説明

ボロンドープp型シリコン中の鉄濃度測定方法およびボロンドープp型シリコンウェーハの製造方法

【課題】ボロンドープp型シリコン中の鉄濃度を、高い信頼性をもって測定するための手段を提供すること。
【解決手段】鉄濃度既知のボロンドープp型シリコンにおいてFe−Bペアの乖離中と結合中のフォトルミネッセンス強度の差分ΔPLを求めること、求められたΔPLと既知の鉄濃度とに基づき、(ΔPL)2と鉄濃度との相関関係を示す一次関数を求めること、測定対象であるボロンドープp型シリコンにおいてFe−Bペア乖離中と結合中のフォトルミネッセンス強度の差分ΔPLを求め、上記求められた一次関数により鉄濃度を算出すること、を含む、ボロンドープp型シリコン中の鉄濃度測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボロンドープp型シリコン中の鉄濃度測定方法に関するものであり、詳しくは、フォトルミネッセンスを利用してボロンドープp型シリコン中の鉄濃度を測定する方法に関するものである。
更に本発明は、鉄による汚染が低減されたボロンドープp型シリコンウェーハの製造方法にも関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコンウェーハの重金属汚染は、製品のデバイス特性に悪影響を及ぼす。特に、ウェーハ内のFeは、その汚染量は微量であっても再結合中心として働き、デバイスにおいてpn接合の逆方向のリーク量の増加の原因やメモリー素子のリフレッシュ不良等の原因となる。そこで工程管理のためにウェーハ内のFe汚染を正確に把握することが求められている。
【0003】
Feは、ボロンドープp型シリコン中では、ボロンと静電力によって結合しFe−Bペアを形成する。ボロンドープp型シリコンのFe濃度の定量方法としては、このFe−Bペアの乖離前後の少数キャリア拡散長の測定値の変化を利用する表面光電圧法(Surface Photo-Voltage;SPV法)が広く用いられている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
しかし、SPV法ではキャリア注入量が低水準であるため、多数キャリアを多く含む低抵抗シリコンについては鉄濃度を測定することが困難である。また、SPV法において鉄濃度算出のために通常使用される関係式:
【数1】

[NFe:Fe濃度、LBF:Fe−Bペア乖離前の少数キャリア拡散長、LAF:Fe−Bペア乖離後の少数キャリア拡散長]
の換算係数(1.1×1016)は、5〜15Ωcm程度の抵抗率のウェーハにおける測定値に基づき算出されている。そのため、上記範囲外の抵抗率を有するウェーハについて上記関係式を用いると、抵抗率に依存した誤差が生じる懸念がある。
【0005】
これに対し非特許文献1には、ライフタイムを用いた測定法によれば、SPV法よりも高感度かつ迅速に鉄濃度を評価することができると記載されている。しかし、ライフタイム測定は測定精度が十分ではなく、信頼性の高い定量結果を得ることは困難である。また、高抵抗領域ではSPV法と同様に抵抗率依存性が発生する。更に、SPV法、ライフタイム測定とも、注入されたキャリアがウェーハ内で拡散して広がった後の様子を捉えて測定を行うという測定原理上、分解能が低いという課題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−64054号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】D. H. Macdonald, L. J. Geerligs, and A. Azzizi. J. Appl. Phys. 95-3, 1021 (2004).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明の目的は、ボロンドープp型シリコン中の鉄濃度を、高い信頼性をもって測定するための手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
半導体ウェーハに、そのバンドギャップよりエネルギーの大きな励起光を照射し電子正孔対を発生させると、この電子正孔対が再結合する際に発光する。この現象はフォトルミネッセンスと呼ばれるが、特開平8−139146号公報には、フォトルミネッセンスのバンド端発光の発光強度を検出し、この発光強度からライフタイムを相対的に評価することが提案されている。
