説明

ベーン型内燃機関の燃料供給構造

【課題】簡易な構造で電気系の不具合により燃料噴射ノズルが停止することが無いベーン型内燃機関の燃料供給構造を提供する。
【解決手段】ハウジング本体部31の爆発行程及び膨張行程が行われる領域に臨む部分と、燃料噴射ノズル10とを連通して爆発圧力伝播通路2を形成する。爆発行程により発生する高圧の燃焼ガスGを、爆発圧力伝播通路2より流入させ燃料噴射ノズル10に送給することにより、燃料噴射ノズル10内に配設されたプランジャ23を作動させて燃料を噴射させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーン型内燃機関の爆発燃焼ガス衝撃圧、過給気の気流を利用して、簡易に効率よく燃料を吸気に供給することを目的としたベーン型内燃機関の燃料供給構造に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関(エンジン)の性能に大きく影響する項目として、吸入行程における空気と燃料の吸気効率は大きな要素である。従来からのエンジンにおいては、キャブレター、燃料噴射ノズル、あるいは直噴燃料噴射ノズルで燃料を供給していた。しかし、キャブレターにおいては燃料の調節が吸気に影響されることが大きいため、燃料噴射ノズルに移行してきていた。さらに、排気ガス浄化と燃料消費率又は出力向上の目的で、燃料の供給量又はタイミングの有利性から直噴燃料噴射ノズルを使用するものに徐々に切り替わってきている。
【0003】
しかし、燃料噴射ノズルにおいてはソレノイドで作動させ、直噴燃料噴射ノズルでは燃料高圧ポンプやピエゾ素子を使うためコストが高くなっていた。
【0004】
従来からの提案であるベーン型内燃機関の燃料供給構造は、インジェクタ又は燃料噴射ノズルという名称から推察できる程度であり、その詳細は全く説明されていない。燃料の供給がどのように行われるか考慮されていなければ、この場合内燃機関としての成立はありえない。
【0005】
例えば、特許文献1においては、副燃焼室に圧縮空気入口とプラグとインジェクタが配設されている。また、特許文献2においては、常時燃焼室に燃料噴射ノズルが配設されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2001−115849号公報
【特許文献2】特開平10−68301号公報
【特許文献3】特開平2008−45513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来から提案されているベーン型内燃機関の燃料供給方式は、その部品名称から推察できる程度であり、図面からではその構造はわかりにくい。上述の特許文献1のロータリー機関においては、副燃料室に圧縮空気入口とプラグとインジェクタが配設されている図面があるが、その各々が作動するタイミング又は圧縮空気を作る構造が不明である。また、インジェクタが燃料噴射するのはどの時か不明で、プラグは混合ガスに点火するものか又は副燃焼室を予熱のために加熱するのか不明で、圧縮空気はどこでどのような構造で作られ、その動力源は何か、によって、ロータリー機関の効率は大きく低下してしまうことになる。
【0008】
特許文献2のベーン回転式内燃機関においては、常時燃焼室に点火装置と燃料噴射ノズルが配設されている図面があるが、燃料噴射ノズルについては、本体ハウジングにただ簡単な穴があけられている表示のみである。
【0009】
また、燃料にはガソリンの他、軽油、重油、アルコール、水素等、多様な燃料を使用することができる、とあるが多様な性質の燃料に対応できる燃料噴射ノズル、燃料ポンプの構造には全く触れられていない。
【0010】
いずれの提案においても、燃料供給方式・タイミングあるいはその構造が明らかでなく燃料を供給する機能は達成しようもないことが判る。従って、内燃機関として成立はありえないものである。
【0011】
特許文献3は、本出願人の出願によるものであり、燃料噴射ノズルの位置、噴射方向、タイミングは明確となったが、電子制御式燃料噴射ノズルの使用が予定されていた。しかし、電子制御式燃料噴射ノズルは、構造が複雑化し電気系の不具合により燃料噴射ノズルが停止するおそれがあった。
【0012】
本発明は、上述の課題を解決するものであり、簡易な構造で電気系の不具合により燃料噴射ノズルが停止することが無いベーン型内燃機関の燃料供給構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1記載の発明では、ハウジングの爆発行程及び膨張行程が行われる領域に臨む部分と、燃料噴射ノズルとの間に、爆発行程において発生する高圧の燃焼ガスが流入する爆発圧力伝播通路を配設して、燃料噴射ノズル内に、燃料を圧送するプランジャを配設している。そして、爆発行程により発生する高圧の燃焼ガスを爆発圧力伝播通路により燃料噴射ノズルに送給することにより、プランジャを作動させて前記燃料を噴射している。
