説明

ペロキシレドキシン2の使用、骨肉腫の化学療法奏効性の予測方法及び検査用試薬キット

【課題】骨肉腫の化学療法奏効性を簡易かつ的確に予測できる方法を提供する。
【解決手段】
ペロキシレドキシン2(PRDX2)の発現量を測定し、前記ペロキシレドキシン2の発現量が上昇している場合、骨肉腫に対する抗癌剤の化学療法奏効性が低いと予測することを特徴とする。奏効性を予測できる抗癌剤は、例えば、イホスファミド(IFO)、シスプラチン(CDDP)、アドリアマイシン(ADR)及びメトトレキサート(MTX)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペロキシレドキシン2の使用、ペロキシレドキシン2を使用する骨肉腫の化学療法奏効性の予測方法、及び、骨肉腫を患う患者の抗癌剤の化学療法奏効性を予測するための検査用試薬キットに関する。
【背景技術】
【0002】
骨肉腫(osteosarcoma)は、肉腫組織型の1つであり、悪性の間葉性腫瘍のうち造骨細胞への分化ポテンシャルを有し、腫瘍骨を形成する能力を持つものである。骨肉腫は、初老期の患者に生じることもあるが、約75%が20歳未満の患者で起こり、我が国では、年間200人〜300人が新たに骨肉腫となっている。
【0003】
骨肉腫は、初期には自発痛を認めないことが多いが、成長するにつれて骨を破壊し、周囲の筋肉を押し広げ、激しい痛みを伴う。骨肉腫の成長速度は早く、2〜4週間で倍の大きさになることもある。転移は肺に見られることが多く、その他に骨、肝臓、リンパ節等に転移することもある。
【0004】
骨肉腫の療法は、基本的には腫瘍を切除するための外科手術であるが、術後の予後を良くする等の理由により、化学療法を併用することが多い。化学療法に使用される抗癌剤としては、シスプラチン(CDDP)、アドリアマイシン(ADR)、イホスファミド、シクロホスファミド(IFO)、ブレオマイシン(BLM)等がある。
【0005】
化学療法により、切断せずに腫瘍を治癒できる場合もあり、患者のクオリティ・オブ・ライフ(QOL)が大幅に改善される。
【0006】
しかし、患者個人の薬に対する感受性が相違する等の理由により、化学療法の奏効性が低い場合がある。化学療法の奏効性が低い場合は、直ちに外科手術を行うことが望ましく、化学療法を行うことによる治療期間の経過は、患者自身の有限の時間を無駄に消費し、患肢を切断する可能性を高め、更に医療資源の消費にもつながる。
【0007】
更に、化学療法には副作用が伴う。副作用としては、白血球を減少させる血液障害はもちろんのこと、食欲不振、嘔気、嘔吐等という消化器症状があり、他に、シスプラチンには腎機能障害、神経障害等があり、アドリアマイシンには心筋障害があり、イホスファミドには心筋障害、腎機能障害、脳症等がある。化学療法の奏効性が低い場合は、治療促進効果が不十分にもかかわらず、患者を副作用にて苦しめることになる。
【0008】
そのため、骨肉腫の化学療法奏効性の予測を的確に行う手法が要請される。
【0009】
特許文献1には、BRCA1 mRNAの発現を測定することにより、エクテイナサイジン-743(ET-743)により治療が行われる癌患者の化学療法の結果を予測する手法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2008−505862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、エクテイナサイジン-743は、基本的には、軟部肉腫に対する抗癌剤であり、
骨肉腫に対する抗癌剤ではない。また、特許文献1に記載されているBRCA1 mRNAの発現を測定する手法は、簡易且つ的確に化学療法奏効性の予測をするものではない。
【0012】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、骨肉腫の化学療法奏効性の的確な予測方法を提供するとともに、骨肉腫の化学療法奏効性を的確に予想できるペロキシレドキシン2の使用を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の観点に係るペロキシレドキシン2の使用は、骨肉腫に対する抗癌剤の化学療法奏効性を予測するバイオマーカーとしての使用である。
【0014】
化学療法奏効性を予測できる抗癌剤は、例えば、イホスファミド(IFO)、シスプラチン(CDDP)、アドリアマイシン(ADR)及びメトトレキサート(MTX)のうち少なくとも何れか一つを含むものである。
【0015】
