説明

ホエータンパク質製品およびその調製方法

本発明は、約90:10から約50:50の範囲内のカゼインに対するホエータンパク質の割合および乾量基準で少なくとも20%の総タンパク質含有量を有するホエータンパク質製品、およびその調製のための方法に関する。製品は有益なアミノ酸組成を有し、特に運動選手にとって好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はホエータンパク質で強化された乳−ベース製品およびその調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホエータンパク質は、とりわけ運動選手の栄養摂取において、筋肉量の増加および維持における優れたタンパク質供給源であることが示されている。それゆえ、市場にはたくさんのホエータンパク質粉末およびこれを用いて製造された飲料が存在する。一般に、該ホエータンパク質製品のための原材料として、チーズ、クワルク(quark)またはカゼインホエーの限外濾過、およびそれに続く、限外濾過から得た濃縮物の乾燥によって調製される、粉末としてのホエータンパク質濃縮物が使用される。これらの製品は、チーズスターターおよびレンネットなどのスターターよって引き起こされるタンパク質分解、残留脂肪の酸化、ならびに他の風味欠陥(taste flaw)に起因して、風味が悪い(foul)という問題を有している。また、ホエー製品の製造工程の間でのミネラルの除去が、常乳の風味よりもさらに水っぽい風味を引き起こす。ホエー製品は、様々な食品添加物、矯味剤(flavoring substance)、香料製剤(flavoring preparation)および加工助剤で風味を改善することによって、風味に関連する問題を取り除くことが試みられている。
【0003】
現在のホエータンパク質製品の風味問題に加えて、全てのホエータンパク質が栄養価(nutrititive value)において同等でないという問題も存在する。例えば、チーズ製造の間にカゼインからホエー中へ放出されるグリコマクロペプチドの栄養価はα−ラクトアルブミンおよびβ−ラクトグロブリンの栄養価よりも小さい。グリコマクロペプチドはチーズホエーの総タンパク質のかなりの部分を構成する。
【0004】
また、公知のホエー製品に含まれる高含有量の乳糖からさらなる問題が生じる。一般的に知られているように、乳糖は世界中で大勢の成人に対して不耐症を生じさせている。
【0005】
ホエータンパク質ベース製品の熱処理が、製品における構造的欠陥(structural fault)を引き起こすことも一般的に知られている。これらの製品は典型的に、薄片状(flaky)、粗い(coarse)、塊の多い(lumpy)または砂状(sandy)と表現される。
【0006】
上記の問題に照らして、公知のホエータンパク質製品の価格−品質比率は魅力的ではない。結果、製品は一般に大規模に入手することはできないが、フィットネスセンターのような限定された施設で入手可能な専門品として消費者に提供されている。
【0007】
乳−ベースのホエータンパク質は一般に広く知られている。乳成分を個別の画分へ分離するための様々な膜技術およびそれらの組合せもまた文献に多く記載されている。例えば、国際公開第94/13148号は、脱脂乳の精密濾過および限外濾過により非変性ホエータンパク質濃縮物を製造するための工程を開示する。カゼインは精密濾過保持液内に保持され、一方でα−ラクトアルブミンおよびβ−ラクトグロブリンは、約0.1ミクロンの細孔径を有する精密濾過膜を極めて簡単に通り抜ける。
【0008】
国際公開第96/08155号は、精密濾過および限外濾過を利用する脱脂乳出発物質からのカゼインおよびホエータンパク質の分離を開示する。例えば、該工程によって、ホエータンパク質含有量が低下した乳飲料を製造することができる。
【0009】
国際公開第00/30461号は、精密濾過が、特殊調製粉乳の調製において、アミノ酸組成を人乳に類似させるために利用され得ることを開示する。
【0010】
国際公開第03/094623 A1は、いくつかの膜技術、すなわち限外濾過、ナノ濾過および逆浸透が無乳糖乳飲料を調製するために利用されることを開示する。
【0011】
公知の製品の欠点は有しないが、良好な風味および好ましい栄養成分を有するホエータンパク質製品を提供することが望ましい。
【発明の概要】
【0012】
発明の簡単な説明
