ボールジョイント
【課題】ボールスタッドの接続部が他部材と接触することを回避することによるボールスタッドの強度の低下を抑制したボールジョイントを提供する。
【解決手段】ボールジョイントであるインナーボールジョイント10は、略有底円筒形状に形成された収容部12bを有するハウジング12と、収容部12bに収容される頭部11b及び頭部11bから延設される軸部11aを有するボールスタッド11とを備えている。そして、インナーボールジョイント10は、収容部12bに対して頭部11bが揺動することに伴い、ボールスタッド11がハウジング12に対して揺動可能となっている。ここで、頭部11bと収容部12bとには、ボールスタッド11のハウジング12に対する揺動範囲を規制する係合部である凹部11cと突起部12dとがそれぞれ設けられている。
【解決手段】ボールジョイントであるインナーボールジョイント10は、略有底円筒形状に形成された収容部12bを有するハウジング12と、収容部12bに収容される頭部11b及び頭部11bから延設される軸部11aを有するボールスタッド11とを備えている。そして、インナーボールジョイント10は、収容部12bに対して頭部11bが揺動することに伴い、ボールスタッド11がハウジング12に対して揺動可能となっている。ここで、頭部11bと収容部12bとには、ボールスタッド11のハウジング12に対する揺動範囲を規制する係合部である凹部11cと突起部12dとがそれぞれ設けられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハウジングに対して揺動可能なボールスタッドを備えたボールジョイントに関する。
【背景技術】
【0002】
上記ボールジョイントとしては、ボールスタッドの頭部を収容するハウジングの収容部に樹脂シートを介在させて、頭部と樹脂シートとを摺動させることにより、ハウジングに対して、ボールスタッドが揺動可能としたものが知られている。そして、ボールスタッドがハウジングに対して揺動可能な範囲を拡大する目的として、ボールスタッドの軸部と頭部との接続部が、他の軸部の部位よりも縮径した形状となっている。この形状により、接続部は、ボールスタッドの強度の中において最弱部分となるため、接続部の強度は、ボールスタッドが使用可能な強度といえる。
【0003】
ところで、ハウジングに対してボールスタッドが揺動する際に、ボールスタッドが予め設定された揺動可能な範囲以上に揺動しようとすると、ハウジングの収容部とボールスタッドの接続部とが互いに接触してしまう。その結果、接続部が傷付いてしまい、接続部の強度が低下、即ち、ボールスタッドの使用可能な強度の低下を生じてしまう場合がある。
【0004】
そこで、従来から上記接続部の強度の低下を抑制する構造が提案されている。例えば、特許文献1では、ハウジングの収容部に環状弾性体を取り付けることにより、ボールスタッドの軸部、特に接続部とハウジングの収容部とを直接接触することを回避した構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平5−83439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1においては、ボールスタッドの接続部とハウジングの収容部との直接接触は回避されたが、接続部と環状弾性体とが接触するため、接続部が他部材との接触に起因して傷付く問題は未だ解消されていない。
【0007】
そこで、本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ボールスタッドの接続部が他部材と接触することを回避することによるボールスタッドの強度の低下を抑制したボールジョイントを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、略有底円筒形状に形成された収容部を有するハウジングと、前記収容部に収容される頭部及び前記頭部から延設される軸部を有するボールスタッドとを備え、前記収容部に対して前記頭部が揺動することに伴い、前記ボールスタッドが前記ハウジングに対して揺動可能となるボールジョイントにおいて、前記頭部と前記収容部とには、前記ボールスタッドの前記ハウジングに対する揺動範囲を規制する係合部がそれぞれ設けられることを要旨とする。
【0009】
この発明によれば、頭部と収容部との係合部により、ボールスタッドのハウジングに対する揺動範囲が規制されるため、ボールスタッドの軸部とハウジングとの接触を回避することができる。したがって、ボールスタッドの軸部とハウジングとの接触に起因して、同軸部が傷付くことが防ぐことができ、これに起因した軸部の疲労破損を防止することができる。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1に記載のボールジョイントにおいて、前記頭部の係合部及び前記収容部の係合部は、互いに線接触することを要旨とする。
この発明によれば、頭部の係合部と収容部の係合部とが互いに線接触となるため、これら係合部が互いに接触する際の圧力を低減することができる。したがって、これら係合部の破損を抑制することができる。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載のボールジョイントにおいて、前記頭部の係合部及び前記収容部の係合部の少なくとも一方には、緩衝部材が取り付けられることを要旨とする。
【0012】
この発明によれば、頭部の係合部と収容部の係合部との少なくとも一方の係合部に緩衝部材が取り付けられることにより、これら係合部が互いに接触する際の圧力を低減することができる。したがって、これら係合部の破損を抑制することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ボールスタッドの軸部が他部材と接触することを回避することにより、ボールスタッドの強度の低下を抑制したボールジョイントを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のボールジョイントを具体化した第1の実施形態について、同ボールジョイントを搭載した操舵装置の全体構造を示す模式図。
【図2】同実施形態のボールジョイントについて、操舵装置のタイロッドの具体的構造を示す断面図。
【図3】同実施形態のボールジョイントについて、インナーボールジョイントを拡大した拡大図。
【図4】同実施形態のボールジョイントについて、(a)は、ボールスタッドがハウジングに対して揺動する態様を示す断面図、(b)は、ハウジングに対してボールスタッドの揺動が規制された態様を示す断面図。
【図5】本発明のボールジョイントを具体化した第2の実施形態について、インナーボールジョイントの断面構造を示す断面図。
【図6】同実施形態のボールジョイントについて、(a)は、ボールスタッドがハウジングに対して揺動する態様を示す断面図、(b)は、ハウジングに対してボールスタッドの揺動が規制された態様を示す断面図。
【図7】本発明のボールジョイントを具体化した第3の実施形態について、インナーボールジョイントの断面構造を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1の実施形態)
図1〜図4を参照して、本発明のボールジョイントを、車両の操舵装置に搭載されたボールジョイントとして具体化した第1の実施形態について説明する。
【0016】
