説明

ボーカルカット回路

【課題】回路規模が小さいボーカルカット回路を提供する。
【解決手段】入力端子21及び22に、それぞれLチャネル信号及びRチャネル信号が入力される。入力端子21に入力されたLチャネル信号はそのまま加算器24に入力され、入力端子22に入力されたRチャネル信号はオールパスフィルタ23を通過した後、加算器24に入力される。オールパスフィルタ23は、Rチャネル信号の全周波数範囲の信号を通過させ、その位相のみを変化させる。これによって、Lチャネル信号とRチャネル信号に含まれるボーカル成分の位相がずらされるので、加算器24の加算出力のボーカル成分が減衰される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボーカル成分を含むステレオ音楽ソースから前記ボーカル成分を削除した信号を出力するボーカルカット回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ミニコンポ等のオーディオシステムにおいて、CD(コンパクトディスク)から再生されるステレオ音楽ソースには、ステレオ成分(伴奏部分)と、ボーカル成分(人の音声部分)とが含まれている。ステレオ成分については、Lチャネル信号とRチャネル信号の間で位相がずらされることにより、ステレオ感や音の広がり感が得られる。また、ボーカル成分については、Lチャネル信号とRチャネル信号の間で、位相がほぼ同じで、ほぼ同一の信号となっており、スピーカー間の中央位置から音声が聞こえるように感じられる。近年、ステレオ音楽ソースからボーカル成分をカットする機能を持ったオーディオシステムが開発されている。このようなオーディオシステムは、カラオケ等の歌唱に利用することができる。
【0003】
ステレオ音楽ソースからボーカル成分をカットするためには、図6に示すように、Lチャネル信号とRチャネル信号のボーカル成分がほぼ同一の信号であることから、Lチャネル信号とRチャネル信号との差をとれば、ボーカル成分を削除することができる。
【0004】
しかしながら、図7に示すように、Lチャネル信号とRチャネル信号のステレオ成分の位相のずれは、約100KHz以下の低周波数帯域(以下、低域という)では、約0°であり、中高周波数帯域(以下、中高域という)以上の周波数帯域で、位相のずれが生じるようになっている。尚、中高域は約100KHzから約1KHzであり、この帯域が音声帯域である。また、20KHz〜20KHzは人間が音声を聞き取れる可聴帯域とされている。
【0005】
このため、単純にLチャネル信号とRチャネル信号との差をとると、低域の信号成分、例えば、伴奏のドラム音なども同時に削除されてしまうという不都合が生じる。
【0006】
そこで、ローパスフィルタ(低域通過フィルタ)を用いて、低域の信号成分を残すようにしたボーカルカット回路が知られている。図8は、そのようなボーカルカット回路の構成を示す図である。入力端子51及び52から入力されたLチャネル信号及びRチャネル信号は、加算器53で加算されることによって(L+R)信号となり、その後ローパスフィルタ54を通過することによって、低域の信号成分のみが抽出されて、(L’+R’)信号となる。この(L’+R’)信号は減算器の(+)入力端子に入力される。また、入力端子51及び52から入力されたLチャネル信号及びRチャネル信号は、それぞれ減算器55の(+)入力端子及び(−)入力端子に入力される。
【0007】
これによって、減算器55からは(L−R+L’+R’)信号が出力される。尚、この減算器出力のうち(L−R)信号成分は、全域の同位相成分がカットされた信号成分である。したがって、(L−R+L’+R’)信号は、中高域の同位相成分が減衰された信号となり、ボーカル成分がカットされると共に、低域の信号成分を残すことができる。
【0008】
尚、この種のボーカルカット回路は、特許文献1に記載されている。
【特許文献1】特開平7−236197号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記のボーカルカット回路では、加算器53、ローパスフィルタ54及び減算器55という3個のアンプを必要とする。このため、回路規模が大きくなるという問題がある。また、ローパスフィルタ54を用いているので、低域の音も減衰されるという問題もある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明は、ボーカル成分を含むステレオ音楽ソースから前記ボーカル成分を削除した信号を出力するボーカルカット回路であって、前記ステレオ音楽ソースのRチャネル信号の全周波数範囲の信号を通過させ、その位相のみを変化させるオールパスフィルタと、前記オールパスフィルタを通過した前記Rチャネル信号と前記ステレオ音楽ソースのLチャネル信号とを加算する加算回路と、を備え、前記加算回路から前記ボーカル成分を削除した信号を出力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のボーカルカット回路は、オールパスフィルタと加算回路という、アンプ2個だけで形成できるので、回路規模を小さくすることができると共に、低域の音も減衰されないという効果を奏する。また、本発明のボーカルカット回路を2つ設けることで、ステレオ出力に対応した構成も簡単に実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。まず、図1を参照して本発明のボーカルカット回路を備えたオーディオシステムの構成について説明する。CD1から再生されたステレオ音楽ソースは、Lチャネル信号とRチャネル信号の2つに分かれてボーカルカット回路2に入力される。Lチャネル信号とRチャネル信号は、それぞれステレオ成分とボーカル成分を含み、ステレオ信号成分については、中高域以上の帯域でLチャネル信号とRチャネル信号の間で位相がずらされている。ボーカル成分については、Lチャネル信号とRチャネル信号の間で、位相がほぼ同じで、ほぼ同一の信号となっている。ボーカルカット回路2によってボーカル成分がカットされた音声信号は、電子ボリューム3によってボリューム調整が行われ、更に、パワーアンプ4によって増幅された後、スピーカー5に入力される。
【0013】