我々は驚くべきことに、公知のホエータンパク質製品に関連する問題は、膜技術により調製され、α−ラクトアルブミンおよびβ−ラクトグロブリンが強化された乳−ベースホエータンパク質画分中に、カゼインを含めることによって回避できることを発見した。少量のカゼインでも、滑らかでビロードのような風味を維持するように、製品の官能特性を改善するために十分であることは驚くべきことである。驚くべきことに、本発明のホエータンパク質製品の構造および安定性もまた、いかなる砂状、薄片状、沈殿またはゲル形成等もなく良好である。また製品の栄養価も増加される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一つの実施形態において、乳のような外観および風味であるが、運動選手および他の運動に熱心な人へより有益な組成を有するホエータンパク質飲料を調製することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1はホエータンパク質製品を製造するための本発明の方法の一つの実施形態を図示する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
発明の詳細な説明
約90:10から約50:50の範囲内のカゼインに対するホエータンパク質の割合および乾量基準で少なくとも20%の総タンパク質含有量を有するホエータンパク質製品を提供することが本発明の目的である。本発明の一つの実施形態において、カゼインに対するホエータンパク質の割合は約80:20から約60:40に及ぶ。本発明の具体的な実施形態において該割合は約80:20である。
【0016】
本発明のさらなる実施形態において、製品の総タンパク質含有量は乾量基準で30%から60%に及ぶ。本発明の具体的な実施形態において、総タンパク質量は乾量基準で40%から60%である。
【0017】
本発明のホエータンパク質製品は良好な官能特性を有し、特に、グリコマクロペプチドおよび従来型のチーズ、カードおよびカゼインホエーに存在する好ましくない代謝物によって引き起こされる異味が存在しない。加えて、本発明のホエータンパク質製品は有益な栄養学的特徴および健康上の有益な効果を有する。また、本発明のホエータンパク質製品の安定性は、薄片状、沈殿、ゲル化または構造において望ましくない変化を引き起こす他の現象は全く観察されず、良好である。
【0018】
本発明の文脈において、ホエータンパク質製品とはホエータンパク質およびカゼインを含有する乳−ベースタンパク質製品を意味する。ホエータンパク質製品は、様々な膜技術およびそれらの組合せによって乳原材料から得られる一以上の様々な成分から調製することができる。ホエータンパク質製品はさらに乳由来のミネラルを含むことができる。乳原材料は乳そのもの、または濃縮物もしくは所望の方法により前処理された乳であってもよい。乳原材料は、脂肪、タンパク質または糖類画分などの乳製品の調製において一般的に使用される原料で補充されてもよい。乳原材料はそれゆえ、例えば、全脂肪乳、クリーム、低脂肪乳もしくは脱脂乳、限外濾過乳、透析濾過乳、精密濾過乳、無乳糖乳もしくは低乳糖乳、タンパク質分解酵素処理乳、粉乳からの還元乳、有機乳、あるいはこれらの組合せ、またはこれらのいずれかの希釈物であってもよい。乳はウシ、ヒツジ、ヤギ、ラクダ、ウマまたは栄養に適している乳を産生する任意の他の動物に由来することができる。乳は好ましくは低脂肪乳または脱脂乳である。本発明のさらに好ましい実施形態において、ホエータンパク質製品は脱脂乳から調製される。
【0019】
本発明のホエータンパク質製品は、飲料のような液体、濃縮物または粉末として提供され得る。本発明の具体的な実施形態において、ホエータンパク質製品は飲料である。飲料は、飲料の重量に基づいて典型的には2.5重量%から8重量%の、好ましくは3.5重量%から6重量%の総タンパク質含有量を有する。カゼインは総タンパク質含有量の5%から50%、好ましくは15%から25%を構成し、一方、α−ラクトアルブミンとβ−ラクトグロブリンで強化されたホエータンパク質は50%から95%、好ましくは75%から85%を構成する。
【0020】
糖類、甘味料または香味料を含有しないことは本発明のホエータンパク質製品の特徴であるが、しかしながらこの実施形態へ限定されるものではない。本発明の具体的な実施形態において、ホエータンパク質製品はインスタント用に準備された(ready for instant use)飲料であり、飲料内に糖類、甘味料または香味料は一切含有されない。
