説明

ホスフィンオキシド触媒を用いた、水素キャリアとしてのシリル化誘導体からの水素の製造方法

本発明は、次の工程を有する水素の製造方法に関する:i)溶媒としての水中にある塩基の存在下で、1以上のSi−H基を有する化合物(C)を、請求項1に規定したリン系触媒に接触させて、水素及び副生成物(C1)を形成する工程;及びii)得られた水素を回収する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホスフィンオキシド(phosphine oxide)触媒を用いた実験的な水素の製造方法に関し、特に水素キャリアとしてのシリル化誘導体からの、ホスフィンオキシド触媒を用いた実験的な水素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
効率的、経済的、かつ安全に、水素を製造し、そして貯蔵する性能は、水素を経済的エネルギー源とするために克服すべき1つの課題である。燃料電池及び水素を燃料として用いる内燃機関の現在の商業化には、制限があることが知られている。
【0003】
水素貯蔵方法は、高圧及び低温を含む、多くのアプローチに及んでいるが、熱でHを可逆的に放出する化学物質が、一般的には注力されている。水素の貯蔵は、水素経済の発展における時事的な目標である。水素貯蔵への多くの研究が、持運び式の用途のために軽量で、圧縮された方法で、水素を貯蔵することに注力している。炭化水素は、自動車のガソリンタンクに広く使用時に貯蔵される。比較して、水素は、現在の技術では貯蔵又は輸送することが非常に困難である。水素ガスは、炭化水素に比べて、重量当りで高いエネルギー密度を有するが、体積当りで低いエネルギー密度を有する。それゆえ、これを貯蔵するために比較的大きなタンクを必要とする。ガス圧力を高めることは、体積当りのエネルギー密度を向上させ、容器のタンクを比較的小さくするであろうが、タンクは比較的軽量にならないであろう。また、比較的高い圧縮は、圧縮工程への比較的高いエネルギー損失を意味するであろう。
【0004】
他には、金属水素化物は、様々な度合いの効率を有するが、水素貯蔵媒体として用いることができる。いくつかは、周囲温度及び周囲圧力で容易に燃料となる液体であり、他は、ペレット化できる固体である。水素経済で用いることが提案されている水素化物としては、マグネシウム又は遷移金属の単純な水素化物、並びに、ナトリウム、リチウム又はカルシウム及びアルミニウム又はホウ素を典型的には含有する複合金属水素化物が挙げられる。これらの材料は、体積当りで良好なエネルギー密度を有するが、それらの重量当りでのエネルギー密度は、優れた炭化水素燃料よりは悪いことがある。さらに、含有している水素を放出するために、高い温度が必要な場合がある。固体水素化物貯蔵は、自動車での貯蔵に関して、競争の先頭にいる。水素化物タンクは同じエネルギーを有するガソリンタンクより、約三倍大きく、そして四倍重い。標準的な車に関して、それは、約0.17mの空間及び270kgに対して、0.057m及び70kgである。リチウムは、水素化物貯蔵容器の重量での主な構成成分であるが、現在90ドル/キロを越えるコストが掛かる。あらゆる水素化物が、自動車に積んだままで又はリサイクル工場で、リサイクルされ又は水素で再充填される必要があるであろう。金属酸化物燃料電池(すなわち、亜鉛−空気燃料電池、又はリチウム−空気燃料電池)は、金属水素化物貯蔵タンクを用いた水素燃料電池よりも、追加の重量に対して良好な使用を与える場合がある。水素化物は、湿潤した空気への曝露によって激しく燃焼して反応し、かつ皮膚又は目と接触する場合には人にとって強い毒性があるため、取扱いが困難である(例えば、ボラン、水素化リチウムアルミニウム)。このため、このような燃料は、提案され、かつ宇宙打ち上げ産業により精力的に研究されているが、実際の打ち上げ機で未だ用いられていない。数少ない水素化物が、低い反応性(高い安全性)及び高い水素貯蔵密度(10重量%超)を与える。最も進んだ候補物質は、水素化ホウ素ナトリウム、水素化リチウムアルミニウム及びアンモニアボランである。水素化ホウ素ナトリウム及びアンモニアボランは、水と混合した場合には、液体で貯蔵することができるが、望ましい水素密度を得るためは非常に高い濃度で貯蔵しなければならず、それゆえ燃料電池内に複雑な水リサイクルシステムを必要とする。液体としては、水素化ホウ素ナトリウムは、燃料電池内で直接的に反応できる利点を与え、これは、プラチナ触媒を必要とせず、比較的安価で、効率が高く、出力の高い燃料電池の製造を可能にする。水素化ホウ素ナトリウムをリサイクルすることは、エネルギー的に高価であり、リサイクル工場を必要とするであろう。水素化ホウ素ナトリウムをリサイクルするためのエネルギー効率が比較的高い手段は、未だ実験段階である。アンモニアボランをいずれかの手段でリサイクルすることは、未だ実験段階である。金属水素化物貯蔵のために製造される水素は、高い純度を有する必要がある。汚染物質は、初期の水素化物表面を変性し、そして吸収を阻害する。このことは、汚染物質を、水素流中に最大でも10ppmの酸素までに制限し、また非常に低いレベルの一酸化炭素、炭化水素及び水に制限する。水素化物の代替手段は、通常の炭化水素燃料を水素キャリアとして用いることである。そうして、小さな水素改質装置が、燃料電池による必要に応じて、水素を抽出するであろう。しかし、これらの改質装置は、必要分の変化に応じるのが遅く、そして車両のパワートレインに大きなコスト増を与える。直接メタノール燃料電池は、改質装置を必要としないが、通常の燃料電池と比較して、比較的低いエネルギー密度を与える。しかし、これは、エタノール及びメタノールが水素よりもずっと高いエネルギー密度を有するため相殺することができる。アルコール燃料は、再生可能なリソースである。