次に、図2を参照してボーカルカット回路2の構成について説明する。ボーカルカット回路2の構成には、図2(A)と図2(B)の2つの構成があるが、これらの構成からは同じ効果が得られる。まず、図2(A)の構成について説明する。すなわち、入力端子21及び22に、それぞれLチャネル信号及びRチャネル信号が入力される。入力端子21に入力されたLチャネル信号はそのまま加算器24に入力され、入力端子22に入力されたRチャネル信号はオールパスフィルタ23を通過した後、加算器24に入力される。オールパスフィルタ23は、Rチャネル信号の全周波数範囲の信号を通過させ、その位相のみを変化させる。これによって、Lチャネル信号とRチャネル信号に含まれるボーカル成分の位相がずらされるので、加算器24の加算出力のボーカル成分が減衰されることになる。
【0014】
オールパスフィルタ23は、図3に示すように、Rチャネル信号の位相をボーカル成分の周波数帯域、すなわち、約100KHz〜約1KHzの音声帯域において変化させることが好ましい。また、位相の変化量は、約90°であることが好ましい。これにより、ボーカル成分のみを減衰させ、ステレオ成分の減衰が抑えられる。また、約100KHz以下の低域においては信号の位相変化がないため、低域の音も減衰されることはない。
【0015】
また、上記のボーカルカット回路2では、オールパスフィルタ23はRチャネル信号側に設けられているが、図2(B)に示すように、オールパスフィルタ23はLチャネル信号側に設けても同じ効果を得ることができる。
【0016】
次に、図4を参照してボーカルカット回路2の具体的な回路構成について説明する。図4は、ボーカルカット回路2において、オールパスフィルタ23と、加算器24の回路構成を示したものである。オールパスフィルタ23は、第1のオペアンプ23aと、抵抗R1,R2,R3,R4、コンデンサC1を有しており、抵抗R1,R2,R3,R4の抵抗値が全て等しいものとする。(R1=R2=R3=R4)また、オールパスフィルタ23を通過するRチャネル信号の位相はコンデンサC1の値と抵抗R4の値で決定される。加算器24は、第2のオペアンプ24a、抵抗R5,R6,R7,R8で形成することができる。そして、加算器24からボーカル成分が減衰された出力信号が得られる。
【0017】
図5は、このボーカルカット回路2において、出力信号の周波数依存性を示す図であり、約100KHz〜約1KHzの音声帯域では出力信号のゲインは大幅に減衰しており、一方、100KHz前後の低域では出力信号のゲインは減衰されていない。ただし、入力信号(Rチャネル信号及びLチャネル信号)のレベルを0dBとし、オールパスフィルタ23によって、1KHzにおいて90°の位相変化を発生させているものとする。
【0018】
上記のボーカルカット回路2によれば、オールパスフィルタ23と加算器24という、アンプ2個だけで形成できるので、回路規模を小さくすることができると共に、低域の音も減衰されないという効果を奏する。また、ボーカルカット回路2を2つ設けることで、ステレオ出力に対応した構成も簡単に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態によるボーカルカット回路を用いたオーディオシステムの構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態によるボーカルカット回路の構成を示す図である。
【図3】オールパスフィルタの位相特性を示す図である。
【図4】本発明の実施形態によるボーカルカット回路の具体的な回路構成を示す図である。
【図5】オールパスフィルタのゲインの周波数特性を示す図である。
【図6】Lチャネル信号とRチャネル信号のボーカル成分の波形図である。
【図7】Lチャネル信号とRチャネル信号のステレオ成分の位相を示す図である。
【図8】従来例のボーカルカット回路の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0020】
1 CD 2 ボーカルカット回路 3 電子ボリューム
4 パワーアンプ 5 スピーカー
21,22 入力端子 23 オールパスフィルタ 24 加算器
23a 第1のオペアンプ 24a 第2のオペアンプ
51,52 入力端子 53 加算器 54 ローパスフィルタ
55 減算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボーカル成分を含むステレオ音楽ソースから前記ボーカル成分を削除した信号を出力するボーカルカット回路であって、
前記ステレオ音楽ソースのRチャネル信号の全周波数範囲の信号を通過させ、その位相のみを変化させるオールパスフィルタと、
前記オールパスフィルタを通過した前記Rチャネル信号と前記ステレオ音楽ソースのLチャネル信号とを加算する加算回路と、を備え、前記加算回路から前記ボーカル成分を削除した信号を出力することを特徴とするボーカルカット回路。
【請求項2】
前記オールパスフィルタは、前記Rチャネル信号の位相をボーカル成分の周波数帯域において変化させることを特徴とする請求項1に記載のボーカルカット回路。
【請求項3】
ボーカル成分を含むステレオ音楽ソースから前記ボーカル成分を削除した信号を出力するボーカルカット回路であって、
前記ステレオ音楽ソースのLチャネル信号の全周波数範囲の信号を通過させ、その位相のみを変化させるオールパスフィルタと、
前記オールパスフィルタを通過した前記Lチャネル信号と前記ステレオ音楽ソースのRチャネル信号とを加算する加算回路と、を備え、前記加算回路から前記ボーカル成分を削除した信号を出力することを特徴とするボーカルカット回路。
【請求項4】
前記オールパスフィルタは、前記Lチャネル信号の位相をボーカル成分の周波数帯域において変化させることを特徴とする請求項3に記載のボーカルカット回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−177559(P2009−177559A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−14532(P2008−14532)
【出願日】平成20年1月25日(2008.1.25)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【出願人】(506227884)三洋半導体株式会社 (1,155)
【Fターム(参考)】