本願発明者らは、上記フォトルミネッセンスにおいてウェーハに注入されるキャリア量が通常19乗/cm3台であり、SPV法において注入されるキャリア量(11〜12乗/cm3台)やライフタイム測定において注入されるキャリア量(〜16乗/cm3台)よりもはるかに多く、低抵抗シリコンに存在している多数キャリアの濃度に比べて桁違いに大きいことに着目した。即ち、フォトルミネッセンスを利用してボロンドープp型シリコン中の鉄濃度を測定することができれば、低抵抗シリコンに含まれる多数キャリアの測定に対する影響を、実質的に無視することができる。
そこで本願発明者らは、フォトルミネッセンスを利用してボロンドープp型シリコン中の鉄濃度を定量的に分析するための手段を見出すために更に検討を重ねた。その結果、Fe−Bペア乖離中と結合中ではフォトルミネッセンス強度に違いがあり、その差分ΔPLの二乗(ΔPL)2とボロンドープp型シリコン中の鉄濃度との間に線形の関係が存在するため、その線形関係を利用することによりボロンドープp型シリコン中の鉄濃度を測定可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
なお、フォトルミネッセンスによる金属不純物分析方法については、特許第3440421号、特開2005−61922号公報、特開2003−45928号公報に提案されているが、特許第3440421号に記載の方法は画像による解析を必須とする方法であるため、定量的評価を行う方法としては不適である。特開2005−61922号公報に記載の方法は、極低温下での測定およびスペクトル解析を行う必要があるため、操作が著しく煩雑である。また、特開2003−45928号公報に記載の方法は、シリコン中に含まれる各種金属不純物を検出するものであるため、Fe濃度を選択的に測定することができない。このように、従来提案されていたフォトルミネッセンスによる金属不純物分析方法は、いずれも本発明とは異なる技術思想の下でなされたものであり、本発明に対する示唆ないし教示を与えるものではない。
【0010】
即ち、上記目的は、下記手段により達成された。
[1]ボロンドープp型シリコン中の鉄濃度測定方法であって、
鉄濃度既知のボロンドープp型シリコンにおいてFe−Bペアの乖離中と結合中のフォトルミネッセンス強度の差分ΔPLを求めること、
求められたΔPLと既知の鉄濃度とに基づき、求められたΔPLと既知の鉄濃度とに基づき、(ΔPL)2と鉄濃度との相関関係を示す一次関数を求めること、
測定対象であるボロンドープp型シリコンにおいてFe−Bペア乖離中と結合中のフォトルミネッセンス強度の差分ΔPLを求め、上記求められた一次関数により鉄濃度を算出すること、
を含む、前記方法。
[2]前記フォトルミネッセンスはバンド端発光である、[1]に記載の方法。
[3]光照射によりFe−Bペアを乖離する、[1]または[2]に記載の方法。
[4]複数のボロンドープp型シリコンウェーハからなるシリコンウェーハのロットを準備する工程と、
前記ロットから少なくとも1つのシリコンウェーハを抽出する工程と、
前記抽出されたシリコンウェーハ中の鉄濃度を測定する工程と、
前記測定により鉄濃度が閾値以下と判定されたシリコンウェーハと同一ロット内の他のシリコンウェーハを製品ウェーハとして出荷することを含む、ボロンドープp型シリコンウェーハの製造方法であって、
前記抽出されたシリコンウェーハの鉄濃度測定を、[1]〜[3]のいずれかに記載の方法によって行うことを特徴とする、前記方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、測定対象シリコンの抵抗率によらず鉄濃度を測定することができる。また、室温フォトルミネッセンスによる測定が可能であるため、操作が簡便である。更に、励起光としてレーザー光を使用することができるため、分解能を高くすることができ、高精度なMap測定も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】強励起顕微フォトルミネッセンス法に基づく測定装置の概略図である。
【図2】実施例におけるSPV法により求めた各ウェーハの鉄濃度と、Fe−Bペア乖離処理前後のPL強度の差分の二乗(ΔPL)2との相関関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、ボロンドープp型シリコン中の鉄濃度測定方法に関する。本発明の測定方法は、以下の工程を含むものである。