また、化学療法奏効性を予測できる他の抗癌剤は、例えば、マイトマイシンC(MMC)、カルボプラチン(CBDCA)、ネダプラチン(254−S)、プロカルバジン塩酸塩(PCZ)、ダカルパジン(DTIC)、ダウノルビシン(DNR)、エピルビシン(EPI)、ミトキサントロン(MIT)、ブレオマイシン(BLM)、エトポシド(VP−16)及び塩酸イリノテカン(CPT−11)のうち少なくとも何れか一つを含むものである。
【0016】
本発明の第2の観点に係る骨肉腫の化学療法奏効性の予測方法は、ペロキシレドキシン2の発現量を測定し、前記ペロキシレドキシン2の発現量が上昇している場合、骨肉腫に対する抗癌剤の化学療法奏効性が低いと予測することを特徴とする。
【0017】
化学療法奏効性を予測できる抗癌剤は、イホスファミド(IFO)、シスプラチン(CDDP)、アドリアマイシン(ADR)及びメトトレキサート(MTX)のうち少なくとも何れか一つを含むものである。
【0018】
また、化学療法奏効性を予測できる他の抗癌剤は、マイトマイシンC(MMC)、カルボプラチン(CBDCA)、ネダプラチン(254−S)、プロカルバジン塩酸塩(PCZ)、ダカルパジン(DTIC)、ダウノルビシン(DNR)、エピルビシン(EPI)、ミトキサントロン(MIT)、ブレオマイシン(BLM)、エトポシド(VP−16)及び塩酸イリノテカン(CPT−11)のうち少なくとも何れか一つを含むものである。
【0019】
本発明の第3の観点に係る検査用試薬キットは、骨肉腫を患う患者の抗癌剤の化学療法奏効性を予測するための検査用試薬キットであって、前記患者から得られた試料におけるペロキシレドキシン2の発現量を検出又は定量する手段を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の骨肉腫の化学療法奏効性の予測方法によれば、簡易かつ的確に、骨肉腫の化学療法奏効性を予測できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】2D-DIGE法の工程を示す。
【図2】電気泳動分離実験の再現性を示す。
【図3】電気泳動実験のタンパク質スポットの検出を示す。
【図4】タンパク質スポットとタンパク質名との対応を示す。
【図5】電気泳動によるペロキシレドキシン2のタンパク質の検出を示す。
【図6】化学療法非奏効群に対する免疫染色を示す。
【図7】ウェスタンブロットによるペロキシレドキシン2のタンパク質の検出を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本実施形態においては、患者のペロキシレドキシン2(PRDX2)の発現量を測定する。ペロキシレドキシンは抗酸化作用を持つタンパク質ファミリーであり、ペロキシレドキシン1〜6までのタイプがある。本発明では、ペロキシレドキシン2の発現量に着目する。
【0023】
そして、ペロキシレドキシン2の発現量が上昇している場合、骨肉腫に対する外科手術前に適用される抗癌剤の化学療法奏効性が低いと予測する。
【0024】
ペロキシレドキシン2の発現量の測定は、特に限定されるものではなく、単にペロキシレドキシン2の有無を検出するものであってもよく、またペロキシレドキシン2の発現量を相対的又は絶対的に決定するものでもよい。ペロキシレドキシン2の発現量の測定は、免疫学的手法によるのが好適であり、例えば、電気泳動法による分離と蛍光、酵素、放射性同位元素等による検出又は定量との組み合わせ(ウェスタンブロット法、蛍光二次元電気泳動法を含む)、免疫染色法(蛍光抗体法、酵素抗体法、重金属標識抗体法、放射性同位元素標識抗体法を含む)、酵素免疫測定吸着法(ELISA)、ドット・ブロッティング法等により行うことができる。本実施形態では、患者から生体組織を採取し、その生体組織内に含有されるタンパク質について電気泳動を行い、蛍光色素によりペロキシレドキシン2の有無及び量を測定することによりなされる。
【0025】
化学療法奏効性は、抗癌剤投与後における癌細胞の組織学的壊死を、システムを等級分けしているHuvos(Huvos grading system)によって評価する。そして、癌細胞の90%以上が組織学的壊死である場合は、抗癌剤の化学療法奏効性が高いと評価し、一方、癌細胞の組織学的壊死が90%より低い場合は、抗癌剤の化学療法奏効性が低いと評価する。
【0026】