まず、図1及び図2を参照して、操舵装置1の全体構成について説明する。
図1に示すように、操舵装置1は、運転者がステアリングホイール等の操舵部2を操作することにより、車両の車輪3の方向を変更させる装置である。具体的には、操舵装置1の操舵部2により、操舵部2に連結されたステアリングシャフト4を回転させる。そして、ステアリングシャフト4の回転は、中間シャフト5及びピニオンシャフト6を介して車両の車輪3に向かい延びる転舵軸としてのラックシャフト7の直線方向の移動に変換され、ラックシャフト7の直線方向の移動に伴い、車輪3の方向が変更される。
【0017】
また、ラックシャフト7は、タイロッド8によって車輪3に接続されている。そして、ラックシャフト7とタイロッド8とは、このタイロッド8に設けられたインナーボールジョイント10により直接的に連結され、タイロッド8と車輪3とは、上記タイロッド8に設けられるとともに、ナックル(不図示)に固定されるアウターボールジョイント20とを介して、間接的に連結されている。以下、図2を参照して、タイロッド8の具体的構造について説明する。
【0018】
図2に示すように、タイロッド8は、インナーボールジョイント10とアウターボールジョイント20との結合により構成されている。具体的には、ラックシャフト7に連結されたインナーボールジョイント10は、その軸部11aが、アウターボールジョイント20のハウジング22に螺合されている。詳しくは、軸部11aの先端部11a1には、雄ねじが形成され、対応するハウジング22には雌ねじが形成されている。そして、先端部11a1をハウジング22に螺合することにより、軸部11aはハウジング22に螺合されている。ここで、軸部11aの先端部11a1とハウジング22との螺合具合を調整することにより、トーイン調整が可能となっている。
【0019】
また、アウターボールジョイント20の軸部21が車輪3(図1参照)へ接続されている。このアウターボールジョイント20には、ハウジング22内への異物の侵入を防ぐためのブーツ23が設けられている。そして、ハウジング22には、潤滑剤であるグリスの漏洩を防ぐためのカバー部材24がかしめにより取り付けられている。
【0020】
ここで、ラックシャフト7(図1参照)に固定されるインナーボールジョイント10により、タイロッド8は、ラックシャフト7に対して図2中の矢印Y1のように揺動可能となる。そして、ナックルに固定されるアウターボールジョイント20により、アウターボールジョイント20がタイロッド8に対して図2中の矢印Y2のように揺動可能となるため、タイロッド8の揺動を車輪3へ伝達されることを抑制するとともに、車輪3の傾きをラックシャフト7へ伝達されることを抑制している。
【0021】
次に、図3を参照して、インナーボールジョイント10の詳細構造について説明する。以下、図中の一点鎖線に沿う方向を「軸方向」とする。この一点鎖線に沿う方向は、ラックシャフト7の軸方向に沿った方向である。そして、軸方向において、ラックシャフト7が配置される側を「内部側」とし、車輪3が配置される側を「外部側」とする。なお、アウターボールジョイント20の構造は、ブーツ23及びカバー部材24が取り付けられたこと以外は、インナーボールジョイント10の構造と同一であるため、その詳細な構造の説明は省略する。
【0022】
図3に示すように、インナーボールジョイント10は、アウターボールジョイント20のハウジング22(図2参照)に接続されるボールスタッド11がラックシャフト7に固定されるハウジング12に対して、揺動可能となるように構成されている。
【0023】
ボールスタッド11には、ハウジング22(図2参照)に接続される軸部11aと、軸部11aの端部に一体に設けられた略球形状の頭部11bとが設けられている。そして、軸部11a及び頭部11bの接続部分には、軸部11aから軸方向の内部側に向かい縮径する接続部11a2が設けられている。この接続部11a2が設けられることにより、ハウジング12に対するボールスタッド11の揺動範囲を拡大させている。また、この接続部11a2は、ボールスタッド11の揺動に対して最も大きな荷重を受ける部分である。
【0024】
また、ハウジング12には、ラックシャフト7(図1参照)に固定される固定部12aと、固定部12aの端部に一体に設けられるとともに、一端側である軸方向の外部側が開口した略有底円筒形状の収容部12bとが設けられている。この収容部12bの内面には、例えば、ポリアセタールによって構成された合成樹脂製であるとともに、略円筒形状に形成された樹脂シート13が固定されている。そして、収容部12b内に頭部11bが樹脂シート13を介して収容されている。即ち、樹脂シート13は、収容部12bと頭部11bとの間に介在している。そして、収容部12bの開口部12cを頭部11bに向かいかしめることにより、ボールスタッド11とハウジング12とは互いに連結されている。また、樹脂シート13と頭部11bとの間には、潤滑剤であるグリスが充填されている。
【0025】
また、ボールスタッド11の頭部11bの軸方向の内部側の端部である頂部11b1には、軸方向の外部側に向かい凹む凹部11cが設けられている。この凹部11cは、軸方向の外部側に向かうにつれて縮径する円錐形状にて形成される内周面11c1が設けられている。そして、内周面11c1の軸方向の外部側の端部には、同端部に連結されるとともに軸方向に対して垂直な平面にて形成される上面11c2が設けられている。
【0026】
また、ハウジング22の収容部12bは、円筒部12b1と、円筒部12b1の軸方向の内部側を閉塞する底部12b2とにより構成されている。そして、底部12b2において、頭部11bの凹部11cと軸方向に対向する位置には、凹部11cに向かい突出する突起部12dが底部12b2と一体に設けられている。この突起部12dの軸方向の外部側の一部は、凹部11cに収容されている。この突起部12dは、軸方向の外部側に向かうにつれて縮径する円錐形状にて形成される外周面12d1が設けられている。そして、外周面12d1の軸方向の外部側の端部には、同端部に連結されるとともに軸方向に対して垂直な平面にて形成される上面12d2が設けられている。
【0027】
また、樹脂シート13において、頭部11bの頂部11b1と軸方向に対向する位置には、貫通孔13cが設けられている。そして、樹脂シート13の貫通孔13c、頭部11bの凹部11c、及びハウジング12の底部12b2によって囲まれた空間として、グリス溜り部13aが形成されている。このグリス溜り部13aにグリスが充填されることにより、頭部11bの樹脂シート13に対する摺動に伴い、グリス溜り部13aからグリスが頭部11bと樹脂シート13との摺動部分に供給される。
【0028】
次に、図4を参照して、ハウジング12に対するボールスタッド11の揺動態様について説明する。
図4(a)に示すように、ハウジング12に対してボールスタッド11が矢印Y3のように揺動した場合、頭部11bが樹脂シート13に対して摺動する。これに伴い、頭部11bの凹部11cの内周面11c1は、矢印Y3とは反対方向である矢印Y4に移動する。そして、ハウジング12に対してボールスタッド11が予め設定した揺動範囲以上に揺動しようとした場合、図4(b)に示すように、凹部11cの内周面11c1と底部12b2の突起部12dの外周面12d1とが互いに接触して、ボールスタッド11のハウジング12に対する揺動が規制される。即ち、ボールスタッド11の凹部11cとハウジング12の突起部12dとが互いに係合することにより、ボールスタッド11のハウジング12に対する揺動が規制される。ここで、凹部11c及び突起部12dは、それぞれ係合部となる。また、凹部11cと突起部12dとが接触する際には、凹部11cの内周面11c1と突起部12dの外周面12d1とは互いに線接触となる。