(1)鉄濃度既知のボロンドープp型シリコンにおいてFe−Bペア乖離中と結合中のフォトルミネッセンス強度(以下、「PL強度」ともいう)の差分ΔPLを求めること;
(2)求められたΔPLと既知の鉄濃度とに基づき、求められたΔPLと既知の鉄濃度とに基づき、(ΔPL)2と鉄濃度との相関関係を示す一次関数を求めること、
(3)測定対象であるボロンドープp型シリコンにおいてFe−Bペア乖離中と結合中のフォトルミネッセンス強度の差分ΔPLを求め、上記求められた一次関数により鉄濃度を算出すること。
以下、本発明について更に詳細に説明する。
【0014】
ボロンドープp型シリコン中のFeは、前述のようにボロン(B)と結合してペア(Fe−Bペア)を形成しており、強い光を照射することや200℃程度の熱処理により、格子間Feと格子位置のBに乖離する。前述のSPV法は、このFe−Bペアの乖離現象を利用し、ボロンドープp型シリコンを対象とし、Fe−B乖離前後の少数キャリアの拡散長の測定値からFe濃度を算出するものである。
ここで本願発明者らは、Fe−Bペア乖離中のフォトルミネッセンス強度が、結合中のフォトルミネッセンス強度より低くなることに着目した。このようにFe−Bペア乖離中と結合中でフォトルミネッセンス強度に違いが生じる理由は、Fe−Bペア乖離操作後であってFe−Bペアがリペアリングを起こす迄の間、ボロンドープp型シリコンにはFe−Bペアは存在せず(または無視可能な程の量しか存在せず)、実質的にFeは格子間Feの状態で存在しているとみなすことができることにある。この状態のフォトルミネッセンス強度が、Fe−Bペアが結合している状態でのフォトルミネッセンス強度より大きくなるということは、高注入条件下では、Fe−Bペアの方が、格子間Feの状態よりも、電気伝導に与える影響が小さいことを示しており、他のライフタイム測定においてもFe−Bペア状態のライフタイムよりも格子間Feの方が長くなることが既に知られている(例えば、Andrzej, Buczkowski, A., 'Comparative Analysis of Photoconductance Decay and Surface Photovoltage Techniques: Theoretical Perspective and ExperimentalEvidence' RECOMBINATION LIFETIME MEASUREMENTS IN SILICON(Dinexh C. Gupta, Fred R. Bacher, およびWilliam M, Hughes編集)参照)。そして本願発明者らの検討の結果、Fe−Bペア乖離中と結合中のフォトルミネッセンス強度の差分ΔPLの二乗(ΔPL)2とボロンドープp型シリコン中の鉄濃度との間に線形の関係が存在することが、初めて見出されたものである。
【0015】
次に、本発明の測定方法の各工程について順次説明する。
【0016】
工程(1)
工程(1)は、鉄濃度既知のボロンドープp型シリコンにおいてFe−Bペア乖離中と結合中のフォトルミネッセンス強度の差分ΔPLを求める工程である。本工程は、引き続き行われる工程(2)において、(ΔPL)2と鉄濃度との相関関係を示す一次関数を求めるためのデータを収集するために行われる。鉄濃度既知のボロンドープp型シリコンは、取り扱いの容易性の点から、デバイス向け製品の形状であるウェーハ状のものが好ましい。また、測定側の表面に研削などの機械的なダメージを含まない、研磨上がり、または酸もしくはアルカリによるエッチング面が好ましい。その厚みは、100μm〜3mm程度が好適である。また、ボロンドープ量、鉄濃度とも、特に限定されるものではない。
【0017】
上記ボロンドープp型シリコンの鉄濃度を求める方法としては、前述のSPV法の他、DLTS法(Deep-level Transient Spectroscopy)、化学分析等のシリコンウェーハ中の鉄濃度分析に通常使用される各種分析方法を用いることができる。化学分析による方法としては、例えば、シリコンウェーハからチップを切り出し、またはウェーハを丸ごと酸性溶液で溶解してその溶液中の不純物濃度を測定する方法などを挙げることができる。上記分析方法は、いずれも当分野において公知である。なお、前述のようにSPV法では抵抗率依存性が見られるため、低抵抗(例えば抵抗率1Ωcm以下)シリコンを用いる場合には、抵抗率依存性のないDLTS法または化学分析によって、上記ボロンドープp型シリコンの鉄濃度を測定することが好ましい。
【0018】