また、化学療法奏効性をCR、PR、SD、PDの4段階にて評価する場合は、CRを化学療法奏効性が高いと評価し、一方、PR、SD及びPDを化学療法奏効性が低いと評価する。ここで、CRはcomplete responseであり、腫瘍細胞が完全に消失し、その状態が4週間以上継続することである。PRはpartial responseであり、腫瘍細胞が50%以上消滅し、新しい腫瘍細胞の出現が4週間以上見られない状態である。SDはstable diseaseであり、腫瘍細胞の状態がほとんど変わらない状態である。PDはprogressive diseaseであり、腫瘍細胞が増大又は転移した状態である。
【0027】
化学療法奏効性が予測できる抗癌剤は、特に限定されるものではないが、例えば、イホスファミド(IFO)、シスプラチン(CDDP)、アドリアマイシン(ADR)、メトトレキサート(MTX)又はこれらの組み合わせである。
【0028】
化学療法奏効性は、通常行われている標準的な化学療法の奏効性であるが、標準的な化学療法といえども、骨肉腫の悪性度及び進行度、患者の体重、並びに、患者の腎機能の状態等により、使用する抗癌剤の数、種類、順番及び量等が異なる。
【0029】
抗癌剤の種類としては、例えば、上述したように、イホスファミド、シスプラチン、アドリアマイシン及びメトトレキサートが使用される。これらは、単独の抗癌剤で20%以上の寛解率が実証されているからである。
【0030】
抗癌剤の量は、例えば、体重から割り出した体表面積を基に算出される。例えば、標準的な化学療法では、イホスファミドは14〜16mg/m使用され、シスプラチンは100〜120mg/m使用され、アドリアマイシンは50〜70mg/m使用され、メトトレキサートは8〜12mg/m使用される。
【0031】
抗癌剤の順番としては、例えば、イホスファミド、シスプラチン、アドリアマイシン及びメトトレキサートを使用する場合、メトトレキサートを最後に使用することができる。メトトレキサートは代謝拮抗剤であるため、効き目が現れるのが遅い場合があるからである。
【0032】
なお、下記に、一例であるが、標準的な化学療法の工程を記載する。
1.生検(手術)にて診断を確定
2.術前補助抗がん剤治療1クール目:シスプラチン100mg/m
3.術前補助抗がん剤治療2クール目:アドリアマイシン60mg/m
4.術前補助抗がん剤治療3クール目:イホスファミド14mg/m
5.原発巣切除手術
6.術後補助抗がん剤治療1クール目:シスプラチン100mg/m
7.術後補助抗がん剤治療2クール目:アドリアマイシン60mg/m
8.術後補助抗がん剤治療3クール目:イホスファミド14mg/m
9.術後補助抗がん剤治療4クール目:メトトレキサート8mg/m
【0033】
化学療法奏効性が予測できる抗癌剤は、上述したイホスファミド、シスプラチン、アドリアマイシン、メトトレキサートに限定されず、例えば、マイトマイシンC(MMC)、カルボプラチン(CBDCA)、ネダプラチン(254−S)、プロカルバジン塩酸塩(PCZ)、ダカルパジン(DTIC)、ダウノルビシン(DNR)、エピルビシン(EPI)、ミトキサントロン(MIT)、ブレオマイシン(BLM)、エトポシド(VP−16)、塩酸イリノテカン(CPT−11)又はこれらの組み合わせである。
【0034】
本実施形態に係る発明で、化学療法奏効性の予測が可能となる骨肉腫としては、骨内通常型骨肉腫と亜系骨肉腫とがある。
【0035】
亜系骨肉腫は、例えば、骨内高分化型骨肉腫、円形細胞骨肉腫、表在骨肉腫、傍骨骨肉腫、骨膜骨肉腫又は表在高悪性骨肉腫である。
【0036】
亜系骨肉腫は、化学療法を行わないものもあるが、化学療法を行う場合には、本実施形態に係る発明を適用することで、化学療法奏効性を予測できる。例えば、骨膜骨肉腫は、骨内通常型骨肉腫より異型度の低い細胞から成り、骨膜から骨皮質外方のみに成長して骨中心側へは殆ど増殖せず、比較的予後の良い亜系であるため、骨膜骨肉腫の場合は主に外科手術が中心であるが、化学療法を行う場合は、本実施形態に係る発明を適用することで、化学療法奏効性を予測できる。
【0037】
本実施形態に係るキットは、骨肉腫を患う患者の抗癌剤の化学療法奏効性を予測するための検査用試薬キットであり、患者から得られた試料におけるペロキシレドキシン2(PRDX2)の発現量を検出又は定量する手段を含む。免疫学的手法により検査を行う場合には、少なくとも抗ペロキシレドキシン2抗体が検査用試薬に含まれる。抗ペロキシレドキシン2抗体は、ペロキシレドキシン2の発現を検出しうる抗体であればよく、特に限定されないが、例えばモノクローナル及びポリクローナル抗体、標識化抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体並びにこれらの結合活性断片等が挙げられる。また検査用試薬キットには、上記抗体のほか検出用に用いる標識を含んでいてもよい。キットには、緩衝液、発色基質、二次抗体、ブロッキング剤等の試薬を含むことができる。
