説明

ホスホネートシランの製造方法

本発明の対象は、一般式(II)R1n(X)3-n−Si−R3−PO(OR4)(OR5)(II)のホスホネート−シランを、一般式(III)R1n(X)3-n−Si−R3−Hal(III)のハロゲン含有シランと、一般式(IV)P(OR4)(OR5)(OR6)(IV)のホスフィットとを反応させることに製造するにあたり、上記式中、R1は、1〜20個の炭素原子を有するハロゲン置換又は非置換の炭化水素基又は水素であり、Xは、加水分解可能な基又はOHであり、R3は、1〜10個の炭素原子を有するハロゲン置換又は非置換のアルキレン基であり、R4、R5及びR6は、それぞれ1〜20個の炭素原子を有するハロゲン置換又は非置換の炭化水素基であり、Halは、ハロゲン原子であり、かつnは、0、1、2又は3の値である方法において、この反応の間にこの反応混合物の一部を連続的に又は繰り返して取出し、既に形成された生成物をこれから遊離させ、そしてこれをこの反応混合物の残部に返送する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホスホネート基を有するオルガノケイ素化合物の製造方法に関する。
【0002】
ホスホネートは、アルブゾフ−ミカエリス(Arbuzov-Michaelis)反応により製造することができる(Ber. Dtsch. Chem. Ges. 1898, 31, 1048-1055;Pure Appl. Chem. 1964, 9, 307-335))。この場合、ハロゲンアルカン又はハロゲンアルキル基を有する化合物と、トリアルキルホスフィットとを反応させる。この製造は、回分法において、これらの反応物を高温で混合し、次いでこの反応混合物を蒸留することにより実施する。その際、一般式(I)
1n(R2’O)3-n−Si−R3’−PO(OR4’)(OR5’) (I)
[式中、R1’は、ハロゲン置換又は非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基又はアリール基であり、R2’は、1〜6個の炭素原子を有するアルキル基又は合計2〜10個の炭素原子を有するω−オキサアルキル−アルキル基であり、R3’は、1〜10個の炭素原子を有する置換又は非置換の分枝鎖状又は非分枝鎖状のアルキル基であり、R4’及びR5’は、置換又は非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基又はアリール基であり、uは0、1、2又は3である]の上述のホスホネート−シランが挙げられるホスホネート基を有するオルガノケイ素化合物が製造可能である(US 2768193; J. Polym. Sci. Part A:Polym. Chem. 2003, 41, 48-59)。この化合物の製造のためには、一般的に温度が>170℃であることが必須である。しかしながら、上述の化合物は耐熱性がわずかであり(J. Chem. Soc. 1962, 592-600)、かつT≧200℃の温度で発熱して分解するので、達成可能な収率は制限される。更に、これから、相当な災害可能性がもたらされる。特に、式Iで示され、その式中、R3がメチレン単位である化合物については、反応温度T>100℃での製造は安全技術的検討(100K規則(100K−Regel))から極めて懸念される。これらの化合物の製造を懸念されない反応温度T≦100℃で行うと、不経済的な空時収率が得られる。
【0003】
公知の方法の欠点は、低い反応温度では空時収率が小さいこと、並びに、高い反応温度ではこの生成物の分解により収率が制限されること、及びこの生成物の発熱分解反応に起因する災害可能性である。
【0004】
本発明の課題は、低い反応温度でかつ副生物の形成を最小限にしつつホスホネート−シランを製造する経済的な方法を提供することである。
【0005】
本発明の対象は、一般式(II)
1n(X)3-n−Si−R3−PO(OR4)(OR5) (II)
のホスホネート−シランを、
一般式(III)
1n(X)3-n−Si−R3−Hal (III)
のハロゲン含有シランと、
一般式(IV)
P(OR4)(OR5)(OR6) (IV)
のホスフィットとを反応させることにより製造するにあたり、
上記式中、
1は、1〜20個の炭素原子を有するハロゲン置換又は非置換の炭化水素基又は水素であり、
Xは、加水分解可能な基又はOHであり、
3は、1〜10個の炭素原子を有するハロゲン置換又は非置換のアルキレン基であり、
4、R5及びR6は、それぞれ1〜20個の炭素原子を有するハロゲン置換又は非置換の炭化水素基であり、
Halは、ハロゲン原子であり、かつ
nは、0、1、2又は3の値である方法において、
この反応の間にこの反応混合物の一部を連続的に又は繰り返して取出し、既に形成された生成物をこれから遊離させ、そしてこれをこの反応混合物の残部に返送する方法である。
【0006】
本発明の利点は、公知の方法とは異なり、低い反応温度で空時収率が大きいこと、並び副生物の形成が最小であることである。従って、この生成物の更なる精製は、必要でない場合が多い。更に、本方法は、低い工程温度により安全技術的に問題を生じない。
【0007】
1は、好ましくは、それぞれ1〜10個の炭素原子を有するハロゲン置換又は非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基又はアリール基であり、特に好ましくは1〜3個の炭素原子を有するアルキル基であり、殊に好ましくはメチル、エチルである。
【0008】