Fe−Bペアの乖離処理は、高強度の白色光等の高エネルギーの光を照射する方法、200℃以上の熱処理を行った後急冷する方法、等により行うことができる。より詳しくは、分析対象のシリコン表面にシリコンの禁制帯エネルギー1.1eV以上のエネルギーを有する単色光を断続的に照射するか、または分析対象のシリコンを200℃以上に5〜15分間程度保持した後、0.1〜3.0℃/℃程度の降温速度で急冷することにより行うことができる。
【0019】
Fe−Bペアの乖離処理後、Fe−Bペアがリペアリング(再結合)するまでに要する時間は、シリコン中のボロン濃度依存性があるため、ボロン濃度に依存するFe−Bペアリング速度を考慮して格子間Feがボロンとリペアリングする前に、PL強度を測定することにより、Fe−Bペア乖離中のPL強度を求めることができる。例えば、"Formation rates of iron-acceptor pairs in crystalline silicon", JAP 98, 083509 (2005)より、ボロン濃度が1E15atoms/cm3程度のp型シリコンは、室温にて、Fe−Bペアの乖離処理から1%リペアリングするまでに要する時間は、2分程度である。この場合、乖離処理から2分以内にPL強度測定を行うことより、Fe濃度を実汚染量の1%以下と見なし得る状態で、すなわち実質的に汚染がないと見なし得る状態のPL強度を求めることができる。このようにボロン濃度から、乖離処理後、Fe−Bペアがリペアリングせずに乖離状態にある時間を予測することができる。一方、Fe−Bペア結合中のPL強度は、上記乖離処理前、または乖離処理後に十分な時間が時間が経過しFe−Bペアがリペアリングした後に、PL強度を測定することにより求めることができる。
【0020】
本発明におけるPL強度の測定は、フォトルミネッセンス法によるものであればよく特に限定されるものではない。操作の簡便性の観点からは、温度制御が不要な室温フォトルミネッセンス法(室温PL法)により行うことが好ましい。室温PL法では、試料シリコン表面から入射させた、試料シリコンのバンドギャップよりエネルギーの大きな励起光により表面近傍で発生させた電子正孔対(すなわちキャリア)が、ウェーハ内部に拡散しながら発光して消滅していく。この発光は、バンド端発光と呼ばれ、室温(例えば20〜30℃)での波長が約1.15μmの発光強度を示す。通常、フォトルミネッセンス法では、励起光として可視光が使用されるため、PL強度としては、波長950nm以上の光強度を測定すれば励起光から分離することができるため高感度な測定が可能となる。この点からは、PL強度としてバンド端発光強度を測定することが好ましい。
【0021】
本発明において、室温PL法によるPL強度の測定に使用可能な装置の一例としては、強励起顕微フォトルミネッセンス法に基づいた測定方法を挙げることができる。強励起顕微フォトルミネッセンス法とは、可視光レーザーによりシリコン中のキャリアを励起させ、さらに励起されたキャリアが直接、バンドギャップ間で再結合する際に発生する発光(バンド端発光)強度を検出するものである。図1は、強励起顕微フォトルミネッセンス法に基づく測定装置の概略図であり、同図において、10は測定出装置、12,14はレーザー光源、16,17はハーフミラー、18は出力計、20は表面散乱光用検出器、22はオートフォーカス用検出器、24は可動ミラー、26は白色光源、28はCCDカメラ、30は顕微鏡対物レンズ、32は長波パスフィルター、34はフォトルミネッセンス光用検出器、Wは測定対象試料である。
【0022】
以上の工程により求められたFe−Bペア乖離中のPL強度(以下、PLseparationともいう)とFe−Bペア結合中のPL強度(以下、PLbindingともいう)の差分ΔPLは、(PLseparation−PLbinding)として求めても(PLbinding−PLseparation)、後工程ではその二乗値を使用するため測定結果に影響を及ぼすものではない。
【0023】
工程(2)
本工程は、工程(1)で得られたΔPLと測定したシリコンの鉄濃度から、(ΔPL)2と鉄濃度との相関関係を示す一次関数を求める工程である。例えば、上記一次関数として、下記式(1):
鉄濃度=(ΔPL)2×A …(1)
を用いる場合には、換算係数Aを求めればよいため、上記工程(1)は、少なくとも1つの試料に対して行えばよい。または、鉄濃度の異なる2つ以上の試料を用いて工程(1)を複数回繰り返し、得られた換算係数Aの平均値を工程(3)で用いることも可能である。