【0021】
牛乳のミネラル組成のように、本発明のホエータンパク質製品のミネラル組成は非常に生理的である。例えば、本発明のホエータンパク質飲料は典型的に0.5%から1.5%の、好ましくは0.6%から0.8%のミネラルを含有することができる。しかしながら本発明のホエータンパク質製品のカルシウム含有量は常乳のそれよりも低い。ホエータンパク質製品はそれゆえ、補助的カルシウムおよび他の乳ミネラル類、例えば、以下に記載する本発明の工程から得られるナノ濾過透過液を付与され得る。補助的カルシウムはそれゆえ、乳カルシウム、グルコン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、乳酸カルシウムなど、またはそれらの混合物のような、任意のカルシウム供給源として提供され得る。
【0022】
脂肪もまた本発明のホエータンパク質製品中に含有され得る。製品の脂肪含有量は典型的に約0%から最高で3.5%まで及ぶ。
【0023】
本発明の一つの実施形態において、ホエータンパク質製品は低乳糖または無乳糖である。低乳糖または無乳糖製品は、製品の調製のために使用される膜技術によって得ることができる。また、ホエータンパク質製品中のいかなる残存乳糖も、酵素法によって加水分解され得る。本発明の文脈において、「低乳糖」とはホエータンパク質製品において1%未満の乳糖含有量を意味する。「無乳糖」とはホエータンパク質製品の乳糖含有量が、一食あたり0.5gである(例えば、液体乳について0.5g/244g、乳糖含有量は最大でも0.21%である)が、しかしながら0.5%を超えないことを意味する。本発明に従って、炭水化物をほとんど含有せず、完璧な官能特性を有するホエータンパク質飲料もまた製造できる。
【0024】
本発明のホエータンパク質製品は、全ての種類の酸乳製品および/または酸性化生鮮製品(acidified fresh product)、典型的には、ヨーグルト、発酵乳、ヴィーリ(viili)、発酵クリーム、サワークリーム、クワルク(quark)、バターミルク、ケフィア、小容量の乳飲料(dairy shot drink)、および他の酸乳製品の調製における原材料として使用することができる。我々は驚くべきことに、本発明のホエータンパク質製品から調製された酸乳製品の官能特性が従来の酸乳製品の官能特性に類似していることを発見した。
【0025】
本発明の製品は、食品、動物飼料、栄養製品、栄養補助食品、食品原料、健康食品および医薬品からなる群から選択することができるが、これらに限定されない。本発明の一つの実施形態において、製品は食品または飼料製品である。本発明の別の実施形態において、製品は機能性食品、すなわち健康を促進する、かつ/または疾患を予防および/または軽減する何らかの特性を有する食品である。食品、食品材料および/または医薬品、および動物飼料の各々の形式は特に限定されない。
【0026】
上述の通り、その有益な栄養成分に起因して、本発明のホエータンパク質製品は、そのものまたは日常の食事の一部として運動選手および他の運動に熱心な人に対して好適である。本発明は、健康的な食事を支持するまたは改善するためのホエータンパク質を含む組成物を提供する。製品はまた、特に成人発症の糖尿病、代謝症候群およびサルコペニアの緩和および/または予防に関連して有益である。
【0027】
本発明の別の目的は、食品、動物飼料、栄養製品、栄養補助食品、食品原料、健康食品および医薬品としてのホエータンパク質製品の使用を提供することである。本発明の一つの実施形態において、製品は機能性食品および/または栄養製品として提供される。別の実施態様において、製品は医薬品として提供される。
【0028】
ホエータンパク質製品は、膜技術によって得られた一以上の画分から製造される。適切な方法で、精密濾過、限外濾過、ナノ濾過および逆浸透を含む二以上の技術を組み合わせることができる。本発明のさらなる目的はそれゆえ、
−精密濾過透過液としての理想的なホエーおよび精密濾過保持液としてのカゼイン濃縮物を分離するために、乳−ベース原材料を精密濾過に供すること、
−限外濾過透過液および限外濾過保持液としてのホエータンパク質濃縮物を提供するために、精密濾過透過液の少なくとも一部分を限外濾過に供すること、