【0014】
爆発行程により発生する高圧の燃焼ガスで燃料噴射ノズルを作動させ、電気を使用しない構造にすることで、簡易な構造で電気系の不具合により燃料噴射ノズルが停止することをなくすことができる。
【0015】
請求項2記載の発明では、ハウジングの圧縮空気吸気行程が行われる領域に臨む部分に、大気側と連通する吸気口を形成して、ハウジングの過給行程が行われる領域に臨む部分と吸気口との間に、過給行程時に発生する圧縮空気が流入する過給気通路を形成して、燃料噴射ノズルと過給気通路との間に、燃料噴射ノズルから過給気通路に燃料を供給する補助燃料供給通路を形成して、過給気通路の補助燃料供給通路との合流部分より上流部分に、爆発行程により発生する高圧の燃焼ガスを過給気通路に流入させず、過給行程時に圧縮空気を過給気通路に流入させる、切り替え機能を有したバルブ室を配設している。そして、爆発行程により発生する高圧の燃焼ガスによるプランジャの作動により、補助燃料供給通路を通じて過給気通路に燃料を送給して、過給行程時に過給気の気流を利用して圧縮空気吸気行程を行なう領域に燃料を送給している。
【0016】
補助燃料供給通路を通じて過給気通路に燃料を送給させ、過給行程時の過給気の気流を利用して圧縮空気吸気行程を行なう領域に燃料を送給することで、二系統の燃料供給路を有することになり、エンジンが高回転時には連続的に燃料が供給され、燃料を十分に吸入できるため出力は高くなる。また、エンジンが低回転時には燃料の送給は断続的になり、空燃比の空気量が多くなり燃料が完全燃焼されることで排気ガスは浄化される。
【0017】
請求項3記載の発明では、過給行程時において、補助燃料供給通路から流出する燃料に、過給気通路を流れる過給気の気流を合流させている。燃料を霧化させることで燃料は燃焼しやすくなるので、燃焼効率のよいベーン型内燃機関とすることができる。
【0018】
請求項4記載の発明では、補助燃料供給通路に、燃料溜まり部を形成して、燃料溜まり部において燃料を気化蒸散させて過給気通路に送給することで、燃料が着火容易な状態になるので、ベーン型内燃機関の始動性を高めることができる。
【0019】
請求項5記載の発明のように、燃料噴射ノズルのノズル先端口からロータの外表面に向かって燃料を噴射することで、爆発行程の熱で熱くなったロータを気化熱で温度を下げるとともに、気化された燃料は燃焼しやすくなるので完全燃焼され排気ガスを浄化することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、簡易な構造で電気系の不具合により燃料噴射ノズルが停止することをなくすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態によるベーン型内燃機関の燃料供給構造の爆発行程の状態を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態によるベーン型内燃機関の燃料供給構造の過給行程の状態を示す断面図である。
【図3】図1におけるエンジンのハウジングとロータを示す分解斜視図である。
【図4】図3におけるロータとベーンとを示す分解斜視図である。
【図5】燃料噴射ノズルの構造を示す断面図である。
【図6】燃料噴射ノズルの作動説明図である。
【図7】燃料噴射ノズルの作動説明図である。
【図8】燃料噴射ノズルの作動説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明によるベーン型内燃機関の燃料供給構造の一実施形態を図面に基づいて説明する。本発明のベーン型内燃機関の燃料供給構造(以下、「燃料供給構造」という。)100は、電気系の不具合により燃料噴射ノズルが停止することをなくすものである。
【0023】
実施形態の燃料供給構造100を有するベーン型内燃機関(以下、「エンジン」という。)1は、1サイクルで爆発、膨張、排気、空気吸気、空気圧縮、過給、掃気、圧縮空気吸気、混合ガス圧縮行程を順に繰り返すように構成されている。
【0024】
エンジン1は、図3に示すように、略円筒状のハウジング本体部31と、ハウジング本体部31の両側面に配置されて、ハウジング本体部31の両端開口部を閉塞させる一対のサイドハウジング部32、32とを有するハウジング3と、ハウジング3に内蔵されて回動可能なロータ5と、ロータ5に装着されるベーン7と、を備えている。ハウジング3とロータ5との隙間には、図1に示すように、中空部60が形成されている。