固体酸化物燃料電池は、改質装置なしで、軽い炭化水素で、例えばプロパン及びメタンで運転することができ、又は一部のみを改質して比較的高級の炭化水素で運転できるが、これらの燃料電池は、高い温度及び遅い起動時間が、自動車用途で問題となる。カーボンナノチューブ、金属−有機構造体、ドープポリマー、ガラス微小球、ホスホニウムボラート、イミダゾリウムイオン液体、アミンボラン錯体を含む、他の水素キャリアの方策が調査されており、ほどほどの結果を与えている。他方で、有力な水素前駆体として、アンモニアが調査されている。ここで、アンモニア(NH)は、適切な触媒改質装置内でHを放出する。アンモニアは、穏やかな圧力と低温の制限の下で液体として、高い水素貯蔵密度を与える。これを、水と混合した場合には、室温及び室内圧力で液体として貯蔵することもできる。しかし、アンモニアは、標準温度及び標準圧力で毒ガスであり、かつ強烈な臭気を有する。
【0005】
特許文献1は、水酸化ナトリウム溶液及び化学量論的量未満の有機アミン、特にn−オクチルアミン及びn−プロピルアミンからなる触媒の存在下で、有機シランの加水分解から水素を製造する方法を開示している。しかし、用いられる有機シラン化合物のいくつかは、例えばシロキセンは、高価であり、かつ強い毒性がある。さらに、このような化合物は、環境に悪影響を与える副生成物の形成をもたらすことがあり、この副生成物のリサイクルは、完全には想定されておらず、また非常に困難でかつ高価であると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開WO2008/094840号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
様々な用途に関して、例えば持運び式の燃料電池及び固定式の燃料電池又は自動車用の排出制御システムに関して、これらのクリーンエネルギー源の効率、性能及びコスト性において、さらなる改良の必要性が存在している。効率、性能を高め、かつコスト性を高める改良の必要性が存在している。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここでは、塩基性水系溶媒中でリン(phosphorous)系触媒を用いることによって、水素を、大量に、高い収率で、短時間かつ非常に低コストで製造できることを発見した。より詳しくは、水素を、安価な市販製品から1つの工程で有利に製造することができる。さらにこの方法は、容易にスケールアップすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1つの態様において、本発明は、以下の工程を含む水素(H)の製造方法に向けられる:
i) 溶媒としての水中にある塩基の存在下で、1以上のSi−H基を有する化合物を、リン系触媒と接触させて、水素及び副生成物(C1)を生成する工程であって、上記リン系触媒が、以下から選択される工程:
−XP(=O)の式の化合物
(式中、
、X、Xは、それぞれ独立にC〜Cアルキル、C〜Cアルコキシ、NR、C〜C10アリール、アラルキル、5員〜7員のヘテロアリールから選択され、ここで上記アルキル基又はアリール基は、1〜3のRで置換されていてもよく;又は
及びXは、それらが結合している上記リン原子と共に、Rで置換されていてもよい3員〜10員のヘテロシクロアルキルを形成し、かつXは、上で定義したものと同じである;又は
は、−L−P(=O)Xで、ここでLは、C〜Cアルキレン若しくはC〜C10アリーレンであり、かつX、Xは、上で定義したものと同じである、
ここで、
及びRは、C〜Cアルキル、C〜C10アリールから選択され、又はそれらが結合している上記リン原子と共に、1〜3のRで置換されていてもよいヘテロシクリルを形成し;
、R及びRは、それぞれ独立にCl、Br、I、F、OH、C〜Cアルキル、C〜Cアルコキシ、NO、NH、CN、COOHから選択される)、及び
−1以上のR及びR(P=O)−基を有するポリマー担持触媒(Rは、上で定義したものと同じである);及び
ii)得られた水素を回収する工程。
【0010】
好ましくは、X、X、Xの1つは、NRである。
【0011】
好ましくは、R及び/又はRは、C〜Cアルキル又はヘテロシクロアルキルであり、より好ましくはC〜Cアルキルである。
【0012】
好ましくは、上記リン系触媒は、(O=P)(NRである。
【0013】
特に好ましい実施態様では、リン系触媒は、ヘキサメチルホスホルアミド(HMPA)である。
【0014】
1つの変形では、この触媒は、ポリマーに、例えばポリスチレンAM−NHとも言われる(アミノメチル)ポリスチレンに、グラフト化する。
【0015】
化合物(C)に対するリン系触媒のモル比は、好ましくは0.01〜0.5当量の範囲であり、最も好ましくは0.01〜0.1当量の範囲である。
【0016】
好ましくは、塩基は、無機塩基であり、特にアルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物、例えば水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムであり、水酸化ナトリウムが特に好ましい。
【0017】
好ましくは、その水酸化物水溶液は、水中で5〜40%(重量/重量)の範囲の濃度を有する。
【0018】
本発明の方法の工程a)における反応温度は、幅広い範囲で様々であり、特に0〜200℃の範囲をとることができる。より好ましくは、この温度は、15〜30℃の範囲であり、最も好ましくは約20℃である。
【0019】
好ましくは、化合物(C)は、少なくとも2つのSi−H基を有する。
【0020】
好ましくは、化合物(C)は、次の式(A)のモノマー単位を1つ以上有する:
【化1】

