説明

ボールスプライン付きボールねじ

【課題】 保持器形状を工夫することで、スプライン用ボールのねじみぞへの落ち込みの解消が図られたボールスプライン付きボールねじを提供する。
【解決手段】 スプライン外筒3の保持器15の各ポケット18に、ポケット18の径方向内方側の開口を小さくする凸部21が設けられている。スプライン用ボール5は、凸部21を径方向内方に押すことで、凸部21から反力を受け、これによって、スプライン用ボール5のおねじみぞ6への落ち込みが防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ボールスプライン付きボールねじに関する。
【背景技術】
【0002】
ボールスプライン付きボールねじとして、ねじみぞおよびスプラインみぞが互いに交差するように外周面に形成されたねじ軸と、ねじ軸が通されてねじ軸のねじみぞに対応するねじ用ボール循環路が形成されたねじ用ナットと、ねじ用ナットのねじ用ボール循環路に配設された複数のねじ用ボールと、ねじ軸が通されてねじ軸のスプラインみぞに対応するスプライン用ボール循環路が形成されたスプライン外筒と、スプライン外筒のスプライン用ボール循環路に配設された複数のスプライン用ボールとを備えているものが知られており(特許文献1参照)、このようなボールスプライン付きボールねじは、電動アクチュエータ用や緩衝器用としてよく使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−300106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に示されているようなボールスプライン付きボールねじでは、スプラインみぞとねじみぞとが交差している部分がねじ軸に存在し、スプラインみぞに比べてねじみぞの方が深く形成されていることから、スプラインみぞに沿って移動中のスプライン用ボールが交差部においてねじみぞに落ち込む可能性がある。そのため、ボールスプライン部分では、保持器によってスプライン用ボールを保持して径方向内方への移動を防止するようにしているが、スプライン用ボールがねじみぞに落ち込むと、スプライン用ボールがスプラインみぞに沿って移動を続けることができなくなり、ボールスプライン機能が停止してしまうことから、スプライン用ボールがねじみぞに落ち込む可能性の解消が望まれている。
【0005】
この発明の目的は、保持器形状を工夫することで、スプライン用ボールのねじみぞへの落ち込みの解消が図られたボールスプライン付きボールねじを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明によるボールスプライン付きボールねじは、ねじみぞおよび軸方向にのびる複数の直線状スプラインみぞが互いに交差するように外周面に形成されたねじ軸と、ねじ軸が通されてねじ軸のねじみぞに対応するねじ用ボール循環路が形成されたねじ用ナットと、ねじ用ナットのねじ用ボール循環路に配設された複数のねじ用ボールと、ねじ軸が通されてねじ軸のスプラインみぞに対応するスプライン用ボール循環路が形成されたスプライン外筒と、スプライン外筒のスプライン用ボール循環路に配設された複数のスプライン用ボールとを備えており、ボールスプライン外筒は、ねじ軸のスプラインみぞに対応するスプラインみぞが形成された外筒本体と、スプライン用ボールを所定位置に保持する複数のポケットを有し外筒本体内に嵌め入れられた保持器とからなるボールスプライン付きボールねじにおいて、保持器の各ポケットに、ポケットの径方向内方側の開口を小さくする凸部が設けられていることを特徴とするものである。
【0007】
スプライン外筒の保持器の各ポケットは、その径方向外方側の開口が径方向内方側の開口よりも大きいテーパ状とされ、その径方向中間部分がスプライン用ボールの径と等しくされることで、スプライン用ボールを所定位置に保持してそれ以上径方向内方に移動することを防止するようになっている。しかしながら、保持器は樹脂製とされているので、若干変形可能であり、スプライン用ボールに径方向内向きの大きな力が作用した場合には、スプライン用ボールは、保持器ポケット面から受ける摩擦力に抗して、径方向内方への移動が可能となっている。通常、スプライン用ボールがねじ軸のスプラインみぞとスプライン外筒本体のスプラインみぞとによって保持されていることで、スプライン用ボールの径方向内方への移動は阻止されているが、ねじみぞがスプラインみぞよりも深く形成されているため、これらの交差部においては、径方向内向きの力によって、スプライン用ボールがねじみぞに落ち込む可能性がある。スプライン用ボールがねじみぞに落ち込むと、スプライン用ボールのスプラインみぞに沿う移動が止まり、ボールスプライン機能が停止することになる。この発明によるボールスプライン付きボールねじでは、保持器の各ポケットに径方向内方側の開口を小さくする凸部が設けられることで、スプライン用ボールがねじみぞに落ち込む可能性が解消されている。