【0025】
ハウジング本体部31は、図1、3に示すように、軸線方向から見て軸心を中心に真円形に形成された内周面31aを有している。ハウジング本体部31の外周面には、2箇所の肉盛部(第1の肉盛部31b、第2の肉盛部31c)が形成され、2箇所の肉盛部の間にボス部31dが形成されている。
【0026】
点火プラグ12は、図1、3に示すように、ボス部31dを、ハウジング本体部31の軸心に向かって挿通して配置されている。ボス部31dには、点火プラグ12が混合ガスに点火できるように点火口12aが配置されている。
【0027】
各サイドハウジング部32、32は、図3に示すように、円板状に形成され、ロータ5を側面から塞ぐようにハウジング本体部31に装着されている。また、各サイドハウジング部32、32には、後述するロータ5の回転軸14を支持する支持孔32a、32aと、後述する吸気口18、18、排気口19、19となる円弧孔が形成されるとともに、吸気口18、18に連通する後述する過給気通路17が形成されている。(図3では、省略している。)
ロータ5は、図3、4に示すように、ハウジング本体部31の幅(軸線方向の長さ)と略同一の幅を有する円柱状に形成されるとともに、図1に示すように、ハウジング本体部31の軸線方向の中心位置と偏心した位置に回転中心を有して配置されている。ロータ5の回転中心位置には、図1、3、4に示すように、動力の出力軸となる回転軸14が配置されている。
【0028】
ロータ5には、図1、3、4に示すように、回転軸14から回転軸14の径方向外側に向かって放射状に、ベーン7が摺動するベーン溝51(51a、51b、51c、51d、51e)が、形成されている。各ベーン溝51は、それぞれの間の角度を等角度にロータ5の幅方向全体にわたって五か所形成されている。各ベーン溝51には、図1に示すように、ベーン7(7a、7b、7c、7d、7e)が挿入されるとともに、ベーン押しばね8(8a、8b、8c、8d、8e)を収納する孔54(54a、54b、54c、54d、54e)が形成されている。
【0029】
ロータ5の外周面52には、図1、3、4に示すように、間の角度を等角度に五か所凹部53(53a、53b、53c、53d、53e)が形成されている。この凹部53は、後述する爆発行程において爆発の圧力を受ける際、回転する方向に圧力を受けやすいように、回転進行方向側が深く削りとられて形成されている(図1、2における矢印Tが回転する方向である)。
【0030】
ベーン7は、図1に示すように、ロータ5に形成されたベーン溝51に挿入されている。各ベーン7は、中空部60を5つの室6(6A、6B、6C、6D、6E)に分割するように配置されている。
【0031】
前述したロータ5の凹部53は、図1に示すように、各室6(6A、6B、6C、6D、6E)内ごとに形成されて、それぞれ凹部53a、53b、53c、53d、53eを形成する。
【0032】
各ベーン7は、図3、4に示すように、カーボンに金属を含浸させた部材で、矩形平板状に形成されている。以下の各ベーン7の構成の説明においては、対応するa、b、c、d、eの符号は省略する。ベーン溝51に挿入されるベーン7は、図3に示すように、ベーン押しばね8の付勢力によってハウジング本体部31の内周面31aに摺接可能に配置されている。図3、4に示すように、ハウジング本体部31の軸心側から見て、回転方向の面にロータ5のベーン溝51との摺動面7m、7mが形成され、軸線方向の面にサイドハウジング部32との摺動面7n、7nが形成され、径方向外側にハウジング本体部31の内周面31aとの摺動面7pが形成されている。
【0033】
各摺動面7pは、図4に示すように、ロータ5の径方向に直交して形成されている。摺動面7pは、図4に示すように、ロータ5の回転方向側の前角部711とその反対側の後角部712が、内周面31aに摺接するように形成されている(図1参照)。摺動面7pには、図4に示すように、ロータ5の回転軸14側に凹んで、後述するベーン先端シール9を嵌入可能な先端シール溝部721が、ロータ5の軸線方向全体にわたって形成されている。
【0034】
ベーン先端シール9(9a、9b、9c、9d、9e)は、図1、3、4に示すように、カーボンに金属を含浸させた部材で角柱状に形成され、各先端シール溝部721の全体にわたって嵌入されている。ベーン先端シール9の内周面31a側の端部は、内周面31a側に突出する円弧状に形成された摺動面91を有している。
【0035】
エンジン1には、図1、2に示すように、燃料供給構造100を構成する、主燃料供給部Mと、補助燃料供給部Sと、が配設されている。
【0036】