【0038】
骨肉腫に対する化学療法の奏効性は、従来は抗癌剤投与後でしか判定できなかったが、本実施形態に係る発明によれば、化学療法の治療開始以前に奏効性を予測できる。
【0039】
また、骨肉腫では、診断目的で患者の患部を切開して検査するのが普通であり、その際に生体組織を採取すれば、患者に新たな負担を強いることにはならない。
【0040】
また、本実施形態に係る発明によれば、例えばウェスタンブロット装置の準備さえあれば、ペロキシレドキシン2の発現量の測定ができるため、簡易な手法にて骨肉腫の化学療法奏効性の予測ができる。また、例えばペロキシレドキシン2に特異的に発現する抗体を用いればウェスタンブロット以外の方法、例えば免疫染色によっても鋭敏にペロキシレドキシン2の発現量の測定ができる。
【実施例】
【0041】
(実施例1)
下記表1に示すように、12例の生検検体(Case No.1〜12)のうち、外科手術前において、化学療法奏効群6例と化学療法非奏効群6例とを使用した。化学療法奏功群は、Case No.1,6,7,9,10,12である。また、化学療法非奏効群は、Case No.2,3,4,5,8,11である。化学療法奏効性は、Huvos(Huvos grading system)を用いて評価した。癌細胞の90%以上が組織学的壊死である場合は、抗癌剤の化学療法奏効性が高いと評価し、一方、癌細胞の組織学的壊死が90%より低い場合は、抗癌剤の化学療法奏効性が低いと評価した。化学療法に使用した抗癌剤は、イホスファミド、シスプラチン及びアドリアマイシンであり、それぞれの投薬量は表1に記載した通りであった。
【0042】
【表1】

【0043】
次に、上記の夫々の生検検体からの凍結サンプルをマルチビーズショッカー(登録商標、Yasui Kikai,大阪)にて粉砕した。凍結サンプルは、urea lysis 緩衝液(6M ウレア, 2M チオウレア, 3% CHAPS, 1% Triton X-100)にて調整された。15000rpmにて30分間遠心分離した後、上澄み液が取り出され、2D-DIGE(2 Dimensional Fluorescence Difference Gel Electrophoresis)により泳動分離がなされた。2D-DIGE法は、泳動前に比較したいサンプルを異なる蛍光色素でラベルし、このラベル化したサンプルを混合してから電気泳動を行う手法である。
【0044】
図1は、2D-DIGE法の工程を示す工程図である。コントロールサンプル(internal control sample)は、全ての生検検体の一部を混合させて作成したものであり、5μg用いた。コントロールサンプルは、図1に示すように、Cy3(登録商標、CyDye DIGE Fluor saturation dye, GE Healthcare Biosciences, Uppsala, Sweden)によりラベルされた。また、夫々の生検検体は5μg用いられ、Cy5(登録商標、CyDye DIGE Fluor saturation dye, GE Healthcare Biosciences, Uppsala, Sweden)によりラベルされた。第1次分離は、IPG緩衝液及びDryStripゲル(24 cm length, pI range between 4 and 7, GE Healthcare Biosciences)にて実行された。第2次分離は、大きめのゲル(38 cm length, Bio-craft, Itabashi, Tokyo, Japan)を使用し、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)にて実行された。ゲルはレーザー照射(Tyhoon Trio(登録商標), GE Healthcare Biosciences)によりスキャンされた。全てのスポットにおいて、Cy5の強度はCy3の強度により初期化され、ゲル間の差は二次元電気泳動解析ソフトウェア Progenesis PG240(Nonlinear dynamics Ltd, Newcastle upon Tyne, UK)により補正された。
【0045】