(式中、
Rは、結合、C〜Cアルキレン又は(C〜Cアルキレン)−Z−(C〜Cアルキレン)であり;
Zは、O、NR10、S(O)、CR10=CR10、C≡C、C〜C10アリーレン、5員〜10員のヘテロアリーレン、又はC〜Cのシクロアルキレンであり;
及びRは、それぞれ独立にH、ハロゲン、C〜C10アルキル、C〜C10シクロアルキル、C〜C12アリール、アラルキル、5員〜10員のヘテロアリール、OR、NR、又はSiRから選択され、ここで上記アリール基は、1〜3のR基で置換されていてもよく;
は、H、C〜Cアルキル、C〜C10アリール、又はアラルキルであり;
及びRは、それぞれ独立にH、C〜Cアルキル、C〜C10アリール、又はアラルキルから選択され;
、R及びRは、それぞれ独立にH、OR、C〜Cアルキル、C〜C10アリール、又はアラルキルから選択され;
は、ハロゲン、C〜C10アルキル、OR10、NO、NR1112、CN、C(=O)R10、C(=O)OR10、又はS(=O)CHから選択され、上記アルキル基は、1以上のハロゲンで置換されていてもよく;
10は、H又はC〜Cアルキルであり;
11及びR12は、それぞれ独立にH又はC〜C10アルキルから選択され;
m及びqは、0又は1であり;
yは、0、1又は2であり;かつ
n及びpは、繰返し単位の数をそれぞれ表す整数で、nは1以上、かつpは0又は1である)。
【0021】
好ましい実施態様では、pは0である。
【0022】
本発明の好ましい態様では、化合物(C)は、次の式(Ia)のモノマー単位を1つ以上有する:
【化2】