一方、上記一次関数として、下記式(2):
鉄濃度=(ΔPL)2×A+B …(2)
を用いる場合には、換算係数Aと切片Bを求めるために、鉄濃度が異なる2つ以上の試料を用いて工程(1)を繰り返す。得られた値をグラフにプロットしたうえで、最小二乗法等によりフィッティングを行うことによって上記式(2)のA、Bを求めることができる。鉄濃度が異なる3〜4つ程度の試料を用いて上記式(2)のA、Bを求めることが、測定精度を高めるうえで好ましい。また、一次関数としては、式(1)、式(2)のいずれを用いてもよいが。測定精度の点からは、式(2)を用いることが好ましい。
【0024】
工程(3)
工程(3)では、測定対象試料であるシリコンについて、Fe−Bペア乖離中と結合中のPL強度測定を行い、その差分ΔPLを求める。上記乖離処理およびPL強度測定については、工程(1)について前述した通りである。そして、こうして求められた差分ΔPLの二乗(ΔPL)2と工程(2)で求めた一次関数を用いて鉄濃度を算出することができる。
【0025】
工程(3)における測定対象試料であるシリコンは、通常、デバイス向け製品の形状であるシリコンウェーハである。このようなシリコンウェーハは、測定側の表面に研削などの機械的なダメージを含まない、研磨上がり、または酸もしくはアルカリによるエッチング面となっている。その厚みは、100μm〜3mm程度が好適である。また、ボロンドープ量は、特に限定されるものではない。即ち、本発明によれば測定試料の抵抗率によらず鉄濃度を高精度に測定することができる。
【0026】
更に本発明は、複数のボロンドープp型シリコンウェーハからなるシリコンウェーハのロットを準備する工程と、前記ロットから少なくとも1つのシリコンウェーハを抽出する工程と、前記抽出されたシリコンウェーハ中の鉄濃度を測定する工程と、前記測定により鉄濃度が閾値以下と判定されたシリコンウェーハと同一ロット内の他のシリコンウェーハを製品ウェーハとして出荷することを含む、ボロンドープp型シリコンウェーハの製造方法に関する。本発明の製造方法では、前記抽出されたシリコンウェーハの鉄濃度測定を、本発明の測定方法によって行う。
【0027】
前述のように、本発明の測定方法によれば、シリコン中の鉄濃度を、その抵抗率によらず高精度に測定することができる。よって、かかる測定方法により、鉄濃度が閾値以下と判定されたシリコンウェーハ、即ち鉄汚染量が少ない良品と判定されたシリコンウェーハと同一ロット内のシリコンウェーハを製品ウェーハとして出荷することにより、高品質な製品ウェーハを高い信頼性をもって提供することができる。なお、良品と判定する基準(閾値)は、ウェーハの用途等に応じてウェーハに求められる物性を考慮して設定することができる。また1ロットに含まれるウェーハ数および抽出するウェーハ数は適宜設定すればよい。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例に基づき更に説明する。但し、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0029】
[例1]
(1)SPV法による鉄濃度測定
鉄汚染量の異なる4種類のボロンドープp型、直径200mm、厚み725μmの半導体デバイス作製用の単結晶シリコンウェーハ(ボロンドープ量:1.3E15atoms/cm3、抵抗率10Ωcm)を用意した。
少数キャリア拡散長測定装置として、表面光電圧(SPV)測定装置(SDI社製FAaST330−SPV)を用いて、SEMI準拠のスタンダードモードで実各シリコンウェーハ中の鉄濃度を測定した。測定前に、5質量%のHF溶液にシリコンウェーハを5分間浸漬し自然酸化膜を除去し、その後10分間の超純水リンスを行い、乾燥後、クリーンルーム内雰囲気に1週間放置し、測定の前処理とした。
【0030】
(2)Fe−Bペア乖離処理、乖離処理前後のPL強度(PLseparation、PLbinding)測定
上記(1)において鉄濃度を測定した各シリコンウェーハに対して、乖離したFe−Bペアを戻すため、80℃2時間の熱処理を行い、100%Fe−Bペアの状態とし、ウェーハの温度を下げるため、30分ほど室温下で放置した。
次に、上記ウェーハについて、図1に示す装置として、Nanometrics社PL測定装置SiPHERを用い、測定レーザーとして波長532nmの光源を利用し、1mmの分解能によるバンド端フォトルミネッセンス発光強度Map測定を行い、乖離前のバンド端発光強度を求めた。この測定値は、Fe−Bペア結合中のPL強度(PLbinding)である。