【0029】
また、ここで、ハウジング12に対するボールスタッド11の揺動範囲を拡大させるために、接続部11a2の外径R1(図3参照)が軸部11aの他の部位より小さく形成される必要がある。しかしながら、その反面、接続部11a2の外径R1が小さい上、ボールスタッド11が揺動した際に接続部11a2が最も大きな荷重を受けるため、接続部11a2が、ボールスタッド11の強度において最弱の部分となってしまう。即ち、接続部11a2の強度がボールスタッド11の使用可能な強度となってしまう。そして、この最弱の強度である接続部11a2が他の部材と接触して、ボールスタッド11の揺動範囲を規制する構造では、接続部11a2が接触することに伴い、接続部11a2が傷付いてしまい、疲労破損を発生してしまう場合がある。その結果、接続部11a2の強度が低下してしまう場合がある。即ち、ボールスタッド11の使用可能な強度が低下してしまう場合がある。
【0030】
その点において、本実施形態では、図4(b)に示すように、凹部11cと突起部12dとが接触した状態においては、接続部11a2とハウジング12の開口部12cとが互いに接触していない。即ち、接続部11a2とハウジング12との間に間隙Gが形成される。したがって、ハウジング12に対して、ボールスタッド11が予め設定した揺動範囲以上に揺動しようとしても、接続部11a2はハウジング12や他の部材と接触することを回避される。
【0031】
第1の実施形態のボールジョイントでは、以下に示す効果を奏することができる。
(1)本実施形態のボールジョイントでは、ハウジング12に対してボールスタッド11が揺動した際に、接続部11a2がハウジング12や他の部材と接触することを回避している。したがって、接続部11a2の接触による傷付きに起因する疲労破損の発生を抑制することができる。その結果、ボールスタッド11の強度低下を抑制することが可能となり、インナーボールジョイント10の寿命を延長することができる。
【0032】
(2)本実施形態のボールジョイントでは、まず凹部11cと突起部12dとが接触し、万が一、突起部12dが破損してしまった場合に初めて接続部11a2がハウジング12に対して接触する可能性が生じてくる。したがって、例えば、特許文献1に示すような従来構造と比較して、接続部11a2がハウジング12や他の部材と接触する可能性を低減することができる。
【0033】
(3)本実施形態のボールジョイントでは、ボールスタッド11の頭部11bの凹部11cの内周面11c1とハウジング12の底部12b2の突起部12dの外周面12d1とが線接触している。したがって、凹部11cの内周面11c1と突起部12dの外周面12d1とが点接触した場合よりも凹部11cに対して突起部12dが衝突する圧力を低減することができる。したがって、同点接触した場合よりも突起部12dが破損する可能性を低減することができる。
【0034】
(4)本実施形態のボールジョイントでは、グリス溜り部13aが形成されることにより、グリス溜り部13aが形成されない場合よりもグリスを充填するための空間を増大することができる。これにより、頭部11bと樹脂シート13との間に供給されるグリスの量を増加させることができる。したがって、頭部11bと樹脂シート13との間のグリスの涸渇に起因する頭部11bの磨耗を抑制することができる。その結果、インナーボールジョイント10の寿命を延長させることができる。以上の効果(1)〜(4)は、インナーボールジョイント10に限定されることなく、アウターボールジョイント20についても同様の構成を採用することにより、同様の効果を奏することができる。
【0035】
(第2の実施形態)
図5及び図6を参照して、本発明のボールジョイントを、車両の操舵装置に搭載されたボールジョイントとして具体化した第2の実施形態について説明する。本実施形態では、第1の実施形態と比較して、頭部の形状及びハウジングの形状の一部が異なるのみであるため、同一構成要素には、同一符号を付し、その説明を省略する。
【0036】
図5に示すように、ボールスタッド11の頭部11bの頂部11b1には、軸方向の内部側に延設する突出部11dが頭部11bと一体に設けられている。そして、ハウジング12の底部12b2には、軸方向の内部側に向かい凹む凹部12eが設けられている。この突出部11dの一部は、凹部12eに収容されている。ここで、突出部11dには、円錐形状の外周面11d1が設けられている。そして、外周面11d1の軸方向の内部側の端部には、同端部を連結するとともに軸方向に対して垂直な平面である下面11d2が設けられている。また、凹部12eは、円筒形状の内周面12e1が設けられている。そして、内周面12e1の軸方向の内部側の端部には、同端部を連結するとともに軸方向に対して垂直な平面である下面12e2が設けられている。
【0037】
また、樹脂シート13の貫通孔13c、頭部11bの突出部11d、及びハウジング12の底部12b2の凹部12eによって囲まれた空間として、グリス溜り部13bが形成されている。このグリス溜り部13bにグリスが充填されることにより、頭部11bの樹脂シート13に対する摺動に伴い、グリス溜り部13bからグリスが頭部11bと樹脂シート13との摺動部分に供給される。
【0038】
図6(a)に示すように、ハウジング12に対してボールスタッド11が矢印Y5のように揺動した場合、頭部11bが樹脂シート13に対して摺動する。これに伴い、頭部11bの突出部11dは、矢印Y5とは反対方向である矢印Y6に移動する。そして、ハウジング12に対してボールスタッド11が予め設定した揺動範囲以上に揺動しようとした場合、図6(b)に示すように、凹部12eの内周面12e1と突出部11dの外周面11d1とが互いに接触して、ボールスタッド11のハウジング12に対する揺動が規制される。即ち、ボールスタッド11の突出部11dとハウジング12の凹部12eとが互いに係合することにより、ボールスタッド11のハウジング12に対する揺動が規制される。ここで、突出部11d及び凹部12eは、それぞれ係合部となる。また、凹部12eと突出部11dとが互いに接触する際には、凹部12eの内周面12e1と突出部11dの外周面11d1とは互いに線接触となる。
【0039】
第2の実施形態のボールジョイントでは、第1の実施形態の効果(1)に加え、以下に示す効果を奏することができる。
(5)本実施形態のボールジョイントでは、まず突出部11dと凹部12eとが接触し、万が一、突出部11dが破損してしまった場合に初めて接続部11a2がハウジング12に対して接触する可能性が生じてくる。したがって、例えば、特許文献1に示すような従来構造と比較して、接続部11a2がハウジング12や他の部材と接触する可能性を低減することができる。
【0040】
(6)本実施形態のボールジョイントでは、ボールスタッド11の頭部11bの突出部11dの外周面11d1とハウジング12の底部12b2の凹部12eの内周面12e1とが線接触している。したがって、突出部11dの外周面11d1と凹部12eの内周面12e1とが点接触した場合より突出部11dに対して凹部12eが衝突する圧力を低減することができる。したがって、同点接触した場合よりも突出部11dが破損する可能性を低減することができる。