【0023】
好ましくは、式(Ia)のモノマー単位を有する化合物は、テトラシリルメタン((HSi)C)、フェニルシラン(PhSiH)、又はN,N−ジエチル−1,1−ジメチルシリルアミン((Et)N−SiH(CH)であり、テトラシリルメタン及びフェニルシランが特に好ましい。
【0024】
さらに好ましい実施態様では、pは1である。
【0025】
好ましくは、Rは、結合又はC〜Cアルキレンであり、特に−CH−CH−である。あるいは、RはZであり、ZはO又はNR10であり、特にNHである。
【0026】
好ましくは、上記モノマー単位は、次の式(Ib)を有する:
【化3】

【0027】
好ましくは、式(Ib)のモノマー単位を有する化合物(C)は、テトラメチルジシロキサン((CHHSi−O−SiH(CH)、1,1,3,3−テトラメチルジシラザン((CHHSi−NH−SiH(CH)、又は1,4−ジシラブタン(HSi(CHSiH)、又はテトラメチル−ジシラン((CHHSi−SiH(CH)であり、1,4−ジシラブタンが特に好ましい。
【0028】
フェニルシラン及びジシラブタンは、市販されており、取扱いが容易であり、空気及び水分に安定であるため有利であり、活性が喪失することなく長期間保存することができる。最終的に、テトラシリルメタン、フェニルシラン、及び1,4−ジシラブタンは、いずれも高い水素貯蔵密度を有する水素キャリアであることが明らかとなった。
【0029】
特定の実施態様では、本発明の方法は、得られる副生成物(C1)をリサイクルする工程c)をさらに含む。
【0030】
それゆえ、本発明の方法は、工程a)の後に、以下の2つの続く工程をさらに有する:
c)上記副生成物(C1)を、ハロゲン化アシルと接触させる工程;
d)得られた生成物を、金属水素化物と接触させて、それにより化合物(C)を再生する工程。
【0031】
ハロゲン化アシルは、特にCH(C=O)Clとなることができる。金属水素化物は、特に水素化アルミニウム、例えばLiAlHとなることができる。
【0032】
一例として、上記シリル化誘導体のリサイクルは、次の機構によって実行することができる:
【化4】

