説明

ペダルブラケットの固定構造

【課題】 ペダルを揺動自在に支持するペダルブラケットから取付ブラケットを廃止しても、ペダルブラケットをダッシュパネルおよびステアリングハンガーに対して容易に着脱できるようにする。
【解決手段】 ペダル20を揺動自在に支持するペダルブラケット11をダッシュパネル12およびステアリングハンガー13に着脱自在に固定する際に、一つの固定部F2をダッシュパネル12に固定したスタッドボルト35で構成し、他の一つの固定部F4を係止手段14b,18dにより構成したので、前記スタッドボルト35まわりにペダルブラケット11を回転させて係止手段14b,18dの係合を外した状態で、ペダルブラケット11をスタッドボルト35から抜き取ることができ、ペダルブラケット11に取付ブラケットを設けることなくペダルブラケット11の着脱が可能になって部被点数の削減が可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者の足で操作されるペダルを揺動自在に支持するペダルブラケットをダッシュパネルおよびステアリングハンガーに複数の固定部によって着脱自在に固定するペダルブラケットの固定構造に関する。
【背景技術】
【0002】
かかるペダルブラケットの固定構造は、下記特許文献1により公知である。
【0003】
図7に示すように、上記従来のペダルブラケットの固定構造は、ペダルアーム01を揺動自在に支持するペダルブラケット02の後部にL字状の取付ブラケット03をボルト04で締結し、ペダルブラケット02の前部をダッシュロアパネル05に後ろ向きに固定したスタッドボルト06にナット07を螺合して締結するとともに、ペダルブラケット02の後部の取付ブラケット03をボルト08でステアリングハンガー09のハンガーブラケット010に締結することで、ペダルブラケット02をダッシュロアパネル05およびハンガーブラケット010に固定するものである。
【特許文献1】特開2002−87227号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来のものは、ペダルブラケット02を取り外す際に、ナット07を外してダッシュロアパネル05との締結を解除し、ボルト04を抜いて取付ブラケット03との締結を解除した後に、ペダルブラケット02を車体後方の車室側に分離するようになっている。仮に、ペダルブラケット02と取付ブラケット03とが一体に形成されていると、ナット07を外してペダルブラケット02とダッシュロアパネル05との締結を解除し、ボルト08を抜いて取付ブラケット03とハンガーブラケット010との締結を解除しても、ペダルブラケット02はスタッドボルト06に拘束されて車体後方にしか移動できないため、取付ブラケット03がハンガーブラケット010と干渉してペダルブラケット02を分離することができなくなる。
【0005】
この不具合を解消するために、前記スタットボルト06をウエルドナットに変更し、このウエルドナットに車体前方に向けてボルトを螺合することで、ペダルブラケット02の前部をダッシュロアパネル05に締結することが考えられる。しかしながら、このように構成すると、ペダルブラケット02の組付時に前記スタットボルト06による仮保持(位置決め)ができないため、作業性が悪くなる可能性がある。
【0006】
上記従来のものは、上述した不都合を回避するために、ペダルブラケット02に対して着脱自在な取付ブラケット03を採用したものであり、この取付ブラケット03を設けたことにより部品点数が増加するという問題があった。
【0007】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、ペダルを揺動自在に支持するペダルブラケットから取付ブラケットを廃止しても、ペダルブラケットをダッシュパネルおよびステアリングハンガーに対して容易に着脱できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、運転者の足で操作されるペダルを揺動自在に支持するペダルブラケットをダッシュパネルおよびステアリングハンガーに複数の固定部によって着脱自在に固定するペダルブラケットの固定構造であって、前記複数の固定部のうちの唯一の固定部を前記ダッシュパネル、前記ステアリングハンガーおよび前記ペダルブラケットの何れか一つに車体前後方向に固定したボルトで構成するとともに、他の固定部を前記ペダルブラケットを車体前後方向に移動することなく固定解除状態にすることができる固定部により構成したことを特徴とするペダルブラケットの固定構造が提案される。
