ(secreted form of β−secretase derived APP)と呼ばれるN−末端ドメイン(N−terminal domain)とに分けられる。C99は、さらにガンマセクレターゼによって4kDaのベータアミロイドを作り出し、少量に凝集力がよく、神経斑で主に発見される42個のアミノ酸からなるベータアミロイド42である。sAPPβは、その機能はよく知られていないが、90kDa前後の蛋白質を細胞外に分泌する(Suh YH,Checler F.,Pharmacol Rev 2002;54:469−525.,Suh YH.,J Neurochem 1997;68:1781−91.,Selkoe DJ.,Physiol Rev 2001;81:741−66)。
【0006】
ベータアミロイドの配列において、凝集(aggregation)と神経毒性(neurotoxicity)の特性が確認された。配列の中間部位であるKLVFF(Aβ16−20)は、ベータアミロイド間の相互作用に重要である。また、ベータアミロイドの25−35番目の部位は、ペプチドに凝集と神経毒性の2つとも寄与するものとされている(Yang SP.et al.,J Neurochem.2005 Apr;93(1):118−27.)。
【0007】
血管内皮成長因子(vascular endothelial growth factor、VEGF)は、新しい血管の生成に重要な要素の一つである。VEGFは、ホモ二量体蛋白質で、選択的スプライシング(alternative splicing)によって121、145、165、189、206個のアミノ酸からなる5種の異性体が作られる。最近の研究によれば、VEGF165は、血管の生成とインビボ(in vivo)における血管透過性、そして、内皮細胞成長への関与と(Di Benedetto M.,Biochim Biophys Acta.2008 Apr;1780(4):723−32.Epub 2008 Feb 7.)、向精神性と神経保護因子のような新たな役割が加えられた。
【0008】
VEGF121とVEGF165は、VEGF異性体の大部分を占めており、VEGFの活性においてもほとんど関与する。VEGF165は、VEGF121よりVEGF受容体に対して高い親和度を有し、内皮細胞の分裂においても高い刺激効果を表す。すべてのVEGF異性体は、共通して、110個のアミノ酸からなるN−末端受容体結合ドメインを有している。これに対し、C−末端はそうでない。VEGF165は、ヘパリンが結合可能な55個のアミノ酸からなるヘパリン結合ドメイン(heparin−binding domain、HBD)を有しており、これは、エクソン7および8によってエンコードされている。しかし、VEGF121は、HBDを有しておらず、ヘパリンの結合が不可能である。最近の報告によれば、VEGFはベータアミロイドと相互作用し、ベータアミロイドの細胞毒性に影響を及ぼす。VEGF165はベータアミロイドと相互作用するのに対し、VEGF121は、HBDを有していないため、ベータアミロイドと相互作用をしない。また、VEGF165がベータアミロイドに結合する核心結合部位がペプチドの25−35配列の部位とされている。ベータアミロイドの25−35部位は、前述したように、ベータアミロイドに毒性を持たせる。VEGF165は、ベータアミロイドの凝集とベータアミロイドによって誘導される神経毒性から細胞を保護する(Yang SP.et al.,J Neurochem.2005 Apr;93(1):118−27)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の必要性によってなされたものであって、本発明の目的は、ベータアミロイド抑制剤のスクリーニング方法を提供することである。
【0010】
本発明の他の目的は、ベータアミロイド抑制剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明は、a)化合物ライブラリファイル全体に対して分子ドッキングシミュレーションを行い、蛋白質チップスクリーニングのための出発物質を探索するステップと、b)前記探索された出発物質を血管内皮成長因子(VEGF)と混合して混合物を製造するステップと、c)前記混合物をベータアミロイド付着蛋白質チップに添加するステップと、d)前記結合程度を分析するステップとを含むベータアミロイド抑制剤のスクリーニング方法を提供する。
【0012】
本発明の一具体例において、前記ドッキング計算のための検索アルゴリズムは、アルファトライアングル方法を用いたものが好ましいが、これに限定されない。
【0013】
また、本発明の一実施例において、前記結合程度の分析は、血管内皮成長因子に特異的に結合する一次抗体を用いてベータアミロイドに結合した血管内皮成長因子と反応させた後、前記一次抗体に結合可能な蛍光物質が結合された二次抗体を用いて行われることが好ましいが、これに限定されず、前記蛍光物質は、Cy3(グリーン)、Cy5(レッド)、FITC(グリーン)、アレクサ(Alexa)、ボディピ(BODIPY)、ローダミン(Rhodamine)、およびQ−ドット(dot)からなる群より選択された1種以上の蛍光物質であることが好ましいが、これらに限定されない。
【0014】
さらに、本発明は、前記本発明にかかるスクリーニング方法によって得られた下記の化学式1ないし2からなる群より選択された1種以上の化合物またはその塩を含むベータアミロイド抑制剤を提供する。
【化1】