【0041】
(7)本実施形態のボールジョイントでは、グリス溜り部13bが形成されることにより、グリス溜り部13bが形成されない場合よりもグリスを充填するための空間を増大することができる。これにより、頭部11bと樹脂シート13との間に供給されるグリスの量を増加させることができる。したがって、頭部11bと樹脂シート13との間のグリスの涸渇に起因する頭部11bの磨耗を抑制することができる。その結果、インナーボールジョイント10の寿命を延長させることができる。以上の効果(5)〜(7)は、インナーボールジョイント10に限定されることなく、アウターボールジョイント20についても同様の構成を採用することにより、同様の効果を奏することができる。
【0042】
(第3の実施形態)
図7を参照して、本発明のボールジョイントを、車両の操舵装置に搭載されたボールジョイントとして具体化した第3の実施形態について説明する。本実施形態では、第1の実施形態と同一構成要素には、同一符号を付し、その説明を省略する。
【0043】
図7に示すように、ボールスタッド11の頭部11bの凹部11cの内面、及びハウジング12の底部12b2の突起部12dの外面のそれぞれには、樹脂材料にて構成された緩衝部材30,31が取り付けられている。この緩衝部材30,31により、ボールスタッド11がハウジング12に対して揺動した際に、緩衝部材30,31同士が接触するため、突起部12dと凹部11cとが直接接触した場合よりも、同接触したときに受ける突起部12dの力を低減している。
【0044】
本実施形態のボールジョイントによれば、第1の実施形態の効果(1)〜(4)に加え、以下の効果を奏することができる。
(8)本実施形態のボールジョイントでは、ボールスタッド11がハウジング12に対して揺動したときに、緩衝部材30,31が互いに接触することにより、突起部12dと凹部11cとが直接接触した場合よりも、同接触したときに受ける突起部12dの力を低減できるため、突起部12dの破損を抑制することができる。したがって、ボールジョイントの寿命を延長させることができる。
【0045】
(その他の実施形態)
本発明のボールジョイントは、上記に例示した実施形態に限定されることなく、以下のように変更することができる。
【0046】
・第3の実施形態のボールジョイントによれば、ボールスタッド11の頭部11bに凹部11cを設け、ハウジング12の底部12b2に突起部12dを設けた構造に、それぞれ緩衝部材30,31を取り付けた構造であったが、本発明はこれに限定されることはない。例えば、ボールスタッド11の頭部11bに突出部11dを設け、ハウジング12の底部12b2に凹部12eを設けた構造に、それぞれ緩衝部材を取り付ける構造であってもよい。
【0047】
・第3の実施形態のボールジョイントによれば、上記頭部11b及び凹部11cのそれぞれに緩衝部材30,31を取り付ける構造であったが、本発明はこれに限定されることはない。例えば、頭部11b及び凹部11cのどちらか一方のみに緩衝部材が取り付けられる構造であってもよい。この場合においても、第3の実施形態の効果(8)に準じた効果を奏することができる。また、ボールスタッド11の頭部11bに突出部11dを設け、ハウジング12の底部12b2に凹部12eを設けた構造に、それぞれ緩衝部材を取り付ける構造についても同様である。
【0048】
・第3の実施形態のボールジョイントによれば、緩衝部材30,31として樹脂材料としたが、本発明はこれに限定されることはない。緩衝部材は、凹部11c突起部12dとの接触の力を低減できるものであればよい。
【0049】
・第1及び第2の実施形態のボールジョイントによれば、凹部11c及び突起部12d、並びに突出部11d及び凹部12eのそれぞれは互いに線接触していたが、本発明はこれに限定されることはない。例えば、凹部11c及び突起部12d、並びに突出部11d及び凹部12eのそれぞれは互いに点接触してもよい。
【0050】
・第1〜第3の実施形態のボールジョイントによれば、図2に示すように、タイロッド8は、インナーボールジョイント10及びアウターボールジョイント20から構成されていたが、タイロッド8の構成は、これに限定されることはない。例えば、タイロッドが基部となるシャフトと、このシャフトの軸方向の内部側及び外部側にそれぞれ固定されるインナーボールジョイント及びアウターボールジョイントとから構成されてもよい。
【0051】
・第1及び第3の実施形態のボールジョイントによれば、ハウジング12の底部12b2に突起部12dが一体に、即ち、底部12b2と突起部12dとが単一部材として形成されたが、突起部12dの構成はこれに限定されることはない。例えば、底部12b2と突起部12dとは別部材として形成されてもよい。
【0052】
・第2の実施形態のボールジョイントによれば、ボールスタッド11の頭部11bに突出部11dが一体に、即ち、頭部11bと突出部11dとが単一部材として形成されたが、突出部11dの構成はこれに限定されることはない。例えば、頭部11bと突出部11dとは別部材として形成されてもよい。
【0053】
・第1〜第3の実施形態のボールジョイントによれば、有底円筒形状のハウジング12を一体に、即ち、単一部材として形成されたが、ハウジング12の構成はこれに限定されることはない。例えば、ハウジング12の円筒部12b1及び底部12b2が別部材として形成されてもよい。
【0054】
・第1〜第3の実施形態のボールジョイントでは、ボールジョイントの適用例として、タイロッド8のインナーボールジョイント10及びアウターボールジョイント20について説明したが、ボールジョイントの適用例は、これに限定されることはない。例えば、サスペンションとナックルとを連結するボールジョイント等の他の車両部分に用いられるボールジョイントに適用してもよい。
【符号の説明】
【0055】
1…操舵装置、2…操舵部、3…車輪、4…ステアリングシャフト、5…中間シャフト、6…ピニオンシャフト、7…ラックシャフト、8…タイロッド、10…インナーボールジョイント、11…ボールスタッド、11a…軸部、11a1…先端部、11a2…頂部、11b…頭部、11c…凹部、11c1…内周面、11c2…上面、11d…突出部、11d1…外周面、11d2…上面、12…ハウジング、12a…固定部、12b…収容部、12b1…円筒部、12b2…収容部、12c…開口部、12d…突起部、12d1…外周面、12d2…下面、12e…凹部、12e1…内周面、12e2…下面、13…樹脂シート、13a,13b…グリス溜り部、13c…貫通孔、20…アウターボールジョイント、21…軸部、22…ハウジング、23…ブーツ、24…カバー部材、30,31…緩衝部材。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハウジングに対して揺動可能なボールスタッドを備えたボールジョイントに関する。
【背景技術】
【0002】
上記ボールジョイントとしては、ボールスタッドの頭部を収容するハウジングの収容部に樹脂シートを介在させて、頭部と樹脂シートとを摺動させることにより、ハウジングに対して、ボールスタッドが揺動可能としたものが知られている。そして、ボールスタッドがハウジングに対して揺動可能な範囲を拡大する目的として、ボールスタッドの軸部と頭部との接続部が、他の軸部の部位よりも縮径した形状となっている。この形状により、接続部は、ボールスタッドの強度の中において最弱部分となるため、接続部の強度は、ボールスタッドが使用可能な強度といえる。
