説明

ポケット式水素吸蔵合金極の製造法

【課題】 水素吸蔵合金粉と導電材粉との混合粉から、肉薄で圧縮成形し易く、且つ集電性の向上したブリケットを製造し、これを多孔性金属容器内に充填加圧して水素吸蔵合金の利用効率が向上し、容量密度の増大した安価なポケット式水素吸蔵合金極の製造法を提供する。
【解決手段】 水素吸蔵合金粉と導電材粉を配合し、混合して成る混合粉を圧縮してブリケットを成形し、該ブリケットを多孔金属製ポケット内に装填した後、これを加圧し、該ポケットをブリケットに圧着して成るポケット式水素吸蔵合金極の製造法において、該導電材粉を粉末として鎖状に連なったフィラメント状の導電材粉を用いると共に、該混合粉中の該導電材粉の配合比率を15〜50wt.%とすることを特徴とするポケット式水素吸蔵合金極の製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ蓄電池用のポケット式水素吸蔵合金極の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題が大きく取り上げられることにより、有害物質を含むニッケル−カドミウム蓄電池や鉛蓄電池の管理基準の引き上げや、使用規制等が進行している。既に小型密閉蓄電池に関しては、リチウムイオン蓄電池やニッケル/水素蓄電池への代替が急速に進んでいる。
アルカリ蓄電池の負極として使用される水素吸蔵合金極は、古くから負極活物質ペーストを発泡ニッケルなどの多孔基板に塗着したペースト式があるが、これを用いたベント形蓄電池では水素吸蔵合金粉末の脱落や酸化が起こり、長期間に亘る満足な性能を維持するニッケル/水素蓄電池の製作が不可能であった。
上記のペースト式水素吸蔵合金極の不都合を解決するため、水素吸蔵合金粉単独をPVA水溶液などの結着剤溶液に浸漬、乾燥して水素吸蔵合金粉を凝集したもの単独、或いは導電材粉と共にポケット型又はチューブ型多孔性金属容器内に充填加圧封入して成る水素吸蔵電極として用いる高容量の電極体の発明が、特開平4−280066公報に開示している。
【特許文献1】特開平4−280066号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記の特許文献1に開示の発明は、水素吸蔵合金粉を結着するには結着剤溶液による浸漬、乾燥の煩わしい処理工程を要し、水素吸蔵合金極の製造能率が悪いばかりでなく、その水素吸蔵合金粉を単独又は導電材粉と共にその粉体のまま多孔性金属容器内に充填するので、これを外部から加圧しても、粉末粒子相互の強固な結着性が得られず、而も水素吸蔵合金粉の粒子表面には電気絶縁性の結着剤粒子が介在するので、集電性が劣り、これを蓄電池の負極として用いるときは、高価な水素吸蔵合金粉の使用量が多い割には、その利用効率が悪く、製造コストの増大をもたらす。従って、容量密度が大きく且つ安価なポケット式水素吸蔵合金極が得られない。
上記に鑑み、水素吸蔵合金極の製造に当たり、水素吸蔵合金粉単独の使用は望ましくなく、これに導電材粉を配合し混合した混合粉の使用が望ましく、この場合、バインダーを一式使用することなく、かゝる混合粉を圧縮して混合粉が強固に結着したブリケットに成形し、この成形したブリケットを多孔金属容器内に装填し、その容器の外側から加圧して該ブリケットに該容器を強固に結着せしめたポケット式水素吸蔵合金極に製造することが好ましい。
この場合、水素吸蔵合金粉と導電材粉とを混合したものを圧縮してブリケットを成形するに当たり、ブリケットの成形性が容易となると共に、できる限り肉薄のブリケットを作製することが望まれると共に、このように圧縮成形したブリケットとして、含有せしめる高価な水素吸蔵合金量をできる限り少なくして製造コストを低下させると共に、水素吸蔵合金極の利用効率を向上させると共に、高い容量密度をもったブリケットを製造し、これを用いポケット式水素吸蔵合金極を製造することが望まれる。
本発明は、水素吸蔵合金粉と導電材粉を配合した混合粉を原料とし、上記の要望を満たすポケット式水素吸蔵合金極の製造法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、水素吸蔵合金粉と導電材粉を配合し、混合して成る混合粉を圧縮してブリケットを成形し、該ブリケットを多孔金属製ポケット内に装填した後、これを加圧し、該ポケットをブリケットに圧着して成るポケット式水素吸蔵合金極の製造法において、該導電材粉として粉末が鎖状に連なったフィラメント状の導電材粉を用いると共に、該混合粉中の該導電材粉の配合比率を15〜50wt.%とすることを特徴とするポケット式水素吸蔵合金極の製造法に存する。