【化2】

【0015】
また、本発明は、下記の化学式1ないし2からなる群より選択された1種以上の化合物またはその塩を含むベータアミロイド抑制剤を提供する。
【化3】

【化4】

【0016】
さらに、本発明は、本発明にかかるスクリーニング方法によって得られた下記の化学式1ないし2からなる群より選択された1種以上の化合物またはその塩を有効成分として含むアルツハイマー治療または予防用組成物を提供する。
【化5】

【化6】

【0017】
また、本発明は、下記の化学式1ないし2からなる群より選択された1種以上の化合物またはその塩を有効成分として含むアルツハイマー治療または予防用組成物を提供する。
【化7】

【化8】

【0018】
化学式1または2の化合物およびその薬学的に許容可能な塩を、例えば、薬学製剤の形態で薬剤として使用することができる。前記薬学製剤を経口に、例えば、錠剤、コーティングされた錠剤、糖衣錠、硬質および軟質ゼラチンカプセル、溶液、乳化液または懸濁液の形態で投与することができる。しかし、前記投与をさらに直腸によって、例えば、座薬の形態で、非経口的に、例えば、注射液の形態で行うことができる。
【0019】
化学式1または2の化合物を、薬学製剤の製造のために、薬学的に不活性である無機または有機担体とともに加工することができる。例えば、錠剤、コーティングされた錠剤、糖衣錠、および硬質ゼラチンカプセルに対する担体として、ラクトース、トウモロコシ澱粉またはその誘導体、滑石、ステアリン酸またはその塩などを使用することができる。軟質ゼラチンカプセルに好適な担体は、例えば、植物性オイル、ワックス、脂肪、半固体および液体ポリオールなどである。しかし、有効物質の性質によって、大体、軟質ゼラチンカプセルの場合には担体が必要でない。溶液およびシロップの製造に好適な担体は、例えば、水、ポリオール、グリセロール、植物性オイルなどである。座薬に好適な担体は、例えば、天然または硬化オイル、ワックス、脂肪、半液体または液体ポリオールなどである。
【0020】
前記薬学製剤はさらに、保存剤、可溶化剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、甘味剤、着色剤、香料、滲透圧変化用塩、緩衝剤、マスキング剤または酸化防止剤を含むことができる。前記製剤はまた、さらに他の治療学的に貴重な物質を含むことができる。
【0021】
化学式1または2の化合物またはその薬学的に許容可能な塩および治療学的に不活性である担体を含む薬剤がまた、1種以上の化学式1または2の化合物および/または薬学的に許容可能な酸付加塩、および場合によっては、1種以上の他の治療学的に貴重な物質を、1種以上の治療学的に不塩活性である担体とともに、生薬投与形態で作ることを含むその製造方法と同様に、本発明の目的である。
【0022】
本発明にかかり、化学式1または2の化合物だけでなく、その薬学的に許容可能な塩は、疾病、例えば、アルツハイマー病の抑剤または予防に有用である。
【0023】
容量を広範囲な限界内で変化させることができ、もちろん、各々の特定の場合に個別の要件によって調節しなければならない。経口投与の場合、成人容量を1日に約0.01ないし約1000の化学式1または2の化合物、あるいはそれ相応の量の薬学的に許容可能な塩に変化させることができる。前記1日の容量を単一容量としてまたは分割容量として投与することができ、さらに、前記上限は、使用が指示されたことが明らかになる場合も超過可能である。
【0024】
製剤を製造して容器内に充填させて密封する工程は、通常の抗菌および無菌の条件下に行う。
【0025】
本発明の化合物は、当業界に周知の通常の製造方法によって製造できる。
【0026】
以下、本発明を説明する。
【0027】
本発明は、ベータアミロイド1−42ペプチドとVEGFの相互作用抑制剤に関する発明である。
【0028】