【0008】
この凸部は、通常状態では、スプライン用ボールに接触しないように設けられ、スプライン用ボールに径方向内向きの大きな力が作用した場合には、スプライン用ボールがこの凸部を径方向内方に押すことで、スプライン用ボールは凸部から反力(径方向外向きの力)を受け、この反力がスプライン用ボールの内方への移動に伴って大きくなっていくことによって、スプライン用ボールの径方向内方への移動が防止される。ポケットのテーパ角度を大きくして開口を小さくするだけでは、摩擦力による反力だけであるので、十分な大きさの反力は得られない。
【0009】
凸部の内径は、他の部分と同じ(ポケット面に対して周方向には突出するが径方向内方には突出しないもの)とされ、これにより、ねじ軸と干渉することが回避される。凸部は、ボール両側にあるポケット面のいずれか一方に設けられてもよく、両方に設けられてもよい。
【0010】
ねじ軸の外周には、ねじ軸の時計方向の回転を受けるためのスプラインみぞとねじ軸の反時計方向の回転を受けるためのスプラインみぞとが複数対形成され、スプライン外筒本体の内周には、これらの各スプラインみぞに対向するように、時計方向の回転を受けるためのスプラインみぞと反時計方向の回転を受けるためのスプラインみぞとが形成される。これにより、ボール両側にあるポケット面のうち、一方がトルクを受ける側、他方はトルクを受けない側となるが、上記凸部は、トルクを受ける側のポケット面だけに設けられることがより好ましい。
【0011】
ねじみぞの数は、1条でもよく、2条でもよく、それより多くてもよい。
【0012】
ねじ軸、ボールねじナットおよびスプライン外筒本体は、例えば、S45C,S55Cなどの炭素鋼製あるいはSAE4150鋼製とされ、また、ボールは、例えば、軸受鋼(SUJ2)製とされる。
【0013】
この発明によるボールスプライン付きボールねじは、アクチュエータ(モータによってボールねじナットが回転させられ、これにより、ねじ軸が直線移動する形態)として使用されることがあり、緩衝器(ねじ軸が外部からの力によって直線移動させられ、これにより、ボールねじナットが回転し、モータが発生する電磁力が減衰力となる形態)として使用されることがある。
【0014】
アクチュエータや緩衝器で使用される場合には、例えば、ボールスプライン付きボールねじと、ボールねじナットに一体化された中空軸と、軸受を介して中空軸を回転可能に支持するとともにボールスプライン外筒を支持するハウジングと、中空軸に固定されたモータロータおよびハウジング内径に固定されたモータステータからなるモータとを備えているものとされる。
【発明の効果】
【0015】
この発明のボールスプライン付きボールねじによれば、保持器の各ポケットに、ポケットの径方向内方側の開口を小さくする凸部が設けられているので、スプライン用ボールに径方向内向きの大きな力が作用した場合には、スプライン用ボールがこの凸部を径方向内方に押すことで、スプライン用ボールは、凸部から径方向外向きの力を受け、その径方向内方への移動が防止される。したがって、ねじみぞとスプラインみぞとの交差部において、スプライン用ボールに径方向内向きの大きな力が作用した場合であっても、スプライン用ボールはねじみぞに落ち込むことはなく、交差部を越えてスプラインみぞに沿って移動を続けることができ、ボールスプライン機能が停止することはない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、この発明の1実施形態を示すボールスプライン付きボールねじの主要部の縦断面図である。
【図2】図2は、図1のII−II線の拡大断面図である。
【図3】図3は、図2の要部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、この発明の実施形態について説明する。
【0018】
ボールスプライン付きボールねじは、左右方向にのびる鋼製ねじ軸(軸)(1)、ねじナット(2)、スプライン外筒(3)、多数のねじ用ボール(4)および多数のスプライン用ボール(5)を備えている。
【0019】
ねじ軸(1)は横断面円形の中実軸であり、ねじ軸(1)の外周面に、ねじみぞ(おねじみぞ)(6)と、軸方向(左右方向)にのびる複数の直線状スプラインみぞ(7)が形成されている。