【0033】
より一般的には、本発明は、以下の工程を含む方法に関する:
i)化合物(C)から水素を製造する工程;及び
ii)工程i)で得られる副生成物(C1)をリサイクルする工程。
【0034】
本発明の方法により得られる水素は、貯蔵するためか、又はエネルギーを生むのに用いるために、回収される。
【0035】
他の1つの態様では、本発明は、上述したような、化合物(C)、リン系触媒、塩基及び溶媒としての水を含有する組成物に関する。
【0036】
特に好ましい組成物は、テトラシリルメタン、フェニルシラン又は1,4−ジシラブタンを、触媒量のリン触媒及び10%の水酸化カリウム溶液と共に含有する組成物である。
【0037】
さらなる態様として、本発明は、水素を製造するための本発明による組成物の使用に関する。
【0038】
特に、この組成物、又は触媒量のリン触媒及び10%の水酸化カリウム溶液の存在下の化合物(C)を、燃料、推進剤又はそれらの前駆体として用いることができる。一例としては、燃料電池の燃料として、エンジンにおけるNOx還元剤若しくは補助燃料として、又は他のあらゆる消費装置のために、それらを用いることができる。他の1つの例として、それらをバッテリーで用いることができる。
【0039】
さらなる態様では、本発明は、以下を具備する反応チャンバーを有する、上述の方法によって水素を製造するための装置である:
i.溶媒としての水に化合物(C)と塩基を含有する反応混合物の入口;
ii.水素出口;
iii.副生成物コレクター;及び
iv.上述のポリマー担持触媒でコーティングされている、上記混合物と接触させることを意図した表面。
【0040】
好ましくは、本発明の装置は、溶媒としての水中で化合物(C)を塩基と混合するための混合チャンバーであって、上記の反応チャンバーに接続されている混合チャンバーをさらに具備する。
【0041】
好ましくは、本発明の装置は、上記反応チャンバーに接続されている、副生成物収集チャンバーをさらに具備する。
【0042】
好ましくは、本発明の装置は、以下を具備する第二のチャンバーをさらに具備する:
v.外周部;
vi.上記チャンバーを、次の2つの異なる区画に仕切る内壁:
1.上記反応チャンバーに導入する上記反応混合物を収容する、第一の区画;及び
2.上記反応チャンバーから収集された上記副生成物(C1)を収容する、第二の区画;
3.上記第一の区画及び上記第二の区画は、上記反応チャンバーにそれぞれ接続されている;及び
vii.各区画のそれぞれの容積を変えるための、上記外周部に対して内壁を移動させるための手段。
【0043】
本明細書に含まれる以下の用語及び表現は、以下のように定義される。
【0044】
本明細書で用いられる場合、用語「約」とは、特定の値の±10%の範囲の値をいう。
【0045】
本明細書で用いられる場合、用語「アルキル」とは、1〜10の炭素原子を有する直鎖アルキル基又は分岐鎖アルキル基を指し、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソアミル、ネオペンチル、1−エチルプロピル、3−メチルペンチル、2,2−ジメチルブチル、2,3−ジメチルブチル、ヘキシル、オキチルである。
【0046】
本明細書で用いられる場合、用語「アルコキシ」とは、アルキル−O−の基を指し、このアルキル基は上で定義したものである。アルコキシ基の例としては、特にメトキシ又はエトキシが挙げられる。
【0047】
本明細書で用いられる場合、用語「シクロアルキル」とは、飽和している又は部分的に飽和している、3〜10の炭素原子を有する単環式又は二環式のアルキル環系をいう。好ましいシクロアルキル基としては、5員又は6員の環状の炭素原子を含むシクロアルキル基が挙げられる。シクロアルキル基の例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、ピネニル及びアダマンタニルのような基が挙げられる。
【0048】
本明細書で用いられる場合、用語「アリール」とは、置換されている又は置換されていない、6〜12の環の炭素原子を有する単環式又は二環式の炭化水素芳香環系をいう。好ましいアリール基としては、置換されていない又は置換されているフェニル基及びナフチル基が挙げられる。例えば、芳香環がシクロアルキル環に縮合している環状系を含む縮合環系は、「アリール」の定義内に含まれる。そのような縮合環系の例としては、例えばインダン、インデン及びテトラヒドロナフタレンが挙げられる。
【0049】
本明細書で用いられる場合、用語「アリルアルキル」又は「アラルキル」とは、アリール基で置換されているアルキル基をいう。ここで、アルキル基及びアリール基は、上で定義したものである。アリルアルキル基の例としては、限定されないが、ベンジル、ブロモベンジル、フェネチル、ベンズヒドリル、ジフェニルメチル、トリフェニルメチル、ジフェニルエチル及びナフチルメチルが挙げられる。
【0050】
本明細書で用いられる場合、用語「ヘテロサイクル」、「ヘテロサイクリック」又は「ヘテロシクリル」とは、環の一部に少なくとも1つのヘテロ原子、例えばO、N又はSを含む、置換されている又は置換されていない炭素環式基をいう。窒素及び硫黄のヘテロ原子を、随意に酸化してもよく、窒素を非芳香環内で随意に置換してもよい。ヘテロサイクルは、ヘテロアリール基及びヘテロシクロアルキル基を含むことが意図されている。
【0051】
本明細書で用いられる場合、用語「ヘテロシクロアルキル」とは、1以上の環の炭素原子が、少なくとも1つのヘテロ原子、例えば−O−、−N−又は−S−で置き換わっているシクロアルキル基をいう。ヘテロシクロアルキル基の例としては、ピロリジニル、ピロリニル、イミダゾリジニル、イミダゾリニル、ピラゾリジニル、ピラゾリニル、ピラザリニル、ピペリジル、ピペラジニル、モルホリニル、チオモルホリニル、テトラヒドロフラニル、ジチオリル、オキサチオリル、ジオキサゾリル、オキサチアゾリル、ピラニル、オキサジニル、オキサチアジニル、及びオキサジアジニリル(oxadiazinyl)が挙げられる。
【0052】
本明細書で用いられる場合、用語「ヘテロアリール」とは、1以上の環の炭素原子が少なくとも1つのヘテロ原子、例えば−O−、−N−又は−S−で置き換わっている、5〜10の環状の炭素原子を有する芳香環をいう。ヘテロアリール基の例としては、ピロリル、フラニル、チエニル、ピラゾリル、イミダゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、イソキサゾリル、オキサゾリル、オキサチオリル、オキサジアゾリル、チアゾリル、オキサチアゾリル、フラザニル、テトラゾリル、ピリジル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、トリアジニル、インドリル、イソインドリル、インダゾリル、ベンゾフラニル、イソベンゾフラニル、プリニル、キナゾリニル、キノリル、イソキノリル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾチオフェニル、チアナフテニル、ベンゾキサゾリル、ベンジソキサゾリル、シンノリニル、フタラジニル、ナフチリジニル、及びキノキサリニルが挙げられる。例えば、芳香環がヘテロシクロアルキル環に縮合している環状系を含む縮合環系は、「ヘテロアリール」の定義内に含まれる。そのような縮合環系の例としては、例えば、フタルアミド、フタリックアンヒドリド、インドリン、イソインドリン、テトラヒドロイソキノリン、クロマン、イソクロマン、クロメン及びイソクロメンが挙げられる。
【0053】
本明細書で用いられる場合、「必要性に基づいて」とは、反応条件を制御して水素の量を調節する性能をいう。
【実施例】
【0054】
全ての溶媒を、公知の手順に従って精製し、かつフッ化物塩源、フェニルシラン、又は1,4−ジシラブタン等の試薬は、市販のものを用いた。
【0055】
フェニルシラン又は1,4−ジシラブタンを、Sigma−Aldrich company及びABCR companyから購入した。テトラシリルメタンを、文献の手順に従って調製した。
【0056】
例1:触媒量のヘキサメチルホスホルアミド(HMPA)の存在下でのフェニルシランIaを用いての水素の製造
【化5】