−約90:10から約50:50の範囲内のカゼインに対するホエータンパク質の割合および乾量基準で少なくとも20%の総タンパク質含有量を提供するように、限外濾過保持液およびカゼイン含有物質、および、所望により、他の原料から、ホエータンパク質製品を構成すること、
を含む、ホエータンパク質製品を製造するための方法を提供することである。
【0029】
乳−ベース原材料は好ましくは脱脂乳である。
【0030】
本発明の一つの実施形態において、カゼイン含有物質は本発明の方法において得られる精密濾過保持液である。別の実施形態において、カゼイン含有物質は乳である。本明細書において用いる場合、用語「乳」は、ウシの、ヒツジの、ヤギの、ラクダの、ウマの、または栄養に適している乳を産生する任意の他の動物などの、ほ乳動物の乳腺から得られる任意の正常分泌物を意味する。乳は、脂肪、タンパク質または糖類画分などの乳製品の調製において一般的に使用される原料で補充できる。乳はそれゆえ、例えば、全脂肪乳、低脂肪乳もしくは脱脂乳、クリーム、限外濾過乳(UF保持液)、透析濾過乳、精密濾過乳(MF透過液)、粉乳からの還元乳、有機乳、あるいはこれらの組合せ、またはこれらのいずれかの希釈物を含む。
【0031】
本発明の一つの実施形態において、乳は脱脂乳である。本発明の別の実施形態において、乳は低乳糖乳もしくは無乳糖乳である。
【0032】
ホエータンパク質製品を構成した後、適切な場合には、自体公知の方法により熱処理することができる。
【0033】
本発明の1つの実施形態において、ミネラル、および乳糖を含む糖類の大部分を含有する限外濾過透過液の少なくとも一部分は、ミネラルをNF透過液中へ、および糖類をNF保持液中へ分離するために、さらにナノ濾過(NF)へ供することができる。別の実施形態において、NF透過液の少なくとも一部分は、RO保持液中へミネラルを濃縮するために、またさらに逆浸透(RO)へ供することができる。上記のさらなる膜濾過から得られたこれらの画分は、本発明のホエータンパク質製品を構成するために利用することができる。本発明の一つの実施形態において、精密濾過保持液、限外濾過保持液およびナノ濾過透過液は、本発明のホエータンパク質製品の調製において使用される。本発明の別の実施形態において、精密濾過保持液、限外濾過保持液および逆浸透保持液は、本発明のホエータンパク質製品の調製において使用される。
【0034】
本発明のさらなる実施形態において、精密濾過(MF)、限外濾過(UF)および/またはナノ濾過(NF)は、水または膜濾過から得られた好適な画分を使用する透析濾過によって増強される。透析濾過が精密濾過に付随する時、MF透過液の限外濾過から得られるUF透過液はダイアウォーター(diawater)として適切に使用される。UF透過液がさらにナノ濾過へ供される時、NF透過液は限外濾過におけるダイアウォーターとして適切に使用される。NF透過液がまたさらに逆浸透(RO)へ供される時、RO透過液はナノ濾過におけるダイアウォーターとして適切に使用される。該透析濾過段階の一以上を本発明の工程において使用することができる。
【0035】
本発明の方法は、風味および食感などの良好な官能特性を有し、良好な安定性を備えるホエータンパク質製品を提供する。該方法によって、ホエータンパク質製品に対して好ましくない異味を引き起こすグリコマクロペプチドおよび代謝物の放出を抑えることができる。それゆえ、本発明の方法を実行することにより、ホエータンパク質製品の異味を減少し、除去し、または隠すことができる。
【0036】
従来の研究からホエータンパク質の栄養価において違いが存在することが示されている。より具体的には、α−ラクトアルブミンがβ−ラクトグロブリンよりもより有益な栄養価を有しているということが発見されている。この知見に基づき、本発明のホエータンパク質製品の組成は適切な方法により様々な用途へと調整できる。本発明において、ホエータンパク質組成の調整は、乳原材料の熱処理によって、または膜の選択によって達成される。本発明の工程は、乳製品の熱処理における自体公知の技術を使用する。本発明の工程において使用される熱処理の例は、低温殺菌、高温殺菌あるいは低温殺菌温度より低い温度での十分長い時間の加熱である。特に、UHT処理(例えば乳の場合、138℃で2−4秒)、ESL処理(例えば乳の場合、130℃で1−2秒)、低温殺菌(例えば乳の場合、72℃で15秒)、または高温殺菌(例えば乳の場合、95℃で5分)を挙げることができる。熱処理は、直接的(蒸気を乳へ、乳を蒸気へ)または間接的(チューブ式熱交換器、プレート式熱交換器、表面かき取り式熱交換器)のいずれであってもよい。