【0003】
ところで、ハウジングに対してボールスタッドが揺動する際に、ボールスタッドが予め設定された揺動可能な範囲以上に揺動しようとすると、ハウジングの収容部とボールスタッドの接続部とが互いに接触してしまう。その結果、接続部が傷付いてしまい、接続部の強度が低下、即ち、ボールスタッドの使用可能な強度の低下を生じてしまう場合がある。
【0004】
そこで、従来から上記接続部の強度の低下を抑制する構造が提案されている。例えば、特許文献1では、ハウジングの収容部に環状弾性体を取り付けることにより、ボールスタッドの軸部、特に接続部とハウジングの収容部とを直接接触することを回避した構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平5−83439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1においては、ボールスタッドの接続部とハウジングの収容部との直接接触は回避されたが、接続部と環状弾性体とが接触するため、接続部が他部材との接触に起因して傷付く問題は未だ解消されていない。
【0007】
そこで、本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ボールスタッドの接続部が他部材と接触することを回避することによるボールスタッドの強度の低下を抑制したボールジョイントを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、略有底円筒形状に形成された収容部を有するハウジングと、前記収容部に収容される頭部及び前記頭部から延設される軸部を有するボールスタッドとを備え、前記収容部に対して前記頭部が揺動することに伴い、前記ボールスタッドが前記ハウジングに対して揺動可能となるボールジョイントにおいて、前記頭部と前記収容部とには、前記ボールスタッドの前記ハウジングに対する揺動範囲を規制する係合部がそれぞれ設けられることを要旨とする。
【0009】
この発明によれば、頭部と収容部との係合部により、ボールスタッドのハウジングに対する揺動範囲が規制されるため、ボールスタッドの軸部とハウジングとの接触を回避することができる。したがって、ボールスタッドの軸部とハウジングとの接触に起因して、同軸部が傷付くことが防ぐことができ、これに起因した軸部の疲労破損を防止することができる。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1に記載のボールジョイントにおいて、前記頭部の係合部及び前記収容部の係合部は、互いに線接触することを要旨とする。
この発明によれば、頭部の係合部と収容部の係合部とが互いに線接触となるため、これら係合部が互いに接触する際の圧力を低減することができる。したがって、これら係合部の破損を抑制することができる。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載のボールジョイントにおいて、前記頭部の係合部及び前記収容部の係合部の少なくとも一方には、緩衝部材が取り付けられることを要旨とする。
【0012】
この発明によれば、頭部の係合部と収容部の係合部との少なくとも一方の係合部に緩衝部材が取り付けられることにより、これら係合部が互いに接触する際の圧力を低減することができる。したがって、これら係合部の破損を抑制することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ボールスタッドの軸部が他部材と接触することを回避することにより、ボールスタッドの強度の低下を抑制したボールジョイントを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のボールジョイントを具体化した第1の実施形態について、同ボールジョイントを搭載した操舵装置の全体構造を示す模式図。
【図2】同実施形態のボールジョイントについて、操舵装置のタイロッドの具体的構造を示す断面図。
【図3】同実施形態のボールジョイントについて、インナーボールジョイントを拡大した拡大図。
【図4】同実施形態のボールジョイントについて、(a)は、ボールスタッドがハウジングに対して揺動する態様を示す断面図、(b)は、ハウジングに対してボールスタッドの揺動が規制された態様を示す断面図。
【図5】本発明のボールジョイントを具体化した第2の実施形態について、インナーボールジョイントの断面構造を示す断面図。
【図6】同実施形態のボールジョイントについて、(a)は、ボールスタッドがハウジングに対して揺動する態様を示す断面図、(b)は、ハウジングに対してボールスタッドの揺動が規制された態様を示す断面図。
【図7】本発明のボールジョイントを具体化した第3の実施形態について、インナーボールジョイントの断面構造を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1の実施形態)
図1〜図4を参照して、本発明のボールジョイントを、車両の操舵装置に搭載されたボールジョイントとして具体化した第1の実施形態について説明する。
【0016】
まず、図1及び図2を参照して、操舵装置1の全体構成について説明する。
図1に示すように、操舵装置1は、運転者がステアリングホイール等の操舵部2を操作することにより、車両の車輪3の方向を変更させる装置である。具体的には、操舵装置1の操舵部2により、操舵部2に連結されたステアリングシャフト4を回転させる。そして、ステアリングシャフト4の回転は、中間シャフト5及びピニオンシャフト6を介して車両の車輪3に向かい延びる転舵軸としてのラックシャフト7の直線方向の移動に変換され、ラックシャフト7の直線方向の移動に伴い、車輪3の方向が変更される。
【0017】
また、ラックシャフト7は、タイロッド8によって車輪3に接続されている。そして、ラックシャフト7とタイロッド8とは、このタイロッド8に設けられたインナーボールジョイント10により直接的に連結され、タイロッド8と車輪3とは、上記タイロッド8に設けられるとともに、ナックル(不図示)に固定されるアウターボールジョイント20とを介して、間接的に連結されている。以下、図2を参照して、タイロッド8の具体的構造について説明する。
【0018】
図2に示すように、タイロッド8は、インナーボールジョイント10とアウターボールジョイント20との結合により構成されている。具体的には、ラックシャフト7に連結されたインナーボールジョイント10は、その軸部11aが、アウターボールジョイント20のハウジング22に螺合されている。詳しくは、軸部11aの先端部11a1には、雄ねじが形成され、対応するハウジング22には雌ねじが形成されている。そして、先端部11a1をハウジング22に螺合することにより、軸部11aはハウジング22に螺合されている。ここで、軸部11aの先端部11a1とハウジング22との螺合具合を調整することにより、トーイン調整が可能となっている。
【0019】
また、アウターボールジョイント20の軸部21が車輪3(図1参照)へ接続されている。このアウターボールジョイント20には、ハウジング22内への異物の侵入を防ぐためのブーツ23が設けられている。そして、ハウジング22には、潤滑剤であるグリスの漏洩を防ぐためのカバー部材24がかしめにより取り付けられている。