【発明の効果】
【0005】
水素吸蔵合金粉と粉末が鎖状に連なったフィラメント状の導電材粉とを配合し混合して成る混合粉中の導電材粉の配合比率を15〜50wt.%とすることにより、ブリケット成形性が容易となり、肉薄の集電効率の向上したブリケットが得られ、ブリケット成形時の加圧力は500MPa以下で足り、その配合比率が増大するほど低い加圧力で良好なブリケットが得られ、作業性を向上する。また、水素吸蔵合金の単位重量当たりの容量密度の増大をもたらすと共に、製造コストを低下した安価な水素吸蔵合金極が得られる。従って、かゝる混合粉を多孔金属容器、即ち、ポケット内に充填、加圧することにより、上記の優れたポケット式水素吸蔵合金極が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
水素吸蔵合金としては、AB5 系のもの(Aは希土類元素、Bはニッケル及びニッケルの一部が複数種の金属で置換された元素)、又は、Ti−Cr系、Zr−Mn系などのAB2 系のラーベス水素吸蔵合金が使用できる。導電材粉としては、例えば、ニッケル、カーボニルニッケルなどの導電材粉を、スパイク状突起を有する球体が鎖状に連なったフィラメント状とした導電材粉(以下、これを単に「フィラメント状導電材粉」と略称する)を使用することが好ましい。
【0007】
本発明のニッケル/水素蓄電池に負極として使用するポケット式水素吸蔵合金極の製造に当たり、AB5 系の水素吸蔵合金として、例えば、MmNi3.10Mn0.59Al0.21(但、Mmはミッシュメタル)の組成から成る水素吸蔵合金粉とフィラメント状導電材粉として、例えば、INCO社製#287ニッケル粉を夫々多量に準備し、該水素吸蔵合金粉と該ニッケル粉の配合比を変えて配合したものを混合機により混合し、厚さ約3mmとした混合層をブリケット成形機に入れ一定の圧力により加圧成形して夫々のブリケットを作製し、その夫々をポケット内に充填圧着し、ポケット式水素吸蔵合金極を得た。その夫々の諸特性は、下記表1に示す通りであった。表1中、各容量密度(mAh/g)の値は、後述する充放電試験を行い得られたものである。
【0008】
【表1】

【0009】
比較のため、球状のニッケル粉から成る導電材粉を用い、該導電材粉の該水素吸蔵合金粉との配合比を15wt.%,30wt.%,50wt.%と変えて配合し混合して成る3種類の混合粉を前記と同様に加圧成形して夫々のブリケットを作製し、夫々のブリケットを前記と同様にポケットに充填、圧着して夫々のポケット式水素吸蔵合金極を得た。その夫々の諸特性は下記表2に示す通りであった。
【0010】

【0011】
上記表1及び2を対比し明らかなように、導電材粉の配合比率が同じである場合、フィラメント状導電材粉を用いたものは、球状導電材粉を用いたものに比し、肉薄且つ軽量なブラケット成形体が得られる。従って、ブリケットが肉薄となるに伴い、多孔性金属容器内へ充填し、加圧されて得られるポケット式水素吸蔵合金極は肉薄でコンパクトなものが得られ、これを負極として蓄電池に具備せしめるときは、その肉薄に対応して小型のニッケル/水素蓄電池などのアルカリ蓄電池を製造でき、また、電槽の一定容積内の負極の枚数を増大できる。
また、本発明のフィラメント状導電材粉を用いて得られたブリケットは、フィラメント状導電材粉がスパイク状突起を有する球体が鎖状に連なっているため、水素吸蔵合金粉間に均一に介在した状態で強固に結着し、集電効率の向上をもたらし、また、水素吸蔵合金の単位当たりの利用率を向上でき、容量密度の向上した負極が安価に得られる。
更にまた、容量密度(mAh/g)を対比した場合、フィラメント状導電材粉と球状導電材粉の配合比率が同じ15wt.%,30wt.%及び50wt.%の場合を比較し明らかなように、フィラメント状導電材粉を配合した場合は、その夫々の容量密度(mAh/g)の値は293.3,326.2及び277.4であるに対し、球状導電材粉を配合した場合は、その夫々の容量密度(mAh/g)は、246.0,275.3,236.0と夫々著しく低いことが判る。従って、フィラメント状導電材粉を同じ配合比率を配合した場合に容量密度が増大し、水素吸蔵合金の利用効率が向上し、而も安価な水素吸蔵電極をもたらすことが判る。
【0012】
次に、フィラメント状導電材粉を用いた上記12種類のブリケットの夫々及び比較例として、球状の導電材粉を用いた上記3種類のブリケットの夫々を、鉄−ニッケルメッキの厚さ0.1mm、幅25mmの穿孔テープを成形機によりコ字状に加工した多孔金属製ポケットの夫々に充填した後、エンボスローラーを通し一定の圧力で夫々加圧し、12種類のポケット式水素吸蔵合金極(10mm×30mm)を製造した。そして、上記のポケット式水素吸蔵合金極につき、以下のように充放電試験を行った。