【0057】
二口丸底フラスコに、28mg(1.6×10−4モル)のHMPA(5mol%)及び359mg(400μL)のフェニルシランIa(3.3×10−3モル)を、空気中において20℃で入れた。ここで、二口丸底フラスコは、硫酸銅溶液で充填されている分液漏斗に接続している目盛り管からなる等圧装置に接続している。続いて、179μLのKOH(水中に7.5%、9.9×10−3モル)を、ゆっくりと導入した。すぐに発熱反応が起こり、それと共に10秒未満で260mL(98%の収率)の合計体積に相当する水素ガスが発生した。シロキサン誘導体副生成物IIaを、定量的収率で白い固体として得た。
【0058】
例2:フェニルシランIaを用いての様々な実験条件下での水素の一般的製造(例1の実験条件に従う)
【化6】

【0059】
二口丸底フラスコに、1.6×10−4モルの触媒(5mol%)及び359mg(400μL)のフェニルシランIa(3.3×10−3モル)を、空気中において20℃で入れた。ここで、二口丸底フラスコは、硫酸銅溶液で充填されている分液漏斗に接続している目盛り管からなる等圧装置に接続している。続いて、179μLのKOH(水中に7.5%、9.9×10−3モル)を、ゆっくりと導入した。すぐに発熱反応が起こり、それと共に水素ガスが発生した。
【0060】
【表1】

【0061】
例3:触媒量のHMPAの存在下での1,4−ジシラブタンIbを用いる水素の製造
【化7】

【0062】
二口丸底フラスコに、28mg(1.6×10−4モル)のHMPA(5mol%)及び297mg(435μL)の1,4−ジシラブタンIb(3.3×10−3モル)、空気中において20℃で入れた。ここで、二口丸底フラスコは、硫酸銅溶液で充填されている分液漏斗に接続している目盛り管からなる等圧装置に接続している。続いて、358μLのKOH(水中に7.5%、1.98×10−2モル)を、ゆっくりと導入した。すぐに発熱反応が起こり、それと共に10秒未満で520mL(98%の収率)の合計体積に相当する水素ガスが発生した。シロキサン誘導体副生成物IIbを、定量的収率で白い固体として得た。
【0063】
例4:HMPA触媒グラフト化ポリスチレンの合成
ポリマーベンジルアミン触媒(ポリスチレンAM−NH、Ref 81553−10G、Aldrich)250mg(0.4〜1.2×10−3モル)及び新たなCDCl(5ml)を、乾燥したバイアル瓶に添加した。この混合物を、室温でゆっくりと攪拌し、そしてKCO(310mg)、DMAP(15mg)、EtN(0.6ml)を添加した。最後に、テトラメチルジアミドリン酸クロリド(tetramethylphosphorodiamidic chloride)(1.85mmol、316mg、10〜11当量)を、上記混合物に添加した。この反応混合物を、5日間攪拌した。このポリマー樹脂を、最終的に濾過し、CHClで5回洗浄し、減圧下で乾燥させ、そして茶色の固体として室温で貯蔵した。
【0064】
例5:触媒量のHMPA触媒グラフト化ポリスチレンの存在下でのフェニルシランIaを用いての水素の製造
【化8】