【0020】
ここで、ラックシャフト7(図1参照)に固定されるインナーボールジョイント10により、タイロッド8は、ラックシャフト7に対して図2中の矢印Y1のように揺動可能となる。そして、ナックルに固定されるアウターボールジョイント20により、アウターボールジョイント20がタイロッド8に対して図2中の矢印Y2のように揺動可能となるため、タイロッド8の揺動を車輪3へ伝達されることを抑制するとともに、車輪3の傾きをラックシャフト7へ伝達されることを抑制している。
【0021】
次に、図3を参照して、インナーボールジョイント10の詳細構造について説明する。以下、図中の一点鎖線に沿う方向を「軸方向」とする。この一点鎖線に沿う方向は、ラックシャフト7の軸方向に沿った方向である。そして、軸方向において、ラックシャフト7が配置される側を「内部側」とし、車輪3が配置される側を「外部側」とする。なお、アウターボールジョイント20の構造は、ブーツ23及びカバー部材24が取り付けられたこと以外は、インナーボールジョイント10の構造と同一であるため、その詳細な構造の説明は省略する。
【0022】
図3に示すように、インナーボールジョイント10は、アウターボールジョイント20のハウジング22(図2参照)に接続されるボールスタッド11がラックシャフト7に固定されるハウジング12に対して、揺動可能となるように構成されている。
【0023】
ボールスタッド11には、ハウジング22(図2参照)に接続される軸部11aと、軸部11aの端部に一体に設けられた略球形状の頭部11bとが設けられている。そして、軸部11a及び頭部11bの接続部分には、軸部11aから軸方向の内部側に向かい縮径する接続部11a2が設けられている。この接続部11a2が設けられることにより、ハウジング12に対するボールスタッド11の揺動範囲を拡大させている。また、この接続部11a2は、ボールスタッド11の揺動に対して最も大きな荷重を受ける部分である。
【0024】
また、ハウジング12には、ラックシャフト7(図1参照)に固定される固定部12aと、固定部12aの端部に一体に設けられるとともに、一端側である軸方向の外部側が開口した略有底円筒形状の収容部12bとが設けられている。この収容部12bの内面には、例えば、ポリアセタールによって構成された合成樹脂製であるとともに、略円筒形状に形成された樹脂シート13が固定されている。そして、収容部12b内に頭部11bが樹脂シート13を介して収容されている。即ち、樹脂シート13は、収容部12bと頭部11bとの間に介在している。そして、収容部12bの開口部12cを頭部11bに向かいかしめることにより、ボールスタッド11とハウジング12とは互いに連結されている。また、樹脂シート13と頭部11bとの間には、潤滑剤であるグリスが充填されている。
【0025】
また、ボールスタッド11の頭部11bの軸方向の内部側の端部である頂部11b1には、軸方向の外部側に向かい凹む凹部11cが設けられている。この凹部11cは、軸方向の外部側に向かうにつれて縮径する円錐形状にて形成される内周面11c1が設けられている。そして、内周面11c1の軸方向の外部側の端部には、同端部に連結されるとともに軸方向に対して垂直な平面にて形成される上面11c2が設けられている。
【0026】
また、ハウジング22の収容部12bは、円筒部12b1と、円筒部12b1の軸方向の内部側を閉塞する底部12b2とにより構成されている。そして、底部12b2において、頭部11bの凹部11cと軸方向に対向する位置には、凹部11cに向かい突出する突起部12dが底部12b2と一体に設けられている。この突起部12dの軸方向の外部側の一部は、凹部11cに収容されている。この突起部12dは、軸方向の外部側に向かうにつれて縮径する円錐形状にて形成される外周面12d1が設けられている。そして、外周面12d1の軸方向の外部側の端部には、同端部に連結されるとともに軸方向に対して垂直な平面にて形成される上面12d2が設けられている。
【0027】
また、樹脂シート13において、頭部11bの頂部11b1と軸方向に対向する位置には、貫通孔13cが設けられている。そして、樹脂シート13の貫通孔13c、頭部11bの凹部11c、及びハウジング12の底部12b2によって囲まれた空間として、グリス溜り部13aが形成されている。このグリス溜り部13aにグリスが充填されることにより、頭部11bの樹脂シート13に対する摺動に伴い、グリス溜り部13aからグリスが頭部11bと樹脂シート13との摺動部分に供給される。
【0028】
次に、図4を参照して、ハウジング12に対するボールスタッド11の揺動態様について説明する。
図4(a)に示すように、ハウジング12に対してボールスタッド11が矢印Y3のように揺動した場合、頭部11bが樹脂シート13に対して摺動する。これに伴い、頭部11bの凹部11cの内周面11c1は、矢印Y3とは反対方向である矢印Y4に移動する。そして、ハウジング12に対してボールスタッド11が予め設定した揺動範囲以上に揺動しようとした場合、図4(b)に示すように、凹部11cの内周面11c1と底部12b2の突起部12dの外周面12d1とが互いに接触して、ボールスタッド11のハウジング12に対する揺動が規制される。即ち、ボールスタッド11の凹部11cとハウジング12の突起部12dとが互いに係合することにより、ボールスタッド11のハウジング12に対する揺動が規制される。ここで、凹部11c及び突起部12dは、それぞれ係合部となる。また、凹部11cと突起部12dとが接触する際には、凹部11cの内周面11c1と突起部12dの外周面12d1とは互いに線接触となる。
【0029】
また、ここで、ハウジング12に対するボールスタッド11の揺動範囲を拡大させるために、接続部11a2の外径R1(図3参照)が軸部11aの他の部位より小さく形成される必要がある。しかしながら、その反面、接続部11a2の外径R1が小さい上、ボールスタッド11が揺動した際に接続部11a2が最も大きな荷重を受けるため、接続部11a2が、ボールスタッド11の強度において最弱の部分となってしまう。即ち、接続部11a2の強度がボールスタッド11の使用可能な強度となってしまう。そして、この最弱の強度である接続部11a2が他の部材と接触して、ボールスタッド11の揺動範囲を規制する構造では、接続部11a2が接触することに伴い、接続部11a2が傷付いてしまい、疲労破損を発生してしまう場合がある。その結果、接続部11a2の強度が低下してしまう場合がある。即ち、ボールスタッド11の使用可能な強度が低下してしまう場合がある。
【0030】
その点において、本実施形態では、図4(b)に示すように、凹部11cと突起部12dとが接触した状態においては、接続部11a2とハウジング12の開口部12cとが互いに接触していない。即ち、接続部11a2とハウジング12との間に間隙Gが形成される。したがって、ハウジング12に対して、ボールスタッド11が予め設定した揺動範囲以上に揺動しようとしても、接続部11a2はハウジング12や他の部材と接触することを回避される。
【0031】
第1の実施形態のボールジョイントでは、以下に示す効果を奏することができる。