図2は、電気泳動分離実験の再現性を示す。図2に示すように、同一サンプルにつき、3回の独立した電気泳動分離実験(exp1,exp2,exp3)を比較することにより、再現性が存在することが実証された。XMLファイルにおける数字データは、遺伝子発現データ解析ソフトウェアExpressionist(GeneData, Basel, Switzerland)に導入された。Kruskal-Wallis testとボンフェローニ(Bonferroni)検定を使用して、化学療法奏効性と化学療法非奏効性との間の強度差を有するタンパク質を同定した。このようにして、2586のタンパク質を検出した。
【0046】
図3は、電気泳動実験のタンパク質スポットの検出を示す。図3に示すように、2D-DIGEにて検出した2586のタンパク質スポットから、2群間の比較において、Z検定においてP値<0.01と統計学的に有意な濃度差を認めたタンパク質スポット56個を選別した。
【0047】
図4は、タンパク質スポットとタンパク質名との対応図である。図4における非奏効群2,3,4,5,8,11は、夫々、上記表1のCase No.2,3,4,5,8,11に対応する。図4における奏効群1,6,7,9,10,12は、夫々、上記表1のCase No.1,6,7,9,10,12に対応する。図4に示すように、56個のタンパク質スポットに対して質量分析による解析を行い、タンパク質同定を実施した。質量分析は、ナノ・エレクトロスプレイイオン供給源(AMR,東京)を有するFinnigan(登録商標) LTQ(登録商標) linear イオントラップ質量分析装置(Thermo Electron, San Jose, CA)を使用した。56個のタンパク質スポットのうち、化学療法非奏効群で濃度が増加していたタンパク質スポットは30個であり、それに対して奏効群で増加していたタンパク質スポットは26個であった。
【0048】
同定したタンパク質の中から骨肉腫の化学療法奏効性に関与するバイオマーカーの候補を見出すために、市販抗体を用いてウェスタンブロッティングを用いた検証実験を行った。即ち、分離されたタンパク質がニトロセルロース膜に転写され、そのニトロセルロース膜がペロキシレドキシン2に対するポリクロナール抗体(1: 1000 dilution, Protein Tec Group, Chicago, Illinois, USA)にて培養された。ペロキシレドキシン2は、化学発光分析システム(GE Healthcare Biosciences, Chicago, Illinois, USA)及びLAS 3000 luminescent image analyzer (富士フイルム,東京)により探知された。検証実験により、同定された56個のタンパク質スポットの中から、化学療法奏効性に関与するタンパク質としてペロキシレドキシン2を見出した。
【0049】
図5は、骨肉腫生検検体において、電気泳動によるペロキシレドキシン2のタンパク質の検出の有無を示す。図5における非奏効群2,3,4,5,8,11は、夫々、上記表1のCase No.2,3,4,5,8,11に対応する。図5における奏効群1,6,7,9,10は、夫々、上記表1のCase No.1,6,7,9,10に対応する。βアクチンは陽性コントロールである。なお、Case No.12は示されていない。図5に示すように、ウェスタンブロッティングによる検証が可能であった骨肉腫生検検体11例(奏効群5例、非奏効群6例)に関する解析の結果、ペロキシレドキシン2は明らかに化学療法非奏効群6例において発現が上昇しており、それに対して、奏効群5例ではほとんど発現が認められなかった。
【0050】
以上より、抗癌剤の化学療法奏効性が低い患者においては、ペロキシレドキシン2の発現量が上昇していることが実証された。
【0051】
なお、骨肉腫腫瘍細胞におけるペロキシレドキシン2の発現を確認する目的で免疫染色法を実施した。図6は、化学療法非奏効群に対する免疫染色を示す。図6に示されるように、組織学的効果判定にて壊死率50%未満の症例(図左側、HE染色)に対し、ペロキシレドキシン2による免疫染色(図右側)を施行したところ、腫瘍細胞の細胞質にびまん性にペロキシレドキシン2は染色された。
【0052】
(実施例2)
次に、化学療法適用前に、患者のペロキシレドキシン2の発現量を調べ、その後、その患者の化学療法奏効性を実際に調べた。
【0053】
下記表2に示すように、4例の生検検体(Case No.13〜16)を採取した。
【0054】
【表2】

【0055】