【0065】
二口丸底フラスコに、ポリマー系HMPA触媒(5mol%)及び359mg(400μL)のフェニルシランIa(3.3×10−3モル)を、空気中において20℃で入れた。ここで、二口丸底フラスコは、硫酸銅溶液で充填されている分液漏斗に接続している目盛り管からなる等圧装置に接続している。続いて、179μLのKOH(水中に7.5%、9.9×10−3モル)を、ゆっくりと導入した。すぐに発熱反応が起こり、それと共に10秒未満で260mL(98%の収率)の合計体積に相当する水素ガスが発生した。シロキサン誘導体副生成物IIaを、定量的収率で白い固体として得た。
【0066】
例6:触媒量のリサイクルしたHMPA触媒グラフト化ポリスチレンの存在下でのフェニルシランIaを用いての水素の製造
【化9】

【0067】
例4で用いた触媒を、濾過し、アセトンで洗浄し、そして再使用前に乾燥させた。二口丸底フラスコに、ポリマー系HMPA触媒(5mol%)及び359mg(400μL)のフェニルシランIa(3.3×10−3モル)を、空気中において20℃で入れた。ここで、二口丸底フラスコは、硫酸銅溶液で充填されている分液漏斗に接続している目盛り管からなる等圧装置に接続している。続いて、179μLのKOH(水中に7.5%、9.9×10−3モル)を、ゆっくりと導入した。すぐに発熱反応が起こり、それと共に10秒未満で260mL(98%の収率)の合計体積に相当する水素ガスが発生した。シロキサン誘導体副生成物IIaを、定量的収率で白い固体として得た。
【0068】
例7:触媒量のHMPAの存在下でのテトラシリルメタンを用いての水素の製造
HMPAの存在下でのテトラシリルメタンからの水素の製造に、例1の条件を適用した。
【化10】

【0069】
10秒で98%の収率で水素を回収した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、水素の製造方法:
i) 溶媒としての水中にある塩基の存在下で、1以上のSi−H基を有する化合物(C)を、リン系触媒と接触させて、水素及び副生成物(C1)を生成する工程であって、前記リン系触媒が、下記から選択される工程:
−XP(=O)の式の化合物
(式中、
、X、Xは、それぞれ独立に、C〜Cアルキル、C〜Cアルコキシ、NR、C〜C10アリール、アラルキル、5員〜7員のヘテロアリールから、選択され、ここで前記アルキル基又は前記アリール基は、1〜3のRで置換されていてもよく;又は
及びXは、それらが結合している前記リン原子と共に、Rで随意に置換されている3員〜10員のヘテロシクロアルキルを形成し、かつXは、前記定義と同じであり;又は
は、−L−P(=O)Xで、ここでLは、C〜Cアルキレン若しくはC〜C10アリーレンであり、かつX、Xは、上で定義したものと同じであり、
ここで、
及びRは、それぞれ独立に、C〜Cアルキル、C〜C10アリールから選択され、又はそれらが結合している前記リン原子と共に、1〜3のRで置換されてもよいヘテロシクリルを形成し;
、R及びRは、それぞれ独立に、Cl、Br、I、F、OH、C〜Cアルキル、C〜Cアルコキシ、NO、NH、CN、COOHから選択される)、
及び
−1以上のR(P=O)−基を有するポリマー担持触媒
(式中、R及びRは、前記定義と同じである);及び
ii)得られた前記水素を回収する工程。
【請求項2】
、X、Xの1つが、NRである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
及び/又はRが、C〜Cアルキルである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記リン系触媒が、ヘキサメチルホスホルアミド(HMPA)である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記触媒を担持するポリマーが、(アミノメチル)ポリスチレンである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記化合物(C)に対する前記リン系触媒のモル比は、0.01〜0.1当量の範囲である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記化合物(C)は、次の式(A)のモノマー単位を1つ以上有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法:
【化1】