(1)本実施形態のボールジョイントでは、ハウジング12に対してボールスタッド11が揺動した際に、接続部11a2がハウジング12や他の部材と接触することを回避している。したがって、接続部11a2の接触による傷付きに起因する疲労破損の発生を抑制することができる。その結果、ボールスタッド11の強度低下を抑制することが可能となり、インナーボールジョイント10の寿命を延長することができる。
【0032】
(2)本実施形態のボールジョイントでは、まず凹部11cと突起部12dとが接触し、万が一、突起部12dが破損してしまった場合に初めて接続部11a2がハウジング12に対して接触する可能性が生じてくる。したがって、例えば、特許文献1に示すような従来構造と比較して、接続部11a2がハウジング12や他の部材と接触する可能性を低減することができる。
【0033】
(3)本実施形態のボールジョイントでは、ボールスタッド11の頭部11bの凹部11cの内周面11c1とハウジング12の底部12b2の突起部12dの外周面12d1とが線接触している。したがって、凹部11cの内周面11c1と突起部12dの外周面12d1とが点接触した場合よりも凹部11cに対して突起部12dが衝突する圧力を低減することができる。したがって、同点接触した場合よりも突起部12dが破損する可能性を低減することができる。
【0034】
(4)本実施形態のボールジョイントでは、グリス溜り部13aが形成されることにより、グリス溜り部13aが形成されない場合よりもグリスを充填するための空間を増大することができる。これにより、頭部11bと樹脂シート13との間に供給されるグリスの量を増加させることができる。したがって、頭部11bと樹脂シート13との間のグリスの涸渇に起因する頭部11bの磨耗を抑制することができる。その結果、インナーボールジョイント10の寿命を延長させることができる。以上の効果(1)〜(4)は、インナーボールジョイント10に限定されることなく、アウターボールジョイント20についても同様の構成を採用することにより、同様の効果を奏することができる。
【0035】
(第2の実施形態)
図5及び図6を参照して、本発明のボールジョイントを、車両の操舵装置に搭載されたボールジョイントとして具体化した第2の実施形態について説明する。本実施形態では、第1の実施形態と比較して、頭部の形状及びハウジングの形状の一部が異なるのみであるため、同一構成要素には、同一符号を付し、その説明を省略する。
【0036】
図5に示すように、ボールスタッド11の頭部11bの頂部11b1には、軸方向の内部側に延設する突出部11dが頭部11bと一体に設けられている。そして、ハウジング12の底部12b2には、軸方向の内部側に向かい凹む凹部12eが設けられている。この突出部11dの一部は、凹部12eに収容されている。ここで、突出部11dには、円錐形状の外周面11d1が設けられている。そして、外周面11d1の軸方向の内部側の端部には、同端部を連結するとともに軸方向に対して垂直な平面である下面11d2が設けられている。また、凹部12eは、円筒形状の内周面12e1が設けられている。そして、内周面12e1の軸方向の内部側の端部には、同端部を連結するとともに軸方向に対して垂直な平面である下面12e2が設けられている。
【0037】
また、樹脂シート13の貫通孔13c、頭部11bの突出部11d、及びハウジング12の底部12b2の凹部12eによって囲まれた空間として、グリス溜り部13bが形成されている。このグリス溜り部13bにグリスが充填されることにより、頭部11bの樹脂シート13に対する摺動に伴い、グリス溜り部13bからグリスが頭部11bと樹脂シート13との摺動部分に供給される。
【0038】
図6(a)に示すように、ハウジング12に対してボールスタッド11が矢印Y5のように揺動した場合、頭部11bが樹脂シート13に対して摺動する。これに伴い、頭部11bの突出部11dは、矢印Y5とは反対方向である矢印Y6に移動する。そして、ハウジング12に対してボールスタッド11が予め設定した揺動範囲以上に揺動しようとした場合、図6(b)に示すように、凹部12eの内周面12e1と突出部11dの外周面11d1とが互いに接触して、ボールスタッド11のハウジング12に対する揺動が規制される。即ち、ボールスタッド11の突出部11dとハウジング12の凹部12eとが互いに係合することにより、ボールスタッド11のハウジング12に対する揺動が規制される。ここで、突出部11d及び凹部12eは、それぞれ係合部となる。また、凹部12eと突出部11dとが互いに接触する際には、凹部12eの内周面12e1と突出部11dの外周面11d1とは互いに線接触となる。
【0039】
第2の実施形態のボールジョイントでは、第1の実施形態の効果(1)に加え、以下に示す効果を奏することができる。
(5)本実施形態のボールジョイントでは、まず突出部11dと凹部12eとが接触し、万が一、突出部11dが破損してしまった場合に初めて接続部11a2がハウジング12に対して接触する可能性が生じてくる。したがって、例えば、特許文献1に示すような従来構造と比較して、接続部11a2がハウジング12や他の部材と接触する可能性を低減することができる。
【0040】
(6)本実施形態のボールジョイントでは、ボールスタッド11の頭部11bの突出部11dの外周面11d1とハウジング12の底部12b2の凹部12eの内周面12e1とが線接触している。したがって、突出部11dの外周面11d1と凹部12eの内周面12e1とが点接触した場合より突出部11dに対して凹部12eが衝突する圧力を低減することができる。したがって、同点接触した場合よりも突出部11dが破損する可能性を低減することができる。
【0041】
(7)本実施形態のボールジョイントでは、グリス溜り部13bが形成されることにより、グリス溜り部13bが形成されない場合よりもグリスを充填するための空間を増大することができる。これにより、頭部11bと樹脂シート13との間に供給されるグリスの量を増加させることができる。したがって、頭部11bと樹脂シート13との間のグリスの涸渇に起因する頭部11bの磨耗を抑制することができる。その結果、インナーボールジョイント10の寿命を延長させることができる。以上の効果(5)〜(7)は、インナーボールジョイント10に限定されることなく、アウターボールジョイント20についても同様の構成を採用することにより、同様の効果を奏することができる。
【0042】
(第3の実施形態)
図7を参照して、本発明のボールジョイントを、車両の操舵装置に搭載されたボールジョイントとして具体化した第3の実施形態について説明する。本実施形態では、第1の実施形態と同一構成要素には、同一符号を付し、その説明を省略する。
【0043】
図7に示すように、ボールスタッド11の頭部11bの凹部11cの内面、及びハウジング12の底部12b2の突起部12dの外面のそれぞれには、樹脂材料にて構成された緩衝部材30,31が取り付けられている。この緩衝部材30,31により、ボールスタッド11がハウジング12に対して揺動した際に、緩衝部材30,31同士が接触するため、突起部12dと凹部11cとが直接接触した場合よりも、同接触したときに受ける突起部12dの力を低減している。
【0044】
本実施形態のボールジョイントによれば、第1の実施形態の効果(1)〜(4)に加え、以下の効果を奏することができる。