主燃料供給部Mは、燃料を噴射する燃料噴射ノズル10と、爆発圧力伝播通路2と、を備えている。
【0037】
図1は、室6Aが爆発行程から膨張行程に進行中の状態を示している。爆発圧力伝播通路2は、後述するガス圧溜り38を介して、ハウジング本体部31の爆発行程及び膨張行程が行われる領域(室6A)に臨む部分と、燃料噴射ノズル10とを連通して形成されている。
【0038】
詳説すると、爆発圧力伝播通路2は、ハウジング本体部31の、点火口12aと後述する過給気通路17との間に形成された燃焼ガスGを取り入れる圧力ガス入口2aから、燃料噴射ノズル10とハウジング本体部31との隙間に形成された後述するガス圧溜り38に燃焼ガスGを流出させる圧力ガス出口2bまで、ハウジング本体部31内に通路を形成して構成されている。爆発圧力伝播通路2は、ガス圧溜り38を介して燃料噴射ノズル10まで連通している。
【0039】
燃料噴射ノズル10は、図1、3、5に示すように、第1の肉盛部31bを、ハウジング本体部31の軸心から偏心した方向へ挿通して配置されている。第1の肉盛部31bには、図1、5に示すように、燃料噴射ノズル10から、回転するベーン7に向かって混合ガスが噴出できるように、噴出孔31eが配置されている。噴出孔31eは、噴射される燃料がロータ5に向かうように燃料噴射ノズル10の軸心に対して傾斜して形成されている。燃料噴射ノズル10の噴出孔31eと反対側の端部には、パイプ継手26を介して燃料パイプ27が接続されている。
【0040】
燃料噴射ノズル10は、図5に示すように、ハウジング本体部31側に配置されたプランジャケース21と、後述する燃料パイプ27側に配置された本体22と、本体22とプランジャケース21にわたって収納されたプランジャ23と、本体22と後述する小燃料パイプ39とを連結する燃料供給リング24と、を備えている。
【0041】
プランジャケース21は、ハウジング本体部31に形成された噴出孔31eに嵌め込まれ段部を有した先端小径部21aと、先端小径部21aより大径で段差を有して形成され外周面にねじが形成された中径部21bと、中径部21bより大径で段差を有して形成された大径部21cと、を有し円筒状に形成されている。
【0042】
プランジャケース21内には、先端小径部21aと中径部21bにわたって軸線に沿って燃料が流通する噴射通路21dが形成されている。
【0043】
噴射通路21dは、中径部21b側から先端小径部21a側に行くに従って狭小に形成され、内周面31a側の端部にノズル先端口21eを有している。噴射通路21dの本体22側には、噴射通路21dより大径に形成され噴射前の燃料が貯留される噴射室25を有したプランジャ摺動通路21fが形成されている。
【0044】
噴射室25は、プランジャ摺動通路21fの、プランジャ摺動通路21fのノズル先端口21e側の端面と、プランジャ23のノズル先端口21e側の端面との間の隙間部分で形成されている。
【0045】
プランジャ摺動通路21fの本体22側は、後述するプランジャ23の凸部23dに対応するように拡径している。
【0046】
大径部21cの燃料パイプ27側の端部は、本体22が挿入可能に形成され、内周面側が本体22の後述する被螺合部22aと螺合可能な螺合部21gを有している。
【0047】
本体22は、軸線方向に沿って挿通孔22dを有した円筒状に形成されている。本体22のノズル先端口21e側の外周面には、プランジャケース21の螺合部21gと螺合可能な被螺合部22aが形成されている。本体22の燃料パイプ27側の端部には、径方向外側に突出するナットフランジ部22bが形成されている。ナットフランジ部22bのノズル先端口21e側には、ナットフランジ部22bより小径に形成され、かつ、被螺合部22aより大径に形成された中段部22cが形成されている。
【0048】
挿通孔22dの燃料パイプ27側には、パイプ継手26と螺合する被螺合部22eが形成されている。被螺合部22eのノズル先端口21e側には、燃料をろ過するフィルタ22fが配設されている。挿通孔22dのノズル先端口21e側は、プランジャ摺動通路22jとして形成されている。挿通孔22dのノズル先端口21e側には、燃料パイプ27側に向かって縮径するチェックボール弁座部22gを有した弁部材収納部22hが形成されている。本体22の軸線と直交する方向に沿って燃料供給孔22iが形成され、プランジャ摺動通路22jと連通している。
【0049】
燃料供給リング24は、本体22の外側に嵌め込み可能な円筒状に形成されている。燃料供給リング24は、ノズル先端口21e側の端面で、プランジャケース21の燃料パイプ27側の端面とOリング29で密封され接しているとともに、燃料パイプ27側の端面で、シール30を介して本体22の中段部22cのノズル先端口21e側の端面で接している。