3は、好ましくは1〜6個の炭素原子、特に好ましくは1〜3個の炭素原子を有する置換又は非置換の分枝鎖状又は非分枝鎖状のアルキル基であり、特に好ましくはメチレン、エチレン、n−プロピレンである。
【0009】
4、R5及びR6は、それぞれ好ましくは、1〜16個の炭素原子を有するハロゲン置換又は非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基又はアリール基であり、特に好ましくは1〜6個の炭素原子を有するアルキル基であり、殊に好ましくはメチル、エチル、フェニルである。
【0010】
1〜R6についてのハロゲン置換基は、好ましくはフッ素又は塩素である。
【0011】
Xは、好ましくは1〜3個の炭素原子を有するアルコキシ基又はハロゲン、例えばフッ素、塩素、臭素である。
【0012】
Halは、好ましくは臭素、塩素である。
【0013】
この生成物の取出しは、反応混合物の量を反応容器から、好ましくは繰り返して取り出すこと、特に好ましくは連続的に取り出すことにより実施する。この場合、好ましくは、1時間当たり5〜50%の反応混合物を取出す。次いで生成物及び出発物中の反応混合物の分離は、好ましくは蒸留により、特に好ましくは反応混合物を薄層蒸発器上に施与することにより実施する。この生成物は高沸点留分中に溜める一方で、この蒸留物はこの反応容器内に返送する。このことは、好ましくは連続的に行う。この反応の際に生ずる揮発性副生物R6−Halは、好ましくはこの反応混合物から、特に減圧下で蒸留により除去する。好ましくは、この方法全体を連続的に行う。
【0014】
この方法は、非プロトン性溶剤の存在下又は不存在下で実施してよい。非プロトン性溶剤を使用する場合には、10013mbarで120℃までの沸点もしくは沸騰範囲を有する溶剤又は溶剤混合物が有利である。かかる溶剤の例は、エーテル、例えばジオキサン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル;塩素化炭化水素、例えばジクロロメタン、トリクロロメタン、テトラクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエチレン;炭化水素、例えばペンタン、n−ヘキサン、ヘキサン異性体混合物、ヘプタン、オクタン、ベンジン、石油エーテル、ベンゼン、トルエン、キシレン;ケトン、例えばアセトン、メチルエチルケトン、ジイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK);エステル、例えばエチルアセテート、ブチルアセテート、プロピルプロピオネート、エチルブチレート、エチルイソブチレート、二硫化炭素及びニトロベンゼン、又はこれらの溶剤の混合物である。
【0015】
溶剤という表示は、全ての反応成分がこれに溶解していなければならないことを意味するものではない。この反応は、1種又は複数種の反応相手の懸濁液又はエマルジョン中で実施してもよい。この反応は、混和性ギャップを有する溶剤混合物中で実施してもよく、その際、それぞれの混合相中にはそれぞれ少なくとも1種以上の反応相手が溶解している。
【0016】
この方法は、好ましくは20〜300℃、特に50〜200℃の温度で実施する。この方法は、好ましくは空気及び湿分を除去しつつ実施する。
【0017】
上記の式で記載された全ての記号はそれぞれ互いに無関係な意味を有する。全ての式においてケイ素原子は4価である。
【0018】
実施例1:ジエチルホスホネートメチル−ジメトキシメチルシランの製造
2Lの3口フラスコ中において、618.7g(4.0mol)のクロロメチルジメトキシメチルシランと、664.6g(4.0mol)のトリエチルホスフィットとの混合物を、350mbarの圧力で2時間にわたって100℃で撹拌し、そして生じた塩化エチルを冷却トラップ内に溜める。次いで、上昇管を用いて、この反応混合物を約450mL/hの一定容量で薄層蒸発器(p=20mbar、T=100℃)上に施与する。このジエチルホスホネートメチル−ジメトキシメチルシランを高沸点留分中に溜める一方で、この蒸留物をポンプによりこの反応容器内に返送する。この反応混合物の容量は、出発混合物の添加により一定に維持する。このジエチルホスホネートメチル−ジメトキシメチルシランの収率は、180mL/hである。この生成物は、95%の純度(GCによる)で得られる。この出発物は主不純物を形成し、副生物は微量で見られるにすぎない。
【0019】
実施例2:ジエチルホスホネートメチル−メトキシジメチルシランの製造
2Lの3口フラスコ中において、554.6g(4.0mol)のクロロメチルメトキシジメチルシランと、664.6g(4.0mol)のトリエチルホスフィットとの混合物を、350mbarの圧力で4時間にわたって100℃で撹拌し、そして生じた塩化エチルを冷却トラップ内に溜める。次いで、上昇管を用いて、この反応混合物を約400mL/hの一定容量で薄層蒸発器(p=20mbar、T=100℃)上に施与する。このジエチルホスホネートメチル−メトキシジメチルシランを高沸点留分中に溜める一方で、この蒸留物をポンプによりこの反応容器内に返送する。この反応混合物の容量は、出発混合物の添加により一定に維持する。このジエチルホスホネートメチル−メトキシジメチルシランの収率は、125mL/hである。この生成物は、96%の純度(GCによる)で得られる。この出発物は主不純物を形成し、副生物は微量で見られるにすぎない。
【0020】
実施例3:ジエチルホスホネートメチル−トリメトキシシランの製造