(8)本実施形態のボールジョイントでは、ボールスタッド11がハウジング12に対して揺動したときに、緩衝部材30,31が互いに接触することにより、突起部12dと凹部11cとが直接接触した場合よりも、同接触したときに受ける突起部12dの力を低減できるため、突起部12dの破損を抑制することができる。したがって、ボールジョイントの寿命を延長させることができる。
【0045】
(その他の実施形態)
本発明のボールジョイントは、上記に例示した実施形態に限定されることなく、以下のように変更することができる。
【0046】
・第3の実施形態のボールジョイントによれば、ボールスタッド11の頭部11bに凹部11cを設け、ハウジング12の底部12b2に突起部12dを設けた構造に、それぞれ緩衝部材30,31を取り付けた構造であったが、本発明はこれに限定されることはない。例えば、ボールスタッド11の頭部11bに突出部11dを設け、ハウジング12の底部12b2に凹部12eを設けた構造に、それぞれ緩衝部材を取り付ける構造であってもよい。
【0047】
・第3の実施形態のボールジョイントによれば、上記頭部11b及び凹部11cのそれぞれに緩衝部材30,31を取り付ける構造であったが、本発明はこれに限定されることはない。例えば、頭部11b及び凹部11cのどちらか一方のみに緩衝部材が取り付けられる構造であってもよい。この場合においても、第3の実施形態の効果(8)に準じた効果を奏することができる。また、ボールスタッド11の頭部11bに突出部11dを設け、ハウジング12の底部12b2に凹部12eを設けた構造に、それぞれ緩衝部材を取り付ける構造についても同様である。
【0048】
・第3の実施形態のボールジョイントによれば、緩衝部材30,31として樹脂材料としたが、本発明はこれに限定されることはない。緩衝部材は、凹部11c突起部12dとの接触の力を低減できるものであればよい。
【0049】
・第1及び第2の実施形態のボールジョイントによれば、凹部11c及び突起部12d、並びに突出部11d及び凹部12eのそれぞれは互いに線接触していたが、本発明はこれに限定されることはない。例えば、凹部11c及び突起部12d、並びに突出部11d及び凹部12eのそれぞれは互いに点接触してもよい。
【0050】
・第1〜第3の実施形態のボールジョイントによれば、図2に示すように、タイロッド8は、インナーボールジョイント10及びアウターボールジョイント20から構成されていたが、タイロッド8の構成は、これに限定されることはない。例えば、タイロッドが基部となるシャフトと、このシャフトの軸方向の内部側及び外部側にそれぞれ固定されるインナーボールジョイント及びアウターボールジョイントとから構成されてもよい。
【0051】
・第1及び第3の実施形態のボールジョイントによれば、ハウジング12の底部12b2に突起部12dが一体に、即ち、底部12b2と突起部12dとが単一部材として形成されたが、突起部12dの構成はこれに限定されることはない。例えば、底部12b2と突起部12dとは別部材として形成されてもよい。
【0052】
・第2の実施形態のボールジョイントによれば、ボールスタッド11の頭部11bに突出部11dが一体に、即ち、頭部11bと突出部11dとが単一部材として形成されたが、突出部11dの構成はこれに限定されることはない。例えば、頭部11bと突出部11dとは別部材として形成されてもよい。
【0053】
・第1〜第3の実施形態のボールジョイントによれば、有底円筒形状のハウジング12を一体に、即ち、単一部材として形成されたが、ハウジング12の構成はこれに限定されることはない。例えば、ハウジング12の円筒部12b1及び底部12b2が別部材として形成されてもよい。
【0054】
・第1〜第3の実施形態のボールジョイントでは、ボールジョイントの適用例として、タイロッド8のインナーボールジョイント10及びアウターボールジョイント20について説明したが、ボールジョイントの適用例は、これに限定されることはない。例えば、サスペンションとナックルとを連結するボールジョイント等の他の車両部分に用いられるボールジョイントに適用してもよい。
【符号の説明】
【0055】
1…操舵装置、2…操舵部、3…車輪、4…ステアリングシャフト、5…中間シャフト、6…ピニオンシャフト、7…ラックシャフト、8…タイロッド、10…インナーボールジョイント、11…ボールスタッド、11a…軸部、11a1…先端部、11a2…頂部、11b…頭部、11c…凹部、11c1…内周面、11c2…上面、11d…突出部、11d1…外周面、11d2…上面、12…ハウジング、12a…固定部、12b…収容部、12b1…円筒部、12b2…収容部、12c…開口部、12d…突起部、12d1…外周面、12d2…下面、12e…凹部、12e1…内周面、12e2…下面、13…樹脂シート、13a,13b…グリス溜り部、13c…貫通孔、20…アウターボールジョイント、21…軸部、22…ハウジング、23…ブーツ、24…カバー部材、30,31…緩衝部材。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
略有底円筒形状に形成された収容部を有するハウジングと、前記収容部に収容される頭部及び前記頭部から延設される軸部を有するボールスタッドとを備え、前記収容部に対して前記頭部が揺動することに伴い、前記ボールスタッドが前記ハウジングに対して揺動可能となるボールジョイントにおいて、
前記頭部と前記収容部とには、前記ボールスタッドの前記ハウジングに対する揺動範囲を規制する係合部がそれぞれ設けられる
ことを特徴とするボールジョイント。
【請求項2】
請求項1に記載のボールジョイントにおいて、
前記頭部の係合部及び前記収容部の係合部は、互いに線接触する
ことを特徴とするボールジョイント。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のボールジョイントにおいて、
前記頭部の係合部及び前記収容部の係合部の少なくとも一方には、緩衝部材が取り付けられる
ことを特徴とするボールジョイント。
【請求項1】
略有底円筒形状に形成された収容部を有するハウジングと、前記収容部に収容される頭部及び前記頭部から延設される軸部を有するボールスタッドとを備え、前記収容部に対して前記頭部が揺動することに伴い、前記ボールスタッドが前記ハウジングに対して揺動可能となるボールジョイントにおいて、
前記頭部と前記収容部とには、前記ボールスタッドの前記ハウジングに対する揺動範囲を規制する係合部がそれぞれ設けられる
ことを特徴とするボールジョイント。
【請求項2】
請求項1に記載のボールジョイントにおいて、
前記頭部の係合部及び前記収容部の係合部は、互いに線接触する
ことを特徴とするボールジョイント。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のボールジョイントにおいて、
前記頭部の係合部及び前記収容部の係合部の少なくとも一方には、緩衝部材が取り付けられる
ことを特徴とするボールジョイント。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2010−196847(P2010−196847A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−44494(P2009−44494)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
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