ベータアミロイド1−42(Aβはアルツハイマー病(AD)の発病に最も有力な物質で、水溶性のアミロイドがベータプリーツシート構造(β pleated sheet formation)を形成すると、繊維体(fibril)を形成して沈着しやすくなって毒性を形成し、神経細胞死に関与するようになる。ここで、VEGF165のHBDは、ベータアミロイドが毒性を示すのに関与する部位である25−35に結合して、Aβ毒性を減少させる。ベータアミロイドとVEGF165の結合を抑剤するHBDと類似の化合物は、アルツハイマー病の治療剤および医薬品の原料として開発できる。ベータアミロイドとVEGF165の抑制剤をスクリーニングするために、数万個の化合物を迅速かつ容易にスクリーニングする方法が必要になった。仮想探索方法と蛋白質チップを用いて探索された物質は、ベータアミロイドとVEGF165の結合抑制剤として開発できる。
【発明の効果】
【0029】
ベータアミロイドとVEGF165の結合を抑剤する物質として、VEGF165のHBDと結合してVEGF165−ベータアミロイドの相互作用を阻害することにより、神経細胞においてVEGF165がフリーになり、VEGF165が向精神性と神経保護因子として作用できるように補助する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】仮想探索に用いられた方法を整理したものである。
【図2】ベータアミロイド1−42ペプチドとVEGF165の相互作用による濃度別の結合力を確認した実験結果である。
【図3】実施例1によって探索された天然物由来の化合物ライブラリからベータアミロイド1−42ペプチドとVEGF165の相互作用を抑剤した結果である。
【図4】実施例3で行った一次スクリーニングの結果から得られた化合物を対象として、ベータアミロイドとVEGF165との結合を競争的に抑剤する化合物の濃度依存的抑剤能力を実験した結果として、IC50(最大抑剤濃度の50%の抑剤濃度)値を示したものである。
【図5】ベータアミロイドとVEGF165の相互作用を抑剤する物質の化学的構造とその名称である。
【図6】PC12細胞とSH−SY5Y細胞において、ベータアミロイドの毒性を確認した結果である。
【図7】SH−SY5Y細胞において、AlzhemedTMとIPS−04001によってベータアミロイド毒性の減少を確認した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、非限定的な実施例を参照して本発明をより詳細に説明する。ただし、下記の実施例は本発明を説明するための目的として記載されたものであって、本発明の範囲は、下記の実施例によって制限されるものとして解釈されない。
【0032】
実施例1:ベータアミロイドとVEGF165の結合を妨げる物質の仮想探索
仮想スクリーニングのために用いられたソフトウェアは、Chemical Computing Group社製のMOE(Molecular Operating Environment)プログラムと、Cambridge Crystallographic Data Centre(CCDC)製のGOLD 4.0.1プログラムである。探索方法は、分子ドッキングシミュレーションを利用した。具体的な方法は、次のとおりである。まず、40,000個のライブラリ化合物ファイル全体に対して一次分子ドッキングシミュレーションを行った。ターゲットレセプター蛋白質は、VEFGモデルのうち、プロテインデータバンク(PDB)の1KMX構造を使用した。ドッキング計算のための検索アルゴリズムは、アルファトライアングル(alpha triangle)方法を用いて、各リガンド化合物あたり最大500,000回の構造変化エネルギー計算を行った。この方法は、分子の3つのポイントを三角形に形状化し、レセプター蛋白質の他のトライアングルとのマッチングの有無を判断してドッキングするアルゴリズムを用いる。スコアリング方法は、LondondG法を用いて、リガンドあたり最大10個のポーズを計算した。MOEで支援するスコアリング方法は、LondondG、AffinitydG、AlphaHBの3つがあり、本計算に用いられたLondondGは、下記のとおりである。
【数1】