【0037】
本発明の1つの実施形態において、ホエータンパク質原料を選択的に分離するために、乳は精密濾過に先立って、65℃から95℃の温度範囲で15秒間から10分間の熱処理に供される。熱処理の結果として、β−ラクトグロブリンは変性されカゼインに結合する一方、α−ラクトアルブミンは膜を通過する。この方法で、α−ラクトアルブミンの含有量を精密濾過透過液において増加させることができる。
【0038】
本発明の1つの実施形態において、乳原材料における本発明のホエータンパク質製品における乳糖は、その分野において周知であるように、単糖類へと加水分解される。これは自体公知の方法において市販の乳糖分解酵素で行うことができる。本発明の1つの実施形態において、乳糖加水分解は構成されたホエータンパク質製品の膜濾過の後に実行される。本発明の別の実施形態において、乳糖加水分解段階および精密濾過段階は、互いに同時に開始される。本発明のさらに別の実施形態において、乳原材料の乳糖加水分解は膜濾過段階に先立って開始される。
【0039】
乳糖加水分解は、例えば、本発明の方法において得られた様々な画分(UF保持液およびMF保持液)の後期に構成されたホエータンパク質製品の熱処理によって、乳糖分解酵素が不活化するまで継続することができる。
【0040】
以下の実施例は本発明のさらなる説明を示すが、本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0041】
脱脂乳(1000L)を800kDaの細孔径を有する高分子濾過膜(Synder FR)によって精密濾過する。透析濾過段階を含み、濃縮係数95が使用される。濃縮係数は式1によって計算される。形成された精密濾過保持液の量は20.0%の乾物含量を有する190Lである。
(式1)

【0042】
精密濾過において形成される透過液(1890L)はさらに10kDaの細孔径を有する高分子限外濾過(UF)膜(Koch HFK−131)によって濾過される。限外濾過から得られた透過液はさらにナノ濾過(NF)へ供され、NF保持液および透過液(130L)を得る。
【0043】
限外濾過は、ダイアウォーターとして上述の130LのNF透過液を使用する透析濾過によって実行される。限外濾過の総濃縮係数は24である(式1)。限外濾過において、100Lの限外濾過保持液、および1920Lの限外濾過透過液が形成され、その1080Lが精密濾過の透析濾過のために使用される。残りの限外濾過透過液(840L)は200Daのカットオフ値を有する濾過膜(Desal 5−DK)によってナノ濾過される。ナノ濾過の濃縮係数は4.25であり(式1)、197Lのナノ濾過保持液および644Lのナノ濾過透過液が形成され、後者の130Lは、上述の通り、精密濾過透過液の限外濾過の透析濾過におけるダイアウォーターとして使用される。
【0044】
精密濾過透過液の限外濾過の透析濾過におけるダイアウォーターとしては使用されない残存ナノ濾過透過液は、他の目的のために使用され、あるいは、濃縮係数10(式1)の使用により逆浸透膜(Koch HR)によって濃縮される。形成されたナノ濾過透過液の逆浸透透過液の量は500Lであり、その44Lがナノ濾過の透析濾過におけるダイアウォーターとして使用される。形成されたナノ濾過透過液の逆浸透保持液の量は55Lである。
【実施例2】
【0045】
脱脂乳(1000L)は、熱処理装置において65℃から95℃の温度範囲で15秒間から10分間の熱処理に供され、ホエータンパク質原料を選択的に分離する。β−ラクトグロブリンが1−90%の程度で変性される一方、0−26%の変性度を有し熱不安定性のより低いα−ラクトアルブミンで精密濾過透過液が強化されるように、脱脂乳の熱処理は精密濾過におけるホエータンパク質の透過に影響する。脱脂乳の熱処理の後、乳は実施例1に記載されるように濾過手順へ供される。
【0046】
一例として、精密濾過透過液中のα−ラクトアルブミンおよびβ−ラクトグロブリンの総量のうちα−ラクトアルブミンの割合(重量%)は38%(30秒間75℃の熱処理)から45%(30秒間90℃の熱処理)であった。
【実施例3】
【0047】