【0050】
本体22の外周面と、燃料供給リング24の内周面との間には、燃料供給孔22iと連通して燃料を供給する隙間が形成されている。燃料供給リング24の軸線に直交する方向には、貫通穴24aが形成され、後述する小パイプ継手40が螺合可能に形成されている。
【0051】
プランジャ23は軸線に沿って燃料通路23aを有し円柱状に形成されている。燃料通路23aのノズル先端口21e側は、後述するボール35が配設可能に拡径して形成されたボール収納部23bを有している。燃料通路23aは、流速を増加するように中央部が、ノズル先端口21e側に向かって狭小となるように形成されている。
【0052】
プランジャ23は、中央よりノズル先端口21e側に、他の部分より径方向内側に切り欠かれた凹部23cと、径方向外側に突出した凸部23dと、を有している。凸部23dの燃料パイプ27側の端面は、燃焼ガスGを受け止め可能に形成されている。凹部23cと凸部23dとは連接して形成されている。凸部23dのノズル先端口21e側は、プランジャケース21のプランジャ摺動通路21fと対応する形状に形成され、プランジャ摺動通路21fと密接可能に形成されている。燃料通路23aのノズル先端口21e側の端部とボール収納部23bとで形成される角部分は、ボール35が着接するボール弁座部23eとして形成されている。
【0053】
プランジャケース21と、プランジャケース21に挿入された本体22のノズル先端口21e側の端面との間の隙間部分は、プランジャ摺動通路21fより大径に形成された圧力室28として形成されている。
【0054】
プランジャ摺動通路21fのノズル先端口21e側の端面と、プランジャ23のノズル先端口21e側との間には、リターンばね33が配設されている。リターンばね33は、プランジャ23を燃料パイプ27側に付勢している。リターンばね33の内側には、リターンばね33より小径に形成された保持ばね34が配設されている。
【0055】
ボール35は、真球状で保持ばねによって燃料パイプ27側に付勢され、プランジャ23のボール弁座部23eと着接可能に形成されている。ボール35は、プランジャ23のボール弁座部23eに着接した時に燃料通路23aを封止可能に形成されている。
【0056】
本体22の弁部材収納部22h内には、チェックボール36と、チェックボール保持ばね37と、が配設されている。チェックボール保持ばね37は、ノズル先端口21e側の端部がプランジャ23の燃料パイプ27側の端面と当接して、チェックボール36をチェックボール弁座部22g側に向けて付勢している。
【0057】
ハウジング本体部31と、プランジャケース21との隙間は、爆発圧力伝播通路2と連通してガス圧溜り38として形成されている。ガス圧溜り38と、圧力室28との間には、燃焼ガスGを流入させる細孔21hが複数形成されている。
【0058】
補助燃料供給部Sは、図2に示すように、過給行程時に圧縮空気を流入させる過給気通路17と、燃焼ガスGの流入と低圧の空気の流入とを切り替えるバルブ室4と、過給気通路17に燃料を供給する補助燃料供給通路としての小燃料パイプ39と、を備えている。
【0059】
図2は、室6Eにおいて圧縮空気吸気行程を行なうとともに、室6Bにおいて過給気行程を行なっている状態を示している。過給気通路17は、ハウジング本体部31の過給行程が行われる領域(室6B)に臨む部分と、圧縮空気の吸気行程が行われる領域にある吸気口18とを接続して形成されている。
【0060】
バルブ室4は、図2に示すように、過給気通路17と小燃料パイプ39との合流部分より上流に第2の肉盛部31c内に形成されている。バルブ室4内には、過給気通路用バルブ(単にバルブとも言う。)11が配置されている。バルブ11は、過給気通路17の入口15に対向する位置に来る、いずれか1つの室6内で圧縮された空気又は燃焼ガスGを流入するかどうかの開閉を行うものであり、バルブ室4内において、ばね部材13で後述するガス導入路20側に付勢されて移動可能に配置されている
第2の肉盛部31cのロータ5の回転方向における後側には、圧力ガス入口2aに隣接して、バルブ室4と接続するガス導入路20が形成されている。ガス導入路20と、爆発圧力伝播通路2とは、連通して形成されている。
【0061】
圧力ガス入口2aとガス導入路20とを経て、爆発行程で発生した室6内の燃焼ガスGがバルブ室4に導入されると、燃焼ガスGの圧力がバルブ11をばね部材13の付勢力に打ち勝ってばね部材13側に移動させて過給気通路17を塞ぐ。
【0062】