その後、上記(1)のSPV装置に組み込まれている光照射機構をFe−Bペア乖離装置として利用し、各ウェーハに対して高強度の高エネルギー光(白色光等)を照射してFe−Bペアの乖離処理を行った。乖離処理後、上記と同様の装置および測定条件でフォトルミネッセンス発光強度Map測定を行い、バンド端発光強度を求めた。上記時間内であれば、Fe−Bペアのリペアリングは生じないため、得られた結果はFe−Bペア乖離中のPL強度(PLseparation)と見なすことができる。
【0031】
(3)ΔPLと鉄濃度との相関の確認
上記(1)においてSPV法により求めた各ウェーハの鉄濃度と、上記(2)において求めた乖離処理前後のPL強度(バンド端発光強度)の差分ΔPL(PLbinding−PLseparation)の二乗(ΔPL)2を、表1に示し、表1の測定結果をグラフ化したものを図2に示す。最小二乗法によるフィッティングにより相関係数を求めたところ、下記式(a):
鉄濃度=(ΔPL)2×(8E−12)+2.0636 …(a)
が得られた。その相関係数がR2=0.9989であったことから、鉄濃度と(ΔPL)2との間にきわめて良好な相関関係が成立することが確認された。したがって、例えばあるシリコンウェーハのロットから抽出した評価用シリコンウェーハに対して、上記(2)の操作を行いΔPLを求めれば、上記式(a)から鉄濃度を算出することができる。なお、上記式(a)は、他のロットにも適用でき、各ロット毎に一次関数を求める必要はない。そして算出された鉄濃度が製品ウェーハに求められる閾値以下の値であれば、抽出した評価用シリコンウェーハを同一ロット内のウェーハを製品として出荷し、閾値を超える値であれば不良品として排除することにより、鉄汚染の少ない高品質なシリコンウェーハを安定的に供給することが可能となる。また、上記式(a)は抵抗率に依存する要素を含まないため、測定対象のシリコンウェーハの抵抗率によらず、高い信頼性を持ってシリコンウェーハ中の鉄濃度を測定することができる。
【0032】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の測定方法は、シリコンウェーハの品質管理のために有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボロンドープp型シリコン中の鉄濃度測定方法であって、
鉄濃度既知のボロンドープp型シリコンにおいてFe−Bペアの乖離中と結合中のフォトルミネッセンス強度の差分ΔPLを求めること、
求められたΔPLと既知の鉄濃度とに基づき、(ΔPL)2と鉄濃度との相関関係を示す一次関数を求めること、
測定対象であるボロンドープp型シリコンにおいてFe−Bペア乖離中と結合中のフォトルミネッセンス強度の差分ΔPLを求め、上記求められた一次関数により鉄濃度を算出すること、
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記フォトルミネッセンスはバンド端発光である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
光照射によりFe−Bペアを乖離する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
複数のボロンドープp型シリコンウェーハからなるシリコンウェーハのロットを準備する工程と、
前記ロットから少なくとも1つのシリコンウェーハを抽出する工程と、
前記抽出されたシリコンウェーハ中の鉄濃度を測定する工程と、
前記測定により鉄濃度が閾値以下と判定されたシリコンウェーハと同一ロット内の他のシリコンウェーハを製品ウェーハとして出荷することを含む、ボロンドープp型シリコンウェーハの製造方法であって、
前記抽出されたシリコンウェーハの鉄濃度測定を、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法によって行うことを特徴とする、前記方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−233761(P2011−233761A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−103742(P2010−103742)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】