【0033】
LondondG関数は、結合による回転/変換エントロピー(rotational/translation entropy)の変化、リガンドの結合によるフレキシビリティエネルギーの減少、水素結合エネルギー、金属イオンライゲーション(ligation)、脱溶媒和エネルギー(desolvation energy)の差などがパラメータとして用いられる。
【0034】
40,000個の化合物に対する一次ドッキングシミュレーションの結果、結合力に優れた10,000個の化合物を選別して、二次ドッキングシミュレーションを行った。二次ドッキングシミュレーションでは、GOLDプログラムを利用して、Slowオプションを用いて演算を行った。GOLDプログラムでは、スコアリング関数として、GoldScore、ChemScore、ASPScoreの3つのオプションを支援するが、二次ドッキングシミュレーションではGoldScoreを用いた。10,000個の化合物に対するドッキングシミュレーションおよびエネルギーの最小化結果スコアであるLondondG値が最も高い140 個の化合物を選んで、蛋白質チップスクリーニングのための出発物質として提案した(表1)。表1は、仮想スクリーニングの結果、結合力に最も優れた140個の化合物の一連番号を明示した表である。
【表1】

【0035】
表1は、仮想探索に用いられた方法を整理したものである。
【0036】
実施例2:基板へのベータアミロイドの固定化
蛋白質を固定する基板として、ProteoChipTM(Proteogen Inc.、韓国、ソウル)を用いた。基板上にシート紙を付着してウェルチップを作った。30%のグリセロール溶液を含むリン酸緩衝生理食塩水(phosphate−buffered saline;PBS)に、ベータアミロイド(Bachem AG、Bubendorf、Switzerland)を50μg/mlで希釈して、各ウェルに添加し、30℃、湿度インキュベータ(humidity incubator)で一晩中反応させた後、結合して残留するベータアミロイドは、0.05%のツイン20を含むリン酸緩衝生理食塩水(0.05%のPBST)で洗浄した後、窒素ガスで乾燥し、高速大量探索を行った。
【0037】
実施例3:ライブラリからベータアミロイドとVEGF165の相互作用抑剤物質の高速大量探索
3−1)ベータアミロイドとVEGF165の相互作用
ベータアミロイドとVEGF165の相互作用を調べるために、実施例2で製造したベータアミロイド付着蛋白質チップを、2時間、3%のBSAでブロッキングし、洗浄溶液(0.05%のPBST)で2回洗浄し、窒素ガスを用いて乾燥した。その後、前記ベータアミロイドマイクロアレイヤーに、500μg/mlから3.9μg/ml範囲の濃度のVEGF165(R&D System、Inc.、Minneapolis、MN USA)を、30%のグリセロール溶液を含むリン酸緩衝生理食塩水(phosphate−buffered saline;PBS)で希釈させ、各ウェルに入れて、30℃、湿度インキュベータで1時間反応させた後、ベータアミロイドと結合しないVEGF165をウォッシング溶液で2回洗浄し、窒素ガスを用いて乾燥した。その後、30℃、湿度インキュベータで、1時間、VEGF165に特異的に結合するVEGF165抗体(一次抗体)を用いてベータアミロイドに結合したVEGF165に反応させ、結合しない一次抗体をウォッシング溶液で2回洗浄後、洗浄し、窒素ガスを用いて乾燥した。その後、一次抗体に結合可能なCy5蛍光物質(Cy−5;Amersham Parmacia Biotech社製、Uppsala Sweden)が結合された抗体(二次抗体)を、30℃、湿度インキュベータで30分間反応させた。結合しない二次抗体は、ウォッシング溶液で2回洗浄し、窒素ガスで乾燥した後、蛍光スキャナでスキャンした。
【0038】
図2は、ベータアミロイド1−42ペプチドとVEGF165の相互作用を示す蛍光スキャンイメージ(図2の左側)と、ベータアミロイド1−42ペプチドとVEGF165の相互作用の容量−反応曲線を示すグラフ(図2の右側)である。具体的には、前記図2は、前記ベータアミロイドに結合したVEGF165の相対的蛍光強度と、VEGF165と結合した一次抗体をCy−5蛍光標識された二次抗体の濃度のログ間の関係を測定して示したグラフである。