また、空気圧縮行程で発生した室6内の圧縮された空気が圧力ガス入口2aとガス導入路20とを経て、バルブ室4に向かっても、ばね部材13の付勢力が圧縮された空気の圧力に打ち勝ってバルブ11をガス導入路20側に位置させるので、バルブ室4に圧縮空気は導入されない。
【0063】
吸気口18は、図1、3に示すように、大気を吸気できるようにサイドハウジング部32から外部に連通するように長穴状に形成されている。
【0064】
排気口19は、図1、3に示すように、ロータ5の回転方向における吸気口18の後側に、サイドハウジング部32から外部に連通するように長穴状に形成されている。
【0065】
燃料噴射ノズル10と過給気通路17との間には、小燃料パイプ39が配設され、一端側で小パイプ継手40によって燃料供給リング24の貫通穴24aと接続されている。小燃料パイプ39の他端側には、燃料を貯留する屈曲した垂れ部41が形成されている。小燃料パイプ39の過給気通路17との合流部分は、過給気の流れの流入を防止するため、吐出口44が過給気の流れに沿うように形成されている。
【0066】
吸気口18と、排気口19は、ロータ5に形成された凹部53の回転進行方向に対応した長孔状に形成されている。凹部53が吸気口18と合致すると、合致した凹部53は、過給気通路17と接続して過給気の吸気開口部42となり、凹部53が、排気口19と合致すると、合致した凹部53は、排気ガスを外部に放出する排気開口部43となる。実施形態においては、排気口19はロータ5の回転方向に対して吸気口18の後ろ側に配置されている。つまり、ロータ5の凹部53が排気口19を通過した後、吸気口18に向かうように配置されている。
【0067】
上記のように構成された実施形態のエンジン1では、図1に示すように、ベーン7で区分けされた各室6において、ロータ5の回転でそれぞれの行程が行われる。この場合、各室6においてはロータ5の2回転で1回爆発が起こり、その間に膨張、排気、空気吸気、空気圧縮、過給、掃気、圧縮空気吸気、混合ガス圧縮のそれぞれの行程が行われる。
【0068】
エンジン1は、本出願人が先にした、特願2006−223338号(特開平2008−45513号公報)のベーン型内燃機関を改良したものである。上述したエンジン1の各行程は、本願発明においても同じであるので詳細な説明は省略する。
【0069】
次に燃料供給構造100の作用について説明する。図1の状態においては、室6Aが爆発行程にあり、室6A内で爆発した混合ガスは燃焼ガスGとなり、図5に示すように、主燃料供給部Mにおいて、圧力ガス入口2aから爆発圧力伝播通路2内に燃焼ガスGは流入する。爆発行程で発生した室6内の燃焼ガスGがバルブ室4に導入されると、燃焼ガスGの圧力がバルブ11をばね部材13の付勢力に打ち勝ってばね部材13側に移動させて過給気通路17を塞ぐとともに、バルブ室4側の燃焼ガスGの通路は閉塞される。爆発圧力伝播通路2内に流入した燃焼ガスGは、ガス圧溜り38、細孔21hを経て圧力室28に流入する。圧力室28に流入した燃焼ガスGは、プランジャ23の凸部23dの燃料パイプ27側の端面に当たり、プランジャ23をノズル先端口21e側に移動させる。圧力室28に流入した燃焼ガスGの圧力は、リターンばね33の付勢力を上回るので、燃焼ガスGによって移動したプランジャ23は、図6に示すように、プランジャ摺動通路21fの拡径した部分のノズル先端口21e側の端面と着接する。これにより、噴射室25の容積が小さくなりノズル先端口21eから燃料が噴射される。この時、ボール35は、保持ばね34に付勢されボール弁座部23eに着接しているので、プランジャ23の燃料通路23a内に燃料が逆流することはない。
【0070】
燃料が噴射されると、プランジャ23の燃料通路23aと、本体22の弁部材収納部22hとを合わせた容積に加え、プランジャ23の移動により形成された隙間の容積分だけ燃料が貯留される容積が大きくなるので、プランジャ23の燃料通路23a内と、本体22の弁部材収納部22h内とに貯留されていた燃料の圧力が減少する。これにより、燃料ポンプによって与圧されていた燃料の圧力がチェックボール保持ばね37の付勢力を上回り、チェックボール36をノズル先端口21e側に移動させ弁部材収納部22hに燃料が流入する。この時、プランジャ23の移動により燃料供給孔22iが開放され、燃料が小燃料パイプ39に供給される。
【0071】
燃焼ガスGの圧力が弱まると、リターンばね33の付勢力が燃焼ガスGの圧力を上回り、プランジャ23を図6から図7の位置に移動復帰させる。プランジャ23の移動により形成された隙間がなくなり、燃料が貯留される容積が燃料通路23aと、弁部材収納部22hとを合わせた容積に戻るので、燃料の圧力が増加し、保持ばね34の付勢力を上回り、図8に示すように、ボール35をノズル先端口21e側に移動させる。燃料が噴射室25に流入して燃料の圧力が均衡すると、保持ばね34の付勢力でボール35が復帰して図7の位置に戻ることになる。この時、プランジャ23の移動により燃料供給孔22iが閉じられ、小燃料パイプ39への燃料の供給が止まることになる。