(式中、
Rは、結合、C〜Cアルキレン、又は(C〜Cアルキレン)−Z−(C〜Cアルキレン)であり;
Zは、O、NR10、S(O)、CR10=CR10、C≡C、C〜C10アリーレン、5員〜10員のヘテロアリーレン、又はC〜Cのシクロアルキレンであり;
及びRは、それぞれ独立にH、ハロゲン、C〜C10アルキル、C〜C10シクロアルキル、C〜C12アリール、アラルキル、5員〜10員のヘテロアリール、OR、NR、又はSiRから選択され、ここでこのアリール基は、1〜3のR基で置換されていてもよく;
は、H、C〜Cアルキル、C〜C10アリール、アラルキルであり;
及びRは、それぞれ独立にH、C〜Cアルキル、C〜C10アリール、アラルキルから選択され;
、R及びRは、それぞれ独立にH、OR、C〜Cアルキル、C〜C10アリール、アラルキルから選択され;
は、ハロゲン、C〜C10アルキル、OR10、NO、NR1112、CN、C(=O)R10、C(=O)OR10、S(=O)CHから選択され、このアルキル基は、1以上のハロゲンで置換されていてもよく;
10は、H又はC〜Cアルキルであり;
11及びR12は、それぞれ独立にH又はC〜C10アルキルから選択され;
m及びqは、0又は1であり;
yは、0、1又は2であり;かつ
n及びpは、繰返し単位の数をそれぞれ表す整数で、nは1以上、かつpは0又は1である)。
【請求項8】
pは0である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記モノマー単位は、次の式(Ib)を有する、請求項7又は8に記載の方法:
【化2】

【請求項10】
式(Ib)のモノマー単位を有する前記化合物(C)は、PhSiHである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
式(Ib)のモノマー単位を有する前記化合物(C)は、C(SiHである、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
pは1である、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
前記モノマー単位は、次の式(Ic)を有する、請求項7又は12に記載の方法:
【化3】

(式中、Rは、C〜Cアルキレンである)。
【請求項14】
式(Ic)のモノマー単位を有する前記化合物(C)は、HSi(CHSiHである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記塩基は、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、又はベンジルアミンである、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
以下の続くリサイクル工程をさらに有する、請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法:
a)前記副生成物(C1)を、ハロゲン化アシルと接触させる工程;
b)得られた生成物を、金属水素化物と接触させて、それにより化合物(C)を再生する工程。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか一項に規定した、化合物(C)、リン系触媒、塩基及び溶媒としての水を含有する、組成物。
【請求項18】
水素を製造するための請求項17に記載の組成物の使用。
【請求項19】
以下を具備する反応チャンバーを有する、請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法によって水素を製造するための装置:
i.溶媒としての水に化合物(C)と塩基を含有する反応混合物の入口;
ii.水素出口;
iii.副生成物コレクター;及び
iv.請求項1に記載のポリマー担持触媒でコーティングされている、前記混合物と接触させることを意図した表面。
【請求項20】
前記化合物(C)を溶媒としての水中で前記塩基と混合するための混合チャンバーであって、前記反応チャンバーに接続されている混合チャンバーをさらに具備する、請求項19に記載の装置。
【請求項21】
前記反応チャンバーに接続されている副生成物収集チャンバーをさらに具備する、請求項19又は20に記載の装置。
【請求項22】
以下を具備する第二のチャンバーをさらに有する、請求項19に記載の装置:
v.外周部;
vi.前記チャンバーを、次の2つの異なる区画に仕切る内壁:
1.前記反応チャンバーに導入する前記反応混合物を収容する、第一の区画;及び
2.前記反応チャンバーから収集される前記副生成物(C1)を収容する、第二の区画;
3.前記第一の区画及び前記第二の区画は、前記反応チャンバーにそれぞれ接続されている;及び
vii.各区画のそれぞれの容積を変えるための、前記外周部に対して前記内壁を移動させるための手段。

【公表番号】特表2013−519615(P2013−519615A)
【公表日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−552428(P2012−552428)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【国際出願番号】PCT/EP2011/052192
【国際公開番号】WO2011/098614
【国際公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【出願人】(513024926)ユニベルシテ デ―マルセイユ (1)
【出願人】(501089863)サントル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシェサイアンティフィク(セエヌエールエス) (173)
【Fターム(参考)】