【0039】
前記図2において、VEGF165は、ベータアミロイドと結合して一次抗体と結合し、この一次抗体をCy5標識された二次抗体と作用しやすいことがわかった。中でも、約125μg/ml以上において、VEGF165は飽和反応が現れはじめた。これにより、前記ベータアミロイド1−42ペプチド付着チップが前記ベータアミロイド1−42ペプチドとVEGF165の結合抑制剤の探索のために有効で適切であることがわかった。
【0040】
3−2)VEGF165とライブラリの混合溶液の製造
ベータアミロイドとVEGF165の結合抑剤反応実験のために、VEGF165を、実施例1で得られた天然物由来の化合物(50μM)130個とVEGF165(50μg/ml)とを混合して混合溶液を製造した。30%のグリセロール溶液を含むリン酸緩衝生理食塩水(phosphate−buffered saline;PBS)に希釈させて使用した。
【0041】
3−3)ベータアミロイドとVEGF165の結合抑剤物質の一次スクリーニング
実施例2で製造したベータアミロイド付着蛋白質チップを、2時間、3%のBSAでブロッキングし、0.05%のPBSTで2回洗浄後、窒素ガスを用いて乾燥した。その後、実施例3−2で製造した各々のライブラリ130個(50μMの単一濃度)とVEGF165を含む混合溶液を、各ウェルに入れて、30℃、湿度インキュベータで1時間反応させた。洗浄溶液で洗浄した後、窒素を用いて乾燥し、一次抗体を各ウェルに入れた後、30℃、湿度インキュベータで1時間反応させた後、洗浄溶液で洗浄後、窒素ガスを用いて乾燥した。その後、二次抗体を各ウェルに添加し、30℃、湿度インキュベータで30分間反応させ、洗浄溶液で洗浄した後、窒素ガスで乾燥し、蛍光レーザスキャナを用いて結合程度を相対的蛍光強度で分析することにより、ライブラリの抑剤能力を測定した。その結果、多数のライブラリで相対的に低い蛍光強度を示し、この化合物がベータアミロイド1−42ペプチド−VEGF165の結合反応を効果的に抑剤することを証明した(図3)。
【0042】
図3は、蛋白質チップシステムにおいて、ライブラリからベータアミロイド1−42ペプチドとVEGF165の相互作用を抑剤する化合物をスクリーニングした結果である。
【0043】
前記実験において、ポジティブ(positive)対照群は、ライブラリを添加しない混合溶液を使用し、ネガティブ(negative)対照群は、ヘパリンが添加された混合溶液を使用した。ヘパリンは、VEGF165のHBDに結合し、VEGF165がベータアミロイドに結合するのを抑剤する役割を果たすことができる。
【0044】
図3において、蛍光の強度は虹色で表現される。本来、赤色または青色のように一色で結果が出るが、この場合、蛍光強度が識別されにくく、機器のソフトウェアがこれを蛍光強度に応じて色に変化を与えるようになっている。
【0045】
通常、蛍光強度が最も強い場合、白色から赤色、橙色、黄色、緑色、青色の順に蛍光強度を表現するようになる。図3の結果をみると、VEGF165のみ反応させたのは、色が白色または赤色でベータアミロイド1−42ペプチドとVEGF165が結合されていることがわかる。ヘパリンを使用して実験したものの場合、ベータアミロイド1−42ペプチドとVEGF165の相互作用を抑剤し、ベータアミロイド1−42ペプチドにVEGF165が結合されず、蛍光が最も低い青色で表れている。
【0046】
ライブラリのうち、一部の化合物がベータアミロイド1−42ペプチドとVEGF165の相互作用を抑剤し、ベータアミロイド1−42ペプチドにVEGF165が結合されず、蛍光の低い青色または緑色で表れている。したがって、この特定の化合物は、ベータアミロイド1−42ペプチドとVEGF165の結合を阻害する物質であることを証明するものである(図3)。
【0047】
3−4)ベータアミロイドとVEGF165の結合抑制剤の二次スクリーニング