充放電試験:
上記の各ポケット式水素吸蔵合金極に、スポット溶接によりニッケルタブを具備せしめた負極を用意し、対極にニッケル板、参照極に水銀/酸化水銀電極を用い、電解液は1.30/20℃水酸化カリウム水溶液を用いて、フラッディッド式の電気化学セルを構成した。0.05CA相当の電流で25時間の初充電を行った後、0.2CA相当の電流で参照極に対して−0.75Vまでの放電を行った。次に0.2CA相当の電流で6時間の充電と、0.2CA相当の電流で参照極に対して−0.75Vまでの放電を3サイクル実施し、3サイクル目の放電持続時間と各ポケット式水素吸蔵合金極に装填したブリケット中の水素吸蔵合金粉の充填量から、水素吸蔵合金の容量密度(mAh/g)を算出して、導電材粉の配合比率(wt.%)との関係を求めた。
尚、水素吸蔵合金粉の充填量及び容量密度は夫々次式(1),(2)で表される。
水素吸蔵合金充填量(水素吸蔵合金量)=混合粉重量(ポケット内の充填量)×水素吸蔵合金粉配合比率・・・(1)
容量密度=3サイクル目の放電容量×水素吸蔵合金充填量・・・(2)
である。
例えば、水素吸蔵合金粉配合比率が95%、ニッケル粉比率が5%で混合粉重量が29.96gの場合、(1)より28.46gとなる。次に、充放電試験により3サイクル目の放電容量が5.456mAhである。(1)で算出した水素吸蔵合金充填量と(2)より容量密度は191.7mAh/gとなる。以下、夫々同様に算出して夫々の容量密度を求めた。その結果は、表1及び表2に示したが、導電材粉配合比率と容量密度との関係を図1に示す。
【0013】
図1において、フィラメント状導電材粉を用いて製造した12種類のポケット式水素吸蔵合金極の結果を白抜き菱形で示し、球状導電材粉を用いて製造した上記3種類のポケット式水素吸蔵合金極の結果を黒塗り四角で示した。同図から明らかなように、本発明のポケット式水素吸蔵合金極は、そのフィラメント状導電材粉の配合比率が15〜50wt.%の範囲で高い容量密度が得られ、就中、20〜40wt.%において、特に高い容量密度が得られることが判る。
従って、上記表1及び表2と図1とを総合し明らかなように、本発明によれば、水素吸蔵合金粉とフィラメント状導電材粉とを前者85〜50wt.%対後者15〜50wt.%の配合比の範囲で配合した夫々の混合粉をブリケット圧縮成形をすることにより、ブリケット成形性が容易であり、コンパクトで且つ集電性の向上したブリケットが得られ、これをポケット内に充填、加圧し、該多孔金属容器を該ブリケットに結着することにより水素吸蔵合金の単位重量当たりの容量が増大でき、容易で且つ水素吸蔵合金の利用率が向上した優れたポケット式水素吸蔵合金極が得られることが判明した。
【0014】
水素吸蔵合金粉の配合比率85〜50wt.%とフィラメント状導電材粉の配合比率15〜50wt.%の範囲から選択した所望の配合比率から成る混合粉を加圧して得られたブリケットをポケット内に充填加圧して製造した本発明のポケット式水素吸蔵合金極を負極とし、常法により焼結式水酸化ニッケル極、二酸化マンガン極、酸化銀極などから選択した所望の正極とポリオレフィン系不織布などのセパレータを介して組み合わせて、ニッケル/水素蓄電池などの安価なアルカリ蓄電池を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】水素吸蔵合金極中の導電材粉の配合比率(wt.%)と容量密度との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素吸蔵合金粉と導電材粉を配合し、混合して成る混合粉を圧縮してブリケットを成形し、該ブリケットを多孔金属製ポケット内に装填した後、これを加圧し、該ポケットをブリケットに圧着して成るポケット式水素吸蔵合金極の製造法において、該導電材粉として粉末が鎖状に連なったフィラメント状の導電材粉を用いると共に、該混合粉中の該導電材粉の配合比率を15〜50wt.%とすることを特徴とするポケット式水素吸蔵合金極の製造法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−184148(P2007−184148A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−1084(P2006−1084)
【出願日】平成18年1月6日(2006.1.6)
【出願人】(000005382)古河電池株式会社 (314)
【Fターム(参考)】