【0020】
ねじナット(2)は、円筒状の金属製ナット本体(8)と、ナット本体(8)の軸方向両端面に取り付けられた1対の環状の合成樹脂製エンドキャップ(9)とを備えている。エンドキャップ(9)は、互いに同一形状の短円筒状の環体よりなり、ナット本体(8)の軸方向両端面に図示しないボルトなどの連結具を用いて固定されている。ナット(2)は、ねじ軸(1)の外周に径方向に若干の隙間をあけてはめられている。
【0021】
ナット本体(8)の内周面に、おねじみぞ(6)に対応するねじみぞ(めねじみぞ)(10)が形成されている。ナット本体(8)のめねじみぞ(10)とこれに対向するねじ軸(1)のおねじみぞ(6)との対向空間が、ねじ用ボール(4)が転動する主通路(11)となっている。ナット本体(8)の周壁に、戻し通路(12)が形成されている。戻し通路(12)は、ナット本体(8)を軸方向全長にわたって貫通する断面円形の貫通穴よりなる。
各エンドキャップ(9)のナット本体(8)側の端面に、主通路(11)と戻し通路(12)を連通させるみぞ状の方向転換路(13)が形成されている。
【0022】
ねじ用ボール(4)は、主通路(11)、戻し通路(12)および方向転換路(13)内に配設され、主通路(11)を転動するねじ用ボール(4)がねじ軸(1)とねじナット(2)の相対回転を案内するようになっている。主通路(11)、戻し通路(12)および方向転換路(13)により、ねじ用ボール循環路が構成されている。
【0023】
スプライン外筒(3)は、略円筒状の金属製外筒本体(14)と、外筒本体(14)の内周に固定された略円筒状の保持器(15)とを備えている。外筒(3)は、ねじ軸(1)の外周に径方向に若干の隙間をあけてはめられている。
【0024】
外筒本体(14)の内周面に、ねじ軸(1)のスプラインみぞ(7)に対応する複数の直線状スプラインみぞ(16)が形成されている。
【0025】
外筒本体(14)のスプラインみぞ(16)に対応する保持器(15)の部分に、両スプラインみぞ(7)(16)間を転動するスプライン用ボール(5)を保持するポケット(17)が形成されている。ポケット(17)を介して対向する両スプラインみぞ(7)(16)間の空間が、スプライン用ボール(5)が転動する主通路(18)となっている。保持器(15)には、外筒本体(14)との間に、主通路(18)の左右両端部と連通する戻し通路(19)が形成されている。
【0026】
保持器(15)の各ポケット(17)は、その径方向外方側の開口が径方向内方側の開口よりも大きいテーパ状とされており、その径方向中間部分がスプライン用ボール(5)の径と等しくされていることで、スプライン用ボール(5)が主通路(18)を転動可能な位置に保持され、それ以上の径方向内方への移動が防止されている。保持器(15)の各ポケット(17)には、径方向内方側の開口を小さくする凸部(21)が設けられている。
【0027】
凸部(21)の内径は、保持器(15)の他の部分と同じ(最小径の部分よりも径方向内方に突出しないもの)とされ、これにより、ねじ軸(1)と干渉することが防止されている。
【0028】
また、凸部(21)は、断面三角形状で、凸部(21)のスプライン用ボール(5)に対向する面と保持器(15)のポケット面(17a)とがなす角は、鋭角とされており、これにより、スプライン用ボール(5)に径方向内向きの大きな力が作用した場合には、スプライン用ボール(5)には、径方向外向きの反力が作用するようになされている。
【0029】
スプライン用ボール(5)は、主通路(18)および戻し通路(19)内に配設され、主通路(18)を転動するスプライン用ボール(5)がねじ軸(1)とスプライン外筒(3)の相対直線運動を案内するようになっている。主通路(18)および戻し通路(19)により、スプライン用ボール循環路が構成されている。スプライン用ボール循環路は、全部で6つ設けられており、1対の主通路(18)同士が互いに接近して設けられ、1対の主通路(18)のうち反時計方向側にあるものについてはその反時計方向側に戻し通路(19)が設けられ、時計方向側にあるものについてはその時計方向側に戻し通路(19)が設けられることで、1対のスプライン用ボール循環路が形成され、これが周方向に等間隔で計3対配置されている。
【0030】