実施例3−3で利用した方法を用いて、実施例3−3の一次スクリーニング過程で発見された抑制剤について、濃度別に100μMから2倍数に希釈して1μMまで処理し、50μg/mlの濃度に固定されたベータアミロイドと、50μg/ml濃度のVEGF165の結合を抑剤するIC50値を求めた(図4)。そのうち、最も効果的に抑剤する化合物2種の結果を示した(図5)。
【0048】
実施例4:蛋白質チップを用いて探索した物質の生物学的活性の探索
4−1)PC12細胞およびSH−SY5Y細胞の用意
PC12細胞(韓国細胞株銀行、韓国、ソウル)は、10%のFBS(Fetal Bovine Serum)(Welgene社製、韓国、大邱)と、1XのAntibiotic−Antimycotic(GIBCO社製、N.Y.、USA)が含まれたRPMI1640(Welgene社製、韓国、大邱)の混合液で維持された。SH−SY5Y細胞(韓国細胞株銀行、韓国、ソウル)は、10%のFBS(Fetal Bovine Serum)(Welgene社製、韓国、大邱)と1XのAntibiotic−Antimycotic(GIBCO、N.Y.、USA)が含まれたDMEM/F12(Welgene社製、韓国、大邱)の混合液で維持された。前記PC12およびSH−SY5Y培養細胞は、5%の二酸化炭素が加えられる気体組成が供給される環境において、100%の湿度、37℃の条件に維持された。
【0049】
4−2)MTTアッセイ
MTT[(3−(4,5−ジメチルチアゾール−2イル_−2,5−ジフェニル−2H−テトラゾリウムブロミド]実験プロトコルに従って行われた。MTTは、PBSに溶解して5mg/mlとし、4℃で保管して使用し、反応が終わった各ウェルに、培養混合液100に5mg/mlのMTT溶液10μlを加え、3時間反応させた。各ウェルの上澄液を捨てた後、発色反応物(formazancrystal)を100μlのDMSOに溶解させた後、ELISAリーダ機(595nm)で吸光度を測定した。
【0050】
4−3)ベータアミロイドの細胞毒性
PC12細胞は、ポリ−D−リジンがコーティングされた96ウェル組職培養プレート(Corning社製、MA、USA)に、ウェルあたり2×10個の細胞濃度で加えられた。その後、24時間維持させた後、各ウェルに、濃度別にベータアミロイドを、10%のFBSが含まれた培養混合とともに加え、24時間反応させた後、MTTアッセイを行った。
【0051】
4−4)探索物質によるベータアミロイドの細胞毒性の抑剤
SH−SY5Y細胞は、96ウェル組職培養プレートに、ウェルあたり1×10個の細胞濃度で加えられた。その後、24時間維持させた後、4時間、2%のFBSが含まれた培養混合液でスターベーション(starvation)させた後、各ウェルに、ベータアミロイド(10μM)と探索物質(20mMで1/2ずつ希釈)を、2%のFBSが含まれた培養混合とともに加え、24時間反応させた後、MTTアッセイを行った。
【0052】
図6は、SH−SY5Y細胞とPC12細胞において、ベータアミロイドによる細胞毒性を確認した結果である。PC12細胞とSH−SY5Y細胞において、ベータアミロイド1−42は、濃度が増加するほど、細胞の生存率が低下することを確認することができ、SH−SY5Y細胞で逆方向に合成したベータアミロイド42−1では、濃度が増加しても、細胞の生存率が正方向に合成されたベータアミロイドと比較して大きく減少しないことを確認することができ、正方向に合成されたベータアミロイドによって細胞毒性が増加することを証明した実験である。
【0053】