【0009】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記ペダルブラケットを車体前後方向に移動することなく固定解除状態にすることができる固定部は、車体前後方向に対して直交する方向への移動により係脱する係止手段であり、前記係止手段は、前記ダッシュパネルあるいは前記ステアリングハンガーから車体後方に突出する係止部と、前記ペダルブラケットに設けられて前記係止部に係合する被係止部とで構成されることを特徴とするペダルブラケットの固定構造が提案される。
【0010】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項2の構成に加えて、前記被係止部は、下方に移動不能かつ上方に移動可能に前記係止部に係合することを特徴とするペダルブラケットの固定構造が提案される。
【0011】
尚、実施の形態の係止部14bおよび被係止部18dは本発明の係止手段に対応し、実施の形態のパーキングブレーキペダル20は本発明のペダルに対応し、実施の形態のスタッドボルト35は本発明のボルトに対応し、実施の形態の第1〜第4固定部F1〜F4は本発明の固定部に対応し、そのうち特に第2固定部F2は本発明の唯一の固定部に対応するとともに、第1固定部F1、第3固定部F3および第4固定部F4は本発明のペダルブラケットを車体前後方向に移動することなく固定解除状態にすることができる固定部に対応する。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の構成によれば、ペダルを揺動自在に支持するペダルブラケットをダッシュパネルおよびステアリングハンガーに複数の固定部によって着脱自在に固定する際に、複数の固定部のうちの唯一の固定部をダッシュパネル、ステアリングハンガーおよびペダルブラケットの何れか一つに車体前後方向に固定したボルトで構成し、他の固定部をペダルブラケットを車体前後方向に移動することなく固定解除状態にすることができる固定部により構成したので、前記ボルトまわりにペダルブラケットを回転させることで、ペダルブラケットをダッシュパネルおよびステアリングハンガーに対して車体前後方向に着脱することができ、補助ブラケットを設けることなくペダルブラケットの着脱が可能になって部品点数の削減が可能になる。
【0013】
また請求項2の構成によれば、ダッシュパネルあるいはステアリングハンガーから車体後方に突出する係止部と、ペダルブラケットに設けられて係止部に係合する被係止部とで係止手段を構成したので、係止部および被係止部の係合によりペダルブラケットを容易に位置決めすることができる。
【0014】
また請求項3の構成によれば、被係止部が下方に移動不能かつ上方に移動可能に係止部に係合するので、被係止部を上方に移動させて係止部との係合を外すことを可能にしながら、ペダルおよびペダルブラケットの着脱時に、その重量を係止部側に支持させて作業性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を添付の図面に基づいて説明する。
【0016】
図1〜図6は本発明の実施の形態を示すもので、図1はパーキングブレーキペダル装置の正面図、図2は図1の2−2線矢視図、図3は図1の3−3線矢視図、図4は図1の4−4線矢視図、図5は図1の5−5線拡大断面図、図6は前記図1に対応する作用説明図である。
【0017】
図1〜図5に示すように、運転者の足により操作されるパーキングブレーキペダル装置のペダルブラケット11は、エンジンルームおよび車室間を仕切るダッシュパネル12と、図示せぬステアリングシャフトを支持するステアリングハンガー13とに着脱自在に固定される。ダッシュパネル12の後面には車体左右方向に延びるパネルブラケット14が溶接され、ステアリングハンガー13は、車体左右方向に延びるハンガーパイプ15と、ハンガーパイプ15に溶接されたハンガーブラケット16とで構成される。
【0018】
ペダルブラケット11は、所定間隔を存して略平行に延びる左側板17および右側板18を備えており、左側板17および右側板18間に支軸19を介してパーキングブレーキペダル20の上部が前後揺動自在に枢支される。パーキングブレーキペダル20は、右側板18に設けたバネ受け18aとパーキングブレーキペダル20に設けたバネ受け20aとに両端を係止したリターンスプリング21により、その下端の被踏部20bが後方に向けて付勢される。パーキングブレーキペダル20の後方への揺動限界は、そのパーキングブレーキペダル20に設けたストッパラバー受け部22が左側板17の後面に設けたストッパラバー23に当接することで規制される。
【0019】
右側板18にピン24を介して枢支されたラチェットポール25がスプリング26で付勢されており、このラチェットポール25に噛合可能なラチェット歯27がパーキングブレーキペダル20の上部に設けられる。ラチェットポール25には、その振動を抑制するためのダンパーラバー28が当接する。
【0020】