本発明によるホエータンパク質製品は、表1に示されるように、実施例1の精密濾過保持液および限外濾過保持液から構成された。製品の、ホエータンパク質のカゼインに対する割合は80:20であり、タンパク質含有量は乾量基準で58%であった。製品は、乳糖が、構成後に酵素的に加水分解された、低乳糖乳飲料であった。
【0048】
教育を受けた熟練のパネルが製品を官能的に評価した。官能特性は「非常に良好」であった。食感に影響する風味欠陥および構造的欠陥は全く観察されなかった。
【表1】

【実施例4】
【0049】
本発明によるホエータンパク質製品は、表2に示されるように、実施例1の精密濾過保持液、限外濾過保持液およびナノ濾過保持液、および水から構成された。製品の、ホエータンパク質のカゼインに対する割合は80:20であり、タンパク質含有量は乾量基準で43%であった。
【0050】
教育を受けた熟練のパネルが製品を官能的に評価した。官能特性は「非常に良好」であった。食感に影響する風味欠陥および構造的欠陥は全く観察されなかった。
【表2】

【実施例5】
【0051】
本発明によるホエータンパク質製品は、表3に示されるように、実施例1の精密濾過保持液、限外濾過保持液、ナノ濾過保持液およびナノ濾過透過液から構成された。製品の、ホエータンパク質のカゼインに対する割合は60:40であり、タンパク質含有量は乾量基準で38%であった。
【0052】
教育を受けた熟練のパネルが製品を官能的に評価した。官能特性は「非常に良好」であった。食感に影響する風味欠陥および構造的欠陥は全く観察されなかった。
【表3】

【実施例6】
【0053】
本発明によるホエータンパク質製品は、表4に示されるように、実施例1の精密濾過保持液、限外濾過保持液およびナノ濾過保持液、乳ミネラル粉末および水から構成された。ホエータンパク質のカゼインに対する割合は50:50であり、タンパク質含有量は乾量基準で48%であった。製品は、乳糖が、構成後に0.1%未満のレベルへ酵素的に加水分解された、無乳糖乳飲料であった。
【0054】
教育を受けた熟練のパネルが製品を官能的に評価した。官能特性は「非常に良好」であった。食感に影響する風味欠陥および構造的欠陥は全く観察されなかった。
【表4】

【実施例7】
【0055】
本発明によるホエータンパク質製品は、表5に示されるように、実施例1の精密濾過保持液、限外濾過保持液、ナノ濾過保持液および逆浸透保持液、および水から構成された。製品のホエータンパク質のカゼインに対する割合は70:30であり、そのタンパク質含有量は乾量基準で51%であった。製品は、乳糖が、構成後に0.1%未満のレベルへ酵素的に加水分解された、無乳糖乳飲料であった。
【0056】
教育を受けた熟練のパネルが製品を官能的に評価した。官能特性は「非常に良好」であった。食感に影響する風味欠陥および構造的欠陥は全く観察されなかった。
【表5】

【実施例8】
【0057】
本発明によるホエータンパク質製品は、表6に示されるように、乳および実施例1の限外濾過保持液から構成された。製品のホエータンパク質のカゼインに対する割合は70:30であり、タンパク質含有量は乾量基準で48%であった。
【0058】
教育を受けた熟練のパネルが製品を官能的に評価した。官能特性は「非常に良好」であった。食感に影響する風味欠陥および構造的欠陥は全く観察されなかった。
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
約90:10から約50:50の範囲内のカゼインに対するホエータンパク質の割合および乾量基準で少なくとも20%の総タンパク質含有量を有するホエータンパク質製品。
【請求項2】
カゼインに対するホエータンパク質の割合が約80:20から約60:40の範囲内であり、好ましくは約80:20である請求項1に記載のホエータンパク質製品。
【請求項3】
総タンパク質含有量が乾量基準で30%から60%、好ましくは乾量基準で40%から60%に及ぶ、請求項1または2に記載のホエータンパク質製品。
【請求項4】
製品が製品の重量に基づいて2.5重量%から8重量%のタンパク質含有量を有する飲料である前記請求項のいずれかに記載のホエータンパク質製品。
【請求項5】
製品がさらに補助的乳ミネラルを含む前記請求項のいずれかに記載のホエータンパク質製品。
【請求項6】
ホエータンパク質製品を生産するための方法であって、
−精密濾過透過液としての理想的なホエー、および精密濾過保持液としてのカゼイン濃縮物を分離するために、乳−ベース原材料を精密濾過に供すること、