上記の状態で、ねじナット(2)を回転させることにより、ねじ軸(1)がスプライン外筒(3)を案内にして、回転はせずに、軸方向に直線移動する。このとき、ねじナット(2)の部分では、主通路(11)を転動していたねじ用ボール(4)が、一方のエンドキャップ(9)の方向転換路(13)で方向転換されてナット本体(8)の戻し通路(12)に導入され、戻し通路(12)内を他方のエンドキャップ(9)側に移動し、戻し通路(12)を移動してきたねじ用ボール(4)が、他方のエンドキャップ(9)の方向転換路(13)で方向転換されて、主通路(11)に導入される。これにより、ねじ用ボール(4)は、ねじ用ボール循環路を循環させられる。スプライン外筒(3)の部分では、主通路(18)を転動していたスプライン用ボール(5)が、主通路(18)の一端部から戻し通路(19)に導入されて、戻し通路(19)内を主通路(18)の他端部側に移動し、主通路(18)の他端部に導入される。これにより、スプライン用ボール(5)が、スプライン用ボール循環路を循環させられる。
【0031】
上記のボールスプライン付きボールねじは、スプライン外筒(3)を軸方向の一定位置に回転も移動もしないように固定し、ねじナット(2)を軸方向の一定位置において回転はするが移動はしないように支持した状態で使用される。ここで、スプライン用ボール(5)とねじ用ボール(4)とは同じ大きさとされているが、ねじ軸(1)の回転を防止するボールスプラインにおけるスプライン用ボール(5)が転動する主通路(18)は、ねじ用ボール(4)が転動する主通路(11)に比べると、ボール(5)と主通路(18)との隙間が小さいものとされており、したがって、ねじ軸(1)においては、スプラインみぞ(7)に比べておねじみぞ(6)の方が深く形成されている。このため、おねじみぞ(6)とスプラインみぞ(7)との交差部では、スプラインみぞ(7)に沿って移動中のスプライン用ボール(5)がおねじみぞ(6)に落ち込む可能性がある。
【0032】
このスプライン用ボール(5)のおねじみぞ(6)への落ち込みは、通常状態では、スプライン外筒(3)の保持器(15)によって防止され、スプライン用ボール(5)に径方向内向きの大きな力が作用した場合には、図3に示すように、スプライン用ボール(5)が保持器(15)の各ポケット(18)に設けられた凸部(21)を径方向内方に押すことに伴い、凸部(21)からスプライン用ボール(5)に反力(径方向外向きの力)が作用することで防止される。
【0033】
なお、図3に示されているスプラインみぞ(7)(16)は、ねじ軸(1)の時計方向の回転を受けるためのものであり、凸部(21)は、ねじ軸(1)が時計方向に回転しようとした際に、このトルクを受ける側のポケット面(時計方向側ポケット面)(17a)に形成されている。そして、拡大図は省略するが、ねじ軸(1)の反時計方向の回転を受けるスプラインみぞ(7)(16)では、凸部(21)は、ねじ軸(1)が反時計方向に回転しようとした際に、このトルクを受ける側のポケット面(反時計方向側ポケット面)に形成されている。
【符号の説明】
【0034】
(1) ねじ軸
(2) ねじ用ナット
(3) スプライン外筒
(4) ねじ用ボール
(5) スプライン用ボール
(6) おねじみぞ(ねじみぞ)
(7) スプラインみぞ
(10) めねじみぞ
(14) 外筒本体
(15) 保持器
(16) スプラインみぞ
(18) ポケット
(21) 凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじみぞおよびスプラインみぞが互いに交差するように外周面に形成されたねじ軸と、ねじ軸が通されてねじ軸のねじみぞに対応するねじ用ボール循環路が形成されたねじ用ナットと、ねじ用ナットのねじ用ボール循環路に配設された複数のねじ用ボールと、ねじ軸が通されてねじ軸のスプラインみぞに対応するスプライン用ボール循環路が形成されたスプライン外筒と、スプライン外筒のスプライン用ボール循環路に配設された複数のスプライン用ボールとを備えており、ボールスプライン外筒は、ねじ軸のスプラインみぞに対応するスプラインみぞが形成された外筒本体と、スプライン用ボールを所定位置に保持する複数のポケットを有し外筒本体内に嵌め入れられた保持器とからなるボールスプライン付きボールねじにおいて、
保持器の各ポケットに、ポケットの径方向内方側の開口を小さくする凸部が設けられていることを特徴とするボールスプライン付きボールねじ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−112210(P2011−112210A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−271915(P2009−271915)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】