しかして、運転者がパーキングブレーキペダル20を踏み込むと、ラチェット歯27がラチェットポール25に噛合することで、パーキングブレーキペダル20は踏み込み位置に保持されてパーキングブレーキが作動する。
【0021】
次に、ペダルブラケット11を、ダッシュパネル12のパネルブラケット14およびステアリングハンガー13のハンガーブラケット16に着脱自在に固定する構造を説明する。
【0022】
ペダルブラケット11の左側板17および右側板18の上部17c,18eは、その後方が車体右側に変位するように傾いており(図1参照)、それらの後端間が車体左右方向に延びる連結壁31,32により相互に重ね合わされて連結される(図3および図4参照)。連結壁31,32を貫通するようにボルト孔31a,32aが形成される。連結壁31の前面にウエルドナット33が固定されており、このウエルドナット33にハンガーブラケット16のボルト孔16aと、連結壁31,32のボルト孔31a,32aとを後方から前方に貫通するボルト34が螺合することで、ペダルブラケット11の上部がハンガーブラケット16に締結される。ボルト34は本発明の第1固定部F1を構成する。
【0023】
左側板17の下部から左側に向けて取付部17aが突設されており、取付部17aにボルト孔17bが形成される。パネルブラケット14の前面に溶接により固定されたスタッドボルト35が車体後方に延びており、このスタッドボルト35が取付部17aのボルト孔17bを貫通してナット36に締結される。スタッドボルト35は本発明の第2固定部F2を構成する。
【0024】
右側板18の下部から右側に向けて取付部18bが突設されており、取付部18bに長孔よりなるボルト孔18cが形成される。パネルブラケット14の前面にウエルドナット37が溶接されており、取付部18bのボルト孔18cおよびパネルブラケット14のボルト孔14aを後方から前方に貫通するボルト38が前記ウエルドナット37に締結される。ボルト38は本発明の第3固定部F3を構成する。
【0025】
パネルブラケット14に、切り起こしにより係止部14bが形成される。係止部14bは後方に突出するとともに、上方および左右側方に開放して下方に閉塞している。一方、右側板18の取付部18bの右端には板状の被係止部18dが設けられており、この被係止部18dは係止部14bに上方から係合可能である(図5参照)。係止部14bおよび被係止部18dは本発明の第4固定部F4を構成する。
【0026】
次に、上記構成を備えたパーキングブレーキペダル装置を、ダッシュパネル12およびハンガーブラケット16に組み付ける工程を説明する。
【0027】
先ず、図6に示すように、ペダルブラケット11を最終的な取付姿勢から反時計方向に回転させることで、ペダルブラケット11の上端がステアリングハンガー13のハンガーブラケット16と干渉するのを回避し,かつペダルブラケット11の右側板18の取付部18bの被係止部18dがダッシュパネル12のパネルブラケット14の係止部14bと干渉するのを回避した状態で、ペダルブラケット11を前方に移動させながら、パネルブラケット14から後方に突出するスタッドボルト35に、ペダルブラケット11の左側板17の取付部17aのボルト孔17bを嵌合させる。
【0028】
続いて、スタッドボルト35を支点としてペダルブラケット11を時計方向に回転させ、図1に示すように、ペダルブラケット11の右側板18の取付部18bの被係止部18dをダッシュパネル12のパネルブラケット14の係止部14bに上方から係合させる(図5参照)。このとき、ペダルブラケット11はスタッドボルト35よりなる第2固定部F2と、係止部14bおよび被係止部18dよりなる第4固定部F4とで位置決めされるため、手を離しても落下することはない。特に、被係止部18dは下方に移動不能かつ上方に移動可能に係止部14bに係合するので、被係止部18dを上方に移動させて係止部14bとの係合を外すことを可能にしながら、ペダルブラケット11の重量を係止部側14bに支持させて作業性を高めることができる。
【0029】
この状態において、ハンガーブラケット16のボルト孔16aがペダルブラケット11の連結壁31,32のボルト孔31a,32aに重なり、かつ右側板18の取付部18bのボルト孔18cがパネルブラケット14のボルト孔14aに重なる。
【0030】
よって、スタッドボルト35にナット36を締結し、ハンガーブラケット16のボルト孔16a、ペダルブラケット11の連結壁31,32のボルト孔31a,32aに挿入したボルト34をウエルドナット33に締結し、かつ右側板18の取付部18bのボルト孔18cおよびパネルブラケット14のボルト孔14aに挿入したボルト38をウエルドナット37に締結することで、ペダルブラケット11がパネルブラケット14およびハンガーブラケット16に固定される。
【0031】