【0072】
なお、空気圧縮行程時の圧縮された空気の圧力は、爆発行程における燃焼ガスGの圧力より弱いためプランジャ23は移動せず、燃料の噴射及び小燃料パイプ39への燃料の供給は行われない。
【0073】
一方、補助燃料供給部Sの燃料噴射ノズル10側において、爆発行程の燃焼ガスGの圧力によるプランジャ23の移動により、燃料供給孔22iから小燃料パイプ39に供給された燃料は、過給気通路17との合流部分側に形成された垂れ部41に貯留される。
【0074】
補助燃料供給部Sのバルブ室4側において、空気圧縮行程で発生した室6内の圧縮された空気が圧力ガス入口2aとガス導入路20とを経て、バルブ室4に向かっても、ばね部材13の付勢力が圧縮された空気の圧力に打ち勝ってバルブ11をガス導入路20側に位置させるので、バルブ室4側の圧縮空気の通路は閉塞される。
【0075】
その後の過給気行程において、バルブ11は、ガス導入路20側に位置するので過給気通路17は、開放される。ロータ5の凹部53が吸気口18と合致すると、合致した凹部53は、過給気通路17と接続して過給気の吸気開口部42となり、過給気が流通する。
【0076】
垂れ部41において貯留した燃料を気化蒸散させた後、燃料を吐出口44から流出させ過給気通路17を流れる過給気の気流と合流させるとともに燃料を霧化させ、圧縮空気吸気行程を行なう領域に補助的に燃料を供給する。
【0077】
その後、混合ガス圧縮に移行する際、爆発行程により発生した燃焼ガスGで作動した燃料噴射ノズル10のノズル先端口21eから燃料が噴射される。
【0078】
本実施形態の燃料供給構造100では、主燃料供給部Mを有し、ハウジング本体部31の爆発行程及び膨張行程が行われる領域に臨む部分と、燃料噴射ノズル10との間に、爆発行程において発生する高圧の燃焼ガスGが流入する爆発圧力伝播通路2を配設して、燃料噴射ノズル10内に、燃料を圧送するプランジャ23を配設している。そして、爆発行程により発生する高圧の燃焼ガスGを爆発圧力伝播通路2により燃料噴射ノズル10に送給することにより、プランジャ23を作動させて燃料を噴射している。
【0079】
爆発行程により発生する高圧の燃焼ガスGで燃料噴射ノズル10を作動させ、電気を使用しない構造にすることで、簡易な構造で電気系の不具合により燃料噴射ノズル10が停止することをなくすことができる。
【0080】
また、補助燃料供給部Sとして、ハウジング本体部31の圧縮空気吸気行程が行われる領域に臨む部分に、大気側と連通する吸気口18を形成して、ハウジング本体部31の過給行程が行われる領域に臨む部分と吸気口18との間に、過給行程時に発生する圧縮空気が流入する過給気通路17を形成して、燃料噴射ノズル10と過給気通路17との間に、燃料噴射ノズル10から過給気通路17に燃料を供給する小燃料パイプ39を形成して、過給気通路17の小燃料パイプ39との合流部分より上流部分に、爆発行程により発生する高圧の燃焼ガスGを過給気通路17に流入させず、過給行程時に圧縮空気を過給気通路17に流入させる、切り替え機能を有したバルブ室4を配設している。そして、爆発行程により発生する高圧の燃焼ガスGによるプランジャ23の作動により、小燃料パイプ39を通じて過給気通路17に燃料を送給して、過給行程時に過給気の気流を利用して圧縮空気の吸気行程を行なう領域に燃料を送給している。
【0081】
小燃料パイプ39を通じて過給気通路17に燃料を送給させ、過給行程時の過給気の気流を利用して圧縮空気の吸気行程を行なう領域に燃料を送給することで、二系統の燃料供給路(主燃料供給部M、補助燃料供給部S)を有することになり、エンジン1が高回転時には連続的に燃料が供給され、燃料を十分に吸入できるため出力は高くなる。また、エンジン1が低回転時には燃料の送給は断続的になり、空燃比の空気量が多くなり燃料が完全燃焼されることで排気ガスは浄化される。
【0082】
また、過給行程時において、小燃料パイプ39から流出する燃料に、過給気通路17を流れる過給気の気流を合流させている。燃料を霧化させることで燃料は燃焼しやすくなるので、燃焼効率のよいエンジン1とすることができる。
【0083】
また、小燃料パイプ39に、垂れ部を41形成して、垂れ部41において燃料を気化蒸散させて過給気通路17に送給することで、燃料が着火容易な状態になるので、エンジン1の始動性を高めることができる。
【0084】