−限外濾過透過液および限外濾過保持液としてのホエータンパク質濃縮物を提供するために、精密濾過透過液の少なくとも一部分を限外濾過に供すること、
−約90:10から約50:50の範囲内のカゼインに対するホエータンパク質の割合および乾量基準で少なくとも20%の総タンパク質含有量を提供するように、限外濾過保持液およびカゼイン含有物質、および、所望により、他の原料から、ホエータンパク質製品を構成すること、
を含む方法。
【請求項7】
カゼイン含有物質が精密濾過保持液である請求項6に記載の方法。
【請求項8】
カゼイン含有物質が乳である請求項6に記載の方法。
【請求項9】
乳−ベース原材料が脱脂乳である請求項6−8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
限外濾過透過液がナノ濾過保持液およびナノ濾過透過液を提供するためにナノ濾過に供される請求項6−9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
ナノ濾過透過液が逆浸透保持液および逆浸透透過液を提供するために逆浸透に供される請求項10に記載の方法。
【請求項12】
透析濾過が精密濾過、限外濾過およびナノ濾過と共に使用される請求項6−11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
精密濾過保持液、限外濾過保持液およびナノ濾過透過液がホエータンパク質製品を構成するために使用される請求項12に記載の方法。
【請求項14】
精密濾過保持液、限外濾過保持液および逆浸透保持液がホエータンパク質製品を構成するために使用される請求項12に記載の方法。
【請求項15】
精密濾過に先立って、乳原材料が65℃から95℃の温度範囲で15秒間から10分間の熱処理に供される請求項6−14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
ホエータンパク質製品におけるグリコマクロペプチドの放出が抑えられる請求項6−15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
ホエータンパク質製品における好ましくない代謝物の産生が抑えられる請求項6−16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
ホエータンパク質製品の異味が減少され、除去され、または隠される請求項6−17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
食品、動物飼料、栄養製品、栄養補助食品、食品原料、健康食品および医薬品としての使用のための、請求項1−5のいずれかに記載の、または、請求項6−18のいずれかに記載の方法によって調製される、ホエータンパク質製品。
【請求項20】
食品、動物飼料、栄養製品、栄養補助食品、食品原料、健康食品および医薬品としての、請求項1−5のいずれかに記載の、または、請求項6−18のいずれかに記載の方法によって調製される、ホエータンパク質製品の使用。
【請求項21】
ホエータンパク質製品が機能性食品および/または栄養製品、または医薬品として使用される請求項20に記載の使用。
【請求項22】
ヨーグルト、発酵乳、ヴィーリ、発酵クリーム、サワークリーム、クワルク、バターミルク、ケフィア、小容量の乳飲料のような、酸乳製品および/または酸性生鮮製品の調製における、請求項1−5のいずれかに記載の、または、請求項6−18のいずれかに記載の方法によって調製される、ホエータンパク質製品の使用。

【図1】
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【公表番号】特表2013−509171(P2013−509171A)
【公表日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−535891(P2012−535891)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【国際出願番号】PCT/FI2010/050843
【国際公開番号】WO2011/051557
【国際公開日】平成23年5月5日(2011.5.5)
【出願人】(500185416)ヴァリオ・リミテッド (12)
【氏名又は名称原語表記】Valio Ltd.
【Fターム(参考)】