ペダルブラケット11をパネルブラケット14およびハンガーブラケット16から取り外すには、上述した取付時の手順と逆の手順を行えば良い。即ち、ナット36、ボルト34およびボルト38を外した後、スタッドボルト35まわりにペダルブラケット11を反時計方向に回転させて被係止部18dおよび係止部14bの係合を解除し、図6の状態とした後にスタッドボルト35からペダルブラケット11を後方に引き抜けば良い。
【0032】
以上のように、本実施の形態によれば、ペダルブラケット11に着脱自在な取付ブラケット(図7の取付ブラケット03参照)を設けることなく、ペダルブラケット11をダッシュパネル12およびステアリングハンガー13に着脱することができるので、ペダルブラケット11から取付ブラケットを廃止して部品点数を削減することができる。
【0033】
また図1から明らかなように、ペダルブラケット11の左側板17および右側板18の上部17c,18eを、その後方が車体右側に変位するように傾けたので、車体前方から衝突荷重が入力したときに、前記上部17c,18eを容易に変形させて衝突荷重を効果的に吸収することができる。
【0034】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計設定を行うことが可能である。
【0035】
例えば、実施の形態ではパネルブラケット14にスタッドボルト35を設けているが、ハンガーブラケット16やペダルブラケット11にスタッドボルトを設けても良い。即ち、複数の固定部のうちの一つだけの固定部にスタッドボルトを設け、他の固定部にウエルドナットあるいは係止部および被係止部よりなる係止手段のような、ペダルブラケットを車体前後方向に移動することなく固定解除状態にすることができる固定部を設けることで、前記スタッドボルトを中心にペダルブラケット11を回転させて前記係止手段を係脱できるように構成すれば良い。
【0036】
また実施の形態ではパーキングブレーキペダル20のペダル装置を例示したが、本発明はブレーキペダルあるいはアクセルペダルのペダル装置に対して適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】パーキングブレーキペダル装置の正面図
【図2】図1の2−2線矢視図
【図3】図1の3−3線矢視図
【図4】図1の4−4線矢視図
【図5】図1の5−5線拡大断面図
【図6】前記図1に対応する作用説明図
【図7】従来のブレーキペダル装置の側面図
【符号の説明】
【0038】
11 ペダルブラケット
12 ダッシュパネル
13 ステアリングハンガー
14b 係止部(係止手段)
18d 被係止部(係止手段)
20 パーキングブレーキペダル(ペダル)
35 スタッドボルト(ボルト)
F1 第1固定部(固定部)
F2 第2固定部(固定部、唯一の固定部)
F3 第3固定部(固定部)
F4 第4固定部(固定部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者の足で操作されるペダル(20)を揺動自在に支持するペダルブラケット(11)をダッシュパネル(12)およびステアリングハンガー(13)に複数の固定部(F1〜F4)によって着脱自在に固定するペダルブラケットの固定構造であって、
前記複数の固定部(F1〜F4)のうちの唯一の固定部(F1)を前記ダッシュパネル(12)、前記ステアリングハンガー(13)および前記ペダルブラケット(11)の何れか一つに車体前後方向に固定したボルト(35)で構成するとともに、他の固定部(F4)を前記ペダルブラケット(11)を車体前後方向に移動することなく固定解除状態にすることができる固定部により構成したことを特徴とするペダルブラケットの固定構造。
【請求項2】
前記ペダルブラケット(11)を車体前後方向に移動することなく固定解除状態にすることができる固定部は、車体前後方向に対して直交する方向への移動により係脱する係止手段(14b,18d)であり、
前記係止手段は、前記ダッシュパネル(12)あるいは前記ステアリングハンガー(13)から車体後方に突出する係止部(14b)と、前記ペダルブラケット(11)に設けられて前記係止部(14b)に係合する被係止部(18d)とで構成されることを特徴とする、請求項1に記載のペダルブラケットの固定構造。
【請求項3】
前記被係止部(18d)は、下方に移動不能かつ上方に移動可能に前記係止部(14b)に係合することを特徴とする、請求項2に記載のペダルブラケットの固定構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−111243(P2010−111243A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−285030(P2008−285030)
【出願日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】