また、噴出孔31eが、噴射される燃料がロータ5に向かうように燃料噴射ノズル10の軸心に対して傾斜して形成され、燃料噴射ノズル10のノズル先端口21eからロータ5に向かって燃料を噴射することで、爆発行程の熱で熱くなったロータ5を気化熱で温度を下げるとともに、気化された燃料は燃焼しやすくなるので完全燃焼され排気ガスを浄化することができる。
【0085】
ロータ5に向かって燃料を噴射する構成としては、ノズル先端口21eをロータ5に向けるように構成してもよい。
【0086】
ベーン先端シール9は、ベーン先端シール押しばねによってハウジング本体部31の内周面31a側に付勢することもできる。
【0087】
爆発圧力伝播通路2は、パイプ状の配管を用いて圧力室28に直接接続することもできる。
【0088】
補助燃料供給通路は、小燃料パイプ39のようなパイプにはこだわらない。例えば、ハウジング本体部31及びサイドハウジング部32内に通路を形成したり、パイプとハウジング本体部31及びサイドハウジング部32内に形成した通路との組み合わせにしたりしてもよい。
【符号の説明】
【0089】
100 気密構造
1 エンジン
2 爆発圧力伝播通路
3 ハウジング
31 ハウジング本体部
31a 内周面
4 バルブ室
5 ロータ
51 ベーン溝
52 外表面
7 ベーン
8 ベーン押しばね
9 ベーン先端シール
G 燃焼ガス
17 過給気通路
23 プランジャ
39 小燃料パイプ
41 垂れ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、前記ハウジングの軸心に対して偏心して内蔵され前記ハウジング内で回動可能なロータと、前記ハウジングの内周面に摺接する複数のベーンと、前記ベーンが摺動する複数のベーン溝と、を備え、
1サイクルで爆発、膨張、排気、空気吸気、空気圧縮、過給、掃気、圧縮空気吸気、混合ガス圧縮行程を順に繰り返すように構成されたベーン型内燃機関の燃料供給構造であって、
前記ハウジングの前記爆発行程及び前記膨張行程が行われる領域に臨む部分と、燃料噴射ノズルとの間には、前記爆発行程において発生する高圧の燃焼ガスが流入する爆発圧力伝播通路が配設され、
前記燃料噴射ノズル内には、燃料を圧送するプランジャが配設され、
前記爆発行程により発生する前記高圧の燃焼ガスを前記爆発圧力伝播通路により前記燃料噴射ノズルに送給することにより、前記プランジャを作動させて前記燃料を噴射することを特徴とするベーン型内燃機関の燃料供給構造。
【請求項2】
前記ハウジングの前記圧縮空気吸気行程が行われる領域に臨む部分には、大気側と連通する吸気口が形成され、
前記ハウジングの前記過給行程が行われる領域に臨む部分と前記吸気口との間には、前記過給行程時に発生する圧縮空気が流入する過給気通路が形成され、
前記燃料噴射ノズルと前記過給気通路との間には、前記燃料噴射ノズルから前記過給気通路に前記燃料を供給する補助燃料供給通路が形成され、
前記過給気通路の前記補助燃料供給通路との合流部分より上流部分には、前記爆発行程により発生する前記高圧の燃焼ガスを前記過給気通路に流入させず、前記過給行程時に前記過給気通路に前記圧縮空気を流入させる、切り替え機能を有したバルブ室が配設され、
前記爆発行程により発生する前記高圧の燃焼ガスによる前記プランジャの作動により、前記補助燃料供給通路を通じて前記過給気通路に前記燃料を送給して、
前記過給行程時に過給気の気流を利用して前記圧縮空気吸気行程を行なう領域に前記燃料を送給することを特徴とする請求項1記載のベーン型内燃機関の燃料供給構造。
【請求項3】
前記過給行程時において、前記補助燃料供給通路から流出する前記燃料に、前記過給気通路を流れる過給気の気流を合流させて、前記燃料を霧化させることを特徴とする請求項2記載のベーン型内燃機関の燃料供給構造。
【請求項4】
前記補助燃料供給通路には、燃料溜まり部が形成され、前記燃料溜まり部において前記燃料を気化蒸散させて前記過給気通路に送給することを特徴とする請求項2又は3記載のベーン型内燃機関の燃料供給構造。
【請求項5】
前記燃料噴射ノズルのノズル先端口から前記ロータの外表面に向かって前記燃料を噴射することを特徴とする請求項1、2、3又は4記載のベーン型内燃機関の燃料供給構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−241672(P2012−241672A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115032(P2011−115032)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(505247111)
【Fターム(参考)】