2Lの3口フラスコ中において、682.7g(4.0mol)のクロロメチルトリメトキシシランと、664.6g(4.0mol)のトリエチルホスフィットとの混合物を、300mbarの圧力で4時間にわたって100℃で撹拌し、そして生じた塩化エチルを冷却トラップ内に溜める。次いで、上昇管を用いて、この反応混合物を約450mL/hの一定容量で薄層蒸発器(p=5mbar、T=100℃)上に施与する。このジエチルホスホネートメチル−トリメトキシシランを高沸点留分中に溜める一方で、この蒸留物をポンプによりこの反応容器内に返送する。この反応混合物の容量は、出発混合物の添加により一定に維持する。このジエチルホスホネートメチル−トリメトキシシランの収率は、100mL/hである。この生成物は、96%の純度(GCによる)で得られる。この出発物は主不純物を形成し、副生物は微量で見られるにすぎない。
【0021】
実施例4:ジエチルホスホネートプロピル−トリメトキシシランの製造
2Lの3口フラスコ内において、1600g(8.0mol)のクロロプロピルトリメトキシシランと60gのトリエチルホスフィット(0.4mol)との混合物を還流のために加熱する。次いで、更なるトリエチルホスフィットの添加により、この反応混合物の温度を180℃に調節する。この混合物を、この温度で6時間にわたって撹拌する。次いで、上昇管を用いて、この反応混合物を約250mL/hの一定容量で薄層蒸発器(p=5mbar、T=180℃)上に施与する。このジエチルホスホネートプロピルトリメトキシシランを高沸点留分中に溜める一方で、この蒸留物をポンプによりこの反応容器内に返送する。この反応混合物の容量は、出発混合物の添加により一定に維持する。このジエチルホスホネートプロピルトリメトキシシランの収率は、60mL/hである。この生成物は、90%の純度(GCによる)で得られる。更なる薄層蒸発器により、この生成物は97%の純度(GCによる)で得られる。この出発物は主不純物を形成し、副生物は微量で見られるにすぎない。
【0022】
本発明によらない比較例:ジエチルホスホネートメチルトリメトキシシランの製造
500mLの3口フラスコ内において、102.4g(0.6mol)のクロロメチルトリメトキシシランと、99.7g(0.6mol)のトリエチルホスフィットの混合物を100℃で50時間にわたって加熱する。次いで、真空下(0.1mbar)で100℃で全ての揮発性構成成分を蒸留する。132.1gのジエチルホスホネートメチル−トリメトキシシランが、94%の純度で得られる(GCによる、0.46mol、収率、理論値の76%)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(II)
1n(X)3-n−Si−R3−PO(OR4)(OR5) (II)
のホスホネート−シランを、
一般式(III)
1n(X)3-n−Si−R3−Hal (III)
のハロゲン含有シランと、
一般式(IV)
P(OR4)(OR5)(OR6) (IV)
のホスフィットとを反応させることにより製造するにあたり、
上記式中、
1は、1〜20個の炭素原子を有するハロゲン置換又は非置換の炭化水素基又は水素であり、
Xは、加水分解可能な基又はOHであり、
3は、1〜10個の炭素原子を有するハロゲン置換又は非置換のアルキレン基であり、
4、R5及びR6は、それぞれ1〜20個の炭素原子を有するハロゲン置換又は非置換の炭化水素基であり、
Halは、ハロゲン原子であり、かつ
nは、0、1、2又は3の値である方法において、
この反応の間にこの反応混合物の一部を連続的に又は繰り返して取出し、既に形成された生成物をこれから遊離させ、そしてこれをこの反応混合物の残部に返送する方法。
【請求項2】
式中、R1が1〜3個の炭化水素を有するアルキル基又は水素である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
式中、R3がメチレン、エチレン、n−プロピレンから選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
式中、R4、R5及びR6が、それぞれ1〜6個の炭素原子を有するアルキル基又はフェニルである、請求項1から3までの何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
式中、Xが1〜3個の炭素原子を有するアルコキシ基、フッ素、塩素又は臭素である、請求項1から4までの何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
反応混合物を連続的に取出す、請求項1から5までの何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
方法全体を連続的に行う、請求項1から6までの何れか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2008−508197(P2008−508197A)
【公表日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−522935(P2007−522935)
【出願日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【国際出願番号】PCT/EP2005/006816
【国際公開番号】WO2006/012952
【国際公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【出願人】(390008969)ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト (417)
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】