図7では、SH−SY5Y細胞において、抑制剤候補物質(IPS−04001)とAlzhemedTMによってベータアミロイドの毒性の減少を確認した結果である。SH−SY5Y細胞において、ベータアミロイド10μMに抑制剤候補物質およびAlzhemedTM(20μMで1/2ずつ希釈)を濃度別に処理して細胞の生存率を確認し、抑制剤候補物質とAlzhemedTMによって生存率が増加することを確認することができた。対照群として使用したAlzhemedTMでベータアミロイド10μMを基準としたとき、5μM以上で約30%程度生存率が増加し、抑制剤候補物質(IPS−04001)では、5μM以上で約20〜25%程度生存率が増加した。それだけでなく、抑制剤候補物質(IPS−04001)では、1.25μM以上でもSH−SY5Y細胞の生存率が15%以上増加していることを確認することができた。全体的にみると、抑制剤候補物質(IPS−04001)は、AlzhemedTMと比較したとき、約5%程度低い生存率を示したものの、ベータアミロイドの毒性に対して細胞の生存率が全般的に似た増加ぶりを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)化合物ライブラリファイル全体に対して分子ドッキングシミュレーションを行い、蛋白質チップスクリーニングのための出発物質を探索するステップと、
b)前記探索された出発物質を血管内皮成長因子(VEGF)と混合して混合物を製造するステップと、
c)前記混合物をベータアミロイド付着蛋白質チップに添加するステップと、及び、
d)前記結合程度を分析するステップとを含んでなることを特徴とする、ベータアミロイド抑制剤のスクリーニング方法。
【請求項2】
前記ドッキング計算のための検索アルゴリズムが、アルファトライアングル方法を用いたことを特徴とする、請求項1に記載のベータアミロイド抑制剤のスクリーニング方法。
【請求項3】
前記結合程度の分析が、血管内皮成長因子に特異的に結合する一次抗体を用いてベータアミロイドに結合した血管内皮成長因子と反応させた後、前記一次抗体に結合可能な蛍光物質が結合された二次抗体を用いて行われることを特徴とする、請求項1に記載のベータアミロイド抑制剤のスクリーニング方法。
【請求項4】
前記蛍光物質が、Cy3(グリーン)、Cy5(レッド)、FITC(グリーン)、アレクサ(Alexa)、ボディピ(BODIPY)、ローダミン(Rhodamine)、およびQ−ドット(dot)からなる群より選択された1種以上の蛍光物質であることを特徴とする、請求項3に記載のベータアミロイド抑制剤のスクリーニング方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のスクリーニング方法によって得られた下記の化学式1ないし2からなる群より選択された1種以上の化合物またはその塩を含むことを特徴とする、ベータアミロイド抑制剤。
【化1】

【化2】

【請求項6】
下記の化学式1ないし2からなる群より選択された1種以上の化合物またはその塩を含むことを特徴とする、ベータアミロイド抑制剤。
【化3】

【化4】

【請求項7】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のスクリーニング方法によって得られた下記の化学式1ないし2からなる群より選択された1種以上の化合物またはその塩を有効成分として含むことを特徴とする、アルツハイマー治療または予防用組成物。
【化5】

【化6】

【請求項8】
下記の化学式1ないし2からなる群より選択された1種以上の化合物またはその塩を有効成分として含むことを特徴とする、アルツハイマー治療または予防用組成物。
【化7】

【化8】


【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−530896(P2012−530896A)
【公表日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−515976(P2012−515976)
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【国際出願番号】PCT/KR2010/003853
【国際公開番号】WO2010/147375
【国際公開日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【出願人】(511275094)イノファーマスクリーン、インコーポレイテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】INNOPHARMASCREEN INC.
【Fターム(参考)】