そして、実施例1と同様にして、4例の生検検体について2D-DIGEを行い、ペロキシレドキシン2の発現量を調べた。図7は、ウェスタンブロットによるペロキシレドキシン2のタンパク質の検出を示す。図7における非奏効群15,16は、夫々、上記表2のCase No.15,16に対応する。図7における奏効群13,14は、夫々、上記表2のCase No.13,14に対応する。その結果、図7に示すように、Case No.13とNo.14についてはペロキシレドキシン2の発現量は少なく、Case No.15とNo.16についてはペロキシレドキシン2の発現量は多いとの結果が得られた。
【0056】
その後、実施例1と同様にして、4例の生検検体について、上記表2に示す抗癌剤を投与した。なお、Case No.15では、骨髄抑制が激しい結果、末梢の白血球数が減少しすぎて、化学療法の途中にて投薬を中止した。その結果、Case No.13とNo.14については化学療法の奏効性が高かったものの、Case No.15とNo.16については化学療法の奏効性が低かった。
【0057】
以上より、外科手術前に、患者のペロキシレドキシン2の発現量を調査し、ペロキシレドキシン2の発現量が多い場合は、抗癌剤の化学療法奏効性が低いことが実証された。
【0058】
これにより、簡易かつ安価な装置又は手法にてペロキシレドキシン2の発現量を調査することで、骨肉腫に対する抗癌剤の化学療法奏効性を的確に予測できることが示された。
【0059】
本発明によれば、イホスファミド及びシスプラチンの化学療法奏効性が予測でき、イホスファミド及びシスプラチンはアルキル化剤だから、他のアルキル化剤であるマイトマイシンC、カルボプラチン、ネダプラチン、プロカルバジン塩酸塩等についても、化学療法奏効性が予測できることが示唆される。
また、本発明によれば、アドリアマイシンの化学療法奏効性が予測でき、アドリアマイシンはRNA合成阻害剤だから、他のRNA合成阻害剤であるダカルパジン、ダウノルビシン、エピルビシン、ミトキサントロン等についても、化学療法奏効性が予測できることが示唆される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨肉腫に対する抗癌剤の化学療法奏効性を予測するバイオマーカーとしてのペロキシレドキシン2(PRDX2)の使用。
【請求項2】
前記抗癌剤は、イホスファミド(IFO)、シスプラチン(CDDP)、アドリアマイシン(ADR)及びメトトレキサート(MTX)のうち少なくとも何れか一つを含むことを特徴とする請求項1記載のペロキシレドキシン2の使用。
【請求項3】
前記抗癌剤は、マイトマイシンC(MMC)、カルボプラチン(CBDCA)、ネダプラチン(254−S)、プロカルバジン塩酸塩(PCZ)、ダカルパジン(DTIC)、ダウノルビシン(DNR)、エピルビシン(EPI)、ミトキサントロン(MIT)、ブレオマイシン(BLM)、エトポシド(VP−16)及び塩酸イリノテカン(CPT−11)のうち少なくとも何れか一つを含むことを特徴とする請求項1記載のペロキシレドキシン2の使用。
【請求項4】
ペロキシレドキシン2(PRDX2)の発現量を測定し、前記ペロキシレドキシン2の発現量が上昇している場合、骨肉腫に対する抗癌剤の化学療法奏効性が低いと予測することを特徴とする骨肉腫の化学療法奏効性の予測方法。
【請求項5】
前記抗癌剤は、イホスファミド(IFO)、シスプラチン(CDDP)、アドリアマイシン(ADR)及びメトトレキサート(MTX)のうち少なくとも何れか一つを含むことを特徴とする請求項4記載の骨肉腫の化学療法奏効性の予測方法。
【請求項6】
前記抗癌剤は、マイトマイシンC(MMC)、カルボプラチン(CBDCA)、ネダプラチン(254−S)、プロカルバジン塩酸塩(PCZ)、ダカルパジン(DTIC)、ダウノルビシン(DNR)、エピルビシン(EPI)、ミトキサントロン(MIT)、ブレオマイシン(BLM)、エトポシド(VP−16)及び塩酸イリノテカン(CPT−11)のうち少なくとも何れか一つを含むことを特徴とする請求項4記載の骨肉腫の化学療法奏効性の予測方法。
【請求項7】
骨肉腫を患う患者の抗癌剤の化学療法奏効性を予測するためのキットであって、前記患者から得られた試料におけるペロキシレドキシン2(PRDX2)の発現量を検出又は定量する手段を含む検査用試薬キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−63524(P2011−63524A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−213605(P2009−213605)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【Fターム(参考)】